本発明は概ね、目的のタンパク質の発現の増加をもたらす遺伝子改変を有する細菌細胞と、そのような細胞の作製及び使用方法に関する。本発明の態様は、pdhオペロンにおける遺伝子の発現を減少させ、目的のタンパク質の発現の増大をもたらす遺伝子改変を有する、バチルス種細胞のようなグラム陽性細菌を含む。
本組成物及び方法をより詳細に記載する前に、本組成物及び方法は、記載されている特定の実施形態に限定されるものではなく、したがって、当然ながら、多様であり得ることが理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、具体的な実施形態を記載するという目的でのみ使用されるものであり、制限を意図するものではなく、したがって、本組成物及び方法の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることも理解されたい。
値の範囲が提供される場合、間にある各値、文脈に別途記載がない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限と下限との間及びその記載されている範囲内の任意の別の記載されている値又は間にある値が、本組成物及び方法の範囲内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してそれらのより小さい範囲内に含まれてもよく、言明した範囲内の任意の明確に除外されている限界の対象であり、本組成物及び方法の範囲内に包含される。言明した範囲が上限又は下限のうち1つ又は両方を含む場合、これらの含まれる上限及び下限のいずれか一方又は両方を除外する範囲もまた本組成物及び方法に含まれる。
本明細書において、ある特定の範囲は、用語「約」が前に来る数値で提示される。「約」という用語は、本明細書において、その後に続く正確な数、並びにその用語の後に続く数に近い数又は近似の数を文字通りに補強するために使用される。ある数が具体的に列挙されている数に近い数又は近似の数であるかどうかを判定するとき、その近い数又は近似する列挙されていない数は、それが提示されている文脈において、具体的に列挙されている数の実質的な同値を示す数であり得る。例えば、ある数値に関して、用語「約」は、その用語が文脈において別途明確に定義されていない限り、その数値の−10%〜+10%の範囲を指す。別の例では、語句「約6のpH値」は、そのpH値が別途明確に定義されていない限り、5.4〜6.6のpH値を指す。
本明細書において提供される見出しは、明細書全体を参照することにより有することができる、本組成物及び方法の種々の態様又は実施形態を限定するものではない。したがって、すぐ下で定義される用語は、明細書全体を参照することにより、より一層完全に定義される。
本文書は、読みやすさのために複数のセクションに編成されているが、読者は、1つのセクションで行われた記述が他のセクションに適用できることを理解するであろう。この方法では、開示の異なるセクションで使用される見出しは、限定的なものとして解釈されるべきではない。
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本組成物及び方法が属する当業者により通常理解される意味と同一の意味を有する。本組成物及び方法を実施又は試験する上で、本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料もまた使用することができるが、代表的な例示の方法及び材料を以下に記載する。
本明細書において引用されているすべての出版物及び特許は、それぞれの個々の出版物又は特許が具体的かつ個々に示されて、参照として援用されるかのように、参照により本明細書に援用され、関連の出版物が引用された方法及び/又は材料を開示及び記述するために、参照により本明細書に援用される。任意の出版物の引用は、出願日の前のその開示に関するものであり、本発明の組成物及び方法が先行発明のためにそのような出版物に先行する権利を有さないことを承認するものと解釈されるべきではない。更に、提供されている出版日は、それぞれ別個に確認する必要があるであろう実際の出版日とは異なる場合があり得る。
この発明を実施するための形態に従い、以下の略記及び定義を適用する。なお、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈に別途記載がない限り、複数の指示対象が含まれることに、留意されたい。よって、例えば、「酵素」という場合には、複数のこうした酵素が含まれ、「用量」という場合には、当業者には既知の1回又は2回以上の用量及びその当量などが含まれる。
特許請求の範囲は、任意の要素を除外するように作成されてもよいことに更に留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の構成要素の列挙、又は「消極的(negative)」限定の使用に関連して、「だけ(solely)」、「のみ(only)」などのような排他的な用語を使用するための先行する根拠として機能することを意図する。
本明細書において使用される場合、用語「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、その用語の後の(複数の)成分が、前記(複数の)成分の作用又は活性に寄与又は干渉しない、全量が全組成物の30重量%未満である他の既知の(複数の)成分の存在下にある、組成物を指すことに更に留意されたい。
用語「含む(comprising)」は、本明細書において使用される場合、用語「含む(comprising)」の後の(複数の)成分を含むが、これらに限定されないことを意味することにもまた留意されたい。用語「含む(comprising)」の後の(複数の)成分は、必要又は必須であるが、この(複数の)成分を含む組成物は、他の必須ではない(複数の)成分又は任意の(複数の)成分を更に含んでもよい。
用語「〜からなる(consisting of)」は、本明細書において使用される場合、用語「〜からなる(consisting of)」の後の(複数の)成分を含むが、これらに限定されることを意味することにもまた留意されたい。したがって、用語「〜からなる(consisting of)」の後の(複数の)成分は、必要又は必須であり、かつ他の(複数の)成分が組成物中に存在しない。
本開示を読めば当業者には明らかとなるように、本明細書において記述及び例示されている個々の実施形態のそれぞれは、本明細書において記載されている本組成物及び方法の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の一部の実施形態のいずれかの特徴と容易に分離し、又はそれと組み合わせることができる別個の成分及び特徴を有する。列挙されているいずれの方法も、列挙されている事象の順序で又は論理的に可能な任意の他の順序で行うことができる。
定義
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」は、新規に導入されたDNA配列に対する宿主又は発現ビヒクルとして働く能力を有する細胞を意味する。
本発明の特定の実施形態において、宿主細胞は、細菌細胞、例えば、グラム陽性宿主細胞、バチルス種である。
本明細書において使用される場合、「バチルス属」又は「バチルス種」としては、B.サブティリス、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.ブレービス、B.ステアロサーモフィルス、B.アルカロフィルス、B.アミロリクエファシエンス、B.クラウシイ、B.ハロデュランス、B.メガテリウム、B.コアグランス、B.シルクランス、B.ロータス、及びB.チューリンギエンシスが挙げられるが、これらに限定されない、当業者に既知のような「バチルス」属内のすべての種が含まれる。バチルス属は、分類再構築を受け続けると認識される。したがって、属は、現在は、「ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス」と呼ばれている、B.ステアロサーモフィルスのような微生物を含むが、これに限定されない、再分類された種を含むことが意図される。酸素の存在下での耐性内生胞子の産生は、この特徴は、最近命名されたアリサイクロバチルス、アムピバチルス、アネウリニバチルス、アノキシバチルス、ブレビバチルス、フィロバチルス、グラシリバチルス、ハロバチルス、パエニバチルス、サリバチルス、サーモバチルス、ウレイバチルス及びバルジバチルスにも当てはまるが、バチルス属を決定付ける特徴であると考えられる。
本明細書で使用される場合、「核酸」は、センス鎖又はアンチセンス鎖のいずれを表すかに関わらず、ヌクレオチド配列又はポリヌクレオチド配列、その断片又は部分、並びに二本鎖又は一本鎖であってもよい、ゲノム起源又は合成起源のDNA、cDNA、及びRNAを意味する。遺伝コードの縮重の結果として、多くのヌクレオチド配列が、所与のタンパク質をコードする可能性があることが理解されるであろう。
本明細書において使用される場合、用語「ベクター」は、細胞内で複製可能であり、新規遺伝子又はDNA断片を細胞内に運ぶことが可能な任意の核酸を意味する。したがって、本用語は、異なる宿主細胞間での伝達のために設計された核酸構造物を意味する。「発現ベクター」とは、外来細胞内に異種DNA断片を組み込み、これを発現する能力を有するベクターを意味する。多くの原核細胞発現ベクター及び真核細胞発現ベクターが市販されている。「標的化ベクター」は、これを形質転換する宿主細胞の染色体内の一領域に相同であり、この領域での相同組換えを駆動可能なポリヌクレオチド配列を含むベクターである。標的化ベクターは、相同組換えにより、細胞の染色体内に変異を導入する際の使用が見受けられる。いくつかの実施形態では、標的化ベクターには、例えば、末端に追加される、他の非相同配列が含まれる(すなわち、スタッファー配列又はフランキング配列)。末端は、標的化ベクターが、例えば、ベクター内への挿入のような、閉環を形成するように、閉じることが可能である。適切なベクターの選択及び/又は構築は、当業者の知識の範囲内である。
本明細書で使用される場合、用語「プラスミド」とは、クローニングベクターとして使用され、多くの細菌及び一部の真核生物において、染色体外自己複製遺伝因子を形成する、環状二本鎖(ds)DNA構築物を意味する。いくつかの実施形態では、プラスミドは、宿主細胞のゲノム内に組み込まれることとなる。
「精製された」又は「単離された」又は「濃縮された」は、生体分子(例えば、ポリペプチド又はポリヌクレオチド)が、天然に関連する天然に生じる構築物のうちいくつか又はすべてから、それを分離する目的で、その天然の状態から変質されることを意味する。そのような単離又は精製は、最終組成物中で不要な無傷の細胞、細胞残渣、不純物、外来タンパク質又は酵素を除去するための、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水性分離、透析、プロテアーゼ処理、硫酸アンモニウム沈殿又は他のタンパク質塩沈殿、遠心分離、サイズ排除クロマトグラフィー、濾過、マイクロ濾過、ゲル電気泳動又は勾配に基づく分離のような、当該技術分野において承認されている分離技術によって達成することができる。ついで、更なる利益を提供する、例えば、活性剤、抗阻害剤、望ましいイオン、pH又は他の酵素又は化学物質を制御するための化合物などの構成要素を精製又は単離した生体分子組成物に加えることも更に可能である。
本明細書において使用される場合、目的の生体分子(例えば、目的のタンパク質)の発現に言及する際の用語「増大された」、「改善された」及び「増加された」は、生体分子の発現が、本明細書における教示に従って変更されていないが、本質的に同一の増殖条件下で増殖した対応する宿主株(例えば、野生型株及び/又は親株)中の発現レベルより上であることを示すために、本明細書で相互互換的に使用される。
本明細書において使用される場合、タンパク質に適用される際の用語「発現」は、タンパク質が遺伝子の核酸配列に基づいて産生されるプロセスを意味し、したがって、転写及び翻訳の両方を含む。
細胞内にポリヌクレオチドを導入する文脈において本明細書において使用される場合、用語「導入された」は、この細胞内にポリヌクレオチドを伝達するために好適な任意の方法を意味する。導入のためのそのような方法は、原形質融合、トランスフェクション、形質転換、接合、及び形質導入を含むが、これらに限定されない(例えば、Ferrari et al.,「Genetics」Hardwood,(eds.),et al.,(eds.),Bacillus,Plenum Publishing Corp.,57〜72頁,[1989]を参照のこと)。
本明細書において使用される場合、用語「形質転換された」及び「安定に形質転換された」は、人為的介入によってその内部にポリヌクレオチド配列が導入された細胞を意味する。ポリヌクレオチドは、細胞のゲノム内に統合されるか、又は少なくとも2世代維持されるエピソームプラスミドとして存在可能である。
本明細書において使用される場合、用語「選択可能マーカー」又は「選択マーカー」は、核酸を含有する宿主の簡単な選択を許容する、宿主細胞における発現が可能な核酸(例えば、遺伝子)を意味する。そのような選択可能マーカーの例としては、抗菌剤が挙げられるが、これに限定されない。したがって、用語「選択可能マーカー」は、宿主細胞が、目的の入来DNAを受け入れたか、又はいくつかの他の反応が発生したことを示唆する遺伝子を意味する。典型的に、選択可能マーカーは、外来DNAを含有する細胞を、形質転換の間、いかなる外来配列をも受領しなかった細胞から区別できるようにするために、宿主細胞上に抗菌剤耐性又は代謝優位性を与える遺伝子である。本発明に従う有用な他のマーカーとしては、トリプトファンのような栄養要求性マーカー、及びβ−ガラクトシダーゼのような検出マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、用語「プロモータ」とは、下流遺伝子の転写を指示するように機能する核酸配列を意味する。実施形態では、プロモータは、標的遺伝子が発現する宿主細胞に対して適切である。プロモータは、他の転写及び翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも称される)と共に、所与の遺伝子を発現するために必要である。一般に、転写及び翻訳調節配列としては、プロモータ配列、リボソーム結合部位、転写開始配列及び転写終止配列、翻訳開始配列及び翻訳終止配列、並びにエンハンサ配列又はアクティベータ配列が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、「機能的に結合された」又は「操作可能に連結された」は、その既知の又は所望の活性に従って、標的の発現、分泌又は機能をその制御領域又は機能ドメインが制御することを許容するような様式で、その標的(例えば、遺伝子又はポリペプチド)に、プロモータ、ターミネータ、シグナル配列、又はエンハンサ領域のような、既知又は所望の活性を有する調節領域又は機能ドメインが、結合又は連結されることを意味する。
組換え細胞を記述するために使用する場合、用語「遺伝子改変」又は「遺伝的変化」は、親細胞と比較して、細胞が少なくとも1つの遺伝的差異を有することを意味する。1つ又は2つ以上の遺伝的差異は、染色体変異(例えば、染色体領域の挿入、欠失、置換、逆位、他の染色体との染色体領域の交換(例えば、染色体プロモータの異種プロモータとの交換)など)、及び/又は染色体外ポリヌクレオチド(例えば、プラスミド)の導入であってもよい。いくつかの実施形態では、染色体外ポリヌクレオチドは、宿主細胞の染色体に統合されて、安定なトランスフェクタント/形質転換体を生じることができる。本開示の実施形態には、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子(pdhA、pdhB、pdhC及びpdhD)の発現を減少させる遺伝子改変が含まれる。本明細書で詳述されるように、そのような改変は、目的のタンパク質の発現を改善する。
遺伝子の「不活性化」は、遺伝子の発現若しくは遺伝子がコードされた生体分子の活性が阻害されるか、又は遺伝子の既知の機能を発揮することが不可能であることを意味する。不活性化は、例えば、上記のような遺伝子改変を介して、任意の好適な手段を介して生じ得る。1つの実施形態では、不活性化遺伝子の発現産物は、タンパク質の生物学的活性において相当する変化を有する、短縮タンパク質である。いくつかの実施形態では、改変グラム陽性細菌株には、好ましくは安定及び不可逆不活性化をもたらす、1つ又は2つ以上の遺伝子の不活性化が含まれる。
いくつかの実施形態において、不活性化は、欠失によって得られる。いくつかの実施形態において、欠失のために標的とされる領域(例えば、遺伝子)は、相同組換えによって欠失する。例えば、欠失のために標的とされる領域に相同である配列によって、各側で隣接した選択マーカーを有する入来配列を含むDNA構造物が使用される(配列は、本明細書において「相同ボックス」と称されてもよい)。DNA構造物は、宿主染色体の相同配列と整列し、二本鎖交差イベントにて、欠失のために標的とされる領域が、宿主染色体の外に切り出される。
「挿入」又は「添加」は、天然に存在する配列、又は親配列と比較して、それぞれ、1個又は2個以上のヌクレオチド又はアミノ酸残基の添加をもたらした、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列における変化である。
本明細書において使用される場合、「置換」は、1つ又は2つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸の、それぞれ異なるヌクレオチド又はアミノ酸による交換によって生じる。
遺伝子を変異する方法は、当該技術分野において周知であり、部位特異的変異、ランダム変異の発生、及びギャップ付き二本鎖法(gapped-duplex approach)が含まれるが、これらに限定されない(例えば、米国特許第4,760,025号、Morning et al.,Biotech.2:646[1984]及びKramer et al.,Nucleic Acids Res.,12:9441[1984]を参照のこと)。
本明細書において使用される場合、「相同遺伝子」は、互いに対応し、互いに同一であるか、又は非常に類似の、異なるが、通常関連する種からの一対の遺伝子を意味する。本用語は、種形成(すなわち、新規種の発生)によって分離される遺伝子(例えば、オルソロガス遺伝子)、並びに遺伝子複製によって分離される遺伝子(例えば、パラロガス遺伝子)を包含する。
本明細書において使用される場合、「オルソログ」及び「オルソロガス遺伝子」は、種形成によって、共通の先祖遺伝子(すなわち相同遺伝子)から進化した、異なる種における遺伝子を意味する。典型的には、オルソログは、進化の過程にて、同一の機能を維持する。オルソログの同定は、新規に配列決定されたゲノム内の遺伝子機能の信頼性ある予測にて有用であることが分かる。
本明細書において使用される場合、「パラログ」及び「パラロガス遺伝子」は、ゲノム内の複製によって関連づけられる遺伝子を意味する。オルソログが進化の過程を通して同一の機能を維持する一方で、パラログは、いくつかの機能が、本来のものと関連する場合が多いが、新規機能を進化させている。パラロガス遺伝子の例としては、すべてがセリンプロテアーゼであり、同一の種内で同時に発生する、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ及びトロンビンをコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書において使用される場合、「相同性」は、配列の類似性又は同一性を意味し、同一が好ましい。本相同性は、当該技術分野において既知の標準技術を用いて判定される(例えば、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.,2:482[1981];Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.,48:443「1970」;Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444[1998]、Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computor Group,Madison,WI)におけるGAP、BESTFIT,FASTA及びTFASTAのようなプログラム、及びDevereux et al.,Nucl.Acid Res.,12:387〜395[1984]を参照のこと)。
本明細書において使用される場合、「類似配列」は、遺伝子の機能が、バチルス・サブティリス株168から指定された遺伝子と本質的に同一であるものである。更に、類似遺伝子は、バチルス・サブティリス株168の遺伝子の配列と、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、又は100%配列同一性を含む。あるいは、類似配列は、B.サブティリス168の領域中に見出される遺伝子の70〜100%の整列を有し、かつ/又はB.サブティリス168の染色体中の遺伝子と整列した領域にて見出される少なくとも5〜10個の遺伝子を有する。更なる実施形態では、2つ以上の上記特徴が配列に適用される。類似配列は、配列整列の既知の方法によって決定される。通常使用される配列方法は、BLASTであり、前述又は後述で示唆されるように、配列を整列する際の使用もまた見受けられる他の方法も存在する。
有用なアルゴリズムの1つの例は、PILEUPである。PILEUPは、累進的なペアワイズアラインメントを使用して関連する配列の一群から、複数の配列整列を作製する。この方法はまた、整列を作製するために使用されたクラスタリング相関を示すツリーをプロット可能である。PILEUPは、Feng及びDoolittleの累進的アラインメント方法の単純化を使用する(Feng and Doolittle,J.Mol.Evol.,35:351〜360[1987])。本方法は、Higgins及びSharpによって記述された方法と同様である(Higgins and Sharp,CABIOS 5:151〜153[1989])。有用なPILEUPパラメータには、3.00のギャップ加重デフォルト値、0.10のギャップ長加重デフォルト値及び加重末端ギャップが含まれる。
有用なアルゴリズムの他の例は、Altschul et al.,によって記述された、BLASTアルゴリズムである(Altschul et al.,J.Mol.Biol.,215:403〜410,[1990];及びKarlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5787[1993])。特に有用なBLASTプログラムは、WU−BLAST−2プログラムである(Altschul et al.,Meth.Enzymol.,266:460〜480[1996]を参照のこと)。WU−BLAST−2は、数個の検索パラメータを使用し、これらのほとんどは、デフォルト値に設定される。調節可能なパラメータは、以下の値で設定される。オーバーラップスパン=1、オーバーラップ比率=0.125、ワード閾値(T)=11。HSP Sパラメータ及びHSP S2パラメータは、動的値であり、特定の配列の組成、及びそれに対して目的の配列を検索する特定のデータベースの組成に基づいて、プログラム自身によって確立される。しかしながら、値は、感度を増加させるように調節されてもよい。%アミノ酸配列同一性値は、整列した領域中の「より長い」配列の残基総数によって除した、一致している同一残基の数によって求められる。「より長い」配列は、整列した領域中のもっとも実際の残基を有するものである(整列スコアを最大化するためにWU−Blast−2によって導入されたギャップは無視される)。
本明細書において使用される場合、本明細書で同定されたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「パーセント(%)配列同一性」は、最大パーセント配列同一性を達成するために、必要であれば、配列を整列させ、ギャップを導入した後に、Mal3A配列中のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一であるが、配列同一性の部分として、任意の保存的置換を考慮しない候補配列中の、アミノ酸残基又はヌクレオチドの割合として定義される。
「相同体」(又は「ホモログ」)によって、対象のアミノ酸配列と、対象のヌクレオチド配列との、特定の程度の同一性を有するエンティティを意味するものとする。相同配列は、従来の配列整列ツール(例えば、Clustal、BLASTなど)を用いて、対象の配列に、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含み得る。典型的には、相同体は、他で特定しない限り、対象のアミノ酸配列と同一の活性部位残基を含むこととなる。
配列整列を実施し、配列同一性を決定するための方法は、当業者に既知であり、不要な実験なしに実施されてもよく、同一性値の計算は、定値性で求められてもよい。例えば、Ausubel et al.,eds.(1995)Current Protocols in Molecular Biology,Chapter 19(Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York)及びALIGNプログラム(Dayhoff(1978)in Atlas of Protein Sequence and Structure 5:Suppl.3(National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.)を参照のこと。多数のアルゴリズムが、配列を整列し、配列同一性を決定するために利用可能であり、例えば、Needleman et al.,(1970)J.Mol.Biol.48:443の相同性整列アルゴリズム、Smith et al.(1981)Adv.Appl.Math.2:482のローカル相同性アルゴリズム、Pearson et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:2444の類似性検索法、Smith−Watermanアルゴリズム(Meth.Mol.Biol.70:173〜187(1997)、及びBLASTP、BLASTN及びBLASTXアルゴリズム(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410を参照のこと)が含まれる。
これらのアルゴリズムを使用するコンピュータプログラムも利用可能であり、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア、又はWU−BLAST−2(Altschul et al.,Meth.Enzym.266:460〜480(1996))、又はGenetics Computing Group(GCG)パッケージ、Version 8、Madison,Wisconsin,USAにて入手可能なGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA及びTFASTA、並びにIntelligenetics,Mountain View,CaliforniaによるPC/GeneプログラムにおけるCLUSTALが含まれるが、これらに限定されない。当業者は、比較される配列の長さに渡る最大の配列を得るために必要なアルゴリズムを含む、整列を測定するための適切なパラメータを決定可能である。好ましくは、配列同一性は、プログラムによって決定されたデフォルトパラメータを用いて決定される。とりわけ、配列同一性は、デフォルトパラメータ、すなわち以下を有するClustal W(Thompson J.D.et al.(1994)Nucleic Acids Res.22:4673〜4680)を使用することによって決定可能である。
本明細書において使用される場合、用語「ハイブリダイゼーション」は、当該技術分野において既知のように、核酸の鎖が、塩基対を通して相補鎖と結合するプロセスを意味する。
中〜高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション及び洗浄条件下にて、2つの配列が互いに特異的にハイブリダイズする場合、核酸配列は、参照核酸配列に対して「選択的にハイブリダイズ可能」であると考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体又はプローブの融解温度(Tm)に基づく。例えば、「最大ストリンジェンシー」は典型的には、約Tm−5℃(プローブのTmより5°低い)で生じ、「高ストリンジェンシー」は、Tmより約5〜10℃低い温度で生じ、「中程度のストリンジェンシー」は、プローブのTmより約10〜20℃低い温度で生じ、「低ストリンジェンシー」は、Tmより約20〜25℃低い温度で生じる。機能上、最大ストリンジェンシー条件は、ハイブリダイゼーションプローブに厳密な同一性又はほぼ厳密な同一性を有する配列を同定するために使用してもよく、一方で、中又は低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチド配列ホモログを同定又は検出するために使用可能である。
中及び高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件は、当該技術分野において周知である。高ストリンジェンシー条件の例として、50%ホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト液、0.5% SDS及び100g/mLの変性キャリアDNA中約42℃でのハイブリダイゼーション、続いて2×SSC及び0.5%SDS中、室温での2回の洗浄、及び0.1×SSC及び0.5% SDS中42℃での更に2回の洗浄が挙げられる。中ストリンジェント条件の例としては、20%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト液、10%硫酸デキストラン及び20mg/mL変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中37℃での一晩インキュベーションと、続く1×SSC中37〜50℃での濾紙の洗浄が挙げられる。当業者は、温度、イオン強度などを、プローブ長等のような要因に適合するために必要なように、どのような調節をするかを知っている。
生物学的構成成分又は組成物(例えば、細胞、核酸、ポリペプチド/酵素、ベクターなど)に関して使用する場合の用語「組換え体」は、当該生物学的構成成分又は組成物が、天然では見られない状態であることを示唆する。換言すれば、生物学的構成成分又は組成物は、その天然の状態から人為的介入によって改変されてきた。例えば、組換え細胞は、元の親(すなわち、非組換え)細胞には見られない1つ又は2つ以上の遺伝子を発現する細胞、その元の親細胞からは異なった量で、1つ又は2つ以上の生来の遺伝子を発現する細胞、及び/又はその元の親細胞とは異なった条件下で、1つ又は2つ以上の生来の遺伝子を発現する細胞を包含する。組換え核酸は、1個又は2個以上のヌクレオチドが生来の配列からは異なってもよく、異種配列(例えば、異種プロモータ、非天然配列又は変異体シグナル配列をコードしている配列など)に操作可能に連結してもよく、イントロン配列を欠いてもよく、かつ/又は単離された形態であってもよい。組換えポリペプチド/酵素は、生来の配列と1個又は2個以上のアミノ酸が異なっていてもよく、異種配列と融合されていてもよく、短縮されている又はアミノ酸の内部欠失を有していてもよく、(例えば、ポリペプチドをコードする発現ベクターが細胞中に存在することにより、ポリペプチドを過剰発現する組換え細胞から)元の細胞には見られない様式で発現されていてもよく、かつ/又は単離された形態であってもよい。いくつかの実施形態では、組換えポリヌクレオチド又はポリペプチド/酵素が、その野生型対応物と同一であるが、非天然形態(例えば、単離又は濃縮形態)での配列を有することを強調しておく。
本明細書において使用される場合、用語「標的配列」は、宿主細胞ゲノム内に挿入されるべき入来配列に対して所望の配列をコードしている宿主細胞内のDNA配列を意味する。いくつかの実施形態では、標的配列は、機能的野生型の遺伝子又はオペロンをコードし、一方で他の実施形態では、標的配列は、機能的変異の遺伝子若しくはオペロン、又は非機能的な遺伝子若しくはオペロンをコードする。
本明細書において使用される場合、「フランキング配列」は、議論している配列の上流又は下流のいずれか一方である任意の配列を意味する(例えば、遺伝子A−B−Cに対して、遺伝子Bは、A遺伝子配列及びC遺伝子配列と隣接する)。実施形態では、入来配列は、各側にて相同ボックスと隣接する。他の実施形態では、入来配列と相同ボックスは、各側にてスタッファー配列と隣接するユニットを含む。いくつかの実施形態では、フランキング配列は、片方側(3’又は5’のいずれか一方)のみで存在するが、実施形態では、配列の両側で隣接している。各相同ボックスの配列は、バチルス染色体における配列と相同である。これらの配列は、バチルス染色体内で、新規の構造が統合される場所及び入来配列によって交換されることとなるバチルス染色体の部分を指示する。実施形態では、選択マーカーの5’末端及び3’末端に、不活性化している染色体セグメントを含むポリヌクレオチド配列が隣接している。いくつかの実施形態では、フランキング配列は、片方側(3’又は5’にいずれか一方)のみに存在する一方で、実施形態では、隣接している配列の両側に存在する。
本明細書において使用される場合、用語「増幅可能マーカー」、「増幅可能遺伝子」、及び「増幅ベクター」は、適切な増殖条件下、遺伝子の増幅を許容する遺伝子をコードしている遺伝子又はベクターを意味する。
「鋳型特異性」は、酵素の選択によって、ほとんどの増幅技術において達成される。増幅酵素は、増幅酵素を使用する条件下、核酸の異種混合物中、特異的な配列の核酸のみを処理することとなる酵素である。例えば、Qβレプリカーゼの場合、MDV−1 RNAは、レプリカーゼに対する特異的鋳型である(例えば、Kacian et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 69:3038[1972]を参照のこと)。他の核酸は、本増幅酵素によって複製されない。同様に、T7 RNAポリメラーゼの場合、本増幅酵素は、その固有のプロモータに対して、厳格な特異性を有する(Chamberlin et al.,Nature 228:227[1970]を参照のこと)。T4 DNAリガーゼの場合、酵素は、2つのオリゴヌクレオチド又はポリヌクレオチドをライゲートせず、ライゲーションジャンクションにおいて、オリゴヌクレオチド基質又はポリヌクレオチド基質と鋳型との間のミスマッチが存在する(Wu and Wallace,Genomics 4:560[1989]を参照のこと)。最後に、Taqポリメラーゼ及びPfuポリメラーゼは、高温で機能する自身の能力のおかげで、プライマーによって結合されて定義される配列に対して高い特異性を示すことが見出され、高温が、標的配列でのプライマーハイブリダイゼーションに有利となる熱力学的な条件をもたらし、非標的配列ではハイブリダイゼーションしない。
本明細書において使用される場合、用語「増幅可能核酸」は、任意の増幅法によって増幅されてもよい核酸を意味する。「増幅可能核酸」は、「試料鋳型」を通常含むであろうことが想到される。
本明細書において使用される場合、用語「試料鋳型」は、「標的」(以下に定義)の存在に関して解析した試料由来の核酸を意味する。対照的に、「背景鋳型」は、試料中に存在してもよく、又は存在しなくてもよい試料鋳型以外の核酸に関連して使用される。背景鋳型は、ほとんどの場合、意図しないものである。背景鋳型は、キャリーオーバーの結果であってもよく、又は試料から精製除外されることが求められる核酸夾雑物の存在によってもよい。例えば、検出されるべきもの以外の微生物由来の核酸が、試験試料中に背景として存在してもよい。
本明細書において使用される場合、用語「プライマー」は、精製された制限消化物の中でのように非人工物として生じるか、又は合成で産生されるかのいずれかに関わらず、核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下(すなわち、ヌクレオチド及びDNAポリメラーゼのような誘導剤の存在下、かつ好適な温度及びpHにて)に置いたときに、合成の開始点として機能することが可能な、オリゴヌクレオチドを意味する。プライマーは好ましくは、増幅における最大効率のために一本鎖であるが、別法として二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーを、伸長産物の調製のために使用する前に、その鎖を分離するようにまず処理する。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘導剤の存在下、伸長産物の合成を開始するために十分長くなければならない。プライマーの実際の長さは、温度、プライマーの供給源及び方法の使用を含む多くの因子に依存することとなる。
本明細書において使用される場合、用語「プローブ」は、精製された制限消化物の中でのように非人工物として生じるか、合成的、組換え的、又はPCR増幅によって産生されるかのいずれかに関わらず、目的の他のオリゴヌクレオチドにハイブリッド形成可能なオリゴヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を意味する。プローブは、一本鎖又は二本鎖であってもよい。プローブは、特定の遺伝子配列の検出、同定及び単離に有用である。本発明で使用する任意のプローブは、酵素系(例えば、ELISA並びに酵素ベースの組織化学アッセイ)、蛍光系、放射性物質系及び発光系を含むが、これらに限定されない任意の検出系にて検出可能であるような、任意の「レポーター分子」で標識されることとなることを想到する。本発明は、特定の検出系又は標識に限定する意図はない。
ポリメラーゼ連鎖反応に関して使用する時に、本明細書において使用される場合、用語「標的」は、ポリメラーゼ連鎖反応のために使用するプライマーによって結合された核酸の領域を意味する。したがって、「標的」は、他の核酸配列から探索され、選別される。「セグメント」は、標的配列内の核酸の一領域として定義される。
本明細書において使用される場合、用語「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、参照により本明細書に援用される、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号及び同4,965,188号の方法を意味し、これらの方法は、クローニング又は精製なしに、ゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメントの濃度を増加させるための方法を含む。標的配列を増幅するための本プロセスは、大過剰の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを、所望の標的配列を含有するDNA混合物へ導入することからなり、その後、DNAポリメラーゼ存在下での正確な順序でのサーマルサイクルが行われる。2つのプライマーは、二本鎖標的配列のそれぞれの鎖に相補的である。増幅をもたらすために、混合物を変性させ、次いで、プライマーを標的分子内のプライマーの相補配列にアニールする。アニーリングに続いて、プライマーを、相補鎖の新規対を形成するように、ポリメラーゼで伸長させる。変性、プライマーアニーリング、及びポリメラーゼ伸長の工程は、所望の標的配列の増幅したセグメントを高濃度で得るために、多数回繰り返すことができる(すなわち、変性、アニーリング、及び伸長が1回の「サイクル」を構成し、複数回の「サイクル」が可能である)。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、互いに対するプライマーの相対位置によって決定され、この長さは制御可能なパラメータである。プロセスの態様を繰り返すことから、本方法は、「ポリメラーゼ連鎖反応」(以下「PCR」)と呼ばれる。標的配列の所望の増幅したセグメントは、混合物において(濃度の点で)主要な配列となるため、これらは「PCR増幅」と呼ばれる。
本明細書において使用される場合、用語「増幅試薬」は、プライマー、核酸鋳型、及び増幅酵素を除く増幅に必要な試薬(デオキシリボヌクレオチド三リン酸、緩衝液など)を意味する。典型的には、他の反応成分とともに、増幅試薬が反応容器(試験管、マイクロウェルなど)に配置され、収容される。
PCRにて、ゲノムDNA中の特定の標的配列の単一コピーを、種々の異なる方法論(例えば、標識化プローブでのハイブリダイゼーション、ビオチン化プライマーの取り込みと続くアビジン−酵素共役物検出、dCTP又はdATPのような32P−標識化デオキシヌクレオチド三リン酸の増幅セグメント内への取り込み)によって検出可能なレベルまで増幅することが可能である。ゲノムDNAに加えて、任意のオリゴヌクレオチド配列又はポリヌクレオチド配列を、適切な組のプライマー分子で増幅可能である。特に、PCRプロセス自体によって作製された増幅セグメントは、その増幅セグメント自身が、続くPCR増幅に対して効果的な鋳型である。
本明細書において使用される場合、「PCR産物」、「PCR断片」、及び「増幅産物」は、変性、アニーリング及び伸長の2回又は3回以上のサイクルが完了した後に得られる化合物の混合物を意味する。これらの用語は、1つ又は2つ以上の標的配列の、1つ又は2つ以上のセグメントの増幅である場合を包含する。
本明細書において使用される場合、用語「RT−PCR」は、RNA配列の複製及び増幅を意味する。本方法において、参照により本明細書に援用される、米国特許第5,322,770号での記述のような、ほとんどの場合、熱安定性ポリメラーゼが使用される1つの酵素処理手段を使用して、逆転写がPCRと結びつく。RT−PCRにおいて、RNA鋳型は、ポリメラーゼの逆転写酵素活性によってcDNAに変換され、ついでポリメラーゼの重合化活性を用いて(すなわち、他のPCR方法と同様に)増幅される。
本明細書において使用される場合、「遺伝子改変宿主株」(例えば、遺伝子改変バチルス株)は、遺伝子操作された宿主細胞を意味し、また組換え宿主細胞とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、遺伝的に改変した宿主細胞では、本質的に同一の増殖条件下で増殖した対応する非改変宿主細胞株における同一の目的のタンパク質の発現及び/又は産生と比較して、目的のタンパク質の発現が増大(増加)する。いくつかの実施形態では、発現レベルの増大は、pdhオペロンに由来する1つ又は2つ以上の遺伝子の発現の減少からもたらされる。いくつかの実施形態では、改変株は、1つ又は2つ以上の欠失した生来の染色体領域又はその断片を有する遺伝子操作されたバチルス種であり、目的のタンパク質は、本質的に同一の増殖条件下で増殖した対応する非改変バチルス宿主株と比較して、発現レベル又は産生レベルが増大している。
本明細書において使用される場合、「対応する非改変バチルス株」等は、示唆した遺伝子改変を有しない宿主細胞(例えば、由来(親)株及び/又は野生型株)である。
本明細書において使用される場合、用語「染色体統合」は、それによって入来配列が宿主細胞(例えば、バチルス)の染色体内に導入されるプロセスを意味する。DNAを形質転換する相同領域は、染色体の相同領域と整列する。続いて、相同ボックス間の配列は、二重クロスオーバー(すなわち、相同組換え)において入来配列によって置換される。本発明のいくつかの実施形態では、DNA構造物の不活性化染色体セグメントの相同区画が、バチルス染色体の生来の染色体領域の隣接相同領域と整列する。続いて、生来の染色体領域は、二重クロスオーバー(すなわち、相同組換え)においてDNA構造物によって欠失される。
「相同組換え」は、同一又はほぼ同一のヌクレオチド配列の部位における2つのDNA分子間又は対となる染色体間での、DNA断片の交換を意味する。実施形態では、染色体統合は、相同組換えである。
本明細書において使用される場合、「相同配列」は、比較のために最適に整列したときに、別の核酸又はポリペプチド配列に対して100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、88%、85%、80%、75%、又は70%配列同一性を有する、核酸又はポリペプチド配列を意味する。いくつかの実施形態では、相同配列は、85%〜100%配列同一性を有し、一方で、他の実施形態では、90%〜100%配列同一性であり、更なる実施形態では、95%〜100%配列同一性である。
本明細書において使用される場合、「アミノ酸」は、ペプチド配列又はタンパク質配列、又はその部分を意味する。用語「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」は、相互互換的に使用される。
本明細書において使用される場合、「目的のタンパク質」及び「目的のポリペプチド」は、所望の、かつ/又は評価されるタンパク質/ポリペプチドを意味する。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、細胞内タンパク質であり、一方で他の実施形態では、分泌ポリペプチドである。詳細には、ポリペプチドは、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素、セルロース分解酵素、酸化還元酵素、及び植物細胞壁分解酵素から選択される酵素を含むが、これらに限定されない酵素を含む。より詳細には、これらの酵素としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、ラッカーゼ、フェノールオキシダーゼ、オキシダーゼ、クチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、エステラーゼ、ペリオキシダーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、フィターゼ、ペクチナーゼ、グルコシダーゼ、イソメラーゼ、トランスフェラーゼ、ガラクトシダーゼ、及びキチナーゼが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の特定の実施形態では、目的のポリペプチドは、プロテアーゼである。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、シグナルペプチドに融合した分泌ポリペプチド(すなわち、分泌されるべきタンパク質上のアミノ末端伸長)である。ほぼすべての分泌タンパク質が、膜を通過する前駆体タンパク質への標的化、及び転座において重要な役割を果たすアミノ末端タンパク質伸長を使用する。この伸長部は、膜輸送の間、又は直後に、シグナルペプチダーゼによってタンパク質分解的に除去される。
本発明のいくつかの実施形態では、目的のポリペプチドは、ホルモン、抗体、増殖因子、受容体等から選択される。本発明に包含されるホルモンとしては、卵細胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出因子、ソマトスタチン、ゴナドトロピンホルモン、バソプレシン、オキシトシン、エリスロポエチン、インスリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。増殖因子は、血小板由来増殖因子、インスリン様増殖因子、表皮成長因子、神経成長因子、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子、インターロイキン(例えば、IL−1〜IL−13)のようなサイトカイン、インターフェロン、コロニー刺激因子などが含まれるが、これらに限定されない。抗体は、抗体が産生されることが望ましい任意の種から直接得られる免疫グロブリンを含むが、これらに限定されない。加えて、本発明は、改変抗体を包含する。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体がまた、本発明によって包含される。特定の実施形態では、抗体は、ヒト抗体である。
本明細書において使用される場合、ポリペプチドの「誘導体」又は「変異体」は、C−末端及びN−末端のいずれか一方又は両方への1個又は2個以上のアミノ酸の添加、アミノ酸配列中の1個所又は多数箇所の異なる部位での1個又は2個以上のアミノ酸の置換、ポリペプチドのいずれか一方の末端又は両方の末端、又はアミノ酸配列中の1個所又は2個所以上の部位での1個又は2個以上のアミノ酸の欠失、アミノ酸配列中1個所又は2個所以上の部位での1個又は2個以上のアミノ酸の挿入、及びこれらの任意の組み合わせによる、前駆体ポリペプチド(例えば、天然ポリペプチド)由来のポリペプチドを意味する。ポリペプチドの誘導体又は変異体の調製は、任意の従来の様式、例えば、天然ポリペプチドをコードするDNA配列の改変、そのDNA配列の好適な宿主への形質転換、及び誘導体/変異体ポリペプチドを形成するための改変DNA配列の発現にて達成されてもよい。誘導体又は変異体は、化学的に改変されたポリペプチドを更に含む。
本明細書において使用される場合、用語「異種タンパク質」は、宿主細胞において天然には存在しないタンパク質又はポリペプチドを意味する。異種タンパク質の例としては、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、及びリパーゼを含むヒドロラーゼ;ラセマーゼ、エピメラーゼ、トートメラーゼ、又はムターゼのようなイソメラーゼ;トランスフェラーゼ、キナーゼ、及びホスファターゼのような酵素が挙げられる。いくつかの実施形態では、タンパク質は、増殖因子、サイトカイン、リガンド、受容体及び阻害剤、並びにワクチン及び抗体を含むが、これらに限定されない、治療上重要なタンパク質又はペプチドである。更なる実施形態では、タンパク質は、商業的に重要な工業用タンパク質/ペプチド(例えば、プロテアーゼ、アミラーゼ及びグルコアミラーゼのようなカルボヒドラーゼ、セルラーゼ、オキシダーゼ及びリパーゼ)である。いくつかの実施形態では、タンパク質をコードしている遺伝子は、天然に存在する遺伝子であり、一方で他の実施形態では、変異導入遺伝子及び/又は合成遺伝子が使用される。
本明細書において使用される場合、「相同タンパク質」は、天然の、又は細胞内で天然に存在するタンパク質又はポリペプチドを意味する。実施形態では、細胞は、グラム陽性細胞であり、一方で特定の実施形態では、細胞は、バチルス宿主細胞である。他の実施形態では、相同タンパク質は、大腸菌を含むがこれに限定されない他の微生物によって産生された天然タンパク質である。本発明は、組換えDNA技術を介して相同タンパク質を産生する宿主細胞を包含する。
本明細書において使用される場合、「オペロン」は、共通のプロモータからの単一転写ユニットとして転写可能であり、それによって共制御の対象である、一群の連続遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、オペロンは、多数の異なるmRNAの転写を駆動する複数のプロモータを含んでもよい(例えば、図1において模式的に示したphdオペロン内のプロモータを参照のこと)。
本発明は概ね、目的のタンパク質の発現の増加をもたらす遺伝子改変を有する細菌細胞と、そのような細胞の作製及び使用方法に関する。本発明の態様は、pdhオペロンにおける遺伝子の発現を減少させ、目的のタンパク質の発現の増大をもたらす遺伝子改変を有する、バチルス種のようなグラム陽性細菌を含む。
上で要約したように、本発明の態様は、グラム陽性菌細胞由来の目的のタンパク質の発現を増加させるための方法を含み、対応する非遺伝子改変グラム陽性細胞(例えば、野生型細胞及び/又は親細胞)における同一の目的のタンパク質の発現レベルと比較して、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現が減少するように遺伝子改変されたグラム陽性細胞において目的のタンパク質の産生が増加するという観察に基づく。遺伝子改変とは、例えば、エピソーム添加及び/又は染色体挿入、欠失、逆位、塩基変更などによって、宿主細胞の遺伝子構成を変更する宿主細胞内の任意の改変を意味する。これに関する限定は意図されていない。
特定の実施形態では、方法は、pdhオペロンにおいて1つ又は2つ以上の遺伝子の発現を減少させる少なくとも1つの遺伝子改変を含み、目的のタンパク質を産生でき、目的のタンパク質が改変グラム陽性菌細胞によって発現されるような条件下で、改変グラム陽性菌細胞を培養することが可能である、改変グラム陽性菌細胞を作製すること、又は得ることを伴う。したがって、目的のタンパク質の発現は、本質的に同一の培養条件下で増殖させた対応する非改変グラム陽性菌細胞における目的のタンパク質の発現と比較して、改変グラム陽性菌細胞において増加する。
特定の実施形態に従って、遺伝子改変グラム陽性菌細胞(又は遺伝子改変グラム陽性菌細胞が作製される親細胞)は、バチルス株であり得る。いくつかの実施形態では、目的のバチルス株は、好アルカリ性である。多数の好アルカリ性バチルス株が既知である(例えば、米国特許第5,217,878号、及びAunstrup et al.,Proc IV IFS:Ferment.Technol.Today,299〜305[1972]を参照のこと)。いくつかの実施形態では、目的のバチルス株は、工業用バチルス株である。工業用バチルス株の例としては、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.サブティリス、及びB.アミロリクエファシエンスが挙げられるが、これらに限定されない。更なる実施形態において、バチルス宿主株は、上述のように、B.レンタス、B.ブレービス、B.ステアロサーモフィルス、B.アルカロフィルス、B.コアグランス、B.シルクランス、B.プミルス、B.チューリンギエンシス、B.クラウシイ及びB.メガテリウム、並びにバチルス属内の他の微生物からなる群から選択される。特定の実施形態では、B.サブティリスが使用される。他の好適な株が本発明における使用のために想到されるが、例えば、米国特許第5,264,366号、同第4,760,025号(再発行特許第34,606号)に本発明での使用が見受けられる種々のバチルス宿主株が記述されている。
本明細書で記述したような、遺伝子改変細胞の親株(例えば、親バチルス株)は、非組換え株、天然に存在する株の変異株、又は組換え株を含む、工業用株であってもよい。特定の実施形態では、親株は、目的のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドが宿主内に導入された、組換え宿主株である。目的のポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドの導入は、親株において実施されてもよいが、この工程はまた、本明細書で詳述したように、ポリペプチド産生の増加のために、既に遺伝的に改変された株において実施されてもよい。いくつかの実施形態では、宿主株は、バチルス・サブティリス宿主株、例えば、組換えB.サブティリス宿主株である。
1A6(ATCC 39085)、168(1A01)、SB19、W23、Ts85、B637、PB1753〜PB1758、PB3360、JH642、1A243(ATCC 39,087)、ATCC 21332、ATCC 6051、MI113、DE100(ATCC 39,094)、GX4931、PBT 110及びPEP 211株(例えば、Hoch et al.、Genetics,73:215〜228[1973]、米国特許第4,450,235号、米国特許第4,302,544号及び欧州特許第0134048号を参照のこと)を含むが、これらに限定されない、本発明の態様での使用が見受けられる多くのB.サブティリス株が既知である。発現宿主としてのB.サブティリスの利用が、Palva et al.及び他で更に記述されている(Palva et al.,Gene 19:81〜87[1982]を参照のこと、またFahnestock and Fischer,J.Bacteriol.,165:796〜804[1986]及びWang et al.,Gene 69:39〜47[1988]も参照のこと)。
特定の実施形態では、工業用プロテアーゼ産生バチルス株が、親発現宿主として利用可能である。いくつかの実施形態では、本発明におけるこれらの株の使用により、効率及びプロテアーゼ産生の更なる増大がもたらされる。2種の一般的なタイプのプロテアーゼは典型的には、バチルス種、すなわち、中性プロテアーゼ(又は「メタロプロテアーゼ」)及びアルカリ性(又は「セリン」)プロテアーゼによって分泌される。セリンプロテアーゼは、必須セリン残基が活性部位に存在するペプチド結合の加水分解を触媒する酵素である。セリンプロテアーゼは、25,000〜30,000の範囲の分子量を有する(Priest,Bacteriol.Rev.,41:711〜753[1977]を参照のこと)。サブチリシンは、本発明での使用のためのセリンプロテアーゼである。多種多様なバチルス由来サブチリシン、例えば、サブチリシン168,サブチリシンBPN’,サブチリシン・カールスバーグ、サブチリシンDY、サブチリシン147、及びサブチリシン309が同定され、配列決定されている(例えば、欧州特許第414279 B号、国際公開第89/06279号、及びStahl et al.,J.Bacteriol.,159:811〜818[1984]を参照のこと)。本発明のいくつかの実施形態では、バチルス宿主株は、変異(例えば、変異体)プロテアーゼを産生する。多数の参考文献が、変異体プロテアーゼの例及び参照を提供している(例えば、国際公開第99/20770号、国際公開第99/20726号、国際公開第99/20769号、国際公開第89/06279号、再発行特許第34,606号、米国特許第4,914,031号、米国特許第4,980,288号、米国特許第5,208,158号、米国特許第5,310,675号、米国特許第5,336,611号、米国特許第5,399,283号、米国特許第5,441,882号、米国特許第5,482,849号、米国特許第5,631,217号、米国特許第5,665,587号、米国特許第5,700,676号、米国特許第5,741,694号、米国特許第5,858,757号、米国特許第5,880,080号、米国特許第6,197,567号、及び米国特許第6,218,165号を参照のこと)。
なお、本発明は、目的のタンパク質としてプロテアーゼに限定していないことに留意されたい。実際、本開示は、グラム陽性細胞における発現の増加が望ましい多種多様なタンパク質を包含する(以下で詳述する)。
他の実施形態では、本発明の態様で使用する株は、有益な表現型を提供する他の遺伝子において、更なる遺伝子改変を有してもよい。例えば、以下の遺伝子、degU、degS、degR、及びdegQのうち少なくとも1つにおける変異又は欠失を含むバチルス種が用いられてもよい。いくつかの実施形態では、変異は、degU遺伝子において起こり、例えば、degU(Hy)32変異である(Msadek et al.,J.Bacteriol.,172:824〜834[1990]及びOlmos et al.,Gen.Genet.,253:562〜567[1997]を参照のこと。したがって、本発明の態様において使用が見出される親グラム陽性株/遺伝子改変グラム陽性株の1つの例は、degU32(Hy)変異を有するバチルス・サブティリス細胞である。更なる実施形態では、バチルス宿主は、scoC4における変異又は欠失(Caldwell et al.,J.Bacteriol.,183:7329〜7340[2001]を参照のこと)、spoIIEにおける変異又は欠失(Arigoni et al.,Mol.Microbiol.,31:1407〜1415[1999]を参照のこと)、oppA又はoppオペロンの他の遺伝子における変異又は欠失(Perego et al.,Mol.Microbiol.,5:173〜185[1991]を参照のこと)を含んでもよい。実際、oppA遺伝子における変異として同一の表現型を引き起こすoppオペロンにおける任意の変異は、本発明の改変バチルス株のいくつかの実施形態において使用が見受けられることとなることが想到される。いくつかの実施形態では、これらの変異が単独で発生する一方、他の実施形態では、変異の組み合わせが存在する。いくつかの実施形態では、本発明の改変バチルスは、上記遺伝子のうち1つ又は2つ以上に対して既に変異を含んでいる親バチルス宿主株から得られる。他の実施形態では、先に遺伝子を改変された本発明のバチルスは、上述の遺伝子のうち1つ又は2つ以上の変異を含むように更に遺伝子操作される。
上で示唆したように、pdhオペロンの少なくとも1つの遺伝子の発現は、(本質的に同一の条件下で増殖した)野生型細胞及び/又は親細胞と比較して、遺伝子改変グラム陽性細胞において減少する。この発現の減少は、任意の従来の様式で達成可能であり、転写、mRNA安定化、翻訳のレベルで生じ得、又はその活性が減少するpdhオペロンから産生されたポリペプチドのうち1つ又は2つ以上における変化の存在によって生じ得る(すなわち、ポリペプチドの活性に基づく発現の「機能的」減少である)。そのように、遺伝子改変の型又はpdhオペロンにおける少なくとも1つの遺伝子の発現が減少する様式における限定は意図されていない。例えば、いくつかの実施形態では、グラム陽性細胞における遺伝子改変は、転写活性の減少をもたらしているpdhオペロンにおけるプロモータのうち1つ又は2つ以上を改変させるものである。特定の実施形態では、改変は、(例えば、実施例で示すような)mRNA転写物のレベルの減少をもたらすpdhオペロン内のサイレント変異である。あるいは、グラム陽性細胞における遺伝子改変は、細胞内での安定性が減少した転写物をもたらしているpdhオペロンにおけるヌクレオチドを改変させるものであり得る。特定の実施形態では、pdhオペロンにおいて1つ又は2つ以上の遺伝子の発現を減少させる2つ以上の遺伝子改変が、遺伝子改変グラム陽性細胞中に存在してもよい。
特定の実施形態では、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現が、本質的に同一の培養条件下で培養した野生型細胞及び/又は親細胞における発現レベルの約3%まで遺伝子改変グラム陽性細胞において減少し、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%又は約80%を含む。そのため、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現の減少範囲は、約3%〜約80%、約4%〜約75%、約5%〜約70%、約6%〜約65%、約7%〜約60%、約8%〜約50%、約9%〜約45%、約10%〜約40%、約11%〜約35%、約12%〜約30%、約13%〜約25%、約14%〜約20%などであり得る。上で列記した範囲内の発現の任意の下位範囲が想到される。
特定の実施形態では、改変グラム陽性菌細胞は、本質的に同一の培養条件下で増殖させた対応する非改変グラム陽性菌細胞におけるこれらの遺伝子の発現と比較して、pdhA遺伝子、及び/又はpdhB遺伝子、及び/又はpdhC遺伝子、及び/又はpdhD遺伝子、又はそれらの任意の組み合わせの発現を減少させる。特定の実施形態では、遺伝子改変は、本質的に同一の培養条件下で増殖させた対応する非改変グラム陽性菌細胞と比較して、改変グラム陽性菌細胞におけるpdhオペロン由来のmRNA転写物のレベルの減少をもたらす。
特定の実施形態では、変異は、pdhオペロンのpdhD遺伝子において起こる。親グラム陽性細胞内(すなわち、本明細書で記述するように遺伝子改変される前)のpdhD遺伝子は、配列番号1に少なくとも60%同一である遺伝子であり、配列番号1に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%同一を含む。特定の実施形態では、遺伝子改変は、サイレント変異であり、サイレント変異は、翻訳されたとき、コードされたポリペプチドにおけるアミノ酸変化をもたらさない遺伝子のコード領域の核酸配列における変異を意味する(当該技術分野においてよく理解される用語)。特定の実施形態では、変異は、配列番号1のヌクレオチド729に対応するヌクレオチド位置において起こる。特定の実施形態では、変異は、配列番号1のヌクレオチド729に対応するヌクレオチド位置におけるCからTへの変異である(配列番号3で示す)。
上で示唆したように、多くの異なるタンパク質が、グラム陽性細胞において目的のタンパク質(すなわち、その発現が遺伝子改変細胞において増加するタンパク質)としての使用が見受けられる。目的のタンパク質は、相同タンパク質又は異種タンパク質であってもよく、野生型タンパク質又は自然変異体又は組換え変異体であってもよい。特定の実施形態において、目的のタンパク質は、酵素であり、特定の場合には、酵素は、プロテアーゼ、セルラーゼ、プルラナーゼ、アミラーゼ、カルボヒドラーゼ、リパーゼ、イソメラーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ、及びホスファターゼからなる群から選択される。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、プロテアーゼであり、プロテアーゼは、サブチリシンであってもよく、サブチリシンは、例えば、サブチリシン168、サブチリシンBPN’、サブチリシン・カールスバーグ、サブチリシンDY、サブチリシン147、サブチリシン309、及びこれらの変異体からなる群から選択されるサブチリシンであってもよい。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)である。
特定の実施形態では、本方法は、目的のタンパク質を回収することを更に含む。目的のタンパク質の発現/産生のレベルが、(野生型細胞又は親細胞と比較して)遺伝子改変グラム陽性細胞において増加するため、本質的に同一の培養条件下(かつ同一のスケールで)培養した対応する野生型細胞及び/又は親細胞と比較して、回収した目的のタンパク質の量は増加する。細胞内発現ポリペプチド及び細胞外発現ポリペプチドの発現レベル/産生を検出及び測定するための、当業者に既知の種々のアッセイがある。そのようなアッセイは、本発明の使用者によって判定されることとなり、目的のタンパク質の同一性及び/又は活性(例えば、酵素活性)に依存し得る。例えば、プロテアーゼに関して、280nmでの吸光度として測定されるカゼイン若しくはヘモグロビン由来の酸溶解ペプチドの放出に基づくアッセイ、又はフォリン法(例えば、Bergmeyer et al.,「Methods of Enzymatic Analysis」vol.5,Peptidases,Proteinases and their Inhibitors,Verlag Chemie,Weinheim[1984]を参照のこと)を比色分析的に使用するアッセイがある。他のアッセイは、色素基質の可溶化を伴う(例えば、Ward,「Proteinases」 in Fogarty(ed.).,Microbial Enzymes and Biotechnology,Applied Science,London,[1983]、pp 251〜317を参照のこと)。アッセイの他の例としては、スクシニル−Ala−Ala−Pro−Phe−パラニトロアニリドアッセイ(SAAPFpNA)及び2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩アッセイ(TNBSアッセイ)が挙げられる。当業者に既知の多数の更なる参照文献により、好適な方法が提供される(例えば、Wells et al.Nucleic Acids Res.11:7911〜7925[1983]、Christianson et al.,Anal.Biochem.,223:119〜129[1994]及びHsia et al.,Anal Biochem.,242:221〜227[1999]を参照のこと)。
また、上で示唆したように、宿主細胞における目的のタンパク質の分泌レベルを判定する方法、及び発現したタンパク質を検出する方法は、目的のタンパク質に対して特異的なポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれか一方を用いる免疫アッセイの利用を含む。例としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光免疫測定(FIA)、及び蛍光活性化細胞選別法(FACS)が挙げられる。しかしながら、他の方法も当該技術分野において既知であり、目的のタンパク質をアッセイする際の使用が見受けられる(例えば、Hampton et al.,Serological Methods,A Laboratory Manual,APS Press,St.Paul,MN[1990]及びMaddox et al.,J.Exp.Med.,158:1211[1983]を参照のこと)。当該技術分野において既知のように、本発明を使用して作製した改変バチルス細胞を、目的のポリペプチドの発現及び細胞培養液からの回収に好適な条件下で維持し、かつ増殖させる(例えば、Hardwood and Cutting(eds.)Molecular Biological Methods for Bacillus,John Wiley & Sons[1990]を参照のこと)。更に、本明細書で記述した遺伝子改変細胞は、2種類又はそれ以上、3種類又はそれ以上、4種類又はそれ以上、5種類又はそれ以上、6種類又はそれ以上、7種類又はそれ以上、8種類又はそれ以上、9種類又はそれ以上、10種類又はそれ以上等を含む、2種類以上の目的のタンパク質を発現してもよい。いくつかの実施形態では、細菌セクレトームにおけるタンパク質の発現の増加が望ましく、細胞から分泌される多数の異なるタンパク質が含まれる。
本発明の態様は、タンパク質産生能が改善した、改変グラム陽性菌細胞を得るための方法を含む。概ね、方法は、(上で定義したように)pdhオペロンにおいて1つ又は2つ以上の遺伝子の発現が減少する遺伝子改変株をもたらすために、親グラム陽性細胞を遺伝的に改変させることを含む。
特定の実施形態では、方法は、染色体内に統合されると、又はエピソーム遺伝子要素として維持されると、親グラム陽性菌細胞にポリヌクレオチド配列を導入することを含み、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現レベルが減少する遺伝子改変グラム陽性細胞がもたらされる。
ポリヌクレオチドベクター(例えば、プラスミド構築物)を使用して、バチルスの染色体を改変させるための、又はバチルスの中のエピソーム遺伝的要素を保持するための、バチルス種の形質転換に関する種々の方法が既知である。バチルス細胞内にポリヌクレオチド配列を導入するための好適な方法は、例えば、Ferrari et al.,「Genetics,」in Harwood et al.(ed.),Bacillus,Plenum Publishing Corp.[1989],pages 57〜72で見られる。また、Saunders et al.,J.Bacteriol.,157:718〜726[1984];Hoch et al.,J.Bacteriol.,93:1925〜1937[1967];Mann et al.,Current Microbiol.,13:131〜135[1986];及びHolubova,Folia Microbiol.,30:97[1985];B.サブティリスに関して、Chang et al.,Mol.Gen.Genet.,168:11〜115[1979];B.メガテリウムに関して、Vorobjeva et al.,FEMS Microbiol.Lett.,7:261〜263[1980];B.アミロリクエファシエンスに関して、Smith et al.,Appl.Env.Microbiol.,51:634(1986);B.チューリンギエンシスに関して、Fisher et al.,Arch.Microbiol.,139:213〜217[1981];及びB.スファエリカスに関して、McDonald,J.Gen.Microbiol.,130:203[1984]を参照のこと。実際、プロトプラスト形質転換と会合とを含む形質転換、形質導入及びプロトプラスト融合のような方法が既知であり、本発明での使用に好適である。形質転換の方法は、具体的には、本発明によって提供されたDNA構築物を宿主細胞内に導入することである。
更に、DNA構築物の宿主細胞への導入は、標的化DNA構造物のプラスミド又はベクターへの挿入なしに、宿主細胞内へDNAを導入するための、当該技術分野において既知の物理的方法及び化学的方法を含む。そのような方法には、塩化カルシウム沈降、エレクトロポレーション、ネイキッドDNA、リポソームなどが含まれるが、これらに限定されない。更なる実施形態では、DNA構築物を、プラスミド内に挿入せずに、プラスミドにと共に同時形質転換可能である。
選択可能なマーカー遺伝子を、安定形質転換体を選択するために使用する実施形態において、任意の従来の方法を使用して、遺伝子改変グラム陽性株から選択マーカーを欠失することが所望され、多くの方法が当該技術分野において既知である(Stahl et al.,J.Bacteriol.,158:411〜418[1984]及びPalmeros et al.,Gene 247:255〜264[2000]を参照のこと)。
いくつかの実施形態では、2つ又はそれ以上のDNA構築物(すなわち、それぞれが、宿主細胞を遺伝子的に改変させるように設計されたDNA構築物)を親グラム陽性細胞に導入し、細胞における2つ又はそれ以上の遺伝子改変の導入、例えば、2個所又は3個所以上の染色体領域の改変がもたらされる。いくつかの実施形態では、これらの領域は、連続しており(例えば、pdhオペロン内の2つの領域、又はpdhオペロンと隣接遺伝子若しくは隣接オペロン内の2つの領域)、他の実施形態では、領域は、分離している。いくつかの実施形態では、遺伝子改変のうち1つ又は2つ以上は、エピソーム遺伝的要素の添加によるものである。
いくつかの実施形態では、2つ又はそれ以上の遺伝子が宿主細胞において不活性化した改変バチルス株を作製するために、本発明に従った1つ又は2つ以上のDNA構築物で宿主細胞を形質転換する。いくつかの実施形態では、2つ又はそれ以上の遺伝子を宿主細胞染色体から欠失させる。他の実施形態では、2つ又はそれ以上の遺伝子をDNA構築物の挿入によって不活性化する。いくつかの実施形態では、(欠失及び/又は挿入によってのいずれかに関わらず不活性化された)不活性化遺伝子は連続しているが、一方で他の実施形態では、これらは連続遺伝子ではない。
遺伝的改質宿主細胞が作製されると、目的のタンパク質が発現するような条件下で培養可能であり、特定の実施形態では、目的のタンパク質が回収される。
本発明の態様は、改変グラム陽性菌細胞を含み、この改変グラム陽性菌細胞は、本質的に同一の培養条件下で増殖させた対応する非改変グラム陽性菌細胞と比較して、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現を減少させる少なくとも1つの遺伝子改変を含む。いくつかの実施形態では、遺伝子改変グラム陽性細胞は、上述したように作製される。上で更に述べられたように、改変グラム陽性菌細胞は、バチルス種株、例えば、B.リケニフォルミス、B.レンタス、B.サブティリス、B.アミロリクエファシエンス、B.ブレービス、B.ステアロサーモフィルス、B.アルカロフィルス、B.コアグランス、B.シルクランス、B.プミルス、B.ロータス、B.クラウシイ、B.メガテリウム、又はB.チューリンギエンシス株であり得る。特定の実施形態では、バチルス種株は、B.サブティリス株である。いくつかの態様では、改変グラム陽性菌細胞は、細胞の表現型を改善する更なる変異、例えば、degU、degQ、degS、scoC4、spoIIE、及びoppAからなる群から選択される遺伝子における変異を更に含む。特定の実施形態では、変異は、degU(Hy)32である。
特定の実施形態では、pdhオペロンの少なくとも1つの遺伝子の発現が、(本質的に同一の条件下で増殖した)野生型細胞及び/又は親細胞と比較して、遺伝子改変グラム陽性細胞において減少する。発現のこの減少は、任意の従来の様式で達成可能であり、転写、mRNA安定性、翻訳のレベルで生じ得、又はその活性を減少させるpdhオペロンから産生したポリペプチドのうち1つ又は2つ以上における変化の存在によって生じ得る(すなわち、ポリペプチドの活性に基づく発現の「機能的」減少である)。そのように、遺伝子改変の形式又はpdhオペロンにおける少なくとも1つの遺伝子の発現が減少する様式における限定は意図されていない。例えば、いくつかの実施形態では、グラム陽性細胞における遺伝子改変は、転写活性の減少をもたらすpdhオペロンにおける1つ又は2つ以上のプロモータを改変させるものである。特定の実施形態では、改変は、(例えば、実施例で示すような)mRNA転写物のレベルの減少をもたらす、pdhオペロンにおけるサイレント変異である。あるいは、グラム陽性細胞中の遺伝子改変は、細胞中の安定性が減少する転写物をもたらす、pdhオペロン中のヌクレオチドを改変させるものであり得る。特定の実施形態では、pdhオペロンにおける1つ又は2つ以上の遺伝子の発現を減少させる2つ以上の遺伝子改変が、遺伝子改変グラム陽性細胞内に存在してもよい。特定の実施形態では、遺伝子改変は、本質的に同一の培養条件下で増殖させた対応する非改変グラム陽性菌細胞と比較して、改変グラム陽性菌細胞においてpdhオペロン由来のmRNA転写物のレベルの減少をもたらす。
いくつかの実施形態では、本発明は、宿主細胞内に安定して組み込まれたときに、(上で詳細に記述したように)pdhオペロンにおいて1つ又は2つ以上の遺伝子の発現が減少するように細胞を遺伝的に改変する入来配列を含むDNA構築物を含む。いくつかの実施形態では、DNA構築物は、インビトロでアセンブリされ、続いて、DNA構築物が宿主細胞染色体内に統合されるように、コンピテントグラム陽性(例えば、バチルス)の宿主内へ構築物を直接クローニングする。例えば、PCR融合及び/又はライゲーションを用いて、インビトロでDNA構築物をアセンブリすることが可能である。いくつかの実施形態では、DNA構築物は、非プラスミド構築物であり、一方、他の実施形態では、DNA構築物は、ベクター(例えば、プラスミド)内に組み込まれる。いくつかの実施形態では、環状プラスミドが使用される。実施形態では、環状プラスミドは、適切な制限酵素(すなわち、DNA構築物を破壊しない酵素)を使用するように設計されている。したがって、直鎖プラスミドは、本発明での使用が見受けられる。しかしながら、当業者に既知のように、他の方法が、本発明での使用に好適である(例えば、Perego,「Integrational Vectors for Genetic Manipulation in Bacillus subtilis,」in(Sonenshein et al.(eds.),Bacillus subtilis and Other Gram−Positive Bacteria,American Society for Microbiology,Washington,DC[1993]を参照のこと)。
特定の実施形態では、DNA標的化ベクターの入来配列には、pdhD遺伝子由来の変異体配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。これらの実施形態のうちいくつかでは、変異体配列は、少なくとも15ヌクレオチドの長さであり、配列番号1のすべて又は一部と少なくとも60%同一であり、グラム陽性菌細胞の内因性pdhD遺伝子内に変異が存在する場合に、pdhオペロンにおける遺伝子の発現の減少をもたらす少なくとも1つの変異をpdhD遺伝子内のヌクレオチド位置に有する。変異体配列は、少なくとも約20ヌクレオチド、約30ヌクレオチド、約40ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約60ヌクレオチド、約80ヌクレオチド、約90ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、約200ヌクレオチド、約300ヌクレオチド、約400ヌクレオチド、約500ヌクレオチド、約600ヌクレオチド、約700ヌクレオチド、約800ヌクレオチド、約900ヌクレオチド、約1000ヌクレオチド、約1100ヌクレオチド、約1200ヌクレオチド、約1300ヌクレオチド、約1400ヌクレオチド又はそれ以上のヌクレオチドであり得る。上で更に記述されたように、変異体配列は、配列番号1に対して少なくとも約60%同一であってもよく、配列番号1に対して少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%又は少なくとも約99%同一であることを含む。特定の実施形態では、変異体配列中の遺伝子改変は、サイレント変異であり、サイレント変異は、翻訳されたとき、コードされたPdhDポリペプチドにおけるアミノ酸変化をもたらさないpdhD遺伝子のコード領域の変異体配列における変異を意味する(当該技術分野においてよく理解される用語)。特定の実施形態では、変異体配列における変異は、配列番号1のヌクレオチド729に対応するヌクレオチド位置において起こる。特定の実施形態では、変異体配列における変異は、配列番号1のヌクレオチド729に対応するヌクレオチド位置におけるCからTへの変異である(配列番号3で示される)。
本発明の態様には、上記のようなポリヌクレオチド配列を含むベクターが含まれる。特定の実施形態では、ベクターは、ポリヌクレオチド配列中の少なくとも1つの変異を、グラム陽性菌細胞に形質転換したときに相同組換えによって、グラム陽性菌細胞のpdhオペロン内の対応する場所へ導入するように設計された標的ベクターである。いくつかの実施形態では、入来配列/ベクターには、選択マーカーが含まれる。いくつかの実施形態では、選択マーカーは、2つのloxP部位間に位置し(Kuhn and Torres,Meth.Mol.Biol.,180:175〜204[2002])、その後、抗菌遺伝子がCreタンパク質の作用によって欠失される。
本発明の態様には、上述したDNA構築物又はベクターで親グラム陽性菌細胞を形質転換すること(すなわち、宿主細胞内に安定して組み込んだときに、入来配列を含み、pdhオペロン中の1つ又は2つ以上の遺伝子の発現が減少するように細胞を遺伝的に変質させるもの、例えば、上に列記したpdhD遺伝子内の変異を含むもの)と、ベクターと、親グラム陽性菌細胞のpdhオペロン内の対応する領域との相同組換えを許容して変異グラム陽性菌細胞を作製することと、目的のタンパク質の発現に好適な条件下で前記改変グラム陽性菌細胞を増殖させることであって、前記目的のタンパク質の産生が、工程における前記形質転換の前の前記グラム陽性菌細胞と比較して、改変グラム陽性菌細胞において増加する、改変グラム陽性菌細胞を増殖させることと、を含む、グラム陽性菌細胞内の目的のタンパク質の発現を増大させるための方法が含まれる。本発明の本態様での使用が見受けられるグラム陽性株、変異及び他の特徴が上で詳細に記述されている。
DNA構築物をベクター内に組み込むか、又はプラスミドDNAの存在なしに使用するかのいずれかに関わらず、微生物を形質転換するためにDNA構築物が使用される。形質転換のための任意の好適な方法は、本発明での使用が見受けられることとなることが想到される。実施形態では、DNA構築物の少なくとも1つのコピーを宿主バチルス染色体へ統合する。いくつかの実施形態では、本発明の1つ又は2つ以上のDNA構築物を、宿主細胞を形質転換するために使用する。
本発明を実施する様式及び方法は、以下の実施例を参照することで、当業者はより完全に理解されることができ、実施例は、本発明の範囲又はこれを目的とする特許請求の範囲を制限することを一切意図しない。
実験
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態及び態様を例証し、更に説明するために提供され、その範囲を制限すると解釈するべきではない。
以下の実験の開示において、以下の略語の一部を適用する。℃(摂氏温度)、rpm(毎分回転数)、μg(マイクログラム)、mg(ミリグラム)、μL(マイクロリットル)、mL(ミリリットル)、mM(ミリモル濃度)、μM(マイクロモル濃度)、sec(秒)、min(分)、hr(時間)、OD280(280nmでの光学密度)、OD600(600nmでの光学密度)、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、RT−PCR(逆転写PCR)、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)。
(実施例1)
pdhオペロン内の変異によるバチルス内のタンパク質発現の増加
A.pdhオペロン
図1は、バチルス・サブティリスのpdhオペロンの模式図を示す。図1において、pdhオペロンにおける各コード領域は、転写の方向を示す矢印(pdhA、pdhB、pdhC、及びpdhD)で示される。コード領域に加えて、転写開始部位は、折れ矢印で示される。図1上で示すように、pdhAコード領域及びpdhBコード領域の転写は、pdhA遺伝子の前に存在するSigAプロモータによって制御されると考えられる。同様に、pdhC遺伝子及びpdhD遺伝子は、pdhC遺伝子の前に存在するSigAプロモータによって制御されると考えられる。pdhC遺伝子の前のSigAプロモータに加えて、pdhD遺伝子の転写は、(pdhD遺伝子の前に疑問符記号とともに折れ矢印として示した)pdhC遺伝子の前のSigAプロモータに加えて、それ自身のプロモータによって制御されてもよい。本模式図は、pdhオペロンの転写の制御に関する現在の本発明者らの理解を表す一方で、包括的であることを意味するわけではない。または、図1で図示されない他のプロモータ/転写因子の相互作用は、pdhオペロンにおける遺伝子の転写を制御することに関与してもよい。
図1に示すpdhオペロン内の遺伝子は以下の通りである。
1.PdhA(ピルビン酸デヒドロゲナーゼE1成分、アルファサブユニット)、
2.PdhB(ピルビン酸デヒドロゲナーゼE1成分、ベータサブユニット)、
3.PdhC(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ[ジヒドロリポアミドアセチルトランスフェラーゼE2サブユニット])、及び
4.PdhD(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ/2−オキソグルタレートデヒドロゲナーゼ[ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼE3サブユニット])。
上で列記した遺伝子のうち、pdhAは、必須遺伝子であると考えられる。pdhD遺伝子は、アセチル−CoA経路におけるピルビン酸のリサイクルに関与し、pdhオペロンの最終遺伝子である。(pdhAB)−pdhCD。
B.pdhオペロンにおけるpdhD遺伝子の変異
サイレント変異を、Janes及びStibitz(Infection and Immunity,74(3):1949,2006)によって記述された方法を使用して、pdhオペロンのpdhD遺伝子において、親バチルス・サブティリス株CB15−14(amyE:xylRPxylAcomK−ermC,ΔoppA,ΔspollE,ΔaprE,ΔnprE,degUHy32,ΔscoC)に導入した。pdhDサイレント変異は、野生型pdhDのコード配列のセンス鎖のヌクレオチド位置729におけるシトシン(C)からチミン(T)への単一ヌクレオチド変化である(配列番号1は、野生型配列を示し、配列番号3は、C729Tサイレント変異を示す)(サイレント変異は、遺伝子のコード領域中の部位の核酸配列を変化させる変異であるが、コードされたポリペプチドのアミノ酸配列を変化させない変異である)。得られた株CB15−14 pdhDは、「pdhD変異株」、「変異株」、又はそれらの等価物として本明細書で参照される場合がある。非変異株(CB15−14)は、「親株」又はその等価物として本明細書で参照される場合がある。
C.pdhD変異株におけるアミラーゼ発現
aprEプロモータからのAmyE(配列番号4に示した成熟配列)の発現を駆動し、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ耐性(catR)マーカー遺伝子(PaprE−amyE catRと示される)を含むアミラーゼ発現構築物を、pdhD変異株及び非変異親株のaprE座内に導入した。25μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLuria寒天平板培地上で株を増幅させた。pdhD変異株と野生型株とを、5mLのLuriaブロス培地において一晩増殖させた。amyEアミラーゼ遺伝子の発現を試験するために、1mLのプレ培養液を使用して、37℃、250rpmにて、振盪フラスコ内の25mLのLuriaブロス培地に接種した。細胞密度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices製(Downington,PA,USA))を使用して、1時間おきに、600nmで測定した。600nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図2Aに示す。図2Aは、AmyE発現親株CB15−14及びAmyE発現CB15−14 pdh株の細胞培養が等価であることを示し、これは、CB15−14 pdh株におけるpdhD変異の存在が細胞増殖に影響を与えないことを示唆している。
ブロス全体のAmyEアミラーゼ活性を、Ceralpha試薬(Megazyme,Wicklow,Ireland)を使用して測定した。Ceralpha HRキットからのCeralpha試薬ミックスをまず、10mLのMiliQ水に溶解し、ついで、pH5.6の50mMマレイン酸緩衝液を30mL添加した。培養上清を、MiliQ水に40倍で希釈し、5μLの希釈試料を、55μLの希釈標準基質溶液に加えた。MTPプレートを、振盪の後、室温で4分間インキュベートした。反応を、pH10.2の200mMホウ酸緩衝液(停止液)を70μL加えることによってクエンチした。溶液の吸光度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して400nmで測定した。400nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図2Bに示す。図2B中のグラフは、CB15−14 pdh変異株における増殖6時間時点で開始したAmyE産生の増加を示す。(図2Aで示すように)細胞増殖が、変異株において影響を受けないことを考慮すると、同一の培養条件下で増殖させた親細胞と比較して、pdhD変異を有するバチルス細胞におけるAmyE産生の増加は、培養液中の細胞数の増加に起因するのではなく、細胞それ自身における(すなわち、細胞ごとの)発現レベルの増加に起因する。
D.pdhD変異株におけるプロテアーゼ(FNA)発現
FNAプロテアーゼ(Y217L置換を含有するサブチリシンBPN’、配列番号5)の発現における、pdhD遺伝子中のサイレント変異の効果を試験するために、(aprEプロモータからのFNAを発現し、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ耐性(cat)マーカー遺伝子を含む)PaprE−FNA catR構築物を、CB15−14親株及びCB15−14 pdhD変異株のaprE座中に導入した。PaprE−FNA catR構築物を、上記(C)にて記述したように増幅した。2つのクローンをそれぞれに対して解析した(親FNA細胞に対してクローン1及び2、変異細胞に対してクローン1及び18)。pdhD変異株と野生型株とを、5mLのLuriaブロス内で一晩増殖させた。プロテアーゼ発現を試験するために、1mLのプレ培養液を使用して、25mLのNB培地(2倍)(栄養ブロス(2倍)、SNB塩(1倍)、国際公開第2010/14483号に記載)に、Thompson製フラスコ中、250rpmにて接種した。20倍に希釈されたブロス全体の細胞密度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して、1時間間隔で、600nmで測定した。600nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図3Aに示す。図3Aは、FNA発現親株C15−14の細胞増殖が、FNA発現CB15−14 pdh株と比較して減少することを示しており、これは、これらのFNA発現株中のpdhD変異が細胞増殖に正に影響を与えることを示唆している。
国際公開第2010/144283号に記載されているように、N−suc−AAPF−pNA基質(Sigma Chemical Co.製)を使用して、プロテアーゼ発現をモニタした。簡潔に、ブロス全体をアッセイ緩衝液(100mMトリス、0.005%ツイン80、pH8.6)中で40倍に希釈し、10μLの希釈した試料をマイクロタイタープレート内に配列した。AAPFストック溶液を希釈し、アッセイ緩衝液(100mg/mLのAAPFストック溶液をDMSO中で100倍に希釈したもの)及び190μLの本溶液をマイクロタイタープレートに添加し、本溶液の吸光度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して、405nmで測定した。405nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図3Bに示す。図3Bに示すように、FNA産生が、同一の培養条件下で増殖させた親細胞の培養液と比較して、pdhD変異を有するバチルス細胞培養液において増加している。FNA産生の増加は、親株培養液と比較して、pdhD変異細胞培養液中に存在する細胞数の増加に起因するとしてもよい。
E.pdhD変異株におけるグリーン蛍光タンパク質(GFP)の発現
他のタンパク質の発現における、pdhD遺伝子におけるサイレント変異の効果を試験するために、aprEプロモータによって制御されたGFP発現を有し、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ耐性マーカー(配列番号6は、GFPのアミノ酸配列を示す)を含む、PaprE−GFP catR構築物を、CB15−14親株及びCB15−14 pdhD変異株のaprE座中に導入した。形質転換体を、5μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLuria寒天平板培地上で選択した。GFPを発現している2つのpdhD変異株(クローン1及び2)と、GFPを発現している2つの野生型株(クローン1及び2)とを、5mLのLuriaブロス内で一晩増殖させた。緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を試験するために、1mLのプレ培養液を使用して、25mLのNB培地(2倍)(栄養ブロス(2倍)、SNB塩(1倍))に、振盪フラスコ中で、37℃、250rpmで接種した。20倍に希釈されたブロス全体の細胞密度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して、1時間間隔で600nmで測定した。600nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図4Aに示す。定常期(NB培地(2倍)での増殖の4時間目と6時間目との間)に突入する際、pdhD突然変異株の細胞の増殖の減少は、pdhD変異により改善した細胞の生存性を示す対照株と比較すると、遅延している。
GFP発現を測定するために、100μLの培養物を96ウェルマイクロタイタープレートに移し、485nmの励起波長、508nmの発光波長を使用して、495nmの発光カットオフフィルターを使用して、蛍光プレートリーダーにおいてGFP発現を測定した。485/508nmでの相対蛍光単位(RFU)を時間の関数としてプロットし、その結果を図4Bに示す。グラフは、pdhD変異により、増殖6時間目からGFP発現が増加していることを示す。野生型株と比較して、変異株でのGFP発現の増加レベルは、図4Aで見られる、単に細胞生存における改善から予想されると考えられるレベルを超過している。
F.pdhD変異株におけるβ−D−グルコシダーゼ(BglC)発現
β−D−グルコシダーゼ(BglC)発現における、pdhD遺伝子におけるサイレント変異の効果を試験するために(配列番号7は、BglCのアミノ酸配列を示す)、aprEプロモータによって制御されたBglC発現を有し、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ耐性マーカーを含む、PaprE−BglC catR構築物を、CB15−14親株及びCB15−14 pdhD変異株のaprE座中に導入した。形質転換体を、5μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLuria寒天平板培地上で選択した。BglCを発現している2つのpdhD変異株(クローン1及び2)と2つの野生型株(クローン1及び2)とを、5mLのLuriaブロス内で一晩増殖させた。分泌されたBglCの発現を試験するために、1mLのプレ培養液を使用して、振盪フラスコ内の25mLのNB培地(2倍)(栄養ブロス(2倍)、SNB塩(1倍))を、37℃、250rpmで接種した。20倍に希釈されたブロス全体の細胞密度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して、1時間間隔で、600nmで測定した。600nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図5Aに示す。同様の細胞密度が、対照株とpdhD変異を含有する誘導株に関して見られた。
4−ニトロフェニル−β−D−セロビオシド基質(Sigma Chemicals(St.Luis,MO,USA))、カタログ番号N57590)を使用して、BglC発現をモニタした。基質を1mLのDMSO中で溶解して、100mg/mLのストック溶液を生成した。10mLのアッセイ緩衝液(100mMトリス、0.005%ツイン80、pH8.6)中で35μLのストック溶液を希釈することによって、標準基質溶液を作製した。40マイクロリットルの各培養物を96ウェルマイクロタイタープレートに移し、180μLのワーキング基質溶液を各ウェルに添加した。マイクロタイタープレートを室温で5時間インキュベートし、インキュベーション期間の終わりに、本溶液の吸収度を、SpectraMax分光光度計(Molecular Devices(Downington,PA,USA))を使用して、405nmで測定した。405nmでの吸光度を時間の関数としてプロットし、その結果を図5Bに示す。グラフは、時間経過実験を通して、同一の培養条件下の親株と比較して、変異株からのBglCの発現レベルの増加を示す。(図5Aで示すように)細胞増殖が、変異株において影響を受けないことを考慮すると、同一の培養条件下で増殖させた親細胞と比較して、pdhD変異を有するバチルス細胞におけるBglC産生の増加は、培養液中の細胞数の増加に起因するのではなく、細胞それ自身における(すなわち、細胞ごとの)発現レベルの増加に起因する。
G.pdhA遺伝子及びpdhB遺伝子のmRNA転写物は、pdhD変異株において減少する。
定量RT−PCR解析を実施して、pdhA遺伝子及びpdhB遺伝子のmRNA転写レベルにおける、pdhD遺伝子中のサイレント変異の効果を決定した。全RNAを、NB培地(2倍)中、4時間時点にてFNAを発現しているCB15−14親株及びpdhD変異株から抽出し(指数的増殖期中の細胞、細胞は、上記(D)にて実施した実験由来)、dsDNase(ArcticZymes)で処理した。リアルタイムのRT−PCR実験を、Roche LightCycler LC 480(Roche Diagnostics Corp.(USA))と、LNA(Locked Nucleic Acid)とを使用して実施し、野生型及び変異株におけるpdhA転写物及びpdhB転写物の量を比較した。pdhA mRNA及びpdhB mRNAを、以下のオリゴマーとユニバーサルプローブ(UPL)を使用して増幅した。
pdhA:
UPLプローブ148
オリゴ644:5’−agctatcgttgacagtaagaagca−3’(配列番号8)
オリゴ645:5’−ttggaacgtttcgaactgc−3’(配列番号9)
pdhB
UPLプローブ136
オリゴ646:atcatcacttacggcgcaat UPL(配列番号10)
オリゴ647:tcagcagaaatgccgtctt UPL(配列番号11)
Light Cycler 480ソフトウェア(15.0)を使用して、画分サイクル数(交差点、Cp)を求め、転写物量を定量した。pdhA転写物及びpdhB転写物の絶対量を、各試料の画分サイクル数の指数関数によって計算した(log2[Cp])。親株CB15−14におけるpdhA転写物及びpdhB転写物の量を、pdhD変異株における転写物量と比較した。
CB15−14及びpdhD変異株におけるpdhA転写物及びpdhB転写物の相対量を表1で示す。
表1は、pdhA転写物及びpdhB転写物の量が、親株においてよりも、pdhD変異株において有意に低いことを示す。
上述のデータを考慮すると、(すなわち、親細胞と比較すると)グラム陽性菌細胞のpdhオペロン(例えば、pdhA遺伝子及び/又はpdhB遺伝子)からの発現における減少が、同一の又は本質的に同一の培養条件下で培養した場合、親細胞と比較して、目的のタンパク質の発現の増加をもたらすことは明らかである。
上記組成物及び方法は、一部の詳細において理解の明確化の目的のために例示及び実施例により説明したが、添付の特許請求の範囲の趣旨又は範囲から逸脱することなくこれに一定の変更及び修正を加えることができることは、本明細書の教示を考慮すれば当業者であれば容易に理解される。
したがって、上記記載は単に本組成物及び方法の原理を述べたに過ぎない。当業者であれば、本明細書に明瞭に記載され又は示されていなくとも、本組成物及び方法の原理を具現化し、その趣旨及び範囲内で様々な組み合わせを考案できることは明らかである。更に、本明細書に記載されるすべての例及び条件付きの文言は、本組成物及び方法の原理並びに当該技術分野の進歩に寄与する本発明者らの概念を読者が理解するように補助するためのものであり、そのように具体的に記載した例及び条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。また、本明細書において、本組成物及び方法の原理、態様、及び実施形態を記載するすべての表現、並びにその具体例は、その構成及び機能の両方の等価物を包含することを意図している。更に、そのような等価物は、現在既知の等価物と、将来創出される等価物、すなわち、構造にかかわらず同一の機能をもたらすように創出された任意の要素と、の両方を包含することを意図している。したがって、本組成物及び方法の範囲は、本明細書に示され、記載される実施形態に限定されるものではない。
配列表
配列番号:1−pdhD野生型コード配列、センス鎖
ATGGTAGTAGGAGATTTCCCTATTGAAACAGATACTCTTGTAATTGGTGCGGGACCTGGCGGCTATGTAGCTGCCATCCGCGCTGCACAGCTTGGACAAAAAGTAACAGTCGTTGAAAAAGCAACTCTTGGAGGCGTTTGTCTGAACGTTGGATGTATCCCTTCAAAAGCGCTGATCAATGCAGGTCACCGTTATGAGAATGCAAAACATTCTGATGACATGGGAATCACTGCTGAGAATGTAACAGTTGATTTCACAAAAGTTCAAGAATGGAAAGCTTCTGTTGTCAACAAGCTTACTGGCGGTGTAGCAGGTCTTCTTAAAGGCAACAAAGTAGATGTTGTAAAAGGTGAAGCTTACTTTGTAGACAGCAATTCAGTTCGTGTTATGGATGAGAACTCTGCTCAAACATACACGTTTAAAAACGCAATCATTGCTACTGGTTCTCGTCCTATCGAATTGCCAAACTTCAAATATAGTGAGCGTGTCCTGAATTCAACTGGCGCTTTGGCTCTTAAAGAAATTCCTAAAAAGCTCGTTGTTATCGGCGGCGGATACATCGGAACTGAACTTGGAACTGCGTATGCTAACTTCGGTACTGAACTTGTTATTCTTGAAGGCGGAGATGAAATTCTTCCTGGCTTCGAAAAACAAATGAGTTCTCTCGTTACACGCAGACTGAAGAAAAAAGGCAACGTTGAAATCCATACAAACGCGATGGCTAAAGGCGTTGAAGAAAGACCAGACGGCGTAACAGTTACTTTCGAAGTAAAAGGCGAAGAAAAAACTGTTGATGCTGATTACGTATTGATTACAGTAGGACGCCGTCCAAACACTGATGAGCTTGGTCTTGAGCAAGTCGGTATCGAAATGACGGACCGCGGTATCGTGAAAACTGACAAACAGTGCCGCACAAACGTACCTAACATTTATGCAATCGGTGATATCATCGAAGGACCGCCGCTTGCTCATAAAGCATCTTACGAAGGTAAAATCGCTGCAGAAGCTATCGCTGGAGAGCCTGCAGAAATCGATTACCTTGGTATTCCTGCGGTTGTTTTCTCTGAGCCTGAACTTGCATCAGTTGGTTACACTGAAGCACAGGCGAAAGAAGAAGGTCTTGACATTGTTGCTGCTAAATTCCCATTTGCAGCAAACGGCCGCGCGCTTTCTCTTAACGAAACAGACGGCTTCATGAAGCTGATCACTCGTAAAGAGGACGGTCTTGTGATCGGTGCGCAAATCGCCGGAGCAAGTGCTTCTGATATGATTTCTGAATTAAGCTTAGCGATTGAAGGCGGCATGACTGCTGAAGATATCGCAATGACAATTCACGCTCACCCAACATTGGGCGAAATCACAATGGAAGCTGCTGAAGTGGCAATCGGAAGTCCGATTCACATCGTAAAATAA
配列番号:2−pdhDタンパク質配列
MVVGDFPIETDTLVIGAGPGGYVAAIRAAQLGQKVTVVEKATLGGVCLNVGCIPSKALINAGHRYENAKHSDDMGITAENVTVDFTKVQEWKASVVNKLTGGVAGLLKGNKVDVVKGEAYFVDSNSVRVMDENSAQTYTFKNAIIATGSRPIELPNFKYSERVLNSTGALALKEIPKKLVVIGGGYIGTELGTAYANFGTELVILEGGDEILPGFEKQMSSLVTRRLKKKGNVEIHTNAMAKGVEERPDGVTVTFEVKGEEKTVDADYVLITVGRRPNTDELGLEQVGIEMTDRGIVKTDKQCRTNVPNIYAIGDIIEGPPLAHKASYEGKIAAEAIAGEPAEIDYLGIPAVVFSEPELASVGYTEAQAKEEGLDIVAAKFPFAANGRALSLNETDGFMKLITRKEDGLVIGAQIAGASASDMISELSLAIEGGMTAEDIAMTIHAHPTLGEITMEAAEVAIGSPIHIVK
配列番号:3−pdhD変異体コード配列、センス鎖(C729Tサイレント変異あり)
ATGGTAGTAGGAGATTTCCCTATTGAAACAGATACTCTTGTAATTGGTGCGGGACCTGGCGGCTATGTAGCTGCCATCCGCGCTGCACAGCTTGGACAAAAAGTAACAGTCGTTGAAAAAGCAACTCTTGGAGGCGTTTGTCTGAACGTTGGATGTATCCCTTCAAAAGCGCTGATCAATGCAGGTCACCGTTATGAGAATGCAAAACATTCTGATGACATGGGAATCACTGCTGAGAATGTAACAGTTGATTTCACAAAAGTTCAAGAATGGAAAGCTTCTGTTGTCAACAAGCTTACTGGCGGTGTAGCAGGTCTTCTTAAAGGCAACAAAGTAGATGTTGTAAAAGGTGAAGCTTACTTTGTAGACAGCAATTCAGTTCGTGTTATGGATGAGAACTCTGCTCAAACATACACGTTTAAAAACGCAATCATTGCTACTGGTTCTCGTCCTATCGAATTGCCAAACTTCAAATATAGTGAGCGTGTCCTGAATTCAACTGGCGCTTTGGCTCTTAAAGAAATTCCTAAAAAGCTCGTTGTTATCGGCGGCGGATACATCGGAACTGAACTTGGAACTGCGTATGCTAACTTCGGTACTGAACTTGTTATTCTTGAAGGCGGAGATGAAATTCTTCCTGGCTTCGAAAAACAAATGAGTTCTCTCGTTACACGCAGACTGAAGAAAAAAGGCAACGTTGAAATCCATACAAACGCGATGGCTAAAGGTGTTGAAGAAAGACCAGACGGCGTAACAGTTACTTTCGAAGTAAAAGGCGAAGAAAAAACTGTTGATGCTGATTACGTATTGATTACAGTAGGACGCCGTCCAAACACTGATGAGCTTGGTCTTGAGCAAGTCGGTATCGAAATGACGGACCGCGGTATCGTGAAAACTGACAAACAGTGCCGCACAAACGTACCTAACATTTATGCAATCGGTGATATCATCGAAGGACCGCCGCTTGCTCATAAAGCATCTTACGAAGGTAAAATCGCTGCAGAAGCTATCGCTGGAGAGCCTGCAGAAATCGATTACCTTGGTATTCCTGCGGTTGTTTTCTCTGAGCCTGAACTTGCATCAGTTGGTTACACTGAAGCACAGGCGAAAGAAGAAGGTCTTGACATTGTTGCTGCTAAATTCCCATTTGCAGCAAACGGCCGCGCGCTTTCTCTTAACGAAACAGACGGCTTCATGAAGCTGATCACTCGTAAAGAGGACGGTCTTGTGATCGGTGCGCAAATCGCCGGAGCAAGTGCTTCTGATATGATTTCTGAATTAAGCTTAGCGATTGAAGGCGGCATGACTGCTGAAGATATCGCAATGACAATTCACGCTCACCCAACATTGGGCGAAATCACAATGGAAGCTGCTGAAGTGGCAATCGGAAGTCCGATTCACATCGTAAAATAA
配列番号:4−AmyEタンパク質配列
LTAPSIKSGTILHAWNWSFNTLKHNMKDIHDAGYTAIQTSPINQVKEGNQGDKSMSNWYWLYQPTSYQIGNRYLGTEQEFKEMCAAAEEYGIKVIVDAVINHTTSDYAAISNEVKSIPNWTHGNTQIKNWSDRWDVTQNSLLGLYDWNTQNTQVQSYLKRFLDRALNDGADGFRFDAAKHIELPDDGSYGSQFWPNITNTSAEFQYGEILQDSASRDAAYANYMDVTASNYGHSIRSALKNRNLGVSNISHYASDVSADKLVTWVESHDTYANDDEESTWMSDDDIRLGWAVIASRSGSTPLFFSRPEGGGNGVRFPGKSQIGDRGSALFEDQAITAVNRFHNVMAGQPEELSNPNGNNQIFMNQRGSHGVVLANAGSSSVSINTATKLPDGRYDNKAGAGSFQVNDGKLTGTINARSVAVLYPD
配列番号:5−FNAタンパク質配列(プロドメインあり)
AQSVPYGVSQIKAPALHSQGYTGSNVKVAVIDSGIDSSHPDLKVAGGASMVPSETNPFQDNNSHGTHVAGTVAALNNSIGVLGVAPSASLYAVKVLGADGSSGQYSWIINGIEWAIANNMDVINMSLGGPSGSAALKAAVDKAVASGVVVVAAAGNEGTSGSSSTVGYPGKYPSVIAVGAVDSSNQRASFSSVGPELDVMAPGVSIQSTLPGNKYGALNGTSMASPHVAGAAALILSKHPNWTNTQVRSSLENTTTKLGDSFYYGKGLINVQAAAQ
配列番号:6−GFPタンパク質配列
VNRNVLKNTGLKEIMSAKASVEGIVNNHVFSMEGFGKGNVLFGNQLMQIRVTKGGPLPFAFDIVSIAFQYGNRTFTKYPDDIADYFVQSFPAGFFYERNLRFEDGAIVDIRSDISLEDDKFHYKVEYRGNGFPSNGPVMQKAILGMEPSFEVVYMNSGVLVGEVDLVYKLESGNYYSCHMKTFYRSKGGVKEFPEYHFIHHRLEKTYVEEGSFVEQHETAIAQLTTIGKPLGSLHEWV
配列番号:7−BglCタンパク質配列
AAGTKTPVAKNGQLSIKGTQLVNRDGKAVQLKGISSHGLQWYGEYVNKDSLKWLRDDWGITVFRAAMYTADGGYIDNPSVKNKVKEAVEAAKELGIYVIIDWHILNDGNPNQNKEKAKEFFKEMSSLYGNTPNVIYEIANEPNGDVNWKRDIKPYAEEVISVIRKNDPDNIIIVGTGTWSQDVNDAADDQLKDANVMYALHFYAGTHGQFLRDKANYALSKGAPIFVTEWGTSDASGNGGVFLDQSREWLKYLDSKTISWVNWNLSDKQESSSALKPGASKTGGWRLSDLSASGTFVRENILGTKDSTKDIPETPSKDKPTQENGISVQYRAGDGSMNSNQIRPQLQIKNNGNTTVDLKDVTARYWYKAKNKGQNFDCDYAQIGCGNVTHKFVTLHKPKQGADTYLELGFKNGTLAPGASTGNIQLRLHNDDWSNYAQSGDYSFFKSNTFKTTKKITLYDQGKLIWGTEPN
配列番号:8−pdhAに対するオリゴ644:agctatcgttgacagtaagaagca
配列番号:9−pdhAに対するオリゴ645:ttggaacgtttcgaactgc
配列番号:10−pdhBに対するオリゴ646:atcatcacttacggcgcaat
配列番号:11−pdhBに対するオリゴ647:tcagcagaaatgccgtctt