以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、ステップ(工程)及びステップの順序などは、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していないし、各図の装置及び部品等は省略して図示されている場合がある。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
また、本明細書及び図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を表しており、本実施の形態では、Z軸方向を鉛直方向とし、Z軸に垂直な方向(XY平面に平行な方向)を水平方向としている。X軸及びY軸は、互いに直交し、且つ、いずれもZ軸に直交する軸である。
(実施の形態)
まず、核酸増幅装置1にセットされるマイクロ流路チップ100の構成について、図1を用いて説明する。図1は、実施の形態に係る核酸増幅装置1にセットされるマイクロ流路チップ100の一例を示す図である。
図1に示すように、マイクロ流路チップ100は、マイクロ流体である反応溶液が流れるマイクロ流体チップであり、第1開口部110と、第2開口部120と、マイクロ流路130とを有する。第1開口部110と第2開口部120とは、マイクロ流路130によって連結されている。
本実施の形態において、マイクロ流路チップ100は、マイクロ流路チップ100に導入される反応溶液に含まれる検体の標的核酸を増幅させるための核酸増幅デバイスである。
マイクロ流路チップ100に導入される反応溶液は、例えば、標的核酸を含む検体と、標的核酸に反応する反応試薬とを含む水溶液である。検体は、例えば、検査対象となる微生物(細菌、ウイルス又は組織細胞等)から核酸抽出試薬により予め抽出された標的核酸を含む検体原液である。反応試薬は、例えば、蛍光物質を含むPCR試薬等の反応試薬溶液である。
マイクロ流路チップ100は、下基板である第1基板101と上基板である第2基板102とによって構成されている。第1基板101及び第2基板102としては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPC(ポリカーボネート)、アクリル等の樹脂基板、ガラス基板、又は、シリコン基板等を用いることができる。
第1開口部110は、マイクロ流路130の一方の端部に設けられており、マイクロ流路130の始点になっている。第1開口部110は、マイクロ流路130の入口(インレット)であり、反応溶液が導入される導入口である。つまり、反応溶液は、第1開口部110を介してマイクロ流路130に導入される。第1開口部110は、例えば、第1基板101に設けられた凹部と第2基板102に設けられた円形の貫通孔とによって構成されるが、これに限らない。
また、マイクロ流路130の第1開口部110付近には、一定量の反応溶液を保持することができる保持部として、マイクロ流路130の底面を一段下げた凹部が設けられているとよい。
第2開口部120は、マイクロ流路130の他方の端部に設けられており、マイクロ流路130の終点になっている。つまり、第2開口部120は、反応溶液の送液の終点となる。第2開口部120は、マイクロ流路130の出口(アウトレット)である。第2開口部120は、第1開口部110と同様に、例えば、第1基板101に設けられた凹部と第2基板102に設けられた円形の貫通孔とによって構成されるが、これに限らない。なお、第2開口部120は、マイクロ流路130を流れる反応溶液の一部又は全部を排出することが可能な排出口であるが、反応溶液は第2開口部120から排出されなくてもよい。
マイクロ流路130は、第1開口部110から導入された反応溶液を第2開口部120に送液するための流路である。マイクロ流路130は、流路幅及び流路深さがマイクロオーダサイズの微細流路である。本実施の形態において、マイクロ流路130は1本で構成されており、マイクロ流路130には反応溶液が一方通行的に流れる。具体的には、反応溶液は、マイクロ流路130内を第1開口部110から第2開口部120に向かう方向に流れる。また、本実施の形態では、反応溶液は、マイクロ流路130内を毛管力(キャピラリ力)により送液される。例えばマイクロ流路130の内面を界面活性剤等でコーティングして親水性表面にすることによって反応溶液を毛管力によって送液することができる。
マイクロ流路130は、例えば第1基板101に形成された溝である。なお、マイクロ流路130は、第2基板102に形成されていてもよい。マイクロ流路130を構成する溝は、例えば、断面形状が矩形状であって、流路幅(溝幅)及び深さがマイクロ流路130全域において一定である。一例として、マイクロ流路130を構成する溝は、流路幅が20〜300μmで、深さが50〜150μmである。
マイクロ流路チップ100は、マイクロ流路130を流れる反応溶液に含まれる標的核酸を増幅させるための核酸増幅反応部100a(核酸増幅領域)を有する。核酸増幅反応部100aにおけるマイクロ流路130は、核酸増幅装置1の加熱部10により温度制御された2つ以上の温度領域を往復又は周期的に通過するように構成されている。本実施の形態において、核酸増幅反応部100aにおけるマイクロ流路130は、蛇行するように形成された蛇行流路であり、加熱部10により形成される高温領域と低温領域との2つの温度領域を往復するように複数サイクルで折り返されている。なお、蛇行流路の折り返し回数は、例えば20〜70サイクル程度であるが、図1では、10サイクル程度しか図示されていない。
次に、実施の形態に係る核酸増幅装置1の構成について、図2〜図7を用いて説明する。図2は、実施の形態に係る核酸増幅装置1の外観を模式的に示す斜視図である。図3は、同核酸増幅装置1の上面図である。図4は、同核酸増幅装置1の正面図である。図5は、同核酸増幅装置1の側面図である。図6は、図3のVI−VI線における同核酸増幅装置1の断面図である。図7は、図3のVII−VII線における同核酸増幅装置1の断面図である。なお、図2〜図7では、核酸増幅装置1にマイクロ流路チップ100をセットした直後の状態(初期状態)を示している。
核酸増幅装置1は、マイクロ流路チップ100に導入する反応溶液に含まれる検体の標的核酸を加熱して増幅させるための装置であり、図2〜図7に示すように、加熱部10と、押さえ部20と、封止部30と、昇降部40とを備える。本実施の形態において、核酸増幅装置1には複数(具体的には4つ)のマイクロ流路チップ100をセットすることができる。これにより、複数のマイクロ流路チップ100に対して同時に検査を行うことができる。
加熱部10には、マイクロ流路チップ100が載置される。本実施の形態において、マイクロ流路チップ100は、加熱部10の上面に接するようにして加熱部10に載置される。加熱部10は、載置されたマイクロ流路チップ100を加熱する加熱装置である。具体的には、加熱部10は、マイクロ流路チップ100に導入された反応溶液を加熱する。
核酸増幅装置1において、加熱部10は複数(具体的には4つ)設けられている。これにより、一度に複数(具体的には4つ)のマイクロ流路チップ100を加熱することができる。各加熱部10は、少なくともマイクロ流路チップ100の核酸増幅反応部100a(図1参照)に対応するように配置されており、核酸増幅反応部100aのマイクロ流路130に送液される反応溶液は、加熱部10によって所定の温度が付与される。
本実施の形態において、各加熱部10は、所定の異なる温度に設定された第1ヒータ11と第2ヒータ12とを有する。これにより、マイクロ流路チップ100の核酸増幅反応部100aには、第1ヒータ11及び第2ヒータ12の2つのヒータによって、互いに異なる温度に設定された2つの温度領域が形成される。
具体的には、第1ヒータ11の温度は第2ヒータ12の温度よりも高くなるように設定されている。つまり、第1ヒータ11に対応する領域が高温領域であり、第2ヒータ12に対応する領域が低温領域である。これにより、マイクロ流路チップ100において、第1ヒータ11上の領域には高温領域が形成され、第2ヒータ12上の領域には低温領域が形成される。
高温領域を形成するための第1ヒータ11の設定温度は、例えば90℃〜98℃であり、本実施の形態では、核酸増幅反応の変性反応温度である約95℃としている。一方、低温領域を形成するための第2ヒータ12の設定温度は、例えば50℃〜75℃であり、本実施の形態では、アニール・伸長反応温度である約60℃としている。
また、第1ヒータ11と第2ヒータ12とは所定の隙間をあけて並べられている。マイクロ流路チップ100は、核酸増幅反応部100aが第1ヒータ11と第2ヒータ12との隙間を跨ぐように第1ヒータ11及び第2ヒータ12の上に載置される。これにより、核酸増幅反応部100aにおけるマイクロ流路130は、第1ヒータ11及び第2ヒータ12による2つの温度領域を複数サイクルで往復するように構成されることになる。この構成により、マイクロ流路130を流れる反応溶液に昇降温度サイクル(ヒートサイクル)が付与される。
第1ヒータ11及び第2ヒータ12は、例えばヒータブロックである。具体的には、第1ヒータ11及び第2ヒータ12は、直方体のアルミニウム又はステンレス等の金属からなる金属ブロックである。この場合、第1ヒータ11及び第2ヒータ12は、温度制御部(不図示)に接続されており、第1ヒータ11及び第2ヒータ12の各温度は、温度制御部によって制御される。
第1ヒータ11及び第2ヒータ12がヒータブロックである場合、マイクロ流路チップ100の第1基板101(下基板)の裏面は第1ヒータ11及び第2ヒータ12の各々の上面に接している。
なお、第1ヒータ11及び第2ヒータ12は、ヒータブロックに限るものではなく、金属薄膜ヒータ等のその他のヒータであってもよい。
また、第1ヒータ11及び第2ヒータ12とマイクロ流路チップ100との間に、加熱部10の一部として高熱伝導シートを配置するとよい。つまり、マイクロ流路チップ100を、高熱伝導シートを介して第1ヒータ11及び第2ヒータ12の上に載置してもよい。この場合、マイクロ流路チップ100と第1ヒータ11及び第2ヒータ12とは、それぞれ高熱伝導シートに接している。高熱伝導シートとしては、例えば、高熱伝導率の樹脂製の弾性シートを用いることができる。
このように、マイクロ流路チップ100と第1ヒータ11及び第2ヒータ12との間に高熱伝導シートを挿入することで、マイクロ流路チップ100と高熱伝導シートとを密着させることができるとともに加熱部10と高熱伝導シートとを密着させることができる。これにより、マイクロ流路チップ100と第1ヒータ11及び第2ヒータ12との間に空気層が介在しなくなり、マイクロ流路チップ100と第1ヒータ11及び第2ヒータ12との界面の密着性を向上させることができる。したがって、第1ヒータ11及び第2ヒータ12によって効率良くマイクロ流路チップ100を加熱することができる。
押さえ部20は、マイクロ流路チップ100を押さえ付けることでマイクロ流路チップ100を所定の高さ位置で固定するためのチップ固定用アーム(第1アーム)である。具体的には、押さえ部20は、弾性力による押圧によりマイクロ流路チップ100を押さえることでマイクロ流路チップ100を所定の高さ位置で固定する。
本実施の形態において、押さえ部20は、弾性変形する弾性部材21aを有する支持部材21(第1支持部材)により支持されているので、弾性部材21aが弾性変形することで押さえ部20の高さ位置が変化する。これにより、押さえ部20は、弾性部材21aの弾性力による押圧によってマイクロ流路チップ100を押さえ付けるので、マイクロ流路チップ100を所定の高さ位置で容易に固定することができる。
弾性部材21aは、例えば、バネである。具体的には、弾性部材21aは、金属製のコイルバネである。これにより、コイルバネの伸縮によって、押さえ部20の高さ位置を変化させることができる。なお、弾性部材21aを構成するコイルバネは、加熱部10を最大に上昇させた場合でも弾性力を保持するストロークが確保されるように設計及び選定されるとよい。
押さえ部20は、マイクロ流路チップ100ごとに設けられている。本実施の形態では、4つのマイクロ流路チップ100がセットされるので、押さえ部20も4つ設けられている。なお、4つの押さえ部20が一体化されたものであってもよいが、マイクロ流路チップ100の個体バラツキ等を考慮すると、押さえ部20は、マイクロ流路チップ100ごとに分離している方が、より安定して各マイクロ流路チップ100を固定することができる。
本実施の形態において、各押さえ部20は、枠状の板体である。押さえ部20は、マイクロ流路チップ100の外周の全端部を押さえ付けることができる大きさ及び形状を有するとよい。この場合、押さえ部20とマイクロ流路チップ100との接触面積(押さえる部分の面積)が大きくなりすぎると、所定の温度で加熱されるべきマイクロ流路チップ100から放熱を引き起こしてマイクロ流路チップ100が所定の温度で加熱されなくなるおそれがある。このため、押さえ部20とマイクロ流路チップ100との接触面積は小さい方がよい。一方、押さえ部20とマイクロ流路チップ100との接触面積が小さくなりすぎると、押さえ部20による押圧が小さくなってマイクロ流路チップ100と加熱部10との密着が不十分になるおそれがある。したがって、押さえ部20とマイクロ流路チップ100とは、面接触ではなく、多点接触になっているよい。この場合、押さえ部20に、複数の突起を設けて、この複数の突起によってマイクロ流路チップ100を押さ付けるとよい。これにより、例えば、面接触させたときと同じ面積となる面積で多点接触させることで、面接触させた場合と比べて、マイクロ流路チップ100と加熱部10との密着性を確保しつつ、押さえ部20による熱引きを抑制することができる。
押さえ部20の材料は特に限定されるものではないが、例えば金属材料又は樹脂材料によって構成することができる。この場合、マイクロ流路チップ100を押さえ付けるとの観点では高い強度を有する材料であるとよく、また、押さえ部20による熱引きを抑制するとの観点では熱伝導率が低い材料であるとよい。強度及び熱伝導率のバランスを考慮すると、押さえ部20は、ステンレスによって構成されているとよい。
また、各押さえ部20は、2つの支持部材21によって支持されている。具体的には、押さえ部20の長手方向の一方の端部には支柱20aが固定されており、押さえ部20の長手方向の他方の端部には支柱20bが固定されている。そして、2つの支柱20a及び20bの各々が弾性部材21aを介して2つの支持部材21の各々に支持されることで、押さえ部20が弾性部材21aの弾性力によって高さ位置が変位可能に支持部材21に支持されている。
本実施の形態において、押さえ部20は、マイクロ流路チップ100が加熱部10に載置された直後の状態(初期状態)のときにおいて、加熱部10よりも高い位置に設けられている。また、押さえ部20は、マイクロ流路チップ100が加熱部10に載置された状態のときに、上面視においてマイクロ流路チップ100の一部と重なっている。
この構成により、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を昇降部40によって上昇させることで、マイクロ流路チップ100の上面は押さえ部20によって押さえ付けられる。このとき、押さえ部20は、伸びた弾性部材21aのバネ復元力による弾性力によってマイクロ流路チップ100の上面を押さえ付けている。これにより、マイクロ流路チップ100は、所定の高さ位置で保持された状態で固定される。
また、マイクロ流路チップ100が押さえ部20で固定されている状態において、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を昇降部40によって下降させると、マイクロ流路チップ100と押さえ部20とが離される。これにより、マイクロ流路チップ100と押さえ部20との固定状態が解除される。
封止部30は、マイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止するためのチップ封止用アーム(第2アーム)である。具体的には、封止部30は、弾性力による押圧によりマイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止することで、第2開口部120は封止部30で蓋をされて密閉される。つまり、封止部30が第2開口部120を密閉する。
本実施の形態において、封止部30は、弾性変形する弾性部材31aを有する支持部材31(第2支持部材)により支持されているので、弾性部材31aが弾性変形することで封止部30の高さ位置が変化する。これにより、封止部30は、弾性部材31aの弾性力による押圧によってマイクロ流路チップ100の第2開口部120を押さえ付けることができる。このため、封止部30によって第2開口部120を容易に封止することができる。
弾性部材31aは、例えば、バネである。具体的には、弾性部材31aは、金属製のコイルバネである。これにより、コイルバネの伸縮によって、封止部30の高さ位置を変化させることができる。なお、弾性部材31aを構成するコイルバネは、加熱部10を最大に上昇させた場合でも弾性力を保持するストロークが確保されるように設計及び選定されるとよい。
封止部30は、マイクロ流路チップ100ごとに設けられている。本実施の形態では、4つのマイクロ流路チップ100がセットされるので、封止部30も4つ設けられている。なお、4つの封止部30が4つのマイクロ流路チップ100にまたがって一体化されたものであってもよいが、マイクロ流路チップ100の個体バラツキ等を考慮すると、封止部30は、マイクロ流路チップ100ごとに分離している方が、より安定して各マイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止することができる。
本実施の形態において、封止部30は、矩形状の板体である。封止部30は、マイクロ流路チップ100の第2開口部120を覆う大きさ及び形状を有するとよい。この場合、押さえ部20と同様に、封止部30とマイクロ流路チップ100との接触面積が大きくなりすぎると、所定の温度で加熱されるべきマイクロ流路チップ100から放熱を引き起こしてマイクロ流路チップ100が所定の温度で加熱されなくなるおそれがある。このため、第2開口部120の密閉状態を維持することができれば、封止部30とマイクロ流路チップ100との接触面積は小さい方がよい。
封止部30の材料は特に限定されるものではないが、例えば金属材料又は樹脂材料によって構成することができる。この場合、第2開口部120を押さえ付けて封止するとの観点では高い強度を有する材料であるとよく、また、封止部30による熱引きを抑制するとの観点では熱伝導率が低い材料であるとよい。強度及び熱伝導率のバランスを考慮すると、封止部30は、ステンレスによって構成されているとよい。
また、封止部30は、1つの支持部材31によって支持されている。具体的には、封止部30には支柱30aが固定されており、支柱30aが弾性部材31aを介して支持部材31に支持されることで、封止部30が弾性部材31aの弾性力で高さ位置が変位可能に支持部材31に支持されている。
なお、封止部30に固定された支柱30aは、押さえ部20と接触することなく押さえ部20の一部に設けられた貫通孔を貫通している。これにより、支柱30aと押さえ部20とが干渉することなく、封止部30の高さ位置が変位可能となっている。
本実施の形態において、封止部30は、マイクロ流路チップ100が加熱部10に載置された直後の状態(初期状態)のときにおいて、押さえ部20よりも高い位置に設けられている。また、封止部30は、マイクロ流路チップ100が加熱部10に載置された状態のときに、上面視においてマイクロ流路チップ100の第2開口部120と重なっている。
この構成により、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を昇降部40によって上昇させることで、第2開口部120が封止部30によって封止される。このとき、封止部30は、伸びた弾性部材31aのバネ復元力による弾性力によって第2開口部120の周囲を押さえ付けている。これにより、第2開口部120が密閉状態となる。
また、マイクロ流路チップ100が封止部30で封止されている状態において、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を昇降部40によって下降させると、マイクロ流路チップ100と封止部30とが離される。これにより、封止部30による第2開口部120の封止状態が解除される。
また、封止部30は、第2開口部120を囲む位置に対応する環状のパッキン30bを有している。これにより、封止部30で第2開口部120を押さえ付けることで、封止部30は、パッキン30bで第2開口部120を封止することになる。これにより、封止部30による押圧が小さくても、第2開口部120を容易に密閉することができる。例えば、本実施の形態のように、バネの弾性力による押圧であっても封止部30で第2開口部120を容易に密閉して気密封止することができる。
パッキン30bは、例えば、エラストマー材料によって構成されたOリングである。このようなパッキン30bとしては、シリコーンゴム、フッ素ゴム又はニトリルゴム等のゴム弾性を有する材料によって構成されたゴムパッキンを用いることができる。
昇降部40は、押さえ部20及び封止部30に対して相対的に加熱部10が昇降するように押さえ部20及び加熱部10の少なくとも一方を昇降させる昇降機構である。本実施の形態において、昇降部40は、加熱部10を鉛直方向(Z軸方向)に昇降させる。つまり、昇降部40は、加熱部10を鉛直方向に上昇させたり下降させたりする。このように、加熱部10を昇降部40によって昇降させることで、押さえ部20及びマイクロ流路チップ100の接離状態と封止部30及びマイクロ流路チップ100の接離状態との2つの接離状態を制御している。
昇降部40は、昇降機構として、加熱部10を支持するリフター41と、リフター41を鉛直方向に昇降させるアクチュエータ42とを有する。
本実施の形態において、リフター41は、4つの加熱部10を支持する支持板41aと、支持板41aの裏面に固定された略三角形部を有する梁41bと、梁41bに固定された略L字状部を有する支柱41cとによって構成されている。4つの加熱部10は、支持板41aに固定されている。これにより、1つのリフター41によって4つの加熱部10を同時に昇降させることできる。
また、アクチュエータ42は、例えばモータ等である。一例として、アクチュエータ42は、ステッピングモータによる昇降アクチュエータである。アクチュエータ42を制御することによってリフター41を昇降させることができる。つまり、アクチュエータ42を制御することによって加熱部10を上昇させたり下降させたりすることができる。具体的には、アクチュエータ42によって支柱41cを昇降させることで梁41b及び支持板41aが昇降し、これにより、支持板41aに支持された加熱部10が昇降する。
このように、本実施の形態における昇降部40には、アクチュエータ42が用いられているので、自動で加熱部10を昇降させることができる。なお、昇降部40は、アクチュエータ42を用いずに構成されていてもよい。つまり、昇降部40は、手動により加熱部10を昇降させるように構成されていてもよい。
また、本実施の形態では、1つのアクチュエータ42によって加熱部10を昇降させており、1つのアクチュエータ42のみで押さえ部20及びマイクロ流路チップ100の接離状態と封止部30及びマイクロ流路チップ100の接離状態との2つの接離状態を制御している。
以上、本実施の形態における核酸増幅装置1は、マイクロ流路チップ100が載置される加熱部10と、マイクロ流路チップ100を押さえるための押さえ部20と、マイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止するための封止部30と、加熱部10を昇降させる昇降部40とを備える。
これにより、加熱部10を昇降させるだけで、マイクロ流路チップ100を加熱部10に押さえ付けることと第2開口部120を封止することとを行うことができる。これにより、マイクロ流路チップ100に導入する反応溶液に対して核酸増幅反応処理を行う際に核酸増幅装置1を用いることによって、マイクロ流路チップ100を加熱部10に押さえつけることができ、かつ、マイクロ流路チップ100に導入する反応溶液の送液開始のタイミングを制御することができる。
次に、実施の形態に係る核酸増幅方法について、図8〜図11を用いて説明する。図8〜図11は、実施の形態に係る核酸増幅方法を説明するための図であり、図8は第一工程、図9は第二工程、図10は第三工程、図11は第四工程を示している。なお、図8〜図11の各々において、左側の(a)は、図5の断面図に対応し、右側の(b)は、図6の断面図の一部に対応する。
本実施の形態に係る核酸増幅方法は、上記実施の形態における核酸増幅装置1を用いて行われる。
まず、図8に示すように、マイクロ流路チップ100を核酸増幅装置1の加熱部10に載置する(第一工程)。例えば、4つの加熱部10の各々にマイクロ流路チップ100を載置する。つまり、4つのマイクロ流路チップ100をセットする。
このマイクロ流路チップ100を加熱部10に載置したときの状態が核酸増幅装置1の初期状態(チップセット時)である。この初期状態において、押さえ部20及び封止部30は、マイクロ流路チップ100に接触しておらず、それぞれマイクロ流路チップ100と所定の距離をあけて離れている。
次に、第一工程の後に、昇降部40によりマイクロ流路チップ100が載置された加熱部10と押さえ部20との少なくとも一方を昇降させることで、弾性力による押圧によりマイクロ流路チップ100の一部を押さえ部20で押さえる(第二工程)。
本実施の形態では昇降部40は加熱部10を昇降させるので、図9に示すように、この第二工程では、昇降部40は、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を鉛直方向に1段階上昇させる(1段階目の加熱部10の上昇)。このとき、昇降部40は、マイクロ流路チップ100が押さえ部20によって押圧が付与されるまで加熱部10を上昇させる。
具体的には、加熱部10を上昇させていくと、マイクロ流路チップ100が押さえ部20の初期の高さ位置で押さえ部20と接触するが、この接触したときの位置から、さらに加熱部10をわずかに上昇させる。これにより、支持部材21の弾性部材21aが伸びるので、弾性部材21aに弾性力として復元力が発生する。
このとき、押さえ部20は、弾性部材21aの弾性力による押圧によってマイクロ流路チップ100を押さえ付けることになる。このように、マイクロ流路チップ100は、押さえ部20の初期の高さ位置から少し上側の位置において、押さえ部20で押圧された状態(チップ固定状態)で固定される。なお、第二工程では、マイクロ流路チップ100と封止部30とはまだ接触していない。
次に、第二工程の後に、昇降部40によりマイクロ流路チップ100が載置された加熱部10と封止部30との少なくとも一方を昇降させることで、弾性力による押圧によりマイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止部30で封止する(第三工程)。
本実施の形態では昇降部40は加熱部10を昇降させるので、図10に示すように、この第三工程では、昇降部40は、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を鉛直方向にさらに1段上昇させる(2段階目の加熱部10の上昇)。このとき、昇降部40は、マイクロ流路チップ100が封止部30によって押圧が付与されるまで加熱部10を上昇させる。
具体的には、マイクロ流路チップ100が押さえ部20で押圧された状態(チップ固定状態)から加熱部10をさらに上昇させていくと、マイクロ流路チップ100は、押さえ部20で押圧された状態が維持されたまま、押さえ部20よりも高い位置にある封止部30の初期の高さ位置で封止部30のパッキン30bと接触するが、この接触したときの位置から、さらに加熱部10をわずかに上昇させる。これにより、支持部材31の弾性部材31aが伸びるので、弾性部材31aに弾性力として復元力が発生する。
このとき、封止部30は、弾性部材31aの弾性力による押圧によってマイクロ流路チップ100の第2開口部120を覆って封止することになる。このように、マイクロ流路チップ100は、封止部30の初期の高さ位置から少し上側の位置において封止部30で押圧された状態となり、この状態において第2開口部120が封止部30で封止される。これにより、第2開口部120が気密封止された状態(チップ封止状態)となる。
なお、チップ封止状態では、押さえ部20を支持する支持部材21の弾性部材21aがさらに伸びるので、マイクロ流路チップ100は、押さえ部20で押圧された状態が維持されている。
そして、このチップ封止状態において、反応溶液3をマイクロ流路チップ100に導入する。例えば、標的核酸を含む検体と反応試薬とを予め混合させておいて予め秤量した反応溶液3をピペット2によって滴下することで、マイクロ流路チップ100の第1開口部110に反応溶液3を導入する。このとき、4つのマイクロ流路チップ100の各々に反応溶液3を導入するが、各マイクロ流路チップ100の第2開口部120は封止部30で封止されているので、第1開口部110に導入された反応溶液3は送液されずに、第1開口部110付近に滞留する。なお、標的核酸を含む検体と反応試薬とを予め混合させておくのではなく、標的核酸を含む検体と反応試薬とを順次第1開口部110に導入して第1開口部110付近で混合させてマイクロ流路チップ100内で反応溶液3を生成してもよい。
次に、第三工程の後に、昇降部40によりマイクロ流路チップ100が載置された加熱部10と封止部30との少なくとも一方を移動させることで、封止部30を第2開口部120から離す(第四工程)。
本実施の形態では昇降部40は加熱部10を昇降させるので、図11に示すように、この第四工程では、昇降部40は、マイクロ流路チップ100が載置された加熱部10を1段階下降させる。具体的には、加熱部10を下降させることで、第二工程でマイクロ流路チップ100を上昇させて押さえ部20で押さえ付けたときの位置(図9の位置)まで、マイクロ流路チップ100を下降させる。これにより、封止部30が第2開口部120から離れて、第2開口部120の気密封止が解除された状態(チップ封止解除状態)となる。
このように、第四工程では、封止部30が第2開口部120から離れて(本実施の形態では、封止部30のパッキン30bが第2開口部120から離れて)、第2開口部120の気密封止の状態が解除される。これにより、第1開口部110付近に滞留していた反応溶液3が毛管力によってマイクロ流路130内を自走し始める。つまり、第2開口部120から封止部30が離れたときに、反応溶液3の送液が開始する。このように、第2開口部120の気密封止の解除を制御することで、反応溶液3の送液開始のタイミングを制御することができる。
また、反応溶液3を自走によって送液させることで、送液用のアクチュエータを用いる必要がないので、簡便な構成で反応溶液3を送液させることができる。しかも、4つのマイクロ流路チップ100の各々について、各第2開口部120の気密封止の解除を同時に行うことで、各マイクロ流路チップ100の反応溶液3の送液を同時に開始させることができる。
この場合、4つの封止部30を一体化させておくことで、4つのマイクロ流路チップ100の反応溶液3の送液を、容易に同時に開始させることができる。なお、4つの封止部30を一体化せずに各マイクロ流路チップ100ごとに分離しておくことで、各封止部30の高さ位置を変えることによって、マイクロ流路チップ100ごとに、送液開始のタイミングを異ならせることもできる。
その後、各マイクロ流路チップ100では、反応溶液3が送液されてマイクロ流路130を進むことになり、反応溶液3は、マイクロ流路130の蛇行流路によって高温領域と低温領域とを通過する。これにより、反応溶液3に周期的な温度変化(温度サイクル)を与えることができる。
具体的には、反応溶液3は、第1ヒータ11上と第2ヒータ12上とを繰り返して往復するようにマイクロ流路130を通ることになる。つまり、反応溶液3は、高温領域(第1ヒータ11)と低温領域(第2ヒータ12)との2つの温度領域を交互に繰り返して通過するように送液されるので、反応溶液3には、加熱と冷却とが交互に繰り返して付与されることになる。これにより、反応溶液3に対してヒートサイクルを付与することができるので、反応溶液3に含まれる標的核酸は、高温領域での変性反応と低温領域でのアニール・伸長反応との繰り返しにより増幅することになる。
このように、送液しながら反応溶液3を昇降温させることができるので、非常に高速なフローPCRを実現することができる。したがって、反応溶液3に含まれる標的核酸を高速に増幅させることができる。
このとき、第四工程では、第二工程でマイクロ流路チップ100を上昇させて押さえ部20で押さえ付けたときの位置(図9の位置)までしかマイクロ流路チップ100を下降させていない。つまり、第四工程では、封止部30はマイクロ流路チップ100から離れるが、押さえ部20はマイクロ流路チップ100を押さえている。このため、チップ封止解除状態では、マイクロ流路チップ100は、押さえ部20で押圧された状態が維持されているので、マイクロ流路チップ100は、押さえ部20による押圧によって加熱部10に密着している。これにより、マイクロ流路チップを効率良くかつ精度よく加熱することができるので、高い精度で標的核酸を高速に増幅させることができる。
なお、反応溶液3がマイクロ流路130の全域に行き渡った後は、光学検出装置を用いて、反応溶液3に含まれる標的核酸の増幅量を検出する。例えば、マイクロ流路130に交差する方向にレーザ光(励起光)をスキャンしながら反射光(蛍光)を受光し、受光した反射光量(蛍光量)に基づいて、蛇行流路のサイクル毎(温度サイクル毎)の核酸の増幅量を増幅曲線として検出する。具体的には、PCRサイクルの増加に従って核酸の増幅量が増加する増幅曲線が得られる。これにより、反応溶液3に含まれる標的核酸の増幅量を算出することができる。これにより、マイクロ流路チップ100のPCR検査が完了する。
PCR検査が終了した後は、図示しないが、昇降部40により加熱部10を下降させる。具体的には、第一工程の初期状態(チップセット時)の位置(図8の位置)まで、マイクロ流路チップ100を下降させる。これにより、押さえ部20がマイクロ流路チップ100から離れる。その後、検査済みのマイクロ流路チップ100を加熱部10から取り外す。
このとき、図12に示される核酸増幅装置1Aのように、加熱部10に載置されたマイクロ流路チップ100を加熱部10から分離するための分離部50を設けておくとよい。分離部50は、加熱部10を下降させたときにマイクロ流路チップ100を下から押し上げるためのチップ押し上げ用アーム(第3アーム)である。分離部50は、マイクロ流路チップ100を分離する際にマイクロ流路チップ100に接触する接触部として、マイクロ流路チップを加熱部10に載置する際(初期状態)に加熱部10よりも低い位置に存在する部分を有する。
この構成により、図12に示すように、昇降部40により加熱部10を初期状態(チップセット時)の位置よりも下降させることによって、分離部50の一部(図12では分離部の頂部)が加熱部10よりも高い箇所に位置することになる。これにより、マイクロ流路チップ100の一部が分離部50の頂部(接触部)によって押し上げられて加熱部10から浮き上がる。したがって、マイクロ流路チップ100を加熱部10に密着させていていたとしても、マイクロ流路チップ100を加熱部10から容易に取り外すことができる。つまり、マイクロ流路チップ100の取り出し作業を容易に行うことができる。
そして、マイクロ流路チップ100を加熱部10から取り外した後は、図13に示すように、昇降部40により加熱部10を上昇させる。具体的には、第一工程の初期状態(チップセット時)の位置まで、マイクロ流路チップ100を上昇させる。これにより、次に検査するマイクロ流路チップ100を加熱部10に載置することで、次のマイクロ流路チップ100の検査を行うことができる。
以上、本実施の形態における核酸増幅方法では、マイクロ流路チップ100が載置される加熱部10と、マイクロ流路チップ100を押さえるための押さえ部20と、マイクロ流路チップ100の第2開口部120を封止するための封止部30と、加熱部10を昇降させる昇降部40とを備える核酸増幅装置1を用いて行われる。
このように、簡便な構造の核酸増幅装置1を用いることによって、マイクロ流路チップ100を加熱部10に押さえ付けることと第2開口部120を封止することとを昇降部40で自動制御している。つまり、2つの駆動部(アクチュエータ)を用いることなく、1つの駆動部として昇降部40を用いて、マイクロ流路チップ100に対する押さえ部20及び封止部30の接離状態を制御している。これにより、簡便な構造により、マイクロ流路チップ100を加熱部10に押さえつけることができ、かつ、マイクロ流路チップ100に導入する反応溶液3の送液開始のタイミングを制御することができる。
(変形例)
以上、本発明に係る核酸増幅装置及び核酸増幅方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施の形態において、初期状態からチップ固定状態にするために加熱部10を1段階上昇させる工程(第二工程)と、チップ固定状態からチップ封止状態にするために加熱部10をさらに1段階上昇させる工程(第三工程)とを別々の工程で行ったが、第二工程と第三工程とを区別することなく、第二工程と第三工程とを連続して行う1つの工程であってもよい。この場合、初期状態から押さえ部20がマイクロ流路チップ100を押さえて封止部30が第2開口部120を封止するまで加熱部10を上昇し続けさせればよい。
また、上記実施の形態において、昇降部40は、加熱部10及び押さえ部20のうち加熱部10を昇降させることで、押さえ部20及び封止部30に対して相対的に加熱部10を昇降させたが、これに限らない。例えば、昇降部40は、押さえ部20を昇降させることで、押さえ部20及び封止部30に対して相対的に加熱部10を昇降させてもよい。この場合、昇降部40は、押さえ部20だけではなく、押さえ部20とともに封止部30を昇降させることで、押さえ部20及び封止部30に対して相対的に加熱部10を昇降させてもよい。
また、上記実施の形態において、核酸増幅装置1にセットできるマイクロ流路チップ100の数を4つとしたが、これに限らず、核酸増幅装置1にセットできるマイクロ流路チップ100の数は、1つであってもよいし、4つ以外の複数であってもよい。
その他、各実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。