以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
本発明に係るインク容器の一態様は、インク組成物を吐出する記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置に装着されるインク容器であって、前記インク容器は、前記インク組成物を収容可能なインク室と、該インク室に前記インク組成物を補充可能なインク注入口と、を有し、前記インク室には、該インク室を区画する壁の内側に接続され、該インク室を区画する壁を支持する支持体が設けられ、前記記録ヘッドに前記インク組成物を供給する際の前記インク容器の姿勢において、前記インク室の容積の50%のインク組成物を充填した場合に、前記支持体とインク組成物が接触する面積は、前記支持体と大気が接触する面積よりも大きいことを特徴とする。
以下、本実施形態に係るインク容器が搭載されたインクジェット記録装置を例に挙げて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置の構造の理解を容易にするために、尺度を適宜変更している場合がある。
1.インクジェット記録装置
図1は、インクジェット記録装置1を模式的に示す斜視図である。具体的には、図1(A)は、インク容器30(図1(B)参照)が容器収容ケース51に収容された状態を示すものである。図1(B)は、容器収容ケース51が取り外された状態を示すものである。図1には、互いに直交するXYZ軸が描かれている。図1のXYZ軸は、他の図のXYZ軸に対応しており、これ以降に示す図についても必要に応じてXYZ軸を付している。本実施形態においては、X軸は、キャリッジ16の移動方向に対応しており、Y軸は、使用状態において複数のインク容器30が並ぶ方向に対応している。Z軸は、鉛直方向(重力方向)に対応している。
図2は、インクジェット記録装置1の記録ユニット12が記録ユニット収容ケース10に収納された状態を模式的に示す斜視図である。具体的には、図2(A)は、インクジェット記録装置1の使用状態(後述)を示すものであり、図2(B)は、インクジェット記録装置1の注入状態(後述)を示すものである。
図1および図2に示すように、インクジェット記録装置1は、記録媒体上に画像を記録する記録ユニット12と、インク供給管24を介して記録ユニット12のサブタンク20にインクを供給するインク収容ユニット50と、を有する。
1.1.記録ユニット
記録ユニット12は、インク組成物(以下、単に「インク」ともいう。)の液滴を吐出して記録媒体上に画像を記録する記録ヘッド17と、インク供給管を介して供給されたインクを一時的に貯留するサブタンク20と、サブタンク20および記録ヘッド17を搭載してX軸方向に往復動可能なキャリッジ16と、記録媒体を給紙する給紙口13と、記録媒体を排紙する排紙口14と、を有する。記録ユニット12は、図2に示すように、記録ユニット収容ケース10に収容される。
記録ヘッド17は、記録媒体の記録面と対向する位置に設けられたノズル面(図示せず)を有し、当該ノズル面に設けられた複数のノズル(図示せず)から液滴状にしたインクを吐出して、記録媒体の記録面に付着させる。
インクジェット記録方式としては、次に説明するように様々なものがあるが、いずれの方式を用いてもよい。例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に吐出させ、インクの液滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインクの液滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインクの液滴を吐出させる方式、インクに圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式)、インクを印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等を用いることができる。
サブタンク20は、インク供給管24を介して、インク容器30と接続されており、インク容器30内に収容されたインクを一時的に貯留して、記録ヘッドに供給する。図1の例では、サブタンク20は、インク容器30に収容されるインクに対応するように、色毎に4つのサブタンク20Bk、20Cn、20Ma、20Ywが設けられている。サブタンク20を構成する材料としては、特に限定されないが、例えばポリスチレンやポリエチレン等の合成樹脂が挙げられる。本実施形態では、サブタンク20を有するインクジェット記録装置1を例に挙げて説明するが、これに限定されない。例えば、サブタンク20を有さずに記録ヘッド17とインク容器30がインク供給管24を介して直接接続された態様であってもよい。
キャリッジ16は、記録ヘッド17およびサブタンク20を搭載し、モーターやタイミングベルト等からなるキャリッジ移動機構(図示せず)により、X軸に沿って往復動するものである。このようなキャリッジ16の移動に伴って、記録ヘッド17もX軸方向に沿って往復動するので、記録媒体へのX軸方向への画像の記録は、キャリッジ16の移動に伴う記録ヘッド17のインクの吐出により行われる。本実施形態では、いわゆるシリアルヘッドタイプのインクジェット記録装置を例に挙げて説明するが、これに限定されず、本発明に係るインク容器は、いわゆるラインヘッドタイプのインクジェット記録装置にも適用できる。
排紙口14は、インクジェット記録装置1の前面に設けられている。また、給紙口13は、インクジェット記録装置1の背面側に設けられている。給紙口13に記録媒体をセットして記録動作を実行することで給紙口13から記録媒体が給紙され、内部で画像等が記録された後、排紙口14から印刷用紙が排出される。記録媒体の搬送は、Y軸方向に紙送りするための紙送り機構(図示せず)によって行うことができる。このように、記録媒体へのY軸方向への画像の記録は、紙送り機構による記録媒体の移動に伴う記録ヘッド17のインクの吐出により行うことができる。
記録ユニット12は、インクジェット記録装置1の全体の動作を制御する制御部(図示せず)を有する。制御部は、例えばCPUとROMとRAMとを備えていてもよい。制御部は、キャリッジ16を往復動させる動作や、記録媒体を紙送りする動作、記録ヘッド17からインクを吐出する動作、インク容器30からサブタンク20(記録ヘッド17)にインクを供給する動作などの全ての動作を制御する。
1.2.インク収容ユニットおよびインク供給管
インク収容ユニット50は、複数のインク容器30と、インク容器30を収容する容器収容ケース51とを有する。インク収容ユニット50は、記録ユニット収容ケース10の外側に設けられる。容器収容ケース51は、インク容器30を保持したまま、記録ユニット収容ケース10の側面から取り外すことができる。また、容器収容ケース51は、開閉可能な上面ケース54を備えている。
インク収容ユニット50は、インクジェット記録装置1を正面から(−Y軸方向から+Y軸方向に)みた場合に、記録ユニット収容ケース10の左側面に隣接して(記録ユニット収容ケース10の−X軸方向側)に設けられている。このように、インク収容ユニット50が記録ユニット収容ケース10の外側に設けられることで、記録ユニット13と一緒に収容ケース10の内部に設けられる場合と比べて、空間的な制約が少なくなる。よって、より連続供給型のインク容器30を設けることが可能となる。インク容器30は、サブタンク20に比べて多くの量のインクを収容できる。
インク供給管24は、複数のインク容器30毎に設けられており、各インク容器30と各サブタンク20(記録ヘッド17)を接続して、各インク容器30内のインクを各サブタンク20(記録ヘッド17)に供給するインク流路の一部を構成する。インク供給管24としては、例えばチューブ状の可撓性の部材(例えばゴム、エラストマー等)を用いることができる。記録ヘッド17からインクが吐出されてサブタンク20のインクが消費されると、インク供給管24を介してインク容器30内のインクがサブタンク20に供給される。よって、インクジェット記録装置1は、長時間にわたって記録を継続することができる。
インク供給管24内には、フィルター(図示せず)が設けられていてもよい。インク供給管24内に設けられたフィルターは、インク室340で生じた凝集物を捕捉して、記録ヘッド17に凝集物が流入することを抑制する。
インク容器30は、インクの組成や色毎に複数設けられている。図1および図2の例では、上述したサブタンク20Bk、20Cn、20Ma、20Ywに対応して4つのインク容器30が設けられている。本実施形態では、色毎に4つのインク容器30が設けられているが、1つのインク容器の内部を壁で仕切ることによって、複数のインク収容部を設けるようにしても良い。インク容器30には、インクを充填することが可能である。以下、インク容器30の構成について、詳細に説明する。
1.2.1.インク容器の構成
<インク容器の姿勢>
インク容器30の構成を具体的に説明するにあたって、まず、インク容器30の姿勢について説明する。
インク容器30の姿勢には、使用状態と注入状態とがある。「使用状態」とは、記録ヘッド17(サブタンク20)にインクを供給する際のインク容器30の姿勢のことをいう。供給可能な姿勢が複数ある場合において、マニュアルや説明図でインクを供給する際の推奨された姿勢がある場合には、その姿勢が使用状態となり、インクジェット記録装置にインク容器30を固定する部材がある場合には、固定された際のインク容器30の姿勢が使用状態となる。図2(A)は、インク容器30の使用状態の一例を示すものである。図2(A)には表れていないが、インク容器30の使用状態において、インク注入口304は、記録ユニット収容ケース10の側面と向かい合っている。つまり、インク注入口304(後述)の軸は水平方向(具体的には+X軸方向)を向いている。また、このときインク注入口304は栓部材302(後述)によって塞がれている。
「注入状態」とは、インク容器30内(インク室340)にインクを注入(充填あるいは補充等ともいう。)する際のインク容器30の姿勢のことをいう。図2(B)は、インク容器30の注入状態を示すものである。インク容器30にインクを注入する際に、利用者は、容器収容ケース51を記録ユニット収容ケース10の側面から取り外し、上面ケース54を開けて、インク収容容器30を図2(B)に示す注入状態にする。注入状態にお
いて、インク注入口304の軸は、鉛直方向(具体的には+Z方向)を向いている。利用者は、インク収容容器30を図2(B)に示す注入状態にした後、インク注入口304を塞いでいた栓部材302を取り外して、インクを注入する。インクを注入し終えた後、利用者は、インク注入口304を栓部材302で塞ぐ。その後、利用者は、容器収容ケース51を記録ユニット収容ケース10の側面に装着して、図2(A)の使用状態に戻す。
<状態識別部>
図2(A)に示す使用状態において、インク容器30内のインク室340を区画する壁370(後述)のうち第3側面372Cは、外部から視認可能となっている。図2(A)に示す使用状態において、第3側面372Cは、水平な(XY平面に平行な)設置面に対して垂直となる。一方、図2(B)に示す注入状態において、第3側面372Cは、設置面に対して平行となる。すなわち、注入状態において、第3側面372Cは、インク容器30(インク室340)の底面を構成する。
図2(A)に示すように、第3側面372Cには、第1の状態識別部LB1(「補充開始識別部LB1」ともいう。)が設けられている。第1の状態識別部LB1は、使用状態において、インク容器30が内部にインクを補充すべき第1の状態であることを利用者に識別させるために用いられる。詳細には、第1の状態識別部LB1は、使用状態において、内部のインクが消費され、内部のインク液面が第1の高さになったことを識別するために設けられている。第1の状態識別部LB1は、使用状態において水平となる(XY平面に平行となる)直線LM1(「第1の状態表示線LM1」又は「補充開始表示線LM1」ともいう。)を含む。利用者は、インク液面が第1の状態表示線LM1の近傍に到達した場合に、インクをインク容器30内(インク室340)に補充する。
図2(B)に示す注入状態において、利用者が上面ケース54を開ける。
インク収容室340を区画する壁370(後述)のうち、第3側面372Cとは異なる上面371(後述)が外部から視認可能となる。上面371は、注入状態において、XY平面に平行な設置面に対して垂直となる壁である。一方、図2(A)に示す使用状態において、上面371は、インク室340の上面を構成する。
上面371には、第2の状態識別部LB2(「補充完了識別部LB2」ともいう。)が設けられている。第2の状態識別部LB2は、注入状態において、インク容器30の内部へのインクの注入が完了した第2の状態であることを利用者に識別させるために用いられる。詳細には、第2の状態識別部LB2は、注入状態において、内部にインクが補充され、内部のインク液面が第2の高さになったことを識別するために設けられている。第2の状態識別部LB2は注入状態において水平となる直線LM2(「第2の状態表示線LM2」又は「第2の状態表示線LM2」ともいう。)を含む。利用者は、インク液面が第2の状態表示線LM2の近傍に到達した場合に、インクの補充を停止する。
本実施形態では、図2(A)および図2(B)に示すように、インク容器30の姿勢が使用状態と注入状態とで異なる場合を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、インク容器30の姿勢を使用状態と注入状態で同じにしてもよい。これにより、インクに起因する凝集物の発生を一層抑制できる。すなわち、インク容器30の姿勢を使用状態と注入状態で変化させた場合、インク室340のインクが、これまで接していなかった箇所(例えば、インク室340を区画する壁370の一部や、後述する支持体380の一部など)に付着することがある。当該箇所に付着したインクが大気と接触して気液界面を形成した場合、凝集物の発生の原因となる。これに対して、インク容器30の姿勢を使用状態と注入状態で変化させないことにより、これまでインクが接触していない箇所に新たにインクが付着することを低減できるので、インク室340における凝集物の発生を抑制で
きる傾向にある。
インク容器30の姿勢を使用状態と注入状態で同じにする場合には、例えば図2(A)に示すインク容器30の姿勢で、使用状態と注入状態にすればよい。この場合には、注入状態においてインクが漏れ出さない位置にインク注入口304を設ければよく、例えばインク容器340の上方(例えば、後述する壁370の上面371)において鉛直方向の上向きに開口したインク注入口304を設ければ、注入時のインクの漏れを防止できる。
<インクおよび空気の流通経路>
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置1におけるインクの供給経路について説明する。図3は、大気開放口317からインク導出部306に至る経路を概念的に示す図である。
大気開放口317からインク導出部306に至る経路(流路)は、大気開放流路300と、インク室340とに大きく分けられる。大気開放流路300は、上流から順に第1の流路310と、空気室330と、第2の流路としてのインク室連通路350とから構成される。大気開放流路300は、一端である空気導入口352がインク室340で開口し、他端である大気開放口317が外部に向かって開口する。すなわち、大気開放口317は大気に連通している。使用状態において、インク室連通路350(詳細には、空気導入口352近傍)には、大気と直接に接する液面が形成され、空気導入口352からインク室340のインク中に空気(気泡)を導入することでインク室340に空気を導入する。
第1の流路310は、一端である大気導入口318(「空気室開口318」ともいう。)が空気室330で開口し、他端である大気開放口317が外部に向かって開口することで、空気室330と外部とを連通させる。第1の流路310は、連通流路320、気液分離室312、連通流路314と、を有する。連通流路320は、一端が大気開放口317に接続され、他端が気液分離室312に接続されている。連通流路320の一部は細長い流路であり、インク室340に貯留されたインクの水分が拡散により大気開放流路300から外部に蒸発することを抑制する。気液分離室312の上流から下流に向かう間には流路を塞ぐようにシート部材(フィルム部材)316が配置されている。このシート部材316は、気体を透過すると共に液体を透過しにくい性質を有する。シート部材316には、例えばゴアテックス(登録商標)などを用いることができる。このシート部材316を大気導入口318から大気開放口317に至る経路(流路)の途中を塞ぐように配置することで、インク室340から逆流してきたインクがシート部材316より上流側に流入することを抑制している。このシート部材316は、気液分離膜として機能する。
連通流路314は、気液分離室312と空気室330とを連通させる。ここで、連通流路314の一端は大気導入口318である。空気室330は、インク室連通路350よりも流路断面積が大きく、所定の容積を有する。これにより、インク室340から逆流してきたインクを貯留し、空気室330よりも上流側にインクが流入することを抑制できる。
インク室連通路350は、一端である空気室側開口351が空気室330で開口し、他端である空気導入口352がインク室340で開口することで、空気室330とインク室340とを連通させる。また、インク室連通路350は、メニスカス(液面架橋)を形成可能な程度に流路断面積が小さいことが好ましい。
インク室340はインクを収容し、インク導出部306のインク出口349からインク供給管24を介してサブタンク20(図1参照)にインクを流通させる。
次に、インク容器30からサブタンク20(記録ヘッド17)にインクを供給する原理
について、図4を用いて説明する。図4は、インクジェット記録装置1の内部構造の一部を模式的に示す図である。本実施形態のインク容器30は、マリオットの瓶の原理を利用してインクを記録ユニット12に供給する。
図4の例では、インクジェット記録装置1は、水平面sf(XY平面)上に設置されている。インク容器30のインク導出部306と、サブタンク20のインク受入部202は、インク供給管24を介して接続されている。
図4の例では、サブタンク20は、インク貯留室204と、インク流動路208と、フィルター206と、を備える。インク流動路208には、キャリッジ16のインク供給針16aが挿入されている。フィルター206は、インクに混入する場合のある凝集物を捕捉して、凝集物が記録ヘッド17に流入することを防止する。インク貯留室204のインクは、記録ヘッド17からの吸引によって、インク流動路208、インク供給針16aを流通して、記録ヘッド17に供給される。記録ヘッド17に供給されたインクは、ノズル(図示せず)を介して外部(記録媒体)へ向かって吐出される。
注入状態(図2(B)参照)でインク注入口304からインク室340にインクを注入した後に、インク注入口304を栓部材302で密封し使用状態にした場合、インク室340内の空気が膨張して、インク室340が負圧になる。さらに、インク室340のインクが記録ヘッド17から吸引されることで、インク室340は負圧に維持されている。
空気導入口352は、使用状態において、第1の状態表示線LM1よりも下側に位置する。図4の例では、空気導入口352は、インク室340を区画する壁370のうち、使用状態におけるインク室340の底面373に形成されている。こうすることで、インク室340のインクが消費され、インク室340の液面が低下しても、大気と直接に接触する液面(大気接触液面)LAが長時間(インク液面が第1の状態表示線LM1に達する程度の時間)に亘り一定の高さに維持される。また、使用状態において、空気導入口352は、記録ヘッド17よりも低い位置になるように配置される。これにより、水頭差d1が発生する。なお、使用状態において、インク室連通路350の空気導入口352近傍にメニスカスである大気接触液面LAが形成された状態での水頭差d1を「定常時水頭差d1」とも呼ぶ。
インク貯留室204のインクが記録ヘッド17によって吸引されることで、インク貯留室204は所定の負圧以上となる。インク貯留室204が所定の負圧以上になると、インク室340のインクがインク供給管24を介してインク貯留室204に供給される。すなわち、インク貯留室204には、記録ヘッド17に流出した量のインクがインク室340から自動的に補充されることになる。言い換えれば、大気接触液面LAと、記録ヘッド17(詳細にはノズル)との鉛直方向の高さの差によって発生する水頭差d1よりも、プリンター12側からの吸引力(負圧)がある程度大きくなることで、インクがインク室340からインク貯留室204へ供給される。
インク室340のインクが消費されると、空気室330の空気がインク室連通路350を介してインク室340に気泡Gとして導入される。これによりインク室340の液面LF(インクの液面LF)は低下する。一方で、大気と直接に接する大気接触液面LAの高さは一定に維持されていることから、水頭差d1は一定に維持される。すなわち、記録ヘッド17の所定の吸引力により、インク容器30から記録ヘッド17に安定してインクを供給することができる。
図4のインク室340の部分拡大図に示すように、インクの液面LFと、インク室340を区画する壁370の内側と、が接触する境界部分Aには、インクの薄膜が形成されや
すい。境界部分Aに形成されたインクの薄膜は、乾燥しやすいため、壁面から剥がれ落ちた場合に凝集物の発生原因となる。同様に、支持部材(後述)に付着したインクも薄膜を形成しやすいので、凝集物の発生原因になりやすい。
<インク容器の構造>
図5は、本発明に係るインク容器の一例を模式的に示す外観斜視図である。具体的には、図5では、インク容器30にフィルム部材316,322が取り付けられる前の状態を示している。
図5の例では、インク容器30は、略柱体形状(詳細には略直角柱形状)であるがこれに限定されず、いずれの形状であってもよい。インク容器30は、主として合成樹脂(ポリプロピレン等)からなるプラスチック板からなり、その一部が可撓性の部材(例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリアミド、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、ビニル系共重合体(例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル)、および金属または金属酸化物(例えば、アルミニウム、アルミナ)等の材料を単独または併用して形成されたフィルム)により形成されている場合がある。具体的には、図5のインク容器30は、合成樹脂により成型されたプラスチック容器の一面にフィルム34が接着されてなる。また、インク容器30の少なくとも一部は、透明または半透明であることが好ましい。これにより、インク容器30内のインクの状態(インクの水位等)を確認することができる。
通常使用されるインク組成物には、界面活性剤等の濡れ剤が含まれているため、インク室を区画する壁の内側を構成する部材に対するインク組成物の濡れ性が高い傾向にある。そのため、壁370の内側にはインク組成物の薄膜が形成されやすく、形成された薄膜が凝集物の発生原因となることがある。このような薄膜の発生を抑制するために、壁370の内側を構成する部材には、インク組成物に対する撥液性が高いものを用いることが好ましい。特に、フッ素化合物、シリコーン樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニルおよびポリ(メタ)アクリル酸エステル(例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなど)等を用いると、後述する静的接触角CAを10°以上に設定しやすくなる。これらの材料は、1種単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの材料の中でも、上述した静的接触角CAを10°以上にすることが一層容易になるという観点から、フッ素化合物、シリコーン樹脂等の撥インク材料を用いることがより好ましい。
なお、本発明において、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル」とは、ポリアクリル酸エステルおよびポリメタクリル酸エステルの両方を指し、「ポリ(メタ)アクリル酸メチル」とは、ポリアクリル酸メチルおよびポリメタクリル酸メチルの両方を指すものとする。
フッ素化合物としては、フッ素原子を有する有機化合物や、フッ素樹脂などが挙げられる。フッ素原子を有する有機化合物としては、フルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を有するアルカン、カンボン酸、アルコール、アミン等が好適に使用される。フルオロアルキルシランとしては、例えば、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロトリクロオシラン;フルオロアルキル基を有するアルカンとしては、オクタフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−n−ヘキサン、パーフルオロ−n−ヘプタン、テトラデカフルオロ−2−メチルペンタン、パーフルオロドデカン、パーフルオロオイコサン;フルオロオアルキル基を有するカルボン酸としては、パーフルオロデカン酸、パーフルオロオクタン酸;フルオロアルキル基を有するアルコールとしては、3,3,4,4,5,5,5−ヘプタフルオロ−2−ペンタノール;フルオロアルキル基を有するアミンとしては、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラハイドロ
デシルアミン等が挙げられる。フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。
シリコーン樹脂としては、アルキル基等の有機基で置換されたシロキサン構造単位を有するポリマーが挙げられ、例えば、α,w−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,w−ビス(3−グリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,w−ビス(ビニル)ポリジメチルシロキサン等のジメチルシロキサン骨格を有するポリマーを用いることができる。
インク室340を区画する壁370の内側には、撥液層が設けられていてもよい。撥液層は、例えば、撥液剤(例えば、上述のフッ素化合物やシリコーン樹脂)などを塗布することにより形成される。なお、壁370の内側に撥液層が設けられている場合には、壁370の内側を構成する部材は、撥液層を指す。撥液剤には、市販品を用いることができ、例えば、HC303VP(商品名、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、シリコーン樹脂)や、エスエフコート(商品名、AGCセイミケミカル株式会社製、フッ素化合物)等が挙げられる。
インク室340を区画する壁370の内側を構成する部材の表面には、微細周期構造が設けられていてもよい。微細周期構造は、例えば、特開2012−66417号公報に記載されている樹脂成形体の製造方法により形成できる。微細周期構造とは、例えば、角錐体(三角錐、四角錐、六角錐など)が連続して設けられており、隣り合う錐体の頂点間の距離が1.0μm〜100μm程度であるものをいう。これにより、壁370の内側を構成する部材と、インク組成物との撥液性を高めることができる。
壁370の内側の中心線平均粗さ(Ra)は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。これにより、壁370の内側における撥液性が一層向上する。このように撥液性が向上する理由としては、内壁の表面に微細な凹凸が複数形成されていることによると考えられる。中心線平均粗さ(Ra)は、例えば、WYCO社の光学的三次元表面粗さ計RSTplusを用いて測定できる。具体的には、対物レンズ40倍、中間レンズ1.0倍、111×150μmの視野で5点測定して、その平均値を中心線平均粗さ(Ra)とする。
使用状態においてインク容器30の側面を構成する側面壁には、第1の流路310が形成されている。第1の流路310は、大気開放口317、連通流路320、フィルム316、気液分離室312、連通流路314を有する。気液分離室312は、凹状形状であり、凹状の底面には開口が形成されている。底面の開口を介して、気液分離室312と連通流路314とが連通する。連通流路314の末端は大気導入口318(図3参照)である。気液分離室312の底面を囲む内壁の全周には土手313が形成されている。フィルム部材316は、土手313に接着されている。また、フィルム部材322は、第1の流路310のうちインク容器30の外面に形成された流路を覆うようにインク容器30に接着されている。これにより、連通流路320を形成すると共に、インク容器30内部のインクが外部へ漏れ出すことを防止している。なお、連通流路320の一部分は、大気開放口317から気液分離室312までの距離を長くするために、気液分離室312の外周に沿って形成されている。これにより、インク容器30内部のインク中の水分が大気導入口318から外部へ蒸発することを抑制できる。
第1の流路310を流れる空気は、その途中で土手313に接着された気液分離膜としてのフィルム部材316を通過することになる。これにより、インク容器30内部に収容されるインクが外部へ漏れ出すことをより抑制できる。
インク導出部306は筒状であり、その内部に流路を有する。このインク導出部306にインク供給路24が接続される。また、インク導出部306の他端348は外部に向かって開口している。
次に、インク容器の内部構造について、図面を参照しながら説明する。図6および図7は、使用状態におけるインク容器30の内部構造を模式的に示す斜視図である。また、図8は、使用状態におけるインク容器30の内部構造を模式的に示す側面図である。より詳細には、図8は、Y軸のマイナス方向にインク容器30をみたときの図であり、フィルムからなる第1側面372A(後述)が正面に位置している。
図6および図7の例では、インク容器30は、一側面が開口した凹状形状であって、その開口がフィルム34によって塞がれることで、内部に仕切られた複数の空間(部屋)が形成されている。より詳しくは、インク容器30の内部には、空気室330と、インク室340と、インク室連通路350と、が形成されている。すなわち、インク容器30を構成する部材(壁やフィルム34など)は、インク室340を区画する壁370、空気室330を区画する壁374、インク室連通路350を区画する壁378、として機能する。なお、図6では、フィルム34が接着されている部分にハッチングを施している。
インク室340は、これにインクを補充可能なインク注入口304と連通している。インク注入口304は、インクの漏れやインク室340への空気の混入を抑制するために、使用状態においては栓部材302によって塞がれている。
図6〜8に示すように、インク室340は壁370によって区画されてなり、インク室340にインクを注入した場合に、壁370の内側がインクと接することとなる。
図6および図7の例では、インク室340を区画する壁370は、上面371、側面372および底面373からなる。ここで、壁370の上面371とは、使用状態においてインク室340をその内部から鉛直方向上向きに見た際に確認できる面のことをいう。壁370の側面372とは、使用状態においてインク室340をその内部から水平方向に見た際に確認できる面のことをいう。壁370の底面373とは、使用状態においてインク室340をその内部から鉛直方向下向きに見た際に確認できる面のことをいう。
より詳細には、図6および図7の例では、側面372は、第1側面372Aと、第1側面372Aに対向する第2側面372Bと、第1側面372Aに接続された第3側面372Cと、第3側面372Cに対向する第4側面372Dと、からなる。
ここで、第1側面372Aは、フィルム34からなる。また、上面371、第2側面372B、第3側面372C、第4側面372Dおよび底面373は、フィルム以外の材料からなる。
図6および図7の例では、インク室340は、第1室340Fと第2室340Sとを含み、第1収容体340Fは、第2室340Sよりも上方に配置されている。また、第1室340Fと第2収容体340Sは並んで配置されており、内部連通口345によって連通している。第1室340Fは、第2室340Sよりも容積が大きく、インク室340のメイン室として機能する。
第1室340Fにはインク注入口304および空気導入口352が設けられており、第2室340Sにはインク導出部306の一端であるインク出口349が設けられている。使用状態において、インク出口349は空気導入口352よりも下方に位置する。空気導入口352および内部連通口345は、第1室340Fにおける底面(底面373の一部)の異なる位置にそれぞれ設けられている。インク出口349は、第2室340Fにおける側面(第4側面372Dの一部)に設けられている。
インク容器30には、インク室340内で発生した凝集物や、インク注入時に混入する異物などを捕捉するために、フィルター(図示せず)が設けられていてもよい。当該フィルターは、例えば、インク容器30内におけるインク出口349やインク導出部306に設けることができる。本実施形態に係るインク容器30のようなインクを再充填可能な連続供給型インク容器は、インクを補充せずに交換するタイプのインク容器(いわゆるインクカートリッジ)と比較して、気液界面の面積や、壁の内側とインク液面との接触箇所が格段に大きく、使用期間が非常に長いため、凝集物が大量に、あるいは頻繁に発生しやすく、フィルターに捕集された凝集物によるインクの供給不良などの不具合が顕在化しやすい傾向にある。このような場合であっても、本実施形態に係るインク容器30は、後述するように、壁370の内側とインクの液面LFとが接触する境界部分Aや、支持体380に付着したインクに起因する凝集物が発生しにくいため、インク容器30に設けられたフィルターの詰まりを低減することができる。
インク室340には、壁370の内側に接続され、壁370を支持する支持体380を備える。支持体380は、壁370の強度や剛性を向上させたり、壁370の一部(第1側面372A)であるフィルム34の接着性を向上させたりする等の機能を有し、「リブ」といわれることがある。
支持体380を構成する部材には、インク容器30や壁370の内側を構成する部材で挙げた材料を用いることができる。上述した材料の中でも、インク組成物に対する撥液性が良好であるという観点から、壁370の内側を構成する部材で挙げた材料を好ましく用いることができる。なお、支持体380の表面には、壁370の内側を構成する部材の説明において述べたような、撥液層や微細周期構造が設けられていてもよい。支持体380の表面に撥液層が設けられている場合には、支持体380を構成する部材は、撥液層を指す。
ここで、インク容器30の使用状態において、インク室340の容積の50%のインクを充填した場合に、支持体380とインクが接触する面積(R1)を、支持体と大気(空気)が接触する面積(R2)よりも大きくする必要がある(すなわち、R1>R2の関係を満たす。)。このような関係を満たすと、インク室340のインクが消費された際に、支持体380に付着したインクが大気に接触する機会が少なくなるので、支持体380に付着したインクの乾燥を抑制できる。これにより、支持体380に付着したインクに起因する凝集物の発生が抑制されるので、記録ヘッド17の目詰まりを抑制できる。このような関係を満たすインク容器30について、図8を用いて説明する。
図8のLF50は、インク室340の容積の50%までインクを充填したときにおける、インクの液面の位置を示す。図8のインク容器30においては、LF50を超えた位置に存在する支持体380の数を、LF50以下の位置に存在する支持体380の数よりも減らすことで、上記R1>R2の関係を満たしている。これにより、支持体380に付着したインクに起因する凝集物の発生を抑制できる。
支持体380は、図6〜図8に示すように、第1支持体382と、第2支持体384と、第3支持体386と、を含んでいてもよい。また、これらの支持体はそれぞれ、複数設
けられていてもよい。
図6および図7の例では、第1支持体382は、第1側面372A(請求項における第1壁部に相当)の内側と、第2側面372Bの内側と、に接続されている。第1支持体382は、主にインク容器30に対する第1側面372A(フィルム34)の接着性を向上させるために使用される。なお、第1支持体382は、第1側面372Aの接着性を向上できるのであれば、上面371、側面372および底面372のいずれの位置に接続されてもよい。
図6および図7の例では、第2支持体384は、第1支持体382と、第2側面372Bの内側と、に接続されている。第2支持体384は、主に第1支持体382を支持するために用いられる。なお、第2支持体384は、第1支持体382を支持できるのであれば、上面371、側面372および底面373のいずれの位置に接続されてもよく、2面以上を接続するものであってもよい。
図6および図7の例では、第3支持体386は、第2側面372Bの内側と第3側面372Cの内側を接続する支持体と、第2側面372Bの内側と第4側面372Dの内側を接続する支持体と、からなる。第3支持体386は、主に各面が接続される部分の強度を向上させるために用いられる。なお、第3支持体386は、各面の接続部分の強度を向上できるのであれば、上面371、側面372および底面373のいずれの位置に接続されてもよく、2面以上を接続することができる。
インク容器340は、使用状態において、インク室340の容積の50%のインクを充填した場合に、インクと接触しない支持体を有することが好ましい。すなわち、図8に示すように、LF50(インク室30の容積の50%までインクを充填したときにおけるインクの液面の位置)を超える位置と、LF50以下の位置に、支持体が存在する言い換えることができる。このように、LF50の上方および下方のいずれにも支持体があることで、インク容器30の強度を向上できる。
支持体380は、インク容器30の鉛直方向に交差する方向に複数設けられていることが好ましい。すなわち、図6〜図8の例では、第1支持体382、第2支持体384および第3支持体386という複数の支持体380が、鉛直方向(Z軸)に交差する方向(X軸方向)に設けられている。これにより、インク容器30の強度を向上できる。特に、インク容器30の鉛直方向に交差する方向に第1支持体382が複数設けられていると(後述する図10および図11参照)、第1側面372A(フィルム34)の接着強度が一層向上するので好ましい。
インク室のインクが消費される際に、支持体の上にインクが溜まってしまい、支持体に溜まったインクの気液界面から凝集物が生じることがある。そのため、インクの液面が支持体を通過したときに、インクが溜まりにくい形状の支持体を使用することが好ましい。具体的には、使用状態における支持体の上面が、鉛直方向の上向きに凸の形状(言い換えれば、鉛直方向の上向きに湾曲又は屈曲した形状)であり、かつ水平面を有さないものを使用することで、支持体に付着したインクが流れ落ちやすくなる。なお、支持体の上面とは、使用状態においてインク室の内部から鉛直方向の下向きに支持体を見た際に確認できる面のことをいう。このような形状を有する支持体の具体例を、図10および図11に示す。
第2支持体384は、インク容器30の強度を保ちつつ、支持体に付着したインクに起因する凝集物の発生を低減するという点から、壁面との接続面積は確保しつつ、その表面積を減少させることが好ましい。すなわち、第2支持体384には、インク容器30の使
用状態において、第2支持体384を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面が第2側面372Bと接続された辺を有し、前記面内において前記辺と平行な線分の長さが、該辺の長さよりも短いものを使用することが好ましい。より好ましくは、第2支持体384には、インク容器30の使用状態において、第2支持体384を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面が、第2側面372Bと第1支持体382を直接接続する辺を有するものを使用する。このような形状を有する第2支持体の具体例を図9(A)に示す。
図9(A)は、図7のインク室340をZ軸方向の下向き(鉛直方向の下向き)に見た場合における、第2支持体384の形状を模式的に示す図である。図9(A)に示すように、第2支持体384を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面384a(斜線部分)は、第2側面372Bと接続された辺L1を有し、面384a内において辺L1と平行な線分(例えば、辺L0)の長さが、辺L1の長さよりも短い形状となっている。より具体的に言えば、面384aは、第2側面372Bと接続された辺L1、第1支持体382と接続された辺L2、および第2側面372Bと第1支持体382を接続する辺L3からなる三角形である。これにより、インク容器30の強度を保ちつつ、インクとインク容器30の接触面積を減らして第2支持体384に付着したインクに起因する凝集物の発生を抑制できる。
第3支持体386は、第2支持体384と同様に、インク容器30の強度を保ちつつ、支持体に付着したインクに起因する凝集物の発生を低減するという点から、壁面との接続面積は確保しつつ、その表面積を減少させることが好ましい。すなわち、第3支持体386は、インク容器30の使用状態において、第3支持体386を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面が第2側面372Bと接続された辺を有し、前記面内において前記辺と平行な線分の長さが、該辺の長さよりも短いものを使用することが好ましい。より好ましくは、第3支持体386には、インク容器30の使用状態において、第3支持体386を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面が、インク収容室340を区画する壁370を構成する少なくとも2面を直接接続する辺を有するものを使用する。このような形状を有する第3支持体の具体例を図9(B)に示す。
図9(B)は、図7のインク室340をZ軸方向の下向き(鉛直方向の下向き)に見た場合における、第3支持体386の形状を模式的に示す図である。図9(B)に示すように、第3支持体386を鉛直方向の下向きに見たときに現れる面386a(斜線部分)は、第2側面372Bと接続された辺L10を有し、面386a内において辺L10と平行な線分(例えば、辺L00)の長さが、辺L10の長さよりも短い形状となっている。より具体的に言えば、面386aは、第2側面372Bと接続された辺L10、第3側面372Cと接続された辺L20、および第2側面372Bと第3側面382Cを接続する辺L30からなる三角形である。これにより、インク容器30の強度を保ちつつ、第3支持体386に付着したインクに起因する凝集物の発生を抑制できる。
図10および図11の例は、使用状態における支持体の上面の形状が、鉛直方向の上向きに凸であり、かつ水平面を有さないものの具体例である。
図10は、使用状態におけるインク容器の内部構造を模式的に示す図である。図10のインク容器30Aにおいて、インク室340Aに設けられた支持体380Aが異なる以外は、図8のインク容器30と共通するため、共通する部分の説明は省略する。
図10の支持体380Aは、第1支持体382Aおよび第3支持体386Aを含み、それぞれ、図8の第1支持体382および第3支持体386に対応している。第1支持体382Aは、Y軸方向に延びる円柱形状である。また、第3支持体386Aは、図8の第3支持体386と同様の形状であるが、設置される角度が異なっている。すなわち、図8の
第3支持体386の上面は水平面と平行であるのに対して、図10の第3支持体386Aの上面は下向きに傾けて配置されている。このように、図10の支持体380Aの上面の形状は、鉛直方向の上向きに凸であり、かつ水平面を有していないので、凝集物の発生を効果的に抑制できる。
図11は、使用状態におけるインク容器の内部構造を模式的に示す図である。図11のインク容器30Bにおいて、インク室340Bに設けられた支持体380Bが異なる以外は、図8のインク容器30と共通するため、共通する部分の説明は省略する。
図11の支持体380Bは、第1支持体382Bおよび第3支持体386Bを含み、それぞれ、図8の第1支持体382および第3支持体386に対応している。第1支持体382Bは、Y軸方向に延びる三角柱形状である。また、第3支持体386Bは、図10の第3支持体386Aと同様である。このように、図11の支持体380Bの上面の形状は、鉛直方向の上向きに凸であり、かつ水平面を有していないので、凝集物の発生を効果的に抑制できる。
図10および図11に示すように、第1支持体382A(382B)は、第1側面372Aの接着性を向上させる観点から、複数設けてもよい。この場合、図10に示すように、使用状態で第1側面372Aを正面としてインク容器30Aを側面視したときに、第1支持体382Aのうち、一の支持体と、これに隣り合う他の支持体と、の距離D1が、インク容器30の長手方向の距離(長さ)Dの25%以下であることが好ましい。これにより、第1側面372A(フィルム)の接着強度を一層向上できる場合がある。なお、距離D1は、一の支持体の表面と、これと隣り合う他の支持体の表面と、を結ぶ直線のうち、最も短い直線の距離を指す。
また、図10に示すように、使用状態で第1側面372Aを正面としてインク容器30Aを側面視したときに、第1支持体382Aと、壁370の側面372と、の距離D2が、インク容器30の長手方向の距離(長さ)Dの25%以下であることが好ましい。これにより、第1側面372Aの接着強度を一層向上できる場合がある。なお、距離D2は、第1支持体382Aの表面と側面372の表面を結ぶ直線のうち、最も短い直線の距離を指す。
支持体380は、インク室340におけるインクの流通性を向上させるという観点から、切り欠きや孔などを有していてもよい。
インク室340の形状は、図6および図7の例では、使用状態において鉛直方向に延びる略柱状であるが、当該形状に限定されるものではない。
ここで、インクの初期充填(例えば、インク容器の出荷時などにインク室の容量の90%程度までインクを充填すること)をした後、インクの気液界面と、インク室を区画する壁のうち特定の箇所とが、長時間接触した状態に置かれることがある。こうした場合、インクの気液界面と接触する壁において、インクに起因する凝集物が発生しやすくなることがある。そこで、インク室に充填されたインクが減少する際に、インクの気液界面が広くなる領域を有する形状のインク室を用いることで、凝集物の発生を抑制できる。このような形状のインク容器の具体例を図12に示す。
図12は、インク容器の形状の一例を模式的に示す側面図である。図12は、Y軸のマイナス方向にインク容器30Cをみたときの図であり、インク室340Cの形状が異なる以外は、図8のインク容器30と共通するため、共通する部分の説明は省略する。
図12におけるLF90は、インク室340Cの容積の90%までインクを充填したときのインク液面LFの位置を示す。図12におけるLF50は、インク室340Cの容積の50%までインクを消費したときのインク液面の位置を示す。図12では、LF90に達したときのインク液面LFの面積は、LF50の高さに達したときのインク液面LFの面積よりも小さい。そうすると、初期充填時におけるインクの気液界面(インク液面LF)と壁370の接触部分が少なくなるので、凝集物の発生を抑制できる。
インク室340には、インクの吸収や保持を行うインク吸収体(例えば、ウレタンフォームや繊維構造体)が設けられていないことが好ましい。インク吸収体は、インクと外気との気液界面の面積を増やす恐れがあり、また、インク室340で発生した凝集物を保持しやすいため、インクの円滑な流動を阻害しインクの供給不良等を引き起こす原因となる場合がある。
以上のように、本実施形態に係るインク容器30によれば、支持体380に付着したインクに起因する凝集物の発生を抑制することができる。これにより、記録ヘッド17(ノズル)の目詰まり等が低減されるので、吐出安定性に優れたインクジェット記録装置1を得ることができる。
2.インク組成物
本実施形態に係るインク容器30は、インク組成物を収容可能である。本実施形態に係るインク組成物は、記録装置やインク容器の構造や性質に基づいて要求特性を満たすように設計され、特定の記録装置と上記インク容器とを関連付けて製造及び販売がなされるものであってもよい。本発明においては、インク組成物は、本実施形態のインク組成物が充填されるインク容器の壁370の内側を構成する部材に対して、静的接触角が10°以上であることが好ましい。これにより、上述した境界部分Aにおいてインクの薄膜が形成されにくくなるためである。以下、本実施形態に係るインク組成物(以下、単に「インク」ともいう。)に含まれ得る成分について説明する。
2.1.成分
<顔料>
本実施形態に係るインクは、顔料を含有してもよい。顔料は、染料と比較して、耐水性、耐ガス性、耐光性等に優れる。
顔料としては、無機顔料や有機顔料等の公知の顔料をいずれも使用できる。無機顔料としては、以下に限定されないが、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、紺青、及び金属粉が挙げられる。
有機顔料としては、以下に限定されないが、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、及びアニリンブラック等が挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料及び多環式顔料のうち少なくともいずれかが好ましい。アゾ顔料としては、以下に限定されないが、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及びキレートアゾ顔料が挙げられる。多環式顔料としては、以下に限定されないが、例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、アゾメチン系顔料、及びローダミンBレーキ顔料等が挙げられる。
顔料の体積基準の平均粒子径(以下、単に「顔料の平均粒子径」ともいう。)は、30nm以上300nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以上200nm以下である。顔料の平均粒子径が上記範囲内にあることで、顔料の発色性が向上したり、
フィルターや記録ヘッドの目詰まりが低減したりする場合がある。
顔料の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
顔料は、インク中での分散性を高めるという観点から、表面処理を施した顔料であってもよいし、分散剤等を利用した顔料であってもよい。表面処理を施した顔料とは、物理的処理または化学的処理によって顔料表面に親水性基(カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等)を、直接または間接的に結合させて水性溶媒中に分散可能としたものである(以下、「自己分散型の顔料」ともいう。)。また、分散剤を利用した顔料とは、界面活性剤や樹脂により顔料を分散させたものであり(以下、「ポリマー分散型顔料」ともいう。)、界面活性剤や樹脂としてはいずれも公知の物質を使用することが可能である。また、「ポリマー分散型顔料」の中には、樹脂により被覆された顔料も含まれる。樹脂により被覆された顔料は、酸析法、転相乳化法、及びミニエマルション重合法などにより得ることができる。インク中における樹脂の含有量を低減可能であるため、自己分散型の顔料を用いるのが好ましい。
<樹脂>
本実施形態に係るインクは、樹脂を含有してもよい。樹脂は、記録媒体に付着したインクの密着性を向上させる、上述の顔料の分散性を向上させるなどの機能を備える。
樹脂としては、溶解状態、エマルジョン等の粒子状態としたもの等、いずれのタイプの樹脂も使用できる。例えば、樹脂が粒子状(以下、「樹脂粒子」ともいう。)である場合には、樹脂粒子の体積基準の平均粒子径(以下、単に「樹脂粒子の平均粒子径」ともいう。)は、30nm以上300nm以下であることが好ましい。より好ましくは50nm以上200nm以下である。樹脂粒子の平均粒子径が上記範囲内にあることで、記録媒体に対するインクの定着性が向上したり、フィルターや記録ヘッドの目詰まりが低減したりする傾向にある。樹脂粒子の平均粒子径は、顔料の平均粒子径の説明で述べた方法と同様にして測定することができる。
樹脂粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、「マイクロトラックUPA」日機装株式会社製)を用いることができる。
樹脂としては、ガラス転移温度が25℃以下であるものを用いることが好ましく、10℃以下であるものを用いることがより好ましく、0℃以下であるものを用いることがさらに好ましい。樹脂のガラス転移温度が25℃以下であると、凝集物が生じにくくなる。また、例え生じた場合でも樹脂および顔料を含む凝集物の流動性が高くなるので、フィルターやノズルの目詰まりが生じにくくなる。
樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、樹脂としては、エマルジョンとしたものを用いてもよいし、水溶性のものを用いてもよい。
固形分換算による樹脂の含有量は、インク中に含まれる顔料1質量部に対して、1質量部未満であることが好ましく、0.1質量部以上0.5質量部以下であることがより好ましい。樹脂の含有量が顔料の含有量未満であることで、記録媒体に付着した樹脂の皮膜化が顔料によって阻害されにくくなるので、記録媒体に対するインクの密着性が向上する傾向にある。
樹脂と顔料の含有量の合計は、インクの全質量(100質量%)に対して、固形分換算で20質量%以下であることが好ましい。合計量が20質量%以下であることで、インク中における凝集物の発生を低減できる。樹脂と顔料の含有量の合計は、より好ましくは2質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上15質量%以下であり、特に好ましくは3質量%以上10質量%以下である。
さらに、インク容器にフィルターが設けられている場合、フィルターの口径に対して、顔料の平均粒子径は10分の1以下であることが好ましく、より好ましくは500分の1以上20分の1以下であり、さらに好ましくは300分の1以上30分の1以下である。また、樹脂が粒子状であれば、顔料及び樹脂の平均粒子径が共に10分の1以下であることが好ましく、より好ましくは500分の1以上20分の1以下であり、さらに好ましくは300分の1以上30分の1以下である。この関係を満たすことにより、フィルターの目詰まりを生じにくくし、かつ、吐出に影響が大きい巨大な粗大粒子をフィルターでトラップすることができる。
<有機溶剤>
本実施形態に係るインクは、有機溶剤を含有している。有機溶剤としては、例えば、アルカンジオール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、含窒素複素環式化合物、尿素、尿素誘導体等が挙げられる。これらの中でも、多価アルコール類、含窒素複素環式化合物、尿素および尿素誘導体は、保湿剤としての機能を有する有機溶剤である。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
アルカンジオール類としては、炭素数4〜8の1,2−アルカンジオール(例えば、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等)、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールおよび2−エチル−1,3−ヘキサンジオールが挙げられる。前記アルカンジオール類は、記録媒体に対する濡れ性を向上させたり、記録ヘッドのノズル面におけるインクの乾燥固化を抑制できるという機能を備える。アルカンジオール類を含有する場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、例えば0.1質量%以上20質量%以下とすることができる。濡れ性が向上しすぎるのを防止するため、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上3質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
前記のアルカンジオール類の中でも、炭素数5又は6の1,2−アルカンジオール類を用いることが好ましい。これらの化合物は、記録媒体に対するインクの浸透性および濡れ性を向上させるにもかかわらず、インクの表面張力の低下が少ないためである。
グリコールエーテル類としては、例えば、アルキレングリコールモノエーテルや、アルキレングリコールジエーテル等が挙げられる。
アルキレングリコールモノエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル
エーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
アルキレングリコールジエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
グリコールエーテル類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。グリコールエーテル類は、記録媒体に対するインクの浸透性および濡れ性を向上させるにもかかわらず、インクの表面張力の低下が少ないため、好ましく用いることができる。グリコールエーテル類を含有する場合には、その含有量は、インク全質量に対して、例えば0.05質量%以上6質量%以下とすることができる。さらに、凝集物の析出等も考慮して濡れ性を適切に制御するため、含有量は、0.2質量%以上4質量%以下が好ましい。
<保湿剤>
多価アルコール類(前記アルカンジオール類を除く)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール類は、ヘッドのノズル面におけるインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を低減できるという観点から好ましく用いることができる。多価アルコール類を含有する場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、例えば5質量%以上、さらには5質量%以上30質量%以下とすることができる。
含窒素複素環式化合物としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、ヒダントイン等が挙げられる。尿素又は尿素誘導体としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素等が挙げられる。これらは、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。これらは、多価アルコール類と同様、ヘッドのノズル面におけるインクの乾燥固化を抑制して目詰まりや吐出不良等を低減できるという観点から好ましく用いることができる。これらを含有する場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、例えば0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは1質量%以上5質量%以下とすることができる。
保湿剤としては、グリセリンなどの多価アルコール類、含窒素複素環式化合物、尿素お
よび尿素誘導体、が挙げられる。グリセリンと、それ以外の保湿剤とを併用することが好ましい。また、このとき、グリセリンと併用される保湿剤として、グリセリン以外の多価アルコール類、含窒素複素環式化合物、尿素および尿素誘導体、からなる群から一種以上を選択することが好ましい。このように、グリセリンと、それ以外の保湿剤(グリセリン以外の多価アルコール類、含窒素複素環式化合物、尿素および尿素誘導体、からなる群から選択した一種以上の保湿剤)とを併用することによって、長期的な水分蒸発と、インク室の壁面で急速に生じる水分蒸発の両方を効果的に抑制できる。より好ましい多価アルコール類としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパンである。多価アルコール類の中でも、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブタンジオールが析出物防止の観点で好ましい。また、含窒素複素環式化合物としては、2−ピロリドン、ヒダントインが好ましい。さらに、尿素誘導体としては、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素が好ましい。なお、含窒素複素環式化合物としては、ピロリドン誘導体が好ましい。
本実施形態に係るインクは、炭素数4〜8の1,2−アルカンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールおよび2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリコールエーテルから選択されるいずれか一種以上を含む場合は、凝集物の析出防止の観点から、グリセリンと、他の多価アルコール類(上述した多価アルコール類のうちグリセリンを除く)、含窒素複素環式化合物、尿素、尿素誘導体からなる群から選択される一種以上と、を併用した保湿剤を添加することが望ましい。
<水>
本実施形態に係るインクは、水を含有してもよい。本実施形態に係るインクが水性インク(水を50質量%以上含有するインク)である場合、水は、インクの主溶媒となり、乾燥により蒸発飛散する成分である。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加などによって滅菌した水を用いると、インクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。
<界面活性剤>
本実施形態に係るインクは、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性を向上させる機能を備える。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、およびポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を好ましく用いることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、Air Products and Chemicals. Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えば
ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−348(以上商品名、BYK社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、メガファックシリーズ(DIC社製)、ゾニールシリーズ(デュポン社製)、BYK−340(ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、一般式、CnHn+1O(CmH2mO)lH(ただし、該一般式中、nは5以上の整数、m及びlは1以上の整数を表す。)、で表される化合物から選択されるものが好ましく、具体的には、C8H17O(C2H4O)2H、C10H21O(C2H4O)4H、C12H25O(C2H4O)3H、C12H25O(C2H4O)7H、C12H25O(C2H4O)12H、C13H27O(C2H4O)3H、C13H27O(C2H4O)5H、C13H27O(C2H4O)7H、C13H27O(C2H4O)9H、C13H27O(C2H4O)12H、C13H27O(C2H4O)20H、C13H27O(C2H4O)30H、C14H29O(C2H4O)30H、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、後者の場合は、1種単独ではインク中に溶解し難い場合に有効であり、該インクへの溶解性を向上させることができる点で有利である。該ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、市販品を使用してもよく、該市販品としては、例えば、BTシリーズ(日光ケミカルズ社製)、ソフタノールシリーズ(日本触媒社製)、ディスパノール(日本油脂社製)、などが挙げられる。
上述の界面活性剤の中でも濡れ性、表面張力の低下力を考慮して、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤又はポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が好ましく、より好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤又はポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤である。
<その他>
本実施形態に係るインクは、その性能を向上させることを目的として、ワックス粒子(例えばポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等)、両性イオン化合物(例えばベタイン系化合物、アミノ酸およびその誘導体等)、糖類(例えば、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、ソルビトール、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、還元澱粉糖化物等)、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、尿素類、防腐剤・防かび剤(例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン等)、pH調整剤(例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等)、キレート化剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸およびこれの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩等)等を含有してもよい。
2.2.物性
本実施形態に係るインクは、記録品質とインクジェット記録用のインク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上50mN/mであることが好ましく、25mN/m以上35mN/m以下がより好ましく、30mN/m以上35mN/m以下であることがさらに好ましい。また、インクの表面張力が上記範囲にあることで、記録媒体に対するインクの濡れ性を保ちつつ、壁370の内側に対するインクの濡れ性を低下できる。なお、表面張力は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らすことで測定することができる。
本実施形態に係るインクの20℃における粘度は、記録品質とインクジェット記録用のインク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、2mPa・s以上15mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上10mPa・s以下であることがより好ましい。なお、粘度は、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社製)を用いて、20℃の環境下で、Shear Rateを10〜1000に上げることで測定可能であり、Shear Rate200時の粘度の値を採用できる。
本実施形態に係るインクは、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含む場合は、その両者の濃度の合計が30ppm以下であることが好ましい。30ppm以下であることで、後述の境界部分Aにおける顔料および樹脂の凝集を低減できることがある。上述のイオン含有量は、より好ましくは15ppm以下である。上記イオン濃度は、ICP発光分光分析装置を用いて測定可能であり、上記装置としては例えばSPS5100(SIIナノテクノロジー製)が挙げられる。
3.インク容器に対するインク組成物の特性
3.1.インク室とインク組成物との接触角
<静的接触角>
上述のインク容器30において、インク室340を区画する壁370の内側(すなわち、インク室340内でインクと接触可能な部分)と、インクの液面LFにおける気液界面と、が接触する境界部分Aでは、インクの薄膜が形成されやすい。ここで、インクが良好な画質の画像を形成するために、インクは一定の濡れ性を持つ必要があり、濡れ剤として前記界面活性剤や一部の有機溶剤を含むことで濡れ性を持たせている。このように濡れ性を持つインクを用いているため、インクが部材に対し濡れて薄膜を形成する。特に、壁370の内側を構成する部材とインク組成物との濡れ性が高い場合、壁370の内側をインクが濡れ上がりやすいことから、凹状のメニスカスが形成される。
具体的には、図4における部分拡大図に示すように、壁370の内側とインクの液面LFとが接触する境界部分Aには、凹状のメニスカスが形成されている。凹状のメニスカス部分では、インクの気液界面と壁370の内側までの距離aが短いので、インクの乾燥により薄膜が形成されやすい。そこで、発明者は、壁370の内側を構成する部材と、インク組成物との静的接触角を10°以上にすることで、境界部分Aにおいてインクの薄膜が形成されにくくなることを見出した。これにより、ヘッドやフィルターの詰まり等の不具合を低減できる。
壁370の内側を構成する部材と、インク組成物との静的接触角CAは、10°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましく、30°以上であることがさらに好ましく、30°以上60°以下であることが特に好ましい。静的接触角CAが10°以上であることで、境界部分Aでのインクの薄膜の形成が一層低減される傾向にある。また、静的接触角CAが60°以下であることで、紙やプラスチック、ヘッドのノズル等の多様な種類の記録媒体に対するインクの濡れ性が良好になるので、優れた画質の画像を記録することができる。また、優れた吐出安定性が実現できる。
<水分蒸発に伴う静的接触角の変化>
発明者は、壁370の内側を構成する部材と、インク組成物との静的接触角CAが10°以上であり、かつ、インク組成物に含まれる水分の蒸発前後においてインク組成物の濡れ性が変化しにくい場合には、境界部分Aでのインクの薄膜の形成がより一層低減される場合があることを見出した。
すなわち、境界部分Aに存在するインク組成物に含まれる水分の蒸発が進むにつれて、境界部分Aに存在するインク組成物に含まれる濡れ剤(例えば、上述した界面活性剤、アルカンジオール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類等)の濃度が上昇する。そうすると、境界部分Aにあるインク組成物(水分蒸発後のインク組成物)の濡れ性は、水分蒸発前のインク組成物の濡れ性と比較して向上する。このとき、水分蒸発後のインク組成物の濡れ性が水分蒸発前のインク組成物の濡れ性と比較して高くなりすぎると、境界部分Aにおいてインクの薄膜が形成されやすくなって、インク中の凝集物の量が増加することがある。
そこで、発明者は、鋭意検討の結果、水分蒸発前のインク組成物と壁370の内側を構成する部材との静的接触角をCA0、水分蒸発後のインク組成物と壁370の内側を構成する部材との静的接触角をCA1とした場合に、下記条件(1)および(2)を満たすことで、境界部分Aにおけるインクの薄膜の形成を一層低減できることを見出した。
条件(1):10°≦CA0、かつ、10°≦CA1
条件(2):0°≦CA0−CA1≦5°
水分蒸発前の静的接触角CA0は、上述の「3.1.インク室とインク組成物との接触角 <静的接触角>」における静的接触角CAと同一のものである。また、CA1を求める際の「水分蒸発後のインク組成物」とは、水分蒸発前のインク組成物の全質量(100質量%)に対して、水分が1質量%蒸発した場合のインク組成物のことをいう。
また、CA0およびCA1は、下記条件(1−1)を満たす場合がより好ましく、条件(1−2)を満たすことがさらに好ましい。これにより、境界部分Aにおいて、インクの薄膜がより一層形成されにくくなる。
条件(1−1):20°≦CA0、かつ、20°≦CA1
条件(1−2):30°≦CA0、かつ、30°≦CA1
また、境界部分Aにおいて水分蒸発前後における静的接触角の変化量が小さい場合に、インクの薄膜が一層形成されにくくなることから、下記条件(2−1)を満たすことがより好ましい。
条件(2−1):0°≦CA0−CA1≦3°
なお、インク組成物中に含まれる有機溶剤の含有量は、保湿性、浸透性、凝集物発生防止等を考慮し、インク組成物の全質量(100質量%)に対して、5質量%以上40質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がさらに好ましく、10質量%以上30質量%以下が一層好ましい。また同様の理由より、有機溶剤の含有量は、顔料と樹脂との含有量の合計に対して、質量基準で1倍超過10倍以下が好ましく、2倍以上6倍以下がさらに好ましい。
本発明における静的接触角は、基板ガラスを壁の内側を構成する部材(平板状に作成)
に変更し、純水をインク組成物に変更する以外は、JIS R 3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)の静滴法に準じて測定される。具体的には、自動接触角測定装置OCAH200(製品名、Data Physics社製)等を用いて、セシルドロップ法(静滴法)により行うことができる。
<後退接触角>
図13は、インクが記録ヘッド17に供給されることで、インクの液面LFが低下する様子を模式的に示した図である。図13に示すように、インクの液面がLFからLF1まで低下した場合、境界部分Aに形成されていた凹状のメニスカスは、境界部分A1まで低下する。このとき、境界部分Aと境界部分A1との間に存在する壁面には、インクが残留しないことが好ましい。すなわち、動的接触角のうち後述する後退接触角が大きければ、インク室340内のインク消費によってインクの液面上に現れる壁面(すなわち、図13における境界部分Aと境界部分A1の間に存在する壁面)には、インクが残留しにくくなる。これにより、壁面にインクの薄膜が形成されにくくなるので、析出物の発生を低減できる。
具体的には、壁370(支持体380)の内側を構成する部材と、インク組成物との後退接触角CARは、5°以上であることが好ましく、5°以上50°以下であることがより好ましく、10°以上40°以下であることがさらに好ましい。後退接触角CARが5°以上であることにより、インク消費によってインクの液面上に現れる壁面に、インクが残留しにくくなる傾向にある。また、後退接触角CARが50°以下であることで、紙やプラスチック等の多様な種類の記録媒体に対するインクの濡れ性が良好になるので、優れた画質の画像を記録することができる。
本発明における後退接触角は、拡張・収縮法により測定することができ、具体的には、自動接触角測定装置OCAH200(製品名、Data Physics社製)等を用いて、壁の内側を構成する部材(平板状に作成)上にインク組成物の液滴を付着させて、該液滴を収縮させた際に測定される接触角のことをいう。
後退接触角の測定方法としては、次のような方法が挙げられる。自動接触角測定装置OCAH200(製品名、Data Physics社製)を用い、20℃の条件下で、上記「<水分蒸発前の静的接触角CA(CA0)>」で作成した平板状のサンプル上にインクの液滴8.5μlを付着させ、8.5μl/secの速度で5秒間拡張させ、その後に8.5μl/secの速度で5秒間収縮時の接触角(後退接触角CAS)を測定する。なお、測定は収縮を始めてから2.0〜2.4秒の間に0.1秒間隔で測定を行い、5点の平均値を後退接触角する。
<インク溶剤分蒸発に伴う表面張力の変化>
本発明のインク組成物は、インク溶剤分蒸発に伴う表面張力の変化が以下の条件を満たすと、凝集物の析出防止の観点から好ましい。なお、初期インク組成物からの蒸発量が多い場合は、水以外の溶剤成分も蒸発している可能性が高いため、「インク溶剤分」と表現している。
また、下記式における、γM0、γM1、γM2、γM3は、それぞれ、インク溶剤分蒸発前の表面張力、インク溶剤分が3.5質量%、7質量%、12質量%蒸発後のインク組成物を示す。「インク溶剤分蒸発後のインク組成物」とは、インク溶剤分蒸発前のインク組成物の全質量(100質量%)に対して、インク溶剤分が所定の質量%蒸発した場合のインク組成物のことをいう。
本実施形態のインク組成物は、以下の条件(5−1)、(5−2)、(5−3)のうち
2つ以上を満たす、又は、以下の条件(6−1)〜(6−3)のいずれも満たす、インク組成物であると好ましい。また、以下の条件(5−1)〜(5−3)のいずれも満たすことが好ましい。
条件(5−1):γM0−γM1>0(mN/m)
条件(5−2):γM0−γM2>0(mN/m)
条件(5−3):γM0−γM3>0(mN/m)
条件(6−1):γM0−γM1>−0.05(mN/m)
条件(6−2):γM0−γM2>−0.05(mN/m)
条件(6−3):γM0−γM3>−0.05(mN/m)
インク溶剤分が揮発していった際に、表面張力が低下しない又は低下量が少ないインク組成物であれば、長期的に保存安定性を有するインク組成物となる。下記の条件を満たすインク組成物は、上述の<保湿剤>の項目で述べた溶剤の選定や、溶剤の添加量を調整することで得ることが出来る。
3.2.支持体とインク組成物との接触角
<静的接触角>
上記の「3.1.インク室とインク組成物との接触角 <静的接触角>」における説明と同様の観点により、壁370(後述)を構成する部材と、インク組成物との静的接触角CASが大きいと、壁370にインクの薄膜が形成されにくくなる。具体的には、支持体380を構成する部材と、インク組成物との静的接触角CASは、10°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましく、30°以上であることがさらに好ましい。静的接触角CASが10°以上であることで、濡れ剤を含むインクを用いても壁370におけるインクの薄膜の形成が低減される。
<水分蒸発に伴う静的接触角の変化>
上記の「3.1.インク室とインク組成物との接触角 <水分蒸発に伴う静的接触角の変化>」における説明と同様の観点により、壁370を構成する部材と、インク組成物との静的接触角CAS0が10°以上であり、かつ、インク組成物に含まれる水分の蒸発前後におけるインク組成物の濡れ性が変化しにくい場合には、壁370におけるインクの薄膜の形成がより一層低減される傾向にある。
具体的には、水分蒸発前のインク組成物と壁370を構成する部材との静的接触角をCAS0、水分蒸発後のインク組成物と支持体380の内側を構成する部材との静的接触角をCAS1とした場合に、下記条件(3)および(4)を満たすことで、壁370におけるインクの薄膜の形成を良好に低減できる。
条件(3):10°≦CAS0、かつ、10°≦CAS1
条件(4):0°≦CAS0−CAS1≦5°
水分蒸発前の静的接触角CAS0は、上述した「3.2.支持体とインク組成物との接触角 <静的接触角>」における静的接触角CASと同一のものである。また、CAS1を求める際の「水分蒸発後のインク組成物」とは、水分蒸発前のインク組成物の全質量(100質量%)に対して、水分が1質量%蒸発した場合のインク組成物のことをいう。
また、CAS0およびCAS1は、下記条件(3−1)を満たす場合がより好ましく、条件(3−2)を満たすことがさらに好ましい。これにより、壁370にインクの薄膜がより一層形成されにくくなる。
条件(3−1):20°≦CAS0、かつ、20°≦CAS1
条件(3−2):30°≦CAS0、かつ、30°≦CAS1
また、壁370においてインクの薄膜が一層形成されにくくなることから、下記条件(4−1)を満たすことがより好ましい。
条件(4−1):0°≦CAS0−CAS1≦3°
<後退接触角>
上記の「3.1.インク室とインク組成物との接触角 <後退接触角>」における説明と同様の観点により、壁370を構成する部材と、インク組成物との後退接触角CARSが大きいと、壁370にインクの薄膜が形成されにくくなる。
具体的には、壁370を構成する部材と、インク組成物との後退接触角CARSは、5°以上であることが好ましく、5°以上50°以下であることがより好ましく、10°以上40°以下であることがさらに好ましい。後退接触角CARSが5°以上であることで、インクの消費によってインクの液面上に現れる支持体380に、インクが残留しにくくなる傾向にある。また、後退接触角CARSが50°以下であることで、紙やプラスチック等の多様な種類の記録媒体に対するインクの濡れ性が良好になるので、優れた画質の画像を記録することができる。
4.第1の実施例
以下、本発明を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
4.1.インク組成物の調製
表1に示す配合量で各成分を混合攪拌し、孔径10μmのメンブレンフィルターで加圧濾過を行って、インク1〜3を得た。なお、表1に記載されている単位は、質量%である。また、顔料および樹脂については、固形分換算した値を示す。
表1で使用した成分のうち、略称または商品名で記載した成分は、以下の通りである。・カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7、体積基準の平均粒子径100nm、自己分散顔料)
・スチレンアクリル樹脂(定着用樹脂、ガラス転移温度Tg−15℃、体積基準の平均粒子径80nm、スチレン−アクリル酸エステル共重合体のエマルジョン)
・BYK−348(商品名、BYK社製、シリコーン系界面活性剤)
また、得られたインク1〜3について、表面張力を測定した。表面張力は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力を測定することで得られた値である。各インクの表面張力の値を表1にあわせて示す。
4.2.インク容器の製造
表2に示す材料を用いて、図7と同様の形状のインク容器1〜5を公知の方法により製造した。インク容器1、2〜4については、インク室を区画する壁の内側の部材がインク容器と同一の材質からなる。一方、インク容器2および5については、インク室を区画する壁の内側の部材は、シリコーン樹脂またはメチルシリケートオリゴマーからなる。具体的には、インク容器2および5は、インク容器をポリプロピレンで作成した後、インク室を区画する壁の内側に、シリコーン樹脂またはメチルシリケートオリゴマーを塗布し乾燥させることで得られた。
表2で使用した材料の詳細は、以下の通りである。
・PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)
・PP(ポリプロピレン)
・PET(ポリエチレンテレフタレート)
・シリコーン樹脂(商品名「HC303VP」、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製)・メチルシリケートオリゴマー(親水性材料)
4.3.評価試験
4.3.1.撥液性
<水分蒸発前の静的接触角CA(CA0)>
インク室を区画する壁の内側を構成する部材と、水分蒸発前のインクとの静的接触角CA(CA0)を、次のようにして測定した。
まず、インク容器1〜5から、インク室を区画する壁の内側を構成する部材を平板状に切り出すことによって、平板状のサンプルを得た。そして、基板ガラスをこの平板状のサ
ンプルに変更し、純水をインクに変更した以外は、JIS R 3257(基板ガラス表面のぬれ性試験方法)の静滴法に準じて、静的接触角CA(CA0)を測定した。
測定装置には自動接触角測定装置OCAH200(製品名、Data Physics社製)を用いて、セシルドロップ法(静滴法)による測定を行った。静的接触角は、インクの液滴1μlを上記サンプル上に滴下して、滴下1分後の接触角を測定することで得られた値である(5点の平均値)。
<水分蒸発後の静的接触角CA1>
インクの水分を1%蒸発させた後、上記「<水分蒸発前の静的接触角CA(CA0)>」と同様にして、水分蒸発後の静的接触角CA1を測定した。
4.3.2.フィルター目詰まり
上記のようにして得られたインク容器1〜5を、図1(A)と同様の構成のインクジェットプリンターに搭載した。次いで、インク室内に上記のインク1を500ml充填して、インク容器を使用状態の姿勢とした後、温度40℃・相対湿度20%RHの条件下で2週間放置した。
2週間後、インク室内のインク500mlを記録ヘッドから吐出させて、インク容器とサブタンクを接続するインク供給管内に設けられたフィルター(材質SUS、メッシュ孔径3.5μm)の目詰まり状態を確認した。フィルターの目詰まり状態は、デジタルマイクロスコープVHX−900(株式会社キーエンス社製)を用いてフィルターの表面を確認し、フィルターの面積に対する目詰まり面積(%)を算出することで評価した。通液量はインクジェットプリンター寿命想定使用量の3%であるため、目詰まり量を30倍して目詰まり面積を算出した。
評価基準は以下の通りである。
S:フィルターの目詰まり面積が10%以下
A:フィルターの目詰まり面積が10%超20%以下
B:フィルターの目詰まり面積が20%超40%以下
C:フィルターの目詰まり面積が40%超50%以下
D:フィルターの目詰まり面積が50%超過
4.4.評価結果
上記の評価試験の結果を表3に示す。
表3の評価結果に示すように、インク室を区画する壁の内側を構成する部材と、水分蒸発前のインク1との静的接触角CA(CA0)が、10°以上であることで、フィルターの目詰まりが少なくなることがわかった(実施例1〜4参照)。このように、静的接触角CA(CA0)が10°以上となるインクと部材を組み合わせて使用することで、凝集物
の発生が低減できることが示された。
また、10°≦CA0、かつ、10°≦CA1を満たし(上述した条件(1))、0°≦CA0−CA1≦5°を満たす(上述した条件(2))ことで、フィルターの目詰まりが一層少なくなることがわかった(実施例1〜3参照)。特に、20°≦CA0、かつ、20°≦CA1を満たし(上述した条件(1−1))、0°≦CA0−CA1≦5°を満たす(上述した条件(2))ことで、フィルターの目詰まりがより一層少なくなることがわかった(実施例1および2)。
一方、表3の評価結果に示すように、比較例1では、インク室を区画する壁の内側を構成する部材と、水分蒸発前のインク1との濡れ性が高すぎて、静的接触角CA(CA0)を測定できなかった。また、フィルターの目詰まりがひどく、記録ヘッドの吐出安定性が損なわれる程であった。
インク2を用いた以外は、上述した実施例1と同様にして、接触角低下(CA0−CA1)を求めた。その結果、インク2を用いて得られた接触角低下(CA0−CA1)の値は、実施例1における接触角低下(CA0−CA1)の値と比べて、低い値(すなわち3°未満)となった。さらに、インク2を用いてフィルターの目詰まりの評価試験を実施したところ、実施例1よりもフィルターの目詰まりが少なかった。インク2は、インク1と比べて固形分量が少なく、さらに樹脂も含有しないので、樹脂に起因する顔料の凝集が生じなかったためと考えられる。
インク3を用いた以外は、上述した実施例1と同様にして、フィルターの目詰まりの評価を行った。その結果、インク3を用いると、インク1を用いた場合と比較して、フィルターの目詰まりが生じにくいことがわかった。インク3は、他のインクと比べて表面張力が高いので、インク室の壁面に付着しにくく、凝集物を生じさせにくかったことによると考えられる。
5.第2の実施例
表4に示す配合量で各成分を混合攪拌し、孔径10μmのメンブレンフィルターで加圧濾過を行って、インクA(溶剤種が異なる組成を7種類)とインクBを得た。なお、表4に記載されている単位は、質量%である。また、顔料および樹脂については、固形分換算した値を示す。
表4で使用した成分のうち、略称または商品名で記載した成分は、以下の通りである。・カーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7、体積基準の平均粒子径100nm、自己分散顔料)
・スチレンアクリル樹脂(定着用樹脂、Tg−15℃、体積基準の平均粒子径80nm、スチレン−アクリル酸エステル共重合体のエマルジョン)。
溶剤Aは、表5に記載の溶剤を添加し、実験例1〜7のインク組成物とした。なお、実験例7のインク組成物は、グリセリンが13質量%となっている。
5.1.表面張力の測定
得られた各実験例のインク組成物について、溶剤蒸発試験を実施前に表面張力を測定した。その後、インク組成物を60℃の条件下で0.75時間放置し、インク中の溶剤を3.5質量%蒸発させた。同様に、1.5時間放置して7質量%、2.5時間放置して12質量%溶剤を蒸発させた。表面張力は、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社製)を用いて、20℃の環境下で白金プレートをインクで濡らしたときの表面張力の測定することで得られた値である。各インクの表面張力、及び表面張力変化値を表5にあわせて示す。なお、表面張力の変化値は、初期表面張力を基準に変化した値を算出している。
5.2.析出物評価試験
上記のインク容器2のインク室内に、上記の実験例1〜8のインク組成物を500ml充填して、インク容器を使用状態の姿勢とした後、温度40℃・相対湿度20%RHの条件下で2週間放置した。2週間後、インク室内のインク500mlを記録ヘッドから吐出させて、インク容器とサブタンクを接続するインク供給管内に設けられたフィルター(材質SUS、メッシュ孔径3.5μm)の目詰まり状態を確認した。フィルターの目詰まり状態は、デジタルマイクロスコープVHX−900(株式会社キーエンス社製)を用いてフィルターの表面を確認した。
表面を観察した結果に基づき、各実験例のインク組成物群の中で析出物発生量の少なさの順位付けを行い、その結果を表5に示した。表5において、析出物評価の数字が小さいインクが最も発生量が少なく、数字が大きいインクが最も発生量が多いインクである。
表5の結果から、保湿剤をグリセリンのみとしていた場合(実験例7)、溶剤が蒸発した場合に表面張力の低くなる傾向が強く見られ、析出物は多く見られた。また、溶剤が蒸発した場合に表面張力が高くなる傾向が見られるインクほど、析出物が少なくなる傾向が見られた。また、実験例8の結果から、1,2−ヘキサンジオールのような高い濡れ性(浸透性)を示す溶剤は、長期的に表面張力を低くする傾向があり、析出物の発生要因となっていることが分かった。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。