以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の電気機器を詳細に説明する。図1には、本発明の一実施形態の電気機器100の概略の機能ブロック図が示されている。
図1に示されるように、本実施形態の電気機器100は、第1電圧V1で電気機器100の内部の構成要素に電流を供給する電源部2と、電源部2からの電流が、経時的に変動する電流値で流入する第1負荷部3と、電源部2から流れ込む電流から、第1負荷部3に流入する電流i1の変動に応じた電流i2を分流させることにより電源部2のグランド電位の変動を低減する電流制御手段1と、を有している。
ここで、「(電流が、経時的に)変動する」は、電流が、単位時間あたり一定の大きさ以上の変化量で変化することを意味している。具体的には、この「変動する」は、その変化により、たとえば本実施形態の電流制御手段1などを備えていない場合に、電源部2のグランド電位に変動が生じて電気機器100の正常な動作に支障が生じるほど、急激に電流が変化することを意味している。また、「経時的に変動」は、定期的な変化および不定期の変化の両方を含んでいる。
電気機器100では、電源部2から電流制御手段1を介して第1負荷部3に電力が供給される。第1負荷部3は、電気機器100の動作状態に応じて経時的に内部の負荷の大きさが変化し、その変化に応じて、第1負荷部3に流入する電流の大きさが変動する。このように内部の負荷の大きさが変化するものであれば、電気機器100の構成要素のうちの任意の要素が第1負荷部3と見做され得る。また、第1負荷部3は、電気機器の主要な機能を果たす部分であってもよく、副次的な機能、たとえば、表示部や操作部など、ユーザーとのインターフェース機能を果たす部分であってもよい。第1負荷部3としては、電気機器100の中央処理装置、ROMやRAMなどの記憶装置、電気機器100が通信機能を有する場合のモデム、各種センサ、ディスプレイなどの表示装置、LEDなどの灯火装置、または、キーボードやタッチパネルなどの入力装置、およびこれらの周辺回路などが例示される。
電源部2は、商用電源や電池などからの電力に基づいて、第1電圧V1で電気機器100内の構成要素に電流を供給する。たとえば、電源部2としては、安定電圧を出力するリニアレギュレータやスイッチングレギュレータを構成する電気回路や、そのようなレギュレータとして構成された集積回路装置およびその周辺回路などが例示される。また、外部電源Bから第1電圧V1で安定電圧が印加される場合などのように、電気機器100内に第1電圧V1の生成または安定化機能が必要無い場合は、外部の電気回路との接続部101が電源部2に該当する。また、電気機器100にセットされる電池(図示せず)の電力により電気機器100が動作する場合は、電源部2は、電池を保持すると共に電池のセットに伴って電池電圧を電気機器100内の構成要素に供給する電池保持部であってもよい。なお、接続部101は、外部電源Bと電気機器100とを接続するコネクタやカプラ、または、外部電源Bに接続された外部の線材を電気機器100に接続するための端子やパッドなどであってよい。
電流制御手段1は、前述のように、電源部2のグランド電位の変動を低減するように構成される。すなわち、電流制御手段1は、電源部2から供給される電流を、第1負荷部3に流入する電流i1と、電流i1の変動に応じた電流値を有する電流i2とに分流させるように構成されている。電流i2の電流値は、第1負荷部3に流れる電流i1の電流値が大きくなるほど減少し、電流i1が小さくなるほど増加するように、電流制御手段1により制御される。好ましくは、電流i2の電流値は、電流i1の増加量とほぼ同量だけ減少し、電流i1の減少量とほぼ同量だけ増加するように制御される。電流i2は、電流制御手段1内を通ってグランドGへと流される。このように電流制御手段1が構成されることにより、第1負荷部3への電流の供給のために電源部2から取り出される電流の変動が、電流i1の変動よりも小さくなる。また、第1負荷部3からグランドGを介して電源部2に戻る電流と、電流制御手段1からグランドGを介して電源部2に戻る電流とを足し合わせた合計の電流の変動が、電流i1の変動よりも小さくなる。すなわち、第1負荷部3に流れる電流i1が経時的に変動しても、電源部2から流出する電流および電源部2に流入する電流の変動が電流i1の変動よりも少なくなり、電源部2のグランド電位の変動が抑制される。その結果、電流i1の変動に伴う電気機器100内の各種信号ラインの変動が低減され、電気機器100の誤動作を防ぐことができる。
図1に示されるように、本実施形態の電気機器100は、さらに通信手段4を含んでいる。通信手段4は、外部機器Eとの間で、所定のプロトコルに従って、所望の情報を含む電気信号の送受信を行う。本実施形態では、電気機器100は、信号伝送に関して、第1線路L1、第2線路L2および第3線路L3で外部機器Eと結ばれている。すなわち、通信手段4は、所謂3線式の通信プロトコルで信号の送受信を行うように構成されている。図1の例において、第1線路L1は、電気機器100または外部機器Eのいずれか一方から他方に電力が供給される給電ラインであり、第2線路L2は、所望の情報を含む信号が伝送される信号伝送ラインであり、第3線路L3は、伝送される信号の電位の基準となるグランドラインである。
図1に示されるように、第3線路L3は電源部2のグランドと接続されており、電源部2と通信手段4とは、外部機器Eとの間の給電および信号伝送に関して、1つの第3線路L3を共用している。本実施形態の電気機器100のように電流制御手段1を有していない場合、第1負荷部3に流入する電流i1の変動に応じてグランドGに流れ込む電流が変動する。電流i1の変化が急峻な場合、グランドGに流れ込む電流の変化に伴ってグランドGの電位が変動し、グランドGに接続されている第3線路L3の電位も変動する。そのため、第3線路L3の電位(グランド電位)に対する第2線路L2を介して伝送される信号の電位が変動し、電気機器100と外部機器Eとの間の正常な信号伝送が阻害されるおそれがある。
特に前述のHARTプロトコルによる通信(以下、単にHART通信という)では、伝送されるデジタル信号の電流振幅が非常に小さいため、グランド電位の変動による伝送エラーや誤動作が生じ易いと考えられる。HART通信では、このようなグランドラインの共用がもたらす誤動作などを防止するために、給電ラインのグランドと、信号伝送ラインのグランドとを分離する、所謂4線式による通信も行われている。しかし、4線式は、2つのグランドラインを必要とするため、前述のように低コスト化や小型化の面で不利になることがある。なお、HART通信では、3線式よりも線路数の少ない、所謂2線式による通信も実用化されているが、給電ラインと信号伝送ラインとが1つの線路を共用するため、給電電流が比較的小さい値に制限されるというデメリットがある。
本実施形態では、前述のように電流制御手段1によって、第1負荷部3に流入する電流の変動による電源部2のグランド電位の変動が抑制されるので、所謂3線式のHART通信においても、伝送エラーや誤動作を生じさせることなく適切に、電気機器100と外部機器Eとの間で信号を伝送することができる。本実施形態の通信手段4による通信のプロトコルは、3線式のHART通信に限定されず、2線式もしくは4線式のHART通信であってもよい。また、その他にも、Modbus Protocol、FOUNDATION Fieldbus、Profibus、もしくは、イーサネット(登録商標)などが、通信手段4による通信のプロトコルとして例示される。しかし、微小な振幅の信号であっても少ない線路数で適切に信号を送受信し得るという点で、本実施形態は、通信手段4が3線式でHART通信を行うように構成されている場合、より有益である。
また、本実施形態によれば、給電ラインのグランドと信号伝送ラインのグランドとに1つのグランドラインを共用させて比較的ノイズに強い伝送方式で信号伝送を行っている電気機器を、グランドラインを増やすことなく、ノイズの影響は受け易いが伝送性能の高い伝送方式を用い得るように切り替えることができる。電気機器の大規模な改造や、電気機器間の伝送線路の増設などを回避しながら、容易に信号伝送の高機能化を図ることができる。特に、安全規格への適合などの面で電気機器の筐体の構造を安易に変更できない場合に、本実施形態は有益である。
通信手段4は、外部機器Eと電気機器100との間で電気信号を送受信するように構成された、集積回路装置や個々の部品からなる電気回路などのハードウェアにより構成される。また、通信手段4は、集積回路装置に所定の処理を行わせる命令が書き込まれたプログラムなどのソフトウェアを含んでいてもよい。また、通信手段4は、外部機器Eとの通信に必要となる、信号の変換(アナログ信号とデジタル信号との間の変換や信号レベルの変換など)、信号の増幅、信号の合成および分解、および/または、信号の変調および復調を行うように構成された、集積回路装置や電気回路を含んでいてもよい。たとえば、通信手段4は、外部機器Eとの信号伝送に必要な信号処理を行うようにプログラムされたマイコンやASICなどからなる通信制御IC、電気機器100の内部の信号を所定のプロトコルに定められた信号形式に変調するように、および、そのような信号形式から復調するように構成されたモデムIC、ならびに、これらのICの周辺回路で構成される。特に、通信手段4がHART通信を行う場合、通信手段4は、HARTプロトコルに則って通信を制御する通信制御IC、HART通信用のモデム、ならびに、4〜20mAのアナログ電流からなる信号にFSKで変調されたデジタル信号を重畳させるように構成された電気回路を含んでいてもよい。
電気機器100は、商用電源や電池などから電力の供給を受けて所定の機能を果たす機器であり、産業用途および民生用途のいずれの用途の電気機器であってもよく、その用途について特に限定されない。たとえば、電気機器100は、ノイズによる誤動作の防止が求められる自動車用の制御機器、通信機器、プラント内に構築される各種制御システムを構築する制御機器、後述されるような周囲環境を監視する検知器、所謂白物家電を始めとする家庭用電化製品など、各種の電気機器のいずれであってもよい。従って、電気機器100は、用途に応じた任意の機能を有し得る。そのため、電気機器100は、第1負荷部3以外にも、その用途に応じた特定の機能を果たす部分であって、電源部2からの電流が流入する1つまたは2つ以上の負荷部分を有していてもよい。
図1に示される例では、電気機器100は、第1負荷部3に加えて、第2負荷部5を有している。第2負荷部5は、第2負荷部5に流れる電流が第1負荷部3に流入する電流よりも緩やかに変動するように構成されている。たとえば、第2負荷部5は、電気機器100の通常の動作中、電源部2のグランド電位が変動するほど急激に大きさが変化しない電流、または、ほぼ一定の大きさの電流が流入するように構成されている。すなわち、第2負荷部5に電源部2から電流が供給されることによる、電気機器100と外部機器Eとの間の通信における伝送エラーや電気機器100の誤動作の発生リスクは低いと考えられる。そのため、第2負荷部5は、電流制御手段1を介さずに、電源部2から第1電圧V1の供給を受けて動作するように結線されている。このような構成にすることで、電源部2の電流供給能力に応じた電流、すなわち、その一部が電流制御手段1によって分流されることのない十分な大きさの電流を第2負荷部2に供給することができる。また、電流制御手段1が電圧降下を伴うものであっても、電源部2から供給される第1電圧V1を、その大きさのまま第2負荷部5に供給することができる。従って、より大きな電力を第2負荷部5に供給することができる。
電気機器100は、前述のように、電気機器100が設置される周囲の環境を監視して、周囲環境が特定の状態にあることを検知する検知器や警報器であってもよい。このような検知器や警報器としては、特定の種類のガスが所定の濃度以上で存在することを検知するガス検知器をはじめ、煙検知器、火災警報器、人の侵入などを検知する防犯用の警報器などが例示される(但し電気機器100による検知器や警報器はこれらに限定されない)。たとえばプラントなどにおいては、複数の検知器からなる監視システムが構築されており、複数個所に設置された検知器同士、または、中央制御装置(マスタ)と各検知器(スレーブ)とが、前述のHART通信によって信号を送受信している。微小な振幅の信号であっても、少ない線路数で適切に信号を送受信し得るという点で、本実施形態は、電気機器100が、このようなHART通信を行う検知器や警報器である場合、特に有益である。また、プラントなどに限らず、一般家庭においても、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)と称されるエネルギー管理システムが普及し始めており、エネルギーの使用量を監視する検知器などが、他の検知器や家電製品との間で信号を送受信することも見込まれる。本実施形態は、電気機器100がこのような一般家庭用の検知器である場合でも、伝送エラーなどが生じ難いという点で有益であると考えられる。
電気機器100は、電気機器100が検知器などである場合、検知対象に応じた各種センサなどの検知手段(図示せず)を有し得る。このようなセンサとしては、一酸化炭素(CO)ガス、メタンガス(CH4)などを検知するガスセンサ、サーミスタからなる温度センサ、湿度センサ、および、煙センサなどが例示される(但しセンサはこれらに限定されない)。このようなセンサは、主に検知状態に応じた電気信号を出力するか、または、そのセンサの内部の電気回路のインピーダンスが変化する。従って、検知手段に、たとえば電源部2から電流が供給される場合、検知状態に応じて検知手段に流入する電流の大きさが変動する。ガスセンサなどの検知手段は第1負荷部3に含まれていてもよい。しかし、検知状態に応じて検知手段に流入する電流が変化する場合でも、通常、電気機器100が設置される周囲の物理的環境は、電気機器100のグランド電位の変動をもたらすほど急激には変化しないと考えられる。従って、図示しない検知手段は第2負荷部5に含まれていてもよい。また、図示しない検知手段は、第1負荷部3および第2負荷部5と別に、電源部2または電流制御手段1に接続されていてもよい。
電気機器100が前述のように検知器である場合、図示しない検知手段の検知状態に応じて、検知手段への流入電流だけでなく第1負荷部3および第2負荷部5への流入電流も変動し得る。たとえば、前述のように第1負荷部3が表示装置であって検知手段による検知結果を表示するように構成されていると、その表示状態は検知手段の検知状態に応じて変化し得る。第1負荷部3が後述のデジタル表示器29(図3A参照)である場合、検知手段の検知状態に応じて点灯するセグメントの数が変化し、第1負荷部3への流入電流が変動する。また、この場合、検知手段により検知される周囲の物理的環境の変化が緩やかであっても、デジタル表示器29の表示状態は、極めて短い時間、たとえば2ミリ秒の遷移時間で変化(1つまたは複数のセグメントが点灯から消灯に、またはその逆に変化)し得る。そのため、第1負荷部3への流入電流が、検知手段の検知状態に応じて電源部2のグランド電位を変動させるほど急激に変化することがある。しかし、本実施形態では、電流制御手段1を有しているため、電源部2のグランド電位の変動が低減される。従って、電気機器100の誤動作などを防止することができる。
図1に示されるように、本実施形態では、電流制御手段1は定電流生成部11と定電圧生成部12とを含んでいる。定電流生成部11は、電源部2から供給される電流を一定の電流値で定電流生成部11から流出させるように構成されている。すなわち、定電流生成部11からは、定電流Icが流出する。また、定電流生成部11は、後述のように、定電圧生成部12と組み合わされることで電源部2から定電流Ic1が流入するように構成されている。
定電圧生成部12は、定電圧である第2電圧V2を第1負荷部3に供給する。また、定電圧生成部12は、第1負荷部3に流入する電流i1の変動に応じた大きさの電流i2が定電流生成部11から流入するように構成されている。すなわち、定電圧生成部12は、前述の電流制御手段1の説明のうち、電源部2からの電流(具体的には定電流生成部11から流出する電流)を、電流i1と電流i2とに分流させる機能を担っている。従って、定電圧生成部12は、第1負荷部3に流れる電流i1の電流値が大きくなるほど、電流i2が減少し、電流i1が小さくなるほど電流i2が増加するように構成されている。定電流生成部11からは定電流Icが流出するため、定電圧生成部12は、電流i1の増加量(減少量)とほぼ同量だけ電流i2が減少(増加)するように構成されている。
図1に示されるような定電流生成部11および定電圧生成部12を含む電流制御手段1を備えることにより、第1負荷部3への電流の供給のために電源部2から流れ出し、そして、グランドGを介して電源部2に戻る電流を、第1負荷部3の負荷の変動に影響されることなく、ほぼ一定にすることができる。したがって、極めて高度にグランド電位の変動を抑制することができ、電気機器100の誤動作や、電気機器100と外部機器Eとの間での信号の伝送エラーをほぼ確実に防ぐことができる。
図2には、定電流生成部11および定電圧生成部12を構成する具体的な電気回路の一例が示されている。図2の例では、定電流生成部11は、演算増幅器U3、基準電圧発生器U2、Pチャネル電界効果トランジスタ(以下、単に「トランジスタ」と称される)Q1、および抵抗R1〜R6で構成されている。基準電圧発生器U2は、所定の電圧値で一定電圧を発生させるものであれば特に限定されない。図2は、アノード端子に対して一定の基準電圧Vr2を基準電圧出力端子U2rに出力するシャントレギュレータが、基準電圧発生器U2として用いられる例である。カソード端子とアノード端子との間の電位差が一定電圧(基準電圧)Vr2となるように、基準電圧出力端子U2rとカソード端子とが接続されている。
抵抗R1、R2およびR3は直列に接続され、演算増幅器U3の非反転入力端子が抵抗R1と抵抗R2との接続ラインに接続され、基準電圧発生器U2のアノード端子が抵抗R2と抵抗R3との接続ラインに接続されている。抵抗R1の抵抗R2と反対側の一端R1aは、基準電圧発生器U2のカソード端子と共にトランジスタQ1のドレイン端子に接続され、抵抗R3の抵抗R2と反対側の一端はグランドGに接続されている。
演算増幅器U3の出力端子は抵抗R4を介してトランジスタQ1のゲート端子に接続され、トランジスタQ1のゲート端子とグランドGとの間に抵抗R5が接続されている。トランジスタのドレイン端子には、抵抗R6の一端が接続され、抵抗R6の他端は、演算増幅器U3の反転入力端子に接続されている。トランジスタQ1のソース端子に、電源部2(図1参照)から定電流Ic1が流入し、抵抗R6の他端から定電流Icが流出する。
演算増幅器U3には市販の演算増幅器を用いることができる。トランジスタQ1も、定電流Ic1を上回る定格ドレイン電流を有するものであれば特に限定されない。抵抗R1〜R3およびR6の抵抗値は、所望の定電流Ic、および基準電圧発生器U2の基準電圧Vr2の大きさに応じて適宜選択される。抵抗値の公差の小さい抵抗が、定電流Icのばらつきを小さくする点で有利である。また、抵抗R4およびR5の抵抗値は、トランジスタQ1に適切なゲート電圧が印加されるように適宜選択され得る。なお、図示されていないが、演算増幅器U3の正電源端子は電源電圧の供給ラインに接続され、負電源端子もしくはGND端子はグランドGに接続される。好ましくは、演算増幅器U3の正電源端子は、電源部2が供給する第1電圧V1よりも高い電圧を供給する電源電圧供給ラインに接続される。
図2の例では、定電圧生成部12は、シャントレギュレータU1および抵抗R7〜R9で構成されている。シャントレギュレータU1は、アノード端子に対して一定の基準電圧Vr1を基準電圧出力端子U1rに出力するように構成されている。抵抗R7、R8およびR9は直列に接続されており、シャントレギュレータU1のカソード端子が、抵抗R7の抵抗R8と反対側の一端に接続されると共に、定電流生成部11の抵抗R6と演算増幅器U3の反転入力端子との接続ラインに接続されている。シャントレギュレータU1の基準電圧出力端子U1rは、抵抗R8と抵抗R9との接続ラインに接続され、シャントレギュレータU1のアノード端子は、抵抗R9の抵抗R8と反対側の一端と共にグランドGに接続されている。
シャントレギュレータU1は、所望の精度の第2電圧V2を生成し得る基準電圧Vr1の精度を有し、電流i1の変動に応じて流入する電流i2に対して十分な電流容量を有するものであれば特に限定されない。たとえば、定電流生成部11から60mAの定電流Icが供給される場合、第1負荷部3への電流i1がほぼゼロのときでも定電流Icを全て流し得るように、好ましくは、100mA以上のカソード電流容量を有するシャントレギュレータが選択される。
抵抗R7〜R9の抵抗値は、所望の第2電圧V2、およびシャントレギュレータU1の基準電圧Vr1の大きさに応じて適宜選択される。抵抗値の公差の小さい抵抗が、第2電圧V2のばらつきを小さくする点で有利である。なお、直列接続された2つの抵抗R7およびR8が用いられているが、所望の抵抗値および公差を満たし得る場合は、1つの抵抗が、シャントレギュレータU1のカソード端子と基準電圧出力端子U1rとの間に接続されてもよい。また、抵抗R7および抵抗R8の一方または両方に変えて、可変抵抗が接続されてもよい。また、定電流生成部11および定電圧生成部12を構成する回路の任意の箇所にバイパスコンデンサが接続されてもよい。
図2に示される定電流生成部11および定電圧生成部12の動作について説明する。基準電圧発生器U2のカソード端子とアノード端子との間に接続されている、抵抗R1および抵抗R2の直列回路の両端には、基準電圧発生器U2の基準電圧Vr2が印加される。そのため、抵抗R1の一端R1aと他端R1bとの間には、抵抗R1および抵抗R2で基準電圧Vr2が分圧されてなる定電圧で電位差が発生する。また、演算増幅器U3の非反転入力端子には、抵抗R1の他端R1bの電圧Vinが入力される。演算増幅器U3には、抵抗R4、トランジスタQ1および抵抗R6によって負帰還回路が形成されている。そのため、演算増幅器U3の反転入力端子に接続されている抵抗R6の他端R6bの電圧が電圧Vinとほぼ同じになるようにトランジスタQ1のゲート電圧が制御される。換言すると、抵抗R1の一端R1aに一端R6aが接続されている抵抗R6の両端にも、抵抗R1の両端間と同じ定電圧で電位差が生じるように抵抗R6を流れる電流が制御され、固定抵抗である抵抗R6には、定電流Icが流れる。この定電流Icが、第1負荷部3および定電圧生成部12に供給される。定電流Icの大きさは、基準電圧Vr2、ならびに、抵抗R1、R2およびR6の抵抗値の選択によって容易に調整することができる。
定電圧生成部12では、シャントレギュレータU1により、基準電圧Vr1、および抵抗R7〜R9の抵抗値に基づいて第2電圧V2が生成される。すなわち、シャントレギュレータU1のカソード端子の電圧が、Vr1×(1+(R7+R8)/R9)となるように、シャントレギュレータU1のカソード電流が制御され、このカソード電圧からなる定電圧の第2電圧V2が生成される。なお、式中、R7、R8およびR9は、それぞれ、各抵抗の抵抗値を示している。第2電圧V2の大きさは、基準電圧Vr1、および、抵抗R7〜R9の抵抗値の選択によって容易に調整することができる。
前述のように、定電流生成部11からは定電流Icが供給され、一方、第1負荷部3に流れる電流i1は経時的に変動する。図2の例では、定電圧の第2電圧V2が生成されるように、シャントレギュレータU1によってカソード電流が調整される。そのため、定電流Icと、第1負荷部3への電流i1との差分の電流i2は、第2電圧V2が一定に保たれるように、カソード電流としてシャントレギュレータU1側に分流され、グランドGを介して電源部2に戻される。第1負荷部3への電流i1が変動しても、その変動に応じた電流i2がシャントレギュレータU1によって分流される。それにより、定電流生成部11は、第1負荷部3の負荷の変動に影響されずに定電流Icを流し続けることができる。また、定電圧生成部12によって定電圧の第2電圧V2が生成されることにより、抵抗R1の一端R1aや基準電圧発生器U2のカソード端子の電圧もほぼ一定となる。そのため、基準電圧発生器U2や抵抗R1に流れる電流もほぼ一定となり、電源部2から定電流生成部11に流入する電流Ic1もほぼ定電流となる。その結果、電源部2から流出する電流および電源部2に流入する電流の変動が抑制されると共に、電源部2のグランド電位が安定し、電気機器100の誤動作などを防ぐことができる。
なお、好ましくは、定電流生成部11は、経時的に変動する電流i1の最大値よりも大きい定電流Icを生成するように構成され、定電圧生成部12は、定電流生成部11の動作中は常に定電流生成部11から電流i2が流入するように構成される。そうすることにより、電流i1の変化範囲の全域にわたって、電源部2のグランド電位の変動を防ぐことができる。しかし、定電流生成部11で生成される定電流Icは、必ずしも電流i1の最大値よりも大きくなくてもよい。たとえば、定電流Icは、電流i1の最大値とほぼ同じであってもよく、第1負荷部3の動作に支障のない範囲であれば電流i1の最大値よりも小さくてもよい。たとえば、発生頻度の低い最大値付近の領域での電流i1の変動によるグランド電位の変動を完全に抑制できない場合でも、通常動作において電気機器100に誤動作などが生じないことがあるからである。また、定電流Icを小さくすることで、電気機器100の消費電力を低減できることがある。
つぎに、本発明の一実施形態の電気機器の信号に重畳するノイズを低減する方法について、図1および図2を参照して説明する。
本実施形態の方法は、電源部2と、電源部2からの電流が経時的に変動する電流値で流入する第1負荷部3とを有する電気機器100において、電源部2のグランド電位の変動に伴って内部の電気回路上の信号に重畳するノイズを低減する方法である。本実施形態の方法では、電源部2から供給される電流から定電流Icを生成し、定電流Icから、第1負荷部3に流入する電流i1の変動に応じた大きさの電流i2を分流させることにより定電圧(第2電圧)V2を生成すると共に、定電流Icの一部を第1負荷部3に供給し、第1負荷部3を流れた電流i1および電流i2を電源部2に戻すことにより、電源部2のグランドに流れる電流の変動を、第1負荷部3に流入する電流の変動よりも小さくする。電源部2のグランドに流れる電流の変動が小さくなることにより、電源部2のグランド電位が安定し、電気機器100の電気回路上の信号に重畳するノイズが低減される。
定電流Icは、たとえば、図2に示されるような、基準電圧発生器U2、演算増幅器U3および抵抗R1〜R6からなる定電流生成回路により生成することができる。基準電圧発生器U2、演算増幅器U3および抵抗R1〜R6の動作は、前述の通りであるため、再度の説明は省略する。
定電流Icからの、第1負荷部3に流入する電流i1の変動に応じた大きさの電流i2の分流は、たとえば、図2に示されるような、シャントレギュレータU1および抵抗R7〜R9を用いて行うことができる。シャントレギュレータU1によって、シャントレギュレータU1のカソード端子と、グランドGに接続されたアノード端子との間に、基準電圧Vr1および抵抗R7〜R9の抵抗値により定まる定電圧(第2電圧V2)が生成される。換言すると、シャントレギュレータU1は、第1負荷部3に流れる電流i1の変動に応じた大きさの電流i2を定電流Icから分流させ、それにより、第2電圧V2がほぼ一定の値に維持される。分流された電流i2は、シャントレギュレータU1のカソード端子からアノード端子に通じる分流経路に流される。
第1負荷部3を流れた電流i1、および分流経路であるシャントレギュレータU1内を流れた電流i2は、第1負荷部3の低電位側およびシャントレギュレータU1のアノード端子をグランドGに接続することによりグランドGを介して電源部2に戻される。電流i1と、電流i1の変動に応じた大きさで分流された電流i2とがグランドGを流れることにより、グランドGに流れる電流の変動量を、第1負荷部3に流入する電流i1の変動量よりも小さくすることができる。その結果、電源部2のグランド電位の変動に伴って電気機器100内の電気回路上の信号に重畳するノイズを低減することができる。
好ましくは、定電流Icを生成している間は、常に、定電流Icの一部をシャントレギュレータU1などの分流経路に分流させる。すなわち、経時的に変動する電流i1の最大値よりも大きい定電流Icを生成するのが好ましい。前述のように、電流i1の変化範囲の全域にわたって、電源部2のグランド電位の変動を防ぐことができる。
なお、本実施形態の電気機器の信号に重畳するノイズを低減する方法は、図2に示される回路を用いて行う方法に限定されない。本実施形態の方法は、定電流Icの生成が可能で、第1負荷部3に流れる電流i1の変動に応じた電流i2を定電流Icから分流させることができる任意の回路を用いて行うことができる。
つぎに、電気機器100が、3線式によるHART通信機能を備えた、可燃性ガスや有毒ガスを検知するガス検知器である場合を例に、本発明の一実施形態の電気機器の構造の一例について説明する。
図3Aおよび図3Bには、本発明の電気機器の一例であるガス検知器200の外観が示されている。図3Aは、ガス検知器200の設置時に設置面側となる面と反対側からみた正面図を示し、図3Bは、図3A上、下方側からみた下面図である。図3Aおよび図3Bに示されるように、ガス検知器200は、本体側筐体21と蓋側筐体22とにより構成される筐体20を有している。本体側筐体21が筐体20の設置面側の部分を構成している。本体側筐体21と蓋側筐体22とは、ヒンジ部23によって係合されると共に、4本の筐体固定用ネジ24で結合されている。ガス検知器200は、検知対象のガスを検知するガスセンサを含む検知部25を備え、本体側筐体21の側面には、ガス検知器200と外部電源(図示せず)などとを電気的に接続するケーブル(図示せず)を挿し通すためのケーブル挿通部26を備えている。
ガス検知器200は、正面22aに、スティック状の操作ツールで外部から操作可能なガス検知器200の調整用の4つのスイッチ27、および、ガス検知器200の動作状態を示す3つのLED表示灯28を備えている。さらに、ガス検知器200は、正面22a側から蓋側筐体22の開口22bを通して視認し得るように設けられた、小数点を示すドット表示用を含めて1桁あたり8セグメントの点灯素子で数字を表示する4桁のデジタル表示器29を備えている。
図4には、本体側筐体21と蓋側筐体22とが分離されている状態で、両者が結合されたときにガス検知器200の内部側となる側からみた各筐体が示されている。なお、図4では、図3Aおよび図3Bに示されているヒンジ部23、検知部25、およびケーブル挿通部26の図示は省略されている。図4に示されるように、本体側筐体21および蓋側筐体22は、それぞれ、凹部21c、22cを有し、蓋側筐体22の凹部22cには、第1回路基板31が配置され、本体側筐体21の凹部21cには、第3回路基板33が配置されている。第1回路基板31と第3回路基板33とは、複数のケーブル30aによって電気的に接続される。ケーブル30aと第1回路基板31とは、コネクタ35を介して接続される(図4では、コネクタ35が結合されていない状態で、本体側筐体21および蓋側筐体22が示されている)。
第1回路基板31は、2つの第1回路基板固定用ネジ39で蓋側筐体22に固定されている。図示されていないが、蓋側筐体22には、第1回路基板31と重なるように第2回路基板32(図6参照)が配置されており、第1回路基板31は、一部を除いて、第2回路基板32の固定用プレート34に覆われている。固定用プレート34は、4つのプレート固定用ネジ41によって4隅を蓋側筐体22に固定されている。第2回路基板32は2つの第2回路基板固定用ネジ44で固定用プレート34に固定されている。
固定用プレート34は、その平面図および正面図が図5(a)および図5(b)にそれぞれ示されるように、全体として矩形の板材により形成され、本体部341、および、外周上の対向する2辺それぞれの近傍の部分からなる側端部342を有している。本体部341と側端部342とは、両者の間に段差が生じるように接続されており、固定用プレート34は、側端部342の無い縁部側からみたときに、図5(b)に示されるように、全体として凸状の形状を有している。本体部341には、第2回路基板固定用ネジのための2つの貫通孔34dが設けられ、側端部342には、プレート固定用ネジのための4つの貫通孔34eが設けられている。また、固定用プレート34には、3つの切り欠き34a、34bおよび34cが設けられている。
再度図4を参照すると、第1回路基板31には、コネクタ35の他に、第1回路基板31内に構成される電気回路の所定のノードと電気的に接続された端子部38が設けられている。端子部38は、図4では、コネクタにより形成されているが、第1回路基板31の導体層に形成された導体パッドなどでもよい。端子部38は、たとえば、第1回路基板31に構成される電気回路の検査や、第1回路基板31に実装される記憶素子(図示せず)への情報の書き込みなどのために設けられる。図4の例では、固定用プレート34の切り欠き34a内にコネクタ35が露出し、切り欠き34b内に端子部38が露出している。そのため、固定用プレート34を蓋側筐体22に固定した状態で、容易に、コネクタ35を挿抜することができ、また、端子部38を介して記憶素子への書き込みなどを行うことができる。
第3回路基板33には、外部電源などとの接続用の複数の外部ケーブル30bが接続される外部ケーブル用コネクタ36が実装されている。外部ケーブル30bは、第3回路基板33の部品搭載面に対して斜めに、外部ケーブル用コネクタ36に挿し込まれて固定されている。図示されていないが、第3回路基板33には、外部ケーブル用コネクタ36の他に、ガス検知器200内の電気回路を外来のサージ電圧などから保護する保護回路などが実装され得る。外部ケーブル30bは、ケーブル挿通部26(図3A参照)を通して本体側筐体21内に導入されている。本体側筐体21の凹部21cの周囲にはOリング37が設けられている。
図6には、第1回路基板31などが配置された蓋側筐体22の図4のVI−VI線での断面図が示されている。図6に示されるように、蓋側筐体22の凹部22cの外周部に、本体側筐体21(図3B参照)との結合面22dよりも凹んだ位置に座ぐり面22eが設けられており、第1回路基板31が座ぐり面22e上に載置され、第1回路基板固定用ネジ39で蓋側筐体22に固定されている。また、第2回路基板32の固定用プレート34は、スペーサ40を介して、座ぐり面22eにプレート固定用ネジ41で固定されている。固定用プレート34には、スペーサ42を介して第2回路基板32が第2回路基板固定用ネジ44で固定されている。すなわち、第2回路基板32は、第1回路基板31の座ぐり面22eと反対側(本体側筐体21側)に、第1回路基板31に重なるように配置されている。このような配置により、設置面上における占有面積に関して小型のガス検知器200が構成され得る。
第1回路基板31の凹部22cの底面側の面(図6上、下側の面)には、デジタル表示器29が実装されている。デジタル表示器29は、ガス検知器200の外部から、その表示を視認し得るように蓋側筐体22の開口22bに対応する位置に実装されている。
第1回路基板31には、基板対基板タイプのコネクタ43aが実装されており、第2回路基板32には、コネクタ43aに嵌合する基板対基板タイプのコネクタ43bが実装されている。第1回路基板31が蓋側筐体22に取付けられ、その後、第2回路基板32が固定用プレート34を介して蓋側筐体22に固定されるときに、コネクタ43aとコネクタ43bとが結合される。このとき、第1回路基板31が蓋側筐体22に対して正確な位置に固定されていないと、コネクタ43aとコネクタ43bとを適正に結合することができない。しかし、再度図4を参照すると、本実施形態では、切り欠き34a、34c内に第1回路基板固定用ネジ39が露出している。そのため、第2回路基板32が取付けられた固定用プレート34に第1回路基板31の大半の部分が覆われた状態でも、第1回路基板固定用ネジ39を回すことができる。すなわち、固定用プレート34を蓋側筐体22に取り付ける時点で、第1回路基板31が蓋側筐体22に固定されていなくてもよい。たとえば、事前にコネクタ43aとコネクタ43bとを結合させたうえで、第1回路基板31および固定用プレート34を蓋側筐体22に固定することができる。または、たとえば、第1回路基板31を蓋側筐体22に仮固定した状態、すなわち、第1回路基板31が移動可能な状態で、コネクタ43aとコネクタ43bとを位置合わせしながら結合させることができる。その後、第1回路基板固定用ネジ39を締め付けることにより第1回路基板31を完全に固定することができ、さらに固定用プレート34を蓋側筐体22に固定することができる。
図7には、図4に示される固定用プレート34が取り付けられていない状態で、蓋側筐体の凹部22c内の第1回路基板31が示されている。第1回路基板31には、コネクタ35、コネクタ43aおよび端子部38が設けられる他、ガス検知器200を構成する所定の電気回路が形成される。図7の例では、電源部2および第2負荷部5が第1回路基板31上に形成されている。また、前述のように、ガス検知器200である本実施形態の電気機器の第1負荷部3(図1参照)となり得るデジタル表示器29(図6参照)が、第1回路基板31の凹部22cの底面側の面(図7に示されている面と反対側の面)に実装されている。
一方、一実施形態の電気機器の一例であるガス検知器200では、図8に示されるように、第2回路基板32上に電流制御手段1が設けられている(図8には、図4に示される固定用プレート34を図4上、左右方向に反転させた状態で、固定用プレート34に取付けられた第2回路基板32が示されている)。たとえば、図2に示されるシャントレギュレータU1、基準電圧発生器U2、演算増幅器U3、トランジスタQ1、および抵抗R1〜R9が第2回路基板32に実装されている。また、第2回路基板32には、図1に示される通信手段4のうち、HART通信を行うにあたって必要となる制御ならびに信号の変調および復調を行う電気回路により構成されるHART通信制御部4aが形成されている。
図7および図8に示されるように、ガス検知器200では、電源部2は第1回路基板31に形成され、第2回路基板32上に設けられた電流制御手段1に電源部2から電流が供給される。電流制御手段1から流出する電流は、第1回路基板31側に戻って、デジタル表示器29(図6参照)を含む第1負荷部3(図1参照)に流入する。前述のように、電流制御手段1により、第1負荷部3への電流の変動によるグランド電位の変動が抑制される。グランド電位の変動の影響を受け易い3線式によるHART通信の制御を担うHART通信制御部4aは、電流制御手段1と共に第2回路基板32に形成されている。すなわち、HART通信を担う部分と、正常に3線式のHART通信が行えるようにグランド電位の変動の抑制を担う部分とが、ガス検知器200の電気回路の他の構成部分が形成される基板(第1回路基板31)と別の基板(第2回路基板32)に纏めて形成されている。そのため、第2回路基板32を追加することで、既存の部分を大幅に変更することなく、HART通信機能を有していない既存のガス検知器にHART通信機能を付加することができる。
図8の例では、第2回路基板32に構成される電気回路の検査や、第2回路基板32に実装される記憶素子(図示せず)への情報の書き込みなどのために設けられるコネクタ45が第2回路基板32の縁部に実装されている。コネクタ45の相手側のコネクタとの嵌合面は、第2回路基板32の側方に向けられている。そのため、固定用プレート34が蓋側筐体22(図4参照)に固定された状態でも、コネクタ45の相手側のコネクタを第2回路基板32の側方からコネクタ45に挿抜して、記憶素子への書き込みなどを行うことができる。なお、図7や図8に示される、電源部2および第2負荷部5、ならびに、電流制御手段1およびHART通信制御部4aは、単にこれらが第1回路基板31、または、第2回路基板32上に形成されることを示しているに過ぎず、その大きさや各回路基板上での正確な位置を示すことは意図されていない。
実施例1
図2に示される定電流生成部11および定電圧生成部12からなる電流制御手段1を、ガス検知器(新コスモス電機株式会社製:KD−12B)に付加して、グランド電位の変動の低減効果について調べた。ガス検知器は、図3Aに示されるようなデジタル表示器29およびLED表示灯28を有していた(ただし、HART通信機能は有していない)。このデジタル表示器29およびLED表示灯28の状態を経時的に変化させ、デジタル表示器29およびLED表示灯28などを含む第1負荷部3(図1参照)に流れる電流i1の変動に対する、電源部2(図1参照)のグランドに流れる電流の変動を調べた。
この調査では、ガス検知器KD−12Bが備える電源部が切り離され、電源部2として、テキサスインスツルメンツ社のスイッチングレギュレータIC:LM2501評価ボードが接続され、この電源部2に、外部電源から24Vの電圧が供給された。電源部2はスイッチング周波数を500kHz、出力電圧を3.6Vに設定された。すなわち、本実施例では、第1電圧V1(図1参照)は3.6Vであった。シャントレギュレータU1にはルネサスエレクトロニクス社のμPC1093が用いられ、第2電圧V2が3.18Vとなるように、抵抗R7〜R9が選択された。基準電圧発生器U2には、テキサスインスツルメンツ社のシャントレギュレータTLV431Aが用いられ、基準電圧発生器U2は、TYP値として1.24Vの基準電圧Vr2を有していた。演算増幅器U3およびトランジスタQ1には、テキサスインスツルメンツ社のOPA170、ローム社のRQ5E035ATが、それぞれ用いられ、定電流Icが57.4mAとなるように、抵抗R1〜R3およびR6が選択された。
各電流の測定は、各桁8セグメント×4桁のデジタル表示器29の最上位桁だけを8ミリ秒毎に全セグメント点灯させると共に、3つのLED表示灯28を1秒周期、デューティ比50%で点滅させながら行った。なお、第1負荷部3への電流i1の測定は、電流制御手段1と第1負荷部3との間に0.5Ωの抵抗を挿入し、この抵抗による電圧降下を測定することにより行った。同様に、グランドラインに流れる電流は、外部電源と電源部2との間のグランドラインに20Ωの抵抗を挿入し、その電圧降下を測定することにより行った。各電流の測定は、いずれもオシロスコープを用いて行った。
図9Aおよび図10Aは、第1負荷部3への電流i1の測定結果であり、図9Bおよび図10Bはグランドラインの電流の測定結果である。ここで、図9Aおよび図9Bは、オシロスコープの時間軸の設定を1divisionあたり5秒として観測したものであり、図10Aおよび図10Bは、時間軸の設定を1divisionあたり0.1秒に拡大して観測したものである。また、図9Bおよび図10B中、符号igは本実施例において測定されたグランドラインの電流を示し、符号ixは、比較のために測定された、電流制御手段1が付加されていない比較例におけるグランドラインの電流を示している。なお、第1負荷部3への電流は、本実施例および比較例の間で違いはないため、図9Aおよび図10Aには、1つの電流波形(電流i1)だけが示されている。
図9Aに示されるように、第1負荷部3への電流i1は、LED表示灯28の点滅周期(1秒)に合わせて、約1秒の周期P1で、その大きさが変化している。また、時間軸を拡大して測定された結果である図10Aに示されるように、デジタル表示器29の8ミリ秒周期の表示状態の変化に合わせて、約8ミリ秒の周期P2で電流i1の大きさが変動している。すなわち、図9Aでは、電流i1は、黒く塗りつぶされて帯状に描かれているが、電流i1は、デジタル表示器29に流れる電流量に応じて約8ミリ秒周期で細かく変動し、かつ、LED表示灯28に流れる電流量に応じて約1秒周期で変動している。なお、図10Aおよび図10Bは、LED表示灯28が点灯状態にある0.2秒間(時間t1秒から(t1+0.2)秒までの間)の測定結果を示している。また、図9Aにおいて、時間T1以降は、LED表示灯28が常時点灯状態にされたので、電流i1の1秒周期の変動は生じていない。また、電流i1は、デジタル表示器29やLED表示灯28以外のガス検知器の構成要素にも流れているため、図9Aや図10Aにおいてゼロレベルまで低下することなく流れ続けている。
第1負荷部3への電流i1が図9Aおよび図10Aに示されるように変動している状況において、比較例では、図9Bに示されるように、グランドラインの電流ixは、電流i1の変動に応じて、1秒周期で変動し、さらに、図10Bに示されるように8ミリ秒周期で変動している。これに対して、本実施例では、図9Bおよび図10Bの符号igに示されるように、電流i1の変動に影響されることなくほぼ一定の電流値でグランドラインの電流igが流れていることがわかる。従って、デジタル表示器29などに流れる電流の変動によってガス検知器内の信号ラインの電位に変動が生じることがなく、正常なガス検知器の動作を得ることができる。また、前述のHART通信では、500Hz〜10kHzの周波数帯において、負荷抵抗500Ωの場合に、2.2mVrms以下というグランドレベルの変動についての規格が定められているが、本実施例ではグランドレベルの変動はほぼ0mVrmsであり、図2に例示される一実施形態の電流制御手段1を用いることにより、このHART通信の規格を満たすことができる。