以下に本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明の実施の形態のマグネシウム合金は、6質量%より大きく15質量%以下のGdと、0.05質量%以上5質量%以下のCaと、を含有し、残部がMgと、不可避的不純物とから構成されている。次に、マグネシウム合金を構成する各合金成分における組成範囲を限定した理由について説明する。
Gd(ガドリニウム)は、マグネシウム合金の機械的特性や耐熱性を高める機能を有している。Gdは、固溶強化や、β’相(ベータプライム相)及びβ’’相(ベータダブルプライム相)の少なくとも一方の析出による析出硬化等により、マグネシウム合金の機械的強度を高めることができる。析出硬化については、β’相による析出硬化だけでもよいし、β’’相による析出硬化だけでもよいし、β’相とβ’’相との両方による析出硬化でもよい。β’相及びβ’’相は、Mg5Gdや、Mg(マグネシウム)、Gd及び添加元素からなる時効析出物等である。
Gdの含有率は、6質量%より大きく15質量%以下とするとよい。Gdの含有率が6質量%以下の場合には、熱処理温度条件下でのGdの固溶限以下となり、β’相やβ’’相が析出しない可能性があるからである。より詳細には、Gdの含有率が6質量%より大きい場合には、熱処理温度条件下でのGdの固溶限より大きくなるので、β’相やβ’’相を析出させることが可能だからである。一方、Gdの含有率が15質量%より大きくなると、Gdは高価な元素であることから、マグネシウム合金の製造コストが大きくなるからである。また、Gdの含有率が15質量%より大きくなると、Gdの比重が大きいので、マグネシウム合金の比強度が低下するからである。
Ca(カルシウム)は、マグネシウム合金の機械的特性や耐熱性(耐発火性等)を高める機能を有している。Caは、固溶強化により、マグネシウム合金の機械的強度を高めることができる。また、CaとMgとの金属間化合物であるMg2Caが結晶粒界等に微細析出することにより結晶粒が微細化されることから、結晶粒の微細化によりマグネシウム合金のクリープ強度等の機械的強度を高めることができる。
Caの含有率は、0.05質量%以上5質量%以下とするとよい。Caの含有率が0.05質量%より小さい場合には、固溶強化の低下や、Mg2Caの微細析出の低下により、マグネシウム合金の機械的強度が低くなるからである。Caの含有率が5質量%より大きい場合には、Mg2Caの析出量が多くなることによりMg2Caの粗粒が形成され易くなり、延性の低下による脆化や、耐食性が低下するからである。Caの含有率は、0.05質量%以上1質量%以下とすることが好ましい。Caの含有率を0.05質量%以上1質量%以下とすることにより、マグネシウム合金の機械的強度を高める共に、延性の低下による脆化や、耐食性の低下を抑制することが可能となる。
マグネシウム合金は、更に、0.1質量%以上1.5質量%以下のZn(亜鉛)を含有しているとよい。Znは、マグネシウム合金の機械的特性を高める機能を有している。Znは、β’相及びβ’’相の少なくとも一方を微細に析出させることにより、時効硬化能を向上させることができる。Znは、GdやCaと共に添加されることにより、時効初期等にGPゾーン(ギニエ プレストン ゾーン)を析出して、マグネシウム合金の機械的強度を高めることができる。また、Znは、Mg及びGdと、MgとGdとZnとを含む板状化合物を形成し、この板状化合物が細かく分散して晶出することにより、マグネシウム合金の機械的強度を高めることができる。MgとGdとZnとを含む板状化合物は、例えば、粒径が5μm以下の金属間化合物等で形成されている。
Znの含有率は、0.1質量%以上1.5質量%以下とするとよい。Znの含有率が0.1質量%より小さい場合には、β’相及びβ’’相の少なくとも一方を微細に析出させる効果が低下する場合や、GPゾーンや、MgとGdとZnとを含む板状化合物の減少により、マグネシウム合金の機械的強度が低下するからである。Znの含有率が1.5質量%より大きい場合には、長周期積層構造相(LPSO相)が形成されやすく、マグネシウム合金の機械的強度が低下するからである。より詳細には、Gdが長周期積層構造相(LPSO相)の形成に消費されるので、β’相やβ’’相の析出量が低下し、時効硬化が発現し難くなるからである。
マグネシウム合金に、0.1質量%以上1.5質量%以下のZnが含有されている場合には、Caの含有率は、0.05質量%以上0.5質量%以下とするとよい。マグネシウム合金に、0.1質量%以上1.5質量%以下のZnが含有されている場合には、Caの含有率が0.5質量%より大きいとCaがMg2Caの形成に主に消費されるので、ZnとCaとによるGPゾーンが形成され難くなるからである。Caの含有率が、この組成範囲であると、マグネシウム合金の機械的強度をより向上させることができる。
マグネシウム合金は、更に、Mn(マンガン)及びZr(ジルコニウム)の少なくとも一方を、0.2質量%以上2質量%未満含有するとよい。マグネシウム合金は、更に、Mnだけを含有していてもよいし、Zrだけを含有していてもよいし、MnとZrとの両方を含有していてもよい。Mn及びZrは、結晶粒を微細化することにより、マグネシウム合金の機械的特性を向上させることができる。Mn及びZrは、微細な析出晶による結晶粒界のピン止めによって結晶粒の微細化効果を得ることができる。マグネシウム合金を押出材として用いる場合には、押出材の結晶粒をより微細化するために、Mnを含有しているとよい。マグネシウム合金を鋳造材として用いる場合には、鋳造材の結晶粒をより微細化するために、Zrを含有しているとよい。
Mn及びZrの少なくとも一方の元素の含有率は、0.2質量%以上2質量%未満とするとよい。Mn及びZrの少なくとも一方の元素の含有率が0.2質量%より小さい場合には、微細な析出晶の析出が低下して、結晶粒の微細化効果が得られない可能性があるからである。Mn及びZrの少なくとも一方の元素の含有率が2質量%以上の場合には、MnとZrとが難溶解性元素であることから、鋳造時に添加したMnやZrを全て溶解させることが難くなるからである。また、Mnの含有率が2質量%以上の場合には、α―Mn晶の粗粒が多く晶出することにより、マグネシウム合金の機械的強度が低下する可能性があるからである。
マグネシウム合金は、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、C(炭素)等の不可避的不純物を含んでいてもよい。
次に、マグネシウム合金の製造方法について説明する。図1は、マグネシウム合金の製造方法の構成を示すフローチャートである。マグネシウム合金の製造方法は、鋳造工程(S10)と、溶体化処理工程(S12)と、時効処理工程(S14)と、を備えている。
鋳造工程(S10)は、上記のマグネシウム合金を鋳造する工程である。マグネシウム合金の鋳造は、例えば、原料となるマグネシウム合金を坩堝等に入れて溶解し、鋳造してインゴットを得る。マグネシウム合金の鋳造には、重力鋳造法、低圧鋳造法、ダイカスト法等の一般的な鋳造方法を用いることが可能である。
溶体化処理工程(S12)は、鋳造したマグネシウム合金を、Gdの固溶温度以上固相線温度以下で熱処理して溶体化処理する工程である。溶体化処理温度は、マグネシウム合金の合金組成により相違するが、例えば、450℃以上500℃以下とするとよい。溶体化処理温度が450℃以上500℃以下であれば、鋳造時に形成され易いMg5Gd等の化合物を固溶させることができるからである。溶体化処理時間は、例えば、1時間以上24時間以下とするとよい。溶体化処理温度から室温までの冷却は、急冷により冷却される。溶体化処理については、大気雰囲気下でも可能であるが、真空雰囲気や、アルゴンガス等の不活性ガスを用いた不活性雰囲気で処理するとよい。溶体化処理については、一般的な金属材料の熱処理炉を用いることができる。溶体化処理温度からの冷却については、空冷以上の冷却速度で急冷されることが好ましく、ガスファン冷却や水冷等で急冷するようにしてもよい。
時効処理工程(S14)は、溶体化処理したマグネシウム合金を、180℃以上250℃以下で時効処理する工程である。時効処理温度が180℃以上250℃以下であるのは、この温度範囲で時効処理すると、Mg母相中に、β’相、β’’相、GPゾーン、MgとGdとZnとを含む板状化合物等の析出物を析出して析出硬化することが可能であるからである。時効処理温度での保持時間については、時効処理温度やマグネシウム合金の合金組成等により相違するが、8時間以上256時間以下とするとよい。時効温度から室温までの冷却については、例えば、空冷やガスファン冷却等で冷却される。時効処理については、真空雰囲気や、アルゴンガス等の不活性ガスを用いた不活性雰囲気で処理するとよい。また、時効処理については、一般的な金属材料の熱処理炉を用いることができる。このように時効処理を180℃以上250℃以下の時効処理温度で行うので、自動車等の車両用のエンジン部品や過給機部品等のように約150℃程度の高温環境で適用される輸送機器用部品等に対しても、これらのマグネシウム合金を好適に用いることができる。
次に、このようにして製造されたマグネシウム合金の金属組織について説明する。
6質量%より大きく15質量%以下のGdと、0.05質量%以上5質量%以下のCaと、を含有し、残部がMgと、不可避的不純物とからなるマグネシウム合金の金属組織は、Mg母相中に、β’相及びβ’’相の少なくとも一方を含んだ金属組織で構成されている。このマグネシウム合金の金属組織は、MgとCaとの金属間化合物であるMg2Caを含んでいてもよい。このマグネシウム合金の金属組織は、微細なMg2Caからなる析出物が結晶粒界等に析出することにより、微細な結晶粒で形成される。金属組織中のMg2Caの析出量は、Caの含有率が1質量%より大きくなると増え始め、Caの含有率が5質量%を超えると多量に析出する。また、このマグネシウム合金に、更に、Mn及びZrの少なくとも一方が、0.2質量%以上2質量%未満で含有されている場合には、より微細化された結晶粒の金属組織が形成される。
6質量%より大きく15質量%以下のGdと、0.05質量%以上1質量%以下のCaと、0.1質量%以上1.5質量%以下のZnと、を含有し、残部がMgと、不可避的不純物とからなるマグネシウム合金の金属組織は、Mg母相中に、β’相及びβ’’相の少なくとも一方と、Gd−Zn、Ca−Znの同時添加に伴うGPゾーンと、を含む金属組織で構成されている。このマグネシウム合金の金属組織は、Mg2Caや、MgとGdとZnとを含む板状化合物を含んでいてもよい。また、このマグネシウム合金は、Znの含有率が0.1質量%以上1.5質量%以下であるので、長周期積層構造相(LPSO相)を含まない金属組織で構成されている。このマグネシウム合金に、更に、Mn及びZrの少なくとも一方が、0.2質量%以上2質量%未満で含有されている場合には、より微細化された結晶粒の金属組織が形成される。
上記構成のマグネシウム合金によれば、AZ91合金等の従来のマグネシウム合金よりも、硬さや、機械的強度等の機械的特性をより向上させることができる。また、上記構成のマグネシウム合金によれば、比重の大きいGdの含有量を少なくし、Gdより比重の小さいCa、Zn等を添加することにより機械的特性を向上させているので、マグネシウム合金の比強度を高め軽量化することが可能となる。更に、上記構成のマグネシウム合金によれば、室温環境だけでなく、約200℃での高温環境においても優れた高温強度特性を有していることから、自動車等の車両用のエンジン部品や過給機部品等のように約150℃程度の高温環境で適用される輸送機器用部品等に対しても、これらのマグネシウム合金を好適に用いることができる。
上記構成のマグネシウム合金の製造方法によれば、高価なGdの含有量を少なくし、Gdより安価なCa、Zn等を添加することにより、マグネシウム合金の製造コストを低減することが可能となる。また、上記構成のマグネシウム合金の製造方法によれば、鋳造されたマグネシウム合金を、溶体化処理と、時効処理とにより熱処理して製造することから、複雑な処理工程等を必要としないので、マグネシウム合金の生産性を向上させることができる。
Mg合金の機械的特性について評価した。まず、機械的特性を評価したMg合金について説明する。図2は、機械的特性を評価したMg合金を示す図である。Mg合金には、実施例1から26のMg合金と、比較例1から9のMg合金とを用いた。
実施例1から11のMg合金は、7質量%以上15質量%以下のGdと、0.5質量%以上5質量%以下のCaと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例12から14のMg合金は、7質量%のGdと、0.1質量%のCaと、0.2質量%以上0.8質量%以下のMnと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例15のMg合金は、7質量%のGdと、0.5質量%のCaと、0.3質量%のZrと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例16から23のMg合金は、7質量%以上15質量%以下のGdと、0.05質量%以上1質量%以下のCaと、0.1質量%以上1.25質量%以下のZnと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例24のMg合金は、7質量%のGdと、0.1質量%のCaと、1.25質量%のZnと、0.6質量%のMnと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例25のMg合金は、7質量%のGdと、0.5質量%のCaと、1.25質量%のZnと、0.3質量%のZrと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
実施例26のMg合金は、12質量%のGdと、0.1質量%のCaと、1.25質量%のZnと、0.5質量%のZrと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
比較例1から3のMg合金は、5質量%以上7質量%以下のGdを含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
比較例4から6のMg合金は、5質量%のGdと、1質量%以上5質量%以下のCaと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
比較例7のMg合金は、7質量%のGdと、0.1質量%のCaと、2質量%のMnと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
比較例8から9のMg合金は、7質量%のGdと、0.1質量%以上0.5質量%以下のCaと、2.5質量%のZnと、を含有し、残部がMgと不可避的不純物とからなる合金組成とした。
各Mg合金について鋳造した後に、溶体化処理を行い、溶体化処理後に時効処理を行った。溶体化処理は、490℃以上500℃以下の溶体化処理温度で熱処理して行った。時効処理は、時効温度が180℃以上250℃以下、時効時間が8時間から256時間とした。なお、実施例21のMgについては、時効温度が180℃、250℃の2条件で時効処理した。他の実施例のMg合金や比較例のMg合金については、時効温度225℃で時効処理した。
各Mg合金について、溶体化処理後と、時効処理後とにおいてビッカース硬さを室温で測定した。ビッカース硬さについては、JIS Z 2244「ビッカース硬さ試験 試験方法」に準拠して測定した。各Mg合金の時効処理後の硬さは、硬さが最大となるピーク時効の硬さとした。代表として、実施例12から14、21、24のMg合金と、比較例3のMg合金との時効特性を示す。図3は、実施例12から14、24のMg合金と、比較例3のMg合金との時効特性を示すグラフである。図3のグラフでは、横軸に時効時間を取り、縦軸に硬度を取り、各Mg合金の硬さの変化を実線や破線等で示している。図4は、実施例21のMg合金の時効特性を示す図である。また、各Mg合金の溶体化処理後の硬さA、時効処理後の硬さB及び硬さの変化量ΔHv(B−A)については、図2に各Mg合金の合金組成と合わせて記載した。
次に、各合金元素の影響について評価した。まず、Gdの影響について評価した。比較例1から3のMg合金において、比較例1、2のMg合金では、時効処理後においても硬さが増加しなかったのに対して、比較例3のMg合金では、時効処理後において硬さの増加が認められた。この結果から、Gdの含有率は、6質量%より大きくするとよいことがわかった。また、実施例1から11のMg合金と、比較例4から6のMg合金との硬さから、Gdの含有率が大きくなるほど、Mg合金の硬さが大きくなり、Gdの含有率は15質量%以下とするとよいことがわかった。
次に、Caの影響について評価した。実施例1のMg合金と、比較例3のMg合金とを比較すると、実施例1のMg合金は、比較例3のMg合金より硬さが増加した。この結果から、Mg合金は、Caを含有することにより、硬さが増加することがわかった。また、実施例1から11のMg合金と、比較例4から6のMg合金との硬さから、Caの含有率が大きくなると、Mg合金の硬さが大きくなる傾向があり、Caの含有率は5質量%以下とするとよいことがわかった。
比較例4,5のMg合金について、光学顕微鏡による金属組織観察を行った。図5は、時効処理後における比較例4,5のMg合金の光学顕微鏡による金属組織写真であり、図5(a)は、比較例4のMg合金の金属組織写真であり、図5(b)は、比較例5のMg合金の金属組織写真である。比較例4のMg合金では、粒状のMg2Caが顕著に認められなかったのに対して、比較例5のMg合金では、粒状のMg2Caの析出が顕著に認められた。粒状のMg2Caの析出は、Caの含有率が1質量%より大きくなると増え始めることがわかった。このことから、Caの含有率は、1質量%以下が好ましいことが明らかになった。
次に、Znの影響について評価した。実施例1、16のMg合金を比較すると、実施例16のMg合金は、実施例1のMg合金よりも硬さが増加した。また、実施例13、24のMg合金を比較すると、実施例24のMg合金は、実施例13のMg合金よりも、硬さが増加した。このように、Znの添加により、Mg合金の硬さが増加することがわかった。
実施例13、24のMg合金について、走査型電子顕微鏡(SEM)による金属組織観察を行った。図6は、実施例13のMg合金における時効処理後の金属組織を示すSEM写真である。図7は、実施例24のMg合金における時効処理後の金属組織を示すSEM写真である。実施例13、24のMg合金では、時効処理後において、Mg5Gdの析出が認められた。また、実施例24のMg合金では、粒径が約5μm以下のMgとGdとZnとを含む板状化合物の析出が多く認められた。一方、実施例13のMg合金では、Znを含んでいないので、このような板状化合物は認められなかった。このことから、MgとGdとZnとを含む板状化合物は、Mg合金の硬さの増加に寄与していると考えられる。
実施例16、19のMg合金を比較すると、実施例19のMg合金は、実施例16のMg合金よりも硬さが増加した。このようにZnの含有率が1.25質量%の場合には、0.1質量%の場合よりもMg合金の硬さの増加が認められた。また、実施例19のMg合金と、比較例9のMg合金とを比較すると、比較例9のMg合金は、実施例19のMg合金よりも硬さが低下した。このようにZnの含有率が2.5質量%の場合には、1.25質量%の場合よりもMg合金の硬さの低下が認められた。
実施例19のMg合金と、比較例9のMg合金とについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による金属組織観察を行った。図8は、時効処理後における実施例19のMg合金のSEM写真であり、図8(a)は、倍率500倍のSEM写真であり、図8(b)は、倍率2000倍のSEM写真である。図9は、時効処理後における比較例9のMg合金のSEM写真であり、図9(a)は、倍率500倍のSEM写真であり、図9(b)は、倍率2000倍のSEM写真である。
実施例19のMg合金では、Mg5Gdの析出が認められた。また、実施例19のMg合金では、長周期積層構造相(LPSO相)の析出が認められなかった。一方、比較例9のMg合金では、長周期積層構造相(LPSO相)が認められた。また、比較例9のMg合金では、Mg5Gdの析出が認められなかった。比較例9のMg合金の硬さが低下した理由は、長周期積層構造相(LPSO相)の形成にGdが消費されたために、Mg5Gdの析出による時効硬化等が発現しなかったものと考えられる。このことからZnの含有率は、1.5質量%以下にするとよいことがわかった。
また、実施例17から20のMg合金を比較すると、実施例17から19のMg合金が、実施例20のMgよりも硬さが大きくなった。このようにMg合金にZnが含有されている場合には、Caの含有率が0.05質量%以上0.5質量%以下のMg合金は、Caの含有率が1質量%のMg合金よりも硬さが増加した。このことからMg合金にZnが含有されている場合には、Caの含有率は、0.05質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましいことがわかった。
次に、Mnの影響について評価した。実施例18、24のMg合金を比較すると、実施例24のMg合金は、実施例18のMg合金よりも硬さが大きくなった。このことから、Mnの添加によりMg合金の硬さが大きくなることがわかった。次に、実施例12のMg合金と、比較例7のMg合金とについて、光学顕微鏡による金属組織観察を行った。図10は、実施例12のMg合金と、比較例7のMg合金との溶体化処理後の光学顕微鏡による金属組織写真であり、図10(a)は、実施例12のMg合金の金属組織写真であり、図10(b)は、比較例7のMg合金の金属組織写真である。実施例12のMg合金では、結晶粒の微細化が認められた。また、実施例12のMg合金では、α―Mn晶が顕著に認められなかった。一方、比較例7のMg合金では、α―Mn晶が多数晶出していた。このことから、Mnの含有率は2質量%未満がよいことがわかった。
次に、Zrの影響について評価した。実施例1、15のMg合金を比較すると、実施例15のMg合金は、実施例1のMg合金よりも硬さが増加した。また、実施例19、25のMg合金を比較すると、実施例25のMg合金は、実施例19のMg合金よりも硬さが増加した。このことから、Zrの添加により、Mg合金の硬さが増加することがわかった。
実施例1、15のMg合金について光学顕微鏡による金属組織観察を行った。図11は、溶体化処理後における実施例1、15のMg合金の光学顕微鏡による金属組織写真であり、図11(a)は、実施例1のMg合金の金属組織写真であり、図11(b)は、実施例15のMg合金の金属組織写真である。実施例15のMg合金では、実施例1のMg合金よりも結晶粒の微細化が認められた。このことから、Zrの添加によるMg合金の硬さの増加は、結晶粒微細化による強化に起因していると考えられる。
次に、実施例19、25のMg合金について光学顕微鏡による金属組織観察を行った。図12は、溶体化処理後における実施例19、25のMg合金の光学顕微鏡による金属組織写真であり、図12(a)は、実施例19のMg合金の金属組織写真であり、図12(b)は、実施例25のMg合金の金属組織写真である。実施例25のMg合金では、実施例19のMg合金よりも結晶粒の微細化が認められた。このように、Mg合金にZnが含有されている場合でも、Zrの添加により結晶粒が微細化した。
次に、Mg合金について高温引張試験を行って高温引張特性を評価した。高温引張特性を評価するMg合金については、代表として、実施例13、24、26のMg合金とした。また、比較として、従来のMg合金であるAZ91合金(Mg−9質量%Al−1質量%Zn−0.6質量%Mn)についても高温引張試験を行った。高温引張試験は、試験温度200℃とし、JIS G 0567「鉄鋼材料及び耐熱合金の高温引張試験方法」に準拠して行った。
次に、高温引張試験結果について説明する。実施例13のMg合金の高温引張強度は、146MPaであった。実施例24のMg合金の高温引張強度は、202MPaであった。実施例26のMg合金の高温引張強度は、305MPaであった。これに対して、AZ91合金の高温引張強度は、120MPaであった。実施例13、24、26のMg合金は、AZ91合金よりも高温引張特性に優れていることがわかった。
図13は、実施例13、24、26のMg合金における硬さと、高温引張強度との関係を示すグラフである。図13のグラフでは、横軸に硬さを取り、縦軸に高温引張強度を取り、各Mg合金のデータを白菱形で示している。なお、各Mg合金の硬さには、図2に示す各Mg合金の時効処理後の硬さを用いた。図13のグラフに示すように、Mg合金の硬さが大きくなると高温引張強度も大きくなり、Mg合金の硬さと高温引張強度との間には、正の相関関係があることがわかった。このことから、図2に示す他の実施例のMg合金についても、実施例13、24、26のMg合金の硬さと略同じ硬さか、実施例13、24、26のMg合金の硬さ以上の硬さを有していることから、AZ91合金よりも高温引張特性に優れていることが明らかとなった。