JP2018059877A - ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、ネフローゼ症候群診断用マーカー、ネフローゼ症候群の検査方法、及びネフローゼ症候群の診断用試薬 - Google Patents
ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法、ネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物、ネフローゼ症候群診断用マーカー、ネフローゼ症候群の検査方法、及びネフローゼ症候群の診断用試薬 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】本発明のネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法は、シナプス小胞関連分子を発現する細胞に医薬候補物質を添加する工程1と、前記シナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程2と、前記発現量を増加させる物質を選択する工程3と、を備える。本発明のネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物は、シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有する。本発明は、シナプス小胞関連分子のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用である。
【選択図】なし
Description
[1]シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する工程1と、前記シナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程2と、前記発現量を増加させる物質を選択する工程3と、を備えることを特徴とするネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法。
[2]前記工程2において、前記シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を測定する[1]に記載のネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法。
[3]シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有することを特徴とするネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物。
[4]前記シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質がレべチラセタムである[3]に記載のネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物。
[5]シナプス小胞関連分子のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用。
[6]前記シナプス小胞関連分子がシンタキシン−2、SV2B、及びRab3からなる群から選ばれる少なくとも1種である[5]に記載のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用。
[7]被検者の尿中からシナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程を備えることを特徴とするネフローゼ症候群の検査方法。
[8]シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を含むことを特徴とするネフローゼ症候群の診断用試薬。
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する工程1と、前記シナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程2と、前記発現量を増加させる物質を選択する工程3と、を備えるネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法を提供する。
健常者の尿中において、尿蛋白は1日あたり0.15g程度含まれており、尿蛋白の検査において、尿蛋白濃度が15mg/dL未満であれば特に問題ないとされ、陰性(−)と診断される。一方、尿蛋白の検査において、尿蛋白が15mg/dL以上30mg/dL未満では偽陽性(±)、30mg/dL以上100mg/dL未満では陽性(1+)、100mg/dL以上300mg/dL未満では陽性(2+)、300mg/dL以上1000mg/dL未満では陽性(3+)、1000mg/dL以上では陽性(4+)と診断される。
また、一般に、「ネフローゼ症候群」とは、尿からタンパク質が多く排出されるために、血液中のタンパク質濃度が減り(低蛋白血症)、その結果、むくみ(浮腫)が起こる疾患である。また、尿蛋白が1日3.5g以上であり、血液中のアルブミン濃度が3.0g/dL以下である場合、ネフローゼ症候群と診断される。高度のネフローゼ症候群では、肺や胃、さらに心臓や陰嚢にも水がたまる。また、低蛋白血症は血液中のコレステロールを増加させるため、腎不全、血栓症(例えば、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞等)、感染症等を合併する危険性がある。従って、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を開発することで、上記合併の虞のある疾患を防ぐことができる。
本実施形態のスクリーニング方法の各工程について、以下に詳細に説明する。
まず、シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する。
これらのことから、糸球体上皮細胞及びスリット膜の機能不全は著明な蛋白尿を引き起こすことが知られている。
また、本発明者らは、神経細胞間の接着装置であるシナプスにおける機能分子群(以下、「シナプス小胞関連分子」と称する場合がある。)が、糸球体上皮細胞において発現しており、さらにその発現量又は機能の低下がネフローゼ症候群の発症に関与することを明らかにした。
従って、医薬候補物質を添加した糸球体上皮細胞におけるシナプス小胞関連分子の発現量を測定することで、ネフローゼ症候群に有効な物質を選択することができる。
なお、「糸球体上皮細胞に分化し得る細胞」とは、糸球体上皮細胞に分化することができる未分化細胞を意味する。糸球体上皮細胞に分化し得る細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞、ネフロン前駆細胞等が挙げられる。
前記培地としては、例えば、DMEM、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI−1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F−12(DMEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が挙げられ、これらに限定されない。
前記血清としては、例えば、FBS/FCS(Fetal Bovine/Calf Serum)、NCS(Newborn Calf serum)、CS(Calf Serum)、HS(Horse Serum)等が挙げられ、これらに限定されない。
培地に含まれる血清の濃度は、例えば2質量%以上10質量%以下であればよい。
前記成長因子としてより具体的には、例えば、上皮成長因子(Epidermal growth factor:EGF)、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic fibroblast growth factor:aFGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)、インスリン様成長因子−1(Insulin―like growth factor−1:IGF−1)、マクロファージ由来成長因子(Macrophage−derived growth factor:MDGF)、血小板由来成長因子(Platelet−derived growth factor:PDGF)、腫瘍血管新生因子(Tumor angiogenesis factor:TAF)等が挙げられる。これらの成長因子を単独で含んでいてもよく、複数組み合わせて含んでいてもよい。
培養液に含まれる成長因子の濃度は、特別な限定はなく、例えば1ng/mL以上10μg/mL以下であればよい。
また、培養環境は、例えば約5%のCO2条件下であってもよい。
培養時間としては、必要とする細胞数等により適宜選択することができ、例えば1日以上14日以下であってもよい。
SV2A及びSV2Bは、シナプス小胞における神経伝達物質のエクソサイトーシス(開口分泌)の制御に関与しており、細胞内基質のトランスポーターとしての機能、シナプトタグミンの調節機能、SV2Aの糖鎖部分が神経伝達物質又はATP等を保持するマトリックスとしての機能を担う可能性が報告されている。
Synaptotagmin(シナプトタグミン)は、Ca2+依存性シナプス小胞開口放出を制御するCa2+センサーの機能を有するタンパク質である。
Rab3は、GTP結合タンパク質であり、シナプス小胞における神経伝達物質のエクソサイトーシス(開口分泌)の制御に関与する。
シンタキシンは、開口放出を含む細胞内小胞輸送において膜融合に関わるタンパク質ファミリー及びそのメンバーである。
Munc−18は、シンタキシン結合タンパク質であり、シンタキシンと結合することによって、シナプス小胞の開口放出に対して抑制的に制御するものと考えられている。
Mint 1は、ニューロンの細胞質に局在するタンパク質であり、PTBドメイン及び2つC末端PDZドメインからなるマルチドメインタンパク質である。シナプス構造の形成及び神経伝達物質の放出機能の発現と制御に関与していると考えられている。
また、例えば、癲癇等の神経疾患で既に使用されている薬剤を用いてもよく、この場合、ネフローゼ症候群への効果が証明されれば、早期の臨床応用が可能となる。
医薬候補物質は、培地と混合し、予め培養しておいた糸球体上皮細胞に添加すればよい。
次いで、糸球体上皮細胞におけるシナプス小胞関連分子の発現量を測定する。
シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を用いた方法として、より具体的には、例えば、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、ウエスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫組織学的染色法等が挙げられる。シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体としては、検出したいシナプス小胞関連分子の種類に応じて、適宜選択して用いればよい。
まず、誘導工程後の医薬候補物質の添加、又は無添加条件での培養液と、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体とを接触させて、培養液中の抗原(シナプス小胞関連分子)と前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体とによる抗原抗体反応(以下、「1次抗原抗体反応」と称する場合がある。)を行う。この抗原抗体反応は、4℃以上37℃以下にて行うことが好ましい。反応時間については、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体の抗体価及び培養液中の抗原(シナプス小胞関連分子)の量によって、適宜調整することができる。
前記培養液としては、糸球体上皮細胞の懸濁液であってもよく、破砕液であってもよい。破砕液を用いる場合、公知の方法を用いて調製すればよい。
また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がマイクロタイタープレート、チューブ、スライドグラス又はチップ等の支持体に固定されている場合、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に結合した際に、センサー等により1次抗原抗体反応を検出してもよい。
検出感度及び反応特異性の観点から、2次抗体を用いて、シナプス小胞関連分子を検出及び定量することが好ましい。2次抗体を用いた場合の検出方法について、以下に詳細に説明する。
また、使用する2次抗体は、例えば、緩衝液等を用いて溶解又は希釈して用いればよい。使用する緩衝液としては、上述において例示したものと同様のものが挙げられる。
次いで、シナプス小胞関連分子の発現量の定量結果から、前記発現量を増加させる物質を選択する。
一方、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子の発現量と比較して同程度、又は低かった場合に、前記候補物質は、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有さないと評価することができる。
以上により、シナプス小胞関連分子の発現量を増加させた物質をネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の候補物質として選択することができる。
一方、候補物質の添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量が、候補物質の無添加条件でのシナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量と比較して同程度、又は低かった場合に、前記候補物質は、シナプス小胞関連分子の機能(すなわち、スリット膜関連分子に直接的又は間接的に作用し、スリット膜における高分子透過を制御する機能)を促進する効果を有さないと評価することができる。
以上により、シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を増加させた物質をネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬の候補物質として選択することができる。
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有するネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
また、低蛋白血症は血液中のコレステロールを増加させるため、腎不全、血栓症(例えば、肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞等)、感染症等を合併する危険性がある。従って、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を開発することで、上記合併の虞のある疾患を防ぐことができる。
また、前記促進物質としては、例えば、癲癇等の神経疾患で既に使用されている薬剤であってもよく、具体的には、レベチラセタム等が挙げられる。
レベチラセタムは、SV2Aと特異的に結合することで抗癲癇作用を有する薬として市販されており、カルシウムチャネルを阻害する等して、脳神経の興奮を抑制する作用を有する。
本実施形態の医薬組成物は、有効成分の種類、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、本実施形態の医薬組成物において、レベチラセタムを有効成分として含有する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、経口投与にて、1日の投与において1g以上3g以下程度を投与すればよい。
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は経口的に当業者に公知の方法が挙げられる。
本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量のナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の他に、薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含んでいてもよい。
薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、ペプチドの生体内安定性を高める効果や、特定の臓器、組織、又は細胞へ、ペプチドの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、腎臓へ、有効成分を効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
又は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。さらには、薬理学上許容される担体又は希釈剤、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO−50と併用してもよい。
本発明の一側面は、ネフローゼ症候群の治療のための上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、治療的に有効量の上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質、並びに薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
また、本発明の一側面は、前記医薬組成物を含む、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を提供する。
また、本発明の一側面は、ネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬を製造するための上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の使用を提供する。
また、本発明の一側面は、上述のシナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、ネフローゼ症候群の治療方法を提供する。
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子をネフローゼ症候群診断用マーカーとして使用する。
中でも、ネフローゼ症候群診断用マーカーとして用いられるのは、シンタキシン−2、及びSV2Bからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明者らは、これらのシナプス小胞関連分子について、一過性の重篤な蛋白尿を呈する患者、又は進行性のネフローゼ症候群患者であって予後の良好な患者においては検出されず、進行性のネフローゼ症候群患者であって予後の悪い患者においてのみ検出されることを初めて見出した。よって、これらのシナプス小胞関連分子は、特にネフローゼ症候群の進行具合を診断する上で有用なマーカーとなり得る。
(1)尿中での上記シナプス小胞関連分子の発現を検出又は発現量を測定する。
(2)尿中での上記シナプス小胞関連分子をコードするmRNA又はその部分配列を有するヌクレオチド断片の存在を検出又は測定する。
このような検出方法には、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報に基づいて作成したプローブやプライマー、又はそれらを組み合わせて用いることができる。
一実施形態において、本発明は、被検者の尿中からシナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程を備えるネフローゼ症候群の検査方法を提供する。
被検者から得られた尿に含まれるシナプス小胞関連分子の発現量を測定する方法としては、例えば、このシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を作製して、特異的抗体を使用したウエスタンブロッティング法、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法、CLEIA(Chemiluminescent Enzyme Immuno Assay)法(化学発光酵素免疫測定法)、免疫沈降法、免疫組織学的染色法等の免疫学的方法が挙げられる。
ウエスタンブロッティング法及び免疫組織学的染色法の詳細については、上述の<ネフローゼ症候群診断用マーカー>において説明されたとおりである。
このような検出方法には、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報に基づいて作成したプローブやプライマー、又はそれらを組み合わせて用いることができる。
[第1実施形態]
一実施形態において、本発明は、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を含むネフローゼ症候群の診断用試薬を提供する。
本実施形態におけるシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、さらに抗体の機能的断片であってもよい。中でも、特異性が高く、定量性が優れていることから、シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましい。
また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。
また、ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものを意味する。すなわち、本実施形態の抗体がモノクローナル抗体である場合、自然環境の成分から単離された抗体である。
本実施形態において、抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的タンパク質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、及びこれらの重合体等が挙げられる。
前記抗体の標識物質としては、例えば、安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、酵素、磁性体等が挙げられる。中でも、前記抗体の標識物質としては、検出が容易且つ高感度であることから、蛍光物質又は酵素であることが好ましい。上記標識物質を備えることで、培養液中に含まれるシナプス小胞関連分子を簡便且つ高感度に検出及び定量することができる。
放射性同位体としては、例えば3H、14C、13N、32P、33P、35Sが挙げられ、これらに限定されない。
蛍光物質としては、例えばシアニン色素(例えばCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、TAMRA等)等が挙げられ、これらに限定されない。
本実施形態のシナプス小胞関連分子に対する特異的抗体がポリクローナル抗体である場合、抗原(例えば、シンタキシン等のシナプス小胞関連分子若しくはその断片、又はこれらを発現する細胞等)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等)によって、精製して取得することができる。
抗原として使用するシナプス小胞関連分子、又はその一部のアミノ酸配列を有するペプチド断片は、化学的に合成してもよく、各シナプス小胞関連分子の既知の塩基配列情報にも基づいて既知の遺伝子工学的手段によって製造してもよい。
本実施形態の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖又は軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(例えば、国際特許出願第94/11523号参照)。本実施形態の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内又は培養液から分離及び精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離及び精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いた方法では、例えば、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(例えば、ウシ、ヤギ、ヒツジ、又はブタ等)を作製し、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得する方法等が挙げられる。
アミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、又はペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖又は軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域及びCDR)であってもよい。また、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法等を用いてもよい(例えば、PNAS,102:8466−8471(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:485−493(2008)、国際公開第2002/051870号、J.Biol.Chem.,280:24880−24887(2005)、Protein Engineering,Design&Selection,21:345−351(2008)参照)。
本明細書中において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・スレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)等で分類することができる。アミノ酸配列変異体は、抗原への結合活性が対照抗体(例えば、後述の実施例に記載のO−GlcNAc(RL2)抗体等)よりも高いことが好ましい。
本実施形態の抗体(上述の抗体の機能的断片、アミノ酸配列変異体等も含む)の抗原への結合活性は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロッティング法、免疫沈降法、免疫染色法等により評価することができる。
本実施形態のネフローゼ症候群の診断用試薬は、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に加えて、さらに、前記シナプス小胞関連分子に特異的抗体に標識物質が結合したもの、又は前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備えていてもよい。
前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備える場合、サンドイッチELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法や抗原測定系による化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)等を用いて、特定のシナプス小胞関連分子を検出及び定量することができる。
また、前記シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体に対する抗体に標識物質が結合したものを2次抗体として備える場合、抗体測定系によるELISA法、間接蛍光抗体法、抗体測定系によるCLEIA法等を用いて、特定のシナプス小胞関連分子を検出及び定量することができる。
一実施形態において、本発明は、逆転写反応用のランダムプライマーと、前記ランダムプライマーを用いた逆転写反応で得られる逆転写産物のうちシナプス小胞関連分子をコードするcDNAを増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーと、を含むネフローゼ症候群の診断用試薬を提供する。
各種ヒトのシナプス小胞関連分子をコードするmRNAに由来するcDNAを増幅するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーの塩基配列を以下の表1に示す。
蛍光色素としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6−カルボキシ−4’,5’−ジクロロ2’ ,7’−ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'−ヘキサクロロ−フルオレセイン−CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647等が挙げられる。
プローブの3’末端に結合した標識物質が蛍光色素である場合、プローブの3’末端に結合した標識物質とプローブの5’末端に結合したクエンチャーとの組み合わせとしては、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動;Fluorescence(Foerster) Resonance Energy Transfer)が起こり得る標識物質の組合せであることが好ましい。具体的には、例えば、励起波長が490nm付近の蛍光色素(例えば、FITC、ローダミングリーン、Alexa(登録商標)fluor 488、BODIPY FL等)と励起波長が540nm付近の蛍光色素(例えば、TAMRA、テトラメチルローダミン、Cy3)、又は励起波長が540nm付近の蛍光色素と励起波長が630nm付近の蛍光色素(例えば、Cy5等)の組合せ等が挙げられる。
(1)試料の調製
健常者及びネフローゼ症候群患者において腎生検(腎臓を細い針で刺して、一部組織を取ってくる検査)で得られた試料の一部を、提供者の許可を得て、糸球体上皮細胞のサンプルとして用いた。得られた試料はすぐにn−ヘキサンを用いて−70℃で凍結した。
次いで、健常者及びネフローゼ症候群患者由来の試料について、それぞれ3μm厚の凍結切片を複数作製した。
次いで、抗SV2B抗体(Synaptic System(SYSY)社製)、抗SV2A抗体(SYSY社製)、抗neurexin(自作、前記非特許文献(2)、参照。)、又は抗Rab3抗体(SYSY社製)を用いて、切片を4℃で16時間インキュベーションした。次いで、FITC結合抗マウスIgG抗体(DAKO社製)を用いて、染色した。次いで、IF顕微鏡(BX50、オリンパス社製)を用いて観察した。結果を図1に示す。図1において、正常とは、健常者由来のサンプルを示し、ネフローゼ症候群症例とはネフローゼ症候群患者由来のサンプルを示す。
このことから、ヒトのネフローゼ症候群の病態形成にこれら分子群の発現低下、機能低下が関与することが示唆された。またこれら分子は病態のマーカーとして有用であることが示唆された。
(1)ネフローゼ症候群モデルラットの準備
公知の方法を用いて、ネフローゼ症候群モデルラット(アドリアマイシン(adriamycin;ADR)腎症(参考資料:「Otaki Y at al., “Dissociation of NEPH1 from nephrin is involved in development of a rat model of focal segmental glomerulosclerosis”, Am J Physiol Renal Physiol., vol.295, no.5, pF1376-1387, 2008.」参照。)、ピューロマイシン(puromycin;PAN)腎症、及び抗ネフリン抗体(anti−nephrin antibody;ANA)誘導腎症(以下、「ANA腎症」と称する場合がある。)(非特許文献1参照。)を準備した。
なお、ADR腎症ラットは持続性、進行性の蛋白尿を呈し、最終的に腎不全になるモデルである。一方、PAN腎症、及びANA腎症はそれぞれ病変誘導10日後、5日後をピークとする著明な蛋白尿(ADR腎症20日目と同等若しくはそれ以上の蛋白尿)を呈するが、病態誘導3〜4週後に蛋白尿は正常化する。
まず、ラットに麻酔下でアドリアマイシン(6.0mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、ADR腎症を誘導した。アドリアマイシンの注射から28日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
まず、ラットに麻酔下でピューロマイシン(100mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、PAN腎症を誘導した。ピューロマイシンの注射から10日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
まず、ラットに麻酔下で抗ネフリン抗体(mAb5−1−6。15mg/体重1kg。生理食塩水に溶解。)を静脈内注射し、ANA腎症を誘導した。抗ネフリン抗体の注射から5日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
次いで、得られた尿サンプルを用いて、抗シンタキシン−2抗体(SYSY社製)を用いたウエスタンブロッディングにより、検出した。結果を図2に示す。図2において、preとは、病変誘導前の正常尿サンプルである。
このことから、シンタキシン−2は、ネフローゼ症候群の進行具合を診断する上で有用なマーカーとなり得ることが示唆された。
(1)ADR腎症ラットの準備
実施例2の(1−1)と同様の方法を用いて、ADR腎症を誘導した。アドリアマイシンの注射から28日後のラットの尿サンプルを使用した。尿サンプルは、代謝ゲージで24時間収集した。
次いで、得られた尿サンプルを用いて、抗SV2B抗体(SYSY社製)を用いたウエスタンブロッディングにより、検出した。結果を図3に示す。図3において、preとは、病変誘導前の正常尿サンプルである。
このことから、SV2Bは、ネフローゼ症候群を診断する上で有用なマーカーとなり得ることが示唆された。
Claims (8)
- シナプス小胞関連分子を発現する糸球体上皮細胞に医薬候補物質を添加する工程1と、
前記シナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程2と、
前記発現量を増加させる物質を選択する工程3と、
を備えることを特徴とするネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法。 - 前記工程2において、前記シナプス小胞関連分子をコードする遺伝子の発現量を測定する請求項1に記載のネフローゼ症候群の予防薬又は治療薬をスクリーニングする方法。
- シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質を有効成分として含有することを特徴とするネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物。
- 前記シナプス小胞関連分子発現促進物質、又はシナプス小胞関連分子機能促進物質がレべチラセタムである請求項3に記載のネフローゼ症候群の予防又は治療用医薬組成物。
- シナプス小胞関連分子のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用。
- 前記シナプス小胞関連分子がシンタキシン−2、SV2B、及びRab3からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のネフローゼ症候群診断用マーカーとしての使用。
- 被検者の尿中からシナプス小胞関連分子の発現量を測定する工程を備えることを特徴とするネフローゼ症候群の検査方法。
- シナプス小胞関連分子に対する特異的抗体を含むことを特徴とするネフローゼ症候群の診断用試薬。
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