以下、本発明に係る回転角検出装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態では、前記回転角検出装置を自動車のラック・ピニオン式パワーステアリング装置に適用したものを示している。
本実施形態に係るパワーステアリング装置は、図1に示すように、一端側がステアリングホイールSWに連係された入力軸1(本発明に係る第2軸部材に相当)と、一端側が入力軸1にトーションバー2を介して連結され、共通の回転軸Zを中心として入力軸1と相対回転する第1出力軸3(本発明に係る第1軸部材に相当)とからなるステアリングシャフトが、車体の幅方向一端側に設けられる第1ラック・ピニオン機構RP1を介して図示外の転舵輪に連係されると共に、前記ステアリングシャフトの外周側に設けられた回転角検出装置であるトルクセンサTSの出力信号に基づいてECU4によって駆動制御される電動モータMにウォームギア等の減速機構5を介して連係される第2出力軸6が、車体の幅方向他端側に設けられる第2ラック・ピニオン機構RP2を介して図示外の転舵輪に連係されることによって構成されている。
ここで、前記第1ラック・ピニオン機構RP1は、第1出力軸3の他端側に設けられるピニオン歯3aと、各端がタイロッド7,7を介してそれぞれ前記転舵輪に連係されるラックバー8の一端側に設けられる第1ラック歯8aとから構成され、前記第2ラック・ピニオン機構RP2は、第2出力軸6の先端部に連係される第2ピニオン歯6aと、ラックバー8の他端側に設けられる図示外の第2ラック歯とから構成されている。
そして、前述の構成から、ステアリングホイールSWから入力軸1へと入力された操舵トルクに基づいてトーションバー2が捩れ変形し、この捩れ変形に伴い該トーションバー2の復元時に生ずる回転トルクに基づいて回転する第1出力軸3の回転運動が第1ラック・ピニオン機構RP1を介してラックバー8の直線運動に変換されると共に、前記操舵トルクに応じて電動モータMに生ずる操舵アシストトルクに基づいて回転する第2出力軸6の回転運動が第2ラック・ピニオン機構RP2を介してラックバー8の直線運動に変換されることで、電動モータMによる操舵補助を得つつ前記転舵輪の向きが変更されることとなる。
前記ステアリングシャフトは、図2に示すように、入力軸1の他端側と第1出力軸3の全体とがギアハウジング9の内部に収容される構成となっていて、このギアハウジング9は、第1出力軸3の全体を収容するほぼ円筒状のハウジング本体10と、該ハウジング本体10の上端部である一端側開口部を閉塞するハウジングカバー11と、から構成されている。また、前記入力軸1と第1出力軸3との連結部の外周側には、前述したトルクセンサTSがギアハウジング9に収容されるかたちで配置されている。
なお、以下では、前記トルクセンサTSの説明に際して前記回転軸Zに沿う方向を単に「軸方向」、前記回転軸Zの径方向を単に「径方向」、前記回転軸Z周りの方向を単に「周方向」とそれぞれ呼称する。
前記トルクセンサTSは、磁性材料によりほぼ円筒状に形成され、第1出力軸3の一端部外周に取付固定された磁性部材である永久磁石12と、ほぼ円筒状に形成されて入力軸1の他端部外周に取付固定されたホルダ部材13と、いずれも軟磁性体によりほぼ円筒状に形成されると共に、ホルダ部材13を介して入力軸1に接続され、それぞれ第1出力軸3側となる一端側が永久磁石12と径方向で対向するように設けられた一対の第1,第2ヨーク14,15と、これら両ヨーク14,15をホルダ部材13に溶着固定する円環状の溶着プレート16と、両ヨーク14,15の他端側において該両ヨーク14,15間に形成される径方向隙間に収容配置され、両ヨーク14,15の他端側へと漏洩した永久磁石12による磁束を所定の範囲に集約するほぼ円環状の一対の第1,第2集磁リング17,18と、これら両集磁リング17,18の間を通過する前記磁束を検出する磁気センサ19と、から主として構成され、前記永久磁石12と、ホルダ部材13、両ヨーク14,15、及び両集磁リング17,18は、いずれも前記回転軸Zとほぼ同心円上となるように配置されている。
前記永久磁石12は、周方向に沿ってN極とS極が交互に配置(着磁)されてなるもので、本実施形態ではN極とS極が各8極ずつの全部で16極が配置されている。なお、ここでいう「N極とS極が交互に配置」とは、2以上のN極とS極が周方向に沿って交互に配置されている場合のみならず、周方向に沿って配置されるN極とS極がそれぞれ1極のみの場合も含まれる。
また、前記永久磁石12は、第1出力軸3にレーザ溶接等によって固定されたほぼ円筒状の磁石ホルダ20の外周に所定の樹脂材料からなる絶縁部21を介して絶縁状態に連結されることにより、第1出力軸3に一体回転可能に接続されている。
前記第1ヨーク14は、図2及び図3に示すように、一端側が比較的小径かつ他端側が比較的大径となる縦断面クランク状に形成されたものであって、他端側において円筒状に形成された第1円筒部22と、該第1円筒部22の一端側の端縁における周方向等間隔位置から径方向内側に延出する板状の複数の第1径方向延出部23と、該各第1径方向延出部23の内端縁から軸方向一端側に延出し、それぞれが第1円筒部22と同軸の円周上に並ぶように形成された板状の複数の第1爪部24と、を備えている。
前記第2ヨーク15は、一端側が比較的大径かつ他端側が比較的小径となる縦断面クランク状に形成されたものであって、他端側において第1円筒部22よりも小径な円筒状に形成された第2円筒部25と、該第2円筒部25の一端側の端縁における周方向等間隔位置から径方向外側に延出する板状の複数の第2径方向延出部26と、該各第2径方向延出部26の外端縁から軸方向一端側に延出し、それぞれが第2円筒部25と同軸の円周上に並ぶように形成された板状の複数の第2爪部27と、を備えている。
なお、前記各第1爪部24と各第2爪部27は、第1爪部24同士を結ぶ仮想円の直径と第2爪部27同士を結ぶ仮想円の直径とが、ほぼ同一径となるようにそれぞれ形成されている。
前記ホルダ部材13は、図2〜図5に示すように、金属材料によって形成されて入力軸1との固定に供されるホルダ筒状部28と、該ホルダ筒状部28を構成する金属材料よりも大きな線膨張係数を有する非磁性の樹脂材料によって形成されて両ヨーク14,15の保持に供されるヨーク保持部29と、を備えており、これらホルダ筒状部28とヨーク保持部29は、該ヨーク保持部29を成形する図示外の射出成形金型の内部にホルダ筒状部28の一部が予め挿入された状態で溶融樹脂を充填する、いわゆるインサート成形によって一体に形成されている。
前記ホルダ筒状部28は、ほぼ円筒状に形成された筒状本体30と、該筒状本体30のヨーク保持部29側の端部から径方向外側に向かって延出するほぼ円環状のフランジ部31と、から構成されており、前記筒状本体30は、図4に示すように、ヨーク保持部29と反対側となる一端側が、固定部30aとして比較的小さな内径d1となるように形成されている一方、固定部30aよりも他端側の非固定部30bについては、固定部30aの内径d1よりも大きな内径d2となるように形成されている。そして、内部に入力軸1が挿通された状態で、入力軸1の軸方向の所定位置に形成された段差縮径状の段部1aに前記固定部30aの一端側の端部30cを径方向内側に折曲するようにかしめることにより、入力軸1に一体回転可能に固定されている。
前記ヨーク保持部29は、図3及び図4に示すように、フランジ部31のインサートに供される円筒状のボス部32と、該ボス部32と端壁33aを介して一体に形成され、永久磁石12の収容に供される有蓋円筒状の筒部33と、を備えている。
前記ボス部32は、前記インサート成形によって内周側にフランジ部31が埋設されており、前記インサート成形にかかる冷却固化に基づきボス部32からフランジ部31に作用する圧縮力と、ボス部32とフランジ部31との間に作用する後述の係合力と、によってフランジ部31と一体回転可能に接続されている。
また、前記ボス部32は、径方向に所定の肉厚を有して形成されていることで、内部にインサートされたホルダ筒状部28との結合部分の強度が確保されている。
前記筒部33の端壁33aには、各第1爪部24のそれぞれが挿入される複数の第1爪部挿入孔35と、各第2爪部27のそれぞれが挿入される複数の第2爪部挿入孔36とが軸方向に沿って貫通形成されており、これら各爪部挿入孔35,36は、それぞれ対応する爪部24,27の形状や配置にあわせて周方向に延びるほぼ矩形状に形成されると共に、それぞれ周方向に所定の間隔を空けつつ交互に並ぶように配置されている。
そして、このように形成された各第1爪部挿入孔35のそれぞれに各第1爪部24が挿入される一方、各第2爪部挿入孔36のそれぞれに各第2爪部27が挿入されることで、前記第1ヨーク14と第2ヨーク15がそれぞれホルダ部材13に相対回転が規制された状態で保持されることとなる。この保持状態において、前記第1ヨーク14と第2ヨーク15とは、第1円筒部22と第2円筒部25とが互いに回転軸Zとほぼ同心円上でかつ、第1円筒部22の内周側にて第2円筒部25が径方向へ離間対向するように配置されると共に、各第1爪部24と各第2爪部27とが回転軸Zの同心円上に交互に整列された状態で筒部33の内部に収容された永久磁石12と径方向において対向配置されるようになっている。なお、前記各第1爪部24と各第2爪部27とは、入力軸1に操舵トルクが作用していない場合において、各爪部24,27の周方向の中間位置が永久磁石12の各極境界に位置するように配置されている。
また、前記各第1爪部挿入孔35の第1爪部24が挿入される側の孔縁には、第1爪部24が挿入された状態で内部に第1径方向延出部23が収容される第1凹溝37がそれぞれ設けられる一方、前記各第2爪部挿入孔36の第2爪部27が挿入される側の孔縁には、第2爪部27が挿入された状態で内部に第2径方向延出部26が収容される第2凹溝38がそれぞれ設けられている。
前記第1凹溝37は、第1爪部24よりも径方向外側に位置する第1径方向延出部23の外端側の形状に応じて、第1爪部挿入孔35の径方向外側の孔縁からさらに径方向外側に延びるように形成されている。また、前記第1凹溝37は、第1爪部挿入孔35と接続される部位に該第1爪部挿入孔35に向かって下り傾斜状のガイド面37aが形成され、該ガイド面37aによって第1爪部24を第1爪部挿入孔35に導くようになっている。
一方、第2凹溝38は、第2爪部27よりも径方向内側に位置する第2径方向延出部26の内端側の形状に応じて、第2爪部挿入孔36の径方向内側の孔縁からさらに径方向内側に延びるように形成されると共に、第2爪部挿入孔36と接続される部位には、該第2爪部挿入孔36に向かって下り傾斜状のガイド面38aが形成されている。
なお、前記インサート成形にあたって、前記ヨーク保持部29は、上端面33bの外端側の周方向等間隔位置でかつ、周方向において第1爪部挿入孔35と第2爪部挿入孔36のいずれともオーバーラップ(径方向で対向)しない箇所に設けられる前記射出成形金型の4つのゲート部から溶融樹脂が注入されることで成形される。
これにより、成形後のヨーク保持部29には、図3や図5の仮想線で示すように、その表面(上端面33b)の前記各ゲート部と対応する部位に4つのゲート跡39が形成されると共に、この隣接するゲート跡39,39の周方向ほぼ中間位置であって第1爪部挿入孔35と第2爪部挿入孔36のいずれともオーバーラップしない部位には、図5に示すように、前記各ゲートから注入された溶融樹脂同士が合流してなるウェルドラインWが径方向に沿って形成されるようになっている。
前記溶着プレート16は、熱可塑性の樹脂材料からなり、ホルダ部材13の第1爪部挿入孔35に第1爪部24が挿入され、第1凹溝37に第1径方向延出部23が収容されると共に、第2爪部挿入孔36に第2爪部27が挿入され、第2凹溝38に第2径方向延出部26が収容された状態において、ほぼ面一となった第1,第2径方向延出部23,26の各円筒部22,25側の上面23a,26aと、ヨーク保持部29の端壁33aの上端面33bとに跨って載置された状態で上端面33bに超音波溶着されることによって、第1,第2ヨーク14,15の軸方向への抜け出しを抑制し、該各ヨーク14,15をホルダ部材13に固定するようになっている。
前記第1,第2集磁リング17,18は、図2に示すように、いずれも軟磁性体によって周方向の一部が切り欠かれた平面視C字形状に形成され、対向する第1円筒部22と第2円筒部25の径方向隙間に第1集磁リング17を外周側、第2集磁リング18を内周側として内外周で対向するように配置されている。また、前記第1集磁リング17の周方向の所定位置には、径方向内側へ押圧されてなる第1集磁部17aが設けられている一方、前記第2集磁リング18の周方向における第1集磁部17aと対向する位置には、径方向外側へ突出させてなる第2集磁部18aが設けられている。
前記磁気センサ19は、第1集磁部17aと第2集磁部18aとの間の径方向隙間に収容配置された図示外のホール素子からなる検出部40と、この検出部40をトルクセンサTSの上方に配置される制御基板42に接続するための接続端子41と、から構成されている。そして、前記磁気センサ19は、前記ホール素子によるホール効果を利用することで検出部40により両集磁部17a,18a間を通過する磁束を検出し、この磁束に応じた信号を制御基板42に出力することをもって、該制御基板42における入力軸1と第1出力軸3との間の相対回転角の演算や、該相対回転角に基づく操舵トルクの演算に供される。
なお、前記制御基板42は、図示外のセンサハーネスを介してECU4に接続され、該ECU4に演算により求めた操舵トルクを出力するようになっている。
また、本実施形態では、前記フランジ部31の外周縁に、図5〜図7に示すように、径方向外側に向かって突出する複数の係合凸部であるフランジ側凸部44と、径方向内側に向かって凹む複数の係合凹部であるフランジ側凹部45と、がそれぞれ形成されている。さらに、これらフランジ側凸部44とフランジ側凹部45をフランジ部31に設けたことに伴い、前記ヨーク保持部29には、前記インサート成形に際してフランジ側凸部44と対応する部位に対応する形状のホルダ側凹部46が形成されると共に、フランジ側凹部45と対応する部位に対応する形状のホルダ側凸部47が形成されるようになっている。
前記各フランジ側凸部44は、フランジ部31の各第1爪部挿入孔35と周方向でオーバーラップする(径方向で対向する)位置にそれぞれ設けられるものであって、1つの第1爪部挿入孔35に対して周方向にそれぞれ2つずつ並んで配置されている。これにより、全てのフランジ側凸部44は、図5に示すウェルドラインWに対して周方向にオフセットした位置に配置されるようになっている。
また、このフランジ側凸部44は、特に図7に示すように、平面視ほぼ矩形状を呈し、径方向に沿って互いにほぼ平行に延びる一対の側面44a,44bと、該両側面44a,44bにほぼ直交するかたちで両者44a,44bを接続する円弧面状の先端面44cと、を有していると共に、一側面44aと先端面44cとの接続部である角部48aと、他側面44bと先端面44cとの接続部である角部48bとがそれぞれ円弧状に形成されている。
一方、前記各フランジ側凹部45は、フランジ部31の各第2爪部挿入孔36と周方向でオーバーラップする(径方向で対向する)位置にそれぞれ設けられるものであって、こちらも1つの第2爪部挿入孔36に対して周方向にそれぞれ2つずつ並んで配置されている。
また、このフランジ側凹部45は、平面視ほぼ矩形状を呈し、径方向に沿って互いにほぼ平行に延びる一対の側面45a,45bと、該両側面45a,45bに直交するかたちで両者45a,45bを接続する円弧面状の先端面45cと、を有していると共に、フランジ部31の外周面31aと一側面45aとの接続部である角部49aと、前記外周面31aと他側面45bとの接続部である角部49bとがそれぞれ円弧状に形成されている。
また、前記フランジ側凹部45を構成する両側面45a,45bは、図8に示すように、径方向における長さL1が、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29とが車両搭載時に想定される最も低温な状態から最も高温な状態に移行した際の径方向における相対変位量Δ1よりも大きくなるように形成されている。
なお、図示はしていないものの、前記フランジ側凸部44を構成する両側面44a,44bも、径方向における長さL1が前記相対変位量Δ1よりも大きくなるように形成されている。
〔本実施形態の作用効果〕
したがって、以上のように構成されたトルクセンサTSによれば、入力軸1に操舵トルクが作用しておらず前記ステアリングシャフトが中立状態にあるときは、永久磁石12の各極境界が第1,第2爪部24,27の周方向の中間位置に位置することとなり、該永久磁石12の各爪部24,27に対する磁路抵抗は等しくなる。その結果、永久磁石12のN極から発生した磁界は各円筒部22,25へと漏洩することなくそのままS極に流れることから、前記磁界の磁束が磁気センサ19によって検出されることはない。
一方、ステアリングホイールSWが操舵されて入力軸1に操舵トルクが作用した場合には、入力軸1の回転に伴いホルダ部材13が回転することにより永久磁石12の各極境界が第1,第2爪部24,27の周方向一方側に偏倚することとなって、永久磁石12の各爪部24,27に対する磁路抵抗のうち前記極境界が偏倚した周方向一方側の磁路抵抗が大きくなる。これによって、永久磁石12のN極から発生した磁界は、各円筒部22,25へと漏洩し、該各円筒部22,25を亘って隣接するS極へと流れることとなる。この結果、前記各集磁リング17,18間には一方側から他方側に磁束が通過することとなって、該磁束が磁気センサ19によって検出される。そして、前記磁束から制御基板42が演算した操舵トルクに基づきECU4が電動モータMを駆動制御することによって、前記操舵トルクに応じた操舵アシストトルクが付与されることとなる。なお、このとき、前記操舵アシストトルクの付与方向については、各集磁リング17,18間を通過する磁束の方向をもって特定される。
そして、本実施形態では、フランジ部31の外周側にフランジ側凸部44やフランジ側凹部45を設けたことから、入力軸1が回転した際の回転力が、フランジ側凸部44とホルダ側凹部46とが係合し、かつフランジ側凹部45とホルダ側凸部47とが係合した状態でホルダ筒状部28からヨーク保持部29へ伝達されることとなる。これにより、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29との相対回転を効果的に抑制できることから、前述したトルクセンサTSによる操舵トルクの演算を高精度に行うことが可能となる。
ここで、本実施形態のフランジ部31とヨーク保持部29のような金属材料で形成された部材と樹脂材料で形成された部材との相対回転を抑制するには、一般的に、比較的強度の高い金属材料側に凸部を設け、比較的強度の低い樹脂材料側に該凸部に応じた凹部を設けることが前記凸部の損傷を抑制する観点から望ましいとされている。
しかしながら、本実施形態のフランジ部31の全周に亘ってフランジ側凸部44を設けた場合、ヨーク保持部29の第2爪部挿入孔36よりも内周側の部位が、第2凹溝38による切り欠きに加えてフランジ側凸部44によってさらに凹状に切り欠かれることで、当該部位の径方向の肉厚が大きく減少し、ヨーク保持部29の強度が低下してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、フランジ部31の第1爪部挿入孔35と周方向でオーバーラップする領域についてはフランジ側凸部44を設ける一方、第2爪部挿入孔36と周方向でオーバーラップする領域についてはフランジ側凹部45を設けることとした。
これにより、第1爪部挿入孔35と周方向でオーバーラップする領域についてはフランジ部31側を凸部(フランジ側凸部44)とすることで、該凸部の強度を確保し、もってホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の係合力の低下を抑制することができる。他方、第2爪部挿入孔36と周方向でオーバーラップする領域についてはフランジ部31側を凹部(フランジ側凹部45)とすることで、ヨーク保持部29の第2爪部挿入孔36よりも内周側の部位の肉厚を増大させることが可能となり、ヨーク保持部29の強度を向上させることができる。この結果、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の結合強度が十分に確保されることから、該両者28,29間の相対回転をより一層効果的に抑制することが可能となる。
しかも、本実施形態では、ヨーク保持部29をホルダ筒状部28よりも線膨張係数の大きな樹脂材料によって形成したことから、低温時にはヨーク保持部29の収縮変形に伴いホルダ側凸部47とフランジ側凹部45との間の周方向隙間が広がる反面、図7中の矢印で示すように、フランジ側凸部44とホルダ側凹部46との間の周方向隙間が狭まることでホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の係合力を確保することができる。一方、高温時にはヨーク保持部29の膨張変形に伴いフランジ側凸部44とホルダ側凹部46との間の周方向隙間が広がる反面、図7中の白抜き矢印で示すように、ホルダ側凸部47とフランジ側凹部45との間の周方向隙間が狭まることでホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の係合力を確保することができる。
このように、本実施形態によれば、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29の冷却収縮時と高温膨張時のいずれにおいても該両者28,29間の係合力を確保できることから、温度変化に依ることなくホルダ筒状部28とヨーク保持部29との相対回転を抑制して高精度な操舵トルクの演算に供することができる。
また、本実施形態では、フランジ側凸部44を1つの第1爪部挿入孔35に対して周方向に2つ並ぶように設けたことから、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の係合力を確保しつつもフランジ側凸部44の個々の大きさを小型化することができる。これにより、ヨーク保持部29の冷却収縮や高温膨張に伴ってフランジ側凸部44にホルダ側凹部46が突き当たることで生じる該ホルダ側凹部46のクリープ変形を抑制できることから、ヨーク保持部29の経年劣化を抑制し、トルクセンサTSの耐久性を向上させることが可能となる。また、この作用効果は、フランジ側凹部45を1つの第2爪部挿入孔36に対して周方向に2つ並ぶように設けたことによっても同様に得ることができる。
また、本実施形態では、フランジ側凸部44とフランジ側凹部45を、それぞれ一対の側面44a,44b、45a,45bが径方向に沿ってほぼ平行となるように形成したことから、フランジ側凸部44とホルダ側凹部46との噛合あるいはフランジ側凹部45とホルダ側凸部47との噛合を広い当接面積をもって行えるため、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の相対回転をより効果的に抑制することができる。さらに、前記当接面積を大きくすることで、入力軸1の回転に伴いホルダ側凹部46のフランジ側凸部44との当接部位や、ホルダ側凸部47のフランジ側凹部45との当接部位に生じる応力集中を緩和できることから、該応力集中に伴うヨーク保持部29の破損を抑制することができる。
しかも、本実施形態では、フランジ側凸部44の両側面44a,44b及びフランジ側凹部45の両側面45a,45bの径方向における長さL1を、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29とが車両搭載時における冷却収縮状態から高温膨張状態に移行した際の径方向における相対変位量Δ1よりも大きくなるように形成したことから、ヨーク保持部29が機関熱によって大きく膨張した場合等におけるホルダ側凹部46からのフランジ側凸部44の抜け出しや、フランジ側凹部45からのホルダ側凸部47の抜け出しを抑制できる。これにより、温度変化に伴うホルダ筒状部28とヨーク保持部29との係合力のさらなる向上を図り、より高精度な操舵トルクの演算に供することができる。
また、本実施形態では、フランジ側凸部44の各角部48a,48bや、フランジ側凹部45とフランジ部31の外周面31aとを接続する各角部49a,49bを円弧状に形成したことから、冷却収縮や高温膨張に伴う各角部48a,48b、49a,49bのヨーク保持部29への食い込みが抑制されるため、該食い込みに伴うヨーク保持部29の破損を抑制できる。
さらに、本実施形態では、フランジ側凸部44を、ヨーク保持部29のうち比較的強度の低いウェルドラインWの形成位置から周方向にオフセットした位置に設けたことから、ヨーク保持部29の強度の低下を抑制し、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29との間の係合力を維持することができる。
なお、本実施形態では全てのフランジ側凸部44をウェルドラインWからオフセットした位置に設けているが、このウェルドラインWからオフセットした位置に1つ以上のフランジ側凸部44が設けられていれば、他のフランジ側凸部44がウェルドラインWとオーバーラップする位置に設けられている場合でも上記作用効果を得ることが可能となる。
ところで、前記ヨーク保持部29は前記インサート成形において冷却固化の工程を経ることで全体的に収縮することとなるが、このときホルダ筒状部28の非固定部30b側がヨーク保持部29の圧縮力により縮径変形することから、ホルダ筒状部28を入力軸1の外径に合わせた一律な内径に形成していると、前記縮径変形によって入力軸1の挿入性が悪化してしまうおそれがある。
これに対して、本実施形態では、予めホルダ筒状部28の非固定部30b側を固定部30a側よりも内径が大きくなるように形成されていることから前記挿入性の悪化を抑制することができ、前記ステアリングシャフトにトルクセンサTSを組み付ける際の作業性を向上できる。
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で構成を変更することも可能である。
例えば、本実施形態では、第1出力軸3に永久磁石12を設ける一方、入力軸1に第1,第2ヨーク14,15や磁気センサ19等を設けているが、入力軸1に永久磁石12を設け、第1出力軸3に第1,第2ヨーク14,15等を設けることも当然に可能である。
また、本実施形態のフランジ部31にはフランジ側凸部44とフランジ側凹部45の両方が設けられているが、ホルダ筒状部28とヨーク保持部29の相対回転が十分に抑制できるのであれば、フランジ側凸部44とフランジ側凹部45のいずれか一方のみをフランジ部31に設ける構成としてもよい。
以上説明した各実施形態に基づく回転角検出装置としては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
回転角検出装置は、その一つの態様において、回転軸を中心に互いに相対回転可能に設けられた第1軸部材および第2軸部材の相対回転角を検出する回転角検出装置であって、前記第1軸部材に設けられ、前記回転軸の周方向に沿ってN極とS極が交互に配置された磁性部材と、前記第2軸部材に固定された筒状本体と、前記筒状本体から前記回転軸の径方向の外側に向かって延びるように設けられたフランジ部と、を有する金属製のホルダ筒状部と、樹脂材料により筒状に形成され、内部に前記フランジ部が埋設された状態で前記ホルダ筒状部と一体に回転する樹脂製のヨーク保持部と、前記ヨーク保持部に前記回転軸の軸方向へ貫通するように設けられ、前記周方向に並んで配置される複数の第1爪部挿入孔と、前記ヨーク保持部に前記軸方向へ貫通するように設けられ、前記周方向に前記第1爪部挿入孔と交互に並ぶように配置される複数の第2爪部挿入孔と、円筒状に形成され、前記回転軸と同心円上に配置された第1円筒部と、前記第1円筒部から前記径方向の内側へ延出する板状に形成された複数の第1径方向延出部と、前記各第1径方向延出部から前記軸方向に延出する板状に形成され、前記各第1爪部挿入孔に挿入された状態で前記磁性部材と前記径方向で対向する複数の第1爪部と、を有する第1ヨークと、前記第1円筒部よりも小径な円筒状に形成され、前記回転軸と同心円上に配置された第2円筒部と、前記第2円筒部から前記径方向の外側へ延出する板状に形成された複数の第2径方向延出部と、前記各第2径方向延出部から前記軸方向に延出する板状に形成された複数の第2爪部と、を有し、前記第2爪部のそれぞれが前記各第2爪部挿入孔に挿入された状態で、前記各第2爪部が前記各第1爪部の前記周方向の間に交互に並んでかつ前記磁性部材と前記径方向で対向するように配置されると共に、前記第2円筒部が前記第1円筒部と前記径方向で対向するように配置される第2ヨークと、前記第1軸部材と前記第2軸部材の相対回転に伴う前記各第1爪部及び前記各第2爪部と前記磁性部材との相対回転によって生じる前記第1円筒部と前記第2円筒部との間の磁界の変化に基づき、前記第1軸部材と前記第2軸部材との間の相対回転角を検出する磁気センサと、前記ヨーク保持部に設けられ、前記各第1爪部が前記各第1爪部挿入孔に挿入された状態で内部に前記各第1径方向延出部が収容される複数の第1凹溝と、前記ヨーク保持部に設けられ、前記各第2爪部が前記各第2爪部挿入孔に挿入された状態で内部に前記各第2径方向延出部が収容される複数の第2凹溝と、を備え、前記フランジ部は、前記周方向において前記第1爪部挿入孔とオーバーラップする領域に、前記径方向の外側に向かって突出するように形成された係合凸部を有し、または前記周方向において前記第2爪部挿入孔とオーバーラップする領域に、前記径方向の内側に向かって凹むように形成された係合凹部を有する。
前記回転角検出装置の好ましい態様において、前記フランジ部は、前記係合凹部と前記係合凸部の両方を有し、前記ヨーク保持部を構成する樹脂材料は、前記ホルダ筒状部を構成する金属材料よりも大きな線膨張係数を有する。
別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記係合凸部は、1つの前記第1爪部挿入孔に対して前記周方向に複数個並んで配置され、または前記係合凹部は、1つの前記第2爪部挿入孔に対して前記周方向に複数個並んで配置される。
さらに別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記係合凸部または前記係合凹部は、前記径方向に延びる1対の側面同士がほぼ平行に形成される。
さらに別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記係合凸部または前記係合凹部の前記1対の側面は、前記径方向における長さが、前記ホルダ筒状部と前記ヨーク保持部とが冷却収縮時から高温膨張時に移行した際の前記径方向の相対変位量よりも大きくなるように形成される。
さらに別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記係合凸部は、角部がほぼ円弧状に形成されている。
さらに別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記ヨーク保持部は、射出成形によって形成され、表面に前記周方向に沿って前記射出成形に際して溶融樹脂が注入された跡である複数のゲート跡を有すると共に、内部の前記周方向における隣接する前記ゲート跡の間に前記溶融樹脂が合流してなるウェルドラインを有し、前記係合凸部は、前記ウェルドラインから前記周方向にオフセットした位置に設けられる。
さらに別の好ましい態様では、前記回転角検出装置の態様のいずれかにおいて、前記ホルダ筒状部は、前記軸方向の一端側に前記第2軸部材に固定される固定部を備え、前記フランジ部は、前記ホルダ筒状部の前記軸方向の他端側に設けられ、前記筒状本体は、前記回転軸の方向の一端側の内径よりも前記他端側の内径が大きくなるように形成される。