以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。以下で説明する形状、材料、及び個数、数値は、説明のための例示であって、中空糸膜モジュールの仕様に応じて適宜変更することができる。以下ではすべての図面において同等の要素には同一の符号を付して説明する。また、本文中の説明においては、必要に応じてそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1Aは、実施形態に係る中空糸膜モジュールを示す断面図である。図1Bは、図1Aの下側端部(左側端部)の拡大図である。図1Cは、一部を省略して示している図1BのA−A断面図である。なお、図1Aの下側端部は、図1Aにおいて、各符号の向きに沿って見た状態で上下方向及び左右方向を考えた場合に左側端部となるので、それをカッコ内で示している。以下、カッコ内の側または方向の記載について同様である。
中空糸膜モジュール10は、ケース12と、中空糸膜束14と、2つのキャップである内側液体導入側キャップ16及び内側液体排出側キャップ18と、2つの外側液体ポートである外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22とを備える。中空糸膜モジュール10は、例えば、血液透析、血液ろ過等の血液処理器を構成するために用いられる。また、中空糸膜モジュール10は、外部潅流型と呼ばれるもので、例えば中空糸膜束14を形成する中空糸膜15(図1B)の外側を外側液体としての血液が流れ、中空糸膜15の内側を内側液体としての透析液が流れるように用いられる。
ケース12は、中空糸膜束14を収容する筒形状である。ケース12は、例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂材料製の円筒から形成される。
内側液体導入側キャップ16は、ケース12の軸方向一端(図1Aの下端(左端))の開口を覆うように取り付けられる。内側液体排出側キャップ18は、ケース12の軸方向他端(図1Aの上端(右端))の開口を覆うように取り付けられる。内側液体導入側キャップ16には、ケース12の軸方向(図1Aの上下方向(左右方向))に沿って外側に突き出るように内側液体導入ポート17が形成される。内側液体導入ポート17は、ケース12の外周寄り部分の周方向一部に配置される。内側液体導入ポート17は、ケース12内に配置される中空糸膜束14の各中空糸膜15の内側に、内側液体を導入するためのものである。
一方、内側液体排出側キャップ18には、ケース12の軸方向に沿って外側に突き出るように内側液体排出ポート19が形成される。内側液体排出ポート19は、ケース12の外周寄り部分の周方向一部に配置される。内側液体排出ポート19は、中空糸膜束14の各中空糸膜15から、内側液体を排出するためのものである。
中空糸膜束14は、複数の中空糸膜15により形成され、ケース12内に収容される。中空糸膜束14は、ケース12の内壁の両端部に固着した2つの封止部24,25によって、その両端が固定される。
中空糸膜15は、例えば、膜の厚さが5〜150μm、内径が100〜500μm、外径が110〜800μm程度の断面円形の細管から構成される。中空糸膜15の膜基材は、所定の形状と性能を付与できる材料であれば、特に限定されない。例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、セルロース誘導体などを単独、または、組み合わせて使用することができる。
例えば、疎水性膜基材として、ポリエーテルスルホン樹脂とポリアリレート樹脂を使用することができる。疎水性膜基材を紡糸するための製膜原液は、ポリエーテルスルホン樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)との合計重量(A+B)が10重量%〜25重量%の割合となるように有機溶媒に溶解させることで調製されてもよい。このとき、ポリエーテルスルホン樹脂(A)とポリアリレート樹脂(B)との混合重量比(A/B)を0.1〜10の範囲で定める。
また、中空糸膜15は、ポリエーテルスルホン樹脂とポリアリレート樹脂を主たる膜基材とした疎水性高分子製の半透膜から構成される場合に限定せず、例えばポリエーテルスルホン樹脂またはポリアリレート樹脂の単体で膜基材が形成されても良い。
さらに、中空糸膜15には、波形の縮れであり、捲縮であるクリンプが形成、すなわち付与されてもよい。中空糸膜15にクリンプが形成されることで、中空糸膜モジュール10内で中空糸膜15が熱収縮したときに当該クリンプが展開する(拡がる)。これにより、中空糸膜15の収縮に伴う中空糸膜のちぎれ、及び封止部24,25の剥離が防止される。また、複数の中空糸膜15を束ねた状態である中空糸膜束14の中で、隣り合う中空糸膜15の密着を防ぐことができ、これにより、複数の中空糸膜15の外側を流れる外側液体の偏流であるチャネリングを抑制できる。
2つの封止部24,25は、ケース12の両端開口を、対応するキャップ16,18の内側で封止する。封止部24,25は、中空糸膜束14の隣り合う中空糸膜15の隙間を埋めるとともに、ケース12の両端開口近傍の内壁面に固着して、ケース12内で中空糸膜外側にある外側液体がケース12の両端開口から外部に漏れ出すことを防止する。封止部24,25は、中空糸膜束14の両端をケース12に固定する固定手段としての機能も有する。封止部24,25はポッティング材とも呼ばれ、例えば、封止部として樹脂組成物であるウレタン系の接着剤が用いられる。接着剤は、主剤と硬化剤とを混合させることにより時間の経過に伴って硬化する2液型のものを用いることが好ましい。
中空糸膜束14を構成する個々の中空糸膜15の両端開口は開放されており(封止部24,25によって埋められておらず)、内側液体導入側キャップ16内から中空糸膜15内に内側液体が流れ込み、中空糸膜15内から内側液体排出側キャップ18に内側液体が排出される。
外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22は、ケース12の中心軸上において、ケース12の軸方向に沿って分かれて配置される。具体的には、外側液体導入ポート20は、内側液体排出側キャップ18側で、2つの封止部24,25の一方(図1Aの上側(右側))の封止部25の中心部に一端部(図1Aの下端部(左端部))が結合されるように軸方向に配置される。このとき、外側液体導入ポート20は、2つの封止部24,25で挟まれて中空糸膜束14が配置される内部空間30に、一端が開口する。また、外側液体導入ポート20の他端部(図1Aの上端部(右端部))は、対応する側のキャップである内側液体排出側キャップ18の中心部を軸方向に貫通して外側に導出される。後述のように外側液体導入ポート20の他端部及びその周辺部であるルアーロック継手26は、ISOによる規定に基づいたルアーロック式構造に形成される。
外側液体排出ポート22は、内側液体導入側キャップ16側で、2つの封止部24,25の他方(図1Aの下側(左側))の封止部24の中心部に一端部(図1Aの上端部(右端部))が結合され、内部空間30に一端が開口するように軸方向に配置される。また、外側液体排出ポート22の他端部(図1Aの下端部(左端部))は、対応する側のキャップである内側液体導入側キャップ16の中心部を軸方向に貫通して外側に導出される。外側液体排出ポート22の他端部及びその周辺部であるルアーロック継手26は、ISOによる規定に基づいたルアーロック式構造に形成される。具体的には、図1Bに示すように、内側液体導入側キャップ16の外側で外側液体排出ポート22の周囲にはルアーロック継手26が固定される。外側液体導入ポート20におけるルアーロック継手26も基本構成は、外側液体排出ポート22におけるルアーロック継手26と同様である。ルアーロック継手26は、一端が底部26aで塞がれ他端が開口した略円筒状であり、内周面に雌ねじ26bが形成される。ルアーロック継手26の底部26aは、内側液体導入側キャップ16の外側面に突き当てられる。ルアーロック継手26の底部26aは、内側液体導入側キャップ16の外側面に固定されてもよい。外側液体排出ポート22において、ルアーロック継手26の内側には雄ノズル22aが形成され、雄ノズル22aの外周面は先端に向かって直径が小さくなるように傾斜したテーパ面である。外側液体排出ポート22においてルアーロック継手26の内側に配置される部分及びルアーロック継手26は、ISO594−2で規定されるルアーロック式継手構造である。ルアーロック式継手構造では外側液体排出用の排出チューブ(図示せず)の端部に設けられた雌コネクタに外側液体排出ポート22の雄ノズル22aが挿入される。このとき、ルアーロック継手26の雌ねじ26bに雌コネクタの外周面に形成された鍔部(図示せず)がねじ結合される。図1Aに示す内側液体排出側キャップ18の外側で外側液体導入ポート20の周囲にも同様にルアーロック継手26が固定される。外側液体導入ポート20においてルアーロック継手26の内側に配置される部分及びルアーロック継手26は、ISO594−2で規定されるルアーロック式継手構造である。ルアーロック式継手構造には外側液体導入用の導入チューブ(図示せず)の端部に設けられた雌コネクタに外側液体導入ポート20の雄ノズルが挿入される。このとき、ルアーロック継手の雌ねじに雌コネクタの鍔部(図示せず)がねじ結合される。ルアーロック継手26は、外側液体排出ポート22及び外側液体導入ポート20のそれぞれの他端部に一体形成されてもよい。
このように外側液体導入ポート20を内側液体排出側キャップ18側で、外側液体排出ポート22を内側液体導入側キャップ16側に配置することにより、内部空間30内で外側液体と内側液体とを逆向きに流すことができる。これにより、内部空間30内での外側液体と内側液体との濃度差に基づく物質移動を最大にできる。
後述するように、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22は、それぞれ軸方向に分離可能な2部品を含むように構成されてもよい。例えば、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22のそれぞれは、封止部24,25に埋め込んだ状態で保持される第1ポート部材23(図2参照)と、第2ポート部材(図示せず)とを含んで構成する。第2ポート部材は、第1ポート部材23の一端の内側に嵌合するように軸方向に結合される。後述の図2で示す製造方法は、このような中空糸膜モジュールを製造する。このとき、第1ポート部材23の一端面の外周部に外側筒部を形成し、その外側筒部の内側に第2ポート部材の端部を嵌合することで、各ポート部材の接合部における内周面が面一となり、段差が生じないようにする。この理由は、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22の内側の流れを乱さないためである。特に、外側液体として血液が流れる場合は、これらのポート20,22の内周面の段差等により血液が滞留し、血液凝固が発生するおそれがあるためである。
中空糸膜束14の両端部の中心部には外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22が配置され、この部分を除いて中空糸膜15が配置される。内部空間30の中空糸膜束14は、それを構成する中空糸膜15が内部空間30内で一様に分散する。これにより、中空糸膜束14の中心部に、軸方向に長くかつ広い空間は形成されない。このため、血液がチャネリングすること、及び、膜を介して物質移動の効率が低下することを防止できる。図1Cでは、分かりやすくするために、中空糸膜束14において、複数の円周上に中空糸膜15が配置されるように示しているが、実際には、複数の中空糸膜15はランダムに分散して配置される。
外側液体導入ポート20を通じてケース12の内部空間30に外側液体が導入され中空糸膜15の外側に流れる。これにより、中空糸膜15の外側を流れる外側液体と内側液体に含まれる溶質が中空糸膜15を通して、物質交換される。
次に、実施形態に係る中空糸膜モジュール10の製造方法を説明する。図1Dは、図1Aに示した中空糸膜モジュール10の製造方法を示すフローチャートである。まず、中空糸膜束配置ステップ(S10)として、ケース12内に中空糸膜束14を充填(挿入)するように配置する。このとき、後工程のキャップポート取付ステップ(S13)において中空糸膜束14の両端の余剰部分を切断するので、中空糸膜束14の長さは、ケース12の全長を超えた長さとしておく。これとともに、中空糸膜束14の両端部の中心部に第1ポート部材23(図2)を埋め込むように、軸方向に沿って配置する。
次に、接着剤キャップ取付ステップ(S11)として、中空糸膜束14が充填されたケース12の両端に、接着剤キャップ32(図2)を取り付ける。接着剤キャップ32は、一端が塞がれた筒状であり、周方向一部に外側に伸びるように接着剤流路33が形成される。これにより接着剤キャップ32の内側は接着剤流路33に通じる。2つの接着剤キャップ32で接着剤流路33の一端はケース12の外周面の軸方向中央部付近で向き合うように、2つの接着剤流路33が曲げられている。このとき、第1ポート部材23の外端は接着剤キャップ32の底部34に突き当てている。
次に、封止部固着ステップ(S12)として、図2に示すように、ケース12の軸方向を水平方向に一致させるようにケース12を寝かせた状態で、2つの接着剤流路33の一端に接着剤供給部35の吐出口を接続する。そして、ケース12の軸方向中心を通り、ケース12の軸方向に対し直交する上下方向の回転軸である上下軸O1を中心として、ケース12を回転させる。そして、このようにケース12を回転させながら、接着剤供給部35から接着剤流路33を通じて、流動状態の接着剤60をケース12の両端部に流す。図2では、接着剤60を砂地で示している。また、図2では、中空糸膜束14の図示を省略している。このとき、接着剤60が接着剤キャップ32内に供給され、その接着剤60がケース12の回転に伴う遠心力により、ケース12の両端部と、その両側の接着剤キャップ32の内側に集まるように、両端に寄せられる。この回転の継続によって、接着剤60が固化されるので、中空糸膜束14の両端部に封止部24,25(図1A)を固着させることができる。
なお、封止部24,25を形成する接着剤に熱硬化性のものを用いる場合には、封止部固着ステップを行う場合に、接着剤を加熱することにより接着剤を硬化させてもよい。また、封止部24,25を形成する接着剤に熱可塑性の樹脂を用いる場合には、封止部固着ステップを行う場合に、加熱溶融した樹脂を充填後、放冷硬化させてもよい。
さらに、図1Dに示すキャップポート取付ステップ(S13)として、接着剤キャップ32をケース12の両端から取り外すとともに、中空糸膜束14及び封止部24,25の、ケース12の両端から突出した部分の端部を切断する。これによって中空糸膜15のうち、管内が封止部24,25によって埋められていた部分が切断される。このとき、第1ポート部材23(図2)の外端部が切断されてもよい。最後にケース12の両端に内側液体導入側キャップ16(図1A)及び内側液体排出側キャップ18(図1A)を取り付ける。これとともに、内側液体導入側キャップ16に貫通するように外側液体排出ポート22の第2ポート部材(図示せず)を取り付けて、その第2ポート部材を第1ポート部材23に結合して外側液体排出ポートを形成する。また、内側液体排出側キャップ18に貫通するように外側液体導入ポート20の第2ポート部材を取り付けて、その第2ポート部材を第1ポート部材23に結合して外側液体導入ポートを形成する。これによって、中空糸膜モジュール10を形成する。
上記の中空糸膜モジュール10及びその製造方法によれば、モジュールの使用時に、2つの外側液体ポートの一方の外側液体ポートとしての外側液体導入ポート20から外側液体が導入され、他方の外側液体ポートとしての外側液体排出ポート22から外側液体が排出される。また、2つの内側液体ポートの一方の内側液体ポートとしての内側液体導入ポート17から内側液体が導入され、他方の内側液体ポートとしての内側液体排出ポート19から内側液体が排出される。これにより、ケース12内で外側液体が中空糸膜15の外側を流れ、内側液体が中空糸膜15の内側を流れる。このため、内側液体の不均一の流れ、すなわち偏流であるチャネリングを抑制できる。また、中空糸膜15の外側を外側液体が自由に流れるので、中空糸膜外側の境膜が薄くなり、外側液体側の境膜抵抗を低下させることができる。これにより、外側液体側の溶質が中空糸膜15を介して内側液体側へ拡散輸送される際の抵抗を小さくでき、透過性能を高くできる。また、中空糸膜15の表面積のうち、外側液体が接触する側の外表面の表面積が内表面の表面積より大きいので、これによっても、外側液体側の溶質の透過性能を高くできる。また、中空糸膜モジュール10を血液浄化に使用する場合は、内側液体としての透析液の流量を大きくすることで、透析液流れの圧力損失を大きくでき、その結果、外側液体である血液側の圧力損失を大きくすることなく、すなわち血液に負荷をかけることなく、内部ろ過量を増大し、ろ過による物質移動を増やすことができる。
さらに、実施形態によれば、中空糸膜15の長手方向と平行な方向に、外側の一方側(図1Aの上側(右側))から外側液体が導入され、外側の他方側(図1Aの下側(左側))に外側液体が排出される。これにより、中空糸膜束14が配置され、2つの封止部24,25で挟まれた内部空間30に外側液体が送られる際に、外側液体の多くが大きく曲がって流れることがない。また、内部空間30から外側液体が排出される際にも、外側液体の多くが大きく曲がって流れることがない。これにより、内部空間30内での外側液体の流れを均等化する、または均等に近づけることができるので、外側液体のよどみを抑制できる。このため、中空糸膜モジュール10を血液浄化に使用し、外側液体として血液を流す場合は、長時間のよどみで凝固性が向上する血液を凝固させることなく長時間循環することができる。
なお、図1Aから図1Cに示した構成は、上記のように外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートをそれぞれ第1ポート部材及び第2ポート部材の2部品を結合して製造する場合に限定しない。例えば、図2に示した封止部固着ステップで、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートを図1A、図1Bのように長くした1部品のポート部材のみにより構成し、接着剤キャップ32にそのポート部材を貫通させた状態で保持する。そして、ポート部材を、中空糸膜束14の両端部に封止部24,25を固着した状態で封止部24,25の外面から大きく突出するように形成する。
また、上記では、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22をケース12の中心軸上に配置する場合を説明したが、これらのポートは、ケース12の中心軸とは異なる位置、例えばケースの外周側に配置されてもよい。一方、図1Aから図2に示した構成のように、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22をケース12の中心軸上に配置する方が、内部空間30内で外側液体をより均等に近づけて流すことができる。これにより、外側液体のよどみを、より抑制できる。以下の実施形態では、外側液体導入ポート20及び外側液体排出ポート22がケース12の中心軸上に配置される場合で説明する。
また、上記で説明した構成では、2つの封止部24,25のそれぞれにおいて、中空糸膜束14の軸方向中央に向く内側面は、軸方向に対し直交する略平面状である。このような構成では、内部空間30に導入された外側液体が急激に拡径された後、急激に縮径されて内部空間30から排出される。これにより、内部空間30内で外側液体流れの若干のよどみがまだ残る可能性がある。図3Aに示す構成は、このような事情から発明したものである。
図3Aは、実施形態の中空糸膜モジュール10の別例を示す断面図である。本例の構成では、図1Aから図2に示した構成において、2つの封止部36,38は、それぞれ中空糸膜束14の軸方向中央に向く内側面が、中心からケース12の半径方向外側に向かって浅くなる、略半球面状またはすり鉢状の凹面39に形成される。この凹面39は深さH(図3A)を有する。このような構成では、後述のように外側液体のよどみを、さらに抑制できる。
図3Bは、図3Aに示す中空糸膜モジュールの製造方法を示すフローチャートである。図4は、図3Aに示す中空糸膜モジュールの製造方法における凹面形成ステップを示す図である。図3Bでは、後述する図7、図8の別例の製造方法も破線矢印及びカッコ内のステップで示している。本例の製造方法では、図1Dに示した製造方法において、封止部固着ステップ(S12A)の後、キャップポート取付ステップ(S13)の前に、凹面形成ステップ(S12B)を行う。図3Bの封止部固着ステップ(S12A)は、図1Dの封止部固着ステップ(S12)と同様である。凹面形成ステップでは、封止部固着ステップ(S12A)において、封止部24,25の内部空間30側の内側面が平面状となって硬化された後で、ケース12を回転させる回転装置(図示せず)にケース12を設置する。この回転装置では、ケース12が軸方向を水平方向に一致させた状態で配置される。図4では、ケース12を回転装置に設置した状態で上側から見た図を示している。そしてこの状態で、ケース12の軸方向に対し直交する上下方向の回転軸である上下軸O1を中心としてケース12を一方向(図4の矢印G1方向)に回転させる。これとともに、ケース12の中心軸であるケース軸O2を中心にケース12を一方向(図4の矢印G2方向)に回転させる。上下軸O1は、ケース12の軸方向中央を通っている。そして、このようにケース12の回転を行いながら、外側液体導入ポート20(図3A)及び外側液体排出ポート22(図3A)をそれぞれ構成する2つの第1ポート部材23を通じて、流動状態の液状の接着剤62をケース12の両端部に流す。図4では、流動状態の接着剤62を斜格子で示している。このときには、新たに導入された接着剤62が、上下軸O1を中心とした回転である第1回転に伴う遠心力により、ケース12の両端に寄せられる。これと同時に、ケース軸O2を中心とした回転である第2回転に伴う遠心力により、接着剤62がケース12の外周付近により多く集められる。これにより、図3Aに示すように、各封止部36,38において中空糸膜束14の軸方向中央に向く側面を、上記の凹面39に形成する。また、凹面形成ステップでは、2つの第1ポート部材23を通じて液状の接着剤を必要量、内部空間30側に流した後に、2つの第1ポート部材23を通じて内部空間側にエアーを送り込んで、各第1ポート部材の内側の接着剤をブローする。これにより、各第1ポート部材23内で接着剤が残留して内部の通路が封止され、外側液体の流通が阻止されることを防止できる。
上記の構成によれば、外側液体導入ポート20から内部空間30に導入された外側液体は、入口側(図3Aの上側(右側))の凹面39に沿って徐々に拡径された領域を流れる。また、内部空間30の出口付近では、外側液体は、出口側(図3Aの下側(左側))の凹面39に沿って徐々に縮径された領域を流れる。これにより、血液の流れに対して急激な流路の変化がないので、外側液体のよどみをさらに抑制できる。このため、外側液体として血液を流す血液浄化器の場合、よどみに起因する血液凝固がさらに抑制される。その他の構成は、図1Aから図2に示した構成と同様である。
図5を用いて、凹面39(図3A)が形成される原理をより詳しく説明する。図5は、凹面39が形成される原理を説明するための図であって、凹面39のケース軸O2(Y軸)からの半径r方向距離と、凹面39の底点からのY軸方向距離Yとの関係を示す図である。例えば、凹面上の点Pを考えた場合に、液面には、ケース軸O2(Y軸)に対し直交する方向の上下軸O1(図4)を中心とした第1回転による遠心力RFAと、ケース軸O2を中心とした第2回転による遠心力RFBとの両方が作用する。それぞれの遠心力RFA、RFBは、ケース12における、対応する回転での毎分当たりの回転数(min-1)によって定まる。例えば、上下軸O1周りの第1回転の第1回転数をNAとし、ケース軸O2周りの第2回転の第2回転数をNBとした場合に、単位質量での遠心力RFA、RFBは次式で表される。
RFA=11.18×(NA/1000)2×15 ・・・(1)
RFB=11.18×(NB/1000)2×r ・・・(2)
ここで、点Pでのケース軸O2(Y軸)からの半径方向距離をr(cm)とする。図5では、Y軸より右側で正のrとなり、左側で負のrとなることを示している。また、(1)式では、後述の微分方程式を単純化するために、点Pの違いにより、上下軸O1から点Pまでの距離である第1回転の回転半径が異なる場合でも第1回転による遠心力RFAは不変とする。具体的には、(1)式では、上下軸O1から点Pまでの距離を、一定値の15cmとしている。
そして、(1)(2)式から、等圧力面方程式を、Y、r座標系に適用して、次の微分方程式が得られる。
dY/dr=RFB/RFA=(NB/1000)2/(NA/1000)2×r/15=(NB/NA)2×r/15 ・・・(3)
この(3)式の微分方程式を解くことにより次式が得られる。
Y=(NB/NA)2×r2/30 ・・・(4)
これにより、凹面39の断面が放物線となり、凹面39はこの放物線をY軸周りで回転させてなる曲面となることが分かる。また、この凹面39の形状が、第1回転の第1回転数NA及び第2回転の第2回転数NBを調整することにより決定されることも分かる。
図6は、上下軸O1を中心とした第1回転の第1回転数NAと、ケース軸O2(Y軸)を中心とした第2回転の第2回転数NBとを4種類の組み合わせで変えて回転させた場合の凹面39の計算結果を示している。図6ではケースの内径を5cmとした。実線a、b、c、dは、それぞれ第1回転数NAが300min-1、400min-1、600min-1、950min-1である場合における凹面39を示している。また、実線a、b、c、dで第2回転数NBは同じ1500min-1とした。第1回転数NAが低下するほど、ケース軸O2(Y軸)を中心とした第2回転が支配的となって凹面39がケース12の半径r方向に対して急峻になり、深さ(例えば実線aのHa)が大きくなっている。
凹面39の形状は急峻になるほど、すなわち深さが大きくなるほど、外側液体のよどみが少なり、外側液体として血液を流す血液浄化器の場合、血液が凝固しにくくなる面から好ましい。一方、凹面39の深さが大きくなるほど、中空糸膜モジュール10を製造するために使用する接着剤の量が増大するので材料費が高くなるとともに、中空糸膜束14の物質交換に使える有効膜面積が低下してしまう。
次の表1は、実施形態で条件を変えて、凹面39の深さHと外側液体としての血液が凝固するまでの時間とを求めた実験結果を示している。
表1では、図3Aから図6に示した実施形態を、実施例2−1,2−2,2−3で示している。表1では、図2に示した封止部固着ステップ(S12)を第1工程とした場合において、図4に示した凹面形成ステップを第2工程としている。また、「上下軸中心」の欄には、上下軸O1を中心とした第1回転の第1回転数NAを示している。「ケース軸中心」の欄には、ケース軸O2(Y軸)を中心とした第2回転の第2回転数NBを示している。
また、実験では、ブタ新鮮血に抗凝固剤を添加し、その拮抗薬でACT(活性化全血凝固時間)を150〜180秒に調整した。また、貯血槽の温度を約37℃に調整し、中空糸膜モジュールの試験モジュールに血流量100mL/minで血液を循環させた。次に、濾過流量10mL/minで濾過を開始し、濾液は貯血槽に戻した。また、循環回路に設置した圧力調整機で試験モジュールの入口圧を約70mmHgに調整し、試験開始とした。その後、入口圧を経時的に測定し、150mmHgに到達するまでの時間をライフタイムとして、その時間を血液凝固までの時間とした。
表1の実験結果からも、第1回転数NAが小さくなるほど、凹面39の深さH(図3A)が大きくなることを確認できた。また、凹面39の深さHが大きくなるほど、血液が凝固するまでの時間を長くできた。例えば実施例2−1では、凹面39の深さHが5cmと大きくなり、血液凝固までの時間を24時間と長くできた。
また、表1では、比較例の実験結果も示している。比較例は、特許文献1に記載された構成と同様に、中空糸膜モジュールのケースの外周面に対し、半径方向に、外側液体導入ポートと外側液体排出ポートとを接続した構成である。具体的には、中空糸膜モジュールの比較例は、図1Aから図2に示した実施形態の構成において、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートを、内側液体排出側キャップ18及び内側液体導入側キャップ16に軸方向に取り付けない構成とする。そして、比較例では、その構成において、円筒状のケースの両端寄り部分の2つの位置に、それぞれ直線状に伸びる外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートの一端部を貫通させた状態で、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートをケースに固定する。この状態で、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートは、ケースの外周面から半径方向外側に向かって直線状に伸びる。この比較例では、中空糸膜モジュールのケース内の透析液及び血液の流れと、外側液体導入ポート内及び外側液体排出ポート内の血液の流れとが略直交する。このような比較例では、表1の実験結果から分かるように、中空糸膜モジュールのケース内での血液のよどみが多くなることで血液凝固までの時間が5時間と短くなった。
さらに、表1では、実施例1として、図1Aから図2に示した実施形態に対応する実施例の実験結果も示している。実施例1では、第2工程に相当する工程がない。これにより、実施例1における凹面の深さは0cmであり、血液凝固までの時間は8時間となった。このため、血液凝固までの時間が、実施例2−1,2−2,2−3に比べて短くなったが、比較例に比べて長くできることを確認できた。
図7は、図3Aに示す中空糸膜モジュール10の製造方法の別例における第1凹面形成ステップを示す図である。図8は、図3Aに示す中空糸膜モジュール10の製造方法の別例における第2凹面形成ステップを示す図である。
本例の製造方法では、図3Bに破線矢印及びカッコ内のステップで示すように、封止部固着ステップ(S12A)の後、キャップポート取付ステップ(S13)の前に、第1凹面形成ステップ(S12B1)及び第2凹面形成ステップ(S12B2)を行う。第1凹面形成ステップは図7に相当し、第2凹面形成ステップは図8に相当する。図7に示すように、封止部固着ステップ(S12A)では、図7に砂地で示すように各封止部24,25の内部空間30側の内側面が平面状となって硬化させた。そして、その後で、第1凹面形成ステップ(S12B1)では、ケース12を回転させる第2回転装置(図示せず)にケース12を設置する。この第2回転装置では、ケース12の軸方向を上下方向に一致させた状態で、ケース12の中心軸であるケース軸O2を中心にケース12を回転させる。そして、このようにケース12の回転を行いながら、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートを構成する2つの第1ポート部材23のうち、下側に位置する第1ポート部材23を通じて、流動状態の接着剤62をケース12の下端部に流す。図7では、流動状態の接着剤62を斜格子で示している。このときには、新たに導入された接着剤62が、重力の作用により下端部の硬化した封止部24の上面上に集まって、ケース軸O2を中心とした回転に伴う遠心力により、ケース12の外周付近により多く集まる。これにより、下端部において、新たな接着剤が硬化され、凹面39(図3A)が形成される。これにより、下側に位置する封止部36(図3A参照)において、中空糸膜束14の軸方向中央に向く内側面を、上記の凹面39に形成する。
次に、第2凹面形成ステップ(S12B2)では、第1凹面形成ステップで下側の接着剤62(図7)を、凹面39を含めて硬化させた後に、図8に示すように、ケース12の上側及び下側を逆にして、ケース12を回転させる第2回転装置にケース12を設置する。そして、第1凹面形成ステップと同じようにケース12を回転させる。そして、ケース12をこのように回転させながら、外側液体導入ポート及び外側液体排出ポートを構成する2つの第1ポート部材23のうち、下側に位置する第1ポート部材23を通じて、流動状態の接着剤をケース12の下端部に流す。図8では、流動状態の接着剤62を斜格子で示している。このとき、接着剤62を流す第1ポート部材23は、第1凹面形成ステップの場合とケース12の軸方向に関して反対側の第1ポート部材である。この場合でも、第1凹面形成ステップの場合と同様に、新たに導入された接着剤62が、下端部の硬化した封止部25の上面上に集まる。そして、その接着剤62は、ケース軸O2を中心とした回転に伴う遠心力により、ケース12の外周付近に多く集められる。これにより、新たな接着剤が硬化され、凹面39(図3A)が形成される。これにより、下側に位置する封止部38(図3A参照)において中空糸膜束14の軸方向中央に向く内側面を、上記の凹面39に形成する。
上記のように、図3Aの構成は、図3Bの破線矢印及び図7、図8に示した第1凹面形成ステップ及び第2凹面形成ステップを含む製造方法によっても製造できる。
上記では中空糸膜モジュールに、外側液体として血液を流し、内側液体として透析液を流す場合を説明したが、中空糸膜モジュールは、外側液体として、血液以外の長時間のよどみで凝固する凝固性がある液体を流す用途に用いられてもよい。