JP2018067593A - 磁場変調機構、磁場変調素子、アナログメモリ素子、及び、高周波フィルタ - Google Patents

磁場変調機構、磁場変調素子、アナログメモリ素子、及び、高周波フィルタ Download PDF

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【課題】新規なタイプの多値記録やアナログ記録が可能なメモリに用いることができる磁場変調機構を提供することである。【解決手段】本発明の磁場変調機構10は、磁壁DWを有し、第1領域1aおよび第2領域1bとそれらの領域の間に位置する第3領域1cとからなり、磁壁駆動により供給する磁場を変えられる可変磁場供給部1と、第1領域1aに接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層2と、第2領域1bに接し、第1の磁化の向きと反対向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層3と、第1磁壁供給層2と第2磁壁供給層3とに電気的に接続され、可変磁場供給部1に電流を流す電流源4と、を備え、電流源4から供給された電流によって可変磁場供給部1内の磁壁を駆動することができる。【選択図】図3

Description

本発明は、磁場変調機構、磁場変調素子、アナログメモリ素子、及び、高周波フィルタに関する。
微細化に限界が見えてきたフラッシュメモリ等に代わる次世代の不揮発性メモリとして、抵抗変化型素子を利用してデータを記憶する抵抗変化型メモリ例えば、MRAM(Magnetroresistive Random Access Memory)、ReRAM(Resistancne Random Access Memory)、PCRAM(Phase Change Random Access Memory)などが注目されている。
メモリの高密度化(大容量化)の方法としては、メモリを構成する素子自体を小さくする方法の他に、メモリを構成する素子一つあたりの記録ビットを多値化する方法があり、様々な多値化方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
MRAMの一つに、磁壁駆動型あるいは磁壁移動型と呼ばれるものがある(例えば、特許文献4)。磁壁駆動型MRAMは、電流を磁壁駆動層(磁化自由層としての効果も兼ねる場合もある)の面内方向に流し、スピン偏極電子によるスピントランスファー効果によって磁壁を移動させ、強磁性膜の磁化を書き込み電流の方向に応じた向きに反転させることでデータ書き込みを行うものである。
特許文献4には、磁壁駆動型MRAMについて、多値記録やアナログ記録の方法について記載されている。
MRAMでは、データの異なる書き込み方法が提案されており、磁壁駆動型MRAM以外にも、磁場書き込み型、ヨーク磁場書き込み型、STT(Spin Transfer Torque)型、SOT(Spin Orbit Torque)型MRAMなどが知られている。
特開2015−088669号公報 国際公開第2009/072213号 特開2016−004924号公報 国際公開第2009/101827号 特開平3−273540号公報
しかしながら、従来の磁壁駆動型MRAMでは、読み出し時に磁壁駆動層の面内方向に電流を流す必要があるため、読み出し時に流した電流によって磁壁駆動層の磁壁が移動してしまう可能性がある。磁壁駆動層と磁気抵抗効果素子とが重なる部分よりも外側に磁壁が移動してしまうと、磁壁駆動型MRAMにおいて信号が最終的には0か1のデジタルの信号となり、アナログメモリとして使用することは困難であった。逆に、平面視して、磁壁駆動層と磁気抵抗効果素子とが重なる部分よりも外側に磁壁移動が完了していないと、読み込み時に磁壁が移動して誤書き込みや読み出し初期時の信号が変化するなどの問題がある。従って、従来の磁壁駆動型MRAMについては、安定的に読み出す手段の開発が望まれる。
一方、これまでにない新規なタイプの多値記録やアナログ記録が可能なMRAMの開発も望まれている。
従来のMRAMは、磁気抵抗効果素子における2つの強磁性層の磁化の向きが平行か反平行であるという2値のデジタル信号を想定した素子であり、従来のMRAMをそのまま使っては多値的な信号あるいはアナログ的な信号を扱うことはできない。しかし、2つの強磁性層の磁化の相対角を0°(平行)あるいは180°(反平行)以外の複数の、あるいは任意の角度に固定することができれば、多値記録やアナログ記録が可能なMRAMを実現できる。ここで、2つの強磁性層の磁化の相対角をそのような角度に固定する方法として、外部磁場を印可することが考えられる。外部磁場を印可するには例えば、永久磁石を磁気抵抗効果素子に近傍して配置する方法や、電流によって誘起された磁界を利用する方法などが考えられる。しかしながら、永久磁石を磁気抵抗効果素子に近傍して単に配置するというやり方では、磁気抵抗効果素子に印可する磁場の大きさを変えることができない。従って、磁気抵抗効果素子の抵抗を変化させることができず、アナログ的なメモリとして利用することはできない。ハードディスクドライブのように、磁石を機械的に動かす方式で磁気抵抗効果素子に印可する外部磁場の大きさを変えることはできるが、この方式を利用してアナログ的なメモリを作ることは現実的ではない。また、電流によって誘起された磁場を利用する方法では、不揮発のデータとして2つの強磁性層の磁化の相対角を固定するための磁場を印可するために電流を流し続ける必要があり、エネルギー消費の観点から不利であり、これも現実的ではない。
磁場の大きさが可変で、かつ、2つの強磁性層の磁化の相対角が固定している間はエネルギー消費がなく、相対角を変えるときだけエネルギーを消費するという手段があれば、理想的である。
ここで、強磁性層を構成する強磁性体は、多くのミクロな磁区を有しており、各磁区の自発磁化がお互い打ち消すことによって静磁エネルギーを下げて安定な状態になっている消磁状態では外部に磁場を発生させない(図1(a))。この消磁状態の強磁性体に外部磁場(H)を印可することによって、磁区を構成する磁壁が磁場方向と同じ磁化を持つ磁区が成長するように移動して、その外部磁場と同じ方向を向いた磁区が増大すると全体としてその方向に磁化(M)を持つようになり(図1(b))、この状態になるとこの強磁性体は、外部に磁場を発生する。さらに、外部磁場と同じ方向を向いた磁区のみになって磁壁が消失した状態が磁化の飽和状態であり、この状態で最大の磁場を外部に発生する。このときの磁化は飽和磁化(Ms)と呼ばれる(図1(c))。
このように、図1(a)の状態では外部に磁場を発生しなかった強磁性体は、図1(b)に示すように同じ磁場方向を向いた磁区が増えるにつれて、外部に磁場を発生するようになり、図1(c)に示すように、外部磁場と同じ方向を向いた磁区のみになることで、その方向については最大の大きさの磁場を外部に発生するようになる。
こうして外部に磁場を発生するようになった強磁性体が磁石であるが、本発明者は、この磁石の基本的な成り立ちを、磁壁駆動型MRAMにおける磁壁駆動層に重ね合わることで、これまで磁気抵抗効果素子における2つの強磁性層のうちの磁化自由層という見方しかなかった磁壁駆動層を磁石として利用するという本発明の着想を得たのである。
この着想について、図2の模式図を用いてその概念を説明する。
磁壁駆動層Mは磁壁DWを一つ有し、磁壁DWを挟んで逆向きの磁化を有する2つの磁区R、Lからなる。この磁壁駆動層Mにおいて、磁壁DWの位置によって、磁壁駆動層Mの端面Maから外部へ発生(供給)する磁場の向きや大きさを変えることができる。
図2(a)においては、磁壁DWは端面Mb側に寄っており、右向きの磁化を有する磁区Lが左向きの磁化を有する磁区Rよりボリュームが大きい。これを反映して、端面Maから外部へ供給される磁場の向きは右向きとなり、その大きさは磁区Lと磁区Rのボリュームの差を反映したものとなっている。
また、図2(b)においては、磁壁DWは中央からやや端面Ma側に寄っており、左向きの磁化を有する磁区Rが右向きの磁化を有する磁区Lよりボリュームが少し大きい。これを反映して、端面Maから外部へ供給される磁場の向きは左向きとなり、その大きさは磁区Lと磁区Rのボリュームの差を反映したものとなっている。
さらに、図2(c)においては、磁壁DWは端面Ma側に寄っており、左向きの磁化を有する磁区Rが右向きの磁化を有する磁区Lよりボリュームが大きく、大きさの違いは図2(a)の場合の逆である。これを反映して、端面Maから外部へ供給される磁場の向きは左向きで、その大きさ自体は図2(a)の場合と同じとなっている。
図2(a)〜(c)の磁壁DWの移動は、磁壁駆動型MRAMで行われる磁壁DWの移動と同じように磁壁駆動層M中にスピン偏極電流を流すことによって行うことができる。
このように、磁壁の位置によって磁壁駆動層から供給される磁場の向き及び大きさが可変であり、また、スピン偏極電流を流さなければ、磁壁の位置は変わらないので、エネルギー消費なく、一定の磁場を外部に供給し続けることができる。
このような磁石としての磁壁駆動層を磁気抵抗効果素子の近傍に配置する構成とし、磁壁駆動層にスピン偏極電流を流すことによって磁壁を移動して、磁壁駆動層から発生する磁場の向きや大きさを変えることで、磁気抵抗効果素子の磁化自由層の磁化の向きや大きさを変え、それによって磁気抵抗効果素子の磁化固定層と磁化自由層の磁化の相対角を制御するというのが本発明の基本的なコンセプトである。
磁気抵抗効果素子は、磁化固定層と磁化自由層の磁化の相対角によって抵抗値が異なることを利用する素子であり、磁化固定層の磁化に対して磁化自由層の磁化の向きをどのように向けるかによって、抵抗値が決まる。磁壁駆動型MRAMにおいて磁化自由層という見方しかなかった磁壁駆動層を、可変型の磁場供給が可能な磁石として利用するという着想の下(以下、この場合の磁壁駆動層を「可変磁場供給部」ということがある)、磁気抵抗効果素子に対して1つあるいは2つ以上の可変磁場供給部を配置することで、磁気抵抗効果素子の抵抗値を多値的あるいはアナログ的に自由に設計することが可能になる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、新規なタイプの多値記録やアナログ記録が可能なメモリに用いることができる磁場変調機構、及び、それを用いる磁場変調素子、アナログメモリ素子、高周波フィルタを提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)本発明の一態様に係る磁場変調機構は、外部磁場への応答を利用する素子に対して、可変的に磁場を印可可能な磁場変調機構であって、磁壁を有し、第1領域および第2領域とそれらの領域の間に位置する第3領域とからなり、磁壁駆動により供給する磁場を変えられる可変磁場供給部と、前記第1領域に接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層と、前記第2領域に接し、前記第1の磁化の向きと反対向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層と、前記第1磁壁供給層と前記第2磁壁供給層とに電気的に接続され、前記可変磁場供給部に電流を流す電流源と、を備え、前記電流源から供給された電流によって前記可変磁場供給部内の磁壁を駆動する。
(2)上記(1)に記載の磁場変調機構において、前記素子は磁気抵抗効果素子であってもよい。
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載の磁場変調機構において、前記第1磁壁供給層及び前記第2磁壁供給層の少なくともいずれか一方はシンセティック反強磁性構造を有してもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の磁場変調機構において、前記第1磁壁供給層の、前記可変磁場供給部を挟んで反対側に、前記第1磁壁供給層と同一の磁化の向きを有する第3磁壁供給層を備えてもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の磁場変調機構において、前記第2磁壁供給層の、前記可変磁場供給部を挟んで反対側に、前記第2磁壁供給層と同一の磁化の向きを有する第4磁壁供給層を備えてもよい。
(6)本発明の一態様に係る磁場変調素子は、上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の磁場変調機構と、該磁場変調機構によって磁気特性が変化させられる磁気抵抗効果素子とを備える。
(7)上記(6)に記載の磁場変調素子において、前記可変磁場供給部の、磁壁の移動方向に直交する面への投影領域が、前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層の側面に重なるように、前記磁場変調機構と前記磁気抵抗効果素子とが配置してもよい。
(8)上記(6)又は(7)のいずれに記載の磁場変調素子において、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の磁場変調機構を複数備えてもよい。
(9)上記(6)〜(8)のいずれ一つに記載の磁場変調素子において、前記第1磁壁供給層及び前記第2磁壁供給層のうち、前記第1磁壁供給層の方が前記磁気抵抗効果素子に近い位置に配置しており、前記第1磁壁供給層がシンセティック反強磁性構造を有してもよい。
(10)本発明の一態様に係るアナログメモリ素子は、上記(6)〜(9)のいずれか一つに記載の磁場変調素子を備え、前記可変磁場供給部から発生する磁場の向き及び/又は大きさを変えることによって前記磁気抵抗効果素子への情報の書き込みを行い、前記磁気抵抗効果素子の抵抗値を読み出す手段を備える。
(11)本発明の一態様に係る磁気ニューロン素子は、上記(10)に記載のアナログメモリ素子を備え、前記アナログメモリ素子が備える磁気抵抗効果素子の抵抗値を多値的又はアナロク的に使用させ得る書き込み電流を前記可変磁場供給部に流すように制御する制御回路を有する電流源を備え、前記制御回路が、磁気抵抗効果素子の抵抗値の違いで読み出し可能な少なくとも3つの抵抗範囲となるパルス数の書き込み電流を流すように制御できる。
(12)本発明の一態様に係る可変型高周波フィルタは、上記(10)に記載のアナログメモリ素子に高周波電流を印可し、外部磁場に対応した特定の周波数の信号を取り出すことができる。
本発明の磁場変調機構によれば、新規なタイプの多値記録やアナログ記録が可能なメモリに用いることができる磁場変調機構を提供できる。
強磁性体が磁化された状態を説明するための概念図であり、(a)は消磁状態、(b)は磁壁移動状態、(c)は飽和状態、を示すものである。 磁壁駆動層中の磁壁の位置とそのときに外部に発生する磁場の向き及び大きさを説明するための概念図である。 本発明の一実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 磁壁の位置と可変磁場供給部から発生する磁場の向き及び大きさとの関係を説明するための概念図である。 磁化自由層及び磁化固定層の磁化曲線の概念図であり、(a)は磁化自由層の磁化容易軸方向の磁化曲線、(b)磁化自由層の磁化困難軸方向の磁化曲線、(c)は磁化固定層の磁化容易軸方向の磁化曲線の概念図である。 本発明の一実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 可変磁場供給部中の磁壁の位置と磁気抵抗効果素子の抵抗値との関係を示すグラフである。 本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した図であり、(a)は垂直断面図、(b)は平面図である。 図9に示した磁場変調素子おいて合成磁場を変えることで磁化自由層の磁化の向きを変えたことを説明するための平面図である。 本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。 本発明の一実施形態に係る磁気ニューロン素子を用いた人工的な脳の概念を示す図である。
以下、本発明を適用した磁場変調機構、磁場変調素子、アナログメモリ素子、高周波フィルタ及び磁気ニューロン素子について、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。本発明の素子において、本発明の効果を奏する範囲で他の層を備えてもよい。
(磁場変調機構、及び、磁場変調素子)
図3は、本発明の一実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。図3において、各層の積層方向すなわち、各層の主面に直交する方向(面直方向)をZ方向として定義している。各層はZ方向に直交するXY面に平行に形成されている。
図3に示す磁場変調素子100は、磁場変調機構10と、磁気抵抗効果素子20とを備える。
本発明の磁場変調機構は、外部磁場への応答を利用する素子に対して可変的に磁場を印可可能な磁場変調機構である。本発明の磁場変調機構は、被磁場印可物に対して可変的に磁場を印可可能である。
ここで、本明細書において「外部磁場への応答を利用する素子」とは、外部磁場を受けた際に特性が変化する構成要素を含む素子であって、例示すれば、磁気抵抗効果素子、ファラデー効果を利用する磁気光学素子などがある。
以下では、外部磁場への応答を利用する素子が磁気抵抗効果素子である場合を例に挙げて説明する。
磁場変調機構10は、磁壁DWを有し、第1領域1aおよび第2領域1bとそれらの領域の間に位置する第3領域1cとからなり、磁壁駆動により供給する磁場を変えられる可変磁場供給部1と、第1領域1aに接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層2と、第2領域1bに接し、第1の磁化の向きと反対向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層3と、第1磁壁供給層2と第2磁壁供給層3とに電気的に接続され、可変磁場供給部1に電流を流す電流源4と、を備え、電流源4から供給された電流によって可変磁場供給部1内の磁壁を駆動することができる。
磁気抵抗効果素子20は、磁化固定層21と磁化自由層22とそれらの層に挟持された非磁性層23とを有する。
磁化固定層21の磁化が一方向に固定され、磁化自由層22の磁化の向きが相対的に変化することで、磁気抵抗効果素子20として機能する。保磁力差型(擬似スピンバルブ型;Pseudo spin valve 型)のMRAMに適用する場合には、磁化固定層の保持力磁化自由層の保磁力よりも大きいものであり、また、交換バイアス型(スピンバルブ;spin valve型)のMRAMに適用する場合には、磁化固定層では反強磁性層との交換結合によって磁化方向が固定される。
また、磁気抵抗効果素子20は、非磁性層23が絶縁体からなる場合は、トンネル磁気抵抗(TMR:Tunneling Magnetoresistance)素子であり、非磁性層23が金属からなる場合は巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magnetoresistance)素子である。
本発明が備える磁気抵抗効果素子としては、公知の磁気抵抗効果素子の構成を用いることができる。例えば、各層は複数の層からなるものでもよいし、磁化固定層の磁化方向を固定するための反強磁性層等の他の層を備えてもよい。
磁化固定層21の材料には、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。
また、より高い出力を得るためにはCoFeSiなどのホイスラー合金を用いることが好ましい。ホイスラー合金は、XYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoMnSiやCoMn1−aFeAlSi1−bなどが挙げられる。
また、磁化固定層21の磁化自由層23に対する保磁力をより大きくするために、磁化固定層21と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いてもよい。さらに、磁化固定層21の漏れ磁場を磁化自由層に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
さらに磁化固定層21の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。具体的には、磁化固定層21は[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることができる。
磁場変調機構10における可変磁場供給部1は強磁性体材料であり、その磁化の向きは反転可能である。可変磁場供給部1は、磁壁を有し、磁壁を貫通する方向(X方向)に閾値以上のスピン偏極電流を流すことにより、磁壁をスピン偏極した伝導電子が流れる方向に移動させることができる。
可変磁場供給部1は、磁壁DWを有し、磁壁DWが駆動する第3領域1cとその両脇に位置する第1領域1a、第2領域1bとからなる。
可変磁場供給部1のうち、磁化が固定された第1磁壁供給層2に接合する第1領域1aは、第1磁壁供給層2との交換結合により磁化が固定されておりまた、磁化が固定された第2磁壁供給層3に接合する第2領域1bは、第2磁壁供給層3との交換結合により磁化が固定されている。一方、第1領域1aと第2領域1bとの間に位置する第3領域1cは、磁化が反転可能である。
可変磁場供給部1の材料には、磁化自由層に用いることができる公知の材料を用いることができる。特に軟磁性材料を適用できる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。
可変磁場供給部は磁壁駆動によって外部に可変の磁場を供給することができるものであれば、特に形状に制限はない。最も典型的な形状としては例えば、細長状のものとすることができる。また、全体が一様な形状でなくてもよい。
可変磁場供給部1の長さ、ずなわち、第1領域および第2領域とそれらの領域の間に位置する第3領域を合わせた長さは60nm以上であることが好ましい。通常、60nm未満では単磁区になりやすく、磁壁を有しない場合があるからある。
可変磁場供給部1の厚さは可変磁場供給部として機能する限り、特に制限はないが、例えば、2〜60nmとすることができる。可変磁場供給部1の厚さが60nm以上になると、積層方向に磁壁が出来る可能性がある。しかしながら、積層方向に磁壁ができるか否かは可変磁場供給部の形状異方性とのバランスによって生じるため、可変磁場供給部1の厚さが60nm未満である限り、磁壁ができるので問題ない。
可変磁場供給部1の、磁壁の移動方向に直交する面への投影領域が、磁気抵抗効果素子20の磁化自由層22の側面に重なるように、磁場変調機構10と磁気抵抗効果素子20とが配置していることが好ましい。可変磁場供給部1の端面1Aから発生した磁場Hexが磁化自由層22に効率的に供給されるからである。
また、可変磁場供給部1の、磁壁の移動方向に直交する面への投影領域が、磁気抵抗効果素子20の磁化自由層22の側面に含む(図3における点線参照)ように磁場変調機構10と磁気抵抗効果素子20とが配置していることがより好ましい。可変磁場供給部1の端面1Aから発生した磁場Hexが磁化自由層22により効率的に供給されるからである。
図3において、矢印M1、矢印M2、矢印M3及び矢印M4は各層の磁化の向きを示しており、また、矢印M5および矢印M6はそれぞれ、可変磁場供給部1のうち、磁壁DWを境界として第1磁壁供給層2側の部分の磁化の向き、磁壁DWを境界として第2磁壁供給層3側の部分の磁化の向きを示すものである。
図3に示す例では、可変磁場供給部1、第1磁壁供給層2、第2磁壁供給層3、磁化固定層21および磁化自由層22は、面内磁気異方性(面内磁化容易軸)を有する面内磁化膜であるが、それらの層は垂直磁気異方性(垂直磁化容易軸)を有する垂直磁化膜であってもよい。面内磁化膜を形成しやすい材料としては例えば、NiFeがある。また、垂直磁化膜を形成しやすいものとしては例えば、Co/Ni積層膜がある。
面内磁化膜を用いると、高いMR比を有し、読み込み時にSTTによる書き込みがされ難いために大きな読み取り電圧を用いることができる。一方、垂直磁化膜を用いると、熱擾乱に対する耐性が大きいため、データが消去されにくくなる。
第1磁壁供給層2および第2磁壁供給層3の少なくともいずれか一方は、シンセティック反強磁性構造を有することが好ましい。ここで、シンセティック反強磁性構造とは、2層の強磁性層がRu等の磁気結合層を挟んだ構造であって、磁気結合層がそれを挟む2層の強磁性層との間に反強磁性結合を生じさせた構造である。この構造では、一方の強磁性層の磁化方向が他方の強磁性層(反強磁性層)によって強く保持されている。
この構成により、一度の磁場アニールによって第一磁壁供給層と第二磁壁供給層の磁化の向きを反対側に固定することが可能である。また、シンセティック反強磁性構造を有する磁壁供給層が外部磁場への耐性が良くなり、シンセティック反強磁性構造を有しない他方の磁壁供給層の磁化の向きが反平行でなくなった場合に、強い磁場を印可するだけで磁化の向きの安定性を取り戻すことができる。
第1磁壁供給層2および第2磁壁供給層3のうち、磁気抵抗効果素子に近い位置に配置する第1磁壁供給層2がシンセティック反強磁性構造を有することが好ましい。
シンセティック反強磁性構造が第1磁壁供給層2に設置されていることで、第1磁壁供給層2から磁気抵抗効果素子20に印可される磁場を抑制することができる。可変磁場供給部1は磁気抵抗効果素子20に任意の磁場を印可する機能があるが、第1磁壁供給層2がシンセティック反強磁性構造を有していないと、第1磁壁供給層2からも磁気抵抗効果素子20に磁場を印可してしまう。この場合、可変磁場供給部1からの磁場は変調されるが、第1磁壁供給層2からの磁場は一定であるため、第1磁壁供給層2からの磁場の分だけ磁場の原点がずれてしまうという問題がある。シンセティック反強磁性構造を有することで第1磁壁供給層2からの磁場を抑制することが可能となる。
図3に示す磁気抵抗効果素子20は、MRAMの一部であるメモリセルであってもよい。この場合も磁気抵抗効果素子20は、非磁性層を介して2層の強磁性層が積層された積層構造を有するものである。2層の強磁性層は、磁化の向きが固定された磁化固定層(ピン層)と、磁化の向きが反転可能な磁化自由層(フリー層)である。磁気抵抗効果素子の電気抵抗の値は、磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが反平行であるときの方が、それらが平行であるときよりも大きい。従来のMRAMのメモリセルである磁気抵抗効果素子では、この抵抗値の大きさの差を利用して磁化が平行の状態をデータ“0”に、反平行の状態をデータ“1”に対応づけることにより、データを不揮発的に記憶される。データの読み出しは、磁気抵抗効果素子を貫通するように(積層構造を貫くように)読み出し電流を流し、磁気抵抗効果素子の抵抗値を測定することにより行なわれる。なお、従来のMRAMにおけるデータの書き込みは、スピン偏極電流を流して磁化自由層の磁化の向きを反転させることによって行われる。
図3に示すように、磁壁DWが可変磁場供給部1の端面1B側に寄っており、右向きの磁化を有する磁区Lが左向きの磁化を有する磁区Rよりボリュームが大きい場合、これを反映して、端面1Aから外部へ供給される磁場Hexの向きは右向きとなり、その大きさは磁区Lと磁区Rのボリュームの差を反映したものとなっている。
この場合、磁気抵抗効果素子20には右向きの外部磁場Hexが作用している。
これに対して、図4に示すように、電流源4によって第1磁壁供給層2及び第2磁壁供給層3を介して可変磁場供給部1に電流を流すことによって、磁壁DWを端面1A側に移動させると、左向きの磁化を有する磁区Rが右向きの磁化を有する磁区Lよりボリュームが大きくなる結果、端面1Aから外部へ供給される磁場Hexの向きは図3の場合とは逆に左向きとなる。
この外部磁場Hexの大きさによっては、図4に示すように、磁気抵抗効果素子20の磁化自由層22の磁化の向きは反転する。
図3及び図4に示す磁気抵抗効果素子20がMRAMの一部である場合、図3に示す磁気抵抗効果素子20では、磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが反平行であるから抵抗値は大きく、一方、図4に示す磁気抵抗効果素子20では、磁化固定層と磁化自由層の磁化の向きが反平行であるから抵抗値は小さく、それぞれ、データ“1”、データ“0”が記録されたものとなっている。
このように、本発明の磁場変調機構は、2値で記録する従来のMRAMにおける新たな書き込み手段として用いることができる。
次に、従来のMRAMの構成に本発明の磁場変調機構を適用して多値あるいはアナログ的に記録する方法について説明する。
図5は、磁化自由層及び磁化固定層の磁化曲線の概念図である。
図5(a)及び(c)はそれぞれ、磁化自由層の磁化容易軸方向(X方向)の磁化曲線の概念図、磁化固定層の磁化容易軸方向の磁化曲線の概念図である。図5(a)に示す通り、磁化自由層の磁化容易軸方向では、印可する外部磁界Hを大きくしていくと低い外部磁界Hで急峻に磁化して飽和する。これに対して、磁化固定層ではある外部磁界Hで急峻に磁化する点は共通するが、磁化自由層の場合よりも大きな外部磁界Hで飽和する点で異なる。
一方、図5(b)は、磁化自由層の磁化困難軸方向(Y方向)の磁化曲線の概念図である。磁化困難軸方向では、磁化自由層の磁化は印可する外部磁界Hを大きくしていくと共に徐々に磁化していく。
従来のMRAMにおいては一般に、磁化自由層の磁化容易軸方向で磁化の向きを反転させることにより、磁化自由層の磁化の向きを磁化固定層の磁化の向きに対して平行あるいは反平行にして、2値で書き込み(記録)している。この書き込み方法として現在主流のスピントランスファートルク(Spin Transfer Torque)を利用した「STT方式」では、磁気抵抗効果素子を貫通するように書き込み電流を流すことで、磁化固定層と同じスピン状態を有するスピン偏極電子が磁化固定層から磁化自由層へ供給され、あるいは、磁化自由層から磁化固定層に引き抜かれ、その結果、スピントランスファー効果により、磁化自由層の磁化が反転する。このように、磁気抵抗効果素子を貫通する書き込み電流の方向により、磁化自由層の磁化方向を規定する。
このように、磁気抵抗効果素子を貫通するように書き込み電流を流すことで磁化の向きを反転させるという方法なので、2値を超えて書き込み(記録)を行うことは将来的にも難しいと考えられる。
これに対して、本発明の磁場変調機構による書き込み(記録)は、磁気抵抗効果素子の近傍に磁石(本発明の磁場変調機構)を配置してその磁場によって磁化自由層の磁化の向きを固定する方法であるから、2つ以上の磁化の向きに固定することができる。この磁石の磁場は可変磁場供給部に電流を流して磁壁を移動しない限り、変わらない。すなわち、本発明の磁場変調機構による書き込み(記録)によれば、多値あるいはアナログ的な記録が可能になる。
以下、本発明の磁場変調機構による書き込み(記録)による多値記録あるいはアナログ記録の方法について説明する。
第1の実施形態は、磁化自由層の磁化困難軸方向の磁化の向きを利用する場合である。磁化自由層の磁化困難軸方向の磁化の向き及び大きさは、図5(b)に示したように、印可する外部磁場の大きさに応じて徐々に連続的に変化する。
図6は図4と類似する構成であるが、磁気抵抗効果素子の2つの強磁性層の磁化困難軸方向がX方向に向いている構成である点が異なる。図6で示す磁気抵抗効果素子20はMRAMの一部であるとする。
図6示す構成において、磁気抵抗効果素子20の磁化自由層22の磁化は−X方向を向いており、磁化固定層21の磁化と平行である。このとき、可変磁場供給部1の磁壁DWの位置に応じて、可変磁場供給部1の端面1Aから出ている磁場Hexの向きは−X方向を向いている。
磁壁DWが+Z方向から平面視して、第1磁壁供給層2の+X側の側面2B近傍にある(図6中のP1)状態から、可変磁場供給部1に電流を流して磁壁DWの位置を+X方向に移動させていくと、−X方向向きの磁場Hexの大きさは小さくなっていき(図2(b)参照)、磁壁DWが+Z方向から平面視して、可変磁場供給部1の中央(図6中のP2)あたりにくると、磁場Hexの大きさはゼロになり、さらに磁壁DWの位置を+X方向に移動させていくと、磁場Hexの向きは+X方向を向き、その大きさが大きくなっていく。
この磁場Hexの向き及び大きさの変化に対して、磁化自由層22の磁化の磁化がどのように変化するかを考える。なお、印可時間は磁化自由層22の磁化の向きや大きさが所望のように変化して一定になるまでとする。磁場Hexの向きが+X方向を向き始めると、−X方向を向いている磁化自由層22の磁化の大きさは小さくなりはじめ、磁場Hexの+X方向向きの大きさが所定の大きさを超えると、磁化自由層22の磁化の向きは+X方向を向き、磁場Hexの大きさが大きくなるにつれて磁化自由層22の磁化の+X方向向きの大きさも大きくなっていく。
図7は、可変磁場供給部1中の磁壁の位置と磁気抵抗効果素子の抵抗値との関係を示すグラフである。横軸のP1〜P3は図6で示した磁壁の位置に対応する。
可変磁場供給部1中の磁壁の位置は、磁化自由層の磁化の大きさに対応する。
このように、可変磁場供給部1の磁壁の位置を移動させることで、磁気抵抗効果素子に与える外部磁場の向き及び/又は大きさを変化させて、磁化自由層の磁化の向き及び/又は大きさを変化させることができる。そして、この磁化自由層の磁化の大きさの変化は、可変磁場供給部1中の磁壁の位置を段階的に変化させるのか、連続的に変化させるのかにより、段階的にも連続的にも変化させることができる。これによって、磁気抵抗効果素子の抵抗値の大きさを段階的あるいは連続的に変化させることができる。こうして、多値記録あるいはアナログ記録が可能となる。
以上においては、磁化自由層の磁化困難軸方向の磁化を変化させる場合を説明したが、磁化容易軸方向の磁化にも適用することができる。ただ、外部磁場に対する磁化容易軸方向の磁化の変化は磁化困難軸方向の磁化に比べて急峻であるため、その分、制御は難しくなる。
本発明の磁場変調機構による書き込み(記録)による多値記録あるいはアナログ記録の第2の実施形態は、本発明の磁場変調機構を複数用いる方法である。すなわち、1つの磁気抵抗効果素子に対して複数の磁場変調機構を用いて書き込み(記録)を行う方法である。多値記録あるいはアナログ記録の原理は第1の実施形態と同様である。
図8は、本発明の他の実施形態に係る磁場変調素子の一例を模式的に示した垂直断面図である。
図8に示す磁場変調素子200は、2つの磁場変調機構10、10’と、磁気抵抗効果素子20とを備える。なお、図8においては、2つの磁場変調機構10、10’は一部だけを描いている。
図8に示す磁場変調素子200においては、図3等で示した構成において、磁気抵抗効果素子20を挟んで磁場変調機構10の反対側に磁場変調機構10’を備える点が図3等で示した構成と異なる。特に、磁気抵抗効果素子20を挟んで可変磁場供給部1と対称の位置にもう一つの可変磁場供給部1’が配置する構成である。
もう一つの磁場変調機構10’も磁場変調機構10と同様の構成を有する。すなわち、磁壁DW’を有し、第1領域および第2領域とそれらの領域の間に位置する第3領域とからなり、磁壁駆動により供給する磁場を変えられる可変磁場供給部1’と、第1領域に接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層と、第2領域に接し、第1の磁化の向きと反対向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層3’と、第1磁壁供給層と第2磁壁供給層3’とに電気的に接続され、可変磁場供給部1’に電流を流す電流源4’と、を備える。
磁場変調素子200においては、磁気抵抗効果素子20に対して、磁場変調機構10とそれと対称の位置に配置する磁場変調機構10’とから外部磁場Hex、Hex’を付与することができる。すなわち、磁場変調機構10からの外部磁場Hex以外に、磁場変調機構10’からの外部磁場Hex’として、電流源4’によって可変磁場供給部1’に電流を流して磁壁DW’を駆動することにより、所望の向き及び/又は大きさとして磁気抵抗効果素子20に付与することができる。
この構成では、磁気抵抗効果素子20に対して付与される外部磁場を、1つの磁場変調機構ではなく、2つの磁場変調機構によって制御するので、より精密に外部磁場を制御することができる。
また、磁場変調機構10’からの外部磁場Hex’を磁場変調機構10からの外部磁場Hexと同じ向き及び/又は大きさにすることにより、磁気抵抗効果素子20に対して安定な磁場を付与することができる。
本発明の磁場変調機構による書き込み(記録)による多値記録あるいはアナログ記録の第3の実施形態も、本発明の磁場変調機構を複数用いる点では第2の実施形態と共通するが、複数の磁場変調機構と磁気抵抗効果素子とが一直線上に配置していない点が異なる。
図9に示す磁場変調素子は、2つの磁場変調機構と、1つの磁気抵抗効果素子20とを備える。
図9(a)は、磁気抵抗効果素子20の側面(特に磁化自由層22の側面)の周囲のXY面に平行な面に互いに直交して配置する本発明の可変磁場供給部11A、11Bを2つ備えた本発明の磁場変調素子の一例の断面模式図、(b)に磁化自由層22を含む平面で切った平面模式図を示す。図9においては、各磁場変調機構が備える第1磁壁供給層、第2磁壁供給層及び電流源は図示を省略している。
図9においては、可変磁場供給部11A、11Bはその端面からそれぞれ、外部磁場Hex1、Hex2を供給している。この場合、磁化自由層22には、外部磁場Hex1、Hex2の合成磁場が作用する。
ベクトルの考え方に基づけば、方向が異なる2つのベクトルを基本ベクトルとして、それらのベクトルを含む面における全ての向きの合成ベクトルを作ることができる。そうすると、2つの可変磁場供給部11A、11Bを用いて、XY面内の全ての向きの外部磁場(合成磁場)を作ることができる。すなわち、2つの可変磁場供給部11A、11Bから供給される磁場の大きさをそれぞれの磁壁の位置を制御することで、磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対してその層に平行な面内(XY面内)の全ての向きの外部磁場(合成磁場)を与えることができる。そうすると、磁化自由層の磁化をXY面内の任意の向きに向けることが可能ということになる。
例えば、2つの可変磁場供給部11A、11Bが作った外部磁場(合成磁場)によって、磁化自由層の磁化は、図10に示すような方向の磁化を有するものとなる。
2つの可変磁場供給部11A、11Bの磁壁の位置を移動させることで、磁気抵抗効果素子に与える外部磁場(合成磁場)の向き及び/又は大きさを変化させて、磁化自由層の磁化の向き及び/又は大きさを変化させることができる。そして、この磁化自由層の磁化の大きさの変化は、可変磁場供給部11A、11B中の磁壁の位置を段階的に変化させるのか、連続的に変化させるのかにより、段階的にも連続的にも変化させることができる。これによって、磁気抵抗効果素子の抵抗値の大きさを段階的あるいは連続的に変化させることができる。こうして、多値記録あるいはアナログ記録が可能となる。
さらに、方向が異なる2つのベクトルに加えて、それらのベクトルを含む面内に含まれない3つ目のベクトルを基本ベクトルとして、3次元空間の全ての向きの合成ベクトルを作ることができる。そうすると、2つの可変磁場供給部11A、11Bに加えて、それらの可変磁場供給部11A、11Bを含む面内に含まれない3つ目の可変磁場供給部を用いて、3次元空間の全ての向きの外部磁場(合成磁場)を作ることができる。
すなわち、図9で示した2つの可変磁場供給部11A、11Bに加えて、それらの可変磁場供給部11A、11Bを含む面内に含まれない3つ目の可変磁場供給部を配備することで、磁気抵抗効果素子の磁化自由層に対して、それら3つの可変磁場供給部で作る3次元空間の全ての向きの外部磁場(合成磁場)を与えることができる。従って、磁化自由層の磁化を3次元空間の任意の向きに向けることが可能となる。
図11は、磁場変調機構の他の実施形態一例を模式的に示した断面図である。図11においては、電流源は図示を省略している。
図11に示すように、第1磁壁供給層2の、可変磁場供給部1を挟んで反対側に、第1磁壁供給層2と同一の磁化の向きを有する第3磁壁供給層32を備えてもよい。
可変磁場供給部1を中心とし、第1磁壁供給層2が設置されている側と逆の側に第3磁壁供給層32が設置され、第3磁壁供給層32の磁化の向きは第1磁壁供給層2の磁化の向きと同一であることにより、第1磁壁供給層2および第3磁壁供給層32に電流を流した際に生じるノイズを抑制することができる。
また、図11に示すように、第2磁壁供給層3の、可変磁場供給部1を挟んで反対側に、第2磁壁供給層3と同一の磁化の向きを有する第4磁壁供給層33を備えてもよい。
可変磁場供給部1を中心とし、第2磁壁供給層3の設置されている側と逆の側に第4磁壁供給層33が設置され、第4磁壁供給層33の磁化の向きは第2磁壁供給層3の磁化の向きと同一であることにより、第2磁壁供給層3および第4磁壁供給層33に電流を流した際に生じるノイズを抑制することができる。
図11に示す例では、第3磁壁供給層32および第4磁壁供給層33の両方を備えているが、その一方のみ備えた構成でもよい。
図12は、磁場変調機構のさらに他の実施形態一例を模式的に示した断面図である。
これまでに図示した磁場変調機構においては、第1磁壁供給層2及び第2磁壁供給層3はそれぞれ−X側の端面2A、+X側の端面3Bが可変磁場供給部1の−X側の端面1A、+X側の端面1Bに一致する(が面一である)ように配置する構成であったが(図3参照)、これに限定されない。
例えば、図12に示すように、第1磁壁供給層12はその−X側の側面12Aが可変磁場供給部31の−X側の端面31Aに一致しないで、第2磁壁供給層3側に寄って配置する構成であってもよい。
この構成とすることにより、第1磁壁供給層12から生じる磁束の影響を軽減することができる。第1磁壁供給層12から生じる磁束の影響を軽減する方法は、第1磁壁供給層12をシンセティック反強磁性構造とし、第1磁壁供給層12の内部で磁束が周ることによって第1磁壁供給層12から放出される磁束を影響を軽減する方法もある。
図12に示す構成では、可変磁場供給部31は、磁壁DWが駆動できる第3領域31cとその両脇の領域が第1領域31a、第2領域31bとからなり、第1領域31aは、+Z方向からの平面視で第1磁壁供給層12に重なる領域とその−X側に位置する領域とからなる。
図13は、磁場変調機構のさらに他の実施形態一例を模式的に示した断面図である。
これまでに図示した磁場変調機構においては、可変磁場供給部は全体が一様な形状であったが、これに限定されない。磁気抵抗効果素子により効果的に磁場を付与できる形状をとることができる。
例えば、図3等に示した可変磁場供給部1の磁気抵抗効果素子側の端部はYZ面に平行な端面1Aで構成されていたが、図13に示すように、その端部41Aが磁気抵抗効果素子側に尖った可変磁場供給部41であってもよい。
この構成とすることにより、磁気抵抗効果素子に供給される磁場が集中することがより小さい磁場によって磁化自由層の磁化の方向を変化させ、固定することができる。
図13に示す例では、可変磁場供給部41の磁気抵抗効果素子側の端部41Aは尖っているが、尖っていなくても、端部が突起している構成とすることで磁気抵抗効果素子に供給される磁場を集中させることができる。
以上においては、本発明の磁場変調機構単独で、磁気抵抗効果素子における磁化自由層の磁化の向き及び/又は大きさを変える場合について説明してきたが、本発明の磁場変調機構をアシスト手段として用いてもよい。従って、従来のMRAMにおいて、本発明の磁場変調機構をアシスト手段として利用することもできる。
本発明の磁場変調素子において、磁気抵抗効果素子と磁場変調機構(特に可変磁場供給部)との位置関係は種々可能であり、主に磁場変調機構によって磁気抵抗効果素子中の磁化自由軸の磁化の向き及び/又は大きさをどのように変化させるかという観点で決めることができる。
また、本発明の磁場変調素子は、多値あるいはアナログ的に情報を記録できるが、2値で情報を記録できることは言うまでもない。
本発明の磁場変調機構及び磁場変調素子の製造方法としては、従来の磁壁駆動型MRAMの製造方法をはじめとする公知のMRAMの製造方法を用いることができる。
(アナログメモリ素子)
本発明のアナログメモリ素子は、本発明の磁場変調素子を備え、可変磁場供給部に電流を流して磁壁の位置を変えることで、可変磁場供給部から発生する磁場の大きさを変え、それによって情報の書き込みを行い、また、磁気抵抗効果素子の抵抗値を読み出す手段を備えている。
磁気抵抗効果素子の抵抗値を読み出す手段は従来のMRAMと同様の手段(例えば、磁気抵抗効果素子を貫通する電流を流してその抵抗値を読み出す)を用いることができる。
本発明の磁場変調素子を利用して、印可される磁場の変化を情報(データ)の書き込みとし、磁場変調素子に読み込みのための電流を通電して情報を読み出す手段を備えることで、情報を多値的あるいはアナログ的に記録し、読み出すことができる。
(磁気ニューロン素子)
本発明の磁気ニューロンメモリは、本発明のアナログメモリ素子を備え、そのアナログメモリ素子が備える磁気抵抗効果素子の抵抗値を多値的又はアナロク的に使用させ得るように可変磁場供給部に書き込み電流を流すように制御する制御回路を有する電流源を備え、その制御回路が、磁気抵抗効果素子の抵抗値の違いで読み出し可能な少なくとも3つの抵抗範囲となる書き込み電流を流すように制御できるものである。
本発明のアナログメモリ素子はシナプスの動作を模擬する素子である磁気ニューロン素子として利用することができる。シナプスでは外部からの刺激に対して線形な出力を持つことが好ましい。また、逆向きの負荷が与えられた際にはヒステリシスがなく、可逆することが好ましい。図7に示したように、本発明の磁気抵抗効果素子では、磁壁の位置が連続的に変化する。図7の横軸は磁壁の移動距離であり、可変磁場供給部に流す電流のパルス数と見なすことができ、比較的線形な抵抗変化を示すことができる。また、抵抗変化は電流の大きさと印可される電流パルスの時間に依存して変化させることができるため、電流の大きさと向き、さらに、印可される電流パルスの時間を外部からの負荷として見なすことができる。
(記憶の初期段階)
例えば、可変磁場供給部の磁壁が移動しても、可変磁場供給部が発生する磁場の大きさによっては読出しの抵抗が変化しない。この状態を記憶の初期段階と呼ぶことができる。記憶の初期段階ではデータとしての記録がされていないが、データを記録するための準備が整えられている状態である。
(主記憶段階)
読出しの抵抗が変化し始めると、電流をさらに流すことで外部からの負荷とし、負荷にある程度比例した読出し時の抵抗変化となる。これが主記憶段階である。すなわち、読出しの抵抗が変化する場合を記憶の主記憶段階と呼ぶことができる。読出しの抵抗が変化し始める直前の段階を記憶、あるいは、無記憶と定義し、読出しの抵抗の変化が止まる段階を無記憶、あるいは、記憶と定義することができる。当然、書き込み電流を逆向きにすると、逆の作用となる。
(記憶の深層化段階)
磁壁駆動層の磁化の大きさに影響がない程度にまで磁壁が移動してしまった場合、読み込み時の出力は変化しない。すなわち、外部からの負荷が与えられても記憶を失わないことを意味し、これを記憶の深層化段階と呼ぶことができる。磁壁がそのような位置に配置する場合を記憶の深層化段階と呼ぶことができる。
第1磁壁供給層2と第2磁壁供給層3との間に流れる電流を逆向きにすると、記憶の初期段階、主記憶段階および記憶の深層化段階と各記憶部との対応は逆となる。
(記憶の忘却段階)
磁壁駆動層の磁化の向き及び大きさを元に戻すことによって、記憶を忘却することができる。
(磁気ニューロン素子を用いた人工的な脳)
本発明の磁気ニューロン素子はシナプスの動きを模擬し、主記憶段階を経ることができるメモリである。本発明のアナログメモリ素子を複数回路上に設置し、脳の模擬をすることが可能である。一般的なメモリのように縦横に均等にアレイさせた配置では集積度が高い脳を形成することが可能である。
また、図14に示したように特定の回路を持った複数の磁気ニューロン素子を一つの塊として、アレイさせた配置では、外部負荷からの認識度が異なる脳を形成することが可能である。例えば、色について感度の良い脳や言語の理解度が高い脳などの個性を生むことができる。つまり、外部のセンサから入手された情報を、視覚、味覚、触覚、嗅覚及び聴覚認識に最適化された五感領域で認識の処理を行い、さらに、論理的思考領域で判断することによって、次の行動を決定するというプロセスを形成させることが可能である。さらに、可変磁場供給部の材料を変化させると、負荷に対する磁壁の駆動速度や磁壁の形成方法が変化するため、その変化を個性とした人工的な脳を形成することが可能となる。
(可変型高周波フィルタ)
本発明の可変型高周波フィルタは、本発明のアナログメモリ素子に高周波電流を印可し、外部磁場に対応した特定の周波数の信号を取り出すことができる。
1、10A、10B、31、41 可変磁場供給部
1a 第1領域
1b 第2領域
1c 第3領域
2、12 第1磁壁供給層
3 第2磁壁供給層
4 電流源
10 磁場変調機構
20 磁気抵抗効果素子
21 磁化固定層
22 磁化自由層
23 非磁性層
32 第3磁壁供給層
33 第4磁壁供給層
100、200 磁場変調素子
DW 磁壁

Claims (12)

  1. 外部磁場への応答を利用する素子に対して、可変的に磁場を印可可能な磁場変調機構であって、
    磁壁を有し、第1領域および第2領域とそれらの領域の間に位置する第3領域とからなり、磁壁駆動により供給する磁場を変えられる可変磁場供給部と、
    前記第1領域に接し、第1の磁化の向きを有する第1磁壁供給層と、
    前記第2領域に接し、前記第1の磁化の向きと反対向きの第2の磁化の向きを有する第2磁壁供給層と、
    前記第1磁壁供給層と前記第2磁壁供給層とに電気的に接続され、前記可変磁場供給部に電流を流す電流源と、を備え、
    前記電流源から供給された電流によって前記可変磁場供給部内の磁壁を駆動する磁場変調機構。
  2. 前記素子が磁気抵抗効果素子である請求項1に記載の磁場変調機構。
  3. 前記第1磁壁供給層及び前記第2磁壁供給層の少なくともいずれか一方はシンセティック反強磁性構造を有する請求項1又は2のいずれかに記載の磁場変調機構。
  4. 前記第1磁壁供給層の、前記可変磁場供給部を挟んで反対側に、前記第1磁壁供給層と同一の磁化の向きを有する第3磁壁供給層を備える請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁場変調機構。
  5. 前記第2磁壁供給層の、前記可変磁場供給部を挟んで反対側に、前記第2磁壁供給層と同一の磁化の向きを有する第4磁壁供給層を備える請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁場変調機構。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁場変調機構と、該磁場変調機構によって磁気特性が変化させられる磁気抵抗効果素子とを備えた磁場変調素子。
  7. 前記可変磁場供給部の、磁壁の移動方向に直交する面への投影領域が、前記磁気抵抗効果素子の磁化自由層の側面に重なるように、前記磁場変調機構と前記磁気抵抗効果素子とが配置している請求項6に記載の磁場変調素子。
  8. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の磁場変調機構を複数備えた請求項5又は6のいずれかに記載の磁場変調素子。
  9. 前記第1磁壁供給層及び前記第2磁壁供給層のうち、前記第1磁壁供給層の方が前記磁気抵抗効果素子に近い位置に配置しており、前記第1磁壁供給層がシンセティック反強磁性構造を有する請求項6〜8のいずれか一項に記載の磁場変調素子。
  10. 請求項6〜9のいずれか一項に記載の磁場変調素子を備え、前記可変磁場供給部から発生する磁場の向き及び/又は大きさを変えることによって前記磁気抵抗効果素子への情報の書き込みを行い、前記磁気抵抗効果素子の抵抗値を読み出す手段を備えたアナログメモリ素子。
  11. 請求項10に記載のアナログメモリ素子を備え、前記アナログメモリ素子が備える磁気抵抗効果素子の抵抗値を多値的又はアナロク的に使用させ得る書き込み電流を前記可変磁場供給部に流すように制御する制御回路を有する電流源を備え、前記制御回路が、磁気抵抗効果素子の抵抗値の違いで読み出し可能な少なくとも3つの抵抗範囲となるパルス数の書き込み電流を流すように制御できる磁気ニューロン素子。
  12. 請求項10に記載のアナログメモリ素子に高周波電流を印可し、外部磁場に対応した特定の周波数の信号を取り出すことが可能な可変型高周波フィルタ。
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