JP2018123419A - 低温用ニッケル含有鋼材およびそれを用いた低温用タンク - Google Patents

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Takayuki Kagaya
崇之 加賀谷
鹿島 和幸
Kazuyuki Kashima
和幸 鹿島
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Abstract

【課題】強度や母材靭性を損なうことなく、耐応力腐食割れ特性に優れた低温用ニッケル含有鋼材およびそれを用いた低温用タンクを提供する。
【解決手段】Siを多く添加した所定の成分を含有し、表層硬度とt/4硬度の比率が1.10以下とし、かつ表層から1.5mm位置の残留オーステナイトが3.0体積%以上であり、降伏強度が590MPa以上800MPa以下、引張強度が690MPa以上830MPa以下、−196℃でのJIS4号シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)の平均値が150J以上である低温用ニッケル含有鋼材およびそれを用いた低温用タンク。
【選択図】図1

Description

本発明は、液化ガスを保存するための材料に好適な、Ni含有量が8.00超〜9.50質量%の低温用ニッケル含有鋼材とそれを用いた低温用タンクに関する。
本発明は、液化天然ガス(沸点:−164℃、以下、LNGと称する)を貯槽するための貯槽タンクを主な用途とする。貯槽タンクに用いられる低温用ニッケル含有鋼材には、優れた低温靭性が求められる。このような鋼材として、たとえば上記の範囲のNiを含有する鋼(以下9%Ni鋼とよぶ)がある。
貯槽タンクに用いられる低温用ニッケル含有鋼材の従来技術としては、特許文献1,2に板厚40mm以上のNi含有が9質量%クラスの鋼が開示されている。特許文献1ではSiの低減と同時にMoを適量添加することでHAZ特性を改善しており、特許文献2では、Si含有量の低減、適正な累積圧下率制御により安定な残留オーステナイトの析出を得、低温靱性の向上を図るものである。
特許文献3にはNiを多く含有し、高い強度と靭性、さらに海水などに対する耐応力腐食割れ性とが要求される鋼材については11.0超〜13.0%のNiを含有する鋼材が提案されている。
これまでに、陸上LNGタンク用途には9%Ni鋼が幅広く使用されてきているが、舶用としての使用実績はほとんどないのが現状である。
特開平04-371520号公報 特開平06-184630号公報 特開平09-137253号公報
舶用としての9%Ni鋼の使用実績がほとんどない原因の一つとして、塩化物環境における応力腐食割れがある。舶用LNGタンクにおいては、就航からおよそ25年経過した船舶において9%Ni鋼製タンクに割れが発生した事例が過去にあり、現状はアルミ合金やステンレス鋼が主として使用されている。今後極低温用のNi鋼を船舶用に用いるためには応力腐食割れ対策が重要な課題となっている。過去に9%Ni鋼製のタンクに応力腐食割れが発生した事例については、既に調査レポートが公表されており、タンクにおける応力腐食割れの発生原因としては、(1)設備トラブルによりタンク内が結露した、(2)割れが発生した溶接熱影響部(HAZ)では硬度が420Hv程度と高かった、との記載があり、水素による割れであるとの見解が述べられている。しかしながら、腐食生成物にS(硫黄)分の痕跡がみとめられないことから、硫化水素の影響とする根拠もないとの記載もある。このように、実際に発生した応力腐食割れの原因については不明な点が多い。
本発明では、強度や母材靭性を損なうことなく、耐応力腐食割れ特性に優れた低温用ニッケル含有鋼材およびそれを用いた低温用タンクを提供するものである。
本発明者らは、舶用LNGタンクなどに使用できる低温用ニッケル含有鋼材について検討した。設計基準規格の関係で降伏強度、引張強度の規定値の範囲内で製造することから、常温での降伏強度が590MPa以上800MPa以下、引張強度が690MPa以上である鋼材を前提とした。
船舶LNGタンクの建造から運用までの工程を考慮し、腐食環境と作用する応力について整理し、応力腐食割れ発生の原因について検討した。その結果、実際に応力腐食割れが発生した事例については建造後約25年という長期間経過してから発生したものであること、また、船舶LNGタンクにおいては定期的(およそ5年に1回)な開放点検が実施される一方で、開放点検の無い陸上用のLNGタンクにおいてはこのような応力腐食割れの問題が無いことから、開放点検時に海から飛来する塩分の付着とタンク内の結露が原因であると考えることができる。そこで、溶接部の残留応力を模擬し応力を付加した試験により塩化物応力腐食割れを再現可能な試験方法を確立し、材料面での対策について検討した。その結果、以下(a)〜(b)に示す知見を見出した。
(a)表層硬度とt/4硬度の比率を1.10以下とした場合、塩化物応力腐食割れの発生が著しく抑制される。
(b)表面から1.5mm位置の残留オーステナイトを3.0体積%以上とした場合、塩化物応力腐食割れの進展が著しく抑制される。
本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.010〜0.150%、Si:0.60%を超え、2.00%以下、Mn:0.20〜2.00%、P:0.0100%以下、S:0.0100%以下、Ni:8.00%を超え9.50%以下、Al:0.005〜0.100%、N:0.0010〜0.0100%を含有し、残部Feおよび不純物からなり、表層硬度とt/4硬度の比率が1.10以下であり、かつ表層から1.5mm位置の残留オーステナイトが3.0体積%以上20.0体積%以下であり、降伏強度が590MPa以上800MPa以下、引張強度が690MPa以上830MPa以下、−196℃でのJIS4号シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)の平均値が150J以上であることを特徴とする低温用ニッケル含有鋼材。
(2)さらに質量%で、Cr:0.01〜2.00%、Mo:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、V:0.01〜1.00%、Nb:0.001〜0.100%、Ti:0.001〜0.100%のうち1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の低温用ニッケル含有鋼材。
(3)(1)または(2)に記載の低温用ニッケル含有鋼材を用いて製作されたことを特徴とする低温用タンク。
ここで、鋼材は、鋼板の他、鋼管、形鋼、棒線(棒鋼、線材)であってもよく、またその製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、圧延加工、鍛造加工、転造加工、押出し加工、引抜き加工、プレス加工等が例示される。鋼板の場合は、厚鋼板、熱延鋼板(ホットコイル)、冷延鋼板であってもよい。鋼板の板厚は50mm超(例えば80mm)であってもよい。鋼管の場合は、シームレス鋼管、溶接鋼管(電縫鋼管、UO鋼管など)であってもよい。形鋼は、H形鋼、I形鋼、T形鋼、山形鋼、溝形鋼、鋼矢板などであってもよい。また、tは鋼材の厚さであり、鋼板の場合には板厚、鋼管の場合には肉厚、棒線の場合は断面直径である。
本発明によれば、低温用タンクの開放点検時に飛来塩化物の管理ができなかった場合でも、またタンク内の湿度管理に不備がありタンク内が結露した場合でも、塩化物による応力腐食割れを防止することができ、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
応力腐食割れ感受性に及ぼす硬度比の影響を示すグラフである。 応力腐食割れ感受性に及ぼす残留オーステナイトの影響を示すグラフである。 塩化物応力腐食割れ試験方法を説明する図である。 応力腐食割れ感受性に及ぼす焼戻し昇温速度比下限の影響を説明する図である。 降伏応力に及ぼす焼戻し昇温速度比上限の影響を説明する図である。
本発明者らは、低温用鋼材の母材強度靭性を確保しつつ、耐塩化物応力腐食割れ性を確保させるために検討を行い、以下の(A)〜(B)の知見を得た。
以下に、本発明に係る低温用ニッケル含有鋼材について説明する。以下、各化学成分の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
(A)化学組成
C:0.010〜0.150%
Cは、強度確保のために必要な元素であり、残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。本発明ではC量を0.010%以上とする。また、C量が0.010%未満であると、強度が低下し、残留オーステナイトの量が低下し耐応力腐食割れ性が低下することがある。好ましくはC量を0.030%以上とする。一方、C量が0.150%を超えると、引張強度が過大となり母材靭性低下が著しくなる。また表層硬度が上昇しやすくなり、耐応力腐食割れ性が低下する。したがって、C量の上限を0.150%以下とする。C量の好ましい上限は0.120%以下である。
Si:0.60%を超え、2. 00%以下
Siは、本発明において耐塩化物応力腐食割れ性を改善する重要な元素である。Siを多く含有することにより、腐食環境においてカチオン選択性を有する腐食生成物を形成する。その結果、割れが発生した場合、割れの先端への塩化物イオンの透過を抑制することで溶解を抑制し、割れの進展を著しく抑制する効果を有する。Siを0.60%を超えて含有させることにより効果が得られるため、Siの含有量を0.60%超とする。好ましくはSiの含有量を0.70%以上、より好ましくは0.80%以上とする。一方、Siの含有量が2. 00%を超えると効果が飽和するばかりでなく、靭性が著しく低下する。したがって、Siの含有量は2.00%以下とする。好ましくはSiの含有量を1.80%以下、より好ましくは1.50%以下とする。
Mn:0.20〜2.00%
Mnは、脱酸剤であり、また、焼入れ性を向上させ強度を確保するために必要な元素である。本発明では、母材の降伏、引張強度を確保するために、Mn量を0.20%以上とする。好ましくはMn量を0.30%以上、より好ましくは0.50%以上とする。一方、Mn量が2.00%を超えると、中心偏析に起因して板厚方向での母材特性が不均一になり、母材靭性が低下するのに加えて、鋼中の腐食の起点となるMnSを形成し、耐食性を低下させ、耐応力腐食割れ性が低下する。このため、Mn量の上限を2.00%以下とする。好ましくはMn量を1.50%以下とする。
P:0.0100%以下
Pは不純物であり、粒界に偏析して母材靭性を低下させるため、P量を0.0100%以下に制限する。好ましくはP量を0.0080%以下とする。P量は少ないほど好ましいため、下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.0010%以上を含有してもよい。
S:0.0100%以下
Sは不純物であり、鋼中の腐食の起点となるMnSを形成し、耐食性を低下させ、耐応力腐食割れ性が低下する。また中心偏析を助長したり、脆性破壊の起点となる延伸形状のMnSが生成し、母材靭性が低下する原因となることがあるため、S量を0.0100%以下に制限する。好ましくはS量を0.0050%以下とする。S量は少ないほど好ましいため、下限は特に規定しないが、製造コストの観点から、0.00010%以上を含有してもよい。
Ni:8.00%超9.50%以下
Niは低温用鋼として母材靭性を確保するために必要な最も基本的な元素であり、本発明ではNi量を8.00%超とする。好ましくはNi量を8.20%超、より好ましい範囲は8.40%超とする。Ni量が多いほど高い低温靭性が得られるが、コストが高くなるだけでなく塩化物環境下における耐食性が著しく高くなるが、耐食性が高いために局所的な腐食痕(局所ピット)を形成しやすく、局所ピット部での応力集中により塩化物応力腐食割れが発生しやすくなる。よってNi量の上限を9.50%以下とする。
Al:0.005〜0.100%
Alは脱酸剤であり、脱酸不足によるアルミナ等の介在物増加、母材靭性低下を防ぐためにAl量を0.005%以上とする。また、Alは、セメンタイトの生成を抑制する元素でもある。セメンタイトが抑制されることで、残留オーステナイト中の炭素濃度が上昇し残留オーステナイトが安定化する。その結果、残留オーステナイト量が増加することで耐応力腐食割れ性が向上する。好ましくはAl量を0.010%以上とする。一方、Al量が0.100%を超えると、介在物に起因して母材靱性が低下するため、上限を0.100%以下とする。好ましくはAl量を0.070%以下とする。
N:0.0010〜0.0100%以下
NはAlと結合し、AlNを形成することにより結晶粒を微細化させ、母材靭性を向上させる効果がある。この効果は0.001%以上含有させることにより得られるが、含有量が0.010%を超えると却って母材靭性が低下する原因となるため、0.010%以下に制限する。好ましい上限は0.008%である。
本発明の低温用ニッケル含有鋼材は、上記の成分のほか、残部がFeと不純物からなるものである。ここで、不純物とは、低温用鋼材を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
更に、必要に応じて、Cr、Mo、W、V、NbおよびTiの1種又は2種以上を含有してもよい。
Cr:0.01〜2.00%
Crは、強度を高める作用があるとともに、塩化物が存在する薄膜水環境において鋼材の耐食性を低下させて局所ピットの形成を抑制し、塩化物応力腐食割れの発生を抑制する作用を有する。Crを0.01%以上含有させることで効果が得られる。より好ましくはCr量を0.40%以上とする。含有量が2.00%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。Cr量の上限は2.00%以下が好ましい。より好ましくはCr量を1.20%以下とする。
Mo:0.01〜1.00%
Moは、強度を高める作用があるとともに、腐食環境において溶出したMoがモリブデン酸イオンを形成する。低温用Ni鋼の塩化物応力腐食割れは割れ先端での鋼材の溶解により割れが進展するが、モリブデン酸イオンがあることによりそのインヒビター作用により割れ先端での溶解が抑制され、割れ抵抗性が大幅に高くなる。Moを0.01%以上含有させることで効果が得られる。より好ましくはMo量を0.20%以上とする。Mo含有量が1.00%を超えると溶解抑制の効果が飽和するだけでなく靭性が著しく低下するため、Mo量を1.00%以下とすることが好ましい。より好ましくは、Mo量を0.50%以下とする。
W:0.01〜1.00%
WもMoと同様の作用を有する。腐食環境において腐食環境において溶出したWがタングステン酸イオンを形成することにより割れ先端での溶解を抑制し、耐塩化物応力腐食割れ性を向上させる。Wを0.01%以上含有させることで効果が得られる。より好ましくはW量を0.20%以上とする。含有量が1.00%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。したがって、W量の上限は1.00%以下とし、より好ましくは0.50%以下とする。
V:0.01〜1.00%
VもMoと同様の作用を有する。腐食環境において腐食環境において溶出したVがバナジン酸イオンを形成することにより割れ先端での溶解を抑制し、耐塩化物応力腐食割れ性を向上させる。 Vを0.01%以上含有させることで効果が得られる。より好ましくはV量を0.20%以上とする。含有量が1.00%を超えると効果が飽和するだけでなく靭性が低下する。したがって、V量の上限は1.00%とする。好ましくは0.50%以下とする。
Nb:0.001〜0.100%
Nbは、組織を微細化して強度や母材靭性を向上させることに加えて、大気中で形成される酸化被膜を強化することにより、応力腐食割れの発生を抑制する効果を有する元素であり、0.001%以上を含有させてもよい。より好ましくはNb量を0.030%以上とする。一方、Nbを過剰に添加すると粗大な炭化物や窒化物を形成し、母材靭性を低下させることがあるため、Nb量を0.100%以下とすることが好ましい。より好ましくはNb量を0.080%以下とする。
Ti:0.001〜0.100%
Tiは、脱酸に利用すると、Al、Ti、Mnからなる酸化物相を形成し、組織を微細化して強度や母材靭性を向上させる効果に加えて、鋼中のSと結合し硫化物を形成することにより腐食の起点となるMnSを著しく減少させ応力腐食割れの発生を抑制する効果を有する元素であり、0.001%以上のTiを含有させてもよい。より好ましくはTi量を0.010%以上とする。
一方、Ti量が0.100%を超えると、Ti酸化物やTi−Al酸化物が形成されて母材靭性が低下することがあるため、Ti量は0.100%以下が好ましい。より好ましくはTi量を0.080%以下とする。
(B)金属組織
B−1. 表層の硬度とt/4の部位における硬度の比率が1.10以下
硬度は塩化物応力腐食割れの発生と密接な関係にあり、硬度が高いほど割れが発生しやすい。また応力腐食割れは鋼材表面における現象であり、通常強度を評価するt/4での硬度よりも表層の硬度が重要である。表層硬度が高いと転位密度が高く応力腐食割れ発生が容易となる。具体的には表層硬度とt/4硬度の比率が1.10以下とした場合、鋼材強度を確保しつつ塩化物応力腐食割れ発生が抑制される。図1に残留オーステナイトを3.0%以上含む鋼材の応力腐食割れ発生に及ぼす硬度比の影響を示す。残留オーステナイトを3.0%含んでいても硬度比が1.10を超えると表層硬度が高くなり、応力腐食割れが発生する。表層硬度は表面から板厚方向に1.0mmの部位で測定する。
B−2. 表面から板厚方向に1.5mm位置の残留オーステナイトが3.0体積%以上
鋼中の残留オーステナイトは割れの進展を抑制し、耐塩化物応力腐食割れを著しく向上させる。残留オーステナイトはNiを多く含有するため、塩化物薄膜水環境における溶解が大幅に抑制される。応力腐食割れは鋼材表面で起こる現象であるため、鋼材表層の残留オーステナイト量が重要である。図2に表層とt/4の硬度比1.10以下を満たす鋼材の応力腐食割れ感受性に及ぼす残留オーステナイトの影響を示す。表層とt/4の硬度比が1.10以下であっても、残留オーステナイトが3.0体積%未満の場合、応力腐食割れ発生が容易となる。残留オーステナイト量が多いほど耐塩化物応力腐食割れ性が向上するが、多すぎると強度が低下するため必要な強度が確保できない。そのため、好ましくは残留オーステナイト量を20.0体積%以下とし、より好ましくは15体積%以下とする。残留オーステナイト量は、鋼材の表面から板厚方向に1.5mmの位置を観察面とする試験片(板厚方向1.5mm×幅方向25mm×長手圧延方向25mmとし、観察面は25mm角の面とする)を採取し、X線回折測定から積分強度法により測定する。
LNGタンクが巨大地震に対して十分な耐破壊特性を有するために上記の強度(降伏強度が590MPa以上800MPa以下、引張強度が690MPa以上830MPa以下)、靭性(−196℃でのJIS4号シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)の平均値が150J以上)が必要である。以上のような成分組成、金属組織を有する本発明の低温用ニッケル含有鋼材は、−60℃以下の低温領域、特に、−165℃以下の低温環境での靱性に優れ、さらには耐塩化物応力腐割れ性に優れLPGやLNGなどの液化ガスを低温域で貯蔵する用途にも好適である。
本発明の低温用ニッケル含有鋼材の製造方法の一例として、鋼材が鋼板である場合について以下に説明する。当該鋼板には、鋳造後、均質化熱処理を施す。その後、鋼片を再加熱し熱間圧延を施したのち、所定の温度で熱処理し製造することができる(工程1〜5)。以下、詳細に説明する。尚、熱間圧延に供する鋼片については、本発明の成分範囲であれば、格別にその鋳造条件を規定するものではなく、造塊−分塊スラブを鋼塊として用いてもよいし、連続鋳造スラブを用いてもよい。製造効率、歩留り及び省エネルギーの観点からは、連続鋳造スラブを用いることが好ましい。
均質化熱処理工程(工程1)
鋼片を分塊圧延前に均質化のため加熱する。1200〜1350℃で10hr.以上加熱することが好ましい。鋼片中の不純物元素が少なく、母材靭性が十分に確保できる場合には省略してもよい。
加熱工程(工程2)
鋼片を1000〜1250℃に加熱する。これにより組織粗大化を抑制しつつ圧延ロール負荷を低減させることができる。
圧延工程(工程3)
総圧下率50%以上で熱間圧延し、600〜850℃の仕上温度で熱間圧延を終了することが好ましい。これにより変形抵抗を抑制しつつ、変形帯を積極的に組織中に導入し、組織を微細化させることができる。
焼入処理工程(工程4)
仕上圧延後には冷却し焼入れを行う。好ましくは、熱間圧延後に3℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程、もしくは熱間圧延後に一旦150℃以下まで冷却してAc3点以上に再加熱してから、3℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する。これにより焼入組織を得ながら、粗大炭化物の生成を抑制し母材靭性が向上する。好ましくは5℃/sec以上の冷却速度であり、鋼板表面、裏面に水を噴射し冷却することが好ましい。
焼戻工程(工程5)
焼入後は焼戻を行う。好ましくは鋼板をAc1+80℃以下に加熱した後1℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する。これにより靭性が向上する。
表層とt/4との硬度差は、焼入熱処理の際、板厚方向で冷却速度が異なるために生じる。この理由は、表層の冷却速度が大きく、硬質組織が形成されるためである。そこで、焼入熱処理後の焼戻熱処理工程において表層とt/4の昇温速度比((表層の昇温速度)/(t/4の昇温速度))が1.3倍以上4.0倍以下となるようにすることで表層部はt/4に比べ早期に目標温度に到達でき、狙いの焼戻温度での保持時間がt/4に比べて長くすることができる。図4にその結果を示す。表層はt/4に比べ焼戻が進行し、表層硬度とt/4の硬度比が1.10以下となり、かつ表層の残留オーステナイトを3.0体積%以上20.0体積%以下とすることができる。表層とt/4の昇温速度比が1.3倍を下回ると表層の焼戻が十分に進まず耐応力腐食割れ性が低下する。表層とt/4の昇温速度比が4.0倍を超えると残留オーステナイトが増加し、要求される引張強度下限の690MPaを確保できなくなる。図5にその結果を示す。 このように、焼戻熱処理工程においてt/4に比べ表層の昇温速度を速くするには、例えば、熱処理炉の温度を精密に制御した熱処理、あるいは誘導加熱装置を使った熱処理を採用することができる。本プロセスは表層の組織特性のみを変化させるため、強度評価部位である板厚1/4位置での特性は低下することがない。このように、表層部の組織を制御することにより、必要な強度を確保しつつ耐塩化物応力腐食割れ性を著しく向上させることができる。
尚、前述の工程4と工程5の間で、Ac1〜Ac3点に加熱し、3℃/sec以上の冷却速度で200℃以下まで冷却してもよい。これにより靭性が向上する。但し工程5で十分な焼戻ができる場合は軟化し十分な母材靭性を確保できているため省略してもよい。
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。
表1に化学組成を示す42種類の鋼材を溶解し、表2に記載の製造方法にて圧延・熱処理を行い、板厚5〜80mmの鋼板を作製した。機械的特性を表3に示す。評価は降伏強度が590MPa未満もしくは800MPaを超える場合、引張強度が690MPa未満もしくは830MPaを超える場合を、−196℃でのJIS4号シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)の3本測定し、平均値が150J未満の場合を不合格とした。得られた鋼板の最表面より、幅10mm、長さ75mm、厚さ1.5mmの応力腐食割れ試験片を採取した。試験片を研磨紙600番まで研磨し、図3に示すような四点曲げ試験ジグにセットし590MPaの応力を付加した。なお、試験面は鋼板の表面側の面である。次に試験面に単位面積あたりの付着塩分量が5g/m2となるように塩化ナトリウム水溶液を塗布し、温度60℃、相対湿度80%RHの環境で腐食させた。試験期間は1000時間である。なお、この方法は、タンク内に塩が付着し鋼表面に薄膜水が形成される環境を模擬した塩化物応力腐食割れ試験である。試験片表面に水溶液を塗布し、試験期間高温高湿炉で保持した。試験後の試験片より腐食生成物を物理的手法および化学的手法により除去し、腐食部断面を顕微鏡観察することにより割れ有無の評価をおこなった。なお、ナイタールエッチングした500倍の光学顕微鏡写真(270μm×350μm)を20視野観察し、腐食による凹凸を考慮し、表面より50μm以上深さ方向に進展したものを割れ「あり」として不合格とした。
表1〜3で、本発明例に係る低温用ニッケル含有鋼板は、母材強度、靭性、耐応力腐食割れ性に優れており、低温材料として優れていることが分かる。
これに対して、本発明で規定する条件を満足しない比較例では、母材強度、靭性、耐応力腐食割れ性において目的とする特性が得られないことが分かる。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.010〜0.150%、Si:0.60%を超え、2.00%以下、Mn:0.20〜2.00%、P:0.0100%以下、S:0.0100%以下、Ni:8.00%を超え9.50%以下、Al:0.005〜0.100%、N:0.0010〜0.0100%を含有し、残部Feおよび不純物からなり、表層硬度とt/4硬度の比率が1.10以下であり、かつ表面から1.5mm位置の残留オーステナイトが3.0体積%以上20.0体積%以下であり、降伏強度が590MPa以上800MPa以下、引張強度が690MPa以上830MPa以下、−196℃でのJIS4号シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE−196)の平均値が150J以上であることを特徴とする低温用ニッケル含有鋼材。
  2. さらに質量%で、Cr:0.01〜2.00%、Mo:0.01〜1.00%、W:0.01〜1.00%、V:0.01〜1.00%、Nb:0.001〜0.1.00%、Ti:0.001〜0.100%のうち1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の低温用ニッケル含有鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の低温用ニッケル含有鋼材を用いて製作されたことを特徴とする低温用タンク。
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