JP2018132179A - 自動車電装・補機用転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】寒冷時における冷時異音の発生を防止できる自動車電装・補機用転がり軸受を提供する。【解決手段】エンジン出力で回転駆動される回転軸を静止部材に回転自在に支持する自動車電装・補機用転がり軸受1は、軌道輪である内輪2および外輪3と、内輪2および外輪3間に介在する複数の転動体4と、転動体4を保持する保持器5と、転動体4の周囲に封入されるグリース12とを有し、内輪2、外輪3、および保持器5から選ばれる少なくとも1つの部材において、該部材のグリース12と接触する表面に、繊維材または多孔質材からなり、グリース12を保持するグリース保持体6が接着固定されており、グリース保持体6の少なくとも一部が転動体4の表面に接触している。【選択図】図1
Description
本発明は転がり軸受に関し、特にプーリ、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、ファンカップリング装置、電動ファンモータなどの自動車電装部品や補機部品用の転がり軸受に関する。
自動車のエンジンには、エンジン出力で回転駆動される電装部品や補機部品が使用されている。このような自動車電装・補機としては、オルタネータ、プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、ファンカップリング装置、電動ファンモータなどがある。例えば、自動車用アイドラプーリは、エンジンの回転を自動車の補機に伝える駆動ベルトのベルトテンショナーとして使用されるものである。このプーリは、軸間距離が固定されているような場合のベルトにテンショナーとして張力を与えるためのプーリとしての機能と、ベルトの走行方向を変えるため、または障害物を避けるために用いてエンジン室内容積の減少を図るアイドラとしての機能とを合わせもつものである。これらの各部品の回転部に使用される転がり軸受は、主にグリースにより潤滑されている。
自動車のエンジンによって駆動される機器のプーリなどを寒冷時(例えば−20℃以下)に運転すると、プーリ仕様や運転条件によっては、寒冷時の特異音(笛吹き音)、いわゆる冷時異音が発生する場合がある。この冷時異音は、グリースの油膜ムラによる転動体の自励振動などが原因と推測されている。すなわち、寒冷時には、グリースの基油粘度上昇によって軌道面(転走面)の油膜ムラが生じやすくなるが、油膜ムラがあると、転動体と軌道面との間の摩擦係数が微小な周期的変化を起こし、これによって転動体に自励振動を生じる。この自励振動によってプーリ系が共振し、外輪が軸方向に振動(並進運動)して冷時異音の発生に至ると考えられている。
近年、自動車電装・補機の小型化や高性能化の要求に伴ない、これらの機器の回転部に使用される上記転がり軸受には、例えば高温耐久性などに優れるグリースなどが使用されている。一方で、このようなグリースは、寒冷時においてグリースの粘度が上昇しやすくなり上記の冷時異音が発生しやすくなる。
従来、この対策として、基油や増ちょう剤を最適化することで、冷時異音の発生を防止し、また、高温耐久性も維持できるようにした転がり軸受が提案されている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1の転がり軸受は、軸受内部の摩擦面にポリ−α−オレフィン(以下、PAOと記す)油などの潤滑油を塗着してなるものであり、特許文献2の転がり軸受は、PAO油を基油とし、所定構造のウレア化合物を増ちょう剤とし、−20℃での未混和ちょう度が200以上であるグリースを使用するものである。
しかしながら、グリースなどの潤滑剤の改良により冷時異音を解消する場合、同時に他の特性も持たせることは容易でなく、また製造コストも高くなるため、可能であれば汎用グリースなどを用い、より簡易な他の構成により冷時異音を解消することが望まれる。また、軸受からの潤滑剤漏れや、軸受内部での偏在などにより、グリースや潤滑油を有効に利用できない場合には、十分な効果が期待できないおそれがある。その他、寒冷時においては、グリース(基油)の粘度が上昇してトルクが増加しやすいので、これを抑制することも望まれる。
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、グリースなどの潤滑剤の特性には大きくは依存せずに、寒冷時における冷時異音の発生を防止できる自動車電装・補機用転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の自動車電装・補機用転がり軸受は、エンジン出力で回転駆動される回転軸を静止部材に回転自在に支持する転がり軸受であって、該転がり軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、前記内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、上記転動体を保持する保持器と、上記転動体の周囲に封入されるグリースとを有し、上記内輪、上記外輪、および上記保持器から選ばれる少なくとも1つの部材において、該部材の上記グリースと接触する表面に、繊維材または多孔質材からなり、上記グリースを保持するグリース保持体が接着固定されており、上記グリース保持体の少なくとも一部が、上記転動体の表面に接触していることを特徴とする。
上記グリース保持体が、複数の繊維からなる植毛体であり、該繊維の先端部が上記転動体の表面に接触していることを特徴とする。
上記グリース保持体が、上記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面に固定されていることを特徴とする。特に、上記グリース保持体は、上記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、上記軌道輪の非軌道部と対向する領域を除いた部分に固定されていることを特徴とする。
上記グリース保持体が、上記軌道輪の軌道面に隣接する肩部に設けられていることを特徴とする。
上記転がり軸受は、−20℃以下の環境下で使用される軸受であることを特徴とする。
本発明の自動車電装・補機用転がり軸受は、内輪、外輪、および保持器から選ばれる少なくとも1つの部材において、該部材のグリースと接触する表面に、繊維材または多孔質材からなりグリースを保持するグリース保持体が接着固定されており、このグリース保持体の少なくとも一部が転動体の表面に接触しているので、低温・寒冷時(例えば−20℃以下)においてもグリース保持体から転動体に離油した油が安定して供給され続け、軌道面などにおける油膜ムラの発生を防止でき、冷時異音の発生を防止できる。
また、グリース保持体を複数の繊維からなる植毛体とすることで、グリースを保持しやすく、また、転動体との接触時にトルクを増加させにくい。特に、このようなグリース保持体を保持器の内外径面に設けて転動体に一部接触させつつ、軌道輪の非軌道部と対向する領域には設けないことで、油を転動体に安定供給して冷時異音を防止しつつ、トルクの増加も抑えることができる。
また、グリース保持体を軌道輪の軌道面(転走面)に隣接する肩部に設けることで、転動体の表面にグリース保持体の一部を接触させやすい。また、グリース保持体から滲み出したグリースが肩部を通じて軌道面に一部供給されるので、軌道面における潤滑状態に優れ、より油膜ムラの発生を防止できる。
本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受の一例を図1および図2に基づき説明する。図1は、本発明の転がり軸受として、冠形保持器を組み込んだ深溝玉軸受の一部断面図であり、図2はこの冠形保持器の一部斜視図である。図1に示すように、転がり軸受1は、外周面に軌道面2aを有する内輪2と、内周面に軌道面3aを有する外輪3とが同心に配置される。内輪の軌道面2aと外輪の軌道面3aとの間に複数個の転動体4が介在して配置される。この複数個の転動体4が、冠形の保持器5により保持される。また、転がり軸受1は、内・外輪の軸方向両端開口部に設けられた環状のシール部材11を備え、内輪2と外輪3と保持器5とシール部材11とで構成される軸受内空間に封入されたグリース12によって潤滑される。この実施形態では、保持器5の内径面および外径面にグリース保持体6が接着固定されている。
図2に示すように、冠形の保持器5は、環状の本体7上面に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持爪8を形成し、その対向する各保持爪8を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪8間に転動体である玉を保持するポケット9を形成したものである。隣接するポケット9の縁に形成された相互に隣接する保持爪8の背面相互間に、保持爪8の立ち上がり基準面となる平坦部10が形成される。該図に示すように、グリース保持体6は、保持器5の外径面、すなわち本体7および保持爪8の外径面5aと、保持器5の内径面、すなわち本体7および保持爪8の内径面5bに接着固定されている。グリース保持体6は、ポケット9のエッジ部(本体および保持爪の内外径面とポケットとの境界部)に僅かにはみ出す形で設けられており、少なくとも一部(端部など)がポケット9内の転動体と接触している。
グリース保持体6は、繊維材または多孔質材からなり、軸受内に封入されたグリースの一部を保持している。通常、低温・寒冷時は、グリース中の基油の粘度上昇などにより、転動体への油供給が円滑とならず、軌道面に油膜ムラを生じやすくなる。これに対して、グリース保持体6の端部を僅かに転動体に接触(軽接触)させることで、低温・寒冷時においても、グリースを保持した該保持体から転動体に離油した油が安定して供給され続ける。これにより、低温・寒冷時においても冷時異音の発生を防止できる。
グリース保持体は、その保持したグリースから潤滑油(基油)を供給可能なものである。グリースの保持態様としては、軸受使用時において軸受内に封入されたグリースが付着することで保持される他、軸受使用前においてグリース全体またはその基油のみを予め保持(付着)や含浸させておくことができる。
グリース保持体は、上記のとおり繊維材または多孔質材からなる。これらを用いることで表面積が増加してグリースやその基油の保持性が向上する。繊維材としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロンなどのポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテフタレートなどのポリエステル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ビニロンなどの合成樹脂繊維、カーボン繊維、グラスファイバーなどの無機繊維、レーヨン、アセテートなどの再生繊維や、綿、絹、麻、羊毛などの天然繊維が挙げられる。また、多孔質材としては、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、フェノール、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂や、天然ゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのゴムを発泡して得られるフォームが挙げられる。
表面凹凸が大きく、グリースを保持させやすいことから繊維材を用いることが好ましい。この場合、グリース保持体の繊維の先端部が転動体の表面に接触するように配置する。繊維材からなるグリース保持体である植毛体は、繊維(短繊維)を植毛して形成される。固定は接着剤によりなされる。植毛方法としては、静電植毛や静電吹き付け植毛があり、公知の方法を採用できる。静電植毛は、接着剤を塗布した基材(軸受構成部材)を対電極とし、高電圧電極により静電界を作り、その静電吸引力で短繊維を飛翔させ接着剤を塗布した形成部に立毛させる方法である。静電吹き付け植毛は、この静電吸引力に加え、短繊維をエアーで強制的に飛ばしながら接着剤を塗布した形成部に植毛する方法である。この方法では、静電吸引力により短繊維の一方の端面から接着剤に突き刺さる際、エアーでその繊維が基材表面に対して若干傾き固定される。静電植毛の場合と比べ、一本の短繊維が広い範囲の基材表面を覆うため、基材表面の短繊維の本数が減少し、密度が下がる。いずれの植毛方法においても植毛後に乾燥工程・仕上げ工程などを行なう。なお、多孔質材からなるグリース保持体は、予め所定形状に形成・加工したものを接着剤などにより接着固定して設けられる。
グリース保持体の接着固定に用いる接着剤としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などを主成分とする接着剤が挙げられる。例えば、ウレタン樹脂溶剤系接着剤、エポキシ樹脂溶剤系接着剤、酢酸ビニル樹脂溶剤系接着剤、アクリル樹脂系エマルジョン接着剤、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン接着剤、酢酸ビニル系エマルジョン接着剤、ウレタン樹脂系エマルジョン接着剤、エポキシ樹脂系エマルジョン接着剤、ポリエステル系エマルジョン接着剤、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記の繊維材の中でも、油による膨潤や溶解などが生じにくく化学的に安定であり、均質な繊維を多量に生産することができ、安価に入手することができるため、合成樹脂の短繊維を用いることが好ましい。繊維(短繊維)の形状としては、グリース保持体の形成箇所において、軸受機能に悪影響を与えるような他部材との干渉がない形状であれば特に限定されない。例えば、長さ0.5〜2.0mm、太さ0.5〜50デシテックスのものが好ましく、植毛体の短繊維の密度としては、植毛した面積あたりに繊維の占める割合が1〜40%が好ましい。低トルク性を重視する場合には、上記割合が1〜5%程度がより好ましい。植毛方法として静電吹き付け植毛を採用することで、上記割合1〜5%程度を達成でき、転動体との接触時にトルクを増加させにくくなる。その他、短繊維の断面形状は、円形や多角形状がある。多角形状断面の短繊維を利用することで、円形断面の短繊維よりも大きな表面積とすることができ、グリースをより保持しやすくなる
また、密度の異なる部分を組み合わせた植毛体としてもよい。例えば、転動体との接触部となるエッジ部などにおいては、上記割合を小さく(1〜5%)し、それ以外の部分でなる保持器内外径面などにおいては、上記割合を大きく(10〜40%)することが挙げられる。これにより、グリースや基油を多く保持して十分な油を転動体に安定供給して冷時異音を防止しつつ、トルクの増加も抑えることができる。
図2に示す例は冠形保持器であるが、本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受では、波形保持器、玉用保持器、ころ用保持器などの保持器にグリース保持体を形成する形態としてもよい。また、保持器の材質については、金属材料や樹脂材料など、任意の材料を採用できる。図2に示す冠形保持器などは樹脂製である。例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ナイロン66樹脂、ナイロン46樹脂などのポリアミド樹脂を樹脂母材とし、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、他の添加剤を配合した樹脂組成物を用いて、射出成形により製造される。
本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受では、グリースが内・外輪間の空間内に封入され、グリース保持体に一部保持されながら軌道面などに介在して潤滑がなされる。グリースとしては、通常、転がり軸受に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。ここで、本発明は所定のグリース保持体の構成により、特にグリースの種類には依存せずに冷時異音の発生を防止するものであるが、公知の冷時異音の発生防止に適したグリースを併用することもできる。例えば、グリースを構成する基油としては、合成炭化水素油(PAO油)、パーフルオロエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、フッ素油などが挙げられる。また、グリースを構成する増ちょう剤としては、脂肪族系、脂環族系、芳香族系のジウレア化合物、金属石けんなどが挙げられる。また、添加剤として、所定の酸化防止剤、極圧剤、ポリメタクリレートなどを配合してもよい。
本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受の他の例を図3に基づき説明する。図3は、深溝玉軸受の一部断面図である。図3に示す例では、転がり軸受1’の内輪2の肩部2bおよび外輪3の肩部3bに、それぞれグリース保持体6が形成されている。ここで、グリース保持体6は、繊維材(合成樹脂の短繊維)を植毛してなる植毛体であり、その繊維の先端部のみを転動体4の表面に接触させている。また、軌道面近傍の肩部にグリース保持体を設けることで、グリース保持体から滲み出したグリースが肩部を通じて軌道面に供給されやすくなる。
本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受の他の例を図4に基づき説明する。図4は、冠形保持器とシール部材とを組み込んだ深溝玉軸受の一部断面図である。図4に示す例では、転がり軸受1’’は、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間に介在して配置された複数個の転動体4が、冠形の保持器5により保持されている。また、転がり軸受1’’は、内・外輪の軸方向両端開口部に設けられた環状のシール部材11a、11bを備えている。冠形の保持器5のポケット開口側がシール部材11aであり、ポケット非開口側がシール部材11bである。内輪2と外輪3と保持器5とシール部材11a、11bとで軸受内空間(軸受内部)が構成され、該空間内に保持されたグリース(図示省略)により潤滑がなされる。
この実施形態では、保持器5の内外径面の一部とシール部材11aの軸受内空間側表面に、グリース保持体6が接着固定されている。これらの部位にグリース保持体6を設けることで、グリースを軸受内部に十分に保持できる。なお、シール部材のグリース保持体に保持された油は、外輪との接触部から表面張力により外輪肩部などを伝わり軌道面に供給される。また、グリース保持体6は、繊維材(合成樹脂の短繊維)を植毛してなる植毛体であり、保持器の内外径面のポケットのエッジ部に設けた植毛体において、その繊維の先端部を転動体4の表面に接触させている。
図4に示すように、冠形の保持器5では、ポケット開口側のシール部材11aとポケット非開口側のシール部材11bとの距離が異なり、ポケット非開口側のシール部材11bとの距離の方が近く、その隙間が小さい。軸受内部に保持されるグリース量を増加させるためには、両シール部材に一律に植毛体などのグリース保持体を設けることが好ましいと考えられる。しかし、上記のとおり、ポケット非開口側のシール部材と保持器との隙間が小さいことから、このシール部材にもグリース保持体を設けると、該シール部材のグリース保持体と保持器とが干渉・接触するなどのおそれがある。よって、この実施形態では、ポケット非開口側のシール部材については、あえてグリース保持体を設けない構成としている。なお、この実施形態では、グリース保持体6は、シール部材11aの径方向全範囲に設けられているが、径方向一部に設ける形態としてもよい。また、周方向についても同様に、周方向全範囲または一部範囲に設ける態様とできる。
図5に基づいてこの実施形態の保持器5を詳細に説明する。図5(a)はこの保持器の一部斜視図であり、図5(b)はこの保持器の展開図である。図5(a)に示すように、冠形の保持器5は、図2の保持器とほぼ同じ形状を有する。この実施形態において、保持器5は転動体案内形式であり、その内外径面は軌道輪(内輪と外輪)と接触しない面である。図4および図5に示すように、保持器5は、内輪2の軌道面2aまたは外輪3の軌道面3aに近接する領域5cと、内輪2の肩部2bまたは外輪3の肩部3bなどの非軌道部(非軌道面)に近接する領域5dとを有する。保持器5の内径面において、内輪の軌道面に近接する領域5cにグリース保持体6が形成され、軌道輪の非軌道部である内輪2の肩部2bに対向する領域5dにはグリース保持体が形成されていない。また、保持器5の外径面においても同様に、外輪3の軌道面に近接する領域にグリース保持体6が形成され、外輪3の肩部3bに対向する領域にはグリース保持体が形成されていない。
図5に示すように、内外輪肩部に対向する領域5dは、本体7のポケット9の非開口側に位置し、軸方向に一定範囲を占めて円周方向に連続した領域であり、ポケット9に一部かかる範囲の領域である。領域5dにグリース保持体を形成すると、このグリース保持体と内外輪肩部とが摺動する場合がある。この領域5dにグリース保持体を設けないことで、内外輪との接触によるトルクの増加などを防止できる。
以上のように、グリース保持体は、保持器、軌道輪、シール部材などの表面に設けることができる。また、1つの転がり軸受において、これを構成する複数の部材にそれぞれグリース保持体を形成してもよい。低温・寒冷時における冷時異音の発生を防止するため、いずれの形態においても、グリース保持体の少なくとも一部は、転動体と接触してグリース中の基油を供給できる位置に設ける。
また、本発明の自動車電装・補機用の転がり軸受の軸受形式は特に限定されず、上記深溝玉軸受の他、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受、円筒ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト針状ころ軸受、円すいころ軸受、スラスト円すいころ軸受、自動調心玉軸受、自動調心ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの任意の形式の転がり軸受に適用できる。また、これらの転がり軸受に対して、シール部材(シールド板)の有無は問わず適用できる。
上記転がり軸受を適用した自動車のオルタネータを図6により説明する。図6はオルタネータの構造の断面図である。オルタネータは、静止部材であるハウジングを形成する一対のフレーム21a、21bに、ロータ22を装着されたロータ回転軸23が、一対の転がり軸受1、1(図1参照)で回転自在に支持されている。ロータ22にはロータコイル24が取り付けられ、ロータ22の外周に配置されたステータ25には、120 °の位相で3巻のステータコイル26が取り付けられている。ロータ回転軸23は、その先端に取り付けられたプーリ27にベルト(図示省略)で伝達される回転トルクで回転駆動されている。プーリ27は片持ち状態でロータ回転軸23に取り付けられており、ロータ回転軸23の高速回転に伴って振動も発生するため、特にプーリ27側を支持する転がり軸受1は、苛酷な負荷を受ける。
上記転がり軸受を適用したアイドラプーリの一例を図7に示す。図7はアイドラプーリの構造の断面図である。このアイドラプーリは、自動車の補機駆動ベルトのベルトテンショナーとして使用される。このプーリは、鋼板プレス製のプーリ本体28と、プーリ本体28の内径に嵌合された単列の転がり軸受1’’(図4参照)とで構成される。この転がり軸受1’’は外輪回転となる。プーリ本体28は、内径円筒部28aと、内径円筒部28aの一端から外径側に延びたフランジ部28bと、フランジ部28bから軸方向に延びた外径円筒部28cと、内径円筒部28aの他端から内径側に延びた鍔部28dとからなる環体である。内径円筒部28aの内径には、転がり軸受1’’の外輪3が嵌合され、外径円筒部28cの外径にはエンジンによって駆動されるベルトと接触するプーリ周面28eが設けられている。このプーリ周面28eをベルトに接触させることにより、プーリがアイドラとしての役割を果たす。
このようなプーリなどを寒冷時、例えば−20℃以上(特に厳しい場合−40℃)の条件下で使用する場合でも、回転時に加わる遠心力などにより、保持器のグリース保持体から転動体の表面に油が供給され、軌道面における油膜ムラの発生を防止でき、冷時異音の発生を防止できる。
本発明の自動車電装・補機用転がり軸受は、寒冷時における冷時異音の発生を防止できるので、プーリ、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、ファンカップリング装置、電動ファンモータなどの自動車電装部品や補機部品用の転がり軸受、特に寒冷地や低温条件で用いられる転がり軸受として好適に利用できる。
1 転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 グリース保持体
7 保持器本体
8 保持爪
9 ポケット
10 平坦部
11、11a、11b シール部材
12 グリース
21a、21b フレーム
22 ロータ
23 ロータ回転軸
24 ロータコイル
25 ステータ
26 ステータコイル
27 プーリ
28 プーリ本体
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 グリース保持体
7 保持器本体
8 保持爪
9 ポケット
10 平坦部
11、11a、11b シール部材
12 グリース
21a、21b フレーム
22 ロータ
23 ロータ回転軸
24 ロータコイル
25 ステータ
26 ステータコイル
27 プーリ
28 プーリ本体
Claims (6)
- エンジン出力で回転駆動される回転軸を静止部材に回転自在に支持する自動車電装・補機用転がり軸受であって、該転がり軸受は、軌道輪である内輪および外輪と、前記内輪および外輪間に介在する複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器と、前記転動体の周囲に封入されるグリースとを有し、
前記内輪、前記外輪、および前記保持器から選ばれる少なくとも1つの部材において、該部材の前記グリースと接触する表面に、繊維材または多孔質材からなり、前記グリースを保持するグリース保持体が接着固定されており、
前記グリース保持体の少なくとも一部が、前記転動体の表面に接触していることを特徴とする自動車電装・補機用転がり軸受。 - 前記グリース保持体が、複数の繊維からなる植毛体であり、該繊維の先端部が前記転動体の表面に接触していることを特徴とする請求項1記載の自動車電装・補機用転がり軸受。
- 前記グリース保持体が、前記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面に固定されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車電装・補機用転がり軸受。
- 前記グリース保持体は、前記保持器の内径面および外径面から選ばれる少なくとも一方の面において、前記軌道輪の非軌道部と対向する領域を除いた部分に固定されていることを特徴とする請求項3記載の自動車電装・補機用転がり軸受。
- 前記グリース保持体が、前記軌道輪の軌道面に隣接する肩部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の自動車電装・補機用転がり軸受。
- 前記転がり軸受は、−20℃以下の環境下で使用される軸受であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の自動車電装・補機用転がり軸受。
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