JP2018195522A - 全固体型二次電池及び全固体型二次電池の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】正極層と負極層との間に短絡が生じにくい全固体型二次電池を提供する。【解決手段】ポリマー電解質を有した固体電解質層108と、固体電解質層108の厚さ方向の一面側に設けられた正極層106と、固体電解質層108の他面側に設けられた負極層110と、を備え固体電解質層108のマトリックスポリマーは、正極層106のマトリックスポリマー及び負極層110のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性である全固体型二次電池100。【選択図】図1
Description
本発明は、全固体型二次電池及び全固体型二次電池の製造方法に関する。
液体状の電解質を用いる二次電池は、電解液が漏れ出たり、発火したりという課題を有している。このため、電解質が固体であって、液体状の電解質を実質的に使用しない、いわゆる全固体型二次電池の普及が望まれている。液体電池とは違って、全固体電池ではセパレータを用いないので、全固体型二次電池は電極の物理的な欠陥に起因する電池内での短絡が生じやすいという課題を有しており、全固体型二次電池が薄膜の積層構造を有する場合にはこの課題は顕著である。
かかる課題を解決するために、例えば、特許文献1には、少なくともリチウム含有金属酸化物又は金属酸化物を活物質とする正極層と、Li金属、Li合金又は炭素材料を少なくとも活物質とする負極層と、その間に電解液とポリマー電解質層が配置されたリチウム二次電池において、正極層及び/又は負極層が、電解液とポリマーとを含むポリマー電解質マトリックス層を含み、前記ポリマー電解質層を構成するポリマー電解質のイオン伝導度が、前記ポリマー電解質マトリックス層を構成するポリマー電解質のイオン伝導度よりも低く、かつ前記ポリマー電解質が1〜500sec/cm3の透気度を有するポリマー繊維又は微多孔膜セパレータを含み、かつ、前記ポリマー繊維又は微多孔膜セパレータがポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維又はポリエステル繊維からなり、かつ前記ポリマー電解質層がイオン伝導性高分子とポリマー繊維又は微多孔膜セパレータにより構成され、前記イオン伝導性高分子と前記ポリマー繊維又は微多孔膜セパレータとの重量比率が91:9〜50:50であることを特徴とするリチウム二次電池の発明が記載されている。
特許文献1に記載される発明では、機械的強度が低いゲル状のポリマー電解質では電池組立て時の短絡の発生率が高いため、その対策として、ポリマー繊維又は微多孔膜セパレータを用い、ゲル状のポリマー電解質を保持させていた。しかしながら、固体電解質層の厚さを薄くして電池特性を向上させるために、ポリマー繊維又は微多孔膜セパレータを用いない構成を考えると、短絡の発生率が高くなってしまい、固体電解質層の厚さをある程度厚くしなければいけなかった。
本発明の目的は、正極層と負極層との間に短絡が生じにくい全固体型二次電池、及びかかる全固体型二次電池の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は、一態様として、ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられた正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池であって、前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性であることを特徴とする全固体型二次電池を提供する。
正極層のマトリックスポリマー及び負極層のマトリックスポリマーと、固体電解質層のマトリックスポリマーとが非相溶性であることにより、起電力を発生させることに寄与する物質以外の電子伝導性を有する物質の移動が、正極層と固体電解質層との間、及び負極層と固体電解質層との間で生じにくくなる。このため、正極層と負極層との間に短絡が生じにくくなる。なお、本明細書において、ポリマー電解質とは、ポリマーを含有する有機系の電解質を意味する。また、正極層のマトリックスポリマーを正極ポリマーといい、負極層のマトリックスポリマーを負極ポリマーとい、正極ポリマーと負極ポリマーとを電極ポリマーと総称する場合がある。また、固体電解質層のマトリックスポリマーを電解質ポリマーという場合がある。
本明細書において「非相溶性」とは、二次電池の使用温度域−40℃〜+85℃の範囲で、2つのマトリックスポリマーの相溶性が低く、実質的に互いに溶け合わない状態であることをいう。具体的には、2つのマトリックスポリマーを上下方向に積層するように接触させても、上記温度域であれば、マトリックスポリマーの拡散、特に上側から下側への拡散が実質的に生じず、2つのマトリックスポリマーの間に特段の混合層が認められない状態を維持できることを意味する。
上記の全固体型二次電池において、前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれよりも親水性が高いことが好ましい場合がある。
互いに非相溶性な物質の具体的な例として、親水性に差がある物質が挙げられる。したがって、正極ポリマー及び負極ポリマー(電極ポリマー)と電解質ポリマーとの親水性が異なるようにすることにより、電極ポリマーと電解質ポリマーとを確実に非相溶性とすることができる。この場合において、電解質ポリマーの親水性を高くして電極ポリマーの親水性を低くする構成(構成1)と、電極ポリマーの親水性を高くして電解質ポリマーの親水性を低くする構成(構成2)とが考えられる。これらのうち、全固体型二次電池が蓄電及び放電の際に電荷を有する物質が電解質ポリマー内を移動する場合には、構成1として電解質ポリマーの親水性を相対的に高めることが、電荷を有する物質の移動が容易となって、充放電特性が低下しにくい。
上記の全固体型二次電池において、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーは、いずれも単量体がフッ素含有化合物を含む重合体からなることが好ましい。単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であるフッ素含有ポリマーは、さまざまな樹脂に対して相溶しにくい。具体的には、親水性樹脂及び親油性樹脂のいずれに対しても相溶しにくい。したがって、電極ポリマーをフッ素含有ポリマーとすることにより、全固体型二次電池の内部抵抗に影響を与えやすい固体電解質層を構成するポリマー材料の選択自由度を高めることできる。なお、フッ素含有ポリマーの単量体であるフッ素含有化合物の具体例として、フッ化ビニリデンなどのフッ素含有オレフィンが挙げられる。この正極ポリマー及び負極ポリマー(電極ポリマー)のマトリックスポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)をある濃度(例えば0.3M)添加している。0.3Mを超えるとマトリックスポリマーがゲル化するのでバインダの機能が失われる。
上記の全固体型二次電池において、前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であってもよい。エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体は、リチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)を高濃度(例えば5M)で溶解できる。このエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体にLiTFSIを溶解して作製したポリマー電解質は比較的高いイオン伝導度を有している。このため、イオン物質の移動がし易くなり、全固体型二次電池における電池性能を高めることができる。
上記の全固体型二次電池において、前記正極層がマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を含んでおり、前記負極層が炭素系材料を含んでおり、前記固体電解質層がリチウムイオン導電性の酸化物を含んでいてもよい。固体電解質層は、リチウムイオン導電性酸化物粉末をイオン伝導性の高いポリマー電解質で結着しているので、イオン導電性酸化物粉末とポリマー電解質の最適な配合領域を選択することで、固体電解質層のイオン伝導度を高めることができる。このことにより、全固体型二次電池における電池性能を高めることができる。
本発明は、他の一態様として、ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられた正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池の製造方法を提供する。ここで、前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性である。かかる製造方法は、前記正極層及び前記負極層のいずれか一方を基材に形成する第1電極層形成工程と、該第1電極層形成工程で形成された層の露出面に、前記固体電解質層を形成する電解質層形成工程と、該電解質層形成工程で形成された前記固体電解質層の露出面に、前記正極層及び前記負極層の他方を形成する第2電極層形成工程と、を備え、前記電解質層形成工程では、前記正極層及び前記負極層のいずれか一方の層の露出面に、前記固体電解質層を形成するための材料を接触配置して、その材料から、前記固体電解質層を形成すること、及び、前記第2電極層形成工程では、前記固体電解質層の露出面に、前記正極層及び前記負極層の他方を形成するための材料を接触配置して、その材料から、前記正極層及び前記負極層の他方の層を形成すること、の少なくとも一方を行う。
全固体型二次電池を構成する層のいずれか(例えば固体電解質層)を形成した後、その層の露出面に接するように他の層(正極層及び負極層の一方(電極層))を形成するための材料を配置した状態で、加圧などの方法により層状の形状に加工して、積層構造体を得る方法、すなわち、順次積層により製造する方法は、製造方法として効率的である。なお、以下の説明では、正極層と負極層との総称として電極層なる用語を用い、電極層を形成する材料を電極形成材料ともいう。
ここで、電極形成材料は電極層のマトリックスポリマーを含み、固体電解質層を形成するための材料は固体電解質層のマトリックスポリマーを含む。したがって、上記の例のように固体電解質層に接するように電極形成材料を配置すれば、固体電解質層のマトリックスポリマーに電極層のマトリックスポリマーが接するように配置されることになる。電極層のマトリックスポリマーと固体電解質層のマトリックスポリマーとが相溶する場合には、上記のように配置されると、拡散によって固体電解質層内に電極層のマトリックスポリマーが入り込んでしまう。特に固体電解質層の上に電極形成材料を接触配置(載置)する場合には、重力の影響も受けて、上方に位置する電極層のマトリックスポリマーは固体電解質層に入り込みやすい。このような電極層のマトリックスポリマーの固体電解質層への拡散が生じると、この拡散に伴って、電極形成材料に含有する電極層のマトリックスポリマー以外の成分、特に電極活物質層も固体電解質内に入り込んでしまう。
この状態で電極層を形成すると、固体電解質層における電極の活物質が入り込んだ部分は実質的に電極層となってしまう。このため、固体電解質層の実質的な厚さが少なくなり、全固体型二次電池において正極層と負極層との間で短絡が生じやすくなる。固体電解質層のマトリックスポリマーを含む材料を電極層に接触配置して固体電解質層を形成しようとする場合も、同様の問題が生じうる。
これに対し、本発明に係る製造方法では、電極層のマトリックスポリマーと固体電解質層のマトリックスポリマーとが接触しても相溶しないため、順次積層しても、固体電解質層の実質的な厚さが変化しにくい。したがって、効率的な順次積層を製造方法として採用しても、短絡が生じる可能性が適切に低減された全固体型二次電池を得ることができる。
上記の製造方法において、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーは単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であることが好ましい。正極層のマトリックスポリマー及び負極層のマトリックスポリマーが、単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であるフッ素含有ポリマーからなる場合には、固体電解質層のマトリックスポリマーがフッ素含有ポリマーでなければ、固体電解質層のマトリックスポリマーが正極層のマトリックスポリマー及び負極層のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性であることが満たされやすい。したがって、固体電解質層のマトリックスポリマーの組成の選択自由度が高く、固体電解質層の内部抵抗を低減することが容易となる。
本発明は、別の一態様として、ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられリチウムイオン源及びマトリックスポリマーを含む正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池の製造方法を提供する。かかる製造方法は、基材の上に、前記正極層に対応する形状を有する中空部を取り囲む枠状の絶縁体層を形成する絶縁体層形成工程と、前記絶縁体層の前記中空部内に、前記正極層の少なくとも一部を形成するための材料である第1材料を配置する第1供給工程と、該第1材料からなり前記絶縁体層の前記中空部を形成する内壁に接する部分を有する層である第1層を形成する第1層形成工程と、前記第1層から前記正極層の少なくとも一部を形成する正極層形成工程と、前記正極層の上に前記固体電解質層を形成するための材料である第2材料を供給して、前記正極層に接するように前記固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、前記固体電解質層の上に前記負極層を形成するための材料である第3材料を供給して、前記固体電解質層に接するように前記負極層を形成する負極層形成工程と、を備える。
全固体型二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池では、正極に含まれるリチウムイオン源の量が多いほど充放電特性を高めることができる。したがって、積層構造を有する全固体型のリチウムイオン二次電池では、正極層の体積が大きくなるほど正極層に含まれるリチウムイオン源の量が増え、二次電池の充放電特性を向上させることができる。ここで、全固体型のリチウムイオン二次電池では、正極層の体積増加を正極層の厚さを増やすことによって実現しようとする場合には、製造過程において第1層を厚く形成することが必要となる。
例えば100μm程度の厚い第1層を印刷などの技術を用いて形成するためには、第1層の形状安定性を確保する観点から、第1層においてもバインダとして機能するマトリックスポリマーの含有量を第1材料において増やす必要がある。しかしながら、第1層におけるマトリックスポリマーの含有量を増やすと、第1層から形成された正極層に含まれるリチウムイオン源の量が相対的に低下し、正極層に含まれるリチウムイオン源の量を増やすという当初の目的が達成されにくくなってしまう。また、第1層のマトリックスポリマーの含有量が増えると、第1層から得られる正極層内のリチウムイオンのイオン伝導度が低下して、充放電特性の低下をもたらしてしまう。
このような不具合の発生を抑制すべく、上記の製造方法では、正極層に対応する形状の中空部を取り囲むような枠状の絶縁体層をあらかじめ基材の上に形成する。そして、絶縁体層の中空部内に第1材料を塗布などにより供給する。このような方法であれば、第1材料が、単独では正極層に対応する形状を維持できない程度に軟質であって印刷技術によっては供給できない場合であっても、絶縁体層の中空部内に供給された第1材料から形成された第1層は、絶縁体層の中空部を形成する内壁に接する部分を有するため、その形状を維持することができる。したがって、第1材料に含まれるマトリックスポリマーの含有量を特に高めることなく、任意の厚さの第1層を形成し、この第1層から正極層の少なくとも一部を形成することができる。
上記の製造方法において、前記正極層形成工程には、少なくとも前記第1層を含む層を押圧するプレス工程を有していてもよい。このようなプレス工程を有していることにより、少なくとも前記第1層を含む層、すなわち正極層となり得る層が押圧されるので、層が緻密化される。このため、形成された正極層が緻密な層となり、リチウムイオン源の量が多い正極層となる。このことにより、二次電池の充放電特性を向上させることができる。
上記の製造方法において、前記プレス工程の前に、前記第1層上に前記第1材料を配置する第2供給工程を有していてもよい。第2供給工程を有している場合には、正極層となり得る層により多くの第1材料が供給されるので、形成された正極層がより緻密な層となり、リチウムイオン源の量がより多い正極層となる。このことにより、二次電池の充放電特性をより向上させることができる。
上記の製造方法において、前記基材は、前記絶縁体層が形成される面に集電体層のパターンを有し、前記絶縁体層形成工程では、前記絶縁体層は前記集電体層のパターンと上面視で交差する部分を有するように形成されるとともに、前記第1供給工程では、前記第1層は前記集電体層のパターンと電気的に接する部分を有するように形成されることにより、前記集電体層のパターンは、前記正極層形成工程で形成された前記正極層と電気的に接続する部分を、前記絶縁体層の周囲に有していてもよい。
上記の製造方法では、絶縁体層を枠体としてその枠体内に第1層を形成する。したがって、上記の製造方法により形成された全固体型のリチウムイオン二次電池では、正極層は、絶縁体層と基材と固体電解質層とによって形成される閉空間内に位置することになる。そこで、あらかじめパターニングされた集電体層を有する基材を用い、集電体層のパターンを、絶縁体層と上面視で交差する部分を有するとともに、第1層と電気的に接する部分を有するように形成しておくことにより、上記の閉空間内に位置する正極層と集電体層のパターンとを電気的に接続することが実現される。したがって、全固体型二次電池を使用する際には、この集電体層のパターンにおける絶縁体層の周囲に位置する部分を用いて、正極層と電気的接続を行うことが可能である。
上記の製造方法において、前記正極層は、前記第1層から形成される第1正極層及び前記第1層に接し第2層から形成される第2正極層を含む複数の層の積層構造を有し、前記絶縁体層形成工程と前記第1供給工程との間に、前記絶縁体層の中空部の一部を満たすように前記第2層を形成する第2層形成工程を備え、前記第1供給工程では、その一部に前記第2層が位置する前記絶縁体層の前記中空部の内部に前記第1材料を供給してもよい。絶縁体層の中空部内に形成される正極層は、積層構造を有していてもよい。その場合には、第1材料を絶縁体層の中空部内に供給する前の段階で、中空部内に少なくとも一層(第2層)を形成しておけばよい。そして、第1供給工程では、その第2層が位置する中空部内に、第1材料を供給すればよい。
上記の製造方法において、前記第1材料に含有されるマトリックスポリマーは、単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であることが好ましい。
第1材料に含有されるマトリックスポリマーが、単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であるフッ素含有ポリマーからなる場合には、第1材料に含有されるマトリックスポリマーがエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなる場合に比べて、第1材料から形成された正極層におけるリチウムイオンのイオン伝導度が低くなる傾向がある。したがって、第1材料に含有されるマトリックスポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合には、マトリックスポリマーの含有量を高めることは電池特性を高める観点から容認されにくい。
また、第1材料のマトリックスポリマーとしてフッ素含有ポリマーが用いられた場合には、第1材料の凝集力が低下するため印刷技術などでは第1層を形成することが困難である。すなわち、通常、印刷技術を用いて多層構造を有する第1層を形成する場合には、基材上に形成された第1材料からなる層(下層)の上に、スクリーンのメッシュを通過させて第1材料を供給し、この下層上の供給された第1材料がスクリーンの面から剥離することにより、新たな第1材料からなる層(上層)が下層上に形成される。しかしながら、第1材料のマトリックスポリマーとしてフッ素含有ポリマーが用いられた場合には、第1材料の凝集力が低いため、下層の上に供給された第1材料とスクリーンの面との間で剥離よりも、下層の上に供給された第1材料の内部での凝集破壊が優先的に生じて、第1材料からなる上層が適切に形成されなくなってしまう。
しかしながら、本発明に係る製造方法では、第1材料から形成される第1層の形状を維持することに第1材料のマトリックスポリマーは寄与しない。このため、第1材料のマトリックスポリマーの組成及び含有量の影響も受けずに、第1層を形成できる。したがって、正極層のマトリックスポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合であっても、その含有量を過度に高めることなく正極層の厚さを増やすことが可能である。それゆえ、本発明に係る製造方法によれば、第1材料のマトリックスポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合であっても、リチウムイオン源の含有量を適切に増やした正極層を形成することができる。
上記の製造方法において、前記第2材料に含有されるマトリックスポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であるとともに、前記第3材料に含有されるマトリックスポリマーは単量体がフッ素含有化合物を含む重合体からなることが好ましい。この場合には、正極層のマトリックスポリマーと固体電解質層のマトリックスポリマー、及び固体電解質層のマトリックスポリマーと負極層のマトリックスポリマーとがいずれも非相溶性なので、層を形成していく際に、互いに相溶することが少ない。このため、スクリーン印刷による電極の積層において、電子伝導性を示す活物質の移動が、正極層と固体電解質層との間、及び負極層と固体電解質層との間で生じにくくなる。このため、正極層と負極層との間に短絡が生じにくくなる。
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
本発明によれば、固体電解質層の厚さを薄くしても正極層及び負極層間に短絡が生じにくい全固体型二次電池、及びかかる全固体型二次電池の製造方法が提供される。
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本発明の一実施形態に係る二次電池を示す断面図である。図1に示されるように、全固体型二次電池100は、基材102上に、集電体層104、正極層106、固体電解質層108及び負極層110が順次積層されている。換言すれば、全固体型二次電池100は、固体電解質層108の厚さ方向の一面側に設けられた正極層106と、固体電解質層108の他面側に設けられた負極層110と、を備える。
基材102は、集電体層104など全固体型二次電池100の構成部材を支持する。構造部材が支持できる機械的強度を有する限り、基材102に材料、寸法、形状等の制限は無い。ただし、後に説明する全固体型二次電池100の製造工程において、焼成等熱処理が施されるので、熱処理に耐え得る程度の耐熱性を有することが好ましい。また、全固体型二次電池100の製造工程において使用される有機溶媒やリチウム塩等に対し化学的安定性を有することが好ましい。基材102として、たとえばガラス基材、金属箔、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルムを例示することができる。
集電体層104は、正極層106及び負極層110に接続され、正極層106及び負極層110から電荷を集め、供給する。図1では、集電体層104として、正極層用の集電体層(正極用集電体層104A)及び負極層用の集電体層(負極用集電体層104B)が示されている。集電体層104は、固体電解質層108や正極層106に含まれるリチウム塩に対し化学的に安定な金属等の導電体からなることが好ましい。集電体層104として、アルミニウム、銅、ステンレス鋼を例示することができる。なお、正極層106に接続される集電体層104および負極層110に接続される集電体層104にはステンレス鋼が好ましい。
正極層106は、全固体型二次電池100の正極として機能する。正極層106は、正極活物質及び導電助材を含み、バインダとして機能するマトリックスポリマー(正極ポリマー)により固着される。正極ポリマーのマトリックスポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)をある濃度(例えば0.3M)添加している。0.3Mを超えるとマトリックスポリマーがゲル化するのでバインダの機能が失われる。正極活物質は粒子状物質(粉状体)であり、リチウム含有複合酸化物、例えばマンガン酸リチウム(LiMn2O4)などのリチウムイオン導電性の酸化物を例示することができる。導電助材としてたとえばアセチレンブラックが例示される。
正極層106のマトリックスポリマー(正極ポリマー)は、固体電解質層108のマトリックスポリマー(電解質ポリマー)と非相溶性である。このように正極ポリマーと電解質ポリマーとが非相溶性であることにより、リチウムイオンなど電力を発生させることに寄与する物質以外の電子伝導性を有する物質の移動が、正極層106と固体電解質層108との間で生じにくくなる。このため、正極層106と負極層110との間に短絡が生じにくくなる。このように、組成を調整して正極層106と負極層110との間に短絡の可能性を低減させるため、固体電解質層108の厚さを相対的に薄くすることができる。この点に関して限定されない例示をすれば、正極層106と負極層110との間での短絡が生じる可能性を安定的に低減させる観点から、電極ポリマーと電解質ポリマーとが非相溶性でない構成では固体電解質層108の厚さとして例えば100μm以上にすることが求められていた場合であっても、電極ポリマーと電解質ポリマーとを非相溶性にすることにより、固体電解質層108の厚さを75μm程度まで薄くすることができる。このように固体電解質層108の厚さを薄くできることにより、全固体型二次電池100の充放電特性を向上させることができる。
固体電解質層108は、全固体型二次電池100の電解質として機能する。固体電解質層108は、イオン伝導性を有する粉末状のガラスセラミックス及びバインダとして機能するポリマー電解質を含む。Liイオン伝導性を有するガラスセラミックスとして、Li4−2xZnxGeO4(LISICON)系固体電解質、Li−Al−Ti−PO4(LATP)系固体電解質、Li1+XGe2−yAlyP3O12(LAGP)系固体電解質を例示することができる。
上記のように、電解質ポリマーを構成する材料は、正極ポリマーや負極ポリマーなど電極ポリマーを構成する材料との関係(電解質ポリマーと電極ポリマーとが非相溶性であること)で設定される。電解質ポリマーと電極ポリマーとが非相溶性であることを満たす具体的な構成は何種類も考えられるが、電解質ポリマーと電極ポリマーとが親水性に差がある場合が具体例として挙げられる。正極ポリマーと電解質ポリマーとの親水性が異なるようにすることにより、これらのポリマーを確実に非相溶性とすることができる。この場合において、電解質ポリマーの親水性を高くして電極ポリマーの親水性を低くする構成(構成1)と、電極ポリマーの親水性を高くして電解質ポリマーの親水性を低くする構成(構成2)とが考えられる。
ここで、固体電解質層108は双方の電極層(正極層106、負極層110)の間に位置して電力を発生させることに寄与する物質が移動する場である。この電力を発生させることに寄与する物質がリチウムイオンである場合には、固体電解質層108においてイオン伝導度が低いことは、全固体型二次電池100の内部抵抗の増加をもたらし、その放電特性の低下をもたらす原因となる。したがって、固体電解質層108ではイオン伝導度が高いことが好ましい。
固体電解質層108においてイオン伝導性に寄与する物質は、イオンで伝導性を示す酸化物粉末(上記のガラスセラミックス)と、その粉末を結着するポリマー電解質である。固体電解質層108は、これらの2種類の材料を用い、最もイオン伝導度が高くなる配合領域で作製される。ポリマー電解質にもイオン伝導性を付与するために、マトリックスポリマー(電解質ポリマー)にリチウム塩からなる支持電解質を溶解して用いる場合がある。そのような支持電解質として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を挙げることができる。電解質ポリマーの親水性が高いほどこのようなリチウム塩を高濃度で溶解でき、その結果、固体電解質層108の内部をリチウムイオンは移動しやすい。したがって、構成2よりも構成1の方が全固体型二次電池100の導電性が高くなると期待される。それゆえ、電解質ポリマーと電極ポリマーとを非相溶性にする際に、電解質ポリマーとしてリチウム塩を高濃度で溶解できる親水性が高い材料を採用し、電極ポリマーとして相対的に親水性が低い材料を採用することが好ましい。
負極層110は、全固体型二次電池100の負極として機能する。負極層110は、バインダとして機能するマトリックスポリマー(負極ポリマー)により負極活物質が固着された層である。負極ポリマーのマトリックスポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)をある濃度(例えば0.3M)添加している。0.3Mを超えるとマトリックスポリマーがゲル化するのでバインダの機能が失われる。負極活物質は炭素系材料を含んでもよく、ハードカーボンが例示できる。負極ポリマーは、前述のように、電解質ポリマーに非相溶性であり、構成を簡素化する観点から、負極ポリマーは正極ポリマーと同種の材料を用いることが好ましい。
限定されない例示をすれば、正極ポリマー及び前記負極ポリマー、すなわち電極ポリマーは、いずれも単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であるフッ素含有ポリマーからなることが好ましい。フッ素含有ポリマーはさまざまな樹脂(親水性樹脂、親油性樹脂)に対して相溶しにくい。したがって、電極ポリマーをフッ素含有ポリマーとすることにより、全固体型二次電池100の内部抵抗に影響を与えやすい固体電解質層108を構成するポリマー材料の選択自由度を高めることできる。フッ素含有ポリマーの具体例として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体などが挙げられ、フッ素含有化合物の具体例としてフッ化ビニリデンなどのフッ素含有オレフィンが挙げられる。フッ素含有ポリマーを形成するために用いられる単量体の全てがフッ素含有化合物であってもよいし、一部はエチレンやプロピレンのようなフッ素を含有しない物質であってもよい。この電極ポリマーのマトリックスポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)をある濃度(例えば0.3M)添加している。0.3Mを超えるとマトリックスポリマーがゲル化するのでバインダの機能が失われる。
上記のように電極ポリマーがフッ素含有ポリマーである場合に、電解質ポリマーは、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であることが好ましい。エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体は、リチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)を高濃度(例えば5M)で溶解できる。このエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体にLiTFSIを溶解して作製したポリマー電解質は比較的高いイオン伝導度を有している。このため、電解質ポリマーがエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であることにより、固体電解質層108におけるイオン物質の移動がし易くなり、全固体型二次電池100の電池性能を高めることができる。電解質ポリマーの他の例としてポリエチレンオキサイド(PEO)樹脂が挙げられる。
この点に関し、電極ポリマーがポリフッ化ビニリデンからなり、電解質ポリマーがエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなる全固体型二次電池100と、いずれも全固体型二次電池100と基本的な構造は共通であるが、電極ポリマー及び電解質ポリマーがいずれもエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなる第1対比用全固体型二次電池、電極ポリマーがエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなり、電解質ポリマーがポリフッ化ビニリデンからなる第2対比用全固体型二次電池、及び電極ポリマー及び電解質ポリマーがいずれもポリフッ化ビニリデンからなる第3対比用全固体型二次電池とについて、初回の放電容量(初期容量、単位:μAh)及び充放電を10回行った後の充放電容量(経時容量、単位:μAh)を対比した。なお、充電電流は、0.1mA、充電後保持停止電流は0.05mA、放電電流は0.01mA、放電後充電までの放置時間は300秒間、放電電圧範囲は2.4V〜4.1Vであった。
その結果、全固体型二次電池100は、初期容量が17μAh、経時容量が14μAhであった。これに対し、第1対比用全固体型二次電池は初期容量が8μAh、経時容量が2μAhであり、第2対比用全固体型二次電池は初期容量が2.5μAh、経時容量が0μAhであり、第3対比用全固体型二次電池は初期容量が17μAh、経時容量が6μAhであった。以上の対比から、電極ポリマーとしてフッ素含有ポリマーを用い、電解質ポリマーとしてエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体を用いることが好ましいことが確認できる。
図2は、本発明の他の一実施形態に係る全固体型二次電池120を示す断面図である。図2に示される全固体型二次電池120は、基本的な構造は図1に示される全固体型二次電池100と等しく、基材102上に、集電体層104(正極用集電体層104A、負極用集電体層104B)、正極層106、固体電解質層108及び負極層110が順次積層された構造を有する。構造上の主たる相違点は、全固体型二次電池120では、正極層106の周囲に枠状の絶縁体層112が設けられていることにある。図2では、枠状の絶縁体層112の一部は基材102上に設けられ、別の一部は絶縁体層112が作る枠の内部に位置する集電体層104(正極用集電体層104A)の上に設けられて、枠状の絶縁体層112の枠の内部に位置する正極層106と集電体層104とが電気的に接続できるようにしている。
全固体型二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池では、正極に含まれるリチウムイオン源の量が多いほど充放電特性を高めることができる。したがって、図1に示される積層構造を有する全固体型二次電池100がリチウムイオン二次電池である場合には、正極層106の体積が大きくなるほど正極層106に含まれるリチウムイオン源の量が増え、全固体型二次電池100の充放電特性を向上させることができる。
図2に示される全固体型二次電池120では、正極層106の体積が増大したときに、製造過程や使用中に正極層106を構成する材料が凝集破壊することに起因して正極層106が所定の形状を維持できなくなる不具合が生じる可能性を低減する観点から、正極層106の周囲に枠状の絶縁体層112が設けられている。このような枠状の絶縁体層112が設けられていることにより、例えば100μm程度の厚さの正極層106を容易に形成することが可能であり、形成された正極層106はその形状を安定的に保つことができる。このように、全固体型二次電池120がリチウムイオン二次電池である場合には、枠状の絶縁体層112を有することにより、充放電特性を向上させることができる。
続いて、本発明の実施形態に係る全固体型二次電池の製造方法について説明する。図1に示される全固体型二次電池100も、図2に示される全固体型二次電池120も、基本的な製造方法は共通であり、正極層106など構成部材を順次積層することにより、製造することができる。最も基本的な製造方法として、基材102上に集電体層104、正極層106、固体電解質層108及び負極層110をこの順番で積層することが挙げられる。
まず、図3及び図4を用いて、図1に示される全固体型二次電池100の製造方法を説明する。図3及び図4は、図1に示される全固体型二次電池100の製造方法を説明する図である。図3(a)は、基材102上に集電体層104が形成された状態を示す図である。図3(b)は、基材102上に形成された集電体層104の露出面の上に正極層106を形成するための材料が接触配置された状態を示す図である。図3(c)は、基材102上に集電体層104及び正極層106が形成された状態を示す図である。図3(d)は、基材102上に位置する正極層106の露出面106Sの上に固体電解質層108を形成するための材料が接触配置された状態を示す図である。図4(a)は、基材102上に集電体層104、正極層106及び固体電解質層108が形成された状態を示す図である。図4(b)は、基材102上に位置する固体電解質層108の露出面108Sの上に負極層110を形成するための材料が接触配置された状態を示す図である。図4(c)は、負極層110を形成するための材料から負極層110が形成されて、全固体型二次電池100の構造が得られた状態を示す図である。
まず、図3(a)に示すように、基材102の上に集電体層104を形成する。集電体層104の形成には、メッキ法、スパッタ法等を用いることができる。集電体層104となる導電皮膜のパターニングには、例えばフォトマスクを用いた金属層等のエッチング法又はリフトオフ法を用いることができる。
次に、図3(b)に示すように、集電体層104(具体的には正極用集電体層104A)の露出面104S(図3(a)参照)の上に、正極層106を形成するための材料(以下、「正極用材料AM」ともいう)を接触配置することを含んで、正極層106を形成する(第1電極層形成工程)。
正極層106は、印刷及び焼成により形成できる。本実施形態に係る製造方法では、次に説明するように、粉状体の正極活物質と、導電助材と、バインダとして機能する正極ポリマーと、適切な有機溶媒とを含むペーストとして正極用材料AMを形成し、この正極用材料AMを用いて正極層106を印刷法などにより形成する。
正極層106は、印刷及び焼成により形成できる。本実施形態に係る製造方法では、次に説明するように、粉状体の正極活物質と、導電助材と、バインダとして機能する正極ポリマーと、適切な有機溶媒とを含むペーストとして正極用材料AMを形成し、この正極用材料AMを用いて正極層106を印刷法などにより形成する。
まず、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)など金属酸化物からなる正極活物質を、有機溶媒中で粉砕して粉状体からなる正極活物質を得る。この粉砕の際に用いられる有機溶媒の種類は限定されない。比誘電率が0.1以上10以下の有機溶媒が好ましい場合がある。このような有機溶媒として、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素化合物(四塩化炭素など水素の全てがハロゲン化されたものを含む。)、酢酸エチル等エステル化合物、ジエチルエーテルなどエーテル化合物が例示される。これらの中でも、比誘電率が0.1以上5以下である無極性溶媒が好ましく、そのような化合物として、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルムなどが例示される。
導電助材としてアセチレンブラックが例示される。正極層106内に導電パスを形成しやすくする観点から、導電助材の重量平均粒径は、正極活物質の粉状体の重量平均粒径よりも小さいことが好ましい。正極ポリマーとして好ましい材料がポリフッ化ビニリデン(PVdF)などのフッ素含有ポリマーが好ましいことは前述のとおりである。フッ素含有ポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)を例えば0.3M添加している。また、適切な有機溶媒として、正極ポリマーの溶解性と、スクリーン印刷による製造工程を加味して、高沸点極性溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノンやγ−ブチロラクトンが例示される。ポリマー電解質は電解質ポリマーに支持電解質が配合されたものからなり、電解質ポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなることが好ましい。
こうして得られた正極用材料AMを用いて、例えばスクリーン印刷により正極層106に相当する印刷パターンに形成する。当該印刷パターンを、例えば120℃、60分の条件に加え、120℃、24時間の真空中で焼成することにより、正極層106を形成する。
得られた正極層106を下層の正極層106とともに加圧してもよい。このような加圧を行うプレス工程を有することにより、正極層106を緻密な層にすることができる。プレス工程におけるプレス条件は正極層106の組成や厚さなどを勘案して適宜設定される。限定されない例示をすれば、1kNから100kNの圧力で1分間から10分間加圧することが挙げられる。このプレス加工の際に加熱を行ってもよい。加熱条件も適宜設定される。加熱温度について限定されない例示を行えば、80℃から150℃の範囲とすることが挙げられる。
続いて、上記の第1電極層形成工程で形成された層、具体的には正極層106の露出面106S(図3(c)参照)に、図3(d)に示すように、電解質ポリマーを含む固体電解質層108を形成するための材料(以下、「電解質用材料EM」という)を、接触配置することを含んで、固体電解質層108を形成する(図4(a)、電解質層形成工程)。ここで、電解質ポリマーは正極ポリマーに対して非相溶性であるため、電解質用材料EMを、第1電極層形成工程で形成された正極層106の露出面106Sに接触配置しても、電解質用材料EMを構成する成分が正極層106の内部に拡散しにくい。正極層106は可能な限り正極活物質の濃度が高いことが好ましいため、このような拡散が生じた領域は、正極活物質の濃度が低くなってしまう。また、正極層106を構成する物質が電解質用材料EMの内部に拡散すると、その部分は正極として機能してしまうため、固体電解質層108の実質的な厚さが少なくなって、正極層106と負極層110との間での短絡の危険性が高まる。本実施形態に係る製造方法では、電解質ポリマーが正極ポリマーに対して非相溶性であるため、上記のような不具合が生じる可能性が安定的に低減されている。
電解質用材料EMの具体例として、適切な溶媒で粘度調整されたポリマー電解質に電解質であるガラスセラミックスを混錬したものが挙げられる。前述のように、ポリマー電解質は電解質ポリマーに支持電解質が配合されたものからなり、電解質ポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなることが好ましい。この電解質用材料EMを印刷用のペーストとして、例えばスクリーン印刷により固体電解質層108に相当する印刷パターンを形成する。当該印刷パターンを、例えば100℃、60分の条件に加え、100℃、24時間の真空中で焼成することにより、固体電解質層108を形成することができる。
得られた固体電解質層108を下層の正極層106とともに加圧してもよい。このような加圧を行うプレス工程を有することにより、正極層106を緻密な層にすることができる。また、正極層106と固体電解質層108との密着性を向上させることができる場合もある。
なお、図3(d)に示されるように、電解質用材料EMの印刷パターンは、正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間の基材102の露出面の上にも一部設けられる。したがって、図4(a)に示されるように、固体電解質層108の一部は、正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間の基材102の露出面の上にも設けられる。
次に、上記の電解質層形成工程で形成された固体電解質層108の露出面108S(図4(a)参照)に、負極層110を形成するための材料(以下、「負極用材料CM」という。)を接触配置することを含んで、負極層110を形成する(第2電極層形成工程)。ここで、電解質ポリマーは負極ポリマーに対して非相溶性であるため、図4(b)に示されるように固体電解質層108の露出面108Sに、負極用材料CMを接触配置しても、負極用材料CMを構成する成分が固体電解質層108の内部に拡散しにくい。また、負極層110を構成する物質が電解質用材料EMの内部に拡散すると、その部分は負極として機能してしまうため、固体電解質層108の実質的な厚さが少なくなって、正極層106と負極層110との間での短絡の危険性が高まる。本実施形態に係る製造方法では、電解質ポリマーが負極ポリマーに対して非相溶性であるため、上記のような不具合が生じる可能性が安定的に低減されている。
負極用材料CMの具体例として、適切な溶媒(たとえば、N−メチル−2−ピロリジノン)で粘度調整された負極ポリマーに負極活物質を混錬したものが挙げられる。前述のように、負極ポリマーはポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂などのフッ素含有ポリマーからなる。このフッ素含有ポリマーには、イオン伝導度を上げるためにリチウム塩(例えばLiTFSI:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミトリチウム)を0.3M添加している。負極用材料CMを印刷用のペーストとして、例えばスクリーン印刷により負極層110に相当する印刷パターンを形成する。当該印刷パターンを、例えば120℃、60分の条件に加え、120℃、24時間の真空中で焼成することにより、負極層110を形成することができる。
なお、図4(b)に示されるように、電解質用材料EMの印刷パターンは、正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間の基材102の露出面の上にも一部設けられる。したがって、図4(c)に示されるように、固体電解質層108の一部は、正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間の基材102の露出面の上にも設けられる。すなわち、正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間の基材102の露出面の上には、固体電解質層108の一部及び負極層110の一部が位置する。電解質ポリマーは負極ポリマーに対して非相溶性であるため、この基材102の露出面の上に位置する固体電解質層108及び負極層110を介して正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bと間において短絡が生じにくい。したがって、基材102における正極用集電体層104Aと負極用集電体層104Bとの間に特段の絶縁体層を設けなくてもよい。
この焼成の前又は焼成中に負極用材料CMの印刷パターンを下層の固体電解質層108及び正極層106とともに加圧してもよいし、得られた負極層110を下層の固体電解質層108及び正極層106とともに加圧してもよい。このような加圧を行うプレス工程を有することにより、正極層106の緻密な層にすることができる。また、正極層106と固体電解質層108との密着性及び固体電解質層108と負極層110との密着性を向上させることができる場合もある。
以上のようにして、図1に示す全固体型二次電池100が作製される。作製された全固体型二次電池100は、さらに、100℃、24時間程度の真空加熱乾燥処理を施しても良い。
最後に、負極層110にポリマー電解質を塗布・含浸する工程を施してもよい。ポリマー電解質が負極層110や固体電解質層108に供給されることにより、十分に伝導しきれなかったリチウムイオンが固体電解質層108内を伝導できるようになり、固体電解質層108がイオン伝導体としてより効率的に機能するようになる場合がある。さらに、100℃、24時間程度の真空加熱乾燥処理を施してもよい。
以上の説明では、図1に示す全固体型二次電池100の構造に対応して、正極層106の露出面106Sの上に電解質用材料EMを接触配置し、固体電解質層108の露出面108Sの上に負極用材料CMを接触配置したが、これに限定されない。正極と負極との配置が逆転している場合、すなわち、基材102側から、負極層110、固体電解質層108、正極層106の順番に積層されている場合には、負極層110の露出面に電解質用材料EMを接触配置し、固体電解質層108の露出面108Sの上に正極用材料AMを接触配置すればよい。あるいは、先に固体電解質層108を形成し、そのそれぞれの露出面に、正極用材料AM及び負極用材料CMを接触配置してもよいし、先に正極層106及び負極層110を形成し、電解質用材料EMをそれぞれの露出面で挟み込むようにしてもよい。
続いて、図2に示される全固体型二次電池120を製造する方法について説明する。図5から図7は、図2に示される全固体型二次電池120の製造方法を説明する図である。図5(a)は、基材102上に集電体層104が形成された状態を示す図である。図5(b)は、集電体層104が形成された基材102上に絶縁体層112が形成された状態を示す図である。図5(c)は、図5(b)に示される構造体の絶縁体層112上にマスク部材MKが配置された状態を示す図である。図5(d)は、マスク部材MKの開口APから絶縁体層112の内部に正極層106を形成するための材料が供給されている状態を示す図である。図6(a)は、図5(d)に示される状態からマスク部材MKを除去し、絶縁体層112の内部に正極層106を形成するための材料を適切に供給した状態を示す図である。図6(b)は、絶縁体層112の内部に供給された正極層106を形成するための材料に対してプレス加工を行っている状態を示す図である。図6(c)は、図6(b)に示されるプレス加工を行うことによって絶縁体層112内に正極層106が形成された状態を示す図である。図6(d)は、基材102上に位置する正極層106の露出面106Sの上に固体電解質層108を形成するための材料が接触配置された状態を示す図である。図7(a)は、基材102上に集電体層104、正極層106及び固体電解質層108が形成された状態を示す図である。図7(b)は、基材102上に位置する固体電解質層108の露出面108Sの上に負極層110を形成するための材料が接触配置された状態を示す図である。図7(c)は、負極層110を形成するための材料から負極層110が形成されて、全固体型二次電池120の構造が得られた状態を示す図である。
まず、図5(a)に示されるように、基材102上に集電体層104を形成する。このプロセスは、図3(a)を用いて説明したプロセスと共通であるから、詳細説明は省略する。次に、図5(b)に示されるように、集電体層104が形成された基材102上に絶縁体層112を形成する(絶縁体層形成工程)。絶縁体層112は、前述のように、枠状の構造を有し、その内部に上部が開口した中空部112Hを有する。換言すれば、中空部112Hは絶縁体層112の枠状の部分に取り囲まれた部分である。絶縁体層112の高さは限定されないが、例えば100μm程度又はそれ以上であることが好ましい。後述するように、絶縁体層112の中空部112H内を充填するように正極層106が形成されるため、絶縁体層112の高さが大きいことはすなわち正極層106が厚いことを意味する。絶縁体層112を構成する材料は、少なくとも絶縁体層112となった状態で絶縁性であること、上記のように適切な高さの状態を維持できること、後述するように内部に正極用材料AMを配置することが可能である程度に機械的強度を有していること、などを満たすように適宜設定される。後述するようにプレス加工を行う場合には、このプレス加工に耐えうる機械的強度を有しているべきである。
なお、図5(b)に示される絶縁体層112では、正極層106に電気的に接続する正極用集電体層104Aは、絶縁体層112の中空部112H内にも位置する。したがって、絶縁体層112は、基材102の上に設けられている部分と、正極用集電体層104Aの上に設けられている部分とを有する。すなわち、基材102は、絶縁体層112が形成される面に集電体層104のパターン(正極用集電体層104A、負極用集電体層104Bなど)を有し、絶縁体層112は集電体層104のパターン(具体的には正極用集電体層104A)と上面視で交差する部分を有するように形成されている。このように形成しておき、次に説明する第1供給工程を含む工程では、正極用材料AMからなる層を集電体層104のパターン(具体的には正極用集電体層104A)と電気的に接する部分を有するように形成する。このように成形することにより、集電体層104のパターン(具体的には正極用集電体層104A)は、後述する正極層形成工程で形成された正極層106と電気的に接続する部分を、絶縁体層112の周囲に有することができる。
このように絶縁体層112が形成されたら、図5(c)に示されるように、図5(b)に示される構造体(基材102、集電体層104及び絶縁体層112からなる。)の絶縁体層112の上(基材102に対向する側とは反対側の面側)に、マスク部材MKを配置する。マスク部材MKを構成する材料は限定されず、典型的には金属系材料(いわゆるメタルマスク)が例示される。この際、マスク部材MKの開口APと絶縁体層112の中空部112Hの開口とが適切に重なるように、マスク部材MKの開口APパターンは形成されている。このように配置することにより、絶縁体層112の中空部112Hとマスク部材MKの開口APに係る貫通中空部とが厚さ方向に連続した状態となる。
続いて、マスク部材MK側から正極用材料AM(第1材料)を供給して、絶縁体層112の中空部112H内に正極用材料AMを充填する(第1供給工程)。その際、マスク部材MKの構成部材が露出する面上にも正極用材料AMが載った状態となる。そこで、図5(d)に示されるように、ドクターブレードDBを用いて、マスク部材MKの露出面上に残留する正極用材料AMを除去する。こうして、絶縁体層112の中空部112H内に正極用材料AMからなる層(第1層)を形成することができる(第1層形成工程)。この正極用材料AMからなる層は、絶縁体層112の中空部112Hを形成する内壁に接する部分を有するため、この層の組成がどのような組成であってもその形状を維持することができる。
その後、図6(a)に示されるように、マスク部材MKを除去する。マスク部材MKの厚さがある程度厚い場合には、図6(a)に示されるように、絶縁体層112の中空部112H内に位置する正極用材料AMの層の露出面は、表面張力で絶縁体層112よりも盛り上がった状態となることもある。
こうして絶縁体層112の中空部112H内に正極用材料AMを適切に供給したら、図6(b)に示されるように、絶縁体層112の枠状の部分にプレス加工面を押し当てるように、プレス部材PDを配置して、絶縁体層112の中空部112H内に位置する正極用材料AMを加圧するとともに、加熱などを行って、図6(c)に示されるように、絶縁体層112の中空部112H内に正極層106を形成する(正極層形成工程)。正極用材料AMを加熱する場合の条件の具体例は前述のとおりである。このように正極用材料AMからなる層、すなわち正極層106となり得る層を押圧することにより、押圧された層が緻密化される。このため、形成された正極層106が緻密な層となり、リチウムイオン源の量が多い正極層106となる。このことにより、全固体型二次電池120の充放電特性を向上させることができる。
上記のように絶縁体層112に支えられた正極層106を基材102上に形成したら、図6(d)に示されるように、正極層106の露出面106S(図6(c)参照)の上に電解質用材料EM(第2材料)を接触配置させる(固体電解質層形成工程)。その後、全固体型二次電池100の製造方法の場合と同様に、電解質用材料EMから固体電解質層108を形成する。こうして、図7(a)に示されるように、基材102上に集電体層104、絶縁体層112に支えられた正極層106及び固体電解質層108が形成された状態に至ることができる。さらに、図7(b)に示されるように、基材102上に位置する固体電解質層108の露出面108Sの上に負極用材料CM(第3材料)を接触配置させる。そして、この負極用材料CMから負極層110を形成することにより、図7(c)に示される全固体型二次電池120が得られる(負極層形成工程)。
このような製造方法を採用することにより、正極用材料AMからなる層の厚さを、正極用材料AMの凝集力と無関係に設定することができる。したがって、正極層106の厚さを厚くすることができ、例えば100μm又はそれ以上の厚さの正極層106を得ることができる。全固体型二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池では、正極に含まれるリチウムイオン源の量が多いほど充放電特性を高めることができる。したがって、図2に示されるような積層構造を有する全固体型のリチウムイオン二次電池では、正極層106の体積が大きくなるほど正極層106に含まれるリチウムイオン源の量が増え、二次電池の充放電特性を向上させることができる。それゆえ、上記のように、絶縁体層112を備えて正極層106の厚さを増やすことができることは、全固体型リチウムイオン二次電池の充放電特性を高める観点から好ましい。
また、枠状の絶縁体層112の中空部112H内に正極用材料AMを供給すれば、正極用材料AMの形状は絶縁体層112の中空部112Hの形状によって規定されることになるため、正極用材料AMの組成を、形成される正極用材料AMの層の厚さを勘案することなく設定することができる。例えば、正極用材料AMに含有される正極ポリマーの含有量を相対的に少なくして、相対的に正極活物質の含有量を高めてもよい。そのようにすることによって、正極用材料AMからなる層から形成される正極層106における正極活物質の含有量を高めることができる。あるいは、正極用材料AMに含有される正極ポリマーの含有量を相対的に多くして、集電体層104や固体電解質層108に対する正極層106の密着性を向上させてもよい。
特に、正極ポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合には、正極ポリマーがエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体からなる場合に比べて、得られた正極層106におけるリチウムイオンのイオン伝導度が低くなる傾向がある。したがって、正極ポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合には、正極ポリマーの含有量は高くないことが好ましい。正極ポリマーの含有量が低いことは正極用材料AMの凝集力を高める観点からは好ましいことでなく、それゆえ、かかる正極用材料AMからなる層を単独で厚く形成することは容易でない。しかしながら、上記のように、絶縁体層112の中空部112H内に正極層106を供給することによって正極用材料AMからなる層を形成する場合には、正極用材料AMからなる層の凝集力が低くても、この層の厚さを任意に設定することができる。
また、正極ポリマーとしてフッ素含有ポリマーが用いられた場合には、正極用材料AMの凝集力が低下するため印刷技術などでは正極用材料AMからなる層を形成することが困難である。すなわち、正極用材料AMからなる層を、印刷技術を用いて多層構造として形成する場合には、まず、基材102の上(具体的には正極用集電体層104Aの露出面の上)に形成された正極用材料AMからなる層(下層)の上に、スクリーンのメッシュを通過させて正極用材料AMを供給する。そして、この下層の上に供給された正極用材料AMからスクリーンの面が剥離することにより、新たな正極用材料AMからなる層(上層)が形成されるプロセスが行われる。しかしながら、正極ポリマーとしてフッ素含有ポリマーが用いられた場合には、正極用材料AMの凝集力が低いため、正極用材料AMからなる下層の上に供給された正極用材料AMとスクリーンの面との間で剥離よりも、この下層の上に供給された正極用材料AMの内部での凝集破壊が優先的に生じてしまう。このため、正極用材料AMからなる上層が適切に形成されなくなってしまう。
しかしながら、上記の製造方法では、正極用材料AMからなる層の形状を維持することに正極ポリマーは寄与しない。このため、正極ポリマーの組成及び正極用材料AMにおける正極ポリマーの含有量の影響も受けずに、正極用材料AMからなる層を形成できる。したがって、正極ポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合であっても、正極ポリマーの含有量を過度に高めることなく正極層106の厚さを増やすことが可能である。それゆえ、本発明に係る製造方法によれば、正極ポリマーがフッ素含有ポリマーからなる場合であっても、リチウムイオン源の含有量を適切に増やした正極層を形成することができる。
上記の製造方法において、正極層106に接触配置される電解質ポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であるとともに、固体電解質層108に接触配置される負極ポリマーはフッ素含有ポリマーであることが好ましい。正極ポリマーと電解質ポリマーとが非相溶性であり、負極ポリマーと電解質ポリマーとが非相溶性なので、正極層106、固体電解質層108及び正極層106からなる積層構造を形成する際に、互いに相溶することが少ない。このため、リチウムイオン源の移動が、正極層106と固体電解質層108との間、及び固体電解質層108と負極層110との間で生じにくくなる。それゆえ、正極層106と負極層110との間に短絡が生じにくくなる。
図8(a)は、図2に示される全固体型二次電池120の変形例となる全固体型二次電池を示す断面図である。図8(b)は、図8(a)に示される全固体型二次電池121の製造方法を説明するための図であって、図7(b)に対応する工程が行われている状態を示す図である。
図8(a)に示されるように、全固体型二次電池121は、全固体型二次電池120と基本構造は共通であり、負極層110に電気的に接続する集電体層(負極用集電体層104B)を有しない点で、全固体型二次電池120と相違する。この相違点に伴い、全固体型二次電池121は、全固体型二次電池120との対比で、絶縁体層112の形状が変更されている。具体的には、絶縁体層112が枠状の部分の幅が広い部分(幅広部分)を有し、幅広部分の上面には負極層110が形成されていない部分がある。このような構造を有する場合には、集電体層104を介さず、負極層110から外部へ接続する端子につながる配線を負極層110に直接的に接続してもよい。全固体型二次電池120では、絶縁体層112の枠状の部分の厚さが大きくなると、負極層110では集電体層104へと連絡するために絶縁体層112の外壁を垂れ下がる部分(垂れ下がり部分)が長くなる。負極層110を構成する材料の機械的強度は必ずしも高くないため、垂れ下がり部分が長くなると、ここで亀裂が生じやすくなる。この亀裂は接続不良をもたらし、電池の動作不良をもたらす。全固体型二次電池121は負極層110に垂れ下がり部分を有しないため、上記の亀裂に基づく接続不良を防止することができる。
図8(a)に示される全固体型二次電池121の製造方法は、基本的には、図2に示される全固体型二次電池120の製造方法に等しい。全固体型二次電池120の対比で全固体型二次電池121は絶縁体層112の形状が異なること、具体的には上記の幅広部分を有することにより、次の点で相違する。すなわち、図8(b)に示されるように、全固体型二次電池120の製造方法では図7(b)に相当する工程において、基材102上に位置する固体電解質層108の露出面108Sの上に負極用材料CM(第3材料)を接触配置させる際に、負極用材料CMを負極用集電体層104Bの上には供給せず、絶縁体層112の幅広部分の上面に供給するにとどめる。この状態で負極用材料CMから負極層110を形成することにより、図8(a)に示される全固体型二次電池120が得られる
図9及び図10は、図2に示される全固体型二次電池120の他の変形例となる全固体型二次電池の製造方法を説明するための図である。図9(a)は、図2に示される全固体型二次電池120の変形例となる全固体型二次電池を説明するための断面図である。図9(b)は、マスク部材MKを用いて絶縁体層112の内部に正極層106を形成するための材料の一種を供給した状態を示す図である。図9(c)は、図9(b)に示される状態からは正極層106を形成するための材料の別の一種をさらに供給した状態を示す図である。図10(a)は、図8(c)に示される状態から正極層106を形成するための材料からなる層に対してプレス加工を行っている状態を示す図である。図10(b)は、図10(a)に示されるプレス加工を行ったことにより正極層106を形成するための材料からなる層から正極層106が形成された状態を示す図である。図10(c)は、プレス加工が終了して絶縁体層112の内部に積層構造を有する正極層106が配置されている状態を示す図である。
図9(a)に示される全固体型二次電池130は、基本的な構造は図2に示される全固体型二次電池120と同様であるが、正極層106が第1正極層106Aと第2正極層106Bとからなる積層構造を有する点が相違する。全固体型二次電池130の製造方法は、全固体型二次電池120の製造方法との対比で、この積層構造を有する正極層106を製造する工程のみが異なる。
まず、全固体型二次電池120の製造方法と同様の方法を実施して、基材102上に集電体層104及び絶縁体層112を形成する。次に、絶縁体層112上にマスク部材MKを配置して、第2正極層106Bを形成するための材料である第2正極用材料AM2を供給する。そして、絶縁体層112からマスク部材MKを離間させると、図9(b)に示されるように、絶縁体層112の中空部112H内を満たすように第2正極用材料AM2からなる層(第2層)が形成される(第2層形成工程)。
こうして形成された第2正極用材料AM2からなる層の上に、印刷などの手段により、第1正極層106Aを形成するための材料である第1正極用材料AM1を接触配置して、図9(c)に示されるように第1正極用材料AM1からなる層(第1層)を形成する(第1供給工程)。
次に、図10(a)に示されるように、絶縁体層112の枠状の部分にプレス加工面を押し当てるように、プレス部材PDを配置して、第1正極用材料AM1を絶縁体層112の中空部112H内に埋め込み、これに伴い、絶縁体層112の中空部112H内に位置する第2正極用材料AM2からなる層を加圧する。この状態で加熱などを行って、図10(b)に示されるように、第1正極層106A及び第2正極層106Bの積層体からなる正極層106を、絶縁体層112の中空部112H内に形成する(第1層形成工程)。
以降は、図6(d)から図7(b)を用いて説明したように、正極層106の露出面106S上に電解質用材料EMを接触配置することを含んで正極層106上に固体電解質層108を形成し、この固体電解質層108の露出面108S上に負極用材料CMを接触配置することを含んで固体電解質層108上に負極層110を形成することにより、図9(a)に示される構造を有する全固体型二次電池130を得ることができる。
上記の全固体型二次電池130の製造方法においても、全固体型二次電池120の製造方法の場合と同様に、正極ポリマーはフッ素含有ポリマーであることが好ましく、電解質ポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であるとともに、負極ポリマーはフッ素含有ポリマーであることが好ましい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
例えば、上記の全固体型二次電池130において、第1正極用材料AM1の組成と第2正極用材料AM2の組成とが等しくてもよい。この場合において、プレス工程の前に、少なくとも一部が絶縁体層112の中空部112H内に位置する第1正極用材料AM1の層(第1層)上に第1正極用材料AM1(第1材料)を配置してもよい(第2供給工程)。このようにすることによって、絶縁体層112の中空部112H内に形成される正極層106を緻密な層にすることができる。
100,120,121,130 :全固体型二次電池
102 :基材
104 :集電体層
104A :正極用集電体層
104B :負極用集電体層
104S :集電体層の露出面
106 :正極層
106A :第1正極層
106B :第2正極層
106S :正極層の露出面
108 :固体電解質層
108S :固体電解質層の露出面
110 :負極層
112 :絶縁体層
112H :中空部
AM :正極用材料
AM1 :第1正極用材料
AM2 :第2正極用材料
CM :負極用材料
EM :電解質用材料
MK :マスク部材
AP :マスク部材の開口
DB :ドクターブレード
PD :プレス部材
102 :基材
104 :集電体層
104A :正極用集電体層
104B :負極用集電体層
104S :集電体層の露出面
106 :正極層
106A :第1正極層
106B :第2正極層
106S :正極層の露出面
108 :固体電解質層
108S :固体電解質層の露出面
110 :負極層
112 :絶縁体層
112H :中空部
AM :正極用材料
AM1 :第1正極用材料
AM2 :第2正極用材料
CM :負極用材料
EM :電解質用材料
MK :マスク部材
AP :マスク部材の開口
DB :ドクターブレード
PD :プレス部材
Claims (14)
- ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられた正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池であって、
前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性であることを特徴とする全固体型二次電池。 - 前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれよりも親水性が高いことを特徴とする請求項1に記載の全固体型二次電池。
- 前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーは、いずれも単量体がフッ素含有化合物を含む重合体からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の全固体型二次電池。
- 前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、エチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の全固体型二次電池。
- 前記正極層がマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を含んでおり、
前記負極層が炭素系材料を含んでおり、
前記固体電解質層がリチウムイオン導電性の酸化物を含むことを特徴とする請求項4に記載の全固体型二次電池。 - ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられた正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池の製造方法であって、
前記固体電解質層のマトリックスポリマーは、前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーのいずれに対しても非相溶性であり、
前記正極層及び前記負極層のいずれか一方を基材に形成する第1電極層形成工程と、
該第1電極層形成工程で形成された層の露出面に、前記固体電解質層を形成する電解質層形成工程と、
該電解質層形成工程で形成された前記固体電解質層の露出面に、前記正極層及び前記負極層の他方を形成する第2電極層形成工程と、を備え、
前記電解質層形成工程では、前記正極層及び前記負極層のいずれか一方の層の露出面に、前記固体電解質層を形成するための材料を接触配置して、その材料から、前記固体電解質層を形成すること、及び、
前記第2電極層形成工程では、前記固体電解質層の露出面に、前記正極層及び前記負極層の他方を形成するための材料を接触配置して、その材料から、前記正極層及び前記負極層の他方の層を形成すること、
の少なくとも一方を行うことを特徴とする全固体型二次電池の製造方法。 - 前記正極層のマトリックスポリマー及び前記負極層のマトリックスポリマーは単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であることを特徴とする請求項6に記載の全固体型二次電池の製造方法。
- ポリマー電解質を有した固体電解質層と、該固体電解質層の厚さ方向の一面側に設けられリチウムイオン源及びマトリックスポリマーを含む正極層と、前記固体電解質層の他面側に設けられた負極層と、を備えた全固体型二次電池の製造方法であって、
基材の上に、前記正極層に対応する形状を有する中空部を取り囲む枠状の絶縁体層を形成する絶縁体層形成工程と、
前記絶縁体層の前記中空部内に、前記正極層の少なくとも一部を形成するための材料である第1材料を配置する第1供給工程と、
該第1材料からなり前記絶縁体層の前記中空部を形成する内壁に接する部分を有する層である第1層を形成する第1層形成工程と、
前記第1層から前記正極層の少なくとも一部を形成する正極層形成工程と、
前記正極層の上に前記固体電解質層を形成するための材料である第2材料を供給して、前記正極層に接するように前記固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程と、
前記固体電解質層の上に前記負極層を形成するための材料である第3材料を供給して、前記固体電解質層に接するように前記負極層を形成する負極層形成工程と、
を備えることを特徴とする全固体型二次電池の製造方法。 - 前記正極層形成工程には、少なくとも前記第1層を含む層を押圧するプレス工程を有していることを特徴とする請求項8に記載の全固体型二次電池の製造方法。
- 前記プレス工程の前に、前記第1層上に前記第1材料を配置する第2供給工程を有していることを特徴とする請求項9に記載の全固体型二次電池の製造方法。
- 前記基材は、前記絶縁体層が形成される面に集電体層のパターンを有し、前記絶縁体層形成工程では、前記絶縁体層は前記集電体層のパターンと上面視で交差する部分を有するように形成されるとともに、前記第1供給工程では、前記第1層は前記集電体層のパターンと電気的に接する部分を有するように形成されることにより、前記集電体層のパターンは、前記正極層形成工程で形成された前記正極層と電気的に接続する部分を、前記絶縁体層の周囲に有することを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれかに記載の全固体型二次電池の製造方法。
- 前記正極層は、前記第1層から形成される第1正極層及び前記第1層に接し第2層から形成される第2正極層を含む複数の層の積層構造を有し、
前記絶縁体層形成工程と前記第1供給工程との間に、
前記絶縁体層の中空部の一部を満たすように前記第2層を形成する第2層形成工程を備え、
前記第1供給工程では、その一部に前記第2層が位置する前記絶縁体層の前記中空部の内部に前記第1材料を供給することを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれかに記載の全固体型二次電池の製造方法。 - 前記第1材料に含有されるマトリックスポリマーは、単量体がフッ素含有化合物を含む重合体であることを特徴とする請求項8ないし請求項12のいずれかに記載の全固体型二次電池の製造方法。
- 前記第2材料に含有されるマトリックスポリマーはエチレンオキサイドプロピレンオキサイド共重合体であるとともに、
前記第3材料に含有されるマトリックスポリマーは単量体がフッ素含有化合物を含む重合体からなることを特徴とする請求項13に記載の全固体型二次電池の製造方法。
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CN113991170B (zh) * | 2021-10-15 | 2023-09-05 | 深圳大学 | 全固态电池 |
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