JP2019002468A - 自動変速機 - Google Patents

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Abstract

【課題】圧接部の高摩擦係数と摺接部の低摩擦係数を両立できる高効率な自動変速機を提供する。【解決手段】本発明の自動変速機は、対向する一対の圧接面を有する圧接部と、対向する一対の摺接面を有する摺接部と、圧接面間および摺接面間に介在する作動潤滑油とを備える。摺接面の少なくとも一方は、Bを含有した非晶質炭素膜(以下「B−DLC膜」という。)により被覆されている。作動潤滑油は、Mo:50ppm以下およびZn:50ppm以下であると共に、B:90〜300ppmを含む。作動潤滑油はMoやZnを含まないため、B−DLC膜で被覆されていない圧接部で高摩擦係数が確保される。一方、Bを従来よりも多く含む作動潤滑油と摺接面を被覆するB−DLC膜とが相乗的に作用することにより、摺接部における摩擦係数を大幅に低減できる。こうして本発明によれば、従来よりも低損失で高効率な自動変速機を提供できる。【選択図】図3

Description

本発明は、一種の作動潤滑油の存在下で、部位により異なる摩擦係数が要求される自動変速機に関する。
自動車の燃費向上等を図るため、各摺接面間(摺動面間を含む)の低摩擦化が図られている。摺接面間の摩擦係数は、対向する摺接面の表面性状と、それらの間に介在する潤滑油の特性に大きく依存している。
このような観点から、非晶質炭素膜で被覆された摺動部材を特定成分の潤滑油下で用いる提案がなされており、下記の特許文献に関連した記載がある。
特許5342365号公報 特許5358521号公報 特開2014−224239号公報
特許文献1〜3に係る潤滑油はいずれもエンジン油を前提としている。エンジン油には、潤滑性、燃焼ガスから生じる汚染物の浄化性、粘性、冷却性等の多くの特性が要求される。もっとも、摺動特性に限れば、エンジン油は摺接面間の摩擦係数を単に低減できれば十分である。内燃機関(エンジン)内には、摩擦力を利用して動力を伝達したり、圧接により連結する部位等がないためである。
これに対して自動変速機は、エンジンと異なり、摩擦係数の低減が求められる摺接部に加えて、摩擦係数の確保が求められる圧接部を備える。例えば、有段自動変速機であれば、鋼板と摩擦材の圧接・解放により動力の伝達・遮断や変速を行うクラッチやブレーキ等の圧接部を備える。また無段自動変速機であれば、入出力プーリのシーブ面と無端ベルト(フープ)を構成するエレメントのフランク面との圧接により動力伝達や変速を行う圧接部を備える。
このような自動変速機に用いられる作動潤滑油は、圧接面間で所望の摩擦係数を確保する必要があるため、通常、摩擦係数の低減に特化したエンジン油に多く含まれる極圧添加剤等を含まない。また、自動変速機はエンジンと異なり、燃焼ガスに曝されたりせず、エンジンほど高温環境下で使用されることもない。このため自動変速機の作動潤滑油は、エンジン油に含まれるほど多くの浄化剤等を必要とせず、エンジン油ほどの粘度も不要である。このように自動変速機の作動潤滑油は、成分や要求特性がエンジン油とは大きく異なるため、作動潤滑油下における摺動特性と、エンジン油下における摺動特性とを同列に扱うことはできない。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、一種の作動潤滑油の存在下で、圧接面間に必要な高摩擦係数と摺接面間に必要な低摩擦係数とを両立しつつ、従来よりも効率化を図れる自動変速機を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、摺接面(摺動面を含む。)の表面被膜と作動潤滑油の成分との新たな組合わせにより、圧接面間の高摩擦係数を確保しつつ、摺接面間の摩擦係数をさらに低減し得ることを発見した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《自動変速機》
(1)本発明は、対向する一対の圧接面を有する圧接部と、対向する一対の摺接面を有する摺接部と、該圧接面間および該摺接面間に介在する作動潤滑油と、を備える自動変速機であって、前記摺接面の少なくとも一方は、Bを含有した非晶質炭素膜(以下「B−DLC膜」という。)により被覆されており、前記作動潤滑油は、Mo:50ppm以下およびZn:50ppm以下であると共に、B:90〜500ppmを含む自動変速機である。
(2)本発明によれば、一種類の作動潤滑油(フルード)をもちいつつ、圧接面間で必要となる高摩擦係数を実現できると共に、摺接面間で従来よりも低摩擦係数を実現でき、自動変速機のさらなる高効率化を図ることができる。本発明により、圧接面間の高摩擦係数と摺接面間の低摩擦係数を両立できる理由は、必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。
先ず、本発明に係る作動潤滑油には、MoやZnが殆ど含まれない。これは、摺動部の摩擦係数を低減させるためにエンジン油に一般的に添加されるMo系化合物やZn系化合物が、その作動潤滑油には添加されていないためである。これにより圧接面間で所望の摩擦係数が確保され、不必要な低摩擦化が生じることがない。
次に、本発明に係る作動潤滑油には、従来の作動潤滑油やエンジン油等には殆ど含まれないBを所定量含んでいる。この作動潤滑油中に含まれるBと、対向する摺接面の少なくとも一方に設けられたB−DLC膜とが相乗的に作用することにより、摺接面間の摩擦係数を従来よりも低減させることができたと考えられる。
作動潤滑油中のBとB−DLC膜が作用する理由は定かではないが、現状、次のように考えられる。すなわち、作動潤滑油中のB(またはBを含有する添加剤)は、膜表面との相互作用により、B−DLC膜中のBと同等の作用をして、低摩擦特性を得ることが可能になったと考えられる。
このような観点から、本発明に係るフルード中のBは90〜500ppm、100〜300ppmさらには110〜200ppmであると好ましい。Bが少なくなると上述した効果が低減し、Bが多くなると 添加剤との相互作用が増すことになり低摩擦効果を損なう。
《その他》
(1)本発明に係る自動変速機は、有段自動変速機でも無段自動変速機でもよい。また本発明に係る作動潤滑油も、有段自動変速機用でも無段自動変速機用でもよい。通常、有段自動変速機用作動潤滑油(適宜、ATF(Automatic Transmission Fluid)という。)と無段自動変速機用作動潤滑油(適宜CVTF(Continuously Variable Transmission)という。)は、自動変速機の構造に応じた成分に調整されている。
但し、上述したように、いずれの作動潤滑油の場合でも、MoやZnを殆ど含まず、圧接面間で所望の高摩擦係数が得られる点と、Bを含むことによりB−DLC膜で被覆された摺接面間で低摩擦化が図られる点は共通する。このような点に着眼すると、本発明は、自動変速機の摺動システムまたは自動変速機の駆動システムと換言することもできる。
(2)本発明に係る作動潤滑油の含有成分(ppm)は、作動潤滑油全体に対する質量割合として示している。なお、作動潤滑油は、ベース油(鉱物油、合成油)に対して種々の添加剤を添加して新たに開発したものでも良いし、少なくともBを含む添加剤を既存油に添加して調製したものでもよい。
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
各試料(摺接面)に係る摩擦係数(フルードA1使用)を示す棒グラフである。 その各試料に係る摩耗深さ(フルードA1使用)を示す棒グラフである。 摺接面(試料B1)と圧接面(試料C0)の各摩擦係数を、各フルード毎に示した棒グラフである。 ベーンポンプの摩擦損失トルクを、ベーンの被覆膜毎に示した棒グラフである。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。製造方法に関する構成要素は、物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《作動潤滑油》
本発明に係る作動潤滑油は、いわゆる自動変速機用フルード(単に「フルード」という。)であり、自動変速機の構造や仕様に応じて適宜、基油の種類や添加剤等が選択される。もっともフルードは、エンジン油とは異なり、圧接面間における高摩擦係数と摺接面間における低摩擦係数を両立させる必要がある。
このため、Mo系化合物(例えば、MoDTC:モリブデンジチオカーバメート)のように摩擦係数を全体的(一方的)に低減させる摩擦低減材(添加剤)や、Zn系化合物(例えば、ZnDTP:ジアルキルジチオりん酸亜鉛)のように、極圧剤および摩耗防止剤として用いられる添加剤は、本発明に係るフルードには含まれない。従ってフルード中のMoは、50ppm以下、20ppm以下、10ppm以下さらには5ppm以下であると好ましい。またフルード中のZnは、50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下さらには10ppm以下であると好ましい。
摩擦低減剤や極圧剤等の一部を構成することが多いSやPも、エンジン油とは異なり、フルード中にはあまり必要ではない。このためフルード中のSは、500〜1300ppmさらには700〜1100ppm程度であればよい。またフルード中のPは、100〜500ppm、200〜400ppmさらには300〜350ppm程度であればよい。
また、エンジン油は、高温域で使用されると共に燃焼ガスとも部分的に接触し得るため、Ca系化合物等の清浄分散剤が多く添加されている。しかし自動変速機のフルードは、エンジン油と使用環境が異なるため、そのような添加剤量は少なくてよい。従ってフルード中のCaは、1000ppm以下、700ppm以下さらには550ppm以下程度であるとよい。同様に、Naは、50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下さらには10ppm以下であると好ましい。
勿論、清浄分散性の確保や圧接部の振動(シャダー等)の低減を目的として、Ca系化合物(例えば、塩基性Caスルホネート)はフルードに添加されてもよい。このため、フルード中のCaは、100ppm以上、250ppm以上さらには400ppm以上でもよい。
《B−DLC膜》
(1)膜組成
摺接面の少なくとも一部に形成されるB−DLC膜は、膜全体を100原子%としたときに、合計で4〜20%さらには5〜15%となるBを含むと好ましい。Bが過少では摺接面間の摩擦係数の低減が不十分となり、Bが過多になると非晶質炭素膜の形成自体が困難となる。
B−DLC膜は、さらに、膜全体を100原子%としたときに、Hを5〜25%、8〜22%さらには10〜20%含むと好ましい。B−DLC膜がHを含むと、少なくともHを実質的に含まないDLC膜(適宜「Hフリ−DLC膜」という。)よりも、摺接面の摩擦係数が低減され易くなる。但し、Hが過多になると、B−DLC膜は軟質化して耐摩耗性が低下し得る。
本発明に係るB−DLC膜は、BおよびC(残部)を必須元素とするが、その特性改善に有効な改質元素や不可避不純物を含み得る。H以外の改質元素として、V、Ti、Mo、O、Al、Mn、Si、Cr、W、Ni等がある。これらの改質元素は、合計でも8原子%未満さらには4原子%未満であると好ましい。なお、B−DLC膜の膜組成は、膜厚方向に関して、均質的でも、傾斜的でも、または多少変化していてもよい。但し、本明細書でいう膜組成は、摺動特性への影響が大きい最表面近傍の膜組成を、後述する測定方法により特定したものである。
(2)構造・特性
B−DLC膜も従来のDLC膜と同様にアモルファス構造からなる。またB−DLC膜は、炭化物を実質的に含まず、無配向性組織からなると好ましい。
B−DLC膜は、例えば、硬さが10〜30GPaさらには13〜26GPaであると好ましい。硬さが小さいと耐摩耗性が低下し易く、硬さが過大になると膜割れ等を生じ易くなる。
またB−DLC膜は、例えば、膜密度が1.7〜2.5g/cm、1.8〜2.4g/cmさらには2.0〜2.3g/cmであると好ましい。これによりB−DLC膜は、低摩擦特性に加えて、高耐摩耗性や高靱性等をも発揮され易くなる。
なお、B−DLC膜が形成される摺接部の基材は問わないが、例えば、溶製材や焼結材からなる鋼材が代表例であり、特に焼き入れ等により高強度化された鋼材が好ましい。
(3)成膜方法
B−DLC膜は、例えば、スパッタリング法(特にアンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)法)、プラズマCVD法、アークイオンプレーティング(AIP)法等により成膜される。B−DLC膜中のH量は、例えば、メタン(CH)、アセチレン(C)、ベンゼン(C)などの炭化水素系ガスをチャンバーへ導入することにより調整される。
《自動変速機》
(1)本発明の自動変速機は、有段自動変速機でも無段自動変速機でもよい。いずれの自動変速機でも、圧接部と摺接部を備える。有段自動変速機の圧接部は、例えば、動力伝達や変速を行う際に連結されるクラッチやブレーキ、トルクコンバータのロックアップ等である。いずれも、鋼材等からなる金属プレート(ケース・ハウジングを含む。)と摩擦材等が貼着された摩擦板とが油圧ピストン等により加圧されて密着する。このような金属プレートと摩擦板の対向面(の少なくとも一方)が本明細書でいう圧接面となる。
無段自動変速機の圧接部は、例えば、入力プーリや出力プーリと無端ベルトとからなる摩擦伝動部である。この場合、各プーリのシーブ面と無端ベルトを構成するエレメントのフランク面との少なくとも一方が本明細書でいう圧接面となる。勿論、無段自動変速機も、上述したようなクラッチ、ブレーキ、ロックアップ等(圧接部)を同様に備えてもよい。
(2)摺接部は、各軸と軸受からなる枢支部の他、例えば、フルードの圧送に必要なオイルポンプ等の駆動部がある。代表的なオイルポンプとして、内接式歯車ポンプやベーンポンプがある。内接式歯車ポンプは、例えば、有底円筒状のケース、アウターロータおよびインナーロータを備える。アウターロータはケース内で摺動回転可能に嵌入されている。インナーロータは、アウターロータ内に嵌挿されている。インナーロータは、均等に配設された複数の外歯を有し、エンジン等の入力軸により回転駆動される。アウターロータには、インナーロータの外歯に内接する内歯が均等に複数配設されている。アウターロータとインナーロータは偏心(オフセット)して配置されており、インナーロータの回転に伴い、アウターロータの内歯とインナーロータの外歯が噛合と離脱を繰り返す。この際、内歯と外歯の間にできる空間は、ケースの吸入ポート側で拡張し、ケースの吐出ポート側で縮小する。これにより、吸入ポートから導入された作動潤滑油が吐出ポートから圧送される。
ベーンポンプは、例えば、ハウジング等に固定されたカムリング、ロータおよび複数のベーンを備える。カムリングは筒状であり、ロータはカムリング内に収容されて、エンジン等の入力軸により回転駆動される。ベーンは、ロータの外周側に放射状に設けられた開溝(スロット)に往復動自在に嵌挿されている。ロータの回転に伴い、ベーンは遠心力と自らのベーンポンプによって作られた油圧によりカムリングの内周面(摺接面)へ突出し、ベーンの先端面(摺接面)はカムリングの内周面(摺接面)に当接した状態のまま摺動する。ここで、ロータとカムリングは偏心(オフセット)して配置されているか、カムリングが非円筒状(例えば楕円筒状)となっている。このため、ロータの回転に伴って隣接するベーン内の容積は変化する。これにより、吸入ポートから導入された作動潤滑油が吐出ポートから圧送される。
いずれのタイプでも、オイルポンプの駆動には相応なトルク・出力が必要となる。その摺接面にB−DLC膜が設けられていると、駆動トルクが低減され、自動変速機の高効率化が図られる。B−DLC膜により被覆される摺接面は、具体的にいうと、内接式歯車ポンプの場合ならアウターロータの内歯面またはインナーロータの外歯面の少なくとも一方である。ベーンポンプの場合なら、カムリングの内周面またはベーンの先端面の少なくとも一方である。勿論、B−DLC膜による被覆は、ベーンの先端面だけも十分であるが、それ以外の領域(例えば側面)がB−DLC膜で被覆されていてもよい。
摺接面の被覆状態が異なる試験片と、含有成分が異なる作動潤滑油(単に「フルード」という。)とを種々組合わせて、摩擦係数と摩耗深さを測定する基礎試験と、ベーンポンプの摩擦損失トルクを測定する実機試験とを行った。これらの試験を通じて、本発明をより具体的に説明する。
[基礎試験]
《試料の製造》
(1)基材
被覆する基材として、焼入れ処理した鋼材(SUS440C/硬さ:Hv700)からなるブロック(6.3mm×15.7mm×10.1mm)を用意した(試料B1・B2・C1)。被覆される面(単に「被覆対象面」という。)は、鏡面仕上げにより表面粗さRa:0.01μmとした。被覆された面(単に「被覆面」という。)は本明細書でいう「摺接面」に相当する。
比較のため、浸炭処理した鋼材(SCM420/「浸炭鋼材」という。)からなるブロックも同様に用意し、その浸炭面(硬さ:Hv600)も、同様に鏡面仕上げした。この浸炭面は本明細書でいう「圧接面」に相当する。本実施例では、試料B1・B2・C1に係る被覆面と試料C0に係る浸炭面とを併せて、適宜「摺動面」という。
(2)成膜
基材の被覆対象面に、B−DLC膜を成膜した試験片(試料B1・B2)と、市販のDLC膜を成膜した試験片(試料C1)を用意した。
試料B1のB−DLC膜は、マグネトロンスパッタリング装置(IHIハウザーテクノコーティング製)を、試料B2のB−DLC膜は、アンバランスドマグネトロンスパッタリング装置(株式会社神戸製鋼所製UBMS504)を用いて成膜した。具体的には次の通りである。先ずスパッタリング装置内を十分に真空排気した後、被覆対象面に対向配置したドープターゲット(BC)とグラファイトターゲット(C)を、Arガスでスパッタリングした。この際、Hを含有した炭化水素系ガス(CHとC)を装置内へ導入した。こうして、膜組成・膜密度が異なるB−DLC膜(膜厚:1〜3μm)で被覆された複数の試験片を得た(試料B1・B2)。
市販のDLC膜(日本ITF株式会社製/ジーニアスコートHA)は、上述した基材の被覆対象面に、カソーディックアーク(CVA)法により成膜されたものである。このDLC膜を適宜「HフリーDLC膜」という。
《被膜の測定》
(1)膜組成
各膜中の元素(B・C・Ar・O・Fe・Cr)を電子プローブ微小部分析法(EPMA)により定量した。Hは、ラザフォード後方散乱分光法(Rutherford Backscattering Spectrometry)および水素前方散乱分析法(Hydrogen Forward scattering Spectrometry)により測定した。こうして得られた各膜組成を表1に示した。
(2)表面硬さ、表面粗さおよび膜厚
各膜の表面硬さは、ナノインデンター試験機(株式会社東陽テクニカ製MTS)による測定値から求めた。各膜の表面粗さは、白色干渉法非接触表面形状測定機(Zygo社製NewView5022)により測定した。各膜厚は、CMS社製Calotestにより特定した。こうして得られた各膜の初期特性を表1に併せて示した。
(3)膜密度
膜密度はX線反射率法(XRR)により求めた。具体的にいうと、X線反射率測定装置(リガク社製SmartLab)を用いて、入射X線波長:0.1541nm(CuKα)、出力:45kV×200mA、測定範囲:0.0〜0.5°、測定ステップ:0.002°とした条件下で測定を行う。こうして得られたX線反射率曲線から求まる各試料の臨界角と上述した各試料の膜組成とを考慮してフィッテングを行って膜密度を求めた。こうして得られた各膜密度も表1に併せて示した。
(4)膜構造
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各膜の厚さ方向の断面中央部へ電子線を照射した。こうして得られた各膜の電子線回折像はいずれもハローパターンであった。これにより各膜がアモルファス構造(非晶質膜)であることを確認した。
《作動潤滑油》
(1)調製
作動潤滑油として、表2に示すフルードA1〜A3およびE0を用意した。各作動潤滑油は、基油に、B系添加剤、Caスルホネート、S系添加剤、P系添加剤、コハク酸イミド、有機系摩擦調整材を表2の組成と粘度になるように配合して調製した。フルードA1〜A3には、P系添加剤として、亜リン酸エステル、リン酸エステル若しくはチオリン酸エステルのいずれかを1〜3種類配合している。フルードA3には、Zn系添加剤(非ZnDTP)も配合している。フルードE0には、ZnDTPとMo系添加剤およびNaスルホネートを配合している。
(2)分析
各フルードの成分はICP(誘導結合プラズマ)質量分析・ICP発光分析(JIS K2541−5)・化学発光分析(JIS K2609)により分析した。また、各フルードの動粘度はJIS K2283に沿って測定した。こうして得られた各フルードの成分および動粘度(40℃、100℃)を表2に併せて示した。
《摩擦試験》
(1)各試験片(試料)と各フルードをそれぞれ組合わせて、ブロックオンリング摩擦試験を行った。これにより、それぞれの場合における摩擦係数(適宜「μ」と略記する。)と、試験後の摺動表面(摺接面)における摩耗深さを測定した。
摩擦試験は、摺動面幅6.3mmのブロック試験片(試料)と、浸炭鋼材(AISI4620)からなるリング試験片(FALEX社製S−10標準試験片/外径φ35mm、幅8.8mm、硬さHv800、表面粗さ:Ra0.28μm)とを用いて行った。試験条件は、試験荷重:133N(ヘルツ面圧:210MPa)、すべり速度:0.3m/s、油温:80℃(一定)とした。この摩擦試験を30分間行い、試験終了直前の1分間におけるμ平均値を摩擦係数とした。
(2)試験後の各摺動面を上述した非接触表面形状測定機で測定することにより、摩耗深さを求めた。摩耗深さは、摩耗していない領域から最も摩耗している領域までの最大深さとして求めた。
フルードA1を用いたときの各試料に係る摩擦係数と摩耗深さを、それぞれ図1と図2に示した。また、各フルードを用いたときの試料B1(摺接面)と試料C0(圧接面)に係る摩擦係数を図3に対比して示した。
《評価》
(1)摩擦係数
図1から明らかなように、フルードA1を用いた場合、試料C0に係る浸炭面(圧接面)では高い摩擦係数が確保されていた。これに加えて、試料B1・B2に係る被覆面(摺接面)では、浸炭面(試料C0)は勿論、HフリーDLC膜(試料C1)の被覆面よりも、低い摩擦係数が得られた。
さらに図3から明らかなように、フルードA1を用いた場合、フルードA2・A3を用いた場合と比較して、B−DLC膜からなる被覆面(摺接面)における摩擦係数の大幅な低減と、浸炭面(圧接面)における摩擦係数の増加とを図れることがわかった。
逆に、フルードE0を用いた場合、被覆面(摺接面)における摩擦係数の低減を図れないと共に、浸炭面(圧接面)における摩擦係数も大幅に低下することが明らかとなった。これは、フルードE0(エンジン油)中に多く含まれるMo系の摩擦低減剤およびZn系の極圧剤による影響と考えられる(表2参照)。
(2)摩耗深さ
図2から明らかなように、試料B1・B2に係る被覆面は、摩耗深さも十分に小さいこともわかった。従って、MoやZnを含まず、所定量のBを含むフルードA1とB−DLC膜からなる被覆面を有する試料B1・B2との組合わせにより、圧接面の高摩擦係数を確保しつつ、摺接面の低摩擦係数と摩耗抑制も両立できることがわかった。
[実機試験]
(1)ベーンポンプ(摺接部)
現行の無段自動変速機(CVT)用のベーンポンプを用意した。現行のベーンポンプは、ベーンが焼入れ処理された工具鋼(ベーンC0)からなり、カムリングが鉄系焼結材からなっている。その現行のベーンの先端部を、前述した各B−DLC膜(試料B1・B2)で被覆したベーンも併せて用意した(ベーンB1・B2)。
(2)測定
フルードA1を用いて、それぞれのベーンを組み込んだ各ベーンポンプを実際に駆動させ、そのときの摩擦損失トルクを測定した。この測定はモータリングにより、回転数1000r/min、油圧1MPa、油温80℃の条件において測定を行った。こうして得られた結果を図4にまとめて示した。
(3)評価
図3から明らかなように、フルードA1の存在下で、先端部がB−DLC膜で被覆されたベーンを用いることにより、現行よりもベーンポンプの摩擦損失トルクを大幅に低減できることがわかった。特に、高密度なB−DLC膜(試料B1)で被覆された先端面(摺接面)を有するベーンを用いると、ベーンポンプの効率性(低損失性)と耐久性を両立できることもわかった。
Figure 2019002468
Figure 2019002468

Claims (6)

  1. 対向する一対の圧接面を有する圧接部と、
    対向する一対の摺接面を有する摺接部と、
    該圧接面間および該摺接面間に介在する作動潤滑油と、
    を備える自動変速機であって、
    前記摺接面の少なくとも一方は、Bを含有した非晶質炭素膜(以下「B−DLC膜」という。)により被覆されており、
    前記作動潤滑油は、Mo:50ppm以下およびZn:50ppm以下であると共に、B:90〜500ppmを含む自動変速機。
  2. 前記B−DLC膜は、膜全体を100原子%としたときに、Bを4〜20原子%含む請求項1に記載の自動変速機。
  3. 前記B−DLC膜は、膜全体を100%原子%としたときに、Hを5〜25原子%含む請求項1または2に記載の自動変速機。
  4. 前記作動潤滑油は、さらに、S:500〜1300ppm、P:100〜500ppm、Ca:1000ppm以下またはNa:50ppm以下の少なくとも一つを満たす請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速機。
  5. 前記摺接部は、オイルポンプである請求項1〜4のいずれかに記載の自動変速機。
  6. 前記オイルポンプはベーンポンプであり、
    前記B−DLC膜で被覆される摺接面は、ベーンの先端面を含む請求項5に記載の自動変速機。
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