JP2018143210A - 細胞培養容器 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】間隔をおいて多層状に配置された3以上の板状部を有し、これら板状部は、最も外側に位置する2つの外側板状部11、14と、それらの間に位置する1以上の中間板状部12、13とを含んでいる。板状部同士の間の側壁部21〜23は、該板状部同士の間にそれぞれ培養室S1〜S3が形成されるように、該板状部同士の間の各空間の一部または全部の周囲を取り巻いて、該板状部同士を連結している。2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分にはガス透過部が設けられる。また、2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分には培養液のための出入口が設けられる。
【選択図】図1
Description
このような細胞培養バッグを用いれば、出入口に接続されたチューブ140、150を介して他のバッグや容器、種々の処理装置(例えば、試薬、培地、細胞などを注入するための外部装置、培養後の細胞や廃液を回収するための外部装置)などと接続して閉鎖系の細胞培養システムを構成することができる。このような細胞培養システムは、細胞の播種、継代、培地交換、細胞の回収などを、外界に露出することなしに行うことができるので、汚染の危険性がより低減された好ましいシステムである。
該問題とは、先ず、該バッグが柔軟なシートからなるという本来的な性質に起因して、該バッグの取扱い方(例えば、2つのシートを手でつかむなど)によっては、対向する2つのシートのそれぞれの内面(図19(b)における111、121)同士が互いに接触し、該内面上でそれぞれに増殖していた細胞が互いに擦れ合って損傷を受け、または、該内面から剥離し、培養細胞の回収率が低下し易いという問題である。
また、前記のような2つのシートの内面同士の接触が生じないように、バッグ内には液状培地を培養に本来必要な量よりも多く注入しなければならないという問題もある。これは、バッグを液状培地の注入によって比較的大きく膨らませておくことによって、2つのシート同士の接触を防止することを意図するものであって、液状培地の消費量が増大するので好ましくない。
さらには、培養すべき接着性細胞を液状培地と共にバッグ内に導入(播種)した後、該接着性細胞を2つのシートの内面上に好ましく定着させるためには、所定のベース板上にバッグを横たわらせる(2つのシートの内面を水平に位置させる)必要がある。これは、播種した接着性細胞をシートの内面上に均一に沈降させるためである。
細胞培養バッグを横たわらせると、1つのバッグがベース板の上面において大きな面積を占有することになる。よって、限られたスペース内に、より多くのバッグを密に配置するためには、例えば、図20に示したバッグ100a、100b、100cのように、複数のバッグを該ベース面(例えば、インキュベータ内のステージ)B10上にそれぞれ横たわらせかつ積み重ねることが好ましい。しかし、そのような積み重ねを行うと、下方に位置するバッグほど、上方のバッグの重さを受けて圧縮され、バッグ内の液状培地の圧力がさらに高くなる。そのため、従来のバッグを多数用いた細胞培養では、多段の棚板を持ったキャビネットなどを用いて、横たわらせたバッグ同士の間にスペースを確保する必要があり、よって、多数のバッグを上下方向に密に配置することができなかった。
しかしながら、図21に示すような細胞培養器具では、各シャーレ同士の間に空気を流通させるための空間(空気層)が必要であるから、多数のシャーレを互いに接近させて高密度に配置することはできない。また、各シャーレの細胞培養面は、各シャーレの内面だけである。よって、該細胞培養器具では、該器具全体が占める体積に対する細胞接着面の面積の割合いが小さい(即ち、器具全体の体積に対して、収穫される接着性細胞の数が少なく、収穫の効率が低い)という問題がある。また、そのような細胞培養器具では、培養時にシャーレを水平に保つことが重要である。これは、通常、液状培地の液面の高さがシャーレの底面から2mm〜4mm程度であり、該シャーレが少しでも傾くとシャーレの底面(細胞接着面)が部分的に空気に露出して液状培地が枯渇し、培養中の細胞がダメージを受けるからである。よって、該細胞培養器具は、取扱いや設置に多大な注意を要し、操作性が悪い。
〔1〕細胞培養容器であって、当該細胞培養容器は、
間隔をおいて多層状に配置された3つ以上の板状部を有し、前記3つ以上の板状部は、多層状の配置において最も外側に位置する2つの外側板状部と、それらの間に位置する1以上の中間板状部とを含んでおり、
間隔をおいて互いに隣り合った板状部同士の間に位置する側壁部を有し、該側壁部は、前記間隔をおいて互いに隣り合った板状部同士の間にそれぞれ培養室が形成されるように、該板状部同士の間の各空間の一部または全部の周囲を取り巻いて、該板状部同士を連結しており、
2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分に設けられた1以上のガス透過部を有し、全ての培養室は、所定のガスに関して、該ガス透過部を通して外界と連通しており、かつ、
2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分に設けられた1以上の出入口を有し、全ての培養室は、培養液に関して、該出入口を通して外界と連通している、
前記細胞培養容器。
〔2〕各側壁部の一部または全部が、ガス透過性を有する材料からなり、それによって、各側壁部がそれぞれの培養室のためのガス透過部となっている、前記〔1〕記載の細胞培養容器。
〔3〕2つの外側板状部のうちの一方または両方には、その主面の所定位置にガス透過部が設けられており、該ガス透過部が、次の(i)〜(iv)のいずれか1つの構造を有するものである、前記〔1〕または〔2〕記載の細胞培養容器。
(i)ガス透過部が設けられる外側板状部の主面の所定位置に、該外側板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔が、ガス透過性を有する材料によって封止された構造。
(ii)ガス透過部が設けられる外側板状部の主面の所定位置に、該外側板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材が挿通され、該貫通孔が該カップ状部材の挿通によって封止された構造。
(iii)ガス透過部が設けられる外側板状部から所定の中間板状部までの各板状部の主面の所定位置に、各板状部をそれぞれ板厚方向に貫通する貫通孔が同軸状に設けられ、それらの貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材が挿通され、少なくとも前記外側板状部の貫通孔がカップ状部材の挿通によって封止された構造。
(iv)一方の外側板状部から他方の外側板状部までの各板状部の主面の所定位置に、各板状部をそれぞれ板厚方向に貫通する貫通孔が同軸状に設けられ、それらの貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材または管状部材が挿通され、少なくとも両方の外側板状部の貫通孔がカップ状部材または管状部材の挿通によって封止された構造。
〔4〕各中間板状部には、各中間板状部を間に介して互いに隣り合った培養室同士を連通する貫通孔が設けられている、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の細胞培養容器。
〔5〕前記出入口が、
2つの外側板状部のうちの一方の外側板状部だけに設けられているか、または、
多層状の配置において最も外側に位置する1つの培養室を取り巻く側壁部だけに設けられている、前記〔4〕に記載の細胞培養容器。
〔6〕2つの外側板状部のそれぞれの板厚が、0.5mm〜10mmであり、
中間板状部の板厚が、外側板状部の板厚と同じであるか、または、それよりも薄く、
全ての板状部の外周形状が、互いに合同な長方形または正方形であって、該長方形または該正方形の一辺の長さが、30mm〜1000mmであり、
前記各板状部同士の間隔が、1mm〜10mmである、
前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の細胞培養容器。
(1)変形に注意することなく手やハンドリング装置によって当該容器を掴むことができ、従来の柔軟な細胞培養バッグに比べて格段に向上した取扱い性が得られる。
(2)従来のバッグのように接触防止のために液状培地を過剰に注入して膨らませておく必要がなく、細胞培養にとって適切な量の液状培地を容器内に注入しておくことができ(即ち、本来、細胞培養自体にとって無用であった液状培地の消費を排除でき)、経済的である。
(3)従来の細胞培養バッグのように液状培地によって容器を余分に膨らませておく必要がないので、各培養室の厚さ(板状部同士の間隔)は、液状培地を注入した時の従来の細胞培養バッグの厚さよりも小さくすることができる。
(4)多数の培養室の積層方向が上下方向となるように当該容器を置いても、従来の柔軟な細胞培養バッグを積み重ねた場合のような各バッグの重量をも含んだ高い内圧は、下層側の培養室内には生じない。よって、多数の培養室が密に積層された状態でありながら、細胞培養バッグを積み重ねた培養に比べて、各培養室内の圧力が大きく軽減される。
これに対して、中間板状部を持たない容器(即ち、2つの板状部と側壁部によって取り囲まれた1つの培養室(密閉空間)だけを持った細胞培養容器)を考えた場合、そのような容器もまた、従来の細胞培養バッグに比べて高い剛性を有することによる利点を有する。しかし、そのような容器では、1つの培養室に2枚の板状部が必須に対応する。よって、そのような容器を複数積み重ねた場合、上下に互いに隣り合った2つの培養室同士の間には、必ず2枚の板状部が存在するので、本発明に比べて、培養室同士は互いに十分に接近できず、多数の培養室を本発明のように高い密度で配置することはできない。
これに対して、上記した中間板状部を持たない2つの板状部と側壁部だけからなる容器では、1つの培養室(密閉空間)に2枚の板状部が必要であるから、n個(nは2以上の整数)の積層された培養室を得るためには、(n×2)枚の板状部が必要であり、例えば、20個の積層された培養室を得るためには、40枚の板状部が必要である。しかも、全ての板状部は、剛性を有する厚いものであるから、全ての容器の重量の合計は本発明の容器の重量よりも十分に重く、板状部のために要する材料費用も本発明よりも十分に高くなる。
これに対して、本願発明では、中間板状部に貫通穴を設け、培養室同士を連通させることで、各培養室毎に液状培地の入口と出口を設ける必要が無くなり、例えば、外板状部の一面だけに入口と出口(または、1つの開口部)を設けることも可能になる。これにより、配管が大きい空間を占有することもなく、また、配管が単純になる。
当該容器の各培養室内に液状培地と培養すべき細胞を収容すると、局所的なガス透過部を通して外界のガス(とりわけ酸素と二酸化炭素)が当該容器内の液状培地に供給され、細胞培養が進行する。ガス透過部を局所的に設けたことによって、当該容器全体に剛性を与えることが可能になったと言うこともできる。
また、板状部の外形が大きい場合であっても、本発明では、板状部の中央部など所定の選択位置にガス透過部が適宜設けられるので、当該容器は、全体として剛性を持った比較的大きい容器であっても、当該容器内における細胞培養は、常に外界からの適切なガス供給の下で行われる。
当該容器は、図1に構造の一例を示すように、間隔をおいて多層状に配置された3つ以上の板状部を有する。図の例では、説明のために板状部の数は4であり、よって、板状部の間の空間の数は3である。各板状部11、12、13、14は、間隔をおいて多層状に配置されており、即ち、互いの間に所定の間隔g1、g2、g3をおいて、それぞれの主面(11bと12a、12bと13a、13bと14a)が互いに向かい合うように積層されている。本発明では、前記多層状に配置された板状部11〜14のうち、積層の最も外側(図1(a)では、最も上と最も下)に位置する2つの板状部11と14を「外側板状部」と呼び、それら以外の板状部(2つの板状部11と14との間に位置する板状部)12、13を「中間板状部」と呼んでいる。
当該容器では、側壁部21、22、23が、積層方向に互いに隣り合った板状部(11と12、12と13、13と14)の間の各空間の一部または全部の周囲を取り巻いて、該積層方向に互いに隣り合った板状部同士を連結している。これら側壁部によって、該積層方向に互いに隣り合った板状部の間には、それぞれ培養室S1、S2、S3が形成されている。図1の例では、培養室S1〜S3は、互いに連通していない。よって、各出入口が閉鎖された状態では、各培養室は、それぞれ密閉空間となっている。
当該容器はガス透過部を有する。図1の例では、側壁部21、22、23がガス透過部として機能している。該ガス透過部は、2つの外側板状部11、14、および各側壁部21〜23から選ばれる1以上の部分に設けられる。全ての培養室は、所定のガスに関して、該ガス透過部を通して外界と連通している。ガス透過部の詳細については後述する。
また、当該容器は出入口31を有する。該出入口31は、2つの外側板状部11、14、および、各側壁部21〜23から選ばれる1以上の部分に設けられる。図1の例では、該出入口は各側壁部に設けられているが、各培養室が互いに連通している態様では、該出入口は1か所であってもよい。即ち、全ての培養室は、培養液に関して、いずれかの出入口を通して外界と連通している。出入口の詳細については後述する。
尚、各板状部の主面(11bと12a、12bと13a、13bと14a)が互いに接触しないためには、板状部の剛性のみならず、各板状部の外周の大きさ、板状部間の各間隔、各側壁部の剛性(撓み量)、板状部のどの部分を側壁部が支持しているか、後述の支柱部の有無などをも考慮することが好ましい。ただし、これらの要素は、少なくとも外側板状部が十分な剛性を有し、かつ、各板状部間に十分に大きい間隔があれば、特に考慮しなくてもよい。
通常の培養作業における取り扱いでは、当該容器を把持するために手やハンドリング装置によって外側から局所的に加えられる圧縮荷重Fは、2〜200N程度である。
また、図1(a)に示す姿勢で置かれた当該容器の最下層の培養室に作用する上層の液状培地の重量を考える。この例では、各培養室の容積を25cm×20cm×0.4cm=200cm3(=200mL)とし、1つ当たりの培養室に充填される液状培地の重量を約200gとし、培養室の層数を50とし、各培養室は、それぞれ密閉空間となっており、互いに連通していないものとする。各中間板状部の中央部が液状培地の重量によって撓むならば、最下層の培養室の天井に位置する中間板状部(最も下の中間板状部)には、49層の培養室内の液状培地の重量9800g(約96.1N)が作用する場合もある。
各板状部同士の間隔(2面間の距離)g1〜g3の最小値は、後述のとおり、特に限定はされないが、後述のとおり2mm程度が好ましく、4mm程度がより好ましい値である。よって、外側板状部の中央に圧縮荷重Fが局所的に作用する場合、板状部同士の間隔と側壁部の撓み量とを考慮すると、片側板状部の中央部の撓み量は、各板状部同士の間隔の半分よりも小さいことが好ましく、例えば、2mm以下(さらには1mm未満)程度であることが好ましく、1mm以下(さらには1mm未満)程度であることがより好ましい。後述のとおり、板状部同士の間隔が1mmである場合には、片側の板状部の中央部の撓み量は0.5mm未満であれば、通常の取り扱い上の外力が作用しても、板状部の内面同士の接触を回避することができる。
尚、各板状部の主面が傾斜面や鉛直面となるように、図1(a)の容器を傾いた姿勢で置いてもよい。
また、側壁部の撓みを抑制することによって、各板状部の主面同士が互いに接触しないだけでなく、当該容器の内圧が過剰に上昇することも抑制されるので好ましい。
板状部(外力に抗する点では外側板状部)の材料の縦弾性係数(ヤング率)としては98000(N/mm2)以上、とりわけ、100000〜600000(N/mm2)程度が好ましい。これらの縦弾性係数の値は、あくまでも好ましい一例であって、通常の取り扱い上の外力によって、また、液状培地の重さによって、各板状部の主面同士が互いに接触しないように、板状部同士の間の距離に応じて、該縦弾性係数を適宜決定すればよい。
前記のような縦弾性係数を有する材料としては、有機高分子材料(とりわけ合成樹脂材料)、ガラス、金属などが挙げられる。いずれの材料も、培養すべき細胞および液状培地に影響を与えることがなく、かつ、培養すべき細胞および液状培地から影響を受けて劣化しないものが好ましい。
前記のような適度な剛性を有する有機高分子材料としては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(とりわけ延伸ポリエチレンテレフタレート)などの合成樹脂材料が好ましいものとして挙げられる。
ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、強化ガラスなどが挙げられる。
金属としては、ステンレスなどが挙げられる。
板状部は、外部から当該容器内の細胞の顕微観察や培地の観察(色の観察)を行う点から、透明であることが好ましい。
前記の材料のなかでも、ポリスチレンなどの有機高分子材料は、ヒトを含めた哺乳動物細胞の培養容器として広く一般的に使用されており、好ましい細胞接着面を提供し得、材料の評価試験を行う必要がなく、顕微観察にも適しており、好ましい材料である。
また、各板状部は、自体が上記した材料を組み合わせた積層板であってもよく、細胞接着面用の層、機械的強度用の層など、各層に適した材料を適宜選択してもよい。
各板状部の外周形状は、互いに異なる形状や相似的な形状であってもよいが、各主面同士を向い合せたときに外周形状が一致する形状(即ち、鏡像的に合同な形状)であることが好ましい。この点からも、長方形、正方形が好ましい外周形状である。ここでいう板状部の外周形状は、あくまでも基本形状である。例えば、長方形または正方形の角部には、面取りや丸みを適宜付与してもよく、また、必要に応じて、取っ手として利用可能なように外側に膨らんだ突出し部を外側板状部や所定の中間板状部の外周に加えてもよい。
板状部の外周形状が長方形または正方形である場合、図1(b)に示すように、その外周形状の一辺の長さL1は、培養の規模に応じて決定され得、限定はされないが、培養細胞数(最適な細胞密度)や、当該容器を上下反転させるために用いる反転装置の大きさの点からは、30mm〜1000mm程度が好ましく、80mm〜300mmがより汎用的で好ましい長さである。
板状部の外周形状が、円形、楕円形、異形などの場合の大きさは、例えば、上記した長方形または正方形の主面の面積と同程度の主面の面積を有するものであってよい。
例えば、上記したポリスチレンなどの有機高分子材料では、各板状部の厚さは、0.5mm〜5mm程度が好ましく、1mm〜3mm程度がより好ましい。前記した厚さの上限を上回ると、板状部の剛性はより高くなるが、全体が過剰に厚く、重くなる点では好ましくない。板状部の厚さが0.5mm程度まで薄くなると、板状部はより撓みやすくなるが、その場合には、培養室S1の一辺の長さ(図1(b)に示す寸法L2)をより小さくし、かつ、板状部同士の間隔をより大きく取ることによって、板状部の主面同士の接触を回避してもよい。
各板状部の厚さは、互いに等しい厚さであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
上記したように、外側板状部の厚さを取扱い上の外力Fに抗する程度の厚さとし、中間板状部の厚さを液状培地の自重に耐える程度に、外側板状部よりも薄くしてもよい。また、支柱部を適宜設けることによって、板状部の主面同士の接触を回避してもよい。
また、板状部の撓みを抑制するための構造として、ダンボール等にみられる構造のように、波状に成形した板状物の片面または両面に平坦なシート状物を貼り合せた複合構造を採用してもよい。
上記した板状部の外周形状の大きさ、板状部の厚さ、各間隔によって、当該容器は、全体として剛性を有する1つの容器となり、従来にはなかった良好な取扱い性を有し、かつ、容器全体が占める体積に対してより広い細胞接着面を持った細胞培養容器となる。
図1(a)に示す態様例では、各側壁部の外側面は、各板状部の外周の端面から板状部の間へと引っ込んだ位置にある。
図4(a)に示す態様例では、側壁部21、22の外側面21b、22bは、板状部11〜13の外周の端面と同じ面にある。
図4(b)に示す態様例では、側壁部21、22の内側面21a、22aは、板状部11〜13の間に入り込んでおり、該側壁部の外側面21b、22bは、板状部11〜13の外周の端面よりも外側に張り出している。
図4(c)に示す態様例では、1つの側壁部21cが全ての板状部の外周の端面を取り囲んで、各板状部同士の間の空間をそれぞれ培養室にしている。該側壁部21cの内側面21a、22aは、各板状部の間に入り込んでおり、かつ、該側壁部の外側面21bは、板状部の外周の端面よりも外側において、1つの平坦な面となっている。
図4(d)に示す態様例では、両面が平坦なシート状の側壁部21cが全ての板状部の外周の端面を取り囲んで、各板状部同士の間の空間をそれぞれ培養室にしており、該側壁部の内側面21aは、各板状部の間には入り込んでいない。尚、図4(d)に示す態様例では、板状部11、12の各下面に支柱部11c、12cが設けられ、それぞれ板状部を支え、主面同士の接触を抑制している。
図1(a)、図4(a)〜(c)に示す態様例では、側壁部の内側面が板状部同士の間に入り込んでいるから、該側壁部は、板状部同士の間の空間の一部の周囲を取り巻いていると言える。また、図4(d)に示す態様例では、側壁部の内側面が板状部同士の間に入り込んでいないから、該側壁部は、板状部同士の間の空間の全部の周囲を取り巻いていると言える。
図5(b)に示す態様例では、外側板状部11の培養室側の主面の外周縁部に互いに間隔を置いて平行に延びる稜線状突起(11d2、11e2)が設けられ、かつ、外側板状部13の培養室側の主面の外周縁部に互いに間隔を置いて平行に延びる稜線状突起(13d1、13e1)が設けられている。また、内側板状部12の両主面の外周縁部には、それぞれ、互いに間隔を置いて平行に延びる稜線状突起(12d1、12e1)、(12d2、12e2)が設けられている。これら平行に延びる2つの稜線状突起の間には、側壁部を嵌め込むための溝が形成されている。また、稜線状突起(11d2、11e2)と(12d1、12e1)、および、稜線状突起(12d2、12e2)と(13d1、13e1)は、それぞれ、図において互いに上下で対向し、側壁部21、22を上下で挟んでいる。これらの稜線状突起は、図5(a)に示す態様例と同様に、それぞれ側壁部と協働して、より高いシール構造を提供し、側壁部に対する横方向の支持体としても機能している。
図5(a)、(b)に示す態様例における各稜線状突起の高さ(各板状部の主面からの突起量)は、特に限定はされないが、側壁部をガス透過部とする場合には、ガスの透過性を大きく妨げない寸法とすることが好ましい。
細胞培養のためにガス透過部が透過すべきガスとしては、酸素、酸素を含んだ空気、二酸化炭素(培地のpHを維持するため)が重要な気体として挙げられる。
ガス透過部に用いられる材料のガス透過性は、例えば、酸素については、JIS K7126−1に準拠して測定した酸素透過度が、30(cc/m2・24h・atm)以上であることが好ましく、40(cc/m2・24h・atm)以上であることが、より好ましい。該酸素透過度の上限は、より高い方が好ましく、特に限定はされないが、例えば、45(cc/m2・24h・atm)程度が例示される。
側壁部をガス透過性材料によって形成しガス透過部とする場合、該ガス透過部の種々のガスに関するガス透過性は、前記の材料に関する酸素透過度に比例する。側壁部は、同じガス透過性材料からなり、かつ、該側壁部の横方向厚さ(図1(a)に示す、板状部の主面方向に沿った厚さt1)が同じであれば、板状部同士の間隔(g1〜g3)に対応する寸法が大きくなると、ガス透過面積が増大し、よって、単位時間当たりのガス透過量も増大する。一方、同じガス透過性材料からなり、かつ、板状部同士の間隔(g1〜g3)に対応する寸法が同じであれば、前記の側壁部の横方向厚さが大きくなると、ガス透過性が低くなり、よって、単位時間当たりのガス透過量も減少する。当該容器を製造するに際しては、実際に細胞培養を行い、側壁部や板状部に設けられるガス透過部からのガス(とりわけ酸素)の供給の状態を確認して、板状部同士の間隔g1〜g3や側壁部の横方向厚さt1を適宜増減させて、ガス透過量を調節することができる。
側壁部全体をガス透過性材料によって形成しガス透過部とする場合、側壁部の横方向厚さt1は、特に限定はされず、材料によっても異なるが、ガス(とりわけ酸素)の適度な透過性と、板状部の間隔を過度に減少させないように支持する剛性の点からは、1mm〜20mm程度が好ましく、5mm〜10mm程度がより好ましい。
図1(b)に示すように、板状部の外周形状が長方形または正方形である場合、側壁部によって囲まれた培養室(内部空間)の外周形状もまた長方形または正方形となることが好ましく、該培養室の一辺の長さL2は、30mm〜1000mm程度が好ましく、80mm〜300mmがより汎用的で好ましい長さである。
側壁部およびガス透過部は、単一材料からなるものであってもよいし、複数の材料からなる多層構造、複合構造であってもよい。
隣り合う板状部の間隔が支柱部によって確保されたならば、側壁部によって板状部の間隔を維持する必要はなくなるので、該側壁部の横方向厚さt1をより薄くしてもよい。
しかしながら、側壁部のみにガス透過部を設ける態様では、板状部の外周形状が大きくなった場合に、側壁部から当該容器内の中央部までの距離が長くなり、該中央部の液状培地へのガス供給量が必要量を下回る可能性がある。そのような場合、図6(a)、(b)に例示するように、外側板状部のうちの一方または両方の主面の所定位置、好ましくは中央部に、1以上のガス透過部41を設けることが好ましい。
図6(a)に示す態様例では、外側板状部11の主面の中央部に1つの大きいガス透過部41が設けられ、図6(b)に示す態様例では、外側板状部11の主面の中央部の中心の周囲に小さい複数(図では、41a、41b、41c、41dの4つ)のガス透過部41が設けられている。外側板状部の主面の中央部とは、該外側板状部の主面の外形線に隣接する縁部を除いた領域である。板状部の主面を見たときのガス透過部の位置、形状、数、配置パターンなどは、板状部の外周形状に応じて適宜決定してよい。
図7(a)、(b)の例では、一方または両方の外側板状部の主面中の所定位置に、該板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔がガス透過性を有する材料によって封止されている。即ち、板状部が局所的にガス透過性となっている。図7(c)〜図11の例では、1以上の板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔が、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材または管状部材によって封止されている。図7(c)〜図11に示した例では、カップ状部材全体または管状部材全体がガス透過性を有する材料からなるガス透過部となっている。図7〜図11に示した構造例は、多数の好ましい構造例の中の数例であって、培養室内の液状培地を漏洩させないように構成された、あらゆる封止構造を採用することができる。
図7(b)に示す態様例では、外側板状部11に貫通孔11dが設けられ、該貫通孔が、外側板状部の内面に貼り付けられたガス透過性のフィルム411によって塞がれて、ガス透過部41となっている。該フィルム411は、外界側に設けられてもよい。
図7(c)に示す態様例では、外側板状部11に貫通孔11dが設けられ、該貫通孔は、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材412によって封止されて、ガス透過部41となっている。該カップ状部材は、管状の胴体部と、閉鎖端部(底部)とを有する。該閉鎖端部は、管状の胴体部の内部管路412aを一方の端部において塞いでおり、それにより、全体の形状がカップ状(容器状)となっている。該カップ状部材では、培養室内の液状培地に直接的に接触する部分がガス透過性を有する材料からなるガス透過部であってもよいが、該カップ状部材全体がガス透過性を有する材料からなる態様が安価で好ましい。図7(c)に示す態様例では、カップ状部材412の閉鎖端部を通して、ガスが透過し得、例えば、外界の酸素が培養室内の液状培地に供給されるようになっている。
図8(b)に示す態様例では、図8(a)に示す態様にさらに加えて、カップ状部材412の底部が培養室内に突き出しており、ガスが透過し得る領域が図8(a)の態様よりも大きくなっている。該カップ状部材412の底部は、さらに延びて、図の下方の板状部(図示せず)に達していてもよい。加えて、図8(b)に示す態様例では、貫通孔11dの入口には座ぐり穴が設けられ、カップ状部材412の開口側のフランジ412bが、該座ぐり穴内に収容され、その結果、外側板状部11の外面が平坦になっている。
図6〜図8に示す態様は、外部板状部に隣接する培養室に対してより効果的にガスを供給し得るので、板状部の数が3である場合により有用な態様である。これに対して、図9〜図11に示す態様例は、外部板状部に隣接する培養室のみならず、その下に位置する培養室に対しても一方の外部板状部の側からガスを供給し得る態様である。よって、図9〜図11に示す態様例は、板状部の数が3以上の全ての態様に対して有用な態様である。
図9(b)に示す態様例では、管状部材414の両端にフランジが設けられている。該管状部材が弾性を有しかつ柔軟であれば両端にフランジを有していても、同図のように、全ての貫通孔に挿通することは可能である。また、ストレート状の管状部材を挿通した後で、該管状部材の突出し部分を加熱によって変形させて、該フランジを形成してもよい。該管状部材は、フランジ部の無いストレートな管状部材であってもよく、外側板状部から外部に突き出ていなくてもよい。また、図8(b)の態様例のように、外側板状部の貫通孔の開口部に座ぐり穴が設けられてもよい。
ガス透過部を有する部材が独立した部品である場合、板状部とガス透過性を有する材料からなる部材との接続は、熱による溶着や接着剤による接続であってもよいし、材料の弾性を利用した単なるはめ込みによる接続であってもよい。液体の漏えいを防止するためのシール構造やシール材は、適宜加えてよい。
各培養室に1つの開口を設け、該開口を出口および入口として利用してもよく、また、細胞や液状培地、試薬等の注入と取り出しを好ましく行うために、各培養室に入口と出口をそれぞれ1つ以上設けてもよい。また、中間板状部に貫通孔を設け、互いに隣り合った培養室同士が連通した態様では、必ずしも各培養室毎に出入口を設ける必要はない。また、全ての中間板状部に貫通孔を設けて、全ての培養室同士が連通した態様では、1つの培養室に設けた出入口を通じて、全培養室と外界とを液体連通させることも可能である。本発明において、「全ての培養室は、培養液に関して、該出入口を通して外界と連通している」とは、各培養室ごとに付与された出入口によって、または、中間板状部の貫通孔と出入口の種々の組み合わせによって、各培養室と外界との間で培養液が移動可能であること意味する。
側壁部に出入口を設ける場合、図12(a)に簡単な構成例を示すように、他のバッグや種々の外部機器などとの接続に用いるカップリングや、チューブを差し込むための継手など、必要に応じた接続用器具が設けられることが好ましい。図12(a)の例では、チューブを差し込むための単純なストレートの管状部材31cが、側壁部21を貫通した状態で固定されている。
図12(b)における板状部12の貫通孔12dのように、各中間板状部の貫通孔が、出入口32の直下に同軸状に設けられていれば、各培養室への培養液の供給、各培養室からの培養液の取り出しがスムーズになり好ましい。容器内の液状培地を排出し易いように、出入口と貫通孔とを隅に設ける態様や、各培養室内に液状培地が残留しないように出入口や貫通孔と側壁部との段差を無くす態様(図13(a))など、好ましい構造は、適宜加えてよい。
一方、各培養室が互いに隔離され、各培養室ごとに側壁部に出入口が設けられる態様では、条件が異なる多種類の培養を、コンパクトなスペースで実施可能となる。
図13(a)に示す態様例では、出入口32には、外側板状部11の外面に筒状部材32c1が付与されている。筒状部材32c1の内部管路32cは、出入口32に位置合わせされている。フランジ32c2は、筒状部材32c1と外側板状部11の外面との接着面積をより大きくしている。
図13(b)に示す態様例では、図13(a)に示す態様例に加えて、フランジ32c2の下方に、筒状部32c3が延びている。該筒状部32c3は、貫通孔32にはめ込まれている。
これらの筒状部材は、スクリューキャップやシールキャップなどによって封止される態様であってもよいし、該筒状部材にチューブが接続されてもよい。
また、各培養室の側壁部に設けられた開口部に集合用部材が接続され、多数の開口部が1つの開口部に集合した態様であってもよい。
図14(c)に示すように、各中間板状部に設けられる貫通孔の開口形状を、円形、長円形またはスリット形状とすることにより、細胞懸濁液、液状培地、試薬等の、各培養室への注入や各培養室からの回収をスムーズに行うことができるという利点が得られる。前記円形の直径は、特に限定はされないが、2mm〜30mm程度が好ましい値として例示される。貫通孔の開口形状を円形とし、該貫通孔を複数設ける態様は、強度の点でも、液体のスムーズな出入りの点でも好ましい態様である。とりわけ、該貫通孔を出入口の直下の位置に設ける態様は、液体のスムーズな出入りの点で好ましい態様である。図14(b)に示すように、外側板状部に設けられる出入口が2つの貫通孔(出口と入口)であれば、該出口と入口のそれぞれの直下の位置に中間板状部の貫通孔を設ける態様は、液体のスムーズな出入りの点でより好ましい態様である。中間板状部に設けられる貫通孔の開口形状が、長円形またはスリット形状である場合、これら長円形またはスリット形状の幅(長手方向に直交する開口寸法)は、特に限定はされないが、2mm〜15mm程度が好ましい値として例示される。長円形やスリット形状を設けると、中間板状部の強度が低下する可能性があるので、長手方向の寸法が過大にならないようにすることが好ましい。
(A)板状部となる3枚以上の適度な剛性を有する板状部材を準備する。各板状部材は、細胞培養の状態を観察する点から、透明であることが好ましく、側壁部の材料と接合可能な材料が好ましい。板状部の材料は、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂などが好ましく使用可能である。
各板状部の製造方法は限定されない。市販の標準板からの削り出しによって該板状部を製作してもよいし、射出成形によって該板状部を成形してもよい。板状部の製造後は、組み立てまで表面の清浄度を維持することが望ましい。
板状部には、必要に応じて、図6〜図11に示した構造を有するガス透過部のための貫通孔を設けてよい。
(B)板状部の主面の表面処理
板状部の主面には、細胞培養に必要な親水性を付与し、かつ、シリコーンゴム等の側壁部を接合する為の表面処理を施すことが好ましい。該表面処理としては、火炎処理(フレーム処理)、コロナ処理、プラズマ処理、VUV(真空紫外光)の照射などが挙げられる。
(C)側壁部を形成するための1つの金型に1つの板状部をセットする。
(D)側壁部を形成するための液状シリコーンゴムを金型に注入する。各板状部の一方の主面上に射出成形によってシリコーンゴム製の側壁部を形成する。このとき、必要に応じて、出入口のためのポート部材を差し込むための貫通孔を、金型によって作り込んでおいてもよい。該シリコーンゴムは、板状部の材料(PC樹脂など)との選択接着性能を持つもの(信越化学KE−2090)が好ましい材料として挙げられる。
(E)型開きと成形品の取り出し
金型を加熱し、シリコーンゴムを半硬化させ、板状部の一方の面に側壁部が固着した中間部材を得、これを取り出す。シリコーンゴムは、金型から離形可能な程度に硬化しているが、完全には硬化していない状態で取り出すことが好ましい。該中間部材を必要な数だけ製造する。
(F)1つの中間部材(一方の外側板状部と側壁部)を、側壁部を上側にして、組み立て用のベース基板上に配置する。その上に、他の中間部材を、側壁部を上側にして、必要数だけ積み重ね、互いに位置決めする。最も上に、側壁部を持たない他方の外側板状部を配置し、それらを貼り合わせる。貼り合わせでは、クリップなどの把持具を用い、板厚方向に適度な圧縮力を作用させながら、オーブンで120℃以上30分間加熱する。これにより、側壁部であるシリコーンゴムが完全に硬化すると同時に、相手の板状部に固着し、貼り合わせが完了する。
上記(E)において、シリコーンゴムを完全に硬化させた場合には、貼り合わせには、液状シリコーンゴムを接着剤として塗布し、硬化させてもよい。
(G)当該容器の仕上げ(ポートの付与)
最上層の外側板状部に設けられた貫通孔に、図13(a)に示すような筒状部材(ポート用部材)を圧入し出入口とする。図12aに示すように、側壁部に筒状部材を付与してもよい。筒状部材の装着には、接着剤を用いてもよい。
板状部11の上面の中央の領域(例えば、直径10mm〜20mm程度の円形領域)に対して、予め定められた圧縮荷重F1(例えば、実使用時において取扱いで作用する200Nなど)を作用させる。その時の中央の領域の降下量が、板状部の間隔g1の半分未満であれば、当該容器は、通常の取り扱いでは、各板状部の内面同士が互いに接触することがないと見なすことができる。
前記の中央の領域の面積や圧縮荷重F1の値は、あくまでも使用上許容される剛性を判定するための一例であって、製品の要求やサイズの大小などに応じて最適な試験となるように適宜変更してよい。
当該容器を用いて細胞培養を行なう場合に、当該容器内に収容される液状培地は、従来公知のものであってよい。
懸濁液中の細胞は、重力により沈降し、下側の板状部の主面に接着するので、これを引き続き培養することにより、板状部のの主面に細胞を接着させた状態で、接着性細胞を培養することができる。
各培養室を構成する2つの板状部の両方の主面に細胞を接着させて培養する場合、接着性細胞の懸濁液を本発明の細胞培養容器に収容し、一方の板状部の主面を下側にして、各板状部を水平に維持し、一定期間培養する。懸濁液中の細胞の一部が下側の板状部の主面に接着し、残る細胞が液状培地中に依然として懸濁しているタイミングで、当該容器をひっくり返して(即ち、各板状部を表裏の主面の位置関係を逆転させて)、更に一定期間培養する。その結果、依然として懸濁している細胞が新たな下側の主面に沈降し接着するので、各培養室を構成する2つの板状部の両方の主面に細胞を接着させて培養することが可能となる。当該容器の上下反転のタイミングは、当業者であれば適宜調整することが可能であるが、細胞懸濁液を本発明の細胞培養容器に収容して培養を開始してから、例えば、ヒトiPs細胞では5分〜10分後が好適であり、ヒト間葉系幹細胞などでは60〜80分後が好適である。
本実施例では、図14に例示する細胞培養容器を実際に製作し、該容器によって多数の細胞を培養し得ることを確認した。板状部の数は4、培養室の数は3である。各中間板状部には、図14(c)に示す長円状の貫通孔が設けられており、一方の外側板状部には、入口用のポートとしての筒状部材33c1と、出口用のポートとしての筒状部材34c1が設けられており、それぞれに外部機器と接続するためのチューブが接続可能となっている。
板状部の材料:ポリスチレン、外側板状部の厚さ:1mm、中間板状部の厚さ:1mm、板状部の外形寸法:長辺308mm×短辺218mmの長方形、側壁部に囲まれた板状部の主面の領域:長辺290mm×短辺200mmの長方形(1つの主面の有効な培養面積は、580cm2である)。
尚、本実施例では、図18(b)に示すように、厚さ3mmのステンレス製の補強部材を2枚用意し、2つの外側板状部のそれぞれの外側の主面に配置し、当該容器を積層方向に挟み込んだ。該補強部材の外形は、外側板状部の外形よりも大きく、外側板状部の外周縁全周にわたって外側板状部から外側に張り出している。補強部材の張り出した部分同士の間に複数の筒状ナットを挿入し(該筒状ナットの全長は、当該容器の積層方向の全寸法よりも微量だけ短く設定した)、2つの補強部材を各筒状ナットの両端部にそれぞれにボルトで締め付け、それにより、2つの補強部材によって当該容器全体を積層方向に挟み込んで補強した。この補強態様は、あくまでも補強の一例である。
板状部同士の間の間隔:8mm(=側壁部の縦方向の寸法)
側壁部:(材料)シリコーンゴム、(横方向厚さ)8mm。シリコーンゴムのガス透過性は、cc・cm/cm2・sec・atmである。
当該容器の総厚さ:28mm(出入口の筒状部材を含まない)
各板状部の全ての主面において均等に細胞を培養するためには、各板状部のそれぞれの主面に均一に細胞を接着させる必要がある。そこで、本実施例では、1つの培養室だけを有する検討用の培養容器(外形:一辺62mmの正方形、側壁部に囲まれた内面の領域:一辺48mmの正方形、2枚の板状部同士の間の間隔:8mm縦方向の寸法)を作製し、2つの板状部の上下を反転させて、細胞の接着の様子を確認する試験を行った。以下、各培養室を構成する2つの板状部の主面の両方で細胞培養を行うことを、両面培養と呼ぶ。
前記検討用の培養容器内に、1.2×106個の細胞を播種し、速やかに、板状部を水平に横たわらせた姿勢にてインキュベーター内に配置した後、該配置から30分後、40分後、50分後、60分後、70分後、80分後、90分後にそれぞれ容器の上下を反転し、その後24時間培養を継続し、それぞれの板状部の主面(内面)の細胞の様子をギムザ染色して観察した。
図16から明らかなとおり、容器を最初に上下反転するまでの時間が長くなると、細胞がより多く沈降し、結果、反転前に上側に位置していた板状部の主面の細胞の数が少なくなることが確認できた。そして、培養開始から30分程度で上下を反転させることで、1つの培養室を構成する2つの板状部の主面において、均等に細胞が培養できることが確認できた。
先ず、当該容器を、各板状部が水平になるように配置し(出入口は上側)、入口用のポートから、培地漏斗を用いて、当該容器内に液状培地(MEM10%FBS)とMRC−5細胞とを混合してなる細胞懸濁液1400mLを充填し、各ポートに栓をした。
当該容器内をインキュベーター内に配置し、37℃、30分間、細胞培養を継続した。
培養開始から30分後に当該容器の上下を反転し、その時点からインキュベーター内で37℃、60分間、細胞培養を継続した。
前記の60分が経過した時点で、当該容器の上下を反転し(2回目の反転)、その後、60分が経過する毎に当該容器の上下を反転し、3回目および4回目の上下反転を行って、細胞が6枚の板状部の各主面に均一に接着できるようにした。4回目の上下反転の後は、その姿勢のまま、細胞培養を継続した。
図17(a)は、培養開始から72時間経過後の、最初に下側に位置した板状部(下側の外側板状部)の主面をギムザ染色した状態を示す顕微鏡写真図である。また、図17(b)は、最初に上側に位置した板状部(上側の外側板状部)の主面をギムザ染色した状態を示す顕微鏡写真図である。図17(a)、(b)に示すように、板状部の主面には細胞が均一に付着しており、両者の細胞培養の状態には大きな差異がなかったことが観察できた。さらに培養後の容器を分解し、各板状部の主面をギムザ染色したところ、図18(a)、(b)に下側の外側板状部の内面の様子を示すように、各板状部の主面(外側板状部の内面、中間板状部の両面)には、いずれにも細胞が同様に付着して増殖していることがわかった。
本実施例では、実施例1と同様の細胞培養容器を用い、iPS細胞の両面培養を次のとおり行った。
(板状部の主面に対するコーティング)
先ず、当該容器を、各板状部が水平になるように配置し(出入口は上側)、入口用のポートから、培地漏斗を用いてPBSで希釈したiマトリックスを1400mL充填し、培養容器に溶液が満たされるようにして30分間放置し、さらに反転して30分間放置し合計1時間コーティングした後に溶液をすべて抜き取った。
(iPS細胞の播種)
次に、当該容器の入口用のポートから、培地漏斗を用いて当該容器内に液状培地(mTeSR1)とiPS細胞とを混合してなる細胞懸濁液1400mLを充填し、各ポートに栓をした。
当該容器をインキュベーター内に配置し、37℃にて、iPS細胞にとって好ましい時間として5分間の細胞培養を行った。
その後、上下を反転(2回目の反転)をして10分間培養し、さらに上下を反転(3回目の反転)をして15分間培養した。
前記15分間の培養の後、4回目の反転を行い、60分経過後、5回目の反転を行い、培養を継続した。4回目の上下反転の後は、その姿勢のまま、細胞培養を継続した。
24時間経過後から、毎日、培地を半量の700mL交換し、5日間培養した。
培養5日目の培養容器をギムザ染色して細胞の分布の様子を確認した。
その結果、細胞はコンフルエントの状態ではなかったが、板状部の内面それぞれが染色されており細胞がどの面でも付着して増殖していることがわかった。
本実施例では、実施例1と同様の細胞培養容器を用い、ヒトMSC細胞の培養を次のとおり行った。
先ず、当該容器を、各板状部が水平になるように配置し(出入口は上側)、入口用のポートから、培地漏斗を用いて、当該容器内に液状培地(Poweredby10)とヒトMSC細胞とを混合してなる細胞懸濁液を1400mLを充填し、各ポートに栓をした。
当該容器内をインキュベーター内に配置し、37℃に維持し、7日間培養した。本実施例では、当該容器の上下を反転させず、各板状部の一方の主面上だけに細胞を沈降させて培養を行った。
当該容器内に播種した細胞数は、1.7×107個であり、当該容器の板状部の片側の主面の有効な培養面積の総和は、580cm2×3=1740cm2である。培養7日目の細胞数を測定すると、8.84×107個となっており、元の細胞数の約5.2倍となっていた。
実施例3との比較のために、T75フラスコ(コーニング社製、(材料)ポリスチレン)を従来の培養容器として用い、液状培地(Poweredby10)を30mL収容し、ヒトMSC細胞を播種し、該T75フラスコの口を栓で密封した。該T75フラスコ内には、細胞培養に必要な空気を十分に残留させた。
該T75フラスコを、実施例3と同じ条件にてインキュベーターで7日間培養した。
T75フラスコに播種した細胞数は、7.5×105(個)であり、該T75フラスコ内の培養面積は75cm2である。
上記の培養後に細胞数を測定したところ、T75フラスコで培養された細胞数は4.1×106個となっており、もとの細胞数の5.4倍に増殖していた。
実施例3と比較例1の結果から、本発明による細胞培養容器は、側壁部から酸素を供給する構造でありながら、空気を十分に残留させたT75フラスコと同等の細胞増殖性を示すことがわかった。
11、14 外側板状部
12、13 中間板状部
21、22、23 側壁部
31 出入口
g1、g2、g3 板状部同士の間隔
t1 側壁部の横方向厚さ
S1、S2、S3 容器の培養室
F 外力
Claims (6)
- 細胞培養容器であって、当該細胞培養容器は、
間隔をおいて多層状に配置された3つ以上の板状部を有し、前記3つ以上の板状部は、多層状の配置において最も外側に位置する2つの外側板状部と、それらの間に位置する1以上の中間板状部とを含んでおり、
間隔をおいて互いに隣り合った板状部同士の間に位置する側壁部を有し、該側壁部は、前記間隔をおいて互いに隣り合った板状部同士の間にそれぞれ培養室が形成されるように、該板状部同士の間の各空間の一部または全部の周囲を取り巻いて、該板状部同士を連結しており、
2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分に設けられた1以上のガス透過部を有し、全ての培養室は、所定のガスに関して、該ガス透過部を通して外界と連通しており、かつ、
2つの外側板状部および各側壁部から選ばれる1以上の部分に設けられた1以上の出入口を有し、全ての培養室は、培養液に関して、該出入口を通して外界と連通している、
前記細胞培養容器。 - 各側壁部の一部または全部が、ガス透過性を有する材料からなり、それによって、各側壁部がそれぞれの培養室のためのガス透過部となっている、請求項1記載の細胞培養容器。
- 2つの外側板状部のうちの一方または両方には、その主面の所定位置にガス透過部が設けられており、該ガス透過部が、次の(i)〜(iv)のいずれか1つの構造を有するものである、請求項1または2に記載の細胞培養容器。
(i)ガス透過部が設けられる外側板状部の主面の所定位置に、該外側板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔が、ガス透過性を有する材料によって封止された構造。
(ii)ガス透過部が設けられる外側板状部の主面の所定位置に、該外側板状部を板厚方向に貫通する貫通孔が設けられ、該貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材が挿通され、該貫通孔が該カップ状部材の挿通によって封止された構造。
(iii)ガス透過部が設けられる外側板状部から所定の中間板状部までの各板状部の主面の所定位置に、各板状部をそれぞれ板厚方向に貫通する貫通孔が同軸状に設けられ、それらの貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材が挿通され、少なくとも前記外側板状部の貫通孔がカップ状部材の挿通によって封止された構造。
(iv)一方の外側板状部から他方の外側板状部までの各板状部の主面の所定位置に、各板状部をそれぞれ板厚方向に貫通する貫通孔が同軸状に設けられ、それらの貫通孔には、ガス透過性を有する材料からなるガス透過部を有するカップ状部材または管状部材が挿通され、少なくとも両方の外側板状部の貫通孔がカップ状部材または管状部材の挿通によって封止された構造。 - 各中間板状部には、各中間板状部を間に介して互いに隣り合った培養室同士を連通する貫通孔が設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
- 前記出入口が、
2つの外側板状部のうちの一方の外側板状部だけに設けられているか、または、
多層状の配置において最も外側に位置する1つの培養室を取り巻く側壁部だけに設けられている、請求項4に記載の細胞培養容器。 - 2つの外側板状部のそれぞれの板厚が、0.5mm〜10mmであり、
中間板状部の板厚が、外側板状部の板厚と同じであるか、または、それよりも薄く、
全ての板状部の外周形状が、互いに合同な長方形または正方形であって、該長方形または該正方形の一辺の長さが、30mm〜1000mmであり、
前記各板状部同士の間隔が、1mm〜10mmである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞培養容器。
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