図1は、建物内の異なる階の乗降口2,3の間で乗客を輸送するためのエスカレータ1の側面図を概略的に説明する。エスカレータ1は、乗客への支持を提供するようエスカレータ1に沿って移動する手すり4を含む。エスカレータ1は、エスカレータ1の操作を制御するためのコントローラ25及び手すり4を所望の方向に前進させるための駆動機構5を含む。駆動機構5は、ループ周りで手すり4の所望の移動を引き起こすよう手すり4に係合する滑車6を含む。図1に示されるように、手すり4は、手すり4内の鋼線における破断を検知するための本発明に従う内蔵型抵抗ベースの検査(resistance based inspection,RBI)装置7を備え、以下にさらに詳細に記述される。1つの実施形態では、非接触型電源装置8は、手すり4の外側からRBI装置7に電力を供給するためにエスカレータトラス9内に手すり4に近接して配置される。
図2は、本発明に従う非接触型電源装置8の外観斜視図を説明する。非接触型電源装置8は、トラス9内の手すり4の移動方向に沿って連続的に配置された一列の電力送信コイル10を備える。図2に示されるように、非接触型電源装置8は、エスカレータ1内の電源に連結される。非接触型電源装置8は、非接触型電源装置8が非接触形式でRBI装置7に電力を適切に供給できる限りエスカレータ1内の任意の所望の位置に配置され得ることがわかる。
図3は、本発明に従う内蔵型RBI装置7の概略斜視図を説明する。1つの実施形態では、内蔵型RBI装置7は、C形状の断面を持つ手すり4に組み込まれ、手すり4に強度と剛性を供給するために互いに平行に配置され、かつ手すり4の長手方向に延びる複数の鋼線11と電気接続する。
図4Aは本発明に従う内蔵型RBI装置7を含む手すり4の上面図であり、図4Bは本発明に従う内蔵型RBI装置7を含む手すり4の縦断面図である。図4A及び4Bに示されるように、RBI装置7は、手すり4内の各電線端子ホルダ12を介して鋼線11に電気接続され、かつポリマーコーティング13で手すり4の外面と一体的にコーティングされる。好ましくは、RBI装置7は、駆動機構5における様々な滑車6の周囲で曲がるよう十分な柔軟性を供給するためにフレキシブル回路基板を備える。しかしながら、任意の回路基板がフレキシブル回路基板の代わりに用いられてもよい。ポリマーコーティング13が合成ゴムといった手すり4のジャケットと同じ組成であってもよく、または所望の組成であってもよいことがわかる。
図5は、本発明に従う各鋼線11とRBI装置7間の電気接続の実施例を概略的に示す。複数の鋼線11は、互いに平行に配置され、かつ手すり4のポリマージャケットに包まれる。図5に示されるように、各鋼線11は、ループを形成するよう電線端子ホルダ12によって両端で共に結合される。電線端子ホルダ12は、セラミックといった任意の適切な絶縁材料で形成され、かつループにおける鋼線11の両端を電気的に分離するよう構成される。
1つの実施例では、鋼線11の各端部は、セラミックといった絶縁材料によって同様に形成される電気的絶縁アンカー14を備える。電線端子ホルダ12は、互いから分離しており、かつアンカー14の形状に対応した形状である一対の凹部15を含み、それによって鋼線11の両端部における一対の電気絶縁アンカー14がループを形成するときに鋼線11の両端部間に電気絶縁結合部を供給するよう各凹部15へと挿入される。鋼線11へ十分な張力を供給しながら鋼線11の両端部を電気的に分離するよう構成される限り、任意の構成が電線端子ホルダ12へと適用されてもよいことがわかる。さらに、電気絶縁アンカー14は、鋼線の張力を調整するために任意のタイプの調節クランプを備えてもよい。
さらに、鋼線11の各端部は、RBI装置7の対応する電気接点16に接続される。後に記述されるように、各鋼線11は、鋼線11の抵抗を計測するためにRBI装置7を介してのみ線11の両端で電気接続されるよう構成される。
図6は、本発明の実施形態に従うRBI装置7の構成を示すブロック図である。RBI装置7は、図7と共に後に記述されるように本発明の抵抗計測アルゴリズムに従って計算を実行するためのCPU17と、計算を実行するのに用いられるデータを格納するためのメモリ18と、RBI装置7の動作のための電源ユニット19と、非接触型電源装置8から電力を受けるよう構成された非接触型受電ユニット20と、アナログ値をデジタル値へと変換するためのA/D変換器21と、エスカレータ1のコントローラ25へとデータを送信/エスカレータ1のコントローラ25からデータを受信するための無線通信ユニット22と、非接触型電源装置8からの電力を蓄えるための蓄電ユニット23(例えばコンデンサ)と、各鋼線11を通じて流れる電流の抵抗値を計測するための抵抗計測ユニット24とを含む。好適な実施形態では、各ユニット17〜24は、フレキシブル回路基板に取り付けられる。
エスカレータ1の動作中、図1に示されるように手すり4に組み込まれたRBI装置7が非接触型電源装置8を通過するとき、電力が非接触型電源装置8から非接触型受電ユニット20へと供給され、RBI装置7(電源ユニット19)が起動する。RBI装置7が起動するとき、CPU17は抵抗計測アルゴリズムを開始し、抵抗計測ユニット24は手すり4に組み込まれた各鋼線11を通じて微弱電流を伝え、各鋼線11の抵抗値を計測する。抵抗計測ユニット24によって計測された抵抗値は、無線通信ユニット22を通じてエスカレータ1のコントローラ25へと直ちに送信される。無線通信ユニット22は、Wi−Fi、赤外線通信、ブルートゥース等の任意の適切な通信手段を含んでもよい。
以下に図8を参照しながら詳述するように、エスカレータ1のコントローラ25はその後、RBI装置7によって計測された各鋼線11の抵抗値が正常であるかどうかを判断する。鋼線が腐食、金属疲労等によって損傷しているかまたは破断している場合、鋼線11の断面領域が減少するにつれて鋼線11を通じて流れる電流の抵抗は増加する。各鋼線11を通じて流れる電流の抵抗を計測することで、手すりの外面からの鋼線突出または鋼線の完全切断が起こる前に鋼線における欠陥を検知することができる。特に、鋼線11が手すり内で完全に切断されると、抵抗値は無限大となるため、よって内蔵型RBI装置7はあまり複雑でない構造で手すり4内の鋼線11における欠陥状態を容易に検知することができる。
本発明に従って、内蔵型RBI装置7は、手すり4に組み込まれた鋼線11の破断によって鋼線が手すり4の外面から突出するリスクを事前に検知することができ、それにより鋼線11の突出によって怪我をする可能性を防ぐ。
図7は、本発明に従う内蔵型RBI装置7によって実行された例示的抵抗計測プロセスのフローチャートである。フローは、RBI装置7が手すり4のループに沿って移動するステップ101で始まる。フローはその後、RBI装置7が非接触型電源装置8を通り過ぎたことを判断するステップ102へと進む。RBI装置7が非接触型電源装置8を通り過ぎていない場合、その後フローはRBI装置7が動作しているかどうかを判断するステップ105へと進む。RBI装置7が動作している場合、その後ステップ106でアルゴリズムはRBI装置7を停止し、プロセスを繰り返すようステップ101へと戻る。RBI装置7が動作していない場合、フローはプロセスを繰り返すようステップ101へと戻る。
ステップ102では、RBI装置が非接触型電源装置8を通過した場合、フローは非接触型電源装置8からRBI装置7へと電力を供給するステップ103へと進み、次にRBI装置7が各鋼線11の抵抗計測の動作のための十分なエネルギーがあるかを判断するステップ104へと続く。十分なエネルギーがない場合、プロセスを繰り返すよう、すなわち、RBI装置7を再充電するようステップ101へと進む。RBI装置7がステップ104で抵抗計測のための十分なエネルギーがある場合、フローはRBI装置7が動作しているかどうかを判断するステップ107へと進む。RBI装置が既に動作していた場合、すなわち抵抗が既に以前の段階で計測されていた場合、フローはプロセスを再開するようステップ101へと進む。RBI装置7が動作していない場合、RBI装置7の動作を開始するようステップ108へと進む。続いて、RBI装置7はステップ109で各鋼線11を通じて微弱電流を流すことで各鋼線11の抵抗値を計測する。ステップ110では、各鋼線11の計測された抵抗値が、図8に示されるさらなるプロセスのためにエスカレータ1のメインコントローラ25に無線送信される。ステップ110の実行に続き、アルゴリズムはプロセスを繰り返すようステップ101へと戻る。
図8は、エスカレータ1のコントローラ25によって実行された例示的動作のフローチャートである。プロセスは、コントローラ25が、そのメモリに通常格納されるRBI装置7から送信された抵抗データを読み取るステップ201で始まる。続いて、コントローラ25は、ステップ202で鋼線11における欠陥を検知するための有効な参照データがあるかどうかを判断する、すなわち鋼線11の正常状態の参照データが生成されるよう十分な数の抵抗値が存在するかどうかを判断する。正常な状態で生成された参照データは、RBI装置7から送信された現在の抵抗値の比較のために用いられる。鋼線11における欠陥を検知するための有効な参照データがない場合、フローは正常状態、すなわち初期状態の鋼線11の参照データを生成するステップ203へと進む。
ここで図9は、エスカレータ1の設置後または手すり4の修理、交換等の後にメモリに格納された参照データがリセットされたときに、動作中数回実行され得る図8からのステップ203における詳細を説明する。このステップは、各鋼線11の十分な数の初期抵抗値を収集し、かつ初期状態で収集された鋼線11の抵抗値に基づく鋼線11の正常状態の参照データを生成するために実行される。
プロセスは、コントローラ25がRBI装置7から抵抗値を受信したかを確認するステップ301で始まる。ステップ302でRBI装置7から抵抗値を受信しなかった場合、アルゴリズムはコントローラ25が抵抗データを受信するまでプロセスを繰り返すようステップ301に戻る。ステップ302では、コントローラ25がRBI装置7から抵抗値を受信した場合、コントローラ25はステップ303で抵抗値をメモリに格納し、その後ステップ304に進む。ステップ304では、メモリに格納されたデータ量が規定の量に達した場合、コントローラ25はステップ305で正常状態の鋼線11の参照値を生成する。正常状態の参照データは、例えば、初期状態で収集された鋼線11の抵抗値の全てにおける平均値、初期状態で収集された抵抗値の標準偏差等を含んでもよい。ステップ304でデータ量が規定の量に達していない場合、プロセスを繰り返すようアルゴリズムはステップ301へと戻る。ステップ305の実行に続き、アルゴリズムは図8のステップ201へと戻る。
図8を再度参照すると、ステップ202では、鋼線11における欠陥を検知するための有効な参照データがある場合、プロセスはその後、コントローラ25がRBI装置7から現在の抵抗値を受信したかを確認するステップ204へと進む。ステップ205でRBI装置7から抵抗値を受信しなかった場合、アルゴリズムはコントローラ25が現在の抵抗データを受信するまでプロセスを繰り返すようステップ204に戻る。ステップ205では、コントローラ25がRBI装置7から鋼線11の現在の抵抗値を受信した場合、コントローラ25はステップ206で現在の抵抗値を読み取る。
ステップ207では、鋼線11の現在の抵抗値が正常状態の参照データと比較される。ステップ208では、各鋼線11の現在の抵抗値が参照データの閾値範囲内にある場合、その後各鋼線11の現在の抵抗値は正常な状態にあると判断される。言い換えると、コントローラ25は鋼線11に欠陥が見つからなかったと判断する。閾値範囲は、限定されないが、初期状態で収集された鋼線11の抵抗値の全てにおける平均値及び初期状態で収集された抵抗値の標準偏差を含む、正常な状態での参照データに基づいてステップ203で判断されてもよい。あるいは、閾値範囲は、正常な状態での参照データにかかわらずエスカレータ1の設置においてあらかじめ設定されてもよい。ステップ208の実行に続き、アルゴリズムはプロセスを繰り返すようステップ201へと戻る。
いずれかの鋼線11の現在の抵抗値がステップ208で閾値範囲を越える場合、コントローラ25はステップ209で鋼線11のいずれかに欠陥が見つかったと判断する。欠陥は、腐食、金属疲労等から生じた任意のタイプの破断並びに鋼線11の完全な切断を含んでもよい。
続いて、コントローラ25はステップ210で現在の抵抗値が無限大に増加するかを判断する。鋼線11のいずれかが無限大の抵抗を有する場合、コントローラ25は手すり4内で鋼線11のいずれかが完全に切断されていると判断し、コントローラ25は検査のために直ちに遠隔監視システムに警告を送信する。ステップ211の実行に続き、プロセスはステップ212で完了する。
一方、ステップ210で無限大の抵抗を有した鋼線11がない場合、コントローラ25は鋼線11のいずれかに破断が見つかったと判断し、コントローラ25は欠陥のある鋼線11の状態を監視するよう整備士に促すために遠隔監視システムに注意信号を送信する(ステップ213)。アルゴリズムはプロセスを繰り返すようステップ204へと戻る。
整備士がコンピュータを用いて有線または無線接続のいずれかで検査中にエスカレータ1から直接必要なデータを得ることができるよう、ステップ211及び213での計測結果はエスカレータ1のコントローラ25におけるメモリに格納される。警戒/注意信号は、有線または無線接続であるかどうかにかかわらず従来既知の任意の方法でエスカレータ管理会社の整備士または遠隔監視システムに送信されてもよいことがわかる。
各鋼線11の計測された抵抗値がステップ110で個別にコントローラ25に送信される実施形態を参照して本発明が記述されてきたが、鋼線11の計測された抵抗値は、1つの合計信号としてコントローラ25に送信されてもよい。そういった実施形態では、合計信号はコントローラ25に送信され、その後抵抗値の総合計はステップ208で事前設定された閾値と比較されてもよい。
さらに、または代替的に、コントローラ25はさらに欠陥のある鋼線11の抵抗変化を監視することを含んでもよい。図10は、エスカレータ1のコントローラ25によって実行される、ステップ213で破断が見つかった鋼線11の現在の状態とこれらの鋼線11における以前の状態とを比較する例示的動作のフローチャートを説明する。プロセスは、コントローラ25が欠陥のある鋼線11の現在の抵抗値を読み取るステップ401で始まる。ステップ402では、コントローラ25は欠陥のある鋼線11の現在抵抗値をこれらの鋼線11の以前の抵抗値と比較する。現在の抵抗値が以前の抵抗値から変化していない場合、その後アルゴリズムはプロセスを繰り返すようステップ401へと戻る。
一方、コントローラ25がステップ402でいずれかの欠陥のある鋼線11の現在抵抗値が以前の現在抵抗値から増加していたと検知した場合、コントローラ25は欠陥のある鋼線11における破断が大きくなっていると判断する。コントローラ25は、ステップ403で欠陥のある鋼線11の現在状態をメモリに記録する。続いて、コントローラ25は、欠陥のある鋼線11における破断レベルをさらに監視するようステップ404で欠陥のある鋼線11の現在の状態を遠隔監視システムに送信する。アルゴリズムはプロセスを繰り返すようステップ401へと戻る。
本発明により、手すりの外面からの鋼線突出または鋼線の完全切断が起こる前に、鋼線における小さな欠陥でさえも、さほど複雑でない構造で容易に検知することができる。これは、本発明の無線内蔵型抵抗ベースの検査(RBI)装置を用いて各鋼線11を通じて流れる電流の抵抗を計測することで達成される。
本発明がエスカレータ1を参照して記述されたが、本発明のRBI装置は、動く歩道といったような、鋼線がポリマージャケットに組み込まれた任意のシステムに適用されてもよいことがわかる。
本発明が図面に説明されるような例示的実施形態を参照して特に示され、記述されてきた一方で、付属の特許請求に開示されるような本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修正が行われてもよいことが当業者には認識されよう。