JP2018183108A - 酵母の培養方法及びエタノール生産方法 - Google Patents
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Abstract
Description
前述のとおり、キシロースはそもそもエタノール発酵しにくいものであるが、グルコース阻害は、セルロース系バイオマスから得た糖化液のような、グルコース及びキシロースの両方を含有する発酵用液中のキシロースをより一層消費しにくくする。そして、このような発酵液中ではグルコースを完全に消費した後でなければキシロースが消費されないという序列があるため、グルコースの消費がグルコース阻害により停止してしまうと、キシロースの発酵が進行しなくなるという問題があった(非特許文献3)。
〔1〕 カンジダ・インターメディアに属し、グルコース及びキシロースの共存下でエタノール生産能を有する酵母を、酸素移動容量係数kLaが12.5〜28(h-1)の範囲となる好気的条件で培養する好気培養工程を含む、酵母の培養方法。
〔2〕 前記酵母が、カンジダ・インターメディア 4−6−4T2株である、前記〔1〕に記載の培養方法。
〔3〕 前記好気培養工程を、グルコース、マルトース及びスクロースから選ばれる1種又は2種以上と、キシロース、ガラクトース及びマンノースから選ばれる1種又は2種以上とを含有する培地で行う、前記〔1〕又は〔2〕に記載の培養方法。
〔4〕 前記好気培養工程で培養した酵母を嫌気的条件で培養する嫌気培養工程を更に含む、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の培養方法。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の培養方法で酵母を培養した後、当該方法で培養された酵母の存在下で、グルコース及びキシロースを含有する発酵用液を発酵させる、エタノールの生産方法。
したがって、本発明のエタノール生産方法によれば、グルコース及びキシロースの両方を含有する発酵用液からエタノールを効率良く生産することができる。
(好気培養工程)
本発明の培養方法は、カンジダ・インターメディア(Candida intermedia)に属し、グルコース及びキシロースの共存下でエタノール生産能を有する酵母を、酸素移動容量係数kLaが12.5〜28(h-1)の範囲となる好気的条件で培養する好気培養工程を含むものである。酸素移動容量係数kLaを12.5〜28(h-1)の範囲とすることによって、上記酵母のエタノール生産能が改善され、酸素移動容量係数kLaが12.5(h-1)未満又は28(h-1)超の場合は、上記酵母のエタノール生産能を十分に改善することができない。
なお、カンジダ・インターメディア 4−6−4T2株等は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)に寄託されている。
上記酵母の初発濃度としては、培地中、0.0001〜1%(w/v)が好ましく、0.0002〜0.5%(w/v)がより好ましい。
kLa (h-1) = [1/(T2−T1)]×ln[(C0−C1)/(C0−C2)] ・・・(I)
上記式(I)中、C0は、飽和溶存酸素濃度(ppm)を意味し、T1及びT2は、通気開始から経過した時間(h)を意味し、C1は、通気開始からT1時間経過後の溶存酸素濃度(ppm)を意味し、C2は、通気開始からT2時間経過後の溶存酸素濃度(ppm)を意味する。
空気供給速度としては、0.01〜5vvm(volume per volume per minute)が好ましく、0.02〜2.5vvmがより好ましい。
糖類Bの初発濃度としては、グルコース及びキシロース共存下におけるエタノール生産効率の観点から、培地中、0.1〜10%(w/v)が好ましく、0.15〜7.5%(w/v)がより好ましい。糖類Bとしてキシロースを用いる場合、キシロースの初発濃度としては、グルコース及びキシロース共存下におけるエタノール生産効率の観点から、培地中、0.1〜10%(w/v)が好ましく、0.15〜7.5%(w/v)がより好ましく、0.2〜5%(w/v)が特に好ましい。
また、上記糖類の初発濃度の合計は、培地中、好ましくは0.2〜20%(w/v)、より好ましくは0.4〜12.5%(w/v)である。
なお、糖類A、糖類Bとして、糖類A、糖類Bそのものを添加してもよいし、糖類A、糖類B又はこれら両方を含有するセルロース系バイオマスの糖化液を添加してもよい。糖化液は、例えば、セルロース系バイオマスを酵素法や希硫酸法等で加水分解することによって得ることができる。セルロース系バイオマスは特に限定されるものではなく、例えば、農業残渣(稲ワラ、麦ワラ、バガス(サトウキビの搾りかす)、コーンストーバー(トウモロコシの芯、茎、葉)等)、林業残渣(材木等)等から得られるセルロース系バイオマスが挙げられる。
また、上記糖類Aとしてグルコースを用いた場合において、好気培養工程で得られる培養液中、グルコースの濃度は、エタノール生産効率の観点から、好ましくは8%(w/v)以下、より好ましくは4%(w/v)以下、特に好ましくは2%(w/v)以下である。
また、上記糖類Bとしてキシロースを用いた場合において、好気培養工程で得られる培養液中、キシロースの濃度は、エタノール生産効率の観点から、好ましくは8%(w/v)以下、より好ましくは6%(w/v)以下、特に好ましくは4%(w/v)以下である。
なお、これら酵母等の濃度は、吸光光度計(濁度)、高速液体クロマトグラフィー等により測定することができる。
本発明の培養方法としては、上記好気培養工程で培養した酵母を嫌気的条件で培養する嫌気培養工程を更に含むものが好ましい。従来、上記酵母の前培養は好気的条件で行われていたが、本発明者らの検討により、上記好気培養工程の後に嫌気的条件で培養することによって、意外にも、前述のようにグルコース及びキシロースの両方を含有する発酵用液を原料とした場合のエタノール生産効率が改善されるだけでなく、キシロース消費率が改善され、且つキシリトール、アラビノースをはじめとする副生成物の生成を低減することもできることがわかった。
嫌気培養工程の手法は、例えば、好気・嫌気兼用の培養装置で好気培養工程を行っておき、好気培養工程が終了した後、通気を停止して嫌気的条件とし、そのまま培養を続ける手法の他、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、その他不活性ガスで系内を置換する手法が挙げられる。
嫌気培養工程の培養温度は、好ましくは10〜37℃、より好ましくは25〜32℃である。嫌気培養工程の培養時間は、好ましくは1〜48時間、より好ましくは2〜30時間である。
また、上記糖類Aとしてグルコースを用いた場合において、嫌気培養工程で得られる培養液中、グルコースの濃度は、エタノール生産効率の観点から、好ましくは8%(w/v)以下、より好ましくは4%(w/v)以下、特に好ましくは2%(w/v)以下である。
また、上記糖類Bとしてキシロースを用いた場合において、嫌気培養工程で得られる培養液中、キシロースの濃度は、エタノール生産効率の観点から、好ましくは4%(w/v)以下、より好ましくは3%(w/v)以下、特に好ましくは2%(w/v)以下である。
なお、これら酵母等の濃度は、吸光光度計(濁度)、高速液体クロマトグラフィー等により測定することができる。
本発明のエタノール生産方法は、本発明の培養方法で酵母を培養した後、当該方法で培養された酵母の存在下で、グルコース及びキシロースを含有する発酵用液を発酵させること(以下、この工程を発酵工程とも称する)を特徴とするものである。
上記酵母は、本発明の培養方法で培養されたもの(培養物)をそのまま使用しても、遠心分離、ろ過等により培養物から分離・回収してから使用してもよいが、培養物から分離・回収してから使用するのが好ましい。
上記酵母の使用量は、系内の液相総量に対して、乾燥菌体重量換算で、0.01〜10%(w/v)が好ましく、0.1〜5%(w/v)がより好ましい。
また、発酵工程は、回分式発酵法で行ってもよいし連続式発酵法で行ってもよい。回分式発酵法で発酵する場合に、酵母の濃度を上記範囲にするためには、上記濃度範囲になるように系内に添加すればよい。一方、連続式発酵法の場合には、上記濃度範囲になるように系内に添加するか、或いは上記濃度範囲になるように、発酵用液の供給速度等の条件を適宜調整してもよい。
また、発酵用液に含まれるキシロースの含有量としては、エタノール生産効率の観点から、発酵用液全量に対して、0.1〜15%(w/v)が好ましく、0.5〜10%(w/v)がより好ましい。
また、発酵用液に含まれるグルコースとキシロースの合計含有量に占めるグルコースの含有割合としては、エタノール生産効率の観点から、10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましく、55〜70質量%が特に好ましい。
また、発酵用液に含まれる糖類の合計含有量に占めるグルコースとキシロースの合計含有割合としては、エタノール生産効率の観点から、60〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。
また、発酵用液に含まれる糖類の合計含有量としては、エタノール生産効率の観点からは、発酵用液全量に対して、1〜20%(w/v)が好ましく、2.5〜15%(w/v)がより好ましい。なお、本発明のエタノール生産方法によれば、8%(w/v)未満(好ましくは7%(w/v)以下)といった糖類が低含量の発酵用液を用いた場合であっても、エタノールを効率良く生産できる。
なお、エタノールの回収は、蒸留等の通常の手段で行えばよい。
(酸素移動容量係数kLaの測定方法)
消泡剤(sigma−aldrich社製antifoam204)を純水に200μL/L添加した水溶液を窒素で脱気し、実施例、比較例の培養液と等量使用して、溶存酸素電極(メトラートレド社製)にて、実施例、比較例の培養条件におけるC1、C2及びこれら濃度に到達するのに要する時間を見積もり、下記式(II)によりkLaを算出した。
kLa (h-1) = [1/(T2−T1)]×ln[(C0−C1)/(C0−C2)] ・・・(II)
上記式(II)中、C0は、飽和溶存酸素濃度(ppm)を意味し、T1及びT2は、それぞれ、通気開始から溶存酸素濃度(ppm)がC1、C2に到達するまでに経過した時間(h)を意味する。なお、C1=2ppm、C2=3ppmに設定したときに算出されるkLa、C1=3ppm、C2=4ppmに設定したときに算出されるkLa、及びC1=4ppm、C2=5ppmに設定したときに算出されるkLaの3つのkLaの平均値を、実施例、比較例におけるkLaとして算出した。
2Lジャーファーメンター(三ツワフロンテック製CLN−2000型)に入れた1LのYNB培地(酵母エキス:1%(w/v)、アミノ酸不含酵母ニトロゲンベース:2%(w/v)、グルコース:1%(w/v)、キシロース:4%(w/v))に、初期ODが約0.16になるように4−6−4T2株を植菌し、温度30℃、空気供給速度0.1L/minにて、撹拌羽根の回転数を370rpmに設定して24時間培養を行った。この培養におけるkLaは、15.4であった。また、24時間経過時の培養液を一部秤取り、この培養液中の表1に示す各成分の濃度を、高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製)及び吸光光度計(島津製作所製)を用いて測定・算出した。次に、培養開始から24時間経過後に通気を停止し、通気を停止した状態で24時間嫌気培養を続けた後、培養を停止した。また、この培養液を一部秤取り、培養液中の表2に示す各成分の濃度を、高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製)及び吸光光度計(島津製作所製)を用いて測定・算出した。
撹拌羽根の回転数を380rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして前培養を行った。なお、kLaは、19.0であった。
(実施例3 前培養)
撹拌羽根の回転数を390rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして前培養を行った。なお、kLaは、21.0であった。
(実施例4 前培養)
撹拌羽根の回転数を400rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして前培養を行った。なお、kLaは、24.8であった。
撹拌羽根の回転数を350rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして前培養を行った。なお、kLaは、10.0であった。
(比較例2 前培養)
撹拌羽根の回転数を410rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして前培養を行った。なお、kLaは、30.2であった。
実施例1〜4及び比較例1〜2の前培養で得られた培養液から菌体を遠心分離(896〜1519G、2min)により回収し、菌体量が乾燥菌体重量換算で1%(w/v)となるように、糖液に懸濁した。糖液は、8%(w/v)グルコース及び4%(w/v)キシロースを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)を使用した。なお、菌体の乾燥菌体重量は、以下の関係式より求めた。
乾燥菌体重量(g/mL) = 0.00032×(OD660)−0.00017
次いで、上記で得た懸濁液100mLを200mL三角フラスコに入れ、30℃、120rpm(回転振盪)で48時間発酵を行った。発酵終了後、高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製)を用いてエタノール濃度を測定し、このエタノール濃度と糖液中の糖濃度より、下記式に従いエタノール収率を算出した。結果を表3に示す。
エタノール収率(%) = {エタノール濃度/(糖液中のグルコース濃度+キシロース濃度)}/0.51×100
この結果から、カンジダ・インターメディアに属し、グルコース及びキシロースの共存下でエタノール生産能を有する酵母を、酸素移動容量係数kLaが12.5〜28(h-1)の範囲となる好気的条件で前培養したものを用いることによって、グルコース及びキシロースの両方を含有する発酵用液を原料とした場合のエタノール生産効率を改善できることがわかった。
実施例1〜2の前培養で得られた培養液を使用して、試験例1と同様にして発酵を行い、エタノール収率を算出した。ただし、菌体量は乾燥菌体重量換算で0.25%(w/v)となるようにし、糖液は、3%(w/v)グルコース及び2%(w/v)キシロースを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)を使用した。結果を表4に示す。
2Lジャーファーメンター(三ツワフロンテック製CLN−2000型)に入れた1LのYNB培地(酵母エキス:1%(w/v)、アミノ酸不含酵母ニトロゲンベース:2%(w/v)、グルコース:1%(w/v)、キシロース:4%(w/v))に、初期ODが約0.16になるように4−6−4T2株を植菌し、温度30℃、空気供給速度0.1L/minにて、撹拌羽根の回転数を400rpmに設定して24時間培養を行った後、通気を停止した。この培養におけるkLaは、24.8であった。次に、通気を停止した状態で24時間嫌気培養を続けた後、培養を停止した。
2Lジャーファーメンター(三ツワフロンテック製CLN−2000型)に入れた1LのYNB培地(酵母エキス:1%(w/v)、アミノ酸不含酵母ニトロゲンベース:2%(w/v)、グルコース:1%(w/v)、キシロース:4%(w/v))に、初期ODが約0.16になるように4−6−4T2株を植菌し、温度30℃、空気供給速度0.1L/minにて、撹拌羽根の回転数を400rpmに設定して48時間培養を行った後、培養を停止した。この培養におけるkLaは、24.8であった。
実施例5、6の前培養で得られた培養液を使用して、試験例1と同様にして発酵を行った。発酵終了後、高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製)を用いて表5に示す各成分の濃度の測定を行い、試験例1と同様の方法でエタノール収率を算出した。ただし、糖液は、7.6%(w/v)グルコース及び3.9%(w/v)キシロースを含む0.1Mリン酸緩衝液(pH5.0)を使用した。結果を表5に示す。
また、実施例5の培養方法で前培養した4−6−4T2株を用いた場合、発酵時にキシロースをより消費しやすく、また、副生成物(キシリトール、アラビノース)が生成しにくかった。
Claims (5)
- カンジダ・インターメディアに属し、グルコース及びキシロースの共存下でエタノール生産能を有する酵母を、酸素移動容量係数kLaが12.5〜28(h-1)の範囲となる好気的条件で培養する好気培養工程を含む、酵母の培養方法。
- 前記酵母が、カンジダ・インターメディア 4−6−4T2株である、請求項1に記載の培養方法。
- 前記好気培養工程を、グルコース、マルトース及びスクロースから選ばれる1種又は2種以上と、キシロース、ガラクトース及びマンノースから選ばれる1種又は2種以上とを含有する培地で行う、請求項1又は2に記載の培養方法。
- 前記好気培養工程で培養した酵母を嫌気的条件で培養する嫌気培養工程を更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の培養方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の培養方法で酵母を培養した後、当該方法で培養された酵母の存在下で、グルコース及びキシロースを含有する発酵用液を発酵させる、エタノールの生産方法。
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JP2017088067A JP2018183108A (ja) | 2017-04-27 | 2017-04-27 | 酵母の培養方法及びエタノール生産方法 |
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