以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
[第1の実施形態]
<圧電磁石モータ>
図1は、圧電ステッピングモータと永久磁石モータを備えた圧電磁石モータを説明する平面図である。図1(A)はロータ及び永久磁石を含む回転子を示す平面図であり、図1(B)は圧電素子及び電磁石を含む固定子を示す平面図であり、図1(C)は図1(A)に示す回転子と図1(B)に示す固定子を重ね合わせた圧電磁石モータを示す平面図である。図2は、図1(B),(C)に示す電磁石の一例を示す右ねじコイルである。
図1(A)に示すように、回転子351は平面形状が円形状を有し、その回転子351の外周にはリング状のロータ301が配置されている。ロータ301は所定のピッチで規則的に並んだ凹凸部構造の櫛歯部分を有する(図4参照)。ロータ301の内側にはN極の永久磁石303、S極の永久磁石304、N極の永久磁石305、S極の永久磁石306が交互に円周上に配置されている。なお、本第1の実施形態では、4つの永久磁石をロータ301の内側に配置しているが、5つ以上の永久磁石をロータの内側に配置してもよい。
図1(B)に示すように、固定子352は平面形状がリング状のステータ302を有し、ステータ302上には複数の圧電素子354及び複数の電磁石355がリング形状に沿って配置されている。圧電素子354と電磁石355は交互に配置されている。電磁石355は互いに間隔を空けて円周上に配置されている。ステータ302は所定のピッチで規則的に並んだ凹凸部構造の櫛歯部分を有する(図4参照)。
複数の電磁石355それぞれは、図2に示すように、芯355aと、芯355aに絶縁電線355bを巻き付けたものを有する。芯355aは例えば鉄芯であり、絶縁電線355bは例えば銅線等を絶縁物で被覆した線である。絶縁電線355bに第1の矢印の方向に電流iを流すことで、芯355aの一方をS極とした電磁石とすることができ、また第2の矢印の方向(第1の矢印と逆方向)に電流iを流すことで、芯355aの一方をN極とした電磁石とすることができる。
複数の圧電素子354それぞれは、第1の電極と第2の電極に挟まれた圧電体を有する(図示せず)。圧電体は、バルク状圧電体であってもよいし、膜状圧電体であってもよく、詳細は後述する。
<バルク状圧電体>
Pb(Zr,Ti)O3(以下、「PZT」という。)のバルク状圧電体の製造方法について説明する。
多結晶PZT粉末を焼成し、この多結晶PZT粉末を樹脂と混合し、その混合物をシート状にしたPZTシートを形成する。このPZTシートを積層し、焼き固めることで、バルク状圧電体を作製することができる。焼き固めた後の1層のPZTシートの厚さは20μm以上である。このバルク状圧電体の詳細な製造方法は、例えば特表2013−518420号公報に開示されている。
なお、本第1の実施形態では、圧電体にPZTのバルク状圧電体を用いているが、圧電体にPZT以外のバルク状圧電体を用いることも可能である。
図1(C)に示す圧電磁石モータは、図1(A)に示す回転子351上に図1(B)に示す固定子352を重ね合わせて配置されている。回転子351は軸353を回転中心として回転可能に設けられている。圧電磁石モータの外周は、図4に示すように、圧電素子354上にステータ302が配置され、ステータ302上にロータ301が配置された状態となっている。
図1(C)に示す圧電磁石モータは、回転子351の永久磁石303〜306と固定子352の電磁石355を含む永久磁石モータを有する。例えば時計方向に沿って、全ての電磁石355により発生する磁界の分布であって、固定子352の内周面に沿って一定の間隔で極性が逆転する磁界の分布が、さらに軸353を回転中心として回転するように、電磁石355に流す電流を周期的に変化させる。そして、軸353を回転中心として回転する磁界の分布に追随して、回転子351が回転する。このように永久磁石モータが動作する。なお、電磁石355に流す電流は電源(図示せず)によって供給され、その電源は制御部(図示せず)によって制御される。
これに加えて、図1(C)に示す圧電磁石モータでは、圧電素子354に含まれるバルク状圧電体または膜状圧電体を圧電ステッピングモータとして用いることによって、回転子351を回転させることができる。詳細には、圧電素子354の第1の電極と第2の電極との間にプラス電圧とマイナス電圧を交互に印加することで、図5に示すように、圧電素子354を膨張または収縮させる。それにより、ステータ302が膨張または収縮することで、ロータ301の凹凸部構造の櫛歯部分にステータ302の凹凸部構造の櫛歯部分が噛み合いながらロータ301を移動させ、その結果、回転子351を図1(C)に示す軸353を回転中心として回転させることができる(図4参照)。なお、図4及び図5は、図1(C)の一部を詳細に示しているため、ロータ301及びステータ302を直線的に形成した図となっているが、図1(C)に示すようにロータ301及びステータ302は円周上に配置された形状となる。このようにして圧電ステッピングモータが動作する。
上記の圧電磁石モータによれば、圧電ステッピングモータと永久磁石モータを有するため、ロータ301の低速回転時に圧電ステッピングモータを用いることで低速回転時のトルクを容易に高くすることができる。
また、圧電ステッピングモータと永久磁石モータを同時にまたは別々に使うことにより、回転力及び回転速度を自在に制御することができる。例えば圧電ステッピングモータは素早く力強く回転させる場合に適しており、永久磁石モータは高速回転に適している。そのため、圧電ステッピングモータと永久磁石モータを組み合わせることで、種々の用途に使用できるモータを実現することができる。
さらに詳細に説明する。
圧電ステッピングモータ(超音波モータ)は、人間の耳には聞こえない超音波(周波数20kHz以上)を使ってロータを移動させるモータである。超音波モータは超音波の発生に圧電素子を使用し、圧電素子は2つの端子に±電位差を与えると、電位の向きによって膨張、または収縮する。この膨張・収縮により超音波が発生する。
超音波モータがどのように動作するのかを説明する。
まず図1(B)のように円形のステータ302と呼ばれる金属板の平面上に、等間隔に圧電素子354を貼り付け、図5の上図のように圧電素子354を1個おきにそれぞれつなぎ、電極を付与する。この電極に+、及び、−の電位を交互に与える(正弦波)と、図5の下図のように圧電素子354が上下に震動し、その震動がステータ反対面の規則正しく並んだ凹凸部構造の櫛歯部分に伝わる。つまり電極間に印加した±電圧の正弦波が右に進むにつれて、櫛歯部分の突起が次々に上下に動き、その突起の頂点を追いかけると、反時計回りの楕円運動になっている。
このステータ302上の櫛歯に接するように、図4及び図1(C)のようにロータ301を設置する。ロータ301の中心部には回転軸としての軸353が設置されている。ロータ301は進行方向と反対方向に回転する。これが超音波モータの動作原理の概要である。
<膜状圧電体>
以下に膜状圧電体について詳細に説明する。
図3は、第1の実施形態の圧電素子の断面図である。この圧電素子10は図1に示す圧電素子354に相当する。
図3に示すように、本第1の実施形態の圧電素子10は、第1の電極13と第2の電極15に挟まれた圧電膜としての膜状圧電体14を有する。詳細には、基板11上には、所定の面に配向した配向膜(第1の膜ともいう)12が形成されており、配向膜12上には第1の電極13が形成されている。第1の電極13は第1の導電膜または強磁性膜(第1の強磁性膜ともいう)であるとよい。第2の電極15は第2の導電膜または強磁性膜(第2の強磁性膜ともいう)であるとよい。また、第1の電極13は基板11上に配向して形成されているとよい。第1及び第2の強磁性膜それぞれは金属膜であるとよい。
基板11は、単結晶基板を用いるとよく、単結晶基板にはシリコン(Si)基板を含む。配向膜12は、基板11上にエピタキシャル成長し、基板11上に配向して形成されている。配向膜12は、基板11より酸化しやすい金属酸化膜、すなわち基板11より酸化しやすい金属の酸化膜であるとよく、基板11がシリコン基板である場合はシリコンより酸化しやすい金属の酸化膜(例えばジルコニウム及び酸素を含有する膜、ZrO2膜、CeO2膜、HfO2膜等)であるとよい。強磁性膜は永久磁石膜であってもよい。強磁性膜は、配向膜12上にエピタキシャル成長している。また、強磁性膜は配向膜12上に配向して形成されている。強磁性膜は金属膜であるとよい。
上記の強磁性膜は配向して形成されているため、強磁性膜の特性を、配向していない強磁性膜に比べて向上させることができる。また、強磁性膜が配向すると分極しやすくなるという利点がある。
ここで、基板11の主面としての上面11a内で互いに直交する2つの方向を、X軸方向及びY軸方向とし、上面11aに垂直な方向をZ軸方向としたとき、ある膜がエピタキシャル成長しているとは、その膜が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のいずれの方向にも配向していることが好ましい。
好適には、基板11は、シリコン単結晶よりなり、(100)面よりなる主面としての上面11aを有する。配向膜12は、基板11の(100)面よりなる上面11a上に、エピタキシャル成長しているとよい。配向膜12は、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向した酸化ジルコニウム(ZrO2)を含むとよい。例えば、シリコン単結晶よりなる基板11の、(100)面よりなる上面11a上に、(100)配向したZrO2膜よりなる配向膜12が、形成されている。
ここで、配向膜12が(100)配向している、とは、立方晶の結晶構造を有する配向膜12の(100)面が、シリコン単結晶よりなる基板11の、(100)面よりなる主面としての上面11aに沿っていることが好ましく、好適には、シリコン単結晶よりなる基板11の、(100)面よりなる上面11aに平行であるとよい。また、配向膜12の(100)面が基板11の(100)面よりなる上面11aに平行であるとは、配向膜12の(100)面が基板11の上面11aに完全に平行な場合のみならず、基板11の上面11aに完全に平行な面と配向膜12の(100)面とのなす角度が20°以下であるような場合を含む。
あるいは、配向膜12として、単層膜よりなる配向膜12に代え、積層膜よりなる配向膜12が、基板11上に形成されていてもよい。
強磁性膜として永久磁石膜を用いる場合、希土類元素を含有する永久磁石膜、すなわち希土類磁石よりなる永久磁石膜を用いることができる。あるいは、永久磁石膜として、希土類磁石以外の永久磁石膜を用いることができる。
第1の電極13上にはエピタキシャル成長した膜状圧電体14が形成されている。
膜状圧電体14として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、すなわちPbZrxTi1−xO3(0<x<1)を含む膜状圧電体14を用いることができる。これにより、膜状圧電体14の圧電定数を、膜状圧電体14がチタン酸ジルコン酸鉛を含まない場合に比べ、大きくすることができる。
膜状圧電体14がPZTを含む場合、好適には、膜状圧電体14は、正方晶の結晶構造を有し、かつ、(001)配向している。正方晶の結晶構造を有するPZTでは、[001]方向に沿った電界が印加される場合に、大きな圧電定数d33及びd31が得られる。そのため、膜状圧電体14の圧電定数を、さらに大きくすることができる。
膜状圧電体14がPZTを含む場合、好適には、膜状圧電体14は、菱面体晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。菱面体晶の結晶構造を有するPZTでは、[100]方向に沿った電界が印加される場合に、大きな圧電定数d33及びd31が得られる。そのため、膜状圧電体14の圧電特性を、さらに大きくすることができる。
本第1の実施形態によれば、第1の電極13、及び第2の電極15の一方あるいは両方を強磁性膜で形成することで、磁性電極がフェライトコアとして働くことで、その整流作用により電流が流れるときに発生する高周波ノイズが減少し、結果として圧電性を効果的に取り出すことができる。
図6は、圧電素子に含まれる各層の膜がエピタキシャル成長した状態を説明する図である。図6では、一例として、強磁性膜としての永久磁石膜としての第1の電極13がNiを含む場合について、説明する。しかし、第1の電極13がNiを含む場合以外の場合についても、同様に、説明することができる。
第1の電極13がNiを含む場合、基板11に含まれるSiの格子定数、配向膜12に含まれるZrO2の格子定数、第1の電極13に含まれるNiの格子定数、膜状圧電体(圧電膜)14に含まれるPZTの格子定数は、図6の表に示すとおりである。
ZrO2の格子定数とSiの格子定数との間の整合性がよい。そのため、ZrO2を含む配向膜12を、シリコン単結晶を含む基板11の(100)面よりなる主面上にエピタキシャル成長させることができ、ZrO2を含む配向膜12を、シリコン単結晶を含む基板11の(100)面上に、(100)配向させることができ、配向膜12の結晶性を向上させることができる。
また、Niの格子定数とZrO2の格子定数との間の整合性がよい。これは、Niの格子定数はZrO2の格子定数よりも小さいが、Niが平面内で45°回転すると、対角線の長さが、ZrO2のa軸と整合するためである。そのため、Niを含む第1の電極13を、ZrO2を含む配向膜12上にエピタキシャル成長させることができ、Niを含む第1の電極13を、ZrO2を含む配向膜12の(100)面上に、(100)配向させることができ、第1の電極13の結晶性を向上させることができる。
また、PZTの格子定数とNiの格子定数との間の整合性がよい。そのため、PZTを含む膜状圧電体14を、Niを含む第1の電極13上にエピタキシャル成長させることができ、PZTを含む膜状圧電体14を、Niを含む第1の電極13の(100)面上に、(100)配向させることができ、膜状圧電体14の結晶性を向上させることができる。
このように、本第1の実施形態では、第1の電極13及び膜状圧電体14がエピタキシャル成長している。これにより、第1の電極13がエピタキシャル成長していない場合に比べ、第1の電極13の残留磁化を増加させることができ、膜状圧電体14がエピタキシャル成長していない場合に比べ、膜状圧電体14の圧電定数を増加させることができる。
図7は、第1の実施形態の圧電素子に含まれる膜状圧電体の分極の電圧依存性を示すグラフである。言い換えれば、図7は、P−Vヒステリシス曲線を示すグラフである。また、図7では、本第1の実施形態の圧電素子に含まれる膜状圧電体14の分極の電圧依存性を、比較例の圧電素子に含まれる膜状圧電体14の分極の電圧依存性と合わせて示す。比較例の圧電素子に含まれる膜状圧電体14は、配向膜12を省略するか、または、成膜条件を変更することにより、エピタキシャル成長していない、すなわち、比較例の圧電素子に含まれる膜状圧電体14は、基板11の主面としての上面11aに垂直な方向、及び、基板11の主面としての上面11aに平行で、かつ、互いに直交する2つの方向のいずれの方向にも、配向していない。
図7に示すように、本第1の実施形態の圧電素子に含まれる膜状圧電体14では、分極反転に必要な電圧、すなわち抗電圧が大きく、例えば正の電圧から負の電圧に反転させた場合の抗電圧の絶対値は、100V程度である。一方、比較例の圧電素子に含まれる膜状圧電体14の抗電圧の絶対値は、20V程度である。抗電圧が大きいことは、膜状圧電体14の分極軸が基板11の主面としての上面11aに垂直な方向に配向することにより、膜状圧電体14の分極が安定化していることを意味する。そして、膜状圧電体14に周期的に変化する電圧を印加して歪みを周期的に発生させた場合でも、発生する歪み量が劣化せず安定していることを意味する。あるいは、膜状圧電体14に周期的に変化する歪みを印加して電圧を周期的に発生させた場合でも、発生する電圧が劣化せず安定していることを意味する。
図示は省略するが、同様に、本第1の実施形態の圧電素子10に含まれる第1の電極13が永久磁石膜である場合では、磁化の磁界依存性、すなわち磁化ヒステリシス曲線において、磁化反転に必要な電圧、すなわち保持力が大きい。保持力が大きいことは、永久磁石膜の容易に磁化しやすい方向が基板11の主面としての上面11aに垂直または平行な方向に配向することにより、永久磁石膜の残留磁化が安定化していることを意味する。そして、永久磁石膜に周期的に変化する磁界を印加した場合でも、永久磁石膜の残留磁化が劣化せず安定していることを意味する。
<膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法>
次に、図8〜図11を参照し、本第1の実施形態の圧電素子の製造方法を説明する。図8〜図11は、第1の実施形態の圧電素子の製造工程中の断面図である。
まず、図8に示すように、基板11を用意する(ステップS1)。ステップS1では、シリコン単結晶よりなる基板11を用意する。また、好適には、シリコン単結晶よりなる基板11は、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)面よりなる主面としての上面11aを有する。なお、基板11の上面11a上には、SiO2膜などの酸化膜が形成されていてもよい。
次に、図9に示すように、基板11上に、配向膜12を形成する(ステップS2)。以下では、電子ビーム蒸着法を用いて配向膜12を形成する場合を例示して説明するが、例えばスパッタリング法など各種の方法を用いて形成することができる。
ステップS2では、まず、基板11を一定の真空雰囲気中に配置した状態で、基板11を700℃以上(好ましくは800℃以上)に加熱する。
ステップS2では、次に、Zr単結晶の蒸着材料を用いた電子ビーム蒸着法によりZrを蒸発させる。このとき、蒸発したZrが700℃以上に加熱された基板11上で酸素と反応することにより、ZrO2膜となって成膜される。そして、単層膜としてのZrO2膜よりなる配向膜12が形成される。
図3を用いて前述したように、配向膜12は、シリコン単結晶よりなる基板11の(100)面よりなる主面としての上面11a上に、エピタキシャル成長する。配向膜12は、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向した酸化ジルコニウム(ZrO2)を含む。すなわち、シリコン単結晶よりなる基板11の、(100)面よりなる上面11a上に、(100)配向したZrO2膜を含む単層膜よりなる配向膜12が、形成される。
前述したように、シリコン単結晶よりなる基板11の(100)面よりなる上面11a内で互いに直交する2つの方向を、X軸方向(図3参照)及びY軸方向(図3参照)とし、上面11aに垂直な方向をZ軸方向(図3参照)とする。このとき、ある膜がエピタキシャル成長するとは、その膜が、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のいずれの方向にも配向することが好ましい。
配向膜12の膜厚は、2nm〜100nmであることが好ましく、10nm〜50nmであることがより好ましい。このような膜厚を有することにより、エピタキシャル成長し、単結晶に極めて近い配向膜12を形成することができる。
あるいは、配向膜12として、単層膜よりなる配向膜12に代え、積層膜としての配向膜12を、基板11上に形成してもよい。このような場合、ステップS2では、基板11を一定の真空雰囲気中に配置した状態で、基板11を700℃以上(好ましくは800℃以上)に加熱し、Zr単結晶の蒸着材料を用いた電子ビーム蒸着法により、Zrを蒸発させる。このとき、蒸発したZrが、700℃以上に加熱された基板11の(100)面よりなる主面としての上面11a上に、Zr膜として成膜される。このZr膜の膜厚は、例えば0.2nm〜30nmであることが好ましく、0.2nm〜5nmであることがより好ましい。
積層膜としての配向膜12を形成する場合、次に、Zr単結晶の蒸着材料を用いた電子ビームによる蒸着法によりZrを蒸発させ、蒸発したZrが700℃以上に加熱された基板11のZr膜上で酸素と反応することにより、ZrO2膜となって成膜される。
積層膜としての配向膜12を形成する場合、次に、Yの蒸着材料を用いた電子ビームによる蒸着法によりYを蒸発させ、蒸発したYが700℃以上に加熱された基板11のZrO2膜上で酸素と反応することにより、Y2O3膜となって成膜される。
このようにして、ZrO2膜とY2O3膜との成膜をN回(Nは1以上の整数)繰り返した後、Y2O3膜上に上記と同様の方法でZrO2膜を成膜する。これにより、ZrO2膜とY2O2膜とが交互に積層され、かつY2O3膜をZrO2膜が上下から挟み込む上下対称のサンドイッチ構造とした配向膜12が形成される。ZrO2膜とY2O3膜との接合部にヤング率が522GPaと非常に硬く脆い材料であるイットリア安定化ジルコニウム(Yttria Stabilized Zirconia:YSZ)膜が熱拡散によって形成されたとしても、上下対称のサンドイッチ構造とすることで、YSZ膜の応力による反りを回避することができる。
次に、図10に示すように、配向膜12上に、第1の電極13としての永久磁石膜を形成する(ステップS3)。以下では、スパッタリング法を用いて永久磁石膜を形成する方法を例示して説明するが、例えば電子ビーム蒸着法など、各種の方法を用いて形成することができる。
ステップS3では、配向膜12上に、例えばスパッタリング法により永久磁石膜を成膜する。このとき、成膜時の基板11の温度を、成膜された永久磁石膜が結晶化する温度範囲の下限値以上とし、結晶化した永久磁石膜を直接形成してもよい。あるいは、成膜時の基板11の温度を、成膜された永久磁石膜が結晶化する温度範囲の下限値未満とし、永久磁石膜を成膜した後、成膜された永久磁石膜が結晶化する温度範囲の下限値以上の温度で基板11を熱処理して永久磁石膜を結晶化させてもよい。
また、成膜時の基板11の温度を、永久磁石膜が結晶化する温度範囲の下限値以上とする場合は、永久磁石膜が酸化されないように、基板11は、真空中または不活性ガス雰囲気中に配置されることが望ましい。また、成膜された永久磁石膜を結晶化させるための熱処理の時間は、熱処理の際の基板11の温度、すなわち熱処理温度によっても異なるが、例えば、熱処理温度が650℃のとき、0.2〜2時間程度の加熱処理を行うことが好ましい。
永久磁石膜として、希土類元素を含有する永久磁石膜、すなわち希土類磁石よりなる永久磁石膜を用いることができる。あるいは、永久磁石膜として、希土類磁石以外の永久磁石膜を用いることができる。
好適には、希土類磁石よりなる永久磁石膜として、Rを希土類元素とするとき、R2Fe14BなどのR−Fe−B系希土類磁石、RCo5及びR2(Co,Fe,Cu,Zr)17などのR−Co系希土類磁石、ならびに、R2Fe17N3及びRFe7NxなどのR−Fe−N系希土類磁石、からなる群から選択された一種以上の希土類磁石を含む永久磁石膜を用いることができる。これにより、永久磁石膜の表面に垂直な残留磁化を、希土類磁石以外の永久磁石膜を用いる場合に比べ、大きくすることができる。
なお、R−Fe−B系希土類磁石は非晶質化しやすいので、成膜時の基板温度を300℃以上800℃以下の範囲に制御するか、または、成膜後に400℃以上800℃以下の加熱処理によって、結晶化することが望ましい。
永久磁石膜がR2Fe14Bを含むとき、永久磁石膜は、好適には、正方晶の結晶構造を有し、かつ、(001)配向する。(001)配向したR2Fe14Bは、第1の電極13の表面に垂直な磁化を有する垂直磁化膜になりやすいため、第1の電極13の残留磁化を、さらに大きくすることができる。
永久磁石膜がRCo5を含むとき、永久磁石膜は、好適には、六方晶の結晶構造を有し、かつ、(11−20)配向する。(11−20)配向したRCo5は、永久磁石膜の表面に平行な磁化を有する磁化膜になりやすいが、永久磁石膜の表面に垂直な磁化もある程度大きくなるため、永久磁石膜の残留磁化を、さらに大きくすることができる。
永久磁石膜がR2(Co,Fe,Cu,Zr)17を含むとき、永久磁石膜は、好適には、六方晶の結晶構造を有し、かつ、(11−20)配向する。(11−20)配向したR2(Co,Fe,Cu,Zr)17は、永久磁石膜の表面に平行な磁化を有する磁化膜になりやすいが、永久磁石膜の表面に垂直な磁化もある程度大きくなるため、永久磁石膜の残留磁化を、さらに大きくすることができる。
一方、希土類磁石以外の永久磁石膜として、Ni磁石、Al−Ni−Co合金などのAl−Ni−Co系磁石、Fe3Pt、FePt及びFePt3などのFe−Pt系磁石、Fe−Cr−Co系磁石、Srフェライト磁石、ならびに、Co−Fe−B系磁石、からなる群から選択された一種以上よりなる永久磁石膜を用いることができる。
永久磁石膜がNiを含むとき、前述したように、永久磁石膜は、好適には、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向する。立方晶の結晶構造を有するNiでは、[100]方向に沿った残留磁化が得られるため、永久磁石膜の残留磁化を、さらに大きくすることができる。
永久磁石膜を形成する際に基板11を熱処理する方法は任意であり、例えばシースヒータや赤外線ランプヒータによって、直接的または間接的に基板11を熱処理してもよい。また、永久磁石膜を形成した後に基板11を熱処理する場合、永久磁石膜を酸化しないように、真空雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で基板11を熱処理することが望ましい。この熱処理を行う熱処理時間は、熱処理の際の熱処理温度によっても異なるが、例えば、熱処理温度が650℃のとき、0.2〜2時間程度の熱処理を行うことが好ましい。
なお、永久磁石膜を成膜する際のターゲットが同じ組成であっても、配向膜12の面内方向の格子定数及び永久磁石膜の成膜条件によって、永久磁石膜の組成を変更することができ、この組成の変更に伴って、永久磁石膜の結晶の対称性や配向方向を変更することができる。
そのため、永久磁石膜がR2Fe14Bを含む場合、永久磁石膜は、正方晶(001)配向したR2Fe14Bに代えて、正方晶(100)配向したR2Fe14Bを含むこともできる。あるいは、永久磁石膜がRCo5またはR2(Co,Fe,Cu,Zr)17を含む場合、永久磁石膜は、六方晶(11−20)配向したRCo5またはR2(Co,Fe,Cu,Zr)17に代えて、六方晶(0001)配向したRCo5またはR2(Co,Fe,Cu,Zr)17を含むこともできる。
そして、永久磁石膜が容易に磁化しやすい方向が永久磁石膜の表面に垂直な場合には、容易に垂直磁化膜が得られ、永久磁石膜が容易に磁化しやすい方向が永久磁石膜の表面に平行な場合には、容易に面内磁化膜が得られる。そのため、永久磁石膜の磁化の方向を揃えることができ、永久磁石膜の磁化の大きさを容易に大きくすることができる。
次に、図11に示すように、第1の電極13上に、圧電膜としての膜状圧電体14を形成する(ステップS4)。以下では、塗布法を用いて膜状圧電体14を形成する方法を例示して説明する。
このステップS4では、第1の電極13上に、化学量論組成を有する非晶質PZT膜、または、化学量論組成を有する非晶質PZT膜における鉛の含有量よりも少ない含有量の鉛を含有する非晶質PZT膜を形成する。次に、この非晶質PZT膜を加圧酸素雰囲気で熱処理し、非晶質PZT膜を結晶化することにより、PZTを含む膜状圧電体14を、第1の電極13上に形成する。なお、化学量論組成を有する非晶質PZT膜における鉛の含有量を100原子%としたとき、化学量論組成を有する非晶質PZT膜における鉛の含有量よりも少ない鉛の含有量は、好適には、80〜95原子%である。
以下では、非晶質PZT膜の形成方法について説明する。
まず、非晶質PZT膜形成用ゾルゲル溶液を用意する。非晶質PZT膜形成用ゾルゲル溶液として、ブタノールを溶媒とし、鉛が70〜90%不足した量添加された、濃度が10重量%であるE1溶液を、用意することができる。
このE1溶液に、ジメチルアミノエタノールなどのアミノ基を有するアルカリ性アルコールを、体積比で、E1溶液:ジメチルアミノエタノール=7:3の割合で添加する。これにより、pH=12となり、強アルカリ性を示すE1溶液を得ることができる。
次に、E1溶液を用いたスピンコート法により、非晶質PZT膜を形成する。スピンコーターに含まれ、かつ、回転可能に設けられた基板保持部に、基板11を保持し、一定量のE1溶液を第1の電極13の表面に塗布した後、先ず800rpmで5秒間回転させ、1500rpmで10秒間回転させた後、10秒間で徐々に3000rpmまで回転数を上昇させてE1溶液を塗布する。次に、E1溶液が塗布された基板11を、150℃に温度調節されたホットプレート上で5分間放置し、300℃に温度調節されたホットプレート上で10分間放置した後、室温まで冷却する。これを5回繰り返すことにより、例えば200nmの膜厚を有する非晶質PZT膜を、第1の電極13上に形成することができる。
次に、加圧酸素雰囲気で非晶質PZT膜を熱処理する。これにより、非晶質PZT膜が結晶化された膜状圧電体14を、第1の電極13上に形成する。
なお、E1溶液が同じ組成を有する場合でも、永久磁石膜(第1の電極13)の面内方向の格子定数及び永久磁石膜の成膜条件によって、膜状圧電体14の組成を変更することができ、この組成の変更に伴って、膜状圧電体14の結晶の対称性や配向方向を変更することができる。例えば、非晶質PZT膜が、組成式PbZrxTi1−xO3(0<x<1)で表されるZr/Tiとして、58/42(x=0.58)、52/48(x=0.52)及び42/58(x=0.42)のいずれの組成を有する場合でも、形成された膜状圧電体14が、Zr/Tiとして、本来菱面体晶を有する組成である55/45を有するが、正方晶の結晶構造を有し、かつ、(001)配向することが可能である。
また、上記した例では、塗布法を用いて膜状圧電体14を形成する方法を例示して説明したが、膜状圧電体14を形成する方法は、塗布法に限られない。したがって、スパッタリング法を用いて膜状圧電体14を形成してもよい。
スパッタリング法を用いて膜状圧電体14を形成する場合、スパッタリングターゲットが同じ組成を有する場合でも、永久磁石膜の面内方向の格子定数及び永久磁石膜の成膜条件によって、膜状圧電体14の組成を変更することができ、この組成の変更に伴って、膜状圧電体14の結晶の対称性や配向方向を変更することができる。例えば、スパッタリングターゲットが、組成式PbZrxTi1−xO3(0<x<1)で表されるZr/Tiとして、58/42(x=0.58)、52/48(x=0.52)及び42/58(x=0.42)のいずれの組成を有する場合でも、形成された膜状圧電体14が、Zr/Tiとして、本来菱面体晶を有する組成である55/45を有するが、正方晶の結晶構造を有し、かつ、(001)配向することが可能である。
このようにして、図3に示す圧電素子10が形成される。なお、膜状圧電体14を形成した後、膜状圧電体14上に、第2の電極15を形成してもよい。
前述した図6を用いて説明したように、ZrO2の格子定数とSiの格子定数との間の整合性がよい。そのため、ZrO2を含む配向膜12を、シリコン単結晶を含む基板11の、(100)面よりなる主面上にエピタキシャル成長させることができ、ZrO2を含む配向膜12を、シリコン単結晶を含む基板11の(100)面上に、(100)配向させることができ、配向膜12の結晶性を向上させることができる。
また、前述した図6を用いて説明したように、Niの格子定数とZrO2の格子定数との間の整合性がよい。そのため、Niを含む永久磁石膜を、ZrO2を含む配向膜12上にエピタキシャル成長させることができ、Niを含む永久磁石膜を、ZrO2を含む配向膜12の(100)面上に、(100)配向させることができ、永久磁石膜の結晶性を向上させることができる。
また、前述した図6を用いて説明したように、PZTの格子定数とNiの格子定数との間の整合性がよい。そのため、PZTを含む膜状圧電体14を、Niを含む永久磁石膜上にエピタキシャル成長させることができ、PZTを含む膜状圧電体14を、Niを含む永久磁石膜の(100)面上に、(100)配向させることができ、膜状圧電体14の結晶性を向上させることができる。
<第1の実施形態の変形例>
第1の実施形態では、第1の電極としての永久磁石膜上に、膜状圧電体14が直接形成されていた。しかし、永久磁石膜上に、導電膜13aを介して膜状圧電体14が形成されていてもよい。このような例を、第1の実施形態の変形例として説明する。
図12は、第1の実施形態の変形例の圧電素子の断面図である。図12に示すように、本変形例の圧電素子10aは、基板11と、配向膜12と、第1の電極13と、導電膜13aと、膜状圧電体(圧電膜)14と、を有する。
基板11は、シリコン基板よりなる。配向膜12は、基板11上にエピタキシャル成長し、かつ、ジルコニウム及び酸素を含有する。基板11及び配向膜12の配向方向などの詳細については、第1の実施形態と同様にすることができる。
第1の電極13は、配向膜12上にエピタキシャル成長している。第1の電極13として、第1の実施形態と同様に、希土類元素を含有する永久磁石膜、すなわち希土類磁石よりなる永久磁石膜を用いることができる。あるいは、永久磁石膜として、希土類磁石以外の永久磁石膜を用いることができる。
図12では、第1の電極13がAl−Ni−Co合金を含む場合を例示して説明する。このときも、第1の実施形態と同様に、第1の電極13は、好適には、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。立方晶の結晶構造を有するAl−Ni−Co合金では、[100]方向に沿った残留磁化が得られるため、第1の電極13の残留磁化を、さらに大きくすることができる。
ここで、Al−Ni−Co合金中のAlの拡散係数が高い。そのため、Al−Ni−Co合金を含む第1の電極13を成膜する際の成膜条件によっては、Al−Ni−Co合金中のAlが、ZrO2を含む配向膜12中に拡散することにより、配向膜12の上層部に、アルミナ安定化ジルコニア(Almina Stabilized Zirconia:ASZ)を含む拡散層12aが形成される。ASZは、YSZと同様に、ZrO2に比べ、立方晶(100)配向しやすい。そのため、拡散層12aが形成される場合、拡散層12aが形成されない場合に比べ、Al−Ni−Co合金を含む第1の電極13が、さらに立方晶(100)配向しやすくなる。
なお、第1の電極13がAl−Ni−Co合金を含む場合以外の場合については、配向方向なども含めて、第1の実施形態と同様にすることができる。
導電膜13aは、第1の電極13上にエピタキシャル成長している。導電膜13aとして、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)などのペロブスカイト構造を有する導電性酸化物、及び、Ptなどの金属、からなる群から選択された一種以上の導電体を含む導電膜13aを用いることができる。
導電膜13aがSrRuO3を含む場合、好適には、導電膜13aは、立方晶または疑立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。また、導電膜13aがPtを含む場合、好適には、導電膜13aは、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。立方晶の結晶構造を有する導電膜13a上には、例えばPZTを含む膜状圧電体14が容易にエピタキシャル成長することができる。そのため、膜状圧電体14の圧電定数を、さらに大きくすることができる。
膜状圧電体14は、導電膜13a上にエピタキシャル成長している。すなわち膜状圧電体14は、第1の電極13上に、導電膜13aを介して形成されている。膜状圧電体14については、第1の実施形態と同様にすることができる。なお、第1の実施形態と同様に、膜状圧電体14上に第2の電極15が形成されていてもよい。
このような本変形例によれば、膜状圧電体14の下部電極(第1の電極)の電気抵抗を低減することができ、膜状圧電体14に印加される電圧が所望の電圧から降下することを防止または抑制することができる。また、導電膜13aとしてSrRuO3を含む導電膜を用いる場合には、膜状圧電体14と、膜状圧電体14の下部電極と、の間の界面に異相が析出して圧電特性が劣化することを、防止または抑制することができる。
図13及び図14は、第1の実施形態の変形例の圧電素子の製造工程中の断面図である。
本変形例の圧電素子の製造工程では、第1の実施形態で図8及び図9を用いて説明した工程(ステップS1及びステップS2)を行って、配向膜12を形成した後、図13に示すように、配向膜12上に、例えばスパッタリング法により第1の電極13を形成する。ここで、第1の電極13として、例えばAl−Ni−Co合金を含む第1の電極13を形成する場合、Al−Ni−Co合金中のAlが、ZrO2を含む配向膜12中に拡散することにより、配向膜12の上層部に、ASZを含む拡散層12aが形成される。
次に、図14に示すように、第1の電極13上に、例えばスパッタリング法により導電膜13aを形成する。導電膜13aとして、例えばSrRuO3などのペロブスカイト構造を有する導電性酸化物、及び、Ptなどの金属、からなる群から選択された一種以上の導電体を含む導電膜13aを形成することができる。
次に、第1の実施形態で図11を用いて説明した工程(ステップS4)と同様の工程を行って、図12に示すように、導電膜13a上に、膜状圧電体14を形成する。このようにして、圧電素子10aが形成される。なお、第1の実施形態と同様に、膜状圧電体14上に、第2の電極15を形成してもよい。
[第2の実施形態]
第1の実施形態の圧電素子では、配向膜と圧電膜との間に永久磁石膜が形成されていた。しかし、配向膜と圧電膜との間に導電膜が形成され、永久磁石膜が圧電膜上に形成されていてもよい。このような例を、第2の実施形態として説明する。なお、本第2の実施形態において第1の実施形態と同一部分の説明は省略する。
<膜状圧電体を有する圧電素子>
図15は、第2の実施形態の圧電素子の断面図である。
図15に示すように、本第2の実施形態の圧電素子10bは、基板11と、配向膜12と、導電膜13b(第1の導電膜ともいう)と、膜状圧電体(圧電膜)14と、永久磁石膜15aと、を有する。
基板11は、シリコン基板よりなる。配向膜12は、基板11上にエピタキシャル成長し、かつ、ジルコニウム及び酸素を含有する。基板11及び配向膜12の配向方向などの詳細については、第1の実施形態と同様にすることができる。
導電膜13bは、配向膜12上にエピタキシャル成長している。導電膜13bとして、SrRuO3などのペロブスカイト構造を有する導電性酸化物、及び、Ptなどの金属、からなる群から選択された一種以上の導電体を含む導電膜13bを用いることができる。
導電膜13bがSrRuO3を含む場合、好適には、導電膜13bは、立方晶または疑立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。また、導電膜13bがPtを含む場合、好適には、導電膜13bは、立方晶の結晶構造を有し、かつ、(100)配向している。立方晶の結晶構造を有する導電膜13b上には、例えばPZTを含む膜状圧電体14が容易にエピタキシャル成長することができる。そのため、膜状圧電体14の圧電定数を、さらに大きくすることができる。
膜状圧電体14は、導電膜13b上にエピタキシャル成長している。膜状圧電体14の配向方向などの詳細については、第1の実施形態と同様にすることができる。
永久磁石膜15aは、膜状圧電体14上にエピタキシャル成長している。永久磁石膜15aとして、第1の実施形態の第1の電極13と同様に、希土類元素を含有する永久磁石膜、すなわち希土類磁石よりなる永久磁石膜を用いることができる。あるいは、永久磁石膜として、希土類磁石以外の永久磁石膜を用いることができる。また、永久磁石膜15aの配向方向などの詳細については、第1の実施形態の第1の電極13と同様にすることができる。
本第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、膜状圧電体14及び永久磁石膜15aがエピタキシャル成長している。これにより、膜状圧電体14がエピタキシャル成長していない場合に比べ、膜状圧電体14の圧電定数を増加させることができ、永久磁石膜15aがエピタキシャル成長していない場合に比べ、永久磁石膜15aの残留磁化を増加させることができる。そして、膜状圧電体14の圧電定数を増加させることができる。
一方、本第2の実施形態では、第1の実施形態と異なり、配向膜12と膜状圧電体14との間に導電膜13bが形成されている。第1の実施形態において、配向膜12、第1の電極13、膜状圧電体14及び第2の電極15の材料によっては、積層の順序を変更した方がエピタキシャル成長しやすくなる場合がある。あるいは、第1の実施形態において、第1の電極13の材料によっては、第1の電極13の劣化を防止するために、例えばPZTを含む膜状圧電体14を熱処理した後に、永久磁石膜を形成した方がよい場合がある。
このような場合には、本第2の実施形態のように、配向膜12、導電膜13b、膜状圧電体14及び永久磁石膜15aを順次積層することにより、各層が容易にエピタキシャル成長しやすくなる。あるいは、本第2の実施形態のように、膜状圧電体14を熱処理した後、永久磁石膜15aを形成することにより、永久磁石膜15aの劣化を防止することができる。
<膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法>
図16及び図17は、第2の実施形態の圧電素子の製造工程中の断面図である。
本第2の実施形態の圧電素子の製造工程では、第1の実施形態で図8及び図9を用いて説明した工程(ステップS1及びステップS2)を行って、配向膜12を形成した後、図16に示すように、配向膜12上に、例えばスパッタリング法により導電膜13bを形成する。導電膜13bとして、例えばSrRuO3などのペロブスカイト構造を有する導電性酸化物、及び、Ptなどの金属、からなる群から選択された一種以上の導電体を含む導電膜13bを形成することができる。
次に、第1の実施形態で図11を用いて説明した工程(ステップS4)と同様の工程を行って、図17に示すように、導電膜13b上に、膜状圧電体(圧電膜)14を形成する。
次に、第1の実施形態で図10を用いて説明した工程(ステップS3)と同様の工程を行って、図15に示すように、膜状圧電体14上に、例えばスパッタリング法により第1の電極13を形成する。このようにして、圧電素子10bが形成される。
なお、上記第1の実施形態及びその変形例、並びに、第2の実施形態では、圧電膜としてPZT膜を用いているが、PZT膜以外の圧電膜を用いてもよい。
[第3の実施形態]
第1の実施形態及び第2の実施形態それぞれの圧電素子では、膜状圧電体の膜厚を厚く形成しようとすると、成膜に長時間を要する。つまり、膜状圧電体の成膜方法は、ゾルゲル法またはスパッタリング法を用いるため、バルク状圧電体に比べて成膜に長時間を要する。そこで、本第3の実施形態では、短い成膜時間で、膜厚の厚い膜状圧電体を形成できる方法及び装置について詳細に説明する。
図18は、本発明の一態様に係るスパッタリング装置を模式的に示す断面図である。このスパッタリング装置はチャンバー51を有し、このチャンバー51内には、基板52を保持する保持部53が配置されている。保持部53には基板52を所定の温度に加熱するヒーター(図示せず)が配置されているとよい。
チャンバー51、基板52及び保持部53は接地されている。チャンバー51内にはスパッタリングターゲット54を保持するターゲット保持部55が配置されている。ターゲット保持部55に保持されたスパッタリングターゲット54は、保持部53に保持された基板52に対向するように位置する。
スパッタリングターゲット54は比抵抗が1×107Ω・cm以上の絶縁物を含むスパッタリングターゲットであり、絶縁物は酸化物であるとよい。詳細には、絶縁物は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する物質を含む物である。ここで、Aは、Al、Y、Li、Na、K、Rb、Pb、Cs、La、Sr、Cr、Ag、Ca、Pr、Nd、Ba、Bi、F及び周期表のランタン系列の元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含んでなる。また、Bは、Al、Ga、In、Nb、Sn、Ti、Zr、Ru、Rh、Pd、Re、Os、Ir、Pt、U、Co、Fe、Ni、Mn、Cr、Cu、Mg、V、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含んでなる。または、絶縁物は、酸化ビスマスと、ペロブスカイト構造ブロックとが交互に積層された構造すなわちビスマス層状構造を有する強誘電体結晶を含む物である。前記ペロブスカイト構造ブロックは、Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Y、Bi、Pb及び希土類元素から選ばれる少なくとも1つの元素Lと、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、W、Mo、Mn、Fe、Si及びGeから選ばれる少なくとも1つの元素Rと、酸素とによって構成されるとよい。
但し、本第3の実施形態ではスパッタリングターゲット54を(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δとし、a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たす。なお、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δをPZTとも称する。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
上記式1においてδが0より大きい値を含むのは酸素欠損型ペロブスカイト構造を含むからである。但し、スパッタリングターゲット54の成分がすべて酸素欠損型ペロブスカイト構造であってもよいが、スパッタリングターゲット54が部分的に酸素欠損型ペロブスカイト構造を含んでいてもよい。なお、酸素欠損型ペロブスカイト構造の詳細は後述する。
また、スパッタリング装置は出力供給機構56を有し、この出力供給機構56はパルス機能付高周波電源である。出力供給機構56は整合器62に電気的に接続されており、整合器62はターゲット保持部55に電気的に接続されている。つまり、出力供給機構56は、整合器62及びターゲット保持部55を介して、スパッタリングターゲット54に、周波数が10kHz以上30MHz以下の高周波出力(RF出力)を、1/20ms以上1/3ms以下の周期(3kHz以上20kHz以下の周波数)で25%以上90%以下のDUTY比のパルス状に、供給するものである。なお、本第3の実施形態では、出力供給機構56により、高周波出力を、ターゲット保持部55を介してスパッタリングターゲット54に供給するが、出力供給機構56により、高周波出力を、スパッタリングターゲット54に直接供給してもよい。
DUTY比は、1周期の間でターゲット保持部55に高周波出力が印加される期間の比率である。例えば、25%のDUTY比の場合は、1周期の25%の期間がターゲット保持部55に高周波出力が印加される期間(高周波出力オンの期間)となり、1周期の75%の期間がターゲット保持部55に高周波出力が印加されない期間(高周波出力オフの期間)となる。詳細には、例えば1/20msの周期(20kHzの周波数)で25%のDUTY比の場合は、1/20ms(1周期)の25%の1/80msの期間が高周波出力オンの期間となり、1/20ms(1周期)の75%の3/80msの期間が高周波出力オフの期間となる。
また、例えば図19は、100S/T%のDUTY比の場合を示しており、1周期の100S/T%の期間が高周波出力オンの期間となり、1周期の残りの100N/T%の期間が高周波出力オフの期間となる。
また、本第3の実施形態では、出力供給機構56によってターゲット保持部55に高周波出力をパルス状に供給する際の当該パルス状を、1/20ms以上1/3ms以下の周期(3kHz以上20kHz以下の周波数)で25%以上90%以下のDUTY比としているが、当該パルス状を1/15ms以上1/5ms以下の周期で25%以上90%以下のDUTY比とすることが好ましい。
上記の範囲でパルススパッタリングすることにより、次々に生ずる新たなRFプラズマの発生の数だけ新たなスパッタリング現象が生じ、成膜速度が飛躍的に向上し、かつ、RFプラズマ照射を完全に止めるプラズマOFFの時間が生じるが、その際もマイグレーション現象を中心に結晶は成長し続ける。
DUTY比を25%以上とする理由は、25%未満とすると結晶成長が完全に途切れてしまい、次の結晶成長が上手く繋がらないからである。DUTY比を90%以下とする理由は、90%超とすると殆ど連続波と同等の成膜速度に落ち込んでしまうからである。
また、スパッタリング装置は、出力供給機構56により高周波出力を供給している際にスパッタリングターゲット54に発生する直流成分である電圧VDCを−200V以上−80V以下に制御するVDC制御部63を有する。このVDC制御部63は、VDCセンサを有し、出力供給機構56に電気的に接続されている。
また、出力供給機構56により高周波出力を供給した後のスパッタリングターゲット54の表面の比抵抗は、新品のスパッタリングターゲットの表面の比抵抗に対して変化することがあるが、1×109Ω・cm以上1×1012Ω・cm以下であることが好ましい。
また、スパッタリング装置は、チャンバー51内に希ガスを導入する第1のガス導入源57と、チャンバー51内を真空排気する真空ポンプ等の真空排気機構59を有する。また、スパッタリング装置は、チャンバー内にO2ガスを導入する第2のガス導入源58を有する。
第1のガス導入源57によってチャンバー51内に導入する希ガスはArガスであるとよく、成膜時における第2のガス導入源58により導入されるO2ガスと第1のガス導入源57により導入されるArガスとの比が下記式8を満たすように制御する流量制御部(図示せず)をスパッタリング装置が有するとよい。
0.1≦O2ガス/Arガス≦0.3 ・・・式8
また、スパッタリング装置は、成膜時におけるチャンバー内の圧力が0.1Pa以上2Pa以下となるように制御する圧力制御部を有するとよい。
また、スパッタリング装置は、スパッタリングターゲット54に磁場を加える磁石60と、この磁石60を20rpm以上120rpm以下の速度で回転させる回転機構61を有する。
次に、図18のスパッタリング装置を用いて基板上に絶縁膜を成膜する方法について説明する。ここでいう基板は、種々の基板を用いることができ、基板上に薄膜が成膜されたものも含むが、本第3の実施形態では一例として以下の基板を使用する。
(100)に配向したSi基板上にZrO2膜を550℃以下の温度(好ましくは500℃の温度)で蒸着法により形成する。このZrO2膜は(100)に配向する。なお、本明細書において(100)に配向することと(200)に配向することは実質的に同一である。この後、ZrO2膜上に下部電極を形成する。下部電極は、金属または酸化物よりなる電極膜によって形成される。金属よりなる電極膜としては例えばPt膜またはIr膜が用いられる。酸化物よりなる電極膜としては例えばSr(Ti1−xRux)O3膜が用いられ、xは下記式9を満たす。
0.01≦x≦0.4 ・・・式9
本第3の実施形態では、ZrO2膜上に550℃以下の温度(好ましくは400℃の温度)でスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜を下部電極として形成する。このPt膜は(200)に配向する。
本第3の実施形態では、上記のような基板を用いるが、Si基板に代えてSi単結晶やサファイア単結晶などの単結晶基板、表面に金属酸化物膜が形成された単結晶基板、表面にポリシリコン膜またはシリサイド膜が形成された基板等を用いてもよい。
次に、上記の基板を保持部53に保持する。次いで、第1のガス導入源57によってチャンバー51内にArガスを導入し、第2のガス導入源58によってO2ガスを導入する。この際、O2ガスとArガスとの比が下記式10を満たすように流量制御部によって制御するとよい。
0.1≦O2ガス/Arガス≦0.3 ・・・式10
また、真空排気機構59によってチャンバー51内を真空排気することで、チャンバー51内を所定の圧力(例えば0.1Pa以上2Pa以下の圧力)まで減圧する。
この後、基板52上に、出力供給機構56によって、整合器62及びターゲット保持部55を介して、比抵抗が1×107Ω・cm以上の絶縁物を含むスパッタリングターゲット54に、高周波出力を供給する。この高周波出力は、10kHz以上30MHz以下の周波数、1/20ms以上1/3ms以下の周期で25%以上90%以下のDUTY比のパルス状である。これにより、基板52上に絶縁膜を成膜する。
スパッタリングターゲット54に高周波出力を供給して絶縁膜を成膜する際に、20rpm以上120rpm以下の速度で磁石60を回転機構61により回転させることでスパッタリングターゲット54に磁場を加えることが好ましい。
また、スパッタリングターゲット54に高周波出力を供給している際にスパッタリングターゲット54に発生する直流成分である電圧VDCをVDC制御部63によって−200V以上−80V以下に制御することが好ましい。
また、スパッタリングターゲット54に高周波出力を供給した後のスパッタリングターゲット54の表面の比抵抗を1×109Ω・cm以上1×1012Ω・cm以下に制御することが好ましい。
本第3の実施形態によれば、比抵抗が1×107Ω・cm以上の絶縁物を含むスパッタリングターゲットに、10kHz以上30MHz以下の高周波出力を、1/20ms以上1/3ms以下の周期で25%以上90%以下のDUTY比のパルス状に、供給する。このようにパルス状に高周波出力を供給するため、絶縁物を含むスパッタリングターゲットに電荷が溜まっても、高周波出力を供給していない時(高周波出力がオフ状態の時)にその溜まった電荷を逃がすことができ、その結果、スパッタリングターゲットが破損することを抑制できる。そのため、スパッタリングターゲットに印加する電力量を多くすることができ、成膜レートを高くすることが可能となる。
特に、スパッタリングターゲット54が一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有する物質を含む物、または、ビスマス層状構造を有する強誘電体結晶を含む物である場合、成膜時にスパッタリングターゲット54の表面抵抗が大きく変動することが考えられる。このため、上記のようにパルス状に高周波出力を供給してスパッタリングターゲット54に電荷が溜まりにくくすることで、スパッタリングターゲット54の表面抵抗の変動を抑制することが可能となる。
a、b、c、d、e及びδが下記の式1〜式7を満たす(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δよりなるスパッタリングターゲット54を用い、上記の成膜方法により基板上に成膜された圧電体膜は、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜である。a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たすとよい。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
上記(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜は、100以上600以下(好ましくは100以上400以下)の比誘電率εrを有し、3V以上15V以下の膜厚1μm当たりの抗電圧及び20μC/cm2以上50μC/cm2以下の残留分極値の少なくとも一方を有するとよい。また、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜は、5μm以上の膜厚を有し、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上の膜厚を有するとよい。また、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜のキュリー温度は、250℃以上420℃以下(好ましくは300℃以上400℃以下)であるとよい。
上記(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜は例えばPt膜等の電極上に形成されていてもよく、この(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜をXRD(X-Ray Diffraction)で結晶性を評価すると、そのXRDの(002)のピーク値は、電極のXRDの(200)のピーク値より高くなる。これは、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜の膜厚が5μm以上であるためである。
また、本第3の実施形態によれば、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δよりなるスパッタリングターゲットに上記の高周波出力を、上記の周期で上記のDUTY比のパルス状に供給することで、基板上に(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜を成膜する際の成膜速度を1nm/sec以上2.5nm/sec以下に向上させることができる。
次に、酸素欠損型ペロブスカイト構造について図20〜図23を参照しつつ詳細に説明する。
酸素欠損型ペロブスカイト構造を一般式で表すと以下のように分類される。以下の分類は実際に存在している結晶構造を基にしている。なお、ペロブスカイト構造はABO3−δ、或はAnBnO3n−1で表される。
図20〜図23それぞれの左図はABO3−δの酸素欠損を含有した各種結晶構造を示す模式図である。図20〜図23それぞれの右図は、a−b面の酸素欠損構造の模式図であり、C'層、D'層はそれぞれ、C層、D層をa−b面で鏡映した状態、或は位相がずれた状態を示す模式図である。
図20は、δ=0.125、或はn=8.0の場合の酸素欠損型ペロブスカイト構造の模式図である。図21は、δ=0.25、或はn=4.0の場合の酸素欠損型ペロブスカイト構造の模式図である。図22は、δ=0.5、或はn=2.0の場合の酸素欠損型ペロブスカイト構造の模式図である。図23は、δ=1.0、或はn=1.0の場合の酸素欠損型ペロブスカイト構造の模式図である。
ペロブスカイトの派生構造の一つに酸素欠損秩序型(酸素欠損型)ペロブスカイト構造というものがある。Bサイト遷移金属が高価数で不安定な場合や、試料作製雰囲気の制御により、酸素が欠損する。酸素が欠損すると、BO6八面体は、BO5正方ピラミッドやBO4四面体などに変化する。酸素がわずかに欠損したABO3−δでは基本構造を保ったまま、ランダムなサイトの酸素が欠損するが、酸素欠損量δが大きくなると、多くの場合酸素欠損が規則的に配列する。
酸素欠損状態の違いにより、配位構造は大きく異なる。BO6(B:Bサイトイオン、O:酸素イオン)八面体は、酸素欠損の無い八面体構造である。Bサイトイオンが5配位の場合は、BO5正方ピラミッド構造となり、4配位の場合は、BO4四面体構造、BO4平面(酸素が完全に欠損)の2つの構造を有する。
なお、上記の酸素欠損型ペロブスカイト構造の説明は、本明細書に記載したペロブスカイト構造に関するすべての物質に適用される。
[第4の実施形態]
第1及び第2の実施形態それぞれの圧電素子では、膜状圧電体の膜厚を厚く形成しようとすると、成膜に長時間を要する。そこで、本第3の実施形態では、短い成膜時間で、膜厚の厚い膜状圧電体を形成する方法及びその方法で形成した膜状圧電体について詳細に説明する。
図24〜図26は、本発明の一態様に係る膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法を説明するための図である。
図24(A)の断面図に示すように、第3の実施形態と同様の方法で、Si基板101上にZrO2膜102を形成し、ZrO2膜102上にPt膜よりなる第1の電極103を形成する。
次いで、第3の実施形態と同様の方法で、第1の電極103上にスパッタリング法により膜状圧電体となる膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104を形成する。a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たすとよい。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
次に、図24(B)の断面図に示すように、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104上に接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105をゾルゲル法により形成し、仮焼成する。このときの接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105はアモルファスである。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
この後、図24(C)の断面図に示すように、Si基板101を上下逆にする。次いで、図24(D)の断面図に示すように、Si基板101をZrO2膜102から除去する。Si基板101を完全に除去しても、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104の膜厚が5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)あれば、膜として自立することが可能である。
次に、図25(A)の平面図及び図25(B)の断面図に示すように、第1の電極103及びZrO2膜102をフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により加工することで、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104上に、第1の電極103a、第2の電極103b及び第3の電極103cを形成する。第1の電極103a〜第3の電極103cは上部電極となる。
この後、図25(A)に示すように、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を切断する。これにより、第1の電極103a、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を積層した第1の積層部を形成する。また、第2の電極103b、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を積層した第2の積層部を形成する。また、第3の電極103c、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を積層した第3の積層部を形成する。なお、図25(B)には示していないが、第4の積層部、第5の積層部も形成される。後述する図26に示すように、第4の積層部は、第4の電極103d、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を積層したものである。また、第5の積層部は、第5の電極103e、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を積層したものである。
次に、図26(A)の断面図に示すように、第1の積層部の第1の電極103aと第2の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105とを重ね、第2の積層部の第2の電極103bと第3の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105とを重ね、かつ第3の積層部の第3の電極103cと第4の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105とを重ねる。
次いで、第1の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105と第4の積層部の第4の電極103dとの間に荷重をかけつつ熱処理を施す。これにより、第1の積層部の第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び第1の電極103aそれぞれと第2の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を貼り付けるとともに、第2の積層部の第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び第2の電極103bそれぞれと第3の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を貼り付けるとともに、第3の積層部の第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104及び第3の電極103cそれぞれと第4の積層部の接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を貼り付けるとともに、第1〜第4の積層部それぞれの接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105を結晶化する(図26(A)参照)。この際の熱処理の温度は接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105が結晶化する温度であるとよい。
次に、図26(B)の断面図に示すように、第2の電極103b及び第4の電極103dの側面に電極106を形成し、第1の電極103a、第3の電極103c及び第5の電極103eの側面に電極107を形成する。電極106は第2の電極103b及び第4の電極103dに電気的に接続され、電極107は第1の電極103a、第3の電極103c及び第5の電極103eに電気的に接続される。このようにして圧電素子を作製することができる。なお、図26(B)では、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜105が結晶化した(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜を、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104と一体化して示している。また、この圧電素子は図1に示す圧電素子354に相当する。
本第4の実施形態においても第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
[第5の実施形態]
本第5の実施形態では、短い成膜時間で、膜厚の厚い膜状圧電体を形成する方法及びその方法で形成した膜状圧電体について詳細に説明する。
図27〜図29は、本発明の一態様に係る膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法を説明するための図である。
図27(A)の平面図及び図27(B)の断面図に示すように、第3の実施形態と同様の方法で、Si基板101上にZrO2膜102を形成し、ZrO2膜102上にPt膜よりなる第1の電極103を形成する。
次いで、第3の実施形態と同様の方法で、Pt膜よりなる第1の電極103上にスパッタリング法により膜状圧電体として膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104を形成する。a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たすとよい。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
次いで、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104上に電極膜としてのPt膜を形成し、このPt膜をエッチング加工することで、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104上に第1の電極111a、第2の電極111b及び第3の電極111cを形成する(図27(A),(B)参照)。
次に、図28(A)の平面図及び図28(B)の断面図に示すように、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104、第1の電極111a〜第3の電極111cの上に接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112をゾルゲル法により形成し、仮焼成する。このときの接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112はアモルファスである。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
この後、図29(A)の断面図に示すように、第3の実施形態と同様の方法で、Si基板121上にZrO2膜122を形成し、ZrO2膜122上に電極膜としてのPt膜123を形成する。次いで、第3の実施形態と同様の方法で、Pt膜123上にスパッタリング法により膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を形成する。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
次いで、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112と第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を重ね合わせる。そして、Si基板101とSi基板121との間に荷重をかけつつ熱処理を施す。これにより、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112と第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を貼り付ける。この際の熱処理の温度は接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112が結晶化する温度であるとよい。
次に、図29(B)の断面図に示すように、Si基板101及びSi基板121を除去する。次いで、図29(C)の断面図に示すように、Pt膜123及びZrO2膜122をフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により加工することで、第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124上に第1の電極123a、第2の電極123b及び第3の電極123cを形成する。また、第1の電極103及びZrO2膜102をフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により加工することで、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104下に第1の電極103a、第2の電極103b及び第3の電極103cを形成する。
この後、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜112及び第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を切断する。次いで、図26(B)に示す工程を施すことで、圧電素子を作製することができる。この圧電素子は図1に示す圧電素子354に相当する。
本第5の実施形態においても第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
[第6の実施形態]
本第6の実施形態では、短い成膜時間で、膜厚の厚い膜状圧電体を形成する方法及びその方法で形成した膜状圧電体について詳細に説明する。
図30〜図32は、本発明の一態様に係る膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法を説明するための図である。なお、図30〜図32は、断面図である。
図30(A)に示すように、第5の実施形態における図27に示す工程までを行った後に、第1の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜104、第1の電極111a、第2の電極111b及び第3の電極111cの上に、第3の実施形態と同様の方法で、スパッタリング法により膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜132を形成する。a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たすとよい。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
次いで、第3の実施形態と同様の方法で、Si基板121上にZrO2膜122を形成し、ZrO2膜122上に第1の電極としてのPt膜123を形成する。次いで、第3の実施形態と同様の方法で、Pt膜123上にスパッタリング法により膜状圧電体として膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を形成する。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
次いで、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜132と第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を重ね合わせる。そして、Si基板101とSi基板121との間に荷重をかけつつ熱処理を施す。これにより、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜132と第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124を貼り付ける。
次に、図30(B)に示すように、Si基板121を除去する。
次いで、図30(C)に示すように、Pt膜123及びZrO2膜122をフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により加工することで、第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124上に第1の電極123a、第2の電極123b及び第3の電極123cを形成する。
次いで、第2の(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜124、第1の電極123a〜第3の電極123cの上に接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133をゾルゲル法により形成し、仮焼成する。このときの接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133はアモルファスである。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
この後、図31(A)に示すように、Si基板141上にZrO2膜142、Pt膜143、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜144を順に形成し、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜144上に第1の電極145a、第2の電極145b及び第3の電極145cを形成する。次いで、第1の電極145a〜第3の電極145cの上に、スパッタリング法により(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜146を形成する。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
次いで、Si基板151上にZrO2膜152を形成し、ZrO2膜152上に電極膜としてのPt膜153を形成する。次いで、Pt膜153上にスパッタリング法により(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜154を形成する。a、b、c、d、e及びδは上記の式1〜式7を満たすとよい。
次いで、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜146と(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜154を重ね合わせる。そして、Si基板141とSi基板151との間に荷重をかけつつ熱処理を施す。これにより、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜146と(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜154を貼り付ける。
次に、図31(B),(C)に示すように、Si基板151、ZrO2膜152及びPt膜153を除去する。
この後、図32(A)に示すように、図30(C)に示す接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133と図31(C)に示す(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜154を重ね合わせる。そして、図32(B)に示すように、Si基板101とSi基板141との間に荷重をかけつつ熱処理を施す。これにより、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133と(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜154を貼り付ける。この際の熱処理の温度は接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133が結晶化する温度であるとよい。また、図32(B)では、接着用(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133が結晶化した(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜を、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜133aとして示している。
次に、図32(C)に示すように、Si基板141及びZrO2膜142を除去する。次いで、Pt膜143をフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により加工することで、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜144上に第1の電極143a、第2の電極143b及び第3の電極143cを形成する。
この後、図32(A),(B),(C)の工程を繰り返すことで、(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜の積層数を増やすことができる。
本第6の実施形態においても第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本第6の実施形態の圧電素子は図1に示す圧電素子354に相当する。
[第7の実施形態]
本第7の実施形態では、短い成膜時間で、膜厚の厚い膜状圧電体を形成する方法及びその方法で形成した膜状圧電体について詳細に説明する。
図33〜図36は、本発明の一態様に係る膜状圧電体を有する圧電素子の製造方法を説明するための図である。なお、図33〜図36は、断面図である。
図33(A)に示すように、第3の実施形態と同様の方法で、Si基板161上にZrO2膜162を形成し、ZrO2膜162上にPt膜163を形成する。このPt膜163は1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜用の第1の電極となる。
次いで、第3の実施形態と同様の方法で、Pt膜163上にスパッタリング法により膜状圧電体として膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164を形成する。a、b、c、d、e及びδは下記の式1〜式7を満たすとよい。
0≦δ≦1 ・・・式1
1.00≦a+b≦1.35 ・・・式2
0≦b≦0.08 ・・・式3
1.00≦c+d+e≦1.1 ・・・式4
0.4≦c≦0.7 ・・・式5
0.3≦d≦0.6 ・・・式6
0≦e≦0.1 ・・・式7
次に、図33(B)に示すように、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164上に550℃以下の温度(好ましくは400℃の温度)でスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜165を形成する。このPt膜165は2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜用の第2の電極となる。
この後、図33(C)に示すように、第3の実施形態と同様の方法で、Pt膜165上にスパッタリング法により膜厚5μm以上(好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上)の2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166を形成する。a、b、c、d、e及びδは前記の式1〜式7を満たすとよい。
次に、図33(D)に示すように、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166上にPt膜167を上記のPt膜165と同様の方法で形成する。このPt膜167は3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜用の第3の電極となる。
この後、図33(C)に示す工程と図33(D)に示す工程を繰り返すことで、図34(A)に示すように、Pt膜167上に3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜168、Pt膜169、4層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜170、Pt膜171を形成する。a、b、c、d、e及びδは前記の式1〜式7を満たすとよい。Pt膜169は4層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜用の第4の電極となり、Pt膜171は第5の電極となる。次いで、Si基板161をZrO2膜162から除去する。
次に、ZrO2膜162、Pt膜163、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164、Pt膜165、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166、Pt膜167、3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜168、Pt膜169、4層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜170及びPt膜171を有する積層膜を必要な大きさに切断する(図示せず)。これにより、図34(A)に示す積層部が複数得られる。
なお、本第7の実施形態では、Si基板161を除去した後に上記積層膜を切断しているが、Si基板161を除去する前に上記積層膜を切断し、その後にSi基板を除去してもよい。
次に、図34(B)に示すように、上記の積層部の第1の側面に感光性永久レジスト膜172を塗布する。次いで、図35(A)に示すように、感光性永久レジスト膜172を露光、現像することで、永久レジスト膜172a,172bを積層部の第1の側面に形成する。これにより、積層部のPt膜(第4の電極)169の第1の側面は永久レジスト膜172aによって覆われ、積層部のPt膜(第2の電極)165の第1の側面は永久レジスト膜172bによって覆われ、積層部のPt膜(第1の電極)163、Pt膜(第3の電極)167及びPt膜(第5の電極)171それぞれの第1の側面は露出される。
この後、図35(B)に示すように、積層部のPt膜(第1の電極)163、Pt膜(第3の電極)167、Pt膜(第5の電極)171の第1の側面及び永久レジスト膜172a,172bの上にPt膜(第6の電極)173を形成する。これにより、Pt膜(第6の電極)173はPt膜(第1の電極)163、Pt膜(第3の電極)167及びPt膜(第5の電極)171それぞれに電気的に接続される。
次に、図36(A)に示すように、図35(B)の積層部を上下逆に配置し、この積層部の第2の側面に感光性永久レジスト膜174を塗布する。次いで、図36(B)に示すように、感光性永久レジスト膜174を露光、現像することで、永久レジスト膜174a,174b,174cを積層部の第2の側面に形成する。これにより、積層部のPt膜(第1の電極)163の第2の側面は永久レジスト膜174aによって覆われ、積層部のPt膜(第3の電極)167の第2の側面は永久レジスト膜174bによって覆われ、積層部のPt膜(第5の電極)171の第2の側面は永久レジスト膜174cによって覆われる。また、積層部のPt膜(第2の電極)165及びPt膜(第4の電極)169それぞれの第2の側面は露出される。
この後、図36(C)に示すように、積層部のPt膜(第2の電極)165及びPt膜(第4の電極)169それぞれの第2の側面及び永久レジスト膜174a,174b,174cの上にPt膜(第7の電極)175を形成する。これにより、Pt膜(第7の電極)175はPt膜(第2の電極)165及びPt膜(第4の電極)169それぞれに電気的に接続される。このようにして圧電素子を作製することができる。
本第7の実施形態においても第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本第7の実施形態の圧電素子は図1に示す圧電素子354に相当する。
なお、本第7の実施形態では、ZrO2膜162、第1の電極としてのPt膜163、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164、第2の電極としてのPt膜165、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166、第3の電極としてのPt膜167、3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜168、第4の電極としてのPt膜169、4層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜170、第5の電極としてのPt膜171を有する積層部を用いているが、これに限定されるものではなく、以下のように変更して実施することも可能である。
少なくとも第1の電極としてのPt膜163、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164、第2の電極としてのPt膜165、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166、第3の電極としてのPt膜167を有する積層部を用いることも可能である。その場合、第1の電極としてのPt膜163の第1の側面と第3の電極としてのPt膜167の第1の側面が第6の電極としてのPt膜173によって電気的に接続されるとよい。
また、第1の電極としてのPt膜163、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164、第2の電極としてのPt膜165、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166、第3の電極としてのPt膜167、3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜168、第4の電極としてのPt膜169を有する積層部を用いることも可能である。その場合、第1の電極としてのPt膜163の第1の側面と第3の電極としてのPt膜167の第1の側面が第6の電極としてのPt膜173によって電気的に接続され、第2の電極としてのPt膜165の第2の側面と第4の電極としてのPt膜169の第2の側面が第7の電極としてのPt膜175によって電気的に接続されるとよい。
また、図34(A)に示す第5の電極としてのPt膜171上にさらにn層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜及び第(n+3)の電極を繰り返し形成してもよい。この場合、nは5以上の整数である。例えばnが5,6,7の場合、第1の電極としてのPt膜163、1層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜164、第2の電極としてのPt膜165、2層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜166、第3の電極としてのPt膜167、3層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜168、第4の電極としてのPt膜169、4層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜170、第5の電極としてのPt膜171、5層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜、第8の電極、6層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜及び第9の電極、7層目(PbaLab)(ZrcTidNbe)O3−δ膜及び第10の電極を有する積層部を用いることになる。その場合、第1の電極としてのPt膜163の第1の側面と第3の電極としてのPt膜167の第1の側面と第5の電極としてのPt膜171の第1の側面と第9の電極の第1の側面とが第6の電極としてのPt膜173によって電気的に接続されるとよい。また、第2の電極としてのPt膜165の第2の側面と第4の電極としてのPt膜169の第2の側面と第8の電極の第2の側面と第10の電極の第2の側面とが第7の電極としてのPt膜175によって電気的に接続されるとよい。
なお、上述した第1の実施形態〜第7の実施形態を適宜組合せて実施してもよい。
(実施例1)
実施例1のサンプルの作製方法は以下のとおりである。
表面に自然酸化膜が付いている、(100)に配向したSi単結晶基板上に、最初に表1の(1)の左側の条件(10secの成膜時間、Zrの蒸着源)でZrのみを蒸着し、そのまま続けて表1の(1)の右側の条件により、Zr蒸着と同時に、基板に向けてO2(酸素)を供給しながら170secの成膜時間で蒸着を行った。このようにして真空蒸着法で総膜厚15nmのZrO2(100)/Si(100)基板を形成した。
続けて、表1の(2)の条件でFeのみを蒸着し、さらに続けて表1の(3)の条件でPtのみを蒸着した。これにより、Fe0.5−Pt0.5/ZrO2構造を作製した。
図37は、実施例1のサンプルのXRD(X-Ray Diffraction)パターンである。図37から分かるように、(100)及び(001)に配向した厚さ150nmの磁性金属として知られるFe0.5−Pt0.5合金が形成できた。
(実施例2)
実施例2のサンプルの作製方法は以下のとおりである。
表面に自然酸化膜が付いている、(100)に配向したSi単結晶基板上に、最初に表2の(1)の左側の条件(10secの成膜時間、Zrの蒸着源)でZrのみを蒸着し、そのまま続けて表2の(1)の右側の条件により、Zr蒸着と同時に、基板に向けてO2(酸素)を供給しながら170secの成膜時間で蒸着を行った。このようにして真空蒸着法で総膜厚15nmのZrO2(100)/Si(100)基板を形成した。
続けて、重量比1:1(25g:25g)で混合したFe−Pt浴を用い、表2の(2)の条件でFe−Ptを蒸着した。これにより、Fe0.96−Pt0.04/ZrO2構造を作製した。
図38及び図39は、実施例2のサンプルのXRDパターンである。図38及び図39に示すように、Fe0.96−Pt0.04の強い単一ピークが得られ、そのピークはFe(200)とごく近い位置に現れていた。Fe0.96−Pt0.04の格子定数は、2.8オングストロームであり、Fe原子の格子定数2.88オングストロームと非常に近いものであった。
次に、XRF(X-Ray-Fluorescence)(リガク社AZX400)により、実施例2のサンプルの膜厚及び組成分析を行ったところ、表3のような結果が得られた。これにより、実施例2で得られたサンプルは、Fe0.96Pt0.04合金(200)であることが分かった。
(実施例3〜実施例5)
図18に示すスパッタリング装置を用い、表4に示すスパッタ条件で基板上にPZT膜を成膜することで、実施例3(本発明5μm)のサンプル、実施例4(本発明10μm)のサンプル、実施例5(本発明20μm)のサンプル及び比較例1(従来例)のサンプルを作製した。ここでの基板は、Si基板上にZrO2膜を蒸着法により形成し、このZrO2膜上にスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜を下部電極として形成したものを用いた。
実施例3〜実施例5及び比較例1それぞれのサンプルを作製する際のスパッタリングターゲットの組成とサンプルの組成は以下のとおりである。
<スパッタリングターゲットの組成>
実施例3(本発明5μm):Pb/Zr/Ti=130/58/42
実施例4(本発明10μm):Pb/Zr/Ti=130/58/42
実施例5(本発明20μm):Pb/Zr/Ti=130/58/42
比較例1(従来例):Pb/Zr/Ti=130/58/42
<サンプルの組成>
実施例3(本発明5μm):Pb/Zr/Ti=109/55/45
実施例4(本発明10μm):Pb/Zr/Ti=105/55/45
実施例5(本発明20μm):Pb/Zr/Ti=102/55/45
比較例1(従来例):Pb/Zr/Ti=98/55/45
成膜前のスパッタリングターゲットの表面抵抗値と、成膜後のスパッタリングターゲットの表面抵抗値を、強誘電体測定システムにあたる絶縁抵抗測定器(MODEL:ADC5450 (Ultra High Resistance Meter))を使用し、プローブ間距離を5mmとし、測定電圧を10Vとして測定した。測定結果は以下のとおりである。
<成膜前のスパッタリングターゲットの表面抵抗値>
スパッタリングターゲットの中央部:2.03×1011Ω・cm
スパッタリングターゲットの中央部と外周部との間:2.10×1011Ω・cm
スパッタリングターゲットの外周部:5.39×1010Ω・cm
<成膜後のスパッタリングターゲットの表面抵抗値>
スパッタリングターゲットの中央部:4.95×1011Ω・cm
スパッタリングターゲットの中央部と外周部との間:1.45×1012Ω・cm
スパッタリングターゲットの外周部:3.49×1011Ω・cm
図40(A)は、実施例3のサンプルをFIB(Focused Ion Beam)で断面観察した像であり、図40(B)は、実施例4のサンプルをFIBで断面観察した像である。実施例3のPZT膜の膜厚は5.18μmであり、実施例4のPZT膜の膜厚は9.99μmであった。これらの膜厚はTilt補正値である。このTilt補正が必要な理由は以下のようである。(1)FIBで切削を繰り返すと観察像に視野ズレが生じる。SEM(Scanning Electron Microscope)像の中心から切削領域がずれていくため補正が必要となる。(2)FIB切削面は観察の光軸に対して垂直にはならない。傾斜した面を見ているために、画像中で縦横スケールが異なり補正が必要である。以上の理由より、Tilt角度を補正してそれを実測長さと補正が必要となる。
図41は、実施例3のPZT膜及び実施例4のPZT膜のXRDチャートであり、実施例3のPZT膜及び実施例4のPZT膜の結晶性をXRD(X-Ray Diffraction)で評価した結果を示す図である。PZT膜のXRDの(002)のピーク値は、Pt膜のXRDの(200)のピーク値より高くなる。これは、PZT膜の膜厚が5μm以上であるためである。
実施例3〜実施例5及び比較例1それぞれのサンプルに対して広域逆格子マッピングを行った。逆格子マップのイメージは図42に示す。
本実施例のXRDデータは、リガク社製全自動水平型多目的X線回折装置SmartLabを用いており、かつ、広域逆格子マッピングはSmartLabにハイブリッド型多次元ピクセル検出器HyPix-3000を取り付けて測定を行った。
図43は、結晶格子面(hkl)の逆格子ベクトルと逆格子点を説明する図である。図44は、X線回折条件のベクトル表記を説明する図である。
・逆格子ベクトル(ghkl)
大きさ:(hkl)面のd値の逆数
方向:(hkl)面の法線方向
・逆格子マッピング
逆格子点の逆空間上での広がりを測定する。
逆格子点:逆格子ベクトルの先端
・回折を起こす条件
散乱ベクトル:K=k−k0
(散乱ベクトルK)=(逆格子ベクトルghkl)
・逆格子マップ測定
散乱ベクトルKを走査し、逆格子点の二次元分布を測定する。
予め結晶構造情報を元に逆格子シミュレーションをしておき、実測値と比較する。逆格子マップは下記のqxとqz式でプロットしたものである。
2θを10−120°、Ωを10−90°、Χを0°,30°,60°,90°の4段階、Φを0°と45°で2面測定した。Φ=0°(//Si110)、Φ=45°(//Si100)、各サンプルΦ=0°,45°の2通りを測定した。
従来のθ−2θ測定の場合、基板を水平に固定して、X線を照射し測定を行う(図45(A)参照)。
θ−2θ測定をω軸(試料の回転軸)、χ軸(煽り操作軸)を走査しながら測定する。またφ軸(面内回転軸)を0°と45°2点で測定した。θ−2θ/ω軸走査測定後、qz vs.qxプロットしたものが逆格子マッピングであり、同時に何段階かχ軸走査しながら、逆格子マッピングし全てを一面に重ねることで、ドメインの異なる成分を測定し、真の配向度の優劣を知る(図45(B),(C)参照)。
リガク社製ソフトSmartLab Guidanceを用い、図46のように、既知のPZT結晶構造情報を元に逆格子点の配置を予め、シミュレートしておき、実測値と重ね合わせることで、膜状態の解析を行った。
図47は、PZT単結晶の逆格子シミュレーション結果である。
図48(A),(B)は、実施例3(本発明5μm)及び実施例4(本発明10μm)それぞれのサンプルを逆格子マップ測定した結果である。これらの図に示すとおり、PZT単結晶の逆格子点計算値(×点)と完全に一致し、実施例3及び実施例4のPZT膜は良好な単結晶膜であることが分かる。
表4に示すように、従来例では、パルスを用いずに高周波の連続波を用いたため、1800W以上(10W/cm2以上)に出力を上げると、アークが発生して、プラズマが異常放電してスパッタリング装置が止まってしまうため、1800W以上に出力を上げることができなかった。これに対し、実施例3(本発明5μm)、実施例4(本発明10μm)及び実施例5(本発明20μm)では、スパッタリングターゲットに13.56MHzの高周波出力を、5kHzのパルス周波数(1/5msの周期)で90%のDUTY比のパルス状に供給したため、高周波出力がオフ状態の時にスパッタリングターゲット上にプラズマが立っていない時間ができ、その結果、短時間の成膜で膜厚が厚いPZT膜を容易に成膜することができた。
図49(A)は、実施例3(本発明5μm)、実施例4(本発明10μm)及び実施例5(本発明20μm)それぞれの強誘電性ヒステリシス曲線を示す図であり、図49(B)は、実施例3〜実施例5それぞれの圧電バタフライ曲線を示す図である。
図49(A),(B)に示すように、PZT膜の膜厚に比例した強誘電性と圧電性が得られることが確認できた。また、膜厚が20μmの実施例5のサンプルでは、87Vという非常に大きな抗電圧Vcが得られた。また、実施例5のPZT膜のキュリー温度Tcを測定したところ、Tc=390℃であった。
図50(A)は、比較例2(K148)の強誘電性ヒステリシス曲線を示す図であり、図50(B)は比較例2(K148)の圧電バタフライ曲線を示す図である。図51(A)は、比較例3(K129)の強誘電性ヒステリシス曲線を示す図であり、図51(B)は比較例3(K129)の圧電バタフライ曲線を示す図である。
比較例2(K148)及び比較例3(K129)は、リードテクノ株式会社製のバルクの圧電素子である。この圧電素子の形状は、直径φ8mm×厚さ約0.5mm(500μm)の円盤状である。比較例2(K148)及び比較例3(K129)の圧電素子として、一般的に用いられるハード系PZT(K148)と変位量に拘ったソフト系PZT(K129)を比較した。
先ずカタログ値の転移温度としてのキュリー温度(Tc)、圧電定数d33(pC/N)及び比誘電率εrは、以下のようであった。
K129のTc: 145℃
K129のd33: 720
K129のεr: 8100
K148のTc: 280℃
K148のd33: 530
K148のεr: 2400
一般的なK148と異なり、圧電変位に拘ったK129はNiやNb等の元素が添加してあり、比誘電率が8000以上と大きく、これに伴って圧電変位が大きく取れ、アクチュエータ用途に用いられるが、同時にTc=145℃と非常に低く、温度特性が悪いため、所要箇所が限られる。
一般的バルクK148の場合、センサ用途に最適なバタフライ形状をしているが(図50(B)参照)、バルクK148の抗電界Ec=11.42kV/cmを、本発明の実施例と比較するため、20μm当たりに変換すると、抗電界Ec=11.42kV/cmは22.84V/20μmとなり、抗電圧Vc=22.84Vと非常に低い。アクチュエータ用K129の場合は、抗電界Ec=5.7kV/cmは11.4V/20μmとなり、抗電圧Vcが11.4Vとさらに低く、かつTc=145℃とこちらも低いため、デバイス加工時のリフロー等の熱処理(一般に280℃前後)時に、簡単に減分極を起こし、圧電性を失ってしまうというバルク共通の課題があった。
これに対し、前述した実施例5(本発明20μm)のPZT単結晶膜のサンプルは、抗電圧Vcが87V/20μmである。また、Tcが300℃以上と高いため、加工時のリフロー温度や静電気等の電位印加が起こっても、全く減分極する心配がない。
PZTバルクによる積層体は、一層当たり20μm程度の厚さの比較例2,3のバルクを積層して形成するが、一層当たりの抗電圧Vcは高くても25V程度である。また、大きな圧電性を引き出そうと、添加剤を多く含み、転移温度としてのキュリー温度Tcが200℃以下となっていることが多い。その結果、積層体が出来上がった時には、脱分極していて、全く圧電動作できないことも多い。これに対し、実施例5(本発明20μm)のサンプルは、抗電圧Vcが87V/20μm、かつ、Tc=390℃(実測値)であり、全く脱分極は生じない。
次に、実施例5(本発明20μm)のPZT膜のd33評価を行った。詳細には、2mmφの上部Pt上に300gの荷重を数秒掛けて特性評価を行った。d33=1200pC/Nと非常に大きな値であった(図52参照)。バルクの約2倍程度の大きさが容易に得られた。実施例5は純粋なPZTであるため、添加元素等を検討すれば、5〜10倍の値が得られる可能性は非常に高い。
実施例5のサンプル(20μm−PZT膜)のFIB−SEMの断面像は、図53(A),(B)に示すとおりである。図53(B)は図53(A)の拡大像である。
図53によれば、通常の多結晶PZT膜の柱状構造は全く存在せず、非常に良好な単一結晶であることが分かる。しかしながら、ごく一部、他配向領域と思われる領域が見受けられたが、通常のPZT積層バルク体の一層として考えると、圧倒的な圧電性を保持していることは明確であり、ほぼ20μm厚さにおいても、単結晶膜と言って良い圧倒的な圧電厚膜が得られた。
図49(A)に示す実施例4(本発明10μm)の強誘電性ヒステリシス曲線によれば、比誘電率(εr)、残留分極値(Pr)、抗電圧(Vc)及び抗電界(Ec)は以下のとおりである。また、実施例4のPZT膜のキュリー温度(Tc)を測定したところ、以下のとおりであった。
比誘電率(εr)=約200@1kHz
キュリー温度(Tc)=408℃
残留分極値(Pr)=約40μC/cm2
抗電圧(Vc)=44V
抗電界(Ec)=44kV/cm
図50(A)に示す比較例2(K148)の強誘電性ヒステリシス曲線によれば、比誘電率(εr)、残留分極値(Pr)、抗電圧(Vc)及び抗電界(Ec)は以下のとおりである。また、比較例2のPZTバルクのキュリー温度(Tc)を測定したところ、以下のとおりであった。
εr=2400
Tc=280℃
Pr=37.92μC/cm2
Ec=11.42kV/cm
Vc=571V@0.5mm(11.42V@10μm)
図51(A)に示す比較例3(K129)の強誘電性ヒステリシス曲線によれば、比誘電率(εr)、残留分極値(Pr)、抗電圧(Vc)及び抗電界(Ec)は以下のとおりである。また、比較例3のPZTバルクのキュリー温度(Tc)を測定したところ、以下のとおりであった。
εr=8100
Tc=145℃
Pr=29.76μC/cm2
Vc=275V@0.5mm(Vc=5.5V@10μm)
Ec=5.7kV/cm
図54は、実施例4(本発明10μm)のサンプルの比誘電率と誘電損失(tanδ)の温度変化を、周波数を100k,500k,1MHzと変化させて測定した結果を示す図である。
詳細には、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジーズ社製,HP4192A)を用いて、測定する10μm−PZTサンプルキャパシタをホットプレート(株式会社 MSAファクトリー社製,PH-210-600型(50〜600℃))上で加熱しながら、比誘電率と誘電損失(tanδ)の温度変化を、周波数を100k,500k,1MHzと変化させて測定した。キュリー温度(転移温度):Tc=390℃、誘電損失:tanδ=約2〜3%であった。
(実施例6)
図55は、実施例6のサンプルを示す断面図である。この実施例6のサンプルの作製方法は以下のとおりである。
Si基板201上にZrO2膜202を蒸着法により形成し、ZrO2膜202上にスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜203を形成する。次いで、Pt膜203上にSrRuO3膜すなわちSRO膜204を、図18に示すスパッタリング装置を用いて表5に示すスパッタ条件で成膜する。この際のスパッタリングターゲットの組成はSr:Ru=1:1.15である。
次いで、図18に示すスパッタリング装置を用い、表4に示す実施例3(本発明5μm)のスパッタ条件でSRO膜204上に膜厚1μmのPZT膜205を成膜する。但し、ここでのPZT膜205の膜厚は1μmであるため、表4に示す実施例3(本発明5μm)の成膜時間を720sにする。
次いで、PZT膜205上にSrRuO3膜すなわちSRO膜206を成膜する。この際の成膜条件は上記のSRO膜204の成膜条件と同様である。次いで、SRO膜206上にPt膜207、SRO膜208、膜厚1μmのPZT膜209を順に成膜する。この際、Pt膜207の成膜条件は上記のPt膜203の成膜条件と同様であり、SRO膜208の成膜条件は上記のSRO膜204の成膜条件と同様であり、PZT膜209の成膜条件は上記のPZT膜205の成膜条件と同様である。このようにして図55に示す実施例6のサンプルを作製することができる。
上記の実施例6のサンプルの結晶性をXRDで評価した結果は図56及び図57に示す。図56及び図57は、実施例6のサンプルのXRDパターンである。図56及び図57は、それぞれ異なる角度範囲を示す。また、図56及び図57のそれぞれで、(1)は、1層目PZT(PZT膜205)よりも上の層が形成される前のXRDパターンを示し、(2)は、1層目PZT(PZT膜205)よりも上の層が形成された後のXRDパターンを示す。
図56及び図57のXRDパターンによれば次のことが分かる。
1層目Pt電極(Pt膜203)と中間Pt電極(Pt膜207)の結晶性を比較すると、1層目Pt電極と比較して、中間Pt電極の場合、Pt(400)ピークの半価幅が若干広く、若干ブロードになってはいるが、中間Pt電極も、エピタキシャル成長していることが分かった。
次に、1層目PZT(PZT膜205)と2層目PZT(PZT膜209)の結晶性を比較すると、1層目PZTと比較して2層目PZTの場合、PZT(004)ピークの半価幅が若干広く、若干ブロードになってはいるが、中間Pt電極を含め、エピタキシャル成長していることが同様に分かった。
(実施例7)
図58は、実施例7のサンプルをFIBで断面観察した像である。この実施例7のサンプルは、図33(C)に示す断面構造と同様である。また、実施例7の作製方法は以下のとおりである。
Si基板上にZrO2膜を蒸着法により形成し、ZrO2膜上にスパッタリングによってエピタキシャル成長によるPt膜を形成する。次いで、図18に示すスパッタリング装置を用い、表4に示す実施例3(本発明5μm)のスパッタ条件でPt膜上に膜厚1μmのPZT膜を成膜する。但し、ここでのPZT膜の膜厚は1μmであるため、表4に示す実施例3(本発明5μm)の成膜時間を720sにする。
次いで、PZT膜上にPt膜、膜厚1μmのPZT膜を順に成膜する。この際、Pt膜の成膜条件は前記のPt膜の成膜条件と同様であり、PZT膜の成膜条件は前記のPZT膜の成膜条件と同様である。このようにして図33(C)に示す断面構造と同様の実施例7のサンプルを作製することができる。
なお、上記の第1の実施形態〜第7の実施形態、実施例1〜実施例7を、当業者の通常の創作能力の範囲内で互いに組み合わせて実施することも可能である。
また、上記の実施形態には、基板を含む圧電素子を説明している実施形態があるが、圧電素子を作製した後に基板を除去することで基板を含まない圧電素子を実施することも可能である。