以下に、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<電子線検査装置の構成>
図1は、本発明の一実施の形態による電子線検査装置10を含む検査システム1の構成を示す概略図である。図1に示すように、検査システム1は、写像投影方式による電子線検査装置10と、位置合わせ用の光学顕微鏡110と、レビュー用の電子顕微鏡(SEM)120とを備えている。
このうち電子線検査装置10は、検査対象である試料20を保持するステージ30と、ステージ30上の試料20に電子ビームを照射する1次光学系40と、試料20からの電子の拡大像を結像させる2次光学系60と、1次光学系40および2次光学系60の動作を制御する制御部80とを有している。2次光学系60は、電子を検出する検出器(カメラ)70と、検出器70からの信号を処理する画像処理装置90(画像処理系)とを含んでいる。
試料20は、シリコンウエハ、ガラスマスク、半導体基板、半導体パターン基板、または金属膜を有する基板などである。本実施の形態に係る電子線検査装置10は、これらの基板からなる試料20の表面上の異物の存在を検出する。異物は、絶縁物、導電物、半導体材料、またはこれらの複合体などである。異物の種類は、パーティクル、洗浄残物(有機物)、表面での反応生成物などである。
1次光学系40は、電子ビームを生成し、試料20に向けて照射する構成である。図示された例では、1次光学系40は、電子源41と、レンズ42、45と、第1アパーチャ43a、43bと、E×Bフィルタ46と、対物レンズ47a、47b、50と、第2アパーチャ48とを有している。
図2は、電子源41の一例を拡大して示す概略図である。図2に示す例では、電子源41は、レーザ光源2010とミラー2070と光電面2011とを有している。
図2に示すように、光電面2011上には、光電面2011と同電位のアパーチャ2012が配置されている。たとえば、レーザ光の直径が30μm〜200μmであるのに対し、アパーチャ2012の口径は10μm〜100μmである。
アパーチャ2012が光電面2011上に配置されていることにより、レーザ光源2010から発生してミラー2070により反射されたレーザ光は、アパーチャ2012を通過してから光電面2011に照射される。アパーチャ2012を通過する際に、ガウス分布のレーザ光の裾野の強度の弱い部分が、アパーチャ2012によりカットされるため、光電面2011に照射されるレーザ光の強度分布は均一化される。これにより、光電面2011から強度分布が均一な一次ビームが発生する。強度分布が均一な一次ビームを用いることにより、欠陥検査時のノイズを低減できる。なお、アパーチャ2012は光電面2011と同電位であるため、引き出し電界への影響は小さくなっている。
光電面2011とアパーチャ2012との間の間隔は、好ましくは0.1〜2.0mmである。本件発明者らの知見によれば、光電面2011とアパーチャ2012との間の間隔が2.0mm以下であれば、レーザ光がアパーチャ2012を通過してから光電面2011に到達するまでの間に、回折が生じて強度分布が不均一化することを防止できる。
アパーチャ2012は、好ましくはCrまたはCで被覆されている。CrまたはCは電子効率が低いことから、レーザ光がアパーチャ2012を通過する際に、アパーチャ2012から発生する電子を低減できる。これにより、一次ビームが安定化し、欠陥検査時のノイズが減少する。
なお、図2に示す例では、電子源41は、レーザ光源49とミラー2070と光電面2011とを有していたが、電子ビームを生成できるならばこれに限定されず、たとえば、電子源41は、LaB6などの電子銃を有していてもよい。
図1に戻って、レンズ42、45およびアパーチャ43a、43bは、電子源41からの電子ビームを整形するとともに、電子ビームの方向を制御する。E×Bフィルタ46は、電子ビームに、磁界と電界によるローレンツ力の影響を与える。電子ビームは、斜め方向からE×Bフィルタ46に入射して、鉛直下方向に偏向され、試料20の方に向かう。対物レンズ47a、47b、50は、電子ビームの方向を制御するとともに、適切な減速を行って、ランディングエネルギーLEを調整する。
1次光学系40は、プレチャージの帯電用電子ビームと撮像用電子ビームの両方の照射を行う。本件発明者らの実験結果によれば、プレチャージのランディングエネルギーLE1と、撮像用電子ビームのランディングエネルギーLE2との差異は、好適には5〜20eVである。
この点に関し、異物と周囲との電位差があるときに、プレチャージのランディングエネルギーLE1を負帯電領域で照射したとする。LE1の値に応じて、チャージアップの電圧は異なる。LE1とLE2との相対比が変わるからである(LE2は上記のように撮像電子ビームのランディングエネルギーである)。LE1が大きいとチャージアップ電圧が高くなり、これにより、異物の上方の位置(検出器70により近い位置)で反射ポイントが形成される。この反射ポイントの位置に応じて、ミラー電子の軌道と透過率が変化する。したがって、反射ポイントに応じて、最適なチャージアップ電圧条件が決まる。また、LE1が低すぎると、ミラー電子形成の効率が低下する。本件発明者らは、このLE1とLE2との差異が望ましくは5〜20eVであることを見出した。また、LE1の値は、好ましくは0〜40eVであり、さらに好ましくは5〜20eVである。
また、1次光学系40では、E×Bフィルタ46が特に重要である。E×Bフィルタ46の電界と磁界の条件を調整することにより、電子ビームの入射角度を定めることができる。たとえば、1次光学系の照射電子ビームが、試料20に対してほぼ垂直に入射するように、E×Bフィルタ46の条件を設定可能である。さらに感度を増大するためには、たとえば、試料20に対する1次光学系の電子ビームの入射角度を傾けることが効果的である。適当な傾き角は、0.05〜10°であり、好ましくは0.1〜3°程度である。
このように、異物に対して所定の傾き角をなすように電子ビームを照射させることにより、異物からの信号を強くすることができる。これにより、ミラー電子の軌道が2次光学系60の光学中心から外れない条件を形成することができ、ミラー電子の透過率を高めることができる。したがって、異物をチャージアップさせて、ミラー電子を導くときに、傾いた電子ビームが大変有利に用いられる。
なお、図1に示す例では、1次光学系40は、光学的構成として、レンズ42、45と、第1アパーチャ43a、43bと、E×Bフィルタ46と、対物レンズ47a、47b、50と、第2アパーチャ48とを有していたが、照野サイズの拡大および照野形状の調整が可能であれば、1次光学系40の光学的構成はこれに限定されない。
たとえば、図3に示すように、1次光学系40は、光学的構成として、第1アパーチャ43と、アライナ電極44と、照野の大きさを変更するレンズ(静電レンズまたは磁界レンズ)42と、照野位置をXY方向に変更するレンズ(電極)45a、45bと、E×Bフィルタ46と、2次光学系と共用の対物レンズ47、50と、第2アパーチャ48と、を有していてもよい。図3に示す例では、照野の大きさを変更するレンズ44と、照野位置をXY方向に変更するレンズ45a、45bと、2次光学系と共用の対物レンズ47、50とが、後述する光軸調整の対象とされるレンズである。
あるいは、図4に示すように、1次光学系40は、光学的構成として、第1アパーチャ43と、アライナ電極44a、44bと、照野の大きさを変更するレンズ(静電レンズまたは磁界レンズ)42a、42bと、照野の縦横比を調整するレンズ(多極子電極)49と、照野位置をXY方向に変更するレンズ(電極)45a、45bと、E×Bフィルタ46と、2次光学系と共用の対物レンズ47、50と、第2アパーチャ48と、を有していてもよい。図4に示す例では、照野の大きさを変更するレンズ42a、42bと、照野の縦横比を調整するレンズ49と、照野位置をXY方向に変更するレンズ45a、45bと、2次光学系と共用の対物レンズ47、50とが、後述する光軸調整の対象とされるレンズである。
図1に示すように、ステージ30は、試料20を載置する手段であり、X−Yの水平方向およびθ方向に移動可能である。また、ステージ30は、必要に応じてZ方向に移動可能であってもよい。ステージ30の表面には、静電チャックなどの試料固定機構が備えられていてもよい。
ステージ30上には試料20が保持され、試料20の上に異物がある。1次光学系30は、ランディングエネルギーLE−5〜−10eVで試料20の表面に電子ビームを照射する。異物がチャージアップされ、1次光学系40の入射電子が異物に接触せずに跳ね返される。これにより、ミラー電子が2次光学系60により検出器70に導かれる。このとき、二次放出電子は、試料20の表面から広がった方向に放出される。そのため、2次光学系60における二次放出電子の透過率は、低い値であり、たとえば0.5〜4.0%程度である。これに対し、ミラー電子の方向は散乱しないので、ミラー電子は、ほぼ100%の高い透過率を達成できる。ミラー電子は異物により形成される。したがって、異物の信号だけが、高い輝度(電子数が多い状態)を生じさせることができる。周囲の二次放出電子との輝度の差異・割合が大きくなり、高いコントラストを得ることが可能である。
また、2次光学系60により、ミラー電子の像は、光学倍率よりも大きい倍率で拡大される。拡大率は5〜50倍に及ぶ。典型的な条件では、拡大率が20〜30倍であることが多い。このとき、検出器70のピクセルサイズが異物サイズの3倍以上であっても、異物を検出可能である。したがって、高速・高スループットが実現できる。
たとえば、異物のサイズが直径20nmである場合に、ピクセルサイズが60nm、100nm、500nmなどでよい。この例のように、異物の3倍以上のピクセルサイズを用いて異物の撮像および検査を行うことが可能となる。このことは、SEM方式などに比べて、高スループット化のために著しく優位な特徴である。
2次光学系60は、試料20から反射した電子を、検出器70に導く手段である。図示された例では、2次光学系60は、中間レンズ61と、アパーチャ62と、投影レンズ63と、アライナ64とを有している。電子は、試料20から反射して、対物レンズ50、対物レンズ47b、第2アパーチャ48、対物レンズ47aおよびE×Bフィルタ46を再度通過する。そして、電子は、2次光学系60に導かれる。2次光学系60においては、中間レンズ61、アパーチャ62、投影レンズ63を通過して電子が集められる。電子は、アライナ64により整えられて、検出器70にて検出される。
アパーチャ62は、2次光学系の透過率・収差を規定する役目を持っている。異物からの信号(ミラー電子など)と周囲(正常部)の信号の差異が大きくなるように、アパーチャ62のサイズおよび位置が選択される。あるいは、周囲の信号に対する異物からの信号の割合が大きくなるように、アパーチャ62のサイズおよび位置が選択される。これにより、S/Nを高くすることができる。
たとえば、φ50〜φ3000μmの範囲で、アパーチャ62が選択可能である。検出される電子には、ミラー電子と二次放出電子とが混在しているとする。このような状況でミラー電子像のS/Nを向上するために、アパーチャサイズの選択が有利である。この場合、二次放出電子の透過率を低下させて、ミラー電子の透過率を維持できるように、アパーチャ62のサイズを選択することが好適である。
たとえば、1次電子ビームの入射角度が3°であるとき、ミラー電子の反射角度はほぼ3°である。この場合、ミラー電子の軌道が通過できる程度のアパーチャ62のサイズを選択することが好適である。たとえば、適当なサイズはφ250μmである。アパーチャ(径φ250μm)により制限されるため、二次放出電子の透過率が低下する。したがって、ミラー電子像のS/Nを向上することが可能となる。たとえば、アパーチャ径をφ2000μmからφ250μmにすると、バックグラウンド階調(ノイズレベル)を1/2以下に低減できる。
検出器(カメラ)70は、2次光学系60により導かれた電子を検出する手段である。検出器70は、その表面に複数のピクセルを有する。検出器70には、さまざまの二次元型センサを適用することができる。たとえば、検出器70には、CCD(Charge Coupled Device)およびTDI(Time Delay Integration)−CCDが適用されてよい。これらは、電子を光に変換してから信号検出を行うセンサである。そのため、光電変換などの手段が必要である。光電変換やシンチレータを用いて、電子が光に変換される。光の像情報は、光を検知するTDIに伝達される。こうして電子が検出される。
ここでは、検出器70にEB−TDIを適用した例について説明する。EB−TDIは、光電変換機構・光伝達機構を必要としない。電子がEB−TDIセンサ面に直接入射する。したがって、分解能の劣化がなく、高いMTF(Modulation Transfer Function)およびコントラストを得ることが可能となる。従来は、小さい異物の検出が不安定であった。これに対して、EB−TDIを用いると、小さい異物の弱い信号のS/Nを上げることが可能である。したがって、より高い感度を得ることができる。S/Nの向上は1.2〜2倍に達する。
<アパーチャ結像条件>
上述のように、ミラー電子は、アパーチャ62のサイズと形状に非常に敏感である。よって、アパーチャ62のサイズと形状とを適切に選択することは、高いS/Nを得るために大変重要である。以下、そのような適切なアパーチャ62のサイズと形状の選択を行うための構成の例を説明する。ここでは、アパーチャ62の孔の形状についても説明する。
ここで、アパーチャ62は、孔(開口)を有する部材(部品)である。一般に、部材がアパーチャと呼ばれることもあり、孔(開口)がアパーチャと呼ばれることもある。アパーチャ形状は、一般に、孔の形状を意味する。
上述のとおり、本実施の形態による電子線検査装置10は、ステージ30上の試料20に電子ビームを照射する1次光学系40と、試料20からの2次荷電粒子を検出する2次光学系60とを備えている。電子ビームの照射エネルギーは、電子ビームの照射により試料20から2次荷電粒子としてミラー電子が放出されるエネルギー領域に設定されている。たとえば、ランディングエネルギーは50eV以下に設定されている。
2次光学系60は、2次荷電粒子を検出するための検出器(カメラ)70と、光軸方向に沿って位置を調整可能なアパーチャ62と、アパーチャ62を通過した2次荷電粒子をカメラ70の像面に結像させる投影レンズ63とを有している。そして、制御部80が投影レンズ63の条件を調整することで、画像処理系80では、アパーチャ62の位置を物面にして撮像を行うアパーチャ結像条件で画像が形成される。
ここでは、まず、2次荷電粒子やミラー電子などの用語について説明しておく。「2次荷電粒子」には、二次放出電子およびミラー電子の一部または混在したものが含まれる。試料20の表面に電子線などの荷電粒子を照射したときは、試料表面から「二次放出電子」が発生する、または「ミラー電子」が形成される。試料20の表面に電子線が衝突して発生するのが「二次放出電子」である。つまり、「二次放出電子」とは、2次電子、反射電子、後方散乱電子の一部または混在したものを示す。また、照射した電子線が試料20の表面に衝突しないで表面近傍にて反射したものを「ミラー電子」という。
写像投影方式において、従来は、あるエネルギーを持った1次ビームを試料20に照射させて、試料20の表面から出てくる二次放出電子の情報で画像を作成していた。この際、ランディングエネルギーは、100eV〜400eVであった。しかし、この従来の方法では、二次放出電子を使用するため、大きなコントラストの差を得ることが難しかった。
一方、本実施の形態では、ランディングエネルギーを50eV以下に設定し、反射して出てくるミラー電子の情報で画像を作成する。この場合、試料20の表面の凹凸の状態によりミラー電子の反射する高さを変えることで、コントラストの差を作り出すことができ、大きなコントラストの差を得ることができる。
ミラー電子は二次放出電子と軌道が異なっており、ミラー電子の状態を観察する方法としてアパーチャ結像画像(アパーチャ結像条件で撮像した画像)が用いられる。アパーチャ結像条件とは、2次光学系60のアパーチャ62を物面にして撮像する条件(2次光学系アパーチャ結像条件)をいう。
図5を参照して、アパーチャ結像条件について説明する。通常の撮像状態では、図5(a)において実線で示す電子軌道で結像させて撮像するのに対して、アパーチャ結像条件では、図5(b)において破線で示す電子軌道で結像させて撮像する。すなわち、アパーチャ結像条件では、アパーチャ62に到達している電子の状態を観察する。
続いて、図6〜図9を参照して、アパーチャ結像条件でのフォーカス調整について説明する。図6は、アパーチャ結像条件でのミラー電子と二次放出電子の様子を示す図である。図7は、ミラー電子と二次放出電子のアパーチャ62でのクロスオーバーポイントの状態を横から見た図である。図7では、ミラー電子の軌道が破線で示されており、二次放出電子の軌道が実線で示されている。
図6および図7に示すように、ミラー電子と二次放出電子では、ベストフォーカス位置に差(フォーカス値差:たとえば、約0.5mm)がある。そして、フォーカスを変えていくと、二次放出電子の領域は、フォーカスがプラスになるに従って大きくなるのに対して、ミラー電子の領域は、あるフォーカス点で縦に長く横に細くなり、そのフォーカス点を境にして、フォーカスをプラス方向に変更すると、縦方向はつぶれて横方向は延びるように変化し、また、フォーカスをマイナス方向に変更すると、ピークが2つに分裂するように変化していく(図6参照)。
図8には、フォーカスを変更して異物を撮像した場合の見え方が示されている。図8(a)に示すように、フォーカスをマイナス方向にした場合、異物は黒く見える。一方、フォーカスをプラス方向にした場合、異物は白く見える。図8(b)では、試料表面からのミラー電子が破線で示されており、異物(欠陥)からのミラー電子が実線で示されている。図8(b)に示すように、フォーカスをマイナスからプラスに変更すると、アパーチャを通過する異物(欠陥)からのミラー電子の量が増える。
また、図9には、異なるサイズの異物を撮像した場合の見え方が示されている。図9(a)に示すように、大きい欠陥ほど白黒反転するフォーカスがプラス側にシフトしている。そして、図9(b)に示すように、サイズの小さい異物からのミラー電子は、サイズの大きい異物からのミラー電子より先に、アパーチャを通過する電子の数が増加する。なお、図9(b)では、小さい異物(欠陥)からのミラー電子が太線(太い実線)で示されており、大きい異物(欠陥)からのミラー電子が細線(細い実線)で示されている。
図10には、アパーチャ結像条件でのミラー電子像と一次ビームの入射角との関係が示されている。図10に示すように、アパーチャ結像条件にて得られるミラー電子像から一次ビームの入射角の状態が得られる。
図11は、入射角が異なる場合のアパーチャ結像条件での電子像の見え方を説明するための図である。図11(a)に示すように、垂直入射の場合には、二次放出電子像の中心にミラー電子像が存在する。また、図11(b)に示すように、入射角がY軸方向に傾きを持っていた場合には、二次放出電子像に対してY軸方向にミラー電子像がずれることになる。また、図11(c)に示すように、入射角がX軸方向に傾きを持っていた場合には、二次放出電子像に対してX軸方向にミラー電子像がずれることになる。
一次ビームの入射角がずれていた場合には、たとえば、1次光学系のアライナ電極やウィーンフィルタ(E×Bフィルタ)を用いて入射角を調整することができる。
<光軸調整方法>
ところで、発明が解決しようとする課題の欄でも言及したように、写像投影方式による電子線検査装置において、1次光学系にレンズを使用している場合には、光軸とレンズ中心とが一致している必要がある。なぜなら、試料20に照射する電子ビームの形状(照野形状)は所定の大きさを有すべきところ、光軸とレンズ中心とがずれていると、照野形状が変形するからである。また、試料20表面での電子ビームの強度は均一であることが望ましいが、光軸とレンズ中心とがずれていると、強度の均一性が崩れるからである。
より詳しくは、図12Aに示すように、光軸とレンズ中心とが一致している場合には、レンズの厚みを変更しても、照野位置は変わらない。一方、図12Bに示すように、レンズ中心が光軸からずれている場合には、レンズの厚みを変更すると、照野位置が変化する(ずれる)。静電レンズや磁界レンズでは、印加電圧・磁界を変更することで、図12Aおよび図12Bに示すようなレンズの厚みを変更した時と等価な状態が実現される。したがって、光軸調整を行う際に、静電レンズ・磁界レンズの印加電圧・磁界を意図的に変化させて使用する。これをウォブリング(Wobbling)と呼ぶ。
通常、電子線検査装置10において試料20の表面を検査する際には、図13Aに示すように、カメラ視野に対して十分大きい照野を用いる。しかしながら、この状態でレンズのウォブリングを実施する場合には、図13Bに示すように、カメラ視野内では照野位置がシフトする様子を確認することができず、カメラ70の映像からレンズの軸ズレの様子を確認することができない。したがって、本件発明者らは、当初、レンズのウォブリングによる光軸調整を行う際に、試料検査時に比べて、図14Aに示すように、カメラ視野を大きくするためにカメラ70の倍率を下げたり、図14Bに示すように、照野サイズを小さくしたりして、カメラ視野内に照野全体を投影する方法を考えた。
しかしながら、この方法には以下のような問題がある。すなわち、(1)倍率や照野サイズを変更した状態での光軸調整となるので、実際の試料検査時とは異なる条件での確認となる。特に照野サイズを変更して光軸調整を行う場合、調整したいレンズの条件の変更幅が小さくなる場合がある。具体的には、たとえば、静電レンズにおいて、試料検査時には1000Vの電圧条件で使用するが、照野サイズを小さくするために電圧条件を50Vにしなくてはならなくなった場合には、+0〜+2000Vの電源仕様に対して、ウォブリングを実施する際に本来は±500Vの電圧変更で状態観察を行いたいところ、基準電圧が低くなったために±50Vしか電圧を振れなくなる。こうなると、レンズ条件の変化量が小さくなり、照野サイズの変化が小さくなるので、軸ズレの存在を確認することができなくなる。(2)また、2次光学系60の倍率は設計により決まるため、倍率を下げても照野全体をカメラ視野内に投影できない場合がある。
これに対し、本実施の形態では、制御部80は、2次光学系60のアパーチャ62を物面にして撮像するアパーチャ結像条件(上述の図5(b)参照)を作成して、レンズのウォブリングを実施するように構成されている。
光軸とレンズ中心とが一致している場合には、レンズの厚みを変更しても、アライナ電極に対する電子ビームの通過位置は変化しないため、試料表面への照射位置および入射角は変化しない。したがって、図15Aに示すように、アパーチャ結像条件でのカメラの映像では、レンズのウォブリング中に、照野サイズが変わるだけであり、照野位置は変化しない。
一方、レンズ中心が光軸からずれている場合には、レンズの厚みを変更すると、アライナ電極に対する電子ビームの通過位置が変化するため、試料表面への照射位置および入射角が変化する。その結果、図15Bに示すように、アパーチャ結像条件でのカメラの映像では、レンズのウォブリング中に、照野位置が変化する。これにより、試料検査時に比べて倍率を下げたり照野サイズを小さくしたりしなくても、カメラの映像から軸ズレの存在を容易に確認することができ、光軸調整を行うことが可能となる。
次に、図16を参照し、本実施の形態によるアパーチャ結像条件の作成方法を説明する。
まず、図16に示すように、制御部80は、2次光学系の投影レンズ63の条件を適当な初期値に設定する(ステップS10)。また、制御部80は、アパーチャ62のサイズとして、試料検査時と同じサイズ(たとえば、二次放出電子の透過率を低下させながらミラー電子の透過率を維持できるような十分に小さいサイズ)を選択する(ステップS11)。
次に、制御部80は、1次光学系40から試料20に電子ビームを照射し、試料からの電子像をカメラ70にて撮像する(ステップS12)。
ここで、図17Aに示すように、アパーチャ結像条件が作成された後の状態では、カメラ70では、図17Bに示すような電子像が観察される。図17Cは、この電子像の断面階調を示すグラフである。
一方、図18Aに示すように、アパーチャ結像条件が作成される前の状態では、カメラで70では、図18Bに示すような電子像が観察される。図18Cは、この電子像の断面階調を示すグラフである。
よって、制御部80は、カメラ70に映る電子像におけるアパーチャの輪郭がシャープか否かを判定する(ステップS13)。より詳しくは、制御部80は、たとえば、カメラ70からの映像に基づいて、電子像の断面階調を示すグラフを作成し、アパーチャの輪郭に対応する部分のグラフの傾きが予め定められた閾値より大きいか否かを判断する。そして、制御部80は、グラフの傾きが閾値を超えた場合には、アパーチャの輪郭がシャープであると判定し、グラフの傾きが閾値を超えなかった場合には、アパーチャの輪郭がシャープでないと判定する。
アパーチャの輪郭がシャープでないと判定された場合(ステップS13:NO)、制御部80は、投影レンズ63の条件を変更する(ステップS14)。その後、制御部80は、ステップS13から処理をやり直す。
一方、アパーチャの輪郭がシャープであると判定された場合(ステップS13:YES)、制御部80は、アパーチャ結像条件の作成処理を終了する。
以上のような構成により、制御部80は、カメラ70に映る電子像におけるアパーチャの輪郭がシャープになるように、2次光学系60の投影レンズ63の条件を自動的に調整することができ、結果的に、アパーチャ結像条件を自動的に作成することができる。
次に、図19、図20Aおよび図20Bを参照して、1次光学系40における光軸調整方法の一例を説明する。図19は、1次光学系40の構成の一例を示す概略図である。図20Aおよび図20Bは、図19に示す1次光学系40における光軸調整方法の一例を示すフローチャートである。
図19に示す例では、1次光学系40は、光学的構成として、第1〜第6レンズGL1、GL2、GL3、GL4、STG、QMGと、2次光学系と共有の対物レンズCL2−3、CL1−3と、第1〜第6アライナGA1、GA2、GA3、GA4、BA1、BA2、BA3と、E×Bフィルタと、を有しており、これらは、電子源41から試料21に向かって、第1レンズGL1、第1アライナGA1、第2アライナGA2、第2レンズGL2、第3レンズGL3、第3アライナGA3、第4アライナGA4、第4レンズGL4、第4アライナB1、第6アライナBA3、第5レンズSTG、第5アライナBA2、第6レンズQMG、E×Bフィルタ、対物レンズCL2−3、CL1−3の順に並んで配置されている。
このような光学的構成を有する1次光学系40において光軸調整を行う際には、まず、制御部80は、上述したアパーチャ結像条件の作成方法に従って、アパーチャ結像条件を自動的に作成する。次に、制御部80は、第1〜第4アライナGA1、GA2、GA3、GA4の印加電圧をゼロにする(ステップS20)。また、制御部80は、第1〜第3レンズGL1、GL2、GL3以外のレンズの印加電圧をゼロにする(ステップS21)。そして、制御部80は、第4レンズGL4より試料20側に位置する第5アライナBA1を用いて照野位置を調整する(ステップS21)。
次に、制御部80は、第4レンズGL4に電圧を印加し、第4レンズGL4のウォブリングを行う(ステップS22)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS23)。
第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS23:アリ)、制御部80は、第4レンズGL4より電子源41側に位置する第3アライナGA3を用いて第4レンズGL4に対する電子ビームの通過位置の調整を行うとともに、第5アライナBA1を用いて照野位置の調整を行う(ステップS25)。そして、制御部80は、ステップS22から処理をやり直す。
一方、第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS23:ナシ)、制御部80は、第4レンズGL4に係る光軸調整を終了する。
次に、制御部80は、第2レンズGL2のウォブリングを行う(ステップS26)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第2レンズGL2のウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS27)。
第2レンズGL2のウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS27:アリ)、制御部80は、第2レンズGL2より電子源41側に位置する第2アライナGA2を用いて第2レンズGL2に対する電子ビームの通過位置の調整を行うとともに、第5アライナBA1を用いて照野位置の調整を行う(ステップS25)。そして、制御部80は、ステップS26から処理をやり直す。
一方、第2レンズGL2のウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合(ステップS27:ナシ)、制御部80は、第2レンズGL2に係る光軸調整を終了する。
制御部80は、第2レンズGL2に係る光軸調整後、第4レンズGL4が確認されたか否かを判断する(ステップS29)。
第4レンズGL4が未確認である場合には(ステップS29:YES)、制御部80は、ステップS23から処理をやり直す。
一方、第4レンズGLが確認済みである場合には(ステップS29:NO)、制御部90は、第3レンズGL3に電圧を印加し、第3レンズGL3のウォブリングを行う(ステップS30)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第3レンズGL3のウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS31)。
第3レンズGL3のウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS31:アリ)、制御部80は、第3レンズGL3より電子源41側に位置する第2アライナGA2を用いて第3レンズGL3に対する電子ビームの通過位置の調整を行うとともに、第5アライナBA1を用いて照野位置の調整を行う(ステップS32)。そして、制御部80は、ステップS30から処理をやり直す。
一方、第3レンズGL3のウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS31:ナシ)、制御部80は、第3レンズGL3に係る光軸調整を終了する。
制御部80は、第3レンズGL3に係る光軸調整後、第4レンズGL4および第2レンズGL2が確認されたか否かを判断する(ステップS33)。
第4レンズGL4および第2レンズGL2が未確認である場合には(ステップS33:YES)、制御部80は、ステップS23から処理をやり直す。
一方、第4レンズGL4および第2レンズGL2が確認済みである場合には(ステップS33:YES)、制御部80は、第3レンズGL3と第4レンズGL4との間に配置された第3アライナGA3および第4アライナGA4の印加電圧をゼロにした状態で、第4レンズGL4のウォブリングを行う(ステップS34)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS35)。
第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS35:アリ)、制御部80は、第3アライナGA3および第4アライナGA4の振り戻しで第4レンズGL4に対する電子ビームの通過位置の調整を行うとともに、第5アライナGA5を用いて照野位置の調整を行う(ステップS36)。そして、制御部80は、ステップS34から処理をやり直す。
一方、第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS35:ナシ)、制御部80は、第2レンズGL2〜第4レンズGL4のウォブリングを行う(ステップS37)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第2レンズGL2〜第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS38)。
第2レンズGL2〜第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS38:アリ)、制御部80は、ステップS26から処理をやり直す。
一方、第2レンズGL2〜第4レンズGL4のウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS38:ナシ)、制御部80は、第5レンズSTGに電圧を印加し、第5レンズSTGのウォブリングを行う(ステップS39)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第5レンズSTGのウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS40)。
第5レンズSTGのウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS40:アリ)、制御部80は、第5アライナBA1を用いて第5レンズSTGに対する電子ビームの通過位置の調整を行うとともに、第5レンズSTGより試料20側に位置する第6アライナBA2を用いて照野位置の調整を行う(ステップS41)。そして、制御部80は、ステップ39から処理をやり直す。
一方、第5レンズSTGのウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS40:ナシ)、制御部80は、第6レンズQMGに電圧を印加し、第6レンズQMGのウォブリングを行う(ステップS42)。そして、制御部80は、カメラ70の映像に基づいて、第6レンズQMGのウォブリング中に照野位置にずれがあるか否かを判断する(ステップS43)。
第6レンズQMGのウォブリング中に照野位置にずれがあると判断された場合には(ステップS43:アリ)、制御部80は、第5アライナBA1および第6アライナBA2の振り戻しで第6レンズQMGに対する電子ビームの通過位置の調整を行うともに、第6アライナBA2を用いて照野位置の調整を行う(ステップS44)。そして、制御部80は、ステップ42から処理をやり直す。
一方、第6レンズQMGのウォブリング中に照野位置にずれがないと判断された場合には(ステップS43:ナシ)、制御部80は、光軸調整処理を終了する。
このようにして、制御部80は、アパーチャ結像条件でのカメラ70の映像に基づいて、1次光学系40の各レンズに係る光軸調整を自動的に行うことができる。
以上のような本実施の形態によれば、2次光学系60のアパーチャ62の位置を物面にして撮像を行うアパーチャ結像条件にて試料20からの電子像を撮像するため、試料検査時と同じ倍率条件・照野サイズ条件であっても、1次光学系40にてレンズをウォブリングする際に、光軸とレンズ中心とがずれている場合には、カメラ70の映像から照野位置の変化(ずれ)を確認できる。これにより、試料検査時に比べて倍率を下げたり照野サイズを小さくしたりしなくても、光軸調整を行うことができる。
以上、本発明の実施の形態を例示により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。また、各実施の形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。