本発明のフッ素化グラファイト微粒子集合体は、積層構造を有するグラファイト微粒子をフッ素化させてなるフッ素化グラファイト微粒子集合体であり、前記フッ素化グラファイト微粒子の積層面間隔が0.3〜1.1nmであり、前記フッ素化グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さが1.5〜10nmであることを特徴とする。
本発明のフッ素化グラファイト微粒子集合体は、例えば、積層面間隔が0.2〜1nmであり、積層方向に対して垂直の方向における長さが1.5〜10nmであるグラファイト微粒子の集合体をフッ素ガス雰囲気中で100℃以下の温度でフッ素化させることによって得ることができる。
積層面間隔が0.2〜1nmであり、積層方向に対して垂直の方向における長さが1.5〜10nmであるグラファイト微粒子の集合体は、例えば、爆轟法によって調製することができる。
グラファイト微粒子の集合体を爆轟法によって調製する場合、当該グラファイト微粒子の集合体の原料が爆轟によって原子レベルにまで分解されて遊離した炭素原子が凝集することにより、グラファイト微粒子の集合体が得られるものと考えられる。前記原料は、爆轟の際に高温高圧となるが、ただちに膨張して冷却されることから、生成したナノスケール(ナノメートルオーダー)の粒子が成長しがたいため、グラファイト微粒子の集合体が得られるものと考えられる。
以下に、グラファイト微粒子の集合体を爆轟法によって調製する場合について説明する。グラファイト微粒子の集合体を爆轟法によって調製する方法としては、例えば、
(1)ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Aの周囲に爆速が6300m/s以上である爆発性物質Aを配置し、爆発性物質Aを爆轟させる方法(以下、方法Iという)、
(2)ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Bの周囲に常温常圧で液体である爆発性物質Bを配置し、爆発性物質Bを爆轟させる方法(以下、方法IIという)
などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
〔方法I〕
方法Iでは、ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Aの周囲に爆速が6300m/秒以上である爆発性物質Aを配置する。なお、爆速とは、爆轟の伝搬速度を意味する。
ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセンなどのニトロ基を有しない芳香族炭化水素化合物、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロキシレン、ニトロナフタレン、ニトロアントラセンなどのニトロ基1個を有する芳香族炭化水素化合物、ジニトロベンゼン、ジニトロトルエン、ジニトロキシレン、ジニトロナフタレン、ジニトロアントラセンなどのニトロ基2個を有する芳香族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物のなかでは、入手が容易であり、融点が低く、成形が容易であることから、ジニトロトルエン、ジニトロベンゼンおよびジニトロキシレンが好ましい。なお、前記芳香族炭化水素化合物は、ニトロ基以外の置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、アルキル基、水酸基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
原料Aは、ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物のみで構成されていてもよく、当該原料Aには本発明の目的を阻害しない範囲内で他の化合物が含まれていてもよい。
爆速が6300m/秒以上である爆発性物質Aは、原料Aからグラファイト微粒子を生成させるために爆轟を安定して起こさせる物質である。爆発性物質Aの爆速は、原料Aからグラファイト微粒子を効率よく生成させる観点から、6300m/秒以上であるが、6300〜10000m/秒であることが好ましい。爆発性物質Aとしては、例えば、トリニトロトルエン、シクロトリメチレントリニトロアミン、シクロテトラメチレンテトラニトラミン、四硝酸ペンタエリスリトール、トリニトロフェニルメチルニトロアミン(テトリル)、ヒドラジンと硝酸ヒドラジンとの混合物、ヒドラジンと硝酸アンモニウムとの混合物、ヒドラジンと硝酸ヒドラジンと硝酸アンモニウムとの混合物、ヒドラジンとニトロメタンとの混合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの爆発性物質Aは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
原料Aと爆発性物質Aとの質量比(原料A/爆発性物質A)の値は、グラファイト微粒子の集合体を効率よく生成させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、生産コストを低減させる観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。
ニトロ基を有しないか、または1個または2個有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Aの周囲に爆速が6300m/s以上である爆発性物質Aを配置し、爆発性物質Aを爆轟させる際には、例えば、図1に示される爆発装置を用いることができる。なお、図1は、グラファイト微粒子の集合体を爆轟法によって調製する際に用いられる爆発装置の一実施態様を示す概略断面図である。
まず、図1に示されるように、原料A1の周囲に爆発性物質A2を配置する。原料A1の周囲に爆発性物質A2を配置する際には、爆発性物質A2の爆轟によって生じる衝撃波に伴う高温高圧が原料A1に均一に加わるように、原料A1と爆発性物質A2とを配置することが好ましい。したがって、原料A1および爆発性物質A2がいずれも固体である場合には、例えば、原料A1および爆発性物質A2を円筒形状の爆発容器3内に充填し、同心円柱状の成形体を成形することにより、原料A1と爆発性物質A2とが対称的に配置された成形体を有する爆発容器3を作製することができる。また、原料A1が固体であり、爆発性物質A2が液体である場合には、例えば、原料A1を円筒形状の成形型内に充填し、円柱状の成形体を成形し、得られた成形体の直径よりも内径が大きい円筒形状の爆発容器3を用意し、当該成形体の中心軸と当該爆発容器3の中心軸とを一致させて設置した後、当該成形体と当該爆発容器3との間隙に液体の爆発性物質A2を注入することにより、原料A1と爆発性物質A2とが対称的に配置された爆発容器3を作製することができる。また、原料A1が液体であり、爆発性物質A2が固体である場合には、例えば、爆発性物質A2を円筒形状の成形型内に充填し、円柱状の成形体を成形し、得られた成形体の直径よりも内径が大きい円筒形状の爆発容器3を用意し、当該成形体の中心軸と当該爆発容器3の中心軸とを一致させて設置した後、当該成形体と当該爆発容器3との間隙に液体の原料A1を注入するにより、原料A1と爆発性物質A2とが対称的に配置された爆発容器3を作製することができる。爆発容器3は、金属などの不純物が混入することを防止する観点から、例えば、ポリエステル、アクリル樹脂などの樹脂製容器であることが好ましい。
次に、爆発性物質A2を爆轟させることにより、原料A1からグラファイト微粒子の集合体を生成させる。このとき、爆発性物質A1の爆轟によって生じる衝撃波が原料A1に向かって伝搬し、この衝撃波によって原料A1が圧縮されて爆轟し、原料A1が分解し、グラファイト微粒子の集合体が生成する。
爆轟は、開放系および閉鎖系のいずれでも行なうことができるが、飛散物の拡散を防止する観点から、密閉系で爆轟を行なうことが好ましい。開放系で爆轟を行なう場合には、例えば、安全な坑道内などで爆轟を行なうことができる。
閉鎖系で爆轟を行なう場合には、例えば、図1に示されるように、原料A1および爆発性物質A2を充填した爆発容器3を金属製容器5内に懸架した状態で爆轟を行なうことができる。爆轟の際には、酸化反応を抑制することにより、グラファイト微粒子の集合体の収率を高める観点から、金属製容器5の内部空間に窒素ガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどの不活性ガスを充填することにより、金属製容器5の内部空間に実質的に酸素が含有されないようにすることが好ましい。
金属製容器5内において、爆発容器3の周囲には、必要により、冷却材4を配置することができる。冷却材4は、例えば、金属製容器5と爆発容器3との間隙に充填することができる。冷却材4としては、例えば、水などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
爆発性物質A2は、図1に示されるように、雷管7または導爆線を用いることによって起爆することができるが、爆発性物質A2と雷管7または導爆線との間に伝爆薬6を介在させてもよい。この場合、爆発容器3は、当該爆発容器3に伝爆薬6と雷管7または導爆線とを取り付けた後に金属製容器5内に配設することができる。
次に、爆発性物質A2を爆轟させることにより、原料A1からグラファイト微粒子の集合体が得られる。得られたグラファイト微粒子の集合体には、爆轟の際に発生した不純物が含まれることがある。当該不純物は、必要により、例えば、分級、精製などにより、除去することができる。また、例えば、篩などを用いて前記で得られたグラファイト微粒子の集合体を分級してもよい。
〔方法II〕
方法IIでは、ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Bの周囲に常温常圧で液体である爆発性物質Bを配置し、爆発性物質Bを爆轟させる。
原料Bは、ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物を含むが、当該ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物は、常温常圧で固体である。ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物としては、例えば、トリニトロトルエン、シクロトリメチレントリニトラミン、シクロテトラメチレンテトラニトラミン、四硝酸ペンタエリスリトール、トリニトロフェニルメチルニトラミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物は、ニトロ基以外の置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、アルキル基、水酸基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
常温常圧で液体である爆発性物質Bは、原料Bからグラファイト微粒子の集合体を生成させるために爆轟を安定して起こさせる物質である。常温常圧で液体である爆発性物質Bとしては、例えば、ヒドラジンと硝酸ヒドラジンとの混合物、ヒドラジンと硝酸アンモニウムとの混合物、ヒドラジンと硝酸ヒドラジンと硝酸アンモニウムとの混合物、ヒドラジンとニトロメタンとの混合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの爆発性物質Bは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
原料Bと爆発性物質Bとの質量比(原料B/爆発性物質B)の値は、グラファイト微粒子の集合体を効率よく生成させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、生産コストを低減させる観点から、好ましくは1以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。
ニトロ基を3個以上有する芳香族炭化水素化合物を含む原料Bの周囲に常温常圧で液体である爆発性物質Bを配置し、爆発性物質Bを爆轟させる際には、方法Iと同様に、例えば、図1に示される爆発装置を用い、方法Iと同様の操作を行なうことにより、グラファイト微粒子の集合体を得ることができる。
なお、方法IIでは、原料Bが固体であり、爆発性物質Bが液体であることから、例えば、図1に示される爆発装置を用い、原料B2を円筒形状の成形型内に充填し、円柱状の成形体を成形し、得られた成形体の直径よりも内径が大きい円筒形状の爆発容器3を用意し、当該成形体の中心軸と当該爆発容器3の中心軸とを一致させて設置した後、当該成形体と当該爆発容器3との間隙に液体の爆発性物質B2を注入することにより、原料B1と爆発性物質B2とが対称的に配置された爆発容器3を作製することができる。
以上のようにして得られるグラファイト微粒子の積層面間隔は、0.2〜1nmであり、グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さが1.5〜10nmである。また、グラファイト微粒子の積層の厚さは、通常、0.5〜3nmである。
なお、グラファイト微粒子の積層面間隔および積層の厚さは、いずれも、透過型電子顕微鏡を用いて撮影されたグラファイト微粒子の撮影画像で測定された値である。
また、前記グラファイト微粒子の撮影画像によれば、グラファイト微粒子の集合体は、積層面間隔が0.2〜1nmである積層構造を有する一次粒子が塊状に凝集した二次粒子である。本発明においては、二次粒子を一次粒子に分散させたものを用いるのではなく、当該二次粒子を用いることができる。
なお、グラファイト微粒子の集合体には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、副生したダイヤモンド微粒子が含まれていてもよい。
次に、グラファイト微粒子の集合体をフッ素ガス雰囲気中で100℃以下の温度でフッ素化させることにより、フッ素化グラファイト微粒子集合体を得ることができる。
グラファイト微粒子の集合体に水分が含まれている場合、当該グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させたときに当該水分とフッ素とが反応するおそれがある。したがって、グラファイト微粒子の集合体に水分が含まれている場合には、当該グラファイト微粒子の集合体をあらかじめ乾燥させておくことが好ましい。グラファイト微粒子の集合体を乾燥させる方法としては、例えば、減圧乾燥法、加熱乾燥法、除湿剤による乾燥方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
グラファイト微粒子の集合体のフッ素化は、フッ素ガス雰囲気中で行なわれる。フッ素ガス雰囲気は、例えば、閉鎖空間を形成することができる反応容器の内部空間を減圧することによって大気を除去した後、その内部空間にフッ素ガスを導入する方法、閉鎖空間を形成することができる反応容器の内部空間にフッ素ガスを直接導入することによって大気をフッ素ガスで置換する方法などによって形成することができるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。
反応容器の材質は、特に限定されないが、フッ素ガスにより損傷を受けがたいものであることが好ましい。反応容器の材質としては、例えば、ニッケル、ステンレス鋼、低合金鋼などの金属、ポリエステル、アクリル樹脂などの樹脂、セラミックなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの材質のなかでは、フッ素ガスにより損傷を受けがたいことから、ニッケルが好ましい。
反応容器としては、例えば、円筒形状の反応容器、角柱上の反応容器、球状の反応容器などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、反応容器の容積は、目的とするフッ素化グラファイト微粒子集合体の製造量などによって異なるので一概には、決定することができない。当該反応容器の一例として、例えば、10mL〜1Lの容積を有する反応容器などが挙げられる。反応容器の上部には、グラファイト微粒子の集合体を注入するための開口部を設け、当該開口部に蓋体を配設することができる。蓋体には、反応容器内を減圧させるとともにフッ素ガスを導入するためのノズルが設けられていてもよい。
なお、反応容器内には、例えば、直径が5〜15mm程度の鋼球を入れ、当該鋼球を移動させることにより、グラファイト微粒子の集合体を機械的に破砕してもよく、反応容器内に攪拌翼を配設し、当該攪拌翼を回転させることにより、グラファイト微粒子の集合体を機械的に破砕してもよい。反応容器内に鋼球を入れた場合、当該反応容器を搖動、振動または回転させることにより、グラファイト微粒子の集合体を機械的に破砕しながらフッ素化させることができる。このようにグラファイト微粒子の集合体を機械的に破砕しながらフッ素化させた場合には、当該グラファイト微粒子を均一にフッ素化させることができる。
前記閉鎖空間を形成することができる反応容器を用いる場合、グラファイト微粒子の集合体を当該反応容器内に入れた後、グラファイト微粒子の集合体のフッ素化を行なうことが安全性の観点から好ましい。
本明細書にいうフッ素ガス雰囲気とは、フッ素ガスのみで形成されている雰囲気のみならず、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスで希釈されたフッ素ガスで形成されている雰囲気を意味する。これらのなかでは、フッ素化の効率を高める観点から、フッ素ガス雰囲気に占めるフッ素ガス分圧が高いことが好ましい。
グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させる際のフッ素ガス雰囲気の温度は、特に限定されないが、撥水性に優れたフッ素化グラファイト微粒子集合体を効率よく製造する観点から、100℃以下、好ましくは0〜100℃、より好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは5〜100℃、より一層好ましくは5〜100℃、特に好ましくは10〜100℃である。また、前記フッ素ガス雰囲気の温度は、フッ素化グラファイト微粒子集合体の生産性を高める観点から、室温であることが好ましい。
グラファイト微粒子の集合体をフッ素ガス雰囲気中でフッ素化させるとき、フッ素ガス雰囲気の圧力は、特に限定されないが、フッ素化グラファイト微粒子集合体を効率よく製造する観点から、0.1kPa〜1MPaの範囲から選択されることが好ましく、フッ素化グラファイト微粒子集合体の生産性を高める観点から、50〜150kPaであることがより好ましく、常圧であることがさらに好ましい。また、撥水性に優れたフッ素化グラファイト微粒子集合体を効率よく製造する観点から、フッ素ガス雰囲気の圧力は、好ましくは0.1〜80kPa、より好ましくは0.1〜60kPa、さらに好ましくは0.1〜55kPa、さらに一層好ましくは0.3〜55kPaである。
グラファイト微粒子の集合体をフッ素ガス雰囲気中でフッ素化させるときに四フッ化炭素が生成することを抑制する観点から、前記フッ素ガス雰囲気の温度は、10〜40℃であり、前記フッ素ガス雰囲気の圧力は50〜150kPaであることが好ましい。
グラファイト微粒子の集合体のフッ素化は、得られるフッ素化グラファイト微粒子集合体からグラファイト微粒子に由来の炭素原子が検出されなくなるまで行なうことが好ましい。炭素原子の検出は、例えば、フッ素化グラファイト微粒子のX線光学分光分析などによって行なうことができる。
グラファイト微粒子の集合体のフッ素化に要する時間は、フッ素ガス雰囲気の圧力およびその温度、グラファイト微粒子の集合体の量などによって異なるので一概には決定することができないことから、グラファイト微粒子の集合体が十分にフッ素化されるまで行なうことが好ましい。グラファイト微粒子の集合体をフッ素ガス雰囲気中でフッ素化させるのに要する時間は、フッ素化グラファイト微粒子集合体を効率よく製造する観点から、好ましくは0.3〜10時間、より好ましくは0.5〜8時間、さらに好ましくは0.5〜5時間である。
以上のようにしてグラファイト微粒子の集合体をフッ素化させることにより、フッ素化グラファイト微粒子集合体を製造することができる。
なお、前記で得られたフッ素化グラファイト微粒子の表面にはフッ素ガスが付着しており、当該フッ素ガスと大気中の水分とが反応することを回避する観点から、フッ素化グラファイト微粒子を大気中に取り出す前に、その表面に付着しているフッ素ガスを不活性ガスで除去することが好ましい。フッ素化グラファイト微粒子の表面に付着しているフッ素ガスの除去は、例えば、前記反応容器を用いた場合には、前記反応容器内のフッ素ガスを不活性ガスに置換することによって行なうことができる。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
前記フッ素化グラファイト微粒子は、基本的にはフッ素化前のグラファイト微粒子の形状および大きさとほとんど同一であることから、フッ素化グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さが1.5〜10nmである。また、当該フッ素化グラファイト微粒子の積層面間にフッ素が侵入していることから、当該フッ素化グラファイト微粒子の積層面間距離は、フッ素化前のグラファイト微粒子の積層面間距離よりも大きい0.3〜1.1nmである。
なお、フッ素化グラファイト微粒子の積層面間隔および積層の厚さは、いずれも、透過型電子顕微鏡を用いて撮影されたフッ素化グラファイト微粒子の撮影画像で測定された値である。
フッ素グラファイト微粒子集合体の撮影画像によれば、当該フッ素化グラファイト微粒子集合体は、一次粒子が塊状に凝集した二次粒子である。本発明においては、二次粒子を一次粒子に分散させたものを用いるのではなく、当該二次粒子を用いることができる。
本発明のフッ素化グラファイト微粒子集合体は、フッ素化されているので、撥水性に優れている。したがって、本発明のフッ素化グラファイト微粒子集合体は、撥水性付与剤として好適に使用することができる。
本発明の撥水性付与剤は、前記フッ素化グラファイト微粒子集合体を含有するものであり、当該フッ素化グラファイト微粒子集合体のみで構成されていてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲内で、グラファイト微粒子を調製する際に副生したダイヤモンド微粒子が含まれていてもよい。また、本発明の撥水性付与剤には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、例えば、各種添加剤などが含まれていてもよい。
本発明の撥水性付与剤は、撥水性に優れるとともに分散性にも優れているので、例えば、撥水性繊維材料、撥水性シート、撥水性フィルムなどの撥水性が要求される用途に有用である。
次に、本発明を製造例および実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる製造例および実施例のみに限定されるものではない。
製造例1
原料として直径10cm、高さ48cmの円柱形状のジニトロトルエンの成形体(質量:5.52kg、体積:3770cm3、密度:1.46g/cm3)を用いた。また、爆発性物質としてヒドラジン系液体爆薬(硝酸ヒドラジンの75%抱水ヒドラジン溶液)2.50kgを用いた。
次に、図1に示される爆発装置を用い、原料1として前記成形体を内径12cm、高さ50cmの爆発容器3の中央部に設置し、その周囲に爆発性物質2として前記液体爆薬を充填した。爆発容器3の頂部に伝爆薬6、導爆線および6号電気雷管7を装着し、蓋をした後、液密性のポリエチレン袋内に収納した。爆発容器3を冷却容器5(容量:100L)内に設置した。このとき、鉄製の架台8と鉄製の穴あき円板9とを用い、爆発容器3の外底面が冷却容器5の内底面から高さ15cmに位置するように調整した。
冷却容器5と爆発容器3との間隙に、蒸留水120Lをポリエチレン製の袋体に入れた冷却材4を入れ、冷却容器5に蓋をした後、ワイヤースリングを用いて内容積30m3の金属製容器内に冷却容器5を懸架した。前記金属製容器内を減圧したところ、当該金属製容器内の酸素ガスの量は、約280gであった。
次に、導爆線および雷管を介して爆発性物質2を爆轟させた後、金属製容器内から残渣を含む水約120Lを回収し、沈降した粗大な瓦礫を除去し、上澄み液を廃液として回収した。
一方、沈殿物を振動篩装置〔興和(株)製、品番:KG−700−2W〕で分級し、表1に示す篩通過分を回収した。篩通過分を乾燥機〔アズワン(株)製、品番:OF−450S〕内に入れ、80℃で24時間乾燥させることにより、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末におけるグラファイト微粒子の集合体の含有率を表1に示す。
製造例2
製造例1において、ヒドラジン系液体爆薬の量を2.49kgに変更し、冷却容器5の容量を200Lに変更し、蒸留水の量を220Lに変更したこと以外は、製造例1と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表1に示す。
製造例3
製造例1において、ジニトロトルエンの量を5.46kg(体積:3750cm3)に変更し、冷却容器の容量を200Lに変更し、蒸留水の量を220Lに変更し、金属製容器内の酸素ガスの量を約191gに変更したこと以外は、製造例1と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表1に示す。
前記で得られたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真を図2に示す。図2の符号Gで示されるように、前記で得られたグラファイト微粒子の集合体には、積層構造を有するグラファイト微粒子が存在することがわかる。
前記で得られたグラファイト微粒子の積層の面間隔の測定したところ、当該面間隔は3.46Åであり、粉末X線回折法による六方晶系を有するグラファイトの積層の002面の間隔(3.37Å)とほぼ一致したことから、生成物は、グラファイト微粒子の集合体であることが確認された。
グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直方向における長さは、図2に示されるように、1.5〜10nmであることがわかる。また、図2の符号Gで示されるように、隣接している各グラファイト微粒子の配向の方向は、不規則に相違しており、隣接するグラファイト微粒子の配向が同一ではないことがわかる。
製造例4
爆発性物質として2,4−ジニトロトルエンの円柱形状の成形体(直径:10cm、高さ:48cm、質量:5.48kg、体積:3785cm3、密度:1.45g/cm3)を用い、爆発性物質としてヒドラジン系液体爆薬(硝酸ヒドラジンの75%抱水ヒドラジン溶液)2.49kgを用い、冷却容器5の容量を200Lに変更し、蒸留水の量を220Lに変更したこと以外は、製造例1と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表1に示す。
製造例5
製造例3において、ジニトロトルエンの体積を3800cm3(密度:1.44g/cm3)に変更し、ヒドラジン系液体爆薬の量を2.43kgに変更し、金属製容器内の酸素ガスの量を約25.5gに変更したこと以外は、製造例3と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表1に示す。
製造例6
原料として円柱形状のトリニトロトルエンの成形体〔中国化薬(株)製、直径:10cm、長さ:20cm、質量:2.52kg、密度:1.60g/cm3〕を用い、爆発性物質としてヒドラジン系液体爆薬(硝酸ヒドラジンと抱水ヒドラジンとを質量比3:1で混合したもの)0.93kgを用いた。
次に、図1に示される爆発装置を用い、原料1として円柱形状のトリニトロトルエンの成形体を内径12cm、高さ20cmの爆発容器3の中央部に設置し、その周囲に爆発性物質2としてヒドラジン系液体爆薬を充填した。爆発容器3の頂部に伝爆薬6、導爆線および6号電気雷管7を装着し、蓋をした後、液密性のポリエチレン袋に収納した。爆発容器3を冷却容器5(容量:200L)内に設置した。このとき、鉄製の架台8と鉄製の穴あき円板9を用い、爆発容器3の外底面が冷却容器5の内底面から高さ29.5cmに位置するように調整した。
冷却容器5と爆発容器3との間隙に蒸留水を入れた冷却材4を充填した。また、蒸留水を入れたポリエチレン袋を冷却容器の上部に載置した。合計で200Lの蒸留水を用いた。冷却容器5に蓋をした後、ワイヤースリングを用い、内容積30m3の金属製容器内に天井から懸架した。前記金属製容器内を減圧したところ、当該金属製容器内の酸素ガスの量は、約25.5gであった。
次に、導爆線および雷管を介して爆発性物質2を爆轟させた後、金属製容器内から残渣を含む水約200Lを回収し、沈降した粗大な瓦礫を除去し、上澄み液を廃液として回収した。
一方、沈殿物を振動篩装置〔興和(株)製、品番:KG−700−2W〕で分級し、表2に示す篩通過分を回収した。篩通過分を乾燥機〔アズワン(株)製、品番:OF−450S〕内に入れ、80℃で24時間乾燥させることにより、乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末におけるグラファイト微粒子の集合体の含有率を表2に示す。
製造例7
製造例6において、原料を円柱形状のトリニトロトルエンの成形体〔中国化薬(株)製、直径:10cm、長さ:30cm、質量:3.82kg、密度:1.61g/cm3〕に変更し、ヒドラジン系液体爆薬の量を1.29kgに変更したこと以外は、製造例6と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表2に示す。
製造例8
製造例6において、原料を円柱形状のトリニトロトルエンの成形体〔中国化薬(株)製、直径:10cm、長さ:50cm、質量:6.30kg、密度:1.59g/cm3〕に変更し、ヒドラジン系液体爆薬の量を2.17kgに変更し、蒸留水の量を220Lに変更したこと以外は、製造例6と同様にしてグラファイト微粒子の集合体を製造した。その結果を表2に示す。
実験例1
グラファイト微粒子の格子を観察することができるCCDカメラ〔Gatan社製、商品名:UltraScan〕および透過型電子顕微鏡〔日本電子(株)製、品番:JEM−ARM200F〕を用い、以下の測定条件にて製造例3で得られたグラファイト微粒子の集合体を観察した。
〔測定条件〕
・測定方法:懸濁法、分散溶媒:メタノール
・加速電圧:200kV
・撮影倍率:30万倍または80万倍
・写真倍率:220万倍(A4サイズの用紙に印刷する際は590万倍)
図2に示される製造例3で得られたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真の説明図を図3に示す。
グラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真を図3のaに示す。また、図3のaに示される写真の四角で囲まれた部分を拡大した写真を図3のa1に示す。図3に示されるa2は、図3のa1で示される写真の四角で囲まれた部分をトレースして作成した模式図であり、図3のa2で示される模式図中の実線は、グラファイト微粒子が積層構造を有することが示されており、破線は、グラファイト微粒子間の空隙部分である。
図3に示されるように、グラファイト微粒子の積層方向の長さは、当該積層方向に対して垂直方向の長さよりも短く、グラファイト微粒子が密集してグラファイト微粒子の集合体が形成されており、各グラファイト微粒子は、それぞれ異なる方向に配向していることがわかる。
実験例2
製造例1〜5で得られたグラファイト微粒子のX線回折をX線回折装置〔(株)リガク製、水平型X線回折装置、商品名:SmartLab〕で調べ、当該X線回折データからScherrerの式:
D=Kλ/βcosθ
〔式中、Dは結晶の大きさ(Å)であり、KはScherrer定数であり0.9とし(B.D.カリティ著、松村源太郎訳、「X線回折要論(新版)」、(株)アグネ承風社、1999年3月参照)、λはX線管球の波長(CuKα線では1.5418Å)、βは実測したX線回折の幅βexpおよびX線回折測定装置によるX線回折の拡がりβiを用いてβ=(βexp2−βi2)1/2から求められた値、θは回折角(rad)を示す〕
に基づいて、グラファイト微粒子の結晶の大きさ(グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さ)を調べた。
なお、X線回折の測定条件は、以下のとおりである。
〔測定条件〕
・X線:CuKα線
・励起電圧:45kV
・電流:200mA
・発散スリット:2/3°
・散乱スリット:2/3°
・受光スリット:0.6mm
実測したX線回折に対してスムージング、バックグランドの除去およびKα2の除去を行なった後、26°付近のピーク(一般的にG002と呼ばれる)の半値幅を求め、これをX線回折の幅βexpとした。G002のピークは、グラファイト微粒子に起因するピークである。
製造例1〜5で得られたグラファイト微粒子のX線回折データから推定される結晶の大きさ(グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さ)を表3に示す。
表3に示されるように、グラファイト微粒子の結晶の大きさ(グラファイト微粒子の積層方向に対して垂直の方向における長さ)は、2〜4nmであることがわかる。
実験例3
製造例3および製造例4で得られたグラファイト微粒子の積層面間隔を透過型電子顕微鏡で観察した結果、製造例3で得られたグラファイト微粒子の結晶の積層面間隔は、3.5Åであり、製造例4で得られたグラファイト微粒子の結晶の積層面間隔は、3.8Åであることが確認された。
実施例1
グラファイト微粒子の集合体〔(株)神戸製鋼製、面間隔:0.35〜0.38nm、一次粒子の平均粒子径:5nm±1nm、二次粒子の平均粒子径:20μm±5μm〕0.1gをニッケル製反応管内に入れ、この反応管を反応容器に入れた後、100℃で反応容器内を1.0×10-1Paに減圧することにより、グラファイト微粒子の集合体を乾燥させた。
前記で得られた乾燥させたグラファイト微粒子の集合体を反応容器内に入れ、当該反応容器内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入し、反応容器内のフッ素ガスの圧力を101.3kPaに調整した後、室温で1時間静置することにより、グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させ、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を得た。
次に、反応装置の内部を減圧することにより、その内部からフッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで導入した後、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を反応容器から取り出した。
実施例2
グラファイト微粒子の集合体〔(株)神戸製鋼製、面間隔:0.35〜0.38nm、一次粒子の平均粒子径:5nm±1nm、二次粒子の平均粒子径:20μm±5μm〕0.1gをニッケル製反応管内に入れ、この反応管を反応容器に入れた後、100℃で反応容器内を1.0×10-1Paに減圧することにより、グラファイト微粒子の集合体を乾燥させた。
前記で得られた乾燥させたグラファイト微粒子の集合体を反応容器内に入れ、当該反応容器内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入し、反応容器内のフッ素ガスの圧力を152.0kPaに調整した後、室温で1時間静置することにより、グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させ、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を得た。
次に、反応装置の内部を減圧することにより、その内部からフッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで導入した後、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を反応容器から取り出した。
実施例3
グラファイト微粒子の集合体〔(株)神戸製鋼製、面間隔:0.35〜0.38nm、一次粒子の平均粒子径:5nm±1nm、二次粒子の平均粒子径:20μm±5μm〕0.1gをニッケル製反応管内に入れ、この反応管を反応容器に入れた後、100℃で反応容器内を1.0×10-1Paに減圧することにより、グラファイト微粒子の集合体を乾燥させた。
前記で得られた乾燥させたグラファイト微粒子の集合体を反応容器内に入れ、当該反応容器内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入し、反応容器内のフッ素ガスの圧力を101.3kPaに調整した後、100℃で1時間静置することにより、グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させ、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を得た。
次に、反応装置の内部を減圧することにより、その内部からフッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで導入した後、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を反応容器から取り出した。
実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真を図4に示す。図4において、(a)は実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真、(b)は前記(a)で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真の拡大写真である。
実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の積層面間隔は、図4に示された結果から、0.41〜0.44nmであることから、実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では、グラファイト微粒子がフッ素化されていることが確認された。
次に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体では(調製例1)および実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の走査型電子顕微鏡写真をそれぞれ順に図5の(a)〜(d)に示す。なお、各写真における尺度は、各写真の右下に示されている。
図5(a)〜(d)に示された結果から、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体では(調製例1)、その表面が平滑であるのに対し、各実施例で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では、その表面に反応物が均一に生成していることがわかる。
次に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)および実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の粉末X線回折を調べた。その測定結果を図6に示す。図6の(a)〜(d)は、それぞれ順に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体および実施例1〜3で得られた各フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体のX線回折図である。
なお、粉末X線回折測定装置として(株)島津製作所製、商品名:粉末X線回折測定装置XD−6100を用いた。粉末X線回折の測定条件は、以下のとおりである。
〔粉末X線回折の測定条件〕
・X線:CuKα線
・励起電圧:40kV
・電流:20mA
・走査モード:Continuous
・走査範囲10〜80°
・走査速度:2.0°/分
・雰囲気:大気
図6に示された結果から、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1) 〔図6中の(a)〕では、26.5°でグラファイト微粒子の層構造による(002)の回折ピークが観察されたのに対し、実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体〔図6中の(b)〜(d)〕では、13.5°でフッ素化されたグラファイト微粒子の層平面内の結晶構造による(001)の回折ピークが観測されたことから、(CF)nの結晶構造を有するフッ素化されたグラファイト微粒子が生成していることが考察される。
次に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)および実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体のX線光電子分光分析を行なった。なお、X線光電子分光分析は、X線光電子分光分析装置〔日本電子(株)製、品番:XPS−9010〕を用い、X線としてMgKα線を用い、電圧10kV、電流2.5mAの条件下で行なった。また、帯電補正は、炭素1s電子の結合エネルギーを基準に行なった。
X線光電子分光分析(XPS)によるC1sスペクトルおよびF1sスペクトルをそれぞれ図7(A)および(B)に示す。
なお、図7(A)および(B)において、(a)は、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)のX線光電子分光分析の結果を示すグラフであり、(b)〜(d)は、それぞれ順に実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体のX線光電子分光分析の結果を示すグラフである。
図7(A)に示されるように、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)では〔図7(A)中の(a)〕、C1s電子についてC−C結合に由来するピーク(285ev付近)が観測されたのに対し、実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では〔図7(A)中の(b)〜(d)〕、1個以上のフッ素原子と結合した炭素原子(−CHF−基または−CF2−基)に由来するピーク(288eV付近)が観測された。
また、図7(B)に示されるように、実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では〔図7(B)中の(b)〜(d)〕、共有性の強いC−F結合に基づくと考えられるF1s電子についての原子核への結合エネルギーのピーク(690eV付近)が観測された。さらに、グラファイト微粒子の集合体をフッ素化させたとき、反応温度が高くなるにしたがってF1s電子について原子核への結合エネルギーが大きくなり、グラファイト微粒子の表面または層間にフッ素が順次導入されていることがわかる。
次に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)および実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の表面上に水滴(直径:約1mm)を滴下し、接触角計〔協和界面科学(株)製、品番:DM−701〕を用いて室温(約25℃)における水との接触角を測定した。その結果を図8に示す。
図8において、(a)は、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)の水との接触角の測定結果を示す図面代用写真、(b)〜(d)は、それぞれ順に実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の水との接触角の測定結果を示す図面代用写真である。
図8(a)に示されるように、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)では、水との接触角が9°であり、当該集合体は親水性を呈するのに対し、実施例1で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では、水との接触角が139°であることから撥水性に優れていることがわかる。当該撥水性は、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の表面に存在しているC−F結合に起因するものと考えられる。
また、反応温度を高くしてフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を調製した場合には(実施例3)、水との接触角が156°であることから、さらに撥水性が高められることがわかる。これは、グラファイト微粒子の集合体のフッ素化の進行が促進されることに基づくものと考えられる。
次に、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)および各実施例で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体をそれぞれ0.01gずつ秤量し、水10mLを入れた各試験管内に入れ、超音波洗浄機で1時間程度超音波を照射することにより、室温中で十分に撹拌して均一な組成となるように分散させた分散液を得た。
前記で得られた各分散液を1時間静置した後の状態を図9に示す。図9において、(a)は、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)が用いられた分散液を静置した後の図面代用写真、(b)〜(d)は、それぞれ順に実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体が用いられた分散液を静置した後の図面代用写真である。
図9(a)に示されるように、フッ素化させる前のグラファイト微粒子の集合体(調製例1)が用いられた分散液を静置した場合、当該集合体は、水中に懸濁されていることがわかる。これに対して、実施例1〜3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体が用いられた分散液では、図9(b)〜(d)に示されるように、水面にフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体が浮遊しており、水中にフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体が懸濁していないことがわかる。なかでも、実施例1および実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体が用いられた分散液では、図6(b)および(d)に示されるように、当該集合体は、水面に浮いており、水中が透明であることがわかる。このことから、実施例1および実施例3で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体は、撥水性が強いC−F結合を有するものと考察される。
実施例4
グラファイト微粒子の集合体〔(株)神戸製鋼製、面間隔:0.35〜0.38nm、一次粒子の平均粒子径:5nm±1nm、二次粒子の平均粒子径:20μm±5μm〕を定温乾燥器〔デンケン(株)製、品番:KDF75〕に入れ、210℃の大気中で3時間加熱した。加熱が維持された状態のグラファイト微粒子の集合体0.1gを直径8mmの鋼球〔タカタニ金属工業(株)製、SUJ2鋼球〕20個とともにニッケル製反応容器(容量:約0.25L)内に入れた後、100℃で反応容器内を1.0×10-1Paに減圧することにより、残留水分を除去したグラファイト微粒子の集合体を得た。
前記で得られた乾燥させたグラファイト微粒子の集合体を収容した前記反応容器内にフッ素ガス(純度:99.7%)を導入した。管路におけるフッ素ガスの流量の調整弁を操作することにより、反応容器の表面温度が約40℃となるようにフッ素ガスの導入量を調整した。
前記反応容器にステンレス鋼製のフレキシブルチューブ(Swaglok社製、1/4インチフレキシブルチューブ、長さ30cm)を接続し、10分間経過ごとに手動で当該フレキシブルチューブを上下左右に搖動させて反応容器内の鋼球を上下左右に搖動させた後、デジタル圧力計〔(株)ピュアロンジャパン製、品番:PSD−02A〕で反応容器内の圧力を測定した。反応容器内の圧力が101.3kPaに達した時点でフッ素ガスの供給を停止した後、100℃で1時間反応容器を静置することにより、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を得た。
次に、反応容器の内部を減圧することにより、フッ素ガスを除去し、アルゴンガスを大気圧となるまで当該反応容器内に導入した後、フッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を反応容器から取り出した。
実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の走査型電子顕微鏡写真を前記と同様にして撮影した。その結果を図10に示す。また、実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の粉末X線回折を前記と同様にして調べた。その結果を図11に示す。
次に、実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体のX線光電子分光分析(XPS)によるC1sスペクトルおよびF1sスペクトルを前記と同様にして調べた。C1sスペクトルおよびF1sスペクトルの測定結果をそれぞれ図12(A)および(B)に示す。
次に、実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体におけるフッ素含有率を燃焼−イオンクロマトグラフィーで測定したとき、当該フッ素含有率は、約65重量%であった。ここで、フッ素と炭素との質量比(フッ素/炭素)の値が1.58であることから、フッ素が炭素に平均的に付着しているとしたとき、ほぼ全ての炭素がフッ素と反応していることが確認された。
次に、実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときの透過型電子顕微鏡写真を図13に示す。図13において、(a)は実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の粉末状態での透過型電子顕微鏡写真、(b)は前記(a)で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体の透過型電子顕微鏡写真の拡大写真である。
図13に示した結果から、実施例4で得られたフッ素化されたグラファイト微粒子の集合体では、フッ素化に伴い、積層の間隔が0.35nmから0.69nmに拡大していることがわかる。なお、透過型電子顕微鏡(TEM)の測定条件を以下に示す。
〔透過型電子顕微鏡(TEM)の測定条件〕
・透過型電子顕微鏡:日本電子(株)製、品番:JEM−ARM200F
・測定方法:懸濁法(分散溶媒:メタノール)
・加速電圧:200kV
・CCDカメラ:Gatan社製、商品名:UltraScan