以下に、本発明に係る肩湯装置の実施形態について図面に基づいて説明する。図1に示すように、肩湯装置8は、肩湯システム1に組み込まれる。
まず、図1を参照して肩湯システム1の構成を説明する。肩湯システム1は、肩湯装置8が、浴槽2と給湯器4との間で風呂水Xを循環させる循環回路19に接続されている。肩湯装置8は、浴槽2の風呂水Xを循環回路19から供給され、浴槽2内へ向かって湯を吐出する。本明細書では、肩湯装置8から吐出される湯を「肩湯Y」ともいう。また、「肩湯Y」は、後述される第1ノズル81から吐出される場合には「肩湯Y1」といい、後述される第2ノズル91から吐出される場合には「肩湯Y2」ということもある。
循環回路19は、浴槽2に設けられた循環口3が、復路配管5と往路配管6を介して給湯器4に接続され、給湯器4に内設されたポンプ20の動作により、風呂水Xを浴槽2と給湯器4との間で循環させる。このとき、給湯器4は、バーナ4aを駆動することにより、風呂水Xを追い焚きすることができる。
ここで、ポンプ20は、バーナ4aが風呂水Xを加熱できる流量で風呂水Xを循環回路19に循環させる吐出能力を有する。そのため、ポンプ20は、一般的に、吐出流量が8L/分以上16L/分以下のものが選定される。
往路配管6には、三方弁7が配設されている。三方弁7は、第1ポート7aが給湯器4に導通し、第2ポート7bが循環口3に導通し、第3ポート7cが肩湯装置8に導通している。
肩湯システム1は、制御手段18を備える。制御手段18は、周知のマイクロコンピュータで構成されている。制御手段18は、給湯器4の動作を設定する給湯器リモコン15が電気的に接続されている。給湯器リモコン15は、通信線17を介して運転リモコン16に接続している。給湯器リモコン15は、運転リモコン16の設定が自動的に自機に反映されるようになっている。給湯器リモコン15と運転リモコン16は、給湯器4の各種設定を行うボタンを備える。このボタンは、オンオフ式のアナログスイッチでも、液晶タッチパネルに表示されるデジタルスイッチでも良い。本実施形態では、給湯器リモコン15はキッチンに設置され、運転リモコン16は浴室に設置される。
制御手段18は、三方弁7とバーナ4aとポンプ20に電気的に接続されている。制御手段18は、運転リモコン16から給湯器リモコン15を介して肩湯モードの実行指令を受け付けると、記憶領域に記憶された肩湯制御プログラムを起動して三方弁7とポンプ20の動作を制御する。つまり、制御手段18は、第1ポート7aを第3ポート7cに連通させ、第2ポート7bを遮断するように三方弁7の動作を制御し、ポンプ20を駆動させることにより、浴槽2の風呂水Xを肩湯装置8に供給し、肩湯装置8から肩湯Yを吐出させる。このとき、制御手段18は、給湯器4のバーナ4aを駆動させ、風呂水Xを給湯器4で所定の設定温度に加熱してから肩湯装置8に供給するようにしても良い。
一方、制御手段18は、運転リモコン16から給湯器リモコン15を介して追い焚きモードの実行指令を受け付けると、記憶領域に記憶された追い焚きプログラムを起動して三方弁7とバーナ4aとポンプ20の動作を制御する。つまり、制御手段18は、第1ポート7aを第2ポート7bに連通させ、第3ポート7cを遮断するように三方弁7の動作を制御し、バーナ4aとポンプ20を駆動させることにより、給湯器4で加熱された風呂水Xを浴槽2に供給する。
続いて、図2を参照しながら肩湯装置8の構成を説明する。肩湯装置8は、第1ノズル81と、ホース82と、保持部材84を備える。肩湯装置8は、第1ノズル81の高さを調整できるように構成されている。
ホース82は、可撓性を有し、浴槽2の裏側に収納されている。ホース82は、先端部が浴槽2に形成された貫通孔2aから浴室内に引き出されている。ホース82の先端部には、第1ノズル81が着脱可能に接続されている。一方、ホース82は、後端部が三方弁7の第3ポート7c(図1参照)に連通している。
保持部材84は、浴槽2の貫通孔2aの内壁に配設され、浴槽2の裏側から浴室内にホース82を案内する。また、保持部材84は、湯水が浴槽2の裏側に流入することを防ぐために、ホース82と貫通孔2aの内周面との間をシールしている。
第1ノズル81は、第1磁石814が接着剤などで固定されている。浴室の壁面Wは、金属板を含む。よって、第1ノズル81は、第1磁石814を介して壁面Wに対して任意の位置に取り付けることが可能である。
図5及び図9に示すように、ホース82の先端部には、吐出口の形状が異なる第1ノズル81と第2ノズル91が交換可能に取り付けられる。
図5に示すように、第1ノズル81は、ホース82から供給される湯を膜形状に吐出するように構成されている。
すなわち、図3に示すように、第1ノズル81は、板状に設けられた第1ノズル本体810を備える。第1ノズル本体810は、人が触れたときに冷たくないように、樹脂で形成しても良いし、金属で形成して樹脂などで表面をコーティングしても良い。
図4に示すように、第1ノズル本体810には、面積が広い上下端面に対して平行に、スリット811が矩形状に形成されている。スリット811は、一辺が第1ノズル本体810の長手方向正面側縁部に開口しており、そのスリット開口部813により、第1ノズル81の長手方向に沿って細長く形成された吐出口を構成している。第1ノズル81は、ホース82からスリット811に湯を流入させるための流入口812が形成されている。流入口812は、スリット開口部813と反対側に位置するスリット811の奥部であって、スリット811の長手方向中心位置に、設けられている。スリット811は、高さ方向の厚みW1が均一に設けられている。厚みW1は、高さ方向の幅の一例である。厚みW1は、0.5mm以上1.0mm以下の大きさに設定されている。
このような第1ノズル81は、流入口812からスリット811に流入した湯が、スリット811により流路を絞られて流速を上昇させ、スリット811全体にほぼ均一に広がる。よって、図5に示すように、スリット開口部813から吐出される湯は、連続的な膜形状になる。
第1ノズル本体810は、スリット開口部813を備える正面側縁部と反対側に位置する背面側縁部に、第1磁石814が接着剤などで一体的に取り付けられている。
一方、図9に示すように、第2ノズル91は、ホース82から供給される湯を筋形状に吐出するように構成されている。
すなわち、図6、図7、及び、図8に示すように、第2ノズル91は、管形状の第2ノズル本体910を備える。図6に示すように、第2ノズル本体910は、複数の吐出孔913が軸線方向に沿って等間隔に形成され、内部流路911に連通している。第2ノズル本体910は、この複数の吐出孔913により、吐出口を構成している。
図7に示すように、第2ノズル91には、ホース82から内部流路911に湯を流入させるための流入口912が形成されている。流入口912は、内部流路911の軸線方向中心位置に形成されている。
図8に示すように、第2ノズル本体910は、吐出孔913と反対側に平坦面915を備える。その平坦面915には、第2磁石914が接着剤などにより一体的に取り付けられている。
ここで、図6に示すように、複数の吐出孔913は、第2ノズル91に形成される位置によって、中心部吐出孔群913aと、中間吐出孔群913bと、端部吐出孔群913cに分類される。中心部吐出孔群913aは、内部流路911の軸線方向中心部分に設けられ、最も高い位置に形成されている。端部吐出孔群913cは、第2ノズル91の両端側に設けられ、最も低い位置に形成されている。中間吐出孔群913bは、中心部吐出孔群913aと端部吐出孔群913cとの中間に設けられ、中心部吐出孔群913aと端部吐出孔群913cとの間の高さになる位置に形成されている。つまり、吐出孔913は、形成される位置の高さが段階的に変更されている。
このような第2ノズル91は、図9に示すように、流入口912から内部流路911に流入した湯が各吐出孔913から筋形状に吐出される。
ところで、ポンプ20は、既設のバスシステムにおいて追い焚き用に使用されるものであり、吐出流量が8L/分以上16L/分以下程度である。このポンプ20を利用して第1ノズル81から膜形状の湯を吐出するために、発明者らは、ノズルの形状を変更して様々なシミュレーションを行い、鋭意工夫を重ねて第1ノズル81の形状を特定した。このシミュレーションについて説明する。
発明者らは、スリットの厚みと空間中の液体割合の分布との関係を調べる第1のシミュレーションを行った。この第1のシミュレーションでは、スリット811の厚みW1が異なるタイプA1、タイプA2、タイプA3、タイプA4のノズルについて、解析を行った。タイプA1〜A4のノズルは、何れも、図10に示すように、流入口812が2箇所に設けられている。流入口812の内径W5は、それぞれ、23mmである。そして、タイプA1〜A4のノズルは、給水口の間隔W4が150mm、スリット811の長手方向の幅W2が300mm、スリット811の奥行き方向の幅W3が80mmにされている。しかし、タイプA1のノズルは、スリット811の厚みW1が0.5mmである。タイプA2のノズルは、スリット811の厚みW1が1.0mmである。タイプA3のノズルは、スリット811の厚みW1が1.5mmである。タイプA4のノズルは、スリット811の厚みW1が2.0mmである。尚、各流入口812には、水が6L/分ずつ流入することにした。つまり、タイプA1〜A4のノズルは、何れも、ポンプ20の吐出流量と同程度の流量、すなわち、12L/分の流量で、水がスリット811に流入する。
図11〜図18に、第1のシミュレーション結果を示す。図11〜図14は、各ノズルを斜めから見た場合の第1のシミュレーション結果である。図15〜図18は、各ノズルを上方から見た場合の第1のシミュレーション結果である。そして、図11と図15は、タイプA1のノズルに関する第1のシミュレーション結果であり、対応している。図12と図16は、タイプA2のノズルに関する第1のシミュレーション結果であり、対応している。図13と図17は、タイプA3のノズルに関する第1のシミュレーション結果であり、対応している。図14と図18は、タイプA4のノズルに関する第1のシミュレーション結果であり、対応している。
図11のM11、図12のM21、図13のM31、図14のM41に示すように、タイプA1〜A4のノズルは、何れも、スリット811全体に均一な流量で水が広がっている。図11のM12,M13及び図12のM22,M23に示すように、タイプA1及びタイプA2のノズルは、スリット開口部813から吐出する水の流量のばらつきが小さい。また、そのばらつきの間隔が狭い。しかし、図13のM32,M33及び図14のM42,M43に示すように、タイプA3及びタイプA4のノズルは、スリット開口部813から吐出する水の流量のばらつきが大きい。
そして、図15のP11及び図16のP21に示すように、タイプA1及びタイプA2のノズルは、水をスリット開口部813全体から前方に向かって吐出している。しかし、タイプA3及びタイプA4のノズルは、図17のP32と図18のP42に示すように、水がスリット開口部813から前方に向かって吐出する部分と、図17のP31と図18のP41に示すように、水がスリット開口部813から真下に垂れて流れる部分が混在している。
また、発明者らは、タイプA1〜A4のノズルについて、流速分布を調べる第2のシミュレーションを行った。この第2のシミュレーションでは、第1のシミュレーションと同じ条件の下、水の流速を解析した。図19〜図22に、第2のシミュレーションの結果を示す。
タイプA1及びタイプA2のノズルは、図19のQ10,Q11及び図20のQ20,Q21に示すように、流入口に流入する直前の流速と、流入口812に流入した直後の流速との差が大きい。一方、タイプA3及びタイプA4のノズルは、図21のQ30,Q31及び図22のQ40,Q41に示すように、流入口に流入する直前の流速と、流入口812に流入した直後の流速との差が小さい。つまり、タイプA1,A2のノズルは、タイプA3,A4のノズルと比べ、水が流入口812からスリット811に流入することにより流速が加速されている。
タイプA1及びタイプA2のノズルは、図19のQ12及び図20のQ22に示すように、スリット811内の流速が、ほぼ均一である。そのため、タイプA1及びタイプA2のノズルは、図19のQ13及び図20のQ23に示すように、スリット開口部813全体から水がほぼ同じ流速で吐出している。
しかし、タイプA3及びタイプA4のノズルは、図21のQ32,Q33及び図22のQ42,Q43に示すように、スリット811の中央部と内壁付近の流速が特に速くなっており、スリット811内で流速にムラがある。そして、タイプA3及びタイプA4のノズルは、図21のQ34,Q35及び図22のQ44,Q45に示すように、スリット811内で流速が速かった部分では、スリット開口部813から速い流速で水が前方に向かって吐出され、スリット811内で流速が遅かった部分では、スリット開口部813から遅い流速で水が吐出され、真下に垂れるように流れる。つまり、タイプA3及びタイプA4のノズルは、スリット開口部813から吐出する水が途切れ、連続的な膜形状になりにくい。
これら第1のシミュレーション結果と第2のシミュレーション結果より、ポンプ20を用いて風呂水Xを肩湯装置8に供給する場合において、スリット811のスリット開口部813全体から膜形状に水を吐出するには、スリット811の厚みW1を1.0mm以下にすると良いことが分かった。
もっとも、スリット811の厚みW1が小さすぎると、水がスリット811内で均一に広がらず、流速がばらついてしまう。この場合、タイプA3及びタイプA4のノズルと同様、スリット開口部813から吐出する水が途切れ、連続的な膜形状になりにくい。よって、スリットの厚みW1は、0.5mm以上1.0mm以下とすることが望ましい。
次に、発明者らは、スリットの面取りと空間中の液体割合の分布との関係を調べる第3のシミュレーションを行った。この第3のシミュレーションでは、タイプB1、タイプB2、タイプB3、タイプB4のノズルについて、解析を行った。タイプB1〜B4のノズルは、図10の仮想線に示す面取りNの有無及び大きさが異なる。タイプB1〜B4のノズルは、2箇所に設けた流入口812の内径W5が23mmである。そして、タイプB1〜B4は、スリット811の厚みW1が1.0mm、スリット811の長手方向の幅W2が300mm、スリット811の奥行き方向の幅W3が80mmにされている。しかし、タイプB1のノズルは、スリット811に面取りNを施さず、スリット811は矩形状に形成されている。タイプB2〜B4のノズルは、スリット811のスリット開口部813と反対側に位置する奥側の角部が面取りNを施されている。タイプB2のノズルは、奥行き方向と長手方向がそれぞれ50mmずつ面取りNを施されている。タイプB3、B4のノズルは、それぞれ、奥行き方向と長手方向がそれぞれ70mmずつ面取りNを施されている。タイプB1〜B3のノズルは、流入口812の間隔W4が150mmである。タイプB4のノズルは、流入口812の間隔W4が100mmである。尚、各流入口812には、水が6L/分ずつ流入することにした。つまり、タイプB1〜B4のノズルは、何れも、ポンプ20の吐出流量と同程度の流量、すなわち、12L/分の流量で、水がスリット811に流入する。
図23〜図26に、第3のシミュレーション結果を示す。図23のS11,S12に示すように、タイプB1のノズルは、面取りが施されていなくても、水がスリット811全体に均一に広がり、スリット開口部813から連続的に吐出されている。また、図24のS21,S22に示すように、タイプB2のノズルは、タイプB1のノズルと同様、水がスリット811全体に均一に広がり、スリット開口部813から連続的に吐出されている。しかし、図25に示すタイプB3のノズルのように、面取りNが大きくなると、図中S31のようにスリット811内で水が均一に広がっても、図中S32に示すように、水が真下に垂れる箇所が発生する。つまり、タイプB3のノズルは、スリット開口部813から連続的に水を吐出できない。また、図26に示すタイプB4のノズルは、流入口812から吐出された水が、スリット811の面取りN側に流れにくくするために、流入口812の間隔W4をタイプB3のノズルより狭くしている。しかし、図26のS42に示すように、タイプB4のノズルも、水がスリット開口部813から真下に垂れる箇所がある。つまり、タイプB4のノズルは、スリット開口部813から水を連続的に吐出できない。
また、発明者らは、タイプB1〜B4のノズルについて、流速分布を調べる第4のシミュレーションを行った。この第4のシミュレーションでは、第3のシミュレーションと同じ条件の下、水の流速を解析した。図27〜図30に、第4のシミュレーションの結果を示す。
図27のT12に示すように、タイプB1のノズルは、流速がスリット811全体でほぼ均一になっている。そして、図中T13に示すように、タイプB1のノズルは、スリット開口部813から吐出される水の流速が均一である。
一方、面取りNを施した場合、図28に示すタイプB2のノズルのように、面取りNが小さい場合には、図中T22に示すように、スリット811内の流速のばらつきが小さい。そして、図中T23に示すように、スリット開口部813から吐出される水の流速のばらつきが小さい。しかし、図29に示すタイプB3のノズルのように、面取りNが大きい場合には、図中T31,T32に示すように、スリット811の内壁付近及びスリット811の長手方向中央付近の流速が速くなり、スリット811内における流速のばらつきが大きくなる。そのため、タイプB3のノズルは、図中T33,T34に示すように、スリット開口部813から吐出される水の流速のばらつきが大きかった。そして、タイプB3のノズルは、スリット開口部813から吐出されるときの流速が小さい部分において、水が真下に垂れるように流れていた。図30に示すタイプB4のノズルも、図中T41,T42に示すように、スリット811内で流速がばらつく。そのため、スリット開口部813から吐出される水の流速にも、図中T43,T44に示すようにばらつきが生じていた。よって、タイプB4のノズルも、図中T43に示すように、タイプB3と同様、水がスリット開口部813から真下に垂れるように流れる箇所が発生した。
これら第3のシミュレーション結果と第4のシミュレーション結果より、ポンプ20を用いて風呂水Xを肩湯装置8に供給する場合において、スリット811のスリット開口部813全体から膜形状に水を吐出するには、スリット811は、面取りNを行う必要がなく、矩形状でも良いことが分かった。
次に、発明者らは、スリットの厚みW1を1.0mmに固定し、スリットの奥行き方向の幅W3と空間中の液体割合の分布との関係を調べる第5のシミュレーションを行った。この第5のシミュレーションでは、タイプC1、タイプC2、タイプC3のノズルについて、解析を行った。タイプC1〜C3は、図31に示すように、スリット811の長手方向中心部の奥側に、内径W5が23mmの流入口812が、設けられている。そして、タイプC1〜C3は、スリット811の厚みW1が1.0mm、スリット811の長手方向の幅W2が300mmにされている。タイプC1〜C3は、スリット811の奥行き方向の幅W3が異なる。すなわち、タイプC1のノズルは、スリット811の奥行き方向の幅W3が80mmにされている。タイプC2のノズルは、スリット811の奥行き方向の幅W3が100mmにされている。タイプC3のノズルは、スリット811の奥行き方向の幅W3が120mmにされている。尚、流入口812には、水が14L/分ずつ流入することにした。つまり、タイプC1〜B3のスリット811には、何れも、ポンプ20の吐出流量と同程度の流量で、水が流入する。図32〜図34に、第5のシミュレーション結果を示す。
図32〜図34に示すタイプC1〜C3のノズルは、奥行きの幅W3が異なっても、スリット811全体に水が均一に広がって流れた。よって、スリット811の奥行きの幅W3は、スリット開口部813から水を連続的な膜形状に吐出することへの影響が小さいことが分かった。また、第1のシミュレーション結果と第5のシミュレーション結果より、流入口812を2箇所から1箇所に減らしても、水を連続的な膜形状に吐出させることができることが分かった。
次に、発明者らは、流体の流入量と空間中の液体割合の分布との関係を調べる第6のシミュレーションを行った。この第6のシミュレーションでは、同一形状のノズルを使用しており、水の流入量によってタイプD1とタイプD2とタイプD3に分けている。タイプD1〜D3のノズルは、何れも、スリット811の厚みW1が1.5mmにされている。そして、タイプD1〜D3のノズルは、スリット811の長手方向の幅W2が300mm、スリット811の奥行き方向の幅W3が85mmにされている。更に、タイプD1〜D3のノズルは、何れも、スリット811の長手方向中心部の奥側に、内径W5が23mmの流入口812が1個設けられている。タイプD1のノズルは、水が流入口812に14L/分ずつ流入する。タイプD2のノズルは、水が流入口812に16L/分ずつ流入する。タイプD3のノズルは、水が流入口812に18L/分ずつ流入する。図35〜図37に、第6のシミュレーション結果を示す。
図35のU11,U12に示すように、タイプD1のノズルは、スリット811内に水が均一に分散せず、流れにムラがある。つまり、水の流入量が14L/分で同じでも、スリット811の厚みW1が、1.0mmから1.5mmに大きくなると、スリット811内における水の流量分布にムラが生じ、更に、スリット開口部813から吐出する水の流量にもムラが生じる。この場合、流量の少ない部分の水が流量の多い側に引き寄せられ、入浴者の肩や首の全体に水を均一な力で満遍なく当てることが困難になる。
そこで、タイプD2及びタイプD3のノズルでは、タイプD1のノズルより、水の流入量を増加させた。この場合、図36のタイプD2のノズル及び図37のタイプD3のノズルは、図中U21,U31に示すように、スリット811内で水が均一に分散するようになった。しかし、タイプD2及びタイプD3のノズルは、図36のU22,U23及び図37のU32,U33に示すように、スリット開口部813から吐出される水の割合がばらついている。つまり、タイプD2及びタイプD3のノズルは、スリット開口部813から水を連続的な膜状に吐出できない。
この第6のシミュレーション結果より、スリット811の厚みW1が1.0mmを超えると、流量を増加させても、スリット開口部813から水を膜形状に吐出させることができないことが分かった。つまり、スリット811の厚みW1を1.0mmより大きくすると、既存のポンプ20により、連続的な膜形状で湯を吐出することができないことがわかった。
続いて、肩湯装置8の動作を説明する。入浴者は、例えば、第1ノズル81をホース82の先端部に取り付ける。そして、入浴者は、運転リモコン16のボタンを操作し、肩湯モードを選択し、開始指示を入力する。すると、制御手段18は、三方弁7の第1ポート7aを第3ポート7cに連通させ、ポンプ20を駆動する。これにより、浴槽2の風呂水Xが復路配管5から給湯器4、往路配管6、三方弁7、肩湯装置8の第1ノズル81へと流れる。肩湯装置8は、風呂水Xがホース82から第1ノズル81に供給され、スリット開口部813から膜形状の肩湯Y1を吐出する。
一方、入浴者は、第2ノズル91をホース82の先端部に取り付けた後、運転リモコン16のボタンを操作して、肩湯モードを選択し、開始指示を入力すると、浴槽2の風呂水Xが、循環回路19を介して肩湯装置8に供給される。肩湯装置8は、風呂水Xがホース82から第2ノズル91に供給され、複数の吐出孔913から筋形状の肩湯Y2を吐出する。
このように、肩湯装置8では、浴槽2と循環回路19と肩湯装置8との間で風呂水Xを循環させながら、第1ノズル81又は第2ノズル91から肩湯Y1又は肩湯Y2を吐出させるので、浴槽2の風呂水Xを使って肩や首を温めることができる。つまり、肩湯装置8は、風呂水Xを循環させているので、無駄な湯を使わず、省エネ効果が高い。また、肩湯装置8は、既存のポンプ20を使用して肩湯装置8の第1ノズル81又は第2ノズル91に風呂水Xを供給するので、ポンプ20より吐出流量が多い専用ポンプ(例えば、吐出流量が30L/分のポンプ)を使用する場合と比較して、機器コストを抑制できる。更に、下半身入浴する場合でも、第1ノズル81から吐出される肩湯Y1又は第2ノズル91から吐出される肩湯Y2を、首や肩の全体に当てることができるので、下半身入浴に使っている風呂水Xを利用して上半身が冷えることを防止できる。
ここで、肩湯装置8は、第1ノズル81又は第2ノズル91が、第1磁石814又は第2磁石914を介して壁面Wに着脱可能に取り付けられている。よって、入浴者は、自分の姿勢に合わせて第1ノズル81又は第2ノズル91の高さを簡単に調整することができる。そのため、入浴者は、自分の好きな姿勢で肩湯Yを首や肩の全体に当てることができ、高いリラックス効果を得ることができる。
そして、入浴者は、第1ノズル81と第2ノズル91をホース82の先端部に付け替えることにより、異なるタイプの肩湯を簡単に愉しむことができる。
すなわち、第1ノズル81は、スリット811のスリット開口部813から湯を連続的な膜形状で吐出する。この場合、湯が入浴者の肩や首を優しく包むように当たる。よって、第1ノズル81を使用することにより、入浴者は、体の芯から温まり、血行が促進される。
一方、第2ノズル91は、複数の吐出孔913から湯を筋形状に吐出する。筋形状の肩湯Y2は、膜形状の肩湯Y1と比べ、単位面積当たりの流量が多く、体に当たるときの衝撃が大きい。そのため、第2ノズル91を使用した場合、入浴者の首や肩には、筋形状の肩湯Y2が適度な打撃感を持って当たる。よって、入浴者は、首や肩の温め効果だけでなく、マッサージ効果も得ることができる。
しかも、第1ノズル81と第2ノズル91は、第1磁石814と第2磁石914を介して壁面Wに対して脱着可能に取り付けられるので、例えば、入浴者は、自分の体格に合わせて第1ノズル81と第2ノズル91の設置する高さを簡単に調整できる。また、入浴者は、第2ノズル91を使用する場合、第2ノズル91を高い位置に配置するほど、首や肩に当たる肩湯Y2の打撃感を強くできる。よって、入浴者は、第2ノズル91の高さを調整することで、自分の好みに合わせて肩湯Y2の打撃感の強さを調整しやすい。
ところで、肩湯装置8は、循環回路19に循環する浴槽2の湯を第1ノズル81又は第2ノズル91から吐出する。循環回路19には、通常、毎分8L〜16Lの小流量で風呂水Xが循環する。そのため、肩湯装置8を使用する場合、第1ノズル81のスリット811には、毎分8L〜16Lの小流量で風呂水Xが供給されることになる。第1ノズル81は、スリット811の厚みW1の平均値が0.5mm以上1.0mm以下と小さい。そのため、流入口812からスリット811に供給された風呂水Xは、自身の圧力によってスリット811全体にほぼ均一な流量で広がる。そして、スリット811の厚みW1が小さいため、風呂水Xは、流入口812からスリット811に流入する際に流量を絞られて、流速が加速される。風呂水Xは、スリット811内で流速がほぼ均一にされ、スリット開口部813へ向かって流れる。よって、第1ノズル81は、既存の循環回路19と既存のポンプ20を使用して風呂水Xを肩湯Yとして使用する場合でも、スリット開口部813から膜形状の肩湯Y1を吐出することができる。また、この肩湯Y1は、スリット開口部813から前方に向かって吐出され、円弧を描くようにして浴槽2に落下する。そのため、入浴者は、第1ノズル81のスリット開口部813に肩や首を接近させるなどの姿勢に限定されずに、リラックスした姿勢で膜形状の肩湯Y1を首や肩の全体に当てることができる。
一方、第2ノズル91は、第2ノズル91の長手方向中心部に設けられた吐出孔913が、第2ノズル91の両端部に設けられた吐出孔913より高い位置に設けられている。人間の骨格状、首は両肩より高い位置にある。そこで、第2ノズル91は、第2ノズル91の長手方向中心部に形成される中心部吐出孔群913aが最も高い位置に設けられ、その中心部吐出孔群913aの両側の中間吐出孔群913bが次に高い位置に設けられ、さらに中間吐出孔群913bより外側の端部吐出孔群913cは最も低い位置に設けられている。これにより、第2ノズル91は、複数の吐出孔913から吐出される筋形状の肩湯Y2を入浴者の肩や首に当てやすくしている。また、吐出孔913の位置を人間の骨格に合わせて形成したことで、筋形状の湯の一部が入浴者の頭に当たるなどの不具合を抑制できると共に、湯の飛沫を抑制することができる。
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
例えば、複数の吐出孔913は、同じ高さに形成しても良い。最も、複数の吐出孔913が形成される位置に高低差を設けることにより、湯の飛沫を防止できる。複数の吐出孔913に高低差を設ける場合には、例えば図38に示すように、第2ノズル91は、複数の吐出孔913は、第2ノズル91の長手方向中心に位置する吐出孔913が最も高い位置になり、両端部に位置する吐出孔913が最も低い位置になるように、弧を描くように形成しても良い。
例えば図39に示すように、高さ方向に沿って設置したポール111,112に対して第1ノズル81をねじ113等で固定し、第1ノズル81をポール111,112に対して任意の位置で固定するようにしたものであっても良い。第2ノズル91もこれと同様に固定するようにしても良い。もっとも、第1及び第2ノズル81,91を第1及び第2磁石814,914により固定することにより、肩湯装置8の部品点数を減らしてコストダウンできる。また、浴室や第1及び第2ノズル81,91の清掃も簡単になる。
例えば、肩湯装置8は、給湯水を供給する給湯回路に接続し、給湯水を第1ノズル81又は第2ノズル91から吐出するようにしても良い。もっとも、肩湯装置8は、循環回路19に接続して風呂水Xを循環させることで、省エネ性を高めることができる。
例えば、ノズルは、第1ノズル81又は第2ノズル91のいずれか1種類だけをホース82に取り付けるようにしても良い。また、ホース82に取り付けるノズルの種類は、第1ノズル81と第2ノズル91の2種類に限らず、3種類以上でも良い。
例えば、ホース82は、浴槽2の貫通孔2aから引き出すようにしたが、浴室の壁面Wから引き出すようにしても良い。また、ホース82は、例えば、蛇腹のように伸縮可能に設けても良い。
例えば、磁石を治具に接着剤などで固定し、その治具に第1ノズル81と第2ノズル91を着脱自在に装着するようにしても良い。つまり、磁石を備える治具を第1ノズル81と第2ノズル91が共用するようにしても良い。
例えば、第2ノズル本体910は、角形でも良い。
例えば、第1ノズル81には、複数の流入口812が設けられても良い。この場合、スリット811全体に均一な流速および流量で水を流すために、複数の流入口812は、スリット811の長手方向の中心を挟んで対称に形成されることが好ましい。そして、この場合、各流入口812には、同一流量で水が流入するようにすることが好ましい。ただし、両端の流入口812とスリット811の内壁との間隔は、複数の流入口812を設ける間隔の半分以上とすることが好ましい。すなわち、例えば、スリット811の長手方向の幅W2が300mmであって、流入口812を2箇所に設ける場合には、流入口812の間隔は150mm以下とし、流入口812とスリット811の内壁との間の間隔は75mm以上にすると良い。両端の流入口812がスリット811の内壁に近い位置に形成されると、流入口812に流入した水がスリット811の内壁側に引き寄せられて、スリット811内で流量及び流速にムラが生じ、スリット811のスリット開口部813から連続的な膜形状に水を吐出することが困難になるからである。もっとも、流入口812を1つにすることにより、スリット811内を流れる湯の流量や流速の管理が容易になると共に、第1ノズル81の製造コストを安価にできる。第2ノズル91も同様である。