JP2017223116A - 内燃機関用鍛造ピストンおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】叩かれ摩耗耐性に優れたリング溝を有する内燃機関用鍛造ピストンを提供する。
【解決手段】本発明のピストンは、シリンダヘッドとの間で燃焼室の一部を形成する頂面を有し、往復動可能にシリンダ内に嵌挿され得るヘッド部と、ヘッド部の外周面側に略矩形状に開溝してピストンリングを嵌入し得るリング溝とを備え、少なくともリング溝がアルミニウム合金の鍛造基材に形成された内燃機関用鍛造ピストンである。そのアルミニウム合金は、質量%で、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなる。リング溝は、ピストンリングが当接し得る内壁面に、鍛造基材を被覆する焼成めっき層等の被覆層を有する。本発明のピストンは、高比出力または高燃焼圧力のエンジンに用いられると好適である。
【選択図】図2A
【解決手段】本発明のピストンは、シリンダヘッドとの間で燃焼室の一部を形成する頂面を有し、往復動可能にシリンダ内に嵌挿され得るヘッド部と、ヘッド部の外周面側に略矩形状に開溝してピストンリングを嵌入し得るリング溝とを備え、少なくともリング溝がアルミニウム合金の鍛造基材に形成された内燃機関用鍛造ピストンである。そのアルミニウム合金は、質量%で、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなる。リング溝は、ピストンリングが当接し得る内壁面に、鍛造基材を被覆する焼成めっき層等の被覆層を有する。本発明のピストンは、高比出力または高燃焼圧力のエンジンに用いられると好適である。
【選択図】図2A
Description
本発明は、内燃機関用鍛造ピストンおよびその製造方法に関する。
自動車等の低燃費化の要請により、その駆動源である内燃機関(単に「エンジン」という。)には比出力(単位排気量あたりの出力)の向上が要求され、燃焼ガスの圧力(燃焼圧力)は益々高圧化しつつある。このような高圧の燃焼ガスを繰返し受けるピストンは、高強度かつ高耐熱性であると共に、燃焼ガスのクランク室側への漏出を抑止しているピストンリング(コンプレッションリング)を、リング溝で長期的に安定して保持できることも要求される。
最近のピストンの殆どは、軽量で熱伝導性に優れるアルミニウム合金(適宜「Al合金」という。)からなる鋳造ピストンであるが、ピストンリングはステンレス鋼等の鋼材からなる。このようなAl合金製のリング溝と鋼製のピストンリングとの間では、一般的な耐摩耗性よりも、いわゆる叩かれ摩耗に対する耐性の確保が重要となる。そこで、高い燃焼圧力下で使用される鋳造ピストンのリング溝(特にトップリング溝)には、ニレジスト(高Ni鋳鉄)等からなる耐摩環が鋳込まれることが多い。このような耐摩環に関連する記載が、例えば、下記の特許文献1、2にある。
ところで、エンジンの比出力や燃焼圧力のさらなる上昇等に対応するため、従来の鋳造ピストンに替えて、高強度化や軽量化等を図り易い鍛造ピストンの利用が検討されている。
しかし、上述した耐摩環は、通常、ピストンのヘッド部に鋳込まれるため、鍛造ピストンに耐摩環を設けることは事実上できない。そこで、鍛造ピストンのリング溝で生じ得る叩かれ摩耗を、耐摩環に替えて抑制できる方策が求められていた。
なお、特許文献3にはアルミニウム合金からなる基体上に、結晶質Ni−P層からなる被覆層を設けた耐摩耗性部材に関する記載がある。しかし、特許文献3には、ピストンのリング溝に被覆層を設けることに関して全く記載がない。また、特許文献3では、結晶質Ni−P層が発現する一般的な耐摩耗性が評価されているのみであり、ピストンのリング溝とピストンリングとの間で問題となる叩かれ摩耗に関して、全く記載も示唆もされていない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、リング溝の叩かれ摩耗を抑制できる内燃機関用鍛造ピストンおよびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、高温特性(強度、硬さ等)に優れた鍛造アルミニウム合金からなるピストン(ヘッド部)のリング溝に、被覆層(焼成したNi−Pめっき層等)を形成することにより、叩かれ摩耗耐性に優れた鍛造ピストンを得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《内燃機関用鍛造ピストン》
(1)本発明の内燃機関用鍛造ピストン(単に「鍛造ピストン」または「ピストン」という。)は、 シリンダヘッドとの間で燃焼室の一部を形成する頂面を有し、往復動可能にシリンダ内に嵌挿され得るヘッド部と、該ヘッド部の外周面側に略矩形状に開溝してピストンリングを嵌入し得るリング溝とを備え、少なくとも該リング溝がアルミニウム合金の鍛造基材に形成されている内燃機関用鍛造ピストンであって、前記アルミニウム合金は、全体を100質量%(単に「%」という。)としたときに、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなり、 前記リング溝は、前記ピストンリングが当接し得る内壁面に前記鍛造基材を被覆する被覆層を有する。
(1)本発明の内燃機関用鍛造ピストン(単に「鍛造ピストン」または「ピストン」という。)は、 シリンダヘッドとの間で燃焼室の一部を形成する頂面を有し、往復動可能にシリンダ内に嵌挿され得るヘッド部と、該ヘッド部の外周面側に略矩形状に開溝してピストンリングを嵌入し得るリング溝とを備え、少なくとも該リング溝がアルミニウム合金の鍛造基材に形成されている内燃機関用鍛造ピストンであって、前記アルミニウム合金は、全体を100質量%(単に「%」という。)としたときに、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなり、 前記リング溝は、前記ピストンリングが当接し得る内壁面に前記鍛造基材を被覆する被覆層を有する。
(2)本発明の鍛造ピストンは、従来の鋳造ピストンよりも高強度化や軽量化等を図り易いことに加えて、耐摩環等を用いることなく、リング溝の叩かれ摩耗耐性も確保される。高い叩かれ摩耗耐性が得られる理由は、鋼材等からなるピストンリングが嵌入(装着)されるリング溝が、特有のAl合金からなる鍛造基材に形成されていると共に、その表面が超硬質で高密着性の被覆層で被覆されているためである。従って本発明のピストンを用いれば、耐久性や信頼性を確保しつつ、エンジンの比出力の向上や燃焼圧力の上昇等を図ることが可能となる。
《内燃機関用鍛造ピストンの製造方法》
本発明は、上述した鍛造ピストンに適した製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、アルミニウム合金からなる鍛造基材を機械加工して得られた略矩形状の開溝に無電解めっき層を形成するめっき工程と、該無電解めっき層を300〜450℃で加熱して焼成めっき層とする焼成工程と、を備える内燃機関用鍛造ピストンの製造方法でもよい。
本発明は、上述した鍛造ピストンに適した製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、アルミニウム合金からなる鍛造基材を機械加工して得られた略矩形状の開溝に無電解めっき層を形成するめっき工程と、該無電解めっき層を300〜450℃で加熱して焼成めっき層とする焼成工程と、を備える内燃機関用鍛造ピストンの製造方法でもよい。
《叩かれ摩耗耐性》
リング溝が形成される特有なAl合金からなる鍛造基材上に、特に焼成めっき層を設けることにより、優れた叩かれ摩耗耐性が発現される理由は次のように考えられる。本発明に係る焼成めっき層は、無電解めっき層を焼成等して得られる。無電解めっき法によれば、他の電解式被覆法(めっき法の他、陽極酸化処理法も含む)の用いる場合と異なり、電流密度が高くなる角部の薄膜が厚くなるようなことがない。このため、無電解めっき層を焼成等して得られる焼成めっき層は、略矩形状に開溝しており、狭くて角部の多いリング溝の内壁面に対しても、薄くて均一的に形成されたものとなる。このように、薄くても硬質な焼成めっき層が細口形状のリング溝に対して均質的に形成されることにより、本発明の鍛造ピストンは高い叩かれた摩耗耐性を発現するようになったと考えられる。
リング溝が形成される特有なAl合金からなる鍛造基材上に、特に焼成めっき層を設けることにより、優れた叩かれ摩耗耐性が発現される理由は次のように考えられる。本発明に係る焼成めっき層は、無電解めっき層を焼成等して得られる。無電解めっき法によれば、他の電解式被覆法(めっき法の他、陽極酸化処理法も含む)の用いる場合と異なり、電流密度が高くなる角部の薄膜が厚くなるようなことがない。このため、無電解めっき層を焼成等して得られる焼成めっき層は、略矩形状に開溝しており、狭くて角部の多いリング溝の内壁面に対しても、薄くて均一的に形成されたものとなる。このように、薄くても硬質な焼成めっき層が細口形状のリング溝に対して均質的に形成されることにより、本発明の鍛造ピストンは高い叩かれた摩耗耐性を発現するようになったと考えられる。
本発明に係る被覆層として、例えば、めっき層または陽極酸化層がある。めっき層は、電解めっき層でも無電解めっき層でもよいが、密着性や生産性等の観点から無電解めっき層(特に、無電解Ni−Pめっき層、無電解Ni−Bめっき層、無電解Ni−P−Bめっき層等)が好ましい。さらに、本発明に係るめっき層は、無電解めっき層(特に無電解Ni−Pめっき層)を焼成等して得られる硬質で耐摩耗性に優れた焼成めっき層(特に焼成Ni−Pめっき層)であると好ましい。耐摩耗性に優れためっき層と基材の間に、密着性を高める中間層をさらに設けてもよい。
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜b」のような数値範囲を新設し得る。
本明細書で説明する内容は、本発明のピストンのみならず、その製造方法にも該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一以上の構成要素を付加し得る。方法に関する構成要素も、一定の場合、物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《被覆層/焼成めっき層》
(1)本発明に係る被覆層の好適な一例である焼成めっき層を取り上げつつ、被覆層について詳述する。
(1)本発明に係る被覆層の好適な一例である焼成めっき層を取り上げつつ、被覆層について詳述する。
焼成めっき層(焼成Ni−Pめっき層等)は、例えば、無電解めっき層(無電解Ni−Pめっき層等)を300〜450℃さらには350〜400℃で加熱して得られる。鍛造基材上に形成された無電解めっき層は、昇温過程中の100〜300℃で加熱される際に、鍛造基材に対する密着性が高まる。これはめっき層が生成される過程で取り込まれた水素が放出され、基材とめっき層界面、ベーキング処理の密着性が向上するためと考えられる。そのめっき層をさらに300℃以上で加熱することにより超硬質化した焼成めっき層が得られる。これはめっき層内にNi3P化合物が析出することによる分散強化のためと考えられる。こうして得られた焼成めっき層の表面硬さは、750Hv以上、800Hv以上、850Hv以上、900Hv以上さらには950Hv以上となり得る。
(2)焼成めっき層の好適な一例である焼成Ni−Pめっき層は、非晶質なNi−P層ではなく、主にNi(結晶相)とNi3P(析出相)からなる結晶質なNi−P層からなる。このため本発明に係る焼成めっき層は、結晶質めっき層(結晶質Ni−P層等)ともいい得る。但し、結晶質めっき層は、めっき層全体が完全な結晶質である必要はない。X線で検出される程度に結晶部分が存在すれば足る。
焼成めっき層に含まれるPは、本発明に係る鍛造基材に対する密着性とピストンリングに対する叩かれ摩耗耐性とに優れる範囲であると好ましい。例えば、焼成Ni−Pめっき層の場合、そのめっき層全体を100質量%として、Pが1〜13%、5〜10%さらには6〜9%であると好ましい。なお、本発明に係る焼成めっき層は、電解めっき層を焼成したものでもよい。
《鍛造基材》
本発明に係る鍛造基材は、特定のAl合金を鍛造してなる。このAl合金は、高温特性に優れるため、上述した焼成めっき層の形成時に高温加熱しても殆ど軟化しない。具体的にいうと、高い焼成温度(例えば400℃)で加熱しても、150Hv以上、155Hv以上さらには160Hv以上という大きな硬さ(残留硬さ)が安定的に維持される。このような高温耐軟化性に優れるAl合金の成分組成、金属組織、特性について以下に詳述する。
本発明に係る鍛造基材は、特定のAl合金を鍛造してなる。このAl合金は、高温特性に優れるため、上述した焼成めっき層の形成時に高温加熱しても殆ど軟化しない。具体的にいうと、高い焼成温度(例えば400℃)で加熱しても、150Hv以上、155Hv以上さらには160Hv以上という大きな硬さ(残留硬さ)が安定的に維持される。このような高温耐軟化性に優れるAl合金の成分組成、金属組織、特性について以下に詳述する。
(1)成分組成
本発明に係るAl合金は、主成分であるAlの他、Fe、Zr、Tiを必須元素とし、さらに、Mgを含むと好ましい。各元素について具体的にいうと次の通りである。なお、各元素の組成範囲はAl合金全体を100質量%として示した。
本発明に係るAl合金は、主成分であるAlの他、Fe、Zr、Tiを必須元素とし、さらに、Mgを含むと好ましい。各元素について具体的にいうと次の通りである。なお、各元素の組成範囲はAl合金全体を100質量%として示した。
Feは1.5〜8%、2〜6%さらには3〜5.5%含まれると好ましい。FeはAlとの金属間化合物(Al−Fe系金属間化合物:第一化合物相)を母相(α−Al相)中に形成する。この第一化合物相がAl合金の強度や硬さを高める。Feが過少では十分な強度や硬さが得られず、Feが過多では延性が低下し、鍛造性や加工性が低下し得る。
また、FeはAl合金の強度等の向上に有効なだけではなく、無電解めっきを行う際の触媒元素(活性化元素)としても機能し得る。具体的にいうと、鍛造基材の表面から部分的に露出しているFeが起点となってめっき層の形成を促す。この結果、本発明に係るAl合金からなるリング溝の内壁面には、密着性や均一性等に優れためっき層が形成され易くなる。この傾向はFeが1%以上のときに顕著である。
ZrおよびTiは、Alとの間でL12型構造のAl−(Zr、Ti)系金属間化合物(第二化合物相または析出相)を形成し、Al合金の耐熱性を高める。この理由は次のように考えられる。前述した第一化合物相は、高温雰囲気に長時間曝されると、相変態や形状変化(粗大化)などを生じるため、必ずしも熱的に安定ではない。一方、第二化合物相は、母相に整合的であると共に、第一化合物相と母相の境界(界面)近傍に出現し、高温域まで安定している。このため、Al合金の強度や硬さを担う第一化合物相の高温時における相変態や形状変化等が第二化合物相により安定的に抑止(いわばピン留め)され得る。このように第一化合物相と第二化合物相が相乗的に作用することにより、本発明に係るAl合金は優れた高温特性(耐軟化性、耐熱性)を発揮するようになったと考えられる。
Zrは0.2〜1.5%さらには0.6〜1.2%含まれると好ましい。またTiは0.15〜1.2%さらには0.3〜0.8%含まれると好ましい。ZrまたはTiが過少になると、上述した効果が乏しく、ZrまたはTiが過多になると、Al合金の鍛造性や加工性が低下し得る。なお、ZrがTiよりも多く存在し、特にTiに対するZrの質量比(Zr/Ti)が1.1〜1.5さらには1.15〜1.4であると、第二化合物相の形成によるAl合金の高温特性の向上がより顕著となる。
さらにMgが0.2〜2.5%さらには0.6〜1.8%含まれると好ましい。Mgは、Al合金の強度(特に室温強度)の向上に有効な元素である。Mgが過少ではその効果が乏しく、過多ではAl合金材の鍛造性や加工性の低下を招く。
上述した内容を踏まえて、本発明に係るAl合金は、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなる好ましい。また、Tiに対するZrの質量比(Zr/Ti):1.1〜1.5であると好ましい。さらにAl合金は、Mg:0.2〜2.5%、その他の改質元素を含んでもよい。
「改質元素」は、Al、Fe、Zr、TiおよびMg以外の元素であって、Al合金の特性(強度、硬さ、靱性、延性、寸法安定性など)の改善に有効な元素である。具体例として、Cr、Co、Mn、Ni、Sc、Y、La、V、Hf、Nbなどがある。各元素の含有量は、通常、微量である。ちなみに、「不可避不純物」は、溶解原料中に含まれる不純物や各工程時に混入等する不純物などであって、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素であり、例えば、シリコン(Si)等である。
(2)金属組織
本発明に係るAl合金は、Alの母相(α相)と、Al−Fe系金属間化合物相(第一化合物相)と、Al−(Zr、Ti)系金属間化合物(第二化合物相)を少なくとも有する複合組織からなると好ましい。
本発明に係るAl合金は、Alの母相(α相)と、Al−Fe系金属間化合物相(第一化合物相)と、Al−(Zr、Ti)系金属間化合物(第二化合物相)を少なくとも有する複合組織からなると好ましい。
特に、第二化合物相はナノ粒子状であり、その中央部でZr濃度が高く、その外郭部でTi濃度が高くなっていると好ましい。つまり、Al3(Zr、Ti)中のZrおよびTiの濃度が、中央から外殻にかけて傾斜していると好ましい。このような第二化合物相は、質量比(Zr/Ti)が上述した範囲内にあるときに形成され易い。
第二化合物相の平均サイズは、1〜30、2〜20nmさらには3〜15nmであると好ましい。このサイズが過小でも過大でも、第二化合物相によるAl合金の耐熱性の向上効果が低下し得る。なお平均サイズとは、Al合金中より無作為に抽出したサンプルを透過電子顕微鏡(TEM)で観察し、30個以上の分散する第二化合物相の平均直径を画像処理法により解析して求まる。
本発明に係るAl合金(さらには鍛造基材)は、上述したように微細な金属組織からなり、高温特性に優れると共に、広い温度域で高い塑性加工性も発揮し得る。例えば、加工温度:室温(RT)〜400℃、加工率:10〜90%とすることも可能である。従って、本発明のピストンは、強度や耐久性等のみならず、生産性や設計自由度等にも優れたものである。
《Al合金の製造》
上述したAl合金の製造方法は種々考えられる。例えば、合金溶湯を100℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固させた凝固体(粉末、薄片等)からなる成形体(ビレット)を、300〜500℃で熱間塑性加工することにより得られる。
上述したAl合金の製造方法は種々考えられる。例えば、合金溶湯を100℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固させた凝固体(粉末、薄片等)からなる成形体(ビレット)を、300〜500℃で熱間塑性加工することにより得られる。
熱間塑性加工は、例えば、押出加工や鍛造加工等である。熱間塑性加工は、ピストン鍛造に供される素材(鍛造素材)を成形する工程でも、ピストン自体を成形する鍛造でもよい。鍛造素材を鍛造する場合、鍛造性とAl合金の特性維持を考慮して、鍛造温度は150〜450℃とするとよい(鍛造工程)。
《焼成めっき層の形成》
本発明に係る焼成めっき層は、例えば、無電解めっき層を形成するめっき工程と、その無電解めっき層を焼成させる焼成工程とにより得られる。
本発明に係る焼成めっき層は、例えば、無電解めっき層を形成するめっき工程と、その無電解めっき層を焼成させる焼成工程とにより得られる。
めっき工程は、前処理した鍛造基材表面に無電解めっき処理する工程であると好ましい。無電解めっき液の組成、めっき液の温度、めっき時間等は適宜調整される。前処理には、鍛造基材表面にある酸化皮膜や油汚れ等を除去する清浄工程、難めっき材であるAl合金からなる鍛造基材表面でめっきを促進させるジンケート処理工程や活性化工程などがある。これらの詳細については、特許2648716号公報、特許5867332号公報等に詳しく記載されている。
焼成工程は、無電解めっき層を300〜450℃さらには350〜400℃で加熱すると好ましい。めっき直後の無電解めっき層は非晶質で密着性や硬さが不十分であるが、上述したように、焼成工程により高密着性で超硬質な焼成めっき層が形成され得る。なお、その加熱時間は0.5〜10時間程度でよい。
《用途》
(1)本発明のピストンを用いる内燃機関は、ガソリンエンジン等の火花点火機関でも、圧縮着火機関(いわゆるディーゼルエンジン)でもよい。本発明のピストンは、高温特性に優れたAl合金の鍛造基材からなることに加えて、リング溝も補強されている。そこで本発明のピストンは、過給されて燃焼圧力が上昇している高性能エンジンに用いられると好適である。さらに本発明のピストンでは、耐摩環等を用いることなくリング溝の叩かれ摩耗耐性が確保されるため、ヘッド部の裏側や内部における設計自由度の拡大を図れ、例えばクーリングチャネルの配置等も可能となる。
(1)本発明のピストンを用いる内燃機関は、ガソリンエンジン等の火花点火機関でも、圧縮着火機関(いわゆるディーゼルエンジン)でもよい。本発明のピストンは、高温特性に優れたAl合金の鍛造基材からなることに加えて、リング溝も補強されている。そこで本発明のピストンは、過給されて燃焼圧力が上昇している高性能エンジンに用いられると好適である。さらに本発明のピストンでは、耐摩環等を用いることなくリング溝の叩かれ摩耗耐性が確保されるため、ヘッド部の裏側や内部における設計自由度の拡大を図れ、例えばクーリングチャネルの配置等も可能となる。
(2)焼成めっき層で被覆されるリング溝は、コンプレッションリング溝(トップリング溝および/またはセカンドリング溝)でもオイルリング溝でもよい。全てのリング溝の内壁面を焼成めっき層で被覆しても良い。但し、少なくとも、叩かれ摩耗耐性が最も要求されるコンプレッションリング溝(特にトップリング溝)の内壁面が被覆層(特に焼成めっき層)で被覆されていると好ましい。
焼成めっき層が形成されるリング溝の内壁面は、全面でも良いし、ピストンリングにより叩かれ摩耗を生じ易い面(さらにはその一部の環状面)だけでも良い。叩かれ摩耗を生じ易い面は、例えば、略平行な対向面(上下面またはトップランドの下面とセカンドランドの上面)である。なお、リング溝は略矩形状の開溝であるが、底面(略平行な対向面間を接続する面)は、平面状(斜面状を含む)でも曲面状でもよい。
鍛造基材の表面に焼成めっき層(被覆層)を形成した試験片を用いて、スクラッチ試験と叩かれ摩耗試験を行い、その密着性と叩かれ摩耗耐性を評価した。この具体例に基づいて、本発明をさらに詳しく説明する。
《鍛造基材》
表1に示す組成のAl合金の溶湯を調製した(溶湯調製工程)。この合金溶湯を真空雰囲気中に噴霧してエアアトマイズ粉末(凝固体)を得た(凝固工程)。得られたエアアトマイズ粉末の粒子(アトマイズ粒子)を分級して粒径:150μm以下のアトマイズ粉末を用意した。ちなみに、エアアトマイズにより得られる粉末粒子のサイズと冷却速度の関係は公知であり、上記アトマイズ粉末は104℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固した粒子からなるといえる。
表1に示す組成のAl合金の溶湯を調製した(溶湯調製工程)。この合金溶湯を真空雰囲気中に噴霧してエアアトマイズ粉末(凝固体)を得た(凝固工程)。得られたエアアトマイズ粉末の粒子(アトマイズ粒子)を分級して粒径:150μm以下のアトマイズ粉末を用意した。ちなみに、エアアトマイズにより得られる粉末粒子のサイズと冷却速度の関係は公知であり、上記アトマイズ粉末は104℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固した粒子からなるといえる。
アトマイズ粉末を冷間静水等方圧プレス成形(CIP)して、φ290mm×540mm、相対密度85%のビレット(原素材)を得た。このビレットを押出成形機のコンテナ内に装填し、370℃で押出成形した鍛造素材を得た(熱間塑性加工)。このときの押出比(原素材の断面積/鍛造素材の断面積)は10とした。この鍛造素材を600ton油圧プレス機を用いて熱間鍛造して円板状の鍛造基材を得た(鍛造工程)。このとき、鍛造温度:350℃とした。
《焼成めっき層》
(1)清浄工程
上述した鍛造基材を、水酸化ナトリウム水溶液(濃度50g/L)でアルカリエッチングして、鍛造基材の表面に形成されていた酸化皮膜を除去した(エッチング工程)。これを水洗した後、鍛造基材の表面にできたスマットを硝酸水溶液(濃度30%)で除去し、さらに水洗した(デスマット工程)。こうして鍛造基材表面を清浄化した(清浄工程)。
(1)清浄工程
上述した鍛造基材を、水酸化ナトリウム水溶液(濃度50g/L)でアルカリエッチングして、鍛造基材の表面に形成されていた酸化皮膜を除去した(エッチング工程)。これを水洗した後、鍛造基材の表面にできたスマットを硝酸水溶液(濃度30%)で除去し、さらに水洗した(デスマット工程)。こうして鍛造基材表面を清浄化した(清浄工程)。
(2)活性化工程
清浄化した鍛造基材を、さらに、pH11.5の炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して活性化処理をした。この活性化処理を鍛造基材の標準(自然)電極電位が−1.4〜−1.35V(vsAg/AgCl)にシフトするまで継続した。なお、標準電極電位は該測定液に活性化処理後の鍛造基材及びAg/AgCl電極を浸漬、電位差計により測定した。こうしてジンケート処理をせずに直接めっきをするための前処理を行った。
清浄化した鍛造基材を、さらに、pH11.5の炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して活性化処理をした。この活性化処理を鍛造基材の標準(自然)電極電位が−1.4〜−1.35V(vsAg/AgCl)にシフトするまで継続した。なお、標準電極電位は該測定液に活性化処理後の鍛造基材及びAg/AgCl電極を浸漬、電位差計により測定した。こうしてジンケート処理をせずに直接めっきをするための前処理を行った。
(3)めっき工程
前処理をした鍛造基材を、90℃のめっき液中に60分間浸漬した。めっき液には、市販されている無電解ニッケルリンめっき液(奥野製薬工業株式会社製トップニコロンBL)を用いた。こうして鍛造基材の表面に無電解めっき層を形成した。
前処理をした鍛造基材を、90℃のめっき液中に60分間浸漬した。めっき液には、市販されている無電解ニッケルリンめっき液(奥野製薬工業株式会社製トップニコロンBL)を用いた。こうして鍛造基材の表面に無電解めっき層を形成した。
(4)焼成工程
無電解めっき処理後の鍛造基材を加熱炉に入れて大気圧雰囲気中で1時間加熱した。加熱温度(焼成温度)は、特に断らない限り400℃とした。こうして鍛造基材表面に焼成めっき層が形成された各試験片を得た。これらを、スクラッチ試験と叩かれ摩耗試験に供した。なお、各試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、焼成めっき層の膜厚は10μmであった。
無電解めっき処理後の鍛造基材を加熱炉に入れて大気圧雰囲気中で1時間加熱した。加熱温度(焼成温度)は、特に断らない限り400℃とした。こうして鍛造基材表面に焼成めっき層が形成された各試験片を得た。これらを、スクラッチ試験と叩かれ摩耗試験に供した。なお、各試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、焼成めっき層の膜厚は10μmであった。
(5)比較例
めっきしていない鍛造基材のままの試験片(試料C10/試料1の鍛造基材)と、その鍛造素材の表面が未焼成な無電解めっき層で被覆されている試験片(試料C11)と、市販のAl合金展伸材(JIS A2618)をそのまま所定形状に加工した試験片(試料C20)と、そのAl合金展伸材の表面を未焼成な無電解めっき層で被覆した試験片(試料C21)と、耐摩環に用いられるニレジスト鋳鉄材をそのまま所定形状に加工した試験片(試料C0)とを用意した。これら各試験片も、叩かれ摩耗試験に供した。また試料C11の試験片は、スクラッチ試験にも供した。
めっきしていない鍛造基材のままの試験片(試料C10/試料1の鍛造基材)と、その鍛造素材の表面が未焼成な無電解めっき層で被覆されている試験片(試料C11)と、市販のAl合金展伸材(JIS A2618)をそのまま所定形状に加工した試験片(試料C20)と、そのAl合金展伸材の表面を未焼成な無電解めっき層で被覆した試験片(試料C21)と、耐摩環に用いられるニレジスト鋳鉄材をそのまま所定形状に加工した試験片(試料C0)とを用意した。これら各試験片も、叩かれ摩耗試験に供した。また試料C11の試験片は、スクラッチ試験にも供した。
《観察》
焼成めっき層を形成した試験片について、焼成めっき層の断面とその表面をSEMで観察した。試料1に係るSEM像を図1に示した。なお、焼成めっき層は、無電解めっき層に350℃×1時間の焼成を施したものである。
焼成めっき層を形成した試験片について、焼成めっき層の断面とその表面をSEMで観察した。試料1に係るSEM像を図1に示した。なお、焼成めっき層は、無電解めっき層に350℃×1時間の焼成を施したものである。
《スクラッチ試験》
スクラッチ試験機(ナノテック株式会社製 Revetest Scratch Tester)を用いて、各めっき層に対してスクラッチ試験を行い、その表面を観察した。試料1に係る観察結果を図2Aに示した。また試料C21に係る観察結果を図2Bに示した。表面は光学顕微鏡およびSEMにより行い、元素分析はエネルギー分散型X線分析(EDX)により行った。
スクラッチ試験機(ナノテック株式会社製 Revetest Scratch Tester)を用いて、各めっき層に対してスクラッチ試験を行い、その表面を観察した。試料1に係る観察結果を図2Aに示した。また試料C21に係る観察結果を図2Bに示した。表面は光学顕微鏡およびSEMにより行い、元素分析はエネルギー分散型X線分析(EDX)により行った。
《叩かれ摩耗試験》
叩かれ摩耗試験装置(特許第4032309号公報参照)を用いて、各試料に係る試験片の叩かれ摩耗耐性を調べた。相手材には、ピストンリングを考慮して、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた。この試験は、荷重:20N、叩き回数:50,000回として、無潤滑下で行った。
叩かれ摩耗試験装置(特許第4032309号公報参照)を用いて、各試料に係る試験片の叩かれ摩耗耐性を調べた。相手材には、ピストンリングを考慮して、マルテンサイト系ステンレス鋼を用いた。この試験は、荷重:20N、叩き回数:50,000回として、無潤滑下で行った。
試験後の各試験片および相手材の表面の摩耗量(叩かれ摩耗量)を測定した。この測定は、三次元形状測定器を用いて試料表面の塑性変形痕(凹み)の深さを測定することにより行った。この際、試料C0に係る摩耗量と他の試料に係る摩耗量とを相対比較した。試料C0に係る摩耗量を1としたときの他の試料の摩耗量の割合(摩耗量比)を、表1と図3に示した。
また、試料1、試料C10および試料C0について、上記の測定により得られた試験後の凹み形状を図4に示した。
《硬さ》
試料1に係る鍛造基材の表面に無電解めっき層を形成した試験片(焼成工程前の試験片)を、室温から250℃、300℃、350℃または400℃の各焼成温度まで加熱した。各温度で加熱した試験片を切断して、切断面の基材部分とめっき層部分との硬さをそれぞれ、室温状態でマイクロビッカース硬度計(株式会社アカシ製MVK−E)により測定した。このとき、試験荷重:0.245N、保持時間:20秒とした。この測定をそれぞれ5回行い、各部の硬さの平均値を図5と図6にそれぞれ示した。
試料1に係る鍛造基材の表面に無電解めっき層を形成した試験片(焼成工程前の試験片)を、室温から250℃、300℃、350℃または400℃の各焼成温度まで加熱した。各温度で加熱した試験片を切断して、切断面の基材部分とめっき層部分との硬さをそれぞれ、室温状態でマイクロビッカース硬度計(株式会社アカシ製MVK−E)により測定した。このとき、試験荷重:0.245N、保持時間:20秒とした。この測定をそれぞれ5回行い、各部の硬さの平均値を図5と図6にそれぞれ示した。
なお、参考までに、図5には、試料C20に係る基材の硬さの温度変化も併せて示した。また、めっき層の硬さを示した図6には、基材上に形成した溶射アルミナ層、クロムめっき層、アルマイト層(陽極酸化層)の一般的な表面硬さも併せて示した。
《評価》
(1)焼成めっき層
図1から明らかなように、鍛造基材の表面に焼成めっき層が均一的に形成されている。
(1)焼成めっき層
図1から明らかなように、鍛造基材の表面に焼成めっき層が均一的に形成されている。
(2)密着性
図2Aから明らかなように、試料1に係る焼成めっき層は、スクラッチ試験によって一部に剥離が観られたものの、基材(Al)の露出は僅かであった。一方、図2Bから明らかなように、試試料C21に係る無電解めっき層は、スクラッチ試験により大きな剥離が観られ、基材(Al)の露出は多かった。
図2Aから明らかなように、試料1に係る焼成めっき層は、スクラッチ試験によって一部に剥離が観られたものの、基材(Al)の露出は僅かであった。一方、図2Bから明らかなように、試試料C21に係る無電解めっき層は、スクラッチ試験により大きな剥離が観られ、基材(Al)の露出は多かった。
(3)叩かれ摩耗耐性
図3および図4から明らかなように、鍛造基材に焼成めっき層を形成した試料1は、従来のニレジスト鋳鉄材からなる試料C0と同程度の叩かれ摩耗耐性を発揮することがわかった。
図3および図4から明らかなように、鍛造基材に焼成めっき層を形成した試料1は、従来のニレジスト鋳鉄材からなる試料C0と同程度の叩かれ摩耗耐性を発揮することがわかった。
また、同一基材からなる試料1と試料C10または試料C11との比較から、試料1の優れた叩かれ摩耗耐性は、焼成めっき層に起因していることも確認された。
(4)硬さ
図5から明らかなように、試料1に係る鍛造基材(試料C10)は、一般的なAl合金の鍛造材とは異なり、400℃まで加熱しても硬さが155〜175Hv内(変化幅:5〜15Hv)で安定しており、殆ど変化しなかった。
図5から明らかなように、試料1に係る鍛造基材(試料C10)は、一般的なAl合金の鍛造材とは異なり、400℃まで加熱しても硬さが155〜175Hv内(変化幅:5〜15Hv)で安定しており、殆ど変化しなかった。
図6から明らかなように、無電解めっき層を250℃位まで加熱しても、その硬さは400〜500Hv程度で殆ど変化しなかった。しかし、そのめっき層を250℃以上(特に300℃以上)に加熱すると、硬さが1000〜1300Hv位まで急激に上昇した。
250℃で加熱しためっき層の表面をX線を用いて測定したところ、X線回折ピークはブロードであり、そのめっき層は非晶質状態にあることがわかった。一方、400℃で加熱しためっき層を同様に測定したところ、明確なX線回折ピークが現れ、そのめっき層は結晶質状態にあることがわかった。なお、そのX線回折ピークは、主にNiとNi3Pを示すものであった。
(5)考察
以上のことを踏まえて、試料1に係る試験片が優れた密着性や叩かれ摩耗耐性を発現した理由は、次のように考えられる。先ず、鍛造基材がAl合金であるにもかかわらず、300℃以上に加熱しても殆ど硬さが変化しないという高い耐軟化性を有する。これを前提として、表面に形成されためっき層を300℃以上に加熱することができ、それによりめっき層は結晶化して超硬質化する。単に高耐摩耗性だけではなく、叩かれ摩耗耐性に優れることから、硬質な焼成めっき層は、鍛造基材に強く密着しているといえる。そのめっき層が高密着性を発揮する理由は、被覆される鍛造基材中に含まれるFeがめっき層の形成を促進することもあるが、さらには次のような理由が考えられる。すなわち、鍛造基材の表面に形成された無電解めっき層が、結晶化(硬質化)する以前の加熱過程(300℃以下さらには250℃以下の加熱過程)で、めっき層が生成される過程で取り込まれた水素が放出され、基材とめっき層界面の密着性が向上することによって、高密着性が発揮されるようになったと考えられる。
以上のことを踏まえて、試料1に係る試験片が優れた密着性や叩かれ摩耗耐性を発現した理由は、次のように考えられる。先ず、鍛造基材がAl合金であるにもかかわらず、300℃以上に加熱しても殆ど硬さが変化しないという高い耐軟化性を有する。これを前提として、表面に形成されためっき層を300℃以上に加熱することができ、それによりめっき層は結晶化して超硬質化する。単に高耐摩耗性だけではなく、叩かれ摩耗耐性に優れることから、硬質な焼成めっき層は、鍛造基材に強く密着しているといえる。そのめっき層が高密着性を発揮する理由は、被覆される鍛造基材中に含まれるFeがめっき層の形成を促進することもあるが、さらには次のような理由が考えられる。すなわち、鍛造基材の表面に形成された無電解めっき層が、結晶化(硬質化)する以前の加熱過程(300℃以下さらには250℃以下の加熱過程)で、めっき層が生成される過程で取り込まれた水素が放出され、基材とめっき層界面の密着性が向上することによって、高密着性が発揮されるようになったと考えられる。
(6)Al合金
試料1(試料C10)と異なるAl合金組成からなる鍛造基材を用いた場合についても、試料1の場合と同様な結果が得られることを確認した。そのようなAl合金組成を表1に例示した。
試料1(試料C10)と異なるAl合金組成からなる鍛造基材を用いた場合についても、試料1の場合と同様な結果が得られることを確認した。そのようなAl合金組成を表1に例示した。
以上の具体例からわかるように、鍛造基材の表面に焼成めっき層が形成された内壁面からなるリング溝は、優れた叩かれ摩耗耐性を発揮し得ることが明らかとなった。この結果、このようなリング溝を備えた本発明のピストンは、高い比出力または燃焼圧力が要求されるエンジンに用いられても、高い耐久性または信頼性を発揮し得る。
Claims (10)
- シリンダヘッドとの間で燃焼室の一部を形成する頂面を有し、往復動可能にシリンダ内に嵌挿され得るヘッド部と、
該ヘッド部の外周面側に略矩形状に開溝してピストンリングを嵌入し得るリング溝とを備え、
少なくとも該リング溝がアルミニウム合金の鍛造基材に形成されている内燃機関用鍛造ピストンであって、
前記アルミニウム合金は、全体を100質量%(単に「%」という。)としたときに、Fe:1.5〜8%、Zr:0.2〜1.5%、Ti:0.15〜1.2%、残部:Alと不可避不純物からなり、
前記リング溝は、前記ピストンリングが当接し得る内壁面に、前記鍛造基材を被覆する被覆層を有する内燃機関用鍛造ピストン。 - 前記リング溝は、トップリング溝および/またはセカンドリング溝である請求項1に記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記被覆層は、めっき層または陽極酸化層である請求項1または2に記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記めっき層は、無電解めっき層または焼成めっき層である請求項3に記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記焼成めっき層は、表面硬さが750Hv以上である請求項4に記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記焼成めっき層は、NiとNi3Pからなる焼成Ni−Pめっき層である請求項4または5に記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記鍛造基材は、ビーカス硬さが150Hv以上である請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- 前記アルミニウム合金は、さらに、Mg:0.2〜2.5%を含む請求項1〜7のいずれかに記載の内燃機関用鍛造ピストン。
- アルミニウム合金からなる鍛造基材を機械加工して得られた略矩形状の開溝に無電解めっき層を形成するめっき工程と、
該無電解めっき層を300〜450℃で加熱して焼成めっき層とする焼成工程と、
を備える請求項5〜8のいずれかに記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法。 - 前記鍛造基材は、前記アルミニウム合金からなる素材を150〜450℃で鍛造する鍛造工程により得られる請求項9に記載の内燃機関用鍛造ピストンの製造方法。
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