JP2018178238A - 封孔ずみ溶射皮膜およびその形成方法ならびに鋼構造物 - Google Patents
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Abstract
【課題】 鋼構造物等の防食効果を最大限に高められるようにした封孔ずみ溶射皮膜を提供する。
【解決手段】 発明の皮膜は、基材を覆うナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜が、その表面にシロキサン材料を主とする無機封孔剤と、さらにその上層の、共重合樹脂を主とする有機封孔剤との2層構造により封孔処理されていることを特徴とする。
【選択図】 図2
【解決手段】 発明の皮膜は、基材を覆うナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜が、その表面にシロキサン材料を主とする無機封孔剤と、さらにその上層の、共重合樹脂を主とする有機封孔剤との2層構造により封孔処理されていることを特徴とする。
【選択図】 図2
Description
本発明は、溶射によって形成されたナノマイクロ組織アルミニウム合金溶射皮膜またはアモルファス合金溶射皮膜であって封孔処置が施されたもの、およびその形成方法等に関する。
各種の構造物・建築物において耐食性・耐摩耗性を高めるために、素地(基材)の表面に金属合金を溶射してその皮膜を素地上に形成する技術が広く採用されている。たとえば海洋上のスプラッシュゾーンのような激しい腐食環境下の鋼構造物表面に対しては、アルミニウム、アルミニウムマグネシウム合金、亜鉛、またはアルミニウム亜鉛合金等を材質とする溶射皮膜を形成して耐食性を高めている。
既存の溶射皮膜は多孔質構造であり、外部から種々の気体や液体が素地表面にまで拡散浸透して鋼材等の腐食をもたらす可能性があるため、下記の特許文献1〜3に記載のように、溶射皮膜に封孔処理が施されることが多い。封孔処置とは、溶射皮膜の開口気孔に封孔剤を浸透させて気孔を充てんし、皮膜の化学的性質及び物理的性質を改善する処理である(たとえばJIS H 8200を参照)。
しかし溶射に多く用いられるアルミニウム等の両性金属は活性が高いため、樹脂からなる封孔処理剤との付着界面で反応を起すという問題点があった。また気孔を完全に塞いで均一に被覆するためには封孔処理剤を複数回塗布する必要があるが、自身同士の塗り重ね時の付着性にも問題があった。
しかし溶射に多く用いられるアルミニウム等の両性金属は活性が高いため、樹脂からなる封孔処理剤との付着界面で反応を起すという問題点があった。また気孔を完全に塞いで均一に被覆するためには封孔処理剤を複数回塗布する必要があるが、自身同士の塗り重ね時の付着性にも問題があった。
封孔処理を施しても一般の溶射皮膜の耐食性は十分でないとして、近年、耐食性の高い特殊な溶射皮膜が開発されている。すなわちナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜やアモルファス合金の溶射皮膜である。
ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜は、合金材料を急速冷却型溶射ガンで溶射することにより形成される。材料粒子を含む火炎を基材に向けて溶射ガンより噴射し、当該火炎によって粒子を溶融させたうえ、基材に達する前から窒素ガス等にてその粒子を冷却し、過冷却液相状態で基材へ溶射する。それによって、空孔や酸化物の少ない溶射皮膜を形成できる(図1(a)を参照)。形成された皮膜は、たとえば図6のように結晶粒径が10μm以下の微細な組織である(粒径が1μm以下のナノ組織が含まれることもある)こと等から、高い防食性を発揮する。
アモルファス合金の溶射皮膜も、特定の成分に調合した合金を上記と同様の急速冷却型溶射ガンで溶射することにより形成される(図1(b)を参照)。アモルファス合金溶射皮膜は、塩水のみならず塩酸、硫酸、王水にも溶けず非常に高い耐食性がある。
ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜は、合金材料を急速冷却型溶射ガンで溶射することにより形成される。材料粒子を含む火炎を基材に向けて溶射ガンより噴射し、当該火炎によって粒子を溶融させたうえ、基材に達する前から窒素ガス等にてその粒子を冷却し、過冷却液相状態で基材へ溶射する。それによって、空孔や酸化物の少ない溶射皮膜を形成できる(図1(a)を参照)。形成された皮膜は、たとえば図6のように結晶粒径が10μm以下の微細な組織である(粒径が1μm以下のナノ組織が含まれることもある)こと等から、高い防食性を発揮する。
アモルファス合金の溶射皮膜も、特定の成分に調合した合金を上記と同様の急速冷却型溶射ガンで溶射することにより形成される(図1(b)を参照)。アモルファス合金溶射皮膜は、塩水のみならず塩酸、硫酸、王水にも溶けず非常に高い耐食性がある。
ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜によって鋼構造物の防食効果を得ることに関しても、下記のような課題がある。ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金等の溶射皮膜においては、それら以外の通常の溶射皮膜におけるよりも気孔が少なく、かつ微細である(直径で数nm〜十μm程度であり、直径100nm以下のものを含む)。気孔が微細であると、通常の溶射皮膜に使用される一般の封孔剤は、ケイ素系材料のものを含め気孔中には浸透しがたく、したがって封孔効果を発揮し得ないのである。なお、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜において気孔が少なく微細になる理由は、溶射の際に窒素ガス等で冷却するために溶射粒子が微細化することや、粒子の積層の際に過冷却液相状態の皮膜中にガスが消失することによると考えられる。
従来から広く知られかつ実用されている一般的な封孔処理方法として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ブラチノール樹脂等の合成樹脂を有機溶剤に溶解させた封孔処理剤を溶射皮膜に塗布する方法がある。しかし上記有機封孔剤は、前記のとおり両性金属と反応を起こす場合があるほか、溶射物に生じる小さな孔径の気孔の対しては、その内部まで浸透できず、表面を被覆するのみとなる場合がある。この場合は剥がれが生じやすく封孔効果は十分でなかった。
高固形分を有し、かつ溶射物に生じる小さい孔径の気孔の内部まで浸透しやすく、浸透後に硬化して封孔効果を発現する無機封孔剤が開発されている。しかしながら内部まで浸透するものの、溶射物の表面を厚膜に封孔しようとすると、クラックが発生し封孔効果を減ずることがあった。
また粘度の異なる有機封孔剤を各々1回ずつ塗布して封孔する方法が公開されている。しかし粘度の低い有機封孔剤は、小さな孔径の気孔へ浸透するも、溶射物に一貫孔等があると溶射物を通り抜けてしまい封孔効果はなかった。
本発明は、上記の課題を解決するものであり、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜であって、適切な封孔処理を施すことによって鋼構造物等の防食効果を最大限に高められるようにした封孔ずみ溶射皮膜、およびそのような皮膜の形成方法等を提供するものである。
発明による封孔ずみ溶射皮膜は、基材を覆うナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜またはアモルファス合金の溶射皮膜の表面が、シロキサンを主とする無機封孔剤を下地層とし、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を上層とする2層にて封孔処理されていることを特徴とする。
下地としてシロキサンからなる無機封孔剤を上記金属溶射皮膜に塗布またはスプレーするため、付着界面で金属溶射皮膜と反応を起すことを防止できる。さらに、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を塗布またはスプレーして2層に封孔処理することで、気孔を完全に塞いで上記金属溶射皮膜を均一に被覆することができ、従来のように同種の封孔剤を複数回塗布する必要がない。上記のとおり2層に封孔処理することによって、従来のように有機封孔剤のみを塗布して剥離したり、無機封孔剤のみを塗布してクラックが発生したりするのを防止できる。また例え溶射物に一貫孔等があっても、無機封孔剤は浸透後硬化するため、溶射物を通り抜けてしまう事がない。
下地としてシロキサンからなる無機封孔剤を上記金属溶射皮膜に塗布またはスプレーするため、付着界面で金属溶射皮膜と反応を起すことを防止できる。さらに、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を塗布またはスプレーして2層に封孔処理することで、気孔を完全に塞いで上記金属溶射皮膜を均一に被覆することができ、従来のように同種の封孔剤を複数回塗布する必要がない。上記のとおり2層に封孔処理することによって、従来のように有機封孔剤のみを塗布して剥離したり、無機封孔剤のみを塗布してクラックが発生したりするのを防止できる。また例え溶射物に一貫孔等があっても、無機封孔剤は浸透後硬化するため、溶射物を通り抜けてしまう事がない。
なお、上記において、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜とは、Alを含有し、またはさらにMgを0.3〜15質量%含有する(もしくは80質量%以上のAlとともにMg、Si、Mn、Ti、Cuを含有する)耐食性合金皮膜であって、結晶粒径が10μm以下の組織(ミクロ組織またはナノ組織)をなすものをいう。アモルファス合金の溶射皮膜とは、Fe系やNi系等の合金であって非晶質を含むものをいう。ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜もアモルファス合金の溶射皮膜も、急速冷却型溶射ガンを用いて前述のとおり基材上に形成することができる。
急速冷却型溶射ガンは、溶融した材料粒子を含む火炎を基材に向けて噴射し、当該噴射経路の上流側領域では火炎と外気とを隔てる機能を有するとともに、下流側領域では上記材料粒子および火炎を基材に達する前から噴流ガスまたは噴流ミストによって強制冷却する機能を有する装置である。こうした溶射ガンによって、材料粒子の酸化が抑制されるとともにその結晶粒径が小さくされた、気孔が少なくて防食性能の高い耐食性溶射皮膜を基材表面上に形成することができる。
急速冷却型溶射ガンは、溶融した材料粒子を含む火炎を基材に向けて噴射し、当該噴射経路の上流側領域では火炎と外気とを隔てる機能を有するとともに、下流側領域では上記材料粒子および火炎を基材に達する前から噴流ガスまたは噴流ミストによって強制冷却する機能を有する装置である。こうした溶射ガンによって、材料粒子の酸化が抑制されるとともにその結晶粒径が小さくされた、気孔が少なくて防食性能の高い耐食性溶射皮膜を基材表面上に形成することができる。
シロキサンを主とする無機封孔剤(A)と共重合樹脂を主とする有機封孔剤(B)は、つぎのような特性を有している。
A) シロキサンすなわち金属を主体とする無機封孔剤は、固形分が少なく体積収縮率が小さいため、クラックを発生させにくく、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜における微細な気孔中に浸透し充填される。
B) 共重合樹脂を主体とする有機封孔剤は、気孔の中に入った無機封孔剤の上に覆い被さることで、より強固な封孔効果をもたらす。
以上の点から、発明の封孔ずみ溶射皮膜によれば、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜やアモルファス合金の溶射皮膜がそれ自身で高い耐食性を有することに加え、それら溶射皮膜が有する少数かつ微細な気孔を、無機封孔剤と有機封孔剤の2層構造により適切に封孔して長期間その状態を維持する。そのため、溶射皮膜と2層の封孔剤との相乗的な作用により、基材(素地)である鋼材等の腐食を効果的に防止することができる。
A) シロキサンすなわち金属を主体とする無機封孔剤は、固形分が少なく体積収縮率が小さいため、クラックを発生させにくく、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜における微細な気孔中に浸透し充填される。
B) 共重合樹脂を主体とする有機封孔剤は、気孔の中に入った無機封孔剤の上に覆い被さることで、より強固な封孔効果をもたらす。
以上の点から、発明の封孔ずみ溶射皮膜によれば、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜やアモルファス合金の溶射皮膜がそれ自身で高い耐食性を有することに加え、それら溶射皮膜が有する少数かつ微細な気孔を、無機封孔剤と有機封孔剤の2層構造により適切に封孔して長期間その状態を維持する。そのため、溶射皮膜と2層の封孔剤との相乗的な作用により、基材(素地)である鋼材等の腐食を効果的に防止することができる。
封孔剤の使用法としては、適用対象に応じて、常套の塗布法(例えば、スプレーガンを用いる吹き付け法、刷毛塗り法、浸漬法等)から適宜選定すればよい。
さらに、該封孔処理剤には、前述の目的を阻害しない範囲内において、その他の添加剤(例えば、ナフテン酸コバルトやナフテン酸鉛等のドライヤー、染料、沈降防止剤、皮張り防止剤、可塑剤および紫外線劣化防止剤等)を適宜配合してもよい。
さらに、該封孔処理剤には、前述の目的を阻害しない範囲内において、その他の添加剤(例えば、ナフテン酸コバルトやナフテン酸鉛等のドライヤー、染料、沈降防止剤、皮張り防止剤、可塑剤および紫外線劣化防止剤等)を適宜配合してもよい。
紫外線により有機封孔剤が劣化しても下地であるシロキサン無機封孔剤が紫外線に耐久性があるため、ナノマイクロ組織アルミニウム合金皮膜やアモルファス合金皮膜の耐食性を保持することができる。しかし、上記の添加剤を適宜に配合すると、封孔剤の劣化を抑制することができるためさらに好ましい。
上記溶射皮膜の気孔率が1.0%以下であると好ましい。上記の封孔剤は、前述のとおり気孔内へ浸透し長期間の封孔効果を発揮する。しかし、本発明においては溶射皮膜自体が優れた耐食性を有することから、基材である鋼材等の腐食防止のためには気孔の数や割合が少ないほど有利である。上記のとおり溶射皮膜の気孔率が1.0%以下であると、基材の腐食がとくに効果的に長期間防止されるといえる。
本発明によって、発明の封孔ずみ溶射皮膜が形成された鋼材等について腐食を防止できる期間が100年以上であるとよい。腐食防止の期間が100年以上となることは、たとえば封孔剤や溶射皮膜の年間(または月間)消耗速度等から算定する。腐食が厳しい橋梁や海岸構造物などインフラストラクチャーについてこのようにいわゆる百年防食が実現することは、少子高齢化の進む日本においてきわめて有益である。なお、基材とする鋼材について百年防食を実現するためには、鋼材上に厚さ100μm以上となるように上記ナノマイクロ組織アルミニウム合金またはアモルファス合金の溶射皮膜を形成し、その溶射皮膜の上に、上記無機封孔剤および上記有機封孔剤をこの順にそれぞれ厚さ20〜30μm程度に積層するとよい。有機封孔剤は、不揮発分が60wt%以下のものを使用するのがとくに好ましい。
発明の封孔ずみ溶射皮膜およびその形成方法等によれば、溶射皮膜と封孔剤との双方の作用によって、基材(素地)である鋼材等の腐食を効果的に防止することができる。ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜がそれ自身で高い耐食性を有するとともに、それら溶射皮膜が有する少数かつ微細な気孔を、上記2層の封孔剤が適切に封孔し、しかも長期間安定的にその状態を維持するからである。
図1に溶射皮膜のサンプルについて、図2に発明による封孔ずみ溶射皮膜のサンプルについて、断面の顕微鏡組織写真を示す。これらの写真の中央部付近から下は基材である鋼材で、その上部が溶射皮膜である。図2では最上部が封孔剤(処理剤)の層である。溶射皮膜と封孔剤皮膜とは、つぎの要領で形成したものである。すなわち、
1) 基材とする鋼板をショットブラストしたうえ、
2) 上記鋼板の表面に、前述した急速冷却型溶射ガンを用いてナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金(ナノマイクロ組織アルミニウム合金であって、Alを主とし、さらにMgを0.3〜15質量%含有するもの)を200μm厚さに溶射し、
3) 形成された溶射皮膜が常温に戻ったのち、その表面に、シロキサン材料を主とし溶剤と触媒とを含む無機封孔剤と、共重合樹脂(クマロンインデン樹脂)を主とし溶剤を含む有機封孔剤を、この順に合計2層塗布した。
1) 基材とする鋼板をショットブラストしたうえ、
2) 上記鋼板の表面に、前述した急速冷却型溶射ガンを用いてナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金(ナノマイクロ組織アルミニウム合金であって、Alを主とし、さらにMgを0.3〜15質量%含有するもの)を200μm厚さに溶射し、
3) 形成された溶射皮膜が常温に戻ったのち、その表面に、シロキサン材料を主とし溶剤と触媒とを含む無機封孔剤と、共重合樹脂(クマロンインデン樹脂)を主とし溶剤を含む有機封孔剤を、この順に合計2層塗布した。
図1と図2では、溶射皮膜に気孔が少ない(気孔率が1%以下である)こと、図2では、表面にある凹凸の最奥部にまで上記封孔剤が浸透していることが確認される。表面から鋼材に達する一貫孔の存在(図3のイメージを参照)は図1・図2では確認することができないが、図2における凹凸への浸透状態から、かなり微細な一貫孔にも封孔剤が浸透し充填されているものと考えられる。
発明者らは、上記開発した2層の封孔処理を施した溶射皮膜について、比較材とともに相互浸漬試験(腐食試験および電気化学試験)を行った。相互浸漬試験方法は重金属を添加しない合成擬似海水を使うものである。
試験材は、50mm幅×50mm長×5mm厚の炭素鋼を基材とし、端面を含め表裏の全面上にナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金の溶射皮膜を形成したものである。なお、試料準備として試料端面中心部の皮膜を3mm×10mm機械研削して基材を剥き出しにした。
試験材への封孔に関しては、下記の3水準に区分した。すなわち、
比較例1: 封孔剤なし(封孔せず)。
比較例2: 前記の無機封孔剤のみを厚さ50μmだけ塗布。
実施例: 前記の無機封孔剤を厚さ20μmだけ塗布したのち、さらに前記の有機封孔剤を厚さ30μmだけ塗布して、上記のとおり2層構造の封孔処理を実施。
続いて、正確に電気化学試験を行うため試料端面にM3穴(直径3.2mm)を開けた。電気化学試験は、10分浸漬・50分大気乾燥を繰り返すものである。海水浸漬中に電気化学測定を実施した。電気化学試験の電圧は−15mVから+15mVで、ターフェル定数から腐食速度を計算した。試験温度は35度、試験期間は3ヶ月(90日)である。
試験材は、50mm幅×50mm長×5mm厚の炭素鋼を基材とし、端面を含め表裏の全面上にナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金の溶射皮膜を形成したものである。なお、試料準備として試料端面中心部の皮膜を3mm×10mm機械研削して基材を剥き出しにした。
試験材への封孔に関しては、下記の3水準に区分した。すなわち、
比較例1: 封孔剤なし(封孔せず)。
比較例2: 前記の無機封孔剤のみを厚さ50μmだけ塗布。
実施例: 前記の無機封孔剤を厚さ20μmだけ塗布したのち、さらに前記の有機封孔剤を厚さ30μmだけ塗布して、上記のとおり2層構造の封孔処理を実施。
続いて、正確に電気化学試験を行うため試料端面にM3穴(直径3.2mm)を開けた。電気化学試験は、10分浸漬・50分大気乾燥を繰り返すものである。海水浸漬中に電気化学測定を実施した。電気化学試験の電圧は−15mVから+15mVで、ターフェル定数から腐食速度を計算した。試験温度は35度、試験期間は3ヶ月(90日)である。
図4(a)・(b)・(c)のそれぞれに、上記の比較例1・比較例2・実施例について相互浸漬試験による腐食電流を線形分極抵抗法から換算した腐食速度(溶損速度)を示している。実施例において、ナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金溶射皮膜の腐食速度は年間0.002m以下となった。
図5は、基材(炭素鋼)上に鉄系のアモルファス合金溶射皮膜を形成したうえ、無機封孔剤20μmと有機封孔剤30μmの2層構造で封孔したものについて、相互浸漬試験による腐食電流を線形分極抵抗法から換算した腐食速度である。この場合、アモルファス合金溶射皮膜の腐食速度は年間0.001m以下である。
なお、図6は後方散乱電子回折によるナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金溶射皮膜の画像である。結晶粒径が10μm以下であることがわかる。
図5は、基材(炭素鋼)上に鉄系のアモルファス合金溶射皮膜を形成したうえ、無機封孔剤20μmと有機封孔剤30μmの2層構造で封孔したものについて、相互浸漬試験による腐食電流を線形分極抵抗法から換算した腐食速度である。この場合、アモルファス合金溶射皮膜の腐食速度は年間0.001m以下である。
なお、図6は後方散乱電子回折によるナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム合金溶射皮膜の画像である。結晶粒径が10μm以下であることがわかる。
相互浸漬試験の結果から、ナノマイクロ組織アルミニウムマグネシウム溶射皮膜は膜厚200μm以上あれば100年防食可能である。アモルファス合金溶射皮膜は膜厚100μm以上あれば100年防食可能である。
既存の溶射皮膜は多孔質構造であり、外部から種々の気体や液体が素地表面にまで拡散浸透して鋼材等の腐食をもたらす可能性があるため、下記の特許文献1〜3に記載のように、溶射皮膜に封孔処理が施されることが多い。封孔処置とは、溶射皮膜の開口気孔に封孔剤を浸透させて気孔を充てんし、皮膜の化学的性質及び物理的性質を改善する処理である(たとえばJIS H 8200を参照)。
気孔を完全に塞いで均一に被覆するためには封孔処理剤を複数回塗布する必要があるが、自身同士の塗り重ね時の付着性にも問題があった。
気孔を完全に塞いで均一に被覆するためには封孔処理剤を複数回塗布する必要があるが、自身同士の塗り重ね時の付着性にも問題があった。
従来から広く知られかつ実用されている一般的な封孔処理方法として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ブラチノール樹脂等の合成樹脂を有機溶剤に溶解させた封孔処理剤を溶射皮膜に塗布する方法がある。しかし、溶射物に生じる小さな孔径の気孔に対しては、その内部まで浸透できず、表面を被覆するのみとなる場合がある。この場合は剥がれが生じやすく封孔効果は十分でなかった。
また粘度の異なる有機封孔剤を各々1回ずつ塗布して封孔する方法が公開されている。しかし有機封孔剤は、粘度を下げるために希釈する必要があり、有効成分濃度が低いために、封孔効果が得られにくかった。
発明による封孔ずみ溶射皮膜は、基材を覆うナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜またはアモルファス合金の溶射皮膜の表面が、シロキサンを主とする無機封孔剤を下地層とし、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を上層とする2層にて封孔処理されていることを特徴とする。
下地としてシロキサンからなる無機封孔剤を上記金属溶射皮膜に塗布またはスプレーするため、気孔を効率的に封止できる。さらに、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を塗布またはスプレーして2層に封孔処理することで、気孔を完全に塞いで上記金属溶射皮膜を均一に被覆することができ、従来のように同種の封孔剤を複数回塗布する必要がない。上記のとおり2層に封孔処理することによって、従来のように有機封孔剤のみを塗布して剥離したり、無機封孔剤のみを塗布してクラックが発生したりするのを防止できる。
下地としてシロキサンからなる無機封孔剤を上記金属溶射皮膜に塗布またはスプレーするため、気孔を効率的に封止できる。さらに、共重合樹脂を主とする有機封孔剤を塗布またはスプレーして2層に封孔処理することで、気孔を完全に塞いで上記金属溶射皮膜を均一に被覆することができ、従来のように同種の封孔剤を複数回塗布する必要がない。上記のとおり2層に封孔処理することによって、従来のように有機封孔剤のみを塗布して剥離したり、無機封孔剤のみを塗布してクラックが発生したりするのを防止できる。
シロキサンを主とする無機封孔剤(A)と共重合樹脂を主とする有機封孔剤(B)は、つぎのような特性を有している。
A) シロキサンすなわち金属を主体とする無機封孔剤は、固形分が多く、浸透性が高いため、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜における微細な気孔中に浸透し充填される。
B) 共重合樹脂を主体とする有機封孔剤は、気孔の中に入った無機封孔剤の上に覆い被さることで、より強固な封孔効果をもたらす。
以上の点から、発明の封孔ずみ溶射皮膜によれば、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜やアモルファス合金の溶射皮膜がそれ自身で高い耐食性を有することに加え、それら溶射皮膜が有する少数かつ微細な気孔を、無機封孔剤と有機封孔剤の2層構造により適切に封孔して長期間その状態を維持する。そのため、溶射皮膜と2層の封孔剤との相乗的な作用により、基材(素地)である鋼材等の腐食を効果的に防止することができる。
A) シロキサンすなわち金属を主体とする無機封孔剤は、固形分が多く、浸透性が高いため、ナノマイクロ組織アルミニウム合金やアモルファス合金の溶射皮膜における微細な気孔中に浸透し充填される。
B) 共重合樹脂を主体とする有機封孔剤は、気孔の中に入った無機封孔剤の上に覆い被さることで、より強固な封孔効果をもたらす。
以上の点から、発明の封孔ずみ溶射皮膜によれば、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜やアモルファス合金の溶射皮膜がそれ自身で高い耐食性を有することに加え、それら溶射皮膜が有する少数かつ微細な気孔を、無機封孔剤と有機封孔剤の2層構造により適切に封孔して長期間その状態を維持する。そのため、溶射皮膜と2層の封孔剤との相乗的な作用により、基材(素地)である鋼材等の腐食を効果的に防止することができる。
Claims (8)
- 基材を覆うナノマイクロ組織アルミニウム合金溶射皮膜またはアモルファス合金溶射皮膜の表面が、シロキサン材料を主とする無機封孔剤と、さらにその上層の、共重合樹脂を主とする有機封孔剤とによって封孔されていることを特徴とする封孔ずみ溶射皮膜。
- 上記溶射皮膜は、気孔率が1.0%以下であり、直径が100nm以下の気孔を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の封孔ずみ溶射皮膜。
- 上記有機封孔剤は、クマロンインデン樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の封孔ずみ溶射皮膜。
- 上記溶射皮膜の厚さが100μm以上であり、上記無機封孔剤の厚さおよび上記有機封孔剤の厚さがそれぞれ20〜30μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の封孔ずみ溶射皮膜。
- 上記基材について腐食を防止できる期間が100年以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の封孔ずみ溶射皮膜。
- 材料粒子を含む火炎を溶射ガンより基材に向けて噴射し、当該火炎によって粒子を溶融させたうえ、基材に達する前から窒素ガスまたはミストにて粒子を冷却することにより、ナノマイクロ組織アルミニウム合金の溶射皮膜またはアモルファス合金の溶射皮膜を形成し、
形成した上記溶射皮膜の表面に、シロキサン材料を主とする無機封孔剤と、共重合樹脂を主とする有機封孔剤とを、この順に塗布またはスプレーすることにより封孔処理を施すことを特徴とする封孔ずみ溶射皮膜の形成方法。 - 上記の無機封孔剤と有機封孔剤とを、それぞれ1回ずつ塗布またはスプレーすることにより封孔処理を施すことを特徴とする請求項6に記載した封孔ずみ溶射皮膜の形成方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の封孔ずみ溶射皮膜を表面に有することを特徴とする鋼構造物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2017084820A JP2018178238A (ja) | 2017-04-21 | 2017-04-21 | 封孔ずみ溶射皮膜およびその形成方法ならびに鋼構造物 |
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JP7450733B2 (ja) | 2020-01-17 | 2024-03-15 | コーロン インダストリーズ インク | パイプ及びその製造方法 |
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CN115141999A (zh) * | 2021-09-08 | 2022-10-04 | 武汉苏泊尔炊具有限公司 | 涂层及包括涂层的炊具 |
CN115141999B (zh) * | 2021-09-08 | 2023-09-19 | 武汉苏泊尔炊具有限公司 | 涂层及包括涂层的炊具 |
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