実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における把持装置100を備えたロボットシステムの構成の一例を示す図である。図1に示すロボットシステムは、把持装置100、負圧発生源200、配管300、センサ310、及び制御装置400を備え、把持装置100で対象物である物品500を把持する。把持装置100は、ロボットアーム110と、吸着ハンド120とを備えている。吸着ハンド120は、物品500を吸着して把持する吸着方式のハンドである。吸着ハンド120は、ロボットアーム110に取り付けられている。さらに、吸着ハンド120は、吸着パッド130を備えている。吸着ハンド120が、吸着部として機能する。
制御装置400は、把持装置100及び負圧発生源200と制御線で接続されている。制御装置400は、制御線を介して制御信号を送信することで、把持装置100及び負圧発生源200の動作を制御する。制御装置400は、メモリ及びプロセッサで構成することができる。なお、本実施の形態の把持装置100では、吸着パッド130を備えた吸着ハンド120を吸着部としているが、吸着パッド130を配管300に直接に接続しても良く、この場合、吸着パッド130が吸着部となる。また、ロボットアームは単にアームと呼ぶこともできる。さらに、本実施の形態では、ロボットアーム110と吸着ハンド120とを備えたロボットシステムを例に挙げて説明するが、必ずしもロボットシステムへの適用に限定されるものではない。
配管300は、負圧発生源200と吸着ハンド120とを接続し、負圧発生源200と吸着ハンド120との間の空気の流通を可能としている。センサ310は、配管300に設置され、配管300における圧力を計測する圧力センサ、または配管300における空気の流量を計測する流量センサである。図示は省略しているが、センサ310は制御装置400と接続されており、制御装置400はセンサ310の計測結果は読み取り、計測結果を参照して把持装置100及び負圧発生源200の動作を制御する。なお、図1においては、センサ310は配管300に設置されているが、吸着ハンド120から負圧発生源200に至る空気の流路のいずれかに設置されれば良い。
制御装置400は、ロボットアーム110を制御し、吸着ハンド120を移動させ、物品500の表面に吸着ハンド120を押し当てる。物品500の表面に吸着ハンド120が押し当てられた状態で、制御装置400は、負圧発生源200を制御し、配管300を介して、吸着ハンド120の内部の空気を排出する。この結果、吸着ハンド120の内部に負圧が生じ、吸着ハンド120の外部の大気圧との圧力差によって、物品500が吸着ハンド120に吸着する。
吸着ハンド120で物品500を吸着した際の把持力Fは、吸着ハンド120が物品500に吸着している面積をA、その際の吸着ハンド120の内部の負圧をPとすると、式(1)で表される。ここで、負圧とは、大気圧と比較した結果マイナスとなる圧力を意味しており、物品500を吸着ハンド120へ押し付け、持ち上げる力を生み出す。また、負圧は、絶対圧力と大気圧との差であるゲージ圧で表される。
式(1)から、より大きな把持力Fを得るためには、負圧Pの絶対値を大きくするか、吸着する面積Aを大きくする必要があることが分かる。しかし、負圧Pの絶対値は、最高でも1気圧であり上限がある。このことから、重量の大きな物品500を把持する際や、外力が加わっても物品500を把持し続けるためには、出来るだけ大きな吸着面積Aを確保することが重要である。また、物品500の表面の小さな領域に過度に大きな力を加えることも望ましくない。この点からも、出来るだけ大きな吸着面積Aを確保することが重要となる。
一方で、吸着ハンド120をむやみに大きくしても、物品500が小さい場合、もしくは物品500が凹凸などの複雑な形状を持つ場合には、吸着ハンド120を物品500に押し付けた時に、吸着ハンド120と物品500との間に隙間が生じてしまう。吸着ハンド120と物品500との間に隙間が生じると、隙間から吸着ハンド120の内部に空気が流入し、その結果、把持装置100は十分な吸着力を得られない。
負圧発生源200としては、イジェクタ、真空ポンプ、ブロアなど、空気を排出して圧力を低下させる様々な機器が用いられる。図2は、負圧発生源200の性能を説明するための図である。図2において、縦軸は発生する負圧Pの大きさであり、横軸は空気の流量Qである。なお、負圧Pの大きさとは、負圧Pの絶対値である。また、図2において、縦軸は単にPと記載しているが、実際には負圧Pの絶対値を表している。図2では、第1の特性600a及び第2の特性600bの2つの特性を示しており、第1の特性600aを破線で示し、第2の特性600bを実線で示している。
図2に示すように、負圧発生源200の性能は、空気の流量Qと、負圧Pの大きさとの関係で表される。ただし、負圧Pの大きさが最大となるのは、空間中に気体の粒子が全く存在しない状態であり、この場合には絶対圧が0となる。絶対圧が0となる場合、大気圧との差である負圧Pは、約−100kPaとなる。なお、kPaは、キロパスカルを表す。したがって、負圧Pの大きさは、最大で約100kPaとなる。以降では、負圧の最大値と記載した場合、負圧の絶対値の最大値を意味する。
図2に示す第1の特性600aは、第2の特性600bと比較して、負圧の最大値は大きいものの、流量の最大値は小さい。逆に、図2に示す第2の特性600bは、第1の特性600aと比較して、流量の最大値は大きいものの、負圧の最大値は小さい。一般に、イジェクタや真空ポンプと呼ばれる機器は、負圧の最大値は大きい。
図2に示すように、発生する負圧の大きさが最大となるのは、流量が0の時である。流量が0となるのは、締め切り状態(空間が密閉されている状態)の場合である。したがって、大きな吸着力を得るためには、吸着ハンド120が隙間なく物品500に密着することが望ましい。さらに、吸着ハンド120と物品500との間の隙間が一定以上の大きさになると、隙間から流入する空気の量が、負圧発生源200によって排出できる空気の量の上限に達する。この場合には、負圧は0となるため、把持装置100は、まったく把持力を生じさせることができない。
吸着ハンド120が隙間なく物品500に密着する場合は、吸着面積Aが同じであれば、第1の特性600aを有する機器を負圧発生源200として採用する方が、負圧の最大値が大きいため、大きな把持力を得られる。しかし、吸着ハンド120と物品500との間に大きな隙間が生じ、空気の流量が大きくなる場合は、第2の特性600bを有する機器を負圧発生源200として採用する方が、比較的大きな把持力を得られる。ただし、絶対的な負圧の大きさは小さいので、重量物を把持するためには、吸着面積Aを大きくする必要がある。
なお、ここでは、負圧発生源200の特性だけに注目して簡単化して説明したが、実際には、配管300も含めた負圧発生源200から吸着パッド130までの特性として考える必要がある。以下でも、負圧発生源200の特性を交えて説明する際には、簡単化して説明しており、実際には配管300等の影響も考慮に入れる必要がある。また、負圧発生源200の運転状態の変化に伴い、図2の特性は変化することも考慮する必要がある。
以上のことから、一般的には、吸着ハンド120と物品500との間に隙間ができず、しかも出来るだけ大きな吸着面積を得ることができる吸着ハンド120が、物品500に応じて選択されることになる。しかし、同一の吸着ハンド120で、複数の種類の物品500を把持する必要がある場合は、吸着面積が最も小さい物品500に合わせて吸着ハンド120が選択されることになる。この時、複数の種類の物品500のうち、いずれかの物品500において、物品500の重量と吸着可能な面積及び吸着時に吸着ハンド120内で得られる負圧との関係が適切でなければ、単一の吸着ハンド120では、全ての種類の物品500を把持することができない。以上のことから、多様な物品500を単一の吸着ハンド120で把持することは、難しい課題である。
しかし、単一の吸着ハンド120であっても、大きさの異なる複数種類の物品500を把持する際に、それぞれの物品500に応じて、吸着部においてできる限り隙間を生じさせず負圧を高めることが出来、かつ適切な吸着面積を得ることが出来れば、把持装置100は、単一の吸着ハンド120で複数種類の物品500を把持可能となる。本実施の形態の把持装置100は、このような汎用性の高い把持装置100となる。
図3は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の外観を示す斜視図である。また、図4は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の切断形状を示す図である。なお、図4は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。図3、図4において、吸着ハンド120の底面と平行で、互いに直交する軸をX軸およびY軸とする。また、図3、図4において、吸着ハンド120の底面に対して垂直となる軸をZ軸とする。X軸、Y軸、およびZ軸は、以降の図面においても同様である。
吸着ハンド120は、上面及び底面が開口した中空構造となっている。また、吸着ハンド120の上面は、排気部121となっている。排気部121の開口は、配管300を介して負圧発生源200に接続されている。したがって、吸着ハンド120の内部の空気は、排気部121の開口から排出されることになる。なお、図1には図示していないが、配管300の切り替え、真空破壊、流量の調整などを行うために、配管300の各所には弁を配置することもある。なお、真空破壊とは、吸着ハンド120の内部に発生した負圧を解消することを言う。一方、吸着ハンド120の底面は、物品500を把持する際に、物品500に接触する接触部122となっている。接触部122も開口している。ここで、排気部121の開口の中心と接触部122の開口の中心とを結ぶ軸を吸着ハンド120の軸とする。吸着ハンド120の軸は、Z軸と平行となる。
さらに、吸着ハンド120は、変形部123を備えている。なお、本実施の形態の把持装置100においては、変形部123は、吸着パッド130の全体または吸着パッド130の一部となる。変形部123は、少なくともZ軸方向に対して垂直な方向に変形可能となっている。変形部123は、物品500を把持するために、吸着ハンド120が物品500に押し当てられた際に、吸着ハンド120の内部の負圧と吸着ハンド120の外部の大気圧との差圧によって変形する。特に、接触部122の開口が、物品500の表面で完全に塞がれずに隙間が存在する場合に、この隙間を塞ぐように変形する。
変形部123は、内部が中空空間124となった中空構造であり、中空空間124を取り囲む側壁125を備えている。中空空間124は、中空となっている変形部123の内部の空間である。中空空間124は、内部空間と言い換えることもできる。側壁125は、接触部122の開口の周方向に連続した構造となっている。なお、連続した構造とは、分割されていないことを意味する。変形部123が変形する際には、側壁125が変形することになる。側壁125は、ゴム、シリコン、またはビニールなどの柔軟な素材で構成されており、屈曲可能となっている。通気性が無いように密に構成された布も、側壁125の材質として採り得る。また、側壁125は、前記の素材の組み合わせで構成されても良い。側壁125の素材そのものの伸縮性は必ずしも必要ではない。ただし、後述するように、物品500に密着して隙間を塞ぐ効果を得るうえでは、側壁125は伸縮性を有することが望ましい。なお、小さな物品500を配管300へ吸い込んでしまわないように、排気部121には網状のカバーが配置されることもあるが、以下の説明では省略する。
前述の通り、側壁125は、柔軟な材質で、薄く構成されている。このため、変形部123は、X−Y平面と平行な面内において、側壁125から、吸着ハンド120の軸に向かう方向の剛性が低くなっている。なお、図3では、排気部121の開口面と接触部122の開口面とは対向して構成されているが、必ずしも対向している必要はない。排気部121の開口面と接触部122の開口面とが対向していない場合も含め、一般化して説明すると、排気によって生じる空気の流れの方向に対して垂直な面内において、側壁125から空気の流路の中心に向かう方向の剛性が、低くなっていればよい。
また、変形部123は、押し付け方向に対しても、剛性が低く、変形可能となっていることが望ましい。ここで、物品500を把持する際に吸着ハンド120を物品に押し付ける方向を押し付け方向と呼ぶ。図3においては、排気部121から接触部122へと向かう方向である−Z方向が、押し付け方向となる。したがって、押し付け方向は、吸着ハンド120の内部から空気を排出する際の空気の流れの方向に対して反対の方向となる。本実施の形態の把持装置100において、変形部123は、押し付け方向に対しても同様に、剛性が低く、柔軟に構成されている。この結果、吸着ハンド120が物品500へ押し付けられた際には、側壁125が物品500の形状に沿って変形する効果を得る。
また、負圧発生源200によって吸着ハンド120の内部の空気が排気され、中空空間124の負圧が高まると、外部の大気圧との差圧によって、側壁125を中空空間124に向かって押す力が生じる。前述したように、側壁125は剛性が低くなるように構成されているため、側壁125は変形して内側へ曲がり、変形部123は押し潰されることとなる。
図5は、本実施の形態の把持装置100で物品500aを把持する様子を示す斜視図である。図5において、物品500aの上面は、接触部122の開口よりも小さくなっている。したがって、吸着ハンド120が物品500aに押し当てられた場合、物品500aの上面は、接触部122の開口を通り、変形部123の内部に収まっている。この際、物品500aの少なくとも一部が、側壁125の内面に接していることが望ましい。側壁125の内面とは、変形部123が変形していない状態で中空空間124に向いた側壁125の面である。ここで、物品500aを把持する際に、吸着ハンド120が押し当てられる物品500aの面、または押し当てられる目標となる物品500aの面を上面と呼ぶ。言い換えると、物品500aにおいて、押し付け方向の吸着ハンド120側に存在する面を上面と呼ぶ。
物品500の上面が変形部123の内部に収まると、吸着ハンド120の接触部122の開口は、一部を物品500aによって塞がれる。この結果、接触部122の開口と物品500aとの隙間から吸入される空気の流れが妨げられ、負圧発生源200によって排出される空気の流量は減少する。図2に示すように、負圧発生源200が同一の運転を行っている条件下で空気の流量Qが減少すれば、発生する負圧Pの大きさは増加する。変形部123の内部の中空空間124では、流量の減少に伴い圧力が低下していき、側壁125を外部から押し付ける力が発生する。この力によって、側壁125は変形し、押しつぶされる。変形した側壁125は物品500aへと押し付けられて、物品500aと側壁125との間の隙間を埋める。または、変形した側壁125によって、中空空間124に流入する空気の流路の断面積は減少する。
すなわち、接触部122の開口に物品500aの表面で塞がれない隙間が存在する場合、変形部123の側壁125は、隙間を塞ぐように変形する。言い換えると、吸着ハンド120と物品500aとの間に、吸着ハンド120の内部に空気が流入する流路が存在する場合、変形部123の側壁125は、空気が流入する流路の断面積を小さくするように変形する。この結果、吸着ハンド120の内部に吸入される空気の流量は一層減少し、さらに中空空間124の負圧を高める。高まった負圧は、側壁125の変形を一層助長し、流路の断面積を減少させる。これらの関係は、負圧発生源200の負圧P及び流量Qの能力と、側壁125の剛性と、物品500aの形状によって決まる吸着ハンド120と物品500aとの間の隙間の大きさとの釣り合いが取れるまで、相互に作用を繰り返す。
上記の作用の結果として、物品500aの上面が変形部123の内部に収まる場合、図5に示すように、変形部123の側壁125が物品500aを包み込むように変形する。言い換えると、物品500aの上面が変形部123の内部に収まる場合、図5に示すように、変形部123の側壁125が物品500aの側面と接触するように変形する。この結果、吸着ハンド120は、物品500aを把持することが可能となる。また、側壁125が物品500aを包み込むようにして把持を行うため、上面だけを吸着する場合に比べ、より強固な把持が可能となる。
側壁125が物品500aを包み込むようにして把持する際には、側壁125の内面は滑りにくい方が良く、摩擦係数が大きい方が望ましい。側壁125の内面の摩擦係数を上げるためには、側壁125の内面を粗くすることが考えられる。ただし、側壁125の内面を全て粗くすると、吸着ハンド120の内部に空気が流入しやすくなる可能性がある。したがって、側壁125の内面は滑らかな面としても良い。さらに、側壁125の内面に、粗面の領域151と滑面の領域152とを設けても良い。粗面の領域151は、滑面の領域152と比較して粗い面となる。一方、滑面の領域152は、粗面の領域151と比較して平滑な面となる。
図6は、本実施の形態の把持装置100における側壁125の内面の一例を説明するための図である。図6は、X−Z平面と平行な面による側壁125の断面を示している。図6において、粗面の領域151は、接触部122の開口の周方向に帯状に伸びている。同様に、滑面の領域152も、接触部122の開口の周方向に帯状に伸びている。また、粗面の領域151と滑面の領域152とは、吸着ハンド120の軸方向に交互に配置されている。側壁125の内面をこのように構成することで、物品500aを包み込むようにして把持する際の把持力を向上できるとともに、吸着ハンド120の内部への空気の流入を抑制することができる。
さらに、側壁125の内面に、溝153を設けても良い。図7は、本実施の形態の把持装置100における側壁125の内面の別の例を説明するための図である。図7は、X−Z平面と平行な面による側壁125の断面を示している。図7において、溝153は、接触部122の開口の周方向に帯状に伸びている。また、溝153は、所定の間隔で設けられている。側壁125の内面をこのように構成することで、物品500aを包み込むようにして把持する際の把持力を向上できるとともに、吸着ハンド120の内部への空気の流入を抑制することができる。
上記のような側壁125が中空空間124で生じた負圧によって変形し、物品500aとの間の隙間を減らす効果を利用すれば、細長い、棒状の物品500bを大きな開口面積をもつ吸着ハンド120で把持することも可能になる。図8は、本実施の形態の把持装置100で棒状の物品500bを把持する様子を示す斜視図である。図8において、吸着ハンド120から見た物品500bの断面形状は、長辺と短辺とを長方形になっている。物品500bの断面形状における短辺の長さを物品500bの横幅、長辺の長さを物品500bの長さと呼ぶ。また、図8に示す物品500bは、長さが接触部122の開口の径よりも長く、横幅が接触部122の開口の径よりも短くなっている。
通常、細長い物品500bを把持する際には、接触部122の開口の径が物品500bの横幅よりも小さい吸着ハンド120を用いる必要がある。接触部122の開口の径が物品500bの横幅よりも大きいと、吸着ハンド120と物品500bとの間の隙間が大きくなり、負圧が高まらないために、吸着ハンド120は物品500bを把持できない。しかし、本実施の形態の吸着ハンド120によれば、変形部123が変形して隙間を埋めるため、物品500bの把持が可能になる。本実施の形態の吸着ハンド120では、図8に示すように、変形部123の側壁125が、物品500bを挟み込むように変形する。言い換えると、変形部123の側壁125が、物品500bの短辺の両端に位置する側面と接触するように変形する。この結果、吸着ハンド120は、物品500bを把持することが可能となる。また、側壁125が物品500bを挟み込むようにして把持を行うため、上面だけを吸着する場合に比べ、より強固な把持が可能である。
さらに、変形部123を備える吸着ハンド120は、接触部122の開口よりも大きな上面を有する物品500cを把持する際にも効果的である。図9は、本実施の形態の把持装置100で、大きな上面を有する物品500cを把持する様子を示す斜視図である。本実施の形態の把持装置によれば、接触部122が物品500cに押し当てられることにより、接触部122の開口が塞がれる。この結果、中空空間124の負圧が高まり、図9に示すように、側壁125が変形し、物品500cの表面に押し付けられる。このため、物品500cの表面に凹凸があるような場合でも、側壁125が押し付けられることで、吸着ハンド120と物品500cとの間の隙間が塞がれ、吸着ハンド120の吸着力が向上する。また、大きな吸着面積を得ることができ、吸着ハンド120は強い把持力を確保できる。
本実施の形態の把持装置100において、変形部123は、吸着ハンド120の内部に発生する負圧と吸着ハンド120の外部の大気圧との差圧によって変形する。一方、吸着ハンド120と物品500との間に発生する隙間は、物品500の形状に応じて様々な大きさとなる。したがって、様々な物品500に対して同様の効果を得るためには、様々な大きさの隙間に対しても、吸着ハンド120の内部に負圧が生じる必要がある。もし、負圧発生源200が排出可能な空気の最大流量が、吸着ハンド120と物品500との間の隙間の大きさに対して十分でなければ、吸着ハンド120の内部の圧力は下がらず、変形部123も実質的に変形しない。このため、負圧発生源200の最大流量は大きい方が好ましい。したがって、本実施の形態の把持装置100に対しては、図2に示す第1の特性600aを有する負圧発生源200よりも、第2の特性600bを有する負圧発生源200を用いるのが好ましい。
また、吸着ハンド120の内部の負圧によって側壁125が変形し、吸着する物品500との間の隙間を減らすには、側壁125ができる限り柔軟で、負圧の大きさは大きい方が望ましい。一方で、側壁125の剛性が低すぎたり、物品500が吸着ハンド120に十分に近づいていない状態で負圧が大きくなりすぎたりすると、物品500に押し当てられる前に側壁125が変形し、接触部122の開口が塞がってしまう。この場合には、吸着ハンド120は、物品500の把持ができないこともありうる。このため、側壁125は柔軟である程良いというわけではなく、適度な剛性を備えておくことが必要である。側壁125は、厚みを調整すること等によって、物品500を把持する際に発生させる負圧の大きさを考慮した適度な剛性にすることができる。また、側壁125は、吸着ハンド120の内部の負圧をなくした際には、元の形状に自ら回復する程度の弾性を有することが望ましい。
図10は、本実施の形態の吸着ハンド120を用いて、様々な物品500の吸着把持試験を行った際の、吸着ハンド120の内部の負圧と、負圧発生源200の吸引流量を図示したものである。負圧の値は圧力センサを用いて測定し、流量は、既知の断面積をもつ配管を流れる空気の流速を測定することで算定している。黒い点は、それぞれ異なる物品500を把持した際の、負圧の値と、流量の値の関係を示している。使用した負圧発生源200の最大の流量は3500l/min程度であり、最大の負圧の絶対値は25kPa程度であった。これによると、物品500を把持できたのは、10kPa以上の負圧の値であり、物品500を把持する為に変形部123を変形させるには、少なくとも10kPa程度の負圧が必要であることが分かる。一般的に用いられる吸着ハンド120と負圧発生源200では、少ない面積でも把持力を確保するために60kPa〜90kPa程度の負圧を生じさせて用い、これらの圧力に対して吸着ハンド120の形状が潰れることが無いように設計されている。対して、本実施の形態の吸着ハンド120では、通常よりもかなり小さな圧力で変形が生じるように設計されていることが特徴となる。
図3及び図4で示す吸着ハンド120では、変形部123の中空空間124は、排気部121側から接触部122側に向うに従って徐々に広くなるように構成している。ここで、排気部121側及び接触部122側とは、空気の流路における相対的な位置関係を指している。なお、空気の流路は、接触部122の開口から吸着ハンド120の中空空間を経由して排気部の開口へと至る。排気部121側とは、空気の流路において、他の位置と比較して排気部121に近い位置を意味する。一方、接触部122側とは、空気の流路において、他の位置と比較して接触部122に近い位置を意味する。また、中空空間124が広くなるとは、吸着ハンド120の軸と垂直な面で中空空間124を切断した時に、切断面の面積が大きくなることを意味する。しかし、吸着ハンド120は、別の形状とすることもできる。
図11は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の別の例の外観を示す斜視図である。また、図12は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の別の例の切断形状を示す図である。なお、図12は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。図11及び図12に示す吸着ハンド120では、吸着ハンド120の軸と垂直な面で中空空間124を切断した時の切断面の形状は、排気部121側から接触部122側にかけて変化しない。このような構成した吸着ハンド120を用いても、様々な物品500を把持できる効果は得られる。
しかし、以下に記載する理由から、図3及び図4に示すような、中空空間124が排気部121側から接触部122側に向うに従って徐々に広くなる構成が望ましい。接触部122の開口よりも小さな物品500を把持する場合、吸着ハンド120が物品500に押し付けられるのに従い、物品500が吸着ハンド120の内部に深く侵入する。物品500が吸着ハンド120の内部に深く侵入すると、物品500の上面は+Z方向に進むことになる。図3及び図4に示す吸着ハンド120では、+Z方向に進むに従って中空空間124は狭くなることから、物品500の上面の位置に対応する中空空間124は狭くなり、物品500を吸着するための実質的な開口面積が小さくなる。すなわち、図3及び図4に示す吸着ハンド120では、物品500の大きさに適した開口面積を得られ、側壁125が変形していない状態でも、吸着ハンド120と物品500との間に発生する隙間をより小さくすることができる。この結果、吸着ハンド120に外部から流入する空気を少なくすることができ、良好な吸着状体を得やすい。また、側壁125の変形の程度が小さくても、吸着ハンド120と物品500との間に発生する隙間を塞ぐことができるようになる。
また、同時に、側壁125が変形していない状態でも、物品500と側壁125との間の隙間も徐々に減少していくため、これに応じて中空空間124の負圧が徐々に増加する。このため、小さな物品500に対しては、物品500が吸着ハンド120の内部にある程度進入してから、側壁125は変形を開始することになる。そうすると、物品500は、周囲を側壁125によって取り囲まれるように把持され、より強固に把持されることになる。さらに、接触部122の開口は大きい方が、平板状の物品500など、上面が大きな物品を吸着する際に、しわや折り重なりが少ない状態で、側壁125が物品500の表面に張り付きやすい。この結果、吸着ハンド120の内部に流入する空気を少なくすることができ、吸着ハンド120は更に強い把持力を得やすい。
ただし、中空空間124の広がり角は、大き過ぎない方が望ましい。図5に示す物品500aを把持する場合、物品500aの大きさが同じであれば、中空空間124の広がり角が小さい方が、物品500aが吸着ハンド120の内部に深く入り込みやすい。この結果、側壁125が物品500aを包み込むようにして把持する際に、より強固な把持が可能となる。また、物品500aを把持する際に、側壁125は、接触部122の開口を閉じるように変形することになる。このような変形が発生しやすくするためには、中空空間124の広がり角は小さい方が望ましい。したがって、中空空間124の広がり角は45度以下であることが望ましい。側壁125の厚みが一定であれば、中空空間124の広がり角は、変形部123の広がり角となる。なお、中空空間124の広がり角は、側壁125が変形していない状態において、側壁125の内面と吸着ハンド120の軸とが成す角である。
さらに、吸着ハンド120の形状において、排気部121の断面積よりも中空空間124及び接触部122の断面積の方が大きくなることが望ましい。接触部122から負圧発生源200に至る流路を最も特徴付けるのは、流路中の有効断面積である。排気部121の断面積を中空空間124及び接触部122の断面積よりも小さくしておけば、吸着ハンド120に物品500を近づけていない状態では、排気部121における圧力よりも、中空空間124及び接触部122における圧力は高くなり、大気圧に近い状態となる。言い換えると、排気部121における負圧の大きさよりも、中空空間124及び接触部122における負圧の大きさは小さくなる。
逆に、排気部121の断面積と比較して、中空空間124及び接触部122の断面積が、等しいか又は小さくなる場合、接触部122における負圧の大きさが、接触部122より以降の流路における負圧の大きさとなる。このため、もしも接触部122を物品500に近付けた場合、中空空間124における圧力が接触部122における圧力に影響される。この結果、吸着ハンド120が物品500に十分に押し付けられる前に、側壁125が変形し、変形部がつぶれてしまう可能性が高くなる。以上の理由から、吸着ハンド120の形状において、図3及び図4に示すように、中空空間124が排気部121側から接触部122側に向うに従って徐々に広くなることが望ましい。
なお、図示している側壁125は、中空空間124を円形に取り囲むものであるが、あくまで一例であり、円形以外にも、楕円などの閉曲線で取り囲んでいても良いし、多角形で取り囲んでいても良い。また、図3及び図11では、吸着ハンド120はZ軸に対して回転対称な形状としているが、あくまで一例である。
吸着ハンド120は、さらに別の形状とすることもできる。図13は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の更に別の例の外観を示す斜視図である。また、図14は、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120の更に別の例の切断形状を示す図である。なお、図14は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。
図13及び図14に示す吸着ハンド120は、把持能力を高める目的で、接触部122側の側壁125の一部に、付加的に、空気の吸入方向と平行に切れ込み126を入れ、ヒレ状のヒレ構造127を複数設ける事ができる。すなわち、側壁125において、接触部122側の一部の領域は、接触部122の開口の周方向に分割されている。吸着ハンド120の一部に切れ込み126を入れることで、中空空間124に発生する負圧によって、ヒレ構造127が変形し易くなっている。分割されていない側壁125の変形だけでは埋めることが出来なかった隙間があった際には、そこに空気の流れが生じる。しかし、複数のヒレ構造127を備えることで、ヒレ構造127は、分割されていない側壁125よりも変形しやすいため、蓋をして塞ぐように働く。このため、より多様な物品500に対応する能力を向上させると共に、把持力を増す効果を持つ。
次に、本実施の形態の把持装置100を制御する制御装置400について述べる。制御装置400は、予め決定された処理を実行する処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェアであっても、メモリに格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSPともいう)であってもよい。処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらを組み合わせたものが該当する。
一方、処理回路がCPUの場合、制御装置400の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアやファームウェアはプログラムとして記述され、メモリに格納される。処理回路は、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置400の機能を実現する。ここで、メモリとは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリー、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリや、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等が該当する。また、制御装置400の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
図15は、制御装置400のハードウェア構成の一例を示す図である。図15は、処理回路がCPUである場合のハードウェア構成の例を示している。図15に示す構成例では、制御装置400は、プロセッサ701及びメモリ702を備えており、プロセッサ701とメモリ702とは、データバス703を介して接続される。制御装置400の機能は、メモリ702に記憶されたプログラムをプロセッサ701が読み出して実行することによって実現される。
図16は、制御装置400が実行する処理の流れを示す図である。まず、ステップS001において、制御装置400は、負圧発生源200を制御し、吸着ハンド120の変形部が実質的に変形しない程度の小さな負圧を吸着ハンド120の内部に発生させる。ステップS001の処理によって発生する負圧を第1の大きさの負圧と呼ぶ。第1の大きさの負圧は、後述するように、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを判定するために用いることもできる。吸着ハンド120の内部に負圧を発生させるためには、負圧発生源200を制御する他に、空気の流路に弁を設け、弁の開閉または開度を操作する方法もある。次に、ステップS002において、制御装置400は、ロボットアーム110を制御し、吸着ハンド120が物品500に押し付けられるように、吸着ハンド120を移動する。物品500の上面が接触部122の開口より小さい場合、制御装置400は、物品500の少なくとも一部が吸着ハンド120の内部に侵入するように吸着ハンド120を移動する。
次に、ステップS003において、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを確認する。吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かは、ロボットアーム110に力センサを備えて、ロボットアーム110に加わる力を計測し、制御装置400が計測結果を参照することで判定することができる。または、制御装置400は、センサ310によって計測された負圧または流量の変化を検出することで、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを確認することもできる。さらに、物品500の位置が既知であれば、予め決定された位置に吸着ハンドが移動した場合に、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたと判定しても良い。
ここで、接触部122の少なくとも一部が物品500に接触した場合、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたと判定する。また、物品500が小さい場合に、物品500の少なくとも一部が吸着ハンド120の内部に侵入した場合も、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたと判定する。なお、制御装置400が、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを確認するために、センサ310の計測結果を用いない場合には、ステップS001の処理は不要となる。
ステップS003において、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていないと判定された場合は、制御装置400の処理はステップS002へと戻り、制御装置400は吸着ハンド120をさらに移動させる。一方、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていると判定された場合は、制御装置400の処理はステップS004へと進む。ステップS004では、制御装置400は、吸着ハンド120の変形部を変形させるように、負圧発生源200を制御して、吸着ハンド120の内部の負圧の大きさを所定の大きさまで増加させる。
ここで、所定の大きさとは、吸着ハンド120と物品500との間に隙間があったとしても、吸着ハンド120の変形部が変形する程度の大きさである。なお、所定の大きさとしては、負圧発生源200で発生可能な負圧の最大値としても良い。過度の負圧によって物品500が破損する懸念がある場合には、所定の大きさとして、物品500に合わせて適切な大きさを設定する。ステップS004の処理によって発生する負圧を第2の大きさの負圧と呼ぶ。第2の大きさの負圧は、物品500を把持するための負圧でもある。また、吸着ハンド120の内部の負圧を増加させるためには、負圧発生源200を制御する他に、空気の流路に弁を設け、弁の開閉または開度を操作する方法もある。
次に、ステップS005において、制御装置400は、物品500を把持するのに十分な把持力が得られていか否かを確認する。制御装置400は、センサ310によって計測された負圧または流量を参照することで、吸着ハンド120の把持力を推定することができる。ステップS005において、十分な把持力が得られていないと判定された場合は、制御装置400の処理はステップS006へと進む。一方、十分な把持力が得られていると判定された場合は、制御装置400の処理はステップS007へと進む。
ステップS006では、制御装置400は、吸着ハンド120の内部の負圧の大きさを所定の増分だけ増加させる。ステップS007では、制御装置400は、ロボットアーム110を制御し、物品500を持ち上げる。ステップS006の後は、制御装置400は、物品500の移動、運搬、組み付けなど、所定の作業を行う。制御装置400は、以上のように動作する。
本実施の形態の把持装置100について、さらに説明する。負圧発生源200を一定の条件で動作させた場合、吸着ハンド120を物品500へ押し付ける過程において中空空間124の負圧の大きさが上昇し、側壁125が変形することが考えられる。もし、吸着ハンド120が物品500に十分に押し付けられる以前に側壁125が変形してしまうと、吸着ハンド120は物品500を吸着する事ができない。このように、吸着ハンド120が物品500を吸着する以前に、側壁125が変形し、押し潰されてしまうことを防ぐには、吸着ハンド120が物品500に十分に押し付けられるまでは大きく変形しないように、側壁125の材質や厚さを最適設計すれば良い。一方、このような設計による対処では、例えば、側壁125の柔軟性を損なう設計となって、吸着ハンド120と物品500との隙間を埋める能力が低下し、大きさや形状などが様々な物品に対応する能力が低下する恐れもある。
このような問題を解決するためには、制御装置400が、図16に示すように、把持装置100の制御と連動して、負圧発生源200の制御も行うことが有効である。制御装置400は、ロボットアーム110を動作させ、吸着ハンド120を物品500へ押し付けるが、十分に押し付けが出来る前と後とで、負圧発生源200の動作を変化させる。例えば、押し付けができるまでは、負圧発生源200の動作を停止しておき、押し付けが完了してから動作を開始する。もしくは、押し付けが完了するまでは、少ない吸引流量で負圧発生源200を動作させておき、押し付けが完了してから吸引流量を増加させる。このような制御を行うことによって、十分な押し付けが行われない状態で側壁125が変形することを防止し、確実に吸着把持することができる。
次に、図16のステップS003において、制御装置400が、吸着ハンド120が物品500に十分に押し付けられたか否かを判定する方法について、詳しく述べる。まず、物品500の位置及び形状が予め決められている場合には、吸着ハンド120の位置及び物品500の位置から、制御装置400は、どれだけ吸着ハンド120が押し付けられているのかを容易に判断可能である。物品500が供給される位置が予め決められていない場合、または物品500が未知の物体である場合であっても、ビジョンセンサやレーザ測距計などのセンサを用いることで、物品500の位置及び形状を既知として扱うことができる。
物品500の位置または形状が正確に把握できない場合や、手探りでの把持を行う際には、次のような方法がある。まず、中空空間124や排気部121、配管300など、接触部122から負圧発生源200に至る流路のどこかに、負圧発生源200による空気の吸引の状態を検出するセンサ310を配置する。センサ310としては、負圧を計測可能な圧力センサか、吸着ハンド120からの排気の流量を計測可能な流量センサのいずれか、もしくは両者を用いる。
次に、負圧発生源200による吸着ハンド120からの排気を少ない状態にする。これにより、もし吸着ハンド120を物品500に押し付けたとしても、不十分な押し付けでは側壁125が変形するほどの負圧が生じないようにする。ここで、不十分な押し付けとは、吸着ハンド120と物品500との間に隙間がある状態を指す。この状態で、ロボットアーム110による吸着ハンド120の押し付け動作中に、センサ310の値の変化を監視する。もし、吸着ハンド120が物品500に押し付けられ、接触部122の開口が物品500により塞がれていけば、吸着ハンド120の内部の負圧の大きさ増加し、排気される流量は減少していく。制御装置400は、センサの出力値の変化を参照し、予め物品500に対して定めておいた閾値とセンサ310の出力値とを比較して、十分に押し付けがなされたか否かを判断する。
さらに他の方法としては、吸着ハンド120を物品500に押し付けた際の反力を用いる方法もある。ロボットアーム110または吸着ハンド120に反力を測定する機能を持たせる。例えば、ロボットアーム110の手首に力センサを取り付けるか、関節にトルクセンサを設ける。もしくは、ロボットアーム110を駆動するモータの電流から関節のトルクを推定する、という方法もある。吸着ハンド120にロードセルなどの力センサを取り付けたり、ひずみゲージを貼り付けたりして力を測定しても良い。
変形部123の側壁125は柔軟に構成されているため、物品500に接触部122が触れてから、側壁125は次第に変形していく。制御装置400はこの際の反力の増加を計測し、計算された半力が予め定めた閾値を超えると、制御装置400は吸着ハンド120が十分に押し付けられたと判断する。もしくは、制御装置400は、接触部122と物品500が接触した瞬間を反力で判断し、その時点からのロボットアーム110の移動量から押し付け量を計算する。押し付け量が予め物品500に対して定めた閾値を超えると、制御装置400は十分に押し付けられたと制御装置で判断する。
以上で述べたように、本実施の形態の把持装置100において、吸着ハンド120は、吸着ハンド120の内部の空気を排出させる排気部121と、物品500を把持する際に物品500に接触させる接触部122と、物品500を把持する際に少なくとも1方向に変形する変形部123とを備える。また、吸着ハンド120は、排気部121及び接触部122で開口した中空構造である。また、変形部123は、接触部122の開口の周方向に連続した構造で中空空間124を取り囲む側壁125を有する。また、物品500を把持する際に、排気部121から空気が排出されることで発生する吸着ハンド120の内部の負圧と、吸着ハンド120の外部の大気圧との差圧によって側壁125が変形することで、変形部123が変形する。また、吸着ハンド120と物品500との間に吸着ハンド120の内部に空気が流入する隙間が存在する場合には、側壁125は、隙間を塞ぐように変形する。本実施の形態の把持装置100によれば、簡単な構造で、様々な対象物を把持可能となる。
実施の形態2.
実施の形態1では、吸着ハンドが物品を吸着する以前に側壁が変形してしまうことを防ぐために、吸着ハンドの内部に発生する負圧の大きさを変化させる方法について述べた。一方、本実施の形態では、吸着ハンドのパッド内部に生じうる負圧の大きさを変更するのでは無く、吸着ハンドの側壁の剛性を変更することが可能となる把持装置について述べる。
図17は、本発明の実施の形態2における把持装置100が備える吸着ハンド120の外観を示す斜視図である。また、図18は、本発明の実施の形態2における把持装置100が備える吸着ハンド120の切断形状を示す図である。なお、図18は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。本実施の形態の把持装置100及びロボットシステムは、吸着ハンド120の構成及び制御装置400で実行される処理のみが実施の形態1におけるものと異なり、他の構成は図1におけるものと同様である。以降では、実施の形態1との相違点について説明する。
図17及び図18に示す通り、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120は、排気部121、接触部122、変形部123、切替弁141、及び接続チューブ142を備える。また、変形部123は、中空空間124、側壁125、及び環状チューブ128を備える。図17及び図18に示す把持装置100は、切替弁141、接続チューブ142、及び環状チューブ128を備える点を除いては、実施の形態1におけるものと同様である。
吸着ハンド120は、側壁125の外部に環状チューブ128が装着されている。環状チューブ128は、接続チューブ142を介して切替弁141に接続される。切替弁141は、接続チューブ142を介して、環状チューブ128への圧縮空気の供給、または環状チューブ128からの空気の排出を行う。切替弁141の動作によって、環状チューブ128の内部の加圧、または環状チューブ128の内部の減圧が可能となっている。切替弁141の動作は制御装置400によって制御される。
環状チューブ128及び接続チューブ142は薄く、柔らかい材質で構成されている。環状チューブ128の内部が加圧されると、環状チューブ128の壁面は膨張し、剛性が増加する。このため、環状チューブ128が取り付けられた側壁125も、変形が抑制され、剛性が増加する。環状チューブ128の内部が減圧されると、環状チューブ128は柔らかくなるため、側壁125は変形しやすくなり、剛性が低下する。押し付け方向に対して垂直な面内に環状チューブ128を配置することで、側壁125の潰れに対する剛性を高めつつ、押し付け方向への柔らかさは保つことが出来る。なお、側壁125の潰れとは、中空空間124に発生する負圧によって、側壁125が中空空間124に向かって変形することを指している。
環状チューブ128は、外部から注入される流体を収容する流体収容部として機能する。なお、本実施の形態の把持装置100においては、流体として空気を例示しているが、空気以外の気体、または水などの液体であっても良い。上述の通り、環状チューブ128に流体が注入されることで、環状チューブ128は加圧され、側壁125の剛性が増加する。一方、環状チューブ128から流体が排出されることで、環状チューブ128は減圧され、側壁125の剛性が低下する。側壁125は、剛性が低下した状態で、吸着ハンド120の内部に発生する負圧によって変形する。
図19は、制御装置400が実行する処理の流れを示す図である。まず、ステップS011において、制御装置400は、切替弁141を制御し、環状チューブ128に空気を注入し、環状チューブ128の内部を加圧して、側壁125の剛性を高める。次に、ステップS012において、制御装置400は、負圧発生源200を制御し、吸着ハンド120の内部に負圧を発生させる。この際に発生させる負圧の大きさは、物品の把持に必要と想定される大きさとする。
次に、ステップS002において、制御装置400は、ロボットアーム110を制御し、吸着ハンド120が物品500に押し付けられるように、吸着ハンド120を移動する。次に、ステップS003において、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを確認する。ステップS003において、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていないと判定された場合は、制御装置400の処理はステップS002へと戻り、制御装置400は吸着ハンド120をさらに移動させる。一方、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていると判定された場合は、制御装置400の処理はステップS013へと進む。ステップS002及びステップS003における処理は、実施の形態1におけるものと同様である。
ステップS013では、制御装置400は、切替弁141を制御し、環状チューブ128から空気を排出し、環状チューブ128の内部を減圧して、側壁125の剛性を低下させる。この結果、吸着ハンド120の内部に発生している負圧の影響によって、側壁125が変形する。ステップS005以降の処理は、実施の形態1における処理と同様であるので、説明を省略する。
以上のように、本実施の形態の把持装置100において、吸着ハンド120は、側壁125の周囲に取り付けられた環状の環状チューブ128と、環状チューブ128の内部を加圧または減圧する切替弁141とを有する。この結果、吸着ハンド120は、吸着ハンド120の内部の負圧に対する側壁125の剛性が可変となる。この吸着ハンド120を備えた把持装置100は、様々な物品500を把持可能となる。
また、本実施の形態の把持装置100を備えたロボットシステムにおいて、制御装置400は、環状チューブ128を加圧して側壁125の剛性を高めた状態で、吸着ハンド120を物品500に押し付け、その後に、環状チューブ128を減圧して側壁125の剛性を低下させる。この結果、本実施の形態の把持装置100を備えたロボットシステムは、様々な物品500を把持可能となる。
実施の形態3.
吸着ハンド120は、更に別の構成とすることもできる。実施の形態2の把持装置100では、流体収容部は側壁125の外部に設けられている。一方、本実施の形態の把持装置100では、流体収容部は側壁125の内部に設けられる。
図20は、本発明の実施の形態3における把持装置100が備える吸着ハンド120の外観を示す斜視図である。また、図21は、本発明の実施の形態3における把持装置100が備える吸着ハンド120の切断形状を示す図である。なお、図21は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。また、図22は、本発明の実施の形態3における把持装置100が備える吸着ハンド120の形状を示す透視図である。図22は、吸着ハンド120の構成要素の一部を透過して描いた透視図である。本実施の形態の把持装置100及びロボットシステムは、吸着ハンド120の構成のみが、実施の形態2におけるものと異なる。したがって、制御装置400の制御についても、実施の形態2におけるものと同様となる。以降では、実施の形態2との相違点について説明する。
図20、図21及び図22に示す吸着ハンド120においては、側壁125は、内壁125a及び外壁125bを備える2重構造となっており、内壁125a及び外壁125bとの間に気密性を有する気密空間129を備えている。気密空間129は、側壁125の内部に設けられた流体収容部として機能する。なお、内壁125a及び外壁125bは、別体である必要はなく、側壁125は袋状になっていても良い。
気密空間129は、接続チューブ142を介して切替弁141と接続されている。したがって、制御装置400は、切替弁141を制御することによって、気密空間129に流体を注入して気密空間129を加圧したり、気密空間129から流体を排出して気密空間129を減圧したりすることが可能である。気密空間129には、気密空間が過度に膨張するのを防止する目的で、仕切り143が配置されている。仕切り143は、接触部122側から排気部121側にかけて、気密空間129を完全に分断しているわけではなく、接触部122側に寄せて設置されている。気密空間129において、仕切り143よりも排気部121側には、流体の流路144が設けられている。したがって、気密空間129は、仕切り143で完全に分割されている訳ではなく、切替弁141によって供給される加圧流体は、流路144を経由して気密空間129の全体に行き渡る。
内壁125a、外壁125b、及び仕切り143は、柔軟な部材を用いて、柔軟に構成されている。制御装置400は、気密空間129を加圧する事により、内壁125a及び外壁125bを膨張させ、側壁125の剛性を増加させることが可能である。これにより、実施の形態2における把持装置100と同様に、吸着ハンド120が物品500を吸着する以前に、側壁125が変形して潰れてしまうことを防止することができる。
実施の形態4.
吸着ハンド120は、更に別の構成とすることもできる。実施の形態3の把持装置100では、側壁125の内部に設けた気密空間129を流体収容部として機能させていた。一方、本実施の形態の把持装置100では、粒状の物質である粒状体を収容する粒状体収容部として気密空間129を機能させる。
図23は、本発明の実施の形態4における把持装置100が備える吸着ハンド120の切断形状を示す図である。なお、図23は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。本実施の形態の把持装置100及びロボットシステムは、吸着ハンド120の構成及び制御装置400で実行される処理のみが、実施の形態3におけるものと異なる。以降では、実施の形態3との相違点について説明する。
図23に示す吸着ハンド120においては、側壁125は、内壁125a及び外壁125bを備える2重構造となっており、内壁125a及び外壁125bとの間に気密性を有する気密空間129を備えている。気密空間129は、側壁125の内部に設けられた粒状体収容部として機能する。なお、内壁125a及び外壁125bは、別体である必要はなく、側壁125は袋状になっていても良い。気密空間129の中には、粒状の物質である粒状体145が充填されている。粒状体145は、例えば、発泡スチロールやビーズといった物質である。粒状体145は、表面の起伏が大きく、表面の摩擦が大きなものが好ましい。粒状体145の大きさとしては、およそ0.1〜1mm程度のものが選定される。
気密空間129は、接続チューブ142を介して切替弁141と接続されている。制御装置400は、切替弁141を制御することによって、気密空間129から空気を排出して気密空間129を減圧した状態と、気密空間129を外部とつなげて気密空間129を大気圧と同じにした状態とを切り替えることができる。図24は、本発明の実施の形態4における把持装置100において気密空間129が大気圧となった場合を示す模式図である。図24は、気密空間129の断面の一部を拡大した図となっている。粒状体145は、気密空間129が大気圧の状態では過密にならないように、気密空間129に充填されている。したがって、気密空間129が大気圧の状態では、粒状体145同士が自由に移動できる状態となり、側壁125は柔軟性を有する。
図25は、本発明の実施の形態4における把持装置100において気密空間129が減圧された場合を示す模式図である。図25は、気密空間129の断面の一部を拡大した図となっている。気密空間129が減圧された状態では、粒状体145は密着し、互いの摩擦によって自由に移動することができない。したがって、側壁125は硬くなり、側壁125の剛性が高い状態を作り出すことができる。制御装置400は、気密空間129を減圧した状態と、気密空間129を大気圧と同じにした状態とを切り替えることで、側壁125の剛性を変化させ、吸着ハンド120が物品500を吸着する以前に側壁125が変形して潰れてしまうことを防止する。
図26は、制御装置400が実行する処理の流れを示す図である。まず、ステップS021において、制御装置400は、切替弁141を制御し、気密空間129から空気を排出し、気密空間129を減圧して、側壁125の剛性を高める。次に、ステップS012において、制御装置400は、負圧発生源200を制御し、吸着ハンド120の内部に負圧を発生させる。この際に発生させる負圧の大きさは、物品の把持に必要と想定される大きさとする。
次に、ステップS002において、制御装置400は、ロボットアーム110を制御し、吸着ハンド120が物品500に押し付けられるように、吸着ハンド120を移動する。次に、ステップS003において、制御装置400は、吸着ハンド120が物品500に押し付けられたか否かを確認する。ステップS003において、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていないと判定された場合は、制御装置400の処理はステップS002へと戻り、制御装置400は吸着ハンド120をさらに移動させる。一方、吸着ハンド120が物品500に押し付けられていると判定された場合は、制御装置400の処理はステップS022へと進む。ステップS002及びステップS003における処理は、実施の形態1におけるものと同様である。
ステップS022では、制御装置400は、切替弁141を制御し、気密空間129を外部と連通させ、気密空間129を大気圧にして、側壁125の剛性を低下させる。この結果、吸着ハンド120の内部に発生している負圧の影響によって、側壁125が変形する。ステップS005以降の処理は、実施の形態1における処理と同様であるので、説明を省略する。
図27は、制御装置400が実行する別の処理の流れを示す図である。図27に示す処理の流れは、図26に示すものと比較して、ステップS007の処理の前にステップS023の処理が挿入されている点のみが異なる。ステップS023において、制御装置400は、切替弁141を制御し、気密空間129から空気を排出し、気密空間129を減圧して、側壁125の剛性を高める。制御装置400がステップS023の処理を行うことで、十分な把持力が得られた際の側壁125の形状を保ったままで、側壁125の剛性を高めることが可能となる。このため、物品500を持ち上げた際に、物品500の重みによって側壁125が再び変形するのを防止することができる。
この効果は、物品500の重量が重い場合、または吸着ハンド120が物品500を把持したまま物品500の姿勢を変更する場合に特に有効となる。このような場合、側壁125の剛性が低いと側壁125が変形し、吸着ハンド120と物品500との間に隙間が生じ、物品を取り落とす場合がある。ステップS023の処理を行うことで、十分な把持力が得られている状態で側壁125の形状を保持でき、上記のような場合にもしっかりと把持を行う事が可能になる。
実施の形態5.
実施の形態1から4で述べた吸着ハンド120は、押し付け方向に深い中空構造を有し、図5に示すように、物品500を包み込むように把持することができる。また、実施の形態1から4で述べた吸着ハンド120は、接触部122の開口より大きな物品500や、板状の物品500に対しては、図9に示すように、変形部123が物品500の表面に沿うように平面状に変形して、物品500を把持することが可能である。しかし、変形部123が平面状に変形する際には、側壁125に皺が発生し、その皺によって吸着ハンド120と物品500との間に隙間を生じて把持力が低下する恐れがある。本実施の形態の把持装置は、大きな物品500または板状の物品500を把持する際に、側壁125に皺が生じにくく、把持力を高めることの出来る吸着ハンド120を備えるものである。
図28は、本発明の実施の形態5における把持装置100が備える吸着ハンド120の外観を示す斜視図である。また、図29は、本発明の実施の形態5における把持装置100が備える吸着ハンド120の切断形状を示す図である。なお、図29は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。本実施の形態の把持装置100及びロボットシステムは、吸着ハンド120の構成のみが実施の形態1におけるものと異なり、他の構成は図1におけるものと同様である。以降では、実施の形態1との相違点について説明する。
図28及び図29に示す吸着ハンド120においては、変形部123は、Z軸方向への伸縮が容易な伸縮部としても機能する。図28及び図29において、伸縮方向であるZ軸方向は、排気部121と接触部122とを結んだ方向である。より厳密には、図28及び図29において、Z軸方向は、排気部121の開口の中心と、接触部122の開口の中心とを結んだ方向である。図28及び図29は、変形部123がZ軸方向に伸びた状態を示している。
吸着ハンド120は、これまでに述べたものと同様に、排気部121及び接触部122が開口した中空構造となっている。また、吸着ハンド120の中空空間124は、排気部側から接触部側に向かうにつれて、段階的に広くなっている。変形部123は、第1の筒状部146a、第2の筒状部146b、第3の筒状部146c、及び第4の筒状部146dを備えている。また、変形部123は、第1の連結部147a、第2の連結部147b、第3の連結部147cも備える。第1の連結部147aは、第1の筒状部146a及び第2の筒状部146bを連結する。また、第2の連結部147bは、第2の筒状部146b及び第3の筒状部146cを連結する。また、第3の連結部147cは、第3の筒状部146c及び第4の筒状部146dを連結する。
なお、本実施の形態の把持装置100では、4つの筒状部を備える構成を例示しているが、この構成に限定されるわけではなく、2つ以上の筒状部を備えていれば良い。本実施の形態の把持装置100では、第4の筒状部146dの底面が接触部122となる。筒状部は、両端である上面および底面が開口した円筒形状である。すなわち、筒状部は、対向する2つの面が開口した円筒形状である。また、筒状部は、両端を結ぶ方向が伸縮方向と平行になるように配置されている。すなわち、筒状部は、伸縮方向であるZ軸方向に対して開口が垂直となるように配置されている。言い換えると、筒状部は、開口がX−Y平面と平行となるように配置されている。ここで、単に筒状部と記載した場合は、第1の筒状部146a〜第4の筒状部146dのそれぞれを指している。
吸着ハンド120が伸びた状態では、第1の筒状部146a、第2の筒状部146b、第3の筒状部146c、及び第4の筒状部146dは、Z方向の異なる位置に配列されている。第1の筒状部146aは、第2の筒状部146bよりも排気部121側に配置されている。また、第2の筒状部146bは、第3の筒状部146cよりも排気部121側に配置されている。また、第3の筒状部146cは、第4の筒状部146dよりも排気部121側に配置されている。
第1の筒状部146aの開口は、第2の筒状部146bの開口よりも小さくなっている。さらに、第2の筒状部146bの開口は、第1の筒状部146aを内部に収めることが可能な大きさとなっている。第2の筒状部146bの開口は、第3の筒状部146cの開口よりも小さくなっている。さらに、第3の筒状部146cの開口は、第2の筒状部146bを内部に収めることが可能な大きさとなっている。第3の筒状部146cの開口は、第4の筒状部146dの開口よりも小さくなっている。さらに、第4の筒状部146dの開口は、第3の筒状部146cを内部に収めることが可能な大きさとなっている。なお、開口が大きいとは、開口している面積が大きいことを意味する。したがって、伸縮方向から見ると、第1の筒状部146a、第2の筒状部146b、第3の筒状部146c、及び第4の筒状部146dは同心円状に配置されていることになる。
ここで、筒状部の形状について、さらに説明する。本実施の形態の把持装置100において、筒状部は、伸縮方向の両端が開口した中空構造の柱状の中空体を形成している。筒状部は環状に形成されているが、必ずしも円環状で有る必要はない。また、開口の大きさに対して、伸縮方向の長さが短くても良いし、長くても良い。開口の大きさは、例えば開口の径、対角線の長さ、又は開口の面積で表すことができる。本実施の形態においては、円筒形の筒状部を図示しているが、あくまで一例である。一方、本実施の形態の把持装置100において、連結部も環状となっている。なお、単に連結部と記載した場合は、第1の連結部147a〜第3の連結部147cのそれぞれを指している。
次に、変形部123が伸縮方向に伸縮する動作について述べる。図30は、本発明の実施の形態5における把持装置100が備える吸着ハンド120の外観を示す斜視図であり、変形部123が縮んだ状態の外観を示す斜視図である。また、図31は、本発明の実施の形態5における把持装置100が備える吸着ハンド120の切断形状を示す図であり、変形部123が縮んだ状態の切断形状を示す図である。なお、図31は、吸着ハンド120をX−Z平面と平行な面で切断した形状を示している。
図30及び図31に示すように、本実施の形態の把持装置100において、吸着ハンド120は、変形部123が折り畳まれることによって、縮んだ状態となる。より具体的は、変形部123が縮む際には、第1の筒状部146aは、第2の筒状部146bの内部に位置するように移動する。また、第2の筒状部146bは、第3の筒状部146cの内部に位置するように移動する。また、第3の筒状部146cは、第4の筒状部146dの内部に位置するように移動する。ここで、内部に位置するとは、X−Y平面と平行な同一の平面上に位置するとともに、Z軸方向から見た時に、内側に位置していることを意味する。
変形部123が伸びた状態から縮んだ状態へと変化する際には、連結部と筒状部との接続箇所が折れ曲がる。すなわち、連結部と筒状部とは、接続箇所で折り曲げることができるように接続されている。また、連結部自身も屈曲可能な構成となっており、この結果、スムーズな折り畳み動作が実現できる。さらに、変形部123が伸びた状態において、連結部の表面と伸縮方向との成す角が、筒状部の側壁と伸縮方向との成す角よりも大きくなっていれば、変形部は折り畳みやすくなる。筒状部の側壁は、伸縮方向とほぼ平行になっていることが望ましい。
変形部123が伸びる際には、変形部123が縮む際とは逆の動作となる。変形部123が縮んだ状態では、それぞれの筒状部の下端は、X−Y平面と平行な同一の平面上に配置されるとともに、それぞれの筒状部は、筒状部の径方向に配列されることになる。このように配列されるためには、内側に位置する筒状部の外径は、外側に隣接する筒状部の内径よりも小さい必要がある。
ただし、変形部123が縮んだ状態で、それぞれの筒状部の下端が同一の平面上に配置されるのは、物品500の表面が平面である場合である。厳密には、筒状部の下端は、物品500の表面に接触することになる。したがって、物品500の表面の形状次第では、それぞれの筒状部の下端は、Z方向の異なる位置に配置される場合もある。また、物品500が小さい場合などでは、いくつかの筒状部の下端は、物品500の表面に接触することがない。この場合には、物品500の表面に接触しない筒状部の下端は、連結部及び筒状部の弾性と、伸縮方向に加えられる力とによって決定される位置に配置されることになる。
このように構成された変形部123は、伸縮方向の力が加えられることによって、伸縮方向の長さが変わり、その結果、平面状に変形する。ロボットアーム110が吸着ハンド120を物品500に押し付けることによって、変形部123に伸縮方向の力が加えられる。通常は、吸着ハンド120の押し付け方向は、伸縮方向と実質的に同一となる。または、吸着ハンドの内部の負圧によって、変形部123に伸縮方向の力が加えられる。この時、筒状部は、連結部と比較して伸縮方向の剛性が高くなるように構成すると、伸縮方向の力が加えられた場合でも、形状が安定する。ただし、筒状部は変形する必要があるので、ゴムやシリコンなどの柔軟な素材で形成することが考えられる。
連結部は、屈曲することが可能な柔軟な素材で形成することが考えられる。連結部は、適度な伸縮性があっても良い。連結部は、例えばゴムやシリコンなどの樹脂の膜により形成することが考えられる。筒状部と連結部とは、個別の部材であっても良いし、一体で形成し、厚みを変えることで剛性を調整することも考えられる。また、一体で成形した後に、補強材として別の部材を組み合わせることで、筒状部の剛性を得ることも考えられる。
連結部が複数ある場合は、変形部123を折り畳む方向の力が加わった際に、接触部122側の連結部が、排気部121側の連結部よりも先に折り畳まれるように、連結部の厚みや素材などを調整しておく。なお、変形部123を折り畳む方向の力は、図28他における−Z方向の力となる。また、変形部123が伸びた状態において、連結部の表面と伸縮方向との角度が大きいほど、折り畳みが発生しやすい。したがって、接触部122側の連結部ほど連結部の表面と伸縮方向との角度を大きくすることも考えられる。
このように、変形部123を伸縮方向に折り畳みが可能な構成とすることで、吸着ハンド120の接触部の開口より大きな物品500、または板状の物品500を吸着する際に、伸縮方向の力が加えられた吸着ハンド120は折り畳まれ、平面状になる。したがって、本実施の形態の把持装置100によれば、吸着時の側壁125における皺の発生を抑制し、より確実な把持を行うことができる。特に、中空空間124の広がり角が45度以下などの小さい角度である場合には、通常であれば変形部123は平面状に変形しにくいが、変形部123を伸縮方向に折り畳みが可能な構成とすることで、変形部123は平面状に変形しやすくなる。また、小さな物品500や複雑な形状の物品500を把持する際には、吸着ハンド120を伸展させた状態で把持を行うことで、側壁125で包み込むように把持することができ、高い把持能力を得ることができる。なお、側壁125は、筒状部及び連結部で構成されている。
また、変形部123が折り畳まれると、複数の筒状部の底面が物品500の表面に押し付けられることになる。この結果、吸着ハンド120の内部と連通する接触部の開口は、複数の筒状部によって同心円状に囲まれることになる。したがって、1つの筒状部で囲まれるだけでは、吸着ハンド120と物品との間の隙間を完全に塞ぐことができなくても、複数の筒状部で囲まれることで、外部から流入する空気をより減少させることが可能となる。さらに、屈曲可能に構成される連結部が、物品500の表面に張り付くことで、外部から流入する空気をより減少させることが可能となる。以上のように、本実施の形態における吸着ハンド120によれば、吸着ハンド120の接触部の開口より大きな物品500、または板状の物品500に対して、高い把持力を得ることが可能となる。
さらに、本実施の形態の把持装置100における吸着ハンド120は、他の実施の形態におけるものと組み合わせることができる。例えば、図28に示す吸着ハンド120の変形部123の外部に環状チューブ128を備えても良い。また、図28に示す吸着ハンド120の筒状部146a〜146d及び連結部147a〜147cの内部に、流体収容部又は粒状体収容部を備えても良い。さらに、図28に示す吸着ハンド120の筒状部146a〜146dの内部のみに、流体収容部又は粒状体収容部を備えても良い。
実施の形態6.
実施の形態1から5までのロボットシステムでは、1つの負圧発生源200を備える構成としていた。ここで、様々な物品500を吸着ハンド120で把持するには、吸着ハンド120を物品500へ押し当てた際に間に生じる様々な大きさの隙間に対して、負圧発生源200は、側壁125を変形させるに足る負圧を発生させる必要がある。この観点からは、大きな隙間に対しても負圧を発生させることが可能な大流量の特性を備えた負圧発生源200が適している。図2に示す負圧発生源の特性について言えば、破線で示す第1の特性600aを有する負圧発生源200よりも、実線で示す第2の特性600bを有する負圧発生源200の方が適している。
一方で、吸着ハンド120の内部に空気が流入しないように、吸着ハンド120がしっかりと物品500へと密着できている状態であれば、負圧が大きい方が把持力も大きくなる。したがって、この観点からは、負圧の最大値は大きい方が望ましく、図2に破線で示す第1の特性600aを有する負圧発生源200の方が望ましい。しかし、高い負圧の値(例えば、絶対値が90kPa以上)と大流量(例えば2〜3m3/分)の両方を満たす負圧発生源200を用いることは、消費電力、コスト、装置の大きさ等の点から現実的ではない。
本実施の形態の把持システムは、このような課題を解決するものである。本実施の形態の把持システムは、負圧発生源を複数備えたものとなる。図32は、本発明の実施の形態6における把持システムの構成の一例を示す図である。なお、把持システムの一例としては、ロボットアームを備えたロボットシステムが考えられる。図32では、ロボットアーム110など、本実施の形態の把持システムの説明に不要なものは省略している。
図32に示す把持システムは、把持装置100、第1の負圧発生源200a、第2の負圧発生源200b、配管300、センサ310、制御装置400、及び弁700を備える。把持装置100としては、実施の形態1から5で述べたものを用いることができる。第1の負圧発生源200aと第2の負圧発生源200bとは、互いに異なる特性を有する。図33は、第1の負圧発生源200aの特性を示す図である。また、図34は、第2の負圧発生源200bの特性を示す図である。図33及び図34において、縦軸は発生する負圧Pの大きさであり、横軸は空気の流量Qである。なお、図33及び図34において、縦軸は単にPと記載しているが、実際には負圧Pの絶対値を表している。
第1の負圧発生源200aは、図33に示すように、負圧の最大値は大きいものの、流量の最大値は小さい。逆に、第2の負圧発生源200bは、図34に示すように、流量の最大値は大きいものの、負圧の最大値は小さい。すなわち、第2の負圧発生源200bは、第1の負圧発生源200aと比較して、排出できる空気の流量の最大値が大きく、発生できる負圧の最大値が小さい。第1の負圧発生源200a及び第2の負圧発生源200bは、配管300を介して把持装置100に接続されている。配管300は分岐しており、分岐した一方が第1の負圧発生源200aに接続され、他方が弁700を介して第2の負圧発生源200bに接続されている。弁700を閉じることにより、第2の負圧発生源200bから把持装置100への流路を閉鎖することが可能となる。
センサ310は、配管300に設置され、配管300の中の空気の流量または圧力を計測する。制御装置400は、把持装置100、第1の負圧発生源200a、第2の負圧発生源200b、センサ310、及び弁700に接続され、それぞれの動作を制御する。また、センサ310で計測された結果は、制御装置400へと送られる。
弁700は、以下の理由により設けられている。第2の負圧発生源200bのように、流量の最大値は大きいものの、負圧の最大値は小さい負圧発生源は、ブロアと呼ばれるような回転する羽根を用いたものが多い。このような負圧発生源では、負圧発生源で発生する負圧の値よりも配管300の圧力が低圧である場合、逆流が発生し、負圧発生源の排気部から空気が配管300へと流入する恐れがある。弁700は、このような空気の逆流を避けるために設けられている。一方、第1の負圧発生源200aのように、負圧の最大値は大きいものの、流量の最大値は小さい負圧発生源は、ダイアフラム型や揺動ピストン型など、逆流を発生させないポンプ構造のものが多い。したがって、図32に示す把持システムでは、第1の負圧発生源200aへ至る分岐には弁を設けていない。ただし、逆流が懸念される場合には、必要に応じて弁を追加しても良い。
次に、図32に示す把持システムの動作について説明する。物品500と吸着ハンド120との間に大きな隙間がある状態で、変形部123を変形させるための負圧を吸着ハンドの内部に発生させるためには、大流量での負圧発生が求められる。そこで、吸着ハンド120が物品500に押し付けられる前、または押し付けられた直後は、制御装置400は、第2の負圧発生源200bを駆動させ、弁700を開く。第1の負圧発生源200aについては、運転させた方が流量はより増加するが、消費するエネルギーと比較して流量の増加が小さい場合もあるので、必ずしも運転させる必要は無い。
次に、吸着ハンド120の内部の負圧が増加し、変形部123が変形して物品500との隙間を減少させて行くに従い、センサ310で計測される流量は減少して負圧の値は増加する。センサ310での計測値が、図33に示す第1の負圧発生源200aの特性と、図34に示す第2の負圧発生源200bの特性との交点に位置する負圧を上回るか、交点に位置する流量を下回ると、制御装置400は、弁700を閉じて第2の負圧発生源200bの運転を停止し、第1の負圧発生源200aのみを運転させる。図35は、本実施の形態の把持システムで生成される配管300の内部の負圧と空気の流量との関係を示す図である。
低流量の領域では、第1の負圧発生源200aによって生じる負圧の値は、第2の負圧発生源200bによって生じる負圧の値よりも高い。したがって、第2の負圧発生源200bを用いるよりも、第1の負圧発生源200aを用いる方が、変形部123を変形させる効果がより大きくなる。その結果、吸着ハンド120における吸着力も大きくなる。
図36は、制御装置400が第1の負圧発生源200a、第2の負圧発生源200b、および弁700を制御する処理の流れを示す図である。ステップS031において、制御装置400は、第2の負圧発生源200bの運転を開始する。この際、第1の負圧発生源200aも運転を開始しても良い。次にステップS032において、制御装置400は、弁700を開く。次にステップS033において、制御装置400は、配管300の内部の負圧の大きさが、所定の値を上回ったか否かを判定する。配管300の内部の負圧の大きさが所定の値を上回っていない場合には、制御装置400の動作は、ステップS033に戻る。配管300の内部の負圧の大きさが所定の値を上回った場合には、制御装置400の動作は、ステップS034に進む。
なお、ここではセンサ310が配管300の内部の負圧を計測する場合を例示しているが、センサ310が配管300の内部の空気の流量を計測する構成としても良い。この場合には、ステップS033では、制御装置400は、空気の流量が所定の値を下回ったか否かを判定することになる。次にステップS034において、制御装置400は、第1の負圧発生源200aの運転を開始する。次にステップS035において、制御装置400は、弁700を閉じる。次にステップS036において、制御装置400は、第2の負圧発生源200bの運転を終了する。
以上のように、本実施の形態の把持システムは、異なる特性をもつ負圧発生源200a及び200bを組み合わせることで、多様な物品500に対する把持能力と、より大きな把持力とを両立させることが可能になる。本実施の形態の把持システムによれば、実施の形態1から5で述べた把持装置100をより効果的に活用することができる。