以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な実施形態であるので、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明によって不当に限定されるものではなく、また、本実施の形態で説明される構成の全てが本発明の必須の構成要件ではない。
以下の実施形態では、被処理物(記録媒体または印刷メディアともいう)にインクが着弾した直後にインク顔料の分散を防止しつつ顔料を凝集させるために、被処理物表面を酸性化させる。酸性化する手段としては、プラズマ処理を例示する。
また、以下の実施形態では、使用インクの種類に応じて、プラズマ処理された被処理物表面の濡れ性、pH値の低下によるインク顔料の凝集性や浸透性をコントロールすることで、インクドット(以下、単にドットという)の真円度を向上させるとともに、ドットの合一を防止してドットの鮮鋭度や色域を拡げる。ここで、使用インクの種類が異なるとはインクの組成が異なることを意味する。これには、色が異なることも含まれる。これにより、ビーディングやブリードといった画像不良を解決して、高品質な画像が形成された印刷物を得ることができる。また、印刷メディア上の顔料の凝集厚みを薄く均一にすることにより、インク滴量を削減して、インク乾燥エネルギーの低減および印刷コストの低減を図ることも可能にする。
酸性化処理手段(工程)としてのプラズマ処理では、被処理物に大気中のプラズマ照射を行うことによって、被処理物表面の高分子を反応させ、親水性の官能基を形成する。詳細には、図1に示すように、放電電極から放出された電子eが電界中で加速されて、大気中の原子や分子を励起・イオン化する。イオン化された原子や分子からも電子が放出され、高エネルギーの電子が増加し、その結果、ストリーマ放電(プラズマ)が発生する。このストリーマ放電による高エネルギーの電子によって、被処理物20(たとえばコート紙)表面の高分子結合(コート紙のコート層21は炭酸カルシウムとバインダーとして澱粉で固められているが、その澱粉が高分子構造を有している)が切断され、気相中の酸素ラジカルO*やオゾンO3と再結合する。これにより、被処理物20の表面に水酸基やカルボキシル基等の極性官能基が形成される。その結果、被処理物20の表面に親水性や酸性が付与される。カルボキシル基が増加すると酸性化(pH値の低下)となる。
被処理物に対して隣接したドットが、親水性が上がることにより濡れ拡がって合一することで、ドット間の混色が発生するのを防ぐためには、着色剤(例えば顔料や染料)をドット内で凝集させることや、ビヒクルが濡れ拡がるよりも早くビヒクルを乾燥させたり被処理物内へ浸透させたりすることが重要であることも分かった。そこで、実施形態では、インクジェット記録処理の前処理として、被処理物表面を酸性化するプラズマ処理を実行する。
本説明における酸性化とは、インクに含まれる顔料が凝集するpH値まで印刷媒体表面のpH値を下げることを意味する。pH値を下げるとは、物体中の水素イオンH+濃度を上昇させることである。被処理物表面に触れる前のインク中の顔料はマイナスに帯電し、ビヒクル中で顔料が分散している。インクは、そのpH値が低いほど、その粘度が上昇する。これは、インクの酸性度が高くなるほど、インクのビヒクル中でマイナスに帯電している顔料が電気的に中和され、その結果、顔料同士が凝集するためである。したがって、インクのpH値が必要な粘度と対応する値となるように印刷媒体表面のpH値を下げることで、インクの粘度を上昇させることが可能である。これは、インクが酸性である印刷媒体表面に付着した際、顔料が印刷媒体表面の水素イオンH+によって電気的に中和された結果、顔料同士が凝集するためである。それにより、隣接したドット間の混色を防止するとともに、顔料が印刷媒体の奥深く(さらには裏面まで)浸透するのを防止することが可能となる。ただし、必要な粘度と対応するpH値となるようにインクのpH値を下げるためには、印刷媒体表面のpH値を必要な粘度と対応するインクのpH値よりも低くしておく必要がある。
つづいて、本発明の実施形態にかかる印刷装置、印刷物の製造方法および印刷システムについて、図面を参照して詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)の4色の吐出ヘッド(記録ヘッド、インクヘッド)を有する画像形成装置を説明するが、これらの吐出ヘッドに限定されない。すなわち、グリーン(G)、レッド(R)及びその他の色に対応する吐出ヘッドを更に有してもよいし、ブラック(K)のみの吐出ヘッドを有していてもよい。ここで、以後の説明において、K、C、M及びYは、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの夫々に対応するものとする。
また、本実施形態では、被処理物として、ロール状に巻かれた連続紙(以下、ロール紙という)を用いるが、これに限定されるものではなく、たとえばカット紙など、画像を形成できる記録媒体であればよい。そして、紙の場合その種類としては例えば、普通紙、上質紙、再生紙、薄紙、厚紙、コート紙等を用いることができる。また、OHPシート、合成樹脂フィルム、金属薄膜及びその他表面にインク等で画像を形成することができるものも被処理物として用いることができる。紙がコート紙のような非浸透、緩浸透紙の場合、本発明はより効果を発する。ここで、ロール紙は、切断可能なミシン目が所定間隔で形成された連続紙(連帳紙、連続帳票)であってよい。その場合、ロール紙におけるページ(頁)とは、例えば所定間隔のミシン目で挟まれる領域とする。
図2に示すように、印刷装置1は、被処理物20(ロール紙)を搬送経路D1に沿って搬入(搬送)する搬入部30と、搬入された被処理物20に対して前処理としてのプラズマ処理を施すプラズマ処理装置100と、プラズマ処理された被処理物20の表面に画像を形成する画像形成部40とを有する。画像形成部40は、インクジェットヘッド170と、パターン読取部180とを含む。インクジェットヘッド170は、プラズマ処理装置100によるプラズマ処理後の被処理物20表面にインクジェット記録処理を実行して画像を形成する。パターン読取部180は、インクジェット記録処理により被処理物20に形成された画像を読み取る。画像形成部40は、画像が形成された被処理物20を後処理する後処理部を含んでもよい。また、印刷装置1は、後処理された被処理物20を乾燥する乾燥部50と、画像形成された(場合によってはさらに後処理された)被処理物20を搬出する搬出部60とを有してもよい。なお、パターン読取部180は、搬送経路D1上における乾燥部50よりも下流の位置に設けられていてもよい。さらに、印刷装置1は、各部の動作を制御する制御部(不図示)を有する。
実施形態では、図2に示す印刷装置1において、上述したように、インクジェット記録処理の前に、被処理物20の表面を酸性化するプラズマ処理が実行される。このプラズマ処理には、たとえば誘電体バリア放電を利用した大気圧非平衡プラズマ処理を採用することができる。大気圧非平衡プラズマによるプラズマ処理は、電子温度が極めて高く、ガス温度が常温付近であるため、記録媒体などの被処理物に対するプラズマ処理方法として好ましい方法の1つである。
大気圧非平衡プラズマを広範囲に安定して発生させるには、ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電を採用した大気圧非平衡プラズマ処理を実行するとよい。ストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電は、たとえば誘電体で被覆された電極間に交番する高電圧が印加することで得ることが可能である。
なお、大気圧非平衡プラズマを発生させる方法としては、上述したストリーマ絶縁破壊形式の誘電体バリア放電以外にも、種々の方法を用いることができる。たとえば、電極間に誘電体等の絶縁物を挿入する誘電体バリア放電、細い金属ワイヤ等に著しい不平等電界を形成するコロナ放電、短パルス電圧を印加するパルス放電などを適用することが可能である。また、これらの方法を2つ以上組み合わせることも可能である。
図3は、実施形態で採用されるプラズマ処理の概略を説明するための模式図である。図3に示すように、実施形態で採用されるプラズマ処理には、放電電極11と、接地電極14と、誘電体12と、高周波高圧電源15とを備えたプラズマ処理装置10が用いられる。プラズマ処理装置10において、誘電体12は、放電電極11と接地電極14との間に配置される。高周波高圧電源15は、放電電極11と接地電極14との間に高周波・高電圧のパルス電圧を印加する。このパルス電圧の電圧値は、たとえば約10kV(キロボルト)程度である。また、その周波数は、たとえば約20kHz(キロヘルツ)とすることができる。このような高周波・高電圧のパルス電圧を2つの電極間に供給することで、放電電極11と誘電体12との間に大気圧非平衡プラズマ13が発生する。被処理物20は、大気圧非平衡プラズマ13の発生中に放電電極11と誘電体12との間を通過する。これにより、被処理物20の放電電極11側の表面がプラズマ処理される。
なお、図3に例示したプラズマ処理装置10では、回転型の放電電極11とベルトコンベア型の誘電体12とが採用されている。被処理物20は、回転する放電電極11と誘電体12との間で挟持搬送されることで、大気圧非平衡プラズマ13中を通過する。これにより、被処理物20の表面が大気圧非平衡プラズマ13に接触し、これに一様なプラズマ処理が施される。
ここで、図4〜図7を用いて、実施形態にかかるプラズマ処理を施した場合と施していない場合との印刷物の違いを説明する。図4は、実施形態にかかるプラズマ処理を施していない被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図5は、図4に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。図6は、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物に対してインクジェット記録処理を行うことで得られた印刷物の画像形成面を撮像して得られた画像の拡大図であり、図7は、図6に示す印刷物における画像形成面に形成されたドットの例を示す模式図である。なお、図4および図6に示す印刷物を得るにあたり、デスクトップ型のインクジェット記録装置を用いた。また、被処理物20には、コート層21(図1参照)を備える一般的なコート紙を用いた。
実施形態にかかるプラズマ処理を施していないコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が悪い。そのため、プラズマ処理を施していないコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図4および図5に示すように、ドットの着弾時にコート紙の表面に付着したドットの形状(ビヒクルCT1の形状)が歪になる。また、ドットの乾燥が十分でない状態で近接ドットを形成すると、図4および図5に示すように、コート紙への近接ドットの着弾時にビヒクルCT1およびCT2同士が合一し、これによりドット間で顔料P1およびP2の移動(混色)が起き、その結果、ビーディング等による濃度ムラが生じてしまう場合がある。
一方、実施形態にかかるプラズマ処理を施したコート紙は、コート紙表面にあるコート層21の濡れ性が改善されている。そのため、プラズマ処理を施したコート紙に対してインクジェット記録処理にて形成した画像では、たとえば図6に示すように、ビヒクルCT1がコート紙の表面に比較的平坦な真円状に広がる。これにより、図7のようにドットが平坦な形状となる。また、プラズマ処理で形成された極性官能基によってコート紙表面が酸性になるため、インク顔料が電気的にと中和され、顔料P1が凝集してインクの粘性が上がる。これにより、図7のようにビヒクルCT1およびCT2が合一した場合でも、ドット間の顔料P1およびP2の移動(混色)が抑制される。さらに、コート層21内部にも極性官能基が生成されるため、ビヒクルCT1の浸透性が上がる、これにより比較的短時間で乾燥することが出来る。濡れ性向上により真円状に広がったドットが、浸透しながら凝集することにより、顔料P1が高さ方向に均等に凝集され、ビーディング等による濃度ムラの発生を抑えることが可能となる。なお、図5、図7は模式図であり、実際には図7の場合にも顔料は層になって凝集している。
このように、実施形態にかかるプラズマ処理を施した被処理物20では、プラズマ処理によって極性官能基が形成された結果、表面が酸性になる。それにより、マイナスに帯電した顔料が被処理物20表面で中和されることにより、顔料が凝集して粘性が上がり、結果的にドットが合一したとしても顔料の移動を抑制することが可能となる。また、被処理物20表面に形成されたコート層21内部にも極性官能基が生成されることで、ビヒクルが速やかに被処理物20内部に浸透し、これにより乾燥時間を短縮することが出来る。つまり、濡れ性が上がることで真円状に広がったドットは、凝集によって顔料の移動が抑えられた状態で浸透することで、真円に近い形状を保つことが可能となる。
図8は、実施形態にかかるプラズマエネルギーと被処理物表面の濡れ性、ビーディング、pH値および浸透性との関係を示すグラフである。図8では、被処理物20としてコート紙へ印刷した場合の表面特性(濡れ性、ビーディング、pH値、浸透性(吸液特性))がプラズマエネルギーに依存してどのように変化するかが示されている。なお、図8に示す評価を得るにあたり、インクには、顔料が酸により凝集する特性を持つ同色同種の水性顔料インク(マイナスに帯電した顔料が分散されているアルカリ性インク)を使用した。
図8に示すように、コート紙表面の濡れ性は、プラズマエネルギーが低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)で急激に良くなり、それ以上エネルギーを増加させてもあまり改善はしない。一方、コート紙表面のpH値は、ある程度まではプラズマエネルギーを高めることにより低下していく。ただし、プラズマエネルギーがある値(たとえば4J/cm2程度)を超えたところで飽和状態になる。また、浸透性(吸液特性)は、pHの低下が飽和したあたり(たとえば4J/cm2程度)から急激に良くなっている。ただし、この現象は、インクに含まれている高分子成分に依存して異なる。
この結果として、浸透性(吸液特性)がよくなり始めて(例えば4J/cm2程度)からビーディング(粒状度)の値が非常に良い状態となっている。ここでのビーディング(粒状度)とは、画像のざらつき感を数値で表したものであり、濃度のばらつきを平均濃度の標準偏差で表したものである。図8では、2色以上のドットからなる色のベタ画像の濃度を複数サンプリングし、その濃度の標準偏差をビーディング(粒状度)として表している。このように実施形態1にかかるプラズマ処理を施したコート紙に吐出されたインクが真円上に広がりかつ凝集しながら浸透するため、画像のビーディング(粒状度)が改善される。
上述したように、被処理物20表面の特性と画像品質との関係では、表面の濡れ性が向上することにより、ドットの真円度が向上している。この理由としては、プラズマ処理により生成された親水性の極性官能基によって被処理物20表面の濡れ性が向上するとともにこれが均一化したことに加え、ゴミや油分や炭酸カルシウムなどの撥水要因がプラズマ処理によって除外されたことによると考えられる。被処理物20表面の濡れ性が向上した結果、液滴が円周方向に均等に拡がり、ドットの真円度が向上する。
また、被処理物20表面を酸性化(pHの低下)させることにより、インク顔料の凝集、浸透性の向上、ビヒクルのコート層21内部への浸透などが生じる。これらにより、被処理物20表面の顔料濃度が上昇するため、ドットが合一したとしても、顔料の移動を抑えることが可能となり、その結果、顔料の混濁が抑制し、顔料を均一に印刷メディア表面に沈降凝集させることが可能となる。ただし、顔料混濁の抑制効果は、インクの成分やインクの滴量に依存して異なる。図9に、インクのpH値とインクの粘度との関係の一例を示す。図9のインクAに示すように、比較的中性に近いpH値で顔料が凝集して粘度が上がるインクもあれば、インクAとは異なる特性を持つインクBに示すように、顔料を凝集させるためにインクAよりも低いpH値が必要なインクも存在する。そこで、プラズマ処理時のプラズマエネルギーを少なくともインクの種類に応じて最適な値とすることで、被処理物20の表面改質効率が向上するため、さらなる省エネルギー化を達成することが可能となる。また、インクの適量が小滴の場合、大滴の場合に比べて、ドットの合一による顔料の混濁は発生し難い。それは、ビヒクル量が小滴の場合の方が、ビヒクルがより早く乾燥・浸透するためであり、少しのpH反応で顔料を凝集することができるためである。さらに、顔料混濁の抑制効果は被処理物20の種類や環境(湿度などによっても異なる。このためプラズマ処理におけるプラズマエネルギーを、液滴の量や被処理物20の種類、環境などに応じて最適な値に制御してもよい。
ここで、プラズマエネルギーとドットの真円度との関係を説明する。図10は、プラズマエネルギーとドット径との関係を示すグラフである。図11は、プラズマエネルギーとドットの真円度との関係を示すグラフである。図12は、プラズマエネルギーと実際に形成されたドット形状との関係を示す図である。なお、図10〜図12では、同色同種のインクを用いた場合を示す。
図10に示すように、プラズマエネルギーを大きくした場合、CMYKのいずれの顔料についても、そのドット径が小さくなる傾向にある。これは、プラズマ処理の結果、顔料の凝集効果(凝集による粘性の増加)と浸透性効果(ビヒクルのコート層21内部への浸透)とが向上し、これにより、ドットが拡がる過程で迅速に凝集・浸透するためであると考えられる。このような効果を利用することで、ドット径をコントロールすることが可能になる。すなわち、プラズマエネルギーを制御することで、ドット径を制御することが可能である。
また、図11および図12に示すように、ドットの真円度は、プラズマエネルギーが低い値(たとえば0.2J/cm2程度以下)であっても大幅に改善されている。これは、上述したように、被処理物20をプラズマ処理することで、ドット(ビヒクル)の粘性が上がるとともにビヒクルの浸透性が上がり、これにより顔料が均等に凝集されたためであると考えられる。
つづいて、プラズマ処理を行った場合のドットの顔料濃度と行わなかった場合のドットの顔料濃度とについて説明する。図13は、実施形態にかかるプラズマ処理を行わなかった場合のドットの顔料濃度を示すグラフである。図14は、実施形態にかかるプラズマ処理を行った場合のドットの顔料濃度を示すグラフである。なお、図13および図14では、それぞれ図面中右下にあるドット画像における線分a−b上の濃度を示している。
図13および図14の測定では、形成したドットの画像を取り込み、その画像における濃度ムラを測定して、濃度のバラツキを計算した。図13および図14を比較すると明らかなように、プラズマ処理を行った場合(図14)の方が、行わなかった場合(図13)よりも、濃度のバラツキ(濃度差)を小さくすることができた。そこで、以上のような算出方法にて求めた濃度のバラツキに基づいて、一番バラツキ(濃度差)が小さくなるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギーを最適化してもよい。これにより、より鮮明な画像を形成することが可能となる。
なお、濃度のバラツキは、上述した算出方法に限らず、顔料の厚みを光干渉膜厚計測手段にて測定して算出してもよい。その場合、顔料の厚みの偏差を最小にするように、プラズマエネルギーの最適値を選定してもよい。
つづいて、実施形態にかかる印刷装置1を、より詳細に説明する。印刷装置1では、インクジェット記録処理を実行する記録手段であるインクジェットヘッド170の下流側に、形成されたドットの画像を取得するパターン読取部180が設けられる。また、印刷装置1では、取得した画像を解析して、ドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出し、この結果に基づいてプラズマ処理装置100がフィードバック制御またはフィードフォワード制御される。図15に、実施形態にかかる印刷装置1におけるプラズマ処理装置100からインクジェットヘッド170の下流に配置されたパターン読取部180までの構成の詳細を示す。その他の構成は、図2に示す印刷装置1と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
図15には、印刷装置1におけるプラズマ処理装置100とインクジェットヘッド170とパターン読取部180とが示されている。また、図15には、印刷装置1における制御部160も示されている。制御部160は、印刷装置1の各部を制御することができる。インクジェットヘッド170は、上流側に配置されたプラズマ処理装置100によるプラズマ処理後の被処理物20表面にインクジェット記録処理を実行して画像を形成する。なお、インクジェットヘッド170は、制御部160とは別に設けられた制御部(不図示)によって制御されてもよい。
プラズマ処理装置100は、搬送経路D1に沿って配列された複数の放電電極111〜116と、各放電電極111〜116に高周波・高電圧のパルス電圧を供給する高周波高圧電源151〜156と、複数の放電電極111〜116に対して共通に設けられた接地電極141と、放電電極111〜116と接地電極141との間を搬送経路D1に沿って流れるように配置されたベルトコンベア型の無端状の誘電体121およびローラ122と、を備える。搬送経路D1に沿って配列する複数の放電電極111〜116を用いる場合には、図15に示すように、誘電体121に無端状のベルトが用いられることが好適である。
制御部160は、不図示の上位装置からの指示に基づいてローラ122を駆動することで、誘電体121を循環させる。被処理物20は、上流の搬入部30(図2参照)から誘電体121上に搬入されると、誘電体121の循環によって搬送経路D1を通過する。
高周波高圧電源151〜156は、それぞれ制御部160からの指示にしたがって、高周波・高電圧のパルス電圧を放電電極111〜116に供給する。パルス電圧は、すべての放電電極111〜116に供給されてもよいし、放電電極111〜116のうち被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要な数の放電電極に供給されてもよい。または、制御部160は、各高周波高圧電源151〜156から供給されるパルス電圧の周波数および電圧値(プラズマエネルギーに相当。以下、プラズマエネルギーという)を、被処理物20の表面を所定のpH値以下とするのに必要となるプラズマエネルギーに調整してもよい。
パターン読取部180は、インクジェットヘッド170によるインクジェット記録処理により被処理物20に形成された画像を読み取る。被処理物20に形成された画像は、ドット解析用のテストパターンであってもよい。以下の説明では、テストパターンである場合を例に挙げて説明する。
パターン読取部180で取得された画像は、制御部160に入力される。制御部160は、入力された画像を解析することで、テストパターンにおけるドットの真円度、ドット径、濃度のバラツキ等を算出する。また、制御部160は、この算出結果に基づくことで、インクジェットヘッド170によるインクジェット記録処理で使用されるインクの種類に応じてプラズマ処理装置100によるプラズマ処理時のプラズマエネルギーを調節する。具体的には、制御部160は、駆動する放電電極111〜116の数、および/または、各高周波高圧電源151〜156から各放電電極111〜116へ供給するパルス電圧のプラズマエネルギーを調整する。
ここで、被処理物20表面を必要十分にプラズマ処理するために必要なプラズマエネルギーを得る方法の1つとしては、プラズマ処理の時間を長くすることが考えられる。これは、たとえば被処理物20の搬送速度を遅くすることで実現可能である。ただし、被処理物20へ高速で画像記録を行う場合には、プラズマ処理の時間を短くすることが望まれる。プラズマ処理時間を短くする方法としては、上述のように、放電電極111〜116を複数備え、印刷速度および必要なプラズマエネルギーに応じて必要な数の放電電極111〜116を駆動する方法や、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーの強度を調整する方法などが考えられる。ただし、これらに限定されるものではなく、これらを組み合わせた方法や、その他の方法など、適宜変更することが可能である。
図15に示すように、インクジェットヘッド170としては、複数の同色ヘッド(4色×4ヘッド)を備えてもよい。これにより、インクジェット記録処理の高速化が可能になる。その際、たとえば高速で1200dpiの解像度を達成するためには、インクジェットヘッド170における各色のヘッドは、インクを吐出するノズルとノズルとの間隔を補正するようにずらして固定されている。さらに、各色のヘッドには、そのノズルから吐出されるインクのドットが大/中/小滴と呼ばれる3種類の容量に対応するように、いくつかのバリエーションを持った駆動周波数の駆動パルスが入力される。なお、複数の同色ヘッドには、それぞれ異なる種類の同色のインクがセットされてもよい。
制御部160は、複数の高周波高圧電源151〜156を個別にオン/オフすることが可能であり、たとえば印刷速度情報に比例して高周波高圧電源151〜156の駆動数を選択するか、各放電電極111〜116に与えるパルス電圧のプラズマエネルギーの強度を調整する。また、制御部160は、インクの色や種類、被処理物20の種類(たとえばコート紙やPETフィルムなど)などに応じて、高周波高圧電源151〜156の駆動数、および/または、各放電電極111〜116に与えるプラズマエネルギーを調整してもよい。
また、複数の放電電極111〜116を備えることは、被処理物20の表面を均一にプラズマ処理する点においても有効である。すなわち、たとえば同じ搬送速度(または印刷速度)とした場合、1つの放電電極でプラズマ処理を行う場合よりも複数の放電電極でプラズマ処理を行う場合の方が、被処理物20がプラズマの空間を通過する時間を長くすることが可能である。そのため、より均一に被処理物20の表面にプラズマ処理を施すことが可能となる。
つづいて、実施形態にかかるプラズマ処理を含む印刷処理について、図面を参照して詳細に説明する。図16は、実施形態にかかるプラズマ処理を含む印刷処理の一例を示すフローチャートである。図17は、図16に示すフローチャートにおいてインク滴量とプラズマエネルギーの最適値とを特定する際に用いるテーブルの一例を示す図である。なお、図16では、図15に示す印刷装置1を用いてカット紙(所定の大きさにカットされた記録媒体)を被処理物20として印刷する場合を例に挙げる。なお、カット紙に限らず、ロール状に巻かれたロール紙に対しても、同様の印刷処理を適用可能である。
図16に示すように、印刷処理では、まず、制御部160が被処理物20の種類(紙種)を特定する(ステップS101)。被処理物20の種類(紙種)は、ユーザが不図示のコントロールパネルから印刷装置1に設定入力してもよい。もしくは、印刷装置1が図示しない用紙種検出手段を備え、この用紙種検出手段により検出された紙種情報に基づいて、制御部160が特定してもよい。なお、用紙種検出手段は、例えば用紙表面にレーザー光を照射し、その反射光の干渉スペクトルを分析して種類を特定するものであってもよいし、用紙の厚みを測定してその用紙を特定するものであってもよいし、用紙表面に印刷された紙種情報を含むバーコードを読み取るバーコードリーダであってもよい。また、制御部160は、印刷モードを特定する(ステップS102)。印刷モードは、たとえば印刷物の画像の解像度(600dpi、1200dpi等)であり、たとえばユーザによって不図示の入力部を用いて設定されてよい。もしくは、印刷モードが外部の上位装置(たとえば後述するDFE210)から画像データ(ラスタデータ)とともに入力されてもよい。また、印刷モードには、白黒印刷やカラー印刷などが含まれていてもよい。
つぎに、制御部160は、画像形成の際のインク滴量を特定する(ステップS103)。インク滴量は、たとえば特定した印刷モードとドットサイズとに基づき、図17に示すようなテーブルから特定することが可能である。たとえば印刷モードが1200dpiで且つドットサイズが小滴である場合、インク滴量は、図17に示すテーブルに基づいて、2pl(ピコリットル)と特定することができる。また、印刷モードが600dpiで且つドットサイズが大滴である場合には、インク滴量は、15pl(ピコリットル)と特定することができる。なお、ドットサイズは、インクジェットヘッド170から吐出する液滴の大きさ、または、被処理物20に形成するドットの大きさであり、印刷対象の画像情報から制御部160によって特定されてよい。
つぎに、制御部160は、対象画像の印刷に使用するインク(使用インク)の色および/または種類を特定する(ステップS104)。その際、使用インクの色または種類は、印刷対象の画像データ全体に対して1つ特定されてもよいし、画像データの領域を使用インクの種類ごと(または画像データに含まれるオブジェクトごと)に区分けしてその領域ごとに特定されてもよい。なお、使用インクの色の特定は、たとえば入力された画像データのラスタデータで使用されている色と、インクジェットヘッド170にセットされているインクの色とから特定することができる。また、使用インクの種類は、たとえば入力された画像データのラスタデータで使用されている色と、インクジェットヘッド170にセットされているインクの種類とから特定することができる。なお、インクジェットヘッド170にセットされているインクの色やそのインクの種類(型番等)は、ユーザが不図示のコントロールパネルから印刷装置1に設定入力してもよいし、セットされたインクの色および種類を検出する検出部がインクジェットヘッド170に設けられていてもよい。
つづいて、制御部160は、プラズマ処理時のプラズマエネルギーを設定する(ステップS105)。設定目標とするプラズマエネルギー(プラズマエネルギーの最適値)は、特定した使用インクの色および/または種類と被処理物20の種類(紙種)とインク滴量とに基づき、図17に示すようなテーブルから特定することが可能である。たとえば被処理物20の種類が普通紙Aであり、インク滴量が6plであって、使用インクがYMCKである場合、制御部160は、プラズマエネルギーを0.11J/cm2に設定する。なお、ステップS104で領域ごとに使用インクの色または種類を特定した場合、その領域ごとにプラズマエネルギーを変更してもよい。
なお、図17に示すテーブルでは、プラズマエネルギーの最適値を登録したが、これに限らず、たとえば高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116へ供給するパルス電圧の電圧値およびパルス時間幅が登録されていてもよい。また、図17に示すテーブルには、カラー印刷モード(YCMK)の他に、白黒印刷モード(K)やモノクロ印刷モード(図17に示す例では、マゼンタ(M)の単色)に応じてプラズマエネルギーの最適値が変化するように登録されているが、カラー印刷モード(YCMK)、白黒印刷モード(K)およびモノクロ印刷モード(M)をさらに細分化するように使用インクの種類を登録しておくことで、使用インクの種類に応じてプラズマエネルギーの最適値が変化するように構成されてもよい。さらに、図17に示すテーブルは、ステップS103で用いる部分と、ステップS105で用いる部分とに分かれていてもよい。また、ステップS105では解像度、紙種及び液滴の量を考慮せず、インクの種類毎に想定上最も大きなプラズマエネルギーを選択するように構成しても良い。
さらにまた、ステップS105では、使用インクが2色以上または2種類以上である場合、これらの使用インクのうちいずれか1つの使用インクに応じてプラズマエネルギーを設定してもよい。その際、たとえばドット径が最も大きくなる使用インクに応じてプラズマエネルギーを設定するように構成されてもよいし、ドット径が最も小さくなる使用インクに応じてプラズマエネルギーを設定するように構成されてもよい。これは、たとえば図17に示すテーブルを、カラー印刷モード(YCMK)、白黒印刷モード(K)およびモノクロ印刷モード(M)の印刷モードの代わりに、使用インクの組み合わせに対してプラズマエネルギーの最適値を登録するように構成することで実現することができる。その際、使用インクの組み合わせのうち、ドット径が最も大きくなる、または、ドット径が最も小さくなる使用インクに応じたプラズマエネルギーの最適値が図17に示すテーブルに登録される。
つぎに、制御部160は、設定したプラズマエネルギーに基づいて高周波高圧電源151〜156から放電電極111〜116に適宜パルス電圧を供給することで、被処理物20に対するプラズマ処理を実行する(ステップS106)。つづいて、制御部160は、プラズマ処理後の被処理物20に対するテストパターンの印刷を実行する(ステップS107)。つづいて、制御部160は、パターン読取部180を用いてテストパターンのドットを撮像することで、プラズマ処理後の被処理物20に形成されたドットの画像(ドット画像)を読み取る(ステップS108)。
つぎに、制御部160は、読み取ったドット画像からドットの真円度(ステップS109)と、ドット径(ステップS110)と、ドットにおける顔料濃度の偏差(バラツキ、濃度差)(ステップS111)とをそれぞれ検出する。また、制御部160は、読み取ったドット画像からドット間の合一の状態を判定してもよい。ドット間の合一の状態は、たとえばパターン認識によって判定することが可能である。
つぎに、制御部160は、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける顔料濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に基づいて、形成されたドットの品質が十分な品質であるか否かを判定する(ステップS112)。十分な品質でない場合(ステップS112;NO)、制御部160は、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける顔料濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に応じてプラズマエネルギーを補正し(ステップS113)、ステップS106へリターンして、再度、テストパターンの印刷からドットの解析を実行する。この補正は、たとえば予め定めておいた所定量の補正値で設定中のプラズマエネルギーを増減してもよいし、検出したドットの真円度、ドット径およびドットにおける顔料濃度の偏差(およびドットの合一の状態)に応じて最適なプラズマエネルギーを求め、この値に設定し直してもよい。
一方、ドットが十分な品質である場合(ステップS112;YES)、制御部160は、特定した被処理物20の種類(紙種)、印刷モードおよび使用インクに基づいて、図17に登録されているプラズマエネルギーの最適値を更新するとともに(ステップS114)、実際の印刷対象の画像を印刷し(ステップS115)、完了次第、本動作を終了する。
なお、図16におけるステップS101〜S114までは、実際の印刷工程(ステップS115)とは別に実行されていてもよい。すなわち、図17に示すテーブルの作成・更新は、実際の画像印刷とは独立した別工程において実行されてもよい。たとえば、印刷工程の開始前や印刷工程中にステップS101〜S114までを実行するようにユーザが印刷装置1に指示できるように構成されてもよいし、印刷過程においてドット径の変化を検出し、検出されたドット径が大幅に変化したこと、または、許容範囲を超えたことをトリガとして印刷工程を中断して自動的にステップS101〜S114までを実行するように構成されてもよい。また、ステップS107〜ステップS114までは印刷工程または所定タイミング毎に行い、実際の印刷ではステップS106の後にステップS115を実行するようにしても良い。
また、被処理物20としてロール紙を用いた場合、ステップS106〜S113では、不図示の給紙装置より導かれた紙の先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を取得してもよい。ロール紙を用いた場合では、1つのロールで性状がほとんど変わらないため、先端部分を使ってプラズマエネルギーを調整した後は、そのままの設定で安定した連続印刷が可能となる。ただし、ロール紙を使い切らずに長期間停止した場合、紙の性状が変化する可能性があるため、印刷再開前に同様に先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を再度取得し、これを解析すればよい。また、先端部分を使ってプラズマ処理後に形成したドット画像を解析してプラズマエネルギーを調整した後に、定期的または連続してドット画像を測定してプラズマエネルギーを調整してもよい。これにより、より詳細に安定した制御を行うことが可能となる。
また、図16では、図17に示すようなテーブルを用いたが、この方法に限定されず、たとえば最初のプラズマエネルギーを最小値としておき、得られたテストパターンのドット画像の解析結果に基づいて、プラズマエネルギーを段階的に上げていくように動作してもよい。
プラズマエネルギーを最小値から段階的に上げていく場合、図15における各放電電極111〜116に印加されるプラズマエネルギーを下流側から段階的に大きくなるように変化させてもよいし、被処理物20の搬送速度、すなわち誘電体121の巡回速度を変化させてもよい。その結果、図16のステップS106では、図18に示すように、領域ごとに異なるプラズマエネルギーでプラズマ処理された被処理物20を得ることができる。なお、図18では、領域R1はプラズマ処理をしなかった領域(プラズマエネルギー=0J/cm2)であり、領域R2は0.1J/cm2のプラズマエネルギーでプラズマ処理された領域を示し、領域R3は0.5J/cm2のプラズマエネルギーでプラズマ処理された領域を示し、領域R4は2J/cm2のプラズマエネルギーでプラズマ処理された領域を示し、領域R5は5J/cm2のプラズマエネルギーでプラズマ処理された領域を示す。
また、図18に示すような、領域ごとに異なるプラズマエネルギーでプラズマ処理された被処理物20に対しては、たとえば図19に示すような、異なるドット径を持つ複数のドットを含む共通のテストパターンTPが、図16のステップS107でそれぞれの領域R1〜R5に形成されてもよい。また、図19に示すテストパターンTPは、図20に示すような、CMYKごとに異なるドット径を持つ複数のドットを含むテストパターンTP1に置き換えられてもよい。
以上のように形成されたテストパターンTPは、図16のステップS108において、図15におけるパターン読取部180によって読み取られる。ここで、図21に、実施形態にかかるパターン読取部180の一例を示す。
図21に示すように、パターン読取部180には、たとえば発光部182と受光部183とを含む反射型の2次元センサが用いられる。発光部182と受光部183とは、たとえば被処理物20に対してドット形成側に配置された筐体181内に配置される。筐体181の被処理物20側には開口部が設けられており、発光部182から放射された光が被処理物20表面で反射して、受光部183に入射する。受光部183は、被処理物20の表面で反射した反射光量(反射光強度)を結像する。結像された反射光の光量(強度)は、印字(テストパターンTPのドットDT)がある部分とない部分とで変化するため、受光部183で検出された反射光量(反射光強度)を基にドット形状及びドット内部の画像濃度を検出することが可能である。なお、パターン読取部180の構成やその検出方法は、被処理物20に印刷されたテストパターンTPを検出することが可能であれば、種々変更することが可能である。
また、パターン読取部180は、発光部182の光量および受光部183の読出電圧をキャリブレーションする手段として、基準パターン185を備えた基準パターン表示部184を備えていてもよい。基準パターン表示部184は、たとえば所定の被処理物(たとえば普通紙)で構成された直方体の形状をしており、そのうちの1つの面に基準パターン185が貼り付けられている。基準パターン表示部184は、発光部182および受光部183のキャリブレーションを行う場合、基準パターン185が発光部182および受光部183側を向くように回転し、キャリブレーションを行わない場合、基準パターン185が発光部182および受光部183側を向かないように反転する。なお、基準パターン185は、たとえば図19または図20で示したようなテストパターンTPまたはTP1と同様の形状であってよい。
なお、実施形態では、パターン読取部180を用いて取得したドット画像の解析結果に基づいてプラズマエネルギーを調節する場合を例示したが、これに限らず、たとえば図16のステップS107でプラズマ処理後の被処理物20に形成されたテストパターンTPに基づいて、ユーザがプラズマエネルギーを設定するように構成されてもよい。
次に、図を参照しながら、被処理物20に形成されたテストパターンのドットの大きさの判別方法例について説明する。テストパターンのドットの大きさを判別するには、図19または図20に示したようなテストパターンTPまたはTP1をプラズマ処理後の被処理物20に記録し、パターン読取部180でこのテストパターンTPまたはTP1と基準パターン185とを撮像することで、図22に示すようなドットの撮像画像(ドット画像)を取得する。なお、基準パターン185の位置は、図21に示す受光部183の全撮像領域(二次元センサ全撮像領域)のうちのいずれの位置であるか、予め計測によって把握されているものとする。制御部160は、取得されたテストパターンTPまたはTP1のドット画像のピクセルと、基準パターン185のドット画像のピクセルとを比較することで、テストパターンTPまたはTP1のドット画像に対するキャリブレーションを行なう。その際、たとえば図22に示すように、完全に円ではないが、円のような図形(たとえばテストパターンTPまたはTP1のドットの輪郭部分:実線)があり、これを真円(基準パターン185のドットの輪郭部分:一点破線)でフィッティングするが、このフィッティングでは最小二乗法が用いられる。
図23に示すように、最小二乗法では、円のような図形(実線)と真円(一点破線)との偏差を数値化するために、大まかな中心位置に原点Oを取り、この原点Oを基準としたXY座標系を設定して、最終的に最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとを求める。そこで、まず、円のような図形の一周(2π)を角度に基づいて均等に分割し、この分割により得られたデータ点P1〜Pnそれぞれについて、X軸に対する角度θiと原点Oからの距離ρiとを求める。ここで、データ点の数(すなわち、データセットの数)を‘N’とすると、三角関数の関係から、以下の式(1)を導き出すことができる。
このとき、最適な中心点A(座標(a,b))と真円の半径Rとは、以下の式(2)で与えられる。
このように、基準パターン185のドット画像を読み取り、上記した最小二乗法により算出されたドット径の直径と、基準チャートの直径とを比較してキャリブレーションを行なう。キャリブレーション後、パターンで印字されたドット画像を読み取り、ドットの直径を算出する。
また、真円度は、一般には、円のような図形を2つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心円の間隔が最小となった際の2つの同心円の半径の差で表すが、同心円での最小径/最大径の比率を真円度として定義することもできる。その場合、最小径/最大径の値が‘1’となった場合が真円であることを意味する。この真円度も、ドット画像を取り込むことによって、最小二乗法にて算出することができる。
最大径は、取り込んだ画像のドット中心と円周上の各点とを結んだ際に最大になる距離として求めることができる。一方、最小径は、同様にドット中心点と円周上の各点とを結んだ際に最小になる距離として算出することが可能である。
使用インクの色または種類や被処理物20のインク浸透状態によっては、ドット径およびドットの真円度が異なる。本実施形態では、使用インクの色または種類や被処理物20の種類、インクの吐出量に応じて、ドット形状(真円度)やドット径が目標とする値となるようにコントロールすることで、画像の品質を向上する。また、本実施形態では、形成した画像を読み取り、この画像を解析することで、インク吐出量毎のドット径が目的のドット径になるように、プラズマ処理におけるプラズマエネルギーを調整することにより、高画質化を図っている。
また、本実施形態では、反射光の光量に基づいてドットの顔料濃度を検出できるので、ドット画像を取り込み、そのドット内部の濃度を計測する。その濃度値を、統計計算によりバラツキ分散として算出することで、濃度ムラを測定する。また、算出した濃度ムラが最小となるようにプラズマエネルギーを選定することで、ドットの合一による顔料の混濁を防止することが可能となり、これにより、さらなる高画質化が図れる。ドット径の制御を優先とするか、濃度ムラの抑制を優先とするか、真円度の向上を優先とするかは、好みの画質に応じてユーザがモードを切り替えられるように構成されてもよい。
以上のように、実施形態では、ドットの真円度又はドット内の顔料のムラが少なくなる、又はドット径が目的の大きさになるように、インクの色や種類に応じてプラズマエネルギーがコントロールされる。それにより、ドット径の均一化および省エネルギー化を実現しつつ、高画質な印刷物を提供することが可能となる。また、被処理物20の性状を変更したり印刷速度を変更したりしても、安定したプラズマ処理を行うことが可能であるため、良好な画像記録を安定して実現することが可能となる。
上記した実施形態では、主として被処理物に対してプラズマ処理を行う場合を説明したが、先述の通り、プラズマ処理を行うと被処理物に対するインクの濡れ性が向上する。その結果、インクジェット記録時に付着させるドットが拡がるので、未処理の被処理物に対してイメージ展開した場合と異なる画像が記録される可能性がある。そこで、プラズマ処理した記録媒体に印刷する際は、たとえばインクジェット記録処理を行う際のインクの吐出電圧を下げてインク滴量を少なくすることで対応することが可能である。その結果、インク滴量を削減することが可能となるため、コストダウンすることが可能となる。
図24は、実施形態にかかるインク吐出量と画像濃度との関係を示すグラフである。図24において、実線C1は上述した実施形態にかかるプラズマ処理を行なった際のインク吐出量と画像濃度との関係を示し、破線C2は上述した実施形態にかかるプラズマ処理を施していない被処理物20に対してインクジェット記録処理を行った際のインク吐出量と画像濃度との関係を示す。また、一点破線C3は、破線C2に対する実線C1のインク低減率を示す。
図24における実線C1と破線C2との比較、ならびに、一点破線C3から分かるように、上述した実施形態にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、ドットの真円度の向上、ドットの拡大、顔料のドット内の濃度均一化などの効果により、同一画像濃度を得るために必要となるインク吐出量が低減される。
また、上述した実施形態にかかるプラズマ処理をインクジェット記録処理の前に被処理物20に施しておくことで、被処理物20に付着した顔料の厚みが薄くなるため、彩度が向上し、色域も拡がる効果を得ることができる。さらに、インク量が低減された結果、そのインクの乾燥エネルギーも低減可能であるため、省エネ効果も得ることが可能である。
また、以上の実施形態で説明した画像データは、たとえば外部の上位装置から入力されてもよい。図25に、実施形態による印刷装置を含む印刷システムの一例を示す。図25に示すように、印刷システム2は、印刷装置1の他に、ホスト装置200と、プリンタコントローラ(DFE:Digital Front End)(以下、DFEと称する場合がある)210と、インタフェースコントローラ(MIC:Mechanism I/F Controller)(以下、MICと称する場合がある)220と、を備えている。
ホスト装置200は、たとえば印刷対象の画像データを作成し、これをベクタ形式の画像データとしてDFE210へ出力する。ホスト装置200は、たとえばPC(Personal Computer)などであってよい。DFE210は、MIC220を介して印刷装置1と通信を行い、印刷装置1での画像の形成を制御する。DFE210は、例えば、PCで構成され得る。また、DFE210には、他のPC等のホスト装置が接続できる。DFE210は、ホスト装置200からベクタ形式の画像データを受信して、この画像データを言語解釈することで、ベクタ形式の画像データをラスタ形式の画像データに変換する。その際、DFE210は、RGB形式等で表現された色空間をCMYK形式等の色空間に変換する。DFE210は、生成したラスタ形式の画像データをMIC220を介して印刷装置1へ送信する。
なお、本実施の形態では、DFE210を1つのPCで構成した場合を例示したが、これに限られるものではない。たとえばDFE210は、ホスト装置200に組み込まれてもよいし、MIC220と共に印刷装置1に搭載されてもよい。さらにまた、印刷システム2をクラウドコンピューティングシステムとした場合、DFE210は、ネットワーク上のコンピュータに配置されてもよいし、ネットワークと印刷装置1との間に配置されてもよいし、印刷装置1に配置されてもよい。
以上、本発明者によってなされた発明を好適な実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施形態で説明したものに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。