この発明で対象とすることができる車両は、駆動用モータや補機類などに電力を供給するためのバッテリを備えた車両であって、例えば、エンジンと駆動用モータとを駆動力源としたハイブリッド車両や、駆動用モータのみを駆動力源とした電気自動車、あるいはエンジンのみを駆動力源として備えた車両である。
上記ハイブリッド車両や電気自動車は、電力を出力することおよび電力を充電することができる二次電池とキャパシタとが駆動用バッテリとして設けられており、その駆動用バッテリと駆動用モータとが電気的に接続されている。この駆動用バッテリの一例を図1に模式的に示している。図1に示す駆動用バッテリ1は、複数の単電池2を積層してユニット化した電池ユニットをケース3に収容している。それらの単電池2同士は直列に接続されており、電池ユニット全体として所定の電圧となるように構成されている。そして、その電池ユニットのプラス端子4とマイナス端子5とがケース3の外部に引き出され、そのプラス端子4とマイナス端子5とに、図示しないインバータやコンバータを介して駆動用モータ6が接続されている。
また、上記のハイブリッド車両や電気自動車、あるいはエンジンのみを駆動力源として備えた車両Veには、図2に示すようにヘッドランプやブレーキランプあるいはナビゲーションシステム、もしくは駆動用モータ6に供給する電力を制御するためのインバータやコンバータを備えた電力制御装置などの電気機器7に電力を供給するための従来知られている補機用バッテリ8が設けられており、その補機用バッテリ8のプラス端子9に電気機器7のプラス極10が接続され、補機用バッテリ8のマイナス端子11および電気機器7のマイナス極12は車体13に接続されている。上記の駆動用バッテリ1や補機用バッテリ8が、この発明の実施形態における「バッテリ」に相当し、以下の説明では、補機用バッテリ8を備えた車両Veを例に挙げ、その補機用バッテリ8を、単にバッテリ8と記して説明する。
この発明で対象とすることができる車両Veの構成例を図3に示しており、この車両Veは、車両Veの骨格を形成する金属材料あるいは樹脂材料などにより構成された車体13が、ゴムなどの電気抵抗が大きい材料で構成されたタイヤ14により保持されている。すなわち、タイヤ14の電気抵抗により車体13の静電気が路面にほとんど流れない絶縁状態で車体13が保持されている。したがって、何らかの要因で車体13に静電気が生じた場合には、その静電気は路面に流れることがなく車体13に帯電する。なお、タイヤ14の電気抵抗が、この発明の実施形態における「第1所定値」に相当する。
図2には、上記のバッテリ8を車体13に取り付ける構成を模式的に示している。図2に示すようにバッテリ8は、樹脂材料により構成された絶縁ケース15と、その内部を区分けするなどの樹脂材料により構成された図示しない基板とを備えている。そして、基板により区分けられたそれぞれの空間に電解液を入れ、その電解液に図示しないプラス板とマイナス板との一部が浸漬している。そのプラス板に一体化されたプラス端子9と、マイナス板に一体化されたマイナス端子11とが、ケース15の上部にそれぞれ突出している。そのケース15が、車体13の前方に設けられたエンジンルーム16内に固定されている。
具体的には、車体13の前方に延出したフロントメンバー17とバッテリ8とがボルトなどの締結部材により固定されている。なお、フロントメンバー17は、従来知られている車幅方向の両側から車体13の前方に延出したフロントサイドメンバー18や、そのフロントサイドメンバー18などの骨格を形成する部材に連結された比較的剛性の高い部材19から構成されている。そのエンジンルーム16には、ケース15に隣接してエンジン20が配置され、フロントメンバー17に図示しないエンジンマウントやボルトなどの締結部材により固定されている。そして、上述したマイナス端子11およびエンジン20は、それぞれアース線21,22によってフロントメンバー17と電気的に導通されている。
上記の車両Veは、走行時にタイヤ14のトレッド面Tが路面に対して繰り返し接触し、またトレッド面Tが路面から繰り返し離れる。そのようにタイヤ14のトレッド面Tが路面に接触するときや路面から離れるときにタイヤ14に静電気が生じ、タイヤ14が帯電する場合がある。また、エンジン20に設けられたピストンとシリンダボアとの摺動部や、トランスミッションを構成するギヤなどの摺動部も、その摺動を要因として静電気が生じ、その静電気によって車体13が帯電する場合がある。さらに、バッテリ8から電力が供給される電気機器7は、マイナス極12が車体13に連結されているため、その電気機器7が動作することに伴って生じた静電気が車体13に伝達されて、車体13に帯電する場合がある。
車体13に静電気が帯電すると、車体13の静電気と、空気に含まれた車体13の静電気と同一の極性のイオンとに斥力が生じるため、車体13から空気が剥離して流れる可能性があり、そのような場合には、加速性や操舵性などが低下する可能性がある。
上述したような静電気を除電するために、この発明の実施形態では、自己放電式除電器が、放電対象となる部材に取り付けられている。この自己放電式除電器は、自己放電式除電器の電位に応じてコロナ放電が生じるように構成されている。自己放電式除電器からコロナ放電が生じると、自己放電式除電器の電荷の極性とは反対の極性のイオンが、自己放電式除電器の表面を流れる外気に生じる。自己放電式除電器の電荷と、放電対象となる部材の電荷との極性は同一であるので、外気に生じたイオンにより自己放電式除電器の周囲の静電気が中和させて除電される。
コロナ放電は、従来知られているように鋭利もしくは尖っている部位から生じる。そのようなコロナ放電を生じさせることができる自己放電式除電器の一例としては、放電対象となる部材に微細な金属材料を含有した塗料(以下、メタリック塗料と記す)や、繊維状のカーボンを含有した塗料(以下、カーボン塗料と記す)を塗布することにより構成することができる。このメタリック塗料に含有された金属材料は、断面がU字状となるように円板を湾曲させた形状であって、そのエッジからコロナ放電が生じると考えられる。また、カーボン塗料は、その塗料に含有された繊維状のカーボンの先端部からコロナ放電が生じると考えられる。
さらに、自己放電式除電器の他の例としては、金、銀、銅、アルミニウムなどの電気伝導率が高い材料により形成されたシートを、放電対象となる部材に静電気を導電することができる粘着材で貼り付けて構成することができる。上記のようなコロナ放電は、鋭利または尖っている部位から生じるため、シートの表面に、ローレット加工やヘアライン加工などを施して極めて細い突起部を形成すればよい。このようにシートを形成した場合には、突起部やシートの外縁部などのエッジからコロナ放電が生じる。
上記のように自己放電式除電器からコロナ放電が生じると、自己放電式除電器の周囲の外気(大気もしくは空気)には、自己放電式除電器の電荷の極性とは反対の極性の空気イオンが生じる。そのようにコロナ放電が生じることを要因とした空気イオンを含む外気が、自己放電式除電器の周囲に流動することにより、放電対象となる部材の静電気を中和して除電する。すなわち、空気イオンと放電対象となる部材との電位差を下げる。上記のように構成された自己放電式除電器により中和除電することができる範囲は、本発明者の実験により自己放電式除電器の外縁からの距離が100mm以下となる範囲であることが確認されている。なお、塗料に含有される金属材料の量や、繊維の量、あるいはシートに形成された突起部の数などに応じて放電量が変化すると考えられるため、自己放電式除電器により除電される範囲は、自己放電式除電器の構成に応じて実験などにより定めてもよい。
一方、上記のコロナ放電では、自己放電式除電器に帯電した静電気の電位が高いほど放電量が多くなる。したがって、この発明の実施形態では、金属材料よりも帯電しやすい第1所定部材に自己放電式除電器を取り付け、上記車体13から第1所定部材に静電気を流すことができるように導通させている。
その第1所定部材は、樹脂材料により形成されたエンジンカバーや、樹脂材料により構成されたシリンダヘッドカバー、あるいはエンジンに向けて外気が流動する樹脂材料により構成されたダクト(あるいはエアーホース)などである。なお、上記エンジンカバーが、この発明の実施形態における「カバー部材」に相当し、シリンダヘッドカバーが、この発明の実施形態における「ヘッドカバー」に相当する。以下、エンジンカバーに自己放電式除電器を取り付けた構成について説明する。
図4は、エンジン20の構成を説明するための模式図である。図4に示すエンジン20は、複数のシリンダボア23が形成されかつ上方が開口したシリンダブロック24と、シリンダブロック24の開口部を閉じるとともに、図示しない点火装置やバルブを備えたシリンダヘッド25と、シリンダヘッド25の上部を覆うシリンダヘッドカバー26とを備えている。そのシリンダヘッドカバー26の上側には、外観を良好とするなどのためのエンジンカバー27が取り付けられている。このエンジンカバー27は、金属材料と比較して静電気が帯電し易いポリプロピレンなどの樹脂材料によって構成されている。なお、図4におけるエンジンカバー27の上面は、便宜上、平滑な面で示しているが、意匠などのための凹凸など形成されていてもよい。
エンジンカバー27は、シリンダヘッドカバー26に固定されるように構成されている。図5には、シリンダヘッドカバー26とエンジンカバー27との取り付け構造の一例を説明するための模式図を示している。図5に示す構成は、シリンダヘッドカバー26の上面に、金属材料によって構成された凸部28を一体化している。このシリンダヘッドカバー26と凸部28とは、例えば、シリンダヘッドカバー26に雌ねじを形成し、凸部28にシリンダヘッドカバー26側に突出した雄ねじを設け、上記雄ねじを雌ねじに締め込んでシリンダヘッドカバー26と凸部28とを一体化してもよく、あるいは両面テープによってシリンダヘッドカバー26に凸部28を接着してもよい。
上記の凸部28の先端部には、球状のヘッド部29が形成されており、そのヘッド部29に嵌合する凹部30がエンジンカバー27の下面に形成されている。より具体的には、ゴムによって形成された円筒状のクランプ部31が凹部30の内面に一体化されており、そのクランプ部31にヘッド部29が嵌め込まれて、エンジンカバー27がシリンダヘッドカバー26に取り付けられる。そのようにエンジンカバー27とシリンダヘッドカバー26とが組み付けられたときには、エンジンカバー27の下面とシリンダヘッドカバー26の上面とに隙間32が空いており、エンジンルーム16に取り込まれた空気が、その隙間32を流動できるように構成されている。なお、上記凸部28および凹部30は、シリンダヘッドカバー26およびエンジンカバー27の外縁に複数形成されている。
上記のように構成されたエンジンカバー27は、静電気の伝導率が低いゴムによって形成された円筒状のクランプ部31を介してエンジン20(またはシリンダヘッドカバー26)に取り付けられているため、エンジンカバー27の静電気は、車体1やエンジン20に流れにくい。言い換えると、車体1とエンジンカバー27との間の電気抵抗は、エンジンカバー27から車体13に静電気が流れない程度の大きさとなっている。この電気抵抗は、車体13と路面との間の電気抵抗と同一であってもよく、異なっていてもよい。なお、この電気抵抗が、この発明の実施形態における「第2所定値」に相当する。したがって、いずれかの部材からエンジンカバー27に静電気が伝達され、またはエンジンカバー27で静電気が生じた場合には、その静電気がエンジンカバー27に帯電する。すなわち、エンジンカバー27に多くの静電気が帯電するため、エンジンカバー27の電位が高くなる。
また、エンジンカバー27は、エンジン20の上方を覆うように構成され、また比較的平滑な(凹凸の少ない)面の面積が大きい。そのため、上記のエンジンカバー27の下面のうち平滑な面に、放電用のメタリック塗料を塗布するとともに、その近傍に放電用のシートを貼り付けている。すなわち、メタリック塗料とシートとにより自己放電式除電器33が構成されている。その自己放電式除電器33が取り付けられている箇所を図4に破線で示している。なお、自己放電式除電器33は、塗料とシートとのいずれか一方であってもよい。
このようにエンジンカバー27に自己放電式除電器33を取り付けた場合には、エンジンカバー27の自己放電式除電器33が取り付けられた部分から予め定められた所定範囲内に静電気が帯電すると、その帯電した静電気の電位に応じてコロナ放電が生じ、自己放電式除電器33の周囲の外気にエンジンカバー27の電荷の極性と反対の極性の空気イオンが生じ、その空気イオンが自己放電式除電器33に引き寄せられ、エンジンカバー27のうちの自己放電式除電器33の周辺に帯電した静電気が中和除電される。
そして、上記のようにエンジンカバー27のうちの自己放電式除電器33により除電される予め定められた範囲(以下、除電領域と記す)34に、電気抵抗が小さくなるように太い銅線からなる導線35の一方の端部が静電気的に接続されている。なお、除電領域34は、この発明の実施形態における「第1範囲」に相当するものであって、図4に二点鎖線で示している。また、導線35の他方の端部とマイナス端子11とが静電気的に接続されている。すなわち、除電領域34とマイナス端子11とが静電気的に接続されている。なお、導線35に代えて金属材料などの電気伝導率が高い材料により構成された板部材をエンジンカバー27とマイナス端子11とに接続してもよい。
図6に、車体13、アース線21、バッテリ8のマイナス端子11、導線35、エンジンカバー27の電気的な接続関係を模式的に示している。上述したように車体13とエンジンカバー27との間の電気抵抗は、エンジンカバー27から車体13に静電気が流れない程度の大きさとなっている。したがって、上記の五つの部材は、上記に示す順に電気的に接続されていることとなる。また、上述したようにエンジンカバー27が樹脂材料により構成されているため、エンジンカバー27に帯電する静電気の電位が最も高くなる。一方、バッテリ8や電気機器7は、車体13をグランドアースとしているため、車体13に帯電する静電気の電位が最も低くなる。したがって、車体13、アース線21、バッテリ8のマイナス端子11、導線35、エンジンカバー27の順に電位が高くなる。なお、図6に示す例では、外気の流れを矢印で示しており、エンジンカバー27の表面やエンジンカバー27とシリンダヘッドカバー26との間を流れた外気が車外に流出するように構成されている。すなわち、上記エンジンカバー27が設けられている空間は、密封されていない。
図6におけるエンジンカバー27に導線35が接続される部分36が、この発明の実施形態における「接続部」に相当し、上記導線52が、この発明の実施形態における「伝達部材」に相当する。
エンジンカバー27と導線35との接続方法や、マイナス端子11と導線35との接続方法は特に限定されない。通常、マイナス端子11にアース線21を連結する場合には、アース線21の端部を環状に形成し、マイナス端子11に雄ネジを形成し、そのマイナス端子11にアース線21の端部を嵌合させて、ナットにより端部を挟み込んで固定している。したがって、導線35の端部を環状に形成し、アース線21と導線35とのそれぞれの端部にマイナス端子11を挿入して、ナットをマイナス端子11に締め付けることにより、アース線21と導線35とをまとめてナットとケース15との間に挟み付けてもよい。また、導線35の端部に円環状の接続部材を取り付け、その接続部材を貫通してボルトを挿入し、そのボルトのヘッド部とエンジンカバー27との間に接続部材を挟み込んでもよい。さらに、エンジンカバー27に突起部を形成し、導線35の端部にクリップを取り付け、そのクリップにより突起部をクランプしてもよく、マイナス端子11をクリップでクランプしてもよい。そのようにクリップを用いる場合には、クランプする部分の電気抵抗を小さくするために、銅を含有するグリースなどの導電性のグリースをクランプする部分に塗布することが好ましい。
上述したように除電領域34は、エンジンカバー27のうちの自己放電式除電器33により除電される領域であるため、除電領域34の電位は低くなる。そのため、バッテリ8のマイナス端子11に静電気が帯電すると、除電領域34とバッテリ8のマイナス端子11との電位差に応じて導線35を介してバッテリ8のマイナス端子11から除電領域34に静電気が流れる。すなわち、バッテリ8のマイナス端子11から除電領域34に電荷が移動して、バッテリ8のマイナス端子11の電位が低下する。そのようにバッテリ8のマイナス端子11の電位が低下して、車体13の電位よりも低くなると、車体13からバッテリ8のマイナス端子11にアース線21を介して電荷が移動して、車体13の電位が低下する。すなわち、車体13と除電領域34とが、アース線21、バッテリ8のマイナス端子11、導線35を介して連結され、車体13に帯電した静電気をエンジンカバー27を介して除電することができる。
上述した静電気の除電作用を説明するためのグラフを図7に示している。図7に示すグラフの縦軸は、静電気の電位を示している。また、図7に示すグラフの横軸は、車両Veの各部位を示しており、左から順に車体13、バッテリ8のマイナス端子11、エンジンカバー27を示し、更に、エンジンカバー27を示す箇所には、除電領域34およびその周囲の領域(以下、非除電領域と記す)を示し、また更に、除電領域34には、除電効果が最も良好な領域(自己放電式除電器33の外縁から50mm以内)を示している。さらに、図7における実線は、自己放電式除電器33を設けていないときの電位を示し、二点鎖線は、自己放電式除電器33を設けているときの電位を示している。
まず、自己放電式除電器33を設けていないときの電位について説明する。上述したようにゴム材料により構成されたタイヤ14により路面と静電気的に絶縁した状態に保持される車体13には、その車体13に電気的に連結された装置から伝達される静電気や走行風などとの摩擦により生じる静電気、あるいはタイヤ14が回転する際の路面との剥離などにより生じる静電気が帯電している。また、バッテリ8から電力が供給される電気機器7は、車体13をグランドアースとして構成されている。そのため、その電気機器7が動作することに伴って生じた静電気が、車体13に伝達されて車体13に静電気が帯電する。
一方、バッテリ8のケース15は樹脂材料で構成されており、またバッテリ8のマイナス端子11と車体13とがアース線21で接続されているため、車体13の静電気がアース線21を介してバッテリ8のマイナス端子11に伝達され、そのマイナス端子11に伝達された静電気によりバッテリ8のケース15(バッテリ8内の基板を含む)に、比較的電位の高い静電気が帯電する可能性がある。上記のようにバッテリ8のケース15の電位が高くなるため、その影響により、バッテリ8のマイナス端子11の電位は比較的高くなる。なお、図7には、バッテリ8のケース15に帯電した静電気の電位を破線で示している。
上記バッテリ8のマイナス端子11は、導線35を介してエンジンカバー27の除電領域34と連結されている。このエンジンカバー27は、ゴム材料によって形成されたクランプ部31を介してシリンダヘッドカバー26に連結されているため、シリンダヘッドカバー26との電気抵抗が大きく、またエンジンカバー27は、樹脂材料により形成されているため、電気伝導率が低い。したがって、マイナス端子11から導線35を介してエンジンカバー27の除電領域34に伝達された静電気は、シリンダヘッドカバー26に伝達されにくく、その結果、エンジンカバー27に帯電する。そして、エンジンカバー27は樹脂材料により形成されていることから、帯電量が多くなり、エンジンカバー27の除電領域34の電位は、マイナス端子11よりも高くなる。なお、上記導線35は、マイナス端子11の静電気が、エンジンカバー27における除電領域34に充分に移動できる程度の比較的小さい電気抵抗となるように形成されており、その電気抵抗が、この発明の実施形態における「第3所定値」に相当する。
つぎに、エンジンカバー27に自己放電式除電器33を設けた場合の作用について、図7を参照して説明する。まず、自己放電式除電器33をエンジンカバー27に取り付けた場合には、自己放電式除電器33による中和除電の作用により、除電領域34の電位が低下する。本発明者の実験により自己放電式除電器33の外縁から50mm以内の範囲は、自己放電式除電器33を設けた位置とほぼ同等の電位まで低下することが確認されている。その領域を図7では、「50mm」と示している。そのように除電領域34の電位が低下すると、除電領域34のうちの自己放電式除電器33の外縁から50mmよりも離れた位置は、自己放電式除電器33からの距離が離れるにつれて電位が高くなる。また、非除電領域は、除電領域34に近づくに連れて電位が低くなる。これは、電気伝導率が小さい材料で形成されているとしても、隣接する箇所との電位が小さくなるように静電気が流れるためである。
上記のように除電領域34の電位が低下すると、マイナス端子11の電位が除電領域34の電位よりも大きくなるため、マイナス端子11に帯電した静電気が導線35を介してエンジンカバー27の除電領域34に伝達される。すなわち、マイナス端子11に帯電した静電気の電位が低下する。そして、エンジンカバー27の除電領域34に伝達された静電気により自己放電式除電器33からコロナ放電が生じ、その結果、除電領域34が中和除電される。なお、上述したように自己放電式除電器33の外縁から50mm以内の範囲が、最も電位が低くなるため、上記導線35の端部を、自己放電式除電器33の外縁から50mm以内の箇所に取り付けることが好ましく、また自己放電式除電器33に直接取り付けてもよい。
そのようにマイナス端子11の電位が低下すると、車体13の電位が低下する。なお、車体13の電位が低下する原理は、上記マイナス端子11の電位が低下する原理と同様である。また、バッテリ8のマイナス端子11の電位が低下することにより、バッテリ8のケース15の電位も低下する。
その結果、車体13に帯電した静電気は、マイナス端子11、導線35を介してエンジンカバー27の除電領域34に伝達されて、その自己放電式除電器33と外気とによって中和除電される。そのため、車体13に帯電した静電気の電位を低下させることができる。その結果、車体13の表面を流動する空気との間で斥力が生じることを抑制することができるので、設計上定められた空力特性を得ることができる。すなわち、設計上意図した空力特性となるため、加速性や操舵性などの走行性能が低下することを抑制することができる。
また、バッテリ8(またはバッテリ8のケース15)の静電気を除電することにより、バッテリ8の電圧が安定するなどのバッテリ8の性能を向上させることができる。さらに、上述したように車両Veに搭載された電気機器7は、車体13をグランドアースとして構成されているため、車体13の電位が低下することにより、電気機器7の制御性を向上させることができる。またさらに、車両Veに搭載された装置の摺動部に塗布されたグリースは、静電気の影響により粘度または硬度が変化する可能性があるものの、上記のように車体13の静電気を除電することにより、グリースの粘度や硬度が意図した粘度や硬度と異なることを抑制することができる。すなわち、アクセルペダルやブレーキペダルあるいはステアリングなどの操作量が変化してからの応答時間を短縮することができる。
また、本発明者は、上述した自己放電式除電器33の有効放電面積を徐々に変更させながら走行実験を行い、自己放電式除電器33の有効放電面積の最適値があるか否かの検証を行った。なお、有効放電面積とは、自己放電式除電器33からコロナ放電が生じる可能性がある面の表面積であって、その自己放電式除電器33を取り付ける面の意匠形状によって変化する。すなわち、有効放電面積は、自己放電式除電器33の外形寸法から算出される面積とは異なる。
その結果のグラフを図8に示している。図8の横軸は有効放電面積を示し、縦軸は走行性能を示している。この走行性能とは、アクセル操作やブレーキ操作などの加減速の要求量、あるいはステアリング操作の操舵角が変化してからの応答時間を表している。上述したように車体13の静電気を中和除電することにより、加速性や操舵性などが低下することを抑制することができるため、車体13の静電気が除電されるほど上記応答時間が短くなる。そして、応答時間が短いほど走行性能が良好と判断することができる。この応答時間が短いほど縦軸の上側に示している。
図8に示す検証結果から、有効放電面積が所定の面積以下の場合には、有効放電面積が大きくなるほど走行性能が良好になることが分かる。これは、上述したように自己放電式除電器33からの放電量が多くなることに起因していると考えられる。
一方、有効放電面積が所定の面積よりも大きくなると、有効放電面積が大きくなるにつれて走行性能が悪化することが分かる。これは、有効放電面積が所定の面積よりも大きくなると、一度コロナ放電が生じた場合に、再度、自己放電式除電器33の電位がある程度増大するまでコロナ放電が生じないためと考えられる。言い換えると、コロナ放電が一時的に生じなくなるためと考えられる。それに対して、有効放電面積が所定の面積以下の場合には、一度コロナ放電が生じて自己放電式除電器33の電位が低下したとしても、コロナ放電が継続して生じているためと考えられる。
したがって、図8に示すように有効放電面積に最適値があり、継続してコロナ放電を発生させるため、言い換えると、連続的に中和除電の効果を奏するために、自己放電式除電器33の有効放電面積が上記最適値となるように形成することが好ましい。また、その有効放電面積の最適値は、ハイブリッド車両であっても、電気自動車であっても、エンジンのみを駆動力源とした車両であってもほぼ同一であり、また車種が異なっていても有効放電面積の最適値がほぼ同一であることが確認された。具体的には、幅85mm、長さ125mmの自己放電式除電器33を使用した場合に、走行性能が最も良好となった。すなわち、有効放電面積の最適値は、10625平方ミリメートルであった。
なお、メタリック塗料をエンジンカバー27に塗布して自己放電式除電器33を構成した場合には、そのメタリック塗料に含有された粉状のメタルの誤差があり、またシートをエンジンカバー27に取り付けて自己放電式除電器33を構成した場合には、そのシートに形成したヘアラインなどの凹凸の製造誤差がある。そのため、この発明の実施形態における「10625平方ミリメートル」は、当業者が認知し得る程度、あるいは実用上許容される程度の誤差分、面積の大きさが変動してもよい。
また、上述したように自己放電式除電器33は、予め定めた有効放電面積となるように塗料を塗布し、またはシートを取り付けたとしても、その製造誤差などにより意図した有効放電面積とならない可能性がある。そのため、エンジンカバー27等に自己放電式除電器33を設ける場合には、メインとなる自己放電式除電器33aを取り付け、その後に、調整用の自己放電式除電器33bを取り付けて構成してもよい。すなわち、メインとなる自己放電式除電器33aと調整用の自己放電式除電器33bとのそれぞれの有効放電面積の和が、予め定められた空力特性に基づいて定められた面積となるように構成してもよい。
具体的には、まず、上記製造誤差を要因として有効放電面積が大きくなると仮定した場合の有効放電面積が10625平方ミリメートルとなり、かつ上記導線35の接続部36が放電用の塗料の除電効果が生じる範囲となるように、エンジンカバー27に放電用の塗料を塗布し、その状態で走行実験を行う。この走行実験を第1走行実験と記す。なお、このエンジンカバー27に塗料を塗布して構成された自己放電式除電器33aが、この発明の実施形態における「主除電器」に相当する。
ついで、予め定められた大きさの放電用のシートを、上記導線35の接続部34がそのシートの除電効果が生じる範囲となるようにエンジンカバー27に貼り付け、その状態で走行実験を行う。この走行実験を第2走行実験と記す。その第2走行実験の際における走行性能が、第1走行実験の走行性能よりも低下した場合には、塗料を塗布した面の有効放電面積が最適値である10625平方ミリメートルと推定されるので、追加したシートを取り外して自己放電式除電器33の実質的な有効放電面積を最適値に調整することができる。
一方、第2走行実験の際における走行性能が、第1走行実験の際における走行性能よりも向上した場合には、更にシートを追加して、上記と同様の走行実験を繰り返し行う。このように繰り返し走行実験を行い、走行性能が低下した時点の走行実験で貼り付けたシートを取り外して自己放電式除電器33の実質的な有効放電面積を最適値に調整することができる。このようにシートを補助的または調整用の自己放電式除電器33bとして設けることにより、塗料やシートの製造誤差により、自己放電式除電器33全体としての有効放電面積を適切な面積に調整することができる。上記のように有効放電面積を最適値に調整するためのシートが、この発明の実施形態における「補助除電器」に相当する。
なお、調整用の自己放電式除電器33bを、図3に黒丸印で示したように車体13に取り付けた状態で走行実験を行い、また同一の大きさの調整用の自己放電式除電器33bを上記エンジンカバー27に取り付けた状態で走行実験を行った結果、いずれの走行実験でも走行性能が同一となった。すなわち、調整用の自己放電式除電器33bは、メインの自己放電式除電器33aが取り付けられる部材以外に、車体13に取り付けてもよい。具体的には、上記シート(補助除電器33b)は、車両Veに要求される空力特性に応じて定められた車体13のいずれかの部位に直接貼り付けてもよい。この空力特性に応じて定められた車体13のいずれかの部位は、この発明の実施形態における「特定部位」に相当するものであって、スポーツタイプの車両であって加速感が要求される車両の場合には、鉛直方向における車体13の上側の部材または下側の部材のうち、車両Veの内側に湾曲している箇所、すなわち空気が剥離し易い箇所の外表面などである。
上述したようにバッテリ8のマイナス端子11を介して車体13とエンジンカバー27とを電気的に連結したのは、エンジンカバー27の除電領域34と車体13との電位差が大きくなることにより、エンジンカバー27の除電領域34から車体13に少なからず電荷が移動して、自己放電式除電器33の電位が低くなると考えられるためである。すなわち、自己放電式除電器33のコロナ放電を迅速に発生させず、また放電量が低くなると考えられるためである。
そこで、本発明者は、導線35の一方の端部を、バッテリ8のマイナス端子11に取り付けた場合と、車体13に取り付けた場合との走行性能の変化を走行実験で検証した。また、マイナス端子11と車体13とがアース線21により連結されているため、アース線21の電位は、バッテリ8のマイナス端子11の電位よりも低く、車体13の電位よりも高いと考えられる。そのため、導線35の一方の端部をアース線21に取り付けて上記と同様の走行実験を検証した。
その結果のグラフを図9に示している。図9の横軸は導線35の一方の端部を連結した部材を示し、縦軸は走行性能を示しており、走行性能が良好なほど縦軸の上側となるように示している。なお、図9に示す走行性能は、上記図8に示す走行性能と同様に、アクセル操作やブレーキ操作などの加減速の要求量、あるいはステアリング操作の操舵角が変化してからの応答時間を表しており、加減速の要求量が変化してからの応答時間が短いほど走行性能が良好と判断でき、この応答時間が短いほど縦軸の上側に示している。すなわち、縦軸の上側となるにつれて、上記応答時間が改善されることを意味する。
上記の走行実験から、バッテリ8のマイナス端子11に導線35を連結した場合の走行性能(A点)が最も良好となり、導線35をアース線21に連結した場合の走行性能(B点)、導線35を車体13に連結した場合の走行性能(C点)の順に走行性能が低下することが分かる。上述したようにバッテリ8のマイナス端子11、アース線21、車体13の順に帯電する電位が高いと考えられる。したがって、上記の走行実験から、エンジンカバー27との電位差が比較的小さい部材を介してエンジンカバー27と車体13とを接続する方が良いことが明らかになった。
ここで、上述した車両Veの製造方法について説明する。まず、上述した車両Veは、従来知られている車両と同様に車体13にバッテリ8やタイヤ14などを取り付け、またエンジンカバー27と車体13との電気抵抗が、静電気が流れない程度の電気抵抗となるようにエンジンカバー27をシリンダヘッドカバー26に取り付ける。その状態で、自己放電式除電器33をエンジンカバー27に取り付けるとともに、その自己放電式除電器33により中和除電される箇所とバッテリ8のマイナス端子11とを導線35などの伝達部材で接続する。
また、エンジンカバー27に取り付けるべき自己放電式除電器33の有効放電面積が予め実験などにより定められている場合には、その定められた有効放電面積となるように自己放電式除電器33をエンジンカバー27に取り付ける。
一方、エンジンカバー27に取り付けるべき自己放電式除電器33の有効放電面積が定められていない場合には、まず、予め定められた表面積に形成した主除電器33aをエンジンカバー27に取り付け、その状態で、車両Veの走行実験を行い、走行実験における空力特性が予め定められた基準を満たすか否か、すなわち、意図した空力特性となっているか否かを判断する。その判断で、予め定められた基準を満たさない場合には、主除電器33aよりも表面積が小さい補助除電器33bをエンジンカバー27や車体13に取り付け、その状態で、車両Veの走行実験を行う。そのように予め定められた基準を満たすまで、エンジンカバー27や車体13に取り付ける補助除電器33bの数を増大させる。なお、エンジンカバー27に補助除電器33bを取り付ける場合には、補助除電器33bによる除電効果の範囲に伝達部材(すなわち導線35)の接続部36が位置するように、エンジンカバー27に補助除電器33bを取り付ける。この補助除電器33bによる除電効果の範囲が、この発明の実施形態における「第2範囲」に相当する。
なお、上述したように自己放電式除電器33は、エンジンカバー27に代えて樹脂材料により形成されたシリンダヘッドカバー26に取り付けてもよい。また、自己放電式除電器33は、自己放電式除電器33の電荷の極性とは反対の極性の空気イオンを発生させて中和除電するように構成されているため、外気の流れが生じる位置に取り付けることが好ましく、その位置は、エンジンカバー27の上面であってもよい。
また、エンジン20は、外気を取り込むように構成されている。その構成の一例を図10に模式的に示している。図10に示す例では、エンジンルーム16内に外気を取り込むためのラジエータ37が車両Veの前方に設けられおり、そのラジエータ37よりも車両Veの後方側のエンジンルーム16には、車両Veの前方に開口した吸気ダクト38が配置されている。この吸気ダクト38のいずれかの箇所に、空気に混入した異物を除去するためのエアクリーナ39が連結されている。そして、吸気ダクト38のエンジン20の端部には、シリンダブロック24に形成されたシリンダボア23の数に応じて吸気ダクト38を流動した外気を分岐させるインテークマニホールド40が連結されている。なお、上記のラジエータ37が組み込まれたラジエータカバー41、吸気ダクト38、エアクリーナ39、インテークマニホールド40は、金属材料よりも静電気が帯電しやすい樹脂材料により構成されている。したがって、上記の自己放電式除電器33は、エンジンカバー27に代えてラジエータカバー41、吸気ダクト38、エアクリーナ39、インテークマニホールド40のいずれかの部材の外表面(外気に触れる面)、より具体的には、走行風などの外気の流れが生じる位置に取り付けてもよい。なお、図10では、エアクリーナ39に自己放電式除電器33を取り付けた例を示しており、除電領域34を二点鎖線で示している。
さらに、既存の車両Veに自己放電式除電器33を取り付けることや製造の順序などの工程を考慮して、上記エンジン20などを車体13に組み付けた後に自己放電式除電器33を取り付けるなどの場合には、自己放電式除電器33を図11に示すように樹脂材料により構成されたプレート42に取り付け、そのプレート42を車体13を構成する部材や、その車体13に取り付けれた装置、あるいは上記エンジンカバー27、シリンダヘッドカバー26、吸気ダクト38などに取り付けてもよい。このプレート42が、この発明の実施形態における「第2プレート部材」に相当し、そのプレート42が取り付けられるエンジンカバー27、シリンダヘッドカバー26、吸気ダクト38などが、この発明の実施形態における「第2プレート部材」に相当する。
なお、図11におけるプレート42に取り付けられた自己放電式除電器33は、プレート42の表面の一部に塗料が塗布され、そのプレート42の表面のうちの塗料が塗布されていない箇所にシート43が貼り付けられており、その裏面が上述したエンジンカバー27などの部材に取り付けられる。すなわち、自己放電式除電器33が取り付けられる面は、外表面(外気に触れる面)、より具体的には、走行風などの外気の流れが生じる側の面に取り付けられている。上記の塗料により構成された自己放電式除電器33が主除電器33aとなり、シート43により構成された自己放電式除電器33が補助除電器33bとなる。また、図11における二点鎖線は、除電領域34と非除電領域との境界位置を示しており、二点鎖線よりも自己放電式除電器33側の範囲が除電領域34となっている。
またさらに、上述したエンジンカバー27は、エンジン20の上部に設けられたものに限らず、エンジン20の側面側に設けられたサイドカバーや、エンジン20の下部に設けられたアンダーカバーであってもよい。また、エンジン20に代えて駆動力源となるモータ6や、例えば燃料電池車に搭載された燃料電池を覆うカバー部材であってもよい。さらに、バッテリ8のケース15は樹脂材料で構成されているので、そのバッテリ8のケース15に自己放電式除電器33を取り付けてもよい。またさらに、バッテリ8へ熱が伝達されることを抑制するための樹脂材料で構成された保温カバーを備えている場合には、バッテリ8のケース15の電位が高くなることにより、そのバッテリ8のケース15と所定の間隔を空けて対向した保温カバーの電位が静電誘導により高くなる。そのため、その保温カバーに自己放電式除電器33を取り付けてもよい。