以下、本発明に係る回転電機の具体的な実施形態について、図1〜図15を参照しつつ説明する。
本実施形態において、回転電機20は、例えば車両などに搭載されており、バッテリなどの電源から電力が供給されることで車両を駆動するための駆動力を発生すると共に、車両のエンジンから動力が供給されることでバッテリを充電するための電力を発生する装置である。回転電機20は、図1に示す如く、ステータ22と、ロータ24と、ハウジング26と、ブラシ装置28と、整流装置30と、電圧調整器32と、プーリ34と、を備えている。
ステータ22は、磁路の一部を構成すると共に、ロータ24の回転による回転磁界が付与されることで起電力を発生する部材である。ステータ22は、ステータコア40と、電機子巻線42と、を有している。ステータコア40は、円筒状に形成された部材である。ステータコア40は、鉄やケイ素鋼からなる電磁鋼板などの軟磁性材により構成されており、電磁鋼板などの薄板部材が軸方向に沿って積層された積層部材である。このステータコア40において渦電流損を低減してステータ22での損失を下げるためには、表皮深さを考慮して薄板部材を薄くすることや層間に絶縁材料を挟むなどした絶縁層を設けることが有効である。
ステータコア40は、円環部44と、ティース部45と、スロット部46と、を有している。円環部44は、円筒状・円環状に形成された部位である。ティース部45は、円環部44の径方向内端から径方向内側に向けて延びる部位である。ティース部45は、周回り所定角度をおいて配置されるように複数設けられている。スロット部46は、周方向に隣接する2つのティース部45間に空いた部位である。ティース部45及びスロット部46は、周方向において交互に連続して配置されている。
電機子巻線42は、ステータコア40(具体的には、そのティース部45)に巻装されている。電機子巻線42は、ステータコア40のスロット部46に収容される直線状のスロット収容部48と、ステータコア40の軸方向端から軸方向外側に突出する湾曲状のコイルエンド部49と、を有している。電機子巻線42は、回転電機20の相数に対応した例えば多相巻線(例えば三相巻線)を有している。電機子巻線42の各相巻線はそれぞれ、インバータ装置に接続されている。各相巻線に印加される電圧は、インバータ装置内のスイッチング素子がスイッチング駆動されることにより制御される。
ロータ24は、ステータ22(具体的には、ティース部45の先端)に対して径方向内側に所定のエアギャップを空けて対向配置されている。ロータ24は、磁路の一部を構成すると共に、電流が流れることで磁極を形成する部材である。ロータ24は、いわゆるランデル型回転子である。ロータ24は、界磁コア50と、界磁巻線52と、短絡部材54と、永久磁石56と、を有している。
界磁コア50は、ボス部58と、ディスク部60と、爪状磁極部62と、を有している。ボス部58は、回転シャフト64が挿入可能な中心軸上に空いたシャフト孔66を有する筒状部材であって、回転シャフト64の外周側に嵌合固定される部位である。ディスク部60は、ボス部58の軸方向端部側から径方向外側に向けて延びる円盤状の部位である。
爪状磁極部62は、ディスク部60の外周端に連接すると共に、その連接部から軸方向に沿って爪状に突出する部材である。爪状磁極部62は、その連接部からボス部58に沿って延びている。爪状磁極部62は、ボス部58の外周側に配置されている。ボス部58とディスク部60と爪状磁極部62とは、ポールコア(界磁鉄心)を形成する。ポールコアは、例えば鍛造成形されている。爪状磁極部62は、略円弧状に形成された外周面を有している。爪状磁極部62の外周面は、回転シャフト64の軸中心近傍(具体的には、回転シャフト64の軸中心又はその軸中心よりも該爪状磁極部62に近い側の位置)を中心にした円弧を有している。
爪状磁極部62は、互いに異なる極性(具体的には、N極及びS極)の磁極が形成される第1爪状磁極部62−1及び第2爪状磁極部62−2を含む。第1爪状磁極部62−1及び第2爪状磁極部62−2は、一対のポールコアを構成する。第1爪状磁極部62−1及び第2爪状磁極部62−2は、ロータ24の軸回りに複数の同じ数(例えば、8個)ずつ設けられている。第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2とは、周方向に隙間空間68を空けて交互に配置されている。
第1爪状磁極部62−1は、ボス部58の軸方向一端側から径方向外側に広がるディスク部60の外周端に連接しており、軸方向他端側に向けて突出している。また、第2爪状磁極部62−2は、ボス部58の軸方向他端側から径方向外側に広がるディスク部60の外周端に連接しており、軸方向一端側に向けて突出している。第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2とは、配置位置や突出する軸方向向きを除いて、互いに共通した形状に形成されている。第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2とは、軸方向根元側(又は軸方向先端側)が互いに軸方向逆側となるように周方向に交互に配置されており、互いに異なる極性に磁化される。
各爪状磁極部62は、周方向において所定の幅(すなわち、周方向幅)を有すると共に、径方向において所定の厚さ(すなわち、径方向厚さ)を有するように形成されている。各爪状磁極部62は、ディスク部60との連接部近傍の根元側から軸方向先端側にかけて、周方向幅が徐々に小さくなりかつ径方向厚さが徐々に小さくなるように形成されている。すなわち、各爪状磁極部62は、軸方向先端側ほど周方向及び径方向の双方において細くなるように形成されている。尚、各爪状磁極部62は、周方向中心を挟んで周方向に左右対称となるように形成されていることが好ましい。
互いに周方向に隣接する第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2との間ごとに設けられた隙間空間68は、軸方向斜めに延在しており、軸方向にかけてロータ24の回転軸に対して所定角度で傾斜している。各隙間空間68は、その周方向の大きさ(すなわち、寸法)が軸方向位置に応じて変化することがほとんど無いように、すなわち、その周方向寸法が一定若しくはその一定値を含む極僅かな範囲内に維持されるように設定されている。
尚、ロータ24において磁気的なアンバランスが生じるのを回避するため、周方向のすべての隙間空間68は同一形状であることが好ましい。しかし、特に片側方向にのみ回転するロータ24においては、鉄損の低減などのために、爪状磁極部62の形状を周方向中心を挟んで周方向に左右非対称形状として、隙間空間68の軸方向位置ごとの周方向寸法を一定でないものとしてもよい。
界磁巻線52は、ボス部58と爪状磁極部62との径方向隙間に配置されている。界磁巻線52は、直流電流の流通により界磁コア50に磁束を発生させ、通電により起磁力を発生させるコイル部材である。界磁巻線52は、ボス部58の外周側において軸回りに巻装されている。界磁巻線52により発生した磁束は、ボス部58及びディスク部60を介して爪状磁極部62に導かれる。すなわち、ボス部58及びディスク部60は、界磁巻線52にて発生した磁束を爪状磁極部62に導く磁路を形成する。界磁巻線52は、発生磁束により第1爪状磁極部62−1をN極に磁化させかつ第2爪状磁極部62−2をS極に磁化させる機能を有する。
短絡部材54は、爪状磁極部62(すなわち、第1爪状磁極部62−1及び第2爪状磁極部62−2)の外周側に配置されてその爪状磁極部62の外周を覆う円筒状の部材である。短絡部材54は、爪状磁極部62のディスク部60との連接部からその爪状磁極部62の軸方向先端までの距離程度の軸方向長さを有している。短絡部材54は、径方向において所定厚さ(例えば、ロータ24での機械強度と磁気性能とを両立させることができる例えば0.6mm〜1.0mm程度)Wを有する薄皮部材である。短絡部材54は、爪状磁極部62にその外周面側で対向して接すると共に、周方向に隣接する第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2との間の隙間空間68をその径方向外側で閉じて、それらの爪状磁極部62−1,62−2同士を磁気的に接続する。
短絡部材54は、鉄やケイ素鋼からなる電磁鋼板などの軟磁性材により構成されている。短絡部材54は、円筒状に形成されたパイプ状部材であり、又は、所定部材が軸方向に沿って積層された積層部材である。短絡部材54は、焼き嵌めや圧入,溶接或いはそれらの組み合わせなどによって爪状磁極部62に対して固定される。短絡部材54が積層部材である場合は、その積層は、打ち抜き加工した電磁鋼板などの複数枚の軟磁性の薄板部材が軸方向に沿って積層されたものであってよい。尚、各薄板部材はそれぞれ、渦電流損を抑制するために、軸方向に隣接する薄板部材に対して層間絶縁されていることが望ましい。また、その積層は、一本の線状部材又は一帯の帯状部材が螺旋状に延在して軸方向に沿って積層されたものであってもよい。この線状部材や帯状部材は、強度や磁気性能の観点から断面矩形状の角材であることが好ましいが、丸線或いは角部が湾曲したものであってよい。
短絡部材54は、ロータ24の外周面を滑らかにして、ロータ24の外周面に形成される凹凸に起因する風切り音を低減する機能を有する。また、短絡部材54は、周方向に並んだ複数の爪状磁極部62を互いに連結して、各爪状磁極部62の変形(特に径方向への変形)を抑える機能を有する。
永久磁石56は、短絡部材54の内周側に収容されていると共に、周方向に隣接する爪状磁極部62の間すなわち第1爪状磁極部62−1と第2爪状磁極部62−2との間にその隙間空間68を埋めるように配置されている磁極間磁石である。永久磁石56は、隙間空間68ごとに配置されており、隙間空間68と同数の数だけ設けられている。各永久磁石56は、隙間空間68の形状に合わせてロータ24の回転軸に対して斜めに傾斜して延在しており、概ね直方体形状に形成されている。永久磁石56は、爪状磁極部62間における磁束の漏れを低減して爪状磁極部62とステータ22のステータコア40との間の磁束を強化する機能を有している。
永久磁石56は、周方向に隣接する爪状磁極部62の間の漏れ磁束を減少させる向きの磁極が形成されるように配置されている。永久磁石56は、起磁力が周方向に向くように着磁されている。具体的には、永久磁石56は、N極に磁化される第1爪状磁極部62−1に対向する周方向の面の磁極がN極となり、かつ、S極に磁化される第2爪状磁極部62−2に対向する周方向の面の磁極がS極となるように構成されている。尚、本実施形態は、永久磁石56が着磁された後にロータ24に組み込まれるものに適用することとしてもよいが、永久磁石56がロータ24に組み込まれた後に着磁されるものに適用することが好適である。
ハウジング26は、ステータ22及びロータ24を収容するケース部材である。ハウジング26は、回転シャフト64ひいてはロータ24をベアリング69を介して軸回りに回転可能に支持すると共に、ステータ22を固定する。
ブラシ装置28は、スリップリング70と、ブラシ72と、を有している。スリップリング70は、回転シャフト64の軸方向一端に固定されており、ロータ24の界磁巻線52に直流電流を供給する機能を有している。ブラシ72は、2個一対設けられており、ハウジング26に取り付け固定されたブラシホルダに保持されている。ブラシ72は、その径方向内側の先端がスリップリング70の表面に摺動するように回転シャフト64側に押圧されつつ配置されている。ブラシ72は、スリップリング70を介して界磁巻線52に直流電流を流す。
整流装置30は、ステータ22の電機子巻線42に電気的に接続されている。整流装置30は、電機子巻線42で生じた交流を直流に整流して出力する装置である。電圧調整器32は、界磁巻線52に流す界磁電流を制御することにより回転電機20の出力電圧を調整するためのものであり、電気負荷や発電量に応じて変化する出力電圧を略一定に維持させる機能を有している。プーリ34は、車両エンジンの回転を回転電機20のロータ24に伝達するためのものであり、回転シャフト64の軸方向他端に締め付け固定されている。
このような構造を有する回転電機20においては、電源からブラシ装置28を介してロータ24の界磁巻線52に直流電流が供給されると、その電流の通電により界磁巻線52を貫いてボス部58、ディスク部60、及び爪状磁極部62を流通する磁束が発生する。この磁束は、例えば、一方のポールコアのボス部58→ディスク部60→第1爪状磁極部62−1→ステータコア40→第2爪状磁極部62−2→他方のポールコアのディスク部60→ボス部58→一方のポールコアのボス部58の順に流れる磁気回路を形成する。この磁気回路は、ロータ24の逆起電力を発生するものである。
上記の磁束が第1爪状磁極部62−1及び第2爪状磁極部62−2に導かれると、第1爪状磁極部62−1がN極に磁化されると共に、第2爪状磁極部62−2がS極に磁化される。かかる爪状磁極部62の磁化が行われた状態で、電源から供給される直流が例えば三相交流に変換されて電機子巻線42に供給されると、ロータ24がステータ22に対して回転する。従って、回転電機20を、電機子巻線42への電力供給により回転駆動させる電動機として機能させることができる。
また、回転電機20のロータ24は、車両エンジンの回転トルクがプーリ34を介して回転シャフト64に伝達されることにより回転する。かかるロータ24の回転は、ステータ22の電機子巻線42に回転磁界を付与することで、電機子巻線42に交流の起電力を発生させる。電機子巻線42で発生した交流起電力は、整流装置30を通って直流に整流された後、バッテリに供給される。従って、回転電機20を、電機子巻線42の起電力発生によりバッテリを充電させる発電機として機能させることができる。
次に、本実施形態の回転電機20の特徴部について説明する。
ところで、スロット部46に収容される電機子巻線42のスロット収容部48は、ステータコア40に囲まれていることで磁気シールドされているので、図7に示すロータ24からの交番磁界の影響を受け難く、ロータ24からの磁束による銅損(いわゆるAC銅損)が発生し難い。一方、電機子巻線42のコイルエンド部49は、磁気シールドされていないので、ロータ24からの交番磁界の影響を受け易く、ロータ24からの磁束によるAC銅損が発生し易い。
これに対して、本実施形態において、回転電機20は、径方向に所定のエアギャップを空けて対向配置されたステータ22及びロータ24を備えている。ステータ22は、電機子巻線42が巻装される円筒状のステータコア40を有している。電機子巻線42は、ステータコア40のスロット部46に収容されるスロット収容部48と、ステータコア40の軸方向端から軸方向外側に突出するコイルエンド部49と、を有している。ロータ24は、爪状磁極部62の外周側にその外周面を覆うように配置された筒状の短絡部材54を有している。短絡部材54は、爪状磁極部62に固定されている。
図6に示す如く、ポールコアを構成するディスク部60又は爪状磁極部62の軸方向端部(特にディスク部60と連接する側の軸方向端部)は、ステータコア40(特に、ティース部45)の軸方向端よりも軸方向外側にはみ出している。また、短絡部材54は、ステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収まるように配置されている。短絡部材54は、ステータコア40の軸方向長さLsよりも短い軸方向長さLtを有している。短絡部材54は、その軸方向における全体がステータコア40に径方向で対向するように爪状磁極部62に固定されている。
短絡部材54は、径方向厚さWを有している。ステータコア40は、軸方向端部にて爪状磁極部62にエアギャップG0を介して径方向に対向していると共に、軸方向中央部にてロータ24の短絡部材54に上記のエアギャップG0よりも小さな所定のエアギャップG(=G0−W)を介して径方向に対向している。短絡部材54の径方向厚さWは、爪状磁極部62の表面とステータコア40(具体的には、ティース部45の径方向先端面)との径方向距離であるエアギャップG0に対して1/2以上である(W/G0>1/2)。この径方向厚さWとエアギャップG0との関係は、ロータ24で発生した磁束をステータコア40の軸方向端面側へ漏らすことなく短絡部材54へ集中させ易くするためである。
かかる構造を有する回転電機20においては、爪状磁極部62の外周側に配置された短絡部材54がステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収まるように配置されていることで、ロータ24のうち短絡部材54のみがその全体でステータコア40に対して最短距離で対向するので、ロータ24とステータ22との間の磁束授受が短絡部材54を用いて行われる。
このため、図8に示す如く、ロータ24のポールコアにおいてN極−S極の磁束が交番で流れた際にその磁束を短絡部材54に集中させることができ、その短絡部材54に導かれた磁束を径方向に沿ってステータ22側へ流して、電機子巻線42のスロット収容部48へ垂直に鎖交させることができる。すなわち、交番磁界による磁束が図9に示す如く軸方向成分を持って例えばディスク部60側からステータ22の軸方向端面側に向けて降り注いで電機子巻線42のスロット収容部48以外の部位(具体的には、コイルエンド部49)へ流入するのを抑制することができ、ロータ24からの磁束が短絡部材54を介することなくコイルエンド部49に鎖交するのを抑えることができる。
図10に示す如く、ロータ24とステータ22との間のエアギャップにおける磁気抵抗は、ステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収められた短絡部材54が位置する範囲で極めて小さく、その短絡部材54の位置範囲外(具体的には、コイルエンド部49やステータコア40のうち短絡部材54が収められない軸方向両端部)で極めて大きい。そして、その磁気抵抗は、短絡部材54が位置する範囲と短絡部材54が位置しない範囲との境界で急激に変化する。このため、上記の如く、ロータ24で発生した磁束は、短絡部材54に集中してステータ22側へ流れる。従って、回転電機20によれば、ロータ24において交番磁界が発生する際にロータ24からの磁束によりステータ22の電機子巻線42に発生するAC銅損を低減することができる。
また、本実施形態において、ステータ22のステータコア40は、上記の如く、電磁鋼板などの薄板部材が軸方向に沿って積層された積層部材である。交番磁界の発生時にロータ24からステータ22へ鎖交する磁束は、図11及び図12に直線矢印で示す如く周方向において交番で流れている。この磁束が軸方向成分を持たないときは、その磁束はステータコア40の径方向端面へ径方向内側から垂直に鎖交するので、図12に示す如く径方向に沿って平行に延びる軸の回りにループを描く渦電流が発生する。この渦電流は、軸方向に広がる面内に形成されるが、上記の如くステータコア40の薄板部材が軸方向に沿って積層されたものであるので、表皮深さを考慮してその薄板部材の軸方向厚さや絶縁層ピッチを適切に設定することで、その渦電流を抑制することはできる。
一方、交番磁界の発生時にロータ24からステータ22へ鎖交する磁束が図14に直線矢印で示す如く軸方向成分を持つと、その磁束はステータコア40の軸方向端面へ軸方向外側から鎖交するので、図13に示す如く軸方向に沿って平行に延びる軸の回りにループを描く渦電流が発生する。この渦電流は、軸方向に垂直な面内、すなわち、軸方向に沿って積層されたステータコア40の薄板部材が広がる面内に形成されるので、その薄板部材の軸方向厚さや層間の絶縁層によってはその渦電流を効果的に抑制することができない。
これに対して、本実施形態の回転電機20においては、短絡部材54がステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収まるように配置されていることで、軸方向成分を持つ磁束のステータコア40への流入自体を抑制することができるので、ステータコア40の薄板部材が広がる面内に形成される渦電流の発生を効果的に抑えることができる。
ところで、ステータ22で発生した磁束は、短絡部材54を通ってロータ24のポールコアへ至る。回転電機20を作動させるうえで回転電機20に形成されるすべての磁気回路はd軸及びq軸を持つ。このd軸の磁束及びq軸の磁束は、ステータコア40の円環部44に同時に作用する。この点、回転電機20に流れる磁束の最大量は、ステータコア40の円環部44の径方向厚さによって制限されることとなる。例えば、ステータ22が、分布巻で構成された電機子巻線42と、スロット倍数nが2であるステータコア40と、からなる構造では、ロータ一極に対してステータ極歯が12個あるとき、各相巻線への基本波に対する11次と13次との高調波によって高調波鉄損が生じるおそれがある。すなわち、11次と13次との高調波は、各相巻線への基本波に対して11倍又は13倍の周波数を持ち、図15に示す如き基本波の1/12(≒0.083)倍以下の振幅値を持ち、この高調波の磁束による鉄損が発生する。尚、スロット倍数nとは、電機子巻線42の一相当たりに割り当てられるスロット部46の数である。
これに対して、回転電機20において、短絡部材54は、ステータコア40の円環部44の径方向厚さWstに対して、W/Wst>1/12を満たしかつW<Wstを満たす径方向厚さWを有している。この短絡部材54は、爪状磁極部62よりも電気抵抗率が高い材料により構成され或いは電気的絶縁層を持つ。かかる構造によれば、ステータ22の各相巻線への基本波をロータ24の爪状磁極部62で確実に受けつつ、所定の高調波をロータ24の短絡部材54で受けることができ、ステータ22からの磁束を、ステータ22とのエアギャップが比較的広い爪状磁極部62で受けず短絡部材54で受けることができるので、コアバック磁束の1/12である磁束を短絡部材54で受けることができる。従って、回転電機20によれば、スロット数の影響で起こる、各相巻線への基本波に対する11次と13次との高調波によるステータ22とロータ24との間の高調波鉄損を減らすことができる。
尚、上記の如く高調波鉄損を減らすうえでは、スロット倍数nを一般化した場合、短絡部材54の径方向厚さWとステータコア40の円環部44の径方向厚さWstとの関係式は、W/Wst>1/(6・n)を満たせばよい。また、ステータ22の電機子巻線42が集中巻で構成される場合は、基本励磁振動である(2極×3相)の6次の振動に対応すればよく、短絡部材54の径方向厚さWとステータコア40の円環部44の径方向厚さWstとの関係式は、W/Wst>1/6を満たせばよい。
また、電機子巻線42が、電気角120°ずつずれた箇所に相を有し、各相の電磁力の和がゼロになる三相集中巻である回転電機20においては、ロータ24の極数Pとステータ22のスロット数NとがP:N=2:3又は4:3の関係を有する場合、短絡部材54の径方向厚さWとステータコア40の円環部44の径方向厚さWstとの関係式は、W/Wst>1/6を満たすことが好適である。これは、かかる回転電機20の特性として主として静粛性が論じられるほどに音響特性が優れるからであり、最大限に恩恵を受けることができるからである。
以上、説明したことから明らかなように、回転電機20は、ステータコア40と、ステータコア40に巻装されている電機子巻線42と、を有するステータ22と、筒状のボス部58及びボス部58の外周側に配置されて周方向に交互に異なる極性の磁極が形成される複数の爪状磁極部62を有する界磁コア50と、ボス部58の外周側に巻装されている界磁巻線52と、爪状磁極部62の外周側に爪状磁極部62の外周面を覆うように配置されて、周方向に隣り合う爪状磁極部62同士を磁気的に接続する筒状の短絡部材54と、を有し、ステータ22の内周側に径方向に対向して配置されたロータ24と、を備えている。短絡部材54は、ステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収まるように配置されている。
この構成によれば、ロータ24において交番磁界が発生する際にその磁束を短絡部材54に集中させることができ、その短絡部材54に導かれた磁束を径方向に沿ってステータ22側へ流して、電機子巻線42のコアスロット内へ垂直に鎖交させることができる。すなわち、交番磁界による磁束が軸方向成分を持ってステータ22の軸方向端面側に向けて降り注いで電機子巻線42のコアスロット外へ鎖交するのを抑制することができ、ロータ24からの磁束が短絡部材54を介することなくステータ22側に鎖交するのを抑えることができる。従って、回転電機20によれば、ロータ24において交番磁界が発生する際にロータ24からの磁束によりステータ22の電機子巻線42に発生するAC銅損を低減することができる。
回転電機20において、短絡部材54の軸方向長さは、ステータコア40の軸方向長さよりも短い。この構成によれば、短絡部材54をステータコア40の軸方向一端と軸方向他端との間の範囲内に収めることができる。
回転電機20において、短絡部材54の径方向厚さWは、爪状磁極部62とステータコア40との径方向距離G0に対して1/2以上である。この構成によれば、ロータ24で発生した磁束をステータコア40の軸方向端面側へ漏らすことなく短絡部材54へ集中させ易くすることができる。
回転電機20において、短絡部材54の径方向厚さWは、ステータコア40の円環部44の径方向厚さWstよりも小さい。この構成によれば、ステータ22の各相巻線への基本波をロータ24側で確実に受けつつ、ステータ22とロータ24との間の高調波による鉄損(すなわち渦電流損)を減らすことができる。
回転電機20において、短絡部材54の径方向厚さWは、ステータコア40の円環部44の径方向厚さWstに対して、W/Wst>1/(6・n)(但し、nはスロット倍数である。)を満たす。この構成によれば、スロット数の影響で起こる高調波鉄損を減らすことができる。
回転電機20において、短絡部材54の径方向厚さWは、スロット倍数n=2のとき、ステータコア40の円環部44の径方向厚さWstに対して、W/Wst>1/12を満たす。この構成によれば、スロット数の影響で起こる、各相巻線への基本波に対する11次と13次との高調波による高調波鉄損を減らすことができる。
また、回転電機20において、電機子巻線42は、電気角120°ずつずれた箇所に相を有する三相の集中巻であり、ロータ24の極数Pとステータ22のスロット数Nとは、P:N=2:3又は4:3の関係を有し、短絡部材54の径方向厚さWは、ステータコア40の円環部44の径方向厚さWstに対して、W/Wst>1/6を満たす。この構成によれば、スロット数の影響で起こる高調波鉄損を減らすことができ、優れた音響特性を確保することができる。
尚、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。