JP5317262B2 - ケカビによるエタノールの製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、ケカビを用いたエタノールの製造方法に関する。
石油資源の枯渇とともに、未利用なバイオマス資源を開拓し、その利用法を開発することが急務となってきた。特に、我が国のような貧資源国では、新規エネルギー資源の開発は国家的な課題であり、バイオマス資源の開発および有効変換法によるエタノール製造法の開発が進められている。
一般に、バイオマスからエネルギー資源であるエタノールを生産するためには、バイオマスを発酵用の糖質へ加水分解させる工程と、その発酵用糖質を微生物で発酵させる工程を経ることが古くから行われてきた。
サトウキビ、トウモロコシ、米、麦などの穀類、稲わら、麦わら、バガスなどの草本系バイオマス、木材チップ、流木、廃建材などの木質系バイオマスなどは、酸やアルカリを用いた加水分解法または酵素による加水分解法、あるいはそれら技術の併用により、発酵用糖質を効率よく得る方法が広く検討されている。
また、次の工程である発酵工程は、一般的に、嫌気条件下で酒造製造用の酒精酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いた発酵により行われている。具体的には、現在、ブラジル、米国などで行われている穀類を原料としたバイオエタノールの生産は、トウモロコシやサトウキビから得られたグルコースなどヘキソース(6炭糖)を主成分とする発酵糖液を原料とした発酵法により行われている。
トウモロコシやサトウキビは生産が容易で加工がしやすく豊富な糖が得られ、酵母は高濃度の糖存在下で優れた成長能力を持ち、エタノール生産収率も高い。しかし、食料を燃料に替えるという倫理上の問題がある。また、食料としての供給の減少などの重大な問題を抱えている。
このような背景から、穀類に競合しない稲わら、もみ殻などの草本系バイオマスまたは廃木材などの木質系バイオマスからエタノールを高収率で得るための技術開発が進められている。
木質系バイオマスは、キシロース、アラビノースなどのペントース(5単糖)類およびグルコース、ガラクトース、マンノースなどヘキソース(6単糖)類を構成単位とするヘミセルロースと、グルコースを構成単位とするセルロースとを含んでいる。
一方、草本系バイオマスである稲わらおよびもみ殻は、我が国の農産廃棄物の代表で、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを含んでいる。
ヘミセルロースは、セルロースに比べて酸・アルカリによる加水分解により糖化されやすく、高収率で糖質を回収しやすい。しかし、酒精酵母やエタノール発酵細菌ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)はペントースを資化できるものの発酵性を有しない。
そのため、キシロース発酵酵母であるキャンディダ・シェハタエ(Candida shehatae)またはピチア・スデイピチィス(Phichia stipitis)を用いた草本系バイオマス加水分解液のエタノール発酵が検討された(非特許文献1,2)。
また、キシロース代謝酵素遺伝子などを組換えた酵母またはコネリ菌(特許文献1)、アルコール発酵能を持つ遺伝子組み換え大腸菌を用いる方法(特許文献2)などにより商業ベースでの利用が行われようとしている。
しかし、これらエタノール発酵微生物を用いてペントースの代表であるキシロースからエタノール発酵を行う場合、酸素の供給条件を厳密に制御する必要がある上、副生成物としてキシリトールやグリセリンなどが生成してしまう。
また、加水分解の際に生ずる発酵阻害物質(フルフラール、5-ヒドロキシメチルフラード、酢酸など)により強く発酵が阻害されるため、エタノール発酵効率の向上や阻害物質除去法の開発が必須である。
さらに、組換え微生物を用いた場合には、高いエタノール生産性を達成できるものの、組換え菌を使用する際の安全対策として、発酵装置から菌体の流失を防ぐためのシールド対策、発酵後の殺菌対策などの付帯設備を用意する必要がある(特許文献3)。さらに、倫理的問題を解決していく必要がある。
Toivola, A., Yarrow, D., van den Bosch, E., van Dijen, J.P., andScheffers, W.A. (1984) Alcoholic Fermentation of D-xylose by Yeasts, Appliedand Environmental Microbiology, June, 1221-1223 Trans, A.V. and Chambers, R.P. (1986)Ethanol Fermentation of Red Oak Acid Prehydrolysate by the Yeast Phichia stipitis CBS 5776, Enzyme Microbiology and Technology, Vol.8, 439-444. 公表2001-525682 特開2006-087350 特開2007-202517
以上に述べたように、多種多様なバイオマスおよびバイオマス加水分解物から安全かつ効率的にエタノール生産が達成できる微生物は得られていない。
本発明は、上記問題点を解決しつつ、微生物の作用を利用して、バイオマス資源の主成分であるデンプン、セルロース、およびヘミセルロースの加水分解物から、エタノールを製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らはこれらの点に鑑み、草本系バイオマスの主成分であるグルコースまたはキシロースを含む加水分解液から嫌気または好気条件下でエタノールを得るための生化学的方法を鋭意検討した。
その結果、これまでキシロースからのエタノール生成活性が知られていなかったケカビ、特にムコール(Mucor)属またはリゾムコール(Rhizomucor)属の微生物が、グルコースまたはキシロースを含む加水分解液からエタノールを生成する能力に優れていることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下のエタノールの製造方法に関する。
〔1〕木質系バイオマスまたは草本系バイオマスの加水分解物にケカビに属する糸状菌を作用させることを特徴とするエタノールの製造方法。
〔2〕ケカビに属する糸状菌がペントースの資化能を有するものである〔1〕のエタノールの製造方法。
〔3〕ペントースの資化能を有するケカビに属する糸状菌がムコール(Mucor)属またはリゾムコール(Rhizomucor)属である〔1〕または〔2〕のエタノールの製造方法。
〔4〕木質系バイオマスまたは草本系バイオマスの加水分解物が、ペントースおよび/またはヘキソースを含むものである〔1〕〜〔3〕のエタノールの製造方法。
〔5〕草本系バイオマスが穀類、稲わら、もみ殻、麦わらまたはバガスである〔1〕〜〔4〕のエタノールの製造方法。
エタノールは、一般に、ヘキソースがエタノール発酵微生物内に取り込まれ、解糖経路を経て、生成したピルビン酸が、ピルビン酸ジイカルボキシラーゼおよびアルコールデキドロゲナーゼの反応により還元され生成されるアルコールである。エタノールは古くより醸造酒の主成分であるとともに、溶剤(有機溶剤)、有機合成原料、解毒剤などとして広く使われている産業上有用な化合物である。さらに、バイオマス燃料としてその利用が拡大している。
本発明で使用する、キシロース、アラビノースなどのペントースからエタノールを生成する能力を有する微生物は、ケカビに属する糸状菌であり、好ましいものとして、ムコール(Mucor)属およびリゾムコール(Rhizomucor)属が挙げられる。
生化学的性状等に基づいて、微生物を分類する方法は公知である。更に上記属に属する微生物が目的とする活性を有していることは、たとえば実施例に示すような方法に基づいて確認することができる。すなわち、被験微生物を、キシロース含有培地で静置または振盪培養し、培養液に蓄積するエタノールを検出することによって、目的とする生産能を有していることが確認できる。エタノールはガスクロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーなどの手法によって同定することができる。
本発明において、使用されるムコール属およびリゾムコール属の糸状菌として、例えば以下のような種を示すことができる。
ムコール・バシリイホルムス(Mucor bacilliformis)
ムコール・シイルシネロイデェス(Mucor circinelloides)
ムコール・グイリイモビイデイ(Mucor guilliermobidii)
ムコール・ヘマリス(Mucor hiemalis)
ムコール・ヤバニカス(Mucor javanicus)
ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)
ムコール・オドラトス(Mucor odoratus)
リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)
リゾムコール・プシルス(Rhizomucor pusillus)
上記のムコールは、接合菌門・接合菌綱・ケカビ目・ケカビ科に属する代表的なカビであり、リゾムコールは、ケカビ科の一種である。いずれも湿気の多い有機物上に出現する、ごく普通のカビである。これら微生物の、土壌、河川、あるいは湖沼などの材料からの単離・同定法は公知である。たとえば単離および同定方法については以下のような文献を参照することができる。
カビ:”The Genera of Hyphomycetes from soil”, G.L.Barron, Baltimore, Maryland, Williams and Wilkins(1968). ”Compendium of soil Fungi”, K.H. Domsh, W. Gams, T. Anderson, New York, Academic Press(1980).
キシロースから代謝によりエタノールを生成するムコール属およびリゾムコール属の糸状菌としてより具体的には、以下の菌株を示すことができる。これらの菌株は、それぞれのアクセション番号をもとに下記のセルバンクから入手することができる。
ムコール・バシリイホルムス(NBRC6414,8638)
ムコール・シイルシネロイデェス(NBRC4554,4563,4574,5398,5774,5775,6746,30470,31398)
ムコール・グイリイモビイデイ(NBRC9403)
ムコール・ヘマリス(NBRC9261,9410,9411,9412)
ムコール・ヤバニカス(NBRC4569,4570,4572,5382)
ムコール・オドラトス(NBRC7102,8637)
ムコール・ラセモサス(NBRC4581,5403)
リゾムコール・ミエヘイ(NBRC9740,9741,9742,9743)
リゾムコール・プシルス(NBRC4578,4579,4580,9744,9745,9856)
これらの糸状菌は、野生株、変異株、または、細胞融合、もしくは遺伝子操作などの遺伝子手法より誘導される組み換え株など、いずれの株も好適に用いることができる。また、これらの糸状菌は、単独または混合して使用することができ、酵母などのヘキソースの資化能・発酵能を有する微生物と組み合わせて使用することもできる。
なお、上記のNBRC番号の付された糸状菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構
バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC) 発行の微生物カタログ第1版(2005年)に記載されており、NBRCより入手することができる。
本発明によれば、Mucor属またはRhizomucor属に属するエタノール生産微生物を用いることで、バイオマス資源の主成分であるデンプン、セルロース、およびヘミセルロースの加水分解物から効率よくエタノールを製造する方法が提供される。
本発明で用いる菌は糸状性を持つため,簡便な方法でエタノールを分離することができる。
さらに、好気条件でもエタノールが生産できるため、嫌気環境を作るための施設を必要としない。
以下、本発明のエタノール生産微生物を培養して、該培養液よりエタノールを採取する方法について述べる。
本発明に使用される微生物を培養する場合、微生物分野における常法に従い、炭素源、窒素源、無機塩類等の栄養成分を含む培地を用いて行うことができる。
本発明に使用される培地はいわゆる液体培地であって、炭素源、窒素源、無機塩類、ビタミン類、核酸成分、微量金属塩等を必要により取捨選択し、組み合わせて適当量添加した水溶液が使用可能である。
培地の炭素源は、その微生物が増殖しうるものであれば特に制限はないが、望ましくは、炭素源としては上記微生物が利用可能な任意の炭素源を使用することができる。具体的には、ヘキソースとしてグルコース、マンノース、ガラクトースおよびフルクトース、ペントーストしてキシロース、アラビノースおよびリボース、二糖として、マンノース、セロビオース、ラクトース、シュクロース、トレハロース、ニゲロース、イソマルトースおよびゲンチオビオース、多糖類としてデキストリン、デキストラン、可溶性デンプン、キシランおよびセルロースなどの多糖類、米、小麦、大麦、黒麦、芋、ジャガイモ、サツマイモ、菊芋およびタロ芋などのデンプン系バイオマス、稲わら、もみ殻、麦わら、バガス、古紙、新聞紙および草(葉、茎、根、花、鞘、種子)の草本系バイオマス、木、流木、伐採木および廃建材などの木質系バイオマスを、直接あるいは酸処理、アルカリ処理、または酵素処理した加水分解液などあるいはこれらの混合物を使用することができる。その添加濃度は1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%が適当である
窒素源としては例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムなどの無機酸のアンモニウム塩、コハク酸アンモニウム、フマル酸アンモニウムおよびクエン酸アンモニウムなどの有機酸のアンモニウム塩、肉エキス、酵母エキス、ポリペプトン、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆油、モラセス、カゼイン加水分解物および尿素などの無機有機含窒素化合物、あるいはこれらの混合物を使用することができる。
他に無機塩、微量金属塩、核酸成分、ビタミン類など、通常の培養に用いられる栄養源を適宜添加して用いてもよい。
培養は完全密閉した容器内での嫌気静置培養、通気型発酵槽を用いて窒素ガス、あるいは窒素ガスと炭酸ガスの混合液を通気した嫌気培養、または振盪、通気撹拌等の好気的条件下で行われ、培養温度は一般に20〜40℃、好ましくは22〜35℃である。培養pHは3〜9、好ましくは、5〜8、さらにキシロースを含む糖質溶液の場合好ましくは、7〜8である。培養期間は、特に制限されるものではないが、通常1日〜10日間、より好ましくは、1日間〜5日間で行われる。
さらに、上記のように培養して得られた菌体を、アクリルアミド等の重合性モノマーやアルギン酸塩、カラギーナン、多孔性のセルロース発泡体、ポリウレタンフォーム、光硬化性樹脂、フェルトなどの適当な担体を用いて固定化し、原料と接触させてもよい。
菌体又はその処理物の濃度は特に制限されるものではないが、一般には1〜50重量%、好ましくは2〜20重量%の範囲内が好適である。
以上に述べた方法により培養液中に産生したエタノールを培養液から採取するに際しては、それ自体既知の方法に従いエタノールを分離・精製すればよい。この際、サッカロマイセス・セレビシエ、ザイモモナス・モビリス、キャンディダ・シェハタエ、ピチア・スデイピチィスまたは遺伝子組換え微生物などの単細胞生物によるエタノール生産法と異なり、本発明で用いる菌は糸状性を示していることから、簡便な濾過、沈降分離、ディカンテーションなどの分離方法を用いることにより容易に培養液と分離ができ、さらに、得られた濾液、上清などの分離液は、クロマトグラフィーや簡便な蒸留装置などの分離方法を適宜用いることによりエタノールを得ることができる。
次に、本発明について、以下の実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
以下に示す組成の培地を調製した後、この培地25mLを100mLエーレンマイヤーフラスコに分注し、オートクレーブ(121℃、15分間)により滅菌した。
炭素源
グルコース5.0%、キシロース5.0%、あるいはグルコース2.5%とキシロース2.5%の混合液、
その他成分
酵母エキス 0.5%
硫酸アンモニウム 0.75%
硫酸アンモニウム・7水和物 0.075%
リン酸水素二カリウム 0.35%
塩化カルシウム 0.1%
pH 7.5(pH調整剤: 1N水酸化ナトリウム水溶液)
以下の表1,表2,表3に示す菌株を各フラスコに植菌した後、120rpm、28℃で5日間振盪培養を行った。培養終了後、定性濾紙(Advantec製、No.131)を用いて濾過を行うことにより菌体を除去し、各培養液の培養上清液を調製した。濾紙上に得られた菌体は、蒸留水で十分洗浄した後、90℃で24時間乾燥させた後、重量を測定し、乾燥菌体重量を求めた。一方、GCにより、培養により得られた培養液中のエタノールを定量した。さらに、HPLC分析法により、培養により得られた培養液中の残留グルコースあるいはキシロースを測定した。
その結果、表3に示した通常の清酒酵母(協会7号)を用いた場合、この条件では、菌体は増殖するものの、いずれの炭素源を用いてもエタノールの生産は確認することができず、好気条件すなわち呼吸代謝により、炭素源は全て炭酸ガスと水へ変換されたと推測された。
一方、本発明では、各培養上清液中のエタノールが確認できたことから、好気培養によりグルコースまたはキシロースを炭素源としてエタノールを生産できることを見出した。特に、Rhizomucor pusillus NBRC4578を用いた場合、グルコースを炭素源とした時のエタノール濃度は、22.0g/L、キシロースの時、2.15g/L、またはグルコースとキシロースの混合液の時に、11.5g/Lできることが判明した。さらに、グルコースを用いて得られたエタノール収率YE/Sは0.44以上と、前述の酵母あるいはZymomonas mobilisなどを培養した際に用いて得られる最大収率0.42あるいは0.44を上回るエタノールを生産できる微生物であることがわかった。一方、キシロースを用いて得られたエタノール収率YE/Sは0.12と、前述のPichia stipitis CBS5776を微好気条件下で用いた場合に得られる最大収率0.36と同等量のエタノールを得ることはできないものの、好気条件下でかなり高い収率でエタノールを得ることができることがわかった。
本発明で得られた好気条件下でのエタノール生産は、通常の微生物代謝の概念を覆す現象であるが、Crabtree(クラブトリー)効果が顕著に表れた結果だと推察される。通常、好気条件では糖質が解糖系を通過してピルビン酸からTCA回路へ代謝が進行するが、糖質が培養液に存在することにより、TCA回路への代謝が阻害され、エタノールへ変換されたものと推察される。
以下に表1、表2、表3にまとめた。
なお、上記のエタノール濃度のGC分析は、以下の条件にて実施した。
カラム;BPX5、内径0.25μm x 25m(SGE製)
移動相;ヘリウムガス
流速;32mL/分間
カラム温度;60℃(2min)→ 15℃上昇/分→180℃(5min)
検出器;水素炎イオン化型検出器 (FID,GC−2010,島津製作所製)
検出時間:0.95分間
また、上記の培養液中の残存炭素源濃度のHPLC分析は、以下の条件にて実施した。
カラム;CARBOSep Gel−87P (東京化成工業製)
移動相;水
流速;1.0mL/分間
カラム温度;80℃
検出器;示唆屈性計(RID−10A,島津製作所製)
検出時間:グルコース 7.1分間,キシロース 7.8分間
標準物質;L−グルコース(和光純薬製)、キシロース(和光純薬製)
<好気条件下での微生物によるエタノール生産>
表中、Gは炭素源としてグルコース50g/Lを示す。Xは炭素源としてキシロース50g/Lを示す。 G+Xは炭素源としてグルコース25g/Lとキシロース25g/Lの混合液を示す。なお、培養は、28℃で120rpmの振盪培養を行った。
[実施例2]
実施例1と同じ培地を調製し、各々25mLを100mLエーレンマイヤーフラスコ中に分注し、オートクレーブ(121℃、15分間)により滅菌した。Rhizomucor pusillus NBRC4578を各フラスコに等量植菌後、実施例1と同じ培地を用いて同じ条件で120時間28℃で静置嫌気培養と好気振盪培養を行い、実施例1と同様の方法にて、適当な時間ごとにフラスコを回収し、培養上清液を調製した。
その結果、炭素源をグルコースとした場合(図1)、好気培養において約60時間で、嫌気培養では若干遅れて72時間で完全に消費した。これに伴って菌体も良好に増殖し、好気・嫌気培養とも菌体量は約5.0g−dry/Lに達した。一方、エタノールは、好気培養の場合、培養72時間目において最大約22g/Lであり、このときのエタノール収率は0.44g/gにも達した。その後、クラブトリー効果が無くなり、培地中に生産されたエタノールは次第に低下した。また、嫌気培養では、エタノールは徐々に増加し培養120時間目に20.1g/Lに達した。この結果から本発明は、嫌気条件よりも好気条件の方が菌体の増殖も良く、更にエタノール生成量も多いことが判明した。
一方、炭素源をキシロースとした場合(図2)、キシロースの消費は好気・嫌気条件ともグルコースと比較してかなり遅く、培養120時間目に20から22g/Lのキシロースが残留したものの、菌体の増殖は良く、培養72時間目以降3.3から4.1g−dry/Lに達した。生成したエタノールは、培養とともに次第に蓄積し、培養120時間目において好気培養で6.6g/L、嫌気培養で7.3g/Lと好気または嫌気条件下でエタノールを生産できる。このときのエタノール収率は、それぞれ0.28、0.21g/gとかなり高い値を示した。
[比較例1]
実施例2と同じ培地を調製し、各々25mLを100mLエーレンマイヤーフラスコ中に分注し、オートクレーブ(121℃、15分間)により滅菌した。Saccharomyces cerevisiae 協会7号を用いて、静置嫌気培養と好気振盪培養を行った。
その結果、炭素源をグルコースとした場合(図3)、好気培養においてグルコースの消費は良好で24時間でほぼ完全にグルコースを消費した。しかし、エタノールの生産は全く確認することはできなかった。嫌気培養において、菌体の増殖は好気条件と比較して若干遅れたが、グルコースは48時間で完全に消費した。エタノールは、培養48時間目に21.1g/Lに達した。
また、キシロースを用いた場合(図4)、嫌気または好気条件いずれの場合でも、キシロースの消費は認められたが、エタノールの培地中での蓄積は確認することはできなかった。
[実施例3]
本発明が、農産廃棄物である稲わらの加水分解物からエタノールを生産できるか確認するために、4Lのサクラ精機製気泡塔型バイオリアクター中に硫酸による稲わら加水分解液4.0Lを仕込み、常法により滅菌処理を行った。
硫酸加水分解稲わらの調製は、300g−dryの稲わらを0.5%硫酸水溶液3L中に24時間浸した後、121℃で60分間オートクレーブ処理を行った。その後、沈殿物を除いた後、6N水酸化ナトリウムを用いて体積4.0L、pH7.5に調製した。この時得られた加水分解物溶液の成分は、ヘキソース(グルコース>22g/L,ガラクトース<0.1g/L,マンノース<0.1g/L),ペントース(キシロース>15g/L,アラビノース<0.8g/L),カルソンリグニン(24.2g/L),酸可溶リグニン(2.2g/L)である。この溶液を直接気泡塔型バイオリアクター内に入れ、そこへRhizomucor pusillus NBRC4578を植菌することにより120時間好気培養を行った(図5)。
また、気泡塔は28℃に制御し、さらに、好気条件に保つために、除菌した空気0.2VVMになるようにリアクター内に供給した。
また、比較のためにグルコース30g/Lとキシロース20g/L(グルコース:キシロース=3:2)を炭素源とした培養も同時に行った。
図6に示した対照実験において、グルコースは48時間で完全に消費した後、キシロースの消費は速くなり、培養120時間目においてほぼ完全に消費した。この炭素源の消費に伴い菌糸は良好に生育し、培養終了時には約4.6g−dry cell/Lの菌糸が得られた。また、エタノールは培養72時間目に約17.5g/L生成できた。
一方、稲わらの加水分解物を培地とした場合(図5)、炭素源の消費は、対照と比較して若干遅いものの培養120時間目でほぼキシロースも消費できた。また、最終的に得られた菌体量は3.8g−dry cell/Lと、増殖に対して阻害が認められた。また、エタノール生産量は、培養120時間目に14.0g/Lであった。この値は、図6で示した対照実験により得られたエタノール量と比較すると、約20%少ないものの、本発明は、発酵を阻害する夾雑物質を多く含む稲わら加水分解物でも十分発酵に適応できることを実証することができた。
本発明により、微生物を利用した多種多様なバイオマスおよびバイオマス加水分解物からのエタノール生産を、安全かつ効率的に行うことができる。また、本発明で用いる菌は糸状性を持つため,簡便な方法でエタノールを分離することができる。さらに、好気条件でもエタノールが生産できるため、嫌気環境を作るための施設を必要としない。
Rhizomucor pusillus NBRC4578を用いたグルコースからのエタノール生産 Rhizomucor pusillus NBRC4578を用いたXyloseからのエタノール生産 Sacchromyces cerevisiae 協会7号を用いたグルコースからのエタノール生産 Sacchromyces cerevisiae 協会7号を用いたキシロースからのエタノール生産 Rhizomucor pusillus NBRC4578を用いたグルコースとキシロース混合液からのエタノール生産 Rhizomucor pusillus NBRC4578を用いた稲わら加水分解物からのエタノール生産

Claims (4)

  1. 草本系バイオマスの加水分解物にMucor Circinelloides、Mucor javanicus、及びRhizomucor Pusillusからなる菌株群より選ばれる少なくとも一種のケカビに属する糸状菌を作用させることを特徴とするエタノールの製造方法。
  2. ケカビに属する糸状菌がペントースの資化能を有するものである請求項1記載のエタノールの製造方法。
  3. 草本系バイオマスの加水分解物が、ペントースおよび/またはヘキソースを含むものである請求項1または2記載のエタノールの製造方法。
  4. 草本系バイオマスが穀類、稲わら、もみ殻、麦わらまたはバガスである請求項1〜3いずれか記載のエタノールの製造方法。
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