JP2018082154A - 構造物 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐プラズマ性を高めることができる構造物を提供することを目的とする。【解決手段】斜方晶の結晶構造を有するイットリウムオキシフッ化物の多結晶体を主成分とし、前記多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である構造物であって、X線回折により回折角2θ=32.0°付近において検出されるピーク強度をγとし、回折角2θ=32.8°付近において検出されるピーク強度をδとしたときに、ピーク強度比γ/δは、0%以上150%以下である構造物が提供される。【選択図】図4

Description

本発明の態様は、一般的に、構造物に関する。
半導体製造装置などのプラズマ照射環境下で用いられる部材として、その表面に耐プラズマ性が高い被膜を形成したものが用いられている。被膜には、例えば、アルミナ(Al)、イットリア(Y)等の酸化物、あるいは、窒化アルミニウム(AlN)などの窒化物が用いられる。
一方、酸化物系セラミックスでは、CF系ガスとの反応によるフッ化に伴い、膜の体積が膨張し、クラック等が発生し、結果としてパーティクルの発生につながるとして、元々フッ化されているフッ化イットリウム(YF)等のフッ化物系セラミックスを用いる提案がなされている(特許文献1)。また、イットリウムのオキシフッ化物やYFを含む顆粒からなる溶射材料や、YFベースの耐プラズマコーティングも提案されている(特許文献2、3)。
YFは、例えば1000℃〜1100℃程度の高温で分解してしまうため、その焼結体を作製する際の焼成温度は、例えば800℃程度までとされる(特許文献4)。しかし、焼成温度が低い場合には、密度を十分に高めることが困難である。また、焼成時に発生するフッ素ガスは、有毒であり、安全性にも問題がある。そこで、溶射等の方法でYFの構造物が作製されている。しかしながら、溶射では、YFを含む構造物を十分に緻密に作製することが困難であり、耐プラズマ性に劣るという課題があった。
また、CF系プラズマ及びCl系プラズマの双方に対する耐性が期待される、希土類のオキシフッ化物を用いることも検討されている。
例えば、イットリウムのオキシフッ化物を含む焼結体を、真空や窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で焼成することが検討されている(特許文献5、6)。この方法では、不活性雰囲気下での焼成により、得られる焼結体にイットリア(Y)が混入してしまうことを抑えることができる。しかし、焼結体では、焼結に伴う粒成長により、結晶構成粒子が大きくなるため、パーティクルが大きくなりやすいという課題がある。
また、例えば、希土類元素のオキシフッ化物を原料として溶射膜を形成することも検討されている(特許文献7)。しかし、溶射では、加熱時に大気中の酸素によって酸化が生じる。そのため、得られた溶射膜中にYが混入し、組成の制御が難しいことがある。また、溶射膜には、依然として緻密性に課題がある。
一方、特許文献8には、Yについて、エアロゾルデポジション法により常温で耐プラズマ性の構造物を形成可能であることが開示されている。エアロゾルデポジション法等の機械的衝撃による構造物の形成法では常温で製膜が可能である。このため、エアロゾルデポジション法では、フッ化物の熱分解の懸念がなく、有毒なフッ素ガスの影響を受けずに安全に、イットリウムとフッ素とを含む化合物を含む構造物を作製できる。
特開2013−140950号公報 特開2014−009361号公報 特開2016−076711号公報 特開2003−146755号公報 特許第4160224号公報 特許第5911036号公報 特許第5927656号公報 特開2016−027624号公報
イットリウムのオキシフッ化物やフッ化イットリウムを含む構造物においても、耐プラズマ性にばらつきが生じることがある。
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、耐プラズマ性を高めることができる構造物を提供することを目的とする。
第1の発明は、斜方晶の結晶構造を有するイットリウムオキシフッ化物の多結晶体を主成分とし、前記多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である構造物であって、X線回折により回折角2θ=32.0°付近において検出されるピーク強度をγとし、回折角2θ=32.8°付近において検出されるピーク強度をδとしたときに、ピーク強度比γ/δは、0%以上150%以下である構造物である。
本願発明者らは、イットリウムオキシフッ化物を含む構造物において、ピーク強度比γ/δと耐プラズマ性との関係を見出した。ピーク強度比γ/δを0%以上150%以下とすることで、耐プラズマ性を高めることができる。
第2の発明は、イットリウムフッ化物の多結晶体を含み、前記多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である構造物であって、X線回折により回折角2θ=24.3°付近において検出されるピーク強度をαとし、回折角2θ=25.7°付近において検出されるピーク強度をβとしたときに、ピーク強度比α/βは、0%以上100%未満である構造物である。
本願発明者らは、イットリウムフッ化物を含む構造物において、ピーク強度比α/βと耐プラズマ性との関係を見出した。ピーク強度比α/βを0%以上100%未満とすることで、耐プラズマ性を高めることができる。
第3の発明は、第1の発明において、前記ピーク強度比γ/δは、120%以下である構造物である。
第4の発明は、第1の発明において、前記ピーク強度比γ/δは、110%以下である構造物である。
この構造物によれば、耐プラズマ性をさらに高めることができる。
第5の発明は、第1の発明において、前記構造物は、イットリウムフッ化物の多結晶体をさらに含み、X線回折により回折角2θ=24.3°付近において検出されるピーク強度をαとし、回折角2θ=25.7°付近において検出されるピーク強度をβとしたときに、ピーク強度比α/βは、0%以上100%未満である構造物である。
この構造物によれば、耐プラズマ性をさらに高めることができる。
第6の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記平均結晶子サイズは、50ナノメートル未満である構造物である。
第7の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記平均結晶子サイズは、30ナノメートル未満である構造物である。
第8の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記平均結晶子サイズは、20ナノメートル未満である構造物である。
これらの構造物によれば、平均結晶子サイズが小さいことにより、プラズマによって構造物から発生するパーティクルを小さくすることができる。
第9の発明は、第1の発明において、X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記δに対する前記εの割合が1%未満である構造物である。
第10の発明は、第2の発明において、X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記αに対する前記εの割合が1%未満である構造物である。
これらの構造物によれば、構造物に含まれるYが微少であるため、CF系プラズマによるフッ化が抑制され、耐プラズマ性をさらに高めることができる。
第11の発明は、第1〜第10のいずれか1つの発明において、X線回折により回折角2θ=29.1°付近においてピークが検出されない構造物である。具体的には、X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記αに対する前記εの割合が0%である。
この構造物によれば、Yが実質的に含まれないため、CF系プラズマによるフッ化が抑制され、耐プラズマ性をさらに高めることができる。
本発明の態様によれば、耐プラズマ性を高めることができる構造物が提供される。
実施形態に係る構造物を有する部材を例示する断面図である。 構造物の原料を例示する表である。 構造物のサンプルを例示する表である。 構造物のサンプルを例示する表である。 実施形態に係る別の構造物を有する部材を例示する断面図である。 実施形態に係る構造物を例示する写真図である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、実施形態に係る構造物を有する部材を例示する断面図である。
図1に示すように、部材10は、例えば基材15と、構造物20と、を有する複合構造物である。
部材10は、例えば、チャンバを有する半導体製造装置用の部材であり、チャンバ内部に設けられる。チャンバの内部にはガスが導入されプラズマが生じるため、部材10には耐プラズマ性が要求される。なお、部材10(構造物20)は、チャンバの内部以外に用いられてもよいし、半導体製造装置は、アニール、エッチング、スパッタリング、CVDなどの処理を行う任意の半導体製造装置(半導体処理装置)を含む。また、部材10(構造物20)は、半導体製造装置以外の部材に用いられてもよい。
基材15は、例えばアルミナを含む。ただし、基材15の材料は、アルミナなどのセラミックスに限定されず、石英、アルマイト、金属あるいはガラスなどであってもよい。なお、この例では、基材15と構造物20とを有する部材10について説明している。基材15を設けず構造物20のみの態様も実施形態に包含される。また、基材15の表面(構造物20が形成される面)の算術平均粗さRa(JISB0601:2001)は、例えば5マイクロメータ(μm)未満、好ましくは1μm未満、より好ましくは0.5μm未満である。
構造物20は、イットリウム(Y)とフッ素(F)とを含む化合物の多結晶体を含む。具体的には、構造物20は、イットリウムフッ化物(YF)及びイットリウムオキシフッ化物の少なくともいずれかを含む。構造物20の主成分は、斜方晶の結晶構造を有するイットリウムオキシフッ化物である。または、構造物20の主成分は、斜方晶の結晶構造を有するYFでもよい。
本願明細書において、構造物の主成分とは、構造物のX線回折(X−ray Diffraction:XRD)による定量又は準定量分析により、構造物20に含まれる他の化合物よりも相対的に多く含まれる化合物をいう。例えば、主成分は、構造物中に最も多く含まれる化合物であり、構造物全体において主成分が占める割合は、体積比又は質量比で50%よりも大きい。主成分が占める割合は、より好ましくは70%より大きく、90%より大きいことも好ましい。主成分が占める割合が100%であってもよい。
なお、イットリウムオキシフッ化物とは、イットリウムと酸素(O)とフッ素との化合物であり、例えば、1:1:1のYOF(モル比がY:O:F=1:1:1)、1:1:2のYOF(モル比がY:O:F=1:1:2)が挙げられる。なお、本願明細書において、Y:O:F=1:1:2という範囲は、Y:O:Fが正確に1:1:2である組成に限られず、イットリウムに対するフッ素のモル比(F/Y)が1よりも大きく3未満の組成を含んでもよい。例えば、Y:O:F=1:1:2のイットリウムオキシフッ化物として、Y(モル比がY:O:F=5:4:7)、Y(モル比がY:O:F=6:5:8)、Y(モル比がY:O:F=7:6:9)、Y171423(モル比がY:O:F=17:14:23)が挙げられる。なお、イットリウムオキシフッ化物という範囲には、上記以外の組成が含まれてもよい。
図1の例では、構造物20は、単層構造であるが、基材15の上に形成される構造物は、多層構造であってもよい(図5参照)。例えば、基材15と、図1における構造物20に相当する層21と、の間に別の層22(例えばYを含む層)が設けられてもよい。構造物20に相当する層21が、多層構造の構造物20aの表面を形成する。
構造物20は、例えばイットリウムフッ化物やイットリウムオキシフッ化物を含む原料により形成される。この原料は、例えばイットリアをフッ化処理することによって製造される。実施形態に係る構造物20の原料として用いられる粉体は、YF及びイットリウムオキシフッ化物の少なくともいずれかを含み、原料の製造工程におけるフッ化の程度によっては、イットリウムオキシフッ化物(Y、Y等)を含む場合と含まない場合とがある。また、原料の製造工程において十分なフッ化処理がなされた場合には、原料は、Y及びYOF(モル比がY:O:F=1:1:1)を含まなくなる。実施形態では、Y及びYOF(モル比がY:O:F=1:1:1)を含んでいない場合もある。原料や構造物が斜方晶のイットリウムオキシフッ化物を含むとは、X線回折において回折角2θ=32.0°付近及び回折角2θ=32.8°付近の少なくともいずれかにピークが検出されることをいうものとする。また、原料や構造物が斜方晶のイットリウムフッ化物を含むとは、X線回折において回折角2θ=24.3°付近及び回折角2θ=25.7°付近の少なくともいずれかにピークが検出されることをいうものとする。
本願発明者らは、構造物20が斜方晶のイットリウムオキシフッ化物を含む場合、イットリウムオキシフッ化物の構造の制御により、耐プラズマ性を高くすることができることを見出した。
具体的には、X線回折のピーク強度比γ/δを0%以上150%以下、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下とすることで高い耐プラズマ性が得られる。ここで、ピーク強度比γ/δは、以下のようにして算出される。
まず、イットリウムオキシフッ化物を含む構造物20に対してX線回折(θ−2θスキャン)を行う。X線回折により回折角2θ=32.0°付近において検出されるピーク強度をγとし、X線回折により回折角2θ=32.8°付近において検出されるピーク強度をδとし、ピーク強度比γ/δ(δに対するγの比)を算出する。
なお、2θ=32.0°付近とは、例えば32.0±0.4°程度(31.6°以上32.4°以下)であり、2θ=32.8°付近とは、例えば32.8±0.4°程度(32.4°以上33.2°以下)である。
本願発明者らは、構造物20が斜方晶のYFを含む場合、YFの構造の制御により、耐プラズマ性を高くすることができることを見出した。
具体的には、X線回折のピーク強度比α/βを0%以上100%未満とすることで高い耐プラズマ性が得られる。ここで、ピーク強度比α/βは、以下のようにして算出される。
まず、YFの含む構造物20に対してX線回折(θ−2θスキャン)を行う。X線回折により回折角2θ=24.3°付近において検出されるピーク強度をαとし、X線回折により回折角2θ=25.7°付近において検出されるピーク強度をβとし、ピーク強度比α/β(βに対するαの比)を算出する。
なお、2θ=24.3°付近とは、例えば24.3±0.4°程度(23.9°以上24.7°以下)であり、2θ=25.7°付近とは、例えば25.7±0.4°程度(25.3°以上26.1°以下)である。
構造物20に含まれる、イットリウムとフッ素とを含む化合物の多結晶体において、平均結晶子サイズは、例えば100nm未満、好ましくは50nm未満、さらに好ましくは30nm未満、最も好ましくは20nm未満である。平均結晶子サイズが小さいことにより、プラズマによって発生するパーティクルを小さくすることができる。
なお、結晶子サイズの測定には、X線回折を用いることができる。
平均結晶子サイズとして、以下のシェラーの式により、結晶子サイズを算出することができる。
D=Kλ/(βcosθ)
ここで、Dは結晶子サイズであり、βはピーク半値幅(ラジアン(rad))であり、θはブラッグ角(rad)であり、λは測定に用いたX線の波長である。
シェラーの式において、βは、β=(βobs−βstd)により算出される。βobsは、測定試料のX線回折ピークの半値幅であり、βstdは、標準試料のX線回折ピークの半値幅である。Kはシェラー定数である。イットリウムのオキシフッ化物において、結晶子サイズの算出に用いることができるX線回折ピークは、例えば、回折角2θ=28.1°付近のイットリウムのオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク、回折角2θ=46.9°付近のイットリウムのオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク、などである。また、イットリウムフッ化物において、結晶子サイズの算出に用いることができるX線回折ピークは、例えば、回折角2θ=25.7°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク、回折角2θ=27.8°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク、回折角2θ=30.8°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク、などである。
なお、TEM観察などの画像から、結晶子サイズを算出してもよい。例えば、平均結晶子サイズには、結晶子の円相当直径の平均値を用いることができる。
また、互いに隣接する結晶子同士の間隔は、好ましくは0nm以上10nm未満である。隣接する結晶子同士の間隔とは、結晶子同士が最も近接した間隔のことであり、複数の結晶子から構成される空隙を含まない。結晶子同士の間隔は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた観察によって得られる画像から求めることができる。なお、図6に実施形態に係る構造物20の一例を観察したTEM像を示す。構造物20は複数の結晶子20c(結晶粒子)を含む。
また、例えば構造物20は、実質的にYを含まない。構造物20に対してθ−2θスキャンでX線回折を行ったときに、回折角2θ=29.1°付近において検出されるYに起因するピーク強度をεとする。このとき、δに対するεの割合(ε/δ)は、0%以上1%未満である。または、αに対するεの割合(ε/α)は、0%以上1%未満である。構造物20がYを含まない、または、構造物20に含まれるYが微少であることにより、CF系プラズマによるフッ化が抑制され、耐プラズマ性をさらに高めることができる。なお、2θ=29.1°付近とは、例えば29.1±0.4°程度(28.7°以上29.5°以下)である。
実施形態に係る構造物20は、例えば、基材15の表面に脆性材料等の微粒子を配置し、該微粒子に機械的衝撃力を付与することで形成することができる。ここで、「機械的衝撃力の付与」方法には、例えば、高速回転する高硬度のブラシやローラーあるいは高速に上下運動するピストンなどを用いる、爆発の際に発生する衝撃波による圧縮力を利用する、または、超音波を作用させる、あるいは、これらの組み合わせが挙げられる。
また、実施形態に係る構造物20は、例えば、エアロゾルデポジション法で形成することも好ましい。
「エアロゾルデポジション法」は、脆性材料などを含む微粒子をガス中に分散させた「エアロゾル」をノズルから基材に向けて噴射し、金属やガラス、セラミックスやプラスチックなどの基材に微粒子を衝突させ、この衝突の衝撃により脆性材料微粒子に変形や破砕を起させしめてこれらを接合させ、基材上に微粒子の構成材料を含む構造物(例えば層状構造物または膜状構造物)をダイレクトに形成させる方法である。この方法によれば、特に加熱手段や冷却手段などを必要とせず、常温で構造物の形成が可能であり、焼結体と同等以上の機械的強度を有する構造物を得ることができる。また、微粒子を衝突させる条件や微粒子の形状、組成などを制御することにより、構造物の密度や機械強度、電気特性などを多様に変化させることが可能である。
なお、本願明細書において「多結晶」とは、結晶粒子が接合・集積してなる構造体をいう。結晶粒子の径は、例えば5ナノメートル(nm)以上である。
また、本願明細書において「微粒子」とは、一次粒子が緻密質粒子である場合には、粒度分布測定や走査型電子顕微鏡などにより同定される平均粒径が5マイクロメータ(μm)以下のものをいう。一次粒子が衝撃によって破砕されやすい多孔質粒子である場合には、平均粒径が50μm以下のものをいう。
また、本願明細書において「エアロゾル」とは、ヘリウム、窒素、アルゴン、酸素、乾燥空気、これらを含む混合ガスなどのガス(キャリアガス)中に前述の微粒子を分散させた固気混合相体を指し、一部「凝集体」を含む場合もあるが、実質的には微粒子が単独で分散している状態をいう。エアロゾルのガス圧力と温度は任意であるが、ガス中の微粒子の濃度は、ガス圧を1気圧、温度を摂氏20度に換算した場合に、吐出口から噴射される時点において0.0003mL/L〜5mL/Lの範囲内であることが構造物の形成にとって望ましい。
エアロゾルデポジションのプロセスは、通常は常温で実施され、微粒子材料の融点より十分に低い温度、すなわち摂氏数100度以下で構造物の形成が可能であるところにひとつの特徴がある。
なお、本願明細書において「常温」とは、セラミックスの焼結温度に対して著しく低い温度で、実質的には0〜100℃の室温環境をいう。
本願明細書において「粉体」とは、前述した微粒子が自然凝集した状態をいう。
以下、本願発明者らの検討について説明する。
図2は、構造物の原料を例示する表である。
本検討においては、図2に示した原料F1〜F11の11種類の粉体が用いられる。これらの原料は、YFを含む粉体である。また、原料F5〜F11は、11.2(重量パーセント濃度:wt%)以下の範囲で酸素を含有しており、1:1:2のYOF(例えば、Y、Yなどのイットリウムオキシフッ化物)を含む。一方、これらの原料では酸素含有量が比較的少ないため、Y及びYOF(モル比がY:O:F=1:1:1)を実質的に含まない。
なお、Yを実質的に含まないとは、X線回折において、回折角2θ=29.1°付近のYに起因するピーク強度が、回折角2θ=32.8°付近の1:1:2のYOFに起因するピーク強度、または、回折角2θ=24.3°付近のYFに起因するピーク強度の1%未満、好ましくは0%であることをいう。
また、YOF(モル比がY:O:F=1:1:1)を実質的に含まないとは、X線回折において、回折角2θ=13.8°付近または36°付近のYOF(モル比がY:O:F=1:1:1)に起因するピーク強度が、回折角2θ=32.8°付近の1:1:2のYOFに起因するピーク強度、または、回折角2θ=24.3°付近のYFに起因するピーク強度の1%未満であることをいう。なお、2θ=13.8°付近とは、例えば13.8±0.4°程度(13.4°以上14.2°以下)である。2θ=36°付近とは、例えば36°±0.4°程度(35.6°以上36.4°以下)である。
原料F1〜F11は、図2に示すメジアン径(D50(μm))のように、粒径において互いに異なる。なお、メジアン径は、各原料の粒子径の累積分布における50%の径である。各粒子の径は、円形近似にて求めた直径が用いられる。
これらの原料と、製膜条件(キャリアガスの種類及び流量)と、の組み合わせを変化させて複数の構造物(層状構造物)のサンプルを作製し、耐プラズマ性の評価を行った。なお、この例では、サンプルの作製にはエアロゾルデポジション法を用いている。
図3は、構造物のサンプルを例示する表である。
図3に示すように、キャリアガスには、窒素(N)又はヘリウム(He)が用いられる。エアロゾルは、エアロゾル発生器内において、キャリアガスと原料粉体(原料微粒子)とが混合されることで得られる。得られたエアロゾルは、圧力差によってエアロゾル発生器に接続されたノズルから、製膜チャンバの内部に配置された基材に向けて噴射される。この際、製膜チャンバ内の空気は真空ポンプによって外部に排気されている。キャリアガスの流量は、窒素の場合、2.5(リットル/分:L/min)〜10(L/min)であり、ヘリウムの場合、5(L/min)程度である。
サンプル1〜24の構造物のそれぞれは、主にイットリウムとフッ素とを含む化合物の多結晶体を含む。また、実施形態において、その多結晶体における平均結晶子サイズは、いずれも100nm未満であった。
なお、結晶子サイズの測定には、X線回折を用いた。
XRD装置としては「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.033°、Time per Step 336秒以上を使用した。
平均結晶子サイズとして、上述のシェラーの式による結晶子サイズを算出した。シェラーの式中のKの値として0.94を用いた。
イットリウムオキシフッ化物、および、イットリウムフッ化物の結晶相の主成分の測定には、X線回折を用いた。XRD装置としては「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。X線Cu−Kα(波長1.5418Å)、管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.033°、Time per Step 100秒以上を使用した。主成分の算出にはXRDの解析ソフト「High Score Plus/パナリティカル製」を使用した。ICDDカード記載にある準定量値(RIR=Reference Intensity Ratio)を用いて、回折ピークに対してピークサーチを行った際に求められる相対強度比により算出した。なお、積層構造物である場合における、イットリウムオキシフッ化物、および、イットリウムフッ化物の結晶相の主成分の測定においては、薄膜XRDにより、最表面から1μm未満の深さ領域の測定結果を用いることが望ましい。
また、X線回折を用いて、イットリウムフッ化物の結晶構造を評価した。XRD装置としては「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。X線Cu−Kα(波長1.5418Å)、管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.017°を使用した。なお、測定精度を高めるために、Time per Stepを700秒以上とすることが好ましい。イットリウムフッ化物における斜方晶のピーク強度に関する割合α/βは、回折角2θ=24.3°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(α)と、回折角2θ=25.7°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(β)を用いて、α/β×100(%)により算出される。なお、回折角2θ=24.3°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(α)は、例えばYFのミラー面(1 0 0)に起因する。また、回折角2θ=25.7°付近のイットリウムフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(β)は、例えばYFのミラー面(0 2 0)に起因する。
なお、サンプル1〜24のすべてにおいて、回折角2θ=29.1°付近においては、強度のピークが検出されなかった。すなわち、バックグラウンドの強度を除くと、ピーク強度δに対するピーク強度εの割合(ε/δ)は0%、または、ピーク強度αに対するピーク強度εの割合(ε/α)は0%であり、サンプル1〜24は、Yを含まなかった。
サンプル1〜11、14〜19のそれぞれは、斜方晶のイットリウムフッ化物(YFの多結晶)を含み、これらの各サンプルにおいて、回折角2θ=24.3°付近にピークが検出され、回折角2θ=25.7°付近にピークが検出される。
各サンプルに関して、X線回折のデータにおいて、バックグラウンドの強度を除いて前述のピーク強度(α及びβ)を算出し、ピーク強度比α/βが求められる。求められたピーク強度比α/βを図3に示す。
図3に示すように、ピーク強度比α/βは、原料と製膜条件との組み合わせによって大きく変化する。
また、これらのサンプル1〜24について、耐プラズマ性の評価を行った。
耐プラズマの評価には、プラズマエッチング装置と表面形状測定器を用いた。
プラズマエッチング装置には「Muc−21 Rv−Aps−Se/住友精密工業製」を使用した。プラズマエッチングの条件は、電源出力としてICP出力を1500W、バイアス出力を750W、プロセスガスとしてCHF100ccmとO10ccmの混合ガス、圧力を0.5Pa、プラズマエッチング時間を1時間とした。
表面粗さ測定器には「サーフコム1500DX/東京精密製」を使用した。表面粗さの指標には算術平均粗さRaを用いた。算術平均粗さRaの測定における、Cut Offと評価長さには、JISB0601に基づき測定結果の算術平均粗さRaに適合する標準値を用いた。
サンプルのプラズマエッチングをする前の表面粗さRaと、サンプルのプラズマエッチングをした後の表面粗さRaを用いて、表面粗さ変化量(Ra−Ra)により、耐プラズマ性を評価した。
図3に耐プラズマ性の評価結果を示す。「〇」は、イットリアの焼結体と同等以上の耐プラズマ性であることを示す。「◎」は、「〇」よりも耐プラズマ性が高く、エアロゾルデポジション法により作製されたイットリア構造物と同等以上の耐プラズマ性であることを示す。「×」は、「〇」よりも耐プラズマ性が低く、例えばイットリアの焼結体よりも耐プラズマ性が低いことを示す。
本願発明者らは、図3に示すように、ピーク強度比α/βを100%未満に制御することで、耐プラズマ性が高まることを見出した。
すなわち、YFの(100)面のピーク強度(α)に対して、(020)面のピーク強度(β)を相対的に高くすることで、耐プラズマ性が向上する。
一般にエアロゾルデポジション法を用いてAlやYなどの酸化物の構造物を形成した場合、その構造物には結晶配向性が無いことが知られている。
一方、YFやイットリウムオキシフッ化物は劈開性を有するため、例えば、原料の微粒子は、機械的衝撃の付与により劈開面に沿って割れやすい。そのため、機械的衝撃力により製膜時に微粒子が劈開面に沿って割れ、構造物が特定の結晶方向に配向すると考えられる。
また、原料が劈開性を有する場合に、構造物がプラズマ照射によってダメージを受けると、劈開面に沿ってクラックを生じ、これを起点にパーティクルが発生する恐れがある。そこで、構造物形成の際にあらかじめ微粒子を劈開面に沿って破砕し、配向性を調整する。具体的には、前述の通り(020)面のピーク強度(β)を相対的に高くする。これにより、耐プラズマ性を向上させることができると考えられる。
図4は、構造物のサンプルを例示する表である。
図4には、図3に関して説明したサンプル12〜24を示す。また、図4において、原料、製膜条件及び耐プラズマ性については、図3に関する説明と同様である。
X線回折を用いて、イットリウムオキシフッ化物の結晶構造を評価した。XRD装置としては「X‘PertPRO/パナリティカル製」を使用した。X線Cu−Kα(波長1.5418Å)、管電圧45kV、管電流40mA、Step Size 0.067°を使用した。なお、測定精度を高めるために、Time per Stepを700秒以上とすることが好ましい。イットリウムオキシフッ化物における斜方晶のピーク強度に関する割合γ/δは、回折角2θ=32.0°付近のイットリウムオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(γ)と、回折角2θ=32.8°付近のイットリウムオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(δ)を用いて、γ/δ×100(%)により算出される。
なお、回折角2θ=32.0°付近のイットリウムオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(γ)は、例えばYのミラー面(0 0 2)、(1 12 0)、(0 14 0)、及び、Yのミラー面(1 7 1)、(0 10 0)に起因する。また、回折角2θ=32.8°付近のイットリウムオキシフッ化物の斜方晶に起因するピーク強度(δ)は、例えばYのミラー面(2 0 0)、及び、Yのミラー面(2 0 0)に起因する。
サンプル12〜24のそれぞれは、斜方晶のイットリウムオキシフッ化物(例えばY及び/又はYの多結晶)を含む。これらの各サンプルにおいて、回折角2θ=32.0°付近にピークが検出され、回折角2θ=32.8°付近にピークが検出される。
各サンプルに関して、X線回折のデータにおいて、バックグラウンドの強度を除いて前述のピーク強度(γ及びδ)を算出し、ピーク強度比γ/δが求められる。求められたピーク強度比γ/δを図4に示す。
図4に示すように、ピーク強度比γ/δは、原料と製膜条件との組み合わせによって大きく変化する。本願発明者らは、図4に示すように、ピーク強度比γ/δを150%以下、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下に制御することで、耐プラズマ性を高くすることができることを見出した。
一般に、エッチング装置のチャンバ内では、フッ素ガス及び酸素ガスの両方が用いられる。この環境では、フッ化と酸化との両方の反応が生じる。構造物がYやYFを含む場合、経時的にフッ化と酸化とが進行する。そして、構造物が最終的にイットリウムオキシフッ化物となることで、チャンバ環境が安定化することがある。このため、構造物があらかじめイットリウムオキシフッ化物を含むことにより、より早期にチャンバ環境を安定化させることができる。また、ピーク強度比γ/δを制御して配向性を調整することで、耐プラズマ性を向上させることができると考えられる。
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、構造物、基材などの形状、寸法、材質、配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
10 部材、 15 基材、 20、20a 構造物、 20c 結晶子

Claims (11)

  1. 斜方晶の結晶構造を有するイットリウムオキシフッ化物の多結晶体を主成分とし、前記多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である構造物であって、X線回折により回折角2θ=32.0°付近において検出されるピーク強度をγとし、回折角2θ=32.8°付近において検出されるピーク強度をδとしたときに、ピーク強度比γ/δは、0%以上150%以下である構造物。
  2. イットリウムフッ化物の多結晶体を含み、前記多結晶体における平均結晶子サイズが100ナノメートル未満である構造物であって、X線回折により回折角2θ=24.3°付近において検出されるピーク強度をαとし、回折角2θ=25.7°付近において検出されるピーク強度をβとしたときに、ピーク強度比α/βは、0%以上100%未満である構造物。
  3. 前記ピーク強度比γ/δは、120%以下である請求項1記載の構造物。
  4. 前記ピーク強度比γ/δは、110%以下である請求項1記載の構造物。
  5. 前記構造物は、イットリウムフッ化物の多結晶体をさらに含み、
    X線回折により回折角2θ=24.3°付近において検出されるピーク強度をαとし、回折角2θ=25.7°付近において検出されるピーク強度をβとしたときに、ピーク強度比α/βは、0%以上100%未満である請求項1記載の構造物。
  6. 前記平均結晶子サイズは、50ナノメートル未満である請求項1〜5のいずれか1つに記載の構造物。
  7. 前記平均結晶子サイズは、30ナノメートル未満である請求項1〜5のいずれか1つに記載の構造物。
  8. 前記平均結晶子サイズは、20ナノメートル未満である請求項1〜5のいずれか1つに記載の構造物。
  9. X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記δに対する前記εの割合が1%未満である請求項1記載の構造物。
  10. X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記αに対する前記εの割合が1%未満である請求項2記載の構造物。
  11. X線回折により回折角2θ=29.1°付近において検出されるピーク強度をεとしたときに、前記αに対する前記εの割合が0%である請求項1〜10のいずれか1つに記載の構造物。
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