JP2018145492A - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、並びにモータコアおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.0%〜3.5%、Al:1.0%〜3.5%、Mn:0.0%〜3.0%、S:0.0030%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、Al/Siの質量比が0.5以上であり、板厚1/10〜板厚1/5の中間層における{223}<252>方位の集積度が6以下である無方向性電磁鋼板。
【選択図】なし
Description
駆動モータの小型化の需要に伴い、モータは高トルク化が必要である。そのため、無方向性電磁鋼板には、磁束密度のさらなる向上が要求されている。
また、自動車に搭載する電池容量には制限があることから、モータにおけるエネルギー損失を低くする必要がある。そのため、無方向性電磁鋼板には、さらなる低鉄損化が求められている。
さらに、モータの高速回転化の要求も高まっているため、高周波での磁気特性(以下、「高周波特性」と称する場合がある。)向上も重要視されるようになっている。
しかし、歪取り焼鈍は、歪を解放して鉄損を改善する効果は得られる一方で、同時に磁気特性にとって好ましくない結晶方位が発達し磁束密度が低下してしまうことがある。そのため、特に高い磁気特性が求められる場合には、歪取り焼鈍での磁束密度低下の回避が求められている。
また、特許文献2には、質量%で、Si≦4.0、Al≦2.0%を含む特定の化学組成で含む鋼帯を、圧下率5%以上40%未満で冷間圧延を行う等の工程を経て得られた無方向性電磁鋼板が開示されている。
しかしながら、特許文献1、2に開示された無方向性電磁鋼板は、例えば、HEV等の駆動モータ用のコアのように、高い磁気特性が要求されるレベルに対して十分な性能を有していなかった。
特許文献4には、0.1%<Si≦2.0%、Al≦1.0等の特定の化学組成を有し、仕上げ熱延終了温度が550℃〜800℃等の特定の製造条件で製造した無方向性電磁鋼板が開示されている。しかしながら、Alの含有量が質量%で1.0%以下に制限されており、高い磁気特性が要求されるレベルに対して十分な性能ではなかった。また、熱延温度を500℃〜850℃とする低温熱延を施して製造しても、期待される効果は得られなかった。
しかしながら、特許文献5〜7に記載の技術は、特許文献4と同様に、熱延温度を500〜850℃とする低温熱延を施すものであり、このような低温熱延を施して製造しても、期待される効果は得られず、やはり、高い磁気特性が要求されるレベルに対して十分な性能ではなかった。さらに、特許文献5〜7に記載の技術は、高周波での鉄損が要求されるレベルに対して十分な性能ではなかった。
特許文献9には、仕上げ焼鈍の加熱速度が速すぎると鉄損が悪化するため、仕上げ焼鈍の加熱速度を40℃/secに遅くすることで、鉄損の悪化を回避する技術が開示されている。
特許文献10には、仕上げ焼鈍の加熱速度を100℃/secと非常に速くすることで、集合組織を制御し磁束密度を高める技術が開示されている。しかし、単純に加熱速度を速めると、磁気特性が不安定になる問題が指摘されている。
特許文献11には、仕上げ焼鈍の加熱速度が速い場合、磁束密度が不安定になるため、特に、600℃〜700℃及び700℃〜760℃の温度範囲のそれぞれの温度域での適切な加熱速度を選択することで、磁束密度の不安定化を避ける技術が開示されている。
特許文献12、13には、セミプロセス無方向性電磁鋼板に関する技術が開示されている。セミプロセス無方向性電磁鋼板は、仕上げ焼鈍による再結晶後の鋼板に歪を付与した状態で出荷し、その後、鋼板ユーザーで熱処理を行い、歪を解放して磁気特性を得ることを前提としたものである。
特に、特許文献12では、Al窒化物との関連で、仕上げ焼鈍時の加熱速度を5℃/sec〜40℃/secとすることが有効であることが示されている。また、特許文献13では、低Al鋼において、740℃までの加熱速度を100℃/sec以上に早めることで、セミプロセス用の磁気特性を改善した技術が開示されている。
しかし、これまでの技術では、高周波特性および歪取り焼鈍後の磁気特性を考慮した、前述のような現代の市場ニーズに十分に応えられるものではなかった。
このように、従来の無方向性電磁鋼板は、高い磁気特性が要求されるレベルに対して十分な磁気特性を満足するものではなく、さらなる磁気特性の向上が求められていた。
C:0.0030%以下、
Si:0.0%〜3.5%、
Al:1.0%〜3.5%、
Mn:0.0%〜3.0%、
S:0.0030%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、
Al/Siの質量比が0.5以上であり、
板厚1/10〜板厚1/5の中間層における{223}<252>方位の集積度が6以下である無方向性電磁鋼板。
<2> 前記中間層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値が11以上である<1>の無方向性電磁鋼板。
<3> 前記中間層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MI100)と、鋼板表面〜板厚1/10の表面層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MS100)と、板厚1/5〜板厚1/2の中心層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MC100)とが、
MI100>MS100>MC100
の関係を満たす<1>または<2>に記載の無方向性電磁鋼板。
<4> 磁化力5000A/mで励磁した場合の全周方向平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.885以上である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<5> 圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の5方向における磁束密度のうち、最も磁束密度が高いB50maxと、最も磁束密度が低いB50minとの差を、飽和磁束密度Bsで除した値が0.015以下[(B50max−B50min)/Bs≦0.015)]である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<6> 熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、前記BBと前記BAとの比が、BB/BA≧0.98の関係を満足する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<7> <1>に記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の鋼板に冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の鋼板に仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と
を有し、下記(a)、(b)、および(c)のうちの少なくとも1つの条件を満足する<1>〜<6>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(a)熱間圧延工程:500℃〜800℃の温度域で仕上げ圧延を行う
(b)冷間圧延工程:合計圧下率が90%以上となるように冷間圧延する
(c)仕上げ焼鈍工程:冷間圧延工程後の鋼板に、室温(25℃)〜800℃の温度域 での平均加熱速度が80℃/sec以上となるように仕上げ焼鈍する
<8> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
<9> <1>〜<6>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る工程と、
前記打ち抜き部材を積層する工程と、
を有する、モータコアの製造方法。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、表面層とは、鋼板表面から板厚1/10までの領域を示す。中間層とは、板厚1/10から板厚1/5までの領域を示す。中心層とは、板厚1/5から板厚1/2までの領域を示す。
(結晶方位の特徴)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.0030%以下、Si:0.0%〜3.5%、Al:1.0%〜3.5%、Mn:0.0%〜3.0%、S:0.0030%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有する。
そして、Al/Siの質量比が0.5以上である。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、上記特性を有することで、高周波特性および歪取り焼鈍後の磁気特性を考慮した磁気特性に優れる。これについて以下に説明する。
したがって、本実施形態の無方向性電磁鋼板では、中間層における{223}<252>方位の集積度を6以下と規定している。好ましくは5以下、より好ましくは4以下である。中間層における{223}<252>方位の集積度は、0でも構わない。
一般的に、Siは変形に伴う転位のすべり系を限定させる効果を有することが知られている。しかし、Alを高濃度で含有することで、すべり系が変化する。そして、再結晶時の加熱速度を高めることで、本来出現すべき{223}<252>方位の核発生が抑制され、従来と異なる挙動を示すようになったと考えられる。また、冷延圧下率が高い場合に、{223}<252>方位の抑制効果が強く働くことも、圧延時の転位のすべり系の変化との関連を示していると考えられる。
また、Alを高濃度で含有する鋼片に、低温で仕上げ熱延を施した場合にも、同様の現象が生じていると考えられる。
しかしながら、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、中間層に存在する磁気特性に好ましくない{223}<252>方位が低減されていることにより、歪取り焼鈍により粒成長させた場合であっても、磁気特性の低下を抑制することができたものと考えられる。
したがって、本実施形態の無方向性電磁鋼板では、中間層における{100}方位のピーク集積度を、11以上とすることがよい。好ましくは14以上、より好ましくは17以上である。
板厚方向の集合組織変化が、上記関係となることで、歪取り焼鈍での粒成長による磁気特性低下を回避できるとともに、高周波特性に優れた鋼板を得ることが可能となる。この変化の程度としては、好ましくはMI100/MS100またはMI100/MC100が1.1以上、さらに好ましくは1.2以上である。
各測定用試験片について、X線回折装置により、{200}面、{110}面、{211}面の極点図を測定し、各層における結晶方位分布関数ODF(Orientation Determination Function)を作成する。この結晶方位分布関数に基づき、{223}<252>方位の集積度、および各層における{100}方位のピーク集積度を得る。
Cは、鉄損を高める成分であり、磁気時効の原因ともなるので、Cの含有量は少ないほどよい。そのため、Cの含有量は0.0030%以下とする。C量の好ましい上限は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下である。Cの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはCの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
Siは含有量が増えると、磁束密度が低下し、かつ硬度の上昇を招いて、打ち抜き加工性を劣化させ、また、無方向性電磁鋼板の製造工程そのものにおいても、冷延等の作業性の低下、及びコスト高となる。そのため、Siの含有量は3.5%以下とする。Si量の好ましい上限は3.2%以下、より好ましい上限は3.0%以下である。一方、Siは0%でもよいが、鋼板の電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させ、鉄損を低減する作用を有するため、必要に応じて添加すればよい。Si量の好ましい下限は0.1%以上、より好ましい下限は0.5%以上、さらには1.0%以上とすることがよい。
Alは、Siと同様に、電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させることにより、鉄損を低減する作用のある成分であるが、Siと比較すると、鋼板の硬度を上昇させる作用が少ない。このため、Alは1.0%以上含有させる必要がある。Al量の好ましい下限は1.2%以上、より好ましい下限は1.5%以上である。一方、Alの含有量が増加すると、飽和磁束密度が低下して、磁束密度の低下を招く。さらには、降伏比の減少を招いて、打ち抜き加工性も劣化させる。そのため、Al含有量の上限は3.5%以下とする。Al量の好ましい上限は3.0%以下、より好ましい上限は2.7%以下である。
なお、Al/Siの質量比の比率を高めると、{100}方位のピーク集積度が増加し、表面層および中間層での{223}<252>方位の集積度が低下しやすくなり、磁束密度が向上する。そのため、Si/Alの質量比は、0.5以上とする。Si/Alの質量比は、0.7以上がよく、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。
Mnは電気抵抗を増大させて渦電流損を減少させるとともに、結晶粒成長に有害なMnS等の微細硫化物の析出を抑制する。これらの目的のためにMnを含有する場合、Mnを0.1%以上含有させることが好ましい。Mn量の好ましい下限は0.15%以上である。しかし、Mnの含有量が増加すると、焼鈍時の結晶粒成長性が低下し、鉄損が増大する。そのため、Mnの含有量の上限は3.0%以下とする。Mn量の好ましい上限は2.5%以下、より好ましくは2.0%以下である。
なお、上記の合金元素成分Si、Al、及びMnの相互の元素間には、(Si含有量)+(2×Al含有量)−(Mn含有量)が、質量%で、2.0%以上の関係を満足することがよい。(Si含有量)+(2×Al含有量)−(Mn含有量)が2.0%未満では、α−γ変態が存在する化学成分系となる。そのため、無方向性電磁鋼板の製造工程における仕上げ焼鈍時にも、α−γ変態が生じる場合があり、磁気特性の向上が阻まれることがあるため、上記の関係を満足することがよい。
Sは、MnS等の硫化物の微細析出により、仕上げ焼鈍時等における再結晶および結晶粒成長を阻害するので、0.0030%以下とする。S含有量の好ましい上限は0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下である。Sの含有量の下限は特に限定されないが、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはSの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
鋼板の残部は、Feおよび不純物元素である。ここで、不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜等を除去する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、絶縁皮膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、硫酸水溶液(H2SO4:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で3分間、浸漬する。その後、硝酸水溶液(HNO3:10質量%+H2O:90質量%)によって、常温(25℃)で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、後述の絶縁皮膜が除去された鋼板を得ることができる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、優れた磁気特性を有する点で、磁化力5000A/mで励磁した場合の全周方向平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.875以上であることがよい。好ましくは0.880以上、さらに好ましくは0.885以上、さらに好ましくは0.890以上である。B50/Bsの上限は特に限定されないが、1に近いほどよく、例えば、0.980以下が挙げられる。
また、全周方向平均の磁束密度B50は1.75(T)以上(好ましくは1.80(T)以上)であることがよい。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、磁束密度の面内異方性に優れている。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、磁束密度の面内異方性に優れる点で、圧延方向(0°)、圧延方向に対して、22.5°、45°、67.5°、及び90°の5方向における磁束密度のうち、最も磁束密度が高いB50maxと、最も磁束密度が低いB50minとの差を、飽和磁束密度Bsで除した値が0.018未満[(B50max−B50min)/Bs<0.018]であることがよい。好ましくは、0.015以下[(B50max−B50min)/Bs≦0.015]、より好ましくは0.013以下[(B50max−B50min)/Bs≦0.013]である。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、前述の通り、鋼板の表層および中間層の結晶方位において、磁気特性にとって好ましくない{223}<252>方位への集積を抑制している。また、磁気特性にとって好ましい{100}方位への集積を促進している。特性値は鋼板成分および集合組織制御の程度などにより大きく変化するため、特に定量的には規定しないが、磁束が鋼板表層近傍に集中する高周波での励磁状況において、特に好ましい特性を発揮することを特徴としている。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、追加の熱処理(歪取り焼鈍)をした場合であっても、再結晶粒の成長の際に生じていた磁束密度の低下を抑制することができるものである。
例えば、追加の熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、BBとBAとの比が、BB/BA≧0.98(好ましくはBB/BA≧0.985、より好ましくはBB/BA≧0.99)の関係を満足することができる。
なお、BB/BAの上限は特に定めないが、追加熱処理により特性劣化がない(つまり、BB/BA=1.0)ことは、目標とする基準でもある。ただし、本実施形態の無方向性電磁鋼板において、結晶方位を板厚方向の変化を考慮して好ましく制御しているため、磁気特性にとって好ましい方位が優先的に成長し、BB/BAが1.0を超えることもある。
ここで、追加の熱処理を実施する前および後の磁束密度BAおよびBBの測定方法は、前述のB50と同じである。
特に、このような結晶方位(例えば、{111}、{223}、{112}等)による成長の優先性は、板厚方向についての結晶方位の変化が生じ易い。つまり、隣接粒との方位差が大きくなる可能性が高く、粒成長の駆動力が高くなりやすい中間層の結晶粒の影響を受けやすいと考えられる。
なお、発明を実現するために採用した条件によっては、{111}方位および{112}方位の少なくとも一方の方位の集積も抑制され、磁束密度に取って好ましい効果を奏する。条件によっては、{111}方位および{112}方位の少なくとも一方の方位の集積が増大することもあるが、その影響は{100}方位および{223}方位を制御して得られる効果に比べると小さい。このため、本実施形態の無方向性電磁鋼板によって得られる効果を損ねるほどのものではない。
上記では粒成長における結晶方位の好ましい選択の効果を80μm前後での方位変化により説明したが、この効果は、例えば、仕上げ焼鈍において(急速加熱焼鈍において)、80μm超、例えば100μmまたはそれ以上とした鋼板においても、そこからのさらなる粒成長、例えば200μmまたはそれ以上とする際の好ましい方位選択性が失われるものではない。
試験片を板厚断面が観察できるように切断し、ナイタールエッチングにより粒界を腐食させて発現させる。その後、板厚断面の金属組織を光学顕微鏡により撮影し、100個以上の結晶粒の結晶粒径を線分法(金属組織の写真に直線をひき、直線と結晶粒界の交点の数から計算)により測定し、平均結晶粒径を求める。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、前述のように、Alを比較的高濃度で含有し、さらに、熱延での仕上げ圧延の温度条件、冷延での圧下率条件、及び冷延後の仕上げ焼鈍の加熱条件のうちの少なくとも一つを後述の条件で制御することで得られる。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例としては、下記の方法が挙げられる。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の好ましい製造方法の一例について説明する。
そして、下記(a)、(b)および(c)のうちの少なくとも1つの条件を満足する。
(a)熱間圧延工程:500℃〜800℃の温度域で仕上げ圧延を行う
(b)冷間圧延工程:合計圧下率が90%以上となるように冷間圧延する
(c)仕上げ焼鈍工程:冷間圧延工程後の鋼板に、室温(25℃)〜800℃の温度域 での平均加熱速度が80℃/sec以上となるように仕上げ焼鈍する
さらに、中間層における{100}方位のピーク集積度(MI100)と表面層における{100}方位のピーク集積度(MS100)と中心層における{100}方位のピーク集積度(MC100)とが、MI100>MS100>MC100を満たす鋼板が得られる(つまり、前述の特徴(C)がさらに得られる)。
具体的には、まず、前述の化学組成を有するスラブを所望の厚みに粗圧延(以下、「粗熱延」と称する場合がある。)する。中間層の{223}<252>方位の集積度を低下させる点で、粗熱延から冷延までの圧下率が高い方が好ましい。そのため、粗熱延後の厚みが、例えば、10mm以上(好ましくは、15mm以上)となるように、スラブに粗熱延を施すことがよい。
なお、熱延前のスラブの加熱温度は特に限定されるものではないが、コスト等の観点から1000℃〜1300℃とすることがよい。
次に、熱延後の鋼板に冷延を施す。冷延の合計圧下率は特に限定されないが、冷延の合計圧下率は、特定の磁気特性を得るために有効な制御因子となり得る。この特定の磁気特性を有効に得るには、冷延は、熱延後の鋼板に対して、冷延工程における合計圧下率(冷延の全圧下率)で90%以上となるように施すことがよい。{100}方位を発達させ、磁気特性を向上させる点で、全圧下率は92%以上であることが好ましい。冷延の全圧下率の上限は99%以下であることがよいが、製造上の点で、95%以下であることが好ましい。
次に、冷延後の鋼板に仕上げ焼鈍を施す。仕上げ焼鈍工程における加熱条件は、特に限定されないが、特定の磁気特性を得るために有効な制御因子となり得る。仕上げ焼鈍工程における加熱条件は、次の条件とすることがよい。
特定の磁気特性を有効に得るには、仕上げ焼鈍は、室温(25℃)〜800℃の温度域での平均加熱速度(C)を80℃/sec以上を満足するように仕上げ焼鈍を施すことがよい。
なお、仕上げ熱延における加熱条件を、上記の特定の温度域とした場合、及び冷延圧下率を、上記の特定範囲とした場合の少なくとも一つに制御したときでも、仕上げ焼鈍の加熱条件をこの条件とすることで、前述のように、より優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板が得られる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、Alによるすべり系の変化および剪断変形により変形後の結晶方位および蓄積転位量も単純なSi鋼の場合とは異なり、{223}<252>方位の再結晶の優位性は低下していると思われる。そして、さらに急速加熱により再結晶の駆動エネルギーが高いまま(転位密度が高いまま)の状態で高温に保持する。それにより、本来再結晶しにくい方位の発生を促進し{223}<252>方位を抑制する効果が実用的に意味を持つ程度にまで高めることができるものと考えられる。
また、最終的に歪取り焼鈍などの徐加熱による追加熱処理を行って結晶粒を成長させるのであれば、追加熱処理後の鉄損は低くできるので、仕上げ焼鈍の均熱温度を粒成長の観点では十分とは言えない800℃未満としていても問題はない。この場合は、追加熱処理により磁束密度が劣位となることを回避する効果が顕著に発揮される。この場合、一部に未再結晶組織が残存していても本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特徴的な結晶方位を有することが可能であり、下限温度としては、例えば、640℃以上が挙げられる。仕上げ焼鈍温度を低くして、微細な結晶組織または一部未再結晶組織とした鋼板は、強度が高いので、高強度無方向性電磁鋼板としても有用である。
一方、均熱温度の上限は、焼鈍炉の負荷を考慮し1200℃以下とすることがよく、好ましくは1050℃である。
なお、焼鈍後の冷却条件については、通常の条件であればよく、特に制限はない。また、上記仕上げ焼鈍加熱時の加熱速度を制御する方法についても、特に制限はなく、例えば、直接通電加熱法あるいは誘電加熱法などを好適に用いることができる。
上記絶縁皮膜の厚みは、特に限定されないが、片面当たりの膜厚として0.05μm〜2μmであることが好ましい。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板をモータコアとして適用した場合について説明する。
本実施形態に係るモータコアは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を積層した形態が挙げられる。具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材(鋼板ブランク)を作成し、この打ち抜き部材を積層一体化したモータコアが挙げられる。例えば、本実施形態に係るモータコアは、一例として、図1および図2に示すモータコアが挙げられる。
本実施形態に係るモータコアの製造方法は、特に限定されず、通常工業的に採用されている製造方法によって製造すればよい。
以下、本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例は、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る打ち抜き工程と、打ち抜き部材を積層する積層工程と、を有する。
まず、本実施形態の無方向性電磁鋼板を、目的に応じて、所定の形状に打ち抜き、積層枚数に応じて、所定の枚数の打ち抜き部材を作製する。無方向性電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材を作成する方法は特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。
なお、打ち抜き部材は、所定の形状に打ち抜かれるときに、打ち抜き部材を積層して固定するための凹凸部を形成してもよい。
打ち抜き工程で作成した打ち抜き部材を積層することにより、モータコアが得られる。
なお、積層した打ち抜き部材を固定する方法は、特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。例えば、打ち抜き部材に、公知の接着剤を塗布して接着剤層を形成し、接着剤層を介して固定してもよい。また、かしめ加工を適用して、各々の打ち抜き部材に形成された凹凸部を機械的に相互に嵌め合わして固定してもよい。
この熱処理を行うことで、モータコアは、不要な歪が解放され、低鉄損化が図られ得る。そして、本実施形態のモータコアは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を用いているため、熱処理後においても、高磁束密度が維持され、優れたモータコアが得られる。
表1に示す化学組成のスラブを、厚みが40mmになるように粗熱延を施す。その後、表1に示す温度で仕上げ熱延(仕上げ熱延温度)を施す。仕上げ熱延後の鋼板に、表1に示す合計圧下率(合計冷延率)で冷延する。仕上げ熱延の板厚は、表1の合計冷延率による冷延後の鋼板の板厚が、すべて0.25mmとなるように調整する。冷延後の鋼板に、表1に示す平均加熱速度及び均熱温度で仕上げ焼鈍を施して(均熱の保持時間はいずれも30secである。)、鋼板を得る。
得られた鋼板の表面層、中間層、及び中心層について、既述の方法にしたがって観察し、中間層における{223}<252>方位の集積度(中間層{223})、中間層の{100}方位の面内方位における集積度の最大値(中間層{100})、表面層の{100}方位の面内方位における集積度の最大値(表面層{100})、中心層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(中心層{100})を測定する。その結果を表2に示す。
また、全周平均の磁束密度B50、磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)、磁束密度の面内異方性(B50max−B50min/Bs)、及び鉄損(W10/400)について測定する。さらに、既述の方法に従って、平均結晶粒径(粒径)について測定する。
また、得られた鋼板のうち、仕上げ焼鈍の均熱温度を比較低温とした材料について、加熱速度が100℃/hr、最高到達温度800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で、歪取り焼鈍(SRA:Stress Relief Annealing)を施し、低加熱速度での追加熱処理による磁束密度の変化(BB/BA)を評価する。その結果を表2に示す。
また、全周平均の鉄損は、全周平均の磁束密度B50を測定した方向と同じ方向を測定したときの平均値であり、最大磁束密度1.0T、周波数400Hzの条件下での鉄損(W10/400)として測定する。
なお、磁束密度の面内異方性のB50maxは、上記の5方向のB50を測定した値(圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5℃、及び90°の5方向のB50値)のうち、最も磁束密度の高い値を表す。また、B50minは、上記の5方向のうち、最も磁束密度の低い値を表す。
BBはSAR後の磁束密度を、BAはSAR前の磁束密度を、それぞれ表す。
したがって、これら発明例の鋼板を使用したモータコアは、比較例の鋼板を使用したコアより良好なモータ効率を示す。
Claims (9)
- 質量%で、
C:0.0030%以下、
Si:0.0%〜3.5%、
Al:1.0%〜3.5%、
Mn:0.0%〜3.0%、
S:0.0030%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有する化学組成を有し、
Al/Siの質量比が0.5以上であり、
板厚1/10〜板厚1/5の中間層における{223}<252>方位の集積度が6以下である無方向性電磁鋼板。 - 前記中間層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値が11以上である請求項1の無方向性電磁鋼板。
- 前記中間層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MI100)と、鋼板表面〜板厚1/10の表面層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MS100)と、板厚1/5〜板厚1/2の中心層における{100}方位の面内方位における集積度の最大値(MC100)とが、
MI100>MS100>MC100
の関係を満たす請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。 - 磁化力5000A/mで励磁した場合の全周方向平均の磁束密度B50と飽和磁束密度Bsとの比(B50/Bs)が0.885以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 圧延方向に対して、0°、22.5°、45°、67.5°、及び90°の5方向における磁束密度のうち、最も磁束密度が高いB50maxと、最も磁束密度が低いB50minとの差を、飽和磁束密度Bsで除した値が0.015以下[(B50max−B50min)/Bs≦0.015)]である請求項1〜4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 熱処理を実施する前の鋼板の磁束密度をBA、並びに加熱速度が100℃/hr、最高到達温度が800℃、及び800℃での保持時間が2時間の条件で熱処理を実施した後の鋼板の磁束密度をBBとしたとき、前記BBと前記BAとの比が、BB/BA≧0.98の関係を満足する請求項1〜5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 請求項1に記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延する熱間圧延工程と、
前記熱間圧延工程後の鋼板に冷間圧延する冷間圧延工程と、
前記冷間圧延工程後の鋼板に仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と
を有し、下記(a)、(b)、および(c)のうちの少なくとも1つの条件を満足する請求項1〜6のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(a)熱間圧延工程:500℃〜800℃の温度域で仕上げ圧延を行う
(b)冷間圧延工程:合計圧下率が90%以上となるように冷間圧延する
(c)仕上げ焼鈍工程:冷間圧延工程後の鋼板に、室温(25℃)〜800℃の温度域 での平均加熱速度が80℃/sec以上となるように仕上げ焼鈍する - 請求項1〜6のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る工程と、
前記打ち抜き部材を積層する工程と、
を有する、モータコアの製造方法。
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