JP2011167096A - バイオマスからのエタノールの生産方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】糖化バイオマス中の発酵阻害物質であるギ酸の存在下でも、効率的にエタノールを生産する方法を提供すること。
【解決手段】本発明のバイオマスからのエタノールの生産方法は、ギ酸脱水素酵素を過剰発現するように形質転換されたキシロース資化性酵母を糖化バイオマスと混合し、培養する工程を含む。
【選択図】なし
【解決手段】本発明のバイオマスからのエタノールの生産方法は、ギ酸脱水素酵素を過剰発現するように形質転換されたキシロース資化性酵母を糖化バイオマスと混合し、培養する工程を含む。
【選択図】なし
Description
本発明は、バイオマスからのエタノールの生産方法に関する。
近年、化石燃料の枯渇が危惧される中、その代替燃料の開発が進められている。中でもバイオマスに由来するバイオエタノールが注目されている。バイオマスは、再生可能な資源であり、地球上に大量に存在し、そして使用しても大気中の二酸化炭素が増えず(カーボンニュートラル)、地球温暖化防止に寄与できるからである。
しかし、現在、生産されているバイオエタノールは、主にトウモロコシやサトウキビを原料としており、食糧との競合が問題となっている。このため、将来的には、食糧と競合しない稲ワラ、麦ワラ、廃材などのリグノセルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産が求められる。
リグノセルロース系バイオマスは、主にセルロース、ヘミセルロースおよびリグニンの3種類の成分から構成される。このうちセルロースは、グルコースまで糖化されると、グルコースを資化できる酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)などによるエタノール発酵に利用できる。これに対して、ヘミセルロースは、キシロース、アラビノースなどのペントースまで糖化されても、天然の酵母はキシロース、アラビノースなどの資化能力が極めて低いため、発酵によるエタノール生産への利用が困難である。
そこで、キシロースを資化するために、遺伝子組換え技術を用いて、酵母ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)由来のキシロースレダクターゼ(XR)およびキシリトール脱水素酵素(XDH)、ならびに酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来のキシルロキナーゼ(XK)の遺伝子を酵母に導入し、これらの酵素を過剰発現する酵母が作製されている(非特許文献1および2)。他にも、嫌気性真菌ピロミセス(Piromyces)属またはオルピノマイセス(Orpinomyces)属由来のキシロースイソメラーゼ(XI)および酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来のXK遺伝子を酵母に導入して発現させることで、キシロースからのエタノール発酵が可能になった(非特許文献3)。
キシロースからのエタノール発酵が可能になったとはいえ、これを工業化するには種々の問題がある。例えば、キシロースはグルコースと比較して消費速度が遅いこと、エタノール生産速度が遅いこと、エタノール収率が低いことなどの問題がある。さらに、セルロース系バイオマスからのエタノール生産の実用化における最大の問題は、糖化液中の発酵阻害物質の存在である。
セルロース系バイオマスをC6糖のグルコースまたはC5糖のキシロースやアラビノースなどへと分解(糖化)するには、酵素法、希硫酸法、水熱分解法などが用いられる。酵素法は、多種類、多量の酵素が必要であり、工業化にはコスト的に問題がある。一方、希硫酸法や水熱分解法は、酢酸、ギ酸などの弱酸、フルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)などのフラン化合物、バニリンなどのフェノール類など、種々の過分解物(副生成物)を生じ、これらの副生成物がキシロースからのエタノール発酵を大きく阻害する発酵阻害物質であることが知られている(非特許文献4〜6)。したがって、コスト的に有利な硫酸法や水熱分解法を用いてバイオマスからのエタノール発酵を実用化するには、バイオマスの過分解物に耐性を有する酵母、またはこれらの発酵阻害物質の存在下でも効率的なエタノール発酵が可能な酵母が求められる。
これまでに発酵阻害物質が酵母に及ぼす影響が調べられてきた(非特許文献4〜6)。フルフラールは、酵母の生存、成長速度、出芽、エタノール収率、バイオマス収率、酵素活性などに大きな影響を及ぼすことがわかった。HMFは、酵母の細胞内で、脂質の蓄積を引き起こし、タンパク質含有量を減少させ、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素およびピルビン酸脱水素酵素を阻害することがわかった。フルフラールやHMFに対する耐性遺伝子を探索するため、破壊株のスクリーニング、転写分析などの方法を用いて研究が行われている(非特許文献7および8)。
一方、酢酸やギ酸などの弱酸は、酵母の細胞内のpHに影響を及ぼすと考えられている。すなわち、培地中の弱酸は解離してない状態で存在しており、この非解離状態の弱酸が酵母の細胞膜を透過し、pHが中性付近の酵母の細胞質ゾルに侵入すると、アニオンとプロトンとに解離して酵母の細胞内のpHを減少させると考えられている(非特許文献4)。細胞内のpHが減少すると、ホメオスタシスを維持するためにATPaseが働き、この結果ATPが必要になる。嫌気条件下ではエタノール発酵によりATPが再生される。一般に、グルコースからのエタノール発酵では、酢酸存在下でもあまり発酵能が影響を受けることなくATPが再生されると考えられる。しかし、キシロースからのエタノール発酵では酢酸存在下では発酵能が低下するため、ATPの再生効率が低いと考えられる。
ところで、ギ酸が酵母のエタノール発酵に及ぼす影響を調べた報告例は皆無である。ギ酸脱水素酵素(Foramate dehydrogenase;FDH)についての研究が酵母においても行われているにすぎない。FDHは、ギ酸とNAD+とから二酸化炭素とNADHとを生成する。例えば、FDHを過剰発現するように形質転換された酵母サッカロマイセス・セレビシエを用いたグリセロール発酵において、NADHが過剰に供給されたため、NADHを補酵素とするグリセロール生合成系に関与する酵素の働きが強まり、グリセロール生産量が増加したことが報告されている(非特許文献9および10)。エタノール発酵については、FDHを過剰発現するように形質転換された好熱性のバチルス(Bacillus)属細菌を用いる方法において、NADHが過剰に供給されたため、NADHを補酵素とするエタノール生合成系に関与する酵素の働きが強まり、エタノール生産量が増加したことが報告されている(特許文献1)。このように、これまでは、NADHの供給の観点からFDHについて研究されているのみで、バイオマスを糖源とする発酵において、発酵阻害物質であるギ酸に対する対処法は研究されていない。
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本発明は、糖化バイオマス中に発酵阻害物質であるギ酸が存在する場合であっても、効率的にエタノールを生産する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ギ酸脱水素酵素の遺伝子をキシロース資化性酵母に導入して得られた、該酵素を過剰発現する形質転換酵母が、糖化バイオマス中に存在するギ酸に耐性を有することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、バイオマスからのエタノールの生産方法を提供し、該方法は、ギ酸脱水素酵素を過剰発現するように形質転換された酵母を糖化バイオマスと混合し、培養する工程を含む。
1つの実施態様では、上記形質転換された酵母は、キシロース資化性酵母である。
1つの実施態様では、上記糖化バイオマスは、発酵阻害物質であるギ酸を含む。
1つの実施態様では、上記ギ酸脱水素酵素は、酵母由来である。
本発明の方法によれば、糖化バイオマス中に発酵阻害物質であるギ酸が存在する場合であっても、効率的にエタノールを生産できる。このため、食糧と競合しない稲ワラ、麦ワラ、廃材などのリグノセルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの効率的な生産が可能となる。
バイオマスとは、生物資源に由来する糖質材料をいう。例えば、トウモロコシなどから得られるデンプン、サトウキビなどから得られる糖蜜(廃糖蜜)が挙げられる。また、コメ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、木材(パルプ)などの生物材料の処理に際して生じる廃棄物などのリグノセルロース系バイオマスが挙げられる。本発明では、食糧と競合しない点で、好ましくはリグノセルロース系バイオマスを用いる。リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、廃材が挙げられる。
バイオマスの糖化とは、多糖体からなるバイオマスを単糖レベルまで分解することをいい、単糖がさらに過分解(酢酸やギ酸などの副生物が生成する)を受けることも含む。本発明で用いる糖化方法としては、例えば、酵素法、希硫酸法、水熱分解法が挙げられる。コストの点で、希硫酸法、水熱分解法が好ましい。
糖化バイオマスとは、バイオマスを糖化処理して得られた組成物をいい、多糖類の分解により生成した単糖を主成分とし、ほかに、分解を受けずに残ったオリゴ糖や多糖、および過分解により生成した副生物(酢酸やギ酸など)を含む。
ギ酸脱水素酵素(Formate dehydrogenase;FDH)は、ギ酸とNAD+とから二酸化炭素とNADHとを生成する化学反応を触媒する酵素である。ギ酸脱水素酵素としては、酵母由来のFDHが挙げられるが、由来は特に制限されない。例えば、酵母サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のFDH1または2が挙げられる。例えば、サッカロマイセス・セレビシエのFDH1の遺伝子の塩基配列は配列番号1で示され、FDH1のアミノ酸配列は配列番号2で示される。
本発明で用いる酵母は、ギ酸脱水素酵素の遺伝子を導入した形質転換キシロース資化性酵母である。形質転換に用いるキシロース資化性酵母としては、キシロースからエタノール発酵によりエタノールを生産できる酵母であれば、特に制限されない。例えば、酵母サッカロマイセス・セレビシエにキシロース資化能を付与するプラスミドを導入して得られるキシロース資化性酵母が挙げられる。キシロース資化能を付与するプラスミドとしては、例えば、S. Katahiraら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2006年、第72巻、p. 1136-1143の記載に準じて調製することができる。
酵母に遺伝子を導入する方法は特に制限されない。例えば、酢酸リチウム法、エレクトロポレーション法、プロトプラスト法が挙げられる。導入された遺伝子は、プラスミドの形態で存在してもよく、または酵母の染色体に挿入された形態あるいは酵母の染色体に相同組換えにより組み込まれた形態で存在してもよい。
ギ酸脱水素酵素の遺伝子を、キシロース資化性酵母に導入するために、好ましくはこの酵素の遺伝子をプラスミドに挿入する。プラスミドは、プラスミドの調製および形質転換体の検出を容易にする点で、選択マーカーと大腸菌用の複製遺伝子とを有することが好ましい。選択マーカーとしては、例えば、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性遺伝子が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(Ampr)、カナマイシン耐性遺伝子(Kanr)が挙げられるが、特に制限されない。栄養要求性遺伝子としては、例えば、N−(5'−ホスホリボシル)アントラニル酸イソメラーゼ(TRP1)遺伝子、トリプトファンシンターゼ(TRP5)遺伝子、リンゴ酸β−イソプロピル脱水素酵素(LEU2)遺伝子、イミダゾールグリセロールリン酸脱水素酵素(HIS3)遺伝子、ヒスチジノール脱水素酵素(HIS4)遺伝子、ジヒドロオロト酸脱水素酵素(URA1)遺伝子、オロチジン−5−リン酸デカルボキシラーゼ(URA3)遺伝子が挙げられるが、特に制限されない。酵母用の複製遺伝子は必ずしも必要ない。プラスミドは、ギ酸脱水素酵素の遺伝子を酵母で発現させるために適切なプロモーターおよびターミネーターを有することが好ましい。プロモーターおよびターミネーターとしては、例えば、GAPDH(グリセルアルデヒド3’−リン酸脱水素酵素)、PGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)、PYK(ピルビン酸キナーゼ)、TPI(トリオースリン酸イソメラーゼ)のプロモーターおよびターミネーターが挙げられるが、特に制限されない。プラスミドは、相同組換えに必要な遺伝子を有することが好ましい。相同組換えに必要な遺伝子としては、Trp1、LEU2、HIS3、URA3が挙げられるが、特に制限されない。プラスミドは、必要に応じて分泌シグナル配列を有することが好ましい。以上のようなプラスミドとしては、例えば、R. Yamadaら、Enzyme Microb. Technol.、2009年、第44巻、p. 344-349に記載のpIU−GluRAG−SBA、pIH−GluRAG−SBAが挙げられる。これらのプラスミドのプロモーターとターミネーターとの間にギ酸脱水素酵素の遺伝子を挿入する。
キシロース資化性酵母に、ギ酸脱水素酵素の遺伝子を有するプラスミドを導入する際は、これらの遺伝子を相同組換えにより染色体に組み込むために、プラスミドを1ヶ所で切断して線状にすることが好ましい。
このようにして、ギ酸脱水素酵素を過剰発現する形質転換酵母を作製することができる。ギ酸脱水素酵素が過剰発現していることは、RT−PCR法など、当業者に周知の方法により確認できる。「過剰発現」とは、当業者に周知の範囲内の過剰発現量をいうが、通常、遺伝子が導入されていない酵母と比較して2倍程度以上の発現量をいい、好ましくは5倍程度以上、より好ましくは10倍程度以上の発現量をいう。
本発明の方法では、糖化バイオマスとギ酸脱水素酵素を過剰発現する形質転換酵母とを混合し、形質転換酵母を培養する。糖化バイオマス中には、バイオマスの過分解により生じる発酵阻害物質であるギ酸が存在し得るが、本発明で用いる形質転換酵母は、ギ酸に耐性を有するため、エタノール発酵が阻害されることなく進行し、エタノールが培地中に生産される。
本発明の方法では、C5糖のキシロースのみでなく、C6糖のグルコースなどを糖源として発酵を行う場合にも、ギ酸の存在下においてエタノール発酵が阻害されることなく進行する。
形質転換酵母の培養は、当業者に周知の方法により適宜実施できる。培地のpHは、好ましくは約4〜約6、最も好ましくは約5である。好気的培養時の培地中の溶存酸素濃度は、好ましくは約0.5〜約6ppm、より好ましくは約1〜約4ppm、最も好ましくは約2ppmである。培養温度は、約20〜約45℃、好ましくは約25〜約35℃、最も好ましくは約30℃である。酵母菌体量が10g(湿潤量)/L以上、好ましくは25g(湿潤量)/L以上、より好ましくは37.5g(湿潤量)/L以上になるまで培養することが好ましく、培養時間は約20〜約50時間程度である。形質転換酵母は、発酵に供する前に好気的条件下で培養することにより、その菌体量を増加させ得る。
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(参考例1:酵母MT8−1XN株の発酵試験とDNAマイクロアレイ)
(発酵試験)
酵母サッカロマイセス・セレビシエのMT8−1株(MATa)(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)に、キシロース資化能力を付与するプラスミドpIUX1X2XKN(酵母ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)由来のキシロースレダクダーゼ(XR)およびキシリトール脱水素酵素(XDH)、ならびに酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来キシルロキナーゼ(XK)を共発現するプラスミドとして、S. Katahiraら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2006年、第72巻、p. 1136-1143の記載に準じて調製)を酢酸リチウム法により導入することで、形質転換酵母MT8−1XN株を作製した。このキシロース資化性酵母MT8−1XN株を用いて、キシロースを糖源としてエタノール発酵を行い、ギ酸の影響を調べた。発酵に用いた酵母は、30℃および好気条件下で前培養(酵母エキス(Yeast Extract)10g/L、バクトペプトン(Bacto-Peptone)20g/LおよびD−グルコース20g/Lを含む培地を使用、24時間培養)した後、本培養(酵母エキス(Yeast Extract)10g/L、バクトペプトン(Bacto-Peptone)20g/LおよびD−グルコース20g/Lを含む培地を使用、48時間培養)により増殖させて調製した。初発キシロース濃度40g/Lおよび酵母菌体量50g/L(湿重量)を含むYP培地(酵母エキス10g/L,バクトペプトン20g/L)に、ギ酸を添加しないもの(0mMギ酸)、およびギ酸濃度が10mMまたは20mMとなるようにギ酸を添加したものを調製し、発酵を開始した。
(発酵試験)
酵母サッカロマイセス・セレビシエのMT8−1株(MATa)(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)に、キシロース資化能力を付与するプラスミドpIUX1X2XKN(酵母ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)由来のキシロースレダクダーゼ(XR)およびキシリトール脱水素酵素(XDH)、ならびに酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来キシルロキナーゼ(XK)を共発現するプラスミドとして、S. Katahiraら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2006年、第72巻、p. 1136-1143の記載に準じて調製)を酢酸リチウム法により導入することで、形質転換酵母MT8−1XN株を作製した。このキシロース資化性酵母MT8−1XN株を用いて、キシロースを糖源としてエタノール発酵を行い、ギ酸の影響を調べた。発酵に用いた酵母は、30℃および好気条件下で前培養(酵母エキス(Yeast Extract)10g/L、バクトペプトン(Bacto-Peptone)20g/LおよびD−グルコース20g/Lを含む培地を使用、24時間培養)した後、本培養(酵母エキス(Yeast Extract)10g/L、バクトペプトン(Bacto-Peptone)20g/LおよびD−グルコース20g/Lを含む培地を使用、48時間培養)により増殖させて調製した。初発キシロース濃度40g/Lおよび酵母菌体量50g/L(湿重量)を含むYP培地(酵母エキス10g/L,バクトペプトン20g/L)に、ギ酸を添加しないもの(0mMギ酸)、およびギ酸濃度が10mMまたは20mMとなるようにギ酸を添加したものを調製し、発酵を開始した。
培地中のキシロースおよび生産されたエタノールを、HPLC(High performance liquid chromatographyシステム;株式会社島津製作所製)により経時的に定量した。HPLCの分離用カラムにはShim-pack SPR-Pb(株式会社島津製作所製)を用い、移動層には超純水(日本ミリポア株式会社製Milli−Qによる精製水)を用い、そして検出器には屈折率検出器を用いた。HPLCの条件は、流速0.6mL/分および温度80℃とした。結果を図1に示す。
図1から明らかなように、ギ酸濃度の増加とともに、キシロース消費速度が減少し、それに伴ってエタノール生産速度および生産量ともに減少した。このことから、ギ酸の存在によってキシロースからのエタノール発酵が大きく阻害されることがわかる。
(DNAマイクロアレイ)
ギ酸不在下(0mMギ酸)および20mMギ酸存在下について、それぞれ培養開始後24時間に酵母菌体(培地1mL)を回収し、4℃にて1000×gで5分間遠心分離し、上清を除いた。沈殿中の菌体を蒸留水1mLに再懸濁し、1000×gで30秒間遠心分離し、上清を除いた。次いで、沈殿中の菌体をソルビトール/EDTA緩衝液(1Mソルビトール,0.1M EDTA,pH7.5)2mLに再懸濁し、この懸濁液にβ−メルカプトエタノール2μLおよび500ユニット/mLのZymolyase(生化学工業株式会社製)500μLを添加し、混合した。さらに、30℃にて100rpmで15分間振とうした懸濁液を、室温にて300×gで5分間遠心分離し、上清を除いた。
ギ酸不在下(0mMギ酸)および20mMギ酸存在下について、それぞれ培養開始後24時間に酵母菌体(培地1mL)を回収し、4℃にて1000×gで5分間遠心分離し、上清を除いた。沈殿中の菌体を蒸留水1mLに再懸濁し、1000×gで30秒間遠心分離し、上清を除いた。次いで、沈殿中の菌体をソルビトール/EDTA緩衝液(1Mソルビトール,0.1M EDTA,pH7.5)2mLに再懸濁し、この懸濁液にβ−メルカプトエタノール2μLおよび500ユニット/mLのZymolyase(生化学工業株式会社製)500μLを添加し、混合した。さらに、30℃にて100rpmで15分間振とうした懸濁液を、室温にて300×gで5分間遠心分離し、上清を除いた。
このようにして得られた酵母スフェロプラストのギ酸不在下(0mMギ酸)および20mMギ酸存在下の各サンプルから、Total RNA Isolation mini Kit(アジレント・テクノロジー社製)を用いてトータルRNAを抽出した。次いで、トータルRNAから、Agilent RNA Spike-In Kit(アジレント・テクノロジー社製)およびQuick Amp Labeling Kit, one-color(アジレント・テクノロジー社製)を用いてcDNAを合成した。
得られたcDNAを基質として、T7RNAポリメラーゼ、無機ピロホスファターゼおよびCyanine3(アジレント・テクノロジー社製)を用いてラベル化cRNAを合成した。次いで、Qiagen RNeasy mini Kit(キアゲン社製)を用いてラベル化cRNAを精製した。
Agilent Gene Expression Hybridizaton Kit(アジレント・テクノロジー社製)を用いて、精製したラベル化cRNAをランダムに切断し、アレイスライド(Microarray; S. cerevisiae, 4×44k;アジレント・テクノロジー社製)にハイブリダイゼーションさせた。次いで、Agilent Gene Expression Wash Pack(アジレント・テクノロジー社製)を用いてアレイスライドを洗浄し、Agilent DNA Microarray Scanner(アジレント・テクノロジー社製)によりアレイスライドをスキャニングした。Agilent DNA Microarray Scannerに付属のソフトウェア(Feature Extraction Ver. 9.5)で取り込んだデータをGenespring GX(トミーデジタルバイオロジー株式会社製)に移し、解析した。データ解析では、Workflow typeの設定はAdvanced Analysisにし、Flag Import、Normalization algorithmおよびBaseline Transformationの設定はアジレント・テクノロジー社の推奨に従った。統計処理はT−テストにより行い、発現量、Flag情報および再現性に基づくフィルタリングを行った。
ギ酸不在下(0mMギ酸)および20mMギ酸存在下の各サンプルについて得られた最終データに対して、Fold changeによるフィルタリングを行い、各サンプル間の遺伝子発現量の比を求めた。
DNAマイクロアレイにより得られた代表的な酵母遺伝子についての結果を表1に示す。表1は、キシロース資化性酵母MT8−1XN株をギ酸不在下(0mMギ酸)でエタノール発酵させた場合に対する、20mMのギ酸存在下でエタノール発酵させた場合の遺伝子発現比を表す。
表1から、ギ酸不在下(0mMギ酸)と比べると、20mMのギ酸存在下では、ギ酸脱水素酵素FDH1およびFDH2の遺伝子の発現が、顕著に増加していることがわかる。
(実施例1:FDH1過剰発現用プラスミドの作製)
ギ酸脱水素酵素FDH1を酵母で過剰に発現させるためのプラスミドを構築した。PGKプロモーターおよびPGKターミネーターを有するプラスミドpPGK423(J. Ishiiら、J. Biochem.、2006年、第145巻、p. 701-708)のプロモーターとターミネーターとの間に、酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来FDH1遺伝子(配列番号1)を挿入して、プラスミドpPGK423FDH1を作製した(図2)。挿入に用いたFDH1遺伝子は、酵母サッカロマイセス・セレビシエのKyokai−7株(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)から常法により抽出したゲノムDNAを鋳型とし、フォワードプライマー(配列番号3)およびリバースプライマー(配列番号4)を用いて、常法のPCR法によりDNA断片を得、この断片を制限酵素SalIおよびSacIで処理することにより調製した。得られたプラスミドpPGK423FDH1は、形質転換体にアンピシリン耐性を付与するAmpr遺伝子および相同組換えに必要な酵母由来HIS3遺伝子を有する。
ギ酸脱水素酵素FDH1を酵母で過剰に発現させるためのプラスミドを構築した。PGKプロモーターおよびPGKターミネーターを有するプラスミドpPGK423(J. Ishiiら、J. Biochem.、2006年、第145巻、p. 701-708)のプロモーターとターミネーターとの間に、酵母サッカロマイセス・セレビシエ由来FDH1遺伝子(配列番号1)を挿入して、プラスミドpPGK423FDH1を作製した(図2)。挿入に用いたFDH1遺伝子は、酵母サッカロマイセス・セレビシエのKyokai−7株(独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手)から常法により抽出したゲノムDNAを鋳型とし、フォワードプライマー(配列番号3)およびリバースプライマー(配列番号4)を用いて、常法のPCR法によりDNA断片を得、この断片を制限酵素SalIおよびSacIで処理することにより調製した。得られたプラスミドpPGK423FDH1は、形質転換体にアンピシリン耐性を付与するAmpr遺伝子および相同組換えに必要な酵母由来HIS3遺伝子を有する。
(実施例2:FDH1過剰発現株の作製)
キシロース資化性酵母サッカロマイセス・セレビシエのMT8−1XN株に実施例1で作製したプラスミドpPGK423FDH1を酢酸リチウム法により導入し、FDH1を過剰に発現する形質転換酵母MT8−1XNPGK423FDH1株(FDH1過剰発現株)を得た。同様にして、プラスミドpPGK423を酢酸リチウム法により導入し、形質転換酵母MT8−1XNPGK423株(コントロール株)を得た。
キシロース資化性酵母サッカロマイセス・セレビシエのMT8−1XN株に実施例1で作製したプラスミドpPGK423FDH1を酢酸リチウム法により導入し、FDH1を過剰に発現する形質転換酵母MT8−1XNPGK423FDH1株(FDH1過剰発現株)を得た。同様にして、プラスミドpPGK423を酢酸リチウム法により導入し、形質転換酵母MT8−1XNPGK423株(コントロール株)を得た。
(実施例3:FDH1過剰発現株の発酵試験)
実施例2で得たFDH1過剰発現株およびコントロール株を用いてキシロースからのエタノール発酵を行い、ギ酸の影響を検討した。初発D−キシロース濃度40g/Lおよび酵母菌体量2.5g/L(湿重量)を含むYP培地に、ギ酸を添加しないもの(0mMギ酸)、およびギ酸濃度が10mMまたは20mMとなるようにギ酸を添加したものを調製し、発酵を開始した。培地中のキシロースおよび生産されたエタノール、グリセロールおよびキシリトールを、HPLC(High performance liquid chromatographyシステム;株式会社島津製作所製)により経時的に定量した。HPLCの分離用カラムにはShim-pack SPR-Pb(株式会社島津製作所製)を用い、移動層には超純水(日本ミリポア株式会社製Milli−Qによる精製水)を用い、そして検出器には屈折率検出器を用いた。HPLCの条件は、流速0.6mL/分および温度80℃とした。結果を図3に示す。
実施例2で得たFDH1過剰発現株およびコントロール株を用いてキシロースからのエタノール発酵を行い、ギ酸の影響を検討した。初発D−キシロース濃度40g/Lおよび酵母菌体量2.5g/L(湿重量)を含むYP培地に、ギ酸を添加しないもの(0mMギ酸)、およびギ酸濃度が10mMまたは20mMとなるようにギ酸を添加したものを調製し、発酵を開始した。培地中のキシロースおよび生産されたエタノール、グリセロールおよびキシリトールを、HPLC(High performance liquid chromatographyシステム;株式会社島津製作所製)により経時的に定量した。HPLCの分離用カラムにはShim-pack SPR-Pb(株式会社島津製作所製)を用い、移動層には超純水(日本ミリポア株式会社製Milli−Qによる精製水)を用い、そして検出器には屈折率検出器を用いた。HPLCの条件は、流速0.6mL/分および温度80℃とした。結果を図3に示す。
図3から明らかなように、ギ酸不在下では、FDH1過剰発現株(d)とコントロール株(a)とは、キシロース消費速度、エタノール生産速度および最終エタノール生産量のいずれについても大きな差がなかった。10mMのギ酸存在下では、FDH1過剰発現株(e)は、ギ酸不在下と同様のキシロース消費速度、エタノール生産速度および最終エタノール生産量を示した。これに対して、コントロール株(b)は、発酵開始後24時間頃からややキシロース消費速度が減少したが、発酵開始後96時間においてはキシロースが完全に消費され、エタノール生産速度および最終エタノール生産量もギ酸不在下と大きな差がなかった。キシリトール生産速度および最終キシリトール生産量はギ酸不在下と比べると減少した。20mMのギ酸存在下でも、FDH1過剰発現株(f)は、ギ酸不在下と同様のキシロース消費速度、エタノール生産速度および最終エタノール生産量を示した。これに対して、コントロール株(c)は、発酵開始直後からキシロース消費速度およびエタノール生産速度が顕著に減少し、発酵開始後96時間においてもキシロースが完全に消費されず、最終エタノール生産量はギ酸不在下および10mMギ酸存在下と比べると顕著に減少した。
本発明の方法によれば、糖化バイオマス中に発酵阻害物質であるギ酸が存在する場合であっても、効率的にエタノールを生産できる。このため、食糧と競合しない稲ワラ、麦ワラ、廃材などのリグノセルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの効率的な生産が可能となり、化石燃料の代替燃料を提供するとともに地球温暖化防止や食糧問題の解決に寄与できる。
Claims (4)
- バイオマスからのエタノールの生産方法であって、
ギ酸脱水素酵素を過剰発現するように形質転換された酵母を糖化バイオマスと混合し、培養する工程
を含む、方法。 - 前記形質転換された酵母が、キシロース資化性酵母である、請求項1に記載の方法。
- 前記糖化バイオマスが、発酵阻害物質であるギ酸を含む、請求項1または2に記載の方法。
- 前記ギ酸脱水素酵素が、酵母由来である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
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