JP6209552B2 - 摺動部材および摺動機械 - Google Patents

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Description

本発明は、低摩擦特性と高耐摩耗性を高次元で両立できる摺動部材およびそれを備えた摺動機械に関する。
自動車に搭載される内燃機関などは、多くの摺動部材(例えばカムとカムフォロア、シリンダーとピストン、種々の軸と軸受け)からなる。このような摺動部材を備える機械(摺動機械)では、各摺動部における摩擦係数を減少させ、摩擦損失の低減等を図ることが強く要求されている。
そこで、例えば、摩擦係数の低減を図れるダイヤモンドライクカーボン膜と呼ばれる非晶質炭素膜(適宜「DLC膜」という。)を摺動面に形成することが提案されている。これに関連する記載が下記の特許文献等にある。
特許第4779551号 特許第5358521号
第5回新機械振興賞受賞者業績資料 日産自動車、リケン、日立製作所、日本ITF
特許文献1と特許文献2は、ホウ素(B)を含有した非晶質硬質炭素膜(適宜「B−DLC膜」という。)を摺動面に形成した摺動部材(摺動構造)を提案している。これらのB−DLC膜は低摩擦係数を発揮するが、B量が多くなると摩耗量が増加する。例えば、特許文献2のB−DLC膜(B:6.4at%)は、摩擦係数(μ)が非常に小さいが、その硬さも小さく(15.4GPa)、耐摩耗性が十分ではない。このように摩耗量の大きな被膜では、初期のマクロ形状(設計値)が維持されず、摺動機械の予定した性能が安定して発揮されない可能性がある。
非特許文献1は、アーク式イオンプレーティング法により形成された硬質なB非含有DLC膜(膜厚:1μm程度、硬さ:70GPa程度)と最適な油性剤との組合わせにより低摩擦特性が得られる旨を開示している。もっとも、そのB非含有DLC膜は、ダイヤモンドの硬さに匹敵するほど過大に硬質であり、割れや剥離等を生じる可能性が高い。このため、非特許文献1のDLC膜は、荷重変動等によって大きな衝撃力が作用し得る摺動面には適さない。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、低摩擦特性および耐摩耗性に優れる摺動部材と、その摺動部材を備えた摺動機械を提案することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、従来とは異なる膜組成および膜密度を有するB−DLC膜を摺動面に設けることにより、低摩擦特性と高耐摩耗性を高次元で両立し得ることを新たに見い出した。これらの成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《摺動部材》
(1)本発明の摺動部材は、基材と、該基材上に形成され摺動面を構成する摺動膜と、を備える摺動部材であって、前記摺動膜は、(B−DLC)全体を100原子%(単に「%」という。)としたときに、ホウ素(B):1〜20%と水素(H):0.1〜13%を含むホウ素含有非晶質炭素(以下、「B−DLC」という。)からなり、該B−DLCは、密度が2.2〜2.6g/cmであることを特徴とする。
(2)本発明に係る摺動膜は、低摩擦特性を発揮すると共に耐摩耗性にも優れる。このため本発明の摺動部材を用いた摺動機械は、優れた省エネルギー性能(例えば低燃費性)を示すとともに、信頼性や耐久性に優れたものとなる。
(3)本発明に係るB−DLCからなる摺動膜(適宜、単に「B−DLC膜」という。)が、そのような優れた特性(特に高耐摩耗性)を発揮する理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。本発明に係るB−DLC膜は、従来のB−DLC膜と比較して、構成原子(主にCまたはB)の結合状態が異なり、特定範囲の膜密度を有し、優れた摺動特性(低摩擦特性、高耐摩耗性または高靱性等)を発揮するようになったと考えられる。具体的にいうと、従来のB−DLC膜(例えば、上述した特許文献2に係るB−DLC膜)は、膜密度が高々1.7〜2.1g/cm 程度に過ぎなかった。また、Bを含まない硬質なDLC膜(例えば、上述した非特許文献1に係るDLC膜)は、膜密度が3.1g/cm 程度であった。ちなみに、ダイヤモンド(Cspからなる)の密度は3.52g/cm である。なお、グラファイト(Cspからなる)の密度は2.25g/cm 、B単体(安定なβ型)の密度は2.35g/cmである。
そうすると、本発明に係るB−DLC膜の膜密度は、従来のDLC膜(B−DLC膜を含む。)と異なることは勿論、少なくともダイヤモンドの密度とも大きく異なっている。このような特異な膜密度を発現する構造(原子の結合状態)に起因して、本発明に係るB−DLC膜は、非常に優れた低摩擦特性と高耐摩耗性とを発現するようになったと考えられる。さらに本発明に係るB−DLC膜は、その膜密度が、HおよびBを含有しない従来のDLC膜のように過大ではないため、高靱性でもあり得る。
なお、少なくともDLC膜(B−DLC膜を含む。)に関していえば、膜硬さ(硬度)と膜密度は基本的に異なる概念である。また、膜硬さと耐摩耗性は必ずしも相関している訳ではない(「森ら,トライボロジスト,54,1,(2009)40-47」参照)。さらに、膜密度と耐摩耗性の関係については、これまで知られていなかった。
《摺動機械》
本発明は摺動部材としてのみならず、それを用いた摺動機械としても把握される。すなわち本発明は、相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油と、を備えた摺動機械であって、前記摺動部材の少なくとも一方は、上述した本発明の摺動部材からなることを特徴とする摺動機械でもよい。
《その他》
(1)本発明に係るB−DLCは、CおよびBの他、特性改善に有効な元素(改質元素)を適宜含み得る。また、コスト的または技術的な理由により除去困難な「不可避不純物」を含有し得ることは当然にある。
本発明でいう摺動膜は、摺動面(最表面)がB−DLC(膜)からなれば足り、その下地層までは問わない。従って、本発明に係る摺動膜は、B−DLC膜のみでも良いし、基材とB−DLC膜との間にある中間層を含むものでもよい。
(2)本発明に係るB−DLC膜は、低摩擦特性と共に高耐摩耗性を発現するが、その具体的な摩擦係数や摩耗量等までは問わない。このような特性は、摺動条件(摺動面間の面圧(ヘルツ面圧)、相手材の材質や形状、用いる潤滑油の種類等)により変化するためである。敢えていうなら、本発明に係る摺動面の摩擦係数(湿式条件下)は、例えば0.01〜0.06さらには0.02〜0.05であると好ましい。
(3)本発明の摺動部材(摺動機械)は、潤滑油の存在する湿式条件下で用いられることにより、特に優れた摩擦特性と耐摩耗性を発揮する。この傾向は、成分(添加剤の種類や量)が異なる種々の潤滑油について該当する。例えば、従来から摩擦調整剤等として用いられてきたジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)を含む潤滑油(適宜「MoDTC含有オイル」という。)であっても、逆に、MoDTCを実質的に含まない潤滑油(適宜「MoDTC非含有オイル」という。)であっても、本発明に係るB−DLC膜は、低摩擦特性と共に高耐摩耗性を発揮し得る。
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜B」のような数値範囲を新設し得る。
DLC膜(B−DLC膜を含む。)の膜密度と膜硬さの関係を示す分散図である。 DLC膜の膜密度と摩耗深さとの関係を示す分散図である。 DLC膜の摩擦係数と摩耗深さとの関係を示す分散図である。 試料3に係るNMRスペクトル図である。 試料C2に係るNMRスペクトル図である。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。上述した本発明の構成に本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の摺動部材や摺動機械のみならず、その製造方法にも適用され得る。製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《基材》
摺動面が形成される基材はその材質を問わないが、通常、金属材料、特に鉄鋼(炭素鋼または合金鋼)材からなる。基材表面は、適宜、窒化、浸炭等の表面処理がなされていてもよい。その表面粗さは問わないが、Raで0.3μm以下さらには0.1μm以下であると好ましい。また、摺動膜の密着性や耐摩耗性の向上を図るため、B−DLC膜の成膜前の基材表面に各種の下地層(中間層)を一層以上設けてもよい。
《摺動膜(B−DLC膜)》
(1)膜組成
本発明に係るB−DLCは、B:1〜20%、2〜15%さらには3〜13%、H:0.1〜13%、0.5〜12%さらには1〜11%、残部:Cであると好ましい。Bが過少であると、摩擦係数が増大し得る。BまたはHが過多になると、摩耗量が増大し得る。なお、本発明に係るB−DLCは、必ずしもHを含まなくてもよいが、Hを完全に除去することは容易ではない。適量のHが存在することにより、B−DLC膜の靱性が向上し得る。なお、本明細書でいう膜組成は単に「%」で表すが、それは特に断らない原子割合を意味する。
なお、本発明に係るB−DLCは、適宜、Al、Mn、Mo、Si、Ti、Cr、W、V、Ni等を含み得る。これら元素の含有量は問わないが、合計で4%未満さらには2%未満であると好ましい。なお、B−DLCの組成は、最表層の厚さ方向に関して、均質的でも、多少変化していても、さらには傾斜していてもよい。
(2)Csp
本発明に係るB−DLCは、全C量に対するsp混成軌道を有するC(Csp)の原子割合であるCsp量と、全体組成中のH量との差(Csp−H)が25〜45%さらには27〜40%であると好ましい。この差が過小では耐摩耗性が低下し、この差が過大では、摩擦係数の増大または靱性の低下を招き得る。
Csp量単独では、25〜55%、26〜40%さらには27〜35%であると好ましい。Cspが過少では、B−DLCがグラファイト(Csp量;100%、Csp量:0%)に近づき、耐摩耗性が低下し得る。Cspが過多では、B−DLCがダイヤモンド(Csp量;0%、Csp量:100%)に近づき、摩擦係数の増大や靱性の低下を招き得る。いずれにしても、摺動膜の低摩擦特性と高耐摩耗性を高次元で両立し難くなる。
なお、従来のB−DLC膜(例えば、上述した特許文献2に係るB−DLC膜)のCsp 量は40%程度であるが、H量を相応に含むため、上述した(Csp−H)量は25%よりもかなり小さくなる。逆に、BおよびHを実質的に含まない硬質なDLC膜(例えば、上述した非特許文献1に係るDLC膜)は、Csp 量が70% 超であり、かなり大きくなる。いずれの場合も、高耐摩耗性と低摩擦特性を高次元で両立することはできない。
ちなみに、DLC(B−DLCを含む。)中のCは、実質的に、Cspか、sp混成軌道を有するC(Csp)である。CspまたはCspは、核磁気共鳴法(NMR)により定量される。具体的には、固体NMRで定量性のあるマジックアングルスピニングを行う高出力デカップリング法(HD−MAS)を用いて、CspとCspとにそれぞれ起因したスペクトル図を得る。各スペクトル線と基準線(ベースライン)とで囲まれた領域の面積比に基づいて、全C量に対するCspまたはCspの原子割合が求まる。
なお、DLC(B−DLCを含む)の全体組成に対するCsp量は、その全体組成から求まる残部C量に、固体NMR法で定量されたCsp量(残部C量を100原子%として定量されたCsp量)を掛け合わせることにより求まる。但し、本明細書でいうCsp 量は、特に断らない限り、B−DLC中の全C量を100%として換算した値である。
(3)膜密度
本発明に係るB−DLCは、密度が2.2〜2.6g/cmさらには2.3〜2.5g/cmであると好ましい。B−DLCの密度が過小では耐摩耗性が低下し、その密度が過大では摩擦係数の増大または靱性の低下を招き、安定した高耐摩耗性が得られない。
前述したように、少なくともB−DLC膜の場合、膜密度と膜硬さは別概念であり、膜硬さと耐摩耗性の間にも必ずしも明確な相関がある訳ではない。敢えていうと、本発明に係るB−DLC膜の膜硬さは、例えば、20〜30GPaさらには22〜26GPaであると好ましい。
《成膜》
本発明に係る摺動膜の成膜方法は種々考えられるが、例えば、スパッタリング法(SP法)により形成されると好ましい。SP法は、物理気相成長法(PVD法)の一種であり、ターゲットに不活性ガス原子イオンをターゲット表面に衝突させて、飛び出したターゲットの粒子(原子・分子)を、基材に負のバイアス電圧を印加し、摺動面となる基材表面にDLC膜を堆積させて成膜する方法である。
この他、DLC膜は、カソード(バキューム)アーク法(以下単に「CVA法」という。)等によっても形成可能である。CVA法は、物理気相成長法(PVD法)に含まれるイオンプレーティング法の一種であり、真空雰囲気において、カソード(陰極)であるターゲットとアノード(陽極)との間で真空アーク放電を発生させ、ターゲット表面から蒸発・イオン化した粒子を、負のバイアス電圧を印加した基材表面に堆積させて成膜する方法である。
いずれの場合でも、ターゲット、真空雰囲気(導入ガス)、バイアス電圧等を調整することにより、種々のDLC膜の形成が可能となる。例えば、B源となる炭化ホウ素(BC)、ホウ素、C源となるグラファイトなどをターゲットに用いるとよい。B−DLC膜中のH量の調整は、例えば、各種炭化水素ガス(C、CH、C等)を処理ガスとしてチャンバー内に導入することにより行える。またアーク放電については、例えば、Arガス中で行われることが多い。
《用途》
本発明の摺動部材は、その具体的な形態や用途を問わず、多種多様な摺動機械に用いることができる。そして本発明の摺動部材を用いれば、流体潤滑、混合潤滑または境界潤滑の条件下で摺動面に高面圧が作用する場合でも、摺動機械の摩擦損失低減や長寿命化を図ることができる。さらに、本発明に係るB−DLC膜は耐摩耗性に優れるため、摺動面間における平滑性や設計値(クリアランス等の初期マクロ形状)も長く維持され、本発明の摺動機械は初期性能(燃費性能を含む)を長期的に安定して発揮し得る。
摺動機械として、例えば、自動車等に搭載されるエンジンや変速機等の駆動系ユニットがある。また摺動部材として、ピストン若しくはピストンリングとシリンダー(ライナー)、動弁系部材(バルブリフタ若しくはフォロワとカム、バルブとバルブガイド等)、噛合する歯車、ロータとロータハウジング、軸と軸受等がある。
本発明の摺動部材は、乾式条件下で用いられても、湿式条件下で用いられてもよい。もっとも、潤滑油の存在する湿式条件下で用いられることにより、低摩擦特性を確保しつつ、優れた耐摩耗性が発揮される。潤滑油は種々の添加剤を含み得る。潤滑油がエンジンオイルである場合なら、代表的な添加剤としてMoDTCがある。本発明の摺動部材を用いれば、MoDTC含有オイルを用いる場合でも、MoDTC非含有オイルを用いる場合でも、優れた耐摩耗性が発揮され得る。なお、本発明に係る潤滑油は、エンジン油に限らず、駆動系油(ATFまたはミッションオイル)、ギア油等でもよい。
成膜方法の選択または成膜条件の調整により、種々のDLC膜(B−DLC膜を含む)を基材表面に成膜した。それぞれについて膜特性(組成、膜密度、構造等)を測定・観察すると共に摺動特性(耐摩耗性、摩擦特性)を評価した。このような具体例に基づき、以下に本発明をさらに詳しく説明する。
《試料の製造》
表1に示す種々の試料(摺動部材)を製造した。各試料は、基材であるブロック試験片(15.7mm×6.3mm×10mm)の摺動面となる一面に、種々の被膜を形成したものである。但し、試料C0は、基材の研磨面をそのまま摺動面とした。
〈基材〉
試料C0以外の基材には、マルテンサイト系ステンレス鋼(JIS SUS440C)の焼入れ焼戻し材(HRC58)を用いた。各基材の表面(被処理面)は、成膜前の表面粗さがRa:0.008μmとなるように研磨しておいた。
試料C0の基材には、浸炭鋼(JIS SCM420)の焼入れ焼戻し材を用いた。試料C0の基材表面は、鏡面仕上げ面(Ra:0.08μm)されており、その表面硬さはHV600であった。なお、表面粗さ(Ra)は、JIS B0601:’01に準拠した算術平均粗さである。
〈成膜〉
各試料(試料C0を除く。以下、同様)の基材表面に、スパッタリング法(SP法)またはカソードアーク法(CVA法)により、各種のDLC膜を成膜した。
(1)試料1〜3と試料C1・C2(SP法)
試料1〜3のB−DLC膜は、BCおよびC(グラファイト)をターゲットとして、Arガスでスパッタリングして成膜した。この成膜には、アンバラスドマグネトロンスパッタリング装置(株式会社神戸製鋼製)を用いた。試料1および試料2では、チャンバーへCを導入して、B−DLC膜中のH量を調整した。試料3は、チャンバーへ炭化水素ガスを導入せず、Arガスのみで成膜した。一方、試料C1・C2の成膜は、基本的に特許文献2(特許第5358521号公報)の記載に沿って、チャンバーへCHを導入して行った。いずれの試料も、成膜厚さ(膜厚)は1μmとした。膜厚は、後述する試料C3・C4についても同様である。
(2)試料C3・試料C4
試料C3はSP法により、試料C4はCVA法により、B含有ターゲットを用いずに、C(グラファイト)ターゲットのみを用いて、(B非含有)DLC膜を成膜したものである。特に試料C4は、炭化水素ガス等を導入せず、H非含有(Hフリー)なDLC膜を成膜したものである。なお、CVA法による成膜は、日本ITF製、M720Eを用いて、Arガス中でアーク放電させることにより行った。
《測定・観察》
各試料に係る膜特性をそれぞれ測定し、その結果を表1に併せて示した。被膜中のB量は電子線マイクロアナライザ(EPMA)(日本電子製、JXA−8200)により測定し、H量は弾性反跳検出分析(ERDA)(National EleCtrostatiCs Corporation製、Pelletron 3SDH)により測定した。
Csp量は、固体核磁気共鳴装置(日本電子製、ECA700)を用いて固体NMR法により測定した。具体的にいうと、Al基板上に成膜(膜厚:0.1μm)したサンプルから、Al基板を溶解させて得られた粉末(B−DLC)について測定を行った。なお、表1に示したH量は、ERDAによる測定結果を、EPMAの測定結果を考慮して、膜全体に対する原子割合(at%)として換算したものである。Csp量は、膜中に含まれるC量全体を100at%として求めた値である。
膜硬さは、ナノインデンター試験機(TRIBOSCOPE,HYSITRON社製)により測定した。膜密度はX線反射率法(XRR)により求めた。具体的にいうと、X線反射率測定装置(リガク社製SmartLab)を用いて、入射X線波長:0.1541nm(CuKα)、出力:45kV×200mA、測定範囲:0.0〜0.5°、測定ステップ:0.002°とした条件下で測定を行う。こうして得られたX線反射率曲線から求まる各試料の臨界角と上述した各試料の膜組成とを考慮してフィッテングを行うことにより、膜密度を求めた。
《摩擦試験》
各試料の成膜面(試料C0は研磨面)を摺動面として、リング・オン・ブロック型摩擦試験機(LFW−1、FALEX社製)により摩擦試験を行った。この試験は、潤滑油の存在する状況下で、各試料からなるブロック試験片(摺動面幅:6.3mm)と、FALEX社製の標準試験片(S−10/浸炭材:SAE4620、φ35mm×8.8mm、表面硬さ:HV800、表面粗さ:1.7〜2.0μmRzjis)であるリング試験片とを、押圧しつつ摺接させて行った。このとき、押圧荷重:133N(ヘルツ面圧:210MPa)、両試験片のすべり速度:0.3m/s、潤滑油の油温:80℃(一定)、試験時間:30分間とした。潤滑油には、トヨタ自動車株式会社の純正エンジン油(MoDTC非含有/トヨタキャッスル SN 0W−20/ILSAC規格:GF−5)を用いた。
摩擦係数は、試験終了直前の1分間における平均値とした。また摩耗深さは、表面粗さ測定に用いた白色干渉法非接触形状測定機(New View 5022、ザイゴ株式会社製)により得られた形状に基づき特定される、非摺動面から摺動面の最深部までの深さ、とした。こうして得られた各試料に係る摩擦係数と摩耗深さを表1に併せて示した。
《評価》
(1)膜密度と膜硬さ
表1に示した各試料の膜密度と膜硬さの関係を図1に示した。概観すると、膜密度が増加するほど膜硬さも増加するようにみえる。しかし、試料1〜3の場合、特に試料2と試料3を比較すると明らかなように、膜密度(さらには膜組成)が変化しても、膜硬さは殆ど変化していない。このように膜密度が本発明の範囲内にあるB−DLC膜の場合、膜密度と膜硬さは必ずしも相関していない。
(2)膜密度と耐摩耗性
各試料の摩耗深さと膜密度との関係を図2に示した。図2から明らかなように、膜密度が2.2g/cm以上になると、B−DLC膜の摩耗深さは急激に低下し、B−DLC膜は実質的に摩耗しないほどの高耐摩耗性を発現することがわかった。また図2および表1から、膜密度が本発明に係る範囲内にあるB−DLC膜は、BおよびHを含み、膜硬さが25GPa以下であっても、BおよびHを含まず、膜硬さが50GPa程度の非常に硬質なDLC膜(試料C4)と同程度の優れた耐摩耗性を発揮することもわかった。
(3)摩擦特性と耐摩耗性
各試料の摩擦係数と摩耗深さの関係を図3に示した。図3から明らかなように、試料1〜3は、他の試料と異なり、摩擦係数と摩耗深さの両方が共に非常に低くなっていることがわかった。つまり試料1〜3は、摩耗深さが大きくて耐摩耗性に欠ける試料C1・試料C2や摩擦係数が大きくて低摩擦特性に欠ける試料C3・試料C4とは、特性が明らかに大きく相違している。このように本発明に係る膜組成および膜密度を有するB−DLC膜は、従来のDLC膜(B−DLC膜を含む。)と異なり、高耐摩耗性と低摩擦特性を高次元で両立できることが明らかとなった。
(4)結合状態
固体NMR法で試料3と試料C2の各B−DLC膜を分析して得られた13Cに係るスペクトル図を、それぞれ図4Aと図4Bに示した。また、それぞれの11Bに係るスペクトル図も各図に併せて示した。
13Cに係るCspとCspのスペクトルから算出した各試料のCsp量を表1に示した。NMR分析には高額な費用を要するため、試料3と試料C2についてのみCsp量を定量した。試料C4のCsp量は文献値(出典:「水素非含有ダイヤモンドライクカーボン膜の油中摩擦摩耗特性」 馬渕豊 2014年 名古屋大学博士論文)である。
これらの分析結果から、B−DLC膜中におけるBまたはCの結合状態がわかる。先ず、11Bに係るスペクトル図から、Bは3配位または4配位で結合し得るが、B−DLC膜中では3配位が主体のB−C結合となっていることがわかる。
また、膜中のHはすべてC−H結合していると仮定して、それを除いたC−C結合またはC=C結合している膜中のCのみについて考えると、表1に示した試料3、試料C2および試料C4に係るCsp量、Csp量−H量および膜密度をそれぞれ対比することにより、以下のことがわかる。先ず、試料3は試料C2よりもCsp量が小さいにも拘わらず、試料C2よりも膜密度および膜硬さが大きくなっている。一般的に考えれば、グラファイトのCsp量が0%で、ダイヤモンドのCsp量が100%であることからもわかるように、Csp量が大きいほど密度や硬さも大きくなると考えられる。このような傾向が試料3と試料C2とでは逆転している。この理由は、試料3は試料C2よりもH含有量が少ないためと考えられる。つまり、B−DLC中に未結合水素がないと仮定すると、C−C結合(一部C−B結合)に供されるCsp量は、試料3の方が試料C2よりも多いといえる。換言すると、試料3は試料C2よりも、Csp量−H量さらにはCsp量−H量−B量が大きいために、上記のような逆転現象が生じたと考えられる。
いずれにしても、同じB−DLC膜でありながら、試料3と試料C2とは、構成元素の結合状態が大きく異なるDLC膜であるといえる。また、試料3のB−DLC膜は、試料C4のDLC膜のようにCsp量が過大ではないため、柔軟性(変形性)に優れ、高靱性であるともいえる。
(5)膜組織
試料3と試料C2のB−DLC膜はいずれも、X線回折像から、実質的に無配向な非晶質構造からなることも確認されている。
こうして本発明に係るB−DLC膜を摺動面に設けることにより、低摩擦性と耐摩耗性を高次元で両立した摺動部材が得られることが確認された。
Figure 0006209552

Claims (7)

  1. 基材と、
    該基材上に形成され摺動面を構成する摺動膜と、
    を備える摺動部材であって、
    前記摺動膜は、全体を100原子%(単に「%」という。)としたときに、
    ホウ素(B):1〜20%と水素(H):0.1〜13%を含むホウ素含有非晶質炭素(以下、「B−DLC」という。)からなり、
    該B−DLCは、密度が2.2〜2.6g/cmであることを特徴とする摺動部材。
  2. 前記B−DLCに含まれるBは2〜15%である請求項1に記載の摺動部材。
  3. 前記B−DLCの密度は2.3〜2.5g/cm である請求項1または2に記載の摺動部材。
  4. 前記B−DLCは、全C量に対するsp混成軌道を有する炭素(C)(「Csp」という。)の原子割合であるCsp量と前記H量との差(Csp−H)が25〜45%である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材。
  5. 前記Csp −Hは27〜40%である請求項4に記載の摺動部材。
  6. 潤滑油の存在する湿式条件下で用いられる請求項1〜のいずれかに記載の摺動部材。
  7. 相対移動し得る対向した摺動面を有する一対の摺動部材と、
    該対向する摺動面間に介在し得る潤滑油と、
    を備えた摺動機械であって、
    前記摺動部材の少なくとも一方は、請求項1〜のいずれかに記載の摺動部材からなることを特徴とする摺動機械。
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