以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である電池システム10の構成を示す図である。また、図2は、この電池システム10で用いる電池セル30の構成を示す図である。
この電池システム10は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に搭載されるもので、走行用の回転電機に電力を供給する車載バッテリ12を備えている。車載バッテリ12は、複数の電池スタック13を直列に接続して構成されている。また、各電池スタック13は、複数の電池セル30を直列に接続して構成されている。電池セル30および電池スタック13の個数は、車載バッテリ12に求められる性能に応じて決定される。また、車載バッテリ12に要求される性能や、電池セル30の性能に応じて、複数の電池セルおよび複数の電池スタック13は、直列ではなく、並列に接続されてもよい。電池セル30は、充放電可能な二次電池で、例えば、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の非水電解質二次電池である。各電池セル30には、後述するように、過充電を防止するために、電池ケース内の内圧が一定以上になれば、当該電池セル30と外部との間の電流を遮断する電流遮断機構(以下「CID」と呼ぶ)60が設けられている。
車載バッテリ12は、システムメインリレー、変圧器、インバータを介して回転電機(いずれも図示せず)に接続されている。回転電機は、車両の走行用動力を出力するモータとして機能するとともに、動力を電力に変換するジェネレータとしても機能する。回転電機で発電された電力は、インバータ、変圧器を介して、車載バッテリ12に送られ、これにより、車載バッテリ12が充電される。また、回転電機は、モータとして機能する場合には、車載バッテリ12から送られた電力で駆動する。
車載バッテリ12の充放電は、制御部14により管理制御される。また、制御部14は、電池セル30に設けられたCIDの劣化の有無を判定する劣化判定部としても機能する。制御部14は、各種演算を行うCPU22と、各種プログラムやパラメータを記憶する記憶部24と、電池スタック13の使用期間Buseをカウントするカウンタ26と、を備えている。この制御部14には、車載バッテリ12に設けられた電圧センサ、電流センサ(図示せず)、温度センサから、端子間電圧、充放電電流、電池温度Tbなどの情報が入力される。制御部14は、これらセンサで取得された情報に基づいて車載バッテリ12のSOCを算出する。また、後に詳説するように、制御部14は、得られた電池温度Tbおよび使用期間Buseに基づいて、各電池セル30に設けられた電流遮断機構(以下「CID60」と略す)の劣化判定を行う。
次に、図2を参照して、車載バッテリ12を構成する電池セル30について説明する。本実施形態の電池セル30は、リチウムイオン二次電池であり、角型のケース32を有している。このケース32は、上端が開放された有底の扁平な箱型形状のケース本体34と、ケース本体34の開口部を塞ぐ蓋体36とに大別される。ケース32内には、非水電解質と共に捲回電極体40が収容されている。詳細には、シート状の正極44とシート状の負極46との間にセパレータを介在させて正極44と負極46とを積層した後、当該積層体を扁平に捲回することにより、捲回電極体40が作製される。蓋体36には、正極端子50と負極端子52とが設けられている。正極端子50は、捲回電極体40の正極44と電気的に接続する端子である。負極端子52は、捲回電極体40の負極46と電気的に接続する端子である。また、蓋体36には、ケース本体34内に非水電解質を注入するための注入口が形成されている。その注入口は、非水電解質が注入された後に封止栓54によって封止される。非水電解質には、過充電時に正極44において分解反応することでガスを発生させるガス発生添加剤が含まれている。
ケース32内には、CID60が設けられている。CID60は、過充電時にガス発生添加剤が正極44において分解反応することで発生したガスに応じて電流を遮断する。一例として、CID60は、過充電時に発生したガス圧によって電池ケース32内の圧力が予め設定された閾値以上になると、電池セル30の充電を停止する。CID60は、ケース32内の圧力が上昇した場合に、少なくとも一方の電極端子から捲回電極体40に至る導電経路を切断するように構成されていればよく、特定の形状に限定されない。図2に示す例では、CID60は、正極端子50と捲回電極体40との間に設けられており、電池ケース32内の圧力が上昇した場合に正極端子50から捲回電極体40に至る導電経路を切断するように構成されている。
より具体的には、CID60は、第1部材62と第2部材66とを含む。第1部材62及び第2部材66は、いずれも導電性を有した金属板である。第1部材62は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有しており、その周縁部分がリード端子68を介して正極端子50の下面に接続されている。また、第1部材62の湾曲部分64の先端が、第2部材66の上面に接合されている。第2部材66の下面は、捲回電極体40の正極44に接続されている。このようにして、正極端子50から捲回電極体40に至る導電経路が形成されている。
また、CID60は、プラスチック等によって形成された絶縁ケース72を備えている。絶縁ケース72は、第1部材62を囲むように設けられており、第1部材62の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された部分には、ケース32内の圧力が作用しない。また、絶縁ケース72には開口部が形成されており、その開口部に、第1部材62の湾曲部分64が嵌め込まれている。第1部材62の周縁部分は、絶縁ケース72に固定されている。湾曲部分64の下面は、当該開口部からケース32の内部に露出している。電池ケース32内に露出した湾曲部分64の下面には、ケース32内の圧力が作用する。
上記の構成を有するCID60において、ケース32内の圧力が上昇すると、その圧力が第1部材62の湾曲部分64の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分64が上方に押し上げられる。湾曲部分64の上方への押し上げは、ケース32内の圧力が上昇するに従い増大する。そして、ケース32内の圧力が閾値以上になると、湾曲部分64が上下反転し上方へ湾曲するように変形する。この変形によって、第1部材62と第2部材66との接合点が切断される。これにより、正極端子50から捲回電極体40に至る導電経路が切断され、過充電電流が遮断されるようになっている。なお、CID60は、正極端子50側に限らず、負極端子52側に設けられていてもよい。
ところで、上述したCID60は、その構成上、過充電の時に限らず、ケース32内の内圧が上昇すれば、作動することになる。そして、電池セル30は、過充電のときだけでなく、通常の使用の際にも、僅かずつではあるがガスを発生させる。その結果、電池セル30を長期間使用すると、ケース32内の圧力Pが上昇し、過充電でなくても、CID60が作動(電流が遮断)することがある。このように、過充電以外の理由で、CID60が作動して電流が遮断されるタイミングを、以下では、「CID60の寿命」と称する。
CID60が寿命を迎えると、当然ながら、当該CID60を搭載している電池セル30に流れる電流が遮断され、車両の快適な走行が妨げられるおそれがある。そのため、CID60の寿命が近づいた段階で、電池セル30の診断や、必要なら、交換を行うことが望ましい。そこで、本実施形態では、電池スタック13ごとの電池温度Tbに基づいて、CID60の劣化の有無を判定している。以下、このCID60の劣化の有無判定について説明する。
図3は、制御部14の機能ブロック図である。CID60の劣化判定装置としても機能する制御部14は、機能的には、記憶部24とカウンタ26との他に、更新部80、平均算出部82、寿命年数特定部84、判定部86を備えている。この各部の説明に先だって、記憶部24に記憶されているデータの内容について説明する。
CID60の劣化判定のために、制御部14の記憶部24には、予め、ダメージ速度データ90と、寿命マップ92と、が記憶されている。また、制御部14の記憶部24には、温度頻度分布データ94および使用期間データ96も記憶されており、更新部80は、定期的に、温度頻度分布データ94および使用期間データ96の内容を更新している。
はじめに、ダメージ速度データ90について図4、図5を参照して説明する。図4は、ダメージ速度データ90の一例を示す図であり、図5は、ダメージ速度vi(i=0,1,・・・,n)の一例を示すグラフである。ダメージ速度データ90は、複数の温度域TbiごとのCID60のダメージ速度Kiを記録したデータである。ダメージ速度viとは、単位時間当たりにCID60が受けるダメージ量である。本実施形態では、単位時間√dayの間における電池ケース内圧の上昇量(MPa/√day)を、ダメージ速度viとしている。このダメージ速度viは、図5に示す通り、電池温度Tbが高いほど、大きくなる傾向がある。そこで、予め、実験やシミュレーションにより、複数の温度域Tbiごとのダメージ速度viを取得し、得られたダメージ速度viを、ダメージ速度データ90として記憶部24に記憶している。一度記憶されたダメージ速度データ90は、原則、更新されることなく、初期の内容が維持される。なお、本実施形態では、温度域Tbiごとのダメージ速度viの表を、ダメージ速度データ90として記憶しているが、温度域Tbiごとのダメージ速度viが特定できるのであれば、他の情報を記憶してもよい。例えば、ダメージ速度Viは、所定の定数bと温度域Tbi(摂氏温度)の絶対温度変換値Kbiとを用いて、vi=exp[b/Kbi]として表すことができるため、この定数bのみをダメージ速度データ90として記憶してもよい。
次に、寿命マップ92について図6を参照して説明する。図6は、寿命マップ92の一例を示す図である。寿命マップ92は、平均ダメージ速度VとCID60の寿命年数との対応関係を記録したマップである。すなわち、寿命マップ92は、CID60が、平均ダメージ速度Vでダメージを受け続けた場合に、当該CID60が寿命を迎える使用期間(寿命年数Blife)を示すマップである。CID60の寿命は、図6に示す通り、平均ダメージ速度Vが大きい程、短くなる。こうしたダメージ速度と寿命との関係を、予め、実験やシミュレーションにより取得し、寿命マップ92として記憶部24に記憶している。なお、以下では、平均ダメージ速度Vと寿命年数Blifeとの関係を示す曲線を「寿命曲線」と呼ぶ。
次に、温度頻度分布データ94について図7、図8を参照して説明する。図7は、温度頻度分布データ94の一例を示す図であり、図8は、温度頻度分布の一例を示すグラフである。温度頻度分布データ94は、各温度域Tbiごとの電池温度Tbの出現頻度(以下「温度頻度Pi」と呼ぶ)を示すデータである。制御部14は、所定のサンプリング周期で、この温度頻度Piを算出し、算出結果に応じて、温度頻度分布データ94を更新している。
より具体的に説明すると、電池スタック13を使用開始してからのサンプリング回数をCmaxとし、特定の温度域Tbiの出現回数をCiとした場合、温度頻度Piは、Pi=Ci/Cmaxとなる。したがって、全温度域Tbiの温度頻度Piの合算値(P1+P2+・・・+Pn)は、常に「1」となる。なお、1サンプリング周期で、温度センサ16による検出温度が複数取得できる場合がある。例えば、1サンプリング周期内で、温度検出が複数回行われた場合や、一つの電池スタック13に複数の温度センサ16が設けられている場合には、1サンプリング周期中に、複数の検出温度が取得できる。この場合には、複数の検出温度の統計値、例えば平均値や最大値、最小値等を電池温度Tbとして扱えばよい。
温度頻度分布データ94は、全ての温度域Tbiにおける温度頻度Piを、電池スタック13ごとに記録したデータである。制御部14は、図7に示すように、各電池スタック13ごとに、複数の温度域Tbiそれぞれの温度頻度Piを記録した表を温度頻度分布データ94として記憶している。なお、図7では、温度頻度Piの後にスタックナンバーを付して表記しているが、本願明細書中では、原則として、スタックナンバーを示す添字を省略して説明する。
制御部14の更新部80は、サンプリング周期ごとに温度頻度分布データ94を更新するが、この更新の流れについて、説明する。更新部80は、サンプリング時に出現した温度域Tbiの温度頻度Piを{更新前の温度頻度×(総回数−1)+1}/(総回数)の値に更新し、サンプリング時に出現していない温度域Tbiの温度頻度Piを{更新前の温度頻度×(総回数−1)}/(総回数)の値に更新する。例えば、10回目のサンプリング時における温度域Tb1の温度頻度P1が「0.2」、温度域Tb2の温度頻度P2が「0.3」であったとする。この状態で、11回目のサンプリング時に、温度域Tb2の温度が出現したとする。この場合、11回目までの間に温度域Tb1が検出された回数は、(P1×10)=(0.2×10)=2であるため、11回目における温度域Tb1の温度頻度P1は、P1=2/11≒0.1818となる。一方、11回目に温度域Tb2の温度が新たに検出された場合、11回目までに温度域Tb2が検出された回数は、(P2×10+1)=(0.3×10+1)=4である。したがって、11回目における温度域Tb2の温度頻度P2は、P2=4/11≒0.3636となる。更新部80は、サンプリング周期ごとに、こうした演算を行い、温度頻度分布データ94を更新している。
更新部80は、さらに、カウンタ26でのカウント値に基づいて、各電池スタック13の使用期間データ96も随時、更新している。使用期間データ96は、電池スタック13の使用期間Buseを記録したデータである。ここで、使用期間Buseとは、電池スタック13を車両に搭載してから現在に至るまでの総期間のことである。したがって、電池スタック13が負荷(回転電機等)に接続されておらず、電池セル30に電流が流れていない期間も、使用期間Buseの一部としてカウントされる。
平均算出部82は、温度頻度分布データ94と、ダメージ速度データ90と、に基づいて、CID60がこれまで受けたダメージの平均進行速度、すなわち、平均ダメージ速度Vを算出する。平均ダメージ速度Vは、温度域Tbiのダメージ速度viと、温度域Tbiの温度頻度Piとの乗算値の積算値である。すなわち、平均ダメージ速度Vは、次の式1で表される。平均算出部82は、この式1に基づいて、平均ダメージ速度Vを算出する。
寿命年数特定部84は、この平均ダメージ速度Vを寿命マップ92に照らしあわせて、現在のCID60の寿命年数Blifeを特定する。例えば、図6の例において、平均ダメージ速度V=Vaであった場合、寿命年数Blifeは、Baとなる。
判定部86は、この寿命年数Blifeと、電池スタック13の使用期間Buseとを比較する。比較の結果、使用期間Buseが、寿命年数Blife以上の場合、判定部86は、CID60が劣化していると判断する。この場合は、例えば、電池スタック13の診断や交換を促すメッセージをユーザに通知する。一方、使用期間Buseが、寿命年数Blife未満の場合、判定部86は、CID60は劣化しておらず、電池スタック13の交換は不要と判断する。
次に、こうした電池システム10におけるCID60の劣化判定の流れについて図9を参照して説明する。図9は、劣化判定処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、電池スタック13が使用開始されてからスタートし、サンプリング周期ごとに繰り返し実行される。また、図9のフローチャートは、一つの電池スタック13についての処理を示しており、制御部14は、複数の電池スタック13それぞれについて、図9に示す処理を実行する。
劣化判定のために、制御部14は、温度センサ16での検出値に基づいて、各電池スタック13の電池温度Tbを取得する(S10)。電池温度Tbが得られれば、当該電池温度Tbに基づいて、温度頻度分布データ94および使用期間データ96を更新する(S12)。具体的には、既述した通り、出現した温度域の温度頻度Piを{更新前の温度頻度×(総回数−1)+1}/(総回数)の値に更新し、サンプリング時に出現していない温度域の温度頻度Piを{更新前の温度頻度×(総回数−1)}/(総回数)の値に更新する。また、カウンタ26のカウント値に基づいて、使用期間データ96も更新する。
次に、更新された温度頻度分布データ94と、予め記憶されているダメージ速度データ90と、に基づいて、平均ダメージ速度Vを算出する。この平均ダメージ速度Vは、既述した通り、式1で算出される(S14)。
平均ダメージ速度Vが算出できれば、当該平均ダメージ速度Vを寿命マップ92に照らし合わせて、現時点での寿命年数Blifeを特定する(S16)。そして、この寿命年数Blifeと、使用期間Buseと、を比較する(S18)。比較の結果、使用期間Buseが、寿命年数Blife以上であれば、CID60が劣化して寿命を迎えていると判断する(S20)。一方、使用期間Buseが、寿命年数Blife未満であれば、CID60は、劣化していないと判断して、ステップS10に戻る。
以上の説明から明らかな通り、本実施形態では、温度頻度分布データ94およびダメージ速度データ90に基づいて、平均ダメージ速度Vを算出し、この平均ダメージ速度Vから求まる寿命年数Blifeと使用期間Buseとの比較に基づいてCID60の劣化有無を判定している。その結果、本実施形態では、従来技術に比べて、CID60の劣化判定に要する計算資源を大幅に低減できる。
すなわち、従来技術の多くは、各サンプリング周期ごとに、CID60が受けたダメージ量を算出し、このダメージ量を、随時積算し、その積算値と規定の閾値との比較により劣化の有無を判定している。この場合、ダメージ量を順次、積算していく必要があり、電池スタック13の使用期間Buseの増加に伴い、記憶するデータ容量およびデータ処理量が、増加していくため、CID60の劣化判定に多くの計算資源が必要であった。しかし、電池システム10が搭載される電動車両では、搭載できる計算資源に限りがあるため、CID60の劣化判定に多くの計算資源を割り当てることは難しかった。
一方、本実施形態では、ダメージ量は算出せず、サンプリング周期ごとに、温度頻度分布を更新している。温度頻度分布は、使用期間Buseやサンプリング回数に関わらず、常に、その総和(ΣPi)が「1」になるデータである。したがって、経年に伴うデータ増加は、殆どない。また、ダメージ速度viや、寿命判定マップも、使用期間Buseやサンプリング回数に応じて変化しないデータであるため、経年に伴うデータ増加は、ない。そして、この経年によりデータ増加しないパラメータを用いて、サンプリング周期の度に、新たに、寿命年数Blifeを算出し、使用期間Buseと比較している。したがって、ダメージ量を随時積算していく従来技術と比べて、記憶するデータ容量およびデータ処理量を大幅に低減できる。結果として、CID60の劣化判定に要する計算資源を大幅に低減しつつも、CID60の劣化を適切に判定することができる。
次に、制御部14が途中交換された場合の処理について説明する。これまでの説明では、電池スタック13を搭載してから現在まで、同一の制御部14を使用することを前提としていた。しかし、電子部品の劣化等に起因して、電池スタック13の使用途中で、制御部14が交換されることがある。このように制御部14が途中交換された場合には、平均ダメージ速度Vの算出方法が上述の実施形態と異なる。
具体的には、制御部14が途中交換された場合、交換後の制御部14には、交換直前に算出された平均ダメージ速度である交換前平均ダメージ速度Vbeと、交換直前時点での電池スタック13の使用期間Bbeと、が記憶される。また、交換後の制御部14は、交換後に取得された電池温度Tbに基づいて温度頻度分布データ94を更新するとともに、当該温度頻度分布データ94や使用期間Baf等に基づいて、交換してから現在までの平均ダメージ速度である交換後平均ダメージ速度Vafを算出する。ここで、使用期間Bafとは、制御部14を交換してから現在までの電池スタック13の使用期間である。したがって、電池スタック13を使用開始してから現在までの使用期間Buseは、制御部14の交換直前までの使用期間Bbeと、制御部14を交換してからの使用期間Bafとの合算値となる(Buse=Bbe+Baf)。
交換後の制御部14は、交換後平均ダメージ速度Vafが算出できれば、この交換後平均ダメージ速度Vafと交換前平均ダメージ速度Vbeと、使用期間Baf,Bbeとに基づいて電池スタック13の平均ダメージ速度Vとして算出する。具体的には、V=(Vaf×Baf+Vbe×Bbe)/Buseの演算を行い、平均ダメージ速度Vを算出する。平均ダメージ速度Vが算出されれば、図9で説明した実施形態と同様に、平均ダメージ速度Vを寿命マップ92に照らし合わせて、現在の電池スタック13の寿命年数Blifeを特定する。そして、特定された寿命年数Blifeと使用期間Buseとの比較結果に基づいて、CID60の劣化を判定する。
図10は、制御部14が途中交換された場合の劣化判定処理の流れを示すフローチャートである。この場合、ステップS22〜S26は、図9におけるステップS10〜S14とほぼ同じである。すなわち、制御部14は、電池温度Tbを取得し、取得した電池温度Tbに応じて温度頻度分布データ94を、カウント値に基づいて使用期間データ96を更新し、さらに、更新後の温度頻度分布データ94とダメージ速度データ90に基づいて交換後平均ダメージ速度Vafを算出する。続いて、制御部14は、予め記憶部24に記憶してある交換前平均ダメージ速度Vbeと使用期間Bbeとを読み込む(S28)。そして、交換前平均ダメージ速度Vbeと交換後平均ダメージ速度Vafと、使用期間Bbe,Bafとに基づいて、平均ダメージ速度Vを算出する(S30)。平均ダメージ速度Vを算出した後のステップS32〜S36は、図9におけるステップS16〜S20とほぼ同じである。
以上の通り、交換前の平均ダメージ速度Vbeと使用期間Bbeとを交換後の制御部14に記憶しておくことで、制御部14を途中交換した場合でも、CID60の平均ダメージ速度を容易に算出でき、ひいては、CID60の劣化を適切に判定できる。
なお、これまでの説明では、寿命マップ92の寿命曲線が常に一定であるとして説明したが、電池スタック13の状況に応じて、寿命マップ92に記録されている寿命曲線を適宜、変更してもよい。例えば、上述の実施形態では、電池温度Tbの出現頻度に基づいて、平均ダメージ速度Vを算出している。しかし、CID60の平均ダメージ速度Vは、電池温度Tb以外の理由でも変化することがある。例えば、電池スタック13を構成する電池セル30において、外部短絡が生じると、CID60の劣化が進む。この外部短絡に起因するCID60の寿命低下を反映させるために、外部短絡が検知される度に、劣化判定に用いる寿命マップ92の寿命曲線を、寿命低下側にシフトさせてもよい。
すなわち、上位制御装置、例えば、車両の駆動を制御するハイブリッドECU等は、外部短絡の有無を検知している。制御部14の更新部80は、この上位制御装置から外部短絡発生を示す信号を受信した場合、寿命マップ92の記録されている寿命曲線を、寿命低下側、すなわち、左側または下側にシフトさせる。寿命曲線のシフト量は、外部短絡の検出回数に応じて段階的に大きくすることが望ましい。図11は、寿命曲線のシフトの一例を示す図である。図11において実線は、初期状態(短絡回数0)の寿命曲線である。一点鎖線は、外部短絡が1回検出された後の寿命曲線を示しており、二点鎖線は、外部短絡が2回検出された後の寿命曲線を示している。このように、外部短絡の発生回数に応じて寿命低下側にシフトされた寿命曲線を用いることで、外部短絡の影響を加味した寿命年数を算出することができ、CID60の劣化をより正確に判定できる。