以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明をスポーツタイプの自動二輪車(車両)に適用した例について説明するが、適用対象はこれに限定されることなく変更可能である。例えば、本発明を他のタイプの自動二輪車や、バギータイプの自動三輪車、自動四輪車等に適用してもよい。また、方向について、車両前方を矢印FR、車両後方を矢印RE、車両左方を矢印L、車両右方を矢印R、車両上方を矢印UP、車両下方を矢印LOでそれぞれ示す。また、以下の各図では、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
図1を参照して、本実施の形態に係る自動二輪車の概略構成について説明する。図1は、本実施の形態に係る自動二輪車の概略構成を示す左側面図である。
図1に示すように、自動二輪車1は、パワーユニット、電装系等の各部を搭載する車体フレーム10にエンジン2を懸架して構成される。エンジン2は、例えば、並列2気筒の水冷式エンジンで構成される。エンジン2は、左右に延びるクランクシャフト40(図4参照)等が収容されるクランクケース20の上部に、シリンダブロック21、シリンダヘッド22及びシリンダヘッドカバー23(図2参照)を取り付けて構成される。また、クランクケース20の下部には、オイルパン24(図2参照)が設けられる。なお、本実施の形態では、クランクケース20、シリンダブロック21、シリンダヘッド22、シリンダヘッドカバー23及びオイルパン24を合わせてエンジンケースと呼ぶことにする。また、エンジンの詳細構成については後述する。
車体フレーム10は、例えば金属パイプを溶接して形成されるダイヤモンドフレームであり、上記のようにエンジン2を懸架することで、車体全体として剛性が得られるように構成される。車体フレーム10は、ヘッドパイプ10aから後下方に向かって延在している。車体フレーム10の前半部分には、エンジン2の前側(シリンダヘッド22)を支持するブラケット部10bが形成されている。車体フレーム10の後部には、スイングアーム18の揺動軸となるピボット部10cが形成されている。
車体フレーム10の前後方向の略中央部分には、後方に向かって延びるシートレール10dが設けられている。また、ピボット部10cの上方の車体フレーム10には、後上方に向かって延びるバックステー10eが設けられている。車体フレーム10の上方には、燃料タンク11が設けられ、燃料タンク11の後方には、シートレール10dに沿ってライダーシート12及びピリオンシート13が設けられる。ヘッドパイプ10aの周辺はフロントカウル14によって覆われ、エンジン2の前下方はアンダーカウル15によって覆われる。
ヘッドパイプ10aには、ステアリングシャフト(不図示)を介して左右一対のフロントフォーク16が操舵可能に支持される。フロントフォーク16の上部には、ハンドルバー30が設けられている。ハンドルバー30の右端側には、フロントブレーキレバー(不図示)が設けられ、ハンドルバー30の左端側には、クラッチレバー31が設けられる。フロントフォーク16の下部には前輪17が回転可能に支持されており、前輪17の上方はフロントフェンダ17aによって覆われる。
スイングアーム18は、ピボット部10cに揺動可能に支持され、後方に向かって延びている。スイングアーム18の後端には後輪19が回転可能に支持されている。
次に、図2から図4を参照して、本実施の形態に係るエンジンについて説明する。図2は、本実施の形態に係るエンジンの正面図である。図3は、本実施の形態に係るエンジンの左側面図である。図4は、図2に示すエンジンをA−A線に沿って切断したときの断面図である。
図2から図4に示すように、エンジンケースの一部を構成するクランクケース20は、上下割で構成され、アッパーケース20aとロアケース20bとを有している。アッパーケース20aとロアケース20bとを合わせることにより、クランクケース20内に各種軸(回転軸)を収容する空間が形成される。図4に示すように、側面視でアッパーケース20a及びロアケース20bの合わせ面略中央には、クランクシャフト40が配置されている。
アッパーケース20aの前側上部は開口されており、この開口を塞ぐようにアッパーケース20aにはシリンダブロック21が取り付けられる。ロアケース20bは下方に開口されており、この開口を塞ぐようにロアケース20bにはオイルパン24が取り付けられる。特にエンジン2は、シリンダブロック21の軸線が鉛直方向に対して前側に傾くように配置されている。
また、ロアケース20bの前部には、エンジン2内のオイルを冷却するオイルクーラ25と、汚れたオイルをろ過するオイルフィルタ26が取り付けられている。オイルクーラ25及びオイルフィルタ26は左右に並んで配置され、オイルクーラ25に対してオイルフィルタ26が左側に設けられている。
クランクケース20の左右両側には、それぞれ開口が形成されている。左側の開口内には、回転体としてマグネト(不図示)が収容(配置)されている。また、当該マグネトを覆うエンジンカバーとして、左側の開口にはマグネトカバー5が取り付けられる。
マグネトは、クランクシャフト40の左端側に設けられており、内部に設けられるステータ(不図示)に対してマグネトロータ(不図示)が相対回転することで電力を発生させる。発生した電力は、図示しないバッテリの充電に用いられる。また、マグネトカバー5下方のクランクケース20(ロアケース20b)側面には、オイル点検窓20cが形成されている。エンジンケース内のオイルレベルは、当該オイル点検窓20cから確認することが可能である。
クランクケース20の右側の開口内には、回転体としてクラッチ(不図示)が収容(配置)されている。また、当該クラッチを覆うエンジンカバーとして、右側の開口にはクラッチカバー6が取り付けられる。エンジン2の右側面において、クラッチカバー6の前方には、エンジン2に対して冷却水を送り込むウォータポンプ60が設けられる。ウォータポンプ60の構成については後述する。
また、詳細は後述するが、クランクケース20内の後方空間には、変速機(不図示)が収容されている。変速機は、カウンタシャフト41及びドライブシャフト42(共に図4参照)のそれぞれに設けられる複数の変速ギヤが常に噛み合った、いわゆる常時噛み合い式の変速機で構成される。ドライブシャフト42の左端は、クランクケース20から突出しており、突出した部分にスプロケット70が設けられる。スプロケット70にはチェーン(不図示)が巻き掛けられ、当該チェーンを介してドライブシャフト42の回転が後輪19(図1参照)に伝達可能となっている。また、ドライブシャフト42の左端側、すなわち、マグネトカバー5後方のクランクケース20左側面には、スプロケット70を覆うスプロケットカバー71が設けられている。
次に、クランクケース20内の構成について説明する。図4に示すように、クランクケース20内には、クランクシャフト40の他に、エンジン2の駆動力を伝達するための各種軸が収容されている。以下、クランクシャフト40の位置を基準にして各種軸の配置位置を説明する。クランクシャフト40は、クランクケース20の中央よりやや前側に収容されている。クランクシャフト40には、コンロッドを介してピストンが軸方向に並んで2つ取り付けられている(共に不図示)。
クランクシャフト40の後斜め上方には、カウンタシャフト41が設けられている。カウンタシャフト41の右端には、クラッチ(不図示)が設けられている。カウンタシャフト41の後下方には、ドライブシャフト42が設けられている。カウンタシャフト41及びドライブシャフト42には、変速用の各種ギヤが設けられている。また、クランクシャフト40の周囲には、エンジン2の回転振動を軽減する2つのバランサシャフト43が設けられている。
バランサシャフト43は、クランクシャフト40の前方に配置される第1バランサシャフト44と、クランクシャフト40の下方(直下)に配置される第2バランサシャフト45とを含んで構成される。第1バランサシャフト44及び第2バランサシャフト45は、クランクシャフト40の軸方向に沿って延びている。第1バランサシャフト44と第2バランサシャフト45は、第1バランサシャフト44及びクランクシャフト40を結ぶ直線と、第2バランサシャフト45及びクランクシャフト40を結ぶ直線との成す角が、略直角となるように配置されている。
また、アッパーケース20aとロアケース20bとの合せ面に第1バランサシャフト44、クランクシャフト40及びドライブシャフト42が配置されている。より具体的には、アッパーケース20aとロアケース20bとの合わせ面には前後方向に並んで3つの軸受が形成されており、前から順番に、第1バランサシャフト44、クランクシャフト40及びドライブシャフト42がそれぞれの軸受に配置されている。
このように構成されるエンジン2では、クランクシャフト40の回転がカウンタシャフト41に伝達され、カウンタシャフト41の回転は、各種ギヤの組み合わせにより所定の変速比でドライブシャフト42に伝達される。そして、ドライブシャフト42の回転は、図示しない伝達機構を介して後輪19(図1参照)へと伝達される。
また、クランクシャフト40の回転は、バランサ装置を構成する2つのバランサシャフト43にも伝達される。クランクシャフト40の回転に伴って生じるエンジン2の振動は、第1バランサシャフト44及び第2バランサシャフト45の回転によって相殺される。このようにしてエンジン2の振動が軽減されることで、乗員に対する振動や騒音の影響を抑えることが可能になる。
次に、過給機8について説明する。図2及び図3に示すように、過給機8は、エンジン2の排気を利用して吸入空気を圧縮する、いわゆるターボチャージャーで構成され、クランクケース20の前方に配置されている。過給機8は、エキゾーストマニホールド(以下、マニホールド部8aと記す)と、後述するタービンハウジング(以下、ハウジング部8bと記す)とが鋳造により一体成型されたハウジング本体を有している。シリンダヘッド22の排気ポートにマニホールド部8aが取り付けられることで過給機8が固定される。
マニホールド部8aは、シリンダヘッド22の前面に形成される左右一対の排気ポートから下方に延びるパイプを正面視V字状に接続して(集合させて)構成される。ハウジング部8bは、車幅(左右)方向を軸方向とした円筒状に形成されており、内部にタービン及びターボシャフト(共に不図示)が収容される。マニホールド部8aの下端(一対のパイプが集合する部分)に、ハウジング部8bの上部が接続される。
ハウジング部8bの左端側には、ターボシャフトのベアリング(共に不図示)を収容するベアリングハウジング80が設けられている。また、ベアリングハウジング80の左側には、コンプレッサ(不図示)を収容するコンプレッサハウジング81が設けられる。
また、クランクケース20及び過給機8には、クランクケース20から過給機8にオイルを供給するインレットパイプ80aと、過給機8内を潤滑したオイルをクランクケース20に戻すアウトレットパイプ80bとが接続される。インレットパイプ80a及びアウトレットパイプ80bにより、クランクケース20及び過給機8間のオイル通路が形成される。
具体的に、インレットパイプ80aの上流端は、アッパーケース20aの所定箇所(不図示)に接続され、インレットパイプ80aの下流端は、ベアリングハウジング80の上部に接続される。インレットパイプ80aは、アッパーケース20aの前面からハウジング部8bの下方を回り込むように延び、ベアリングハウジング80の上端に接続される。
アウトレットパイプ80bの上流端は、ベアリングハウジング80の下部に接続され、アウトレットパイプ80bの下流端は、クランクケース20の前面に接続される。アウトレットパイプ80bは、ベアリングハウジング80の下部から下方に延びた後、後方に向かって屈曲し、クランクケース20の左前方における合わせ面近傍のロアケース20b前面に接続される(図2及び図3参照)。なお、アウトレットパイプ80bの下流端周辺の構成については後述する。
ターボシャフトは、ハウジング部8bからコンプレッサハウジング81との間で車幅方向に延びている。ターボシャフトの一端(右端)側にはタービンが固定され、ターボシャフトの他端(左端)側にはコンプレッサが固定される。これにより、タービン及びコンプレッサがターボシャフトを軸として一体回転可能に構成される。
コンプレッサハウジング81の下方には、ウェイストゲートバルブ82が設けられている。ウェイストゲートバルブ82は、タービン(ハウジング部8b)に対する排気の流入量を調節する役割を果たす。例えば、過給圧が急激に上がった場合には、ウェイストゲートバルブ82が作動することでタービンに対する排気の流入量が少なくなるように調節される。
コンプレッサハウジング81の左端には、エアクリーナ(不図示)を通過した吸入空気をコンプレッサハウジング81内に導入するコンプレッサパイプ83が接続される。また、コンプレッサハウジング81の上部には、コンプレッサハウジング81内で圧縮された吸入空気をエンジン2内に導入するインテークパイプ84(図2のみ図示)が接続される。
ハウジング部8bの右端側には、排気管85(マフラー)が接続される。排気管85は、ハウジング部8bから右方に突出した後、下方に向かって屈曲する。更に排気管85は、オイルパン24の右側で後方に屈曲し、オイルパン24の右側面に沿うようにして後方に延びている。オイルパン24の後方において、排気管85の後端には、チャンバ86(図1及び図2参照)が接続される。
このように構成される過給機8を備えたエンジン2では、乗員のスロットル操作に応じて、エンジン2の排気がマニホールド部8aを介してハウジング部8b内に導入される一方、外の空気(吸入空気)がコンプレッサパイプ83を通じてコンプレッサハウジング81内に導入される。
ハウジング部8b内では、排気の流れによってタービンが高速回転され、排気が排気管85及びチャンバ86を通じて外に排出される。一方、コンプレッサハウジング81内では、タービンの回転に応じてコンプレッサが回転することで吸入空気が圧縮される。圧縮された吸入空気は、インテークパイプ84を通じてエンジン2内に導入される。
このように、過給機8で空気を圧縮することにより、エンジン2の総排気量以上の混合気をエンジン2内に送り込むことができる。この結果、より多くの混合気を燃やしてエンジン2の出力を高めることができる。
ところで、過給機(ターボチャージャー)を備えた従来の自動二輪車にあっては、オイルパンの前方に過給機が設けられていた。この場合、過給機の駆動軸(ターボシャフト)がオイルパン内のオイル面より低い位置にあると、過給機内を潤滑したオイルがオイルパンに戻り難くなってしまう。
特に、過給機は非常に発熱する部品であり(例えば800℃以上)、エンジン停止後に過給機内にオイルが滞留してしまうと、熱によってオイルの劣化が促進されるだけでなく、ベアリングが焼き付いてしまうという問題がある。また、ベアリングからタービンやコンプレッサ内にオイルが流出する可能性もある。この場合、排気ガスにオイルが混入すると触媒劣化の要因ともなり得る。したがって、エンジン停止後は、速やかにオイルを過給機から排出することが望ましい。
例えば、オイルパンの油面より上方に過給機を配置し、過給機内のオイルを自然落下させてオイルパンに戻すことが考えられる。しかしながら、自動二輪車の減速時等による姿勢変化により、オイルパン内のオイルが過給機に逆流することがある。
過給機へのオイル逆流を防止するために、過給機のオイル戻り通路の途中に別途専用のオイルタンク及びスカベンジポンプ(オイルポンプ)を設け、過給機を潤滑した後のオイルを強制的にオイルパンへ戻すことも考えられる。しかしながら、部品点数、重量、コストの増加を招くと共に、オイルタンクを配置するスペースを確保するためにエンジンレイアウトに制約が生じるという問題がある。
特に、スカベンジポンプとして、トロコイド(登録商標)ポンプ等で代表される一般的な容積型のギヤポンプを採用する場合、インナーロータとアウターロータの相対回転によってオイルの吸い込みと吐出が可能となる。しかしながら、エンジンが停止すると、それに伴ってスカベンジポンプも停止する。このため、オイル戻し通路内にオイルが残留するだけでなく、インナーロータとアウターロータとの間にもオイルが残留する結果、熱によるオイルの劣化や酸化、スラッジ生成を促進させてしまうことが想定される。すなわち、一般的な容積型のオイルポンプを設けたとしても、適切にオイルが排出されない可能性がある。
そこで、本件発明者等は、クランクケース内に配置される回転軸と過給機の位置関係に着目し、簡易な構成で過給機からのオイル排出性を向上することに想到した。具体的に、本実施の形態では、クランクケース20内でクランクシャフト40の前方に第1バランサシャフト44(バランサシャフト43)を配置し、第1バランサシャフト44の上方に過給機8を配置した。そして、第1バランサシャフト44の軸端にインペラ91(図5及び図6参照)を設け、軸流式のスカベンジポンプ9(図5及び図6参照)を構成した。更に、インペラ91近傍のクランクケース20と過給機8とをオイル配管(後述するアウトレットパイプ80b)で接続し、過給機8からのオイル戻し通路を形成した。
この構成によれば、エンジン駆動中は、第1バランサシャフト44の回転力でインペラ91を回転させ、スカベンジポンプ9を駆動させることができる。よって、過給機8を潤滑した後のオイルの逆流を防止しつつ、適切にクランクケース20下方のオイルパン24に戻すことが可能である。
このように、別途専用の駆動源を設けることなく既存の構成を活用してスカベンジポンプ9を構成したことにより、簡易な構成で部品点数、重量の増加を抑え、エンジンレイアウトに大きな制約を生じさせることなく、過給機8からのオイル排出性を向上することが可能になった。
また、インペラ91より高い位置に過給機8が配置されるため、エンジン2が停止してスカベンジポンプ9の駆動が停止しても、アウトレットパイプ80bを通じて過給機8内のオイルをスカベンジポンプ9に向かって自然落下させる、すなわち、オイルの自重で流動させることが可能である。特に、一般的な容積式のオイルポンプとは異なる軸流式のスカベンジポンプ9を採用したことにより、インペラ91の周囲のオイルは、自然落下して下方のオイルパン24に向かって流動する。よって、スカベンジポンプ9内にオイルが残留することなく、オイル劣化やベアリングの焼き付き等の不具合を防止することが可能である。
次に、図5から図8を参照して、本実施の形態に係るエンジンの潤滑構造、特にスカベンジポンプについて説明する。図5は、図3に示すエンジンをB−B線に沿って切断したときの断面斜視図である。図6は、図2に示すエンジンをC−C線に沿って切断したときの断面図である。図7は、図3に示すエンジンをD−D線に沿って切断したときの部分断面図である。図8は、図6に示すスカベンジポンプを矢印E方向で見た部分拡大図である。
先ず、第1バランサシャフト44の周辺構成について説明する。図5に示すように、クランクケース20の前側において、第1バランサシャフト44は、アッパーケース20aとロアケース20bとの合わせ面上に配置されており、軸方向が車幅方向(左右方向)に向けられている。クランクケース20には、気筒数に応じて2つのバランサ室20dが形成されている。具体的にバランサ室20dは、アッパーケース20aとロアケース20bとが協働して所定の空間を形成し、左右に並んで配置される。第1バランサシャフト44には、各バランサ室20dに対応して径方向に突出形成される2つのバランサウェイト44aが設けられる。
第1バランサシャフト44の右端には、バランサドリブンギヤ44bが設けられている。バランサドリブンギヤ44bは、クランクシャフト40のプライマリドライブギヤ40a(共に図4参照)に噛み合っており、クランクシャフト40の回転が第1バランサシャフト44に伝達可能となっている。また、第1バランサシャフト44の左右両端には、第1バランサシャフト44の回転を駆動源とするウォータポンプ60及びスカベンジポンプ9が設けられている。ウォータポンプ60は、第1バランサシャフト44の右端側に設けられ、スカベンジポンプ9は、第1バランサシャフト44の左端側に設けられる。
ウォータポンプ60は、エンジン2内に冷却水を供給するものであり、インペラ61の遠心力を利用して冷却水をエンジン2に内に送り込む遠心ポンプで構成される。ウォータポンプ60は、クランクケース20の右側に取り付けられるポンプケース62及びポンプカバー63の内部空間(後述するインレットチャンバ64)にインペラ61を収容して構成される。
インペラ61は、渦巻き状の羽根車で構成され、ポンプシャフト65を介して第1バランサシャフト44の右端に回転一体に固定される。ポンプケース62は、クランクケース20の右側面に取り付けられ、ポンプシャフト65の軸受を兼ねている。ポンプカバー63は、ポンプケース62の右側を覆うように設けられ、ポンプケース62と協働してインペラ61を収容するインレットチャンバ64を形成する。エンジン2が駆動される、すなわち、第1バランサシャフト44が回転されると、インレットチャンバ64内でインペラ61が回転され、冷却水の吸い込み及び吐出が可能となる。
スカベンジポンプ9は、過給機8(図2及び図3参照)内のオイルをクランクケース20内に送り込むものであり、軸流式のオイルポンプで構成される。具体的にスカベンジポンプ9は、図5から図8に示すように、クランクケース20に形成されるインレットチャンバ90内にインペラ91を収容して構成される。インペラ91は、円柱の外周面に複数の突起91a(本実施の形態では4つ)が形成された羽根車で構成され、第1バランサシャフト44の左端に回転一体に固定される。なお、突起91aの数は特に限定されない。
インレットチャンバ90は、第1バランサシャフト44の左方において、クランクケース20の合わせ面上に形成(配置)されている。具体的にインレットチャンバ90は、アッパーケース20aとロアケース20bとが協働して所定の空間を形成し、過給機8からのオイルを貯留する貯留部92と、インペラ91を収容するする収容部93とで構成される。貯留部92及び収容部93は左右に並んで配置されており、収容部93に対して貯留部92が左側に位置している。
貯留部92は、インペラ91の外径より十分に大きい直方体状の空間で構成される。貯留部92には、上記したアウトレットパイプ80bが接続される。アウトレットパイプ80bは、インレットチャンバ90の下側空間を構成するロアケース20bの前面にユニオン94を介して接続される。具体的にユニオン94は、前後方向に延びる円形パイプで形成され、前半部分がロアケース20bから突出される一方、後半部分が貯留部92内に貫通するようにロアケース20b前面に嵌め込まれる。ユニオン94の後端部分は、貯留部92の前後方向略中央まで挿入される。アウトレットパイプ80bの下流端は、ユニオン94の前半部分に接続される。
収容部93は、貯留部92を形成するアッパーケース20a及びロアケース20bの右側の内側面から右側に連通する円柱状の空間で構成される。収容部93は、インペラ91の外径より僅かに大きい径を有し、左右方向の幅がインペラ91の軸方向の幅(第1バランサシャフト44の左端から突出するインペラ91の軸方向の高さ)と略同一である(図7参照)。また、図8に示す側面視において、収容部93は、貯留部92の中心に対して後上方に偏って配置されている。すなわち、収容部93の中心(インペラ91の中心)が、ユニオン94より上方に位置している。
また、インレットチャンバ90の後側の壁面を規定する壁は、クランクケース20内の空間Sとインレットチャンバ90とを仕切る隔壁95を構成する。隔壁95は、アッパーケース20aとロアケース20bとが協働して上下方向に延びるように形成される。隔壁95の右端側には、左右方向及び上下方向に所定幅を有する連通部96(スリット)が形成されている。連通部96は、左右幅がインペラ91の軸方向の幅より小さく、上下幅がインペラ91の外径よりも大きく形成される。連通部96は、インレットチャンバ90(収容部93)に連通されており、スカベンジポンプ9のオイル吐出口を構成する。
このように構成されるスカベンジポンプ9によれば、エンジン2が駆動されると、クランクシャフト40の回転に伴って第1バランサシャフト44が回転され、インペラ91も回転される。過給機8内を潤滑したオイルは、自重によりアウトレットパイプ80bを通じてインレットチャンバ90(貯留部92)内に流れ込んでいる。インレットチャンバ90内では、インペラ91の回転に伴ってオイルに流れが生じ、貯留部92から収容部93を通じて連通部96からクランクケース20内に戻される。クランクケース20内では、オイルが壁面を伝って下方のオイルパン24に流れ落ちる。このようにして、過給機8を潤滑した後のオイルを過給機8から適切に排出することが可能である。
特に、第1バランサシャフト44の軸端にインペラ91を設けてスカベンジポンプ9を構成したことにより、油面変動が大きい際にも別途専用のオイルタンクを設けることなくオイル排出性を確保でき、部品点数、重量の増加を最小限に抑えることができる。更には、オイルタンクを設けるよりもレイアウトが容易である。また、軸流式のスカベンジポンプ9とすることで、エンジン停止時であっても、インペラの隙間をオイルが通過することができオイルの排出を妨げずに済み、オイルの劣化を防ぐことができる。
また、スカベンジポンプ9(インペラ91)よりも下方にオイルパン24を設けたことで、オイルパン24の液面よりもスカベンジポンプ9を高い位置に配置することができる。これによっても、油面変化が大きい際にスカベンジポンプ9までオイルが逆流し難くなり、排出性を向上させることが可能である。また、スカベンジポンプ9と過給機8とをなるべく近付けて配置することができるため、アウトレットパイプ80bを短くして、排出性を更に向上させることができる。
また、アッパーケース20aとロアケース20bとの合せ面を利用して、インペラ91の外径よりも大きいインレットチャンバ90を形成したことで、追加構成を必要とすることなく、構成の簡略化が実現されている。また、アウトレットパイプ80bが接続されるユニオン94をインレットチャンバ90のロアケース20b側に設けたことで、可能な限り過給機8とインレットチャンバ90とを離して落差を確保することができ、自然落下によるオイル排出性を向上させることができる。
また、インレットチャンバ90の連通部96の左右幅をインペラ91の軸高さより小さくしたことで、インペラ91の突起91aを通過した後のオイルを連通部96から空間S内に排出することができ、スカベンジポンプ9の排出性能を向上されている。また、インペラ91を軸方向に大きくする必要がなく、エンジン全体として軸方向(車幅方向)に大きくなることを防止することができる。また、連通部96の上下幅をインペラ91の外径よりも大きくしたことで、スカベンジポンプ9の排出性能だけでなく、エンジン停止時のオイル排出性も向上させることができる。
また、第1バランサシャフト44の右端側に第1バランサシャフト44を駆動源としたウォータポンプ60を設けたことにより、簡易な構成でウォータポンプ60を実現することが可能である。また、第1バランサシャフト44の右端側の空間を有効利用することが可能である。特に、第1バランサシャフト44の両端に駆動抵抗となるスカベンジポンプ9及びウォータポンプ60を設けたことにより、軸方向のスラストバランスを保つことが可能である。
なお、上記実施の形態では、車両として自動二輪車1を例にして説明したが、この構成に限定されない。例えば、自動四輪車や自動三輪車等の他のタイプの車両であってもよい。
また、上記実施の形態では、並列2気筒のエンジン2を例にして説明したが、この構成に限定されない。例えば、エンジン2は、単気筒や3気筒以上のエンジンで構成されてもよく、各気筒の配置も並列に限らず適宜変更が可能である。
また、上記実施の形態では、車体フレーム10をダイヤモンドフレームで構成したが、この構成に限定されない。車体フレーム10は、例えばツインスパータイプのフレームであってもよい。
また、上記実施の形態では、第1バランサシャフト44の軸端にスカベンジポンプ9やウォータポンプ60を設ける構成としたが、この構成に限定されない。例えば、第2バランサシャフト45やクランクシャフト40に上記構成を設けてもよい。また、各構成の配置関係は、左右逆であってもよい。
また、上記実施の形態では、貯留部92が直方体状の空間で形成される構成としたが、この構成に限定されない。貯留部92の形状は適宜変更が可能であり、例えば、円柱状であってもよい。収容部93も同様に、その形状は適宜変更が可能である。
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。更には、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。