JP2018531617A - アルデヒドの製造方法 - Google Patents

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Abstract

目的物質(すなわちバニリン等のアルデヒド)の製造法を提供する。アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変された目的物質生産能を有するコリネ型細菌を利用して、炭素源または目的物質前駆体から目的物質を製造する。

Description

本発明は、細菌を用いた目的物質(すなわちバニリン等のアルデヒド)の製造方法に関するものである。
バニリンは、バニラの香りの主要な成分であり、香料として飲食品や香水等に配合して使用されている。バニリンは、主に、天然物からの抽出または化学合成により製造されている。
また、生物工学的手法によりバニリンを製造する試みもなされている。生物工学的手法によるバニリンの製造方法としては、各種微生物を利用した、オイゲノール(eugenol)を原料とする方法、イソオイゲノール(isoeugenol)を原料とする方法、フェルラ酸(ferulic acid)を原料とする方法、グルコースを原料とする方法、バニリン酸(vanillic acid)を原料とする方法、ヤシガラ(coconut husk)を原料とする方法等が報告されている(非特許文献1)。
しかしながら、バニリンはアルデヒドであり、微生物に対して強い毒性を示す(非特許文献2)。そのため、バニリンの毒性が微生物を利用したバニリン生産を行う際の課題になっている。また、バニリンをバニリルアルコールに変換することがバニリンの毒性を緩和する手段の一つだと報告されている(非特許文献3、4)。また、バニリンの毒性を緩和しながら微生物を利用してバニリンを生産する方法としては、以下のような報告例がある。
オイゲノールやイソオイゲノールを原料としてバニリンを高蓄積する微生物としては、E. coli等が報告されている(非特許文献1)。これらの原料は水に対する溶解度が低いため、これらの原料からのバニリン生産は2層発酵により実施され、更には生産性向上のためにジメチルスルホキシド等の溶媒が添加される。2層発酵においては、生成したバニリンは有機層に蓄積し、水層中のバニリン濃度は低く保たれるため、バニリンの毒性が緩和され、バニリンを高蓄積することができる。しかしながら、2層発酵を行うことは、精製時のコストの上昇をもたらすだけでなく、有機溶媒耐性を有する素材で発酵槽を作製する必要があることからもコストの上昇をもたらす。更に、好気条件下にて2層発酵を行うことは、静電気等による爆発のリスクを伴う。
また、樹脂を用いてバニリンを吸着し、バニリンの毒性を緩和することでバニリンを高蓄積する方法も報告されている(非特許文献1)。しかしながら、樹脂の使用はコストの上昇をもたらす。
一方、アルコールデヒドロゲナーゼの中には、バニリンからバニリルアルコールへの変換に関与する酵素が存在することが報告されており、E. coliや酵母において、同酵素の活性を弱化することによりバニリン生産が向上することが報告されている(非特許文献5、6)。しかしながら、その際のバニリンの蓄積量はE. coliや酵母共に0.5 g/L程度である(非特許文献5、6)。また、水層系でのE. coliによるバニリン蓄積量は、樹脂等を用いてバニリンを吸着しない限り、最大で2.5 g/L程度である(非特許文献7)。また、水層系でのサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)によるバニリン蓄積量は、最大で0.5 g/L程度である(非特許文献5、8)。このように、工業生産においてアルデヒド毒性の課題が強く示唆されている。
一方、バニリンを水層系で高蓄積する微生物として、Amycolatopsis sp. ATCC39116等の放線菌等も報告されている。しかし、これらの放線菌は培養時間が非常に長くコストの上昇をもたらす(非特許文献1、9)。また、これらの放線菌は遺伝子組み換え技術が発達しておらず、菌株改変によるバニリン生産の向上が難しい。また、バニリンは食品にも利用されるため、安全性が証明されているGRAS(Generally Recognized As Safe)菌を用いて製造されるのが好ましいが、バニリンを水層系で高蓄積するGRAS菌は知られていない。
Kaur B. and Chakraborty D., Appl. Biochem. Biotechnol., 2013 Feb;169(4):1353-72. Zaldivar J. et al., Biotech. and Bioeng., 1999, Vol.65, p24-33. Shen Y. et al., J. Ind. Microbiol. Biotechnol., 2014, Vol.31, p1637-1645. Nguyen TT. et al., J. Biosci. Bioeng., 2014, Vol.118, p263-269. Kunjapur AM. et al., J. Am. Chem. Soc., 2014, Vol.136, p11644-11654. Hansen EH. et al., App. Env. Microbiol., 2009, Vol.75, p2765-2774. Venkitasubramanian P. et al., Enzyme and Microbial Technology, 2008, Vol.42, p130-137. Brochado AR. et al., Microbial Cell Factories, 2010, Vol.9, p84. Ma XK. and Daugulis AJ., Bioprocess Biosyst. Eng., 2014, Vol.37, p891-899.
本発明は、目的物質(すなわちバニリン等のアルデヒド)の生産を向上させる新規な技術を開発し、効率的な目的物質の製造法を提供することを課題とする。本発明は、特に、2層培養や樹脂等の、バニリン等の目的物質の毒性を緩和する手段を用いることなく目的物質を効率よく製造できる方法を提供することを課題としてよい。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、目的物質(すなわちバニリン等のアルデヒド)の生産に適した微生物菌株をスクリーニングする方法を開発し、コリネ型細菌が他の細菌よりも優れたバニリン耐性を有することを見出した。本発明者は、更に、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変することにより、コリネ型細菌のバニリン等の目的物質の生産能を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
コリネ型細菌であって、
目的物質を生産する能力を有し、
アルコールデヒドロゲナーゼの活性が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記目的物質が、アルデヒドである、細菌。
[2]
前記アルコールデヒドロゲナーゼが、NCgl0324遺伝子およびNCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質である、前記細菌。
[3]
少なくとも、NCgl0324遺伝子にコードされるタンパク質の活性が低下した、前記細菌。[4]
少なくとも、NCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質の活性が低下した、前記細菌。[5]
前記NCgl0324遺伝子にコードされるタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号66に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号66に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号66に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
[6]
前記NCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号70に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号70に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号70に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
[7]
前記アルコールデヒドロゲナーゼの活性が、該アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または該遺伝子を破壊することにより、低下した、前記細菌。
[8]
さらに、目的物質の生合成に関与する酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、前記細菌。
[9]
前記目的物質の生合成に関与する酵素が、前記目的物質の前駆体から該目的物質への変換を触媒する酵素から選択される1種またはそれ以上の酵素である、前記細菌。
[10]
前記目的物質の生合成に関与する酵素が、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ、3−デヒドロキナ酸シンターゼ、3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ、O−メチルトランスフェラーゼ、芳香族カルボン酸レダクターゼ、およびフェニルアラニンアンモニアリアーゼからなる群より選択される1種またはそれ以上の酵素である、前記細菌。
[11]
前記芳香族カルボン酸レダクターゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、芳香族カルボン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、芳香族カルボン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質。
[12]
さらに、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、前記細菌。
[13]
前記ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号50または52に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号50または52に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号50または52に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
[14]
さらに、目的物質以外の物質の取り込み系の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、前記細菌。
[15]
前記取り込み系が、バニリン酸取り込み系およびプロトカテク酸取り込み系からなる群より選択される1種またはそれ以上の取り込み系である、前記細菌。
[16]
前記バニリン酸取り込み系が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号54に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号54に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸取り込み活性を有するタンパク質;
(c)配列番号54に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸取り込み活性を有するタンパク質。
[17]
さらに、目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性が非改変株と比較して低下するように改変されている、前記細菌。
[18]
前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素が、バニリン酸デメチラーゼ、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ、およびシキミ酸デヒドロゲナーゼからなる群より選択される1種またはそれ以上の酵素である、前記細菌。
[19]
前記バニリン酸デメチラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記細菌:
(a)配列番号58または60に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号58または60に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸デメチラーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号58または60に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸デメチラーゼ活性を有するタンパク質。
[20]
前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム属細菌である、前記細菌。
[21]
前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカムである、前記細菌。
[22]
目的物質の製造方法であって、
下記工程(A):
(A)前記細菌を利用して目的物質を製造する工程
を含み、
前記目的物質が、アルデヒドである、方法。
[23]
前記工程(A)が、下記工程(B)によって実施される、前記方法:
(B)炭素源を含有する培地で前記細菌を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させる工程。
[24]
前記工程(A)が、下記工程(C)によって実施される、前記方法:
(C)前記細菌を利用して前記目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程。
[25]
前記工程(C)が、下記工程(C1)によって実施される、前記方法:
(C1)前記前駆体を含有する培地で前記細菌を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させる工程。
[26]
前記工程(C)が、下記工程(C2)によって実施される、前記方法:
(C2)前記細菌の菌体を反応液中の前記前駆体に作用させ、前記目的物質を該反応液中に生成蓄積する工程。
[27]
前記菌体が、前記細菌の培養液、該培養液から回収された菌体、それらの処理物、またはそれらの組み合わせである、前記方法。
[28]
前記前駆体が、プロトカテク酸、バニリン酸、安息香酸、L−フェニルアラニン、および桂皮酸からなる群より選択される1種またはそれ以上の物質である、前記方法。
[29]
さらに、前記目的物質を前記培地または前記反応液から回収することを含む、前記方法。
[30]
前記目的物質が、芳香族アルデヒドである、前記方法。
[31]
前記目的物質が、バニリン、ベンズアルデヒド、およびシンナムアルデヒドからなる群より選択される1種またはそれ以上の芳香族アルデヒドである、前記方法。
[32]
アルデヒド耐性株をスクリーニングする方法であって、
アルデヒドを含有する培地で微生物を培養すること、および
アルデヒド耐性株を選抜すること、
を含む、方法。
[33]
前記培地が、前記アルデヒドを2g/L以上の濃度で含有する、前記方法。
[34]
前記微生物が、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が非改変株と比較して低下するように改変された株である、前記方法。
[35]
前記アルデヒドが、バニリンである、前記方法。
E. coliによるバニリン生産の結果を示す図。 バニリン耐性の評価結果を示す図(細菌)。 バニリン耐性の評価結果を示す図(Saccharomyces serevisiae S228C株) コリネ型細菌のバニリルアルコール副生低減株のバニリン耐性の評価結果を示す図。 コリネ型細菌のアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子ホモログ欠損株によるバニリンからのバニリルアルコール生産の評価結果を示す図。図中、FKS0165株、FKFC1株、FKFC3株、FKFC5株、FKFC7株、FKFC9株、FKFC11株、FKFC14株を、それぞれ、none、ΔNCgl313、ΔNCgl2709、ΔNCgl324、ΔNCgl2709ΔNCgl324、ΔNCgl2709ΔNCgl313、ΔNCgl324ΔNCgl313、ΔNCgl2709ΔNCgl324ΔNCgl313と表記する。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変されている、目的物質を生産する能力を有するコリネ型細菌である。目的物質を生産する能力を、「目的物質生産能」ともいう。
<1−1>目的物質生産能を有する細菌
本発明において、「目的物質生産能を有する細菌」とは、目的物質を生産することができる細菌をいう。
「目的物質生産能を有する細菌」とは、同細菌が発酵法に用いられる場合にあっては、目的物質を発酵により生産することができる細菌をいう。すなわち、「目的物質生産能を有する細菌」とは、目的物質を炭素源から生産することができる細菌であってよい。「目的物質生産能を有する細菌」とは、具体的には、培地(例えば炭素源を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培地中に蓄積することができる細菌であってよい。
「目的物質生産能を有する細菌」とは、同細菌が生物変換法に用いられる場合にあっては、目的物質を生物変換により生産することができる細菌をいう。すなわち、「目的物質生産能を有する細菌」とは、目的物質を該目的物質の前駆体から生産することができる細菌であってよい。「目的物質生産能を有する細菌」とは、具体的には、培地(例えば目的物質の前駆体を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培地中に蓄積することができる細菌であってよい。また、「目的物質生産能を有する細菌」とは、具体的には、反応液中で目的物質の前駆体に作用させたときに、目的物質を生産し、回収できる程度に反応液中に蓄積することができる細菌であってよい。
目的物質生産能を有する細菌は、非改変株よりも多い量の目的物質を培地または反応液に蓄積することができる細菌であってよい。「非改変株」とは、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するように改変されていない対照株をいう。すなわち、非改変株としては、野生株や親株、例えばCorynebacterium glutamicum ATCC 13869株やATCC 13032株、が挙げられる。また、目的物質生産能を有する細菌は、0.008 g/L以上、0.05 g/L以上、0.3 g/L以上、0.5 g/L以上、1.0 g/L以上、3.0 g/L以上、6.0 g/L以上、または9.0 g/L以上の量の目的物質を培地または反応液に蓄積することができる細菌であってもよい。
本発明において、「目的物質」とは、アルデヒドをいう。アルデヒドとしては、芳香族アルデヒドが挙げられる。芳香族アルデヒドとしては、バニリン(vanillin)、ベンズアルデヒド(benzaldehyde)、シンナムアルデヒド(cinnamaldehyde)が挙げられる。本発
明の細菌は、1種の目的物質を生産する能力を有していてもよく、2種またはそれ以上の目的物質を生産する能力を有していてもよい。また、本発明の細菌は、1種の目的物質前駆体から目的物質を生成する能力を有していてもよく、2種またはそれ以上の目的物質前駆体から目的物質を生成する能力を有していてもよい。
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418(FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869 (2256株)
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
本発明の細菌は、本来的に目的物質生産能を有するものであってもよく、目的物質生産能を有するように改変されたものであってもよい。目的物質生産能を有する細菌は、例えば、上記のような細菌に目的物質生産能を付与することにより、または、上記のような細菌の目的物質生産能を増強することにより、取得できる。
以下、目的物質生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するような目的物質生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
目的物質は、目的物質の生合成に関与する酵素の作用により生成し得る。そのような酵素を、「目的物質生合成酵素」ともいう。よって、本発明の細菌は、目的物質生合成酵素を有していてよい。言い換えると、本発明の細菌は、目的物質生合成酵素をコードする遺伝子を有していてよい。そのような遺伝子を、「目的物質生合成遺伝子」ともいう。本発明の細菌は、本来的に目的物質生合成遺伝子を有するものであってもよく、目的物質生合成遺伝子が導入されたものであってもよい。遺伝子を導入する手法については後述する。
また、目的物質生合成酵素の活性の増大により、細菌の目的物質生産能を向上させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質生合成酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、本発明の細菌は、目的物質生合成酵素の活性が増大するように改変されていてよい。1種の目的物質生合成酵素の活性が増大してもよく、2種またはそれ以上の目的物質生合成酵素の活性が増大してもよい。タンパク質(酵素等)の活性を増大させる手法については後述する。タンパク質(酵
素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。
目的物質は、例えば、炭素源および/または該目的物質の前駆体から、生成し得る。よって、目的物質生合成酵素としては、例えば、炭素源および/または前駆体の目的物質への変換を触媒する酵素が挙げられる。例えば、3−デヒドロシキミ酸(3-dehydroshikimic acid)は、シキミ酸経路の一部によって生産され得る。当該シキミ酸経路の一部は、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)、3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)、および3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase)により触媒されるステップを含んでいてよい。3−デヒドロシキミ酸は、3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)の作用によりプロトカテク酸(protocatechuic acid)へと変換され得る。プロトカテク酸は、O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)または芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR))の作用により、それぞれ、バニリン酸(vanillic acid)またはプロトカテクアルデヒド(protocatechualdehyde)へと変換され得る。バニリン酸またはプロトカテクアルデヒドは、それぞれ、ACARまたはOMTの作用により、バニリンへと変換され得る。また、ベンズアルデヒドおよびシンナムアルデヒドは、それぞれ、ACARの作用により安息香酸(benzoic acid)およびケイ皮酸(cinnamic acid)から生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素として、具体的には、例えば、DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate dehydratase、DHSD、OMT、ACARが挙げられる。
「3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)」とは、D−エリトロース4−リン酸とホスホエノールピルビン酸をD−アラビノ−ヘプツロン酸−7−リン酸(DAHP)とリン酸に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.5.1.54)。DAHP synthaseをコードする遺伝子を、「DAHP synthase遺伝子」ともいう。DAHP synthaseとしては、aroF、aroG、aroH遺伝子にそれぞれコードされるAroF、AroG、AroHタンパク質が挙げられる。これらの内、AroGが主要なDAHP synthaseとして機能し得る。AroF、AroG、AroHタンパク質等のDAHP synthaseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。DAHP synthaseとして、具体的には、E. coliのAroF、AroG、AroHタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655のaroG遺伝子の塩基配列を配列番号85に、同遺伝子がコードするAroGタンパク質のアミノ酸配列を配列番号86に示す。
DAHP synthase活性は、例えば、酵素を基質(すなわちD−エリトロース4−リン酸とホスホエノールピルビン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なDAHPの生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)」とは、DAHPを脱リン酸化して3−デヒドロキナ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 4.2.3.4)。3-dehydroquinate synthaseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate synthase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate synthaseとしては、aroB遺伝子にコードされるAroBタンパク質が挙げられる。AroBタンパク質等の3-dehydroquinate synthaseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。3-dehydroquinate synthaseとして、具体的には、E. coliのAroBタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655のaroB遺伝子の塩基配列を配列番号87に、同遺伝子がコードするAroBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号88に示す。
3-dehydroquinate synthase活性は、例えば、酵素を基質(すなわちDAHP)とインキュベートし、酵素および基質依存的な3−デヒドロキナ酸の生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase)」とは、3−デヒドロキナ酸を脱水して3−デヒドロシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 4.2.1.10)。3-dehydroquinate dehydrataseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate dehydratase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate dehydrataseとしては、aroD遺伝子にコードされるAroDタンパク質が挙げられる。AroDタンパク質等の3-dehydroquinate dehydrataseとしては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌やコリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。3-dehydroquinate dehydrataseとして、具体的には、E. coliのAroDタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655のaroD遺伝子の塩基配列を配列番号89に、同遺伝子がコードするAroDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号90に示す。
3-dehydroquinate dehydratase活性は、例えば、酵素を基質(すなわち3−デヒドロキナ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な3−デヒドロシキミ酸の生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)」とは、3−デヒドロシキミ酸を脱水してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 4.2.1.118)。DHSDをコードする遺伝子を、「DHSD遺伝子」ともいう。DHSDとしては、asbF遺伝子にコードされるAsbFタンパク質が挙げられる。AsbFタンパク質等のDHSDとしては、Bacillus thuringiensis、Neurospora crassa、Podospora
pauciseta等の各種生物のものが挙げられる。Bacillus thuringiensis BMB171のasbF遺伝子の塩基配列を配列番号91に、同遺伝子がコードするAsbFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号92に示す。
DHSD活性は、例えば、酵素を基質(すなわち3−デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロトカテク酸の生成を測定することにより、測定できる。
シキミ酸経路の酵素(DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate
dehydratase等)をコードする遺伝子の発現は、tyrR遺伝子にコードされるチロシンリプレッサーTyrRにより抑制される。よって、シキミ酸経路の酵素の活性は、チロシンリプレッサーTyrRの活性を低下させることによっても、増大させることができる。E. coli K-12
MG1655のtyrR遺伝子の塩基配列を配列番号93に、同遺伝子がコードするTyrRタンパク質のアミノ酸配列を配列番号94に示す。
「O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)」とは、メチル基供与体の存在下でプロトカテク酸および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してバニリン酸および/またはバニリンを生成する反応(すなわちメタ位の水酸基のメチル化)を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 2.1.1.68等)。同活性を「OMT活性」ともいう。OMTをコードする遺伝子を「OMT遺伝子」ともいう。OMTは、通常はプロトカテク酸とプロトカテクアルデヒドの両方を基質として利用し得るが、それには限られない。すなわち、本発明の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有するOMTを用いることができる。例えば、プロトカテク酸からバニリン酸への変換工程を利用してバニリンを生成する場合には、少なくともプロトカテク酸を基質とするOMTを用いることができる。また、例えば、プロトカテクアルデヒドからバニリンへの変換工程を利用してバニリンを生成する場合には、少なくともプロトカテクアルデヒドを
基質とするOMTを用いることができる。メチル基供与体としては、S−アデノシルメチオニン(SAM)が挙げられる。OMTとしては、各種生物のOMT、例えば、Homo sapiens(Hs)のOMT(GenBank Accession No. NP_000745, NP_009294)、Arabidopsis thalianaのOMT(GenBank Accession No. NP_200227, NP_009294)、Fragaria x ananassaのOMT(GenBank
Accession No. AAF28353)、その他WO2013/022881A1に例示されている哺乳動物、植物、微生物の各種OMTが挙げられる。Homo sapiensのOMT遺伝子には4つの転写バリアントおよび2種のOMTアイソフォームが知られている。それら4つの転写バリアント(transcript variant 1-4;GenBank Accession No. NM_000754.3, NM_001135161.1, NM_001135162.1, NM_007310.2)の塩基配列を配列番号41〜44に、長いOMTアイソフォーム(MB-COMT;GenBank Accession No. NP_000745.1)のアミノ酸配列を配列番号45に、短いOMTアイソフォーム(S-COMT;GenBank Accession No. NP_009294.1)のアミノ酸配列を配列番号46に、それぞれ示す。配列番号46は、配列番号45のN末端50アミノ酸残基を欠くアミノ酸配列に相当する。OMTとしては、さらに、Bacteroidetes門細菌(すなわちBacteroidetes門に属する細菌)のOMTが挙げられる。Bacteroidetes門細菌としては、Niastella属、Terrimonas属、またはChitinophaga属等に属する細菌が挙げられる(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2007), 57, 1828-1833)。Niastella属細菌としては、Niastella koreensisが挙げられる。Niastella koreensisのOMT遺伝子の塩基配列を配列番号95に、同遺伝子がコードするOMTのアミノ酸配列を配列番号96に示す。
また、OMTは、副反応として、プロトカテク酸および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してイソバニリン酸および/またはイソバニリンを生成する反応(すなわちパラ位の水酸基のメチル化)を触媒し得る。OMTとしては、メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒するものが好ましい。「メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒する」とは、プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成すること、および/または、プロトカテクアルデヒドからバニリンを選択的に生成することをいう。「プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテク酸に作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリン酸の3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリン酸を生成することであってよい。また、「プロトカテクアルデヒドからバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテクアルデヒドに作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリンの3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリンを生成することであってよい。メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒するOMTとしては、後述する「特定の変異」を有するOMTが挙げられる。
「特定の変異」を有するOMTを「変異型OMT」ともいう。また、変異型OMTをコードする遺伝子を、「変異型OMT遺伝子」ともいう。
「特定の変異」を有さないOMTを「野生型OMT」ともいう。また、野生型OMTをコードする遺伝子を、「野生型OMT遺伝子」ともいう。なお、ここでいう「野生型」とは、「変異型」と区別するための便宜上の記載であり、「特定の変異」を有さない限り、天然に得られるものには限定されない。野生型OMTとしては、例えば、上記例示したOMTが挙げられる。また、上記例示したOMTの保存的バリアントは、「特定の変異」を有さない限り、いずれも野生型OMTに包含される。
「特定の変異」としては、WO2013/022881A1に記載の変異型OMTが有する変異が挙げられる。すなわち、「特定の変異」としては、野生型OMTの198位のロイシン残基(L198)が、ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基に置換される変異や、野生型OMTの199位のグルタミン酸残基(E199)が、pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基(amino acid residue having either a neutral
or positive side-chain charge at pH 7.4)に置換される変異が挙げられる。変異型OMTは、これらの変異のいずれか一方を有していてもよく、両方を有していてもよい。
「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、Ala, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrが挙げられる。「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、中でも、Ala, Arg, Asn, Asp, Glu, Gln, Gly, His, Lys, Met, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrから選択されるアミノ酸残基が好ましく、Tyrがより好ましい。
「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、Ala, Arg,
Asn, Cys, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr, Valが挙げられる。「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、中でも、AlaまたはGlnが好ましい。
本発明において、任意の野生型OMTにおける「L198」および「E199」とは、それぞれ、「配列番号46に示すアミノ酸配列の198位のロイシン残基に相当するアミノ酸残基」および「配列番号46に示すアミノ酸配列の199位のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基」を意味する。これらのアミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、配列番号46に示すアミノ酸配列において、X位よりもN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した、または挿入された場合、元のX位のアミノ酸残基は、それぞれ、N末端から数えてX−1番目またはX+1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号46に示すアミノ酸配列のX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とみなされる。また、「L198」および「E199」は、それぞれ、通常はロイシン残基およびグルタミン酸残基であるが、そうでなくてもよい。すなわち、「特定の変異」には、「L198」および「E199」がそれぞれロイシン残基およびグルタミン酸残基でない場合に、当該アミノ酸残基を上述した変異後のアミノ酸残基に置換する変異も包含される。
任意のOMTのアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「L198」または「E199」であるかは、当該任意のOMTのアミノ酸配列と配列番号46に示すアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et
al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
変異型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を、コードされるOMTが「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。改変の元になる野生型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、取得できる。また、変異型OMT遺伝子は、野生型OMT遺伝子を介さずに取得することもできる。例えば、化学合成により変異型OMT遺伝子を直接取得してもよい。取得した変異型OMT遺伝子は、さらに改変して利用してもよい。
遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel,
T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。
OMT活性は、例えば、SAMの存在下で酵素を基質(すなわちプロトカテク酸またはプロトカテクアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロダクト(すなわちバニリン酸またはバニリン)の生成を測定することにより、測定できる(WO2013/022881A1)。また、同様の条件下でのバイプロダクト(すなわちイソバニリン酸またはイソバニリン)の生成を測定し、プロダクトの生成と比較することにより、OMTがプロダクトを選択的に生成するかどうかを決定できる。
「芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR))」とは、電子供与体とATPの存在下で芳香族カルボン酸を還元して対応する芳香族アルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.2.99.6等)。同活性を「ACAR活性」ともいう。ACARをコードする遺伝子を「ACAR遺伝子」ともいう。本発明の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有するACARを用いることができる。例えば、バニリン酸からバニリンへの変換工程を利用してバニリンを生成する場合には、少なくともバニリン酸を基質とするACARを用いることができる。また、例えば、プロトカテク酸からプロトカテクアルデヒドへの変換工程を利用してバニリンを生成する場合には、少なくともプロトカテク酸を基質とするACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下でバニリン酸および/またはプロトカテク酸を還元してバニリンおよび/またはプロトカテクアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。ACARは、バニリン酸とプロトカテク酸の両方を基質として利用し得るが、それには限られない。また、ベンズアルデヒドを製造する場合には、少なくとも安息香酸を利用するACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下で安息香酸を還元してベンズアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。また、シンナムアルデヒドを製造する場合には、少なくともケイ皮酸を利用するACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下でケイ皮酸を還元してシンナムアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質であってもよい。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。
ACARとしては、Nocardia sp. NRRL 5646株、Actinomyces sp.、Clostridium thermoaceticum、Aspergillus niger、Corynespora melonis、Coriolus sp.、Neurospora sp.等の各種微生物のACARが挙げられる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。Nocardia sp. NRRL 5646株は、Nocardia iowensisに分類されている。ACARとしては、さらに、Nocardia brasiliensisやNocardia vulneris等の、他のNocardia属細菌のACARも挙げられる。Nocardia brasiliensis ATCC 700358のACAR遺伝子の塩基配列を配列番号75に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号76に示す。また、Nocardia brasiliensis ATCC 700358のバリアントACAR遺伝子の一例の塩基配列を配列番号47に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号48に示す。ACARとしては、さらに、Gordonia属細菌(すなわちGordonia属に属する細菌)のACARが挙げられる。Gordonia属細菌としては、Gordonia effusaが挙げられる。Gordonia effusaのACAR遺伝子の塩基配列を配列番号97に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号98に示す。また、コドン最適化されたGordonia effusaのACAR遺伝子の一例の塩基配列を配列番号100に示す。
ACAR活性は、例えば、ATPおよびNADPHの存在下で酵素を基質(すなわちバニリン酸またはプロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHの酸化を測定することにより、測定できる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485に記載の手法を改変)。
ACARは、ホスホパンテテイニル化されることにより活性型酵素となり得る(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。よって、タンパク質のホスホパンテテイニル化を触媒する酵素(「ホスホパンテテイニル化酵素」ともいう)の活性を増大させることにより、ACARの活性を増大させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、ホスホパンテテイニル化酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、本発明の細菌は、ホスホパンテテイニル化酵素の活性が増大するように改変されていてよい。ホスホパンテテイニル化酵素としては、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)が挙げられる。
「ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)」とは、ホスホパンテテイニル基供与体の存在下でACARをホスホパンテテイニル化する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。同活性を「PPT活性」ともいう。PPTをコードする遺伝子を「PPT遺伝子」ともいう。ホスホパンテテイニル基供与体としては、補酵素A(CoA)が挙げられる。PPTとしては、entD遺伝子にコードされるEntDタンパク質が挙げられる。EntDタンパク質等のPPTとしては、各種生物のものが挙げられる。PPTとして、具体的には、E. coliのEntDタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のentD遺伝子の塩基配列を配列番号49に、同遺伝子がコードするEntDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号50に、それぞれ示す。また、PPTとして、具体的には、Nocardia brasiliensisのPPT、Nocardia farcinica IFM10152のPPT(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, pp.478-485)、Corynebacterium glutamicumのPPT(App. Env. Microbiol. 2009, Vol.75, No.9, pp.2765-2774)も挙げられる。Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPPT遺伝子の塩基配列を配列番号51に、同遺伝子がコードするPPTのアミノ酸配列を配列番号52に、それぞれ示す。
PPT活性は、例えば、CoAの存在下で酵素をACARとインキュベートし、ACAR活性の増強を指標として測定することができる(J. Biol. Chem. 2007, Vol.282, No.1, pp.478-485)。
また、上述したように、ベンズアルデヒドおよびシンナムアルデヒドは、例えば、それぞれ、安息香酸およびケイ皮酸から生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、安息香酸生合成酵素やケイ皮酸生合成酵素も挙げられる。具体的には、ケイ皮酸は、例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(phenylalanine ammonia lyase;PAL;EC 4.3.1.24)の作用によりL−フェニルアラニンから生成し得る。すなわち、ケイ皮酸生合成酵素としては、例えば、L−フェニルアラニン生合成酵素やPALが挙げられる。L−フェニルアラニン生合成酵素としては、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabinoheptulosonate-7-phosphate synthase;aroF, aroG, aroH)、3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase;aroB)、3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase;aroD)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase;aroE)、シキミ酸キナーゼ(shikimate kinase;aroK, aroL)、5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸シンターゼ(5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase;aroA)、コリスミ酸シンターゼ(chorismate synthase;aroC)等の芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;pheA)、プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;pheA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドラターゼは、二機能酵素としてpheA遺伝子にコードされてよい。
また、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質以外の物質(例えば、目的物質の生産中に中間体として生成する物質や、目的物質の前駆体として利用される物質)の取り込み系の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、本発明の細
菌は、そのような取り込み系の活性が増大するように改変されていてよい。「物質の取り込み系」とは、物質を細胞外から細胞内へ取り込む機能を有するタンパク質をいう。同活性を「物質の取り込み活性」ともいう。そのような取り込み系をコードする遺伝子を「取り込み系遺伝子」ともいう。そのような取り込み系としては、バニリン酸取り込み系やプロトカテク酸取り込み系が挙げられる。バニリン酸取り込み系としては、vanK遺伝子にコードされるVanKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のvanK遺伝子(NCgl2302)の塩基配列を配列番号53に、同遺伝子がコードするVanKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号54に、それぞれ示す。プロトカテク酸取り込み系としては、pcaK遺伝子にコードされるPcaKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のpcaK遺伝子(NCgl1031)の塩基配列を配列番号55に、同遺伝子がコードするPcaKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号56に、それぞれ示す。
物質の取り込み活性は、例えば、公知の手法(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)により測定することができる。
また、目的物質生産能を付与又は増強するための方法としては、目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させる方法が挙げられる。そのような目的物質以外の物質を、「副生物」ともいう。そのような酵素を、「副生物生成酵素」ともいう。副生物生成酵素としては、例えば、目的物質の資化に関与する酵素や、目的物質の生合成経路から分岐して目的物質以外の物質を生成する反応を触媒する酵素が挙げられる。タンパク質(酵素等)の活性を低下させる手法については後述する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊等することにより、低下させることができる。例えば、コリネ型細菌において、バニリンは、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸の順に代謝され、資化されることが報告されている(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、バニリンからプロトカテク酸への変換を触媒する酵素や、プロトカテク酸のさらなる代謝を触媒する酵素が挙げられる。そのような酵素としては、バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ(protocatechuate 3,4-dioxygenase)、およびプロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼによる反応産物をスクシニルCoAとアセチルCoAまでさらに分解する各種酵素(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)が挙げられる。また、バニリン生合成経路の中間体である3−デヒドロシキミ酸は、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)の作用によりシキミ酸へと変換され得る。すなわち、バニリン生産における副生物生成酵素として、具体的には、shikimate dehydrogenaseも挙げられる。
「バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)」とは、バニリン酸を脱メチル化してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。同活性を「バニリン酸デメチラーゼ活性」ともいう。バニリン酸デメチラーゼをコードする遺伝子を「バニリン酸デメチラーゼ遺伝子」ともいう。バニリン酸デメチラーゼとしては、vanAB遺伝子にコードされるVanABタンパク質が挙げられる(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。vanA遺伝子およびvanB遺伝子は、それぞれ、バニリン酸デメチラーゼのサブユニットAおよびサブユニットBをコードする。バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させる場合、例えば、vanAB遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13869株のvanAB遺伝子の塩基配列を配列番号57と59に、同遺伝子がコードするVanABタンパク質のアミノ酸配列を配列番号58と60に、それぞれ示す。なお、vanAB遺伝子は、通常、vanK遺伝子とvanABKオペロンを構成している。よって、バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させるためにvanABKオペロンをまとめて破壊等(例えば欠損)してもよい。その場合、改めて宿主にvanK遺伝子を導入してもよい。例えば、菌体外に存在するバニリン酸を利用する場合であって、vanABKオペロンをまとめて破
壊等(例えば欠損)した場合は、改めてvanK遺伝子を導入するのが好ましい。
バニリン酸デメチラーゼ活性は、例えば、酵素を基質(すなわちバニリン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なプロトカテク酸の生成を測定することにより、測定できる(J Bacteriol, 2001, Vol.183, p3276-3281)。
「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ」とは、プロトカテク酸を酸化してβ−カルボキシルcis,cis-ムコン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう。同活性を「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性」ともいう。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子を「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ遺伝子」ともいう。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼとしては、pcaGH遺伝子にコードされるPcaGHタンパク質が挙げられる(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)。pcaG遺伝子およびpcaH遺伝子は、それぞれ、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼのαサブユニットおよびβサブユニットをコードする。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性を低下させる場合、例えば、pcaGH遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13032株のpcaGH遺伝子の塩基配列を配列番号61と63に、同遺伝子がコードするPcaGHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号62と64に、それぞれ示す。
プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性は、例えば、酵素を基質(すなわちプロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な酸素消費を測定することにより、測定できる(Meth. Enz., 1970, Vol.17A, p526-529)。
「シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)」とは、電子供与体の存在下で3−デヒドロシキミ酸を還元してシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.1.1.25)。同活性を、「shikimate dehydrogenase活性」ともいう。shikimate dehydrogenaseをコードする遺伝子を、「shikimate dehydrogenase遺伝子」ともいう。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。shikimate dehydrogenaseとしては、aroE遺伝子にコードされるAroEタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655のaroE遺伝子の塩基配列を配列番号101に、同遺伝子がコードするAroEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号102に示す。
shikimate dehydrogenase活性は、例えば、NADHまたはNADPHの存在下で酵素を基質(すなわち3−デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADHまたはNADPHの酸化を測定することにより、測定できる。
活性を改変するタンパク質は、本発明の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類、および本発明の細菌が本来的に有するタンパク質の種類や活性に応じて適宜選択できる。例えば、バニリンをプロトカテク酸から生物変換法により製造する場合は、特に、OMT、ACAR、PPT、およびプロトカテク酸取り込み系から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性を増大させるのが好ましい場合がある。また、バニリンをプロトカテクアルデヒドから生物変換法により製造する場合は、特に、OMTの活性を増大させるのが好ましい場合がある。また、バニリンをバニリン酸から生物変換法により製造する場合は、特に、ACAR、PPT、およびバニリン酸取り込み系から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性を増大させるのが好ましい場合がある。
目的物質生産能を有する細菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した又はその他公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、目的物質生産能を有する細菌の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質(例えば、上記例示した又はその他公知の
塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質)の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、目的物質生産能を有する細菌の育種に使用される遺伝子は、元の機能(すなわち、酵素活性やトランスポーター活性等)が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列や公知のタンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、後述するADH遺伝子およびADHの保存的バリアントに関する記載を準用できる。
<1−2>アルコールデヒドロゲナーゼ活性の低下
本発明の細菌は、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase;ADH)の活性が低下するように改変されている。具体的には、本発明の細菌は、非改変株と比較してADHの活性が低下するように改変されている。ADHの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変することによって、コリネ型細菌の目的物質生産能を向上させることができる、すなわち、同細菌を用いた目的物質の生産を増大させることができる。
本発明の細菌は、目的物質生産能を有するコリネ型細菌を、ADHの活性が低下するように改変することにより取得できる。また、本発明の細菌は、ADHの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変した後に、目的物質生産能を付与または増強することによっても得ることができる。なお、本発明の細菌は、ADHの活性が低下するように改変されたことにより、あるいはADHの活性を低下させる改変と目的物質生産能を付与または増強するための他の改変との組み合わせにより、目的物質生産能を獲得したものであってもよい。本発明の細菌を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
「アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase;ADH)」とは、電子供与体の存在下でアルデヒドを還元してアルコールを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 1.1.1.1、EC 1.1.1.2、EC 1.1.1.71等)。同活性を「ADH活性」ともいう。ADHをコードする遺伝子を「ADH遺伝子」ともいう。ADHの基質となるアルデヒドとしては、本発明の方法における目的物質として例示されたアルデヒド、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒド、が挙げられる。すなわち、「ADH活性」の定義において言及されるアルデヒドとアルコールの組み合わせとしては、芳香族アルデヒドとそれに対応する芳香族アルコールの組み合わせ、例えば、バニリンとバニリルアルコール(vanillyl alcohol)の組み合わせ、ベンズアルデヒドとベンジルアルコール(benzyl alcohol)の組み合わせ、シンナムアルデヒドとシンナミルアルコール(cinnamyl alcohol)の組み合わせ、が挙げられる。芳香族アルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド、またはシンナムアルデヒドを利用するADHを、それぞれ、「芳香族アルコールデヒドロゲナーゼ(aromatic alcohol dehydrogenase)」、「バニリルアルコールデヒドロゲナーゼ(vanillyl alcohol dehydrogenase)」、「ベンジルアルコールデヒドロゲナーゼ(benzyl alcohol dehydrogenase)」、または「シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(cinnamyl alcohol dehydrogenase)」ともいう。また、芳香族アルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド、またはシンナムアルデヒドを基質とするADH活性を、それぞれ、「aromatic alcohol dehydrogenase活性」、「vanillyl alcohol dehydrogenase活性」、「benzyl alcohol dehydrogenase活性」、または「cinnamyl alcohol dehydrogenase活性」ともいう。ADHは、1種のアルコールを利用してもよく、2種またはそれ以上のアルコールを利用してもよい。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。
ADH活性は、例えば、NADPHまたはNADHの存在下で酵素を基質(すなわちバニリン等のアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHまたはNADHの酸化を測定することにより、測定できる。ADH活性は、少なくとも1つの適切な条件下、例えばNADPHまたはNADH等の適切な電子供与体の存在下、で検出されればよい。
ADHとしては、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子にそれぞれコードされるNCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質が挙げられる。NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子は、C. glutamicum等のコリネ型細菌に見出され得る。C. glutamicum ATCC 13032株のNCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子の塩基配列を配列番号65、67、69に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号66、68、70に、それぞれ示す。また、C. glutamicum ATCC 13032株のNCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子の塩基配列を配列番号71、73に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号72、74に、それぞれ示す。すなわち、ADH遺伝子は、例えば、配列番号65、67、69、71、または73に示す塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、ADHは、例えば、配列番号66、68、70、72、または74に示すアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。
本発明においては、1種のADHの活性を低下させてもよく、2種またはそれ以上のADHの活性を低下させてもよい。例えば、NCgl0324タンパク質、NCgl2709タンパク質、およびNCgl0313タンパク質から選択される1種またはそれ以上、例えば全て、のADHの活性を低下させてよい。また、少なくとも、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、少なくともNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよく、さらにNCgl2709タンパク質の活性を低下させてもよい。あるいは、少なくともNCgl2709タンパク質の活性を低下させてもよく、さらにNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよい。ADHと目的物質の組み合わせは、コリネ型細菌においてADHの活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する限り、特に制限されない。例えば、少なくとも本発明の方法における目的物質として生産されるアルデヒドを利用するADHの活性を低下させてよい。すなわち、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒドの生産のためには、それぞれ、vanillyl alcohol dehydrogenase、benzyl alcohol dehydrogenase、cinnamyl alcohol dehydrogenase等のaromatic alcohol dehydrogenaseの活性を低下させてよい。具体的には、例えば、バニリンを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl0313タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよく、少なくともNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよい。また、具体的には、ベンズアルデヒドを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。また、具体的には、シンナムアルデヒドを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。NCgl0324タンパク質は、vanillyl alcohol dehydrogenase活性、benzyl alcohol dehydrogenase活性、およびcinnamyl alcohol dehydrogenase活性の全てを有していてよい。NCgl2709タンパク質は、benzyl alcohol dehydrogenase活性およびcinnamyl alcohol dehydrogenase活性の両方を有していてよい。
ADH遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記例示したADH遺伝子(すなわち、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子)のバリアントであってもよい。同様に、ADHは、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記例示したADH(すなわち、NCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質)のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。すなわち、「NCgl0324遺伝子」、「NCgl0313遺伝子」、「NCgl2709遺伝子」、「NCgl0219遺伝子」、「NCgl2382遺伝子」という用語は、それぞれ、上記例示したNCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子に加
えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。同様に、「NCgl0324タンパク質」、「NCgl0313タンパク質」、「NCgl2709タンパク質」、「NCgl0219タンパク質」、「NCgl2382タンパク質」という用語は、それぞれ、上記例示したNCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したADH遺伝子やADHのホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば活性や性質)に対応する機能(例えば活性や性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることをいう。すなわち、ADH遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがADHをコードすることをいう。また、ADHについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがADH活性を有することをいう。
以下、保存的バリアントについて例示する。
ADH遺伝子のホモログまたはADHのホモログは、例えば、上記例示したADH遺伝子の塩基配列または上記例示したADHのアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、ADH遺伝子のホモログは、例えば、コリネ型細菌等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示したADH遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
ADH遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記アミノ酸配列(例えば、NCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質について、それぞれ、配列番号66、68、70、72、74に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の元の機能が維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、Va
lからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、ADH遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
また、ADH遺伝子は、元の機能が維持されている限り、それぞれ、上記塩基配列(例えば、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子について、それぞれ、配列番号65、67、69、71、73に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、例えばDNA、であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、ADH遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、ADH遺伝子は、遺伝コードの縮重による上記例示したADH遺伝子のバリアントであってもよい。
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから
入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用できる。また、PSI-BLAST(BLAST 2.0)を、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、目的物質生合成系酵素等の任意のタンパク質、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
<1−3>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各細菌種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、細菌の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわちコリネ型細菌が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」ことには、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することも包含される。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、
宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」ことには、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることも包含される。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを意味してもよい。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによ
っても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pVK7(特開平10-215883);pVK9(US2006-0141588);pVS7(WO2013/069634);pVC7(特開平9-070291)が挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するように保持されていればよい。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体(例えば酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプラ
イマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が標的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl
Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモ
ーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology.
Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene,
1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の低減または解除も包含される。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に制限されず、従来知られた方法を用いることができる。コリネ型細菌の形質転換は、例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070(1989))、または電気パルス法(特開平2-207791号公報)により行うことができる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et
al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質、例えば目的物質生合成酵素、ホスホパンテテイニル化酵素、および物質の取り込み系、の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
<1−4>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、ADH等のタンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各細菌種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、細菌の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわちコリネ型細菌が属する種の基準株)と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC
13032と比較して低下してもよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含される。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含される。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含される。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タ
ンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して減少することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合も包含される。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味する。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合も包含される。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミス
センス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンまたはマーカー遺伝子が挿入された遺伝子が挙げられる。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、ADHの活性低下に加えて、任意のタンパク質、例えば副生物生成酵素、の活性低下や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現低下に利用できる。
<2>本発明の方法
本発明の方法は、本発明の細菌を利用して目的物質を製造する方法である。
<2−1>発酵法
目的物質は、例えば、本発明の細菌の発酵により製造することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、本発明の細菌の発酵により目的物質を製造する方法であってよい。この態様を、「発酵法」ともいう。また、本発明の細菌の発酵により目的物質を製造する工程を、「発酵工程」ともいう。
発酵工程は、本発明の細菌を培養することにより実施できる。具体的には、発酵工程において、目的物質は、炭素源から製造することができる。すなわち、発酵工程は、例えば、本発明の細菌を培地(例えば炭素源を含有する培地)で培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積する工程であってよい。すなわち、発酵法は、本発明の細菌を培地(例えば炭素源を含有する培地)で培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積することを含む、目的物質を製造する方法であってよい。
使用する培地は、本発明の細菌が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地は、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分等の培地成分を必要に応じて含有してよい。培地成分の種類や濃度は、使用する細菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
炭素源は、本発明の細菌が資化でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉の加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等の有機酸類、エタノー
ル、グリセロール、粗グリセロール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。なお、炭素源としては、植物由来原料を好適に用いることができる。植物としては、例えば、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿が挙げられる。植物由来原料としては、例えば、根、茎、幹、枝、葉、花、種子等の器官、それらを含む植物体、それら植物器官の分解産物が挙げられる。植物由来原料の利用形態は特に制限されず、例えば、未加工品、絞り汁、粉砕物、精製物等のいずれの形態でも利用できる。また、キシロース等の5炭糖、グルコース等の6炭糖、またはそれらの混合物は、例えば、植物バイオマスから取得して利用できる。具体的には、これらの糖類は、植物バイオマスを、水蒸気処理、濃酸加水分解、希酸加水分解、セルラーゼ等の酵素による加水分解、アルカリ処理等の処理に供することにより取得できる。なお、ヘミセルロースは一般的にセルロースよりも加水分解されやすいため、植物バイオマス中のヘミセルロースを予め加水分解して5炭糖を遊離させ、次いで、セルロースを加水分解して6炭糖を生成させてもよい。また、キシロースは、例えば、本発明の細菌にグルコース等の6炭糖からキシロースへの変換経路を保有させて、6炭糖からの変換により供給してもよい。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
培地中の炭素源の濃度は、本発明の細菌が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培地中の炭素源の濃度は、例えば、目的物質の生産が阻害されない範囲で可能な限り高くしてよい。培地中の炭素源の初発濃度は、例えば、通常5〜30w/v%、好ましくは10〜20w/v%であってよい。また、適宜、炭素源を追加で培地に添加してもよい。例えば、発酵の進行に伴う炭素源の減少または枯渇に応じて、炭素源を追加で培地に添加してもよい。最終的に目的物質が生産される限り炭素源は一時的に枯渇してもよいが、培養は、炭素源が枯渇しないように、あるいは炭素源が枯渇した状態が継続しないように、実施するのが好ましい。
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。また、目的物質の生産に利用される成
分を培地に補填してもよい。そのような成分として、具体的には、例えば、メチル基供与体(例えばSAM)やそれらの前駆体(例えばメチオニン)が挙げられる。
培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する細菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
培養は、液体培地を用いて行うことができる。培養の際には、例えば、本発明の細菌を寒天培地等の固体培地で培養したものを直接液体培地に接種してもよく、本発明の細菌を液体培地で種培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。すなわち、培養は、種培養と本培養とに分けて行われてもよい。その場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。培養開始時に培地に含有される本発明の細菌の量は特に制限されない。例えば、OD660=4〜100の種培養液を、培養開始時に、本培養用の培地に対して0.1質量%〜100質量%、好ましくは1質量%〜50質量%、添加してよい。
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(例えば発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、種培養と本培養の培養形態は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよく、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
本発明において、炭素源等の各種成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。すなわち、培養の過程において、炭素源等の各種成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に培地に供給してもよい。これらの成分は、いずれも、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
培養は、例えば、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、培地中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上である条件であってよく、好ましくは1.5ppm以上である条件であってよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1〜50%、好ましくは5%程度に制御されてよい。培養は、例えば、通気培養または振盪培養で行うことができる。培地のpHは、例えば、pH 3〜10、好ましくはpH 4.0〜9.5であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20〜45℃、好ましくは25℃〜37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間〜120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源が消費されるまで、あるいは本発明の細菌の活性がなくなるまで、継続してもよい。
このような条件下で本発明の細菌を培養することにより、培地中に目的物質が蓄積する
目的物質が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は適宜組み合わせて用いることができる。これらの手法は、培地中に存在する各種成分の濃度を決定するためにも用いることができる。
生成した目的物質は、適宜回収することができる。すなわち、発酵法は、さらに、培地(すなわち発酵液)から目的物質を回収することを含んでいてよい。目的物質の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、蒸留法、および晶析法が挙げられる。また、目的物質は、例えば、酢酸エチル等の有機溶媒での抽出により、または蒸気蒸留により、回収することができる。これらの手法は適宜組み合わせて用いることができる。
また、目的物質が培地中に析出する場合は、例えば、遠心分離または濾過により回収することができる。また、培地中に析出した目的物質は、培地中に溶解している目的物質を晶析した後に、併せて単離してもよい。
尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、細菌菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<2−2>生物変換法
目的物質は、例えば、本発明の細菌を利用した生物変換により製造することもできる。すなわち、本発明の方法の別の態様は、本発明の細菌を利用した生物変換により目的物質を製造する方法であってよい。この態様を、「生物変換法」ともいう。また、本発明の細菌を利用した生物変換により目的物質を製造する工程を、「生物変換工程」ともいう。
具体的には、生物変換工程において、目的物質は、該目的物質の前駆体から製造することができる。より具体的には、生物変換工程において、目的物質は、本発明の細菌を利用して該目的物質の前駆体を該目的物質に変換することにより製造することができる。すなわち、生物変換工程は、本発明の細菌を利用して目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程であってよい。
目的物質の前駆体を、単に、「前駆体」ともいう。前駆体としては、目的物質の生合成経路における中間体(例えば、目的物質生合成酵素の記載に関連して言及したもの)が挙げられる。前駆体として、具体的には、例えば、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、バニリン酸、安息香酸、L−フェニルアラニン、桂皮酸が挙げられる。プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、およびバニリン酸は、いずれも、例えば、バニリンを生産するための前駆体として用いてよい。安息香酸は、例えば、ベンズアルデヒドを生産するための前駆体として用いてよい。L−フェニルアラニンおよび桂皮酸は、いずれも、例えば、シンナムアルデヒドを生産するための前駆体として用いてよい。前駆体としては、1種の前駆体を用いてもよく、2種またはそれ以上の前駆体を組み合わせて用いてもよい。前駆体が塩の形態を取り得る化合物である場合、前駆体は、フリー体として用いてもよく、塩として用いてもよく、それらの混合物として用いてもよい。すなわち、「前駆体」とは、特記しない限り、フリー体の前駆体、もしくはその塩、またはそれらの混合物をいう。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。前駆体の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以
上の塩を組み合わせて用いてもよい。
前駆体としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。すなわち、生物変換法は、さらに、前駆体を製造することを含んでいてもよい。前駆体の製造方法は特に制限されず、例えば、公知の方法を利用できる。前駆体は、例えば、化学合成法、酵素法、生物変換法、発酵法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。すなわち、例えば、目的物質の前駆体は、そのさらなる前駆体から該目的物質の前駆体への変換反応を触媒する酵素(「前駆体生成酵素」ともいう)を利用して、そのようなさらなる前駆体から製造することができる。また、例えば、目的物質の前駆体は、前駆体生産能を有する微生物を利用して、炭素源から、あるいはそのようなさらなる前駆体から、製造することができる。「前駆体生産能を有する微生物」とは、目的物質の前駆体を、炭素源から、またはそのようなさらなる前駆体から、生成することができる微生物をいう。例えば、酵素法または生物変換法によるプロトカテク酸の製造法としては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KS-0180を用いてパラクレゾールをプロトカテク酸に変換する方法(特開平7-75589号公報)、NADH依存性パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼを用いてパラヒドロキシ安息香酸をプロトカテク酸に変換する方法(特開平5-244941号公報)、テレフタル酸からプロトカテク酸を生成する反応に関与する遺伝子が導入された形質転換体をテレフタル酸が添加された培地で培養することによりプロトカテク酸を製造する方法(特開2007-104942号公報)、プロトカテク酸生産能を有し且つプロトカテク酸5位酸化酵素活性が低下または欠損した微生物を用いてプロトカテク酸をその前駆体から製造する方法(特開2010-207094号公報)が挙げられる。また、発酵法によるプロトカテク酸の製造法としては、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する細菌を用いて酢酸を炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(特開昭50-89592号公報)や、3−ジヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたエシェリヒア(Escherichia)属またはクレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌を用いてグルコースを炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(米国特許第5,272,073号明細書)が挙げられる。また、バニリン酸は、プロトカテク酸を前駆体として、OMTを利用した酵素法またはOMTを有する微生物を利用した生物変換法(J. Am. CHm. Soc., 1998, Vol.120)により、あるいはフェルラ酸を前駆体として、Pseudomonas sp. AV10株を利用した生物変換法(J. App. Microbiol., 2013, Vol.116, p903-910)により、製造することができる。また、プロトカテクアルデヒドは、プロトカテク酸を前駆体として、ACARを利用した酵素法またはACARを有する微生物を利用した生物変換法により製造することができる。製造された前駆体は、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、分画、抽出、精製等の処理に供してから、生物変換法に利用できる。すなわち、前駆体としては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、前駆体を含有する素材を用いてもよい。前駆体を含有する素材は、本発明の細菌が前駆体を利用できる限り特に制限されない。前駆体を含有する素材として、具体的には、例えば、前駆体生産能を有する微生物を培養して得られた培養液、該培養液から分離した培養上清、それらの濃縮物(例えば濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
一態様において、生物変換工程は、本発明の細菌を培養することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第1の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、目的物質の前駆体を含有する培地で本発明の細菌を培養し、該前駆体を目的物質に変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、目的物質の前駆体を含有する培地で本発明の細菌を培養し、目的物質を該培地中に生成蓄積する工程であってもよい。
使用する培地は、目的物質の前駆体を含有し、本発明の細菌が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。生物変換法の第1の態様における培養については、同態様においては培地が目的物質の前駆体を含有すること以外は、発酵法における培養につ
いての記載(例えば培地や培養条件についての記載)を準用できる。
前駆体は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「前駆体を含有する培地で細菌を培養する」とは、前駆体が培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。例えば、前駆体は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。前駆体が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に前駆体を供給する。供給のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、本発明の細菌が十分に生育してから培地に前駆体を供給してもよい。また、いずれの場合にも、適宜、培地に前駆体を追加的に供給してよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて培地に前駆体を追加的に供給してもよい。前駆体を培地に供給する手段は特に制限されない。例えば、前駆体を含有する流加培地を培地に流加することにより、前駆体を培地に供給することができる。また、例えば、本発明の細菌と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を培地中に生成させ、以て前駆体を培地に供給することもできる。これらの供給手段は、適宜組み合わせて利用してもよい。培地中の前駆体濃度は、本発明の細菌が前駆体を目的物質の原料として利用できる限り、特に制限されない。培地中の前駆体濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。前駆体は、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。前駆体は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に供給されてもよい。培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。よって、前駆体は、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または本培養の一部の期間に、培地に含有されていればよい。すなわち、前駆体は、種培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば「培養期間(培養の期間)」や「培養開始」)は、本培養についてのものとして読むことができる。
別の態様において、生物変換工程は、本発明の細菌の菌体を利用することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第2の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、本発明の細菌の菌体を利用して反応液中の目的物質の前駆体を目的物質に変換する工程であってよい。生物変換工程は、具体的には、本発明の細菌の菌体を反応液中の目的物質の前駆体に作用させ、目的物質を該反応液中に生成蓄積する工程であってもよい。そのような菌体を利用して実施する生物変換工程を、「変換反応」ともいう。
本発明の細菌の菌体は、本発明の細菌を培養することにより得られる。菌体を取得するための培養法は、本発明の細菌が増殖できる限り、特に制限されない。菌体を取得するための培養時には、前駆体は、培地に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。また、菌体を取得するための培養時には、目的物質は、培地に生産されてもよく、されなくてもよい。生物変換法の第2の態様における菌体を取得するための培養については、発酵法における培養についての記載(例えば培地や培養条件についての記載)を準用できる。
菌体は、培地(培養液)に含まれたまま変換反応に用いてもよく、培地(培養液)から回収して変換反応に用いてもよい。また、菌体は、適宜処理を行ってから変換反応に用いてよい。すなわち、菌体としては、菌体を含有する培養液、該培養液から回収した菌体、それらの処理物が挙げられる。処理物としては、菌体(例えば、菌体を含有する培養液や該培養液から回収した菌体)を処理に供したものが挙げられる。これらの態様の菌体は、適宜組み合わせて利用してもよい。
菌体を培養液から回収する手法は特に制限されず、例えば公知の手法を利用できる。そのような手法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過が挙げられる。また、凝集剤(flocculant)を利用してもよい。これらの手法は、適宜組み合わせて利用してもよい。回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜洗浄することができる。また、回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜再懸濁することができる。洗浄や懸濁に利用できる媒体としては、例えば、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
菌体の処理としては、例えば、希釈、濃縮、アクリルアミドやカラギーナン等の担体への固定化処理、凍結融解処理、膜の透過性を高める処理が挙げられる。膜の透過性は、例えば、界面活性剤または有機溶媒を利用して高めることができる。これらの処理は、適宜組み合わせて利用してもよい。
変換反応に用いられる菌体は、目的物質生産能を有していれば特に制限されない。菌体は、代謝活性が維持されているのが好ましい。「代謝活性が維持されている」とは、菌体が炭素源を資化して目的物質の製造に必要な物質を生成または再生する能力を有していることを意味してよい。そのような物質としては、ATP、NADHやNADP等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体が挙げられる。菌体は、生育する能力を有していてもよく、有していなくてもよい。
変換反応は、適切な反応液中で実施することができる。変換反応は、具体的には、菌体と前駆体とを適切な反応液中で共存させることにより実施することができる。変換反応は、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で、本発明の細菌の菌体と前駆体とを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化菌体を充填したカラムに前駆体を含有する反応液を通液することにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
反応液は、前駆体に加えて、前駆体以外の成分を必要に応じて含有してよい。前駆体以外の成分としては、ATP、NADHやNADPH等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体、金属イオン、緩衝剤、界面活性剤、有機溶媒、炭素源、リン酸源、その他各種培地成分が挙げられる。すなわち、例えば、前駆体を含有する培地を反応液として用いてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における反応液については、生物変換法の第1の態様における培地についての記載を準用できる。反応液に含有される成分の種類や濃度は、用いる前駆体の種類や、用いる菌体の態様等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
変換反応の条件(溶存酸素濃度、反応液のpH、反応温度、反応時間、各種成分の濃度等)は、目的物質が生成する限り特に制限されない。変換反応は、例えば、静止菌体等の微生物菌体を利用した物質変換に用いられる通常の条件で行うことができる。変換反応の条件は、使用する細菌の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。変換反応は、例えば、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、反応液中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上である条件であってもよく、好ましくは1.5ppm以上である条件であってもよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1〜50%、好ましくは5%程度に制御されてよい。反応液のpHは、例えば、通常6.0〜10.0、好ましくは6.5〜9.0であってよい。反応温度は、例えば、通常15〜50℃、好ましくは15〜45℃、より好ましくは20〜40℃であってよい。反応時間は、例えば、5分〜200時間であってよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。また、変換反応は、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に用いられる通常の条件等の培養条件で行うこともできる。変換反応においては、菌体は、生育してもよく、しなくてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における変換反応については、同態様にお
いては菌体が生育してもしなくてもよいこと以外は、生物変換法の第1の態様における培養についての記載を準用できる。そのような場合、菌体を取得するための培養条件と、変換反応の条件は、同一であってもよく、なくてもよい。反応液中の前駆体の濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応液中の菌体の濃度は、例えば、1以上であってもよく、300以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
変換反応の過程において、菌体、前駆体、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、追加的に反応液に供給してもよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて培地に前駆体を追加的に供給してもよい。これらの成分は、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。
前駆体等の各種成分を反応液に供給する手段は特に制限されない。これらの成分は、いずれも、反応液に直接添加することにより、反応液に供給することができる。また、例えば、本発明の細菌と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を反応液中に生成させ、以て前駆体を反応液に供給することもできる。また、例えば、ATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分は、いずれも、反応液中で生成または再生されてもよく、本発明の細菌の菌体内で生成または再生されてもよく、異菌体間共役により生成または再生されてもよい。例えば、本発明の細菌の菌体において代謝活性が維持されている場合、炭素源を利用して本発明の細菌の菌体内でATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分を生成または再生することができる。また、ATPを生成または再生する方法としては、例えば、コリネバクテリウム属細菌を利用して炭素源からATPを供給させる方法(Hori, H et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 48(6): 693-698
(1997))、酵母菌体とグルコースを利用してATPを再生する方法(Yamamoto, S et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 69(4): 784-789 (2005))、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(C. Aug’e and Ch. Gautheron, Tetrahedron Lett. 29:789-790 (1988))、ポリリン酸とポリリン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(Murata, K et al., Agric. Biol. Chem. 52(6): 1471-1477 (1988))が挙げられる。
また、反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応の過程において変化してもよい。「反応条件が変換反応の過程において変化する」ことには、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することも包含される。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応温度や菌体密度等の反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることを意味する。
このようにして生物変換工程を実施することにより、目的物質を含有する培地(すなわち培養液)または反応液が得られる。目的物質が生成したことの確認や目的物質の回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に実施することができる。すなわち、生物変換法は、さらに、培地(すなわち培養液)または反応液から目的物質を回収することを含んでいてよい。尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、細菌菌体、培地成分、反応液成分、水分、及び細菌の代謝副産物を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<3>本発明のスクリーニング法
本発明のスクリーニング法は、アルデヒドを含有する培地で微生物を培養すること、お
よびアルデヒド耐性株を選抜することを含む、アルデヒド耐性株をスクリーニングする方法である。
アルデヒド耐性株の候補として用いられる微生物は特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。
細菌としては、コリネ型細菌や腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌が挙げられる。腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)等の属に属する細菌が挙げられる。コリネ型細菌としては、上述したようなコリネ型細菌が挙げられる。
酵母としては、サッカロミセス(Saccharomyces)属、キャンディダ(Candida)属、ピヒア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属等に属する酵母が挙げられる。
アルデヒド耐性株の候補として用いられる微生物は、野生株であってもよく、改変株であってもよい。改変株としては、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が低下するように、且つ/又は、副生物生成酵素の活性が低下するように、改変された株が挙げられる。また、アルデヒド耐性株の候補として用いられる微生物は、単離株であってもよく、なくてもよい。例えば、自然から得られた土壌試料や水試料等の、微生物を含有する試料をアルデヒド耐性株の候補として用いることもできる。すなわち、アルデヒド耐性株の候補として用いられる「微生物」という用語は、そのような微生物を含有する試料も包含してよい。
使用する培地は、アルデヒドを含有し、アルデヒド耐性株が増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の培地にアルデヒドを添加したものを用いることができる。培地成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
スクリーニングに用いられるアルデヒドとしては、本発明の方法における目的物質として例示されたアルデヒド、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒド、が挙げられる。アルデヒドとしては、1種のアルデヒドを利用してもよく、2種またはそれ以上のアルデヒドを組み合わせて利用してもよい。
アルデヒドとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。アルデヒドの製造方法は特に制限されず、例えば、公知の方法を利用できる。アルデヒドは、例えば、化学合成法、酵素法、生物変換法、発酵法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。アルデヒドは、例えば、本発明の方法により製造できる。
培地中のアルデヒド濃度は、アルデヒド耐性の有無を評価できる限り特に制限されない。培地中のアルデヒド濃度は、例えば、2 g/L以上、3 g/L以上、4 g/L以上、5 g/L以上、または6 g/L以上であってもよく、10 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。アルデヒドは、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「アルデヒドを含有する培地で微生物を培養する」とは、アルデヒドが培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。例えば、アルデヒドは、培養開始時から培地に含有されていてもよく、培養開始後の微生物が増殖している期間に培地に供給されてもよい。アルデヒドは、例えば、微生物の対数増殖期に培地に供給されてもよい。アルデヒドは、培養の全期間において
上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。アルデヒドは、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に供給されてもよい。
培養条件は、アルデヒド耐性株が増殖できる限り、特に制限されない。培養は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、候補として使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
本発明のスクリーニング法における培養(例えば培地や培養条件)については、同スクリーニング法においてはアルデヒドを含有する培地を用いること以外は、発酵法における培養についての記載(例えば培地や培養条件についての記載)を準用できる。
アルデヒド耐性株は、培養結果に基づいて選抜することができる。すなわち、培地がアルデヒドを含有している期間(すなわち、アルデヒドが培養開始時から培地に含有されている場合は培養開始後の期間、あるいはアルデヒドが培養開始後に培地に供給された場合は当該供給以降の期間)における微生物の生育の程度に基づいて、アルデヒド耐性株を選抜することができる。例えば、培地がアルデヒドを含有している期間に微生物の生育が認められた場合に、当該微生物をアルデヒド耐性株と判断してもよい。また、例えば、培地がアルデヒドを含有している期間における微生物の生育が所定の程度以上であった場合に、当該微生物をアルデヒド耐性株と判断してもよい。「所定の程度」は、微生物の種類や培養条件等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、培養開始またはアルデヒド添加から所定の時点までの期間に、微生物菌体量が、1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、または1000倍に増加した場合に、当該微生物をアルデヒド耐性株と判断してもよい。微生物菌体の増加量は、例えば、培地のOD600nmの増加量として測定できる。「所定の時点」は、微生物の種類や培養条件等の諸条件に応じて適宜設定できる。「所定の時点」は、例えば、培養開始またはアルデヒド添加の10時間後、20時間後、または30時間後であってよい。具体的には、例えば、2 g/L以上の初発濃度でアルデヒドを含有する培地に初発OD600nmが0.01〜0.1となるように微生物を植菌し、培養開始30時間後までにOD600nmが1になるように微生物が生育した場合に、当該微生物をアルデヒド耐性株と判断できる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
参考例:Escherichia coliによるバニリン生産
本参考例では、Escherichia coli JM109を親株として、バニリルアルコールの副生を低減するためにyqhD遺伝子を欠損し、且つ、バニリン酸からバニリンへの変換を強化するために芳香族カルボン酸レダクターゼ(ACAR)遺伝子とホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPT)遺伝子を増幅した株を構築し、バニリン生産を行った。
<1>Escherichia coli JM109ΔyqhD株の構築
yqhD遺伝子はNADP依存型アルコールデヒドロゲナーゼをコードしており、同タンパク質はバニリンからバニリルアルコールへの変換に関与する酵素である(J.Am. Chem. Soc., 136, 11644 (2014))。そこで、バニリンからバニリルアルコールへの変換遮断によるバニリン蓄積の向上を目的に、Escherichia coli JM109のyqhD遺伝子欠損株を構築した。まず、pMW118-attL-Cm-attR(WO2005/010175)のDNA断片を鋳型とし、配列番号1および2の合成DNAをプライマーとしたPCRにより、yqhD遺伝子のorfの上流領域、attRλ配列、クロラムフェニコール耐性遺伝子、attLλ配列、yqhD遺伝子のorfの下流領域が順に連結したyqhD遺伝子欠損用断片を取得した。配列番号1の5’側50残基はyqhD遺伝子orfの上
流配列に、残部はattRλ配列に、それぞれ対応する。配列番号2の5’側50残基はyqhD遺伝子のorfの下流配列に、残部はattLλ配列に、それぞれ対応する。次に、Escherichia
coli JM109コンピテントセル(タカラバイオ)にpKD46プラスミド(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol.97, No.12, p6640-6645)を形質転換し、アンピシリン100μg/mLを含有するLB培地に塗布し、30℃で一晩培養し、シングルコロニーを取得し、形質転換体としてE. coli JM109/pKD46株を取得した。E. coli JM109/pKD46株を、アンピシリン100μg/mLおよびアラビノース50 mMを含有するLB培地で培養し、電気パルス法にてyqhD遺伝子欠損用断片を導入した。菌体を、アンピシリン100μg/mLおよびクロラムフェニコール25μg/mLを含有するLB寒天培地上に塗布し、30℃にて培養した。現れたコロニーを鋳型に配列番号3と配列番号4の合成DNAをプライマーとしたPCRを実施し、増幅断片の大きさから、yqhD遺伝子がクロラムフェニコール耐性遺伝子に置換されたE. coli JM109ΔyqhD::CmR/pKD46株を取得した。更に、E. coli JM109ΔyqhD::CmR/pKD46株を42℃で培養し、アンピシリン耐性消失を指標として、pKD46が脱落したE. coli JM109ΔyqhD::CmR株を取得した。E. coli JM109ΔyqhD::CmR株を、クロラムフェニコール25μg/mLを含有するLB培地で培養し、電気パルス法にてpMW-int-xisプラスミド(WO2007/037460、特開2005-058827)を導入した。菌体を、アンピシリン100μg/mLを含有するLB寒天培地上に塗布し、30℃にて培養し、コロニーを取得した。得られた複数のコロニーを再度寒天培地にて30度で培養し、アンピシリン100μg/mLを含有するLB寒天培地では増殖し、且つ、アンピシリン100μg/mLおよびクロラムフェニコール25μg/mLを含有するLB寒天培地では増殖しないコロニーを同定した。この時、並行して37℃で培養し、アンピシリン100μg/mLを含有するLB寒天培地では増殖せず、アンピシリンを含有しないLB寒天培地では増殖するコロニーであって、上記でクロラムフェニコール感受性が別途確認されたものを選択することにより、クロラムフェニコール耐性遺伝子とpMX-int-xisが脱落した株を取得し、同株をE. coli JM109ΔyqhD株と命名した。
<2>ACAR遺伝子増幅用プラスミドpEPlac-carの構築
Nocardia brasiliensis ATCC 700358のACAR遺伝子増幅用プラスミドpEPlac-carは、以下の方法で構築した。
Nocardia brasiliensis ATCC 700358のACAR遺伝子の塩基配列を配列番号75に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号76に示す。配列番号76のアミノ酸配列についてN末端のMetを欠損するようデザインし、次いで、こうして短縮されたACARのアミノ酸配列のN末端領域を、配列番号77の塩基配列にコードされる配列番号78のアミノ酸配列(17 aa)で延長されるようデザインし、以て、Nocardia brasiliensis ATCC 700358のバリアントACAR(配列番号48)と、それをコードするバリアントACAR遺伝子(配列番号47)をデザインした。配列番号78のアミノ酸配列は、Nocardia brasiliensisの他の株のACARホモログ(NCBI reference sequences: WP_042262686.1 and GI:754904305)のN末端領域のアミノ酸配列(17 aa)と100%同一である。
配列番号47の塩基配列を有するバリアントACAR遺伝子をE. coliでの発現用にコドン最適化し、3’および5’末端にそれぞれNdeIおよびSacI制限サイトを有する塩基配列を導入した。以下、このコドン最適化されたバリアントACAR遺伝子を、単に、「ACAR遺伝子」ともいう。NdeIおよびSacIで挟まれたACAR遺伝子を含むDNA断片を、ATG Service Gen(Russian Federation, Saint-Petersburg)が提供するサービスを利用して化学合成した。NdeIおよびSacIで挟まれたACAR遺伝子を含むDNA断片の塩基配列を配列番号79に示す。同DNA断片は、遺伝子の製造元からプラスミドの一部として取得した。
E. coli細胞でACAR遺伝子を発現するため、取得したDNA断片(配列番号79)をpELACベクター(配列番号80;Smirnov S.V. et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 2010,
88(3):719-726)のNdeIおよびSacI制限サイトに再クローニングした。pELACベクターは
、pET22b(+)(Novagen)のBglII-XbaI断片を、PlacUV5プロモーターを含む合成BglII-XbaI断片で置換することで構築したものである。DNA断片をpELACに挿入するため、T4 DNA ligase(Fermentas, Lithuania)によるライゲーション反応を製造元の推奨する条件で実施した。ライゲーション混合液をエタノールで処理し、得られた沈殿を水で溶解してエレクトロポレーションでE. coli TG1菌体に導入した。菌体を、アンピシリン(Ap、200 mg)を添加したLAプレート(Sambrook J. and Russell D.W., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)に塗布し、37℃で一晩培養した。得られたコロニーをPCRで分析し、必要なクローンを選抜した。PCR条件は以下の通りとした:最初に95℃で5分間の変性;次いで95℃で30秒、54℃で30秒、72℃で1分を30サイクル;最後に72℃で5分間の伸長。すなわち、プライマーペアP1(配列番号81)/P5(配列番号82)およびプライマーペアP4(配列番号83)/P6(配列番号84)を用いてACAR遺伝子を含むコロニーを選抜した。ベクター特異的プライマーP1とACAR遺伝子の5’末端部分用のリバースプライマーP5を用いた場合、DNA断片(917 bp)が得られた。ベクター特異的プライマーP4とACAR遺伝子の3’末端部分用のプライマーP6を用いた場合、DNA断片(1378 bp)が得られた。選抜したコロニーからACAR遺伝子を含むプラスミドを抽出し、pEPlac-carと命名した。
<3>entD遺伝子増幅用プラスミドpMW218::Ptac10000-entDの構築>
entD遺伝子はPPTをコードしており、同タンパク質はバニリン酸からバニリンへの反応を触媒するACARをホスホパンテテイニル化することにより、ACARを活性型に変換する(J.
Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。そこで、ACAR活性を向上させる目的で、entD遺伝子増幅用プラスミドpMW218::Ptac10000-entDを以下の手順で構築した。
具体的には、λattL-Kmr-λattR-Ptac(WO2008/090770A1)を含むDNA断片を鋳型に、配列番号5および6の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、tacプロモーター領域を含むPCR産物を得た。一方、E. coli MG1655株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号7および8の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、entD遺伝子のorfを含むPCR産物を得た。配列番号6と7は一部が相補的な配列となっている。次に、tacプロモーター領域を含むPCR産物およびentD遺伝子のorfを含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、EcoRIとSalIで処理をしたpMW218ベクター(日本ジーン社)に挿入した。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物(tacプロモーター領域の下流にentD遺伝子のorfが連結されたPCR産物)が挿入されていたものをpMW218::Ptac10000-entDと命名した。
<4>E. coli JM109ΔyqhD/pMW218::Ptac10000-entD+pEPlac-car株の構築
pMW218::Ptac10000-entDとpEPlac-carを、電気パルス法にて、E. coli JM109ΔyqhD株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLおよびアンピシリン100μg/mLを含有するLB寒天培地上に塗布し、37℃にて培養した。生育してきた株を同寒天培地にて純化し、E. coli JM109ΔyqhD/pMW218::Ptac10000-entD+pEPlac-car株と命名した。
<5>E. coli JM109ΔyqhD/pMW218::Ptac10000-entD+pEPlac-car株によるバニリン生産
カナマイシン25μg/mLおよびアンピシリン100μg/mLを含有するLB寒天培地にて培養して得たE. coli JM109ΔyqhD/pMW218::Ptac10000-entD+pEPlac-car株の菌体をLB培地 4 mLを含む試験管に接種し、前培養として37℃で約16時間振とう培養を行った。得られた前培養液を、LB培地200 mLを含む坂口フラスコに全量添加し、OD600nmが0.5になるまで好気条件下にて37℃で振とう培養を行ったのち、IPTGを1 mMとなるように添加し、更に2時間37℃で振とう培養を行った。その後、得られた培養液を8000 rpmで5分間遠心し、上清を除
去し、滅菌した生理食塩水にて洗菌した。洗菌後、菌体をバニリン生産培地(バニリン酸
16 g/L、グルコース 40 g/L、Na2HPO4・12H2O 100 mM、TES buffer 100 mM(KOHにてpH6.6に調整)、CaCO3 60 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌した後、混合))5 mLに全量懸濁し、30℃で約20時間振とう培養を行った。
培養終了後、培地中の残存グルコースの濃度をバイオテックアナライザー AS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中のバニリン酸およびバニリンの量を超高速液体クロマトグラフィーNEXERA X2システム(SHIMADZU)で下記の条件で分析した。菌体濁度(OD)はspectrophotometer U-2900(HITACHI)を用いて測定した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm XB-C18 150 x 30 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):0.1% トリフルオロ酢酸
移動相(B):0.1% トリフルオロ酢酸/80% アセトニトリル
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 90, 10) → (3, 80, 20)
流速:1.5 mL/min
結果を図1に示す。yqhD遺伝子を欠損しACAR遺伝子とentD遺伝子が増幅されたE. coli JM109ΔyqhD/pMW218::Ptac10000-entD+pEPlac-car株は、約8時間でバニリンを約6.6 g/L蓄積した。しかし、それ以降は、バニリン蓄積量がほとんど増加せず、バニリルアルコール副生量が増加した。
実施例1:バニリン耐性株のスクリーニング
<1>バニリン耐性株のスクリーニング(野生株)
E. coliを用いる場合よりもバニリン蓄積量を向上させるため、バニリン耐性株のスクリーニングを行った。具体的には、E. coli MG1655株を対照株として、Pantoea ananatis
No.359株(AJ13355株;FERM BP-6614)、P. ananatis SC17(0)株(VKPM B-9246)、Enterobacter aerogenes G243株(AJ110637;FERM BP-10955)、Corynebacterium glutamicum
2256株(ATCC 13869)、2256株からバニリン資化能を欠損させたC. glutamicum 2256ΔvanABK株(後述)、Saccharomyces cerevisiae S228C株(ATCC 26108)のバニリン耐性を比較した。培地としては、E. coli、P. ananatis、およびE. aerogenesに関してはLB培地を、C. glutamicumに関してはCM2B培地(ポリペプトン10 g/L、イーストエキストラクト10 g/L、NaCl 5 g/L、ビオチン 10μg/L、pH7.0 with KOH)を、S. cerevisiaeに関してはYPD培地(イーストエキストラクト 10 g/L、バクトペプトン 20 g/L、グルコース 20 g/L)を、これらにバニリンを0, 1, または2 g/Lとなるように添加して使用した。培養温度を30℃(S. cerevisiae)、31.5℃(C. glutamicum)、34℃(E. aerogenes、P. ananatis)、37℃(E. coli)に設定して、好気条件下にて培養を行った。細菌の結果を図2に、S. cerevisiaeの結果を図3に示す。P. ananatis SC17(0)株とS. cerevisiae S228C株に関しては、バニリン1 g/L存在下では生育したが、2 g/L存在下では全く生育しなかった。一方、C. glutamicum 2256株とE. aerogenes G243株に関しては、バニリン2 g/L存在下でも生育することが確認できた。以上の結果より、C. glutamicum 2256株とE. aerogenes G243株がE. coliよりもバニリン耐性が高い株として選抜された。
<2>バニリン耐性株(バニリルアルコール副生低減株)のスクリーニング
バニリルアルコール副生が低減したコリネ型細菌のバニリン耐性を調べた。具体的には、E. coli JM109ΔyqhD株(バニリルアルコール副生低減株)とS. cerevisiae S228C株(野生株)を対照株として、コリネ型細菌のバニリルアルコール副生低減株であるC. glutamicum FKFC14株(後述)のバニリン耐性を調べた。E. coli JM109ΔyqhD株に関してはLBGM9培地(Bacto Tryptone 10 g/L, Yeast Extract 5 g/L, NaCl 10 g/L, Na2HPO46 g/L, K
H2PO4 3 g/L, NaCl 0.5 g/L, NH4Cl 1 g/L, グルコース 5 g/L, 寒天 15 g/L)を、C. glutamicum FKFC14株に関してはグルコース30 g/Lを含有するCM2B培地(FKFC14株)を其々用いて、OD600nmが約2になるまで培養し、その後、バニリンを0、3、または6 g/Lとなるように其々添加して、生育を調べた。S. cerevisiae S228C株に関しては、グルコース濃度を30 g/Lに変更したYPD培地を用いてOD600nmが約2になるまで培養し、グルコースを20 g/Lになるように追添し、さらに1時間培養した後、バニリンを0、3、または6 g/Lとなるように添加し、生育を調べた。
その結果を図4に示す。コリネ型細菌のバニリルアルコール副生低減株であるC. glutamicum FKFC14株は、E. coli JM109ΔyqhD株(バニリルアルコール副生低減株)やS. cerevisiae S228C株(野生株)よりもバニリン耐性が高いことが示された。
実施例2:Corynebacterium glutamicumによるバニリン生産
本実施例では、Corynebacterium glutamicum 2256株(ATCC 13869)を親株として、ACAR遺伝子とentD遺伝子(PPT遺伝子)を増幅した株を構築し、バニリン生産を行った。
<1>ACAR遺伝子およびentD遺伝子増幅用プラスミドpVK9::Ptuf-car+entDの構築
Nocardia brasiliensis由来のACAR遺伝子およびE. coli由来のentD遺伝子を発現させるためのプラスミドpVK9::Ptuf-car+entDを以下の手順で構築した。
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号9および10の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、elongation factor Tu遺伝子のプロモーター領域とSD配列を含むPCR産物を得た。pEPlac-carプラスミド(参考例)を鋳型として、配列番号11および12の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、ACAR遺伝子のorfを含むPCR産物を得た。E. coli MG1655株由来のゲノムDNAを鋳型として、配列番号13および14の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、entD遺伝子のorf及びSD配列を含むPCR産物を得た。次に、これらの断片をIn Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpVK9ベクター(WO2007/046389)に挿入した。なお、pVK9はコリネ型細菌とE. coliのシャトルベクターである。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(宝酒造)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン 25μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpVK9::Ptuf-car+entDと命名した。なお、pVK9::Ptuf-car+entDにおいて、ACAR遺伝子とentD遺伝子はオペロン構造をとっており、tufプロモーターによって発現する。
<2>C. glutamicum 2256/pVK9::Ptuf-car+entD株の構築
pVK9::Ptuf-car+entDを、電気パルス法にて、C. glutamicum 2256株(野生株)に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地(グルコース 5 g/L、Polypeptone 10 g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆加水分解物 1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、寒天 15 g/L、NaOHでpH7.5に調整)上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株を同寒天培地にて純化し、2256/pVK9::Ptuf-car+entD株と命名した。
<3>C. glutamicum 2256/pVK9::Ptuf-car+entD株によるバニリン生産
CM-Dex寒天培地にて培養して得たC. glutamicum 2256/pVK9::Ptuf-car+entD株を、カナマイシン25μg/mL、フルクトース 2.5 g/L、コハク酸2 g/L、およびグルコン酸4 g/Lを含有するCM-Dex培地(組成は、寒天を含有しないこと以外はCM-Dex寒天培地と同一)4 mLを含む試験管に接種し、前培養として31.5℃で約16時間振とう培養を行った。得られた前培養液を、フルクトース 2.5 g/L、コハク酸2 g/L、グルコン酸4 g/Lを含有するCM-Dex培地
200 mLを含む坂口フラスコに全量添加し、OD600nmが1.5になるまで好気条件にて31.5℃で振とう培養を行った。その後、得られた培養液を8000 rpmで5分間遠心し、上清を除去し、滅菌した生理食塩水にて洗菌した。洗菌後、バニリン生産培地(バニリン酸 16 g/L、グルコース 70 g/L、Na2HPO4・12H2O 100 mM、TES buffer 100 mM(KOHにてpH6.6に調整)、CaCO360 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌した後、混合))5 mLに全量懸濁し、30℃で20時間振とう培養を行った。
培養終了後、培地中の残存グルコースの濃度をバイオテックアナライザー AS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中のバニリン酸およびバニリンの量を超高速液体クロマトグラフィーNEXERA X2システム(SHIMADZU)で下記の条件で分析した。菌体濁度(OD)はspectrophotometer U-2900(HITACHI)を用いて測定した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm XB-C18 150 x 30 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):0.1% トリフルオロ酢酸
移動相(B):0.1% トリフルオロ酢酸/80% アセトニトリル
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 90, 10)→(3, 80, 20)
流速:1.5 mL/min
結果を表1に示す。野生株を親株としてACAR遺伝子とentD遺伝子を増幅した2256/pVK9::Ptuf-car+entD株はバニリンを全く生成せず、バニリルアルコールを14.1 g/L蓄積した。すなわち、生成したバニリンは全てバニリルアルコールに変換されたと示唆された。
実施例3:Corynebacterium glutamicumによるバニリン生産におけるアルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子の欠損効果
本実施例では、Corynebacterium glutamicum 2256株(ATCC 13869)を親株として、アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子を欠損した株を構築し、バニリン生産を行った。
<1>バニリン資化遺伝子を欠損した株(FKS0165株)の構築
コリネ型細菌において、バニリンは、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸の順に代謝され、資化されることが報告されている(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。バニリン酸からプロトカテク酸への変換反応は、バニリン酸デメチラーゼにより触媒される。vanA遺伝子およびvanB遺伝子は、それぞれバニリン酸デメチラーゼのサブユニットAおよびサブユニットBをコードする。vanK遺伝子は、バニリン酸取り込み系をコードし、vanAB遺伝子とvanABKオペロンを構成している(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。よって、まず、vanABKオペロンを欠損させることにより、C.
glutamicum 2256株からバニリン資化能を欠損した株(FKS0165株)を構築した。手順を以下に示す。
<1−1>vanABK遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔvanABK56の構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号15および16の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、vanA遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号17および18の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、vanK遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号16と17は一部が相補的な配列となっている。次にvanA遺伝子のN末側コード領域を含むPCR産物およびvanK遺伝子のC末側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン 40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔvanABK56と命名した。
<1−2>FKS0165株の構築
上記で得られたpBS4SΔvanABK56はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔvanABKを電気パルス法にてC. glutamicum 2256株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔvanABKが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のvanABK遺伝子群と欠損型のvanABK遺伝子群の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地(スクロース 100
g/L、ポリペプトン 10 g/L、酵母エキス 10 g/L、KH2PO4 1 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆蛋白加水分解液1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、寒天 20 g/L、NaOHを用いてpH7.5に調整:オートクレーブ120℃20分)上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号19と配列番号20に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってvanABK遺伝子の欠損を確認し、該株をFKS0165株とした。
<2>アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子を欠損した株(FKFC14株)の構築
次いで、Corynebacterium glutamicum FKS0165株を親株として、アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子であるNCgl0324遺伝子(adhC)、NCgl0313遺伝子(adhE)、NCgl2709遺伝子(adhA)を欠損した株(FKFC14株)を以下の手順で構築した。
<2−1>FKFC5株(FKS0165ΔNCgl0324株)の構築
<2−1−1>NCgl0324遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhCの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号21および22の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0324遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号23および24の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0324遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号22と23は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl0324遺伝子のN末側コード領域を含むPCR産物およびNCgl0324遺伝子のC末側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このD
NAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン 40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhCと命名した。
<2−1−2>FKFC5株(FKS0165ΔNCgl0324株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhCはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhCを電気パルス法にてC. glutamicum FKS0165株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhCが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0324遺伝子と欠損型のNCgl0324遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号25と配列番号26に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0324遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC5株とした。
<2−2>FKFC11株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313株)の構築
<2−2−1>NCgl0313遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhEの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号27および28の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0313遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号29および30の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl0313遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号28と29は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl0313遺伝子のN末側コード領域を含むPCR産物およびNCgl0313遺伝子のC末側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクター(WO2007/046389)に挿入した。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン 40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhEと命名した。
<2−2−2>FKFC11株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhEはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhEを電気パルス法にてC. glutamicum FKFC5株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhEが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0313遺伝子と欠損型のNCgl0313遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上
で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号31と配列番号32に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0313遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC11株とした。
<2−3>FKFC14株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313ΔNCgl2709株)の構築
<2−3−1>NCgl2709遺伝子欠損用プラスミドpBS4SΔ2256adhAの構築
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号33および34の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2709遺伝子のN末端側コード領域を含むPCR産物を得た。一方、C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号35および36の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、NCgl2709遺伝子のC末端側コード領域を含むPCR産物を得た。配列番号34と35は一部が相補的な配列となっている。次に、NCgl2709遺伝子のN末側コード領域を含むPCR産物およびNCgl2709遺伝子のC末側コード領域を含むPCR産物をそれぞれほぼ等モルとなるように混合し、In Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpBS4Sベクターに挿入した。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびカナマイシン 40μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpBS4SΔ2256adhAと命名した。
<2−3−2>FKFC14株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl0313ΔNCgl2709株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhAはコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhAを電気パルス法にてC. glutamicum FKFC11株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhAが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl2709遺伝子と欠損型のNCgl2709遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号37と配列番号38に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl2709遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC14株とした。
<3>バニリン生産株の構築
<3−1>vanK遺伝子発現用プラスミドpVS7::Plac-vanKの構築
vanK遺伝子は、バニリン酸取り込み系をコードする。そこで、バニリン酸の取り込みを向上させるため、C. glutamicum 2256株由来のvanK遺伝子を発現させるためのプラスミドpVS7::Plac-vanKを以下の手順で構築した。C. glutamicum 2256株のvanK遺伝子の塩基配列、および同遺伝子がコードするVanKタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号53および54に示す。
C. glutamicum 2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号39および40の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、vanK遺伝子のORFとSD配列を含むPCR産物を得た。次に、該PCR産物をIn Fusion HD cloning kit(Clontech社製)を用いて、BamHIとPstIで処理をしたpVS7ベクター(WO2013069634)に挿入した。pVS7ベクターはコリネ型細菌とE. coliのシャトルベクターである。このDNAを用いて、エシェリヒア・コリJM109のコンピテントセル(タカラバイオ)を形質転換し、IPTG 100μM、X-Gal 40μg/mL、およびスペクチノマ
イシン 50μg/mLを含有するLB培地に塗布し、一晩培養した。その後、出現した白色のコロニーを釣り上げ、単コロニー分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを抽出し、目的のPCR産物が挿入されていたものをpVS7::Plac-vanKと命名した。なお、pVS7::Plac-vanKにおいて、クローニングされたvanK遺伝子はpVS7ベクター由来のlacプロモーターにより発現する。
<3−2>pVK9::Ptuf-car+entDおよびpVS7::Plac-vanKの導入
pVS7::Plac-vanKと、pVK9或いはpVK9::Ptuf-car+entDとを、電気パルス法にて、C. glutamicum FKFC14株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLおよびスペクチノマイシン50μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株を同寒天培地にて純化し、それぞれ、FKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9株、FKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9::Ptuf-car+entD株と命名した。
<4>バニリン生産におけるNCgl2709、NCgl0324、NCgl0313遺伝子欠損効果
CM-Dex寒天培地にて培養して得たFKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9株、FKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9::Ptuf-car+entD株を、それぞれ、スペクチノマイシン50μg/mL、カナマイシン25μg/mL、フルクトース 2.5 g/L、コハク酸2 g/L、およびグルコン酸4 g/Lを含有するCM-Dex培地 4 mLを含む試験管に接種し、前培養として31.5℃で約16時間振とう培養を行った。得られた前培養液を、フルクトース 2.5 g/L、コハク酸2 g/L、およびグルコン酸4
g/Lを含有するCM-Dex培地200 mLを含む坂口フラスコに全量添加し、OD600nmが0.625になるまで好気条件にて31.5℃で振とう培養を行った。その後、得られた培養液を7000 rpmで5分間遠心し、上清を除去し、滅菌した生理食塩水にて洗菌後、同生理食塩水1.5 mLを添加し懸濁した。この懸濁液をバニリン生産培地(バニリン酸 12 g/L、グルコース 40 g/L、Na2HPO4・12H2O 100 mM、TES buffer 100 mM(KOHにてpH6.6に調整)、CaCO3 30 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌した後、混合))3.5 mLと全量混合し、30℃で約20時間振とう培養を行った。
培養終了後、培地中の残存グルコースの濃度をバイオテックアナライザー AS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中のバニリン酸およびバニリンの量を超高速液体クロマトグラフィーNEXERA X2システム(SHIMADZU)で下記の条件で分析した。菌体濁度(OD)はspectrophotometer U-2900(HITACHI)を用いて測定した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm XB-C18 150 x 30 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):0.1% トリフルオロ酢酸
移動相(B):0.1% トリフルオロ酢酸/80% アセトニトリル
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 90, 10)→(3, 80, 20)
流速:1.5 mL/min
結果を表2に示す。対照のFKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9株はバニリンを生成しなかったが、ACAR遺伝子とentD遺伝子を増幅したFKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9::Ptuf-car+entD株はバニリンを約10 g/L蓄積し、E. coliを宿主にした場合(参考例)よりも、顕著にバニリン蓄積量が向上した。また、アルコールデヒドロゲナーゼホモログ遺伝子であるNCgl2709遺伝子、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子を欠損したFKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9株とFKFC14/pVS7::Plac-vanK+pVK9::Ptuf-car+entD株のいずれについても、バニリルアルコール副生は全く検出されなかった。以上の結果から、(1)コリネ型細菌においては、NCgl2709遺伝子、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子のいずれか1つまたはそれ以上がバニリンからバニリルアルコールへの変換酵素をコードしており、これらの遺伝子の欠損によりバニリルアルコール副生が消失すること、(2)コリネ型細菌は高いバニリン生成能を
有すること、が明らかとなった。
実施例4:バニリルアルコール生成に関与している遺伝子の同定
次に、NCgl0324、NCgl0313、NCgl2709のうち、バニリルアルコール生成に関与している遺伝子を同定するため、単独欠損株および2重欠損株を構築した。
<1>アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子ホモログ欠損株の構築
<1−1>FKFC1株(2256ΔvanABKΔNCgl0313株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhE(実施例3<2−2−1>)はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhEを電気パルス法にてC. glutamicum
FKS0165株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhEが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0313遺伝子と欠損型のNCgl0313遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号31と配列番号32に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0313遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC1株とした。
<1−2>FKFC3株(2256ΔvanABKΔNCgl2709株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhA(実施例3<2−3−1>)はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhAを電気パルス法にてC. glutamicum
FKS0165株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhAが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl2709遺伝子と欠損型のNCgl2709遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号37と配列番号38に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl2709遺伝子の欠損を確認し、該株を
FKFC3株とした。
<1−3>FKFC7株(2256ΔvanABKΔNCgl0324ΔNCgl2709株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhA(実施例3<2−3−1>)はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhAを電気パルス法にてC. glutamicum
FKFC5株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhAが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl2709遺伝子と欠損型のNCgl2709遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号37と配列番号38に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl2709遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC7株とした。
<1−4>FKFC9株(2256ΔvanABKΔNCgl2709ΔNCgl0313株)の構築
上記で得られたpBS4SΔ2256adhE(実施例3<2−2−1>)はコリネ型細菌の細胞内で自律複製可能とする領域を含まないため、本プラスミドでコリネ型細菌を形質転換した場合、極めて低頻度であるが本プラスミドが相同組換えによりゲノムに組み込まれた株が形質転換体として出現する。そこで、pBS4SΔ2256adhEを電気パルス法にてC. glutamicum
FKFC3株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLを含有するCM-Dex寒天培地上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株について、相同組換えによってゲノム上にpBS4SΔ2256adhEが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。該1回組換え株は、野生型のNCgl0313遺伝子と欠損型のNCgl0313遺伝子の両方を有する。
該1回組換え株をCM-Dex液体培地で一夜培養し、培養液をS10寒天培地上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をCM-Dex寒天培地上で純化した。純化した株よりゲノムDNAを調製し、配列番号31と配列番号32に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことによってNCgl0313遺伝子の欠損を確認し、該株をFKFC9株とした。
<2>バニリルアルコール生成試験
C. glutamicum FKS0165株、FKFC1株、FKFC3株、FKFC5株、FKFC7株、FKFC9株、FKFC11株、FKFC14株をバニリン存在下にて培養し、培養液のバニリルアルコール生成量を調べることで、バニリルアルコール生成に関与している遺伝子を同定した。
培養は、バニリン1 g/Lを含有するCM2B液体培地を用いて31.5℃で約24時間実施した。
培養終了後、バニリンおよびバニリルアルコールの量を超高速液体クロマトグラフィーNEXERA X2システム(SHIMADZU)で下記の条件で分析した。菌体濁度(OD)はspectrophotometer U-2900(HITACHI)を用いて測定した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm XB-C18 150 x 30 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):0.1% トリフルオロ酢酸、移動相(B) : 0.1% トリフルオロ酢酸/80% アセトニトリル
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 90, 10)→(3, 80, 20)
流速:1.5 mL/min
その結果、NCgl0324を欠損した株のみバニリルアルコールが検出されなかった(図5)。以上の結果より、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子ホモログのうち、NCgl0324がバニリンからバニリルアルコールへの変換反応に関与していることが示された。
実施例5:Corynebacterium glutamicumのADH遺伝子欠損株によるベンズアルデヒド生産およびシンナムアルデヒド生産
本実施例では、Corynebacterium glutamicumのADH遺伝子欠損株を用いてベンズアルデヒド生産およびシンナムアルデヒド生産を実施した。
<1>芳香族アルデヒド生産株の構築
<1−1>ACARおよびPPT遺伝子の共発現プラスミドの構築
Gordonia effusaのACAR遺伝子(Ge_ACAR;コドン最適化したもの)とEscherichia coliのPPT遺伝子(entD遺伝子)の共発現用のプラスミドpVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entDを、以下の手順で構築した。
pVK9ベクター(WO2007/046389)をBamHIとPstIで処理し、Tuf*プロモーター、SD配列、Ge_ACAR(コドン最適化したもの)、SD配列、およびE. coliのentD遺伝子をこの順に含んでなる人工オペロンを含むDNA断片を挿入し、プラスミドpVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entDを得た。同プラスミドにおける挿入されたDNA断片を含む部分の塩基配列を配列番号99に示す。配列番号99中、挿入されたDNA断片は16-4517位に相当する。Ge_ACAR(コドン最適化したもの)は、E. coliのコドン使用に対して最適化されている。Ge_ACAR(コドン最適化したもの)の塩基配列を配列番号100に示す。
<1−2>芳香族アルデヒド生産株の構築
pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entDとpVS7-vanKを、電気パルス法にてFKS0165株、FKFC1株、FKFC3株、FKFC5株、FKFC7株、FKFC9株、FKFC11株、FKFC14株に導入した。菌体を、カナマイシン25μg/mLおよびスペクチノマイシン50μg/mLを含有するCM-Dex SGFC寒天培地(グルコース 2.5 g/L、フルクトース 2.5 g/L、Polypeptone 10 g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、コハク酸2ナトリウム6水和物 2 g/L、グルコン酸ナトリウム 4 g/L、尿素 3 g/L、大豆加水分解物 1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、寒天 15 g/L、NaOHでpH7.5に調整)上に塗布し、31.5℃にて培養した。生育してきた株を同寒天培地にて純化し、それぞれ、FKS0165/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC1/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC3/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC5/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC7/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC9/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD
pVS7-vanK株、FKFC11/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC14/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株と命名した。これらの株を、カナマイシン25μg/mLおよびスペクチノマイシン50μg/mLを含有するCM-Dex SGFC培地(組成は、寒天を含有しないこと以外はCM-Dex SGFC寒天培地と同一)4 mLを含む試験管に接種し、31.5℃で約16時間振とう培養を行った。得られた培養液0.75 mLを40%グリセロール溶液0.75 mLと混合してグリセロールストックとし、-80℃で保存した。
<2>Corynebacterium glutamicumのADH遺伝子欠損株のベンズアルデヒド生産量の比較
FKS0165/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC1/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC3/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC5/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC7/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC9/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC11/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC14/
pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株のグリセロールストック20μLをCM-Dex SGFC寒天培地に塗布し、前培養として31.5℃で20時間培養を行った。得られた菌体を滅菌した生理食塩水に懸濁した。菌体懸濁液の菌体濁度(OD)を測定し、吸光度が83になるように生理食塩水で菌体懸濁液を希釈した。希釈した菌体懸濁液1.5 mLを、カナマイシン25μg/mLおよびスペクチノマイシン50μg/mLを含有するベンズアルデヒド生産培地(安息香酸14.3 g/L、グルコース 85.7 g/L、Polypeptone 10 g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆加水分解物 1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、KOHでpH7.4に調整、その後CaCO3 8.6 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌したもの)を混合)3.5 mLを含む試験管に添加し、30℃で4時間振とう培養を行った。
培養開始時と終了時に、培地中のグルコースの濃度をバイオテックアナライザー AS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中の安息香酸、ベンズアルデヒド、ベンジルアルコールの量を高速液体クロマトグラフィーGL7700システム(GL Science)で下記の条件で分析した。
HPLC分析条件
カラム:CAPCELL PAK C18 MG II 3μm 150×4.6 mm (SHISEIDO)
オーブン温度: 40 ℃
移動相(A):10 mM リン酸水素二カリウム/10 mM リン酸二水素カリウム
移動相(B):100 % アセトニトリル
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 98, 2) → (2, 98, 2) → (16, 50, 50) → (16.01,98,2)
流速:1 mL/min
結果を表3に示す。NCgl0324およびNCgl2709遺伝子の一方を欠損した株であるFKFC3/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC5/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株FKFC9/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、およびFKFC11/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株では、対照株であるFKS0165/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株と比較して、ベンズアルデヒド生成量の増大が認められた。また、NCgl0324およびNCgl2709遺伝子の両方を欠損した株であるFKFC7/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株およびFKFC14/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株では、さらなるベンズアルデヒド生成量の増大と、ベンジルアルコール生成量の減少が認められた。以上の結果より、NCgl0324およびNCgl2709遺伝子はベンズアルデヒドからベンジルアルコールへの変換に関与していることが明らかとなった。
<3>Corynebacterium glutamicumのADH遺伝子欠損株のシンナムアルデヒド生産量の比較
FKS0165/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC1/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC3/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC5/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC7/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC9/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC11/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC14/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株のグリセロールストック20μLをCM-Dex SGFC寒天培地に塗布し、前培養として31.5℃で20時間培養を行った。得られた菌体を滅菌した生理食塩水に懸濁した。菌体懸濁液の菌体濁度(OD)を測定し、吸光度が83になるように生理食塩水で菌体懸濁液を希釈した。希釈した菌体懸濁液1.5 mLを、カナマイシン25μg/mLおよびスペクチノマイシン50μg/mLを含有するシンナムアルデヒド生産培地(桂皮酸14.3 g/L、グルコース 85.7 g/L、Polypeptone 10 g/L、Yeast Extract 10 g/L、KH2PO41 g/L、MgSO4・7H2O 0.4 g/L、FeSO4・7H2O 0.01 g/L、MnSO4・4-5H2O 0.01 g/L、尿素 3 g/L、大豆加水分解物 1.2 g/L、ビオチン 10μg/L、KOHでpH7.4に調整、その後CaCO3 8.6 g/L(180℃で3時間乾熱滅菌したもの)を混合)3.5 mLを含む試験管に添加し、室温で5分間、静置でインキュベートした。
インキュベート終了後に、培地中のグルコースの濃度をバイオテックアナライザー AS-310(サクラエスアイ(株))により分析した。また、培地中の桂皮酸、シンナムアルデヒド、シンナミルアルコールの量を超高速液体クロマトグラフィーNEXERA X2システム(SHIMADZU)で下記の条件で分析した。
UPLC分析条件
カラム:KINETEX 2.6μm Biphenyl 100 x 3.0 mm (Phenomenex)
オーブン温度: 40℃
移動相(A):リン酸ナトリウムバッファー pH2.6 (PO4 3-10 mM)
移動相(B):メタノール
Gradient program (time, A %, B %) : (0, 75, 25)→(8, 35, 65)
流速:1.0 mL/min
結果を表4に示す。NCgl0324およびNCgl2709遺伝子の一方を欠損した株であるFKFC3/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、FKFC5/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株FKFC9/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株、およびFKFC11/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株では、対照株であるFKS0165/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株と比較して、シンナムアルデヒド生成量の増大が認められた。また、NCgl0324およびNCgl2709遺伝子の両方を欠損した株であるFKFC7/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株およびFKFC14/pVK9::Ptuf*-Ge_ACAR-entD pVS7-vanK株では、さらなるシンナムアルデヒド生成量の増大と、シンナミルアルコール生成量の減少が認められた。以上の結果より、NCgl0324およびNCgl2709遺伝子はシンナムアルデヒドからシンナミルアルコールへの変換に関与していることが明らかとなった。
本発明によれば、コリネ型細菌の目的物質(すなわちバニリン等のアルデヒド)の生産能を向上させることができ、目的物質を効率よく製造することができる。本発明によれば、特に、2層培養や樹脂等の目的物質の毒性を緩和する手段を用いることなく目的物質を効率よく製造することができ得る。
<配列表の説明>
配列番号1〜40:プライマー
41〜44:Homo sapiensのCOMT遺伝子の転写バリアント1〜4の塩基配列
45:Homo sapiensのCOMTアイソフォーム(MB-COMT)のアミノ酸配列
46:Homo sapiensのCOMTアイソフォーム(S-COMT)のアミノ酸配列
47:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
48:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
49:Escherichia coli MG1655のentD遺伝子の塩基配列
50:Escherichia coli MG1655のEntDタンパク質のアミノ酸配列
51:C. glutamicum ATCC 13032のPPT遺伝子の塩基配列
52:C. glutamicum ATCC 13032のPPTタンパク質のアミノ酸配列
53:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のvanK遺伝子の塩基配列
54:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のVanKタンパク質のアミノ酸配列
55:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のpcaK遺伝子の塩基配列
56:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のPcaKタンパク質のアミノ酸配列
57:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のvanA遺伝子の塩基配列
58:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のVanAタンパク質のアミノ酸配列
59:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のvanB遺伝子の塩基配列
60:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のVanBタンパク質のアミノ酸配列
61:C. glutamicum ATCC 13032のpcaG遺伝子の塩基配列
62:C. glutamicum ATCC 13032のPcaGタンパク質のアミノ酸配列
63:C. glutamicum ATCC 13032のpcaH遺伝子の塩基配列
64:C. glutamicum ATCC 13032のPcaHタンパク質のアミノ酸配列
65:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl0324遺伝子の塩基配列
66:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl0324タンパク質のアミノ酸配列
67:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl0313遺伝子の塩基配列
68:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl0313タンパク質のアミノ酸配列
69:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl2709遺伝子の塩基配列
70:C. glutamicum ATCC 13869 (C. glutamicum 2256)のNCgl2709タンパク質のアミノ酸配列
71:C. glutamicum ATCC 13032のNCgl0219遺伝子の塩基配列
72:C. glutamicum ATCC 13032のNCgl0219タンパク質のアミノ酸配列
73:C. glutamicum ATCC 13032のNCgl2382遺伝子の塩基配列
74:C. glutamicum ATCC 13032のNCgl2382タンパク質のアミノ酸配列
75:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
76:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
77:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子ホモログの塩基配列(断片)
78:Nocardia brasiliensisのACARホモログのアミノ酸配列(断片)
79:NdeIおよびSacIで挟まれたコドン最適化されたNocardia brasiliensisのバリアントACAR遺伝子の塩基配列
80: pELACベクター
81〜84:プライマー
85:Escherichia coli MG1655のaroG遺伝子の塩基配列
86:Escherichia coli MG1655のAroGタンパク質のアミノ酸配列
87:Escherichia coli MG1655のaroB遺伝子の塩基配列
88:Escherichia coli MG1655のAroBタンパク質のアミノ酸配列
89:Escherichia coli MG1655のaroD遺伝子の塩基配列
90:Escherichia coli MG1655のAroDタンパク質のアミノ酸配列
91:Bacillus thuringiensis BMB171のasbF遺伝子の塩基配列
92:Bacillus thuringiensis BMB171のAsbFタンパク質のアミノ酸配列
93:Escherichia coli MG1655のtyrR遺伝子の塩基配列
94:Escherichia coli MG1655のTyrRタンパク質のアミノ酸配列
95:Niastella koreensisのOMT遺伝子の塩基配列
96:Niastella koreensisのOMTのアミノ酸配列
97:Gordonia effusaのACAR遺伝子の塩基配列
98:Gordonia effusaのACARタンパク質のアミノ酸配列
99:Gordonia effusaのACAR遺伝子(コドン最適化したもの)とEscherichia coliのentD遺伝子を含むDNA断片の塩基配列
100:E. coliのコドン使用に対して最適化されたGordonia effusaのACAR遺伝子の塩基配列
101:Escherichia coli MG1655のaroE遺伝子の塩基配列
102:Escherichia coli MG1655のAroEタンパク質のアミノ酸配列

Claims (35)

  1. コリネ型細菌であって、
    目的物質を生産する能力を有し、
    アルコールデヒドロゲナーゼの活性が非改変株と比較して低下するように改変されており、
    前記目的物質が、アルデヒドである、細菌。
  2. 前記アルコールデヒドロゲナーゼが、NCgl0324遺伝子およびNCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質である、請求項1に記載の細菌。
  3. 少なくとも、NCgl0324遺伝子にコードされるタンパク質の活性が低下した、請求項2に記載の細菌。
  4. 少なくとも、NCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質の活性が低下した、請求項2または3に記載の細菌。
  5. 前記NCgl0324遺伝子にコードされるタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の細菌:
    (a)配列番号66に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号66に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号66に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
  6. 前記NCgl2709遺伝子にコードされるタンパク質が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の細菌:
    (a)配列番号70に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号70に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号70に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、アルコールデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質。
  7. 前記アルコールデヒドロゲナーゼの活性が、該アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または該遺伝子を破壊することにより、低下した、請求項1〜6のいずれか1項に記載の細菌。
  8. さらに、目的物質の生合成に関与する酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の細菌。
  9. 前記目的物質の生合成に関与する酵素が、前記目的物質の前駆体から該目的物質への変換を触媒する酵素から選択される1種またはそれ以上の酵素である、請求項8に記載の細菌。
  10. 前記目的物質の生合成に関与する酵素が、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ、3−デヒドロキナ酸シンターゼ、3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ、3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ、O−メチルトランスフェラーゼ、芳香
    族カルボン酸レダクターゼ、およびフェニルアラニンアンモニアリアーゼからなる群より選択される1種またはそれ以上の酵素である、請求項8または9に記載の細菌。
  11. 前記芳香族カルボン酸レダクターゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項10に記載の細菌:
    (a)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、芳香族カルボン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号48、76、または98に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、芳香族カルボン酸レダクターゼ活性を有するタンパク質。
  12. さらに、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の細菌。
  13. 前記ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項12に記載の細菌:
    (a)配列番号50または52に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号50または52に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号50または52に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
  14. さらに、目的物質以外の物質の取り込み系の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、請求項1〜13のいずれか1項に記載の細菌。
  15. 前記取り込み系が、バニリン酸取り込み系およびプロトカテク酸取り込み系からなる群より選択される1種またはそれ以上の取り込み系である、請求項14に記載の細菌。
  16. 前記バニリン酸取り込み系が、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項15に記載の細菌:
    (a)配列番号54に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号54に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸取り込み活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号54に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸取り込み活性を有するタンパク質。
  17. さらに、目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性が非改変株と比較して低下するように改変されている、請求項1〜16のいずれか1項に記載の細菌。
  18. 前記目的物質以外の物質の副生に関与する酵素が、バニリン酸デメチラーゼ、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ、およびシキミ酸デヒドロゲナーゼからなる群より選択される1種またはそれ以上の酵素である、請求項17に記載の細菌。
  19. 前記バニリン酸デメチラーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項18に記載の細菌:
    (a)配列番号58または60に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号58または60に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸デメチラーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号58または60に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、バニリン酸デメチラーゼ活性を有するタンパク質。
  20. 前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム属細菌である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の細菌。
  21. 前記コリネ型細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項1〜20のいずれか1項に記載の細菌。
  22. 目的物質の製造方法であって、
    下記工程(A):
    (A)請求項1〜21のいずれか1項に記載の細菌を利用して目的物質を製造する工程
    を含み、
    前記目的物質が、アルデヒドである、方法。
  23. 前記工程(A)が、下記工程(B)によって実施される、請求項22に記載の方法:
    (B)炭素源を含有する培地で前記細菌を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させる工程。
  24. 前記工程(A)が、下記工程(C)によって実施される、請求項22に記載の方法:
    (C)前記細菌を利用して前記目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程。
  25. 前記工程(C)が、下記工程(C1)によって実施される、請求項24に記載の方法:(C1)前記前駆体を含有する培地で前記細菌を培養し、前記目的物質を該培地中に生成蓄積させる工程。
  26. 前記工程(C)が、下記工程(C2)によって実施される、請求項24に記載の方法:(C2)前記細菌の菌体を反応液中の前記前駆体に作用させ、前記目的物質を該反応液中に生成蓄積する工程。
  27. 前記菌体が、前記細菌の培養液、該培養液から回収された菌体、それらの処理物、またはそれらの組み合わせである、請求項26に記載の方法。
  28. 前記前駆体が、プロトカテク酸、バニリン酸、安息香酸、L−フェニルアラニン、および桂皮酸からなる群より選択される1種またはそれ以上の物質である、請求項24〜27のいずれか1項に記載の方法。
  29. さらに、前記目的物質を前記培地または前記反応液から回収することを含む、請求項22〜28のいずれか1項に記載の方法。
  30. 前記目的物質が、芳香族アルデヒドである、請求項22〜29のいずれか1項に記載の方法。
  31. 前記目的物質が、バニリン、ベンズアルデヒド、およびシンナムアルデヒドからなる群より選択される1種またはそれ以上の芳香族アルデヒドである、請求項22〜30のいずれか1項に記載の方法。
  32. アルデヒド耐性株をスクリーニングする方法であって、
    アルデヒドを含有する培地で微生物を培養すること、および
    アルデヒド耐性株を選抜すること、
    を含む、方法。
  33. 前記培地が、前記アルデヒドを2g/L以上の濃度で含有する、請求項32に記載の方法。
  34. 前記微生物が、アルコールデヒドロゲナーゼの活性が非改変株と比較して低下するように改変された株である、請求項32または33に記載の方法。
  35. 前記アルデヒドが、バニリンである、請求項32〜34のいずれか1項に記載の方法。
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