以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において同様の部材または部分には、符号に「100」又は「200」のいずれかを加えた符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態の接合構造体100を示しており、(a)は斜視図、(b)は(a)中のA−A線に沿う断面図である。この図に示すように、本実施形態の接合構造体100は、開口部Oを有する光吸収性部材102と、該開口部Oを覆うように光吸収性部材102に重ねられ、開口部Oを囲繞する環状の溶着部104を介して該光吸収性部材102に接合された光透過性部材106とを備えている。なお、「環状」とは、輪のような円い形だけを意味するのではなく、連続的に閉じた形状(無端形状)を意味する。よって、「環状」には、円形や楕円形だけではなく、矩形、多角形、その他の閉鎖形状が含まれる。溶着部104は、光透過性部材106と光吸収性部材102の境界面F上に形成されており、後で詳細に説明するが、このような溶着部104は、光透過性部材106側から光吸収性部材102へ向けてレーザ光を照射し、光吸収性部材102をまず発熱させて溶融し、その熱で光透過性部材106をも溶融させ、その後溶融部を固化させることで形成することができる。
光吸収性部材102は、レーザ光に対する吸収率が光透過性部材106の同レーザ光に対する吸収率よりも高い部材であり、主として熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなり、射出成形等により形成することができる。具体的には、波長193〜10600nmの範囲内に発振波長の中心を有するレーザ光から選択されたレーザ光に対して10%以上の吸収率を有するものが好ましい。レーザとしては、例えば、炭酸ガスレーザ(波長約10600nm)、Nd:YAGレーザ(波長約1064nm)、Nd:YVO4レーザの第2次高調波であるグリーンレーザ(波長約532nm)、ダイオードレーザ(波長約800nm,840nm,または950nm)、エキシマレーザ(波長約193nm)等が挙げられる。光吸収性部材102の吸収率を調整するため、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーにカーボンブラック等の黒色着色剤や顔料、染料等を混練することができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルファイド、液晶ポリマー等が挙られる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、PVC系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。熱可塑性樹脂には、強化材としてガラスファイバやミネラル等を混練してもよい。
図示例において光吸収性部材102は主として、開口部Oを区画する周壁108と、周壁108の下端部を閉塞する底壁110とからなる。周壁108の横断面形状は略矩形であるが、これに限らず、円形、楕円形、台形、多角形、ひょうたん形状等如何なる形状としてもよい。周壁108には、後述するように開口部Oに繋がり該開口部O内を減圧状態とするのに適した吸引開口112が形成されている。吸引開口112は、底壁110に形成してもよい。あるいは、底壁110を設けずに周壁109の下端を開放し、該下端開口を吸引開口112として用いてもよい。
光透過性部材106はレーザ光に対する吸収率が同レーザ光に対する光吸収性部材102の吸収率よりも低い部材であり、主として熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなり、射出成形等により形成することができる。具体的には、波長193〜10600nmの範囲内に発振波長の中心を有するレーザ光から選択されたレーザ光に対して、光吸収性部材102の吸収率よりも低い吸収率を有するものが好ましい。
光透過性部材106を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルファイド、液晶ポリマー等が挙られる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、PVC系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。なお、熱可塑性樹脂には、強化材としてガラスファイバやミネラル等を混練させてもよい。熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーには、光吸収性部材の吸収率よりも低い吸収率を得られる限り、例えば、白色顔料や黄色、緑色、赤色等の有彩色着色剤を混練してもよい。
光透過性部材106は、環状の溶着部104が形成される前の状態で開口部O内が減圧状態とされた場合に変形して、その周縁部が光吸収性部材102の周壁108の上端面に密着する薄板状に形成されている。これにより、光透過性部材106を光吸収性部材102に重ね合わせた際に、光吸収性部材102の周壁108の上端面と光透過性部材106との間に隙間が生じている場合でも、吸引開口112を通じて開口部O内を減圧した際に光透過性部材106を光吸収性部材102の周壁108の上端面に密着させることができるため、真空漏れを防止し光透過性部材106及び光吸収性部材102の相互間で優れた吸引密着性を得ることができる。
これをより確実にするため、光透過性部材106は、環状の溶着部104が形成される前の状態で開口部O内がゲージ圧で−80kPa以上−20kPa以下に減圧された場合に変形して、光吸収性部材102に密着する易変形性を発揮する厚みに形成されていることが好ましい。具体的には、十分な変形による密着性を確保するため、光透過性部材106の厚みは、0.005mm〜0.2mmとすることが好ましく、成形性を考慮すると0.01mm〜0.1mmとすることがより好ましい。
光透過性部材106は、環状の溶着部104が形成される前の状態で開口部O内がゲージ圧で−80kPa以上−20kPa以下に減圧された場合に変形して、光吸収性部材102に密着するよう引張弾性係数(ヤング率)を0.01〜18GPaの範囲内の材料を選定又は調整するのが好ましい。光透過性部材106の引張弾性係数(ヤング率)を18GPaよりも大きくした場合には、開口部O内を減圧したときに変形し易くするために極めて薄く形成する必要があり、設計どおりに成形することが難しくなり、例えば、射出成形により光透過性部材106を形成する場合には、薄い部分に樹脂が流れず成形不良の原因となる。一方、光透過性部材106の引張弾性係数(ヤング率)が0.01GPaを下回ると、材料自体の剛性が低くなるため、自身の形状を保持することが難しくなり、目的の位置に目的の形状で位置決めすることが難しくなる。光透過性部材106の易変形性、成形性、位置決め性をより高次元でバランスさせるため、光透過性部材106の材料は、引張弾性係数(ヤング率)が6〜10GPaの範囲内となるよう選定又は調整することがより好ましい。この引張弾性係数(ヤング率)は、JIS K7161の規定に準拠し、JIS K7162に記載の試験片を引張試験機に装着し応力とひずみ(変形量)から応力―ひずみ曲線を作図し、その傾きから求めることができる。この際、応力―ひずみ曲線が直線状にならず傾きを求め難い場合には、ヤング率の代替係数としてセカント係数(応力―ひずみ曲線上の点と原点とを結ぶ直線の傾き)などを用いることができる。
また、本実施形態の接合構造体100では、図1(a)に示すように、環状の溶着部104に隣接した位置に、光吸収性部材102と光透過性部材106とを接合する点状の溶着部114が設けられている。これにより、光吸収性部材102及び光透過性部材106同士の接合強度はより一層高められている。
点状の溶着部114は、環状の溶着部104と同様、レーザ光を光透過性部材106側から光吸収性部材102へ向けて照射することにより形成することができる。点状の溶着部114は、光透過性部材106が略矩形の場合にはコーナー部に隣接して形成することが好ましく、これによれば、点状の溶着部114が、環状の溶着部104を形成する際の光透過性部材106の熱変形による反りを効果的に抑制して、開口部O内の減圧時に、薄板状の光透過性部材106の易変形による密着効果と相俟って、光透過性部材106及び光吸収性部材102同士のより一層優れた吸引密着性を得ることができる。
そして、本実施形態の接合構造体100では、図1(b)中の拡大図で示すように、環状の溶着部104の延在方向に対する垂直断面でみて、溶着部104の光透過性部材106側の部分(当該図において境界面Fよりも上の部分であり、以下「第1部分」ともいう。)の面積S1に対する、光吸収性部材102側の部分(当該図において境界面Fよりも下の部分であり、以下、「第2部分」ともいう。)の面積S2の比は、12〜35の範囲内としている。当該比が12未満の場合には、光透過性部材106を光吸収性部材102から引き剥がすような力が加わった際に環状の溶着部104の境界を起点とした剥離(界面剥離)や溶着部104の光吸収性部材102側の部分の少なくとも一部が光透過性部材106に一体化した状態での剥離が発生する虞がある。また、この種の剥離は工業生産において非破壊で検査することは困難である。面積S1に対する面積S2の比率が12以上では、溶着部104に剥離は生じ難く、光透過性部材106を光吸収性部材102から引き剥がすような力が加わった場合には、光透過性部材106又は光吸収性部材102自体が破壊する「部材破壊」となるため、溶着強度を設計(設定)するにあたり、部材102,106の強さを管理すればよく、安定して生産することができる。一方、上記比率が35を超えると光吸収性部材102の深くまでレーザ光を届かせるために、パワーを上げるかあるいは照射時間を長くする必要があるため、光透過性部材106への熱影響(隆起や気泡、表面上の溶け、焼けに伴う炭化や変色の発生)や光吸収性部材102への熱影響(焼けに伴う炭化、気泡の発生)が顕在化する虞がある。これらの熱影響の回避と溶着部104における剥離の抑制、防止をより高次元で実現するためには、面積S1に対する面積S2の比率は19〜26の範囲内とすることがより好ましい。
このように溶着部104の光透過性部材側部分の面積S1に対する、光吸収性部材側部分の面積S2の比を上記範囲内とすることで、接合強度を確保しつつ、環状の溶着部104の形成に伴う光透過性部材106への熱影響を小さくし光透過性部材106の熱歪みを抑制することができるため、開口部O内の減圧時に光透過性部材106及び光吸収性部材102同士の優れた吸引密着性を得ることができる。
なお、上記比率下の面積S1,S2を有する溶着部104は、図8を参照して後述する接合構造体の製造方法により形成することができる。また、面積S1及びS2を算出するにあたり、溶着部104の範囲(境界)は、接合構造体100を溶着部104の延在方向に対する直交方向にカットして試験片を作成し、その断面を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察することや、X線CTを用いた断層画像を確認することで判断することができる。
ところで、光透過性部材106を射出成形により製造する場合、ゲートの位置や溶融樹脂の流れ方、金型から取り出した後の冷却不均一等を起因として、光透過性部材106に下面側へ凸となる反り又は上面側へ凸となる反りが発生することがある。下面側へ凸となる反りは、光透過性部材106を光吸収性部材102に重ね合わせた際に光透過性部材106の周縁部と光吸収性部材102の周壁108の上端面との間に隙間を生じさせることになるため好ましくない。そこで、本実施形態では、光透過性部材106の下面(光吸収性部材102側の面)に板厚を減じた凹部116を環状の溶着部104の内側領域の50%以上に亘って形成し、これにより反りの方向を上面側へ凸となる方向に誘導している。凹部116の形成領域が、環状の溶着部104の内側領域の50%未満の場合には、反りの原因である樹脂材料の収縮に関して、光透過性部材106全体の反りを誘導するほどの十分な力を得ることができない虞がある。また、反りの量が過大となるのを防ぐため、凹部116の深さは板厚の50%以下とすることが好ましい。凹部116の深さが板厚の50%を超える場合には、反りの原因である樹脂材料の収縮に関して、光透過性部材106の剛性が低下してねじれが発生するため、吸引密着させる際に光透過性部材106及び光吸収性部材102間に隙間が生じて密着が不十分な状態となり、位置ずれや溶着不具合(熱が伝わらないことによる過度な温度上昇や未溶融)が発生する虞がある。
図2を参照し、本発明に従う他の実施形態の接合構造体200について説明する。この実施形態の接合構造体200は、光吸収性部材202に複数の開口部Oが形成されている点で先の実施形態の接合構造体100とは異なる。
具体的には、光吸収性部材202は、周壁208の上端部に繋がる天壁218を有し、該天壁218には同一方向へ延在する複数のスリット220が穿設されて開口部Oが区画されている。天壁218は、光透過性部材206の上面に外部から衝撃や荷重が加わった場合において光透過性部材206の撓み変形を規制するため、光透過性部材206や溶着部204,214が破損されるのを防ぐことができる。さらに天壁218は梁のように作用するため、光吸収性部材202の周壁208を補強することができる。
また、光透過性部材206の凹部216は、上述のように光透過性部材206の反りの方向及び量を制御する効果をもたらすが、これに加えて、光透過性部材206と天壁218の間に隙間を維持し、開口部Oを減圧した際に光透過性部材206が天壁218に接触して陰圧の受圧面積が減少するのを防止することができる。陰圧の受圧面積が減少すると、光透過性部材206を真空圧で十分に変形させることができなくなり、光透過性部材206及び光吸収性部材202間の吸引密着性が損なわれる虞がある。これを防止する観点においても、光透過性部材206に形成する凹部216の形成領域は、環状の溶着部104の内側領域の50%以上とすることが好ましい。
本実施形態の接合構造体200においても、先の実施形態の接合構造体100と同様、環状の溶着部204は、その延在方向に対する垂直断面でみて、光透過性部材206側の部分の面積S1に対する光吸収性部材202側の部分の面積S2の比が12〜35の範囲内にあり、19〜26の範囲内にあることがより好ましい。
図3を参照し、本発明に従う他の実施形態の接合構造体300について説明する。この実施形態の接合構造体300は、光透過性部材306の、環状の溶着部304よりも外側位置に、環状の溶着部304が形成される前の状態で開口部O内が減圧状態とされた場合に変形して光吸収性部材302の周壁308の上端面に密着する薄肉片324を設けた点で先の実施形態の接合構造体100,200とは異なる。これにより、光透過性部材306を光吸収性部材302に重ね合わせた際に、光吸収性部材302の周壁308の上端面と光透過性部材306との間に隙間が生じている場合でも、吸引開口312を通じて開口部O内を減圧した際に光透過性部材306の薄肉片324を光吸収性部材302の周壁308の上端面に引き寄せて密着させることができるため、空気漏れによる真空破壊を防止し光透過性部材306及び光吸収性部材302同士で優れた吸引密着性を得ることができる。
これをより確実にするため、薄肉片324は、環状の溶着部304が形成される前の状態で開口部O内がゲージ圧で−80kPa以上−20kPa以下に減圧された場合に変形して、光吸収性部材302に密着する易変形性を発揮する厚みに形成されていることが好ましい。具体的には、十分な変形による密着性を確保するため、薄肉片の厚みは、0.005mm〜0.2mmとすることが好ましく、成形性を考慮すると0.01mm〜0.1mmとすることがより好ましい。
図3に示す例では、薄肉片324は、光透過性部材306の周縁部下端から光吸収性部材302の周壁308の上端面に沿うように水平に形成されているが、これに限らず、図4(a)に示すように周壁308の外周面に沿うように光透過性部材306の周縁部下端から垂下させてもよく、あるいは図4(b)に示すように、光吸収性部材302の周壁308の上端面に環状溝326を形成するとともに、光透過性部材306の下面から薄肉片324を垂下させ環状溝326内に挿入するようにしてもよい。
本実施形態の接合構造体300においても、先の実施形態の接合構造体100,200と同様、環状の溶着部304は、その延在方向に対する垂直断面でみて、光透過性部材306側の部分の面積S1に対する光吸収性部材302側の部分の面積S2の比が12〜35の範囲内にあり、19〜26の範囲内にあることがより好ましい。
次に、図5〜図9を参照して、本発明に従う一実施形態の接合構造体の製造方法について説明する。なお、ここでは図1に示した接合構造体100を製造する方法を例にとり説明するが、この製造方法は、図2〜図4に示した接合構造体200,300を製造する場合にも適用することができる。
まず、第1の工程は部材準備工程であり、この工程では光吸収性部材102及び光透過性部材106を準備する。光吸収性部材102及び光透過性部材106の材料及び基本的な構造については、接合構造体100について図1を参照して説明したとおりであるため、重複する説明は省略する。
図5は、光透過性部材106との接合前の光吸収性部材102を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)中のD−D線に沿う断面図である。この図に示すように、光吸収性部材102の周壁108の上端面(光透過性部材106と当接する面)であって、環状の溶着部104の形成予定部位には環状溝130を予め形成しておく。環状溝130の幅は、そこに照射されるレーザ光の径よりも大きくしておくことが好ましく、例えば、0.1mm〜3mmとすることが好ましい。環状溝130の幅が0.1mm未満の場合には、そこに形成される環状の溶着部104の幅を十分に確保できず、溶着強度が低下するため、外力や圧力変動によって空気や水、埃が浸透し気密性能等を維持できなくなる虞がある。一方、環状溝130の幅が3mmを超えると、溶着時の熱によって環状の溶着部104以外の部分が熱の影響を受けて変形したり、環状の溶着部104が固化する際の熱収縮によって部品に過度のひずみが残り、変形したりする虞がある。また、環状溝130の深さ(境界面Fから溝底までの距離)は、環状溝130の幅をL(mm)として、L/20(mm)以上L(mm)以下とすることが好ましく、このようにすれば、図8を参照して後述するように、環状溝130へのレーザ光照射により溝底に発生した溶融池を十分に膨張させることができとともに、その熱を過不足なく光透過性部材106へ伝達させることができ、良好な溶着部104を形成することができる。さらに、環状溝130の深さは、L/10(mm)以上L/3(mm)以下とすることが、溶着部104の強度及び気密性を確保する点で好ましい。例えば、環状溝130は、溝幅Lを0.3mm、溝深さを0.05(=L/6)mmとすることができる。溶着部130の深さがL/20(mm)未満であり浅すぎると、環状溝130の溝底へのレーザ光の照射後直ぐに、膨張した溶融池が光透過性部材106に接触するとともに熱が拡散し、溶融池を十分に横方向へ広げることができず、溶着不良となる(環状溝130の一部が残ったままとなる)虞がある。溶着部130の深さがL(mm)を超え深すぎると、環状溝130の溝底で発生した溶融池が膨張するものの光透過性部材106まで到達できず、その場で焼けに伴う炭化や変色が発生し、溶着不良となる虞がある。なお、図示例において環状溝130の断面形状は矩形であるが、半円形状または半楕円形状であってもよい。また、周壁108の上端面には、環状溝130と開口部O内とを連通する少なくとも1つ(図示例では各辺に対応して4つ)の連通溝132を予め形成しておく。
第2の工程は、図6(a)に示すように、光吸収性部材102の上に光透過性部材106を開口部Oを覆うように配置する配置工程である。
第3の工程は、互いに重ね合わされた光吸収性部材102と光透過性部材106を吸引密着させる吸引密着工程であり、かかる吸引密着は開口部O内を減圧することにより行う。図6(b)の左図に光透過性部材106を光吸収性部材102に重ねた後の様子を示すように、光透過性部材106と光吸収性部材102との間には、光透過性部材106の成形時の反りや後述するレーザ光による溶着時の熱変形等に起因して隙間が生じる場合があるが、光透過性部材106を薄板状に形成したことから、図6(b)の右図に示すように、開口部O内を減圧することにより光透過性部材106の周縁部を周壁108の上端面に引き寄せるように変形させ、該上端面に密着させることができる。
開口部O内の減圧は、具体的には、図7に示すような外部の圧力調整装置Dを用い、光吸収性部材102に予め形成した吸引開口112を通じて行うことができる。
圧力調整装置Dは主として、減圧装置D1と、加圧装置D2と、制御器D3と、吸引開口112に接続される二重配管Pとからなる。
減圧装置D1は、開口部O内の空気を吸引排気するための真空ポンプと電動のリークバルブとを有している(図示省略)。減圧装置D1の吸引ラインL1には、圧力センサPG1が設けられており、これにより減圧時の開口部O内の圧力を検出することができる。
加圧装置D2は、空気又は窒素やアルゴン等の不活性ガスからなるパージガスを供給するための加圧タンクと供給バルブとを有している(図示省略)。加圧装置D2の供給ラインL2には、圧力センサPG2が設けられており、これにより加圧時において開口部O内の圧力を検出することができる。
制御器D3は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やパーソナルコンピュータ等によって構成され、供給バルブ及びリークバルブの開度を調整する。また、圧力センサPG1,PG2も制御器D3に接続し、圧力センサPG1,PG2の検出信号に基づき上記供給バルブ及びリークバルブを制御することもできる。
二重配管Pは、外側に配置された吸引配管p1と内側に配置された供給配管p2からなる。吸引配管p1は開口部O内と減圧装置D1とを連通し、開口部O内の空気を吸引する。供給配管p2は、開口部O内と加圧装置D2とを連通し、開口部O内にパージガスを供給する。図示は省略するが、二重配管Pの外側の配管を供給配管とし、内側の配管を吸引配管とすることもできるが、図示例のように、外側に吸引配管p1を配置する方が、溶着時に発生するガスを効率的に除去できる点で好ましい。
第4の工程は、図7に示すように、光吸収性部材102と光透過性部材106とを吸引密着した状態で、レーザ光LBを光透過性部材106側から光吸収性部材102の周壁108の上端面へ向けて照射し、光吸収性部材102と光透過性部材106の境界面Fまたはその近傍に環状の溶着部104及び点状の溶着部114(図1参照)を形成して光吸収性部材102及び光透過性部材106同士を接合する接合工程である。
この接合工程においても引き続き開口部O内の減圧状態は維持するが、少なくとも環状の溶着部104を形成する間は、供給配管p2を介して開口部O内にパージガスを供給することが好ましい。このようにすれば、開口部O内に空気の流れを発生させることができ、溶着時に生じる煤や難燃剤の気化成分vを吸引配管p1を通じて効率的に外部に排出、除去することができる。
そして、溶着部104,114を形成するにあたっては、まず点状の溶着部114を形成し、その後に、環状の溶着部104を形成する。これは、光透過性部材106への熱負荷が比較的小さい点状の溶着部114により光透過性部材106を光吸収性部材102に仮接合することで、その後に熱負荷の比較的大きい環状の溶着部104を形成した際の光透過性部材106の熱変形を抑制し、該熱変形に起因した空気漏れによる真空破壊を防止するためである。環状の溶着部104の溶着が進むにつれて、真空の受圧面積が減るため、その陰圧分を補う点では点状の溶着部114は平面を形成できる3点以上設けることが好ましい。この例では、点状の溶着部114は、光透過性部材106のコーナー部に隣接して4箇所に形成する。
点状の溶着部114は、光学ヘッドH(図7)を光透過性部材106の上方で停止させた状態でレーザ光LBを光吸収性部材102の周壁108の上端面に照射することで形成される。点状の溶着部114の径は、約0.3〜0.7mmとすることが好ましく、約0.5mmとすることがより好ましい。環状の溶着部104は、光学ヘッドHを光透過性部材106の上方において光吸収性部材102の周壁108に沿って移動させながらレーザ光LBを周壁108上端面に照射することで形成される。環状の溶着部104の幅は、約0.3〜0.7mmとすることが好ましく、約0.5mmとすることがより好ましい。なお、レーザ光LBの発信器としては、例えば、ファイバレーザ(波長:1070nm)やYAGレーザ(波長:1064nm)、半導体レーザ(波長:808nm,840nmまたは940nm)、CO2レーザ(波長:10600nm)などを用いることができる。
ここで図8(a)〜(d)を参照し、光吸収性部材102の周壁108の上端面に予め形成した環状溝130にレーザ光LBを照射することにより、図1で説明した第1部分の面積S1に対する第2部分の面積S2の比率が12〜35となる環状の溶着部104を形成するプロセスについて説明する。
図8(a)に示すように、光吸収性部材102と光透過性部材106を互いに吸引密着させた状態で、光透過性部材106側から環状溝130の溝底にレーザ光を照射すると、図8(b)に示すように環状溝130の溝底が発熱して溶融し、溶融池内で発泡が開始される。引き続きレーザ光を照射すると、図8(c)に示すように発泡が成長して溶融池が成長する。このとき、環状溝130の存在により、光吸収性部材102の溶融池は直ぐには光透過性部材106に接触せず、溶融池は十分な幅及び深さとなるまで成長させることができる。図8(d)には、溶融池が光透過性部材106に到達した後にレーザ光の照射を停止し、環状の溶着部104の形成が完了した状態を示している。
また、本実施形態では、光吸収性部材102の周壁108の上端面に環状溝130と開口部Oとを連通する連通溝132を設けているため、環状の溶着部104の形成過程で生じる煤や難燃剤の気化成分vは、環状溝130及び連通溝132を通って開口部O内に吸引、排出され、最終的には、吸引配管p1により外部に排出される。
第5の工程は、環状の溶着部104を形成した後に引き続き開口部O内の減圧を保持し、または開口部O内を加圧し、あるいは減圧と加圧を交互に行い、その際の単位時間当たり圧力の変化を測定することによって環状の溶着部104の気密性試験を行う気密性検査工程である。開口部O内の圧力は、図7に示した圧力センサPG1,PG2で測定し、その単位時間当たりの圧力の変化は制御部D3で演算し、必要に応じて外部に出力ないし表示させることができる。あるいは、図示しない流量センサを吸引ラインL1又は供給ラインL2に設けておき、単位時間当たりの流量の変化を測定することにより、環状の溶着部104の気密性試験を行うこともできる。
図示しない第6の工程は、環状の溶着部104の形成後に、開口部O内の減圧を維持したまま、光透過性部材106側からレーザ光LBを吸引開口112の内部又はその周囲に照射することによって吸引開口112を閉塞させる吸引開口閉鎖工程である。これにより、開口部O内の真空を保ったまま開口部O内を密閉することができる。勿論、吸引開口112は開放したままでもよい。
本実施形態の接合構造体の製造方法によれば、光吸収性部材102に開口部Oを設けておき、この開口部O内を減圧することによって光吸収性部材102と光透過性部材106を吸引密着させる構成としたので、両部材102,106を加圧密着するための従来のガラス板を不要とすることができ、上述したようなガラス板に起因する種々の問題を解消することができる。
また、光吸収性部材102の周壁108の上端面に環状溝130を形成し、この環状溝130にレーザ光LBを照射して環状の溶着部104を形成する構成としたことから、十分な幅及び深さの溶着部104を形成して高い接合強度を得ることができるのに加えて、光透過性部材106への熱影響を小さくし、溶着過程における光透過性部材106の熱変形を抑制することができ、当該熱変形に起因した吸引密着性の低下を防止することができる。
さらに、光吸収性部材102の周壁108の上端面に環状溝130と開口部Oを連通する連通溝132を設ける構成としたことから、環状の溶着部104の形成過程で生じる煤や難燃剤の気化成分vを、環状溝130及び連通溝132と介して開口部O内に吸引し、最終的には、吸引配管p1を介して外部に排出することができる。
さらに、光透過性部材106を開口部Oの減圧に伴い容易に変形可能に構成したことから、光透過性部材106を光吸収性部材102に重ね合わせた際にこれらの間に隙間が生じる場合でも開口部O内を減圧することにより光透過性部材106でこの隙間を閉鎖することができ、優れた吸引密着性を得ることができる。
さらに、環状の溶着部104を形成するのに先立って、点状の溶着部114を形成して仮接合する構成としたことから、環状の溶着部104の形成途中での光透過性部材106の熱変形を抑制することができ、当該熱変形に起因した吸引密着性の低下を防止することができる。
さらに、開口部O内の減圧を該開口部O内にパージガスを供給しながら行う構成としたことにより、開口部O内に空気の流れを発生させ、煤や難燃剤の気化成分vを効率的に排出、除去することができる。
さらに、環状の溶着部104を形成した後に引き続き開口部O内の減圧を保持し、または開口部O内を加圧し、あるいは減圧と加圧を交互に行い、その際の単位時間当たりの圧力又は流量の変化を測定することによって環状の溶着部104の気密性試験を行う場合には、製造設備を簡略化することができるのに加えて、製造時間を大幅に短縮することができる。
さらに、開口部O内の圧力を圧力センサPG1で常時検出し、その圧力の変化に基づき、光吸収性部材102と光透過性部材106との密着、環状の溶着部104の形成開始、及び環状の溶着部104の形成完了の判別を行うようにした場合には、通常生産時の加工時間の短縮と、異常発生時の早期対応が可能となる。
以上、図示例に基づき本発明について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載内で種々の変更、追加等を行うことが可能である。例えば、上述の実施形態の接合構造体の製造方法においては、溝底が平坦な環状溝130を図示したが、これに限らず、図9(a)に示すように、環状溝の溝底に隆起部134を設けてもよい。また、環状溝130は一つに限らず、図9(b)に示すように隣接して2つ設け、溶着時に合体して一つの幅広の溶着部104を形成するようにしてもよく、図9(c)に示すように、光透過性部材106側にも環状溝136を設けてもよい。
(第1実施例)
本発明をコネクタに適用した例について説明する。図10は、図2に示した実施形態の接合構造体200の一実施例としてのコネクタを示し、(a)は斜視図であり、(b)は嵌合方向Xに沿った断面図である。図中、対応する部材又は部分には符号に「’」を加えて示し、重複した説明は省略する。
このコネクタ200’は、携帯機器や情報機器などの電子機器内の基板に固定され、嵌合方向Xに沿って挿入される図示しない相手方のコネクタに接続されるレセプタクルコネクタであり、主として、光吸収性部材202としてのハウジング202’と、それぞれ嵌合方向Xに延在しかつ嵌合方向Xに対して直交する方向に配列される複数のコンタクト203と、ハウジング202’の開口部O’を覆うとともに封止する、光透過性部材206としての薄板状のカバー206’とを備えるものである。
ハウジング202’は、光吸収性かつ絶縁性の熱可塑性樹脂から形成されており、前方に相手方のコネクタが挿入される嵌合口212’を有する周壁208’と、底壁210’と、天壁218’とを有している。
ハウジング202’の天壁218’には、嵌合方向Xに沿って形成された複数のスリット220’が形成されており、該スリット220’により開口部O’が区画されている。各スリット220’内にはコンタクト203が配置されている。各コンタクト203の前方端部は相手方のコネクタとの接続のため天壁218’の内面より下方に突出し、その後方端部が電子機器の基板または他の配線板との接続のためハウジング202’から露出している。
カバー206’は、ハウジング202’の開口部O’を覆うようにハウジング202’に重ね合わされ、すべてのスリット220’をまとめて囲繞するように形成された環状の溶着部204’を介して周壁208’の上端面に全周に亘って接合されている。これにより、嵌合口212’から電子機器内部へのスリット220’を介した空気や埃、水の浸水ルートは、カバー206’及び環状の溶着部204’によって遮断されている。また、環状の溶着部204’の外側には、カバー206’のコーナー部に隣接して4つの点状の溶着部214’が形成されている。
コネクタ200’において、環状の溶着部204’は、その延在方向に対する垂直断面でみて、カバー206’側の部分の面積S1’に対するハウジング202’側の部分の面積S2’の比が12〜35の範囲内にあり、19〜26の範囲内にあることがより好ましい。
このようなコネクタ200’は、嵌合口212’を吸引開口212として、図5〜図8を参照して説明した実施形態の製造方法に従って製造することができる。
(第2実施例)
本発明をセンサに適用した例について説明する。図11は、図4(a)に示した実施形態の接合構造体300の一実施例としてのセンサを示し、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
このセンサ300’は、加速度センサ、振動センサ、角速度センサ、距離センサ、位置センサなど如何なる形式のセンサとすることができる。センサ300’は、主として、光吸収性部材302としての筐体302’と、筐体302’の開口部O’を覆うとともに封止する光透過性部材306としてのカバー306’とを備えるものであり、筐体302’内部に図示しない検出器本体(センサチップ)を収容する。
筐体302’は、光吸収性の熱可塑性樹脂から形成されており、開口部O’を区画するとともに前方に向けて吸引筒312’を突設する周壁308’と、底壁310’とを有している。
カバー306’は、筐体302’の開口部O’を覆うように筐体302’の周壁308’に被せられ、点状の溶着部314’及び環状の溶着部304’を介して全周に亘って接合されている。カバー306’の周縁部には、周壁308’の外面に沿って薄肉片324’が垂設されている。この薄肉片324’は吸引筒312’を通じて開口部O’内を減圧した際に周壁308’側に引き寄せられて密着するよう形成されている。
センサ300’において、環状の溶着部304’は、その延在方向に対する垂直断面でみて、カバー306’側の部分の面積S1’に対する筐体302’側の部分の面積S2’の比が12〜35の範囲内にあり、19〜26の範囲内にあることがより好ましい。
このようなセンサ300’は、吸引筒312’を吸引開口312として、図5〜図8を参照して説明した実施形態の製造方法に従って製造することができる。
なお、吸引筒312’の基端部は開口したままであるが、上述した製造方法の第6工程に従い、環状の溶着部304’の形成後に、開口部O’内の減圧を維持したままの状態でカバー306’側からレーザ光を吸引筒312’の基端部の開口周辺に照射することにより、吸引筒312’の基端部の開口を閉塞してもよい。これにより、センサ300’の内部空間を真空に保ったまま密閉することができる。
上述した課題を解決するための本発明の接合構造体は、少なくとも1つの開口部を有する光吸収性部材と、開口部を覆うように光吸収性部材上に配置された光透過性部材と、を備え、開口部を囲繞するとともに光吸収性部材と光透過性部材とを接合する環状の溶着部が形成され、環状の溶着部は、その延在方向に対する垂直断面でみて、光透過性部材側の部分の面積に対する光吸収性部材側の部分の面積の比が12〜35の範囲内にあることを特徴とするものである。
光吸収性部材102は、レーザ光に対する吸収率が光透過性部材106の同レーザ光に対する吸収率よりも高い部材であり、主として熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなり、射出成形等により形成することができる。具体的には、波長193〜10600nmの範囲内に発振波長の中心を有するレーザ光から選択されたレーザ光に対して10%以上の吸収率を有するものが好ましい。レーザとしては、例えば、炭酸ガスレーザ(波長約10600nm)、Nd:YAGレーザ(波長約1064nm)、Nd:YVO 4 レーザの第2次高調波であるグリーンレーザ(波長約532nm)、ダイオードレーザ(波長約800nm,840nm,または950nm)、エキシマレーザ(波長約193nm)等が挙げられる。光吸収性部材102の吸収率を調整するため、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーにカーボンブラック等の黒色着色剤や顔料、染料等を混練することができる。
図示例において光吸収性部材102は主として、開口部Oを区画する周壁108と、周壁108の下端部を閉塞する底壁110とからなる。周壁108の横断面形状は略矩形であるが、これに限らず、円形、楕円形、台形、多角形、ひょうたん形状等如何なる形状としてもよい。周壁108には、後述するように開口部Oに繋がり該開口部O内を減圧状態とするのに適した吸引開口112が形成されている。吸引開口112は、底壁110に形成してもよい。あるいは、底壁110を設けずに周壁108の下端を開放し、該下端開口を吸引開口112として用いてもよい。