[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成について説明する。本実施の形態に係る角度センサシステムは、本実施の形態に係る角度センサ1と、物理情報発生部5とを備えている。
本実施の形態に係る角度センサ1は、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成するものである。物理情報発生部5は、角度センサ1の検出対象の角度θと対応関係を有する物理情報を発生するものである。物理情報発生部5は、検出対象の角度θが変化するように、角度センサ1に対する相対的な位置が変化する。本実施の形態に係る角度センサ1は、特に、磁気式の角度センサであり、本実施の形態における物理情報発生部5は、物理情報としての回転磁界MFを発生する磁界発生部である。図1には、磁界発生部の一例として、円柱状の磁石6を示している。磁石6は、円柱の中心軸を含む仮想の平面を中心として対称に配置されたN極とS極とを有している。
本実施の形態に係る角度センサ1は、磁石6が発生する回転磁界MFを検出する。角度センサ1に対する磁石6の相対的な位置は、中心軸Cを中心として回転するように変化する。これは、例えば、角度センサ1と磁石6の一方が、回転動作をする図示しない動作体に連動して、所定の中心軸Cを中心として回転することによって実現される。あるいは、磁石6と角度センサ1が互いに反対方向に回転してもよいし、磁石6と角度センサ1が同じ方向に互いに異なる角速度で回転してもよい。角度センサ1に対する磁石6の相対的な位置が変化すると、角度センサ1が検出する回転磁界MFの方向は、中心軸Cを中心として回転する。
検出対象の角度θは、基準位置における回転磁界MFの方向が基準方向に対してなす角度である。基準位置は、磁石6の一方の端面に平行な仮想の平面(以下、基準平面と言う。)内に位置する。この基準平面内において、磁石6が発生する回転磁界MFの方向は、基準位置を中心として回転する。基準方向は、基準平面内に位置して、基準位置と交差する。以下の説明において、基準位置における回転磁界MFの方向とは、基準平面内に位置する方向を指す。角度センサ1は、磁石6の上記一方の端面に対向するように配置される。なお、後で、他の実施の形態で説明するように、磁界発生部は、図1に示した磁石6に限られるものではない。
角度センサ1は、それぞれ検出対象の角度θと対応関係を有する複数の検出信号を生成する検出信号生成部2を備えている。検出信号生成部2は、物理情報としての回転磁界MFを検出して複数の検出信号を生成する。本実施の形態では特に、検出信号生成部2は、複数の検出信号として、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13を生成する。この場合、検出信号生成部2は、第1の検出信号S11を生成する第1の検出回路10と、第2の検出信号S12を生成する第2の検出回路20と、第3の検出信号S13を生成する第3の検出回路30とを含んでいる。図1では、理解を容易にするために、第1ないし第3の検出回路10,20,30を別体として描いているが、第1ないし第3の検出回路10,20,30は一体化されていてもよい。また、図1では、第1ないし第3の検出回路10,20,30が中心軸Cに平行な方向に積層されているが、その積層順序は図1に示した例に限られない。第1ないし第3の検出回路10,20,30の各々は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。
ここで、図1および図2を参照して、本実施の形態における方向と角度の定義について説明する。まず、図1に示した中心軸Cに平行で、図1における下から上に向かう方向をZ方向とする。図2では、Z方向を図2における奥から手前に向かう方向として表している。次に、Z方向に垂直な2方向であって、互いに直交する2つの方向をX方向とY方向とする。図2では、X方向を右側に向かう方向として表し、Y方向を上側に向かう方向として表している。また、X方向とは反対の方向を−X方向とし、Y方向とは反対の方向を−Y方向とする。
基準位置PRは、角度センサ1が回転磁界MFを検出する位置である。基準方向DRはX方向とする。前述の通り、検出対象の角度θは、基準位置PRにおける回転磁界MFの方向DMが基準方向DRに対してなす角度である。回転磁界MFの方向DMは、図2において反時計回り方向に回転するものとする。角度θは、基準方向DRから反時計回り方向に見たときに正の値で表し、基準方向DRから時計回り方向に見たときに負の値で表す。
次に、図3を参照して、検出信号生成部2の構成について詳しく説明する。図3は、検出信号生成部2の構成を示す回路図である。前述の通り、検出信号生成部2は、第1の検出回路10と第2の検出回路20と第3の検出回路30とを含んでいる。検出信号生成部2は、更に、電源ポートVとグランドポートGを含んでいる。電源ポートVとグランドポートGの間には、5V等の所定の大きさの電源電圧が印加される。
回転磁界MFの方向DMが所定の周期Tで回転すると、検出対象の角度θは所定の周期Tで変化する。この場合、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13は、いずれも、上記所定の周期Tと等しい信号周期で周期的に変化する。第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13は、互いに位相が異なっている。
第1の検出回路10は、直列に接続された一対の磁気検出素子R11,R12と、出力ポートE10を有している。磁気検出素子R11の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R11の他端は、磁気検出素子R12の一端と出力ポートE10に接続されている。磁気検出素子R12の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE10は、磁気検出素子R11,R12の接続点の電位に対応する第1の検出信号S11を出力する。
第2の検出回路20は、直列に接続された一対の磁気検出素子R21,R22と、出力ポートE20を有している。磁気検出素子R21の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R21の他端は、磁気検出素子R22の一端と出力ポートE20に接続されている。磁気検出素子R22の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE20は、磁気検出素子R21,R22の接続点の電位に対応する第2の検出信号S12を出力する。
第3の検出回路30は、直列に接続された一対の磁気検出素子R31,R32と、出力ポートE30を有している。磁気検出素子R31の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R31の他端は、磁気検出素子R32の一端と出力ポートE30に接続されている。磁気検出素子R32の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE30は、磁気検出素子R31,R32の接続点の電位に対応する第3の検出信号S13を出力する。
本実施の形態では、磁気検出素子R11,R12,R21,R22,R31,R32の各々は、直列に接続された複数の磁気抵抗効果素子(MR素子)を含んでいる。複数のMR素子の各々は、例えばスピンバルブ型のMR素子である。このスピンバルブ型のMR素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、回転磁界MFの方向DMに応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。スピンバルブ型のMR素子は、TMR素子でもよいし、GMR素子でもよい。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。スピンバルブ型のMR素子では、自由層の磁化の方向が磁化固定層の磁化の方向に対してなす角度に応じて抵抗値が変化し、この角度が0°のときに抵抗値は最小値となり、角度が180°のときに抵抗値は最大値となる。図3において、磁気検出素子に重なるように描かれた矢印は、その磁気検出素子に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向を表している。
第1の検出回路10では、磁気検出素子R11に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、X方向から反時計回り方向に60°だけ回転した方向である。以下、この方向を第1の方向D1と言う。磁気検出素子R12に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第1の方向D1とは反対方向である。第1の検出回路10では、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度に応じて、磁気検出素子R11,R12の接続点の電位が変化する。従って、第1の検出回路10は、回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第1の検出信号S11として出力する。回転磁界MFの第1の方向D1の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第2の検出回路20では、磁気検出素子R21に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向はX方向である。以下、この方向を第2の方向D2と言う。磁気検出素子R22に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第2の方向D2とは反対方向すなわち−X方向である。第2の検出回路20では、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度に応じて、磁気検出素子R21,R22の接続点の電位が変化する。従って、第2の検出回路20は、回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第2の検出信号S12として出力する。回転磁界MFの第2の方向D2の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第3の検出回路30では、磁気検出素子R31に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、X方向から時計回り方向に60°だけ回転した方向である。以下、この方向を第3の方向D3と言う。磁気検出素子R32に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第3の方向D3とは反対方向である。第3の検出回路30では、回転磁界MFの第3の方向D3の成分の強度に応じて、磁気検出素子R31,R32の接続点の電位が変化する。従って、第3の検出回路30は、回転磁界MFの第3の方向D3の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第3の検出信号S13として出力する。回転磁界MFの第3の方向D3の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
なお、検出回路10,20,30内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
ここで、図7を参照して、磁気検出素子の構成の一例について説明する。図7は、図3に示した検出信号生成部2における1つの磁気検出素子の一部を示す斜視図である。この例では、1つの磁気検出素子は、複数の下部電極62と、複数のMR素子50と、複数の上部電極63とを有している。複数の下部電極62は図示しない基板上に配置されている。個々の下部電極62は細長い形状を有している。下部電極62の長手方向に隣接する2つの下部電極62の間には、間隙が形成されている。図7に示したように、下部電極62の上面上において、長手方向の両端の近傍に、それぞれMR素子50が配置されている。MR素子50は、下部電極62側から順に積層された自由層51、非磁性層52、磁化固定層53および反強磁性層54を含んでいる。自由層51は、下部電極62に電気的に接続されている。反強磁性層54は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層53との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層53の磁化の方向を固定する。複数の上部電極63は、複数のMR素子50の上に配置されている。個々の上部電極63は細長い形状を有し、下部電極62の長手方向に隣接する2つの下部電極62上に配置されて隣接する2つのMR素子50の反強磁性層54同士を電気的に接続する。このような構成により、図7に示した磁気検出素子は、複数の下部電極62と複数の上部電極63とによって直列に接続された複数のMR素子50を有している。なお、MR素子50における層51〜54の配置は、図7に示した配置とは上下が反対でもよい。
前述の通り、検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13は、いずれも、上記所定の周期Tと等しい信号周期で周期的に変化する。検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、検出信号S11,S12,S13の各々は、理想的な正弦曲線(サイン(Sine)波形とコサイン(Cosine)波形を含む)を描くように周期的に変化する理想成分と、この理想成分以外の誤差成分とを含んでいる。検出信号S11,S12,S13は、それらの理想成分の位相が互いに異なり且つ所定の位相関係を有するものである。本実施の形態では特に、検出信号S11,S12では、それらの理想成分の位相が互いに60°異なっている。検出信号S12,S13では、それらの理想成分の位相が互いに60°異なっている。検出信号S11,S13では、それらの理想成分の位相が互いに120°異なっている。
検出信号S11,S12,S13の誤差成分の原因としては、MR素子50の自由層51が、MR素子50の磁化固定層53の磁化方向の磁気異方性を有することや、MR素子50の磁化固定層53の磁化方向が回転磁界MF等の影響によって変動することが挙げられる。これらの原因による誤差成分は、主に、理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分である。
次に、図4を参照して、角度センサ1の、検出信号生成部2以外の部分について説明する。角度センサ1は、検出信号生成部2の他に、図4に示した角度検出部3および状態判別装置4を備えている。図4は、角度検出部3および状態判別装置4の構成を示す機能ブロック図である。角度検出部3は、検出信号生成部2によって生成される複数の検出信号に基づいて、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。角度検出部3および状態判別装置4は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。
状態判別装置4は、角度センサ1が所定の状態にあるか否かの判別に用いられる判定値を生成する判定値生成部41と、判定値に基づいて、角度センサ1が所定の状態にあるか否かを判別する判別部42とを有している。本実施の形態では特に、所定の状態とは、角度センサ1が故障していない状態である。従って、状態判別装置4は、角度センサ1の故障を検出する。以下、角度センサ1が故障していない状態を、正常状態と言う。
角度検出部3は、変換処理部31と、共通補正処理部32と、非共通補正処理部33と、角度演算部34とを含んでいる。変換処理部31は、複数の検出信号を、複数の検出信号の各々に比べて誤差成分が低減された複数の補正前信号に変換する変換処理を行う。共通補正処理部32は、複数の検出信号と対応関係を有する複数の補正前信号を、角度検出値θsの生成と判定値の生成とに用いられる複数の共通補正後信号に変換する共通補正処理を行う。非共通補正処理部33は、複数の共通補正後信号を、角度検出値θsを生成するための演算には用いられるが判定値の生成には用いられない第1の角度演算用信号SCおよび第2の角度演算用信号SDに変換する非共通補正処理を行う。角度演算部34は、第1および第2の角度演算用信号SC,SDを用いて角度検出値θsを算出する。
判定値生成部41は、複数の共通補正後信号に基づいて判定値を生成する。共通補正処理は、共通補正処理が行われることなく複数の補正前信号を用いて角度検出値θsを生成した場合に比べて角度検出値θsに生じる角度誤差が低減され、且つ共通補正処理が行われることなく複数の補正前信号を用いて判定値を生成した場合に比べて検出対象の角度θに応じた判定値の変動の幅が小さくなるように、複数の補正前信号を複数の共通補正後信号に変換する処理である。
本実施の形態では、複数の検出信号は、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13である。角度検出部3は、更に、それぞれ検出信号S11,S12,S13が入力される入力ポートP10,P20,P30を含んでいる。
また、本実施の形態では、複数の補正前信号は、第1の補正前信号S1および第2の補正前信号S2である。変換処理部31は、2つの演算部31A,31Bを含んでいる。演算部31Aは、入力ポートP10,P20から入力される第1の検出信号S11と第2の検出信号S12との和を求める演算を行って第1の補正前信号S1を生成する。演算部31Bは、入力ポートP30,P20から入力される第3の検出信号S13と第2の検出信号S12との和を求める演算を行って第2の補正前信号S2を生成する。検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1および第2の補正前信号S1,S2の各々は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する理想成分を含む。
以下、変換処理部31における変換処理について具体的に説明する。ここでは、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13の各々は、理想成分と、理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分とを含んでいるものとする。まず、第2の検出信号S12の理想成分をcosθとする。この場合、第2の検出信号S12の誤差成分は、a1・cos3θと表すことができる。第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13は、それぞれ、下記の式(1)、(2)、(3)で表すことができる。なお、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13の各々の中心値は0とする。
S11=cos(θ−60°)+a1・cos{3(θ−60°)}
=cos(θ−60°)−a1・cos3θ …(1)
S12=cosθ+a1・cos3θ …(2)
S13=cos(θ+60°)+a1・cos{3(θ+60°)}
=cos(θ+60°)−a1・cos3θ …(3)
また、第1および第2の補正前信号S1,S2は、式(1)〜(3)で表される第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13を用いて、それぞれ下記の式(4)、(5)で表すことができる。
S1=S11+S12
=cos(θ−60°)−a1・cos3θ+cosθ+a1・cos3θ
=2cos(θ−30°)・cos(−30°)
=1.73cos(θ−30°) …(4)
S2=S13+S12
=cos(θ+60°)−a1・cos3θ+cosθ+a1・cos3θ
=2cos(θ+30°)・cos(30°)
=1.73cos(θ+30°) …(5)
式(4)に示したように、第1の検出信号S11の誤差成分と第2の検出信号S12の誤差成分は、第1の補正前信号S1を生成する際に相殺される。その結果、第1の補正前信号S1は、第1および第2の検出信号S11,S12の各々に比べて、誤差成分が低減された信号になる。また、式(5)に示したように、第2の検出信号S12の誤差成分と第3の検出信号S13の誤差成分は、第2の補正前信号S2を生成する際に相殺される。その結果、第2の補正前信号S2は、第2および第3の検出信号S12,S13の各々に比べて、誤差成分が低減された信号になる。
次に、図5を参照して、共通補正処理部32の構成および動作と、共通補正処理の内容について詳しく説明する。図5は、共通補正処理部32の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態では、複数の共通補正後信号は、第1の共通補正後信号SAおよび第2の共通補正後信号SBである。検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々は、理想的な正弦曲線を描くように周期的に変化する理想成分を含む。第1の共通補正後信号SAの理想成分と第2の共通補正後信号SBの理想成分の位相差は90°である。第1の共通補正後信号SAと第2の共通補正後信号SBの振幅は等しい。本実施の形態における共通補正処理は、第1および第2の補正前信号S1,S2を、上記のような第1および第2の共通補正後信号SA,SBに変換する処理である。
図5に示したように、共通補正処理部32は、オフセット補正部321と、規格化部322と、位相差補正部323とを含んでいる。オフセット補正部321は、第1および第2の補正前信号S1,S2のオフセットを補正して、信号S1a,S2aを生成する処理を行う。以下、この処理をオフセット補正処理と言う。信号S1a,S2aは、それぞれ下記の式(6)、(7)によって求められる。
S1a=S1−(S1max+S1min)/2 …(6)
S2a=S2−(S2max+S2min)/2 …(7)
式(6)において、S1maxおよびS1minは、それぞれ、第1の補正前信号S1の最大値および最小値を表している。式(7)において、S2maxおよびS2minは、それぞれ、第2の補正前信号S2の最大値および最小値を表している。最大値S1maxおよび最小値S1minは、少なくとも1周期分の第1の補正前信号S1の波形から求めることができる。最大値S2maxおよび最小値S2minは、少なくとも1周期分の第2の補正前信号S2の波形から求めることができる。少なくとも1周期分の第1および第2の補正前信号S1,S2の波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
規格化部322は、第1および第2の補正前信号S1,S2の振幅の規格化を行って、信号S1b,S2bを生成する処理を行う。以下、この処理を規格化処理と言う。規格化処理は、信号S1a,S2aを用いて行われる。信号S1b,S2bは、それぞれ下記の式(8)、(9)によって求められる。
S1b=S1a/S1amp …(8)
S2b=S2a/S2amp …(9)
式(8)において、S1ampは、第1の補正前信号S1の振幅を表している。式(9)において、S2ampは、第2の補正前信号S2の振幅を表している。振幅S1ampは、少なくとも1周期分の第1の補正前信号S1の波形から求めることができる。振幅S2ampは、少なくとも1周期分の第2の補正前信号S2の波形から求めることができる。
位相差補正部323は、第1の補正前信号S1の理想成分と第2の補正前信号S2の理想成分との位相差に関わらずに、第1の共通補正後信号SAの理想成分と第2の共通補正後信号SBの理想成分の位相差を90°にし、且つ第1の共通補正後信号SAと第2の共通補正後信号SBの振幅を等しくする処理を行う。以下、この処理を位相差補正処理と言う。具体的には、位相差補正部323は、まず、下記の式(10)、(11)によって、信号SAp,SBpを生成する。
SAp=S1b+S2b …(10)
SBp=S1b−S2b …(11)
位相差補正部323は、次に、下記の式(12)、(13)によって、信号SAp,SBpの振幅の規格化を行う。これにより、信号SAp,SBpは、それぞれ、第1の共通補正後信号SAと第2の共通補正後信号SBになる。
SA=SAp/SApamp …(12)
SB=SBp/SBpamp …(13)
式(12)において、SApampは、信号SApの振幅を表している。式(13)において、SBpampは、信号SBpの振幅を表している。振幅SApampは、少なくとも1周期分の信号SApの波形から求めることができる。振幅SBpampは、少なくとも1周期分の信号SBpの波形から求めることができる。少なくとも1周期分の信号SAp,SBpの波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
前述のように、第2の検出信号S12の理想成分をcosθとした場合、第1の共通補正後信号SAの理想成分はcosθになり、第2の共通補正後信号SBの理想成分はsinθになる。
次に、図6を参照して、非共通補正処理部33の構成および動作と、非共通補正処理の内容について詳しく説明する。図6は、非共通補正処理部33の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態における非共通補正処理は、非共通補正処理が行われることなく第1および第2の共通補正後信号SA,SBを用いて角度検出値θsを生成した場合に比べて、角度検出値θsに生じる角度誤差を低減するための処理である。非共通補正処理によって低減される角度誤差は、第1の角度誤差成分と第2の角度誤差成分の少なくとも一方を含んでいる。検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1の角度誤差成分は、所定の周期Tと等しい周期で変化し、第2の角度誤差成分は、所定の周期Tの1/2の周期で変化する。
図6に示したように、非共通補正処理部33は、第1の振幅差生成部331と、演算部332A,332Bと、第2の振幅差生成部333と、オフセット生成部334とを含んでいる。第1の振幅差生成部331は、第1および第2の共通補正後信号SA,SBの振幅を調整して、信号SAa,SBaを生成する。信号SAa,SBaは、それぞれ下記の式(14)、(15)によって求められる。
SAa=SA/(1−C1) …(14)
SBa=SB/(1+C1) …(15)
式(14)、(15)は、補正パラメータC1を含んでいる。補正パラメータC1は、0または0に近い値である。補正パラメータC1が0の場合には、信号SAa,SBaの振幅は等しくなるが、補正パラメータC1が0以外の場合には、信号SAa,SBaの振幅は等しくならない。補正パラメータC1は、例えば下記の式(16)によって表される。
C1=β・sin(s) …(16)
式(16)におけるβ,sについては、後で説明する。
演算部332A,332Bは、それぞれ下記の式(17)、(18)によって、信号SCp,SDpを生成する。
SCp=SAa−SBa …(17)
SDp=SAa+SBa …(18)
第2の振幅差生成部333は、信号SCp,SDpの振幅を調整して、信号SCq,SDqを生成する。信号SCq,SDqは、それぞれ下記の式(19)、(20)によって求められる。
SCq=SCp/{SCpamp・(1−C2)} …(19)
SDq=SDp/{SDpamp・(1+C2)} …(20)
式(19)において、SCpampは信号SCpの振幅を表している。式(20)において、SDpampは信号SDpの振幅を表している。振幅SCpampは、少なくとも1周期分の信号SCpの波形から求めることができる。振幅SDpampは、少なくとも1周期分の信号SDpの波形から求めることができる。少なくとも1周期分の信号SCp,SDpの波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
また、式(19)、(20)は、補正パラメータC2を含んでいる。補正パラメータC2は、0または0に近い値である。
補正パラメータC1,C2が共に0の場合には、式(17)〜(20)は、信号SCq,SDqの位相差を90°にし、且つ信号SCq,SDqの振幅を等しくするための基本的な演算を表す。補正パラメータC1が0以外の場合には、信号SCq,SDqの位相差は、正確な90°にはならないが、90°に近い値になる。また、補正パラメータC2が0以外の場合には、信号SCq,SDqの振幅は等しくならない。
補正パラメータC2は、例えば下記の式(21)によって表される。
C2=β・cos(s) …(21)
式(21)におけるβ,sは、それぞれ式(16)におけるβ,sと同じである。
オフセット生成部334は、信号SCp,SDpのオフセットを調整して、第1および第2の角度演算用信号SC,SDを生成する。第1および第2の角度演算用信号SC,SDは、それぞれ下記の式(22)、(23)によって求められる。
SC=SCq+C3 …(22)
SD=SDq−C4 …(23)
式(22)は、補正パラメータC3を含んでいる。式(23)は、補正パラメータC4を含んでいる。補正パラメータC3,C4は、それぞれ、0または0に近い値である。補正パラメータC3が0の場合には、第1の角度演算用信号SCにオフセットは生じないが、補正パラメータC3が0以外の場合には、第1の角度演算用信号SCにオフセットが生じる。補正パラメータC4が0の場合には、第2の角度演算用信号SDにオフセットは生じないが、補正パラメータC4が0以外の場合には、第2の角度演算用信号SDにオフセットが生じる。補正パラメータC3,C4は、それぞれ、例えば下記の式(24)、(25)によって表される。
C3=SCqamp・α・sin(t) …(24)
C4=SDqamp・α・cos(t) …(25)
式(24)において、SCqampは信号SCqの振幅を表している。式(25)において、SDqampは信号SDqの振幅を表している。振幅SCqampは、少なくとも1周期分の信号SCqの波形から求めることができる。振幅SDqampは、少なくとも1周期分の信号SDqの波形から求めることができる。少なくとも1周期分の信号SCq,SDqの波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
式(24)、(25)におけるα,tについては、後で説明する。
次に、角度演算部34における角度演算について説明する。角度演算部34は、非共通補正処理部33によって生成された第1および第2の角度演算用信号SC,SDを用いて角度検出値θsを算出する。具体的には、例えば、角度演算部34は、下記の式(26)によって、θsを算出する。なお、“atan”は、アークタンジェントを表す。
θs=atan(SD/SC)−φ …(26)
式(26)においてφは、atan(SD/SC)の演算によって求まる角度と角度検出値θsとの位相差を表している。前述のように、第2の検出信号S12の理想成分をcosθとした場合、φは、例えば45°である。
θsが0°以上360°未満の範囲内では、式(26)におけるθsの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、SC,SDの正負の組み合わせにより、θsの真の値が、式(26)におけるθsの2つの解のいずれであるかを判別することができる。角度演算部34は、式(26)と、上記のSC,SDの正負の組み合わせの判定により、0°以上360°未満の範囲内でθsを求める。
次に、第1および第2の角度誤差成分と補正パラメータC1〜C4との関係について説明する。前述のように、検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1の角度誤差成分は、所定の周期Tと等しい周期で変化し、第2の角度誤差成分は、所定の周期Tの1/2の周期で変化する。ここで、第1の角度誤差成分をα・cos(θ−t)と定義し、第2の角度誤差成分を、β・cos{2(θ−s/2)}と定義する。αは、第1の角度誤差成分の振幅に対応する。tは、第1の角度誤差成分の位相に対応する。βは、第2の角度誤差成分の振幅に対応する。sは、第2の角度誤差成分の位相に対応する。α,βは、それぞれ0以上の値である。α,t,β,sは、例えば、角度検出値θsの少なくとも1周期分の角度誤差の波形を求め、この角度誤差の波形に対してフーリエ変換を行うことによって求めることができる。
第1の角度誤差成分は、第1の成分と、第2の成分とを含んでいる。第1の成分と第2の成分の位相差は、90°である。第1の成分の振幅は、α・sin(t)であり、第2の成分の振幅は、α・cos(t)である。第1の成分の振幅は、補正パラメータC3の値に依存して変化する。そのため、第1の成分の振幅に応じて補正パラメータC3の値を調整することによって、第1の成分を低減することができる。具体的には、式(24)に示したように、第1の成分の振幅α・sin(t)と信号SCqの振幅SCqampとの積を、補正パラメータC3とすることによって、第1の成分を低減することができる。
また、第2の成分の振幅は、補正パラメータC4の値に依存して変化する。そのため、第2の成分の振幅に応じて補正パラメータC4の値を調整することによって、第2の成分を低減することができる。具体的には、式(25)に示したように、第2の成分の振幅α・cos(t)と信号SDqの振幅SDqampとの積を、補正パラメータC4とすることによって、第2の成分を低減することができる。
なお、第1の角度誤差成分が十分に小さい場合には、補正パラメータC3,C4をそれぞれ0にしてもよい。
第2の角度誤差成分は、第3の成分と、第4の成分とを含んでいる。第3の成分と第4の成分の位相差は、45°である。第3の成分の振幅は、β・sin(s)であり、第4の成分の振幅は、β・cos(s)である。第3の成分の振幅は、補正パラメータC1の値に依存して変化する。そのため、第3の成分の振幅に応じて補正パラメータC1の値を調整することによって、第3の成分を低減することができる。具体的には、式(16)に示したように、第3の成分の振幅β・sin(s)を、補正パラメータC1とすることによって、第3の成分を低減することができる。
また、第4の成分の振幅は、補正パラメータC2の値に依存して変化する。そのため、第4の成分の振幅に応じて補正パラメータC2の値を調整することによって、第4の成分を低減することができる。具体的には、式(21)に示したように、第4の成分の振幅β・cos(s)を、補正パラメータC2とすることによって、第4の成分を低減することができる。
なお、第2の角度誤差成分が十分に小さい場合には、補正パラメータC1,C2をそれぞれ0にしてもよい。
次に、図4を参照して、状態判別装置4の動作について説明する。判定値生成部41は、第1および第2の共通補正後信号SA,SBに基づいて判定値dLrを生成する。本実施の形態では特に、判定値生成部41は、第1の共通補正後信号SAの二乗と、第2の共通補正後信号SBの二乗との和を求めることを含む演算を行って、判定値dLrを生成する。なお、「第1の共通補正後信号SAの二乗と、第2の共通補正後信号SBの二乗との和を求めることを含む演算」は、第1の共通補正後信号SAの二乗と、第2の共通補正後信号SBの二乗との和を求めた後に、所定の係数を掛けたり、所定の値を加減したりすることを含む。
以下、判定値dLrを生成するための演算について具体的に説明する。まず、判定値生成部41は、下記の式(27)で表される演算を行って、初期判定値Lrを生成する。
Lr=SA2+SB2 …(27)
次に、判定値生成部41は、下記の式(28)で表される演算を行って、判定値dLrを生成する。
dLr=Lr−Lrav …(28)
式(28)におけるLravは、角度センサ1が正常状態にあるときに検出対象の角度θが0°から360°まで変化したときの初期判定値Lrの平均値である。この平均値Lravは、例えば、故障していない角度センサ1の出荷前に初期判定値Lrを測定し、その測定結果に応じて決定される。
第1および第2の共通補正後信号SA,SBがいずれも理想成分のみからなり且つ角度センサ1が故障していない場合には、判定値dLrは理想値成分のみからなる。この理想値成分は、検出対象の角度θに関わらずに、一定の値、具体的には0である。
第1および第2の共通補正後信号SA,SBがいずれも理想成分のみからなり且つ角度センサ1が故障していない場合以外の場合には、判定値dLrは、理想値成分とは異なる値になり得る。判定値dLrは、理想値成分とは異なる値になる場合には、検出対象の角度θに応じて変動し得る。
判別部42は、判定値dLrに基づいて、角度センサ1が所定の状態にあるか否かを判別する。具体的に説明すると、判別部42は、判定値dLrが所定の判定範囲内にある場合には角度センサ1は正常状態にあると判定し、それ以外の場合には角度センサ1は故障していると判定して、その判定結果を示す信号を出力する。判定範囲は、LTHを所定の正の値として、−LTHからLTHまでの範囲である。判定範囲は、故障していない角度センサ1の出荷前に設定される。
以上説明したように、本実施の形態では、共通補正処理部32における共通補正処理によって、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13と対応関係を有する第1および第2の補正前信号S1,S2を、第1および第2の共通補正後信号SA,SBに変換し、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを用いて、角度検出値θsの生成と判定値dLrの生成とを行う。本実施の形態では特に、共通補正処理は、オフセット補正処理と規格化処理と位相差補正処理を含んでいる。これにより、本実施の形態によれば、第1および第2の補正前信号S1,S2の少なくとも一方において、中心値と振幅と位相のうちの少なくとも1つが所望の値からずれている場合に比べて、正常状態における角度誤差を小さくすることができると共に、検出対象の角度θに応じた判定値dLrの変動の幅を小さくすることができる。これにより、本実施の形態によれば、角度センサ1の状態を精度よく判別することができる。以下、検出対象の角度θに応じた判定値dLrの変動の幅を、判定値dLrの変動幅と言う。
また、本実施の形態では、変換処理部31における変換処理によって、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13を、第1ないし第3の検出信号S11,S12,S13に比べて誤差成分が低減された第1ないし第2の補正前信号S1,S2に変換する。これによっても、本実施の形態によれば、正常状態における角度誤差を小さくすることができると共に、判定値dLrの変動幅を小さくすることができる。
また、本実施の形態では、1つの共通補正処理部32によって行われる共通補正処理によって、角度誤差の低減と、判定値dLrの変動幅の縮小が同時に達成される。そのため、本実施の形態によれば、角度誤差の低減のための処理と判定値dLrの変動幅の縮小のための処理を別々に行う場合に比べて、角度センサ1の構成を簡単にすることができる。
また、本実施の形態では、角度検出部3は、非共通補正処理部33を含んでいる。非共通補正処理部33は、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを、第1および第2の角度演算用信号SC,SDに変換する。第1および第2の共通補正後信号SA,SBは、それらの理想成分の位相差が90°で且つ振幅が等しい2つの信号である。しかし、第1および第2の角度演算用信号SC,SDは、補正パラメータC1〜C4の値によっては、それらの理想成分の位相差が90°で且つ振幅が等しい2つの信号になるとは限らない。そのため、もし、第1および第2の角度演算用信号SC,SDを用いて判定値dLrを生成した場合には、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを用いて判定値dLrを生成した場合に比べて、判定値dLrの変動幅が大きくなる可能性がある。本実施の形態では、第1および第2の角度演算用信号SC,SDを、角度検出値θsを生成するための演算には用いるが、判定値dLrの生成には用いない。これにより、本実施の形態によれば、判定値dLrの変動幅を縮小しながら、角度誤差をより一層低減することができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る角度センサ1は、第1の実施の形態における検出信号生成部2および角度検出部3の代わりに、検出信号生成部102および角度検出部103を備えている。
始めに、図8を参照して、検出信号生成部102について説明する。図8は、検出信号生成部102の構成を示す回路図である。検出信号生成部102は、それぞれ検出対象の角度θと対応関係を有する第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24を生成する。検出信号生成部102は、第1の検出信号S21を生成する第1の検出回路110と、第2の検出信号S22を生成する第2の検出回路120と、第3の検出信号S23を生成する第3の検出回路130と、第4の検出信号S24を生成する第4の検出回路140とを含んでいる。第1ないし第4の検出回路110,120,130,140の各々は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。検出信号生成部102は、更に、電源ポートVとグランドポートGを含んでいる。電源ポートVとグランドポートGの間には、5V等の所定の大きさの電源電圧が印加される。
回転磁界MFの方向DMが所定の周期Tで回転すると、検出対象の角度θは所定の周期Tで変化する。この場合、第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24は、いずれも、上記所定の周期Tと等しい信号周期で周期的に変化する。第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24は、互いに位相が異なっている。
第1の検出回路110は、直列に接続された一対の磁気検出素子R111,R112と、出力ポートE110を有している。磁気検出素子R111の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R111の他端は、磁気検出素子R112の一端と出力ポートE110に接続されている。磁気検出素子R112の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE110は、磁気検出素子R111,R112の接続点の電位に対応する第1の検出信号S21を出力する。
第2の検出回路120は、直列に接続された一対の磁気検出素子R121,R122と、出力ポートE120を有している。磁気検出素子R121の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R121の他端は、磁気検出素子R122の一端と出力ポートE120に接続されている。磁気検出素子R122の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE120は、磁気検出素子R121,R122の接続点の電位に対応する第2の検出信号S22を出力する。
第3の検出回路130は、直列に接続された一対の磁気検出素子R131,R132と、出力ポートE130を有している。磁気検出素子R131の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R131の他端は、磁気検出素子R132の一端と出力ポートE130に接続されている。磁気検出素子R132の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE130は、磁気検出素子R131,R132の接続点の電位に対応する第3の検出信号S23を出力する。
第4の検出回路140は、直列に接続された一対の磁気検出素子R141,R142と、出力ポートE140を有している。磁気検出素子R141の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R141の他端は、磁気検出素子R142の一端と出力ポートE140に接続されている。磁気検出素子R142の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE140は、磁気検出素子R141,R142の接続点の電位に対応する第4の検出信号S24を出力する。
磁気検出素子R111,R112,R121,R122,R131,R132,R141,R142の各々の構成は、磁化固定層の磁化の方向を除いて、第1の実施の形態における磁気検出素子R11,R12,R21,R22,R31,R32の各々の構成と同じである。
第1の検出回路110では、磁気検出素子R111に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向はX方向である。以下、この方向を第1の方向D11と言う。磁気検出素子R112に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第1の方向D11とは反対方向すなわち−X方向である。第1の検出回路110では、回転磁界MFの第1の方向D11の成分の強度に応じて、磁気検出素子R111,R112の接続点の電位が変化する。従って、第1の検出回路110は、回転磁界MFの第1の方向D11の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第1の検出信号S21として出力する。回転磁界MFの第1の方向D11の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第2の検出回路120では、磁気検出素子R121に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は−X方向である。以下、この方向を第2の方向D12と言う。磁気検出素子R122に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第2の方向D12とは反対方向すなわちX方向である。第2の検出回路120では、回転磁界MFの第2の方向D12の成分の強度に応じて、磁気検出素子R121,R122の接続点の電位が変化する。従って、第2の検出回路120は、回転磁界MFの第2の方向D12の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第2の検出信号S22として出力する。回転磁界MFの第2の方向D12の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第3の検出回路130では、磁気検出素子R131に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向はY方向である。以下、この方向を第3の方向D13と言う。磁気検出素子R132に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第3の方向D13とは反対方向すなわち−Y方向である。第3の検出回路130では、回転磁界MFの第3の方向D13の成分の強度に応じて、磁気検出素子R131,R132の接続点の電位が変化する。従って、第3の検出回路130は、回転磁界MFの第3の方向D13の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第3の検出信号S23として出力する。回転磁界MFの第3の方向D13の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第4の検出回路140では、磁気検出素子R141に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は−Y方向である。以下、この方向を第4の方向D14と言う。磁気検出素子R142に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第4の方向D14とは反対方向すなわちY方向である。第4の検出回路140では、回転磁界MFの第4の方向D14の成分の強度に応じて、磁気検出素子R141,R142の接続点の電位が変化する。従って、第4の検出回路140は、回転磁界MFの第4の方向D14の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第4の検出信号S24として出力する。回転磁界MFの第4の方向D14の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
なお、検出回路110,120,130,140内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、検出信号S21,S22,S23,S24の各々は、理想成分と誤差成分とを含む。検出信号S21,S22,S23,S24は、それらの理想成分の位相が互いに異なり且つ所定の位相関係を有するものである。本実施の形態では特に、検出信号S21,S22では、それらの理想成分の位相が互いに180°異なっている。検出信号S21,S23では、それらの理想成分の位相が互いに90°異なっている。検出信号S23,S24では、それらの理想成分の位相が互いに180°異なっている。
次に、図9を参照して、角度検出部103について説明する。図9は、角度検出部103および状態判別装置4の構成を示す機能ブロック図である。角度検出部103は、検出信号生成部102によって生成される第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24に基づいて、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。状態判別装置4の構成および動作は、第1の実施の形態と同じである。角度検出部103および状態判別装置4は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。
角度検出部103は、入力ポートP110,P120,P130,P140と、変換処理部131と、共通補正処理部132と、非共通補正処理部133と、角度演算部134とを含んでいる。第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24は、それぞれ、入力ポートP110,P120,P130,P140に入力される。
変換処理部131は、2つの演算部131A,131Bを含んでいる。演算部131Aは、入力ポートP110,P120から入力される第1の検出信号S21と第2の検出信号S22との差を求める演算を行って第1の補正前信号S1を生成する。演算部131Bは、入力ポートP130,P140から入力される第3の検出信号S23と第4の検出信号S24との差を求める演算を行って第2の補正前信号S2を生成する。第1および第2の補正前信号S1,S2は、それぞれ下記の式(29)、(30)によって求められる。
S1=S21−S22 …(29)
S2=S23−S24 …(30)
検出信号S21,S22,S23,S24の各々が理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分を含む場合、式(29)、(30)に示した演算では、検出信号S21,S22,S23,S24の各々の誤差成分は相殺されない。本実施の形態では、検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第1および第2の補正前信号S1,S2の各々は、理想成分の他に、理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分を含む。
共通補正処理部132は、第1ないし第4の検出信号S21,S22,S23,S24と対応関係を有する第1および第2の補正前信号S1,S2を、角度検出値θsの生成と判定値dLrの生成とに用いられる第1および第2の共通補正後信号SA,SBに変換する共通補正処理を行う。
非共通補正処理部133および角度演算部134の構成および動作は、第1の実施の形態における非共通補正処理部33および角度演算部34と同じである。すなわち、非共通補正処理部133は、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを、角度検出値θsを生成するための演算には用いられるが判定値dLrの生成には用いられない第1および第2の角度演算用信号SC,SDに変換する非共通補正処理を行う。角度演算部134は、第1および第2の角度演算用信号SC,SDを用いて角度検出値θsを算出する。
次に、図10を参照して、共通補正処理部132の構成および動作と、本実施の形態における共通補正処理の内容について詳しく説明する。図10は、共通補正処理部132の構成を示す機能ブロック図である。図10に示したように、共通補正処理部132は、オフセット補正部1321と、規格化部1322と、位相差補正部1323と、誤差成分低減部1324とを含んでいる。オフセット補正部1321および規格化部1322の動作は、第1の実施の形態におけるオフセット補正部321および規格化部322の動作と同じである。
位相差補正部1323は、位相差補正処理を行う。具体的には、位相差補正部1323は、まず、規格化部1322によって生成された信号S1b,S2bを用いて、下記の式(31)、(32)によって、信号SAp,SBpを生成する。
SAp=S1b−S2b …(31)
SBp=S1b+S2b …(32)
位相差補正部1323は、次に、信号SAp,SBpの振幅の規格化を行って、信号SAq,SBqを生成する。信号SAq,SBqは、それぞれ下記の式(33)、(34)によって求められる。
SAq=SAp/SApmax …(33)
SBq=SBp/SBpmax …(34)
誤差成分低減部1324は、第1および第2の補正前信号S1,S2の各々に比べて第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々に含まれる誤差成分を低減する処理を行う。誤差成分低減部1324は、信号SAq,SBqを第1および第2の共通補正後信号SA,SBに変換する。
第1および第2の補正前信号S1,S2の各々に含まれる誤差成分のうち、誤差成分低減部1324が低減する誤差成分は、理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分であって、且つ第1の補正前信号S1の波形と第2の補正前信号S2の波形を同じように歪ませる誤差成分である。以下、この誤差成分を、第1の第3高調波誤差成分と言う。第1の第3高調波誤差成分は、角度誤差を大きくする要因になると共に、判定値dLrの変動幅を大きくする要因になる。
ここで、信号SAqの理想成分をcosθとし、信号SBqの理想成分をsinθとする。信号SAq,SBqは、それぞれ下記の式(35)、(36)で表すことができる。式(35)中の“A1・cos3θ”は、信号SAqの第1の第3高調波誤差成分であり、式(36)中の“A1・sin(3θ−180°)”は、信号SBqの第1の第3高調波誤差成分である。
SAq=cosθ+A1・cos3θ …(35)
SBq=sinθ+A1・sin(3θ−180°) …(36)
誤差成分低減部1324は、信号SAqから、信号SAqの第1の第3高調波誤差成分の推定値を減算することによって、第1の共通補正後信号SAを生成する。また、誤差成分低減部1324は、信号SBqから、信号SBqの第1の第3高調波誤差成分の推定値を減算することによって、第2の共通補正後信号SBを生成する。第1および第2の共通補正後信号SA,SBは、それぞれ下記の式(37)、(38)によって求められる。
SA=SAq−F1・cos3θq …(37)
SB=SBq−F1・sin(3θq−180°) …(38)
式(37)、(38)中の値F1は、例えば、信号SAqの二乗と信号SBqの二乗との和の変動成分から求めることができる。以下、信号SAqの二乗と信号SBqの二乗との和を二乗和信号と言う。二乗和信号は、式(35)、(36)で表される信号SAq,SBqを用いて、下記の式(39)で表すことができる。
SAq2+SBq2=(cosθ+A1・cos3θ)2
+{sinθ+A1・sin(3θ−180°)}2
=cos2θ+2A1・cosθ・cos3θ+A1 2・cos23θ
+sin2θ−2A1・sinθ・sin3θ+A1 2・sin23θ
=1+A1 2
+A1{cos(−2θ)+cos4θ}
−A1{cos(−2θ)−cos4θ}
=1+A1 2+2A1・cos4θ …(39)
式(39)から、二乗和信号の変動成分は“2A1・cos4θ”になる。従って、検出対象の角度θの少なくとも1/4周期分に相当する二乗和信号の波形から、値A1を求めることができる。本実施の形態では、このようにして求めた値A1を、値F1とする。二乗和信号の波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
また、式(37)、(38)中のθqは、信号SAq,SBqを用いて、下記の式(40)によって算出される。
θq=atan(SBq/SAq) …(40)
θqが0°以上360°未満の範囲内では、式(40)におけるθqの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、SAq,SBqの正負の組み合わせにより、θqの真の値が、式(40)におけるθqの2つの解のいずれであるかを判別することができる。誤差成分低減部1324は、式(40)と、上記のSAq,SBqの正負の組み合わせの判定により、0°以上360°未満の範囲内でθqを求める。
誤差成分低減部1324は、式(40)を用いて信号SAq,SBqからθqを求め、このθqを式(37)、(38)に代入して第1および第2の共通補正後信号SA,SBを生成してもよい。
あるいは、誤差成分低減部1324は、θqを求めずに、以下のようにして、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを生成してもよい。式(37)、(38)を変形すると、下記の式(41)、(42)になる。
SA=SAq−F1(4cos3θq−3cosθq) …(41)
SB=SBq−F1(4sin3θq−3sinθq) …(42)
誤差成分低減部1324は、式(41)におけるcosθqを信号SAqに置き換えて、第1の共通補正後信号SAを生成してもよい。また、誤差成分低減部1324は、式(42)におけるsinθqを信号SBqに置き換えて、第2の共通補正後信号SBを生成してもよい。
以上説明したように、本実施の形態では、誤差成分低減部1324によって、第1および第2の補正前信号S1,S2の各々に比べて第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々に含まれる第1の第3高調波誤差成分を低減する。これにより、本実施の形態によれば、正常状態における角度誤差をより一層低減することができると共に、判定値dLrの変動幅をより一層縮小することができる。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る角度センサ1では、非共通補正処理部133の構成が第2の実施の形態と異なっている。図11は、非共通補正処理部133の構成を示す機能ブロック図である。図11に示したように、非共通補正処理部133は、誤差成分低減部1330と、第1の振幅差生成部1331と、演算部1332A,1332Bと、第2の振幅差生成部1333と、オフセット生成部1334とを含んでいる。
本実施の形態では、非共通補正処理によって低減される角度誤差は、第3の角度誤差成分を含んでいる。検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、第3の角度誤差成分は、所定の周期Tの1/4の周期で変化する。第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々は、第3の角度誤差成分を生じさせる誤差成分を含んでいる。この誤差成分は、第2の実施の形態における図10に示した誤差成分低減部1324では低減することができない誤差成分である。
以下、第3の角度誤差成分を生じさせる誤差成分について詳しく説明する。この誤差成分は、信号SAq,SBqに同じ位相で生じ、第2の実施の形態で説明した二乗和信号に変動をもたらさない。この誤差成分は、例えば、第1ないし第4の検出回路110,120,130,140(図8参照)の各々に含まれるMR素子の自由層に同じ方向の磁気異方性が生じていたり、磁石6(図1参照)と検出信号生成部102(図8参照)の位置関係がずれていたりすることによって生じる。
ここで、第1の共通補正後信号SAの理想成分をcosθとし、第2の共通補正後信号SBの理想成分をsinθとする。第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々が、第3の角度誤差成分を生じさせる誤差成分を含む場合、第1および第2の共通補正後信号SA,SBは、それぞれ下記の式(43)、(44)によって表される。式(43)、(44)において、A2はラジアンで表したときの第3の角度誤差成分の振幅を表し、δは第3の角度誤差成分の位相を表している。
SA=cos{θ−A2・sin(4θ−δ)}
=cosθ・cos{A2・sin(4θ−δ)}
+sinθ・sin{A2・sin(4θ−δ)} …(43)
SB=sin{θ−A2・sin(4θ−δ)}
=sinθ・cos{A2・sin(4θ−δ)}
−cosθ・sin{A2・sin(4θ−δ)} …(44)
ところで、ラジアンで表したときの角度xが十分に小さいときには、cosx、sinxをそれぞれ1、xと近似することができる。本実施の形態では、A2の値は、cos(A2・sin4θ)、sin(A2・sin4θ)をそれぞれ1、A2・sin4θと近似できるような小さな値である。この近似を式(43)、(44)に適用すると、第1および第2の共通補正後信号SA,SBは、それぞれ下記の式(45)、(46)によって表される。
SA≒cosθ+sinθ・A2・sin(4θ−δ)
=cosθ−(A2/2){cos(5θ−δ)−cos(−3θ+δ)}
=cosθ+(A2/2)cos(3θ−δ)−(A2/2)cos(5θ−δ)
…(45)
SB≒sinθ−cosθ・A2・sin(4θ−δ)
=sinθ−(A2/2){sin(5θ−δ)−sin(−3θ+δ)}
=sinθ−(A2/2)sin(3θ−δ)−(A2/2)sin(5θ−δ)
…(46)
第1の共通補正後信号SAは、第1の共通補正後信号SAの理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分と、第1の共通補正後信号SAの理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分とを含んでいる。第2の共通補正後信号SBは、第2の共通補正後信号SBの理想成分に対する第3高調波に相当する誤差成分と、第2の共通補正後信号SBの理想成分に対する第5高調波に相当する誤差成分とを含んでいる。以下、第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々に含まれる第3高調波に相当する誤差成分を、第2の第3高調波誤差成分と言う。また、第1および第2の共通補正後信号SA,SBの各々に含まれる第5高調波に相当する誤差成分を、第5高調波誤差成分と言う。
式(45)中の“(A2/2)cos(3θ−δ)”は、第1の共通補正後信号SAの第2の第3高調波誤差成分である。式(45)中の“−(A2/2)cos(5θ−δ)”は、第1の共通補正後信号SAの第5高調波誤差成分である。式(46)中の“−(A2/2)sin(3θ−δ)”は、第2の共通補正後信号SBの第2の第3高調波誤差成分である。式(45)中の“−(A2/2)sin(5θ−δ)”は、第2の共通補正後信号SBの第5高調波誤差成分である。
誤差成分低減部1330は、第3の角度誤差成分が低減されるように、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを補正して、信号SAe,SBeを生成する処理を行う。誤差成分低減部1330は、第1の共通補正後信号SAと補正値CAとを合成して、信号SAeを生成する。また、誤差成分低減部1330は、第2の共通補正後信号SBと補正値CBとを合成して、信号SBeを生成する。信号SAe,SBeは、それぞれ下記の式(47)、(48)によって求められる。
SAe=SA+CA …(47)
SBe=SB+CB …(48)
また、補正値CA,CBは、例えば、それぞれ下記式(49)、(50)によって表される。
CA=−F2・cos(3θa−δ) …(49)
CB=−F2・sin(3θa−180°−δ) …(50)
式(49)、(50)中のF2は、第3の角度誤差成分の振幅A2に基づいて決定することができる。本実施の形態では、第3の角度誤差成分の振幅A2を、値F2とする。第3の角度誤差成分の振幅A2は、角度誤差の波形から求めることができる。角度誤差の波形は、角度センサ1の出荷前または使用前に生成することができる。
また、式(49)、(50)中のθaは、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを用いて、下記の式(51)によって算出される。
θa=atan(SB/SA) …(51)
θaが0°以上360°未満の範囲内では、式(51)におけるθaの解には、180°異なる2つの値がある。しかし、SA,SBの正負の組み合わせにより、θaの真の値が、式(51)におけるθaの2つの解のいずれであるかを判別することができる。誤差成分低減部1330は、式(51)と、上記のSA,SBの正負の組み合わせの判定により、0°以上360°未満の範囲内でθaを求める。
誤差成分低減部1330は、式(51)を用いて第1および第2の共通補正後信号SA,SBからθaを求め、このθaを式(49)、(50)に代入して補正値CA,CBを求めてもよい。
あるいは、誤差成分低減部1330は、θaを求めずに、以下のようにして、補正値CA,CBを求めてもよい。式(49)、(50)を変形すると、下記の式(52)、(53)になる。
CA=−F2(cos3θa・cos(−δ)−sin3θa・sin(−δ))
=−F2cosδ(4cos3θa−3cosθa)
+F2sinδ(4sin3θa−3sinθa) …(52)
CB=F2(sin3θa・cos(−δ)+cos3θa・sin(−δ))
=−F2cosδ(4sin3θa−3sinθa)
−F2sinδ(4cos3θa−3cosθa) …(53)
誤差成分低減部1330は、式(52)、(53)におけるcosθaを第1の共通補正後信号SAに置き換え、式(52)、(53)におけるsinθaを第2の共通補正後信号SBに置き換えて、補正値CA,CBを求めてもよい。
なお、式(49)、(50)に示した補正値CA,CBでは、補正値CAの振幅と補正値CBの振幅は、同じ値F2であり、補正値CAの周期と補正値CBの周期は、前記所定の周期Tの1/3の同じ値である。本実施の形態では、補正値CAの周期と補正値CBの周期は、前記所定の周期Tの1/5の同じ値であってもよい。この場合、補正値CA,CBは、それぞれ下記式(54)、(55)によって表される。
CA=F2・cos(5θa−δ) …(54)
CB=−F2・sin(5θa−180°−δ) …(55)
次に、非共通補正処理部133のうち、誤差成分低減部1330以外の部分の動作について説明する。第1の振幅差生成部1331の動作は、以下の点を除いて、第1の実施の形態における第1の振幅差生成部331と同様である。本実施の形態では、第1の振幅差生成部1331は、信号SAe,SBeの振幅を調整して、信号SAa,SBaを生成する。演算部1332A,1332B、第2の振幅差生成部1333およびオフセット生成部1334の動作は、それぞれ、第1の実施の形態における演算部332A,332B、第2の振幅差生成部333およびオフセット生成部334の動作と同じである。
以上説明したように、本実施の形態によれば、誤差成分低減部1330によって、第3の角度誤差成分を低減することができる。本実施の形態では、第1の共通補正後信号SAが第2の第3高調波誤差成分と第5高調波誤差成分とを含んでいるにも関わらず、補正値CAは、1つの周期で変化する値でよい。同様に、第2の共通補正後信号SBが第2の第3高調波誤差成分と第5高調波誤差成分とを含んでいるにも関わらず、補正値CBは、1つの周期で変化する値でよい。補正値CAの振幅と補正値CBの振幅は、同じ値F2である。補正値CAの周期と補正値CBの周期は、前記所定の周期Tの1/3または1/5の同じ値である。これにより、本実施の形態によれば、簡単な処理で、第3の角度誤差成分を低減することができる。
ところで、もし、誤差成分低減部1330によって生成された信号SAe,SBeを用いて判定値dLrを生成した場合には、第1および第2の共通補正後信号SA,SBを用いて判定値dLrを生成した場合に比べて、判定値dLrの変動幅が大きくなる可能性がある。本実施の形態では、誤差成分低減部1330を、共通補正処理部132ではなく非共通補正処理部133に含めている。これにより、本実施の形態によれば、判定値dLrの変動幅を縮小しながら、角度誤差をより一層低減することができる。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1または第2の実施の形態と同様である。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る角度センサ1は、第1の実施の形態における検出信号生成部2および角度検出部3の代わりに、検出信号生成部202および角度検出部203を備えている。
始めに、図12を参照して、検出信号生成部202について説明する。図12は、検出信号生成部202の構成を示す回路図である。検出信号生成部202は、それぞれ検出対象の角度θと対応関係を有する第1および第2の検出信号S31,S32を生成する。検出信号生成部202は、第1の検出信号S31を生成する第1の検出回路210と、第2の検出信号S32を生成する第2の検出回路220とを含んでいる。第1および第2の検出回路210,220の各々は、回転磁界MFを検出する少なくとも1つの磁気検出素子を含んでいる。検出信号生成部202は、更に、電源ポートVとグランドポートGを含んでいる。電源ポートVとグランドポートGの間には、5V等の所定の大きさの電源電圧が印加される。
回転磁界MFの方向DMが所定の周期Tで回転すると、検出対象の角度θは所定の周期Tで変化する。この場合、第1および第2の検出信号S31,S32は、いずれも、上記所定の周期Tと等しい信号周期で周期的に変化する。第1および第2の検出信号S31,S32は、互いに位相が異なっている。
第1の検出回路210は、直列に接続された一対の磁気検出素子R211,R212と、出力ポートE210を有している。磁気検出素子R211の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R211の他端は、磁気検出素子R212の一端と出力ポートE210に接続されている。磁気検出素子R212の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE210は、磁気検出素子R211,R212の接続点の電位に対応する第1の検出信号S31を出力する。
第2の検出回路220は、直列に接続された一対の磁気検出素子R221,R222と、出力ポートE220を有している。磁気検出素子R221の一端は、電源ポートVに接続されている。磁気検出素子R221の他端は、磁気検出素子R222の一端と出力ポートE220に接続されている。磁気検出素子R222の他端は、グランドポートGに接続されている。出力ポートE220は、磁気検出素子R221,R222の接続点の電位に対応する第2の検出信号S32を出力する。
磁気検出素子R211,R212,R221,R222の各々の構成は、磁化固定層の磁化の方向を除いて、第1の実施の形態における磁気検出素子R11,R12,R21,R22,R31,R32の各々の構成と同じである。
第1の検出回路210では、磁気検出素子R211に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向はX方向である。以下、この方向を第1の方向D21と言う。磁気検出素子R212に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第1の方向D21とは反対方向すなわち−X方向である。第1の検出回路210では、回転磁界MFの第1の方向D21の成分の強度に応じて、磁気検出素子R211,R212の接続点の電位が変化する。従って、第1の検出回路210は、回転磁界MFの第1の方向D21の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第1の検出信号S31として出力する。回転磁界MFの第1の方向D21の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
第2の検出回路220では、磁気検出素子R221に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向はY方向である。以下、この方向を第2の方向D22と言う。磁気検出素子R222に含まれる複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、第2の方向D22とは反対方向すなわち−Y方向である。第2の検出回路220では、回転磁界MFの第2の方向D22の成分の強度に応じて、磁気検出素子R221,R222の接続点の電位が変化する。従って、第2の検出回路220は、回転磁界MFの第2の方向D22の成分の強度を検出して、その強度を表す信号を第2の検出信号S32として出力する。回転磁界MFの第2の方向D22の成分の強度は、検出対象の角度θと対応関係を有する。
なお、検出回路210,220内の複数のMR素子における磁化固定層の磁化の方向は、MR素子の作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
検出対象の角度θが所定の周期Tで変化する場合、検出信号S31,S32の各々は、理想成分と誤差成分とを含む。検出信号S31,S32は、それらの理想成分の位相が互いに異なり且つ所定の位相関係を有するものである。本実施の形態では特に、検出信号S31,S32は、それらの理想成分の位相が互いに90°異なるものである。
次に、図13を参照して、角度検出部203について説明する。図13は、角度検出部203および状態判別装置4の構成を示す機能ブロック図である。角度検出部203は、検出信号生成部202によって生成される第1および第2の検出信号S31,S32に基づいて、検出対象の角度θと対応関係を有する角度検出値θsを生成する。状態判別装置4の構成および動作は、第1の実施の形態と同じである。角度検出部203および状態判別装置4は、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)またはマイクロコンピュータによって実現することができる。
角度検出部203は、入力ポートP210,P220と、共通補正処理部231と、非共通補正処理部232と、角度演算部233とを含んでいる。第1および第2の検出信号S31,S32は、それぞれ、入力ポートP210,P220に入力される。
共通補正処理部231の構成および動作は、第2の実施の形態における図10に示した共通補正処理部132と同様である。本実施の形態では、第1および第2の検出信号S31,S32そのものが、複数の補正前信号である。従って、共通補正処理部231は、第1および第2の検出信号S31,S32を、角度検出値θsの生成と判定値dLrの生成とに用いられる第1および第2の共通補正後信号SA,SBに変換する共通補正処理を行う。
非共通補正処理部232の構成および動作は、第2の実施の形態における非共通補正処理部133と同じであってもよいし、第3の実施の形態における非共通補正処理部133と同じであってもよい。角度演算部233の構成および動作は、第1の実施の形態における角度演算部34と同じである。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第2または第3の実施の形態と同様である。
[第5の実施の形態]
次に、図14を参照して、本発明の第5の実施の形態に係る角度センサシステムについて説明する。図14は、本実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す説明図である。第1の実施の形態と同様に、本実施の形態における物理情報発生部5は、物理情報としての回転磁界を発生する磁界発生部である。図14には、磁界発生部の例として、1組以上のN極とS極が交互にリング状に配列された磁石7を示している。図14に示した例では、図14における紙面がXY平面となり、紙面に垂直な方向がZ方向となる。
本実施の形態に係る角度センサ1は、磁石7の外周部から発生する回転磁界の方向を検出する。角度センサ1に対する磁石7の相対的な位置は、中心軸を中心として回転するように変化する。これは、例えば、磁石7が、回転動作をする図示しない動作体に連動して、Z方向に平行な所定の中心軸を中心として回転することによって実現される。角度センサ1に対する磁石7の相対的な位置が変化すると、角度センサ1が検出する回転磁界の方向は、中心軸(Z方向)を中心として回転する。図14に示した例では、磁石7は時計回り方向に回転し、角度センサ1が検出する回転磁界の方向は反時計回り方向に回転する。
本実施の形態に係る角度センサ1の構成は、第1ないし第4のいずれかの実施の形態と同じであってもよい。角度センサ1に含まれる複数の検出回路は、磁石7の回転方向について同じ位置に配置される。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第4のいずれかの実施の形態と同様である。
[第6の実施の形態]
次に、図15を参照して、本発明の第6の実施の形態に係る角度センサシステムについて説明する。図15は、本実施の形態に係る角度センサシステムの概略の構成を示す説明図である。第1の実施の形態と同様に、本実施の形態における物理情報発生部5は、物理情報としての回転磁界を発生する磁界発生部である。図15には、磁界発生部の例として、複数組のN極とS極が交互に直線状に配列された磁石8を示している。図15に示した例では、図15における紙面がXY平面となり、紙面に垂直な方向がZ方向となる。磁石8のN極とS極は、X方向に並ぶように配列されている。
本実施の形態に係る角度センサ1は、磁石8の外周部から発生する回転磁界の方向を検出する。角度センサ1に対する磁石8の相対的な位置は、直線的に変化する。これは、例えば、角度センサ1と磁石8の一方が、図示しない動作体に連動して、X方向に直線的に移動することによって実現される。角度センサ1に対する磁石8の相対的な位置が変化すると、角度センサ1が検出する回転磁界の方向は、Z方向を中心として回転する。
本実施の形態に係る角度センサ1の構成は、第1ないし第4のいずれかの実施の形態と同じであってもよい。角度センサ1に含まれる複数の検出回路は、X方向について同じ位置に配置される。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1ないし第4のいずれかの実施の形態と同様である。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明は、磁気式の角度センサに限らず、光学式の角度センサ等を含む角度センサ全般ならびに角度センサシステム全般に適用することができる。なお、光学式の角度センサと光学的スケールとを備えた角度センサシステムの場合には、物理情報は、角度センサに対する光学的スケールの相対的な位置によって変化する光学的情報である。また、この場合、検出対象の角度は、例えば、光学的スケールの1ピッチを360°として角度センサに対する光学的スケールの相対的な位置を角度で表したときのその角度である。