本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。また、本発明は、以下の内容に限定されるものではない。
本実施形態に係る斜め延伸フィルムの製造方法は、長尺状のフィルムを斜め延伸することによって、延伸後のフィルムの幅手方向に対して任意の角度に面内遅相軸を有する長尺状の斜め延伸フィルムの製造方法である。
ここで、長尺とは、フィルムの幅に対して少なくとも5倍程度以上の長さを指し、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを指し、具体的には、フィルムがロール状に巻回され、フィルムロールの状態で保管または運搬される程度の長さを指す。長尺状のフィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の任意の長さにフィルムを製造しうる。なお、長尺状の斜め延伸フィルムの製造方法は、長尺状のフィルムを製膜した後にこれを一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)とし、この巻回体から長尺状のフィルムを斜め延伸工程に供給して斜め延伸フィルムを製造するようにしてもよいし、製膜後の長尺状のフィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給して斜め延伸フィルムを製造してもよい。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後のフィルムの膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺状の斜め延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
本実施形態に係る斜め延伸フィルムの製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度に遅相軸を有する長尺状の斜め延伸フィルムを製造する。ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。遅相軸は、通常、延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するので、本実施形態に係る製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺状の斜め延伸フィルムを製造しうる。長尺状の斜め延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とのなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。なお、本実施形態において、「長尺フィルム」と記載したときは、斜め延伸前の長尺状のフィルムを指すものとする。
<長尺フィルムについて>
まず、本実施形態で延伸対象となる長尺フィルムについて説明する。
本実施形態の長尺フィルムとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂から構成されているフィルムであれば何でも良いが、例えば、延伸後のフィルムを光学用途に使用する場合には、所望の波長に対して透明な性質を有する樹脂からなるフィルムが好ましい。このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂(脂環式オレフィンポリマー系樹脂)、セルロースエステル系樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、透明性や機械強度などの観点から、ポリカーボネート系樹脂、脂環式オレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂が好ましい。その中でも、光学フィルムとした場合の位相差を調整することが容易である、脂環式オレフィンポリマー系樹脂、セルロースエステル系樹脂が更に好ましい。
<長尺フィルムの製膜法>
上述した樹脂からなる本実施形態の長尺フィルムは、以下に示す溶液流延法、溶融流延法のどちらでも製膜することができる。以下、各製膜法について説明する。なお、以下では、長尺フィルムとして、例えばセルロースエステル系樹脂フィルムを製膜する場合について説明するが、他の樹脂フィルムの製膜についても勿論適用することができる。
〔溶液流延法〕
フィルムの着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制、フィルムの平面性、透明度に優れるなどの観点からは、長尺フィルムを溶液流延法で製膜することが好ましい。
(有機溶媒)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースアセテート、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのセルロースアセテートの溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、および炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂と、アクリル粒子の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性を確保でき、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等から、エタノールが好ましい。
(溶液流延)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムは、溶液流延法によって製造することができる。溶液流延法では、樹脂および添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状もしくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程により行われる。
ドープ中のセルロースアセテートの濃度は高いほうが、金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
流延工程の金属支持体の表面温度は、−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。支持体温度が高いほうがウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
好ましい支持体温度としては、0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃が更に好ましい。または、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いるほうが、熱の伝達が効率的に行われ、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短くなるため、好ましい。
温風を用いる場合は、溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度および乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
セルロースエステル系樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量が10〜150質量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。ここで、残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量(g)であり、NはMを115℃で1時間の加熱した後の質量(g)である。
また、セルロース系樹脂フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
〔溶融流延法〕
溶融流延法は、斜め延伸後のフィルムの厚み方向のリタデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れる等の観点から、好ましい製膜法である。溶融流延法は、樹脂および可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースアセテートを含む溶融物を流延してフィルムを製膜する方法をいう。溶融流延によって形成される方法は、溶融押出(成形)法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れるフィルムが得られる溶融押出法が好ましい。また、溶融押出法で用いる複数の原材料は、通常、予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法で行えばよい。例えば、乾燥セルロースアセテートや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し、1軸や2軸の押出し機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでペレット化できる。
添加剤は、押出し機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。また、粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。勿論、ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
上記ペレットを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出す際の溶融温度を200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップし、冷却ロール上で固化させる。
供給ホッパーから押出し機へ上記ペレットを導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
可塑剤や粒子などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度は、フィルムのTg(ガラス転移温度)以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールを使用できる。
弾性タッチロールは挟圧回転体ともいう。弾性タッチロールとしては、市販されているものを用いることもできる。
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
なお、上記した各製膜法で製膜される長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
<長尺フィルムの仕様>
本実施形態における長尺フィルムの厚さは、好ましくは30〜300μm、より好ましくは40〜150μmである。また、本実施形態では、後述する延伸ゾーンに供給される長尺フィルムの流れ方向(搬送方向)の厚みムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリタデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満であることが好ましい。長尺フィルムの流れ方向の厚みムラσmが0.30μm以上となると、長尺延伸フィルムのリタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが悪化する場合がある。
また、長尺フィルムとして、幅方向の厚み勾配を有するフィルムが供給されてもよい。長尺フィルムの厚みの勾配は、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルム厚みを最も均一なものとしうるよう、実験的に厚み勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルムの厚みの勾配は、例えば、厚みの厚い側の端部の厚みが、厚みの薄い側の端部よりも0.5〜3%程度厚くなるように調整することができる。
長尺フィルムの幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。
長尺フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、皺が消えにくくなる。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
長尺フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ配向を有するフィルムが供給されてもよい。また、必要であれば長尺フィルムの配向の幅手方向の分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。要は、長尺フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
<長尺斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置>
次に、上述した長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸して長尺状の斜め延伸フィルムを製造する、斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置について説明する。
(装置の概要)
図1は、斜め延伸フィルムの製造装置1の概略の構成を模式的に示す平面図である。本実施形態の製造装置1は、長尺フィルムの搬送方向上流側から順に、フィルム繰り出し部2と、搬送方向変更部3と、ガイドロール4と、延伸部5と、ガイドロール6と、搬送方向変更部7と、フィルム巻き取り部8とを備えている。なお、延伸部5の詳細については後述する。
フィルム繰り出し部2は、上述した長尺フィルムを繰り出して延伸部5に供給するものである。このフィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜装置と別体で構成されていてもよいし、一体的に構成されてもよい。前者の場合、長尺フィルムを製膜後に一度巻芯に巻き取って巻回体となったものをフィルム繰り出し部2に装填することで、フィルム繰り出し部2から長尺フィルムが繰り出される。一方、後者の場合、フィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜後、その長尺フィルムを巻き取ることなく、延伸部5に対して繰り出すことになる。
搬送方向変更部3は、フィルム繰り出し部2から繰り出される長尺フィルムの搬送方向を、斜め延伸テンターとしての延伸部5の入口に向かう方向に変更するものである。このような搬送方向変更部3は、例えばフィルムを搬送しながら折り返すことによって搬送方向を変更するターンバーや、そのターンバーをフィルムに平行な面内で回転させる回転テーブルを含んで構成されている。
搬送方向変更部3にて長尺フィルムの搬送方向を上記のように変更することにより、製造装置1全体の幅をより狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し部2および搬送方向変更部3を移動可能(スライド可能、旋回可能)とすれば、延伸部5において長尺フィルムの幅手方向の両端部を挟む左右のクリップ(把持具)のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
なお、上記したフィルム繰り出し部2は、延伸部5の入口に対して所定角度で長尺フィルムを送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっていてもよい。この場合は、搬送方向変更部3の設置を省略した構成とすることができる。
ガイドロール4は、長尺フィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の上流側に少なくとも1本設けられている。なお、ガイドロール4は、フィルムを挟む上下一対のロール対で構成されてもよいし、複数のロール対で構成されてもよい。延伸部5の入口に最も近いガイドロール4は、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支される。ガイドロール4の材質としては、公知のものを用いることが可能である。なお、フィルムの傷つきを防止するために、ガイドロール4の表面にセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等によってガイドロール4を軽量化することが好ましい。
また、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4よりも上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能となる。
延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するためのフィルム張力検出装置として、第1張力検出装置、第2張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
ロードセルは、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出する。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
フィルム繰り出し部2または搬送方向変更部3から延伸部5に供給されるフィルムの位置および搬送方向が、延伸部5の入口に向かう位置および搬送方向からズレている場合、このズレ量に応じて、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4におけるフィルムの両側縁近傍の張力に差が生じることになる。したがって、上述したようなフィルム張力検出装置を設けて上記の張力差を検出することにより、当該ズレの程度を判別することができる。つまり、フィルムの搬送位置および搬送方向が適正であれば(延伸部5の入口に向かう位置および方向であれば)、上記ガイドロール4に作用する荷重は軸方向の両端で粗均等になるが、適正でなければ、左右でフィルム張力に差が生じる。
したがって、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右のフィルム張力差が等しくなるように、例えば上記した搬送方向変更部3によってフィルムの位置および搬送方向(延伸部5の入口に対する角度)を適切に調整すれば、延伸部5の入口部の把持具によるフィルムの把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。更に、延伸部5による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
ガイドロール6は、延伸部5にて斜め延伸されたフィルム(長尺状の斜め延伸フィルム)の走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の下流側に少なくとも1本設けられている。
搬送方向変更部7は、延伸部5から搬送される延伸後のフィルムの搬送方向を、フィルム巻き取り部8に向かう方向に変更するものである。搬送方向変更部7は、例えば、長尺斜め延伸フィルムの面内で延伸方向に平行または垂直な方向に沿って、延伸後のフィルムを少なくとも1回折り返す折り返し機構で構成することができる。
ここで、配向角(フィルムの面内遅相軸の方向)の微調整や製品バリエーションに対応するために、延伸部5の入口でのフィルム進行方向と延伸部5の出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。
また、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更し、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向を一致させる、つまり、図1に示すように、フィルム繰り出し部2から繰り出されるフィルムの進行方向(繰り出し方向)と、フィルム巻き取り部8にて巻き取られる直前のフィルムの進行方向(巻き取り方向)とを一致させることにより、フィルム進行方向に対する装置全体の幅を小さくすることができる。
なお、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向は必ずしも一致させる必要はないが、フィルム繰り出し部2とフィルム巻き取り部8とが干渉しないレイアウトとなるように、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更することが好ましい。
上記のような搬送方向変更部3・7としては、エアーフローロールを用いるなど、公知の手法で実現することができる。
フィルム巻き取り部8は、延伸部5から搬送方向変更部7を介して搬送されるフィルムを巻き取るものであり、例えばワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置などで構成される。フィルム巻き取り部8は、フィルムの巻き取り位置を調整すべく、横方向にスライドできる構造であることが好ましい。
フィルム巻き取り部8は、延伸部5の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御できるようになっている。これにより、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。本実施形態において、延伸後のフィルムの引取張力T(N/m)は、100N/m<T<700N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。
上記の引取張力が100N/m以下では、フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルも悪化する。逆に、引取張力が700N/m以上となると、配向角のフィルム幅方向のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させる場合がある。
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向(搬送方向)の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、延伸部5の出口側の最初のロール(ガイドロール6)にかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が一定となるように、一般的なPID制御方式により引取ロール(フィルム巻き取り部8の巻取ロール)の回転速度を制御する方法が挙げられる。上記荷重を測定する方法としては、ガイドロール6の軸受部にロードセルを取り付け、ガイドロール6に加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
延伸後のフィルムは、延伸部5の把持具による把持が開放されて、延伸部5の出口から排出され、把持具で把持されていたフィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取ロール)に巻き取られて、長尺状の斜め延伸フィルムの巻回体となる。なお、上記のトリミングは、必要に応じて行われればよい。
また、長尺状の斜め延伸フィルムを巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを長尺状の斜め延伸フィルムに重ねて同時に巻き取ってもよいし、巻き取りによって重なる長尺状の斜め延伸フィルムの少なくとも一方(好ましくは両方)の端にテープ等を貼り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、長尺状の斜め延伸フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
(延伸部の詳細)
次に、上述した延伸部5の詳細について説明する。図2は、延伸部5のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。また、図3は、延伸部5の構成の詳細を示す平面図である。なお、これらは一例であって、本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
製造装置1は、延伸部5として、斜め延伸可能なテンター(斜め延伸機)を用いて行われる。このテンターは、長尺フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。このテンターは、加熱ゾーンZと、左右で一対のレールRi・Roと、複数の把持具15(図2では、便宜的に、複数の把持具15のうち、左右で一対の把持具Ci・Coのみを図示)とを備えている。なお、加熱ゾーンZの詳細については後述する。
レールRi・Roは、それぞれ、複数のレール部を連結部で連結して構成されており、無端軌道のレールとなっている(図2中の白丸は連結部の一例である)。図3に示すように、フィルムの幅手方向の一端側(左側)のレールRiは、長尺フィルムの搬送方向に把持具15を進行させるための行きレール部11と、長尺フィルムの搬送方向とは逆方向に把持具15を進行させるための戻りレール部12とを連結して構成される。フィルムの幅手方向の他端側(右側)のレールRoは、長尺フィルムの搬送方向に把持具15を進行させるための行きレール部13と、長尺フィルムの搬送方向とは逆方向に把持具15を進行させるための戻りレール部14とを連結して構成される。
把持具15は、フィルムの幅手方向の両端を把持するクリップで構成されており、各レールRi・Roに対応して設けられているとともに、フィルムの搬送方向(各Ri・Ro)に沿って等間隔で複数設けられている。フィルムの幅手方向の一端側は、搬送方向(レールRi)に沿って並ぶ複数の把持具15で把持され、他端側は搬送方向(レールRo)に沿って並ぶ複数の把持具15で把持され、この状態で把持具15がレールRi・Roに沿って走行することで、フィルムが搬送される。
左側のレールRiに沿って走行する把持具15は、フィルムの一端部を把持した状態で行きレール部11に沿って走行し、延伸部5の出口付近でフィルムの把持を開放した後、戻りレール部12に沿って走行し、延伸部5の入口付近に戻り、フィルムの一端部を再度把持した後、上記と同様の工程を繰り返す(レールRiに沿って周回する)。一方、右側のレールRoに沿って走行する把持具15は、フィルムの一端部を把持した状態で行きレール部13に沿って走行し、延伸部5の出口付近でフィルムの把持を開放した後、戻りレール部14に沿って走行し、延伸部5の入口付近に戻り、フィルムの他端部を再度把持した後、上記と同様の工程を繰り返す(レールRoに沿って周回する)。
図2において、長尺フィルムの延伸前の搬送方向D1は、長尺フィルムの延伸後の搬送方向D2と異なっており、延伸後の搬送方向D2との間で繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
このように、延伸前の搬送方向D1と延伸後の搬送方向D2とが異なっているため、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっている。そして、製造すべき長尺状の斜め延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、レールパターンは手動または自動で調整できるようになっている。本実施形態で用いられる斜め延伸機では、レールRi・Roを構成する各レール部およびレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
本実施形態において、把持具15は、その前後の把持具15(フィルムの搬送方向上流側および下流側の把持具15)と一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。把持具15の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜150m/分である。左右一対の把持具(例えば把持具Ci・Co)の走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口における皺、寄りが発生するため、左右の把持具の速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部(湾曲部)では把持具の軌跡が滑らかな曲線を描くようにすることが望ましい。
このように、長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸(遅相軸)をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるテンターであることが好ましい。
次に、延伸部5での延伸動作について、図2に基づいて説明する。長尺フィルムは、その両端を左右の把持具Ci・Coによって把持され、加熱ゾーンZ内を把持具Ci・Coの走行に伴って搬送される。左右の把持具Ci・Coは、延伸部5の入口部(図中Aの位置)において、フィルムの進行方向(延伸前の搬送方向D1)に対して略垂直な方向に相対しており、左右非対称なレールRi・Roに沿ってそれぞれ走行し、延伸終了時の出口部(図中Bの位置)の付近で把持したフィルムを開放する。なお、把持開放のタイミングの詳細については後述する。把持具Ci・Coから開放されたフィルムは、前述したフィルム巻き取り部8にて巻芯に巻き取られる。一対のレールRi・Roは、上述したように、それぞれ無端状の連続軌道を有しており、延伸部5の出口部でフィルムの把持を開放した把持具Ci・Coは、外側のレールを走行して順次入口部に戻されるようになっている。
このとき、レールRi・Roは左右非対称であるため、図2の例では、図中Aの位置で相対していた左右の把持具Ci・Coは、レールRi・Ro上を走行するにつれて、レールRi側を走行する把持具CiがレールRo側を走行する把持具Coに対して先行する位置関係となる。
すなわち、図中Aの位置でフィルムの延伸前の搬送方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci・Coのうち、一方の把持具Ciがフィルムの延伸終了時の位置Bに先に到達したときには、把持具Ci・Coを結んだ直線がフィルムの延伸後の搬送方向D2に略垂直な方向に対して、角度θLだけ傾斜している。以上の所作をもって、長尺フィルムが幅手方向に対してθLの角度で斜め延伸されることとなる。ここで、略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
以上のことから、本実施形態の斜め延伸フィルムの製造方法は、フィルムの幅手方向の一端側を複数の把持具15(把持具Ciを含む)で把持するとともに、他端側を複数の把持具15(把持具Coを含む)で把持し、一端側および他端側の一方の把持具15(例えばレールRiに沿って走行する複数の把持具15)を相対的に先行させ、他方の把持具15(例えばレールRoに沿って走行する複数の把持具15)を相対的に遅延させてフィルムを搬送することにより、フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程を含むということができる。なお、以下での説明において、フィルム幅手方向の一端側および他端側のうち、把持具が相対的に先行して走行する側を「先行側」とも称し、把持具が相対的に遅延して走行する側を「遅延側」とも称する。例えば、図2では、フィルム幅手方向において、把持具Ciが走行する側が先行側であり、把持具Coが走行する側が遅延側である。
次に、上記した加熱ゾーンZの詳細について説明する。延伸部5の加熱ゾーンZは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3で構成されている。延伸部5では、把持具Ci・Coによって把持されたフィルムは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、熱固定ゾーンZ3を順に通過する。
予熱ゾーンZ1とは、加熱ゾーンZの入口部において、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coが、左右で(フィルム幅方向に)一定の間隔を保ったまま走行する区間を指す。
延伸ゾーンZ2とは、上述した斜め延伸工程が行われる区間を指す。このとき、必要に応じて、斜め延伸前後において縦方向あるいは横方向にフィルムを延伸してもよい。
熱固定ゾーンZ3とは、斜め延伸工程の終了後、フィルムの光学軸(遅相軸)を固定する熱固定工程が行われる区間である。
なお、延伸後のフィルムは、熱固定ゾーンZ3を通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具Ci・Coの間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンZ1の温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンZ2の温度はTg〜Tg+30℃、熱固定ゾーンZ3の温度はTg−30〜Tg℃に設定することが好ましい。
なお、幅方向のフィルムの厚みムラの制御のために、延伸ゾーンZ2において幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3の長さは適宜選択でき、延伸ゾーンZ2の長さに対して、予熱ゾーンZ1の長さは通常100〜150%、熱固定ゾーンZ3の長さは通常50〜100%である。
また、延伸前のフィルムの幅をWo(mm)とし、延伸後のフィルムの幅をW(mm)とすると、延伸工程における延伸倍率R(W/Wo)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると、フィルムの幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンZ2において、幅方向で延伸温度に差を付けると、幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、上記の延伸倍率Rは、テンター入口部で把持したクリップ両端の間隔W1がテンター出口部において間隔W2となったときの倍率(W2/W1)に等しい。
<斜め延伸工程終了後の把持具の位置について>
上述したように、斜め延伸工程では、斜め延伸前に幅手方向の一端側を把持する把持具15(例えば把持具Ci)を相対的に先行させ、他端側を把持する把持具Coを相対的に遅延させてフィルムを搬送することによって斜め延伸を行うため、斜め延伸前に幅手方向で対向していた一対の把持具Ci・Coの位置は、斜め延伸工程の終了時点ではフィルムの搬送方向にずれる。例えば、図3に示すように、斜め延伸前に幅手方向において対向する位置関係にあった一対の把持具15a1・15b1は、斜め延伸工程の終了時点では、把持具15a1’・15b1’で示す位置となり、搬送方向に相対的にずれて位置する(一対の把持具15a1・15b1は幅手方向において対向しない)。この現象は、斜め延伸の原理上、回避できないものである。なお、斜め延伸工程の終了時点とは、斜め延伸前に幅手方向に対向していた一対の把持具15a1・15b1が斜め延伸を終えて所定のフィルム幅を保持して走行し始めるときの先行側の把持具15a1の位置(図3では、把持具15a1’の位置に等しい)を指す。
斜め延伸工程の終了時点で、フィルムの幅手方向の両端を把持する各把持具15がフィルムの搬送方向にずれていると、搬送方向にずれた左右の把持具15によってフィルムの幅手方向に不均一な応力が掛かり、均一な位相差特性をもつ長尺状の斜め延伸フィルムを得ることができなくなるのは前述の通りである。そこで、本実施形態では、特許文献1と同様に、斜め延伸工程の終了時点において、フィルム面内で搬送方向に垂直な幅手方向に一対の把持具15が対向して位置するように(例えば、図3では、把持具15a1’と把持具15b3とが幅手方向で対向するように)、レールRi・Roの長さの差および把持具15の進行方向のピッチPとの関係を設定したり、各把持具15の位置を調整するようにしている。
具体的には、対向するレールRi・Roの長さの差が、把持具15のピッチPの整数倍である場合には、斜め延伸工程に入る前に、幅手方向において対向する把持具15・15を結ぶ直線が長尺フィルムの幅手方向と略平行となるように把持具15を位置させることによって、斜め延伸工程の終了位置で、対向する把持具15・15を結ぶ直線が斜め延伸フィルムの幅手方向と略平行となるようにしている。一方、対向するレールRi・Roの長さの差が、把持具15のピッチPの整数倍からずれる場合には、斜め延伸工程の終了位置で、対向する把持具1・15を結ぶ直線が長尺フィルムの幅手方向と略平行となるように、斜め延伸を行う装置を停止させた状態で、把持具15の位置を移動方向の前後どちらかに調整している。なお、各把持具15の走行速度は一定とする。
このようにすることで、対向するレールRi・Roをどのように変形させても、斜め延伸工程の終了時点で、左右の把持具15・15の位置が幅手方向で揃うため、斜め延伸されたフィルムの幅手方向に不均一な応力が掛かるのを低減することができ、均一な位相差特性を持つ斜め延伸フィルムを得ることができる。つまり、幅手方向における配向角のバラツキを低減した斜め延伸フィルムを得ることができる。
斜め延伸工程の終了時点で、上記のように、左右の把持具15・15の位置が幅手方向に揃うため、斜め延伸工程終了後の熱固定工程では、斜め延伸工程の終了時点でフィルムの幅手方向において対向する位置関係にある一対の把持具15・15で、フィルムの幅手方向の両端をそれぞれ把持してフィルムを搬送方向に搬送することになる。
<フィルムの把持開放のタイミングについて>
延伸ゾーンZ2にて斜め延伸されたフィルムは、熱固定ゾーンZ3内を搬送されることで光学軸が固定され、その後、把持具15の把持が開放されて延伸部5から排出される。以下、延伸部5におけるフィルムの把持開放のタイミングの詳細について説明する。
図4は、本実施形態の延伸部5における把持開放位置を示す説明図である。ここで、熱固定工程において、フィルムの幅手方向に対向する一対の把持具15・15のうち、斜め延伸工程で先行側を走行した把持具を第1の把持具15A(例えば図3では把持具15a1’に相当)とし、遅延側を走行した把持具(例えば図3では把持具15b3に相当)を第2の把持具15Bとする。そして、第1の把持具15Aがフィルムの把持を開放する位置を第1の位置S1とし、第2の把持具15Bがフィルムの把持を開放する位置を第2の位置S2とする。
本実施形態では、熱固定工程において、フィルムの面内において、第1の位置S1と第2の位置S2とを結ぶ直線Tが、斜め延伸工程の終了後のフィルムの搬送方向D2に垂直な幅手方向に対して角度θ(°)だけ斜めに傾き、かつ、第2の位置S2が第1の位置S1よりも搬送方向の上流側となるように、第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放している。
図5は、直線Tと斜め延伸方向(遅相軸の配向方向)との関係を模式的に示している。なお、同図では、斜め延伸工程の終了後の上記幅手方向とフィルムの面内遅相軸とのなす角度を配向角α(°)としている。上記のように第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放することにより、幅手方向で対向する一対の把持具で把持を同時に開放する場合に比べて、開放位置同士を結ぶ直線の傾きが斜め延伸方向に近づく(|α−θ|が小さくなる)。これは、斜め延伸方向で見れば、斜め延伸方向の一端側と他端側とで把持開放のタイミングのずれが小さくなることを意味する。これにより、斜め延伸方向の一端側と他端側とでほぼ同時に、斜め延伸に起因する応力を開放することができる。その結果、上記応力による皺が波打ち状の変形として、フィルム(特に斜め延伸方向の一端側および他端側の両方)に残るのを抑えることができ、斜め延伸に起因する波打ち状の変形を抑えることができる。よって、本実施形態の製造方法で製造された斜め延伸フィルムを、後述する円偏光板および有機EL表示装置に適用した場合でも、上記波打ち状の変形に起因する光漏れを抑えることができる。
ここで、上記の角度θは、0<θ<90°であれば、上述した本実施形態の効果を得ることが可能であるが、角度θが75°以上であると、熱固定工程を行う熱固定ゾーンZ3を搬送方向に長く形成せざるを得ず、延伸部5ひいては製造装置1全体の大型化を招くおそれがある。また、熱固定ゾーンZ3が搬送方向に長くなると、熱固定ゾーンZ3の上流側と下流側とで温度差が大きくなるため(延伸ゾーンZ2に近いほど温度が高い)、上記温度差によって応力分布にムラが生じ、このムラによって、斜め延伸に起因する応力を開放する効果が得られにくくなる可能性もある。以上のことを考慮すると、角度θは、0<θ<75°であることが望ましい。
特に、角度θを配向角αに近づければ近づけるほど、斜め延伸方向で見れば、斜め延伸方向の一端側と他端側とで把持開放のタイミングのずれが確実に小さくなり、斜め延伸方向の一端側と他端側とで、斜め延伸に起因する応力の開放を同時に近づけることができる。そして、波打ち状の変形を確実に抑えることができる結果、上記変形に起因する配向角のバラツキも確実に低減される。このことから、角度θは、配向角αとの関係で、以下の条件式を満足することが望ましい。すなわち、
α−10°≦θ≦α+10° ・・・(1)
10°≦α≦55° ・・・(2)
である。ただし、α=10°のとき、(1)式は、θ=0°を含む範囲となり、「第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放する」ことにならなくなるため、(1)の角度θは、αの値に応じて以下のように場合分けして考えるものとする。すなわち、
α=10°のとき、
α−10°<θ≦α+10°
であり、
10°<α≦55°のとき、
α−10°≦θ≦α+10°
である。
また、配向角αが35°≦α≦50°の範囲となるような斜め延伸では、延伸方向の応力が高く、フィルムに上記応力が残っていると、フィルムが把持具で把持されて搬送されるときに、把持部分において穴があきやすくなる。そして、このような現象は、特に薄膜のフィルム(例えば膜厚30μm以下)において顕著となる。しかし、本実施形態では、上述のように、熱固定工程において、第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放することで、斜め延伸方向の一端側と他端側とで、斜め延伸に起因する応力をほぼ同時に開放できる。このため、本実施形態の手法は、特に、35°≦α≦50°で、穴のあきやすい薄膜のフィルムを製造する場合に、把持部分の穴あきを低減し、製造中のフィルムの破断を抑えることができる点で非常に有効となる。
<斜め延伸の他の手法>
本実施形態では、図1〜図4で示したように、斜め延伸工程において、フィルムの搬送経路を途中で屈曲させ、フィルム幅手方向の一端側の把持具Ciの移動距離を他端側の把持具Coの移動距離よりも短くすることで、フィルムの幅手方向の一端側の把持具を相対的に先行させ、他端側の把持具を相対的に遅延させてフィルムを搬送し、これによって斜め延伸を行っている。しかし、斜め延伸の手法は、このような屈曲型に限定されるわけではない。
図6および図7は、斜め延伸の手法の他の例を示している。図6に示すように、フィルム幅手方向の一端側の把持具Ciの移動時間を、他端側の把持具Coの移動時間よりも短くして(把持具Ciの移動速度を把持具Coの移動速度よりも速くして)、把持具Ciを相対的に先行させ、把持具Coを相対的に遅延させてフィルムを搬送することにより、斜め延伸を行ってもよい。また、図7に示すように、フィルム幅手方向の一端側の把持具Ciの移動時間を、他端側の把持具Coの移動時間よりも短くするとともに、把持具Coの移動距離を他端側の把持具Ciの移動距離よりも短くして、把持具Ciを相対的に先行させ、把持具Coを相対的に遅延させてフィルムを搬送することで、斜め延伸を行ってもよい。これらの場合でも、斜め延伸工程後の熱固定工程において、第1の位置S1と第2の位置S2とを結ぶ直線Tが、斜め延伸工程の終了時点でのフィルムの搬送方向に垂直な幅手方向に対して角度θだけ斜めに傾き、かつ、第2の位置S2が第1の位置S1よりも搬送方向の上流側となるように、第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放することで、フィルムの波打ち状の変形を抑える本実施形態の効果を得ることができる。
<長尺延伸フィルムの品質>
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺状の斜め延伸フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅手方向の、面内リタデーションRoのバラツキが3nm以下、配向角θのバラツキが0.6°未満であることが好ましい。
すなわち、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺状の斜め延伸フィルムにおいて、面内リタデーションRoのバラツキは、幅手方向の少なくとも1300mmにおいて、3nm以下であり、1nm以下であることが好ましい。面内リタデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、長尺状の斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL画像表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、長尺延伸フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
また、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺状の斜め延伸フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅手方向の少なくとも1300mmにおいて、0.6°未満であり、0.4°未満であることが好ましい。配向角θのバラツキが0.6°以上の長尺状の斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺状の斜め延伸フィルムの面内リタデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx−ny)×d)である。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺状の斜め延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは10〜60μm、特に好ましくは10〜35μmである。また、上記斜め延伸フィルムの幅方向の厚みムラは、巻き取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
<円偏光板>
本実施形態の円偏光板は、偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4位相差フィルムがこの順で積層されており、前記λ/4位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(または透過軸)とのなす角度が45°である。なお、上記の偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4位相差フィルムは、それぞれ、図8の保護フィルム313、偏光子312、λ/4位相差フィルム311にそれぞれ対応している。本実施形態においては、長尺状偏光板保護フィルム、長尺状偏光子、長尺状λ/4位相差フィルム(長尺状の斜め延伸フィルム)がこの順で積層して形成されることが好ましい。
本実施形態の円偏光板は、偏光子として、ヨウ素または二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4位相差フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わされることが好ましい。
偏光板は、更に当該偏光板の偏光板保護フィルムの反対面に剥離フィルムを貼合して構成することができる。保護フィルムおよび剥離フィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
<有機EL画像表示装置>
図8は、本実施形態の有機EL画像表示装置100の概略の構成を分解して示す断面図である。なお、有機EL画像表示装置100の構成は、これに限定されるものではない。
有機EL画像表示装置100は、有機EL素子101上に接着層201を介して円偏光板301を形成することによって構成されている。有機EL素子101は、ガラスやポリイミド等を用いた基板111上に、順に、金属電極112、発光層113、透明電極(ITO等)114、封止層115を有して構成されている。なお、金属電極112は、反射電極と透明電極とで構成されていてもよい。
円偏光板301は、有機EL素子101側から順に、λ/4位相差フィルム311、偏光子312、保護フィルム313を積層してなり、偏光子312がλ/4位相差フィルム311と保護フィルム313とによって挟持されている。偏光子312の透過軸と、本実施形態の長尺状の斜め延伸フィルムからなるλ/4位相差フィルム311の遅相軸とのなす角度が約45°(または135°)となるように両者を貼り合わせることで、円偏光板301が構成されている。
上記の保護フィルム313には硬化層が積層されていることが好ましい。硬化層は、有機EL画像表示装置の表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板301による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機EL素子101自体の厚さは1μm程度である。
上記の構成において、金属電極112と透明電極114とに電圧を印加すると、発光層113に対して、金属電極112および透明電極114のうちで陰極となる電極から電子が注入され、陽極となる電極から正孔が注入され、両者が発光層113で再結合することにより、発光層113の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層113で生じた光は、直接または金属電極112で反射した後、透明電極114および円偏光板301を介して外部に取り出されることになる。
一般に、有機EL画像表示装置においては、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)が形成されている。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、これらの正孔注入層、発光層、電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機EL画像表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
有機EL画像表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
このような構成の有機EL画像表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL画像表示装置の表示面が鏡面のように見える。
本実施形態の円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機EL画像表示装置に適している。
すなわち、有機EL素子101の非発光時に、室内照明等により有機EL素子101の外部から入射した外光は、円偏光板301の偏光子312によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、λ/4位相差フィルム311に入射する。λ/4位相差フィルム311に入射した光は、偏光子312の透過軸とλ/4位相差フィルム311の遅相軸とが45°(または135°)で交差するように配置されているため、λ/4位相差フィルム311を透過することにより円偏光に変換される。
λ/4位相差フィルム311から出射された円偏光は、有機EL素子101の金属電極112で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆回りの円偏光として反射される。この反射光は、λ/4位相差フィルム311に入射することにより、偏光子312の透過軸に垂直(吸収軸に平行)な直線偏光に変換されるため、偏光子312で全て吸収され、外部に出射されないことになる。つまり、円偏光板301により、有機EL素子101での外光反射を低減することができる。
<実施例>
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
[長尺フィルムの作製]
(長尺フィルムA1の作製)
長尺フィルムA1としての脂環式オレフィンポリマー系樹脂フィルムを、以下の製造方法によって作製した。
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500質量部に、1−ヘキセン1.2質量部、ジブチルエーテル0.15質量部、トリイソブチルアルミニウム0.30質量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)20質量部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)140質量部および8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下、MTDと略記)40質量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40質量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06質量部とイソプロピルアルコール0.52質量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100質量部に対して、シクロヘキサン270質量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮触媒化成(株)製)5質量部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/MTD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体((株)クラレ製;セプトン2002)および酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100質量部あたり0.1質量部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器((株)日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/MTD=10/70/20でほぼ仕込組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は31,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。
得られた開環重合体水素添加物のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。次いで、前記ペレットを、コートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機(三菱重工業(株)製:スクリュー径90mm、Tダイリップ部材質は炭化タングステン、溶融樹脂との剥離強度44N)を用いて溶融押出成形して厚み75μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺状の斜め延伸フィルムの厚みではない)のシクロオレフィンポリマーフィルムを製造した。押出成形は、クラス10,000以下のクリーンルーム内で、溶融樹脂温度240℃、Tダイ温度240℃の成形条件にて幅1500mmの長尺フィルムA1を得た。
(長尺フィルムB1の作製)
長尺フィルムB1としてのセルロースエステル系樹脂フィルムを、以下の製造方法によって作製した。
〈微粒子分散液〉
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
〈微粒子添加液〉
以下の組成に基づいて、メチレンクロライドを入れた溶解タンクに充分攪拌しながら、上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。さらに二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液 5質量部
〈主ドープ液〉
下記組成の主ドープ液を調製した。まず、加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解した。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。なお、糖エステル化合物およびエステル化合物は、以下の合成例により合成した化合物を用いた。また、化合物(B)は、以下のものを用いた。
《主ドープ液の組成》
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.39、プロピオニル基置換度0.50、総置換度1.89) 100質量部
化合物(B) 5.0質量部
糖エステル化合物 5.0質量部
エステル化合物 2.5質量部
微粒子添加液 1質量部
(糖エステル化合物の合成)
以下の工程により、糖エステル化合物を合成した。
攪拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.6モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、攪拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。
最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物(糖エステル化合物)を得た。
得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が1.3質量%、A−2が13.4質量%、A−3が13.1質量%、A−4が31.7質量%、A−5が40.5質量%であった。平均置換度は5.5であった。
〈HPLC−MSの測定条件〉
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
(エステル化合物の合成)
以下の工程により、エステル化合物を合成した。
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、攪拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、攪拌しながら徐々に昇温する。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物を得た。エステル化合物は、1,2−プロピレングリコール、無水フタル酸およびアジピン酸が縮合して形成されたポリエステル鎖の末端に安息香酸のエステルを有した。エステル化合物の酸価0.10、数平均分子量450であった。
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ステンレスベルト支持体上に均一に流延した。
無端ベルト流延装置では、上記主ドープ液をステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススティールベルト支持体上で、流延(キャスト)した長尺フィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト支持体上から剥離し、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、幅1500mmの長尺フィルムB1を得た。このとき長尺フィルムB1の膜厚は75μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺状の斜め延伸フィルムの厚みではない)であった。
(長尺フィルムC1の作製)
長尺フィルムC1としてのポリカーボネート系樹脂フィルムを、以下の製造方法によって作製した。
〈ドープ組成物〉
ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量4万、ビスフェノールA型) 100質量部
2−(2′ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−ベンゾトリアゾール
1.0質量部
メチレンクロライド 430質量部
メタノール 90質量部
上記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で80℃に保温し攪拌しながら完全に溶解して、ドープ組成物を得た。
次いで、このドープ組成物を濾過し、冷却して33℃に保ち、ステンレスバンド上に均一に流延し、33℃で5分間乾燥した。その後、65℃でリタデーション5nmになるように乾燥時間を調整し、ステンレスバンド上から剥離後、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ膜厚75μm(製膜工程により得られた乾燥後の長尺フィルムの厚みであり、延伸工程を経て作製される長尺状の斜め延伸フィルムの厚みではない)、幅1500mmの長尺フィルムC1を得た。
[比較例1]
上記にて得られたノルボルネン系樹脂の未延伸の長尺フィルムA1の巻状体を、図1で示した斜め延伸フィルムの製造装置1のフィルム繰り出し部2にセットし、フィルム繰り出し部2から長尺フィルムA1を繰り出して延伸部5に供給し、延伸部5にて斜め延伸を行って、膜厚が45μmの長尺状の斜め延伸フィルム1を得た。そして、斜め延伸フィルム1をフィルム巻き取り部8まで搬送してロール状に巻き取った。
なお、延伸部5での延伸条件は、フィルムの(Tg−10)℃〜(Tg+30)℃の範囲で適宜選択し、斜め延伸前のフィルム幅に対して斜め延伸後のフィルム幅が1.5倍となるように斜め延伸した。
また、延伸部5では、斜め延伸工程の終了時点で、フィルム幅手方向に一対の把持具が対向するように、レールRi・Roの長さおよび把持具15の搬送方向のピッチを設定した。具体的には、延伸部5において、把持具15の搬送方向の幅を40mmとし、搬送方向のピッチを50mmとした(即ち、搬送方向に隣り合う把持具間の距離を10mmとした)。また、延伸部5における先行側のレールRiの長さを4345mmとし、遅延側のレールRoの長さを5094mmとした。また、延伸部5でのフィルムの延伸角度(配向角α)は、30°に設定した。なお、上記の延伸角度とは、斜め延伸工程の終了時点でのフィルムの面内遅相軸とフィルム幅手方向とのなす角度を指す。延伸角度は、延伸部5の屈曲部(延伸ゾーンZ2)において、レールの長さ、屈曲度合いなどを変更することで調整した。
また、比較例1では、斜め延伸工程終了後の熱固定工程において、フィルムを搬送した後、フィルムの幅手方向に対向する一対の把持具15A・15Bによる把持を同時に開放して、斜め延伸されたフィルムを延伸部5から排出した。なお、第1の把持具15Aは、斜め延伸工程の終了後にフィルム幅手方向に対向する一対の把持具のうち、斜め延伸工程で先行する側を走行した把持具であり、第2の把持具15Bは、上記一対の把持具のうち、斜め延伸工程で遅延する側を走行した把持具である。すなわち、図4において、第1の把持具15Aがフィルムの把持を開放する位置を第1の位置S1とし、第2の把持具15Bがフィルムの把持を開放する位置を第2の位置S2とし、第1の位置S1と第2の位置S2とを結ぶ直線Tと、フィルム幅手方向とのなす角度をθとしたとき、比較例1では、θ=0°である。
[実施例1〜6]
角度θを表1に示す角度に変更した以外は、比較例1と同様にして、斜め延伸フィルム2〜7を得た。つまり、角度θが表1に示す角度となるように、第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放し、長尺状の斜め延伸フィルム2〜7を得た。
[評価]
得られた斜め延伸フィルム1〜7について、斜め延伸に起因する波打ち状の変形の有無を調べるため、斜め延伸フィルム1〜7を用いて円偏光板を作製し、光漏れの有無を調べた。
具体的には、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸した(温度110℃、延伸倍率5倍)。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬した。次いで、ヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥して偏光子を得た。
次に、上記で作製したフィルム(斜め延伸フィルム1〜7)の遅相軸と、偏光子の吸収軸とが45°となるように、完全ケン化型ポリビニルアルコール3%水溶液(水系接着剤)、または、アクリル系接着剤を用いて貼り合わせ、偏光子の裏面側には保護フィルム(コニカミノルタタックKC4UY、厚さ40μm、コニカミノルタ(株)製)を同じく接着剤によって貼り合わせて円偏光板を作製した。なお、接着剤の種類は、作製したフィルムの樹脂種に応じて適宜選択し、貼り合わせる際のフィルムと偏光子との剥離力が10N/25mm以下となるように接着剤の量を調整した。その後、フィルムを乾燥させるなどして硬化を完了させた。硬化完了後には、剥離力が10N/25mm以上であった。なお、剥離力の測定は、引っ張り試験機(島津製作所社製「オートグラフィー」)を用いて、剥離速度0.3mm/min、剥離角度180°の条件で測定した。このときの測定条件は、JIS Z−0237に準拠するものである。
得られた円偏光板を、アクリル系粘着剤を介して有機ELパネル(LGディスプレイ社製 商品名15EL9500)の視認側に貼り合せて有機EL表示装置を作製した。なお、評価に用いた上記有機ELパネルは、表面に貼り合わされてある反射防止フィルムを予め剥離してから使用した。
そして、有機ELパネルを点灯させ、目視にて画像を確認し、延伸完了後に発生していた波打ち状の変形に起因する光漏れ(スジ状の光漏れ)を、以下の評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○・・・光漏れが全く見えない。
△・・・フィルム製品部(斜め延伸フィルムの幅手方向の両端部を除いてフィルム製品となる部分)以外で光漏れが若干見えるが、実使用上問題なし。
×・・・フィルム製品部で光漏れが見え、実使用上問題がある。
比較例1(斜め延伸フィルム1)および実施例1〜6(斜め延伸フィルム2〜7)の評価の結果を表1に示す。
表1より、比較例1では、光漏れが生じている。これは、比較例1では、延伸部5での斜め延伸の終了後、フィルムの幅手方向の両端部の把持を同時に開放していることから、斜め延伸方向においては、フィルムの一端側が先に開放されることになり、このため、他端側に残存する応力によってフィルムに波打ち状の変形が生じ(図11参照)、この変形がその後の搬送過程で折れ皺となり、フィルム表面の凹凸によって光漏れが生じたものと考えられる。
これに対して、実施例1〜6では、少なくともフィルム製品部において光漏れが生じていない。実施例1〜6では、幅手方向に対向する一対の把持具(第1の把持具15A、第2の把持具15B)のうち、遅延側の第2の把持具15Bによる把持を先行側の第1の把持具15Aによる把持よりも先に開放することで、把持開放位置を結ぶ直線Tが斜め延伸方向に近くなり、斜め延伸方向において、フィルムの一端側および他端側の把持が開放されるタイミングが近づく。このため、斜め延伸方向の残留応力が少なくともフィルム製品部で無くなり、上記応力に起因する波打ち状の変形がフィルムに生じるのを抑えて、折れ皺の発生を抑えることができ、その結果、光漏れを抑えることができたものと考えられる。
また、表2は、フィルムを偏光子に貼り付けるときの接着剤の種類および量を変更して、剥離力(接着力)を種々変更し、上記と同様にして光漏れについて調べた結果を示している。
表2より、剥離力が10N/25mm以下と小さい場合において、比較例1では光漏れが生じているが、実施例1〜6では少なくともフィルム製品部において光漏れが生じていない。したがって、波打ち状の変形およびそれに起因する光漏れを抑えることができる実施例1〜6の斜め延伸フィルムの製法方法は、特に、剥離力が10N/25mm以下と小さく、波打ち状の変形が生じやすい場合において非常に有効であると言える。
[比較例2]
斜め延伸工程において、延伸角度(配向角α)が10°となる延伸条件で斜め延伸を行った以外は、比較例1と同様にして、斜め延伸フィルム8を得た。
[実施例7〜21]
角度θを表3に示す角度に変更し、かつ、配向角αが表3に示す角度となる延伸条件で斜め延伸を行った以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸フィルム9〜23を得た。
[評価]
得られた斜め延伸フィルム8〜23について、以下のようにして配向角のバラツキを調べた。
(配向角の幅手分布)
得られた斜め延伸フィルム8〜23の配向角αを位相差測定装置(王子計測(株)製、KOBRA−WXK)を用いて測定した。評価方法としては、斜め延伸フィルムのフィルム幅手方向に50mmの間隔で測定を行い、全測定値の最大値と最小値との差を配向角のバラツキとした。同様の測定をフィルムの長尺方向に50mm間隔で10ヵ所行い、その平均値を斜め延伸フィルムの配向角の幅手分布とした。そして、以下の評価基準に基づいて、配向角のバラツキを評価した。
《評価基準》
○:配向角の幅手分布(平均値)が、0°以上0.3°未満である。
△:配向角の幅手分布(平均値)が、0.3°以上0.6°未満である。
×:配向角の幅手分布(平均値)が、0.6°以上である。
比較例2(斜め延伸フィルム8)および実施例7〜21(斜め延伸フィルム9〜23)の評価の結果を表3に示す。
表3より、実施例7〜10のように、α=10°のとき、α−10°<θ≦α+10°であり、実施例11〜21のように、10°<α≦55°のとき、α−10°≦θ≦α+10°である場合、比較例2(θ=0°、α=10°)の場合に比べて、配向角のバラツキが低減されていると言える。これは、角度θおよび配向角αが上記範囲内である場合、角度θが配向角αに確実に近づくことで、斜め延伸の応力に起因する波打ち状の変形を確実に抑えることができ、その波打ち状の変形に起因して起こる配向角のバラツキが低減されるためと考えられる。
[実施例23〜34]
角度θを表4に示す角度に変更し、かつ、配向角αが表4に示す角度となる延伸条件で斜め延伸を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例22〜33の斜め延伸フィルムを得た。このとき、各実施例22〜33のそれぞれにおいて、製膜条件を変更して、膜厚が45μm、30μm、20μmである3種類の斜め延伸フィルムを作製した。
[評価]
得られた各実施例22〜33の斜め延伸フィルムにおいて、フィルムの幅手方向の両端部、つまり、把持具で把持される部分の穴あき具合を目視で確認した。そして、以下の評価基準に基づき、穴あきの有無を評価した。
《評価基準》
◎:穴あきなし
○:遅延側の把持具がレールを一周する間に、穴あき部分の数が1〜4個である。
△:遅延側の把持具がレールを一周する間に、穴あき部分の数が5個以上である。
×:穴あき部からフィルムが破断し、搬送不可である。
実施例22〜33の評価の結果を表4に示す。
35°≦α≦50°の範囲では、延伸方向の応力が高いため、応力が残っていると、把持具による搬送時に把持部分に穴あきが生じやすくなり、特に薄膜のフィルムにおいて穴あきが発生しやすくなる。しかし、表4より、35°≦α≦50°の範囲では、膜厚45μm、30μm、20μmの全ての斜め延伸フィルムにおいて、配向角αが上記範囲外である場合に比べて、穴あきの個数が減っている。よって、第1の把持具15Aよりも先に第2の把持具15Bによるフィルムの把持を開放する本実施形態の手法は、特に、35°≦α≦50°の薄膜のフィルムを製造する場合に効果があると言える。
なお、以上では、ノルボルネン系樹脂からなる長尺フィルムA1を斜め延伸した例について説明したが、セルロースエステル系樹脂フィルムからなる長尺フィルムB1を斜め延伸した場合でも、ポリカーボネート系樹脂フィルムからなる長尺フィルムC1を斜め延伸した場合でも、実施例1〜33と同様の手法でフィルムの幅手両端部の把持具の把持を開放することにより、実施例1〜33と同様の結果が得られることが確認された。