JP2018020991A - 細胞増殖抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】メラニンの新たな用途を提供することを課題とする。【解決手段】メラニンの微粒子分散化及び可溶化に成功するとともに、メラニンに細胞増殖抑制作用を見出した。この知見に基づき、可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む細胞増殖抑制剤が提供される。【選択図】なし

Description

本発明は細胞増殖抑制剤及びその用途に関する。
黒色色素であるメラニン(ユーメラニン)はインドール骨格(図1A)を持つ5,6-Dihydroxyindole(DHI)(図1B)およびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone(IQ)(図1C)、もしくは5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acid(DHICA)(図1D)およびそのキノン体であるIndole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(IQCA)(図1E)がランダムに重合した高分子と報告されている(非特許文献1)。化学合成したメラニンの研究では、インドールユニットの2,4,7位で単結合し、ユニットが11個以内のシート状の重合体を形成する(図1F、G)。さらにこのシート状構造は4〜5層重なり、厚さ6〜10nm程度の基本構造単位(protomolecule)を形成していると報告されている(非特許文献2)。動物体内では、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の中で重合し生成する。メラニンはあらゆる生物体内に広く分布する天然色素の一種である。アミノ酸のチロシンからチロシナーゼの働きにより生合成され、システインが存在しない場合にはユーメラニン(図2)、システインが存在する場合にはフェオメラニンとなる。皮膚では紫外線の暴露によりメラノサイトが活性化し、メラニンを合成してメラノソームとして細胞外へ放出し、ケラチノサイトに受け渡し、ここでメラニンが現れる。ケラチノサイトに留まったメラニンはそこで紫外線を吸収し、紫外線傷害から深部の細胞を保護している(非特許文献3)。また、眼の脈絡膜や網膜色素上皮にもメラノサイトは存在し、眼における光量調節に寄与していることも知られる。さらに、内耳にも存在しているが、その意義については不明な部分が多い。
通常、メラノサイトから分泌されるメラニンは、ターンオーバーによって体外へ排出される仕組みとなっている。メラニンの生合成経路は明らかとなっており、工業的に化学合成も可能である。しかしながら、人工合成したメラニンや生物から抽出したメラニンを生命科学や医療分野へ利用した例は稀有である。特に、培養系細胞や動物個体に処理することで、その働きを人工的に調節した報告はない。これは、生物が持つ天然のメラニンにせよ合成メラニンにせよ、分子量が不均一な重合体であること、またあらゆる溶媒に溶解しにくいという物性的問題があったため、メラニンの生物活性を試験的に測定することが難しいからであると考えられる。
尚、合成可溶性メラニンにヒト免疫不全ウィルスの複製を阻害酢作用(特許文献1)、サイトカイン産生を抑制する作用(特許文献2)及び抗炎症作用(特許文献3)が報告されている。
米国特許第5057325号 特表2001−512446号公報 特表2003−509529号公報
Swift, J. A. 2009. Speculations on the molecular structure of eumelanin. Int J Cosmet Sci 31: 143-150. Littrell, K. C., J. M. Gallas, G. W. Zajac, and P. Thiyagarajan. 2003. Structural studies of bleached melanin by synchrotron small-angle X-ray scattering. Photochem Photobiol 77: 115-120. Ham, W. T., Jr., J. J. Ruffolo, Jr., H. A. Mueller, and D. Guerry, 3rd. 1980. The nature of retinal radiation damage: dependence on wavelength, power level and exposure time. Vision Res 20: 1105-1111. 中島泉. 2015. 医学概論-医学のコンセプトと医療のエッセンス. 南江堂.
メラニンの新たな作用を見出し、当該作用の応用(用途の提供)を図ることを課題とする。
本発明者らはメラニンの新たな用途を見出すべく、メラニンの溶解性に注目した検討を行うとともに、その作用を詳細に検討した。通常、メラニンはあらゆる疎水性、親水性溶媒に溶解しても、撹拌のみでは溶解しないが、我々は500mM Hepes(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)、pH7.5の生理的緩衝溶液にて50mg/mlまで容易に溶解することを見出した(以下、可溶化メラニン)。他に良く利用される緩衝溶液であるリン酸緩衝溶液(PBS)ではやはり難溶であるが、レーザーアブレーションによる均一分散化処理を施すと、粒子径が100nmの均一「粒子分散溶液」が容易に得られる(以下、微粒子分散化メラニン)。
細胞の増殖に着目した詳細な検討の結果(後述の実施例を参照)、微粒子化、あるいは可溶化したメラニンが、がん細胞や過剰増殖細胞に対し、重篤な細胞死を引き起こすことなく、細胞増殖のみを抑制するという、驚くべき作用を示すことが見出された。
ところで、がんは、遺伝子が原因となって先天的に発症するものから、生物的にしろ非生物的にしろ、種々の環境要因によって後天的な遺伝子変異が原因となって発症するものが存在する。いずれも、細胞が無秩序な増殖を無制限に繰り返すことで、個体の生命を脅かす。がんの治療には、手術による外科的治療、X線やコバルト、重粒子線などの回転照射による放射線治療、内科的治療としてホルモン療法、化学療法、免疫療法、分子標的治療薬療法が実施されている(非特許文献4)。内科的化学治療で使われる抗がん剤は、がん細胞のDNAに作用したり、DNAの複製や細胞分裂に必要なタンパク質の働きを阻害し、細胞死に導く。近年では分子標的治療薬療法が注目され、高い治療効果が認められつつある。しかし、こうした治療法には、治療費用が高い、汎用性に乏しい、副作用があるなど解決すべき課題が山積している。本発明者らが見出したメラニンの新たな作用、即ち、細胞増殖の抑制は、がんに対する新規且つユニークな治療戦略を可能にするものであり、その意義は大きい。
以下の発明は上記の知見ないし成果、及び考察に基づく。
[1]可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、細胞の増殖抑制剤。
[2]可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、[1]に記載の増殖抑制剤。
[3]分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、[1]に記載の増殖抑制剤。
[4]分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、[3]に記載の増殖抑制剤。
[5]細胞が腫瘍細胞である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
[6]がんの治療に使用される、[5]に記載の増殖抑制剤。
[7]抗がん剤が併用される、[6]に記載の増殖抑制剤。
ユーメラニンにおけるインドールユニットの単結合様式。5,6-Dihydroxyindole(DHI)とIndole-5,6-quinone(IQ)が関与する場合(F)と、5,6-Dihydroxyindole-2-carboxylic acid(DHICA) とIndole-5,6-quinone-2-carboxylic acid(IQCA)が関与する場合(G)。 ユーメラニンの合成経路。ユーメラニンはTyrosineを出発物質として生体内で合成される。試験管内では特許文献1記載の方法でメラニンの人工合成が可能である。 A.レーザーアブレーション技術による微粒子化分散溶液の作製。市販の合成メラニンを1mg/mlとなるようにPBSに加え、一定条件のレーザーを照射した。B.各種生化学的中性バッファー(0.5M)に溶解したメラニンの溶解性の検討。それぞれのバッファーに50mg/mlとなるよう合成メラニンを加えた後、10,000×gで30分遠心後、溶液10μlをろ紙に塗布した(a)。その後、溶液を激しく撹拌し、直ちに溶液10μlをろ紙に塗布した(b)。 ユーメラニン、メラニン様物質の合成経路。本研究で使用した可溶性メラニン、もしくはメラニン様物質は次の方法で合成した。すなわち、1gのL-dopa、もしくはL-dopamine(WAKO)を0.025N NaOH 400mlで溶解し、1NのNaOH中の溶液を通過した一定の空気を送りながら室温で2日間インキュベートした。濃塩酸2mlを添加し、沈殿物を得、1,000×gで5分遠心後、沈殿物を超純水400mlに溶解した。ここに濃塩酸1mlを添加し、1,000×gで5分遠心して再び沈殿を得た。この操作を合計4回実施し、メラニンもしくはメラニン様物質を精製した。最後に0.025N NaOH 20ml(この時点でpHは中性であるが、中性になっていなければ1NのNaOHで中性にする)に溶解し、透析膜を用いて一晩脱塩後、凍結乾燥した。 レーザーアブレーション法を用いた微粒子分散化メラニンによるラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3細胞に対する細胞毒性(A)および細胞増殖抑制試験(B)。 HepG2に対する合成可溶性メラニンの細胞毒性および細胞増殖抑制試験。A.合成可溶性メラニンによる細胞毒性試験。B.合成可溶性メラニン様物質による細胞毒性試験。C.合成可溶性メラニンによる細胞増殖抑制試験。D.合成可溶性メラニン様物質による細胞増殖抑制試験。 ヒトがん細胞株に対するHepes溶解メラニンの細胞毒性試験(左、白棒グラフ)および細胞増殖抑制試験(右、黒棒グラフ)。 A.マウスメラノーマ細胞株B16F10に対するHepes溶解メラニンの細胞増殖抑制試験結果。B.ヌードマウスに移植したB16F10細胞の体積変化。四角プロットはRPMI1640培地を充填した浸透圧ポンプを移植したマウスの腫瘍体積変化。丸プロットはHepes溶解メラニンを充填した浸透圧ポンプを移植したマウスの腫瘍体積変化。 MCF-7細胞を用いた、Hepes溶解メラニン処理による細胞周期への影響解析。フローサイトメーターを用いて細胞周期を解析した。G0/G1期、S期、G2/M期それぞれのピークエリアをFlowJoソフトウェアを用いて解析し、相対度数としてグラフ化した。白棒グラフはコントロール、斜線棒グラフはメラニン処理を表す。 HepG2細胞株における、Hepes溶解メラニン処理によるヒストンH3のリン酸化抑制。
本発明は細胞増殖抑制剤に関する。二つの用語「抑制」と「阻害」は、その意味するところが重複し、しばしば置換可能に用いられる。そこで本明細書では、前後の文脈から区別が特に必要な場合を除き、統一して用語「抑制」を使用する。
本発明の細胞増殖抑制剤の有効成分は分散化メラニン又は可溶化メラニンである。「分散化メラニン」とは、粒子径の均一性が高い粒子が溶媒中で分散した状態のメラニンをいう。分散化メラニンの平均粒子径は例えば70nm〜130nm、好ましくは90nm〜110nmである。本発明者らの検討によって、レーザーアブレーション技術を利用すると、均一性の高い粒子径で分散した状態のメラニンを調製できることが判明した。そこで、好ましくは、レーザーアブレーションによる処理によって分散化メラニンを調製する。例えば、生理的緩衝液(典型的にはPBSや生理的食塩水)、あるいは純水等にメラニンを懸濁した状態でレーザーアブレーション処理することにより、分散化したメラニンを含有する溶液(分散化メラニンの溶液)を調製することができる。
「可溶化メラニン」とは溶解状態のメラニンである。本発明者らの検討によって、疎水性、親水性の別を問わず、あらゆる溶媒に対して難解性を示すとされるメラニンが、Hepes緩衝液(検討には代表例として500mM Hepes(2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)、pH 7.5を使用)には容易に溶解するという、驚くべき事実が明らかとなった。そこで、好ましくは、Hepes緩衝液に溶解することによって可溶化メラニンを調製する。Hepes緩衝液の一部の成分の含有量を変化させたり又は一部の成分を除外したり、或いは成分を追加したりすることによって、組成の部分的な修正を施したもの(修正Hepes緩衝液)に溶解し、可溶化メラニンを調製することにしてもよい。可溶化メラニンの分子量は特に限定されないが、分子量が小さすぎると細胞増殖抑制活性が低下する。同様に分子量が大きすぎた場合は均質な細胞処理が困難となると考えられる。可溶化メラニンの分子量は例えば50kDa〜100kDaの範囲内である。
用語「メラニン」は、構造の類似する各種メラニン(ユーメラニン、フェオメラニン、ニューロメラニン、アロメラニン、フィトメラニン等)を包括する用語として用いられる。メラニンは動物、植物、菌類、真正細菌等に認められる色素である。本発明におけるメラニンの由来は特に限定されない。メラニンは、化学合成(例えば特表2003−509529号公報を参照)、酵素合成(例えば特開平07−313155号公報を参照)、天然物(例えばイカスミ、タコスミ、キノコ、バナナ、アサガオ種子など)からの抽出/精製、メラニン産生細胞(マウスB16、B16F10、シリアンハムスターRPMI 1846、ヒトHMY-1、MNT-1、HM3KO、A375、SK-Mel-28など)からの抽出/精製によって調製することができる。また、各種メラニンが市販されており(例えばSigma-Aldrichが提供するチロシンの過酸化水素処理により酸化的に合成されたメラニン、MP-Biochemicalsが提供するチロシンの過硫酸処理により酸化的に合成されたメラニン)、このような市販品を用いることにしてもよい。メラニンの純度ないし精製度は特に限定されない。従って、期待される作用効果、即ち、細胞増殖抑制活性を示す限り、例えば、天然物由来の粗精製メラニンなど、精製度の比較的低いメラニンを用いることにしてもよい。
好ましい一態様では、ユーメラニン、すなわち5,6-ジヒドロキシインドール(DHI)、インドール-5,6-キノン(IQ)、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸(DHICA)、インドール-5,6-キノン-2-カルボン酸(IQCA)、がモノマーとして含まれるポリマーが有効成分となる。構造及び/又は分子量の点で異なる、二種以上のメラニンが混在した状態のものを有効成分としてもよい。尚、本発明におけるメラニンはタンパク質成分を含むものではなく、即ち、いわゆるメラノプロテインから峻別される。
典型的には、本発明の細胞増殖抑制剤は異常ないし過剰に増殖している細胞の増殖抑制に用いられる。該当する細胞の例は、良性又は悪性の腫瘍細胞、過形成ないしポリープ(例えば、大腸ポリープ、胃ポリープ、喉頭ポリープ、声帯ポリープ、子宮頚管ポリープ、子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症)を形成する細胞である。これらの細胞の増殖を抑制することは、対応する疾患(即ち、腫瘍、過形成、ポリープ)の治療又は予防的処置となり得る。従って、本発明の細胞増殖抑制剤は腫瘍(特に悪性腫瘍/がん)、過形成、ポリープ等の治療又は予防に用いることが可能である。即ち、本発明の細胞増殖抑制剤を有効成分として、これらの疾患に対する治療薬を構成することが可能である。ここで、「治療薬」とは、標的の疾病・病態に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、標的の疾病・病態に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であることから、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、標的の疾病・病態に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、本明細書における治療薬に該当する。
本発明の治療薬の標的になり得る「がん」は広義に解釈され、癌腫、肉腫、血液悪性腫瘍などを含む。病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。「がん」の具体例として、食道癌、口腔癌、上顎癌、喉頭癌、咽頭癌、胃癌、十二指腸癌、大腸癌、肝細胞癌、胆管細胞癌、肺癌、前立腺癌、腎癌、膀胱乳頭癌、前立腺癌、尿道扁平上皮癌、骨肉腫、軟骨肉腫、滑液膜肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、扁平上皮癌、悪性黒色腫(メラノーマ)、神経膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、乳癌、乳房肉腫、子宮上皮内癌、子宮頸部扁平上皮癌、子宮腺癌、子宮肉腫、卵巣癌、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状乳頭腺癌、甲状腺濾胞癌、急性骨髄性白血病、急性前髄性白血病、急性骨髄性単球白血病、急性単球性白血病、急性リンパ性白血病、急性未分化性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病を挙げることができる。
本発明の細胞増殖抑制剤は、重篤な細胞死を引き起こすことなく、細胞増殖のみを抑制するという、極めてユニークな特性を示す。この特性に鑑みれば、がんの治療へ適用する場合にあっては、他の抗がん剤との併用が相乗効果を発揮し、治療効果や治療成績の向上をもたらすこと、或いは治療期間の短縮や抗がん剤濃度の低減、副作用の抑制、費用削減といった、より患者の身体的負担や経済的コストを抑えた治療の実現などを期待できる。そこで本発明の一態様では、がんの治療に使用する際、抗がん剤が併用される。併用される抗がん剤としては、チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、ゲフィチニブ/エルロチニブ、ラパチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、クリゾチニブ、アキシチニブ)、抗体薬(トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ベバシズマブ、リツキシマブ、イブリツモセブ・チウキセタン、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、デノスマブ)、mTOR阻害薬(テムシロリムス、エベロリムス、ラパマイシン)、プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ)、ビタミンA誘導体(トレチノイン、タミバロテン)、PD-1免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)、ピリミジン拮抗薬(フルオロウラシル、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、カペシタビン、シタラビン、ゲムシタビン、エノシタビン、カルモフール)、プリン拮抗薬(メルカプトプリン、フルダラビン、クラドリビン)、葉酸拮抗薬(メトトレキサート、ペメトレキセド)、代謝拮抗薬(トリフルリジン・チピラシル塩酸塩、ネララビン、ペントスタチン)、白金製剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン)、アルキル化薬(シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン)、抗生物質(ドキソルビシン、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム注射剤、エピルビシン、アムルビシン、イダルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、L-アスパラギナーゼ、アクラルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシン)、トポイソメラーゼ阻害薬(イリノテカン、ノギテカン、エトポシド)、微小管阻害薬(ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、ビノレルビン、エリブリン、パクリタキセル、パクリタキセルアルブミン懸濁型、ドセタキセル)、ホルモン剤(タモキシフェン、トレミフェン、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ゴセレリン、リュープロレリン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン)などを例示することができる。
本発明の細胞増殖抑制剤の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
製剤化する場合の剤型も特に限定されず、例えば点鼻剤、点眼剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤などとして本発明の細胞増殖抑制剤を提供できる。
本発明の細胞増殖抑制剤には、期待される治療効果や予防効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の細胞増殖抑制剤に含まれる有効成分量は一般に剤型や形態によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
本発明の細胞増殖抑制剤はその剤型・形態に応じて経口又は非経口(静脈内、動脈内、皮下、筋肉、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜、塗布など)で対象に適用される。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では、適用対象はヒトである。
本発明の細胞増殖抑制剤の投与量・使用量は、期待される効果が得られるように設定される。有効な投与量の設定においては一般に適用対象の症状、年齢、性別、体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与・使用スケジュールの作成においては、適用対象の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
以上の記述から明らかな通り、本出願は、がん患者に対して本発明の細胞増殖抑制剤を治療上有効量投与することを特徴とする、がんの治療・予防法も提供する。
メラニンの新たな用途(特に医療等への応用)を見出すべく、以下の研究を行った。まず、メラニンの特性ないし活性を評価する上で障害となる難溶解性に注目し、メラニンを溶解又は分散化する方法の創出を目指した。
1.材料と方法
(1)細胞と培養条件
ラット好塩基球性白血病細胞株(RBL-2H3)、ヒトがん細胞株として、子宮頸部類上皮がん(HeLa)、乳がん(MCF-7)、肝細胞がん(HepG2)、急性T細胞性白血病細胞(Jurkat)、マウスメラノーマ細胞株(B16F10)を用いた。
E-MEM培地(Wako Pure Chemical Industries)に10%FBS、100Uペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(nacalai tesque)を添加し培養した。
(2)試薬
メラニンは市販の合成メラニン(MP biomedicals、Sigma)を用いた。細胞生存率測定試薬として、セルカウンティングキット8(Dojindo)を用いた。
(3)可溶性メラニンの調製
(i) レーザーアブレーション処理メラニン(微粒子分散化メラニン)
合成メラニンを0.1wt%となるよう滅菌済みPBS中に懸濁し、以下のレーザー照射条件にて分散メラニン溶液を取得した。
波長1064nm, FWHM 5ns, 1.2J/cm2・pulse, 10Hz, 2.5mmφ, 60分間
(ii) Hepes溶解メラニン
Hepes(Sigma-Aldrich)を超純水に溶解し、ポアサイズ0.22μmの親水性PVDF膜(Merck Millipore Corporation)を用いてフィルターろ過滅菌した(Hepesバッファー)。これに合成メラニンを50mg/mlとなるよう溶解し、室温にて保存した。
(iii) 本研究で使用した可溶性メラニン、もしくはメラニン様物質は次の方法で合成した。すなわち、1gのL-dopa、もしくはL-dopamine(WAKO)を0.025N NaOH 400mlで溶解し、1NのNaOH中の溶液を通過した一定の空気を送りながら室温で2日間インキュベートした。濃塩酸2mlを添加し、沈殿物を得、1,000×gで5分遠心後、沈殿物を超純水400mlに溶解した。ここに濃塩酸1mlを添加し、1,000×gで5分遠心して再び沈殿を得た。この操作を合計4回実施し、メラニンもしくはメラニン様物質を精製した。最後に0.025N NaOH 20ml(この時点でpHは中性であるが、中性になっていなければ1NのNaOHで中性にする)に溶解し、凍結乾燥した。
(4)細胞毒性試験
96ウェルプレートに2×105個/ウェルとなるように細胞を播種した。37℃にて24時間培養後、コンフルエント状態となっていることを確認し、各種濃度のメラニンを投与した。細胞死誘導剤としてスタウロスポリン(STPO)、もしくはヒ素を投与した。さらに37℃にて24時間培養後、セルカウンティングキット8誌薬にて細胞生存率を計測した。
(5)細胞増殖抑制試験
96ウェルプレートに2×104個/ウェルとなるように細胞を低密度で播種すると同時に、各種濃度のメラニンを投与した。細胞死誘導剤として、STPO、もしくはヒ素を使用した。投薬後、37℃にて24時間培養し、セルカウンティングキット8試薬にて細胞生存率を計測した。
(6)マウスモデルにおける移植腫瘍抑制試験
薬液を持続的に体内へ注入できる浸透圧ポンプ(アルゼット浸透圧ポンプ、室町機械)に、Hepes溶解メラニンを18.9mg/mlの濃度で注入した。浸透圧ポンプは0.11μl/hrで薬液を排出することから、メラニン投与量は50μg/マウス/日となる。ヌードマウス(BALB/c Slc-nu/nu, 9週齢, 日本エスエルシー)にメラニンもしくは対照としてHepesを注入した浸透圧ポンプを外科的に皮下へ埋め込んだ。翌日、マウスメラノーマ細胞株B16F10を、浸透圧ポンプ近傍約1cmの部位に2×105個注射し、その後20日までの腫瘍の体積を経時的に計測した。腫瘍の体積は下記近似式を用いて算出した(坂上隆ら. 1990. ラットRF加温装置とそれを用いた腫瘍増殖抑制効果について:RF加温・温熱化学療法に関する実験的研究 (第1報). 日本ハイパーサーミア学会誌 6: 473-490.)。
(近似式)
V = (W2×L)/2 (V:体積、W:短径、L:長径)
(7)細胞周期解析
24ウェルマイクロプレートに1×106個/ウェルとなるようにヒト乳がん細胞株(MCF-7)を播種した。Hepes可溶化チロシンを投与し、24時間後、細胞を70%エタノールで固定した。Propidium Iodide染色液にてDNAを染色し、フローサイトメーター(FACS Canto, BD Biosciences)を用いてデータを取得した。細胞周期は解析ソフトウェア(FlowJo)を用いて解析した。
(8)ウェスタンブロッティング
3×106/ml (E-MEM培地)のHepG2細胞を播培養ディッシュに播種し、24時間培養した。37℃のE-MEM培地に希釈した種々の濃度のメラニンを細胞へ24時間処理後した。PBSで3回洗浄し、20mM Tris-HCl (pH7.5), 150mM NaCl, 1mM EDTA, 1% Triton X-100, 1mM PMSF, プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma)およびホスファターゼ阻害剤カクテル(Sigma)を含む細胞溶解緩衝液100μl中で溶解し、15,000×gの遠心で清澄化させた細胞溶解液のタンパク質濃度測定後、4×SDSサンプル緩衝液とともに煮沸した。タンパク質量として10〜20μgの試料をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写後、特異的抗体で目的のタンパク質バンドを検出した。
2.結果
(1)微粒子分散化および完全可溶化メラニン溶液の創製
細胞増殖を抑制する本体がメラニンである可能性が考えられたため、市販の合成された精製メラニンをRBL-2H3細胞に投与する実験を創案した。しかしながら、市販の合成メラニンは水のほか、様々な有機溶媒に不溶であり、顔料的な性質をもつ色素であることが知られている(佐藤健. 1998. イカスミ色素の最近の応用 (特集 色素と健康--食品活性成分の秘密). Food style 21 2: 80-81.)。そこで、レーザーアブレーション技術により、均一な分散溶液を得た。得られた微粒子分散化メラニン溶液は、電子顕微鏡観察によれば粒子径が70〜130nmであることが判明した(図3A)。一方、様々な生化学的中性バッファーへの溶解を試みたところ、市販の合成メラニンは500mM、pH7.5のHepesバッファーに50mg/mlの濃度でほぼ完全に溶解することを始めて見出した(図3B)。また、可溶性メラニンの化学的合成法が公開されている(特許文献1)。この方法を参考にすると、反応初期物質がL-Dopaの場合、メラニン(ユーメラニン)が合成され、反応初期物質がL-Dopamineの場合、メラニン様物質を作製することができる(図4)。ユーメラニンの場合は重合したインドールユニットの2位の位置にカルボキシル基が存在し、メラニン様物質の場合はカルボキシル基が存在しない重合体が生成すると考えられる。可溶性メラニンを合成後、HepesもしくはH2Oに完全溶解したメラニンを取得した。以上、このようにして得られた水溶液中で均一性の高いメラニン、もしくはメラニン様物質溶液を、以後の実験に用いた。
(2)レーザーアブレーション法を用いた微粒子分散化メラニンによる細胞毒性および細胞増殖抑制試験
コンフルエントとなったラット好塩基球性白血病細胞RBL-2H3に、各種濃度の微粒子分散化メラニン、もしくは細胞死誘導の陽性コントロールとして2.5μg/mlのスタウロスポリン(STPO)を処理し、24時間培養した。セルカウンティングキット8により生細胞を計測し、陰性コントロールの値を100%として細胞生存率を測定した。対照サンプルは50%PBSのEMEM培地を用いた。STPO処理ではほとんどの細胞が死滅したのに対し、微粒子分散化メラニンは少なくとも最大処理濃度0.5mg/mlまで細胞死誘導は認められなかった(図5A)。一方、RBL-2H3細胞を低密度でディッシュに播種すると同時に、各種濃度の微粒子分散化メラニン、もしくはSTPOを処理し、24時間培養後、セルカウンティングキット8により細胞の生存率を測定した。その結果、処理濃度0.062mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、処理濃度依存性に細胞増殖が有意に抑制された(図5B)。
(3)合成可溶性メラニンを用いた細胞毒性および細胞増殖抑制試験
合成可溶性メラニン、もしくは合成可溶性メラニン様物質を500mMのHepesに溶解し、50mg/mlのストック溶液を準備した。コンフルエントとなったヒト肝がん由来細胞株HepG2に、各種濃度(0.062〜0.5mg/ml)の合成可溶性メラニン、もしくは合成可溶性メラニン様物質を処理し、24時間培養した。細胞死誘導の陽性コントロールとして1mMのヒ素を処理した。セルカウンティングキット8により生細胞を計測し、陰性コントロールの値を100%として細胞生存率を測定した。対照サンプルは5mMのHepes入りEMEM培地を用いた。ヒ素処理ではほとんどの細胞が死滅したのに対し、可溶性メラニン、可溶性メラニン様物質は、いずれも、少なくとも最大処理濃度0.5mg/mlまで細胞死誘導は認められなかった(図6A、B)。一方、HepG2細胞を低密度でディッシュに播種すると同時に、各種濃度の可溶性メラニン、もしくは可溶性メラニン様物質を処理し、24時間培養後、セルカウンティングキット8により細胞の生存率を測定した。その結果、可溶性メラニンでは処理濃度0.125mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、可溶性メラニン様物質では処理濃度0.25mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、処理濃度依存性に細胞増殖が有意に抑制された(図6C、D)。
(4)Hepes溶解メラニンを用いた細胞毒性および細胞増殖抑制試験
市販のメラニンを500mMのHepesに溶解し、50mg/mlのストック溶液を準備した。このメラニンを用い、ヒト子宮頸がん細胞株(HeLa)、ヒト乳がん細胞株(MCF-7)、ヒトTリンパ球性白血病細胞株(Jurkat)に対する細胞毒性、および細胞増殖抑制効果を調べた。コンフルエントとなった各種がん細胞株に、各種濃度(0.031〜0.5mg/ml)のHepes溶解メラニンを処理し、24時間培養した。セルカウンティングキット8により生細胞を計測し、陰性コントロールの値を100%として細胞生存率を測定した。実験の結果、投与したHepes溶解メラニン濃度においては、いずれのがん細胞株においても細胞毒性は示されなかった。一方、これらの細胞株を低密度でディッシュに播種すると同時に、各種濃度のHepes溶解メラニンを処理し、24時間培養後、セルカウンティングキット8により細胞の生存率を測定した。その結果、HeLa、MCF-7細胞株においてはHepes溶解メラニンの処理濃度0.125mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、Jurkat細胞株においては、Hepes溶解メラニンの処理濃度0.031mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、それぞれ処理濃度依存性に細胞増殖が有意に抑制された(図7)。
(5)マウスを用いたHepes溶解メラニンによる移植腫瘍の抑制試験
市販のメラニンを500mMのHepesに溶解し、50mg/mlのストック溶液を準備した。まず、in vitroにおいて、Hepes溶解メラニンによるマウスメラノーマ細胞株B16F10に対する細胞増殖抑制効果を確認した。B16F10を低密度でディッシュに播種すると同時に、各種濃度のHepes溶解メラニンを処理し、24時間培養後、セルカウンティングキット8により細胞の生存率を測定した。実験の結果、Hepes溶解メラニンの処理濃度0.25mg/ml〜0.5mg/mlまでにおいて、処理濃度依存性に細胞増殖が有意に抑制された(図8A)。次に、Hepes溶解メラニンを浸透圧ポンプに注入してヌードマウスの皮下腹側部に移植した。翌日、マウスメラノーマ細胞株B16F10を皮下へ注射し、その後の腫瘍体積を計測した。実験の結果、Hepesメラニンを投与した群は、腫瘍の増大が有意に抑制された(図8B)。
(6)Hepes溶解メラニン処理されたがん細胞の細胞周期解析
メラニンによる細胞増殖抑制のメカニズムを調べるため、細胞周期解析を行った。ヒト乳がん細胞株MCF-7にHepes溶解メラニンを0.25mg/mlの濃度で48時間処理した。フローサイトメトリーによる細胞周期解析を行った結果、Hepes溶解メラニン処理によって、G0/G1期の細胞の割合がコントロールに比べて有意に上昇し、S期の細胞の割合が相対的に減少した(図9)。この結果から、メラニン処理によって細胞周期がG0/G1期で停止し、DNA合成期への進行が抑制されている可能性が示唆された。
(7)Hepes溶解メラニンによるヒストンリン酸化への影響
G0/G1期にて細胞周期の進行が阻害されている可能性が示唆されたことから、有糸分裂の進行の指標であるヒストンH3のリン酸化を調べた。ヒト肝がん細胞株HepG2に対し、Hepes溶解メラニンを0.25もしくは0.5mg/mlの濃度で処理し、24時間培養した。可溶性タンパク質を抽出し、ウェスタンブロッティングにてヒストンH3とリン酸化ヒストンH3をそれぞれ検出した。実験の結果、ヒストンH3のリン酸化はHepes溶解メラニン処理濃度依存性に抑制された(図10)。これらの結果から、メラニンは有糸分裂過程の阻害に関与していることが強く示唆された。
3.考察
メラニンは生物界に広く分布しており、生物種によって様々に利用されている。メラニンを医薬・生物学的に利用する試みは極めて少なく、人工合成メラニンによるHIV複製阻害(特表2001−512437号公報)、サイトカイン調製能(特表2001−512446号公報)、といった先行研究は存在するが、細胞増殖抑制を目的としたメラニンの利用・応用の報告は国内外を問わずなされていない。本研究では主に、株化がん細胞を対象として用い、固形がん、血球系がんを含む検討した全ての細胞株で、可溶化・微粒子分散化メラニンが明らかな細胞死誘導を起こさない濃度において、細胞増殖を効果的に抑制した。このことは、当該調整メラニンは正常細胞に重篤な障害を及ぼさない範囲で、細胞死は誘導せずとも異常増殖しているがん細胞の増殖を抑制し、がん患者の延命をもたらし得ることを示唆する。これまでに多種多様な抗がん剤が開発されており、多くは正常細胞にも障害を与え副作用を持ち併せるが、近年はがん細胞特異的な障害を引き起こす分子標的分子標的治療薬や、免疫監視機構の再活性化を誘導する抗体医薬が開発され奏功している。
本発明は単独使用でも有効な効果が期待できるが、既存の抗がん剤と適切に併用することにより、治療期間の短縮や抗がん剤濃度の低減、副作用の抑制、費用削減といった、より患者の身体的負担や経済的コストを抑えた効果的ながん治療に結びつき得る。
悪性黒色腫(メラノーマ)はメラニンを産生するメラノサイトががん化したものである。メラニン産生能を保持したままがん化したものや、メラニンを産生しない無色素性悪性黒色腫が存在する。メラニン産生能を保持したメラノーマは実際、細胞増殖を繰り返しており、一見、周囲にメラニンが放出されているにも関わらず細胞増殖が抑制されていないように思えるが、in vitroの閉鎖系では一定量のメラニンが細胞培養ディッシュ中に蓄積すると自身の細胞増殖が抑制されるように見える。個体におけるメラノーマは、細胞自身が周囲に放出するメラニンが細胞増殖を抑制する濃度に達する前に転移し、新たな細胞増殖を繰り返している可能性が考えられる。マウスメラノーマ細胞株であるB16F10はメラニンを産生するが、in vitroの実験系において、他のがん細胞株に比べてメラニンの増殖抑制作用に対する抵抗性が伺えるものの、外から添加した可溶化メラニンの処理濃度依存的な細胞増殖抑制効果が確認できた。さらに、浸透圧ポンプを用いた可溶化メラニンを持続的に放出するin vivo実験系において、ヌードマウス腹側部へ移植されたB16F10細胞の増殖は、有意に抑制された。このことから、メラニンを産生するメラノーマであったとしても、細胞周囲の可溶化メラニン濃度が十分存在すれば、細胞増殖が抑制されるものと思われる。
細胞周期解析を行った結果、可溶化メラニンの処理によってG0/G1期の細胞の割合が増大し相対的にDNA複製期であるS期の割合が減少した。このことから、可溶化メラニン処理によってG0/G1-arrestが引き起こされたと想定できる。メラニン処理を行うことで、ヒストンH3のリン酸化が顕著に抑制されたことからも、有糸分裂の停止が起きていることが明示された。
以上の結果から、メラニンは可溶化・微粒子分散化することにより、初めて細胞の増殖を抑制することが見出された。可溶化・微粒子分散化しても、メラニンは元来、生体内で生合成され組織を紫外線より保護する機能を担う天然物であることから、細胞毒性が極めて低いことは理にかなっている。細胞がメラニンに暴露されるということは、細胞にとっては有害な紫外線の攻撃を受けていることに対する防御応答、すなわち、細胞増殖を一旦停止し、紫外線によるDNA複製エラーを防ぐという応答の引き金であるかもしれない。
メラニンによる細胞増殖抑制の機序は詳細な解明が待たれるところであるが、異常に増殖している細胞分裂を抑制する性質は、前述の抗がん剤との併用による治療効果の改善のほか、ポリープ等の過形成や疣贅(イボ)、乾癬の抑制剤への応用も考えられる。また、イカ墨やタコ墨、バナナ、キノコ、アサガオの種子といったメラニンを含んだ天然物は、がん予防を期待した、より安全なサプリメント開発へつながると考えられる。
本発明の細胞増殖抑制剤は単独又は他の抗がん剤との併用で、「がん」の治療に利用され得る。また、良性の腫瘍、過形成、ポリープ等の治療や予防への適用も想定される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (7)

  1. 可溶化メラニン又は分散化メラニンを有効成分として含む、細胞の増殖抑制剤。
  2. 可溶化メラニンがHepes溶解メラニンである、請求項1に記載の増殖抑制剤。
  3. 分散化メラニンの平均粒子径が70nm〜130nmである、請求項1に記載の増殖抑制剤。
  4. 分散化メラニンがレーザーアブレーションによって得られる、請求項3に記載の増殖抑制剤。
  5. 細胞が腫瘍細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
  6. がんの治療に使用される、請求項5に記載の増殖抑制剤。
  7. 抗がん剤が併用される、請求項6に記載の増殖抑制剤。
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