JP2017222887A - 鋼板の製造方法 - Google Patents

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昌平 中久保
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広幸 前田
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Abstract

【課題】熱延鋼板の表面に形成される還元鉄を低減し、酸洗後に酸化スケールが残存することがない鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】Si含有量が0.2質量%以上、3質量%以下である鋼材を、熱間圧延を施して熱延鋼板とした後、当該熱延鋼板の最高温度が500℃超、750℃以下であるときにコイル状に巻取り、その後80℃未満まで冷却してから巻戻し、さらに巻戻した熱延鋼板を加熱すること、並びに加熱温度をT2(℃)、加熱時間をt(秒)としたとき、加熱温度T2:80〜700℃、加熱時間t:1〜20秒にそれぞれ設定するとともに、これら加熱温度T2(℃)、加熱時間t(秒)と、前記巻取り時の温度T1(℃)が、所定の関係を満足するように加熱し、加熱後の熱延鋼板を矯正及び酸洗する。
【選択図】図3

Description

本発明は、鋼板を製造する方法に関する。
鋼板を製造するに際しては、連続鋳造等によって得られたスラブ鋳片等の鋼材を、熱間圧延して熱延鋼板とし、その後酸洗及び冷間圧延が施され、焼鈍鋼板やめっき鋼板の素材となる冷延鋼板とされる。
上記熱延鋼板のうち板厚が小さい熱延鋼板では、熱間圧延後に所定の温度に下げてから巻取り機でコイル状に巻取られる。コイル状に巻取られた熱延鋼板は、搬送されてから冷却され、引き続きテンションレベラ等の手段によって歪や変形が矯正される。その後、酸洗が施されて、熱間圧延時に鋼板表面に形成された酸化スケールが除去され、冷間圧延を経て冷延鋼板とされる。
一方、鋼板の高強度化を図るために、SiやMn等の強化元素が多量に含有される傾向である。強度を高めた熱延鋼板では、冷間圧延での冷間加工性が低下する。この冷間加工性の低下を抑制するためには、巻取り温度をより高くして熱延鋼板を軟質化する必要がある。
ところが、SiやMn等の強化元素、特にSiを多量に含有した熱延鋼板においては、巻取り温度をより高くすると、その後酸洗を行っても酸化スケールが十分に除去されずに熱延鋼板表面に残存する。熱延鋼板の表面に酸化スケールが残存すると、冷延鋼板としたときに鋼板の外観不良を招く。
酸化スケールが残存しやすい状況を、図面に基づいて説明する。
図1は、酸化スケールが形成された熱延鋼板の表面を模式的に示した断面図である。Siを多量に含有した熱延鋼板では、巻取り温度をより高くすると、図1(a)に示すように、酸化スケール1と熱延鋼板2との界面で、Siを含有する粒界酸化物3が形成されやすくなる。
この粒界酸化物3は、酸化スケール1中の酸素を酸素源として冷却時に成長するが、その反面、酸化スケール1の表面側で、図1(b)に示すように、酸素不足によって酸化スケール1が部分的に還元されて還元鉄4となる。この還元鉄4は、熱延鋼板2中のSi含有量が増加するにつれて多くなる。
Si含有量が比較的低い熱延鋼板では、テンションレベラ等によって矯正するときに、図1(c)に示すように、還元鉄4が存在していない部分から、酸化スケール1中にクラック5が導入される。このクラック5は、硫酸や塩酸等の酸洗液が熱延鋼板2と酸化スケール1の界面まで浸潤する経路となる。したがって、酸化スケール1中にクラック5が導入された状態では、上記酸洗液がクラック5を経由して、熱延鋼板2と酸化スケール1の界面まで浸潤してから酸洗処理されることになり、酸化スケール1の除去が容易に行われる。
上記還元鉄4は延性に富む金属層であるため、テンションレベラ等によってはクラック5が導入されにくい。図1(d)に示すように、還元鉄4で酸化スケール1のほぼ全面が覆われた状態になると、表面側から熱延鋼板2と酸化スケール1の界面まで繋がるクラック5が形成されない。その結果、酸洗液が熱延鋼板2と酸化スケール1の界面まで浸潤しにくくなり、酸化スケール1が酸洗によっても除去されにくくなる。
このような問題を解決することを目的として、特許文献1のような技術が提案されている。この技術では、熱延鋼板の表面に糖化合物を積層し、糖化合物の還元作用を利用し、熱延鋼板表面の酸化スケールを還元して、Siを酸化させる酸素の供給源を熱延鋼板表面から取り除くことによって、粒界酸化物の発生を抑制している。
特開2014−214374号公報
特許文献1は、糖化合物による還元作用を利用することによって、粒界酸化物の発生を抑制するとともに、酸化スケールの生成量をも低減する技術である。この技術では、酸洗を省略しても、酸化スケールの残存による問題が生じないことから、非常に有用である。
しかしながら、特許文献1には、熱延鋼板の軟質化と酸洗性を両立する技術は開示されていない。
本発明者らは、酸洗によっても酸化スケールが残存する問題を解決するためには、熱延鋼板の表面に形成された還元鉄を直接低減することが有効であると考えた。
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的は、熱延鋼板の表面に形成される還元鉄を低減し、酸洗後に酸化スケールが残存することがない鋼板の製造方法を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明方法は、
鋼板を製造するにあたり、
Si含有量が0.2質量%以上、3質量%以下である鋼材を、熱間圧延を施して熱延鋼板とした後、当該熱延鋼板の最高温度が500℃超、750℃以下であるときにコイル状に巻取り、その後80℃未満まで冷却してから巻戻し、さらに巻戻した熱延鋼板を加熱すること、並びに
加熱温度をT2(℃)、加熱時間をt(秒)としたとき、加熱温度T2:80〜700℃、加熱時間t:1〜20秒にそれぞれ設定するとともに、これら加熱温度T2(℃)、加熱時間t(秒)と、前記巻取り時の温度T1(℃)が、下記(1)式の関係を満足するように加熱し、加熱後の熱延鋼板を矯正及び酸洗することを特徴とする。
T2≧(−14t+284)×(0.012T1−6)+80 …(1)
本発明によれば、熱延鋼板の表面に形成される還元鉄を低減することによって、酸化スケールを酸洗によって簡単に除去できる熱延鋼板が製造でき、この熱延鋼板を冷延鋼板としたときに外観不良を招くことがない。
酸化スケールが形成された熱延鋼板の表面を模式的に示した断面図である。 熱間圧延ラインを示す説明図である。 酸洗ラインを示す説明図である。 巻取り温度T1と還元鉄厚さdとの関係を示すグラフである。 加熱時間tと再酸化できる還元鉄厚さDとの関係を示すグラフである。
本発明者らは、熱延鋼板の表面に形成される還元鉄を低減する手段について、様々な角度から鋭意検討を重ねた。その結果、コイル状に巻かれた熱延鋼板を巻戻した状態で加熱してやれば、還元鉄が酸化されて低減され、矯正時に酸化スケール中にクラックが導入されやすい状態となり、酸洗の段階で酸化スケールが容易に除去できるとの着想が得られた。
こうした着想に基づき、さらに検討を重ねることにより、還元鉄を低減できるための加熱処理条件を見出し、本発明を完成した。
以下、本発明の製造方法の実施形態を、熱延鋼板のコイルを得るまでの基本的な工程を含め、図面に基づき詳しく説明する。
図2は、鋼材を熱間圧延してコイル状の熱延鋼板を得るまでの熱間圧延ラインを示す説明図である。図2に示すように、連続鋳造等によって得られた鋼材7は、熱間圧延が施されて熱延鋼板とされる。なお、鋼板を製造するときの鋼材7は、通常、鋼材長手方向に垂直な断面形状が扁平な長方形となるスラブ鋳片である。
熱間圧延では、まず鋼材7が加熱炉6で加熱された後、複数対のワークロール8によって鋼材7が粗圧延される。加熱炉6での加熱温度は、変形抵抗を低くするという観点から、通常、鋼材7の温度で1100〜1250℃程度に設定される。
粗圧延された熱延鋼板は、デスケーリング工程9で熱延鋼板表面の酸化スケールが除去される。このときのデスケーリングは、例えば高圧力の水を鋼板表面に噴射することによって行われる。その後、複数対のワークロール10によって仕上げ圧延され、板厚が1.0〜12mm程度の熱延鋼板とされる。このときの仕上げ圧延温度は、材料特性確保という観点から、通常、熱延鋼板の温度で900〜1050℃程度に設定される。
仕上げ圧延された熱延鋼板は、冷却帯11で所定の温度まで冷却された後、巻取り機(図示せず)によってコイル状に巻取られる。コイル状に巻取られた熱延鋼板12を、以下では「熱延コイル12」と呼ぶことがある。コイル状に巻取られるときの直前の温度が、巻取り時の温度T1である。この温度T1を、以下では「巻取り温度T1」と呼ぶことがある。
上記熱延コイル12は、その後酸洗ラインに搬送される。図3は、酸洗ラインを示す説明図であり、熱延コイル12を巻戻した後、熱延鋼板を酸洗するまでの工程を示している。なお、熱延コイル12は、熱間圧延ラインから酸洗ラインに移送された後に放冷等によって冷却されるが、この冷却の際に、熱延鋼板表面に前記粒界酸化物3が形成される[前記図1(a)参照]。
熱延コイル12は、冷却された後巻戻しされる。巻戻しされた熱延コイル12、すなわち熱延鋼板は、その後テンションレベラ等の矯正手段14によって熱延コイル12の矯正が行われる。この矯正において、例えばテンションレベラでは、熱延鋼板に張力をかけた状態でワークロールで圧下し、鋼板表面に物理的な負荷を与えることで、熱延鋼板の歪や変形を取り除く。図3では、矯正手段14として、ワークロールで熱延鋼板を圧下している状態を示している。なお、本発明における矯正手段14としては、テンションレベラの代わりに、ショットブラストを採用することができる。
矯正における基本的な機能は上記の通りであるが、テンションレベラやショットブラスト等の矯正手段14は、酸化スケール1にクラック5を導入する手段となる[前記図1(c)参照]。
前記図1(d)に示したように、還元鉄4で酸化スケール1のほぼ全面が覆われた状態になると、テンションレベラやショットブラスト等の矯正手段14では、熱延鋼板2と酸化スケール1の界面まで繋がるクラック5が形成されにくい。
そこで本発明では、図3に示すように、矯正手段14の前に加熱炉13を配置している。この加熱炉13によって、矯正手段14に送られる前の熱延鋼板が加熱される。
加熱炉13における具体的な加熱方式は、何ら限定するものではなく、例えば誘導加熱炉や電気炉であっても良い。また加熱炉13での雰囲気は、還元鉄を酸化させる必要性から、少なくとも酸素を含む雰囲気とする必要があり、例えば大気雰囲気である。以下では、還元鉄を酸化させるときの「酸化」を、酸化スケールが還元されて形成された還元鉄を再び酸化させるという趣旨から、「再酸化」と呼ぶことがある。
加熱炉13で熱延鋼板を加熱することによって、還元鉄が酸化されて熱延鋼板表面の還元鉄が低減する。このように還元鉄が低減された熱延鋼板は、その後に矯正手段14で矯正されることによって、酸化スケール中にクラックが導入された状態となる。熱延鋼板は、さらに酸洗浴15に送られて酸洗され、鋼板表面の酸化スケールが容易に除去される。これらの処理が行われた熱延鋼板は、冷間圧延等の処理に付される。
本発明では、熱延鋼板を矯正する前に加熱することが重要であるが、熱延鋼板を加熱しさえすれば、本発明の目的が達成される訳ではなく、加熱時の温度や加熱時間等の条件を適切に制御する必要がある。
本発明者らは、こうした条件についてさらに検討した。その結果、加熱温度をT2(℃)、加熱時間をt(秒)としたとき、加熱温度T2:80〜700℃、加熱時間t:1〜20秒にそれぞれ設定するとともに、これらが巻取り温度T1との関係で、下記(1)式を満足するように加熱する必要があることを明らかにした。また、こうした条件を設定することによる効果を有効に発揮させるためには、巻取り温度T1についても適切な範囲に設定する必要がある。なお、巻取り温度T1および加熱温度T2は、熱延鋼板での温度である。
T2≧(−14t+284)×(0.012T1−6)+80 …(1)
本発明で規定する各要件における意義、及びこれらの要件を導くに至った経緯について説明する。
粒界酸化物3の厚さは、熱延コイル12を製造するときの巻取り温度T1が高くなるにつれて厚くなり、それに伴って還元鉄4の厚さも厚くなる。本発明の目的は、粒界酸化物3や還元鉄4が形成されることによる不都合を解消することであり、粒界酸化物3や還元鉄4が形成されない巻取り温度T1では、本発明の効果が発揮できない。
本発明での巻取り温度T1は、鋼板の最高温度で少なくとも500℃よりも高い温度とする必要がある。この巻取り温度T1が、500℃以下となると、Si含有量が多い熱延鋼板であっても、粒界酸化物や還元鉄は生成されない。また巻取り温度が500℃以下となると、熱延鋼板の強度が高くなりすぎて、冷間圧延時の負荷が増大する。巻取り温度T1の好ましい下限は530℃以上であり、より好ましくは570℃以上である。
一方、巻取り温度T1があまり高くなりすぎると、鋼板強度が低くなる。こうした観点から、巻取り温度T1は750℃以下とする必要がある。巻取り温度T1の好ましい上限は、700℃以下であり、より好ましくは660℃以下である。
本発明では、巻取り温度T1を500℃超、750℃以下に設定することを前提とし、この巻取り温度T1の範囲で生成する還元鉄を、再酸化させることで低減する。
上記の巻取り温度T1の範囲内において、巻取り温度T1と、還元鉄厚さdの関係について検討した。すなわち、巻取り温度T1を500℃、530℃、570℃、620℃、660℃及び700℃に設定し、それぞれの温度で生成される還元鉄厚さdを計測した。なお、還元鉄厚さdは、熱延鋼板中のSi含有量やラボの還元実験等のデータに基づき、計算によって求められた値である。この結果を、表1および図4に示す。
Figure 2017222887
この結果から、巻き取り温度T1(℃)をx、還元鉄の厚さd(μm)をyとしたとき、これらは回帰式(2)として表される。この回帰式(2)から、近似式(3)が得られる。
y=0.012x−5.9939 …(2)
y=0.012x−6 …(3)
巻取られた熱延鋼板すなわち熱延コイルは、放冷等によって冷却されるが、この冷却終了温度は80℃未満とする。この冷却終了温度は、酸洗の際の酸洗液の温度が80℃程度であり、その温度との関係から80℃未満に設定した。ただし、この冷却終了温度は、25℃程度の室温であってもよい。
本発明では、矯正によって物理的な負荷を与える前に、還元鉄を再酸化させるために熱延鋼板の加熱を行う。このときの加熱温度T2は、上記酸洗液の温度との関係から、少なくとも80℃以上とする必要がある。加熱による効果を高めるためには、加熱温度T2は、100℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上である。
加熱温度T2があまり高くなりすぎると、再結晶の温度領域となり鋼組織が変化する恐れがある。こうした観点から、加熱温度T2は700℃以下とする必要がある。加熱温度T2は、好ましくは650℃以下であり、より好ましくは600℃以下である。
一方、加熱時間tが1秒よりも短くなると、加熱の効果が得られず、20秒よりも長くなると鋼組織が変化する。したがって、加熱時間tは1〜20秒に設定する必要がある。加熱時間tの下限は、好ましくは5秒以上であり、より好ましくは10秒以上である。また加熱時間tの上限は、好ましくは18秒以下であり、より好ましくは15秒以下である。
上記の加熱温度T2及び加熱時間tの範囲内において、加熱時間tと、再酸化できる還元鉄厚さDの関係について検討した。すなわち、加熱温度T2を100℃、300℃、500℃及び700℃に設定し、それぞれの温度での加熱時間tと、再酸化できる還元鉄厚さDを実験によって求めた。この結果を、表2および図5に示す。
Figure 2017222887
この結果から、加熱温度T2(℃)をX、再酸化できる還元鉄の厚さD(μm)をYとし、加熱時間tを変数としたとき、下記回帰式(4)が得られた。
X=(−14t+284)Y+80 (4)
そして、再酸化できる還元鉄の厚さDが、還元鉄の厚さd(μm)以上となったとき、鋼板表面の還元鉄が除去できる。すなわち(再酸化できる還元鉄の厚さD:Y)≧(還元鉄の厚さd:y)となったときに、鋼板表面の還元鉄が除去できることが分かる。
こうした関係は、前記近似式(3)と上記回帰式(4)に基づき、下記不等式(5)として表わせる。不等式(5)から、前記(1)式が導ける。
X≧(−14t+284)y+80
=(−14t+284)×(0.012x−6)+80 (5)
前記(1)式の関係は、熱延鋼板の表面に形成された還元鉄を低減するための要件である。こうした要件を満足させることによって、還元鉄を低減でき、その後の矯正によって、酸化スケールにクラックを導入できる状態とする。酸化スケールにクラックを導入できるか否かは、矯正での条件にも左右される。しかしながら、少なくとも通常行われて矯正の条件であれば、酸化スケールにクラックを導入できる。したがって、テンションレベラやショットブラスト等の条件については、通常行われている範囲であればよい。
また、上記(1)式の関係は、還元鉄を低減して、酸化スケールにクラックが導入するための必要最小限の基準を示したものである。したがって、上記(1)式の関係を満足することは、熱延鋼板表面に形成された還元鉄の全てが除去されることを意味しない。例えば、加熱後の還元鉄の一部が除去されずに残っていても、少なくとも還元鉄が除去された部分からクラックが導入されれば、本発明の効果が達成される。
本発明で対象とする鋼材は、粒界酸化物の生成に影響を及ぼすSiの含有量が比較的多く鋼材を想定したものである。またSiは鋼材の強度を発現しつつ、延性や加工性を確保するためにも重要な元素である。これらの点から、Si含有量は少なくとも0.2質量%以上とする必要がある。好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.7質量%以上である。
しかしながら、Si含有量が過剰になると、溶接性や延性を損なうので、3質量%以下とする必要がある。好ましくは2質量%以下である。
本発明で対象とする鋼材には、鋼材としての基本成分であるCやMnをも含み得る。このうち、Cは、鋼材の強度を高める作用を発揮する元素であり、そのためには0.04質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは、0.1質量%以上であり、さらに好ましくは、0.5質量%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると、冷間加工性が低下するので、2質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
Mnは、鋼材の強度及び靱性を確保する作用を発揮する元素であり、そのためには0.1質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは、0.5質量%以上であり、さらに好ましくは、1.5質量%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、冷間加工性が低下するので、3質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以下である。
上記の成分以外は、基本的にPやS等の不可避的不純物であるが、必要によって、Al,Tiの脱酸元素、Cr,Mo等の強化元素、Ni,Cu,B等の焼き入れ性向上元素、Nb,V等の結晶粒微細化元素等を含んでいてもよい。これらの成分を含有させるときの範囲設定理由は下記の通りである。
Al:0.1質量%以下、Ti:0.1質量%以下
AlやTiは、脱酸剤として、必要によって含有される。このうちAlは、焼ならし加熱の際にオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果も発揮する。こうした効果を発揮させるためには、いずれも0.01質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.02質量%以上である。
Alの含有量が過剰になると、その効果が飽和するばかりでなく、結晶粒が不安定になる。こうした観点から、Alの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。また、Tiの含有量が過剰になると、鋼板の靱性を劣化させが。こうした観点から、Tiの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下である。
Cr:2質量%以下、Mo:2質量%以下
Cr及びMoは、鋼板の強度を高める上で有効な元素であり、必要によって単独でまたは併用して含有させる。このうちMoは、固溶強化によって鋼板の強度を高める効果を発揮するとともに、焼入れ性をも向上させる。Moは、後述するNiと同様の作用によって各種成形性を向上させる。こうした効果を発揮させるためには、いずれも0.01質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.02質量%以上である。
Crの含有量が過剰になると、鋼板の延性を損なう。こうした観点から、Crの含有量は2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以下である。また、Moは高価な元素であるため、製造コストの観点から、2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
Ni:2質量%以下、Cu:2質量%以下、B:0.01質量%以下
Ni,Cu及びBは、焼入れ性向上元素であり、必要によって、これらの群からなる1種または2種以上を含有させる。このうちNiとCuは、CGL(Continuous Galvanizing Line:連続溶融亜鉛めっきライン)焼鈍、冷却時点でのマルテンサイト比率の増大とマルテンサイトのラス構造を微細化する作用を通じて、次工程のCGL焼鈍時における2相域再加熱−冷却処理時の焼入れ性を良好にし、冷却後の最終的な複合組織を良好なものとし、各種成形加工性を向上させることができる。
こうした効果を発揮させるためには、NiとCuは、いずれも0.1質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上である。しかしながら、NiおよびCuは高価な元素であるため、製造コストの観点から、2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以下である。
一方、Bによる焼入れ性向上効果を発揮させるためには、0.0001質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.0002質量%以上である。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、めっき性を劣化させるので、0.01質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.005質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下である。
Nb:1質量%以下、V:1質量%以下
Nb及びVは、炭化物を形成して結晶粒の微細化による微細組織を得る上で有効な元素である。これによって、靱性を損なわずに鋼板の高強度を図ることができる。これらの元素は、必要によって単独でまたは併用して含有させる。こうした効果を発揮させるためには、いずれも0.001質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.005質量%以上である。
Nbの含有量が過剰になると、炭化物が過剰に生成し、マルテンサイトの体積率減少、もしくは炭化物による析出強化によって強度と加工性のバランスが劣化する。こうした観点から、Nbの含有量は1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。また、Vの含有量が過剰になると、Vは高価な元素であるためコスト高の原因となるだけでなく、鋼板の降伏点および降伏比(降伏強さ/引張り強さ)を上昇させて加工性を低下させる。こうした観点から、Vの含有量は1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
以下、実施例に基づいて、本発明の作用効果をより具体的に示すが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前記及び後記の趣旨に徴して設計変更することは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
化学成分組成がFe−0.1質量%C−1.2質量%Si−1.5質量%Mnである溶鋼を溶製し、連続鋳造によって断面形状が230mm×1200mmのスラブ鋳片を作製した。このスラブ鋳片を、加熱炉において1250℃で4時間加熱した後、高圧水によるデスケーリングを行い、鋳片表面の酸化スケールを除去した。
デスケーリングを行ったスラブ鋳片対して、1150℃で粗圧延を行うとともに、1000℃で仕上げ圧延を行うことによって、厚さ:2.3mmの熱延鋼板とした。仕上げ圧延後に水冷を行い、巻取って熱延コイルとした。このとき、巻取り直前の温度をサーモビユアで測定し、コイルの全長及び全幅の表面温度を測定した。測定値から、コイルの全長及び全幅における最高温度を把握し、巻取り温度T1とした。
その後、3日間かけて、熱延コイルを室温の25℃まで冷却した。熱延コイルを巻戻した後、テンションレベラの前に設置したIH(Induction Heating:誘導加熱)ヒータを用い、加熱温度T2、加熱時間t、大気雰囲気で加熱し、テンションレベラを通した後、80℃の10%塩酸で酸洗した。このときの試験条件、すなわち巻取り温度T1、加熱温度T2及び加熱時間tは、表3に示す通りである
Figure 2017222887
酸洗後の熱間圧延鋼板について、目視によって外観チェックを行い、スケールの残存状況を評価した。この評価にあたっては、鋼板全面に対して1箇所でもスケール残りが存在していた場合は「不合格」とし、全面でスケールが除去された場合を「合格」とした。
その結果を、還元鉄厚さd、及び再酸化できる還元鉄厚さDと共に、表4に示す。なお、表4に示した還元鉄厚さdは、熱延鋼板中のSi含有量やラボの還元実験等のデータに基づき、計算によって求めた値である。この還元鉄厚さdの値は、上記データで操業したときに形成される還元鉄の厚さの実測値とほぼ一致する。
また、再酸化できる還元鉄厚さDは、前記回帰式(4)に基づき、Yを逆算して求めた値である。この再酸化できる還元鉄の厚さDは、計算上の上限値を示している。再酸化できる還元鉄の厚さDが、還元鉄厚さdよりも大きくなったときには、前記(1)式の関係を満足していることになる。
Figure 2017222887
この結果から、次のように考察できる。試験No.2,3,5〜7,9〜11に示されるように、巻取り温度T1、加熱温度T2、加熱時間tを所定の範囲に設定するともに、これらが前記(1)式の関係を満足するように加熱することによって、熱延鋼板表面の還元鉄が低減され、酸洗後に酸化スケール残りが発生していないことが分かる。
なお、試験No.1は、巻取り温度T1が490℃の例であり、還元鉄が元々形成されていない。したがって、こうした条件では、本発明方法を実施する必要はない。
これに対し、試験No.4,8,12では、(1)式の関係を満足しない加熱条件で加熱した例であり、熱延鋼板表面の還元鉄の低減がされておらず、酸洗後に酸化スケール残りが発生している。こうした熱延鋼板では、冷延鋼板としたときに外観不良を招くことが予想される。
1 酸化スケール
2 熱延鋼板
3 粒界酸化物
4 還元鉄
5 クラック
6 加熱炉
7 鋼材
8、10 ワークロール
11 冷却帯
12 熱延コイル
13 加熱炉
14 矯正手段
15 酸洗浴

Claims (1)

  1. 鋼板を製造するにあたり、
    Si含有量が0.2質量%以上、3質量%以下である鋼材を、熱間圧延を施して熱延鋼板とした後、当該熱延鋼板の最高温度が500℃超、750℃以下であるときにコイル状に巻取り、その後80℃未満まで冷却してから巻戻し、さらに巻戻した熱延鋼板を加熱すること、並びに
    加熱温度をT2(℃)、加熱時間をt(秒)としたとき、加熱温度T2:80〜700℃、加熱時間t:1〜20秒にそれぞれ設定するとともに、これら加熱温度T2(℃)、加熱時間t(秒)と、前記巻取り時の温度T1(℃)が、下記(1)式の関係を満足するように加熱し、加熱後の熱延鋼板を矯正及び酸洗することを特徴とする鋼板の製造方法。
    T2≧(−14t+284)×(0.012T1−6)+80 …(1)
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