JP2018115389A - 厚鋼板および厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の厚鋼板の製造方法は、鋼に対して熱間圧延を行い、圧延材を得る第1の工程と、前記圧延材をAr3変態点超の温度から加速冷却する第2の工程と、前記圧延材の表面について、(Ac1変態点−50℃)以上Ac1変態点以下の第1の温度域を2.0℃/秒以上の平均昇温速度でAc1変態点超の第2の温度域まで加熱し、前記第2の温度域で1秒以上600秒以下保持する第3の工程と、を有する。
【選択図】なし
Description
上記のような知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
前記圧延材をAr3変態点超の温度から加速冷却する第2の工程と、
前記圧延材の表面について、(Ac1変態点−50℃)以上Ac1変態点以下の第1の温度域を2.0℃/秒以上の平均昇温速度でAc1変態点超の第2の温度域まで加熱し、前記第2の温度域で1秒以上600秒以下の間保持する第3の工程と、
を有する厚鋼板の製造方法。
(2) 前記第2の温度域は、Ac3変態点以下である、(1)に記載の厚鋼板の製造方法。
(3) 前記第3の工程における前記加熱は、誘導加熱により行われる、(1)または(2)に記載の厚鋼板の製造方法。
(4) 前記誘導加熱における印加周波数は、2kHz以上200kHz以下である、(3)に記載の厚鋼板の製造方法。
(5) さらに、前記第3の工程後、前記圧延材をAc1変態点未満の温度に加熱する第4の工程を有する、(1)〜(4)のいずれか一項に記載の厚鋼板の製造方法。
(6) 前記第2の工程において、前記圧延材を、5℃/秒以上60℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する、(1)〜(5)のいずれか一項に記載の厚鋼板の製造方法。
(7) 表面から0.1mm以上1.0mm以下の表層領域における表層フェライト面積分率に対する板厚中心から厚さ方向で−2.5mm〜2.5mmの中心領域における中心領域フェライト面積分率の比(中心領域フェライト面積分率/表層フェライト面積分率)が、0.10以下であり、
圧延方向および板厚方向の断面を観察した際に、前記表層領域において、フェライト組織の板厚方向長さに対する圧延方向長さの比(圧延方向長さ/板厚方向長さ)の平均値が、5.0以下であり、かつ
前記表層領域におけるビッカーズ硬度が、250Hv以下である、厚鋼板。
なお、本明細書において、別段の記載がない限り、「表層」とは、厚鋼板や圧延材等の鋼材の表面(あるいは裏面)から所定の板厚方向の深さ(例えば1.0mm深さ)までの部位をいう。また別段の記載がない限り、「内部領域」とは厚鋼板や圧延材等の鋼材の上記表層より板厚方向に深い位置にある部位、例えば鋼材の板厚方向1/4t〜3/4t(tは板厚を示す)の部位をいう。
本発明の厚鋼板の製造方法は、鋼(鋼塊または鋼片)に対して熱間圧延を行い、圧延材を得る第1の工程と、前記圧延材を加速冷却する第2の工程と、前記圧延材の表面について、(Ac1変態点−50℃)以上Ac1変態点以下の第1の温度域を2.0℃/秒以上の平均昇温速度でAc1変態点超の第2の温度域まで加熱し、第2の温度域で1秒以上600秒以下保持する第3の工程と、を有する。
本実施形態において用いることができる鋼は、例えば、鋳型に鋳造されたインゴット(鋼塊)や連続鋳造により得られた鋳片から必要な形状、寸法に加工された鋼片、すなわち公知の製造方法によって製造された鋼片を使用することができる。また、この鋼片の形状、寸法も、後述する各工程に供することができる範囲内で適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
C:0.02〜0.09%、
Si:0.01〜0.60%、
Mn:0.1〜2.0%、
sol.Al:0.005〜0.09%、
を含有し、さらに、
Cu:0.90%以下、
Ni:0.90%以下、
Cr:0.90%以下、
Mo:0.90%以下、
V:0.09%以下、
Nb:0.09%以下、
Ti:0.09%以下、
B:0.004%以下、
Ca:0.01%以下、
REM:0.1%以下、
Zr:0.1%以下、および
Mg:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物からなることができる。このような化学組成は、得られる厚鋼板において十分な強度、靭性、および耐サワー性を得るために有利である。
Cは、鋼の強度の向上に寄与する成分である。この効果を十分に得るために、Cの含有量は、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.04%以上である。一方、靱性および耐サワー性の劣化を防止する観点から、Cの含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.07%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
Siは、製鋼における脱酸元素として有効であるとともに、鋼の強度の向上に寄与する成分である。この効果を十分に得るために、Siの含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上である。一方、靱性の劣化を防止する観点から、Siの含有量は、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.40%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
Mnは、鋼の強度の向上に寄与する成分である。この効果を十分に得るために、Mnの含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは1.0%以上である。一方、靱性および耐サワー性の劣化を防止する観点から、Mnの含有量は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下である。
Alは、Siと同様に脱酸に有効な元素である。このため、sol.Al(酸可溶Al)として、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.02%以上含有される。一方、靱性の劣化を防止する観点から、sol.Alの含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.06%以下である。
Cuは、鋼の強度の向上に寄与する成分であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Cuを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.10%以上である。一方、靱性の劣化を防止する観点から、Cuの含有量は、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
Niは、鋼の強度の向上に寄与するとともに靱性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Niを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.10%以上である。一方、Niは高価な元素であるため、Niの含有量は、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
Crは、鋼の強度の向上に寄与する成分であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Crを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.10%以上である。一方、靱性の劣化を防止する観点から、Crの含有量は、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下である。
Moは、鋼の強度の向上に寄与する成分であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Moを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.05%以上である。一方、靱性の劣化を防止する観点から、Moの含有量は、好ましくは0.90%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Vは、鋼の強度の向上に寄与する成分であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Vを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.01%以上である。一方、靱性の劣化を防止する観点から、Vの含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.05%以下である。
Nbは、鋼の強度の向上に寄与するとともに靱性の改善に寄与する元素であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Nbを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.01%以上である。一方、耐サワー性の低下の防止の観点から、Nbの含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.06%以下、さらに好ましくは0.04%以下である。
Tiは、Nと結合してTiNを形成することで溶接熱影響部(HAZ)の靱性を改善する効果を有し、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Tiを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.01%以上である。一方、靱性および耐サワー性の低下の防止の観点から、Tiの含有量は、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.03%以下である。
Bは、焼き入れ性を改善して鋼の強度の向上に寄与する成分であり、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Bを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.0003%以上である。一方、靱性の低下の防止の観点から、Bの含有量は、好ましくは0.004%以下、より好ましくは0.002%以下である。
Caは、硫化物(特にMnS)の形態を制御し、靱性および耐サワー性の向上に寄与するため、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Caを含有させる場合の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.001%以上である。一方、過剰な添加による靱性および耐サワー性の低下の防止の観点から、Caの含有量は、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。
REMは、硫化物の形態を制御し、靱性の向上に寄与するため、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、REMを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.001%以上である。一方、過剰な添加による靱性の低下の防止の観点から、REMの含有量は、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下である。ここで、「REM」とは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuをいい、REMとして上記のいずれか1種以上が鋼に含有され得る。なお、上記のREMの含有量は、REM合計の含有量である。
Zrは、酸化物や窒化物を形成し、HAZのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、靱性の改善に寄与するため、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Zrを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.005%以上である。一方、過剰な添加による靱性の低下の防止の観点から、Zrの含有量は、好ましくは0.1%以下である。
Mgは、微細に分散した酸化物を形成し、特に溶接熱影響部のオーステナイト粒径の粗大化を抑制して靱性の改善に寄与する。したがって、Mgは、必要に応じて添加されてもよい。この効果を十分に得るために、Mgを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.0005%以上である。一方、過剰な添加による靱性への悪影響の防止の観点から、Mgの含有量は、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.005%以下である。
鋼中のFeは、鋼の主成分である。鋼は、例えば、95%以上のFeを含む。
Pは、不純物元素であり、その含有量が過度に多い場合、靱性を劣化させる恐れがある。したがって、Pの含有量は、少ない方が望ましく、例えば0.02%以下、好ましくは0.01%以下である。Pの含有量の下限については0%が望ましいが、例えば0.0001%以上としてもよい。
Sは、不純物元素であり、その含有量が過度に多い場合、靱性を劣化させる恐れがある。したがって、Sの含有量は、少ない方が望ましく、例えば0.01%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.002%以下、さらに好ましくは0.0010%以下である。Sの含有量の下限については0%が望ましいが、例えば0.0001%以上としてもよい。
Nは、不純物元素であり、その含有量が過度に多い場合、靱性を劣化させる恐れがある。したがって、Nの含有量は、少ない方が望ましく、例えば0.009%以下、好ましくは0.007%以下である。また、Nの含有量が0.004%以上の場合、TiやZrを含有させることにより、HAZの靱性が改善される場合がある。Nの含有量の下限については0%が望ましいが、例えば0.0001%以上としてもよい。
Oは、不純物元素であり、その含有量が過度に多い場合、靱性を劣化させる恐れがある。したがって、Oの含有量は、少ない方が望ましく、例えば0.003%以下、好ましくは0.002%以下である。Oの含有量の下限については0%が望ましいが、例えば0.0001%以上としてもよい。
CeqLは炭素当量を意味し、下記(1)式で定義される。Ceqは、特に限定されないが、CeqLを大きくすることは強度の向上に寄与するため、CeqLは0.10%以上とすることが望ましい。一方、CeqLが過剰であると溶接割れが起こりやすくなり、また靭性を劣化させる可能性もあるため、CeqLは0.60%以下とすることが望ましい。
CeqL=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
ここで、式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、ある元素が含有されない場合は当該元素に対応する元素記号の値をゼロとする。
第1の工程においては、鋼に対して熱間圧延を行い、圧延材を得る。熱間圧延は、例えば連続鋳造法による鋼片の製造後、そのまま行ってもよく、鋼片を一旦冷却し、再加熱してから行ってもよい。
例えば、圧延前の加熱温度は、熱間圧延を容易に行うために、900℃以上とすることができる。加熱温度を高くすることにより、Nb、V、Ti、Zr等の炭化物、窒化物などを固溶させて、強度、靱性や耐サワー性を改善する効果が得られる。加熱温度は、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上である。また、オーステナイト結晶粒の粗大化およびこれに伴う靱性の劣化をより確実に抑制するために、加熱温度は、好ましくは1250℃以下である。
合計圧下率(%)=[(900℃に達した時点の厚さ)−(圧延仕上厚さ)]/(900℃に達した時点の厚さ)×100%
次に、第2の工程においては、第1の工程において得られた圧延材をAr3変態点超の温度から加速冷却する。
上述したように、加速冷却の開始温度は、Ar3変態点超である。圧延材の板厚中央部には、変態の進行に伴って、凝固偏析に起因するバンド状の成分の濃度むらが生じやすいが、上記のような温度から加速冷却を行うことにより、フェライトバンド、パーライドバンド等のバンド組織の生成が抑制される。この結果、バンド組織中の硬質組織を低減させ、耐サワー性を向上させることができる。加速冷却の開始温度は、好ましくは(Ar3変態点+20℃)以上である。
なお、本工程における圧延材の温度は、当該圧延材の表面温度を観察することにより測定可能である。すなわち、加速冷却の開始温度は、表面温度を意味する。また、加速冷却の冷却停止温度は、復熱完了後の表面温度を意味する。
次に、第3の工程においては、圧延材の表面について、(Ac1変態点−50℃)以上Ac1変態点以下の第1の温度域を2.0℃/秒以上の平均昇温速度でAc1変態点超の第2の温度域まで加熱し、そのAc1変態点超の第2の温度域で1秒以上600秒以下の間保持する。
また、後者の場合、第3の工程の実施に先立ち、予備加熱を行ってもよい。予備加熱の方法は、特に限定されるものではなく、ガス燃焼による熱処理炉等により行うことができる。また、予備加熱は、上述した(Ac1変態点−50℃)以下の温度まで行うことができる。この場合の昇温速度も特に限定されるものではない。
得られた厚鋼板には、必要に応じて熱処理(テンパー処理)が行われてもよい。これにより、第3の工程において2相域への加熱と冷却に伴って、硬質組織である島状マルテンサイト(Martensite−Austenite Constituent:MA)が生成した場合であっても、本工程においてこれを分解することができる。このように耐サワー性に悪影響をもたらし得る島状マルテンサイトを分解することにより、得られる厚鋼板の耐サワー性をより一層優れたものとすることができる。
次に本実施形態に係る厚鋼板について説明する。
本実施形態に係る厚鋼板は、表層において、厚さ方向にて内部領域と比較して、所定のフェライト組織を豊富に含む。
また、上述した本実施形態に係る厚鋼板は、耐サワー性に優れ、また、優れた強度が維持できていることから、硫化水素を含む環境下における用途、例えばラインパイプ、特にUOラインパイプに好適に使用できる。すなわち、本実施形態に係る厚鋼板は、耐サワーラインパイプ用厚鋼板であることができる。
(第1の工程)
以下の表1に示す化学組成を有する厚さ250mmの鋼片(試験鋼)を1180℃に加熱し、3600秒の均熱保持後、熱間圧延によって仕上温度840℃で表2に示す板厚とした。ここで熱間圧延は900℃以下の温度域における合計圧下率が50%以上となる条件で行った。なお、表1中、昇温時の変態開始温度、終了温度であるAc1変態点、Ac3変態点、降温時(非水冷)の変態開始温度であるAr3変態点は、直径3mm、長さ10mmの試験片を鋼片から採取して、熱膨張測定試験機によって求めた。
各例に係る試験鋼について、表2に示す開始温度から停止温度460℃までの水冷による加速冷却を行った。ここで開始温度は表面温度であり、また停止温度は復熱時の表面温度の最大値を指す。また、加速冷却の冷却速度は、表2に示すとおりであった。なお、例18においては、その後の予備加熱および第3、第4の工程を行わず、加速冷却後の試験鋼を例18に係る厚鋼板として得た。
例10および例16の試験鋼については、第2の工程後、第3の工程に先立ち、第3の工程の加熱開始温度(表2)まで、ガス燃焼炉において予備加熱を行った。
各例に係る試験鋼について、表2に示す条件にて、誘導加熱、あるいは、レーザー光の照射による昇温を行った。具体的には、例1〜7、9〜17に係る試験鋼については表2に示す印加周波数による誘導加熱による昇温を行い、例8に係る試験鋼についてはレーザー光の照射による昇温を行った。そして、表2に記載される加熱開始温度から、昇温を行い、所定の表面温度に達した後、一定時間(表中「Ac1超保持時間」)その表面温度を維持した。また、表面温度がAc1変態点に達しない条件の例13においては、650℃に到達後、15秒間、同温度を維持した。なお、表2に記載される昇温条件の温度は、全て試験鋼の表面温度である。
また、昇温後の冷却は、空冷(常温の大気中に放置)により行った。
以上により、例9を除き、各例に係る厚鋼板を得た。
例9に係る試験鋼については、第3の工程後、表2に示す条件で、ガス燃焼炉において熱処理を追加で行った。これにより、例9に係る厚鋼板を得た。
得られた各厚鋼板において、フェライト分率比および異方性指数を下記の要領にて測定、算出した。
各例に係る厚鋼板の圧延方向中央付近かつ幅方向中央付近の位置から、組織調査用の試験片を採取した。採取した試料を、板厚方向と圧延方向に平行な面を観察面として鏡面研磨し、ナイタールで腐食して、光学顕微鏡を用いて、表層領域(表面から板厚方向0.1mm〜1.0mm位置)、及び中心領域(板厚中心から厚さ方向で−2.5mm〜2.5mm位置)にて、10視野ずつ撮影した。このようにして得られた写真から、表層領域、及び中心領域のフェライト分率(面積率)をそれぞれ求めて表層フェライト面積分率及び中心領域フェライト面積分率を得、フェライト分率比を算出した。
各厚鋼板について算出したフェライト分率比については、フェライト分率比が0.10以下の場合を「○」、0.10超の場合を「×」としてそれぞれ評価した。
上述のように各例に係る厚鋼板から採取した上記試料片について、板厚方向と圧延方向に平行な面を鏡面研磨し、ナイタールで腐食した観察試料を得た。観察試料を光学顕微鏡により観察し、観察試料の断面画像を得て、断面画像より個々のフェライト組織を特定した。そして、特定された個々のフェライト組織のうち、ランダムに20個について、圧延方向の長さと板厚方向の長さとを測定し、板厚方向の長さに対する圧延方向の長さの比を得た。なお、断面画像におけるフェライト面積率が50%以上の場合には、フェライト組織によって囲まれた他の組織(ベイナイト組織など)について、上述の長さの比を得た。そして、得られた板厚方向の長さに対する圧延方向の長さの比を平均して、上記異方性指数を得た。
各厚鋼板について得られた異方性指数については、異方性指数が5.0以下の場合を「○」、5.0超の場合を「×」としてそれぞれ評価した。
各例に係る厚鋼板の圧延方向中央付近かつ幅方向中央付近の位置から、断面硬度測定用の試験片を採取し、板厚方向と圧延方向を含む面における硬度分布を測定した。マイクロビッカース硬度試験機を使用して、測定荷重25gで、各例に係る厚鋼板の上面の板厚方向0.1mm深さから1mm深さまで0.1mmピッチで測定を行い、最大値を評価した。十分な耐SSC性を得るために、ビッカーズ硬度の目標値は、250Hv以下とした。
得られた各厚鋼板において、引張試験および耐SSC性の評価試験を下記の要領にて実施した。
各例に係る厚鋼板より、板状試験片を、試験片の中心が板厚方向1/2位置になるように、試験片の軸が圧延方向に対して垂直になるように採取した。試験片形状は、平行部の直径5mmの14A号試験片(JIS Z 2201)を用いて室温で行い、YS(0.5%ひずみにおける応力)、TS(引張強度)を測定した。ラインパイプのX65級の強度を満足させるために、YSの目標値は450MPa以上、TSの目標値は535MPa以上とした。
耐サワー性を評価する曲げ試験片(厚さ:2mm、幅:10mm、長さ:75mm)を、試験片が圧延材の表面になるように、かつ試験片の長辺が圧延方向に対して垂直になるように、各例に係る厚鋼板から3本ずつ採取した。これらの試験片に対して、降伏応力の90%の曲げ負荷応力をかけて、NaClが5%、CH3COOHが0.5%、pHが約3、1気圧の硫化水素を飽和させた常温の水溶液にて30日の浸漬を行い、破断の発生有無を評価した。3本共に破断が生じなかった場合は、耐SSC性が良好(○)と判断した。一方で、試験片の一本でも破断が生じた場合、耐SSCが良好でない(×)と判断した。
以上の結果を表3に合わせて示す。
例13に係る厚鋼板においては、表面温度をAc1変態点未満としたため、表層領域を十分に軟化できなかったことが推測された。
例15に係る厚鋼板においては、表面温度をAc1変態点以上とした後の保持時間が短すぎたため、表層の逆変態を十分に行うことができず、表層を十分に軟化できなかったことが推測された。
例17に係る厚鋼板においては、表面温度をAc1変態点以上とした後の保持時間が長すぎたため、試験鋼の内部領域まで熱が拡散して試験鋼の内部領域の温度が上昇してしまい、結果として引張強度が低下したことが推測された。
Claims (7)
- 鋼に対して熱間圧延を行い、圧延材を得る第1の工程と、
前記圧延材をAr3変態点超の温度から加速冷却する第2の工程と、
前記圧延材の表面について、(Ac1変態点−50℃)以上Ac1変態点以下の第1の温度域を2.0℃/秒以上の平均昇温速度でAc1変態点超の第2の温度域まで加熱し、前記第2の温度域で1秒以上600秒以下保持する第3の工程と、
を有する厚鋼板の製造方法。 - 前記第2の温度域は、Ac3変態点以下である、請求項1に記載の厚鋼板の製造方法。
- 前記第3の工程における前記加熱は、誘導加熱により行われる、請求項1または2に記載の厚鋼板の製造方法。
- 前記誘導加熱における印加周波数は、2kHz以上200kHz以下である、請求項3に記載の厚鋼板の製造方法。
- さらに、前記第3の工程後、前記圧延材をAc1変態点未満の温度に加熱する第4の工程を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の厚鋼板の製造方法。
- 前記第2の工程において、前記圧延材を、5℃/秒以上60℃/秒以下の平均冷却速度で冷却する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の厚鋼板の製造方法。
- 表面から0.1mm以上1.0mm以下の表層領域における表層フェライト面積分率に対する板厚中心から厚さ方向で−2.5mm〜2.5mmの中心領域における中心領域フェライト面積分率の比(中心領域フェライト面積分率/表層フェライト面積分率)が、0.10以下であり、
圧延方向および板厚方向の断面を観察した際に、前記表層領域において、フェライト組織の板厚方向長さに対する圧延方向長さの比(圧延方向長さ/板厚方向長さ)の平均値が、5.0以下であり、かつ
前記表層領域におけるビッカーズ硬度が、250Hv以下である、厚鋼板。
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