JP2018140958A - ペリサイトの変成を抑制する剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、本発明はペリサイトの変成およびペリサイトの細胞死等による消失を抑制するための剤の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、イミダゾールジペプチド、該イミダゾールジペプチドの塩、溶媒和物、水和物およびそれらの代謝産物からなるグループから選択される少なくとも1を含有する、ペリサイトの変成抑制剤および当該抑制剤を含有する医薬である。また、ペリサイトの変成に起因する疾患等の予防および治療方法である。
【選択図】なし

Description

本発明は、ペリサイトの変成(またはペリサイト数の減少)を抑制する剤に関する。
ペリサイトは、平滑筋様の細胞で微小血管の基底膜に包まれて血管を取り巻くように存在し、微小血管の恒常性の維持および血管形成に関与している。
脳微小血管を取り巻く脳のペリサイトは、中枢における血管形成、脳血管の血流の制御に関与する他、血管内皮細胞およびアストロサイトと共に血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)を構成する細胞としても重要な役割を果たしている。脳のペリサイトが変成すると、血液脳関門や血流制御に異常を来し、血液脳関門の機能不全により脳内に血液由来の神経毒性因子が蓄積する。その結果、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)などの神経変成疾患、糖尿病性網膜症の他、HIV関連認知症、てんかん、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy;CADASIL)および脳のがんの発症にも関連していると考えられている(非特許文献1)。
なかでも、脳のペリサイトとアルツハイマー病との関連性に関し、アルツハイマー病患者の大脳皮質および海馬におけるペリサイトの数と存在比率が、正常対象者よりも減少していること(非特許文献2)、アルツハイマー病のリスクファクターであるアポリポプロテインE4(apolipoprotein E4;ApoE4)の保有者においては、ペリサイトと脳血管の変成が顕著であり、脳微小血管を取り巻くペリサイトの数が減少していること(非特許文献3)などが報告されている。さらに、微小動脈瘤の他、糖尿病性脳血管疾患の初期段階においても脳ペリサイトの消失が関与していると考えられている(非特許文献4)
また、網膜毛細血管を被覆するペリサイトの消失が、糖尿病網膜症の発症を誘導するとの報告があり(非特許文献5および6)、糖尿病関連細小血管症の発症にもペリサイトの消失が重要である。
中枢においては血液脳関門が神経組織の内部環境の維持に主要な役割を果たしているのに対し、末梢においては血液神経関門(blood-nerve barrier;BNB)が血液脳関門と同様の機能を果たしている。血液神経関門は血液脳関門と異なり、血管内皮細胞とペリサイトの2種類の細胞によって構成されている。血液神経関門は、血流からの有害物質の流入を防ぎ、末梢神経の内部環境を維持している。血液神経関門が障害を受けると、ギランバレー症候群、末梢性ニューロパチー(糖尿病性ニューロパチーなど)などの末梢神経疾患を引き起こすことが知られている(非特許文献7)。なかでも、糖尿病性ニューロパチーにおいては、BNB形態変化の要因として、微小血管を構成する内皮細胞とペリサイトの変成が報告されている(非特許文献8)。
また、腎臓の直細動脈のペリサイトは、直細動脈の直径および腎髄質血流(medullary blood flow;MBF)の制御、ならびに、血管形成と腎臓の修復において重要な役割を果たしている。腎臓ペリサイトの機能が損なわれると、高血圧、低酸素症、虚血および乳頭壊死などを発症し、最終的に慢性的な腎臓疾患を引き起こすことになる(非特許文献9)。その他、ペリサイトの変成が肺疾患に関与しているとの報告もある(非特許文献10)
ペリサイトの変成はがんの転移にも関与している。例えば、脳以外のがん、例えば、乳がんなどが脳に転移をする際、血液脳関門を透過する必要があるが、ペリサイトのうちデスミン陽性に変化したペリサイトがこの透過性を上昇させ、脳へのがんの転移を促進しているとの報告があり、ペリサイトの変成(性質の変化)が、がんの転移に関与することが示唆されている(非特許文献11)。
また、がん組織の中にペリサイト様の細胞が含まれていることがあり、このような細胞は間葉系細胞とも呼ばれており、上皮間葉転換(Epithelial-to-mesenchymal transition;EMT)によって生じると考えられている(非特許文献12)。従来これらの細胞は、血管などに存在しているペリサイト系の細胞であるが、がん細胞からのシグナルにより血管からはがれ、がん組織内に潜り込んでいることが多い。ペリサイトが血管からはがれると、血管の透過性が上昇し、原発性のがん細胞が血管内に浸潤しやすくなり、他の部位への転移が進むようになることが容易になる。すなわち、ペリサイトの間葉系細胞への変異が、がんの転移を促進すると考えられている。
そのほか、腫瘍細胞由来のPDGF-BBにより毛細血管からペリサイトがはがされ、線維芽細胞に変異し、このペリサイト由来線維芽細胞が腫瘍の成長や浸潤・転移を 促進していることも報告されている(非特許文献13)。
以上のように、ペリサイトは、中枢および末梢において重要な役割を果たしており、ペリサイトの変成、減少または消失が多くの疾患を引き起こす原因となっている。
WO2015/146522
Sweeneyら, Nat Neurosci. 19:771-783, 2016 Sengilloら, Brain Pathol. 23:303-310, 2013 Hallidayら, J Cereb Blood Flow Metab 35:86-94, 2015 Priceら, Biochim Biophys Acta 1863:929-935 2017 Uemuraら, J Clin Invest 110:1619-1628, 2002 Ejazら, Diabetes, Obesity & Metabolism 10:53-63, 2008 Kandaら, J Neurol Neurosurg Psychiatry 84:208-212, 2013 Gianniniら, Ann Neurol 37:498-504, 1995 Peppiatt-Wildmanら, Curr Opin 22:10-16 doi:10. 1097/MNH. 0b013e32835b4e6e 2013 Rowleyら, Int Arch Allergy Immunol 164:178-188 2014 Lyleら Clin Cancer Res 22 5287-5299 2016 Shenoyら, J Clin Invest. 2016 Nov 1;126(11):4174-4186. doi: 10.1172/JCI 86623. Hosakaら, Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 Sep 20;113(38): E5618-27. doi: 10.1073/pnas.1608384113.
上記事情に鑑み、本発明はペリサイトの変成およびペリサイトの細胞死等による減少または消失を抑制するための剤の提供を目的とする。
本発明者らは、アルツハイマー病モデルマウスにイミダゾールジペプチドのアンセリンを投与し、その影響を調べたところ、アンセリン投与群では、アンセリン非投与のコントロール群に比べて、大脳皮質および海馬におけるペリサイトの消失が有意に抑制されることを見いだした。
これまでに、イミダゾールジペプチドが心理機能の改善効果を有するとの報告(特許文献1)はあるが、ペリサイトの変成、消失および減少を抑制もしくは阻害する効果を示唆する報告は無かった。前述の通り、ペリサイトは血管環境の維持において重要な役割を果たしており、ペリサイトの減少により様々な悪影響が生体にもたられる。本発明により、これらの生体への悪影響を緩和および阻止することが可能となる。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)である。
(1)イミダゾールジペプチド、該イミダゾールジペプチドの塩、溶媒和物、水和物およびそれらの代謝産物からなるグループから選択される少なくとも1を含有する、ペリサイトの変成抑制剤。
(2)前記ペリサイトが脳ペリサイトであることを特徴とする上記(1)に記載の剤。
(3)前記ペリサイトの変成が、神経変成疾患または脳血管疾患の原因であることを特徴とする上記(2)に記載の剤。
(4)前記神経変成疾患が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症または脳血管性認知症であることを特徴とする上記(3)に記載の剤。
(5)前記脳血管疾患が、微小動脈瘤であることを特徴とする上記(3)に記載の剤。
(6)前記ペリサイトが網膜ペリサイトであることを特徴とする上記(1)に記載の剤。
(7)前記ペリサイトの変成が糖尿病性網膜症の原因であることを特徴とする上記(6)に記載の剤。
(8)前記ペリサイトが末梢血管ペリサイトであることを特徴とする上記(1)に記載の剤。
(9)前記ペリサイトの変成が末梢性ニューロパチー、呼吸器疾患、腎臓疾患、ガンの転移の原因であることを特徴とする上記(8)に記載の剤。
(10)前記イミダゾールジペプチドが以下の式(I)または式(II)で表される化合物であることを特徴とする上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の剤。
[式(I)および式(II)中、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、Xは水素原子または-COR4で表される置換基であって、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のベンジル基またはビニル基を表す。]
(11)上記(10)に記載の剤を含有する糖尿病性網膜症の治療または予防のための医薬。
(12)上記(10)に記載の剤を含有する末梢性ニューロパチー、呼吸器疾患、腎臓疾患およびガンの転移の治療または予防のための医薬。
本発明にかかる剤および医薬は、ペリサイトの変成、減少または消失を抑制もしくは阻害することができる。
本発明にかかる剤および医薬は、ペリサイトの変成、減少または消失により惹起される疾患、または、ペリサイトの変成、減少または消失により病態が悪化する疾患の予防または治療に効果を発揮する。
ジェノタイピングにおけるPCR反応に使用した反応液の組成(A)とPCRサイクルを示す(B)。 アルツハイマー病モデルマウスの海馬におけるペリサイト変成に対するアンセリンの効果。ペリサイト投与マウスと未投与マウスの海馬内のペリサイト、脳血管およびミクログリア細胞を、各々、抗PDGFR-β抗体、トマトレクチンおよび抗Ibal抗体を用いて染色した。Merge;ペリサイト染色像、脳血管染色像およびミクログリア細胞染色像を重ね合わせた図である。 アンセリン投与アルツハイマー病モデルマウスと未投与アルツハイマー病モデルマウスの海馬におけるペリサイトの血管被覆率の比較。Aは、投与群において87本の血管を、未投与群において117本の血管を観察し、PDGFR-β陽性細胞の割合を血管被覆率として示した結果である。有意差検定はStudent’s t-testで行った。Scale bars:standard error of mean(sem)Bは、各血管におけるペリサイト被覆率(%)データのドットプロット図である。 アンセリン投与アルツハイマー病モデルマウスと未投与アルツハイマー病モデルマウスの大脳皮質におけるペリサイトの血管被覆率の比較。Aは、投与群におい73本の血管を、未投与群において75本の血管を観察し、PDGFR-β陽性細胞の割合を血管被覆率として示した結果である。有意差検定はStudent’s t-testで行った。Scale bars:standard error of mean(sem)Bは、各血管におけるペリサイト被覆率(%)データのドットプロット図である。
本発明の第1の実施形態は、イミダゾールジペプチド、該イミダゾールジペプチドの塩、溶媒和物、水和物、およびそれらの代謝産物からなるグループから選択される少なくとも1を含有する、ペリサイトの変成抑制剤である。
本発明の実施形態において、イミダゾールジペプチドとは、イミダゾール基を有するアミノ酸と他のアミノ酸がペプチド結合で結合した化合物のことである。本発明の実施形態において使用することができるイミダゾールジペプチドとしては、限定はしないが、例えば、アンセリン、カルノシン、バレニンおよびホモカルノシンを挙げることができる。
本発明の実施形態で使用されるイミダゾールジペプチドは、例えば、以下の式(I)で表されるアンセリンおよびその誘導体、または式(II)で表されるカルノシンおよびその誘導体である。
式(I)および式(II )中、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である。Xは水素原子または-COR4で表される置換基であり、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のベンジル基またはビニル基である。-COR4で表される置換基としては、限定はしないが、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基またはアクリロイル基である。
式(I)において、RおよびRは、これらのいずれか一方が炭素数1〜6のアルキル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。式(II)において、RおよびRは、これらのいずれか一方が炭素数1〜6のアルキル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。ここで、炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基が好ましい。
式(I)で表される化合物の代表例として下記式(I’)のL-アンセリン((2S)-2-[(3-アミノ-1-オキソプロピル)アミノ]-3-(3-メチル-4-イミダゾリル)プロパン酸)を挙げることができる。
アンセリンは、β−アラニンとメチル化ヒスチジンがペプチド結合で結合した化合物で、鳥類や魚類の筋肉に多く含まれている。アンセリンは、式(I’)のL-アンセリンの他、その光学異性体のD-アンセリンが存在する。本明細書においては、特記しない限り、「アンセリン」とは、L-アンセリン、D-アンセリンまたはL-アンセリンとD-アンセリンの混合物を指すものとする。
式(II)で表される化合物の代表例として下記式(II’)のL-カルノシン((2S)-2-[(3-アミノ-1-オキソプロピル)アミノ]-3-(3H-イミダゾル-4-イル)プロパン酸)を挙げることができる。
カルノシンは、β−アラニンとヒスチジンがペプチド結合で結合した化合物で、哺乳類や鳥類の筋肉に多く含まれている。カルノシンンは、式(II’)のL-カルノシンの他、その光学異性体のD-アンセリンが存在する。本明細書においては、特記しない限り、「カルノシン」とは、L-カルノシン、D-カルノシンまたはL-カルノシンとD-カルノシンの混合物を指すものとする。
式(I)または式(II)で表される化合物は、公知の方法により容易に製造することができる。例えば、特表2003-520221、特開2006-232686、特表2006-504701、特表2008-517911、特表2009-512459、特開2010-31004、特開2011-37891、特開2011-37892、特開2013-165728および特開2014-12735などに記載の方法に基づいて、式(I)および式(II)の化合物を合成することができる。
本発明の実施形態において、イミダゾールジペプチドの代謝産物とは、例えば、アンセリン、カルノシン、バレニンおよびホモカルノシンなどの代謝産物のことであり、例えば、β−アラニン、ヒスチジン、メチル化ヒスチジンおよびγ−アミノ酪酸(GABA)などを挙げることができる。
また、本実施形態において、「少なくとも1を含有する」とは、イミダゾールジペプチド、該イミダゾールジペプチドの塩、溶媒和物、水和物、およびそれらの代謝産物(以下、「イミダゾールジペプチド等」とする)の中から、1または2以上を含有するとの意味である。
本発明の実施形態で使用されるイミダゾールジペプチド等は、天然由来のものであっても合成されたものであってもよい。天然由来のものとしては、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ニワトリ、魚(例えば、鮭、かつお、まぐろなど)から単離、精製したものを使用してもよい。
本発明の実施形態において、イミダゾールジペプチドの塩としては、薬学上許容される塩であればよく、例えば、酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;またはリジン、δ−ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩などを挙げることができる。塩基性基が存在する場合には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸の塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸塩、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、乳酸、グリコール酸、グルクロン酸、アスコルビン酸、ニコチン酸、サリチル酸等の有機酸との塩;またはアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸との塩などを挙げることができる。
また、本発明の実施形態において、イミダゾールジペプチド等には、アンセリンおよびカルノシンについて言及したように、特に断らない限り、その互変異性体、鏡像異性体等の立体異性体も含まれる。すなわち、該イミダゾールジペプチド等に、1個または2個以上の不斉炭素が含まれる場合、不斉炭素の立体化学については、それぞれ独立して(R)体又は(S)体のいずれかをとることができ、該誘導体の鏡像異性体またジアステレオ異性体などの立体異性体として存在することがある。
本発明の実施形態における剤の有効成分としては、純粋な形態の任意の立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などを用いることが可能である。
本発明の実施形態において、「ペリサイト(pericyte)」とは、脳、末梢または網膜などに存在する微小血管壁または毛細血管壁を取り巻くように存在し、基底膜に包まれている細胞のことで、周皮細胞とも称される。その機能については、上述した通りである。ペリサイトの変成とは、ペリサイトの細胞機能に障害が生じ、本来の機能(例えば、血管の安定化、血流の維持、脳血液関門の維持、血液神経関門の維持などであるが、これらに限定されない)が損なわれている状態のことである。また、本実施形態における「ペリサイトの変成」は、その変成が進行し、細胞死の状態に陥り、その結果、細胞数が減少し、細胞自体が消失して、通常の方法(例えば、ペリサイトマーカーなどに対する抗体を用いた免疫染色など)では検出できない状態を含む概念である。
ペリサイトの変成または消失の「抑制(または阻害)」とは、なんらかの原因により、ペリサイトが変成するのを防いで正常な機能を維持し得るようにすること、または、ペリサイトの細胞死を防いで正常なペリサイトの数を維持することを指す。生体サンプル中のペリサイトは、例えば、ペリサイト細胞表面上に発現するPDGFR-β(Platelet-Derived Growth Factor β-receptor;血小板由来成長因子β受容体)などに対する抗PDGFR-β抗体を用いて検出することができる。
本発明の実施形態にかかるイミダゾールジペプチド等は、ペリサイトの変成、減少および消失を抑制する効果を発揮する。従って、該イミダゾールジペプチド等を有効成分として含有する剤、医薬または医薬組成物は、ペリサイトの変成、減少および消失によって惹起される疾患、あるいは、ペリサイトの変成、減少または消失によってその病態が悪化するようは疾患の予防および/または治療のために使用することができる。
脳ペリサイト(脳の微小血管を取り巻くペリサイト)の変成は、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症、その他、微小動脈瘤、糖尿病性脳血管疾患などの原因でもあることから、ペリサイトの変成を抑制することで、これらの疾患の予防または治療を行うことができる。従って、本実施形態のイミダゾールジペプチド等は、これら神経変性疾患の予防および/または治療のための剤、医薬または医薬組成物の有効成分として使用することができる。
また、網膜の毛細血管を取り巻くペリサイトの変成は、糖尿病性網膜症の原因であり、末梢血管または脳以外の臓器内に存在する血管(例えば、腎臓、肺、乳房など)を取り巻くペリサイトの変成は、糖尿病性ニューロパチーなどの末梢性ニューロパチー、さらにはペリサイトの変成や消失が関与する肺などの呼吸器疾患、腎臓疾患(慢性および急性)などの原因であるため、ペリサイトの変成(または消失)を抑制することで、これらの疾患の予防または治療の手段にすることができる。加えて、ペリサイトの変成や消失が関与する様々なガンの転移において、ペリサイトの変成(または消失)を抑制することで、これらの疾患の治療の手段にすることができる。
従って、本実施形態のイミダゾールジペプチド等は、糖尿病性網膜症、末梢性ニューロパチー、肺などの呼吸器疾患、腎臓疾患(慢性および急性)、ガンの転移の予防および/または治療のための剤、医薬または医薬組成物の有効成分として使用することができる。
本発明の実施形態の「剤」は、有効成分であるイミダゾールジペプチド等そのものの、該有効成分以外の成分(製剤用添加物など)を含むもののいずれであっても良いが、イミダゾールジペプチド等が由来する天然物(例えば、ニワトリ、鮭など)は含まない。
本発明の実施形態に係る剤の形態は、医薬、医薬組成物、栄養組成物などであってもよい。
本発明の実施形態にかかる剤、医薬もしくは医薬組成物、栄養組成物の種類は、特に限定されず、剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。なお、液体製剤にあっては、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。また、錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
経口投与用または非経口投与用の製剤は、任意の製剤形態で提供される。製剤形態としては、例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤または液剤等の形態の経口投与用剤、静脈内投与用、筋肉内投与用、もしくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
本発明の実施形態における栄養組成物は、固形物、液体物の形態であってもよく、限定はしないが、例えば、健康食品、サプリメント、保健機能食品などを含む。また、栄養素生物の形態としては、医薬または医薬組成物と同様の製剤形態であってもよい。
本発明の実施形態にかかる剤、医薬もしくは医薬組成物または栄養組成物の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、あるいは、医薬または医薬組成物の製造方法は、その形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機または有機物質、あるいは、固体または液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して、例えば、0.1重量%〜99.9重量%、1重量%〜95.0重量%、または1重量%〜90.0重量%の間で配合することができる。具体的には、製剤用添加物の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式または乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま、あるいは、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒または錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸−メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま、あるいは、グリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチンで被覆し軟カプセルとすることができる。
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ、注射剤用乳剤とすることもできる。
直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジおよびモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
本発明の実施形態にかかる剤、医薬もしくは医薬組成物または栄養組成物の投与量および投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の悪化・進展の防止および/または治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢などの条件に応じて、医師または薬剤師の判断により適宜選択することが可能である。
一般的には、経口投与における成人1日あたりの投与量は0.01〜1,000 mg(有効成分重量)程度であり、1日1回または数回に分けて、あるいは数日ごとに投与することができる。注射剤として用いる場合には、成人に対して1日量0.001〜100mg(有効成分重量)を連続投与または間欠投与することが望ましい。
本発明の実施形態にかかる剤、医薬もしくは医薬組成物または栄養組成物は、植込錠およびマイクロカプセルに封入された送達システムなどの徐放性製剤として、体内から即時に除去されることを防ぎ得る担体を用いて調製することができる。そのような担体として、エチレンビニル酢酸塩、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生物分解性、生物適合性ポリマーを用いることができる。このような材料は、当業者によって容易に調製することができる。また、リポソームの懸濁液も薬学上許容される担体として使用することができる。リポソームは、限定はしないが、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導ホスファチジルエタノール(PEG-PE)を含む脂質組成物として、使用に適するサイズになるように、適当なポアサイズのフィルターを通して調製され、逆相蒸発法によって精製することができる。
本発明の実施形態にかかる剤、医薬もしくは医薬組成物または栄養組成物は、投与方法等の説明書と共にキットの形態で提供してもよい。キット中に含まれる剤、医薬もしくは医薬組成物または栄養組成物は、有効成分の活性を長期間有効に持続し、剤等が容器内側に吸着することなく、また、構成成分を変質させることのない材質で製造された容器により供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性を示すガスの存在下で封入されたバッファーなどを含んでもよい。
また、キットには使用説明書が添付されてもよい。本キットの使用説明は、紙などに印刷されたものであっても、CD-ROM、DVD-ROMなどの電磁的に読み取り可能な媒体に保存され、供給されてもよい。
さらに、本発明の他の実施形態は、イミダゾールジペプチド等を含有する剤、医薬または医薬組成物を患者等に投与して、例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、糖尿病性網膜症、末梢性ニューロパチーなどを予防または治療する方法である。
ここで「治療」とは、疾患等に罹患した哺乳動物において、その病態の進行および悪化を阻止または緩和することを意味し、これによって該疾患の進行および悪化を阻止または緩和することを目的とする処置のことである。
また、「予防」とは、疾患等に罹患するおそれがある哺乳動物について、該疾患の発症または罹患を予め阻止することを意味し、これによって該疾患の諸症状等の発症を予め阻止することを目的とする処置のことである。
治療の対象となる「哺乳動物」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、特に限定はしないが、例えば、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマなどの家畜動物などのことである。特に好ましい「哺乳動物」は、ヒトである。
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
1.材料および方法
1−1.使用動物および飼育方法
本実施例では、Jackson Laboratory (Bar Harbor, Maine, USA) より購入した家族性アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)の2種類の原因遺伝子を有するB6C3 -Tg(APPswe, PSEN1dE9) 85 Dbo/Mmjaxマウスをもとに、発明者らの研究室内にて自家交配を続けたものを使用した。B6C3-Tg (APPswe,PSEN1dE9) 85Dbo/Mmjaxマウスは、家族性ADの原因遺伝子である、ヒトAPP遺伝子のSwedish変異型、およびヒトPSEN1遺伝子のExon 9が欠損した遺伝子を導入したダブルトランスジェニックマウスである(Jankowskyら, Biomol Eng 17:157-165 2001)。この変異遺伝子を持つトランスジェニックマウスと、同時に購入した変異遺伝子を持たない同系統の野生型マウスとの交配により繁殖をおこなった。仔世代はジェノタイピングにより遺伝子型を判別して実験に使用、または先行研究に基づき生後6週令以降の産仔を掛け合わせて、引き続き交配を行い、系統を維持した。飼育環境は、室温を約22℃から25℃に保ち、照明は12時間周期の明暗サイクル(8:00 light on/20:00 light off)に設定した。また、縦12.5 cm・横20 cm・高さ11 cmのプラスチックケージにて1ケージ最大5匹までとして飼育した。
なお、実験は東京大学による東京大学動物実験実施規則に従い行った。
1−2.ジェノタイピング
産仔は生後3〜4週令で離乳し、雌雄判別を行った。その後、約6週令で以下のようにしてgenotypingを行った。
尾の先端約5 mmを採取し、600 mAnson U/ml Proteinase K (ProK; TAKARA BIO inc., Otsu, Japan) 1.5μlとLysis Buffer (100 mM Tris, 5 mM EDTA, 200 mM NaCl, 0.5 %Tween20 , pH8.5) 298.5 μlの混合液に入れ、55 ℃で12時間以上インキュベートした。その後、フェノール・クロロホルム抽出によりタンパク質や脂質などを取り除き、エタノール沈殿によりDNAを精製した。
DNA溶液の濃度を吸光度計 (Ultrospec 6300 pro ;GE Healthcare UK Ltd, Amersham Place, England)を用いて測定し、溶液を50〜200 ng/μlに希釈した。プライマーにはPrP sense primer、PrP antisense primer、APP sense primer、PS1 sense primerの4種類を用い、PCRを行った。使用したプライマーは以下に示す。
PrP sense primer : 5’- CCTCTTTGTGACTATGTGGACTGATGTCGG(配列番号1)
PrP antisense primer: 5’-GTGGATACCCCCTCCCCCAGCCTAGACC(配列番号2)
APP sense primer: 5’-CCGAGATCTCTGAAGTGAAGATGGATG(配列番号3)
PS1 sense primer: 5’- CAGGTGGTGGAGCAAGATG(配列番号4)
PCR mixtureの組成、PCRサイクルは、図1AおよびBに示す。PCRの反応には、PCR kit (TAKARA Tac Hot Start Version ;TAKARA BIO inc., Otsu, Japan) を使用した。反応終了後、エチジウムブロマイドを含む1.5%アガロースゲルを使用して、PCR産物を電気泳動した。紫外線照射器によりDNA増幅の有無を確認した。1,200 bp (PS1)、750 bp (PrP)、400 bp (APP)の3箇所にバンドがでた個体をトランスジェニックマウス、750 bp (PrP)1本のみしか得られなかった個体を野生型マウスと判断した(Jankowskyら, Biomol Eng 17:157-165, 2001)。
1−3.アンセリン給餌
本実施例では、18ヶ月令以上のADモデルマウスおよび野生型マウスを使用し、それぞれアンセリン投与群と通常の水のみを与えるコントロール群を設けた。アンセリン投与群においては、滅菌水に鮭から高純度精製したアンセリン粉末(東海物産株式会社、Yokkaichi, Japan)を溶かした0.2%アンセリン溶液(2 g/L)を8週間自由摂取させた。また、3日に1度体重を測定した。給餌は全群同様に、固形飼料MF(オリエンタル酵母、Tokyo, Japan)を自由摂取させた。
1−4.灌流固定
マウスに麻酔をかけ、腹部・横隔膜を切開し、心臓を露出させた。右心房を切開後、左心室からPBS(phosphate-buffered Saline :137 mM NaCl(Wako), 2.68 mM KCl(Wako), 8.1 mM Na2HPO4 (Wako), 1.47 mM KH2PO4 (Wako; pH7.4)を約25 mL灌流した。脱血後、4 %パラホルムアルデヒド(PFA)液を約25 mL灌流し、脳組織の固定を行った。灌流固定後、脳を取り出し4 ℃で4 %PFAに浸漬し、一晩、後固定を行った。さらにこの固定した脳を30%スクロース溶液に移し、4 ℃で2日間スクロース置換を行った。その後OCT compound(Sakura Fineteck, Torrance, CA)で包埋し、-80℃で凍結させた。凍結した脳は、クライオスタット(Micron, Walldorf, Germany)を用いて厚さ40 μmの凍結脳切片を作製した。脳切片は、クライオプロテクタント(0.2 M Na2HPO4 12.8 ml/l (Wako), 0.2 M NaH2PO4 3.2 ml/l (Wako), DW 384 ml/l, ethylen glycol 300 ml/l (Wako), glycerol 300 ml/l (Wako))に浸けて、-30℃で保存した。これを以後の免疫染色に用いた。
1−5.免疫組織化学染色(抗PDGFR-β染色、抗Iba1色およびレクチン染色)
PDGFR-βをペリサイトのマーカーとして使用し、ペリサイトの免疫染色を行った。また、トマトレクチンは、血管内皮細胞のマーカーとして血管の免疫染色に使用した。Iba1(Ionized calcium binding adapter molecule 1) は、マクロファージやミクログリアに特異的に発現しているカルシウム結合タンパク質である。
脳切片サンプル(アルツハイマー病モデルマウス(APPswe/PSENΔE9) 18ヶ月令以上の脳サンプルを使用)は、24 wellプレート中で、1mlのトリス緩衝生理食塩水(TBS:137 mM NacCl,2.68 mM KCl,25 mM Tris)で3回洗浄した。エッペンドルフチューブ(600μl入り)中で、3%正常ロバ血清、0.1%triton-X を含むTBS 400μlに30分間処理し、ブロッキングを行った。ブロッキング後、このブロッキング溶液にヤギ由来抗PDGFR-β抗体 (1:100, R & D, USA)抗体ならびにIba1抗体(1:1000)を使用して、3日間、4℃、サンプルを反応させた。反応後、TBSで3回洗浄した。洗浄後、ヤギ由来抗PDGFR-β抗体の2次抗体としてCy5標識ロバ由来抗ヤギIgG抗体 (1:100, JacksonImmunoResearch)を、Iba1の2次抗体としてDonkey anti-rabbit IgG Alexa488 Conjugated (1:1000)を、また、血管を染色するためにDyLight 594-標識トマトレクチン(1:200, Vector laboratories, USA)を3%正常ロバ血清、0.1%triton-X を含むTBS中で、サンプルと2時間、室温で遮光して反応させた。反応後、TBSで洗浄1回行った。その後4, 6-diamidino-2-phenylindole (DAPI) (1:5000 dilution; Sigma) をTBSで希釈し、15分間反応させた。反応後、再度TBSで15分洗浄した。洗浄後、スライドガラスにマウントし、封入剤(Shandon Immu-Mount;Thermo Scientific, Pittsburgh, PA)を切片の上に滴下しカバーガラスで封入した。その後、共焦点レーザー顕微鏡で観察、撮像を行った。
1−6.ペリサイトの血管被覆率
上記1−5に記載した方法で撮像したペリサイトの染色像を、ImgageJを用いて解析を行った。海馬およびの大脳皮質観察領域におけるPDGFR-β陽性面積の割合を血管被覆率として算出した。
海馬については、以下の観察を行いペリサイトの血管被覆率を算出した。
アンセリン投与群; 血管観察数 87(個体数n=3)
アンセリン未投与群;血管観察数 117(個体数n=3)
大脳皮質については、以下の観察を行いペリサイトの血管被覆率を算出した。
アンセリン投与群; 血管観察数 73(個体数n=3)
アンセリン未投与群;血管観察数 75(個体数n=3)
2.結果
アルツハイマー病モデルマウスに高純度鮭アンセリンを2ヶ月間投与(250 mg/kg)した後、海馬領域の脳サンプルに対し、ペリサイトのマーカータンパク質であるPDGFR-βに対する抗体を用いて免疫染色を行った。また、脳血管については、血管内皮細胞に結合するトマトレクチンで染色を行った。結果を図2に示す。
アンセリン投与群とアンセリン未投与群を比較すると、アンセリン投与マウスの海馬では血管を取り巻くペリサイトが多く存在しているのに対し、未投与マウスの海馬では、ペリサイトの変成が進み、消失している領域が多く認められた(図2、ペリサイトの染色)。また、脳血管は、アンセリン投与群では、血管が多く張り巡らされているのに対し、未投与群では、血管が変成または消失している部分が確認された(図2、脳血管の染色)。他方、ミクログリアのマーカータンパク質であるIbalを用いて免疫染色を行ったところ、アンセリン投与群と未投与群との間で有意な差は認められなかった。
抗PDGFR-β抗体を用いて免疫染色したペリサイトの染色像を、ImgageJを用いて解析し、PDGFR-β陽性面積の割合を算出した(図3および図4)。図3は海馬の解析結果で、図4は大脳皮質の解析結果である。図3および図4から分かる通り、アルツハイマー病モデルマウスにアンセリンを投与すると、脳ペリサイトの変成および消失が、未投与マウスと比較して、有意に抑制されることが明らかになった。
本発明によれば、ペリサイトの変成または消失を抑制することができるため、ペリサイトの変成によって惹起される疾患の予防および治療手段が提供される。従って、本発明は、医療分野の発展に大いに貢献することが期待される。

Claims (12)

  1. イミダゾールジペプチド、該イミダゾールジペプチドの塩、溶媒和物、水和物およびそれらの代謝産物からなるグループから選択される少なくとも1を含有する、ペリサイトの変成抑制剤。
  2. 前記ペリサイトが脳ペリサイトであることを特徴とする請求項1に記載の剤。
  3. 前記ペリサイトの変成が、神経変成疾患または脳血管疾患の原因であることを特徴とする請求項2に記載の剤。
  4. 前記神経変成疾患が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症または脳血管性認知症であることを特徴とする請求項3に記載の剤。
  5. 前記脳血管疾患が、微小動脈瘤であることを特徴とする請求項3に記載の剤。
  6. 前記ペリサイトが網膜ペリサイトであることを特徴とする請求項1に記載の剤。
  7. 前記ペリサイトの変成が糖尿病性網膜症の原因であることを特徴とする請求項6に記載の剤。
  8. 前記ペリサイトが末梢血管ペリサイトであることを特徴とする請求項1に記載の剤。
  9. 前記ペリサイトの変成が末梢性ニューロパチー、呼吸器疾患、腎臓疾患、ガンの転移の原因であることを特徴とする請求項8に記載の剤。
  10. 前記イミダゾールジペプチドが以下の式(1)または式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の剤。
    [式(I)および式(II)中、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、Xは水素原子または-COR4で表される置換基であって、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、置換もしくは無置換のベンジル基またはビニル基を表す。]
  11. 請求項10に記載の剤を含有する糖尿病性網膜症の治療または予防のための医薬。
  12. 請求項10に記載の剤を含有する末梢性ニューロパチー、呼吸器疾患、腎臓疾患およびガンの転移の治療または予防のための医薬の治療または予防のための医薬。
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