以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。
〔モータ制御システム〕
図1は、本発明の実施形態による制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。このモータ制御システムは、制御装置1、電力増幅器2、交流モータ3及びPG(パルスジェネレータ)4を備えて構成される。交流モータ3は、誘導電動機とする。
制御装置1は、交流モータ3をd軸及びq軸にてベクトル制御する装置である。制御装置1は、予め設定された速度指令ω*を速度制御し、最大トルク制御、最大効率制御等の所望の制御に応じた電流位相角βを可変し、電流位相角βを用いてd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。
制御装置1は、速度制御の際に、交流モータ3の回転速度が所定の制限速度以下となり、かつ、電力増幅器2の入力側の端子電圧が一定となるように、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。また、制御装置1は、電力増幅器2の入力側の端子電圧のオーバーサチュレーション(過飽和)を防止し、さらに、電力増幅器2であるインバータの過変調を抑制するように、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を生成する。
制御装置1は、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を電流制御し、非干渉電圧を加算することで、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*を生成する。d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*には、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするための指令が含まれる。
制御装置1は、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成することで、すべり角速度ωsを算出し、電気角θeを求める。そして、制御装置1は、電気角θeに基づいて、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*をU相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*に変換し、これらを電力増幅器2へ出力する。
制御装置1は、後述する電流制御部14,15及び端子電圧一定制御部22がワインドアップの状態となることを防止するための積分ゲインを算出する。
制御装置1は、電力増幅器2と交流モータ3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを入力する。また、制御装置1は、PG4から、交流モータ3の速度を示す速度フィードバックωを入力する。
電力増幅器2は、インバータを備えている。電力増幅器2は、制御装置1からU相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*を入力する。そして、電力増幅器2は、これらの指令からPWM信号を生成し、PWM信号によってインバータのスイッチング素子のゲートをオンオフし、インバータの入力電圧であるバス電圧ebusをスイッチングして交流電圧に変換する。そして、電力増幅器2は、交流電圧を交流モータ3へ供給する。
PG4は、交流モータ3の回転に応じたパルス信号を発生する。このパルス信号のカウント値から交流モータ3の回転速度である速度フィードバックωが得られ、当該速度フィードバックωが制御装置1へ入力される。尚、図1には、PG4から制御装置1へ、速度フィードバックωが入力されるように略して示してある。
〔制御装置1〕
次に、図1に示した制御装置1について詳細に説明する。図1に示すように、制御装置1は、減算器10、速度制御部11、減算器12,13、電流制御部14,15、加算器16,17、座標変換部18,19、速度制限部20、ワインドアップ防止制御部21、端子電圧一定制御部22、q軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24、乗算器25、加算器26、積分器27及び非干渉補償部28を備えている。
減算器10は、予め設定された速度指令ω*を入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、速度指令ω*から速度フィードバックωを減算し、速度偏差εvを求める。そして、減算器10は、速度偏差εvを速度制御部11に出力する。
速度制御部11は、減算器10から速度偏差εvを入力すると共に、速度制限部20から速度制限電流iLMTを、端子電圧一定制御部22から端子電圧制限電流iFR1をそれぞれ入力する。そして、速度制御部11は、速度偏差εvが0となるように、PI制御器による速度制御を行い、速度制限電流iLMTを反映した電流指令i1を生成し、電流指令i1に対応した電流位相角βを求める。
速度制御部11は、電流指令i1及び電流位相角βを用いて、端子電圧制限電流iFR1を反映したd軸電流指令id*を求め、d軸電流指令id*を減算器12、q軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24及び非干渉補償部28に出力する。また、速度制御部11は、電流指令i1及び電流位相角βを用いてq軸電流指令iq*を求め、q軸電流指令iq*を減算器13、q軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24及び非干渉補償部28に出力する。速度制御部11の詳細については後述する。
減算器12は、速度制御部11からd軸電流指令id*を入力すると共に、座標変換部19からd軸電流フィードバックidを入力し、d軸電流指令id*からd軸電流フィードバックidを減算し、d軸電流偏差を求める。そして、減算器12は、d軸電流偏差を電流制御部14に出力する。
減算器13は、速度制御部11からq軸電流指令iq*を入力すると共に、座標変換部19からq軸電流フィードバックiqを入力し、q軸電流指令iq*からq軸電流フィードバックiqを減算し、q軸電流偏差を求める。そして、減算器13は、q軸電流偏差を電流制御部15に出力する。
電流制御部14は、減算器12からd軸電流偏差を入力すると共に、ワインドアップ防止制御部21から、当該電流制御部14による積分制御がワインドアップの状態となることを防止するための積分ゲインKidを入力する。そして、電流制御部14は、d軸電流偏差が0となるように、予め設定された比例ゲイン及び入力した積分ゲインKidを用いてPI制御器による電流制御を行い、d軸電圧指令を算出する。そして、電流制御部14は、d軸電圧指令を加算器16に出力する。
電流制御部15は、減算器13からq軸電流偏差を入力すると共に、ワインドアップ防止制御部21から、当該電流制御部15による積分制御がワインドアップの状態となることを防止するための積分ゲインKiqを入力する。そして、電流制御部15は、q軸電流偏差が0となるように、予め設定された比例ゲイン及び入力した積分ゲインKiqを用いてPI制御器による電流制御を行い、q軸電圧指令を算出する。そして、電流制御部15は、q軸電圧指令を加算器17に出力する。
加算器16は、電流制御部14からd軸電圧指令を入力すると共に、非干渉補償部28から、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするためのd軸非干渉FF(フィードフォワード)電圧vd^を入力する。そして、加算器16は、d軸電圧指令にd軸非干渉FF電圧vd^を加算し、d軸電圧指令vd*を求め、d軸電圧指令vd*を座標変換部18及びワインドアップ防止制御部21に出力する。
加算器17は、電流制御部15からq軸電圧指令を入力すると共に、非干渉補償部28から、交流モータ3にて発生する干渉電圧をキャンセルするためのq軸非干渉FF(フィードフォワード)電圧vq^を入力する。そして、加算器17は、q軸電圧指令にq軸非干渉FF電圧vq^を加算し、q軸電圧指令vq*を求め、q軸電圧指令vq*を座標変換部18、ワインドアップ防止制御部21及びすべり角速度生成部24に出力する。
座標変換部18は、加算器16からd軸電圧指令vd*を入力すると共に、加算器17からq軸電圧指令vq*を、積分器27から電気角θeをそれぞれ入力する。そして、座標変換部18は、電気角θeに基づいて、回転座標系のd軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*をU相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*に座標変換する。座標変換部18は、U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*を電力増幅器2へ出力する。
座標変換部19は、電力増幅器2と交流モータ3との間に設けられた電流検出器により検出されたU相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを入力すると共に、積分器27から電気角θeを入力する。そして、座標変換部19は、電気角θeに基づいて、U相交流電流フィードバックiu、V相交流電流フィードバックiv及びW相交流電流フィードバックiwを回転座標系のd軸電流フィードバックid及びq軸電流フィードバックiqに座標変換する。座標変換部19は、d軸電流フィードバックidを減算器12に出力すると共に、q軸電流フィードバックiqを減算器13に出力する。
速度制限部20は、予め設定された制限速度指令ωMAX及び速度フィードバックωに基づいて、交流モータ3の回転速度を所定の制限速度(制限速度指令ωMAX)以下とするための速度制限電流iLMTを算出し、速度制限電流iLMTを速度制御部11に出力する。速度制限部20の詳細については後述する。
ワインドアップ防止制御部21は、電力増幅器2の入力電圧であるバス電圧ebusを入力すると共に、加算器16からd軸電圧指令vd*を、加算器17からq軸電圧指令vq*をそれぞれ入力する。そして、ワインドアップ防止制御部21は、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて端子電圧指令v1*を算出する。また、ワインドアップ防止制御部21は、端子電圧指令v1*を端子電圧一定制御部22に出力する。
ワインドアップ防止制御部21は、バス電圧ebus及び端子電圧指令v1*に基づいて、電流制御部14,15及び端子電圧一定制御部22がワインドアップの状態となることを防止するための積分ゲインKid,Kiq,Kieを算出する。そして、ワインドアップ防止制御部21は、積分ゲインKidを電流制御部14に出力し、積分ゲインKiqを電流制御部15に出力し、積分ゲインKieを端子電圧一定制御部22に出力する。ワインドアップ防止制御部21の詳細については後述する。
端子電圧一定制御部22は、バス電圧ebusを入力すると共に、ワインドアップ防止制御部21から端子電圧指令v1*及び積分ゲインKieを入力する。そして、端子電圧一定制御部22は、バス電圧ebus及び端子電圧指令v1*に基づき、電力増幅器2の入力側の端子電圧であるバス電圧ebusを、端子電圧指令v1*の一定値に一致させるために、積分ゲインKie等を用いて端子電圧制限電流iFR1を算出する。このとき、端子電圧一定制御部22において、電力増幅器2の端子電圧一定制御が行われる。
また、端子電圧一定制御部22は、バス電圧ebus及び端子電圧指令v1*に基づき、積分ゲインKie等を用いて、バス電圧ebusのオーバーサチュレーション(過飽和)を防止するための端子電圧制限電流iFR1を算出する。さらに、端子電圧一定制御部22は、バス電圧ebus及び端子電圧指令v1*に基づき、積分ゲインKie等を用いて、電力増幅器2における過変調PWM制御を抑制するための端子電圧制限電流iFR1を算出する。端子電圧一定制御部22は、端子電圧制限電流iFR1を速度制御部11に出力する。
予め設定された制限端子電圧指令VBASE、過変調率γ及びバス電圧利用率ηに対するバス電圧ebusの値に応じて、端子電圧一定制御、オーバーサチュレーション防止制御及び過変調抑制御のうちのいずれか1つの制御が行われる。端子電圧一定制御部22の詳細については後述する。
q軸電圧指令生成部23は、速度制御部11からd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力すると共に、加算器26から電気角速度ω1を入力する。q軸電圧指令生成部23は、d軸電流指令id*、q軸電流指令iq*及び電気角速度ω1、並びに予め設定された1次抵抗同定値r1^及びd軸リアクタンス同定値xd^をパラメータとする以下の数式により、q軸2次磁束指令φ2q*=0としたq軸電圧指令vq**を生成する。q軸電圧指令生成部23は、q軸電圧指令vq**をすべり角速度生成部24に出力する。
〔数1〕
vq**=r1^×iq*+ω1×xd^×id* ・・・(1)
尚、q軸電圧指令vq**は、q軸2次磁束指令φ2q*を考慮した場合、以下の数式にて表される。
〔数2〕
vq**=r1^×iq*+ω1×xd^×id*
+(ω1×ωs/W2)×φ2q* ・・・(2)
W2は逆2次時定数、ωsはすべり角速度をそれぞれ示す。前記数式(2)にq軸2次磁束指令φ2q*=0を代入することにより、前記数式(1)が得られる。
すべり角速度生成部24は、q軸電圧指令生成部23からq軸電圧指令vq**を入力すると共に、速度制御部11からd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を、加算器17からq軸電圧指令vq*を、加算器26から電気角速度ω1をそれぞれ入力する。
すべり角速度生成部24は、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0となるように、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を用いてすべり角速度ωsを生成する。そして、すべり角速度生成部24は、すべり角速度ωsを加算器26に出力する。
前記数式(1)(2)にて説明したとおり、q軸電圧指令vq**にはq軸2次磁束指令φ2q*=0の要素が含まれているから、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差を0とするための制御には、q軸2次磁束φ2qを0とするための制御が含まれる。つまり、すべり角速度生成部24は、q軸2次磁束φ2qが0となるように、すべり角速度ωsを生成する。すべり角速度生成部24の詳細については後述する。
乗算器25は、PG4から速度フィードバックωを入力し、速度フィードバックωに予め設定された極対数Npを乗算し、モータ電気角速度ωnを求める。そして、乗算器25は、モータ電気角速度ωnを加算器26に出力する。
加算器26は、すべり角速度生成部24からすべり角速度ωsを入力すると共に、乗算器25からモータ電気角速度ωnを入力し、すべり角速度ωsにモータ電気角速度ωnを加算し、電気角速度ω1を求める。そして、加算器26は、電気角速度ω1をq軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24、積分器27及び非干渉補償部28に出力する。
積分器27は、加算器26から電気角速度ω1を入力し、電気角速度ω1を積分することで電気角θeを求める。そして、積分器27は、電気角θeを座標変換部18,19に出力する。
非干渉補償部28は、加算器26から電気角速度ω1を入力する共に、速度制御部11からd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力する。そして、非干渉補償部28は、電気角速度ω1、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*、並びに、予め設定されたd軸リアクタンス同定値Xd^及びq軸リアクタンス同定値Xq^に基づいて、d軸非干渉FF電圧vd^及びq軸非干渉FF電圧vq^を算出する。非干渉補償部28は、d軸非干渉FF電圧vd^を加算器16に出力すると共に、q軸非干渉FF電圧vq^を加算器17に出力する。
d軸非干渉FF電圧vd^は、交流モータ3にq軸電流が流れることにより発生するd軸上の干渉電圧をキャンセルするための指令である。q軸非干渉FF電圧vq^は、交流モータ3にd軸電流が流れることにより発生するq軸上の干渉電圧をキャンセルするための指令である。非干渉補償部28の詳細については後述する。
〔速度制御部11〕
次に、図1に示した速度制御部11について詳細に説明する。図2は、速度制御部11の構成例を示すブロック図である。この速度制御部11は、演算器30、速度制御器31、加算器32、絶対値演算器33、電流位相角生成部34、テーブル35、コサイン演算器36、加算器37及びサイン演算器38を備えている。
演算器30は、減算器10から速度偏差εvを入力し、予め設定された積分ゲイン設定Ki*及びパラメータP0を用いて、Ki*/(1+P0×εv2)の演算を行い、積分ゲインKiを求める。そして、演算器30は、積分ゲインKiを速度制御器31に出力する。積分ゲイン設定Ki*は、速度制御器31にて使用する積分ゲインの基準値である。
速度制御器31は、減算器10から速度偏差εvを入力すると共に、演算器30から積分ゲインKiを入力する。そして、速度制御器31は、速度偏差εvが0となるように、予め設定された比例ゲインKv及び入力した積分ゲインKiを用いてPI制御器による速度制御を行い、速度偏差電流指令Δi1*を算出する。そして、速度制御器31は、速度偏差電流指令Δi1*を加算器32に出力する。
ここで、制御対象及び制御状況等によっては、速度指令ω*と速度フィードバックωとの間の関係がω*>ωとなり、速度フィードバックωが速度指令ω*よりも小さい値で飽和してしまうことがある。速度フィードバックωが飽和するときは、速度制御器31による積分制御がワインドアップの状態となる。
このような状態においては、減算器10により算出される速度偏差εvは、0よりも小さい。したがって、演算器30により算出される積分ゲインKiは、速度偏差εv2の値が大きいほど、基準値である積分ゲイン設定Ki*よりも小さい値となり、0に近くなる(実質的に0となる)。
このように、演算器30は、速度フィードバックωが飽和していない場合、ω*≒ωとなって速度偏差εv2の値が0に近くなるから、基準値である積分ゲイン設定Ki*を積分ゲインKiとして速度制御器31に出力する。これにより、速度制御器31にて、基準値である積分ゲイン設定Ki*を用いたPI制御が行われる。
一方、演算器30は、速度フィードバックωが飽和している場合、ω*>ωとなって速度偏差εv2の値が大きくなるから、積分ゲインKi=0を速度制御器31に出力する。これにより、速度制御器31にて、積分ゲインKi=0のP制御が行われるから、積分機能を停止することができ、比例機能にて制御が行われる。この結果、速度制御器31の出力を維持することができる。つまり、速度制御器31による積分制御がワインドアップの状態となることを防止することができる。
加算器32は、速度制御器31から速度偏差電流指令Δi1*を入力すると共に、予め設定された外部電流指令i1*を入力し、さらに、速度制限部20から速度制限電流iLMTを入力する。そして、加算器32は、速度偏差電流指令Δi1*に外部電流指令i1*を加算し、さらに速度制限電流iLMTを加算し、電流指令i1を求める。加算器32は、電流指令i1を絶対値演算器33及びサイン演算器38に出力する。
絶対値演算器33は、加算器32から電流指令i1を入力し、電流指令i1の絶対値|i1|を算出し、これを電流指令絶対値|i1|として電流位相角生成部34及びコサイン演算器36に出力する。
電流位相角生成部34は、絶対値演算器33から電流指令絶対値|i1|を入力し、テーブル35から、電流指令絶対値|i1|に対応する電流位相角βを読み出し、電流位相角βをコサイン演算器36及びサイン演算器38に出力する。
図8は、テーブル35の構成例を示す図である。このテーブル35は、最大トルク制御用のテーブル、最大効率制御用のテーブル等から構成され、電流指令絶対値|i1|と電流位相角βとの間の関係が定義されている。つまり、テーブル35には、最大トルク制御、最大効率制御等の各種制御に対応した電流指令絶対値|i1|、及び当該電流指令絶対値|i1|に対応する電流位相角βが格納されている。電流位相角生成部34は、予め設定された制御種別に従って、テーブル35に格納された複数のテーブルから1つのテーブルを特定し、電流指令絶対値|i1|に対応する電流位相角βを読み出す。
尚、電流位相角生成部34は、テーブル35の代わりに、電流指令絶対値|i1|と電流位相角βとの間の関係が定義された数式を用いて、電流指令絶対値|i1|に対応する電流位相角βを算出するようにしてもよい。
コサイン演算器36は、絶対値演算器33から電流指令絶対値|i1|を入力すると共に、電流位相角生成部34から電流位相角βを入力し、電流指令絶対値|i1|にcosβ(電流位相角βを角度とした余弦関数(コサイン))を乗算し、d軸分担電流指令を求める。そして、コサイン演算器36は、d軸分担電流指令を加算器37に出力する。
加算器37は、コサイン演算器36からd軸分担電流指令を入力すると共に、予め設定された励磁電流指令i0^を入力し、さらに、端子電圧一定制御部22から端子電圧制限電流iFR1を入力する。そして、加算器37は、d軸分担電流指令に励磁電流指令i0^を加算し、さらに端子電圧制限電流iFR1を加算し、d軸電流指令id*を求める。加算器37は、d軸電流指令id*を減算器12、q軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24及び非干渉補償部28に出力する。
サイン演算器38は、加算器32から電流指令i1を入力すると共に、電流位相角生成部34から電流位相角βを入力し、電流指令i1にsinβ(電流位相角βを角度とした正弦関数(サイン))を乗算し、q軸電流指令iq*を求める。そして、サイン演算器38は、q軸電流指令iq*を減算器13、q軸電圧指令生成部23、すべり角速度生成部24及び非干渉補償部28に出力する。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、速度制御部11は、テーブル35から、最大トルク制御、最大効率制御等の所望の制御に応じた、電流指令絶対値|i1|に対応する電流位相角βを読み出し、電流位相角βを用いて、d軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を算出する。
これにより、交流モータ3である誘導電動機に対する最大トルク制御、最大効率制御等の所望の制御を、精度高く実現することが可能となる。
また、速度制御部11は、速度フィードバックωが飽和しないように、速度制御のために用いる積分ゲインKiを生成する。これにより、速度制御による積分制御がワインドアップの状態となることを防止することができる。
また、速度制御部11は、速度制限部20により生成された速度制限電流iLMTをd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*に反映するようにした。これにより、交流モータ3の回転速度を所定の制限速度以下とすることができる。詳細については後述する。
また、速度制御部11は、端子電圧一定制御部22により生成された端子電圧制限電流iFR1をd軸電流指令id*に反映するようにした。これにより、電力増幅器2の端子電圧を一定にするための制御、電力増幅器2の端子電圧のオーバーサチュレーションを防止するための制御、及び電力増幅器2の過変調PWM制御を制限するための制御を行うことができる。
〔速度制限部20〕
次に、図1に示した速度制限部20について詳細に説明する。図3は、速度制限部20の構成例を示すブロック図である。この速度制限部20は、減算器40、反転器41、減算器42、乗算器43,44、リミッタ45,46及び加算器47を備えている。
減算器40は、予め設定された制限速度指令ωMAXを入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、制限速度指令ωMAXから速度フィードバックωを減算し、制限速度偏差を求める。そして、減算器40は、制限速度偏差を乗算器43に出力する。
乗算器43は、減算器40から制限速度偏差を入力し、制限速度偏差に、予め設定された係数KDROOPを乗算し、乗算後の制限速度偏差を求める。そして、乗算器43は、乗算後の制限速度偏差をリミッタ45に出力する。
リミッタ45は、乗算器43から乗算後の制限速度偏差を入力し、乗算後の制限速度偏差に対し、−1から0までの範囲で制限を加え、−1から0までの範囲の速度制限電流を加算器47に出力する。
これにより、交流モータ3の正転運転時には、−1から0までの範囲の速度制限電流が算出される。制限速度指令ωMAXが速度フィードバックω以上(ωMAX≧ω)のときに、0の速度制限電流が算出され、制限速度指令ωMAXが速度フィードバックωよりも小さい(ωMAX<ω)ときに、−1から0までの範囲内で負の値の速度制限電流が算出される。
反転器41は、予め設定された制限速度指令ωMAXを入力し、制限速度指令ωMAXに−1を乗算することで、制限速度指令ωMAXの符号を反転させ、符号が反転した制限速度指令ωMAXを求める。そして、反転器41は、符号が反転した制限速度指令ωMAXを減算器42に出力する。
減算器42は、反転器41から符号が反転した制限速度指令ωMAXを入力すると共に、PG4から速度フィードバックωを入力し、符号が反転した制限速度指令ωMAXから速度フィードバックωを減算し、反転制限速度偏差を求める。そして、減算器42は、反転制限速度偏差を乗算器44に出力する。
乗算器44は、減算器42から反転制限速度偏差を入力し、反転制限速度偏差に、予め設定された係数KDROOPを乗算し、乗算後の反転制限速度偏差を求める。そして、乗算器44は、乗算後の反転制限速度偏差をリミッタ46に出力する。
リミッタ46は、乗算器44から乗算後の反転制限速度偏差を入力し、乗算後の反転制限速度偏差に対し、0から+1までの範囲で制限を加え、0から+1までの範囲の速度制限電流を加算器47に出力する。
これにより、交流モータ3の逆転運転時には、0から+1までの範囲の速度制限電流が算出される。交流モータ3の逆転運転時には、速度フィードバックωの符号はマイナスである。符号が反転した制限速度指令ωMAXが速度フィードバックω以上(−ωMAX≧ω)のときに、0の速度制限電流が算出され、符号が反転した制限速度指令ωMAXが速度フィードバックωよりも小さい(−ωMAX<ω)ときに、0から+1までの範囲内で正の値の速度制限電流が算出される。
加算器47は、リミッタ45から、−1から0までの範囲の速度制限電流を入力すると共に、リミッタ46から、0から+1までの範囲の速度制限電流を入力し、これらの速度制限電流を加算し、速度制限電流iLMTを求める。そして、加算器47は、速度制限電流iLMTを速度制御部11に出力する。
ここで、交流モータ3が正転運転しており、制限速度指令ωMAXが速度フィードバックωよりも小さい(ωMAX<ω)場合を想定する。この場合、加算器47は、リミッタ45から、−1から0までの範囲で負の値の速度制限電流を入力し、リミッタ46から0の速度制限電流を入力する。そして、加算器47は、−1から0までの範囲で負の値の速度制限電流iLMTを出力する。尚、制限速度指令ωMAXが速度フィードバックω以上(ωMAX≧ω)の場合、加算器47は、0の速度制限電流iLMTを出力する。
一方、交流モータ3が逆転運転しており、符号が反転した制限速度指令ωMAXが速度フィードバックωよりも小さい(−ωMAX<ω)場合を想定する。この場合、加算器47は、リミッタ45から0の速度制限電流を入力し、リミッタ46から、0から+1までの範囲内で正の値の速度制限電流を入力する。そして、加算器47は、0から+1までの範囲内で正の値の速度制限電流iLMTを出力する。尚、符号が反転した制限速度指令ωMAXが速度フィードバックω以上(−ωMAX≧ω)の場合、加算器47は、0の速度制限電流iLMTを出力する。
つまり、加算器47は、リミッタ45から入力した−1から0までの範囲の速度制限電流、または、リミッタ46から入力した0から+1までの範囲の速度制限電流を出力する。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、速度制限部20は、交流モータ3が正転運転している場合、制限速度指令ωMAXが及び速度フィードバックωとの間の差に基づいて、−1から0までの範囲の速度制限電流iLMTを出力する。また、速度制限部20は、交流モータ3が逆転運転している場合、制限速度指令ωMAXが及び速度フィードバックωとの間の差に基づいて、0から+1までの範囲の速度制限電流iLMTを出力する。そして、速度制限電流iLMTは、速度制御部11の加算器32において、速度偏差電流指令Δi1*及び外部電流指令i1*に加算され、電流指令i1が求められる。つまり、交流モータ3の回転速度を制限速度指令ωMAX以下とすることができる。
例えば交流モータ3が正転運転しており、速度フィードバックωが制限速度指令ωMAXよりも大きくなり、外部電流指令i1*がプラスの場合を想定する。この場合、速度制限部20により、−1から0までの範囲の速度制限電流iLMTが算出される。そして、速度制御部11の加算器32において、−1から0までの範囲の速度制限電流iLMTがプラスの外部電流指令i1*及び速度偏差電流指令Δi1*に加算されることで、電流指令i1は0に近づく。
一方、例えば交流モータ3が逆転運転しており、マイナスの速度フィードバックωが、符号が反転した制限速度指令ωMAXよりも大きくなり、外部電流指令i1*がマイナスの場合を想定する。この場合、速度制限部20により、0から+1までの範囲の速度制限電流iLMTが算出される。そして、速度制御部11の加算器32において、0から+1までの範囲の速度制限電流iLMTがマイナスの外部電流指令i1*及び速度偏差電流指令Δi1*に加算されることで、電流指令i1は0に近づく。つまり、電流指令i1を0に相殺することで、電流制御において、交流モータ3の回転速度を、制限速度指令ωMAX以下とすることができる。
〔ワインドアップ防止制御部21〕
次に、図1に示したワインドアップ防止制御部21について詳細に説明する。図4は、ワインドアップ防止制御部21の構成例を示すブロック図である。このワインドアップ防止制御部21は、乗算器50、演算器51、減算器52、リミッタ53及び演算器54,55,56を備えている。
乗算器50は、バス電圧ebusを入力し、バス電圧ebusに予め設定されたバス電圧利用率ηを乗算し、乗算結果を減算器52に出力する。
演算器51は、加算器16からd軸電圧指令vd*を入力すると共に、加算器17からq軸電圧指令vq*を入力する。そして、演算器51は、以下の式により、d軸電圧指令vd*及びq軸電圧指令vq*に基づいて端子電圧指令v1*を算出し、端子電圧指令v1*を減算器52に出力する。
〔数3〕
v1*=√(vd*2+vq*2) ・・・(3)
この端子電圧指令v1*は、電力増幅器2のバス電圧ebusに対する指令である。
減算器52は、乗算器50から乗算結果(バス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebus)を入力すると共に、演算器51から端子電圧指令v1*を入力する。そして、減算器52は、バス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusから端子電圧指令v1*を減算し、バス電圧偏差を求め、バス電圧偏差をリミッタ53に出力する。
リミッタ53は、減算器52からバス電圧偏差を入力し、バス電圧偏差に対して−1から0までの範囲で制限を加え、リミッタ後(制限後)のバス電圧偏差εを演算器54,55,56に出力する。
具体的には、リミッタ53は、入力したバス電圧偏差が0以上である場合、リミッタ後のバス電圧偏差ε=0を出力する。入力したバス電圧偏差が0以上である場合とは、バス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusが端子電圧指令v1*以上である(ebus×η≧v1*)ことを示す。
また、リミッタ53は、入力したバス電圧偏差が0よりも小さく、かつ−1よりも大きい場合、入力したバス電圧偏差をリミッタ後のバス電圧偏差εとしてそのまま出力する。また、リミッタ53は、入力したバス電圧偏差が−1以下の場合、リミッタ後のバス電圧偏差ε=−1を出力する。ここで、入力したバス電圧偏差が0よりも小さい場合とは、バス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusが端子電圧指令v1*よりも小さい(ebus×η<v1*)ことを示す。
演算器54は、リミッタ53からリミッタ後のバス電圧偏差εを入力し、予め設定された積分ゲイン設定Kie*及びパラメータP0を用いて、Kie*/(1+P0×ε2)の演算を行い、積分ゲインKieを求める。そして、演算器54は、積分ゲインKieを端子電圧一定制御部22に出力する。積分ゲイン設定Kie*は、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63にて使用する積分ゲインの基準値である。
演算器55は、リミッタ53からリミッタ後のバス電圧偏差εを入力し、予め設定された積分ゲイン設定Kid*及びパラメータP0を用いて、Kid*/(1+P0×ε2)の演算を行い、積分ゲインKidを求める。そして、演算器55は、積分ゲインKidを電流制御部14に出力する。積分ゲイン設定Kid*は、電流制御部14にて使用する積分ゲインの基準値である。
演算器56は、リミッタ53からリミッタ後のバス電圧偏差εを入力し、予め設定された積分ゲイン設定Kiq*及びパラメータP0を用いて、Kiq*/(1+P0×ε2)の演算を行い、積分ゲインKiqを求める。そして、演算器56は、積分ゲインKiqを電流制御部15に出力する。積分ゲイン設定Kiq*は、電流制御部15にて使用する積分ゲインの基準値である。
ここで、制御対象及び制御状況等によっては、バス電圧ebusと端子電圧指令v1*との間の関係がv1*>ebusとなり、バス電圧ebusが飽和してしまうことがある。バス電圧ebusが飽和するときは、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63、及び電流制御部14,15による積分制御がワインドアップの状態となる。
このような状態においては、減算器52により算出されるバス電圧偏差は、0よりも小さく、リミッタ53により出力されるリミッタ後のバス電圧偏差εも0よりも小さい。したがって、演算器54,55,56により算出される積分ゲインKie,Kid,Kiqは、基準値である積分ゲイン設定Kie*,Kid*,Kiq*よりもそれぞれ小さい値となり、0に近くなる(実質的に0となる)。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、ワインドアップ防止制御部21は、バス電圧ebusと端子電圧指令v1*との間の関係がv1*≦ebusとなる状態において、基準値である積分ゲイン設定Kie*,Kid*,Kiq*をそれぞれ積分ゲインKie,Kid,Kiqとして出力する。
これにより、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63、及び電流制御部14,15にて、基準値である積分ゲイン設定Kie*,Kid*,Kiq*を用いたPI制御が行われる。
また、ワインドアップ防止制御部21は、バス電圧ebusと端子電圧指令v1*との間の関係がv1*>ebusとなる状態において、積分ゲイン設定Kie*,Kid*,Kiq*=0を出力する。
これにより、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63、及び電流制御部14,15にて、積分ゲイン設定Kie*,Kid*,Kiq*=0のP制御がそれぞれ行われるから、積分機能を停止することができ、比例機能にて制御が行われる。この結果、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63、及び電流制御部14,15の出力を維持することができる。つまり、後述する端子電圧一定制御部22の制御器63、及び電流制御部14,15による積分制御がワインドアップの状態となることを防止することができる。
〔端子電圧一定制御部22〕
次に、図1に示した端子電圧一定制御部22について詳細に説明する。図5は、端子電圧一定制御部22の構成例を示すブロック図である。この端子電圧一定制御部22は、乗算器60、リミッタ61、減算器62、制御器63及びリミッタ64を備えている。
乗算器60は、バス電圧ebusを入力し、バス電圧ebusに予め設定された過変調率γまたはバス電圧利用率ηを乗算し、乗算結果をリミッタ61に出力する。過変調率γ及びバス電圧利用率ηの関係は、γ≧ηである。
リミッタ61は、乗算器60から乗算結果(過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebus)を入力する。そして、リミッタ61は、乗算結果に対し、0から予め設定された制限端子電圧指令vBASEまでの範囲で制限を加え、リミッタ後(制限後)の乗算結果を減算器62に出力する。
ここで、過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusと制限端子電圧指令vBASEとの間の関係が、γ(またはη)×ebus≧vBASEの場合、リミッタ61は、リミッタ後の乗算結果として、制限端子電圧指令vBASEを出力する。この場合、当該端子電圧一定制御部22において、制限端子電圧指令vBASEを目標値とした、電力増幅器2の端子電圧一定制御が行われる。
一方、γ(またはη)×ebus<vBASEの場合、リミッタ61は、リミッタ後の乗算結果として、過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusを出力する。この場合、乗算器60にて過変調率γが予め設定されているときは、端子電圧一定制御部22において、過変調PWM制御を制限するための制御が行われる。また、乗算器60にてバス電圧利用率ηが予め設定されているときは、端子電圧一定制御部22において、オーバーサチュレーション防止のための制御が行われる。
減算器62は、リミッタ61からリミッタ後の乗算結果(過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算された制限後のバス電圧ebus)を入力すると共に、ワインドアップ防止制御部21から端子電圧指令v1*を入力する。そして、減算器62は、過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算された制限後のバス電圧ebusから端子電圧指令v1*を減算し、バス電圧偏差を求め、バス電圧偏差を制御器63に出力する。
制御器63は、減算器62からバス電圧偏差を入力すると共に、ワインドアップ防止制御部21から、当該制御器63による積分制御がワインドアップの状態となることを防止するための積分ゲインKieを入力する。そして、制御器63は、バス電圧偏差が0となるように、予め設定された比例ゲインKpe及び入力した積分ゲインKieを用いてPI制御器による制御を行い、端子電圧制限電流を算出する。制御器63は、端子電圧制限電流をリミッタ64に出力する。
リミッタ64は、制御器63から端子電圧制限電流を入力し、端子電圧制限電流に対して−1.5から0までの範囲で制限を加え、リミッタ後(制限後)の端子電圧制限電流iFR1を求める。そして、リミッタ64は、端子電圧制限電流iFR1を速度制御部11に出力する。
具体的には、リミッタ64は、入力した端子電圧制限電流が0以上である場合、リミッタ後の端子電圧制限電流iFR1=0を出力する。この場合、図2に示した速度制御部11において、d軸電流指令id*は端子電圧制限電流iFR1の影響を受けず補正されないから、端子電圧一定制御、オーバーサチュレーション防止制御及び過変調PWM制御は抑制されない。
リミッタ64は、入力した端子電圧制限電流が0よりも小さく、かつ−1.5よりも大きい場合、入力した端子電圧制限電流をリミッタ後の端子電圧制限電流iFR1としてそのまま出力する。また、リミッタ64は、入力した端子電圧制限電流が−1.5以下の場合、リミッタ後の端子電圧制限電流iFR1=−1.5を出力する。この場合、図2に示した速度制御部11において、d軸電流指令id*は端子電圧制限電流iFR1の影響を受け補正されるから、端子電圧一定制御、オーバーサチュレーション防止制御及び過変調PWM制御は抑制される。
つまり、端子電圧一定制御部22により算出された端子電圧制限電流iFR1=0〜−1.5は、図2に示した速度制御部11の加算器37にて加算されるから、d軸電流指令id*が小さくなり、d軸電圧指令vd*も小さくなる。そして、U相交流電圧指令Vu*、V相交流電圧指令Vv*及びW相交流電圧指令Vw*の振幅が小さくなる。この結果、端子電圧一定制御、オーバーサチュレーション防止制御及び過変調PWM制御が抑制される。
このように、端子電圧一定制御部22により、端子電圧一定制御、オーバーサチュレーション防止制御または過変調PWM制御が行われる。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、端子電圧一定制御部22は、PI制御により、バス電圧ebusに過変調率γまたはバス電圧利用率ηを乗算して0から制限端子電圧指令vBASEまでの範囲で制限した結果と、端子電圧指令v1*との間の差であるバス電圧偏差が0となるように、0から−1.5までの範囲の端子電圧制限電流iFR1を算出する。
この端子電圧制限電流iFR1は、d軸電流指令id*に反映され、当該d軸電流指令id*が小さくなる。これにより、d軸電圧指令vd*が小さくなり、U相交流電圧指令Vu*等の振幅も小さくなる。
この場合、過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusと制限端子電圧指令vBASEとの間の関係が、γ(またはη)×ebus≧vBASEの場合、リミッタ61から制限端子電圧指令vBASEが出力されるから、制限端子電圧指令vBASEを目標値とした、電力増幅器2の端子電圧一定制御が行われる。
また、γ(またはη)×ebus<vBASEの場合、リミッタ61から、過変調率γまたはバス電圧利用率ηが乗算されたバス電圧ebusが出力される。この場合、過変調率γが予め設定されているときは、過変調PWM制御を制限するための制御が行われ、バス電圧利用率ηが予め設定されているときは、オーバーサチュレーション防止のための制御が行われる。
〔すべり角速度生成部24〕
次に、図1に示したすべり角速度生成部24について詳細に説明する。図6は、すべり角速度生成部24の構成例を示すブロック図である。このすべり角速度生成部24は、減算器70、フィルタ71、制御器72、リミッタ73,74、減算器75、反転器76、加算器77、乗算器78、フィルタ79、保持器80及び乗算器81を備えている。
すべり角速度生成部24は、前述のとおり、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0となるように、言い換えると、q軸2次磁束φ2qが0となるように、すべり角速度ωsを生成する。
減算器70は、q軸電圧指令生成部23からq軸電圧指令vq**を入力すると共に、加算器17からq軸電圧指令vq*を入力し、q軸電圧指令vq**からq軸電圧指令vq*を減算し、q軸電圧指令偏差を求める。そして、減算器70は、q軸電圧指令偏差をフィルタ71に出力する。加算器17から入力するq軸電圧指令vq*は、ベクトル制御により算出されるq軸電圧指令フィードバックであり、現在のq軸電圧検出値に相当するものとして扱われる。
フィルタ71は、減算器70からq軸電圧指令偏差を入力すると共に、加算器26から電気角速度ω1を入力する。また、フィルタ71は、乗算器81からすべり角速度ωsを入力し、乗算器78から逆2次時定数同定値W2^を入力する。そして、フィルタ71は、q軸電圧指令偏差に以下の数式を乗算することでフィルタ処理を施し、フィルタ処理後のq軸電圧指令偏差を制御器72に出力する。
〔数4〕
(P0×ω1×ωs/W2^)/(1+P0×ω12×ωs2/W2^2)
・・・(4)
パラメータP0は、予め設定されたフィルタゲインである。
これにより、フィルタ71から出力されるフィルタ処理後のq軸電圧指令偏差は、電気角速度ω1が小さい場合(交流モータ3が低速の場合)、0に近い値となる。したがって、交流モータ3が低速の場合、すべり角速度生成部24から出力されるすべり角速度ωsはさほど変化しないから、シームレスな制御を実現することができる。
制御器72は、フィルタ71からフィルタ処理後のq軸電圧指令偏差を入力する。そして、制御器72は、q軸電圧指令偏差が0となるように、予め設定された比例ゲインKp及び積分ゲインKiを用いてPI制御器による制御を行い、制御出力値を算出する。制御器72は、制御出力値をリミッタ73に出力する。
リミッタ73は、制御器72から制御出力値を入力し、制御出力値に対して−1から2までの範囲で制限を加え、リミッタ後(制限後)の制御出力値を求める。そして、リミッタ73は、リミッタ後の制御出力値をリミッタ74及び減算器75に出力する。
図9は、すべり角速度生成部24に備えた減算器70、フィルタ71、制御器72及びリミッタ73の等価回路の構成例を示すブロック図である。図6に示したすべり角速度生成部24は、q軸2次磁束φ2q=0となるように制御を行うから、その等価回路は、q軸2次磁束指令φ2q*=0を入力するように構成される。減算器70、フィルタ71、制御器72及びリミッタ73の等価回路は、減算器82、制御器83及びリミッタ84である。
減算器82は、q軸2次磁束指令φ2q*=0を入力すると共に、q軸2次磁束φ2qを入力し、q軸2次磁束指令φ2q*=0からq軸2次磁束φ2qを減算してq軸2次磁束偏差δφ2qを求める。そして、減算器82は、q軸2次磁束偏差δφ2qを制御器83に出力する。
制御器83は、図6に示した制御器72に相当する。制御器83は、減算器82からq軸2次磁束偏差δφ2qを入力し、q軸2次磁束偏差δφ2qが0となるように、予め設定された比例ゲインKp及び積分ゲインKiを用いてPI制御器による制御を行い、制御出力値を算出する。そして、制御器83は、制御出力値をリミッタ84に出力する。
リミッタ84は、図6に示したリミッタ73に相当する。リミッタ84は、制御器83から制御出力値を入力し、制御出力値に対して−1から2までの範囲で制限を加え、リミッタ後(制限後)の制御出力値を求める。そして、リミッタ84は、リミッタ後の制御出力値をリミッタ74及び減算器75に出力する。
図6に戻って、リミッタ74は、リミッタ73からリミッタ後の制御出力値を入力し、リミッタ後の制御出力値に対し、予め設定された−δ0から予め設定された+δ0までの範囲で上下限に制限を加え、上下限制限後の制御出力値を求める。リミッタ74は、上下限制限後の制御出力値を減算器75に出力する。
これにより、リミッタ74において、リミッタ73により出力されたリミッタ後の制御出力値が−δ0から+δ0までの範囲の値に制限され、後段の減算器75において、この範囲におけるリミッタ73により出力されたリミッタ後の制御出力値は、不感帯の値となる。
減算器75は、リミッタ73からリミッタ後の制御出力値を入力すると共に、リミッタ74から上下限制限後の制御出力値を入力する。そして、減算器75は、リミッタ後の制御出力値から上下限制限後の制御出力値を減算し、不感帯を含む制御出力値を求め、不感帯を含む制御出力値を反転器76に出力する。
図10は、すべり角速度生成部24に備えた減算器75の入力、及び不感帯を含む出力を説明する図である。横軸は、減算器75がリミッタ73から入力するリミッタ後の制御出力値を示し、縦軸は、減算器75が出力する不感帯を含む制御出力値を示す。図10から、減算器75がリミッタ73から入力するリミッタ後の制御出力値(−1から2までの範囲の制御出力値)のうちの−δ0から+δ0までの範囲において、減算器75が出力する不感帯を含む制御出力値は0であることがわかる。
これにより、減算器75から、−δ0から+δ0までの範囲で0となる不感帯を含む制御出力値が出力される。したがって、当該範囲内において、すべり角速度ωsは不変となるから、交流モータ3の制御を安定させることができる。
図6に戻って、反転器76は、減算器75から不感帯を含む制御出力値を入力し、不感帯を含む制御出力値に−1を乗算することで不感帯を含む制御出力値を反転させる。そして、反転器76は、符号が反転した不感帯を含む制御出力値を加算器77に出力する。
加算器77は、反転器76から符号が反転した不感帯を含む制御出力値を入力し、符号が反転した不感帯を含む制御出力値に1を加算し、加算結果を乗算器78に出力する。
乗算器78は、加算器77から加算結果を入力すると共に、フィルタ79から逆2次時定数指令W2*を入力し、加算結果に逆2次時定数指令W2*を乗算し、逆2次時定数同定値W2^を求める。そして、乗算器78は、逆2次時定数同定値W2^を保持器80及び乗算器81に出力する。また、図示してないが、乗算器78は、逆2次時定数同定値W2^をフィルタ71に出力する。
保持器80は、a接点のリレー80a、b接点のリレー80b、入力端子I1,I2、リセット端子R及び出力端子Outを備えている。保持器80は、乗算器78から逆2次時定数同定値W2^を、入力端子I1を介して入力すると共に、出力端子Outを介して出力した逆2次時定数同定値W2^を、入力端子I2を介して入力する。また、保持器80は、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE@を入力する。
保持器80は、ユーザの操作に従ってチューニング指示W2_TUNE@を、リセット端子Rを介して入力すると、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がり時に、リレー80aが導通し、リレー80bが非導通となる。
保持器80は、乗算器78から入力した逆2次時定数同定値W2^を、導通したリレー80a及びOut端子を介して、フィルタ79及び入力端子I2に出力する。
そして、保持器80は、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がりの後、リレー80aが非導通となり、リレー80bが導通する。そうすると、保持器80は、入力端子I2を介して入力した逆2次時定数同定値W2^を、導通したリレー80b及びOut端子を介してフィルタ79及び入力端子I2に出力する。
これにより、保持器80からフィルタ79に出力される逆2次時定数同定値W2^は、チューニング指示W2_TUNE@の立ち上がりのタイミングで更新される。つまり、ユーザの操作に従ったチューニング指示W2_TUNE@の入力に伴って、保持器80において、チューニング開始時の新たな逆2次時定数同定値W2^が保持される。そして、チューニング時以降の通常状態において、保持された新たな固定の逆2次時定数同定値W2^が、次のチューニング指示W2_TUNE@が入力されるまでの間、保持器80からフィルタ79に出力され続ける。
フィルタ79は、保持器80から逆2次時定数同定値W2^を入力し、逆2次時定数同定値W2^に対し、予め設定された時定数ωLGによる1次遅れフィルタ処理を施す。そして、フィルタ79は、フィルタ処理後の逆2次時定数同定値W2^を逆2次時定数指令W2*として乗算器78に出力する。
乗算器81は、乗算器78から逆2次時定数同定値W2^を入力すると共に、速度制御部11からd軸電流指令id*及びq軸電流指令iq*を入力する。そして、乗算器81は、逆2次時定数同定値W2^に対し、q軸電流指令iq*をd軸電流指令id*で除算した結果を乗算し、すべり角速度ωsを求める。乗算器81は、すべり角速度ωsを加算器26に出力する。また、図示してないが、乗算器81は、すべり角速度ωsをフィルタ71に出力する。
このように、ユーザの操作によるチューニング指示W2_TUNE@に従って、チューニングが開始すると、チューニング直前の逆2次時定数同定値W2^が新たな逆2次時定数同定値W2^として保持される。そして、フィルタ79においても、新たな逆2次時定数同定値W2^に対してフィルタ処理された新たな逆2次時定数指令W2*が生成され、乗算器78に出力される。
チューニング時以降の通常状態において、乗算器78により、q軸2次磁束φ2q=0となるように制御された、加算器77の出力である加算結果に、フィルタ79からの固定値である逆2次時定数指令W2*が乗算されることで、逆2次時定数同定値W2^が求められる。
これにより、q軸2次磁束φ2q=0となり制御が安定すると、加算器77の出力である加算結果は1となり、乗算器78により算出される逆2次時定数同定値W2^は、逆2次時定数指令W2*と同じ値になる。したがって、すべり角速度生成部24は、q軸2次磁束φ2q=0となるようにすべり角速度ωsを生成するが、これは、逆2次時定数同定値W2^が逆2次時定数指令W2*と同一になるように制御することと同義であるといえる。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、すべり角速度生成部24は、q軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成し、q軸電圧指令vq**とq軸電圧指令vq*との間の偏差が0となるように、すなわち、q軸2次磁束φ2qが0となるように、逆2次時定数W2を同定してすべり角速度ωsを算出する。
つまり、同定精度が低いq軸リアクタンス同定値xq^を用いたd軸電圧指令vd*のフィードバック制御系を構成するのではなく、同定精度が高いd軸リアクタンス同定値xd^を用いたq軸電圧指令vq*のフィードバック制御系を構成するようにした。
これにより、同定精度が高いd軸リアクタンス同定値xd^を用いて、q軸2次磁束φ2q=0の制御を行うようにしたから、逆2次時定数同定値W2^の同定精度が高くなる。したがって、交流モータ3のすべり角速度ωsを精度高く同定することができ、所望のスリップチューニングを実現することができる。
〔非干渉補償部28〕
次に、図1に示した非干渉補償部28について詳細に説明する。図7は、非干渉補償部28の構成例を示すブロック図である。この非干渉補償部28は、乗算器90,91,92,93及び反転器94を備えている。
乗算器90は、加算器26から電気角速度ω1を入力すると共に、速度制御部11からq軸電流指令iq*を入力し、電気角速度ω1にq軸電流指令iq*を乗算し、乗算結果を乗算器92に出力する。
乗算器92は、乗算器90から乗算結果を入力し、乗算結果に、予め設定されたq軸リアクタンス同定値Xq^を乗算し、その乗算結果(ω1×iq*×Xq^)を反転器94に出力する。
反転器94は、乗算器92から乗算結果(ω1×iq*×Xq^)を入力し、乗算結果(ω1×iq*×Xq^)に−1を乗算することで、乗算結果(ω1×iq*×Xq^)の符号を反転させる。そして、反転器94は、符号が反転した乗算結果(−ω1×iq*×Xq^)をd軸非干渉FF電圧vd^として加算器16に出力する。
乗算器91は、加算器26から電気角速度ω1を入力すると共に、速度制御部11からd軸電流指令id*を入力し、電気角速度ω1にd軸電流指令id*を乗算し、乗算結果を乗算器93に出力する。
乗算器93は、乗算器91から乗算結果を入力し、乗算結果に、予め設定されたd軸リアクタンス同定値Xd^を乗算し、その乗算結果(ω1×id*×Xd^)をq軸非干渉FF電圧vq^として加算器17に出力する。
前述のとおり、交流モータ3は誘導電動機であるから、逆起電圧定数は0である。このため、q軸非干渉FF電圧vq^として、電気角速度ω1にd軸電流指令id*を乗算し、さらに、予め設定されたd軸リアクタンス同定値Xd^を乗算した結果(ω1×id*×Xd^)が、非干渉補償部28から出力される。
以上のように、本発明の実施形態による制御装置1によれば、非干渉補償部28は、電気角速度ω1、q軸電流指令iq*、及び予め設定されたq軸リアクタンス同定値Xq^に基づいて、d軸非干渉FF電圧vd^(−ω1×iq*×Xq^)を算出する。つまり、交流モータ3にq軸電流が流れることにより、d軸上に、d軸電流とは逆の極性の干渉電圧(−ω1×iq*×Xq^)が発生し、この干渉電圧がd軸非干渉FF電圧vd^として算出される。
このd軸非干渉FF電圧vd^(−ω1×iq*×Xq^)は、d軸電圧指令vd*に反映される。これにより、交流モータ3にq軸電流が流れることにより発生するd軸上の干渉電圧をキャンセルすることができる。
また、非干渉補償部28は、電気角速度ω1、d軸電流指令id*及び予め設定されたd軸リアクタンス同定値Xd^に基づいて、q軸非干渉FF電圧vq^(ω1×id*×Xd^)を算出する。つまり、交流モータ3にd軸電流が流れることにより、q軸上に、q軸電流と同じ極性の干渉電圧(ω1×id*×Xd^)が発生し、この干渉電圧がq軸非干渉FF電圧vq^として算出される。
このq軸非干渉FF電圧vq^(ω1×id*×Xd^)は、q軸電圧指令vq*に反映される。これにより、交流モータ3にd軸電流が流れることにより発生するq軸上の干渉電圧をキャンセルすることができる。