JP2018178274A - 耐切創性布帛 - Google Patents

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Abstract

【課題】厚みが非常に薄くかつ耐切創性に優れた耐切創性布帛を提供すること。【解決手段】金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、鞘糸としてアラミド繊維等の高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維を被覆してなる芯鞘複合糸からなる布帛であって、厚みが0.3〜0.8mm、かつISO13997に準じて測定した耐切創力が15N以上であることを特徴とする耐切創性布帛である。【選択図】なし

Description

本発明は、耐切創性布帛に関し、詳細には、従来の布帛よりも切創抵抗値が高くかつ厚みが薄い耐切創性布帛に関する。
これまで、手袋は薄手になるほど作業性が良くなるが、安全性能の指標の一つである切創抵抗値が下がると考えられていた。切創抵抗値を高めるために金属線を芯材として使用することは、従来より採用されている技術である。
例えば特許文献1には、直径が30μm〜100μm、好ましくは50μm〜70μmのステンレス鋼繊維フィラメントからなる芯材に、鞘糸として繊度が20〜1600dtexの高機能フィラメントの捲縮糸を巻き付けた複合糸を用いて、13ゲージ手袋編機にて編成した手袋が提案されている。当該手袋は、ISO13997に準じて測定した切創抵抗値が、高機能フィラメントのみで編成した手袋の2〜3倍高く、かつ編み立て性の面でも優れている。
しかし、手袋が薄手(ハイゲージ)になるほど、編み立て性と風合いを出すために糸トータル繊度を細くする必要があり、芯材(金属線)及び鞘糸に細い糸を使用する必要がある。ところが、芯材(金属線)を細くすると手袋の切創抵抗値が著しく低下してしまう。そのため、手袋の厚みと切創抵抗値は取り合いの関係にあり、切創抵抗値が高くかつ厚みが薄い手袋は得られていなかった。
また、別の特許文献には、芯材として直径10〜70μm、好ましくは15〜35μの金属細線を用い、金属細線を補強するために、ポリエチレン、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリエステル等のフィラメント糸(添糸)を金属細線に巻き付けたものを芯材とし、該芯糸にナイロン糸等を被覆した複合糸で編成した手袋が提案されている(特許文献2〜5参照)。
特許文献2等に記載された複合糸は、芯材にナイロン糸等をダブルカバーリングする工程で金属細線が切断することを防止したものである。編成した手袋は耐切創性、作業性(柔らかさ)の点で良好であることが示されているが、実際に編成している手袋は通常の10G或いは13Gの編み機で編成したものであり、薄手手袋と言えるものではない。
最近では、直径が40μm程度の芯材(金属線)に、鞘糸として細繊度の高機能フィラメントの捲縮糸を巻き付けた芯鞘複合糸を用いて15ゲージ薄手手袋を作製した例もあるが、その場合でも、ISO13997に準じて測定した耐切創力が15N以上のものは得られていない。
特許第4667155号公報(特許請求の範囲、段落[0014]、表1等) 特許第4897684号公報(特許請求の範囲、表1等) 特許第5259803号公報(特許請求の範囲等) 特許第5349797号公報(特許請求の範囲等) 特許第5638567号公報(特許請求の範囲等)
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、厚みが非常に薄くかつ耐切創性に優れた耐切創性布帛を提供せんとするものである。
本発明は、金属線を芯材に用いた複合糸に関する種々の検討結果から得られた知見、すなわち、これまでの金属線使い手袋では、15ゲージ薄手手袋のISO13997に準じて測定した耐切創力が15Nに到達しなかったのに対し、18ゲージ最薄手手袋でも耐切創力が20Nを達成できたこと、及び、この詳細は不明であるが、金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸と、高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維からなる鞘糸とを組合せた芯鞘複合糸からなる手袋は、厚みが1.0mm未満の超薄手でも耐切創力が15N以上となり、編み立て性がよく風合いも良好である、との知見に基づいてなされたものである。
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、鞘糸として高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維を被覆してなる芯鞘複合糸からなる布帛であって、厚みが0.3〜0.8mm、かつISO13997に準じて測定した耐切創力が15N以上であることを特徴とする耐切創性布帛。
(2)前記芯糸が、直径が10〜30μmの金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸を含む前記(1)記載の耐切創性布帛。
(3)鞘糸として繊度55〜220dtexの高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む前記(1)または(2)記載の耐切創性布帛。
(4)高機能フィラメントの捲縮糸がアラミド繊維からなる前記(1)〜(3)いずれかに記載の耐切創性布帛。
(5)前記芯鞘複合糸が、金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、高機能フィラメントの捲縮糸と合成繊維がらせん状に巻き付けられた芯鞘複合糸である前記(1)〜(4)いずれかに記載の耐切創性布帛。
(6)前記芯鞘複合糸からなる布帛が、密度がウェール15〜30/25.4mm、コース25〜40/25.4mmの編み物に編成されている前記(1)〜(5)いずれかに記載の耐切創性布帛。
本発明によれば、これまでよりも切創抵抗値が高い、超薄手布帛を提供することが可能になる。また、細径の金属線を芯糸とし、細繊度の高機能フィラメントの捲縮糸を鞘糸として使用することにより、前記布帛を容易に提供することができる。
以下、本発明の耐切創性布帛について詳細を説明する。
本発明の耐切創性布帛は、金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、鞘糸として高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維を被覆してなる芯鞘複合糸からなる布帛である。当該布帛は、厚みが0.3〜0.8mmの範囲にあり、ISO13997に準じて測定した耐切創力が15N以上であることを特徴とする。前記耐切創力は、従来の薄手布帛では到達できなかった値である。
なお、本発明において、厚み及び耐切創力は、耐切創性布帛にコーティング材が被着していない状態で測定した値を言う。
(芯糸)
芯鞘複合糸の芯糸を構成する金属製繊維フィラメントは、当該芯鞘複合糸を用いて編織してなる布帛が、所定の厚みと耐切創力を備えるものとなるよう適宜選択されるが、好ましくは、直径(線径)が10〜30μmの金属製繊維フィラメントを含むようにすることである。金属製繊維フィラメントの直径を10μm以上とすることで、耐切創力15N以上を達成することが容易になる。より好ましくは15μm以上である。一方、直径を30μm以下とすることで、糸の製編性(編立て性)や布帛の風合いが著しく劣ることがなく、超薄手布帛を得ることが容易になる。より好ましくは25μm以下である。
金属製繊維フィラメントを構成する金属としては、例えば、SUS304(比重7.93)、SUS316(比重7.98)等のステンレス鋼、タングステン鋼(比重19.3)、銅(比重8.96)、アルミニウム(比重2.70)等が挙げられる。これらの金属製繊維フィラメントの中でも、耐錆性、経済性、製編性が良好である点より、ステンレス鋼またはタングステン鋼繊維フィラメントが好ましく、タングステン鋼繊維フィラメントが特に好ましい。
金属製繊維フィラメントは、フィラメント糸の単糸1本を用いてもよく、フィラメント糸を複数本引き揃えたもの、或いは合撚したもの等を用いることもできる。複数本を用いる場合は、直径や金属種が異なるものを組み合せても良い。
(鞘糸)
芯鞘複合糸の鞘糸は、高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維で構成される。高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上とすることにより、直径の小さい金属製繊維フィラメントを芯糸に使用した際でも芯鞘複合糸に引張強さと耐切創力を付与することができる。
高機能フィラメントは、原糸の特性として、JIS L 1013に基づいて測定される引張強さが10cN/dtex以上、好ましくは15cN/dtex以上であるという高引張特性と、JIS L 1013に基づいて測定される引張り弾性率が400cN/dtex以上であるという高弾性率とを満足する繊維が好ましく用いられる。かかる特性の高機能フィラメントを用いることにより、芯鞘複合糸に引張強さと高度の耐屈曲性と耐摩耗性を付与することができ、直径の小さい金属製繊維フィラメントを芯糸に使用した際でも芯鞘複合糸に引張強さを付与することができる。また、編み立て時の糸切れを無くし、耐切創力を付与することができるため、芯糸に沿わせたり巻き付けたりする糸(随伴糸)が不要になる。
かかる高機能フィラメントを構成する素材としては、アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維(例えば株式会社クラレ製、商品名「ベクトラン」)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ザイロン」)、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリアミドイミド繊維(例えばローヌプーラン社製、商品名「ケルメル」)、超高分子量ポリエチレン繊維(例えば東洋紡株式会社製、商品名「ダイニーマ」)、LCP(液晶ポリマー)繊維などが好ましい。これらの繊維のなかでも、耐切創力に優れている点から、アラミド繊維が特に好ましい。
前記アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維があり、メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)などのメタ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン−3,4'−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。これらの中でも、特に、高強度特性および高弾性率とともに耐切創性、耐熱性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。該アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造でき、また、上記のような市販品を用いてもよい。
高機能フィラメントの捲縮糸は、高機能フィラメントに仮撚り加工(加撚→熱セット→解撚)を施したものであり、芯糸の被覆性や撚り性に優れると共に、編織したときの風合いがソフトであり、伸縮性にも優れるという観点から用いられる。捲縮糸は、解撚まで加工していない加撚、熱セットのみのものや、仮撚り加工した糸を撚糸したもの、仮撚り加工した糸に熱セットをしたもの、或いは、撚糸した糸を仮撚り加工したものであっても良い。
高機能フィラメントに捲縮を付与する方法は、特に限定されず、公知の方法であって良い。好ましい方法としては、再公表2012−086584号公報に開示されている方法が挙げられる。すなわち、高機能フィラメント条に撚りを加える加撚工程と、乾熱処理工程と、前記撚りを解く解撚工程とを実施することにより捲縮糸が製造される。製造方法は、連続式仮撚加工法またはバッチ(非連続)式仮撚加工法のいずれでも良いが、かさ高性の高い捲縮糸が得られる点、捲縮糸の繊維がバラけている点、すなわち解撚状態が良い点より、連続式仮撚加工法が好ましい。
連続式仮撚加工法における仮撚りスピンドルによる仮撚り数は、糸を適度に捲縮させるとともに撚りをかけすぎることによる繊維の切断を防ぐため、下記式(1)で表わされる撚り係数(K)の値が約4,000〜11,000程度、好ましくは約4,500〜9,000程度であるのが好適である。
Figure 2018178274
〔但し、tは仮撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
仮撚りスピンドルで撚りを加える場合には、1本ピン、2本ピン、4本ピンのスピナーを用いることができる。
乾熱処理における熱セットの温度条件は、捲縮糸が所望のかさ高性と伸縮性を有するようにするためには高温処理が好適であり、原料繊維の分解開始温度付近とすることが好ましい。好ましい温度条件は、原料繊維によって異なるが、パラ系アラミド繊維の場合は、糸が通過するヒーター内部の雰囲気温度、すなわちヒーター温度を約300〜650℃にし、より好ましくは350〜600℃にすることが好ましい。
乾熱処理におけるヒーターは、接触ヒーターでも、非接触ヒーターでもよく、公知の手段によって行われてよい。加熱時間は、繊維の種類、糸条の太さまたは加熱温度などにより異なるため一概には言えないが、通常は0.005〜2秒程度が望ましい。好ましくは約0.01〜1.5秒程度の範囲である。
乾熱処理は、加圧下、減圧下、常圧下のいずれで行われてもよいが、通常の連続式仮撚加工では常圧下で行われることが好ましい。
上記の仮撚加工法による製造方法において、パラ系アラミド繊維の捲縮糸を製造する場合は、仮撚り加工前のパラ系アラミド繊維として、水分率が好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、特に好ましくは1〜10%のものを使用するのが望ましい。この場合、上記式(1)において、Dは水分を含む繊度(tex)を表す。撚りを加える前の水分率が20%を超えると、乾熱処理において熱が糸へ効率よく伝わらなくなり熱セット効果が得られないために良好な捲縮糸になり難く、一方、撚りを加える前の水分率が1%未満であると、糸道ガイドなどの擦れにより糸がフィブリル化を起こす恐れがある。
高機能フィラメントの捲縮糸の繊度、フィラメント数は、用途目的に応じ、耐切創力、伸縮性、柔軟性、風合い等を考慮して適宜選択すれば良い。繊度は55〜220dtexの範囲が好ましい。繊度を55dtex以上とすることで、直径の小さい金属製繊維フィラメントを芯糸に使用した際でも芯鞘複合糸に耐切創力を付与することができ、220dtex以下とすることで、超薄手布帛を得やすくなる。
高機能フィラメントの捲縮糸の単糸繊度は、用途に応じて、0.1〜10dtexの範囲が好ましく用いられる。より好ましくは0.4〜5dtexの範囲である。0.1dtex未満では製糸効率が低くコストアップとなる恐れがあり、10dtexを超えると剛性が高くなり、柔軟性が求められる布帛には適さなくなる。
高機能フィラメントの捲縮糸は、上記の高機能フィラメントの1種類から構成されていてもよいし、任意の2種以上の上記高機能フィラメントから構成されていてもよい。
(芯鞘複合糸)
本発明の芯鞘複合糸は、良好な耐切創力を得る観点から、芯糸に高機能フィラメントの捲縮糸を含む繊維をらせん状に一重に巻き付けたもの(SCY:シングル・カバード・ヤーン)であっても良いし、また、優れた被覆性を得る観点からは、さらにその上に、高機能繊維、ナイロン繊維やポリエステル繊維等の合成繊維、綿等の天然繊維等の他の公知の繊維をらせん状に巻き付け、芯糸の周りを二重(DCY:ダブル・カバード・ヤーン)もしくは三重に被覆したものであっても良い。
ここで、DCYにおいては、金属製繊維フィラメントの周りに配置する一重めの被覆糸を下撚り糸、二重めの被覆糸を上撚り糸という。二重に被覆する場合、トルクを打ち消すため、上撚り糸のカバーリングの撚り方向は、下撚り糸のカバーリングの撚り方向の逆方向にかけることが好ましい。
本発明の芯鞘複合糸は、下撚り糸と上撚り糸の組合せを任意に選択することができ、例えば、下撚り糸が高機能フィラメントの捲縮糸で、上撚り糸が他の公知の繊維である被覆糸(CY−1)、下撚り糸が他の公知の繊維で、上撚り糸が高機能フィラメントの捲縮糸である被覆糸(CY−2)、または、下撚り糸と上撚り糸がともに高機能フィラメントの捲縮糸である被覆糸(すなわち、金属製繊維フィラメントのみからなるコアに、高機能フィラメントの捲縮糸が二重に巻き付けられた被覆糸)(CY−3)のいずれであっても良い。これらの被覆糸のなかでも、布帛厚さ、風合い、経済性の点で、CY−1またはCY−2が好ましい。
上記のCY−1及びCY−2において、高機能フィラメントの捲縮糸が鞘糸に占める比率は、50質量%以上であり、より好ましくは60〜90質量%、更に好ましくは65〜85質量%である。高機能フィラメントの捲縮糸と他の公知の繊維を併用することにより、布帛に対して耐切創性とともに、柔らかな感触と風合いを付与することができる。
本発明の芯鞘複合糸は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維など他の公知の繊維との混繊、交撚などによる複合糸としても使用することもできる。
また、本発明の芯鞘複合糸は、必要に応じて染料や顔料で着色されていてもよい。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した糸を用いてもよい。編物を染料や顔料で着色してもよい。
芯鞘複合糸の総繊度は、200〜450dtexの範囲が好ましく、より好ましくは200〜400dtexの範囲である。200dtex以上であれば、布帛に耐切創力を付与して、かつ糸切れすることなく編み立てでき、450dtex以下であれば、布帛の編立て性が著しく悪化することがなく、超薄手布帛を得ることができる。
(鞘糸のカバーリング撚り数)
本発明の芯鞘複合糸において、鞘糸を芯糸に被覆する際、鞘糸のカバーリングの撚り数は、鞘糸の繊度により適宜選択すれば良いが、下記式(2)で表わされる撚り係数(K)の値が約500〜5,000程度、好ましくは約1,000〜3,000程度であるのが好適である。撚り係数が500未満であると、被覆糸において芯糸に対する鞘糸の被覆状態が悪くなり、手袋にした際、芯糸が剥き出しとなり手袋表面の品位が低下する。5,000を超えると、カバーリング工程において糸切れ等が発生しやすくなり、工程通過性が悪くなるとともに、鞘糸が締め付けられるため、鞘糸が本来有している特性が被覆糸に反映されなくなる。
Figure 2018178274
〔但し、Tはカバーリングの撚り数(回/m)を表し、Dは繊度(tex)を表す。〕
手袋の場合は、その使用時にも表面のコーティング材を剥がす力が加わる。そのため芯糸に対する鞘糸の巻回数が多すぎると、鞘糸(特に捲縮糸)が有しているかさ高性が被覆糸に反映されず、鞘糸の隙間にコーティング材が侵入しにくくなることで、コーティング材が手袋に接着し難くなる。被覆糸とコーティング材との接着が低いと手袋の表面からコーティング材が剥離し、手袋が補強されずに破れることで耐久性が低下する恐れがある。
被覆の際には市販のカバーリング機などが好ましく用いられる。芯鞘複合糸は公知またはそれに準ずる方法で製造することができる。
(耐切創性布帛)
本発明の耐切創性布帛は、上記の芯鞘複合糸を織物、編物等に編織することにより製造される。製織性、製編性、布帛の厚み、耐切創力を損なわない範囲で、芯鞘複合糸と公知の繊維を引き揃えて編織することもできる。得られた編織物の全部または一部分に。ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂を含浸してコーティング材を被着させることもできる。
例えば、芯鞘複合糸を編地に編成して編物(手袋)を作製する場合は、市販の編機を便宜に採用することができる。プレーティング編みにおいては、本発明の芯鞘複合糸を地糸として用い、地糸と添え糸のどちらか一方の糸を外面または内面に配置するように編む。地糸を外面/添え糸を内面に配置して編む場合は、そのままの状態を手袋とし、また、地糸を内面/添え糸を外面に配置して編む場合は、編み上がりの手袋を内/外面を逆にして、最終的に地糸を外面/添え糸を内面に配置した状態を手袋とする。こうすることで、手袋着用の際、芯鞘複合糸と使用者の皮膚との接触を比較的抑えることができ、添え糸が皮膚と接触するので着用感、吸汗性が向上するとともに、外面の耐切創性地糸が、作業における外部の鋭利物などによるダメージから内面の添え糸の損傷を防ぎ、手袋の耐久性を高めることができる。前記編み方については、編み立てのし易さなどにより、いずれの方法でも編むことができる。
添え糸としては、手袋のフィット感(締め付け具合、伸び具合)、作業性が得られる点より、伸縮性のあるナイロン繊維、ポリウレタン弾性繊維、弾性繊維とそれ以外の繊維とを流体ジェットにより交絡処理して形成された伸縮性交絡糸等が好ましく用いられる。添え糸の繊度としては、30〜190dtexが好ましく、より好ましくは50〜190dtexである。30dtex以上であれば、手袋に風合いや伸縮性を付与することができ、190dtex以下であれば、手袋の編立て性が著しく悪化することがない。
編地に編成された芯鞘複合糸からなる耐切創性布帛の場合は、密度がウェール方向で15〜30/25.4mm、コース方向で25〜40/25.4mmの編み物に編成されていることが好ましく、より好ましくは、ウェール20〜30/25.4mm、コース30〜40/25.4mmの範囲である。ウェール、コース方向の密度がこの範囲であると、編み目が細かくなり、隙間を減らすことができ、耐切創性能と装着感を付与することができる。
得られた耐切創性布帛は、例えば、作業衣、作業用手袋、作業用腕カバー、作業用指サック等の防護用品の素材として、或いは、アウトドアスポーツ衣、一般スポーツ衣等のスポーツ衣の素材として、或いは、靴、バッグ、カバン等の物品の素材、耐切創性を必要とする産業用資材等として、好適に用いることができる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。各物性などの評価方法は以下の方法によった。
[総繊度]
1)JIS L 1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により求めた。
=1000×m/L×(100+R)/100
(F:正量繊度(tex)、L:試料の長さ(m)、m:試料の絶乾質量(g)、R:JIS L 0105の4.1に規定する公定水分率(%))
[手袋の厚さ]
JIS L 1096:2010 織物及び編物の生地試験方法8.4により手袋の手の平部の厚さを測定した。
[編立て性]
手袋編み機(株式会社島精機製作所)を用いて手袋を10枚編成した後に、目視により手袋の外観状態を確認し、編み目の不具合(目飛び、形崩れ等)が2枚以下のものを合格(○)とし、3枚以上あったものを(×)とした。
[切創抵抗値(切れ難さCut resistance )]
ISO13997「防護服−機械的特性−鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」に準拠し、切創抵抗値を測定した。カット方向は45度方向とした。
[手袋の着用評価(風合い)]
5名の被験者による着用試験を実施した。EN 420:2003 Protective gloves-General requirements and test methodsの5.2によって被験者全員がデクステリティ(Dexterity)にレベル5の性能評価を与え、かつ、官能評価で5名中3名以上が「着用感良好」と評したものを合格(○)、それ以外を不合格(×)とした。
[作業性、吸湿性]
5人のパネラーにより下記の基準で判定し、その平均とした。
A:非常に良い、B:良い、C:普通、D:悪い、E:非常に悪い
(実施例1)
タングステン鋼繊維フィラメント(線径20μm)1本を芯糸とし、鞘糸として、東レ・デュポン(株)製の総繊度220dtex、単糸繊度1.7dtex、引張強さ20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「Kevlar(登録商標)」)を加工した捲縮糸(商品名「SD」))をZ方向にらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(44dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向(S方向)にらせん状に巻き付けた、総繊度327dtexの芯鞘複合糸を得た。この時のカバーリング撚り数は上下とも400回/mとした。
芯鞘複合糸の混率(質量%):
タングステン鋼繊維/Kevlar捲縮糸/ナイロン繊維=18/68/14
なお、上記の捲縮糸は、フィラメント糸条に、仮撚り加工速度:60m/min、仮撚り加工温度(乾熱):500℃、仮撚り数t:1,150回/m、仮撚り加撚方向:S方向、スピンドル回転数:69,000rpmの加工条件にて連続仮撚り加工を行って得たものであり、捲縮糸の強度保持率は40%、撚り係数(K)=7,628である。
得られた芯鞘複合糸を、18ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)にて筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成し、手の平部の厚さ0.50mm、手の平部の密度(ウェール数22.0/25.4mm、コース数32.0/25.4mm)、手の平部の目付153g/mの手袋を編みあげた。
(実施例2)
実施例1で得た芯鞘複合糸と添え糸(78dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り))を、18ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を外面/添え糸を内面に配置した、手の平部の厚さ0.55mm、手の平部の密度(ウェール数21.5/25.4mm、コース数36.0/25.4mm)、手の平部の目付195g/mの手袋を編みあげた。
(実施例3)
実施例1で用いたタングステン鋼繊維フィラメント(線径20μm)1本を芯糸とし、鞘糸として、東レ・デュポン(株)製の総繊度220dtex、単糸繊度1.7dtex、引張強さ20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「Kevlar(登録商標)」)を加工した捲縮糸(商品名「SD」))をZ方向にらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(78dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向(S方向)にらせん状に巻き付け、総繊度361dtexの芯鞘複合糸を得た。この時のカバーリング撚り数は400回/mとした。
得られた芯鞘複合糸を、18ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)にて筒状の編地(ヨコ編み組織)を編成し、表1に示す性量の編物を編みあげた。
(実施例4)
実施例1で得た芯鞘複合糸と伸縮性添え糸を、18ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を外面/添え糸を内面に配置した、表1に示す性量の手袋を編みあげた。
(実施例5)
実施例1で得た芯鞘複合糸を、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、表1に示す性量の手袋を編みあげた。
(実施例6)
実施例1で得た芯鞘複合糸と伸縮性添え糸を、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を外面/添え糸を内面に配置した、表1に示す性量の手袋を編みあげた。
上記の伸縮性添え糸は、繊度22dtex、破断伸度530%のポリウレタン系弾性繊維(東レ・オペロンテックス(株)製、商品名「ライクラ」(登録商標)からなる芯糸に、鞘糸として、78dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り)をらせん状に巻き付けて、以下の加工条件にて、総繊度87dtexの被覆糸とした。
スピンドル回転数:5,000rpm
芯糸のドラフト:2.5倍
鞘糸のカバーリング撚り数:700回
撚り方向:Z方向
撚り係数(K)=2,764
(比較例1)
ステンレス鋼繊維フィラメント(日本精線(株)製、線径40μm、比重7.98)1本を芯糸とし、鞘糸として、東レ・デュポン(株)製の総繊度220dtex、単糸繊度1.7dtex、引張強さ20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「Kevlar(登録商標)」、)を加工した捲縮糸(商品名「SD」)をS方向にらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(78dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向にらせん状に巻き付け、総繊度400dtexの芯鞘複合糸を得た。この時のカバーリング撚り数は400回/mとした。
上記の芯鞘複合糸と添え糸(156dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り))を、15ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を内面/添え糸を外面に配置させた後に手袋の内/外面を逆にして、地糸を外面/添え糸を内面に配置した手袋を編みあげた。
(比較例2)
ステンレス鋼繊維フィラメント(日本精線(株)製、線径50μm、比重7.98)2本を芯糸とし、鞘糸として、東レ・デュポン(株)製の総繊度440dtex、単糸繊度1.7dtex、引張強さ20.3cN/dtex、引張弾性率499cN/dtex、水分率7%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント糸条(「Kevlar(登録商標)」、)の捲縮糸(商品名「SD」)をS方向にらせん状に巻き付けた上に、さらにウーリーナイロン繊維(78dtex)をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維と反対方向にらせん状に巻き付け、総繊度836dtexの芯鞘複合糸を得た。この時のカバーリング撚り数は400回/mとした。
上記の芯鞘複合糸と添え糸(156dtexのナイロン繊維製ウーリー加工糸(加撚方向:Z撚り))を、13ゲージタイプの手袋編み機(株式会社島精機製作所)に供給し、プレーティング編みにて、地糸を内面/添え糸を外面に配置させた後に手袋の内/外面を逆にして、地糸を外面/添え糸を内面に配置した手袋を編みあげた。
実施例及び比較例で得た編物の性量及び評価結果を表1に示す。
Figure 2018178274
表1から明らかなように、本発明に係る耐切創性布帛は、厚みが0.8mm以下でありながら、切創抵抗値が15N以上の高い値を有しており、従来より厚みが非常に薄い超薄手手袋を実現することができた。また、18ゲージ薄手手袋は、編み立て性、風合い、作業性も良好であった。
このように超薄手の耐切創性布帛が得られたことより、産業用途やスポーツ、アウトドア用途だけでなく、一般用途としても使用することもできる。
本発明の耐切創性布帛は、産業用や一般用の衣服、手袋等の素材として有用である。

Claims (6)

  1. 金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、鞘糸として高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む繊維を被覆してなる芯鞘複合糸からなる布帛であって、厚みが0.3〜0.8mm、かつISO13997に準じて測定した耐切創力が15N以上であることを特徴とする耐切創性布帛。
  2. 前記芯糸が、直径が10〜30μmの金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸を含む請求項1記載の耐切創性布帛。
  3. 鞘糸として繊度55〜220dtexの高機能フィラメントの捲縮糸を50質量%以上含む請求項1または2記載の耐切創性布帛。
  4. 高機能フィラメントの捲縮糸がアラミド繊維からなる請求項1〜3いずれかに記載の耐切創性布帛。
  5. 前記芯鞘複合糸が、金属製繊維フィラメントのみからなる芯糸に、高機能フィラメントの捲縮糸と合成繊維がらせん状に巻き付けられた芯鞘複合糸である請求項1〜4いずれかに記載の耐切創性布帛。
  6. 前記芯鞘複合糸からなる布帛が、密度がウェール15〜30/25.4mm、コース25〜40/25.4mmの編み物に編成されている請求項1〜5いずれかに記載の耐切創性布帛。
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