JP2018150272A - ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物およびループス腎炎のバイオマーカー - Google Patents

ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物およびループス腎炎のバイオマーカー Download PDF

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Abstract

【課題】本願は、ループス腎炎の処置、予防または診断に寄与する組成物または方法を提供することを目的とする。【解決手段】RAGEアプタマーを含む、ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物を提供する。対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎の診断方法、および、RAGEを検出するための試薬を含む、ループス腎炎を診断するための組成物またはキットを提供する。ループス腎炎のバイオマーカーとしてのRAGEの使用を提供する。【選択図】図11

Description

本願は、ループス腎炎を処置または予防するためのRAGEアプタマーを含む医薬組成物、並びに、ループス腎炎の診断方法、そのための組成物およびキットに関する。
全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫疾患である。成人SLE患者の約60%はループス腎炎を発症し、ループス腎炎症例の約25%が発症後10年以内に末期腎不全に至る(非特許文献1および2)。ループス腎炎は主にステロイドを用いて処置されるが、ステロイド抵抗性ループス腎炎が存在し、また、長期ステロイド内服は重篤な副作用をもたらす。このように、ループス腎炎は、SLE患者の生存率およびクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を規定する重要な要因である(非特許文献3)。ループス腎炎に対して、グルココルチコイドおよびミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制剤も用いられる。しかしながら、免疫抑制剤はループス腎炎の末期腎不全への進行を完全に阻止することはできず、日和見感染の原因となり得る。さらに、ほとんどの免疫抑制剤は高額であり、患者と社会の経済的負担が大きい。また、グルココルチコイドには高血糖・肥満・ざ瘡などの副作用が認められ、それらの副作用は患者の日常生活動作(ADL)の低下に直結している。従って、新規薬剤の開発は急務である。
本発明者らは、糖尿病性腎症における終末糖化産物(Advanced glycation endproducts;AGEs)とその受容体RAGE(Receptor for AGEs)系の病態生理学的な役割について研究を進めてきた。AGEs−RAGE系をターゲットとした創薬にも着手している。例えば、細胞毒性が強いグリセルアルデヒド由来AGEに対する核酸アプタマーを作成し、自然発症2型糖尿病マウスKKAy/Taマウスに持続投与したところ、糖尿病性腎症の発症進展を著明に抑制したことを報告した(特許文献1、非特許文献4)。しかしながら、AGEsには多種多様な化合物が含まれ、一種のAGEをブロックできたとしても、その他のAGEによる細胞障害が惹起される。この問題を解決するために、本発明者らは、殆どのAGEsが結合するRAGEに着目し、RAGE表面に結合するRAGEアプタマーを作成した(特許文献2)。RAGEアプタマーは、グリセルアルデヒド由来AGE、Human Morbidity Group Box-1(HMGB−1)とRAGEの結合を有意に抑制した。
ヒトループス腎炎の腎組織におけるRAGEの過剰発現が報告され(非特許文献5)、ループス腎炎の発症進展とRAGEの関連性が注目を集めている。HMGB−1と結合したDNA含有免疫複合体がRAGEを介して形質細胞様樹状細胞やB細胞の活性化を誘導し、自己免疫異常を惹起することが報告された(非特許文献6)。また、SLEおよびループス腎炎への易罹患性RAGE遺伝子多型がループス腎炎の発症や尿蛋白量に強く関連することが知られている(非特許文献7)。しかしながら、RAGE阻害剤によるSLE発症およびループス腎炎進展に対する抑制効果については、一定の見解は得られていない。
国際公開2012/070621号公報 特開2016−79184号公報
Buhaescu et al.Semin Arthritis Rheum. 2007;36(4):224-37 Maroz N et al. Am J Med Sci. 2013; 346(4): 319-23 Houssiau FA, Arthritis Res Ther. 2012 31; 14(1): 202 Kaida et al. Diabetes 2013 62(9):3241-50 Tanji et al. JASN 2000; 11:1656-1666 Tian J et al. Nat Immunol. 2007; 8(5): 487-96 Martens HA et al. Lupus. 2012; 21(9): 959-68 J Exp Med. 2013 21;210(11):2447-63
本願は、ループス腎炎の処置、予防または診断に寄与することを目的とする。
本発明者らは、ループス腎炎に罹患している対象の腎臓において、RAGE発現が増加し、病態進展に伴って増加すること、並びに、RAGEアプタマーの投与により、ループス腎炎の発症を防止し、進行を抑制し、腎機能を保護し得ることを見出した。
従って、ある態様では、本願は、RAGEアプタマーを含む、ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物を提供する。
別の態様では、本願は、全身性エリテマトーデスの患者に投与するための、RAGEアプタマーを含む組成物を提供する。
ある態様では、本願は、対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎の診断方法を提供する。
別の態様では、本願は、RAGEを検出するための試薬を含む、ループス腎炎を診断するための組成物を提供する。
さらなる態様では、本願は、当該組成物を含む、ループス腎炎を診断するためのキットを提供する。
またさらなる態様では、本願は、ループス腎炎のバイオマーカーとしてのRAGEの使用を提供する。
本願の開示に従い、対象のループス腎炎を処置、予防または診断し得る。
MRL/lprマウスの糸球体、近位尿細管および遠位尿細管の過ヨウ素酸シッフ試薬染色を示す。 MRL/lprマウスの糸球体におけるRAGE発現量を示す。 MRL/lprマウスの尿細管間質におけるRAGE発現量を示す。 MRL/lprマウスの尿細管におけるRAGEの免疫染色の結果を示す。 MRL/lprマウスの遠位尿細管におけるRAGEの細胞内局在を示す。 MRL/lprマウスの糸球体におけるRAGEの局在を示す。 MRL/lprマウスの尿中RAGE排泄量および尿蛋白量を示す。 MRL/lprマウスにおける尿中RAGE排泄量と尿中NAG排泄量の相関を示す。 MRL/lprマウスのループス腎炎に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの腎臓におけるRAGE発現に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの腎臓におけるHMGB1沈着に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスにおけるIL−6の発現に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスにおけるTNFαの発現に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの腎臓におけるMCP−1の発現に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスにおけるKim1の発現に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの糸球体における半月体形成に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの糸球体におけるワイヤーループ病変の形成に対するRAGEアプタマーの効果を示す。 MRL/lprマウスの糸球体におけるマクロファージの浸潤に対するRAGEアプタマーの効果を示す。
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20〜30」は、「20±10%〜30±10%」を含むものとする。
「RAGE」は、膜貫通型の細胞表面タンパク質であり、終末糖化産物(AGEs)の受容体として機能する。RAGEのリガンドとしては、Nεカルボキシメチルリジン、グリセルアルデヒド由来のAGE−2を含む各種AGEの他、HMGB−1およびLPSなどが知られている。
「アプタマー」は、特異的に標的物質に結合する能力を持った一本鎖DNAまたはRNAであり、種々の立体構造をとりタンパク質や化合物に結合して抗体のような機能を発揮する。本明細書において「RAGEアプタマー」とは、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNAまたはRNAを意味する。
RAGEアプタマーは、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法によって調製することができる。一本鎖DNAをライブラリー源とするSELEX法の概要を以下に説明する。まず、任意の2つのプライマー配列で挟まれた適当な長さのランダム配列を含むテンプレートDNAを合成する。ランダム配列の長さは、35塩基〜120塩基が適切である。このテンプレートDNAをPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅して、ランダムDNAアプタマープールを得る。次いで、このランダムDNAアプタマープールを標的物質と会合させ、結合しなかったDNAを除去し、そして結合したDNAアプタマーを抽出する。得られたDNAアプタマーを、上記プライマー配列を用いるPCRによって増幅する。このとき、5〜8mMのMg2+存在下でPCRを行って、複製の正確性を低下させて変異を導入しやすくすることにより、標的物質との会合前のDNAアプタマープールに存在しない新たなDNAアプタマーを含むDNAアプタマープールが得られる。新たなDNAアプタマーは、結合力がより強い可能性があり、すなわち、DNAアプタマーが進化する可能性が生じる。この進化したDNAアプタマープールについて、上記の一連の操作を5〜15ラウンド繰り返すことによって、標的物質に結合するDNAアプタマーが得られる。最終ラウンドの後、得られたDNAアプタマープールは、当業者が通常行う操作によってクローニングされ、次いで配列決定される。このSELEX法における、テンプレートDNAの合成、PCRなどの操作、ならびにクローニングおよび配列決定は、当業者が通常用いる方法によって行われる。RAGEアプタマーは、このようにして決定された配列に基づいて、当業者が通常用いる方法によって化学合成することができる。
RAGEアプタマーは、その安定性を増加させるため、修飾ヌクレオチドにより構成されていてもよい。例えば、RAGEアプタマーは、ヌクレオチド間の結合部位にあるリン酸基の酸素原子が硫黄原子に置換されたホスホロチオエート(S化)オリゴヌクレオチドであってよい。
RAGEアプタマーは、一本鎖DNAまたは一本鎖RNAのいずれであってもよいが、好ましくは一本鎖DNAである。RAGEアプタマーは、少なくとも35塩基からなり、好ましくは約35塩基〜約120塩基、より好ましくは約35塩基〜約70塩基、さらにより好ましくは約35塩基〜約50塩基である。
ある態様において、RAGEアプタマーは、以下の配列番号1〜10のいずれかの配列を含む一本鎖DNAである。

CCTGATATGGTGTCACCGCCGCCTTAGTATTGGTGTCTAC (配列番号1)
TCTGTTCAGGTTGGTACGGTGGAAGGTGTGATTCACGAGG (配列番号2)
CTTGGGTTGTTTATGTCGACCGCCAGTTTTGTGTTCAGCA (配列番号3)
CATTCTTAGATTTTTGTCTCACTTAGGTGTAGATGGTGAT (配列番号4)
TTGGTTCTCTTGCCCTCTTCTATTTTGTACGATGTTTCCT (配列番号5)
TTCCACTGAGTGCCGCGGACTGTTGTTGGGAGGTGGTGTG (配列番号6)
ATGGGGAGGAGGGGTGTCGTGGGGGGTGGGGGAGTGGGGA (配列番号7)
CTGGGGATGACTCGGATAGGATGTACGAGTTTGATGTGTA (配列番号8)
TTTGATCGAGCTGCGCCCTCCTCGCCGTAGAAGAGTGTGT (配列番号9)
TTTGGGGTGGAGTTAGGGGTGGATCAAGCGGGATTGTGTA (配列番号10)
ある態様において、RAGEアプタマーは、上記の配列番号1〜10のいずれかの配列を含み、下表に示す位置でホスホロチオエート結合を含むオリゴヌクレオチドである。
RAGEアプタマーは、配列番号1〜10のいずれかの配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約85%以上、さらにより好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の配列同一性を有する配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNAであってよい。また、RAGEアプタマーは、配列番号1〜10のいずれかの配列において1、2、または3個の塩基が欠失、置換、または付加された配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNAであってもよい。
「配列同一性」とは、2つのオリゴヌクレオチド間の配列の類似の程度を意味し、比較対象の塩基配列の領域にわたって最適な状態(配列の一致が最大となる状態)にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。配列同一性の数値(%)は両方の配列に存在する同一の塩基を決定して、適合部位の数を決定し、次いでこの適合部位の数を比較対象の配列領域内の塩基の総数で割り、得られた数値に100をかけることにより算出される。最適なアラインメントおよび配列同一性を得るためのアルゴリズムとしては、当業者が通常利用可能な種々のアルゴリズム(例えば、BLASTアルゴリズム、FASTAアルゴリズムなど)が挙げられる。塩基配列の配列同一性は、例えばBLAST、FASTAなどの配列解析ソフトウェアを用いて決定される。
RAGEアプタマーがRAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害するか否かは、例えば、ELISAまたはQCM(quartz crystal microbalance)法により調べることができる。ELISAの場合、AGEと結合するRAGEのVドメイン(v−RAGE)とRAGEアプタマーとを前反応させ、この反応混合物をRAGEのリガンド(例えばAGEまたはHMGB1)を固定化したELISAプレートに添加して、プレート中のリガンドに結合したRAGEを抗RAGE抗体で検出する。あるいは、v−RAGEをELISAプレートに固定化し、RAGEアプタマーとそのリガンドとを添加して、v−RAGEに結合したリガンドを抗体により検出してもよい。QCM法では、QCMセンサープレートにv−RAGEを固定化し、RAGEアプタマーの存在下または非存在下にRAGEのリガンドを添加して、v−RAGEに対するリガンドの結合をモニタリングすればよい。
好ましい態様において、RAGEアプタマーは、配列番号1〜10のいずれかの配列を含む一本鎖DNAであり、より好ましくは、配列番号1〜10のいずれかの配列からなる一本鎖DNAである。別の好ましい態様において、RAGEアプタマーは、CATTCTTAGATTTTTGTCTCACTTAGGTGTAGATGGTGAT(配列番号4)の配列を含む一本鎖DNAであり、より好ましくは、配列番号4の配列からなる一本鎖DNAである。
RAGEアプタマーは、RAGEとそのリガントとの結合を阻害することにより、ループス腎炎を処置または予防することができる。「ループス腎炎」とは、全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う腎障害を意味する。SLEは、全身が侵され得る自己免疫疾患であり、免疫複合体の形成と補体による組織障害をもたらす。組織障害の発生場所は個々の症例によって異なり、腎臓、皮膚、肺、脳など多様な臓器に障害が発生し得る。SLEの診断基準として、例えば、Updating the American College of Rheumatology revised criteria (1997)、および、The systemic lupus international collaborating clinics classification criteria for systemic lupus erythematosus (2012) が知られている。
ループス腎炎では、主に糸球体腎炎が生じるが、血管炎や間質性腎炎なども生じ得る。ループス腎炎には、微小メサンギウムループス腎炎、メサンギウム増殖性ループス腎炎、巣状ループス腎炎、びまん性ループス腎炎、膜性ループス腎炎および進行した硬化性ループス腎炎、特にびまん性ループス腎炎が含まれる。ループス腎炎の症状には、例えば、蛋白尿およびむくみが含まれる。ループス腎炎が進行すると腎機能が低下し、腎不全に至る場合がある。ループス腎炎の診断または分類は、例えば、国際腎臓学会(ISN)によるループス腎炎の2003年分類、または、ループス腎炎のACR(米国リウマチ学会)診療ガイドライン(2012)を基準とし得る。
ループス腎炎の「処置」には、ループス腎炎またはその症状の改善および寛解、並びにループス腎炎またはその症状の進展または進行の抑制が含まれる。また、ループス腎炎の「予防」には、ループス腎炎またはその症状の発症の抑制および遅延が含まれる。ループス腎炎の処置または予防の対象は、SLEの患者であり得る。ループス腎炎の処置の対象は、ループス腎炎に罹患している対象、例えば、ループス腎炎に罹患しているSLEの患者であり得る。ループス腎炎の予防の対象は、ループス腎炎を発症するリスクのある対象、例えば、ループス腎炎を発症していないSLEの患者、または、SLEを発症するリスクのある対象であり得る。対象は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物であり得る。
ループス腎炎の処置または予防には、腎機能の悪化の抑制または保護、および腎組織の保護が含まれる。腎機能の指標の非限定的な例としては、尿中アルブミン排出量、尿中アルブミン/クレアチニン比、クレアチニンクリアランス、血中尿素窒素量、血中クレアチニン量が挙げられる。また、ループス腎炎の処置または予防には、メサンギウム基質の増加、糸球体基底膜の肥厚、糸球体の線維化(硬化)、および/または腎肥大(腎臓/体重比の増加)の抑制、尿細管間質の線維化および/または萎縮の抑制、および酸化ストレスの抑制が含まれる。酸化ストレスの指標としては、尿中8OHdG(8-Hydroxydeoxyguanosine)排出量が挙げられる。
上記医薬組成物は、RAGEアプタマーを医薬上許容される担体と配合し、固形製剤(例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤など)、または液状製剤(例えば、シロップ剤、注射剤など)として製造することができる。医薬上許容される担体としては、例えば、賦形剤(例えば、乳糖、ショ糖、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等)、溶剤(例えば、水、食塩水、大豆油等)、保存剤(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸エステル等)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記医薬組成物の投与方法は、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。例えば、上記医薬組成物は、経口投与、静脈内投与、または皮下投与により投与することができるが、皮下投与または静脈内投与によることが好ましい。上記医薬組成物の投与量もまた、投与方法、投与対象の年齢、体重、健康状態等によって適宜選択される。例えば、成人1日当たり、RAGEアプタマーの量として0.01μg〜100g、例えば、0.01μg〜1mgを投与することができるが、これに限定されない。
ある態様では、本願は、ループス腎炎を処置または予防する方法であって、それを必要とする患者にRAGEアプタマーを投与することを含む方法、ループス腎炎を処置または予防するためのRAGEアプタマーの使用、および、ループス腎炎を処置または予防するための医薬の製造のための、RAGEアプタマーの使用を提供する。
ある態様では、本願は、SLEの患者に投与するためのRAGEアプタマーを含む組成物を提供する。この組成物は、上記のループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物と同様に製造し、SLEの患者に投与し得る。
下記の実施例に記載する通り、本発明者らは、SLEマウスにおいて尿中RAGE排泄が増加すること、および、尿細管障害マーカーである尿中NAG排泄量と、尿中RAGE排泄量に強い正の相関関係があることを見出した。従って、RAGEをループス腎炎のバイオマーカーとして使用して、ループス腎炎を診断することができる。
例えば、対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎の診断方法が提供される。この方法を、ループス腎炎の診断を補助する方法としてもよい。例えば、診断は下記を目的とし得るが、診断の目的はこれらに限定されない。
(A)対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定する。
(B)ループス腎炎発症のリスクを判定する。
(C)対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防の効果を予測する。
(D)対象のループス腎炎をモニタリングする。
上記方法に用いられる尿は、常法に従って採取したものであり得る。採取した尿は、すぐにRAGE濃度の測定に用いてもよく、測定時まで低温で、例えば冷蔵または冷凍して、例えば4℃以下、0℃以下または−20℃以下で、保存してもよい。希釈または濃縮した尿を用いてもよい。
尿中RAGE濃度は、RAGEに特異的に結合する抗体を用いる免疫学的手法により測定し得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、酵素免疫固相法(ELISA法)、ウェスタンブロッティングなどを例示できる。
尿中RAGE濃度の測定に使用される抗体は、RAGEに結合する抗体(抗RAGE抗体)、即ち、免疫グロブリン骨格をベースとする親和性リガンドからなる群から選択され得る。抗体は、任意の起源のモノクローナルおよびポリクローナル抗体を含み、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ヒトおよび他の抗体、並びに複数の種に由来する配列を含むキメラ抗体、例えば、部分的にヒト化された抗体、例えば、部分的にヒト化されたマウス抗体を含む。抗体は、各マーカータンパク質または当該タンパク質の抗原性を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造し得る。例えば、ポリクローナル抗体は、動物を抗原で免疫化することにより産生し得、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術を使用して産生し得る。あるいは、市販の抗体を使用してもよい。
抗RAGE抗体は、RAGEと選択的に相互作用できるものであれば、その断片および誘導体であってもよい。抗体の断片および誘導体には、例えば、完全な免疫グロブリンタンパク質の重鎖第1定常ドメイン(CH1)、軽鎖定常ドメイン(CL)、重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)からなるFab断片;2個の可変抗体ドメインVHおよびVLからなるFv断片;可動性ペプチドリンカーにより連結された2個のVHおよびVLドメインからなる一本鎖Fv断片(scFv);ラクダ科の重鎖二量体および単一可変領域、および、テンジクザメの新規抗原受容体などの単一ドメイン骨格および、可変重鎖ドメインに基づくミニボディー(minibody)が含まれる。
尿中RAGE濃度の測定のために、抗RAGE抗体と同様に、RAGEアプタマーを使用することもできる。このために、上記のRAGEアプタマーを使用し得る。
尿中RAGE濃度の測定に使用される抗RAGE抗体またはRAGEアプタマーは、標識されていてもよい。標識は、当業者が適宜選択し得る。標識の例には、蛍光染料または金属(例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレサミン)、発色団の染料(例えば、ロドプシン)、化学発光化合物(例えば、ルミナール、イミダゾール)および生物発光タンパク質(例えば、ルシフェリン、ルシフェラーゼ)、ハプテン(例えば、ビオチン)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータラクタマーゼ)、放射性同位元素(例えば、H、14C、32P、35Sまたは125I)、粒子(例えば、金などの金属粒子)、蛍光性半導体ナノ結晶(量子ドット)が含まれる。各種標識を、当業者に周知の様々な化学反応を使用して、所望の抗体またはアプタマーに結合させることができる。あるいは、尿中RAGE濃度の測定に使用される抗体またはアプタマーは、標識されていなくてもよい。この場合は、抗RAGE抗体またはRAGEアプタマーを認識する、標識された二次抗体または核酸プローブをさらに使用し得る。
あるいは、RAGEに結合するリガンドの量を測定することにより、尿中RAGE濃度を測定することができる。例えば、蛍光標識リガンド、放射性標識リガンド等の標識リガンドを用いるリガンド結合アッセイにより、RAGEの濃度を測定し得る。この目的で、いかなるRAGEリガンドも使用できる。例えば、RAGEリガンドとして、Nεカルボキシメチルリジン、グリセルアルデヒド由来のAGE−2を含む各種AGE、HMGB−1およびLPSなどを使用し得る。
抗RAGE抗体、RAGEアプタマーまたはRAGEリガンドは、適切な支持体に結合していてもよい。当該分野で通常用いられている支持体を使用できる。支持体は、どのような形状や材質のものであっても良く、例えば、ナイロン膜などのメンブレン、プレート、マルチウェルプレート、ビーズ、ガラス、プラスチックおよび金属などであり得る。
尿中RAGE濃度は採尿時の水分代謝の状態によって変化するため、測定した尿中RAGE濃度を尿中クレアチニンの値で補正すること(クレアチニン補正)が好ましい。クレアチニン補正の方法は、当業者に周知である。
上記(A)に関して、対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定する方法(方法(A))が提供される。方法(A)では、ループス腎炎罹患のバイオマーカーとしてRAGEを使用する。
方法(A)における対象は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物であり得、いかなる健康状態であってもよい。例えば、対象は、SLEの患者、または、SLEまたはループス腎炎の発症が疑われる対象であり得る。対象は、SLEまたはループス腎炎の処置を受けていても、いなくてもよい。
ある実施態様では、測定した尿中RAGE濃度を指標値と比較することにより、対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定する。指標値は、対象と同種の動物群(対照群)において尿中RAGE濃度を測定して得られる値であり得る。指標値は、被験対象の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に、対照群について決定した値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。
ある実施態様では、指標値は、SLEに罹患しているが、ループス腎炎に罹患していない動物群(対照群)について得られた値であり得る。この場合、対象の尿中RAGE濃度が指標値よりも高い場合に、対象がループス腎炎に罹患していると判定し得、指標値よりも低い場合に、対象がループス腎炎に罹患していないと判定し得る。別の実施態様では、指標値は、ループス腎炎に罹患している動物群(対照群)について得られた値であり得る。この場合、対象の尿中RAGE濃度が指標値よりも高い場合に、対象がループス腎炎に罹患していると判定し得、指標値よりも低い場合に、対象がループス腎炎に罹患していないと判定し得る。また、指標値に対する被験値の高低の程度に基づいて、ループス腎炎の重症度をさらに知ることができる。
また、尿中RAGE濃度のカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定値とカットオフ値とを比較してもよい。例えば、対象の尿中RAGE濃度がカットオフ値より高い場合に、対象はループス腎炎に罹患していると判定し得、カットオフ値よりも低い場合に、対象がループス腎炎に罹患していないと判定し得る。
「カットオフ値」とは、閾値ともいい、その値を基準としてループス腎炎を診断し得る値をいう。好ましくは、カットオフ値は、高い診断感度および高い診断特異度の両方を示す。ここで、感度とは、真の陽性率を意味する。また、特異度とは真の陰性率を意味する。例えば、ループス腎炎の患者で高い陽性率を示し、かつ、ループス腎炎に罹患していない対象で高い陰性率を示す尿中RAGE濃度をカットオフ値として設定し得る。複数のカットオフ値を設定することもできる。
カットオフ値の設定は、種々の統計解析手法を用いて、自体公知の方法により実施できる。一般的には、ループス腎炎の患者の尿中RAGE濃度と、ループス腎炎に罹患していない対象の尿中RAGE濃度を、統計解析的に処理することにより、カットオフ値を設定できる。
例えば、診断検査の有用性を検討する手法として一般的に用いられているROC解析(receiver opera ting characteristic analysis)により、カットオフ値の設定を行うことができる。ROC解析では、閾値を変化させていった場合に、それぞれの閾値における感度(Sensitivity)を縦軸に、FPF(False Positive Fraction、偽陽性率:1−特異度(Specificity))を横軸にプロットしたROC曲線が作成される。ROC曲線では、全く診断能のない検査は、対角線上の直線となるが、診断能が向上するほど、対角線が左上方に弧を描くような曲線となり、診断能100%の検査は、左辺−上辺上を通る曲線となる。カットオフ値の設定としては、例えば、感度と特異度の優れた独立変数のROC曲線は、左上隅に近づいていくという事実から、この左上隅との距離が最小となる点をカットオフ値にする方法がある。また、ROC曲線における曲線下面積(area under the curve、AUCと略称される)が0.500となる斜点線から最も離れたポイントをカットオフ値にする方法、つまり、(感度+特異度−1)を計算して、その最大値となるポイントであるヨーデン指標(Youden index)をカットオフ値に設定することもできる。
具体的には、ループス腎炎の患者の群(反応例)およびループス腎炎に罹患していない対象の群(無反応例)から採取した尿におけるRAGE濃度を測定し、測定された値における診断感度および診断特異度を求め、これらの値に基づき、市販の解析ソフトを使用してROC曲線を作成する。そして、診断感度と診断特異度が可能な限り100%に近いときの値を求めて、その値をカットオフ値とし得る。また、例えば、検出された値における診断効率(即ち、ループス腎炎の患者を正しく診断した症例と、ループス腎炎に罹患していない対象を正しく診断した症例との合計数の全症例数に対する割合)を求め、最も高い診断効率が算出される値をカットオフ値とし得る。
カットオフ値は、適宜変更することができる。即ち、尿中RAGE濃度の測定方法および比較方法、臨床上の使用目的、所望の感度および特異度などの条件に応じて、カットオフ値を設定することができる。
ある実施態様では、対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定する方法であって、
(1)対象から尿を採取する工程、および、
(2)当該尿におけるRAGE濃度を測定する工程、
を含む方法が提供される。
この方法はさらに、
(3)測定された尿中RAGE濃度を指標値またはカットオフ値と比較する工程、
(4)測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも高い場合に、対象がループス腎炎に罹患していると判定し、測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも低い場合に、対象がループス腎炎に罹患していないと判定する工程、
を含み得る。
さらなる実施態様では、対象がループス腎炎に罹患していると判定された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与することを決定する。さらなる実施態様では、対象がループス腎炎に罹患していると判定された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与する。
上記(B)に関して、対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎発症のリスクを判定する方法(方法(B))が提供される。方法(B)では、ループス腎炎を発症するリスクのバイオマーカーとしてRAGEを使用する。
方法(B)における対象は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物であり得、いかなる健康状態であってもよい。例えば、対象は、健康な対象、SLEの患者、または、SLEまたはループス腎炎の発症が疑われる対象であり得る。対象は、SLEの処置を受けていても、いなくてもよい。
ある実施態様では、測定した尿中RAGE濃度を指標値と比較することにより、対象のループス腎炎発症のリスクを判定する。指標値は、対象と同種の動物群(対照群)において尿中RAGE濃度を測定して得られる値であり得る。指標値は、被験対象の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に、対照群について決定した値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。
ある実施態様では、指標値は、SLEに罹患していない動物群(対照群)について得られた値であり得る。この場合、対象の尿中RAGE濃度が指標値よりも高い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定し得、指標値よりも低い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが低いと判定し得る。別の実施態様では、指標値は、SLEに罹患しているが、ループス腎炎を発症していない動物群について得られた値であり得る。この場合、対象の尿中RAGE濃度が指標値よりも高い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定し得、指標値よりも低い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが低いと判定し得る。また、指標値に対する被験値の高低の程度に基づいて、ループス腎炎を発症するリスクの大きさをさらに知ることができる。
また、尿中RAGE濃度のカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定値とカットオフ値とを比較してもよい。例えば、尿中RAGE濃度がカットオフ値より高い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定し得、カットオフ値より低い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定し得る。カットオフ値は、上記の方法(A)に準じて、適切な対照群の測定値に基づき、設定できる。
ある実施態様では、対象のループス腎炎発症のリスクを判定する方法であって、
(1)対象から尿を採取する工程、および、
(2)当該尿におけるRAGE濃度を測定する工程、
を含む方法が提供される。
この方法はさらに、
(3)測定された尿中RAGE濃度を指標値またはカットオフ値と比較する工程、
(4)測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも高い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定し、測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも低い場合に、対象がループス腎炎を発症するリスクが低いと判定する工程、
を含み得る。
さらなる実施態様では、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与することを決定する。さらなる実施態様では、対象がループス腎炎を発症するリスクが高いと判定された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与する。
上記(C)に関して、対象から採取された尿における尿中RAGE濃度を測定することを含む、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防の効果を予測する方法(方法(C))が提供される。上記の通り、RAGEアプタマーをループス腎炎の処置または予防に使用でき、そして、SLE患者の尿にRAGEが排出され、ループス腎炎の進展に伴って増加する。このことから、尿中にRAGEが検出される対象にはRAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防が有効であると予測することができる。このような方法は、一般的にコンパニオン診断と呼ばれる。
方法(C)において、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置の効果を予測する場合、方法(A)に準じて対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定し、対象がループス腎炎に罹患していると診断される場合に、RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置が有効であると予測する。
方法(C)において、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる予防の効果を予測する場合、方法(B)に準じて対象がループス腎炎に罹患するリスクを判定し、リスクが高いと判定される場合に、RAGEアプタマーによるループス腎炎の予防が有効であると予測する。
方法(C)は、RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防の前、最中、または後に実施することができる。ある実施態様では、RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防を受けていない対象に、方法(C)を実施する。RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防を受けていない対象には、当該処置または予防を受けたことのない対象、および、当該処置または予防を受けたことがあるが、方法(C)を実施する時点では受けていない対象が含まれる。別の実施態様では、RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防を受けている対象に、方法(C)を実施し、処置または予防を継続するか否かを決定する。
ある実施態様では、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防が有効であると予測された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与することを決定する。ある実施態様では、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防が有効であると予測された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与する。ある実施態様では、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防が有効ではないと予測された場合に、対象にRAGEアプタマーを投与しないことを決定する。ある実施態様では、RAGEアプタマーによるループス腎炎の処置または予防を受けている対象において、当該処置または予防が有効ではないと予測された場合に、当該処置または予防を中断、延期または中止する。
ある実施態様では、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防の効果を予測する方法であって、
(1)対象から尿を採取する工程、および、
(2)当該尿におけるRAGE濃度を測定する工程、
を含む方法が提供される。
この方法はさらに、
(3)測定された尿中RAGE濃度を指標値またはカットオフ値と比較する工程、
(4)測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも高い場合に、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防は有効であると予測し、測定された尿中RAGE濃度が指標値またはカットオフ値よりも低い場合に、対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防は有効ではないと予測する工程、
を含み得る。
上記(D)に関して、対象から少なくとも2つの時点で採取された尿におけるRAGE濃度を測定し、比較することを含む、対象のループス腎炎をモニタリングする方法(方法(D))が提供される。方法(D)では、ループス腎炎の病態進展のバイオマーカーとしてRAGEを使用する。
方法(D)における対象は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物であり得、いかなる健康状態であってもよい。例えば、対象は、健康な対象、SLEまたはループス腎炎の患者、または、SLEまたはループス腎炎の発症が疑われる対象であり得る。また、上記少なくとも2つの時点で、対象のSLEまたはループス腎炎の状態は同じであっても異なっていてもよい。対象は、SLEまたはループス腎炎の処置を受けていても、いなくてもよい。
方法(D)では、2つの時点またはそれ以上の時点で採取された尿を用い得る。採取時点の間隔は、一定であっても異なっていてもよい。例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、10日に1回、1週、2週、3週、4週に1回、1月、2月、3月、4月に1回、半年に1回、1年に1回等の頻度で採取した尿を用い得る。
ある実施態様では、少なくとも2つの時点で採取された尿におけるRAGE濃度を比較した結果、対象の尿中RAGE濃度が増加した場合に、ループス腎炎が進行したと判定し得、対象の尿中RAGE濃度が減少した場合に、ループス腎炎が改善されたと判定し得る。従って、この方法により、例えば、ループス腎炎の病態進展を観察すること、または、ループス腎炎の処置の効果を確認することができる。
ある実施態様では、対象のループス腎炎をモニタリングする方法であって、
(1)対象から少なくとも2つの時点で尿を採取する工程、
(2)当該尿におけるRAGE濃度を測定する工程、および、
(3)測定された尿中RAGE濃度を比較する工程、
を含む方法が提供される。
この方法はさらに、
(4)対象の尿中RAGE濃度が増加した場合に、ループス腎炎が進行したと判定し、対象の尿中RAGE濃度が減少した場合に、ループス腎炎が改善されたと判定する工程、
を含み得る。
ある態様では、本願は、RAGEを検出するための少なくとも1種の試薬を含む、ループス腎炎を診断するための組成物を提供する。RAGEを検出するための試薬は、尿中RAGE濃度を測定し得るものであり、例えば、上記の抗RAGE抗体、RAGEアプタマーまたはRAGEリガンド、特に抗RAGE抗体であり得る。RAGEを検出するための試薬は、水または適当な緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解されるか、または凍結乾燥された状態で提供され得る。当該組成物は、例えば、上記方法(A)ないし(D)のいずれかにおいて使用し得る。
ある態様では、本願は、RAGEを検出するための少なくとも1種の試薬または上記のループス腎炎を診断するための組成物を含む、ループス腎炎を診断するためキットを提供する。キットは、尿中RAGE濃度の測定に必要な他の成分や試薬、例えば、標識二次抗体、標識プローブ、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、希釈剤、ELISAプレート、ブロッティング膜などをさらに含み得る。キットは、RAGE陽性または陰性の対照試料または対照試薬を含み得る。さらに、使用のための説明を含む添付文書(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)等の、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の構成要素を含み得る。
キットに含まれる各構成要素は、各々別個に、あるいは可能であれば混合した状態で、水または適当な緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解されるか、または凍結乾燥された状態で、適切な容器中に収容されて提供され得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、試験管、プレート、マルチウェルプレート、メンブレン等が含まれる。容器は、ガラス、プラスチック、金属などの多様な材料から形成されていてよい。容器は、ラベルを有していてもよい。キットは、例えば、上記方法(A)ないし(D)のいずれかにおいて使用し得る。
ある態様では、本願は、対象のループス腎炎を診断するための、RAGEを検出するための試薬の使用を提供する。あるいは、本願は、対象のループス腎炎を診断するための医薬を製造するための、RAGEを検出するための試薬の使用を提供する。RAGEを検出するための試薬は、上記の抗RAGE抗体、RAGEアプタマーまたはRAGEリガンド、特に抗RAGE抗体であり得る。
本願は、例えば、下記の実施態様を提供する。
[1]RAGEアプタマーを含む、ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物。
[2]RAGEアプタマーが以下からなる群から選択される、第1項に記載の組成物:
(1)配列番号1〜10のいずれかの配列を含む、一本鎖DNA;
(2)配列番号1〜10のいずれかの配列と90%以上の配列同一性を有する配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNA;および、
(3)配列番号1〜10のいずれかの配列において1、2、または3個の塩基が欠失、置換、または付加された配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNA。
[3]RAGEアプタマーが、配列番号1〜10のいずれかの配列を含む、第1項または第2項に記載の組成物。
[4]RAGEアプタマーが、配列番号1〜10のいずれかの配列からなる、第1項〜第3項のいずれかに記載の組成物。
[5]全身性エリテマトーデスの患者に投与するための、第1項〜第4項のいずれかに記載の組成物。
[6]ループス腎炎を処置するための、第1項〜第5項のいずれかに記載の組成物。
[7]ループス腎炎を予防するための、第1項〜第5項のいずれかに記載の組成物。
[8]全身性エリテマトーデスの患者に投与するための、RAGEアプタマーを含む医薬組成物。
[9]対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎の診断方法。
[10]対象がループス腎炎に罹患しているか否かを判定するための、第9項に記載の方法。
[11]ループス腎炎発症のリスクを判定するための、第9項に記載の方法。
[12]対象のループス腎炎のRAGEアプタマーによる処置または予防の効果を予測するための、第9項に記載の方法。
[13]対象のループス腎炎をモニタリングするための、第9項に記載の方法。
[14]対象が全身性エリテマトーデスの患者である、第9項ないし第13項のいずれかに記載の方法。
[15]RAGEを検出するための試薬を含む、ループス腎炎を診断するための組成物。
[16]RAGEを検出するための試薬が、抗RAGE抗体、RAGEアプタマーまたはRAGEリガンドである、第15項に記載の組成物。
[17]RAGEを検出するための試薬が抗RAGE抗体である、第15項または第16項に記載の組成物。
[18]第15項ないし第17項のいずれかに記載の組成物を含む、ループス腎炎を診断するためのキット。
[19]ループス腎炎のバイオマーカーとしてのRAGEの使用。
以下、実施例により本願の開示をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
モデル動物
全身性エリテマトーデスのモデルであり、ループス腎炎を自然発症するMRL/MpJ−Faslpr/J(MRL/lpr)マウスを使用した(The Jackson Laboratoryより購入)。MRL/lprマウスは、通常、約16週齢で免疫複合体による糸球体腎炎を発症し、20週程度で約50%が腎不全死へ至る(Arthritis Rheum. 2006 Jan;54(1):325-35)。対照として、C57BL6/JマウスまたはMRL/MPJマウスを使用した。MRL/MPJマウスは、MRL/lprマウスとバックグラウンドが同じマウスであり、MRL/lprマウスの対照として汎用されている。
実験1:腎臓の過ヨウ素酸シッフ試薬染色
8、12、16および18週齢の雌MRL/lprマウスから腎組織を採取し、糸球体、近位尿細管および遠位尿細管を、組織中の多糖類を染色する過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS)で染色した。結果を図1に示す。
実験2:糸球体および尿細管間質におけるRAGE発現
8、12、16および18週齢の雌MRL/lprマウスおよびMRL/MPJマウスから腎組織を採取し、糸球体および尿細管間質を蛍光抗体法にて染色した。1次抗体として抗RAGE抗体(金沢大学山本靖彦先生より供与)を、2次抗体としてAlexa Fluor 488 標識抗マウス抗体を使用した。蛍光強度を共焦点顕微鏡により測定し、RAGE陽性面積を測定し、対照の測定値を1として各測定値の相対値を算出した。結果を図2に示す。糸球体では時間依存的にRAGE発現が増加した(図2A)。尿細管では早期にRAGE発現が増加し、それが維持された(図2B)。
実験3:尿細管におけるRAGEの局在
MRL/lprマウス尿細管のどの細胞でRAGE発現が増加しているかを調べるために、8週齢雌MRL/lprマウスおよびMRL/MPJマウスの尿細管を抗RAGE抗体で免疫染色した。結果を図3に示す。また、RAGEとNCX(遠位尿細管マーカー)を蛍光抗体法で二重染色した。1次抗体として抗RAGE抗体および抗NCX抗体を、2次抗体として各々Alexa Fluor488およびAlexa Fluor標識抗体を使用した。RAGEとNCXは有意に共染色された。これは、ループス腎炎の早期に遠位尿細管でRAGE発現が増加することを示す。
実験4:遠位尿細管におけるRAGEの細胞内局在
定常状態ではRAGEは主に細胞膜に局在するが、図3において、遠位尿細管のRAGEは細胞内で粒状に局在した。このRAGEの細胞内局在を調べた。蛍光抗体法によりRAGEと各種マーカーを共染色し、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図4に示す。RAGEは晩期エンドサイトーシス膜表面蛋白であるRab7(上段)およびライソゾーム酵素であるカテプシンD(中段)と共染色された。しかしながら、オートファジー関連蛋白であるLC3とは全く共染色されなかった(下段)。これらの結果は、RAGEはオートファジーに関与せず、エンドサイトーシスおよびライソゾームでの蛋白分解に関与することを示唆する。
実験5:糸球体におけるRAGEの局在
MRL/lprマウス糸球体におけるRAGEの過剰発現の部位を調べた。18週齢雌MRL/lprマウスの糸球体において、蛍光抗体法によりRAGEと各種マーカーを共染色し、共焦点顕微鏡で観察した。結果を図5に示す。RAEGは血管内皮細胞マーカーであるCD34と共染色された(上段)。ポドサイト(糸球体上皮細胞)のマーカーであり、細胞質に局在するWT1とは共染色されず、その周囲にRAGEが見られた(下段)。ポドサイトではRAGEが主に細胞膜に局在する(定常状態である)ことが示された。
実験6:尿中RAGE排泄量
8、12、14、16および18週齢雌MRL/lprマウス(n=5)および9週齢MRL/MPJマウス(n=5)(対照)の尿を採取し、尿中RAGE排泄量をELISAにより測定した。対照の尿中RAGE排泄量を1として、尿中RAGE排泄量を相対的に比較した。尿蛋白量を尿中クレアチニン補正により測定した。結果を図6に示す。MRL/lprマウスでは8週齢から尿中RAGE排泄量が増加していた(図6上)。尿蛋白量には全研究期間内で有意差はなかった(図6下)。これらの結果は、SLEマウスでは尿中RAGE濃度が高いことを示す。
実験7:尿中RAGE排泄量と尿中NAG排泄量の相関
実験6と同じサンプルを用いて、尿中RAGE排泄量と、尿細管障害マーカーである尿中NAG(N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ)排泄量との関連性を調べた。尿中NAG排泄量の測定は株式会社SRLに委託し、ELISAまたはEIA法にて実施した。結果を図7に示す。MRL/lprマウスの尿中NAG排泄量は18週齢で増加した(図7上)。すべての週齢のサンプルについて、MRL/lprマウスの尿中NAG排泄量(NAG/Cre比)を横軸に、尿中RAGE排泄量(RAGE/Cre比)を縦軸にプロットすると、強い正の相関関係が見られた(図7下)。これらの結果は、腎炎の進行に伴って、尿中RAGE排泄量が増加することを示す。
RAGEアプタマーの投与とサンプル採取
下記のRAGEアプタマー(RAGE−apt)およびコントロールアプタマー(Ctr−apt)を使用した。
8週齢雌MRL/lprマウスを2群に分け、RAGEアプタマー(n=6)またはコントロールアプタマー(n=9)を、浸透圧ポンプを用いて皮下持続投与した(2.0×10−4μg/日)。8、12、16および18週齢で尿と血液を採取した。18週齢で屠殺し、腎臓、肝臓、脾臓および肺を採取した。以下の実験では、これらのサンプルを使用した。
実験8:ループス腎炎に対するRAGEアプタマーの効果
18週齢のサンプルの血中尿素窒素(BUN)をUV法にて測定した。腎組織のマッソントリクローム染色(免疫複合体の沈着が赤く染まる染色)を行い、糸球体における染色陽性の面積を測定した。18週齢サンプルの血中の抗ds−DNA抗体をELISA法(レビス)により測定した。18週齢サンプルの血中IgG濃度をCLEIAにより測定した。18週齢サンプルの血中C3濃度を免疫比濁法により測定した。18週齢サンプルの血中Na濃度を電極法により測定した。18週齢のサンプルの尿アルブミン排泄量を免疫比濁法により測定した。結果を図8および下表に示す。

データは平均±SEMである。
*は、P < 0.05 vs. MRL/MPJを示す。#は、P < 0.05 vs. MRL/lpr + Ctrl-aptを示す。
**は、P=0.051 vs. MRL/MPJを示す。##は、P=0.055 vs. MRL/lpr + Ctrl-aptを示す。
略号;
BP:血圧、HR:心拍数、KW:腎臓重量、BW:体重、BUN:血中尿素窒素、UAE:尿アルブミン排泄量
RAGEアプタマー投与群では、BUNが低かった。これは、RAGEアプタマーの投与により腎機能低下が抑制されたことを示す。腎組織のマッソントリクローム染色は、RAGEアプタマー投与により糸球体における免疫複合体の沈着が抑制されたことを示す(図8、上段)。また、RAGEアプタマーを投与されたマウスでは、B細胞から産生される免疫グロブリンの中で最も自己免疫性疾患に関与するIgGの濃度が低かった。さらに、RAGEアプタマー投与群では、血中C3濃度が高かった。ループス腎炎活動期には低下する補体成分C3がRAGEアプタマー投与にて改善することから、炎症が軽減したことによりC3の消費が抑えられループス腎炎の活動性が抑制されたことを示唆する結果である。
実験9:RAGE発現に対するRAGEアプタマーの効果
腎組織に存在するRAGEの量をウェスタンブロッティング法にて解析した。また、腎組織からmRNAを抽出し、リアルタイムRT−PCRにて腎組織におけるRAGE発現量を測定した。結果を図9に示す。ウェスタンブロッティング法では、RAGEアプタマー投与群と対照群で、RAGEの量に有意差は見られなかった(上段)。一方、リアルタイムRT−PCRにより測定したRAGE発現量は、RAGEアプタマー投与群で有意に低かった(下段)。この結果は、RAGEアプタマー投与群において腎臓におけるRAGEの発現が抑制されたことを示す。ウェスタンブロッティング法では、血流由来のRAGEもサンプルに含まれるため、有意差が見られなかったと考えられる。
実験10:RAGEアプタマーによるHMGB1沈着の抑制
HMGB1は、SLEに関連するRAGEリガンドの代表格である。腎組織におけるHMGB1の沈着の程度を、免疫染色にて解析した。腎組織全体のHMGB1含有量をウェスタンブロッティング法にて解析した。血漿中HMGB1量をELISAにて測定した。結果を図10に示す。RAGEアプタマー投与群と対照群で、腎組織全体(9割は尿細管)のHMGB1含有量(上段、右)および血漿中HMGB1量(下段)に有意差は見られなかったものの、糸球体においてHMGB1の沈着が抑制された(上段、左)。つまりRAGEリガンドであるHMGB1を細胞内へ取り込む役割を担っていると考えられるRAGEを阻害することで組織への沈着は抑制されるが、流血中や尿中へ存在するHMGB1の量は変わらないために腎臓および血中のHMGB1濃度は変わらなかったと考えられる。
実験11:炎症性サイトカインの発現に対するRAGEアプタマーの効果
腎臓、肝臓、脾臓および肺組織からmRNAを抽出し、リアルタイムRT−PCRにて炎症性サイトカインであるIL−6およびTNFαの発現量を測定した。また、炎症性サイトカインであるMCP−1について、腎臓における発現量を測定した。結果を図11〜13に示す。興味深いことに、RAGEアプタマー投与群のIL−6およびTNFaのmRNA量は、腎臓のみで約1/10まで低下し、MCP−1のmRNA量は、腎臓で有意に低下していた。この結果から、RAGEが腎臓において特有の役割を有すること、および、RAGEの阻害により炎症が抑制され、腎保護効果がもたらされることが示唆される。
実験12:Kim1の発現に対するRAGEアプタマーの効果
急性腎障害マーカーでありアポトーシスに関与するKim1の発現を、腎皮質免疫染色により解析した。結果を図14に示す。RAGEアプタマー投与群では、対照群と比較して、明らかにKim1発現が低かった。一般的に、炎症プロセスでアポトーシスへ誘導された腎臓の細胞(血管内皮細胞、尿細管細胞)はKim1を発現し、T細胞による貪食を受ける。上記のRAGEアプタマーの投与による腎組織における炎症性サイトカイン発現の低下を考慮すると、RAGEアプタマーにより炎症プロセスが抑制され、Kim1の発現も抑制されたと考えられる。
実験13:糸球体病変に対するRAGEアプタマーの効果
糸球体病変に対するRAGEアプタマーの効果を調べた。糸球体における半月体の形成を、PAS染色にて観察した。糸球体におけるワイヤーループ病変の形成を、マッソントリクローム染色にて観察した。マクロファージマーカーである抗CD68抗体および抗RAGE抗体を用いる蛍光抗体法により、糸球体におけるマクロファージの浸潤を観察した。結果を図15〜17に示す。MRL/lprマウスにおいて、RAGEアプタマーの投与は、半月体形成および糸球体内皮細胞の腫大を抑制し(図15)、ワイヤーループ病変の形成を減少させた(図16)。また、コントロールアプタマーを投与したマウスの糸球体では、マクロファージの浸潤が見られ、RAGEと共局在していたが、RAGEアプタマーを投与されたマウスの糸球体ではマクロファージの浸潤は有意に少なく、RAGEとの共局在は見られなかった(図17)。このことは、RAGEアプタマーにより、糸球体内へのマクロファージの浸潤が抑制されたことを示唆する。
考察
自然発症SLEのモデルであるMRL/lprマウスは、生後24週前後で約50%が腎炎に起因する腎不全で死亡することが報告されている。上記の実験により、MRL/lprマウスの腎組織において、週齢を追ってRAGEの発現が増加することが明らかとなった。また尿中のRAGEも、MRL/lprマウスで対照マウスと比較して有意に増加し、尿中の尿細管障害マーカーであるNAG/Cre比とRAGE/Cre比に強い相関関係が認められた。
以上の結果から、SLEマウスにおいて、比較的早期からRAGE発現が増加し、ループス腎炎の病態進展に伴って増加することが判明した。従って、尿中のRAGEをループス腎炎の病態進展のバイオマーカーとして使用できる。
また、MRL/lprマウスにRAGEアプタマーを投与したところ、腎機能の増悪が抑制されただけでなく、半月体形成および糸球体内皮細胞の腫大が抑制され、ワイヤーループ病変の形成が減少した。ワイヤーループ病変や半月体形成は、特にびまん性ループス腎炎で見られる現象である。また糸球体内へのマクロファージの浸潤が抑制されたことから、糸球体内の細胞に2本鎖DNAやRNAなど抗原抗体反応を惹起させる分子が取り込まれておらず、糸球体における免疫細胞の活性化が抑制されていると考えられる。また腎組織における炎症性サイトカインIL−6、TNFα、MCP−1mRNAレベルが1/10程度まで抑制されたことから、RAGEアプタマーにより腎臓において炎症および免疫惹起因子が抑制され、それにより腎機能が保持されたと考えられる。
アプタマーは核酸を本体とする次世代分子標的薬であり、一般的に免疫原性が低い。上記RAGEアプタマーのRAGEに対する親和性は高いため、少ない投与量で効力を発揮し得る。また、大量生産が可能であり、ロット間の差異が少ないので、生産コストが低い。従って、上記RAGEアプタマーは、医薬として好適に製造および使用し得る。
配列番号1:アプタマー
配列番号2:アプタマー
配列番号3:アプタマー
配列番号4:アプタマー
配列番号5:アプタマー
配列番号6:アプタマー
配列番号7:アプタマー
配列番号8:アプタマー
配列番号9:アプタマー
配列番号10:アプタマー
配列番号11:アプタマー

Claims (15)

  1. RAGEアプタマーを含む、ループス腎炎を処置または予防するための医薬組成物。
  2. RAGEアプタマーが以下からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物:
    (1)配列番号1〜10のいずれかの配列を含む、一本鎖DNA;
    (2)配列番号1〜10のいずれかの配列と90%以上の配列同一性を有する配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNA;および、
    (3)配列番号1〜10のいずれかの配列において1、2、または3個の塩基が欠失、置換、または付加された配列を含み、RAGEに結合してRAGEとそのリガンドとの結合を阻害する、一本鎖DNA。
  3. RAGEアプタマーが、配列番号1〜10のいずれかの配列を含む、請求項1または2に記載の組成物。
  4. RAGEアプタマーが、配列番号1〜10のいずれかの配列からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
  5. 全身性エリテマトーデスの患者に投与するための、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
  6. ループス腎炎を処置するための、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
  7. ループス腎炎を予防するための、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
  8. 全身性エリテマトーデスの患者に投与するための、RAGEアプタマーを含む医薬組成物。
  9. 対象から採取された尿におけるRAGE濃度を測定することを含む、ループス腎炎の診断方法。
  10. 対象が全身性エリテマトーデスの患者である、請求項9に記載の方法。
  11. RAGEを検出するための試薬を含む、ループス腎炎を診断するための組成物。
  12. RAGEを検出するための試薬が、抗RAGE抗体、RAGEアプタマーまたはRAGEリガンドである、請求項11に記載の組成物。
  13. RAGEを検出するための試薬が抗RAGE抗体である、請求項11または請求項12に記載の組成物。
  14. 請求項11ないし請求項13のいずれかに記載の組成物を含む、ループス腎炎を診断するためのキット。
  15. ループス腎炎のバイオマーカーとしてのRAGEの使用。
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