<デバイス>
図1に、本実施形態に係るデバイスの構成の一例を示す。
デバイス1は、基板10上に、密着層20を介して、機能性セラミックス素子30a及び30bが形成されている。
ただし、デバイス1は、基板10上に、密着層20を介して、3つ以上の機能性セラミックス素子が形成されていてもよい。
また、密着層20は、必要に応じて、形成されていなくてもよい。
基板10は、機能性セラミックス素子30a及び30bを形成するための支持体である。
基板10を構成する材料は、特に限定されないが、機能性セラミックス膜32a及び32bを形成した後に、基板10を加工して各種部材を形成することができるように、加工しやすい材料であることが望ましい。このため、基板10を構成する材料としては、例えば、シリコン等を好ましく用いることができる。ただし、基板10を構成する材料として、インバー合金、ステンレス鋼(SUS)等の金属や、ポリイミド、エポキシ樹脂等の樹脂を用いてもよい。
基板10の平均膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、100〜1000μm程度である。
密着層20は、第1の電極31と基板10との間に設けられ、第1の電極31と基板10との密着性を高める層である。
密着層20を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、チタン(Ti)、酸化チタン(TiO2)、タンタル(Ta)、酸化タンタル(Ta2O5)、窒化タンタル(Ta3N5)等を用いることができる。
密着層20の平均膜厚は、例えば、1〜10μm程度である。
機能性セラミックス素子30aは、第1の電極31上に、機能性セラミックス膜32a及び第2の電極33aが順次積層されている。
同様に、機能性セラミックス素子30bは、第1の電極31上に、機能性セラミックス膜32b及び第2の電極33bが順次積層されている。
このとき、第1の電極31は、機能性セラミックス素子30a及び30bの共通電極である下部電極として機能する。
第1の電極31を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、機能性セラミックス素子30a及び30bに要求される性能等に応じて任意に選択することができるが、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)等の金属又はその酸化物を好ましく用いることができる。
なお、第1の電極31は、1層である必要は無く、複数層で構成されていてもよい。
第1の電極31の平均膜厚は、特に限定されないが、例えば、0.01〜1μm程度である。
第1の電極31上には、断面がシリンドリカル状の機能性セラミックス膜32a及び32bが離間して配置されている。
ここで、シリンドリカルとは、円柱の側面の一部を切り出した形を意味する。
機能性セラミックス膜32a及び32bのそれぞれの最厚部の膜厚は、例えば、2μm程度である。
機能性セラミックス膜32a及び32bは、電気特性が異なる。
ここで、機能性セラミックス膜32a及び32bが有する機能は、正の圧電効果、逆圧電効果、電荷蓄積能から選択されるいずれかであることが好ましい。
正の圧電効果を有する機能性セラミックス膜とは、圧力、応力振動などを電気に変換させる機能を有する圧電膜である。
正の圧電効果を有する機能性セラミックス膜を備えた機能性セラミックス素子としては、例えば、位置変動等による圧力変化を電気として出力するセンサや、外乱を振動に変換して出力する振動センサ等が挙げられる。
また、逆圧電効果を有する機能性セラミックス膜とは、電圧を加えた場合に変形する機能を有する圧電膜である。
逆圧電効果を有する機能性セラミックス膜を備えた機能性セラミックス素子としては、例えば、アクチュエータ等が挙げられる。
また、電荷蓄積能を有する機能性セラミックス膜とは、電圧を加えた場合に電荷を蓄積する機能を有する圧電膜である。
電荷蓄積能を有する機能性セラミックス膜を供えた機能性セラミックス素子としては、例えば、キャパシタ等が挙げられる。
機能性セラミックス膜32a及び32bを、後述するインクジェット装置60を用いて形成する場合、機能性セラミックスの前駆体液であるゾルゲル液を吐出することにより、所望の機能を有する機能性セラミックス膜を形成することができる。
機能性セラミックス膜32a及び32bを構成する材料としては、上記の機能を有する所望の材料を任意に選択して用いることができるが、製造時の取り扱いの容易さから、金属酸化物、いわゆる圧電セラミックスが望ましい。
圧電セラミックスとしては、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)、ランタン添加ジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)、マグネシウムニオブ酸鉛(PMN)、ニッケルニオブ酸鉛(PNN)、チタン酸バリウム(BT)、チタン酸鉛(PT)などの材料及びその固溶体が挙げられる。これらの材料は、電荷蓄積能、正の圧電効果、逆圧電効果等の機能を有する。
ここで、圧電セラミックスとして、PZTを用いる場合を説明する。
PZTは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、化学式
Pb(Zr1−xTix)O3(0<x<1)
で表されるが、比率xにより特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成、即ち、PbZrO3とPbTiO3のモル比は、53:47である。このようなPZTは、化学式
Pb(Zr0.53Ti0.47)O3
で表され、一般的には、PZT(53/47)と示される。
従って、機能性セラミックス膜32a及び32bを構成する材料として、PZTを用いる場合には、PZT(53/47)を用いることが好ましい。
機能性セラミックス膜32a上の外縁部を除く領域には、第2の電極33aが形成されている。同様に、機能性セラミックス膜32b上の外縁部を除く領域には、第2の電極33bが形成されている。
第2の電極33a及び33bは、それぞれ機能性セラミックス膜32a及び32b上に独立に設けられている個別電極である上部電極として機能する。
第2の電極33a及び33bを構成する材料や膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、第1の電極31と同様である。
機能性セラミックス素子30aを構成する機能性セラミックス膜32aは、貫通していない空孔32xが多数存在している多孔質膜である。これに対して、機能性セラミックス素子30bを構成する機能性セラミックス膜32bは、空孔がほとんど存在していない緻密な膜である。
ここで、機能性セラミックス膜32bは、空孔が全く存在していなくてもよい。
空孔32xは、機能性セラミックス膜32aを形成するのに用いられる前駆体液に樹脂粒子を添加することにより形成することができる。また、樹脂粒子の添加量を増やすことにより、空孔密度を高めることができる。
なお、前駆体液の固形分濃度が同一であれば、樹脂粒子の添加量は、形成される機能性セラミックス膜の最厚部の膜厚にはほとんど影響しないため、機能性セラミックス膜32a及び32bは、最厚部の膜厚が略同一である。ここで、最厚部の膜厚が略同一であるとは、一方の最厚部の膜厚Tが、他方の最厚部の膜厚tの+10%以下であること、即ち、式
t≦T≦1.1t
を満たすことを指す。
機能性セラミックス膜32bの比誘電率は、通常のバルク焼結体と同等となる。したがって、機能性セラミックス膜32bは、逆圧電効果を有するアクチュエータとして利用することが可能である。これに対して、機能性セラミックス膜32aは、機能性セラミックス膜32bよりも相対密度が低いため、機能性セラミックス膜32bよりも比誘電率が低くなる。そのため、機能性セラミックス膜32aは、正の圧電効果を有するセンサとして利用することが可能である。
このように、デバイス1は、基板10上に、離間して配置されている異なる電気特性を有する機能性セラミックス膜32a及び32bが形成されており、複合型デバイスとして活用することができる。また、機能性セラミックス膜32a及び32bは、最厚部の膜厚が略同一であり、耐久性も略同一である。
<インクジェット装置>
図2に、本実施形態で用いられるインクジェット装置の一例を示す。
インクジェット装置60において、架台61の上に、Y軸駆動手段62が設置されており、Y軸駆動手段62の上に、基板10を搭載するステージ64がY軸方向に移動することができるように設置されている。なお、ステージ64には、例えば、真空、静電気等により基板10を吸着させる吸着手段が付随しており、基板10が固定されている。
また、X軸指示部材65には、X軸駆動手段66が取り付けられており、X軸駆動手段66には、Z軸駆動手段67上に搭載されたヘッドスペース68が取り付けられており、X軸方向に移動することができるようになっている。ヘッドスペース68の上には、基板10上に前駆体液を吐出するインクジェットヘッド69a及び69bが搭載されている。
インクジェットヘッド69a及び69bには、それぞれ前駆体液(a)及び(b)が収容されているタンクから、パイプ70a及び70bを介して、前駆体液(a)及び(b)が供給される。Y軸駆動手段62及びX軸駆動手段66により、インクジェットヘッド69a及び69bから吐出される前駆体液(a)及び(b)の液滴が着弾する位置を、基板10上の任意の位置に変更することができる。
インクジェット装置60は、位置合わせ用アライメントカメラを有していてもよい。この場合、位置合わせ用アライメントカメラは、基板10上の任意の箇所を撮像することができるように構成することができ、例えば、外部のコンピュータ等と接続され、基板10上に形成されているアライメントマークを検出するように構成することができる。
<デバイスの製造方法>
図3〜6に、デバイス1の製造方法の一例を示す。
まず、図3(a)に示すように、基板10上に、密着層20及び第1の電極31を順次積層する。
密着層20及び第1の電極31の形成方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スパッタ法、真空蒸着法等の一般的な方法を用いることができる。
次に、図3(b)に示すように、第1の電極31上の全面に、シード層320を形成する。
シード層320は、平均膜厚が数nm程度であり、機能性セラミックス膜32a及び32bと同一の材料から構成される。
シード層320は、プロセスの容易さから、CSD(化学溶液堆積)法を用いて、後述する樹脂粒子を含まない前駆体液を塗布することにより形成することが好ましい。
前駆体液の塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法等の一般的な方法を用いることができるが、第1の電極31上の全面にシード層320を形成し、かつ、シード層320の膜厚の均一性を確保するためには、スピンコート法が望ましい。
シード層320は、パターニングの容易性を考慮して、アモルファス状のセラミックス膜として形成する。このとき、シード層320を形成する際の熱処理を、後述する第1の加熱温度で、前駆体液を乾燥させ、ゲル化させた後、後述する第2の加熱温度で、ゲル化した前駆体液中に含まれる有機物を熱分解させるまでとすることで、シード層320をアモルファス状のセラミックス膜とすることができる。
また、シード層320として、PZT膜を用いる場合、PZTに含まれるジルコン酸鉛(PbZrO3)は、結晶化状態では、酸化ジルコニウム(ZrO2)がエッチング残渣になりやすい。このため、機能性セラミックス膜32a及び32bの膜質(結晶性、配向性)や、エッチング加工の容易性の観点からも、シード層320は、アモルファス状のセラミックス膜であることが好ましい。
次に、図3(c)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、シード層320上に、機能性セラミックス膜32a及び32bのパターンに合わせたフォトレジスト膜500を形成する。
そして、図4(a)に示すように、シード層320において、フォトレジスト膜500から露出する部分をウェットエッチングで除去した後、フォトレジスト膜500を除去し、シード層320a及び320bを形成する。
ここで、シード層320は、機能性セラミックス膜32a及び32bのパターンに合わせたパターンとする必要があるが、その方法としては、装置及びプロセスの簡便性から、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングを用いることが好適である。これは、シード層320の平均膜厚が数nm程度であることと、シード層320が結晶化していないことから、エッチング液の組成を選択することで、パターンを容易に形成することができるからである。
ウェットエッチングにおけるエッチング液としては、例えば、フッ酸、硝酸、酢酸及び水を含む混酸を用いることができる。
なお、水は、希釈材として機能し、酢酸は、緩衝材と界面活性剤として機能するものである。
また、フッ酸の代用として、より溶解性が弱いフッ化アンモニウムを使用すれば、ウェットエッチング処理のマージンを稼ぐことができる。
なお、シード層320a及び320bは、それぞれ後述する前駆体液膜320c及び320dが結晶化する際に、結晶化する。
次に、第1の電極31、シード層320a及び320bが表面に存在する基板10を、アルカンチオールが有機溶媒に溶解している溶液中に浸漬し、表面を改質する。これにより、図4(b)に示すように、シード層320a及び320bが形成されておらず、露出している第1の電極31の表面に、SAM(Self Assembled Monolayer)膜(自己組織化単分子膜)90が形成される。
アルカンチオールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数が6〜18のアルカンチオールを用いることができる。
有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルコール、アセトン、トルエン等の一般的な有機溶媒を用いることができる。
SAM膜90は、Au、Ag、Pt、Cu、Ni等の金属及びその酸化物の表面に形成されやすく、SAM膜90が形成されている領域は撥液性となる。一方、PZT等のセラミックスや、上記の金属以外の金属酸化物の表面は、SAM膜90が形成されないため、親液性が保持される。このため、アモルファス状のセラミックス膜であるシード層320a及び320bの表面を親液性とし、シード層320a及び320bが形成されていない第1の電極31の表面を撥液性とすることができ、簡便に表面を改質することができる。
次に、図4(c)に示すように、インクジェット装置60(図2参照)を用いて、インクジェットヘッド69a及び69bから、それぞれシード層320a及び320b上に前駆体液(a)及び(b)を吐出する。具体的には、インクジェットヘッド69aにより、シード層320a上に前駆体液(a)の液滴を着弾させ、インクジェットヘッド69bにより、シード層320b上に前駆体液(b)の液滴を着弾させる。
ここで、前駆体液が吐出される領域、即ち、シード層320a及び320bの表面は親液性となっている。これに対して、前駆体液が吐出されない領域、即ち、シード層320aおよび320bが形成されていない第1の電極31の表面は、SAM膜90が形成されているので、撥液性となっている。
このように、前駆体液を吐出する領域の内外で塗れ性が異なっているため、図5(a)に示すように、前駆体液膜320c及び320dを正確にシード層320a及び320b上に形成することができる。即ち、前駆体液膜320c及び320dの塗れ広がりは、シード層320a及び320bのパターン内で留めることができ、シード層320a及び320bからはみ出さないように前駆体液膜320c及び320dを形成することができる。
前駆体液(a)及び(b)の構成は、特に限定されるものではなく、機能性セラミックス膜32a及び32bに応じて、任意に選択することができる。
このとき、前駆体液(a)は、樹脂粒子を含むが、前駆体液(b)は、樹脂粒子を含まない。なお、前駆体液(a)の詳細については、後述する。
機能性セラミックス膜32a及び32bが前述した圧電膜である場合、機能性セラミックス膜32a及び32bは、通常、金属複合酸化物膜であることが好ましい。
具体的には、機能性セラミックス膜32a及び32bがPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)膜である場合、例えば、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを、2−メトキシエタノールに溶解させることで、前駆体液を作製することができる。
なお、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド及びチタンアルコキシドは、前述した化学式
Pb(Zr0.53Ti0.47)O3
で表される化合物の化学量論比になるように、混合されていることが好ましい。
なお、後述する前駆体液膜320c及び320dが結晶化する際に、前駆体液膜320c及び320d中のPb原子の一部が拡散し、いわゆる「鉛抜け」が発生する場合がある。そこで、PZT膜のような鉛を含む金属複合酸化物膜を形成する場合には、熱処理における鉛抜けを想定し、化学量論比に比べて5〜25mol%程度過剰にPbを前駆体液に加えることが好ましい。
また、金属アルコキシドは、大気中の水分により容易に加水分解する。このため、前駆体液に、安定剤として、アセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を適量添加し、金属アルコキシドの加水分解の進行を抑制することがより好ましい。
また、インクジェットヘッド69a及び69bから前駆体液を吐出しやすいように、前駆体液の粘度、表面張力等の特性を調整することが好ましい。
また、機能性セラミックス膜32a及び32bを構成する材料がチタン酸バリウムである場合、例えば、バリウムアルコキシド及びチタンアルコキシドを共通溶媒に溶解させることで、前駆体液を作製することも可能である。
次に、図5(b)に示すように、前駆体液膜320c及び320dが形成されている基板10を熱処理する。
熱処理は、特に限定されるものではなく、例えば、前駆体液膜320c及び320dを第1の加熱温度で乾燥させ、ゲル化させるゲル化工程や、第1の加熱温度よりも高い第2の加熱温度でゲル化した前駆体液膜320c及び320d中に含まれる有機物を熱分解させる熱分解工程や、第2の加熱温度よりも高い第3の加熱温度で有機物が熱分解した前駆体液膜320c及び320d、即ち、アモルファス状のセラミックス膜を結晶化させる結晶化工程とすることもできる。
なお、機能性セラミックス膜32a及び32bを十分な性能とするためには、ゲル化工程、熱分解工程及び結晶化工程を順次実施することが好ましい。
熱処理の具体的な条件は、前駆体液の種類等により異なるため、特に限定されるものではない。
前駆体液膜を乾燥させる装置及びゲル化した前駆体液膜中に含まれる有機物を熱分解させる装置としては、例えば、ホットプレート、赤外線ランプ照射装置等の加熱機構を用いることができる。
第2の加熱温度は、350℃〜450℃程度であることが好ましい。これにより、ゲル化した前駆体液膜320c及び320d中に含まれる有機物が熱分解し、アモルファス状のセラミックス膜を形成することができる。
結晶化工程は、アモルファス状のセラミックス膜を結晶化させるものであり、アモルファス状のセラミックス膜を高温で焼結し、結晶化させる。
アモルファス状のセラミックス膜を結晶化させる装置としては、ゲル化工程、熱分解工程と同様に、例えば、ホットプレート、赤外線ランプ照射装置等の加熱機構を用いることができる。
第3の加熱温度は、前駆体液の種類等により異なり、特に限定されるものではない。一般的には、第2の加熱温度よりも高い温度を選択することで、アモルファス状のセラミックス膜を結晶化させることができる。
なお、一連の熱処理により、SAM膜90は消失する。
本実施形態では、アモルファス状のセラミックス膜であるシード層320a及び320bを、それぞれ前駆体液膜320c及び320dと共に結晶化させることが有効である。ここで、予めパターン化されているシード層320a及び320b中に含まれる金属元素は、前駆体液膜320c及び320d中に含まれる金属元素と共通である。このため、それぞれシード層320a及び320bと、前駆体液膜320c及び320dとの界面において、使用される金属原子及び酸素原子を補完することができ、所望の結晶特性を有する機能性セラミックス膜32a及び32bを形成することができる。
前駆体液(a)及び(b)の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32a及び32bの最厚部の膜厚は、50〜100nm程度であることが好ましい。
なお、前駆体液(a)をシード層320a上に吐出する場合、前駆体液(a)の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚は、式
(機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚)−(シード層320aの平均膜厚)
により、求められる。
また、前駆体液の固形分濃度は、シード層の面積と前駆体液のシード層への吐出量の関係から適正化されることが好ましい。
以上のプロセスを経て形成された機能性セラミックス膜32a及び32bの外縁部を除く領域に、それぞれ第2の電極33a及び33bを形成し、デバイス1としてもよい。
一方、以上のプロセスを経て形成された機能性セラミックス膜32a及び32bに、同様のプロセスを繰り返すことで機能性セラミックス膜32a及び32bを厚膜化した後に、機能性セラミックス膜32a及び32bの外縁部を除く領域に、それぞれ第2の電極33a及び33bを形成し、デバイス1とすることが可能である。
具体的には、図5(c)に示すように、第1の電極31、機能性セラミックス膜32a及び32bが表面に存在する基板10の表面を改質する。そして、インクジェット装置60(図2参照)を用いて、インクジェットヘッド69a及び69bから、それぞれ機能性セラミックス膜32a及び32b上に前駆体液(a)及び(b)を吐出し、前駆体液膜320c及び320dを形成する。
次に、図6(a)に示すように、前駆体液膜320c及び320dが形成されている基板10を熱処理する。この場合、ゲル化工程、熱分解工程及び結晶化工程を順次実施する。これにより、機能性セラミックス膜32aと前駆体液膜320cが一体化し、機能性セラミックス膜32aが厚膜化される。また、機能性セラミックス膜32bと前駆体液膜320dとが一体化し、機能性セラミックス膜32bが厚膜化される。
なお、一連の熱処理により、SAM膜90は消失する。
次に、図6(b)に示すように、機能性セラミックス膜32a及び32bを厚膜化する工程(図5(c)及び図6(a)参照)を必要な回数繰り返し、機能性セラミックス膜32a及び32bをさらに厚膜化する。
例えば、機能性セラミックス膜32a及び32bを厚膜化する工程を30回繰り返すことで、最厚部の膜厚が2μm程度の機能性セラミックス膜32a及び32bを形成することができる。
次に、図6(c)に示すように、機能性セラミックス膜32a及び32b上の外縁部を除く領域に、それぞれ第2の電極33a及び33bを形成することにより、機能性セラミックス素子30a及び30bが形成され、デバイス1(図1参照)が完成する。
第2の電極33a及び33bの材質や膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば第1の電極31と同様の構成とすることができる。
なお、第2の電極33a及び33bは、個別電極であるため、例えば、スパッタ法等により、機能性セラミックス膜32a及び32bが形成されている第1の電極31上に導電膜を形成した後、エッチングしてパターニングすることで形成することができる。
また、インクジェット法等により、機能性セラミックス膜32a及び32b上に第2の電極33a及び33bを形成してもよい。
なお、アモルファス状のセラミックス膜を結晶化させるタイミングは、特に限定されない。
図7を参照しながら、アモルファス状の機能性セラミックス膜を結晶化させるタイミングについて、説明する。
なお、図7において、(a)、(b)及び(c)は、工程の繰り返しを意味しており、任意のタイミングで工程を繰り返すことができる。
また、図7については、第1の電極31が形成されている基板10を準備した時点を開始とし、第1の電極31上に形成されている機能性セラミックス膜32a及び32bが所望の最厚部の膜厚になった時点を終了としている。
第1の例としては、第1の電極31に前駆体液を吐出して前駆体液膜を形成する前駆体液膜形成工程(S101)を、前駆体液膜を乾燥させ、ゲル化させるゲル化工程(S102)、ゲル化した前駆体液膜中に含まれる有機物を熱分解させる熱分解工程(S103)、有機物が熱分解したアモルファス状のセラミックス膜を結晶化させる結晶化工程(S104)の各工程の後の任意のタイミングで工程を繰り返す方法が挙げられる。
例えば、前駆体液膜形成工程(S101)及びゲル化工程(S102)のみを所定回数繰り返した後(図7中、(a)参照)、熱分解工程(S103)及び結晶化工程(S104)を実施する。その後、必要に応じて、さらに、前駆体液膜形成工程(S101)に戻って(図7中、(c)参照)、前駆体液膜形成工程(S101)及びゲル化工程(S102)のみを所定回数繰り返した後、熱分解工程(S103)及び結晶化工程(S104)を実施する。
また、第1の例の変形例としては、前駆体液膜形成工程(S101)、ゲル化工程(S102)及び熱分解工程(S103)のみを所定回数繰り返した後(図7中、(b)参照)、結晶化工程(S104)を実施する。その後、必要に応じて、さらに、前駆体液膜形成工程(S101)に戻って(図7中、(c)参照)、前駆体液膜形成工程(S101)、ゲル化工程(S102)及び熱分解工程(S103)のみを所定回数繰り返した後(図7中、(b)参照)、結晶化工程(S104)を実施する。
第2の例としては、前駆体液膜形成工程(S101)、ゲル化工程(S102)、熱分解工程(S103)及び結晶化工程(S104)を所定回数繰り返す(図7中、(c)参照)。
以上のようにして、機能性セラミックス膜32a及び32bが所望の最厚部の膜厚になるまで工程を繰り返す。この方法により、機能性セラミックス膜32a及び32bを、最厚部の膜厚が10μm程度になるまで厚膜化することができる。
<前駆体液(a)>
前駆体液(a)は、樹脂粒子を含み、樹脂粒子の平均粒子径(流体力学的半径)が、前駆体液膜320cを熱処理することにより形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚以下である。
なお、本実施形態では、機能性セラミックス膜の所望の性能に合わせて、少なくとも1種類の前駆体液に樹脂粒子を添加すればよい。
前述した通り、前駆体液(a)の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚は、50〜100nm程度であることが好ましい。このとき、例えば、前駆体液(a)に添加する樹脂粒子の平均粒子径を、前駆体液(a)の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚以下とすることで、機能性セラミックス膜32a中に形成される空孔32xが、機能性セラミックス膜32aを貫通しにくくなる。特に、樹脂粒子の平均粒子径を40nm以下とすることで、シード層320a上に、機能性セラミックス膜32aが形成されていない領域が形成されにくくなる。このため、機能性セラミックス膜32aを厚膜化する場合に、前駆体液膜320cを繰り返し形成する際に、所望のパターン上の全面に、前駆体液膜320cを確実に形成させることができる。
一方、前駆体液(a)に添加する樹脂粒子の平均粒子径が前駆体液の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚よりも大きいと、機能性セラミックス膜32a中に形成される空孔32xが、機能性セラミックス膜32aを貫通しやすくなり、シード層320a上に、機能性セラミックス膜32aが形成されていない領域が形成されやすくなる。このため、機能性セラミックス膜32aを厚膜化する場合に、前駆体液膜320cを繰り返し形成する際に、所望のパターン上に、前駆体液膜320cが形成されていない領域が形成されやすくなる。このような機能性セラミックス膜32aは、耐久性が低下する。また、シード層320aの平均膜厚が数nmと薄いため、機能性セラミックス素子30a中でリーク電流が発生するため、圧電素子としての機能を有さない。
ここで、樹脂粒子を構成する樹脂は、通常、非晶質の合成樹脂であり、ナノオーダーの平均粒子径を有する樹脂粒子としては、ポリスチレン粒子が代表的である。ナノオーダーのポリスチレン粒子は、前駆体液との親和性があるため、前駆体液に添加すると、均一に分散する。このため、ナノオーダーのポリスチレン粒子を前駆体液に添加しても、前駆体液の粘度には、ほとんど影響しない。その結果、前駆体液を吐出するインクジェットヘッドのノズル詰まりも発生せず、安定したプロセス下で前駆体液膜を形成することができる。
ポリスチレン粒子の代わりに、アクリル樹脂粒子、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂粒子、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂粒子等を用いてもよい。
なお、樹脂粒子の添加量は、特に限定されないが、前駆体液に含まれるセラミックス固形分の5〜15質量%程度が好適である。
前述した通り、樹脂粒子が添加されている前駆体液を吐出して形成される機能性セラミックス膜32aは、貫通していない空孔32xが形成されている(図1参照)。すなわち、樹脂粒子は、機能性セラミックス膜32aに空孔を生じさせる原因となる。これは、前駆体液膜320c中に含まれる樹脂粒子が熱分解工程及び結晶化工程において消失するためである。
一方、樹脂粒子が添加されている前駆体液を吐出して形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚は、樹脂粒子が添加されていない前駆体液を吐出して形成される機能性セラミックス膜32bの最厚部の膜厚と略同一である。即ち、機能性セラミックス膜の最厚部の膜厚は、前駆体液中のセラミックス固形分濃度に依存し、樹脂粒子の添加量とは相関がない。
このため、樹脂粒子が添加されている前駆体液を吐出して、機能性セラミックス膜32bと略同一の最厚部の膜厚を有する機能性セラミックス膜32aを形成するためには、樹脂粒子が添加されていない前駆体液とセラミックス固形分濃度を同一とし、かつ、前駆体液膜形成工程の回数も同一にすることが好ましい。これにより、プロセスの効率性を保つことができる。
また、機能性セラミックス膜32a及び32bの最厚部の膜厚が略同一になることで、機能性セラミックス膜32aの耐久性を、機能性セラミックス膜32bの耐久性と同等にすることができる。
このとき、機能性セラミックス膜32aは、空孔32xが形成されているため、密度が低下する。このため、機能性セラミックス膜32aは、最厚部の膜厚を機能性セラミックス膜32bと略同一に保持しつつ、比誘電率を機能性セラミックス膜32bよりも小さくすることができる。
以上のように、本実施形態では、基板10上に、電気特性の異なる機能性セラミックス膜32a及び32bを簡便に形成することができる。また、例えば、機能性セラミックス素子30aを正の圧電効果を有するセンサとして機能させ、機能性セラミックス素子30bを逆圧電効果を有するアクチュエータとして機能させることにより、デバイス1を複合型デバイスとして活用することができる。
また、機能性セラミックス膜32a及び32bは、最厚部の膜厚が略同一であり、耐久性も同等にすることができる。このため、例えば、比誘電率、静電容量等の電気特性が異なる圧電素子として、機能性セラミックス素子30a及び30bを基板10上に形成することができる。
このとき、機能性セラミックス膜32a及び32bを形成する際に用いる前駆体液のセラミックス固形分濃度は同一であるため、インクジェットヘッドのノズル詰まりを抑制することができ、かつ、機能性セラミックス膜32a及び32bの耐久性を確保することができる。また、前駆体液の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32a及び32bの最厚部の膜厚は略同一であり、機能性セラミックス膜32a及び32bが所望の膜厚になるまでの前駆体液の吐出の回数を同一にすることができるため、プロセス効率が良くなる。
以上、実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、基板上に複数種の機能性セラミックス膜を形成する場合、複数種の前駆体液は、樹脂粒子を添加した前駆体液と、機能性セラミックス膜に上記樹脂粒子とは異なる種類の空孔、即ち、大きさや形状が異なる空孔を形成することが可能な樹脂粒子を添加した前駆体液とを含んでいてもよい。
この場合、例えば、複数種の前駆体液に、構成する樹脂が異なる樹脂粒子を添加してもよいし、複数種の前駆体液に、構成する樹脂が同一で、平均粒子径が異なる樹脂粒子を添加してもよい。これにより、互いに相対密度が異なる機能性セラミックス膜、すなわち互いに電気特性の異なる機能性セラミックス膜を形成することができる。
また、上述した実施形態では、上部電極を個別電極とし、下部電極を共通電極とするデバイスについて説明したが、本発明は、上記デバイスに限るものではない。例えば、上部電極を共通電極とし、下部電極を個別電極とするデバイスも、上記デバイスと同様の効果が得られる。
<実施例1>
(前駆体液(b)の作製)
酢酸鉛三水和物を2−メトキシエタノールに溶解させた後、脱水して、結晶水を除去し、酢酸鉛の2−メトキシエタノール溶液を作製した。
一方、ジルコニウム(IV)n−プロポキシド及びチタン(IV)イソプロポキシドをメトキシエタノールに溶解させ、アルコール交換反応を進めた。次に、酢酸鉛の2−メトキシエタノール溶液と混合することで、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の前駆体液(b)を作製した。前駆体液(b)は、セラミックス固形分濃度を0.05mol/lとした。
(前駆体液(a)の作製)
前駆体液(b)に、平均粒子径(流体力学的半径)10nmのポリスチレン(PS)粒子をセラミックス固形分に対して10質量%添加し、前駆体液(a)を作製した。
なお、平均粒子径(流体力学的半径)は、動的光散乱法により測定した。
(デバイスの作製)
図3〜図6に示した工程に基づいて、デバイス1を作製した。
具体的には、まず、図3(a)に示すように、スパッタ法により、基板10上に、密着層20及び第1の電極31を順次積層した。このとき、基板10として、シリコン基板を用い、密着層20として、平均膜厚50nmのTiO2膜を形成し、第1の電極31として、平均膜厚250nmのPt膜を形成した。
次に、図3(b)に示すように、スピンコート法により、第1の電極31上の全面に前駆体液(b)を塗布し、前駆体液膜を形成した。前駆体液膜が形成された基板10を、ホットプレートを用いて、第1の加熱温度(120℃)で基板10の下面側から加熱し、前駆体液膜を乾燥させ、ゲル化させた。続いて、ゲル化した前駆体液膜に含まれている有機物を、ホットプレートを用いて、第2の加熱温度(450℃)で基板10の下面側から加熱し、熱分解させた。これにより、第1の電極31上に、平均膜厚6nmのアモルファス状のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜からなるシード層320を形成した。
次に、図3(c)に示すように、シード層320上の所定領域にフォトレジスト膜500を形成し、フォトレジスト膜500から露出するシード層320を室温でウェットエッチングした。このとき、エッチング液として、50質量%フッ酸、60質量%硝酸水溶液、酢酸及び純水を、体積比1:3:8:8の割合で混合した混合液を用いた。その後、有機溶剤によりフォトレジスト膜500を除去し、図4(a)に示すように、アモルファス状のシード層320a及び320bを形成した。
次に、図4(b)に示すように、第1の電極31のシード層320a及び320bが形成されていない領域を表面改質した。すなわち、第1の電極31のシード層320a及び320bが形成されていない領域上にSAM膜90を形成することで撥液化処理した。このとき、SAM膜90は、アルカンチオール溶液にシード層320a及び320bが形成された基板10を数秒間浸漬させることで、分子の自己配列により形成された。アルカンチオール溶液としては、ドデカンチオール(CH3(CH2)11SH)の0.1mmol/l無水エタノール溶液を使用した。
撥液化処理した基板10の全表面をエタノール及び純水で順に洗浄した後、窒素雰囲気下、乾燥させた。微小接触角計により、第1の電極31のシード層320a及び320bが形成されていない領域の純水に対する接触角を測定したところ、110°となり、撥液性を示した。一方、シード層320a及び320bは、SAM膜90が形成されず、純水に対する接触角が10°以下となり、親液性を示した。
次に、図4(c)に示すように、インクジェット装置60のインクジェットヘッド69a及び69bから、前駆体液(a)及び(b)を、それぞれシード層320a及び320b上に吐出した。
このようにして、図5(a)に示すように、シード層320a及び320b上に、それぞれ前駆体液膜320c及び320dが形成された。このとき、前駆体液膜320c及び320dは、それぞれシード層320a及び320bからはみ出しておらず、シード層320a及び320b上に一様に形成され、所望のパターンが得られた。
次に、図5(b)に示すように、前駆体液膜320c及び320dが形成された基板10を熱処理した。具体的には、まず、第1の加熱温度(約120℃)で前駆体液膜320c及び320dを乾燥させ、ゲル化させた。次いで、ゲル化した前駆体液膜320c及び320dに含まれている有機物を第2の加熱温度(約500℃)で熱分解させた。そして、第3の加熱温度(約700℃)で急速熱処理(RTA)し、有機物が熱分解した前駆体液膜320c及び320dを、アモルファス状のシード層320a及び320bと共に結晶化させた。これにより、シード層320a及び320bが、それぞれ前駆体液膜320c及び320dと一体化し、断面がシリンドリカル状の機能性セラミックス膜32a及び32bが形成された。機能性セラミックス膜32a及び32bは、それぞれ最厚部の膜厚が55nmであり、クラックは生じていなかった。また、SAM膜90は、一連の熱処理により消失した。
引き続き、機能性セラミックス膜32a及び32bが形成された基板10の全面をイソプロピルアルコールで洗浄した後、前述と同様にして、アルカンチオール溶液に浸漬した。これにより、第1の電極31の機能性セラミックス膜32a及び32bが形成されていない領域にSAM膜90を形成し、撥液化処理した。
次に、図5(c)に示すように、前述と同様にして、前駆体液(a)及び(b)を、それぞれ機能性セラミックス膜32a及び32b上に吐出し、前駆体液膜320c及び320dを形成した後、前駆体液膜320c及び320dが形成された基板10を熱処理した。これにより、機能性セラミックス膜32a及び32bは、図6(a)に示すように、最厚部の膜厚が110nmに厚膜化された。機能性セラミックス膜32a及び32bは、シリンドリカル状に保たれており、クラックは生じていなかった。
次に、図6(b)に示すように、前述と同様にして、機能性セラミックス膜32a及び32bを35回繰り返し厚膜化し、最厚部の膜厚が1.8μmの機能性セラミックス膜32a及び32bが形成された。機能性セラミックス膜32a及び32bは、シリンドリカル形状に保たれており、クラックは生じていなかった。
次に、図6(c)に示すように、スパッタ法により、機能性セラミックス膜32a及び32b上に平均膜厚250nmのPt膜を形成した後、不要部分をエッチングすることにより、パターニングして、個別電極である第2の電極33a及び33bを形成した。これにより、機能性セラミックス素子30a及び30bが形成されているデバイス1が完成した。機能性セラミックス素子30a及び30bは、d31方向の変形を利用した横振動(ベントモード)型の圧電素子である。
<実施例2>
前駆体液(a)に添加されるPS粒子の平均粒子径を20nmとした以外は、実施例1と同様にして、デバイス1を作製した。
<実施例3>
前駆体液(a)に添加されるPS粒子の平均粒子径を40nmとした以外は、実施例1と同様にして、デバイス1を作製した。
<比較例1>
前駆体液(a)に添加されるPS粒子の平均粒子径を50nmとした以外は、実施例1と同様にして、デバイス2(図8参照)を作製した。
次に、機能性セラミックス膜32a及び32bの相対密度及び比誘電率を測定した。
<相対密度>
第2の電極33a及び33bを形成する前に、機能性セラミックス膜32bに対する機能性セラミックス膜32aの相対密度を測定した。
<比誘電率>
第2の電極33a及び33bを形成した後に、機能性セラミックス膜32a及び32bの比誘電率を一般的なプローブ法により測定した。
表1に、機能性セラミックス膜32a及び32bの相対密度及び比誘電率の測定結果を示す。
表1から、PS粒子の平均粒子径が増加するのに伴い、機能性セラミックス膜32aの相対密度が減少することがわかる。
また、機能性セラミックス膜32bの比誘電率は、通常のPZTバルク焼結体と同等であり、逆圧電効果を有するアクチュエータとして利用することが可能な特性値であった。
一方、比較例1の機能性セラミックス膜32aの比誘電率を測定したところ、リーク電流が発生した。これは、前駆体液(a)に添加されたPS粒子の平均粒子径が、前駆体液(a)の1回の吐出により形成される機能性セラミックス膜32aの最厚部の膜厚よりも大きいことから、シード層320a上に機能性セラミックス膜32aが形成されない領域が生じるためである。その結果、機能性セラミックス膜32aを厚膜化する際においても、機能性セラミックス膜32a上に前駆体液膜320cが形成されない領域が生じ、機能性セラミックス膜32a中に膜厚方向に貫通している空孔32yが形成される(図8参照)。このため、比較例1の機能性セラミックス素子30aは、機能性セラミックス膜32aにリーク電流が発生し、圧電素子としての機能を果たせない。
これに対して、実施例1〜3の機能性セラミックス膜32aは、リーク電流が発生しなかった。また、実施例1〜3の機能性セラミックス膜32aの比誘電率は、機能性セラミックス膜32bの比誘電率と比較して小さく、さらにPS粒子の平均粒子径が増加するのに伴い、減少する傾向が見られたが、正の圧電効果を有するセンサとして十分に設計しうる特性値であった。
以上のように、実施例1〜3のデバイス1は、基板10上に、最厚部の膜厚が同一で、電気特性の異なる機能性セラミックス膜32a及び32bを有する機能性セラミックス素子30a及び30bを備えることが確認された。実施例1〜3のデバイス1は、複合型センサとして活用することができる形態である。