JP2018009554A - エンジンのシリンダヘッド - Google Patents

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和晃 西尾
Kazuaki Nishio
和晃 西尾
浅野 昌彦
Masahiko Asano
昌彦 浅野
晶紀 江田
Akinori Eda
晶紀 江田
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Abstract

【課題】エンジン回転速度が高い運転領域での熱排出性の低下を抑えることのできるエンジンのシリンダヘッドを提供する。
【解決手段】シリンダヘッド10の底面12に形成される溶射膜22の膜厚は均一でなく、溶射膜22の表面には窪み22aが形成されている。この窪み22aは、図1の上段に示す環状領域に対応して形成されている。窪み22aが形成された領域以外の膜厚は、正味燃料消費率の改善率を最大にする最適値に設定されている。窪み22aが形成された領域の膜厚は、この最適値の30%〜80%に設定されている。
【選択図】図1

Description

この発明はエンジンのシリンダヘッドに関する。
エンジンの燃焼室は一般に、シリンダヘッドとシリンダブロックを合わせたときに、当該シリンダブロックのボア面と、当該ボア面に収容されるピストンの頂面と、当該シリンダヘッドの底面と、によって囲まれる空間として定義される。このような燃焼室の構成面、即ち、シリンダブロックのボア面、ピストンの頂面やシリンダヘッドの底面には、エンジンでの冷却損失の低減や、燃焼に伴い発生する熱からの保護を目的として、遮熱膜が形成されることがある。
特許文献1には、燃焼室を構成する底面に遮熱膜が形成された火花点火式エンジンのシリンダヘッドが開示されている。このシリンダヘッドにおいて、遮熱膜は、点火プラグが設けられる中心部において最も厚く、当該中心部から離れるほど薄くされている。遮熱膜の膜厚を上記の如くすることで、点火プラグに近い箇所での遮熱性を高めつつ、当該点火プラグから離れた箇所での遮熱性を低くすることができる。点火プラグから離れた箇所での遮熱性を低くできれば、燃焼室内の熱篭もりを抑えることができるので、当該箇所において発生し易いノッキングに対する耐性を向上できる。
特開2012−159059号公報 特開2015−081527号公報
ところで、燃焼に伴い発生した熱の一部は遮熱膜に移動する。遮熱膜に移動した熱は、当該遮熱膜が接する部材、即ち、シリンダブロック、ピストンやシリンダヘッドへと排出され、または、当該遮熱膜から燃焼室内に放出されて排気行程において当該燃焼室外に排出される。しかし、エンジン回転速度が高い運転領域では、各サイクルでの燃焼に伴い発生した熱の一部が短い間隔で次々に移動してくるので、上述した遮熱膜外への熱排出が追いつかなくなる。そのため、遮熱膜の温度が十分に下がり切らず、燃焼室内の温度や圧力が高いまま吸気行程を迎えることになるという問題がある。
特許文献1のシリンダヘッドでは、点火プラグが設けられる中心部で遮熱膜の膜厚が最大とされている。そのため、この遮熱膜の最大膜厚部には、点火プラグの周辺で発生した熱の多くが移動できることになる。そうすると、上述した高回転領域での熱排出性の低下が顕著となるので、吸気行程において燃焼室内に吸入される空気量が減少してしまう。従って、特許文献1のシリンダヘッドでは、遮熱膜の形成によって得られるはずの冷却損失の低減効果が薄れてしまうおそれがある。
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジン回転速度が高い運転領域での熱排出性の低下を抑えることのできるエンジンのシリンダヘッドを提供することにある。
本発明は、上記の目的を達成するため、燃焼室を構成する底面に遮熱膜が形成されるエンジンのシリンダヘッドであって、燃焼に伴い高温化する前記底面のうち相対的に低温となる領域として予め定めた領域に形成される前記遮熱膜の膜厚が、前記遮熱膜の膜厚を均一に形成した場合において正味燃料消費率の改善率を最大にする所定膜厚と等しく、前記底面のうち相対的に高温となる領域として予め定めた領域に形成される前記遮熱膜の膜厚が、前記所定膜厚よりも薄いことを特徴とする。
本発明によれば、低温領域に形成される遮熱膜の膜厚が、遮熱膜の膜厚を均一に形成した場合において正味燃料消費率の改善率を最大にする所定膜厚と等しくされ、その一方で、高温領域に形成される遮熱膜の膜厚が当該所定膜厚よりも薄くされる。高温領域に形成される遮熱膜の膜厚が所定膜厚よりも薄ければ、遮熱膜外への熱排出がエンジン回転速度に関係なく常に速やかに行われことになる。よって、エンジン回転速度が高い運転領域において熱排出性が低下するのを抑えることができる。
本発明の実施の形態に係るエンジンのシリンダヘッド10の底面12の構成を説明する図である。 図1の下段に示す窪み22aの位置関係を説明する図である。 吸気状態量一定、エンジン回転速度2000rpm、WOTの運転条件下で測定した正味燃料消費率の改善率と、溶射膜の膜厚との関係を示した図である。 シリンダヘッドの底面に膜厚均一の溶射膜を形成したエンジンでのエンジン回転速度と、燃費改善率(ベース比)との関係を示した図である。 シリンダヘッドの底面に形成する溶射膜の膜厚と、冷却損失の低減率との関係を示した図である。 圧力差(P4−Pb)と、溶射膜の膜厚との関係を示した図である。 本発明の実施の形態の変形例に係るエンジンのシリンダヘッド40の底面42の構成を説明する図である。 本発明の実施の形態に係るエンジンのシリンダヘッドの製造方法の一例を説明する図である。 図8のステップ010の処理前のワーク50の状態を説明する図である。 図8のステップ010の処理後のワーク50の状態を説明する図である。 図8のステップ020の処理後のワーク50の状態を説明する図である。 図8のステップ030,040の処理後のワーク50の状態を説明する図である。 図8のステップ050の処理後のワーク50の状態を説明する図である。 図8のステップ060の処理後のワーク50の状態を説明する図である。 シリンダヘッド40の完成品の一例を示す図である。 シリンダヘッドの底面の粗面化処理の具体例について説明するための図である。 実施例において得られた溶射膜の外観とイメージ断面を示す図である。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
[シリンダヘッドの構成]
図1は、本発明の実施の形態に係るエンジン(一例として、過給器付き直列4気筒型のディーゼルエンジン)のシリンダヘッド10の底面12の構成を説明する図である。図1の上段に示すように、底面12には、吸気バルブ(図示しない)によって開閉される吸気バルブ孔14と、排気バルブ(図示しない)によって開閉される排気バルブ孔16と、が2つずつ形成されている。吸気バルブ孔14と排気バルブ孔16によって囲まれる底面12の中心部には、インジェクタ(図示しない)が挿入されるインジェクタ孔18が形成されている。吸気バルブ孔14の中間部には、グロープラグ(図示しない)が挿入されるグロープラグ孔20が形成されている。
図1の下段は、吸気バルブ孔14と排気バルブ孔16の中間部と、インジェクタ孔18の中心部とを通る線A−A’でのシリンダヘッド10のイメージ断面が描かれている。このイメージ断面に示すように、底面12は、遮熱膜としての溶射膜22が形成された面と、溶射膜22が形成されていない面と、から構成される。本実施の形態では、膜形成面がエンジン燃焼室の構成面に相当し、膜非形成面がシリンダブロック24(図2参照)との合わせ面に相当している。
また、図1の下段に示すように、溶射膜22の膜厚は均一でなく、溶射膜22の表面には窪み22aが形成されている。この窪み22aは、図1の上段に示す環状領域に対応している。図2は、図1の下段に示す窪み22aの位置関係を説明する図である。図2の下段は図1の上段と同一であり、図2の上段は図1の上段に示した線A−A’と同じ位置を通る線B−B’でのエンジンのイメージ断面である。このイメージ断面に示すように、シリンダブロック24にはピストン26が収容されている。底面12と対向するピストン26の頂面28には、キャビティ30が形成されている。キャビティ30は、頂面28と接続される側面部30aと、円錐台状の山部30bと、側面部30aと山部30bを繋げる底面部30cと、から構成されている。溶射膜22の窪み22aは、底面部30cに対向する領域に形成されている。
窪み22aが底面部30cに対向する箇所に形成されているのは、溶射膜22が形成されている領域のうち、この窪み22aが形成されている領域に燃焼ガスが接触するからである。というのも、圧縮上死点の近傍においてインジェクタから噴射された燃料を含むガスは、キャビティ30の内側において着火して燃焼ガスとなる。そして、この燃焼ガスは、ピストン26を押し下げながら(但し、図2の上段ではピストン26は上方に移動する)キャビティ30の外側に拡散していく。図2の上段に示す矢印は、キャビティ30での燃焼ガスの流れ方向を表している。この矢印から分かるように、燃焼ガスは、底面部30cや側面部30aの表面に沿うように移動しながらキャビティ30の外側に向かう。このように、噴射燃料から生じた燃焼ガスは、底面部30cに対向する底面12の領域、即ち、窪み22aが形成された領域に接触する。そうすると、窪み22aが形成された領域は、溶射膜22の他の領域に比べて相対的に高温化することになる。
ここで、溶射膜22は、シリンダヘッド10の母材(一例としてアルミニウム合金)よりも熱伝導率と体積熱容量が低いという熱特性を有している。このような熱特性を有する遮熱膜の代表としてアルマイト皮膜がある。しかし、アルマイト皮膜はピストン程度のサイズの部材への形成には適しているものの、シリンダヘッド級のサイズの部材になると膜形成に困難を伴う。この点、溶射膜は、シリンダヘッド級のサイズにも容易に形成ができる。これに加え、溶射膜は、溶射粒子間に隙間が形成される多孔質膜である点でアルマイト皮膜と共通し、更には、当該アルマイト皮膜に匹敵する熱特性を有している。そのため、エンジン燃焼室内の作動ガスの温度、即ち、吸気の温度や燃焼ガスの温度に溶射膜22の表面温度を追従させることができる。よって、膨張行程での冷却損失を低減して燃費を向上でき、更には、吸気行程での作動ガスの加熱によるノッキングや異常燃焼の発生を抑制できる。
[溶射膜22の膜厚を均一にした場合の問題点]
ところで、図3は、吸気状態量(吸気圧、吸入空気量等)一定、エンジン回転速度2000rpm、WOTの運転条件下で測定した正味燃料消費率(BSFC)の改善率と、溶射膜の膜厚との関係を示した図である。なお、図3は、エンジンサイクルシミュレーションソフトウェア(一例として、ガンマテクノロジー社製のGTPower)を使用して作成したものである。図3に示すように、溶射膜の膜厚には、正味燃料消費率の改善率を最大にする最適値が存在する。従って、図1等に示した溶射膜22の膜厚をこの最適値に設定すれば、膨張行程での冷却損失の低減に一定以上の効果が期待できることになる。
しかし、溶射膜22の膜厚を最適値に設定した場合であっても、この膜厚が一定であるときには、エンジン回転速度が高い運転領域で冷却損失の低減効果が薄れるという問題がある。図4は、シリンダヘッドの底面に膜厚均一の溶射膜を形成したエンジンでのエンジン回転速度と、燃費改善率(ベース比)との関係を示した図である。図4に示すように、シリンダヘッドの底面に形成する溶射膜の膜厚を均一とした場合は、エンジン回転速度が低い運転領域では優れた燃費改善率(ベース比)を示すものの、エンジン回転速度が高くなるにつれて燃費改善率(ベース比)が低下し、エンジン回転速度が高い運転領域では燃費改善が殆ど見られなくなる。
図4に示した関係は、溶射膜からの熱排出速度と、サイクル間隔との関係によって説明できる。即ち、燃焼ガスが溶射膜に接触すれば、当然ながらこの燃焼ガスの熱の一部が当該溶射膜に移動する。燃焼ガスから溶射膜に移動した熱は、当該溶射膜からシリンダヘッドへと排出され、または、当該溶射膜からエンジン燃焼室内に放出されて、排気行程においてエンジン燃焼室の外部に排出される。しかし、エンジン回転速度が高い運転領域では、各サイクルで発生した燃焼ガスの熱の一部が短い間隔で次々に移動してくるので、溶射膜からの熱排出が追いつかなくなる。故に、溶射膜の温度が十分に下がり切らず、吸気行程において燃焼室内に吸入される空気量が減少した結果、燃費改善率(ベース比)が低下してしまう。
図5は、シリンダヘッドの底面に形成する溶射膜の膜厚と、冷却損失の低減率との関係を示した図である。なお、図5は、図3を作成したときと同一の運転条件でのエンジンサイクルシミュレーションによって作成したものである。図5から分かるように、溶射膜が厚くなるほど冷却損失の低減率が高くなる。故に、図5に示した関係に基づいて溶射膜の全体を厚くすれば、エンジン回転速度が高い運転領域での燃費改善率(ベース比)の低下を緩和することが可能となる。
しかし、溶射膜の全体を厚くした場合には、図3で説明したように正味燃料消費率の改善率が低下してしまう。これを裏付けるのが図6である。図6は、圧力差(P4−Pb)と、溶射膜の膜厚との関係を示した図である。なお、図6は、図3を作成したときと同一の運転条件でのエンジンサイクルシミュレーションによって作成したものである。圧力P4は排気通路内の圧力であり、圧力Pbは過給機のコンプレッサよりも下流側の吸気通路内の圧力である。図6に示すように、溶射膜の膜厚がある特定の値のときに圧力差(P4−Pb)が最小となる。ここで、圧力差(P4−Pb)は吸気行程において燃焼室内に吸入される空気量と関係があり、当該圧力差(P4−Pb)が小さいほど当該空気量が多くなる。従って、図6によれば、溶射膜の膜厚が特定値よりも大きい場合は、吸気行程において燃焼室内に吸入される空気量が当該膜厚に応じて減少し、正味燃料消費率の改善率が低下することが分かる。
このような問題点に鑑み、本実施の形態では、窪み22aが形成された領域以外の膜厚を上述した最適値に設定し、尚且つ、窪み22aが形成された領域の膜厚を当該最適値の30%〜80%に設定している。このような膜厚差を設けた場合は、溶射膜22の全領域を最適膜厚とする場合に比べて冷却損失の低減率が縮小するものの、燃焼ガスの接触によって相対的に高温化する領域での熱排出速度を高めることができる。従って、エンジン回転速度が高い運転領域において燃費改善率(ベース比)が低下するのを抑えることが可能となる。因みに、窪み22aが形成された領域の膜厚を最適値の30%〜80%とする理由は次のとおりである。即ち、膜厚を最適値の30%以下とした場合には膜厚を均一にしたときと効果が変わらず、また、膜厚を最適値の80%以上とした場合には溶射膜が薄くなりすぎて下地が露出してしまう可能性があるためである。
以上説明したように、本実施の形態によれば、エンジン回転速度が高い運転領域において燃費改善率(ベース比)が低下するのを抑えることが可能となる。
ところで、上記実施の形態では、底面12に形成する溶射膜22に窪み22aを形成することで溶射膜22に薄膜部を設けたが、底面12に窪みを形成することで当該薄膜部を設けてもよい。図7は、本発明の実施の形態の変形例に係るエンジンのシリンダヘッド40の底面42の構成を説明する図である。図7の上段に示す底面42の基本的な構成は、図1の上段に示した底面12と同じである。但し、図1の上段に示した底面12とは異なり、図7の下段に示す底面42には窪み42aが形成されている。この窪み42aは、図7の上段に示す環状領域を除いた領域に対応している。なお、図7の下段は、図1の上段に示した線A−A’と同じ位置を通る線C−C’でのシリンダヘッド40のイメージ断面である。
底面42に形成される溶射膜44の膜厚は、窪み42aに対応する膜領域において上述した最適値に設定され、窪み42aに対応する膜領域以外において当該最適値の30%〜80%に設定されている。このような窪み42aを形成することで、溶射膜44のうちの燃焼ガスの接触によって相対的に高温化する領域を薄くできるので、この薄膜部での熱排出速度をエンジン回転速度に関係なく常に高めることができる。従って、エンジン回転速度が高い運転領域において燃費改善率(ベース比)が低下するのを抑えることが可能となる。
また、上記実施の形態では、遮熱膜が溶射膜である例を説明した。しかし、溶射膜の代わりにエンジン燃焼室の構成面に粉末状の膜材料を直接的にスプレーすることで形成したスプレー膜、または、当該構成面に粉末状の膜材料を塗布することで形成した塗布膜を使用してもよい。スプレー膜や塗布膜であっても、溶射膜と同様の多孔質構造を有するものであれば、シリンダヘッドの母材よりも熱伝導率と体積熱容量が低い遮熱膜として機能することができる。また、溶射膜の代わりに上述したアルマイト皮膜を使用することも可能である。
[シリンダヘッドの製造方法]
図8乃至図15は、本発明の実施の形態に係るエンジンのシリンダヘッドの製造方法の一例を説明する図である。図8乃至図15では、図7に示したシリンダヘッド40の製造例を説明する。図8に示す製造方法では、先ず、仕上げ加工が済んだシリンダヘッドのワーク50の底面52(下地)の粗面化処理が行われる(ステップ010)。底面52の粗面化処理を行う理由は、底面52の表面粗さを意図的に悪化させて、ここに形成する溶射膜の密着力をアンカー効果によって向上させるためである。図7に示した窪み42aに相当する窪みを設けるため、本ステップでは、窪み42aを形成する予定の領域と、窪み42aを形成しない予定の領域とで処理条件を変えることが望ましい。本ステップの粗面化処理は、レーザーマーキングにより行われる。但し、レーザーマーキングの代わりに、機械加工、ショットブラストまたはウォータージェットにより本ステップの粗面化処理を行ってもよい。
図9には、粗面化処理前のワーク50の一例が描かれている。より詳細に述べると、図9の下段には、直列4気筒型のディーゼルエンジンのシリンダヘッドのワーク50が描かれており、図9の上段には、このワーク50のイメージ断面が描かれている。一方、図10の上段には、粗面化処理後のワーク50のイメージ断面が描かれている。このイメージ断面に描かれるように、粗面化処理後の底面52には、窪み42aが形成されている。図10の下段には、粗面化処理に使用するレーザーマーカー54の一例と、レーザーマーカー54による底面52の処理範囲の一例とが描かれている。
図8に示す製造方法では、ステップ010に続いて、マスキング56のワーク50への取り付けが行われる(ステップ020)。図11には、ワーク50の底面52にマスキング56が載置された状態が描かれている。図11に示すように、マスキング56は、底面52のうち、溶射膜を形成しない面をマスクするように載置されている。マスキング56によってマスクされる面には、ワーク50のシリンダブロックとの合わせ面と、吸気バルブ孔と、排気バルブ孔と、グロープラグ孔と、が少なくとも含まれている。
図8に示す製造方法では、ステップ020に続いて、底面52に対する溶射処理が行われる(ステップ030,040)。図8においては、溶射処理によって中間層(ステップ030)および遮熱層(ステップ040)を有する二層構造の溶射膜が形成される。ステップ030,040では、例えば、マスキング56に対向配置した溶射ガン58をワーク50の長手方向に往復させつつ、溶射ガン58から噴射される高温のプラズマジェットを用いて粉末状の溶射材を底面52に噴き付けるプラズマ溶射が行われる。但し、プラズマ溶射の代わりに、フレーム溶射、HVOF溶射等のその他の溶射プロセスにより本ステップの粗面化処理を行ってもよい。
図12の上段には、溶射処理後のワーク50のイメージ断面が描かれている。このイメージ断面に描かれるように、溶射処理後の底面52には、表面の粗い溶射膜44が形成される。図12の下段には、底面52の粗面化領域に向けてプラズマフレーム62を噴射する溶射ガン58と、プラズマフレーム62に溶射材64を導入するノズル66と、を備えるプラズマ溶射装置60が描かれている。ノズル66から導入する溶射材64の種類(例えば、中間層の溶射材としてニッケルクロム系のセラミックス粒子、遮熱層の溶射材としてジルコニア粒子)をステップ030とステップ040の間で変更することで、溶射膜44を二層構造にできる。
図8に示す製造方法では、ステップ040に続いて、マスキング56が取り外され(ステップ050)、膜表面の仕上げ処理が行われる(ステップ060)。図13は、マスキング56の取り外し後のワーク50のイメージ断面が描かれている。図14の上段は、仕上げ処理後のワーク50のイメージ断面が描かれている。このイメージ断面に描かれるように、仕上げ処理後の底面52には、表面が平滑化された溶射膜44が形成される。図14の下段には、砥石68を用いた平面研削による溶射膜44の表面の仕上げ加工の様子が描かれている。
図8に示す製造方法では、ステップ060に続いて、ワーク50の最終洗浄が行われる(ステップ070)。本ステップでは例えば、底面52に対向配置したノズル70から底面52に洗浄液を噴射して、ステップ060での仕上げ加工により発生した切削屑などの異物が除去される。最後に、ワーク50の検査が行われる(ステップ080)。本ステップでは例えば、溶射膜44の表面の検査や、吸気バルブ孔、インジェクタ孔等の形状検査がコンピュータ72を用いて行われる。ステップ080を経ることで、図7に示したシリンダヘッド40を得る。図15は、シリンダヘッド40の完成品の一例を示す図である。
[具体的な実施例]
1.シリンダヘッドの底面の粗面化処理
図16は、シリンダヘッドの底面の粗面化処理の具体例について説明するための図である。この具体例では、Panasonic製のレーザーマーカーを用いたレーザーマーキングによって粗面化処理を行った。粗面化処理に際しては、溶射膜の膜厚を通常膜厚とする領域の掘り込みの深さが40μmで、膜厚を薄くする領域の掘り込みの深さが10μmとなるように条件を調整した。実際の条件は次のとおりである。
<使用設備>
設備:Panasonic LP−MA05
対象:直列4気筒型エンジンヘッド
処理範囲:図16に示す底面42(4気筒分)
<設定条件(通常膜厚部)>
出力:80W
ピッチ幅:50μm
スキャン速度:900mm/sec
印字パルス:10μs
線径:70μm
<設定条件(薄膜部。図16の環状領域)>
出力:80W
ピッチ幅:70μm
スキャン速度:1500mm/sec
印字パルス:10μs
線径:70μm
2.シリンダヘッドの底面に対する溶射処理
シリンダヘッドにマスキングを装着後、エリコンメテコ製のプラズマ溶射装置によって溶射処理を行った。溶射処理に際しては、溶射膜が50μmの中間層と250μmの遮熱層の二層構造となるように条件を調整した。実際の条件は次のとおりである。
(1)中間層
<材料>
Ni−20Cr 平均粒径:28μm
<溶射条件>
プラズマガス:Ar−H,ガス流量:40L/min(Ar),4L/min(H
プラズマ電流:450A
粉末供給量:30g/min
溶射距離:150mm
(2)遮熱層
<材料>
ZrO 33%SiO 平均粒径:27μm
<溶射条件>
プラズマガス:Ar−H,ガス流量:60L/min(Ar),7L/min(H
プラズマ電流:450A
粉末供給量:50g/min
溶射距離:100mm
3.仕上げ処理
遮熱層の膜厚を調整するため、平面研削盤によってヘッド未加工面を基準にして70μmの膜厚さになるように研削を行った。研削後の膜表面の表面粗さRaは1.5.μmであった。
以上の処理により、通常膜厚部の膜厚60μm、薄膜部の膜厚30μm(=通常膜厚部の膜厚の50%)の溶射膜を形成した。図17に、実際に得られた溶射膜の外観とイメージ断面を示す。なお、通常膜厚部の膜厚は、正味燃料消費率の改善率を最大にする最適値(図3参照)を採用した。
4.溶射膜の評価結果
上述の処理により得た溶射膜と、比較対象の溶射膜の燃費効果について評価した。比較対象の溶射膜は、膜厚を60μmで均一にした以外は上述の処理と同様にして形成した。溶射膜の諸元は下記表1のとおりである。なお、表1に示す「本発明」が上述の処理により得た溶射膜に相当し、「従来」が比較対象の溶射膜に相当している。
Figure 2018009554
燃費効果の評価は、欧州の排ガステストサイクルであるNEDC(New European Driving Cycle)に従った走行モードの代表点における燃費改善率(ベース比)を算出することにより行った。その結果、上述の処理により得た溶射膜は、低回転領域での燃費効果を維持したまま、高回転領域での燃費効果の低下を抑えることができることが確認された。また、モード全体を通じての比較では、上述の処理により得た溶射膜は、比較対象の溶射膜に対して燃費改善率(ベース比)が向上することが確認された。
10,40 シリンダヘッド
12,42,52 底面
22,44 溶射膜
22a,42a 窪み
24 シリンダブロック
26 ピストン
50 ワーク

Claims (1)

  1. 燃焼室を構成する底面に遮熱膜が形成されるエンジンのシリンダヘッドであって、
    燃焼に伴い高温化する前記底面のうち相対的に低温となる領域として予め定めた領域に形成される前記遮熱膜の膜厚が、前記遮熱膜の膜厚を均一に形成した場合において正味燃料消費率の改善率を最大にする所定膜厚と等しく、
    前記底面のうち相対的に高温となる領域として予め定めた領域に形成される前記遮熱膜の膜厚が、前記所定膜厚よりも薄いことを特徴とするエンジンのシリンダヘッド。
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