以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1実施形態に係る光学検査装置の概略構成を例示する図である。図1を参照するに、光学検査装置1は、一例として、拡散光トモグラフィー(DOT)に用いられる。DOTは、例えば生体等の被検体(散乱体)に光を照射し、被検体内を伝播した光を検出して、被検体内部の光学特性を推定する技術である。特に、脳内の血流を検出することで、うつ症状の鑑別診断補助やリハビリテーションの補助機器として利用が期待されている。DOTでは、分解能が向上すると、脳の機能を詳細に理解できることから、多くの研究機関で、分解能を向上させる研究が盛んに行われている。
光学検査装置1は、光学センサ10、制御部20、計算部30、表示部40等を備えている。光学センサ10は、複数の光源モジュール11(光照射器)を含む照射系と、複数の検出モジュール12を含む検出系とを備えている。照射系は、対象物に光を照射する機能を有し、検出系は照射系から対象物に照射され対象物内を伝播した光を検出する機能を有している。複数の光源モジュール11及び複数の検出モジュール12は、それぞれ制御部20に対して電気配線を介して接続されている。複数の光源モジュール11は、異なる波長の光源モジュール11を含んでもよい。
但し、使用態様によっては、光学センサ10は、光源モジュール11及び検出モジュール12を1つずつ有する形態であってもよい。
制御部20は、例えば、図2のブロック図に示すように構成することができる。制御部20では、中央処理装置21からの情報によって、スイッチ部22が制御され、発光する光源モジュール11が選択される。このとき、スイッチ部22を介して光源モジュール11に供給される電流が電流制御部23で所望の値に制御される。検出モジュール12での検出結果(データ)は、A/D変換部24でA/D変換され、演算部25で平均化処理等の演算が行われる。演算部25での演算結果は、順次、記録部26に記録される。
本明細書中、光源モジュール11及び検出モジュール12を、特に区別する必要がない場合には、プローブとも称する。又、本明細書では、適宜、擬似生体、生体、被検体の文言を用いるが、擬似生体及び生体は被検体(光を照射する対象物)の具体例である。
光学センサ10は、被検体中の吸光体を検出するセンサとして汎用的に利用できるが、最も利用価値が高い被検体は生体である。しかしながら、一般に、光学センサを用いて生体の血流(吸光体)の位置を検出することは必ずしも容易ではなく、被検体を生体とすると、光学センサ10による効果(検出精度)を確認し難い。
そこで、本実施の形態では、汎用性を持たせるとともに、検出精度を確認し易い被検体として、水槽に入った白濁液である擬似生体(ファントムとも称する)を採用している。
以下に、本実施の形態の実施例1について説明する。
〈実施例1〉
実施例1では、光照射器である光源モジュール11の各光照射部(各面発光レーザ)からの光線をプリズムによって偏向させて、被検体への入射角を光線間で異ならせる方法を採用している。ここでは、図3に示すように、各壁が黒色のアクリル板で構成された水槽101の一側壁(+Z側の壁)の8箇所に透明なアクリル板から成る透明窓102を設けている。水槽101の内部は、イントラリピッド水溶液(イントラリピッド10%濃度を10倍に希釈)で満たされている。すなわち、実施例1で使用する擬似生体は、イントラリピッド水溶液である。
水槽101内に満たされたイントラリピッド水溶液に黒いインクを約20ppm程度となるように滴下して、ほぼ生体と同一の吸収係数及び散乱係数とする。そして、この白濁したイントラリピッド水溶液に血流に模した黒色の吸光体を沈める。吸光体は、黒色のポリアセタールとして、約5mm直径の球体とする。この球体の位置を制御できるように、自動ステージに接続された1mm径の細い金属棒に該球体を固定する。この水槽101の各透明窓102に、プローブを正確に位置決めして装着する。
ここでは、水槽101の容積は、140mm×140mm×60mmである。黒色のアクリル板の厚さは、4mmである。8つの透明窓102は、2種類の大きさの円形の透明窓102A及び102Bで構成されている。透明窓102A及び102Bは、4つずつ設けられている。透明窓102Aの直径は9mm、透明窓102Bの直径は12mmである。透明窓102A及び102Bの厚さは、何れも1.5mmである。
図4は、8つの透明窓のレイアウトを示している。8つの透明窓102A及び102Bは、透明窓102Aと透明窓102Bとが隣り合うようにX軸方向及びY軸方向に等間隔で格子状に配置されている。ここでは、各透明窓102Aには検出モジュール12が装着され、各透明窓102B(B1〜B4)には光源モジュール11が装着される。隣り合う2つの透明窓102Aと透明窓102Bの中心間の距離は、30mmである。なお、図4では、4の透明窓102Bを、便宜上、B1、B2、B3、及びB4としている。
光源モジュール11は、図5に示すように、レンズ11A、プリズム11B、面発光レーザアレイチップ11Cが実装されたセラミックパッケージ(不図示)、該セラミックパッケージやアナログ電子回路11Dが実装されたフレキ基板(不図示)、該フレキ基板に結線されている配線、コネクタ部(不図示)、これらが収容された筐体11E、被検体と接触する透明樹脂からなる窓部材11F等を含む。
アナログ電子回路11Dは2種類あり、一方のアナログ電子回路(光量検出)は、アンプ回路を含みアナログデジタル変換を行っている。これにより現在光っている面発光レーザアレイチップ11Cの光量を検出することができる。この光量を制御部20に配線を解して送信する。制御部20は、最適な光量を計算し、その結果に基づいて最適な光量になる電流を、配線を介して他方のアナログ電子回路(光量制御)に送る。他方のアナログ電子回路(光量制御)により、面発光レーザアレイチップ11Cは所望の光量で発光する。
図6は、面発光レーザアレイの例を示す断面図である。図6に示すように、面発光レーザアレイチップ11Cは、基板111、下部半導体DBR(distributed Bragg reflector)112、下部スペーサ層113、活性層114、上部スペーサ層115、上部半導体DBR116、電極117等を有している。
基板111は、表面が鏡面研磨面であり、鏡面研磨面の法線方向が、結晶方位[1 0 0]方向に対して、結晶方位[1 1 1]A方向に向かって15度(θ=15度)傾斜したn−GaAs単結晶基板である。ここでは、結晶方位[0 1 −1]方向が−X方向、結晶方位[0 −1 1]方向が+X方向となるように配置されている。
下部半導体DBR112は、バッファ層を介して基板111の面上に積層され、n−Al0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層と、n−Al0.3Ga0.7Asからなる高屈折率層のペアを37.5ペア有している。各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた厚さ20nmの組成傾斜層が設けられている。そして、各屈折率層は何れも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、発振波長をλとするとλ/4の光学的厚さとなるように設定されている。なお、光学的厚さとその層の実際の厚さについては以下の関係がある。光学的厚さがλ/4のとき、その層の実際の厚さDは、D=λ/4N(但し、Nはその層の媒質の屈折率)である。
下部スペーサ層113は、下部半導体DBR112の+Z側に積層され、ノンドープのAl0.6Ga0.4Asからなる層である。活性層114は、下部スペーサ層113の+Z側に積層され、3層の量子井戸層と4層の障壁層とを有している。各量子井戸層は、Al0.12Ga0.88Asからなり、各障壁層は、Al0.3Ga0.7Asからなる。上部スペーサ層115は、活性層114の+Z側に積層され、ノンドープのAl0.6Ga0.4Asからなる層である。
下部スペーサ層113と活性層114と上部スペーサ層115とからなる部分は、共振器構造体とも呼ばれており、その厚さが1波長の光学的厚さとなるように設定されている。 なお、活性層114は、高い誘導放出確率が得られるように、電界の定在波分布における腹に対応する位置である共振器構造体の中央に設けられている。
上部半導体DBR116は、上部スペーサ層115の+Z側に積層され、p−Al0.9Ga0.1Asからなる低屈折率層とp−Al0.3Ga0.7Asからなる高屈折率層のペアを24ペア有している。各屈折率層の間には、電気抵抗を低減するため、一方の組成から他方の組成へ向かって組成を徐々に変化させた組成傾斜層が設けられている。そして、各屈折率層は何れも、隣接する組成傾斜層の1/2を含んで、λ/4の光学的厚さとなるように設定されている。上部半導体DBR116における共振器構造体から光学的にλ/4離れた位置に、p−AlAsからなる被選択酸化層が設けられている。
図6では、面発光レーザである光照射部11C1及び11C2を並べ、それぞれに電流源118を配線し、矢印方向に光Lが出射される。光照射部11C1及び11C2はエッチングによってメサ構造を備えた形状とされており、光照射部11C1と光照射部11C2との間には溝が形成されている。エッチングの深さは下部スペーサ層113に到達している。光照射部11C1及び11C2の各々の活性層114は、エッチングによって離間して配置されている。
図7は、面発光レーザアレイの他の例を示す断面図である。図7に示した構造では、光照射部11C3、及び光照射部11C3の出射光量を検出する検出素子11C4を並べ、光照射部11C3に電流源118を配線し、検出素子11C4に電流計119を配線している。又、エッチングの深さは活性層114に到達している。
光照射部11C3及び検出素子11C4の各々の活性層114は繋がっている。これにより、光照射部11C3の発光時に活性層114を伝播してきた光LTは、検出素子11C4の位置で光から電子に変換される。そして、光から変換された電子が電流計119に流れ、電流量として検出できる。
光照射部11C3の光量を検出素子11C4でモニタし、適切な光量になるように制御部20にフィードバックする。フィードバックされた情報を電流源118で適切な電流値で駆動させることで、光照射部11C3の光量を一定に保つことができる。
図8は、面発光レーザアレイの更に他の例を示す断面図であり、実施例1では図8の構造を採用している。図8に示した構造では、光照射部11C1、光照射部11C3、及び検出素子11C4を並べ、光照射部11C1及び11C3に電流源118を配線し、検出素子11C4に電流計119を配線している。光照射部11C1、光照射部11C3、及び検出素子11C4は、活性層114を有する同一の積層構造体の一部である。又、光照射部11C1、光照射部11C3、及び検出素子11C4は、メサ構造を備えた形状とされている。
光照射部11C1のメサ構造と光照射部11C3のメサ構造との距離はW2となっており、光照射部11C1及び11C3の各々の活性層114は、エッチングによって離間して配置されている。つまり、光照射部11C1と光照射部11C3の活性層114同士は繋がっていない。
一方で、光照射部11C3のメサ構造と検出素子11C4のメサ構造との距離はW1となり、光照射部11C3と検出素子11C4の活性層114は繋がっている。これにより、検出素子11C4は光照射部11C3の光量をモニタすることができ、光照射部11C1の影響はほぼ受けない。
又、一方の光照射部が発光したとき、活性層114を通じて漏れ光が他方の光照射部の動作に与える影響も小さくすることができ、精度の良い光量モニタと光照射部同士が影響を受けずに安定した動作が可能となる。エッチング深さをチップ内の領域で自在に制御することはプロセス上難しいが、本実施例では、図9に示すようにして実現している。
なお、光照射部及び光照射部の出射光量を検出する検出素子が1組をなし、これが複数組設けられている。例えば、光照射部11C3及び光照射部11C3の出射光量を検出する検出素子11C4が1組であり、光照射部11C1及び光照射部11C1の出射光量を検出する検出素子11C4が1組である。但し、図8では、光照射部11C1の出射光量を検出する検出素子11C4は描かれていない。
このように、光照射部及び検出素子を、活性層を有する同一の積層構造体の一部とすることにより、光照射部及び検出素子の実装が容易な構造を実現できる。又、同一の組において光照射部の活性層と検出素子の活性層とを繋げることで、光照射部からの光量を検出素子で検出可能となる。又、異なる組において光照射部の活性層同士を繋がない構造とすることで、一方の光照射部が発光したとき、活性層を通じて漏れ光が他方の光照射部の動作に与える影響も小さくすることができる。
図9は、光照射部及び検出素子の配置を例示する平面模式図である。光照射部11C1と光照射部11C3との間の距離W2を、光照射部11C1と検出素子11C4との間の距離W1及び光照射部11C3と検出素子11C4との間の距離W1より大きくすることで、マイクロローディング効果によってエッチング深さに差が生じる。このようにして図8の構造を実現することができる。距離W1及びW2はフォトマスクで設計できるため、プロセスのばらつき程度の寸法精度でコントロールできる。なお、11Gは、電極パッドを示している。
図10は、光照射部及び検出素子のマスクレイアウトの例を示す図である。図10では、光照射部と検出素子との組が4組示されている。各組において、各々の検出素子が光照射部の光量を検出する上で、十分な電流が得られることが必要である。又、距離W1及びW2の値が近いとエッチング深さに差が付かず活性層114を隔てることができない。ここでは、距離W1は15μm、距離W2は100μmとした。距離W2は距離W1の2倍以上とすることがプロセス上望ましい。
図11は、光照射部及び検出素子のマスクレイアウトの他の例を示す図である。図11では、各々の検出素子11C4同士の配線が全て電気的に繋がっている例を示している。図11のマスクレイアウトでは、各々の光照射部を同時に発光させて各々の光出力をリアルタイムで補正する必要がない場合、電極パッド11Gの数が少なくなり実装が容易になるメリットがある。
光源モジュール11では、電源部により適切な電流値に制御することで光照射部の光量を一定に保つことができる。光源モジュール11は、被検体(透明窓102B)に窓部材11Fが+Z側から接触された状態で装着される。
検出モジュール12は、図12に示すように、黒い樹脂製の筐体12A、筐体12Aの先端(−Z側の端)に取り付けられた弾性体からなる接触部材12B、筐体12Aに収容された直径3mmの分割レンズ12C(半球レンズ)及び受光部となる4分割PDアレイ12D(光検出器)を含んで構成されている。なお、4分割のPDアレイ12Dは、4つの受光部(フォトダイオード)がアレイ状に配列されたものであり、図12には4つの受光部のうち2つの受光部12D1及び12D2のみが図示されている。
筐体12Aの先端及び接触部材12Bには、アパーチャ12E(開口)が形成されている。検出モジュール12は、被検体900(透明窓102A)に接触部材12Bが+Z側から接触された状態で装着される。
分割レンズ12Cは、アパーチャ12Eの+Z側近傍に配置されている。そこで、光源モジュール11から被検体900に照射され被検体900内を伝播した光は、アパーチャ12Eを介して分割レンズ12Cに入射し、分割レンズ12Cへの入射位置及び入射方向に応じた方向に屈折され出射される(図12参照)。
PDアレイ12Dは、分割レンズ12Cの+Z側に配置されている。そこで、分割レンズ12Cを介した光は、その進行方向(分割レンズ12Cからの出射方向)に応じてPDアレイ12Dの4つの受光部の何れかに入射する。このようにして、検出モジュール12では、被検体900から入射された光の入射角度を4つの角度範囲に分類できる。
制御部20は、各透明窓102Aに装着された検出モジュール12の4つの受光部の受光量(計16個のPDの受光量)をオペアンプにて電圧に変換し、演算部25を経由して記録部26に記録する。データはサンプリングレートを1msecで検出し、20sec計測した数値を演算部25で平均化する。1回の測定では16個のPDのデータを取得する。
次に、図13を参照して、光源モジュール11について詳細に説明する。光源モジュール11の光源には、5chの面発光レーザアレイチップ11C、すなわち光照射部としてのVCSEL(面発光レーザ)を5個有する面発光レーザアレイチップ11Cが採用されている。
面発光レーザアレイチップ11Cの光路上には、面発光レーザアレイチップ11Cから出射された光を略平行光とする直径3mmのレンズ11Aが配置されている。面発光レーザアレイチップ11Cの出射面(発光面)とレンズ11Aの主点(レンズの光学的な中心)との距離は、レンズ11Aの焦点距離f(例えば9mm)に等しく設定されている。すなわち、面発光レーザアレイチップ11Cは、出射面がレンズ11Aの焦点に位置するように配置されている。なお、「レンズの焦点距離」は、レンズの主点と焦点との距離である。
ここでは、5chの面発光レーザアレイチップ11Cを同時に点灯し、総出力は6mW程度とされる。面発光レーザアレイチップ11Cから出射された平行光は、プリズム11Bに入射し、プリズム11Bへの入射光LPはプリズム11Bによって偏向される。
プリズム11Bとしては、アクリル製の水槽101と屈折率が同等のアクリル製のものが採用されている。プリズム11Bの反射面11BRは、レンズ11Aの径に合わせて設計され、反射面11BRの角度は、レンズ11Aを介した光がアクリル製の水槽101に入射角50°程度で入射するように設定されている。
水槽101及びプリズム11Bを構成するアクリルと、ファントム(イントラリピッド水溶液)との屈折率差は、スネルの法則によってファントム内での伝播角度が約60°(図13中のθ1)になるように設定されている。プリズム11Bは、Z軸方向に延びる回転軸Oの周りに回転可能な回転ステージに取り付けられている。
この回転ステージ及びプリズム11Bを一緒に回転させることで、プリズム11Bへの光の入射角、方位を変えることが可能となる。ここでは、図14に示すように、+X、−X、+Y、−Yの4方位の計測を順次行うこととした。すなわち、4つの光源モジュール11の位置(図4のB1〜B4の4箇所)と4方位で4×4の16回の計測を行うことになる。プリズム11Bと水槽101との間には、これらと屈折率が同等のジェル状の樹脂が充填されている。これにより、プリズム11Bと水槽101との間での屈折や反射を防止できる。なお、図13において、LMは、プリズム11Bを出射して水槽101の内部に入射した生体内伝搬光を示している。
次に、被検体900内の情報の計測方法について、図15に示すフローチャートを参照して説明する。
先ず、はじめにプローブをセッティングする(ステップT1)。プローブとは、前述の如く光源モジュール11及び検出モジュール12を意味する。ここでのセッティング対象のプローブは、1つの光源モジュール11と4つの検出モジュール12である。1つの光源モジュール11は、図4に示す透明窓102のB1に装着される。又、4つの検出モジュール12は、図4に示す直径9mmの4つの透明窓102Aに個別に装着される。
次に、筐体11E内に内蔵されているモニタ用受光素子により発光強度がトータルで50mW程度になるように、光源モジュール11の電流値が設定される(ステップT2)。
その後、光源モジュール11の5個のch(光照射部)を同時に発光させる(ステップT3)。又、測定中は光源モジュール11内の光照射部の側に配置されている検出素子で光量をモニタし、所望の光量になるよう調整する。
ここでは、発光を1ch毎に行い、発光強度は1mW程度になるように、電流値が決定される。又、測定中も常に受光素子で光量をモニタし、一定の光量になるよう電流値が調整される。これにより高精度なNIRS(近赤外線分光法)測定が可能になり、高分解能化に繋がる。発光時間は20sec程度であり、その間、4つの検出モジュール12のPDの検出値を読み取り(ステップT4)、1msec間隔で検出した数点のデータ(検出値)を平均化する。そして、平均化された検出値、すなわち検出値の平均値を記録部に格納する(ステップT5)。
次に、出射光の波長を切り替えてステップT2〜T5を再度行う。ここでは、780nmと900nmの波長を選択可能としている。具体的には、発振波長が異なる2種類(780nm帯、900nm帯)の光源モジュール11を予め用意しておき、光源モジュール11を入れ替えることで出射光の波長の切り換えを実施することができる。
ここで、計測は、+X方向、+Y方向、−X方向、−Y方向の4方位について行われる(ステップT6、T7)。具体的には、ステップT1の直後のステップT2〜T5は、プリズムを+X方向に配置した状態で行う。次いで、プリズムを回転させて、+Y方向とする(ステップT7)。この状態でステップT2〜T5を行う。次いで、プリズムを回転させて、−X方向とする(ステップT7)。この状態でステップT2〜T5を行う。次いで、プリズムを回転させて、−Y方向とする(ステップT7)。この状態でステップT2〜T5を行う。
次に、光源モジュール11の装着位置を透明窓102のB1からB2、B3、B4に順次変更して、再度4方位の計測を行う(ステップT8、T9)。その後、吸光体の位置を移動させて、再度4方位、光源モジュール11の4つの装着位置での計測を行う(ステップT10、T11)。
格納されたデータは、それぞれ吸光体あり、なしのデータを以下のr(s,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K))、r(0,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K)とする。iはそれぞれの検出モジュール12に付された番号である。nはそれぞれのグループに付された番号である。次にそれぞれの差分Δr(i,n)を計算する。
以下に、図15のフローチャートに基づく上記計測方法で得られた計測結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法について説明する。ここでは、逆問題推定アルゴリズムを利用する。逆問題を解く際には、先ずは、計測、シミュレーションを行い、順問題にて、感度分布を作製する。そして、次の計測を行ったデータを取り込み、その値から逆問題推定を行う(図16のステップS21〜S25参照)。
図17には、計算部30のブロック図が示されている。先のモンテカルロシミュレーションに利用する各モジュール(プローブ)の位置や生体の屈折率、形状などの情報は記録部31に記録されている。この情報を元に先の順問題を行う。この計算には並列計算ができるGPU32(マルチグラフィックスプロセッサ)を利用する。この利用により従来の計算速度に比べ飛躍的に早く計算ができる。計算によって得られた感度分布を再度記録部31に格納する。この計算結果と制御部20の記録部26に格納されている計測結果を中央処理装置33に入力して、中央処理装置33において逆問題推定を行う。推定結果は制御部20の中央処理装置21を介して表示部に表示される。
ところで、従来、順問題計算の際、生体等の散乱体の中では、光は、ほぼ等方的に散乱すると考えられてきた。このため、計算量が少ない拡散方程式を利用したシミュレーションが利用されてきた。しかし、近年の学会等でも、mm単位の微細なエリアでは、生体内での光伝播は、異方性を有していることが報告がされている。この異方性を反映したシミュレーションを行うためには、輸送方程式を利用するかモンテカルロシミュレーションを行う必要がある。
本実施の形態では、光源からの出射光を偏向して被検体へ入射させているので、一般的に利用されている拡散方程式では、入射角の情報を反映することができない。輸送方程式を利用する方法が提案されているが、この計算には膨大な時間がかかることが知られている。
そこで、本実施の形態では、モンテカルロシミュレーションが採用されている。モンテカルロシミュレーションは、フォトンが散乱媒質の中で、散乱していく条件を、ランダム変数によって、確率的に表現し、そのマクロ的な振る舞いを観察する手法である。具体的には、フォトンが媒質を移動し、ある距離進むたびに、衝突し、その衝突によって方向性を変えていくようにモデル化する。
このときのある距離の平均値が平均自由行程であり、散乱係数で定義され、方向の変化が異方性によって定義されている。この衝突を繰り返し、定義されたエリア内をどのように伝播していくかを記録する。このようにモデル化されたフォトンを無数に計算することで散乱媒質の光の振る舞いをシミュレーションすることができる。モンテカルロシミュレーションによって、1つのフォトンがどのような経路で拡散していくかを記録する。
本実施の形態におけるモンテカルロシミュレーションでは、フォトン数は109個、ボクセルを1mm立方体として、120mm×120mm×60mmの3次元エリアの計算を行う。ここでは、散乱媒質の散乱係数、吸収係数、異方性、屈折率をそれぞれ頭皮とほぼ同等の数値である7.8mm−1、0.019mm−1、0.89、1.37とする。この数値に合うように、前述したファントム(イントラリピッド水溶液)を調合し、光源モジュール11、伝播角、検出モジュール12の位置等、全てファントムと同じ状況でシミュレーションし、感度分布を算出する。
このとき、ボクセルの位置rに関して、通過したフォトン数をφ0(r)とする。特に、光源モジュール11の位置をrsとしたとき、ボクセルの位置rでのフォトン通過数をφ0(rs、r)とする。次に、検出モジュール12を配置していた位置に光源モジュール11を配置して、再度、同数のフォトン数を計算する。検出モジュール12をrdに設置していた場合には、ボクセルの位置rでのフォトン通過数をφ0(r、rd)とする。
光の経路は、可逆であるため、この積は、ボクセルの位置rを通過して、光源モジュール11から出射して、検出モジュール12に入ったフォトン数に比例する。この積を検出モジュール12に入る全てのフォトン数φ0(rs、rd)で規格化したものが次の感度分布A(r)となる。
この感度分布A(r)は、位置rにおける検出量への影響度を示す。ボクセルの位置rに吸光体が発生したときに、その発生によって、どの程度検出値が変化するかを示す。
上述のようにして算出された感度分布の一例が、図18に示されている。ここでは、光源モジュール11、検出モジュール12をそれぞれ、(X,Y,Z)=(45、60、0)、(X,Y,Z)=(75、60、0)に配置した。ボクセルは1mmの立方体なので、これらの数値の単位mmと等価である。各位置でのボクセルの感度は底を10とした対数(常用対数)で示している。
次に、図18から、ボクセル(x、y、z)で、Y=60、Z=10のラインを、抜き出して感度を縦軸、横軸をx位置としてプロットした結果が図19に示されている。このとき、伝播角として、Y軸を法線とした平面上におけるX軸に対する角度を+60°とした場合と−60°とした場合の結果が図20に示されている。
図19に示すように、+60度と−60度とでは、感度分布に相違が出ている。この相違が、分解能向上が可能となるかの指針となる。つまりは、この感度分布に相違が出ることは、2つの光源からの光の伝播経路が異なることを示している。もし同じ伝播経路であれば、伝播角を変えても、ほぼ同じ感度分布となるはずである。2つの光源からの光の伝播経路が違うことで、2つの光源からの光がそれぞれ異なる情報を収集していることになる。
これは、後述する逆問題推定に対して大きな価値を生み出している。先に述べたように光の伝播が単純な等方散乱ではなく、数mmオーダーでは若干の異方性を有していることを示している。この数mmオーダーでの相違が、数mmオーダーの分解能を有する逆問題推定を実現する要因となっていると考えられる。この感度分布は、ファントムで実施される全ての光源モジュール11/検出モジュール12対に対して、全ての伝播角/検出角の条件で実施する。
次に、この感度分布を利用して、逆問題推定を行う。
吸光体の存在によっておきる吸収係数の変化δμa(r)が十分小さいと仮定するとRetovの近似によって、以下の式が成り立つ。
νは媒質中の光の速さ、Sは単位時間当たりに光源モジュール11から出る光の量、rsは光源モジュール11の位置、rdは検出モジュール12の位置、φ(rs、rd)は光源モジュール11から出た光が検出モジュール12に届く光量を表し、φ0は吸光体のない状態での光の強度を示している。この式が意味しているのは、吸光体のない状態での光の強度φ0が与えられれば、吸光体の存在によっておきる吸収係数の変化δμa(r)と観測値logφ(rs、rd)とを線形の関係に結びつけることができるということである。
このことを簡単に記述すると、式『Y=A(r)X』となる。ここで、Yは吸光体の存在有無による観測値の変化であり、Xはボクセルの位置rでの吸収係数変化を示す。このA(r)は感度分布である。上記の式では、Xで表現している吸光体の位置や量の変化を与えることで、観測値Yがどのように変化するかがわかる。
逆問題推定では、この逆を行い、つまりは観測値Yを利用して吸光体の位置Xを推定する。先の位置計測方法で説明したように、吸光体の有無による変化をΔr(i,n)として計測している。このΔr(i,n)が観測値Yとなり、これよりXを算出する。
一般的には、L2ノルム正則化という逆問題の推定手法を利用する。この手法では、以下に示すコスト関数Cを最小にするXを算出する。
ここでYは観測値、Aは感度分布、λは正則化係数である。逆問題推定ではこのような手法が一般的であるが、本実施の形態では、深さ方向も検出できるベイズ推定による逆問題推定を行う。このベイズ推定による逆問題推定については、次の非特許文献:T.Shimokawa, T.Kosaka, O.Yamashita, N.Hiroe, T.Amita, Y.Inoue, and M.Sato, "Hierarchical Bayesian estimation improves depth accuracy and spatial resolution of diffuse optical tomography," Opt. Express *20*,20427-20446 (2012) に詳細に記載されている。
この結果、図21(B)に示すような推定結果を導くことができる。図21(A)は吸光体の位置を示している。図21(B)のグリッドは3mmであり、3mmの精度で実際の位置と一致することがわかった。
比較例として、4方位あるうちの1方位のみを利用し、検出した結果が図21(C)に示されている。この比較例は、従来のNIRS(DOT)装置とほぼ同様の構成とである。比較例では、深さ方向の検出は不可能であり、かつ検出結果も非常に広がってしまう。実施例1では、上記ベイズ推定により、吸光体の位置と深さを検出することが可能となる。
又、吸光体の位置を変えて(図22(A)参照)、推定を行った結果(推定結果)が図22(B)に示されている。この場合も吸光体の実際の位置を正確に推定できていることがわかる。実施例1の方法により、吸光体の位置を高い分解能で検出することが可能となる。これに対し、比較例では、図22(C)に示すようにかなり広がった吸光体となっており、該吸光体の位置を正確に検出することができない。
以下に、本実施の形態の実施例2について説明する。なお、実施例2の説明においては、適宜、実施例1にも関連する説明を行う。
〈実施例2〉
先ず、透明なアクリル製の水槽101に注入されたイントラリピッド水溶液(イントラリピッド10%濃度を10倍に希釈)に、黒いインクを約200ppm程度となるように滴下し、ほぼ生体と同一の吸収係数及び散乱係数とする。この白濁したイントラリピッド水溶液に、血流に模した黒色の吸光体を沈める。吸光体は、例えば黒色で直径約5mmのポリアセタールの球体とする。この球体の位置を制御できるように自動ステージに接続された1mm径の細い金属棒に該球体を固定する。この水槽の側面、後述するプローブの位置を正確に決めて設置(装着)する。ここでは、上記アクリル製の水槽101は、例えば140mm×140mm×60mmの容積で壁の厚さ1mmの直方体形状の水槽である。
図23で示す光学センサ10は、複数(例えば8つ)の光源モジュール61を含む照射系と、複数(例えば8つ)の検出モジュール62を含む検出系と、を備えている。複数の光源モジュール61及び複数の検出モジュール62は、それぞれ制御部に対して電気配線を介して接続されている。
制御部20は、各光源モジュール61における光源の発光タイミングや各検出モジュール62での検出タイミングを制御して、得られた検出結果を記録部26に転送する。又、制御部20は、記録部26に記録されているデータを読み取り、その数値を利用した計算を行い、その計算結果を表示部40に表示させる制御を行う。
図23に示すように、8つの光源モジュール61及び8つの検出モジュール62は、一例として、擬似生体(不図示)に対して、互いに直交するX方向及びY方向の何れに関しても光源モジュール61と検出モジュール62とが隣り合うようにX方向及びY方向に等ピッチaでマトリクス状(2次元格子状)に配置される。図23では、光源モジュール61は四角印で示され、検出モジュール62は丸印で示されている。
光源モジュール61は、図24に示すように、例えば凸面レンズ61A1及び61A2、複数のプリズム61B等の光学素子、複数の面発光レーザアレイチップ61CA及び61CBが実装されたセラミックパッケージ、該セラミックパッケージやアナログ電子回路が実装されたフレキ基板、該フレキ基板に結線されている配線、コネクタ部、これらが収容された筐体61E、被検体と接触する透明樹脂からなる窓部材61F等を含む。
面発光レーザアレイチップの各面発光レーザ(VCSEL)の発振波長は、一例として780nm又は900nmである。この波長は血液中の酸素濃度で吸収係数が大きく変わることから選定している。光源モジュール61では、図24に示すように、発振波長が900nmの面発光レーザアレイチップ61CA及び発振波長が780nmの面発光レーザアレイチップ61CBが並列に配置され、面発光レーザアレイチップ61CAの出射端近傍に凸面レンズ61A1が配置され、面発光レーザアレイチップ61CBの出射端近傍に凸面レンズ61A2が配置されている。各面発光レーザをch(チャンネル)とも称する。
各面発光レーザアレイチップからの光は、対応するレンズで屈折され、窓部材61Fの内部に形成された反射部材としてのプリズム61Bで所望の角度に偏向され(所定方向に反射され)、筐体61Eの外に出射される。
面発光レーザアレイチップ61CA(面発光レーザアレイチップ61CBも同様)は、図25に示すように、一辺が約870mmの正方形状であり、2次元配置された複数(例えば5個)の光照射部61CA1と検出素子61CA2との組が設けられている。5つの光照射部61CA1となる面発光レーザは、上述の如くセラミックパッケージに実装され、ボンディングワイヤ(配線)を介して同一の電極パッドに接続されている。
セラミックパッケージは、フレキ基板の配線パターンに半田付けによって実装されている。フレキ基板には、スイッチング用の半導体や電流安定化用の半導体が配置されている。スイッチング用の半導体により、面発光レーザアレイチップのどのchを発光させるかが制御される。スイッチング用半導体は、外部のシリアル信号によって、選択されたchを発光させる。このシリアル信号用の信号線の一端、電源供給線の一端は、フレキ基板に接続され、該信号線の他端、電源供給線の他端は、制御部に接続されている。
各光照射部61CA1となる面発光レーザの発光光量は光照射部61CA1(面発光レーザ)に並ぶ検出素子61CA2に流れる電流を使って検出することができる。外部の光量計を使って光照射部61CA1(面発光レーザ)からの光量と検出素子61CA2に流れる電流をキャリブレーションすることで各光照射部61CA1(面発光レーザ)と検出素子61CA2に適応した光量調整が可能となる。
以下に、光学センサ10の光源として面発光レーザアレイチップを採用した理由を説明する。面発光レーザアレイチップでは、複数のchを近接した位置に2次元に配列することができ、各chを独立に発光制御できる。そして、chの近傍に小型のレンズを設置することで出射光の進行方向を変えることができる。
又、DOTに用いられる光学センサでは、被検体への入射角をできるだけ精度良く制御することが求められる。一般的なLED(発光ダイオード)は放射角が広いため、精度の良い平行光にするには、レンズを非球面にする必要がある。又、一般的なLD(端面発光レーザ)は放射角が非対称であり、レンズで精度の良い平行光を作るには、曲率が縦と横とで異なるレンズやシリンドリカルレンズを2枚組み合わせる必要があり、構成が複雑になり、実装も高精度なものが必要となる。
これに対し、面発光レーザはほぼ真円状のファーフィールドパターンを有しており、平行光を作るにも、球面レンズを1つ配置すれば良い。又、LDから出射されるコヒーレントな光を利用する場合、被検体(散乱体)の中では、散乱光同士が干渉するスペックルが発生する。このスペックルパターンは、計測にノイズとして悪影響を与える。
DOTのように脳内の血流を見る場合には、その散乱回数が非常に多いので、それほど影響はない。しかし、皮膚表面で反射される光が、光源に直接戻ってくる戻り光の影響がある。戻り光は、LD内部の発振状態を不安定にして、安定動作ができなくなる。光ディスク等でも、コヒーレントな光を安定的に利用する際には、正反射光が戻り光にならないように波長板などを利用している。しかし、散乱体に対する反射光の戻り光除去は難しい。
面発光レーザアレイチップの場合には、微小エリアに複数の光を同時に照射することが可能であり、その戻り光干渉を低下することが可能である。
本実施の形態(実施例1及び2)では、面発光レーザアレイチップ61Cからの出射光の光路上に凸面レンズ61A(単に「レンズ」とも称する)が配置されている(図26参照)。
凸面レンズ61Aの直径は1mmであり、凸面レンズ61Aの有効径εは600μmである。凸面レンズ61Aの焦点距離fは600μmである。面発光レーザアレイチップ61Cは1mm角のチップであり、該面発光レーザアレイチップ61C内で最も離れた2つのch(光照射部となる面発光レーザ61L)の中心間距離dmaxは600μmである。このようにdmaxとεとを一致させることで、凸面レンズ61Aの直径を最小にすることができる。
ここで、凸面レンズ61Aと面発光レーザアレイチップ61Cは、凸面レンズ61Aの主点C(光学的な中心)と面発光レーザアレイチップ61Cの発光面(出射面)との凸面レンズ61Aの光軸方向の距離Lが例えば300μmになるように位置決めされている。すなわち、f≠Lとなっている。
この場合、面発光レーザアレイチップ61Cから出射され凸面レンズ61Aを透過した光がプリズム等で正反射され、凸面レンズ61Aで面発光レーザアレイチップ61Cに集光される現象(戻り光現象)を回避することができる。このように、戻り光が発生しないため、面発光レーザアレイチップ61Cの各ch(光照射部となる面発光レーザ61L)の発光光量を安定化することが可能となる。但し、戻り光の影響を考慮しない場合(NIRSに高分解能を求めない場合)には、f=Lであっても構わない。
又、図27に示すように、凸面レンズ61Aと面発光レーザアレイチップ61Cとの間は透明樹脂61Gで満たされ、空気層が介在しないようにされている。透明樹脂61Gとしては、屈折率が凸面レンズ61Aと同等の樹脂(例えば熱硬化型のエポキシ系の樹脂)が用いられている。すなわち、凸面レンズ61Aと面発光レーザアレイチップ61Cとの間の各界面を境に屈折率が変化しない。透明樹脂61Gは、凸面レンズ61Aの固定前に金型で成形しても良いし、凸面レンズ61Aを固定後、注入しても良い。
このように、凸面レンズ61Aと面発光レーザアレイチップ61Cとの間が透明樹脂61Gで満たされることにより、面発光レーザアレイチップ61Cから出射された光が凸面レンズ61Aの面発光レーザアレイチップ61C側の表面で反射すること、すなわち戻り光の発生を防止できる。戻り光が発生しないため、各chの発光光量を安定化することが可能となる。各chの光量が安定すれば、測定系のS/N(シグナル/ノイズ)比が良好になり、高精度なNIRS測定及び高い分解能を実現できる。
凸面レンズ61Aは、図28に示すように、面発光レーザアレイチップ61Cが実装されたパッケージ61Hにサブマウント61Iを介して固定されている。面発光レーザアレイチップ61Cは、チップ上の電極61J(チップ電極)がパッケージ61H上のPKG電極61Kにワイヤー61Mによって電気的に接続される。
ワイヤー61Mは、高さ数10μm程度となるため、サブマウント61Iと干渉しないように設計される。凸面レンズ61Aの固定位置L(面発光レーザアレイチップ61Cの発光面と凸面レンズ61Aの主点との距離)は、このワイヤー61Mの高さの制約を受ける。つまりは、ワイヤー61Mを利用する場合には、サブマウント61Iを回避する構造にしたり、ワイヤー61Mの高さを100μm以下にすることが必要となる。すなわち、−100μm<f−L<0が成立することが好ましい。なお、図28では、図27に示す透明樹脂61Gの図示が省略されている。
面発光レーザの出射面から出射される光は、ほぼ円形であり、その発散角は半値幅で5度程度である。一般的なLDのビームが楕円形であるので、回転方向の設置誤差を考慮する必要があるが、面発光レーザはそれを考慮する必要がないメリットがある。又、円形であるため、逆問題を解く際に利用する光学シミュレーションをするにも、対称性を利用した近似などがしやすいメリットがある。
面発光レーザから出射されたビームは近傍に配置された凸面レンズによって屈折される。その屈折角は面発光レーザとレンズ中心(レンズの光軸)との相対位置によって決定される。そこで、面発光レーザアレイチップの各グループの位置とレンズの位置を適切に設定することで、所望の屈折角を得ることができる。
実施例2では、この屈折角が20度程度になるようにchと凸面レンズ61Aの光軸との相対位置が設定されている。面発光レーザアレイチップ61Cでは、各chは独立に発光制御できるので、発光させるchを選択することで、光源モジュール61から出射される光の方向を変えることができる。
図29には、光学シミュレータで光学設計した光線図の一例が示されている。ここでは、面発光レーザアレイチップを模した3つのch61L(光源)、及び3つのch61Lの近傍に直径1mm、f=600μmの凸面レンズ61Aを配置している。3つのch61Lのうち1つのchは、凸面レンズ61Aの光軸上に配置され、他の2つのchは、凸面レンズ61Aの光軸の一側及び他側に個別に配置されている。光軸上のch以外のchからの光はレンズで屈折され、伝播方向(進路)が曲げられる。すなわち、光軸上のch以外の2つのchからの2つの光は、レンズの光軸に対して約20度の角度で該光軸に対して互いに逆方向に出射されることになる。
ここでは、光源モジュール61は、被検体への光の入射角が約55度になるように設計されている。具体的には、光源モジュール61は、図24に示すように、凸面レンズ61A1及びA2からその光軸に対して約20度傾斜した方向に出射された複数の光を複数のプリズム61Bによって個別に偏向することで、該複数の光それぞれのレンズの光軸に対する角度を約20度から約55度に変換し、被検体の表面に入射するように設計されている。
なお、プリズム61Bは、光を反射するものであれば良く、例えば金属膜が成膜されたガラス基板を用いてもよい。又、例えば、屈折率差によって起きる全反射現象を利用したプリズムを採用しても良い。その一例として、図29に光学シミュレーションの結果が示されている。VCSELから出射された光線は、凸面レンズ61Aで屈折した後、プリズム61Bに入射する。
ここでは、プリズム61Bの材料はBK7としたが、一般的な光学材料でも良い。図30に示すように、プリズム61Bに入射した光は、プリズム61Bの側面(反射面61BR)で全反射され、被検体900に約55°の入射角で入射される。すなわち、凸面レンズ61Aを介した光は、被検体900への光の入射角が55°程度になるようにプリズム61Bで偏向される。
この際に、プリズム61Bと被検体900との界面での光の散乱を防止するために、プリズム61Bと被検体900との間に透明のジェルが介在されている。ここでも、面発光レーザアレイチップ61Cからの複数の光は、凸面レンズ61Aで非平行の複数の光とされ、プリズム61Bの反射面61BRで反射され、被検体900に入射される。結果として、図30に示すように、互いに非平行な複数の略平行光が被検体900の同一位置に照射され、被検体900に入射する。
プリズム61Bと被検体900との屈折率差によるスネルの法則によって、光線の被検体900内における伝播角度が約55°から約60°に変わる。
凸面レンズ61A及びプリズム61Bを含む光学系では、面発光レーザアレイチップ61Cの各chの位置が互いに異なることを利用して、被検体900内での光の伝播角度を設定することができる。ここでは、各ch(VCSEL)の中心を凸面レンズ61Aの光軸から200μm程度ずらすことで、該chから出射された光を被検体900内での伝播角度を60°程度に設定できている。この際、複数のchから出射された複数の光は、凸面レンズ61Aの出射面の異なる複数位置から非平行な複数の略平行光として出射される。
図31には、比較例として、レンズの焦点距離f=600μmに対し、固定位置をL=1.6mmとしたときの光学シミュレーションの結果が示されている。Lとfとの差が1mm以上になると、図31のようにビームが大きく広がってしまう。このようにビームが広がる場合、被検体900の入射面を大きくする必要がある。しかし、実際にNIRSとして実用的な大きさとしてはφ2mm程度が限界である。この制約は、人間の毛根の間隔が2mm程度であり、これ以上大きい面積では、光学上、髪の毛が邪魔になってしまい高い分解能のNIRSを実現できない。つまりは、fとLとの差は1mm未満であることが望ましい。
図24に示す凸面レンズ61A1及び61A2は、設計した位置に正確に安定して配置されるように、面発光レーザアレイチップが実装されているセラミックパッケージに直接固定されている。
図29では、凸面レンズ61Aの凸面が面発光レーザ側に向けられているが、その逆でも構わない。図29に示すように、凸面レンズ61Aの凸面が面発光レーザ61L側を向き、凸面レンズ61Aの平面部分が被検体側を向くように配置することで、面発光レーザアレイチップ61Cと凸面レンズ61Aとの距離を長くとることができる。チップ実装のプロセス上では、実装する際に部品をピックアップするアームや部品同士が干渉するのを防ぐために、ある程度許容距離が長い方が好ましい。
凸面レンズ61Aは光を屈折させる光学部品であれば良く、光ファイバの屈折率分布を利用したGRIN(Gradient Index)レンズのようなものを利用してもよい。GRINレンズを用いることで、球面レンズを利用するよりも、一般的に球面収差が小さく、低コストでf値の小さいものを選択できるメリットがある。
実施例2では、凸面レンズ61Aの中心よりも端部に光を入射させるため、球面収差が小さい方が望ましい。
以上の説明からわかるように、光源モジュール61からは、互いに非平行な複数の光が出射される。そして、光源モジュール61からの互いに非平行な複数の光は、被検体900の同一位置に入射する(図24、図30参照)。
この「同一位置」は、例えば光源モジュール61が約60mm間隔で配置されている場合に、その60mmに対して同一の位置を意味しており、互いに数mm程度離れた複数位置も同一位置と言って差し支えない。つまり、「同一位置」の「同一」は、厳密な意味での同一ではなく、「ほぼ同一」もしくは「概ね同一」と言い換えても良い。
後に逆問題を解くアルゴリズムを説明するが、その際に光源モジュール61の位置を設定した光学シミュレーションを行う。この光学シミュレーションを行う際に、被検体への入射位置のずれを正確に設定することで、逆問題の推定には誤差を生じない。これは発振波長が異なる複数のchを有する面発光レーザアレイチップにおいても同様であり、発振波長が異なる複数のchからの複数の光の入射位置が数mmずれていても、該複数の光の入射位置は、同一位置と言って差し支えない。
又、図32(A)に示す、生体に互いに平行な複数の光を入射させる比較例の光源モジュールでは、生体の表面付近に変質部分がある場合、検出誤差が生じてしまう。「変質部分」とは光学特性が特殊な部分を意味し、例えば毛根や着色した皮膚などがそれにあたる。このような変質部分があると、図32(A)に示す比較例では、光源モジュール71Aの光源71B1及び71B2からの光が被検体900の異なる位置に入射し、被検体900内の矢印で示す伝搬経路を通って光検出器71Cに達する。この場合、例えば71B2からの光のみが変質部分900xを通過するようなケースが発生する。光源71B1と光源71B2との差分を計算する際には、変質部分900xがノイズとなってしまう。
これに対し、本実施の形態では、図32(B)に示すように、角度θをなすように互いに傾斜して配置された光源71B1及び71B2からの光は、被検体900の表面(皮膚表面)の「同一位置」を通過するため、光源71B1及び71B2の一方からの光が変質部分900xを通過するときは、他方からの光も変質部分900xを通過する。又、光源71B1及び71B2の一方からの光が変質部分900xを通過しないときは、他方からの光も変質部分900xを通過しない。
詳述すると、光源71B1及び71B2からの光は、被検体900の表面(皮膚表面)の近傍では同一光路であり、被検体900の深さ方向に行くと異なる光路を通過する。すなわち、被検体900の表面(皮膚表面)の近傍での相違には鈍感であるが、脳組織近傍では相違に敏感な構成となっている。被検体900の表面(皮膚表面)付近のノイズを小さくすることで、分解能が向上する。
又、実施例2では、筐体に設けられた窓部材に透明なジェルを滴下し、窓部材と被検体表面との間に透明なジェルを介在させ、空気が入らないようにする。
従来の光源モジュールでは、空気中に一旦放射された光が皮膚表面から体内に伝播していく。このとき、空気中の屈折率1.0と生体の屈折率1.37との間で、屈折率差が生じてしまう。屈折率差が生じることで、反射及び散乱が起きてしまう。又、生体外の空気に比べ、光が伝播する生体内の屈折率が小さいため、入射角に対して生体内の伝播角(生体内伝播角とも呼ぶ)は小さくなってしまう。界面での光の屈折はスネルの式を利用すると理解できる。このスネルの式は屈折率のみで記述できる。
図33は、屈折率、1.0(空気:入射側)と1.37(生体:伝播側)との界面での入射角と生体内伝播角度との関係(光の屈折)がグラフで示されている。図33からわかるように、生体への光の入射角は60度であっても、生体内での光の伝播角は40度と小さくなってしまう。このため、生体内での光の伝播角が仮に60度以上必要であっても、空気中からの光の入射では実現できないことがわかる。つまりは、一旦空気に放出された光で生体内における大きな伝播角を作ることは難しい。
そこで、実施例2では、光源モジュール61の窓部材の材料である透明樹脂の屈折率が、生体の屈折率1.37よりも大きい屈折率(例えば1.5以上)に設定されている。この場合、図34に示すように、光源モジュール61から入射角60度で直接的に生体に入射された光の生体での伝播角は70度を越える。光源モジュール61の設計を考える際には、入射角をできるだけ小さくした方が、光源モジュール61を小型化できるなどのメリットがある。
以上のように構成される実施例2の光源モジュール61では、図24に示すように、面発光レーザアレイチップ61Cから凸面レンズ61Aの光軸に平行な方向に出射された光は、凸面レンズ61Aで屈折され、凸面レンズ61Aの光軸に対して約20°傾斜する方向に進行し、窓部材61Fに入射する。
窓部材61Fは屈折率1.5程度に設定されている。凸面レンズ61Aを介した光は、窓部材61Fに入射するときに屈折するが、入射角度が深いため、大きな屈折ではない。窓部材61Fに入射した光は、プリズム61Bの反射面で偏向され、凸面レンズ61Aの光軸に対して約55°傾斜する方向に進行する。この55°の角度は、屈折率1.5の窓部材61Fの中での角度であり、図34に示すように、生体内(屈折率1.37)での伝播角は約60度となる。
光源モジュール61から光が直接的に擬似生体内に伝播するためには、擬似生体と光源モジュール61の界面に入る空気層を除去する必要がある。この空気層の除去のために、ここでは透明なジェルを利用した。ここで用いた透明なジェルはグリセリン水溶液であり、疑似生体との整合性が良いものを選択した。
又、透明なジェルは揮発性を調整し、検査中、すなわち光源モジュール61に蓋がされている間は蒸発することなく、検査終了後は適当なタイミングで揮発もしくは疑似生体にしみこむように調整した。透明なジェルの光学特性は、波長780nm付近では透明で、屈折率を疑似生体表面に近いものに調整する。ここでは1.37程度となるように調合した。
この調合によって、擬似生体表面に凹凸があろうとも、その凹凸表面の屈折率差はなく、反射がまったくない状態にできる。これによって疑似生体表面での反射をほぼなくすことができた。又、疑似生体との界面が物理的に凹凸であっても、光学的には凹凸はないので、散乱が起きない。
この結果、光源モジュール61からの光の出射角度に応じた適切な伝播方向で正確に疑似生体内部に伝播させることができる。一般的に擬似生体内部の伝播は散乱を強く起こすが、皮膚表面での散乱も小さくない。これによって、光の異方性を大きく確保できる。異方性が大きく取れることによって、光源モジュール61からの複数の光の擬似生体への入射角を大きく変えることができ、後述するように検出モジュール62への複数の光の入射角を大きく変えることができる。
検出モジュール62は、図35に示すように、分割レンズ62C等の光学素子、PDアレイ62D等の受光部、アナログ電子回路62Fが実装されたフレキ基板(不図示)、該フレキ基板に接続された配線、コネクタ部(不図示)、これらが収容された筐体62A、被検体と接触する透明樹脂からなる窓部材62G等を含む。
検出モジュール62では、図36に示すように、光源71Bから被検体900に照射され被検体900内を伝播した光を複数の光に分割して複数の受光部に導くこととしている。
従来技術(例えば特開2011−179903号公報参照)では、蛍光を利用したDOTにおいて、被検体から多角度で出射される複数の光に対応させて受光部を配置している。しかし、この受光部の配置では、受光部に入射する光は、被検体からの全ての出射角度の光である。
これに対し、本実施の形態の検出モジュール62は、被検体900の「同一位置」からの光を分割して、個別に検出している。先の光源モジュール61でも説明したように、光学シミュレーションの際に設計できるので、「同一位置」の精度は、mmオーダーの位置の相違は問わない。
以下に、検出モジュール62について詳しく説明する。検出モジュール62は図37に示すように、黒い樹脂製の筐体62A、筐体62Aの先端に取り付けられた弾性体からなる接触部材62B、筐体62Aに収容された透明な分割レンズ62C及び受光部62D1及び62D2を含む4つの受光部を有するPDアレイ62Dを含んで構成されている。筐体62Aの先端及び接触部材62Bには、アパーチャ62E(開口)が形成されている。
接触部材62Bとしては遮光性を高めるために黒いゴム製のものを利用している。接触部材62Bのアパーチャ62Eから分割レンズ62Cの中央部(φ1mm程度)が数100μm程度筐体62Aの外に突出している。この部分が被検体900(生体表面)に接触するため、光学的にも空気が内在することなく、フレネルの屈折や、散乱等が抑制される。
又、検出モジュール62でも、前述した透明ジェルを利用することで安定性が更に向上するため、透明ジェルを利用する。分割レンズ62Cは透明樹脂からなり、屈折率は1.8程度である。分割レンズ62Cは、筐体62Aに固定されている。
アパーチャ62Eは、筐体62Aの先端及び接触部材62Bを貫通する約1mm程度の円形の穴であり、被検体900内を伝播して出てくる光の位置を限定する機能を有している。この位置から出てくる光は異なる複数の方向を向いており、アパーチャ62Eで入射位置を規定し、その後、入射光を分割レンズ62Cで複数の光に分割し、該複数の光を個別に検出することができる。
上述した被検体900からの光が「同一位置」からPDアレイ62Dの4つの受光部に入射されることは、アパーチャ62Eによって実現されている。
アパーチャ62Eを通過してきた光は、その光が持つ伝播方向によって、分割レンズ62Cによって異なる方向に屈折されるため、PDアレイ62Dの4つの受光部への入射位置が異なる。分割レンズ62Cは、球面レンズで、直径は3mm程度、焦点距離fは3mm程度である。
実施例2では、分割レンズ62Cでの光の分割数を4とし、受光部62D1及び62D2を含む2次元配列された4つの受光部(PD:フォトダイオード)を有するPDアレイ62D(フォトダイオードアレイ)を用いている。図37では、PDアレイ62Dの4つの受光部のうち2つの受光部62D1及び62D2のみが示されている。
ここでは、PDアレイ62Dは一辺の長さが約3mmの正方形状であり、各受光部は一辺の長が1.4mmの正方形状である。図37に示すような角度θ2を定義し、PDアレイ62Dとアパーチャ62Eとの距離は、約5mm程度にした。
分割レンズ12Cの片面は平面で、片面のみ球面を有している。平面の方を被検体900に接触させている。アパーチャ62Eの位置は、分割レンズ12Cのフォーカス位置とはずれているので、平行光を作り出すことはできていないが、PDアレイ62Dに入射する光を限定する機能を有している。
図37に示す光学系について簡単な光学シミュレーションをしたところ、概ね−10°<θ2<50°の光は受光部62D2に入射し、概ね−50°<θ2<10°の光は、受光部62D1に入射することがわかった。つまり、被検体900内を伝播しアパーチャ62Eから出射された光は、出射角度によって、複数の光に分割され、該複数の光それぞれは、PDアレイ62Dの4つの受光部の何れかに入射される。
実施例2では、分割レンズ62Cには球面レンズを利用しているが、非球面レンズを利用して、角度をより広く検出することも可能である。この分割精度及び分割数は、後述する逆問題の推定精度と相関があるため、所望の推定精度から必要な光学系が決まる。本実施の形態では、球面レンズ、分割数4が採用されている。
各PDは電気配線され、オペアンプに接続されている。アンプには半導体のオペアンプが利用され、電源電圧を5V供給する。検出される光量は非常に小さいため、オペアンプでの倍率は高く、2段階のアンプ構成とされている。前段で約5桁程度の倍率をかけ、後段では3桁程度の倍率をかける。
実施例2において、擬似生体に内在する吸光体の位置測定方法(被検体の光学特性検出方法)を、図38に示すフローチャートを参照して説明する。
先ず、プローブ(光源モジュール61及び検出モジュール62)を擬似生体にセッティング(装着)する(ステップS1)。この際、アクリル水槽と各プローブとの間に透明ジェルを塗布し、透明ジェルに気泡が入らないように、プローブを1本1本確認しながら慎重に、固定部材によって決められた位置にセッティングする。
プローブは、光源モジュール61が8個、検出モジュール62が8個の計16個であり、光源モジュール61と検出モジュール62を交互に格子状に等ピッチで配置する(図23参照)。格子のピッチa(格子点間隔)が30mmであり、光源モジュール61と検出モジュール62との間隔が30mmとなる。
この状態で、任意の一の光源モジュール61のchを発光させ、光源モジュール61内の光照射部の側に配置されている検出素子で光量をモニタし、所望の光量になるよう調整する。ここでは、発光を1ch毎に行い、発光強度は1mW程度になるように、電流値が決定される(ステップS2)。又、測定中も常に受光素子で光量をモニタし、一定の光量になるよう電流値が調整させる。これにより高精度なNIRS測定が可能になり、高分解能化に繋がる。
この状態で、任意の一の光源モジュール61のchを発光させる(ステップS3)。発光は、1ch毎に行い、発光強度は1mW程度になるように、電流値が決定される。発光時間は10msec程度であり、その間、全てのPDでの検出値を読み取り、1msec間隔で検出した数点のデータを平均化する(ステップS4)。そして、平均化された数値を記録部に格納する(ステップS5)。
次のグループも同様に10msecの発光及び計測、データ格納を繰り返す(ステップS6、S7、S2〜S5)。なお、一の光源モジュール61における、発振波長が780nmの面発光レーザアレイチップの4chの発光と、発振波長が900nmの面発光レーザアレイチップの4chの発光を、同様に順次行う。
但し、以下のデータ処理では、2波長をほぼ同様に扱い、単に同じ位置での計測を2回ずつ同様に行ったことになる。本来の血流の変化を検出するときには、この2波長での差を利用することで、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンとの個別に検出するが、本実施形態では、発振波長が異なる2つの面発光レーザアレイチップを用いて1回ずつ計測することで、チップのばらつきによるノイズを低減することができる。
一の光源モジュール61の全てのグループの発光及び計測が終了したら、次の光源モジュール61の発光を行う(ステップS8、S9、S2〜S5)。ここでの発光も、同様に1グループ(4ch)ずつ順次行う。全ての光源モジュール61による発光及び計測が終了したら、吸光体をセッティングする(ステップS10、S11)。吸光体のセッティングは、位置を再現性良く正確に実現できるように光学ステージを用いて行う。この吸光体をセッティングした状態で、再度、ch発光からPDの数値の記録を行う(ステップS2〜S10)。
格納されたデータは、それぞれ吸光体あり、なしのデータを以下のr(s,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K))、r(0,i,n)(i=1,2,3・・・M、n=1,2,3・・・K)とする。iはそれぞれの検出モジュール12に付された番号である。nはそれぞれのグループに付された番号である。次にそれぞれの差分Δr(i,n)を計算する。
上記位置測定方法で得られた測定結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法は、前述した図15のフローチャートに基づく計測方法で得られた計測結果から吸光体の位置(擬似生体の光学特性)を算出する方法と同様であるため、説明を省略する。
結果として、図39に示すような推定結果を導くことができる。図39には、比較例として、面発光レーザアレイチップの1chのうち中心の1ch(図25参照)のみを発光させ、かつPDアレイの4つのPDのうち1つのPDの検出値のみを利用して検出した結果も併せて示されている。それ以外は全て本実施の形態と同様に数値処理する。この比較例は、従来のNIRS(DOT)装置とほぼ同様の構成である。
実施例2では、上記ベイズ推定により、吸光体の位置と深さを検出することが可能である。図39に示された結果は、吸光体の位置を検出できた場合に○(丸)が表示されている。実施例2では、吸光体の深さ方向(ここでは、図10のZ軸方向)の距離が大きくなると、光源モジュール61からの距離が遠くなり、伝播可能な光の量が減ってしまう。このため、吸光体の位置の深さが深くなるほど検出が困難となる。実施例2では、16mm程度までは検出できた。
比較例は、一般的なNIRS(DOT)装置であり、ベイズ推定を利用しても深さ方向の検出はできなかった。深さを含めた吸光体の3次元位置をDOTで高精度に検出するためには、一般に高密度なプローブ配置が必要であるが、本実施の形態では低密度なプローブ配置でそれが実現できた。
以上説明した本実施の形態(実施例1及び2)の光学センサは、被検体(擬似生体)に光を照射する、複数の光源モジュール(光照射器)を含む照射系と、該照射系から照射され被検体内を伝播した光を検出する検出系と、を備えている。そして、複数の光源モジュールそれぞれは、非平行の複数の光を被検体の同一位置に照射する。
この場合、被検体(散乱体)の同一位置に照射される互いに非平行の複数の光は、被検体への入射角度が異なり、異なる伝播経路をたどる(図28(B)参照)。
この結果、被検体内部に関して得られる情報量が増加し、高分解能化を図ることができる。又、分解能が増すことで、同じ要求分解能に対しては、プローブ密度(単位面積当たりのプローブの数)を低下させることができ、装着性を向上させることができる。
結果として、光学センサ10では、被検体への装着性を低下させず、かつ高分解能を得ることができる。
なお、被検体の同一位置に入射する複数の光が非平行であることは、複数の光が角度をなしていることを意味する。つまり、複数の光のなす角が存在することで、該複数の光の被検体内での伝播経路を異ならせることができる。一方、仮に被検体の同一位置に入射する複数の光が互いに平行であると(例えば被検体の表面法線と平行であると)、該複数の光の被検体内での伝播経路は同じになってしまう(図28(A)参照)。
又、本実施の形態の光源モジュール61は、複数の面発光レーザ(光照射部)を有する面発光レーザアレイと、前記複数の面発光レーザからの複数の光の光路上に配置され、該複数の光を非平行な複数の光とする凸面レンズとを有し、該凸面レンズの主点と面発光レーザアレイとの距離は、凸面レンズの焦点距離と一致していない。
この場合、戻り光が面発光レーザに集光することを防止でき、該面発光レーザの出力変動を防止できる。結果として、面発光レーザの発光光量を安定化でき、光学センサ10における検出精度を向上させることができ、ひいてはNIRSの分解能を向上させることができる。
一方、面発光レーザアレイが凸面レンズの焦点位置に位置する場合、外部の反射面から反射された光が、凸面レンズで面発光レーザに集光され、レーザ発振が不安定になる。これは、戻り光やselfmixing現象と呼ばれる現象であり、面発光レーザアレイが光学センサの光源として用いられる場合に、この現象が発生すると、発光光量が不安定となり問題となる(例えば、特開2011−114228号公報、特開2012−132740号公報参照)。
又、凸面レンズと面発光レーザアレイとの間に、屈折率が該凸面レンズと同等の透明樹脂で満たされている。この場合、凸面レンズと面発光レーザアレイとの間の界面を境に屈折率が変化しないため、戻り光を抑制できる。この結果、面発光レーザアレイの発光光量を安定化でき、ひいてはNIRSの分解能を向上できる。
又、検出系は、光源モジュール61から被検体に照射され該被検体内を伝播した複数の光を個別に受光する複数の受光部(PD)を含む検出モジュール12を複数有している。この場合、被検体内の異なる2つの伝播経路における2つの情報を個別に得ることができる。
又、検出モジュール12は、被検体と複数の受光部(PD)との間に配置され、被検体内を伝播した複数の光それぞれの一部を通過させるアパーチャが設けられた接触部材及び筐体を有している。
この場合、被検体の同一位置から筐体内に光を取り込むこと、すなわち被検体から筐体内に入射角がある程度限定された光のみを入射させることができ、複数の受光部に光を入射させ易くすることができる。
又、検出モジュール62は、アパーチャを通過した複数の光の一部を複数の受光部に個別に導く分割レンズ(受光用レンズ)を有している。この場合、アパーチャを通過した複数の光それぞれの一部を複数の受光部に個別に安定した光量で入射させることができる。
又、光源モジュール61は、被検体に接する、該被検体よりも屈折率が大きい材料(透明樹脂)からなる窓部材を有しているため、被検体への入射角に対して被検体内での伝播角(屈折角)を大きくすることができる。この結果、仮に空気中から被検体へ光を入射させる場合に比べ、同じ入射角でも伝播角が大きくなる。
そこで、被検体の同一位置に異なる入射角で入射する2つの光の入射角の差よりも、これら2つの光の被検体内における伝播角の差の方が大きくなり、伝播経路を大きく異ならせることができる。結果として、さらなる高分解能化を図ることができる。
又、光源モジュール61は、2次元配置された複数の面発光レーザと、複数の面発光レーザからの光の光路上に配置された照射用レンズ(レンズ)を含む。この場合、複数の面発光レーザからの光の進行方向を所望の方向(対応するプリズムが配置されている方向)に変えることができる。
又、光源モジュール61は、照射用レンズを介した光の光路上に配置され、該光を所定方向に反射させるプリズム(反射部材)を有している。この場合、照射用レンズからの光の進行方向を更に所望の方向に変えることができる。すなわち、被検体への入射角を所望の角度に設定することができる。
以上のように、光学センサ10は、簡易な構成により光の伝播異方性を効果的に利用して高分解能を達成できる光学センサであり、例えばDOT等の様々な分野での利用が期待される。
又、光学検査装置1は、光学センサ10と、光学センサ10での検出結果に基づいて、被検体の光学特性を算出する制御部(光学特性算出部)と、を備えている。この場合、光学センサ10での検出精度が高いため、被検体の光学特性を高精度に算出することができる。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、第1実施形態で説明したプローブを実際の人体に適応する手法について説明する。ここでは、被検体を上記実施形態でのファントム(白濁水の入った水槽)から人体の頭部に変更し、吸光体を脳内血流とする。
本実施の形態では、脳内の血流の分布を、正確に推定することを目的としている。本実施の形態では、被験者(被検体)を計測し、そのデータを元に形状をモデル化し、モンテカルロシミュレーションを行う。核磁気共鳴画像法(以下ではMRIと略す: magnetic resonance imaging, MRI)を利用して、被験者の頭部形状を計測する。頭皮、頭蓋骨、脳脊髄液、大脳皮質との4つ部位の形状を画像から計測する。
この3次元データは、高精度の検出をする際には必要なデータであるが、標準的な形状の脳モデルなどのデータで代替することも可能である。それぞれの部位には、それぞれ一般的な、散乱係数、異方性、吸収係数が知られているのでその数値を利用する。プローブは固定冶具にて、頭部に正確に固定し、設置した位置も正確に計測する。プローブ等は第1実施形態と同じであるので、ここでは説明を割愛する。それぞれの正確な形状、配置、それぞれの部位の数値を利用して、光学シミュレーションを行う。
以下では、脳内の血流を計測する方法を、図40に示すフローチャートを参照して説明する。先ず、初めに、被験者に安静にしてもらい(ステップS31)、プローブ(光源モジュール61及び検出モジュール62)を頭部にセッティングする。この際、毛髪などがプローブと頭皮の間に挟まらないように、プローブ1本1本を確認しながら慎重に、固定部材を用いて決められた位置にセット(設置)する(ステップS32)。
この状態で、光源モジュール61のchを発光させ、光源モジュール61内の光照射部の側に配置されている検出素子で光量をモニタし、所望の光量になるよう調整する。ここでは、光量が強度は4mW程度になるように、電流値を決定している。(ステップS33)。
次にchを発光させる(ステップS34)。発光は、1グループ毎に行い、発光時間は数msecであり、その間、全てのPDの検出値を読み取り平均化する(ステップS35)。平均化された数値を記録媒体に格納する(ステップS36)。
次のグループも同様に数msecの発光及び計測、データ格納を繰り返す(ステップS37、S38、S34〜S36)。全ての光源モジュール61の発光及び計測が終了したら、被験者に課題をやってもらう(ステップS38〜S41)。ここでは、一般的な言語流暢性(例えば、特開2012−080975号公報参照)を課題とした。
この課題を行うことで、脳が活動し、活動が起きた箇所にのみ脳血流が発生する。血流は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンを含み、血流によって光吸収が起きる。ベイズ推定による逆問題推定等は、上記第1実施形態で説明した方法に順ずるのでここでは割愛する。この計測によって、得られた血流位置は、fMRI (functional magnetic resonance imaging)での計測でその精度を確認できる。fMRIはMRIを利用して、ヒト及び動物の脳や脊髄の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の一つである。この確認計測によって、本実施の形態の光学センサによる計測に高い分解能があることがわかった。
以上、好ましい実施の形態について詳説したが、上述した実施の形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態に種々の変形及び置換を加えることができる。