JP2018116853A - 全固体電池用電極材料、及びそれを用いた全固体電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】 低い電位範囲で充放電でき、かつ全固体電池のサイクル特性を向上できる全固体電池用電極材料提供することを目的とする。【解決手段】上記課題を解決するために、本発明に係る全固体電池用電極材料は、潮解性を有するリチウムバナジウムモリブデン酸化物であって、CuΚα線を用いた粉末X線回折測定より得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=13.7°近傍の範囲に相対強度が最も高いピークを示し、回折角2θ=18.8°近傍のピーク強度に対する回折角2θ=13.7°近傍のピーク強度の比率が1.0よりも高いことを特徴とする。【選択図】図2

Description

本発明は、全固体電池用電極材料及びそれを用いた全固体電池に関する。
近年、安全性の観点から固体電解質を用いる全固体型電池の開発が進められている。全固体電池は、可燃性の有機溶媒を含まないため、安全装置を簡略化することができる。また、正極及び負極からなる一対の電極と、これら電極に挟まれる固体電解質層とからなる接合構造を直列に積層することが容易であるため、安定でありながら、高容量且つ高出力の電池を製造し得る技術として期待されている。
しかしながら、全固体電池は、電池反応を担う活物質粒子の粒子間や、活物質粒子と固体電解質粒子との間の接触抵抗が、電池の内部抵抗に大きく影響していることが知られている。特に、充放電の繰り返しに伴い、活物質の体積変化が生じることによって、活物質と固体電解質や導電剤等との接触性が低下し、内部抵抗の増大や容量の低下等が生じ易い傾向がある。したがって、充放電の繰り返しによる劣化を低減する技術が必要とされている。
特許文献1では、活物質層内の粒子間の接触性を改善し、サイクル特性を向上させるために、活物質層内に潮解性を有したリチウムバナジウム酸化物を充填した全固体電池が開示されている。
特許文献2には、活物質層内の粒子間の接触性が良好で放電容量が向上した全固体電池を得るために、固体電解質として、潮解性のリチウムバナジウム酸化物にMo(モリブデン)を添加した材料を用いた全固体電池が開示されている。
国際公開2015/068268号公報 国際公開2015/159331号公報
特許文献1では、活物質層内の空隙を低減し、活物質と固体電解質の接触面積を増大させ、充放電時に生じる粒子間の界面剥離の影響を低減することで充放電サイクル特性の向上を図っている。特許文献2では、潮解性のリチウムバナジウム酸化物にMoを加えることで、電極層内のイオン伝導性を高め、放電容量の向上を図っている。
しかし、特許文献1、2に開示されたリチウムバナジウム酸化物等は、負極に一般的に用いられる黒鉛やチタン酸リチウムよりも充放電電位が高く、負極に用いた場合に高い出力特性を得ることができない。
そこで、本発明は、低い電位範囲で充放電でき、かつ全固体電池のサイクル特性を向上できる全固体電池用電極材料を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための本発明に係る全固体電池用電極材料は、潮解性を有するリチウムバナジウムモリブデン酸化物であって、CuΚα線を用いたX線回折測定より得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=13.7°近傍の範囲に相対強度が最も高いピークを示し、回折角2θ=18.8°近傍のピーク強度に対する回折角2θ=13.7°近傍のピーク強度の比率が1.0よりも高いことを特徴とする。
本発明によれば低い電位範囲で充放電でき、かつ全固体電池のサイクル特性を向上できる全固体電池用電極材料提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
全固体電池の正極層、固体電解質層、負極層の構成の一例を模式的に示す断面図である。 実施例3、比較例1及び2に係る電極材料のX線回折パターンである。 実施例4及び比較例1に係る全固体電池の充放電曲線を示すグラフである。 実施例1〜4及び比較例1、3に係る全固体電池のX線回折測定における回折角2θ=18.8°のピーク強度に対する回折角2θ=13.7°のピーク強度の比率と充放電電位を示す図である。
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
<電極材料>
以下、本発明の一実施形態に係る電極材料について説明する。本明細書において、電極材料とは、電極活物質(正極活物質及び負極活物質)及び固体電解質である。
本発明の一実施形態に係る電極材料は、Li、V、O、及びMoを含むリチウムバナジウムモリブデン酸化物であって、潮解性を有する。潮解性を有するとは、大気中において常温域(0℃以上100℃以下)で潮解する性質を有していることを意味する。また、CuΚα線を用いたX線回折測定より得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=13.7°近傍に相対強度が最も高いピークを示す。ここで、近傍とは±1.0°の範囲と定義する。
潮解性を有するリチウムバナジウムモリブデン酸化物を正極層または負極層へ充填することにより、活物質の粒子間の間隙を低減し、電極層内の活物質密度及び活物質間の接触状態を向上できる。その結果、充放電サイクルに伴うLi膨張収縮への追従性が改善され、充放電サイクル特性を向上できる。また、高密度で充満した板状の構造を形成することが可能となる。電極を構成する活物質を薄膜状構造にすることで、活物質間は、単なる点接触ではなく、より広い面で接触するようにできる。薄膜状構造を有するとは、板状の物質が、層状に重ね合わさった構造を意味しており、板状の物質同士が一体化して、薄膜状になったものである。このような薄膜状構造を有することにより、電極層を構成する活物質の粒子間の間隙を低減し、高密度に充満した電極層形成することが可能となる。その結果、充放電サイクルを向上することが可能となる。
また、充放電サイクルにより活物質粒子と活物質粒子間、又は電極層と固体電解質層との界面が剥離しても、電極層を湿潤雰囲気下にすることにより電極材料を再度潮解させた後、過剰な水分を除去することで、剥離した界面を再構築することができる。剥離した界面を再構築することにより、内部抵抗が減少し、容量を回復できる。その結果、充放電サイクル特性を向上することが可能となる
また、回折角2θ=13.7°近傍に相対強度が最も高いピークを示すXRDパターンを有する電極材料は、他の電極材料に比べ充放電電位が低い。これを負極活物質に用いることにより、出力密度を向上できる。X線回折パターンについては、後述する実施例において具体的に説明する。
回折角2θ=18.8°近傍のピーク強度(I18.8)に対する回折角2θ=13.7°近傍のピーク強度(I13.7)の比率(I13.7/I18.8)は1.0よりも高いことが好ましく、6.0以上15以下であることがより好ましい。I13.7/I18.8>1.0とすることにより、さらに充放電電位を低下することができる。6.0≦I13.7/I18.8≦15とすることにより、充放電電位を2.0V以下とすることができる。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物のVに対するMoの含有量は、1mol%よりも高く50mol%未満であることが好ましく、1mol%よりも高く25mol%以下であることがより好ましく、5mol%以上25mol%以下であることがさらに好ましい。Vに対してMoを1mol%より多く含むことにより、充放電電位が下げられ、電池電圧を上げられることで出力密度を向上できる。Vに対するMoの量を50mol%未満とすることにより、高い容量維持率と負極に適した充放電電位を有する活物質材料を提供することができる。
Liに対するVとMoの合計の含有量は、30mol%以上70mol%以下が好ましく、40mol%以上60mol%以下がより好ましい。Liに対してVとMoの合計の含有量を30mol%以上とすることにより、Liがリチウムバナジウムモリブデン酸化物構造内に含まれ易くなり、酸化物表面又は近傍にLi含有物として析出することを抑制できる。Li含有物は充放電サイクル時の抵抗成分となり得るため、Li含有物の析出を抑制することによりサイクル特性の低下を抑制できる。また、Liに対してVとMoの合計の含有量を70mol%以下にすることにより、リチウムバナジウムモリブデン酸化物中のLi含有量を維持することができ、所望の充放電容量を得ることができる。また、Li量を維持することでリチウムバナジウムモリブデン酸化物の構造変化を抑制することができる。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物は、充放電サイクルにおける実効容量に対応して、バナジウムの価数変化を伴う。バナジウム価数は3≦V≦5の範囲で任意に変化する。バナジウムの価数を変化させることで、より多くのリチウムイオンを挿入脱離することが可能となり、大きな容量を得ることができる。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物の20℃におけるイオン伝導度は、1×10−8S/cm以上であることが好ましく、1×10−6S/cm以上であることがより好ましい。イオン伝導度が1×10−8S/cm以上であれば、リチウムバナジウムモリブデン酸化物間や固体電解質層との間のイオン伝導性を優位に向上させることができるため、電池における内部抵抗を良好に低減し、より高い放電容量を確保することが可能である。
また、リチウムバナジウムモリブデン酸化物は、電池反応により発生した電子の伝導性を有する。リチウムバナジウムモリブデン酸化物の20℃における電子伝導度は、1×10−8S/cm以上であることが好ましく、1×10−6S/cm以上であることがより好ましい。電子伝導度が1×10−8S/cm以上であれば、電極層の電子伝導性を優位に向上させることができる。その結果、全固体電池における内部抵抗を良好に低減し、より高い放電容量を確保することが可能である。
<電極材料の製造方法>
上記電極材料は、例えば、以下の方法により作製することができる。
原料である金属前駆体を混合した後、この混合物を高温下で、固相で反応させて電極用リチウムバナジウムモリブデン酸化物を調製する。金属前駆体としては、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、窒化物、および炭化物などが挙げられる。これらの前駆体は、それらの融点などの性質により使い分けることができる。
<全固体電池>
図1に、本発明の一実施形態に係る全固体電池の正極層、固体電解質、負極層の構成の一例を模式的に表す断面図を示す。本発明の一実施形態に係る全固体電池は、電極が主として活物質の集合により形成されるバルク型の全固体電池であることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る全固体電池は、正極活物質を含む正極層1と、負極活物質を含む負極層2と、前記正極層と前記負極層の間に配置され、固体電解質を含む固体電解質層3と、を備える全固体電池であって、正極層又は負極層が上記で説明したリチウムバナジウム酸化物を含む。
正極層1及び負極層2(以下、電極層という。)は、リチウムバナジウム酸化物の他に、活物質、固体電解質、導電材、結着材等を含んでいても良い。
電極層に含まれるリチウムバナジウムモリブデン酸化物の含有量は、電極層内のすべての物質(活物質、固体電解質、導電助剤、結着材等)の乾燥総重量に対して、10重量部以上100重量部以下であることが好ましい。リチウムバナジウムモリブデン酸化物の乾燥重量を10重量部以上100重量部以下することにより充放電サイクル特性が高く、良好な体積エネルギ密度と高い放電容量とを有する全固体電池を製造することができる。なお、電極層に含まれるリチウムバナジウムモリブデン酸化物の最適量は、電極層に含まれる他の材料の種類、粒子径によって異なる。粒子径の大きい材料ほど、材料間の空隙が増える。そのため、電極層に粒子径の大きい材料を用いる場合は、リチウムバナジウムモリブデン酸化物の含有量を多くすると良い。なお、複数の粒子径の材料を電極層に用いた場合等は、この限りでない。
製造された全固体電池の電極層は通常、水分とは隔離された環境にある。そのため、全固体電池内のリチウムバナジウムモリブデン酸化物は、潮解した状態ではなく、結晶もしくは非結晶として析出して電子伝導性およびイオン伝導性が良好に確保されている。
製造された全固体電池の電極層は、リチウムバナジウムモリブデン酸化物が緻密に充填されていることで充放電サイクル特性を向上できる。その際の電極層密度は、リチウムバナジウムモリブデン酸化物の真密度に対して、0.1よりも大きく1.0以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。電極層密度が真密度に対して0.1よりも大きいと、電極層に占めるリチウムバナジウムモリブデン酸化物の効果を十分に得ることができ、電極層内で良好な接触状態を得られる。その結果、充放電サイクル特性を向上できる。電極層密度が真密度に対して1.0以下とすると、電極層内の応力が過大になることを抑制できる。その結果、電極材料の割れや、剥離により内部抵抗の増大、およびサイクル特性の低下を抑制できる。
正極層1及び負極層2に用いられる固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物等の酸化物系固体電解質や、硫化物系固体電解質、βアルミナ等が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LiaLa1−aTiO等のように表されるLi−La−Ti系ペロブスカイト型酸化物、LiLa1−bTaO等のように表されるLi−La−Ta系ペロブスカイト型酸化物、LiLa1−cNbO等のように表されるLi−La−Nb系ペロブスカイト型酸化物等が挙げられる(前記式中、0<a<1、0<b<1、0<c<1である。)。NASICON型酸化物としては、例えば、Li1+lAlTi2−l(PO等に代表される結晶を主晶とするLi(前記式中、Xは、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Sb及びSeからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Yは、Ti、Zr、Ge、In、Ga、Sn及びAlからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、0≦l≦1、m、n、o、p及びqは、任意の正数である。)で表される酸化物等が挙げられる。LISICON型酸化物としては、例えば、LiXO−LiYO(前記式中、Xは、Si、Ge、及びTiから選択される少なくとも1種の元素であり、Yは、P、As及びVから選択される少なくとも1種の元素である。)で表される酸化物等が挙げられる。ガーネット型酸化物としては、例えば、LiLaZr12等に代表されるLi−La−Zr系酸化物等が挙げられる。
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS−P、LiS−SiS、Li3.250.25Ge0.76、Li4−rGe1−r(式中、0≦r≦1である。)、Li11、LiS−SiS−LiPO等が挙げられる。硫化物系固体電解質は、結晶性硫化物、非晶性硫化物のいずれであってもよい。なお、これらの固体電解質は、結晶構造が同等である限り、元素の一部が他の元素に置換されたものでもよく、元素組成比が異なるものでもよい。また、これらの固体電解質は、一種を単独で用いてよく、複数種を用いてもよい。
正極層に用いられる正極活物質としては、キャリアがリチウムイオンである場合には、例えば、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)等のオリビン型や、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、二酸化マンガン(III)リチウム(LiMnO)、LiNiCoMnのように表わされる(式中、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1である。)三元系酸化物等の層状型や、マンガン酸リチウム(LiMn)等のスピネル型や、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO)等のポリアニオン型等のリチウム遷移金属化合物を用いることができる。また、キャリアがナトリウムイオンである場合には、例えば、酸化鉄ナトリウム(NaFeO)、コバルト酸ナトリウム(NaCoO)、ニッケル酸ナトリウム(NaNiO)、二酸化マンガン(III)ナトリウム(NaMnO)、リン酸バナジウムナトリウム(Na(PO)、フッ素化リン酸バナジウムナトリウム(Na(PO)等を用いることができる。また、その他、銅シェブレル相化合物(CuMo)、硫化鉄(FeS,FeS)、硫化コバルト(CoS)、硫化ニッケル(NiS,Ni)、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)等のカルコゲン化合物や、TiO、バナジウム、CuO、MnO等の金属酸化物や、CCuFeN等を用いることができる。
負極層に用いられる負極活物質としては、キャリアがリチウムイオンである場合には、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)等のリチウム遷移金属酸化物を用いることができる。また、その他、TiSi、LaNiSn等の合金や、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラファイト等の炭素材料や、リチウム、インジウム、アルミニウム、スズ、ケイ素等の単体若しくはこれらを含む合金等を用いることができる。
電極層に用いられる導電剤としては、例えば、天然黒鉛粒子や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックや、カーボンファイバや、ニッケル、銅、銀、金、白金等の金属粒子又はこれらの合金粒子等が挙げられる。なお、これらの導電剤は、一種を単独で用いてよく、複数種を用いてもよい。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PバナジウムDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられる。結着剤には、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム等の増粘剤を併用してもよい。なお、これらの結着剤や増粘剤は、一種を単独で用いてよく、複数種を用いてもよい。
また、正極層及び負極層は、集電体等の基材上に積層されて電極を構成するものとしてもよい。積層される電極層の厚さは、全固体電池が備える電極層の構成に応じて適宜の調整することができるが、例えば、0.1μm以上1000μm以下とすることが好ましい。正極層2に用いられる集電体としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、ニッケル、チタン、カーボン等の基板、箔等が挙げられる。また、負極層に用いられる集電体としては、例えば、ステンレス鋼、銅、ニッケル、カーボン等の基板、箔等が挙げられる。
固体電解質層3は固体電解質を含む。固体電解質としては、電池反応を担うキャリアであるリチウムイオンの伝導性を有し、一般的な全固体電池に使用される固体電解質を用いることができる。例えば、正極層及び負極層に用いられる固体電解質と同様の固体電解質を用いることができる。なお、固体電解質層に用いられる固体電解質は、電極層に用いられる固体電解質と同種であっても、異種であってもよい。
<全固体電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る全固体電池は、例えば以下の方法で作製することができる。電極合剤を調製する電極合剤調製工程、電極合剤を成形、電極層を製造する電極製造工程、電極層と固体電解質層とを接合する接合工程、作製した電極を電池筐体に組み込む組込工程を備える。
電極合剤調製工程では、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を潮解させ、液化させた後、液化したリチウムバナジウムモリブデン酸化物とその他の電極材料とを混合することで電極合剤(正極合剤、または負極合剤)を調製する。リチウムバナジウムモリブデン酸化物の潮解は、大気中において常温域で水と反応させればよい。リチウムバナジウムモリブデン酸化物と水とを反応させることによって、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を実質的に完全に溶解させ、電極材料と混合させることができる。リチウムバナジウムモリブデン酸化物を潮解させることによって、薄膜状構造を形成するのに適した流動性を得ることができる。
また、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を水に溶解した後、適当な有機溶媒を加えることで、リチウムバナジウムモリブデン酸化物とその他の電極材料との密着性を適宜改善し、密着性の良い電極層を形成することができる。有機溶媒としては、固体電解質や導電剤などの電極材料の種類に応じて、水、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物を潮解させた後、溶解しているリチウムバナジウムモリブデン酸化物に、例えば、活物質、固体電解質、導電剤等の他の材料を加え、これらを混合して均質化することによって電極合剤を調製する。混合する潮解性材料の乾燥重量は、電極層内の乾燥総重量に対して、10重量部以上100重量質量部以下とすることが好ましい。また、結着剤を溶媒と共に加えることができる。溶媒としては、導電剤や結着剤の種類に応じて、水、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。電極合剤を調製するための混合には、例えば、ホモミキサ、ディスパーミキサ、プラネタリーミキサ、自転・公転ミキサ等の高粘度用の混合手段を用いることができる。
電極製造工程では、調製された電極合剤を成形、熱処理して電極層を製造する。熱処理は、空気等の活性ガス雰囲気及び窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気のいずれにおいて行ってもよい。また、使用するガス種は、1種単独であっても、2種以上の組合せであってもよい。電極合剤を熱処理することによって、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を溶解している水分もしくは有機溶媒が蒸発し、リチウムバナジウムモリブデン酸化物中のLi、V、O、Moが再結晶化の際に構造が再構成され、低い充放電電位を有したリチウムバナジウムモリブデン酸化物が形成される。さらに、薄膜状に析出した緻密な構造を形成することができる。そのため、リチウムバナジウムモリブデン酸化物間の接触性が良好になる。
熱処理における加熱温度は、電極合剤の組成に応じて適宜の温度とすることができるが、好ましくは15℃以上650℃以下であり、より好ましくは100℃以上300℃以下である。リチウムバナジウムモリブデン酸化物を用いた場合、加熱温度が15℃以上であれば、リチウムバナジウムモリブデン酸化物が含有する水分を大気中において良好に蒸発させて乾燥除去することができる。また、加熱温度が650℃以下であれば、リチウムバナジウムモリブデン酸化物とその他の電極材料とが固相反応するのを避けることができるため、イオン伝導性が低い異相の生成、および薄膜状構造の崩壊が防止され、内部抵抗の増大、および充放電サイクル特性の低下を抑止することができる。特に、加熱温度が100℃以上300℃以下であれば、内部抵抗の増大を避けつつ、リチウムバナジウムモリブデン酸化物が含有する水分を十分に排除することで、高充放電サイクル特性を示す電極層を形成することができる。
電極合剤は、成形して電極層とする。成形する形状としては、全固体電池の形態に応じて適宜の形状とすることができ、例えば、矩形板状又は円板状等とすることができる。成形に際しては、例えば、5MPa以上200MPa以下程度の加圧成形を行うことができるが、粒界が生じるため電極合剤の解砕を伴わないことが好ましい。なお、集電体と接合させることにより全固体電池用電極を作製してもよい。集電体と接合させる場合には、電極合剤を集電体上に塗工した後に熱処理に供したり、熱電極と集電体とを融着させることで全固体電池用電極を製造することができる。電極合剤の塗工には、例えば、ロールコーター、バーコーター、ドクターブレード等の湿式塗布手段を用いることができる。
接合工程では、製造された電極層を、電極層の間に固体電解質層が配置するように、対となる他方の電極層と接合する。すなわち、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を含む正極層を製造した場合には、この正極層を、正極層と負極層の間に固体電解質層が介在するような配置で、また、リチウムバナジウムモリブデン酸化物を含む負極層を製造した場合には、この負極層を、負極層と正極層との間に固体電解質層が介在するような配置で、固体電解質層の一面と加圧圧着させて接合する。あるいは、正極層と負極層の両方にリチウムバナジウムモリブデン酸化物を含む場合には、正極層及び負極層の間に固体電解質層を挟む配置で、固体電解質層の一面を正極層と、他面を負極層と加圧圧着させて接合する。電極層と固体電解質層が接合された電極接合体には、必要に応じて全固体電池から電力を取り出すための出力端子を接続する。出力端子は、例えば、耐電圧性を有するアルミニウム製等とし、集電体等に溶接させて設ければよい。
組込工程では、製造された電極接合体に絶縁材を介装し、外装体に封入することで全固体電池とする。
このようにして製造される全固体電池は、電極や活物質の構成を適宜選択することにより、不可逆的に放電を行う全固体一次電池とすることや、可逆的に充放電を行うことが可能な全固体二次電池とすることができる。特に、全固体二次電池は、家庭用又は産業用電気機器や、携帯型情報通信機器や、蓄電システムや、船舶、鉄道、航空機、ハイブリッド自動車、電気自動車等の電源等として有用である。また、全固体電池の構造は解体により目視で確認でき、電極や固体電解質層の組成や構造は、電子顕微鏡や、X線光電子分光法や、誘導結合プラズマ発光分光分析や、蛍光X線分析や、X線回折分析によって確認することができる。
次に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物を作製した。これを正極活物質として用いた全固体電池を製造した。
<電極材料の作製>
1.85gの炭酸リチウム(LiCO)、と4.32gの五酸化二バナジウム(V)、と0.36gの三酸化モリブデンを乳鉢に投入し、均一になるまで混合した。得られた混合物を、白金るつぼに入れ替え、ボックス型電気炉で熱処理した。熱処理は、大気雰囲気において、10℃/分の昇温速度で650℃まで昇温させた後、650℃で10時間保持する条件とした。熱処理後、混合物を100℃まで冷却することにより潮解性を有したリチウムバナジウムモリブデン酸化物を得た。
<全固体電池の作製>
得られたリチウムバナジウムモリブデン酸化物2.0gを、純水2.0gに溶解し、N−メチルピロリドン3.0gを加えてリチウムバナジウムモリブデン酸化物溶液を調整した。調整したリチウムバナジウムモリブデン酸化物溶液0.8gと導電剤であるケッチェンブラックカーボン材料0.01gを乳鉢中で均一になるまで混合して電極合剤を調製した。得られた電極合剤を、アルミニウム箔の集電体上に塗工し、100℃、2時間の熱処理に供して溶媒を除去した後、10mmφの円板状に打ち抜くことで正極層を得た。
リチウム箔を、10mmφの円板状に打ち抜くことで負極層を作製した。固体電解質層2CにはPEO系の固体高分子膜を用いた。
正極層、固体電解質層、負極層の順に積層し電極接合体を作製した。電極接合体の正極側及び負極側の両末端を絶縁材料からなるセパレータで挟み、その外側からSUS製の外装体で挟んで、15N・mのトルクでかしめて実施例1に係る全固体電池を製造した。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物製造に用いる五酸化二バナジウムの量を4.09g、と三酸化モリブデンの量を0.72gにしたことを除いて実施例1と同様の手順で電極材料を作製し、全固体電池を製造した。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物製造に用いる五酸化二バナジウムの量を3.86g、と三酸化モリブデンの量を1.08gにしたことを除いて実施例1と同様の手順で電極材料を作製し、全固体電池を製造した。
リチウムバナジウムモリブデン酸化物製造に用いる五酸化二バナジウムの量を3.64g、と三酸化モリブデンの量を1.44gにしたことを除いて実施例1と同様の手順で電極材料を作製し、全固体電池を製造した。
(比較例1)
五酸化二バナジウムの量を4.55gにし、三酸化モリブデンを加えなかったことを除いて実施例1と同様の手順で電極材料を作製し、全固体電池を製造した。
(比較例2)
特許文献2で開示されている電極材料を用いて全固体電池を作製した。はじめに、1.84gの炭酸リチウム(LiCO)と4.32gの五酸化二バナジウムと0.36gの三酸化モリブデンを秤量して乳鉢に投入し、均一になるまで混合した。次いで、得られた混合物を、白金ボートに入れ替え、管状電気炉で熱処理した。なお、この熱処理は、水素雰囲気において、10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温させた後、800℃で3時間保持する処理とした。2段目の焼成として、大気雰囲気において、10℃/分の昇温速度で450℃まで昇温させた後、450℃で1時間保持する処理とした。そして、熱処理の後、混合物を100℃まで冷却し、混合固体電解質を得た。
得られた混合電解質2.0gを、純水2.0gに溶解し、N−メチルピロリドン3.0gを加えて混合電解質溶液を調整した。得られた混合固体電解質溶液を、電極層に含まれる固体電解質、結着材、正極活物質の乾燥総重量の30質量%となるように秤量し、活物質であるLiCoO粒子を加え、均一になるまで混合して電極合剤を調製した。続いて、得られた電極合剤を、アルミニウム箔の集電体上に塗工し、100℃、2時間の熱処理に供して水分を除去した後、断面積1cm2の円板状に打ち抜くことで正極層を得た。
負極層、固体電解質層を実施例1と同様の手順で製造し、実施例1と同様の方法で全固体電池を製造した。
(比較例3)
リチウムバナジウムモリブデン酸化物製造に用いる五酸化二バナジウムの量を4.50g、と三酸化モリブデンの量を0.07gにしたことを除いて実施例1と同様の手順で電極材料を作製し、全固体電池を製造した。
(比較例4)
正極活物質としてチタン酸リチウムを用いて全固体電池を作製した。
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を電極層に含まれる固体電解質、正極活物質、結着材、導電剤の合計重量に対して30質量%となるように秤量し、活物質としてチタン酸リチウム粒子を加え、さらに導電剤であるケッチェンブラックカーボン材料0.01gを乳鉢中で均一になるまで混合して電極合剤ペーストを調製した。得られた電極合剤を、アルミニウム箔の集電体上に塗工し、100℃、2時間の熱処理に供して溶媒を除去した後、10mmφの円板状に打ち抜くことで正極層を得た。
リチウム箔を、10mmφの円板状に打ち抜くことで負極層を作製した。固体電解質層にはPEO系の固体高分子膜を用いた。正極層、固体電解質層、負極層の順に積層し電極接合体を作製した。電極接合体の正極側及び負極側の両末端を絶縁材料からなるセパレータで挟み、その外側からSUS製の外装体で挟んで、15N・mのトルクでかしめて全固体電池を製造した。
<X線回折測定>
実施例1〜4及び比較例1〜3に係る全固体電池で用いた正極層について、X線回折(以下、XRDという。)測定を行った。測定試料は円板状に打ち抜いた電極薄膜を用い、X線源としてCuΚα線、測定範囲2θ=10〜60°、測定ステップ幅0.02°、管電圧48kV、管電流20mA、測定雰囲気は大気とした。
比較例2については、以下の方法で作製された電極層についてXRD測定を行った。混合電解質2.0gを純水2.0gに溶解し、N−メチルピロリドン3.0gを加えて混合電解質溶液を調整した。調整した混合電解質溶液0.8gと導電剤であるケッチェンブラックカーボン材料0.01gを乳鉢中で均一になるまで混合して電極合剤ペーストを調製した。得られた電極合剤を、アルミニウム箔の集電体上に塗工し、100℃、2時間の熱処理に供して溶媒を除去した後、10mmφの円板状に打ち抜くことで結晶構造評価用の電極を得た。
<充放電試験>
実施例1〜4及び比較例1〜4の全固体電池について、充放電試験を行った。実施例1〜4、比較例1〜3の全固体電池については、充放電試験は次の条件で行った。25℃で、はじめに定電流で150mAhg−1または終電圧0Vまで放電し、開回路状態で1時間保持した後、定電流で150mAhg−1または終電圧4.25Vまで充電する充放電サイクルを繰り返し、初回の充電容量に対する10サイクル目の充電容量の割合を容量維持率とした。充放電曲線から充放電電位を算出した。なお、充放電電位は75mAhg−1のときの充電及び放電電位の平均値とした。
比較例4に係る全固体電池について、はじめに定電流で150mAhg−1または終電圧1.0Vまで放電し、開回路状態で1時間保持した後、定電流で150mAhg−1または終電圧2.0Vまで充電する充放電サイクルを繰り返し、初回の放電容量に対する10サイクル目の放電容量の割合を容量維持率とした。
表1に実施例1〜4及び比較例1〜4の充放電電位及び容量維持率を示す。
Figure 2018116853
実施例1〜4は充放電電位が2.4未満と低く、かつ容量維持率が80%以上と高かった。一方、比較例1は、容量維持率は100%と高いが、充放電電位が高かった。また、比較例2は、充放電電位が高く、容量維持率も低かった。さらに、一般的な負極活物質であるチタン酸リチウムを用いた比較例3の容量維持率は10%と低くかった。
図2に、実施例3及び比較例1、2に係る全固体電池の電極のX線回折パターンを示す。実施例3のX線回折パターンは、比較例1及び比較例2とは明らかに回折パターンが異なる。実施例3では2θ=13.7°付近のピークが相対的に最も高い強度を持っているのに対し、比較例1及び比較例2では2θ=18.8°付近に相対強度が最も高いピークを有することがわかる。この結果より、実施例3のリチウムバナジウムモリブデン酸化物は、リチウムバナジウム酸化物とは結晶構造が異なることが明らかとなった。また、実施例1、2、4においても実施例3と同様のX線回折パターンを示すことが確認された。
図3に実施例4及び比較例1に係る全固体電池の充放電曲線を示す。図3において、実線は、実施例4に係る全固体電池の充放電曲線、破線は比較例1に係る全固体電池の充放電曲線である。縦軸は電位(V:vs. Li/Li)、横軸はリチウムイオン二次電池の容量(Ah/kg)を表している。容量の増加に伴い、電位が上昇していく曲線は、充電過程を表している。一方、容量の増加に伴い、電位が低下していく曲線は、放電過程を表している。図3より、実施例4の充放電電位は1.7Vであり、比較例1の充放電電位2,4Vに比べ、0.7Vも低い充放電電位を有することが明らかとなった。
図4に、実施例1〜4、比較例1及び3に係る正極層のX線回折パターンにおける2θ=18.8°のピーク強度に対する2θ=13.7°のピーク強度の比率と充放電電位の関係を示す。ピーク強度の比率(I13.7/I18.8)が1.0以下である比較例1及び3は、充放電電位が2.4Vであるのに対し、1.0よりも高い実施例1〜4では充放電電位が低下することがわかった。特に、ピーク強度の比率(I13.7/I18.8)が6.0以上15以下である実施例2〜4では、充放電電位が2.0以下となった。
以上より、X線回折パターンにおける2θ=13.7°近傍に相対強度が最も高いピークを有し、ピーク強度の比率(I13.7/I18.8)が1.0よりも高いリチウムバナジウムモリブデン酸化物を用いることにより、充放電電位が低く、かつ全固体電池のサイクル特性を向上できることが明らかになった。
1正極層、2…負極層、3…固体電解質層

Claims (5)

  1. 潮解性を有するリチウムバナジウムモリブデン酸化物であって、
    CuΚα線を用いたX線回折測定より得られるX線回折パターンにおいて、回折角2θ=13.7°近傍の範囲に相対強度が最も高いピークを示し、回折角2θ=18.8°近傍のピーク強度に対する回折角2θ=13.7°近傍のピーク強度の比率が1.0よりも高いことを特徴とする全固体電池用電極材料。
  2. 請求項1に記載の全固体電池用電極材料であって、
    前記リチウムバナジウムモリブデン酸化物中のバナジウムに対するモリブデンの含有量は、1mol%よりも高く25mol%以下であることを特徴とする全固体電池用電極材料。
  3. 請求項1又は2に記載の全固体電池用電極材料であって、
    前記リチウムバナジウムモリブデン酸化物中のバナジウムに対するモリブデンの含有量は、5mol%以上25mol%以下であり、
    前記X線回折パターンにおいて、回折角2θ=18.8°近傍のピーク強度に対する回折角2θ=13.7°近傍のピーク強度の比率が6.0以上15以下であることを特徴とする全固体電池用電極材料。
  4. 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の全固体電池用電極材料であって、
    前記リチウムバナジウムモリブデン酸化物のバナジウムの価数は3以上5以下であることを特徴とする全固体電池用電極材料。
  5. 正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、前記正極層と前記負極層の間に配置され、固体電解質を含む固体電解質層と、を備える全固体電池であって、
    前記正極層又は前記負極層は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の全固体電池用電極材料を含むことを特徴とする全固体電池。
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