以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。各図においては、適宜、船外機の前側(前進方向)を矢印Frで、後側(後進方向)を矢印Rrで、上側を矢印Upで、下側を矢印Dnで示す。
<船外機の全体的な構成>
まず、本発明の実施形態に係る船外機1の全体的な構成の例について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る船外機1の構成例を模式的に示す左側面図である。図1に示すように、船外機1は、例えば、船舶9の船尾板91などに取り付けて使用される。
船外機1は、筐体として、最上部に設けられるエンジンハウジング11と、エンジンハウジング11の下側に設けられるドライブシャフトハウジング12と、ドライブシャフトハウジング12の下側に設けられるギアハウジング13とを有する。エンジンハウジング11は、例えば樹脂材料からなり、射出成形などによって形成される。ドライブシャフトハウジング12とギアハウジング13は、例えばアルミニウム合金などといった金属材料からなり、鋳造(例えば、ダイキャスト)などによって形成される。ギアハウジング13の後側には、推進プロペラ15が設けられる。また、船外機1の筐体の前側(特に、ドライブシャフトハウジング12の前側)には、船外機1を船舶9の船尾板91などに取り付けるためのブラケット装置4(「マウント装置」と称することもある)が設けられる。
船外機1の駆動力源であるエンジンユニット2は、エンジンハウジング11の内部に収容され、エンジンハウジング11の内部においてエンジンホルダ17に支持される。エンジンユニット2には、回転動力の出力軸であるクランクシャフト25の軸線方向が垂直であるバーティカル型(縦型)のエンジン(内燃機関)が適用される。エンジンユニット2は、クランクケース21と、シリンダブロック22と、シリンダヘッド23と、オイルパン24とを有する。クランクシャフト25の下端部は、クランクケース21の下面から下側に突出している。エンジンユニット2は、クランクケース21が最も前側に位置し、シリンダブロック22がクランクケース21の後側に位置し、シリンダヘッド23がシリンダブロック22の後側に位置し、これらの下側にオイルパン24が位置するように、エンジンハウジング11の内部に収容されてエンジンホルダ17に支持される。
エンジンホルダ17は、エンジンユニット2を支持する部材である。エンジンホルダ17は、そのほぼ全体がエンジンハウジング11の内部に収容される。エンジンホルダ17には、上下方向に貫通する貫通孔状の開口部171が設けられる。例えば、エンジンホルダ17は、全体として上下方向に貫通する筒状や額縁状の構成を有する。また、エンジンホルダ17の前寄りの部分には、後述するパイロットシャフト16の上端部を支持する左右一対のアッパーマウントユニット61が設けられる。また、アッパーマウントユニット61には、ステアリングブラケットが設けられており、ステアリングブラケットには操舵ハンドルが取り付けられている。
そして、エンジンユニット2のクランクケース21とシリンダブロック22とシリンダヘッド23は、エンジンホルダ17の上側に設けられ、オイルパン24はエンジンホルダ17の下側に設けられる。換言すると、エンジンユニット2のクランクケース21、シリンダブロック22およびシリンダヘッド23と、オイルパン24との間に、筒状や額縁状のエンジンホルダ17が介在するように設けられる。このため、エンジンホルダ17の開口部171の上側は、エンジンユニット2のクランクケース21とシリンダブロック22とシリンダヘッド23によって上側から塞がれた状態(蓋をされた状態)となる。また、エンジンホルダ17の開口部171の下側は、エンジンユニット2のオイルパン24によって、下側から塞がれた状態となる。そして、エンジンユニット2のクランクケース21とシリンダブロック22とシリンダヘッド23の下側には、クランクケース21とシリンダブロック22とシリンダヘッド23とエンジンホルダ17とオイルパン24とにより囲まれた領域(空間)が設けられる。説明の便宜上、この領域を「エンジンユニット下部室50」と称する。
そして、このエンジンユニット下部室50の内部には、クランクシャフト25の下端部と、ドライブシャフト54の上端部と、エンジンユニット2の回転動力をクランクシャフト25からドライブシャフト54に伝達するための第1のギア51と第2のギア52とワンウェイクラッチ53とが収容される。第1のギア51はクランクシャフト25の下端部に設けられ、第2のギア52は第1のギア52の後側に設けられ、ワンウェイクラッチ53は第2のギア52の下側に設けられる。このように、クランクシャフト25とドライブシャフト54との間に、ワンウェイクラッチ53が設けられる。ワンウェイクラッチ53は、クランクシャフト25の回転動力をドライブシャフト54に伝達するが、ドライブシャフト54の側からのバックトルクはクランクシャフト25に伝達しない。なお、これらの構成および配置構造については後述する。
ドライブシャフトハウジング12は、エンジンハウジング11の下側に設けられる。ドライブシャフトハウジング12の内部には、ドライブシャフト54が回転可能に収容される。ドライブシャフト54は、その軸線が略上下方向に延伸するように(上下方向に略平行となるように)設けられる。ドライブシャフト54は、例えばベアリングなどの軸受を介して回転可能に支持される。そして、ドライブシャフト54は、ワンウェイクラッチ53を介して伝達されたエンジンユニット2からの回転動力を、ギアハウジング13に設けられるシフト機構3を介してプロペラシャフト14に伝達する。このほか、ドライブシャフトハウジング12には排気経路181が設けられる。排気経路181は、エンジンユニット2の排気を外部に排出するための経路であり、例えば、ドライブシャフト54が収容される領域の後側に設けられる。
ギアハウジング13は、ドライブシャフトハウジング12の下側に設けられる。ギアハウジング13は、前後方向視で略円形であり前後方向に延伸する略砲弾形状の部分(以下、「砲弾形状部131」と称する)と、アンチキャビテーションプレート133と、スケグ134とを有する。砲弾形状部131の前寄りの部分は前側に向かうにしたがって外径が徐々に小さくなる先細り形状を有し、後寄りの部分は外径が略等径の形状を有する。ギアハウジング13の内部(特に、砲弾形状部131の内部)には、シフト機構収容室132が設けられる。シフト機構収容室132は、後側が開口している領域である。シフト機構収容室132の内部には、軸受ハウジング36とシフト機構3が収容されるとともに、プロペラシャフト14が回転可能に収容される。
また、ギアハウジング13の内部には、シフトロッド収容室137と、ドライブシャフト収容室138と、排気経路182とが設けられる。シフトロッド収容室137とドライブシャフト収容室138と排気経路182とは、いずれもギアハウジング13の上端(上面)からシフト機構収容室132に繋がる孔状の領域(開口部)である。そして、前側から、シフトロッド収容室137、ドライブシャフト収容室138、排気経路182の順に、前後方向に直列的に並ぶように設けられる。
このほか、ギアハウジング13には、砲弾形状部131よりも上側にアンチキャビテーションプレート133が設けられる。砲弾形状部131の下側には、スケグ134が設けられる。そして、ギアハウジング13の砲弾形状部131とアンチキャビテーションプレート133とスケグ134とは、例えば一体に形成される。本発明の実施形態では、アンチキャビテーションプレート133と砲弾形状部131とスケグ134とが、船外機1の使用時において水中に没する部分である。
シフト機構3は、ドライブシャフト54からプロペラシャフト14へ伝達する回転動力の断続と、伝達する回転動力の回転方向の切替えをおこなう。そしてこれにより、シフト機構3はシフトポジションを切替える。シフト機構3は、駆動ギア31と、2つの被動ギアであるフォワードギア32およびリバースギア33と、ドッグクラッチ34と、クラッチ駆動機構35とを有する。
シフト機構3の駆動ギア31は、ドライブシャフト54の下端部に、ドライブシャフト54と一体に回転するように設けられる。例えば、駆動ギア31は、ドライブシャフト54の下端部にキーやスプラインなどによって結合している。フォワードギア32は、駆動ギア31の後下側に設けられる。そして、フォワードギア32は、軸受ハウジング36に収容されたテーパーローラーベアリングなどの軸受を介して、シフト機構収容室132の内部に回転可能に支持される。リバースギア33は、駆動ギア31の前下側に設けられる。そしてリバースギア33は、テーパーローラーベアリングなどの軸受によってギアハウジング13のシフト機構収容室132の内部に回転可能に支持される。フォワードギア32とリバースギア33は、それらの軸線が前後方向に平行で、かつ互いに同軸となるように設けられる。シフト機構3の駆動ギア31とフォワードギア32とリバースギア33には、いずれもベベルギアが適用される。そして、エンジンユニット2が出力する回転動力によって駆動ギア31が回転すると、フォワードギア32とリバースギア33は互いに反対方向に回転する。なお、駆動ギア31とフォワードギア32とリバースギア33とには、いずれも、ワンウェイクラッチなどといった回転動力を断続する機構を有さない一般的なギアが適用される。
プロペラシャフト14の前寄りの部分は、ギアハウジング13のシフト機構収容室132の内部に回転可能に収容され、フォワードギア32とリバースギア33の軸孔に回転可能に挿通される。そして、プロペラシャフト14の先端部は、フォワードギア32の軸孔に収容されたテーパーローラーベアリングなどの軸受によって、フォワードギア32を介してギアハウジング13に回転可能に支持されている。さらに、プロペラシャフト14は、フォワードギア32よりも後側において、ニードルベアリングなどの軸受によって、軸受ハウジング36を介してギアハウジング13に回転可能に支持されている。また、プロペラシャフト14とフォワードギア32およびリバースギア33との間には、ニードルベアリングなどの軸受が介在するように設けられる。また、プロペラシャフト14の後寄りの部分はギアハウジング13から後側に突出している。この突出している部分には、推進プロペラ15が、プロペラシャフト14と一体に回転するように、シャーピンなどによって結合されている。
プロペラシャフト14の外周面上のフォワードギア32とリバースギア33との間には、ドッグクラッチ34が設けられる。ドッグクラッチ34は、前後方向(プロペラシャフト14の軸線方向)に往復動可能で、プロペラシャフト14に一体に回転する(相対的に回転できない)。ドッグクラッチ34が後側に移動してフォワードギア32と係合すると、フォワードギア32とプロペラシャフト14とは一体に回転する。この状態では、駆動ギア31からの回転動力は、フォワードギア32を介してプロペラシャフト14に伝達される。ドッグクラッチ34が前側に移動してリバースギア33と係合すると、リバースギア33とプロペラシャフト14とは一体に回転する。この状態では、駆動ギア31からの回転動力は、リバースギア33を介してプロペラシャフト14に伝達される。また、ドッグクラッチ34がフォワードギア32とリバースギア33の中間に位置していずれとも係合しない状態では、駆動ギア31からの回転動力はプロペラシャフト14に伝達されない。このような構成のシフト機構3のシフトポジションは、ドッグクラッチ34がフォワードギア32に係合する場合が「前進」であり、リバースギア33に係合する場合が「後進」であり、いずれにも係合しない場合が「中立」である。
クラッチ駆動機構35は、シフトロッド19の回転によってドッグクラッチ34を前後方向に移動させる。クラッチ駆動機構35には、シフトロッド19の回転をドッグクラッチ34の直線運動に変換するカム機構などが適用される。なお、船外機1は、シフトポジションの切替えのためのアクチュエーアを有していてもよい。この場合、アクチュエータは、使用者(操船者等)の操作に応じてシフトロッド19を回転させ、シフトポジションを切替える。
軸受ハウジング36は、前側に向かうにしたがって内径および外径が大きくなる不均一径の円筒形状を有する筒状部と、この筒状部の外周面に設けられるリブ状部とを有する。そして、軸受ハウジング36の筒状部の内部の前寄りの部分には、フォワードギア32を回転可能に支持する軸受が収容され、その後側にはプロペラシャフト14を回転可能に支持する軸受が収容される。また、軸受ハウジング36の筒状部の後端部には、プロペラシャフト14と筒状部の内周面との間に介在するようにオイルシールが設けられる。
シフト機構収容室132の内部のうち、軸受ハウジング36の筒状部の内側および軸受ハウジング36よりも前側は、潤滑油が充填されている。このため、駆動ギア31とフォワードギア32とリバースギア33とこれらを回転可能に支持する軸受とは、潤滑油に浸された状態となり、この潤滑油によって潤滑される。
軸受ハウジング36の筒状部の外周面と、ギアハウジング13のシフト機構収容室132の後寄りの部分の内周面との間には、隙間が設けられる。この隙間は、ギアハウジング13に設けられる排気経路182と繋がっている。このような構成であると、エンジンユニット2の排気は、ドライブシャフトハウジング12に設けられる排気経路181と、ギアハウジング13に設けられる排気経路182と、この隙間とを通じて、船外機1の外部に排出される。すなわち、シフト機構収容室132は排気経路の一部として機能する。
ブラケット装置4は、船外機1の筐体の前側、特にドライブシャフトハウジング12の前側であって、エンジンハウジング11の前下側に設けられる。ブラケット装置4は、パイロットシャフト16とスイベルブラケット41とトランサムブラケット42をと有する。
パイロットシャフト16は、上下方向に延伸する中空軸状の部材であり、ドライブシャフトハウジング12の前側に設けられる。パイロットシャフト16の上端部は、エンジンホルダ17の前寄りの部分に設けられる左右一対のアッパーマウントユニット61により支持される。パイロットシャフト16の下端部は、ドライブシャフトハウジング12に設けられる左右一対のロアーマウントユニット62により支持される。
スイベルブラケット41は、パイロットシャフト16に取り付けられる。例えば、スイベルブラケット41には上下方向に貫通する軸孔が設けられており、この軸孔の内部にパイロットシャフト16が相対的に回転可能に挿通されている。そして、スイベルブラケット41と船外機1の筐体とは、パイロットシャフト16を回転中心として、水平方向に相対的に回転可能である。前述のとおり、アッパーマウントユニット61には、ステアリングブラケットが設けられており、ステアリングブラケットには操舵ハンドルが取り付けられる。使用者(操船者等)は、操舵ハンドルを操作することにより、船外機1の筐体を、パイロットシャフト16を中心として左右方向に回転させる(操舵する)ことができる。
トランサムブラケット42は、船外機1の使用時において船舶9の船尾板91などに固定される。トランサムブラケット42は、軸線が左右方向に平行に設けられるティルト軸43を介して、スイベルブラケット41に取り付けられている。そして、船外機1の筐体がティルト軸43を中心として上下方向にティルトやトリムできるように、トランサムブラケット42とスイベルブラケット41とは、ティルト軸43を中心として相対的に上下方向(ピッチング方向)に回転に連結される。
パイロットシャフト16には、シフトロッド19が回転可能に挿通されている。船外機1がシフトポジションを切替えるためのアクチュエータを有する構成であれば、シフトロッド19の上端部にはアクチュエータが接続される。そして、シフトロッド19はこのアクチュエータの駆動力によって回転する。船外機1が手動でシフトポジションを切替えることができる構成であれば、シフトロッド19の上端部には、シフトレバーが設けられる。この場合には、使用者(操船者等)がシフトレバーを操作することにより、シフトロッド19を手動で回転させる。シフトロッド19の下端部はクラッチ駆動機構35に接続されており、シフトロッド19の回転運動はクラッチ駆動機構35によって前後方向に直線運動に変換される。そして、この直線運動によってシフト機構3のドッグクラッチ34が前後方向に移動し、シフトポジションが切替わる。
<ワンウェイクラッチの機能>
ここで、ワンウェイクラッチ53の機能について説明する。ワンウェイクラッチ53は、シフト機構3のシフトポジションの切替え(シフトチェンジ)の動作の確実性を高めるために設けられる。例えば、前進または後進から中立にシフトチェンジする際に、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との間にトルクが掛かっていると、トルクが掛かっていない場合に比較して、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との噛合いを外すために大きな力を要する。そこで、シフトチェンジの際には、エンジンユニット2の出力を低減し、エンジンユニット2の側から推進プロペラ15の側に回転動力が伝達されないようにする。しかしながら、航走中にエンジンユニット2の出力を小さくすると、水流によって推進プロペラ15が回転するため、推進プロペラ15からエンジンユニット2の側にトルク(バックトルク)が掛かる。このため、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との間にトルクが掛かった状態となる。
船外機1がシフトチェンジのためのアクチュエータを有する構成において、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との噛合いを外すために要する力がアクチュエータによる駆動力よりも大きくなると、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との噛合いが外れない。そうすると、使用者(操船者等)がシフトポジションの切替えのためにアクチュエータを操作しても、実際にはシフトポジションが切替わらない。また、アクチュエータが作動した場合であっても、シフトロッド19が弾性変形してアクチュエータの駆動力が吸収され、シフトポジションが切替わらないことがある。同様に、使用者(操船者等)が手動でシフトポジションを切り替える構成において、使用者(操船者等)がシフトポジションの切替えの際にシフトレバーの操作に大きな力を要することになる。また、使用者(操船者等)がシフトレバーを操作しても、シフトロッド19が弾性変形してシフトレバーの動きが吸収され、シフトポジションが切替わらないことがある。
そこで、クランクシャフト25とドライブシャフト54の間にワンウェイクラッチ53を設ける。そしてこのワンウェイクラッチ53により、エンジンユニット2の側から推進プロペラ15の側にはエンジンユニット2の回転動力を伝達するが、推進プロペラ15の側からエンジンユニット2の側にはトルクを伝達しないようにする。すなわち、推進プロペラ15の側からエンジンユニット2の側にトルクが掛かった場合には、プロペラシャフト14とドライブシャフト54とが無負荷状態で回転する構成とする。このような構成であると、エンジンユニット2が出力する回転動力を低減した場合(例えば、アクセルを全閉にした場合)に、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との間でのトルクの伝達がなくなるから、ドッグクラッチ34とフォワードギア32またはリバースギア33との噛合いを外すために要する力が小さくなる。このため、シフトポジションを前進または後進から中立へ切り替えるシフトチェンジを確実に行うことができる。
<ワンウェイクラッチの配置構造>
本発明の実施形態では、このようなワンウェイクラッチ53を、クランクケース21の直下に設ける。ここで、ワンウェイクラッチ53の配置構造について、図2〜図5を参照して説明する。図2は、ワンウェイクラッチ53の配置構造を模式的に示す左側面図であり、エンジンホルダ17の上寄りの部分を消去して示す図である。図3は、ワンウェイクラッチ53の配置構造を模式的に示す断面図であり、上側から見た図である。図4は、ワンウェイクラッチ53の配置構造を模式的に示す斜視図であり、エンジンユニットを消去した図である。図5は、第1のギア52とワンウェイクラッチ53とドライブシャフト54の接続構造を模式的に示す分解斜視図である。
図2〜図4に示すように、クランクシャフト25の下端部(クランクケース21の下側に突出している部分)と第1のギア51と第2のギア52とワンウェイクラッチ53とドライブシャフト54の上端部とは、エンジンユニット下部室50の内部に収容される。
クランクシャフト25の下端部は、クランクケース21の下端部から突出しており、エンジンユニット下部室50の内部に入り込んでいる。そして、クランクシャフト25の下端部には、第1のギア51が一体に回転するように設けられる。第1のギア51の後側には、この第1のギア51と常時噛合っている第2のギア52が回転可能に設けられる。例えば、第2のギア52は、ローラーベアリングなどの軸受によって、クランクシャフト25の下側に回転可能に支持されている。なお、第1のギア51と第2のギア52とには、軸線(回転中心線)が平行となる円筒歯車が適用される。そして、第1のギア51と第2のギア52は、いずれも軸線が略上下方向に平行な向きで設けられる。第2のギア52の下側には、ワンウェイクラッチ53とドライブシャフト54とが、第2のギア52に同軸に設けられる。そして、第2のギア52とドライブシャフト54とは、ワンウェイクラッチ53を介して接続される。このように、クランクシャフト25の下側に設けられるドライブシャフト54は、クランクシャフト25と平行ではあるが同軸ではなく、クランクシャフト25よりも後側において回転可能に設けられる。
ワンウェイクラッチ53は、エンジンユニット2が出力する回転動力を第2のギア52からドライブシャフト54に伝達するが、ドライブシャフト54に掛ったバックトルクは第2のギア52に伝達しない。なお、ワンウェイクラッチ53の構成は特に限定されるものではなく、スプラグ式のワンウェイクラッチやカム式のワンウェイクラッチなど、公知の各種ワンウェイクラッチが適用される。
例えば、スプラグ式のワンウェイクラッチは、同軸に設けられるアウターレース531(外輪)とインナーレース532(内輪)と、アウターレース531とインナーレース532との間に設けられるスプラグとを有する(図5参照)。そして、アウターレース531がインナーレース532に対してある一方向へ回転する場合には、スプラグがアウターレース531とインナーレース532に噛み合い、アウターレース531からインナーレース532に対して回転動力を伝達する。これに対してインナーレース532がアウターレース531に対して前記ある一方向に回転する場合には、スプラグの噛合いが外れてインナーレース532からアウターレース531に対して回転動力が伝達されない。
また、カム式のワンウェイクラッチは、同軸に設けられるアウターレース531(外輪)とインナーレース532(内輪)と、アウターレース531とインナーレース532との間に設けられるカム機構とを有する(図5参照)。カム機構は、バネと、ローラーと、アウターレース531またはインナーレース532に設けられるカム面とを有する。そして、アウターレース531がインナーレース532に対してある一方向へ回転すると、ローラーとカム面との接触圧力が高くなり、アウターレース531からインナーレース532に回転動力が伝達される。一方、インナーレース532がアウターレース531に対して前記ある一方向へ回転すると、ローラーとカム面との接触圧力が小さくなり、インナーレース532からアウターレース531には回転動力は伝達されない。
上述のようなワンウェイクラッチ53が適用される場合には、第2のギア52とワンウェイクラッチ53のアウターレース531およびインナーレース532と、ドライブシャフト54とは、同軸に設けられる。そして、第2のギア52とワンウェイクラッチ53のアウターレース531とが一体に回転するように結合され、ドライブシャフト54とワンウェイクラッチ53のインナーレース532とが一体に回転するように結合される。また、アウターレース531からインナーレース532に回転動力を伝達する回転方向(前述した「ある一方向」)と、エンジンユニット2の回転動力が伝達された際の第2のギア52の回転方向とを同じ方向とする。
このような構成であれば、エンジンユニット2が出力する回転動力は、第1のギア51と第2のギア52とワンウェイクラッチ53とを介してドライブシャフト54に伝達される。一方、推進プロペラ15にバックトルクがかかった場合には、バックトルクはドライブシャフト54から第2のギア52に伝達されない。この場合には、プロペラシャフト14と、シフト機構3の各ギアと、ドライブシャフト54とは、無負荷状態で回転する。
第2のギア52とワンウェイクラッチ53との結合構造としては、例えば、図5に示すように、第2のギア52の回転軸55の下端部に半径方向外側に延出するフランジ551を設け、このフランジ551にワンウェイクラッチ53のアウターレース531をネジなどによって結合する構成が適用できる。また、ワンウェイクラッチ53とドライブシャフト54との結合構造としては、スプライン結合が適用できる。すなわち、ドライブシャフト54の上端部の外周と、ワンウェイクラッチ53のインナーレース532の内周面に、それぞれスプライン(軸線方向に延伸する凸条や凹溝)を設ける。そして、ドライブシャフト54の上端部をワンウェイクラッチ53のインナーレース532の軸孔(ボス孔)に挿入することにより、ワンウェイクラッチ53とドライブシャフト54とをスプライン結合する。
ただし、第2のギア52とワンウェイクラッチ53との結合構造は、前記構造に限定されない。例えば、第2のギア52とワンウェイクラッチ53のアウターレース531とを直接にネジ止めする構成であってもよい。さらに、ワンウェイクラッチ53のアウターレース531に第2のギア52が一体に形成される構成(アウターレース531の外周面に歯車の歯が設けられる構成)であってもよい。
同様に、ドライブシャフト54とワンウェイクラッチ53のインナーレース532との結合構造も、前記構造に限定されない。例えば、ドライブシャフト54の上端部に半径方向外側に延出するフランジを設け、このフランジにワンウェイクラッチ53のインナーレース532をネジなどによって接合する構成であってもよい。
また、第2のギア52とワンウェイクラッチ53のインナーレース532とが一体に回転するように接合され、ドライブシャフト54とワンウェイクラッチ53のアウターレース531とが一体に回転するように接合される構成であってもよい。この場合には、ワンウェイクラッチ53は、エンジンユニット2の回転動力が伝達されてインナーレース532が回転する場合に、インナーレース532からアウターレース531に回転動力が伝達されるように設けられる。
このように、船外機1は、推進プロペラ15からのトルクをエンジンユニット2に伝達しないようにするワンウェイクラッチ53を有し、このワンウェイクラッチ53は、ギアハウジング13ではなくエンジンハウジング11の内部に配置される。このような構成であると、ギアハウジング13の小型化を図ることができる。
例えば、ワンウェイクラッチ53がギアハウジング13に設けられ、ドライブシャフト54とシフト機構3の駆動ギア31との間に介在する構成であると、シフト機構3の駆動ギア31を大型化しなければならない。そして、シフト機構3の駆動ギア31からフォワードギア32とリバースギア33のそれぞれに回転動力を減速して伝達する構成であると、駆動ギア31の大型化に伴ってフォワードギア32とリバースギア33も大型化しなければならない。このため、ギアハウジング13の大型化、特に、砲弾形状部131の大径化を招く。砲弾形状部131は航走時に水没する部分であるため、砲弾形状部131が大型化するとギアハウジング13の水没する部分が大型化する。この結果、ギアハウジング13の水の抵抗が大きくなり、燃費が低下する。
これに対して、本発明の実施形態によれば、シフト機構3の駆動ギア31には、ワンウェイクラッチ53が結合されない。このため、シフト機構3の駆動ギア31を大型化することなく、シフト機構3の駆動ギア31とフォワードギア32およびリバースギア33との間にバックトルクがかからないようにできる。このため、ギアハウジング13のうちの航走中において水没する部分の大型化を招くことなく、推進プロペラ15の側からエンジンユニット2の側に回転動力が伝達されないようにできる。そして、ギアハウジング13の水の抵抗の増加の防止(または水の抵抗の低減)を図ることができ、燃費の低下の防止または燃費の向上を図ることができる。
また、クランクケース21の下側には、エンジンユニット下部室50が設けられる。そして、クランクシャフト25の下端部と、第1のギア51と、第2のギア52と、ワンウェイクラッチ53と、ドライブシャフト54の上端部とは、このエンジンユニット下部室50の内部に収容される。なお、ワンウェイクラッチ53は、オイルパン24に貯留される潤滑油の油面よりも上側に位置するように、このエンジンユニット下部室50の上寄りの位置に設けられる。特に、ワンウェイクラッチ53は、クランクケース21やシリンダブロック22の下面の直下に設けられる。例えば、第2のギア52はクランクケース21やシリンダブロック22の下面に軸受などによって回転可能に支持されており、ワンウェイクラッチ53はこの第2のギア52に取付けられている。このように、第1のギア51と第2のギア52とワンウェイクラッチ53とは、このエンジンユニット下部室50の内部でかつオイルパン24の上側に設けられる。このため、オイルパン24に貯留される潤滑油に浸された状態にはならないが、オイルパン24に貯留される潤滑油の飛沫などによって潤滑される。したがって、メカロスを防止しつつ、第1のギア51と第2のギア52とワンウェイクラッチ53の潤滑を確保できる。
例えば、ワンウェイクラッチ53がシフト機構収容室132に設けられる構成では、ワンウェイクラッチ53はシフト機構収容室132に貯留された潤滑油に浸された状態となり、この潤滑油によって潤滑される。このような構成であると、ワンウェイクラッチ53の回転により潤滑油を撹拌することになるため、メカロス(動力の損失)が発生する。同様に、ワンウェイクラッチ53がオイルパン24に貯留される潤滑油に浸されるように設けられる構成でも、ワンウェイクラッチ53が潤滑油を撹拌するため、メカロスが発生する。
これに対して、本発明の実施形態では、ワンウェイクラッチ53は、エンジンユニット2のクランクケース21やシリンダブロック22の直下であって、オイルパン24に貯留されている潤滑油の油面よりも高い位置に配置される。すなわち、ワンウェイクラッチ53は、オイルパン24に貯留されている潤滑油に浸されていない状態に維持される。このため、ワンウェイクラッチ53が回転する際に、オイルパン24に貯留される潤滑油を撹拌することがないから、潤滑油の撹拌によるメカロスが発生しない。なお、ワンウェイクラッチ53は、エンジンユニット2のクランクケース21とエンジンホルダ17とオイルパン24とに囲まれた空間に配置される。このような構成であると、ワンウェイクラッチ53は、オイルパン24に貯留されている潤滑油の飛沫などによって潤滑される。したがって、潤滑油によりワンウェイクラッチ53を潤滑しつつ、潤滑油によるメカロスの発生を防止できる。そして、メカロスの発生を防止できるから、燃費の向上を図ることができる。
本発明の実施形態では、第1のギア51と第2のギア52とは減速機構(リダクションギア)として機能する。すなわち、第2のギア52は第1のギア51よりもピッチ円直径が大きい(歯数が多い)。このような構成であると、エンジンユニット2が出力する回転動力は、第1のギア51と第2のギア52とによって減速されてプロペラシャフト14に伝達される。このため、推進プロペラ15に伝達される回転動力のトルクを大きくできる。このため、最終的に推進プロペラ15に伝達される回転動力のトルクの適正化を図ることが容易となる。
また、第1のギア51と第2のギア52とが減速機構として機能する構成であると、シフト機構3の駆動ギア31とフォワードギア32およびリバースギア33との減速比を小さくできる。このため、フォワードギア32とリバースギア33の小型化を図ることができるから、ギアハウジング13の小型化、特に、砲弾形状部131の小径化を図ることができる。したがって、船外機1のうちの水没する部分の小型化を図ることができ、水の抵抗を小さくして燃費の向上を図ることができる。
また、本発明の実施形態では、ワンウェイクラッチ53は、ギアハウジング13(すなわち、航走中に水没する部分)には設けられない。ギアハウジング13は、航走時に水没するため、浮遊物や障害物に衝突して損傷することがある。また、浅瀬航走時にはスケグ134が水底に接触して損傷することがある。そして、損傷の程度によっては、ギアハウジング13を交換しなければならなくなることがある。
ワンウェイクラッチ53がギアハウジング13に設けられる構成であると、ギアハウジング13に組み付けられる部品点数が多くなるため、ギアハウジング13の価格が上昇する。このため、交換の際に要する費用も上昇する。これに対して、本発明の実施形態によれば、ワンウェイクラッチ53はエンジンユニット下部室50の内部に設けられ、ギアハウジング13には設けられない。このような構成であると、ギアハウジング13に組み付けられる部品点数の増加を抑制することができる。このため、ギアハウジング13の価格の上昇を抑制でき、交換の際に要する費用の上昇を抑制できる。
また、ドライブシャフト54は、クランクシャフト25よりも後側に設けられるため、クランクシャフト25の下側にはスペースが生じる。そしてこのスペースに、ブラケット装置4が設けられる。例えば、図1や図2に示すように、クランクシャフト25とパイロットシャフト16とをほぼ同軸に設けることができる。このような構成であると、クランクシャフト25とドライブシャフト54が同軸である構成に比較して、船外機1の重心をパイロットシャフト16に接近させることができる。船外機1を左右に操舵する場合には、船外機1の筐体は、パイロットシャフト16を回転中心として左右方向に回転する。このため、船外機1の重心が船外機1の回転中心に接近すると、操舵に要する力(船外機1を回転させるためのモーメント)を小さくできる。したがって、船外機1の操作性が向上する。
また、このような構成によれば、船外機1の重心をティルト軸43に接近させることができる。船外機1はティルト軸43を中心として回転するようにティルトやトリムされることから、船外機1の重心をティルト軸43に接近させることによって、ティルトやトリムに要する力(船外機1を上下方向に回転させるためのモーメント)を小さくできる。したがって、船外機1のティルトやトリムが容易となる。
さらに、このような構成によれば、船外機1の前後方向寸法を小さくして船外機1の小型化を図ることができる。そして、船外機1の重心が左右一対のアッパーマウントユニット61やロアーマウントユニット62に接近するから、エンジンユニット2から船舶9に伝達する振動が大幅に低減される。
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明したが、前記実施形態は、本発明の実施にあたっての具体例を示したに過ぎない。本発明の技術的範囲は、前記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、ワンウェイクラッチは、スプラグ式やカム式に限定されるものではない。ワンウェイクラッチには、公知の各種のワンウェイクラッチが適用できる。要は、ワンウェイクラッチは、エンジンユニットの回転動力をドライブシャフトに伝達するが、推進プロペラからのバックトルクはエンジンユニット2に伝達しない構成であればよい。また、第2のギアとワンウェイクラッチとの接続構造や、ドライブシャフトとワンウェイクラッチの接続構造も特に限定されるものではない。