第1の発明は、開口部を有する有底円筒状に形成され、前記開口部に円環形状に形成されたバランサ装置が配設された、衣類等の洗濯物を収容する回転槽と、前記回転槽を回転可能に内包する外槽と、前記外槽に配設され前記回転槽を回転駆動する駆動部と、前記外槽を防振支持する防振装置とを備え、前記バランサ装置は、中空円環形状に形成された外郭と、前記外郭内に配設された内部リブと、前記外郭内に封入された流体とを有し、前記内部リブは前記外郭内を前記回転槽の半径方向に複数の層に分割する分割壁部を有し、前記内部リブは前記外郭とは別体で構成された脱水機である。
バランサ装置の薄型化を実現するために、バランサ装置を上下方向に伸長する必要が生じる。本発明の脱水機は、上記構成によって、外郭と内部リブとの肉厚を同一とする必要
がない。したがって、圧環強度確保のために外郭肉厚を維持しつつ、内部リブ肉厚を薄肉化することが可能となる。そして、内部リブを薄肉化した分、多層構成の各層の中空閉管路の幅を広く確保できるため、圧環強度を維持しつつ、バランサ装置に充填可能な流体量を大きくすることができる。これによって、アンバランス補正力の向上を図ることができる。
また、バランサ装置が従来のような樹脂を用いた一体化構成の場合、複数の中空閉管路を形成するために、外郭の金型のコア側に複数の凸部を設ける必要であった。本発明の脱水機は、外郭と内部リブとを別体で構成している。この構成によって、外郭の金型のコア側を一つの幅広の凸部で形成できるため、抜き勾配を考慮しても、金型強度を確保しながら、バランサ装置の外郭をさらに上下方向に伸長できる。これによって、バランサ装置に充填可能な流体量を大きくすることができ、アンバランス補正力の向上を図ることができる。
これらの理由により、本発明の脱水機のバランサ装置は、アンバランス補正力を低減することなく、薄型化を実現できる。したがって、本発明の脱水機は、多層構造のバランサ装置を有しながらも、バランサ装置の各層間の水密性を維持しつつ、脱水振動を抑制することができる。また、圧環強度を低下させることなくバランサ装置の薄型化を図れるため、回転槽の開口部を大きくすることができ、回転槽への洗濯物の出し入れの利便性を向上させることができる。
第2の発明は、特に、第1の発明において、前記内部リブは、前記分割壁部の下端と連続する底面部と、前記底面部の内周側から上方に伸びる内層内周側壁部とを有するものである。
この構成によって、内部リブの底面部と外郭の底面、また、内部リブの内層内周側壁部と外郭の内周壁面とを、それぞれ面で対向させることができる。これによって、内層内周側壁部と外郭の隙間に流入しうる流体量を低減させることができる。よって、多層構成の各層内の流体充填量を一定に保つことができ、アンバランス補正力が維持でき、バランサ装置の信頼性が確保できる。
さらに、内層内周側壁部を設けたことにより、流体の液面が遠心力によって傾斜し始める回転槽低速回転時において、早期に内周側と外周側との流体同士の連通を切断できる。これによって、バランサ装置の底面を伝い内層側から外層側へ流体が移動することを抑制できる。したがって、脱水運転時においても多層構成の各層内の流体充填量を一定に保つことができ、アンバランス補正力が維持でき、バランサ装置の信頼性が確保できる。
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、前記内部リブは、前記分割壁部の上端部に、前記回転槽の半径方向内向きに伸びる内層天面側壁部を有するものである。
この構成によって、内部リブの内層天面側壁部を外郭天面と面で対向させることができる。これによって、内層天面側壁部と外郭の隙間に流入しうる流体量を低減し、回転槽高速回転時において、遠心力によって内部リブの分割壁部に張り付いた流体が、バランサ装置の内層側から外層側に移動することを抑制できる。したがって、脱水運転時においても多層構成の各層内の流体充填量を一定に保つことができ、アンバランス補正力が維持でき、バランサ装置の信頼性が確保できる。
第4の発明は、特に、第1または第2の発明において、前記分割壁部と前記外郭の天面との間の水密性が確保され、前記分割壁部の上端部に、前記回転槽の半径方向内側に伸び、前記複数の層間を連通させる管状突起部を有するものである。
この構成によって、内部リブの分割壁部と外郭の天面側との間の水密性が確保され、回転槽高速回転時に、分割壁部の上方において、内層側から外層側へ流体が移動することを防止できる。加えて、複数の層間を連通させる管状突起部を有することによって、回転槽回転停止時には、複数の層間で空気を連通させることができる。これによって、各層内の液面が平滑化され、バランサ装置の信頼性の向上が図れる。
第5の発明は、特に、第1〜第4のいずれか1つの発明において、前記外郭は金属材料から成り、前記内部リブは樹脂材料から成るものである。
この構成によって、外郭と内部リブを同一の肉厚にする必要がなくなる。内部リブの成形性を維持しつつ、外郭の剛性を向上させ薄肉化を図ることができる。これによって、バランサ装置を従来に比べ薄肉化しつつ多層化構造を実現できる。そして、外郭を薄肉化したことにより、外郭の強度と封入できる流体量を保ったままバランサ装置を小型化することができる。
また、外郭を薄肉化した分、外郭の外層側外周壁面の半径を大きくすることができる。これによって、バランサ装置の小型化を図りながら、アンバランス補正力を向上させることができる。あるいは、外郭を薄肉化した分、外郭の内周壁面の半径を大きくすることができる。これによって、回転槽の開口部を大きくすることができ、回転槽への洗濯物の出し入れの利便性を向上させることができる。
また、外郭を樹脂と比べて比重の大きい金属材料で構成することにより、振動の抑制効果が向上する。これにより、その重量分をバランサ装置の流体の量削減かつ内容積削減に振り替えることで、さらなる小型化かつ薄型化が可能になる。
さらに、バランサ装置の外郭を金属材料で形成することによって、固着した汚れも比較的掃除しやすく、また、金属材料自体が清潔感を使用者に喚起させるものであるため、清潔な状態が維持されやすい。
第6の発明は、特に、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記回転槽は、金属材料で構成されたものである。この構成によって、バランサ装置を含む回転槽全体が金属部品で構成されることとなり、使用者は回転槽を掃除しやすくなる。それに伴い、美観が向上し、使用者の満足度が向上する。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、複数の実施の形態に記載された内容において、可能な範囲で組み合わされることは問題ない。
(実施の形態1)
本発明の脱水機について、回転槽を高速回転させて衣類の脱水を行う洗濯機を例示して説明する。図1は、本発明の実施の形態1における洗濯機の縦断面図である。
図1に示されるように、洗濯機本体31は、内部に洗濯水をためる外槽33と、洗濯物である衣類を収容する回転槽34とを有している。外槽33は、洗濯機本体31から防振装置である4本のサスペンション装置32(図示は1本)によって吊り下げられている。
サスペンション装置32は、ダンパ部32aとバネ部32bと棒材32cで構成されている。ダンパ部32aとバネ部32bと棒材32cの下端部とが連結一体化され、外装体32d内に収納されている。棒材32cは、外装体32dの上部を突き抜けて上方に延設
され、その上端部において洗濯機本体31と連結されている。外装体32dは、外槽33の下部に連結されている。バネ部32bは、棒材32cの変位に対し引っ張りバネとして構成されている。
また、外槽33には、側面外側に垂直方向の複数本のリブ(図示せず)が設けられている。これによって、外槽33の剛性を向上させ、水平方向のたわみを抑制している。
回転槽34は、上部に開口部43を有し、有底円筒形状に金属材料のステンレス材で形成されている。回転槽34は、脱水槽と洗濯槽とを兼ねるものである。回転槽34は、外槽33内に回転自在に配設され、内底部に撹拌翼35が設けられている。モータ36が、外槽33の底面外側に設けられている。モータ36は、ブラシレス直流モータから成っており、インバータ制御され、回転速度が自在に変化されるようになっている。モータ36は、減速機構37を介して、撹拌翼35および回転槽34を、略鉛直な回転軸まわりに回転駆動させる駆動部である。
洗濯水供給部38は、回転槽34内に水道水を給水する。水位検知部39は、外槽33内の洗濯水の水位を検知する。排水部40は、外槽33内の洗濯水を排水する。
制御装置41が、洗濯機本体31の背面に設けられている。操作表示部42が、洗濯機本体31の上面に設けられている。制御装置41は、使用者によって操作表示部42から入力された設定内容に基づいて、モータ36、洗濯水供給部38、排水部40などを制御して、洗い、すすぎ、脱水の各工程を逐次実行する。
回転槽34は、脱水工程において、濡れた衣類が収容された状態で高速回転される。衣類は回転槽34内に不均一に偏在した状態で収容されている。したがって、回転槽34が高速で回転されると、アンバランス状態となって、振動が発生する。この衣類のアンバランス状態を打ち消すためのバランサ装置44が、回転槽34の上部の開口部43に配設されている。バランサ装置44は、全体として円環形状に形成されている。バランサ装置44の内周部の径によって開口部43の開口径がほぼ規定されている。
バランサ装置44について、図を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1における洗濯機のバランサ装置44の縦断面図であり、図2(a)は回転槽34回転停止時のバランサ装置44の縦断面図、図2(b)は回転槽34低速回転時のバランサ装置44の縦断面図、図2(c)は回転槽34高速回転時のバランサ装置44の縦断面図である。
図2に示されるように、バランサ装置44は、中空円環形状に形成された外郭51と、バランサ装置44すなわち外郭51内を半径方向に複数の層(本実施の形態においては2層)に分割する円環状の内部リブ52と、外郭51および内部リブ52によって形成される第1槽54(内層)および第2槽55(外層)と、内側の第1槽54内および外側の第2槽55内にそれぞれ封入された流体53にて構成されている。バランサ装置44の多層構成を成す第1槽54(内層)および第2槽55(外層)は、ともに中空円環形状に形成されている。そして、縦断面形状は、ともに実質的に四角形である。
外郭51は内部リブ52とは別体で構成されている。外郭51は金属材料で形成されている。内部リブ52は樹脂材料で成形されている。すなわち、外郭51と内部リブ52は異なる材料で形成されている。
全体形状として円環状に形成された内部リブ52は、バランサ装置44を多層(本実施の形態においては2層)に分割する分割壁部52aと、分割壁部52aの下端部から内周側および外周側の双方向に延設された底面部52bと、底面部52bの内周側から上方に
伸びる内層内周側壁部52cと、分割壁部52aの上端部から回転槽34の半径方向内向きに伸びる内層天面側壁部52dとを有している。
分割壁部52a、底面部52b、内層内周側壁部52cおよび内層天面側壁部52dは、いずれも、円環状に形成された内部リブ52の全周に亘って設けられている。
内部リブ52は、底面部52bを外郭51の底面Bに近接させ、内層内周側壁部52cを外郭51の内周壁面IWに近接させ、内層天面側壁部52dを外郭51の天面Tおよび内周壁面IWに近接させて、外郭51内に配設されている。なお、内部リブ52は、外郭51に近接した状態で隙間を有して配設されているが、内部リブ52または外郭51に設けられた図示されない小さな突起などにより、がたつきが発生したり移動したりしないように係止されている。
なお、外郭51には、バランサ装置44内部に封入される流体53に対して耐食性を有する、ステンレス等が使用されることが望ましい。外郭51をステンレス等の金属材料で構成することにより、腐食防止効果に加えて、樹脂材料に比べて薄く構成することが可能である。
また、内部リブ52には、流体53の周方向への移動を制限し、バランサ装置44の不安定振動を抑制し、アンバランス補正力を向上させる流体移動防止リブが設けられていてもよい。
さらに、バランサ装置44は回転槽34の開口部43にだけ設置されてもよいし、回転槽34の開口部43と底部外側の両方に設置されていてもよい。
また、流体53は一般に塩化カルシウム水溶液が用いられるが、外郭51等に錆を発生させづらく、比重が水より高いものが望ましい。加えて、流体53の充填量は内層内周側壁部52c以上の高さとなるような液量であることが望ましい。
以上のように構成された洗濯機について、以下その動作および作用を説明する。
まず、使用者は、回転槽34内に衣類と洗剤を投入する。その後、使用者は、操作表示部42を操作して洗濯運転コースを設定し、洗濯運転を開始する。これによって、制御装置41は、洗い工程を開始する。制御装置41は、洗濯水供給部38を動作させ、回転槽34内および外槽33内に洗濯水を供給する。水位検知部39によって外槽33内に規定量の洗濯水が供給されたことが検知されると、制御装置41は、洗濯水供給部38を制御して給水を停止する。
次に、制御装置41は、モータ36および減速機構37を制御し、撹拌翼35を回転させる。これによって、洗剤は洗濯水に溶かされ、洗濯液となって衣類に浸透する。制御装置41は、撹拌翼35を例えば130r/min程度の低速で回転させ、洗濯液中で衣類を撹拌する揉み洗いを規定時間行う。洗い工程が終了すると、制御装置41は、排水部40を動作させる。これによって、衣類から落とされた汚れが溶かし込まれた洗濯液は、外槽33の外に排出される。洗濯液の排出が終了すると、制御装置41は、回転槽34を高速で回転させて中間脱水を行う。その後、制御装置41は、洗い工程と同様にすすぎ工程を実行し、さらにその後、脱水工程を実行する。
制御装置41は、上記中間脱水および脱水工程において、モータ36および減速機構37を制御し、回転槽34を例えば約900r/minの高速で回転させる。このとき、回転槽34の回転に対して衣類のアンバランスが生じた場合、アンバランスによる遠心力に
よって、回転槽34および外槽33は大きく振れ回ろうとする。そこで、このアンバランスに対して、回転槽34に配設されたバランサ装置44によるアンバランス補正効果が発揮される。具体的には、バランサ装置44の第1槽54および第2槽55の内部に封入された流体53が、回転中にアンバランス状態を検知すると、アンバランスに対向する位置に流動し、アンバランス状態を解消する。このようにして、回転槽34を含む外槽33全体の振動が抑制される。
本実施の形態における洗濯機のバランサ装置44の作用効果について、説明する。
本実施の形態の洗濯機においては、図2(a)に示されたように、バランサ装置44は、外郭51と内部リブ52とが別体で構成されている。この構成によって、バランサ装置44を、一体成型でなく、複数部品に分けて製作できる。これによって、従来に比べ、バランサ装置44の各壁面形状を簡素化することができる。したがって、バランサ装置44の内部構造の薄肉化が図れ、バランサ装置44内に充填可能な流体量を増やすことができる。これによって、バランサ装置44のアンバランス補正力を向上させることができる。
また、バランサ装置44に内部リブ52を備えたにより、バランサ装置44の流体封入部の多層構造を実現できる。これによって、バランサ装置44のアンバランス補正力を向上させることができる。
さらに、バランサ装置を多層構造として、かつ薄型化を図ろうとすると、従来と同等の補正力を確保するには、バランサ装置を上下方向に伸長する必要が生じる。本実施の形態の洗濯機におけるバランサ装置44は、内部リブ52を外郭51と別体で構成することにより、バランサ装置44を上下方向に伸長する際に、樹脂成形によって形成される内部リブ52の各部の肉厚を従来に比べ薄くすることが可能である。また、外郭51を樹脂材料ではなく、金属材料で構成することによって、従来に比べ薄肉化することができる。したがって、バランサ装置44の多層構造の各層へ充填可能な流体量を増加させることができる。これらによって、バランサ装置44のアンバランス補正力を向上させながら、バランサ装置44の薄型化を実現できる。
次に、内部リブ52の作用および効果について詳しく説明する。まず、回転槽34低速回転時における内部リブ52の作用および効果について、図2(b)を用いて説明する。
図2(b)に示されるように、内部リブ52には、バランサ装置44を多層に分割する分割壁部52aに連続させて底面部52bと内層内周側壁部52cが設けられている。底面部52bと内層内周側壁部52cは、それぞれ外郭51の底面Bおよび内周壁面IWと面で対向させて近接配置されている。この構成によって、内層内周側壁部52cと外郭51の隙間に流入しうる流体53の流体量を低減させることができる。
また、内層内周側壁部52cは、円環状の全周に亘って底面部52bと連続形成され、かつ、外郭51の内周壁面IWと面で対向させて近接配置されている。これによって、流体53の液面が遠心力によって傾斜し始める回転槽34低速回転時において、バランサ装置44の外郭51の底面Bを伝い内層側の第1槽54から外層側の第2槽55へと流体53が移動することを抑制できる。これによって、回転槽34の回転開始早期に内周側と外周側との流体同士の連通を切断でき、特に、内層側の第1槽54におけるアンバランス補正力を確実に維持させることができる。そして、多層構成によって得られる高いアンバランス補正力を確実に維持させることができる。
次に、回転槽34高速回転時における内部リブ52の作用および効果について、図2(c)を用いて説明する。
図2(c)に示されるように、内部リブ52には、バランサ装置44を多層に分割する分割壁部52aの上端部に連続させて内層天面側壁部52dが設けられている。内層天面側壁部52dは、外郭51の天面Tと面で対向させて近接配置されている。この構成によって、分割壁部52aと外郭51の隙間に流入しうる流体量を低減させることができる。
また、回転槽34高速回転時において、遠心力によって分割壁部52aに張り付いた流体53が、バランサ装置44の内層側の第1槽54から外層側の第2槽55へと移動することを抑制できる。これによって、特に、内層側の第1槽54におけるアンバランス補正力を確実に維持させることができる。そして、多層構成によって得られる高いアンバランス補正力を確実に維持させることができる。
また、回転槽34内に大きなアンバランスが発生した場合、回転槽34の振幅は大きくなり、バランサ装置44内部での流体53の偏りも大きくなる。アンバランスの逆側では各層の内周壁面を埋めるように流体53が偏ってしまう。しかし、本実施の形態の洗濯機におけるバランサ装置44は、内層天面側壁部52dが外郭51の内周壁面IWに近接するまで延伸させてある。この構成によって、回転槽34内のアンバランスが大きく、かつ、回転槽34が高速回転している時においても、内層から外層への流体53の移動量を抑制できる。
次に、回転槽34の高速回転終了後の回転停止時における内部リブ52の作用および効果について、図2(a)を用いて説明する。
図2(a)に示されるように、内層天面側壁部52dと外郭51の天面Tおよび内周壁面IWとの間には隙間が存在する。また、底面部52bと外郭51の底面Bとの間にも隙間が存在する。これによって、回転槽34の高速回転終了後の回転停止時には、内層(第1槽54)と外層(第2槽55)で空気の移動が生じ、内層と外層の圧力は同一になる。そして、回転槽34の高速回転中に内層から外層に移動してしまった流体53を、底面部52bと外郭51の底面Bとの間の隙間を通じて内層に戻すことができる。
さらに、底面部52bと外郭51の底面Bとの間、および内層内周側壁部52cと外郭51の内周壁面IWとの間には、それぞれ隙間が存在する。そして、回転槽34回転停止時における流体53の液面の高さが内層内周側壁部52c以上の高さとなるように、流体53の封入量は調整されている。これらの構成によって、回転槽34回転停止時に、内層側と外層側との間で流体53の移動が生じ、流体53の液面が平滑化される。これによって、各層の流体充填量をアンバランス補正前の状態に戻し、一定に保つことができる。これによって、バランサ装置44は、多層構成でありながら、常に安定した高いアンバランス補正力を保持し、脱水動作毎に発揮することができる。
これらの理由により、本実施の形態の洗濯機におけるバランサ装置44は、回転槽34がどのような回転数域で回転されていた場合においても、アンバランス補正力を維持でき、信頼性を確保できる。
また、本実施の形態における洗濯機のバランサ装置44は、外郭51と内部リブ52とを別体で構成したことによって、外郭51と内部リブ52とを互いに異なる材料を用いて構成することができる。具体的には、外郭51はステンレス等の金属材料で、内部リブ52は樹脂材料で構成されている。これによって、外郭51と内部リブ52とを同一の肉厚で構成する必要がなくなり、内部リブ52は従来同等の成型性を維持しながら薄型化することができる。
また、外郭51は薄型化を図ることができるとともに、剛性を向上させることができる。また、外郭51を金属材料で構成しているため、バランサ装置44自体の圧環強度を向上させることができる。これに伴って、バランサ装置44と固定され、一体化されている回転槽34の開口部43の圧環強度も向上させることができる。
さらに、外郭51を金属材料で構成して薄肉化したことにより、外郭51の外径もしくは内径を大きくすることができる。外郭51の外径を大きくすると外郭51の外層側外周壁面の半径が大きくなり、流体53をより外側に位置させることができ、流体53に作用する遠心力が大きくなり、アンバランス補正力を向上させることができる。一方、外郭51の内径を大きくすると、上記のアンバランス補正力向上効果に加えて、回転槽34上部の開口部43の開口径を大きくすることができ、衣類の出し入れを行いやすくすることができる。
さらに、外郭51を金属材料で構成して薄肉化したことにより、バランサ装置44の外郭51を従来どおりの大きさの外形とするのであれば、バランサ装置44内部に封入できる流体53の量を増加させることができる。これによって、アンバランス補正力を向上させることもできる。あるいは、アンバランス補正力を同じで良しとするならば、バランサ装置44の小型化、あるいは回転槽34の開口部43のさらなる大口径化が可能となる。
また、バランサ装置44の重量も振動抑制に効果的である。このため、外郭51が樹脂と比べて比重の大きい金属材料で構成されると重量が増加し、その分、振動の抑制効果が向上する。これにより、その重量分をバランサ装置44の流体53の量削減かつ内容積削減に振り替えることで、さらなる小型化かつ薄型化が可能になる。
これらの理由により、バランサ装置44のアンバランス補正力を向上させながら、より薄型化を図ることができる。また、バランサ装置44の内径を大きく構成した場合は、回転槽34に対する衣類の出し入れ性を向上させることができる。
また、回転槽34をステンレスなどの金属材料で構成すれば、バランサ装置44を含む回転槽34全体が金属部品で構成されることとなり、使用者は回転槽34を掃除しやすくなる。それに伴い、美観および清潔感が向上し、使用者の満足度が向上する。さらに、洗濯機のデザイン性も向上させることができる。
なお、バランサ装置44および回転槽34に用いる金属材料は、ステンレスに限られない。耐食性が高いものが望ましく、チタン合金なども有用である。
以上に説明されたように、本実施の形態におけるバランサ装置44は、アンバランス補正力の向上を図りながら、薄型化を図れる。そして、回転槽34回転時において内層側から外層側への流体53の移動を防止でき、回転槽34回転停止時には各層の液面の平滑化を図ることができ、多層構成でありながら、常に安定した高いアンバランス補正力を保持し、脱水動作毎に発揮することができる。
したがって、このようなバランサ装置44を備えた本実施の形態における洗濯機は、多層構造のバランサ装置を有しながらも、脱水動作時に、バランサ装置の各層間の水密性を維持しつつ、脱水振動を抑制することができる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2における洗濯機について、図を用いて説明する。洗濯機の基本的な構成は、図1を用いて説明された本発明の実施の形態1における洗濯機と同じであり、詳細な説明を省略する。
以下、上記実施の形態1の洗濯機とは構成が異なる、バランサ装置44について、図を用いて説明する。図3は本発明の実施の形態2における洗濯機のバランサ装置44の縦断面図である。図3(a)は回転槽34回転停止時の状態、図3(b)は回転槽34低速回転時の状態、図3(c)はアンバランス量が小さく、かつ回転槽34高速回転時の状態、図3(d)はアンバランス量が大きく、かつ回転槽34高速回転時で流体53が偏った状態がそれぞれ示されたバランサ装置44の縦断面図である。
図3に示されるように、本実施の形態におけるバランサ装置44は、中空円環形状に形成された外郭51と、バランサ装置44すなわち外郭51内を半径方向に複数の層(本実施の形態においては2層)に分割する円環状の内部リブ52と、外郭51および内部リブ52によって形成される第1槽54(内層)および第2槽55(外層)と、内側の第1槽54内および外側の第2槽55内にそれぞれ封入された流体53にて構成されている。バランサ装置44の多層構成を成す第1槽54(内層)および第2槽55(外層)は、ともに中空円環形状に形成されている。そして、縦断面形状は、ともに実質的に四角形である。
外郭51は内部リブ52とは別体で構成されている。外郭51は金属材料で形成されている。内部リブ52は樹脂材料で成形されている。すなわち、外郭51と内部リブ52は異なる材料で形成されている。
全体形状として円環状に形成された内部リブ52は、バランサ装置44を多層(本実施の形態においては2層)に分割する分割壁部52aと、分割壁部52a下端部から内周側および外周側の双方向に延設された底面部52bと、底面部52bの内周側から上方に伸びる内層内周側壁部52cと、分割壁部52aの上端部から回転槽34の半径方向内側に伸び、内層と外層とを連通させる管状突起部52eとを有している。
内部リブ52は、底面部52bを外郭51の底面Bに近接させ、内層内周側壁部52cを外郭51の内周壁面IWに近接させ、管状突起部52eの内周側端部を内周壁面IWに近接させて、外郭51内に配設されている。なお、内部リブ52は、外郭51に近接した状態で隙間を有して配設されているが、内部リブ52または外郭51に設けられた図示されない小さな突起などにより、がたつきが発生したり移動したりしないように係止されている。
さらに、分割壁部52aの上端と外郭51の天面Tとの隙間には、ゴムパッキン等のシール部材56が挿入されている。シール部材56によって、バランサ装置44の上部においては内層と外層間の水密性が確保されている。なお、シール部材56に替えて、接着剤による接着によって、水密性が確保されてもよい。
管状突起部52eは、例えば円筒形状に形成されており、中央部にバランサ装置44の内層と外層とを連通させる連通孔52fを備えている。管状突起部52eは、アンバランスがどの方向に発生しても対応可能なように、分割壁部52aの内周円上に複数で等間隔に配設されることが望ましい。
なお、外郭51には、バランサ装置44内部に封入される流体53に対して耐食性を有する、ステンレス等が使用されることが望ましい。外郭51をステンレス等の金属材料で構成することにより、腐食防止効果に加えて、樹脂材料に比べて薄く構成することが可能である。
また、内部リブ52には、流体53の周方向への移動を制限し、アンバランス補正力を
向上させる流体移動防止リブが設けられていてもよい。
さらに、バランサ装置44は回転槽34の開口部43にだけ設置されてもよいし、回転槽34の開口部43と底部外側の両方に設置されていてもよい。
また、流体53は塩化カルシウム水溶液が一般に用いられるが、外郭51等に錆を発生させづらく、比重が水より高い流体が望ましい。加えて、流体53の充填量は、内層内周側壁部52c以上の高さとなるような液量であることが望ましい。
本実施の形態における洗濯機のバランサ装置44の作用効果について、説明する。
従来の脱水機においては、前述されたように、バランサ装置44は、工法上やアンバランス補正力維持の面から、一体成型のままでは薄型化を図れないという課題があった。そこで、前記従来の課題の解決のために、バランサ装置44の外郭51と内部リブ52を別体で構成したものが、上記実施の形態1における洗濯機である。しかしながら、上記実施の形態1における洗濯機のバランサ装置44は、バランサ装置44内の上部における各層間の水密性が確保されていない。したがって、アンバランス量が大きく、かつ回転槽34高速回転時において、遠心力によって内層側から外層側へ流体53の移動が生じ、アンバランス補正力が維持できないおそれがあった。
本実施の形態の洗濯機においては、図3(a)に示されたように、バランサ装置44は、実施の形態1と同様に、金属材料によって形成された外郭51と、樹脂材料を用いた成形された内部リブ52により別体構成されている。さらに、本実施の形態におけるバランサ装置44の内部リブ52は、分割壁部52aと外郭51の天面Tとの間の水密性が確保され、分割壁部52aの上端部には回転槽34の半径方向内側に伸び、内層と外層を連通させる管状突起部52eを有している。
次に、以上のように構成された内部リブ52の作用および効果について詳しく説明する。まず、回転槽34回転停止時における内部リブ52の作用および効果について、図3(a)を用いて説明する。
図3(a)に示されるように、バランサ装置44内の上部に、連通孔52fを有する管状突起部52eが配設されることによって、実施の形態1と同様に、回転槽34回転停止時に内層側と外層側で空気が連通する。これにより、回転槽34高速回転中に内層から外層に移動してしまった流体53を、回転槽34回転停止時に、内部リブ52の底面部52bと外郭51の底面Bとの間の隙間を通じて内層に戻すことができる。
さらに、底面部52bと外郭51の底面Bとの間、および内層内周側壁部52cと外郭51の内周壁面IWとの間には、それぞれ隙間が存在する。そして、回転槽34回転停止時における流体53の液面の高さが内層内周側壁部52c以上の高さとなるように、流体53の封入量は調整されている。これらの構成によって、回転槽34回転停止時に、内層側と外層側との間で流体53の移動が生じ、各層内の流体53の液面が平滑化される。これによって、次回の脱水運転開始時には各層の流体充填量が一定となり、バランサ装置44は、多層構成でありながら、常に安定した高いアンバランス補正力が維持され、信頼性が向上する。
次に、回転槽34低速回転時における内部リブ52の作用および効果について、図3(b)を用いて説明する。
図3(b)に示されるように、実施の形態1と同様に、内部リブ52には、バランサ装
置44を多層に分割する分割壁部52aと、分割壁部52aに連続させて底面部52bと内層内周側壁部52cとが設けられている。底面部52bと内層内周側壁部52cは、それぞれ外郭51の底面Bおよび内周壁面IWと面で対向させて近接配置されている。この構成によって、内層内周側壁部52cと外郭51の隙間に流入しうる流体53の流体量を低減させることができる。
また、内層内周側壁部52cは、円環状の全周に亘って底面部52bと連続形成され、かつ、外郭51の内周壁面IWと面で対向させて近接配置されている。この構成によって、流体53の液面が遠心力によって傾斜し始める回転槽34低速回転時に、外郭51の底面Bを伝って内層側から外層側へ流体53が移動することを抑制できる。これによって、回転槽34の回転開始早期に内周側と外周側との流体53同士の連通を切断でき、特に、内層側の第1槽54におけるアンバランス補正力を確実に維持させることができる。そして、多層構成によって得られる高いアンバランス補正力が維持され、バランサ装置44の信頼性が向上する。
次に、アンバランス量が小さく、かつ回転槽34高速回転時における内部リブ52の作用および効果について、図3(c)を用いて説明する。
図3(c)に示されるように、分割壁部52a上端と外郭51の天面Tとの隙間にはシール部材56が挿入され、水密に構成されている。また、管状突起部52eの内周側端部が外郭51の内周壁面IWに近接させて配置されている。この構成によって、回転槽34高速回転時に、分割壁部52a上方における流体53の内層から外層への移動を防止することができる。
なお、分割壁部52aの上方を水密構成とすることによって、実施の形態1における内層天面側壁部52dを用いた場合より、流体移動防止機能を向上させつつ、内層側の内容積を大きくすることができる。これによって、内層側の第1槽54の流体充填量を増やすことができる。同様に、分割壁部52aの上方を水密構成とすることによって、内層天面側壁部52dと異なり、管状突起部52eは内層周方向の一部に配設されればよい。これによって、内部リブ52を小さな構造で実現できる。したがって、内部リブ52の成形性も良好になり、コストを削減することができる。同時に、内層側のアンバランス補正力の向上が図れる。
また、連通孔52fを備えた管状突起部52eとすることで、分割壁部52aの上方における内層と外層との間を、水密に構成し、かつ、空気的には連通させることを実現できる。
次に、アンバランス量が大きく、かつ回転槽34高速回転時における内部リブ52の作用および効果について、図3(d)を用いて説明する。
実施の形態1で述べたように、アンバランス量が大きくなるにしたがって、回転槽34の高速回転時の振幅が大きくなる。そして、図3(d)に示されるように、回転槽34高速回転時には、アンバランスの逆側では各層の内周壁面を埋めるように流体53が偏ってしまう。実施の形態1のような内層天面側壁部52dによる構成の場合、内層内の流体53が内層天面側壁部52dの上端面を乗り越えて、外層側に移動することは避けられない。
本実施の形態におけるバランサ装置44は、分割壁部52a上方を水密構成とし、内層の一部に管状突起部52eを配設することによって、回転槽34高速回転時に内部リブ52の上方において流体53が移動しうる経路を小さくできる。この構成によって、内層側
から外層側への流体53の移動をほぼ完全に防止することができる。
さらに、管状突起部52eは内層の一部にのみ設けられ、かつ、管状突起部52eの内周側端部を外郭51の内周壁面IWと近接させて配置されている。この構成によって、アンバランス量が大きく、内層においてアンバランスの逆側で流体53の偏りが大きくなった状態においても、管状突起部52eの内部に移動しうる流体53の流体量を抑制できる。加えて、アンバランス量が大きい場合、外層におけるアンバランスの逆側の流体53の偏りも大きく、アンバランスの逆側の外層側内周面にも流体53が集約する。これによって、管状突起部52eの連通孔52fは外層側の流体53によって封止され、内層側から外層側に移動する流体53の流体量をさらに抑制できる。
なお、上記実施の形態1において説明されたその他の効果も、本実施の形態の洗濯機においても同様に得られるものであるが、説明を省略する。
なお、管状突起部52eに替えて、実施の形態1における内層天面側壁部52dと同様の壁部を設け、その壁部に連通孔52fを設けてもよい。このような構成の場合、内層天面側壁部52dと同様の壁部の上面にもシール部材を配置することができる。これによって、バランサ装置44の上部における内層と外層間の水密性をより強化することができる。
以上に説明されたように、本実施の形態におけるバランサ装置44は、実施の形態1と同様に、多層構成でありながら、常に安定した高いアンバランス補正力を保持できるとともに、薄型化を図ることができる。さらに、本実施の形態におけるバランサ装置44は、分割壁部52aの上方を水密構成とするとともに連通孔52fを備えた管状突起部52eを配設することによって、流体53の液面の平滑化を維持しながらも、内層と外層の間の流体移動量を低減し、アンバランス補正力を向上させることができ、バランサ装置44の信頼性を向上させることができる。
したがって、このようなバランサ装置44を備えた本実施の形態における洗濯機は、多層構造のバランサ装置を有しながらも、脱水動作時に、バランサ装置の各層間の水密性を維持しつつ、脱水振動を抑制することができる。